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知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10321号 判決 2010年5月27日

原告

被告

特許庁長官

指定代理人

有家秀郎

小原博生

池谷香次郎

岩崎伸二

小林和男

主文

1  特許庁が不服2003-14784号事件について平成21年9月2日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は,被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯等

原告は,平成13年7月11日,発明の名称を「ゲーム情報供給装置,ゲーム情報供給方法,記録媒体及びプログラム」とする発明について,特許出願(特願2001-210286号)をしたが,平成15年6月25日付けの拒絶査定を受け,これに対して,平成15年7月31日,拒絶査定不服審判(不服2003-14784号事件)を請求した。その後,原告は,平成19年5月11日付けの手続補正書で,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についての補正をした(以下,「本件補正」という。また本件補正後の明細書を図面を含めて「補正明細書」,願書に最初に添付した明細書を図面を含めて「当初明細書」という。)。

特許庁は,平成20年3月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「1次審決」という。)をし,原告は,これを不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成20年(行ケ)第10176号)を提起し,同裁判所は,平成21年1月29日,1次審決を取り消す旨の判決をし,同判決は確定した。

特許庁は,不服2003-14784号事件について更に審理し,平成21年9月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本審決」という。)をし,その謄本は,平成21年9月15日,原告に送達された。

2  特許請求の範囲

本件特許の補正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7の記載は,次のとおりである(以下,補正明細書の請求項1ないし7の発明を総称して「本願発明」という。)。

「【請求項1】 コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,

クイズ形式の広告情報を記憶する記憶手段と,

ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段と,

前記端末装置から前記広告情報を含むクイズの回答情報をネットワークを介して受信する受信手段と,

前記回答情報を受信すると,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する送信手段とを有し,

前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。

【請求項2】 コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,

クイズ形式の募金教育情報を記憶する記憶手段と,

ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の募金教育情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段と,

前記端末装置から前記募金教育情報を含むクイズの回答情報をネットワークを介して受信する受信手段と,

前記回答情報を受信すると,募金のための課金情報を記憶し,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する送信手段とを有し,

前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。

【請求項3】 コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,

電子商取引画面情報を記憶する記憶手段と,

ネットワークを介して端末装置から電子商取引サイトへのアクセスを受信すると,前記記憶手段から電子商取引画面情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段と,

前記端末装置から前記電子商取引画面情報を基に商品注文情報をネットワークを介して受信する受信手段と,

前記商品注文情報を受信すると,前記商品とは別の電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する送信手段とを有し,

前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。

【請求項4】 コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,

広告情報を含むゲームを記憶する記憶手段と,

ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段から広告情報を含むゲームを読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段と,

前記端末装置から前記広告情報をゲーム上で活用した旨の情報をネットワークを介して受信する受信手段と,

前記広告情報活用情報を受信すると,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する送信手段とを有し,

前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。

【請求項5】 コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,

端末装置が通信を開始すると,通信による情報量を前記端末装置に記憶する記憶手段と,

前記端末装置から通信による情報量をネットワークを介して受信する受信手段と,

自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量又は前記受信手段により受信した端末装置の通信による情報量に応じて,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信して前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能にする送信手段とを有し,

前記端末装置は,前記記憶手段により記憶された情報量に応じて前記端末装置内の電子データであるゲーム的メリットを表示可能,又は前記送信手段により送信されたゲーム的メリットを受信するとそのゲーム的メリットを表示可能であり,

前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。

【請求項6】 コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,

クイズ形式の募金教育情報を記憶する記憶手段と,

ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の募金教育情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段と,

前記端末装置から前記募金教育情報を含むクイズの回答情報をネットワークを介して受信する受信手段と,

前記回答情報を受信すると,募金のための課金情報を記憶し,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する送信手段とを有し,

前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。

【請求項7】 コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,

電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体と,

前記記録媒体の電子マネーを活用した旨の情報を記憶する記憶手段と,

前記電子マネー活用情報を記憶すると,課金情報を前記記録媒体に記録する記録手段と,

課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記記録媒体から読み取り可能になり,

前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。」

3  審決の理由

(1)  別紙審決書写しのとおりである。要するに,①本件補正後の請求項1ないし請求項7及び発明の詳細な説明は,いずれも新規事項が追加されており,特許法17条の2第3項に違反する,②請求項4,請求項5,請求項7には記載不備があり,特許法36条6項2号の要件を満たしていない,とした。

(2)  審決書には,以下のとおりの記載がされている。

ア 特許法17条の2第3項違反について

(ア) 請求項1について

請求項1の表示手段は,端末装置からのアクセスを受信すると,クイズ形式の広告情報を記憶手段から読み出す動作,それを端末装置に送信する動作,及び,それを表示させる動作を行う「表示手段」である。

しかし,当初明細書の記載をみると,段落【0039】に記載されているように,端末側の構成とサーバ側の構成を区別しない一般的なコンピュータ構成が記述されている。

これをサーバ側の「出力装置(ディスプレイ)317」について検討すると,「ネットワークを介して端末装置からアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信して表示させる」という一連の動作を行うことは,当初明細書に記載されていない。

次に,サーバ側の「CPU312」について検討すると,サーバ側の「読み出し」や「送信し」という動作は行うであろうが,端末上に「表示させる」動作まで行う「表示手段」とすることは,当初明細書に記載されていない。また,当該サーバの「CPU」が,「端末装置からのアクセスを受信する」ことで,「クイズ形式の広告情報」という特定の情報の「読み出し」動作,「送信」動作,「表示させる動作」の全てを行うことも,当初明細書には記載されていない。

以上のとおり,請求項1には,「ゲーム供給装置」が,「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段」を有するとする点で,当初明細書から導出されるものでない,新たな技術的事項が追加されている。

(イ) 請求項2,6について

請求項2において,「ゲーム情報供給装置」が,「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の募金教育情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段と」との部分は,請求項1と同様の理由で,新規事項である。

また,請求項2には,サーバ側の送信手段について,「前記回答情報を受信すると,募金のための課金情報を記憶し」とされているが,当初明細書の【0031】,【0091】,【0096】,【0097】,【0101】の記載は,寄付や募金を行うことや料金設定,あるいは募金額を「端末」に記録することを示すにとどまり,「回答情報を受信」すると「募金のための課金情報を記憶」するように構成することを示すものではないから,新規事項を追加したものである。

(ウ) 請求項3について

「ゲーム情報供給装置」が「ネットワークを介して端末装置から電子商取引サイトへのアクセスを受信すると,前記記憶手段から電子商取引画面情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段」を有するとされている点は,「電子商取引サイトへのアクセス」との特定がされている点を除き,(ア)と同様の理由で新規事項である。

(エ) 請求項4について

「ゲーム情報供給装置」が「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段から広告情報を含むゲームを読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段」を有するとされている点は,(ア)と同様の理由で新規事項である。

また,「前記広告情報活用情報を受信すると,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する手段を有し」とされている点も,新規事項である。すなわち,当初明細書の【0038】に,「この場合のゲーム的メリットは,例えば鬼に捕まらないというルール上のメリットである。」と記載されているとおり,単にそういうゲームを実行中であることを示しているにすぎない。当初明細書の【0038】を含む記載は,ゲームルール上の利益行動の度に,請求項4の記載にあるように,「エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリー」といった「電子データであるゲーム的メリット」を,「端末装置に送信」することを示しているものではない。また,当初明細書の【0072】の記載も,そのようなルールのゲームを実行させていることを超えて,ルール上の利益行動の度に,請求項4記載のように「端末」に「電子データ」として「ゲーム的メリット」を「送信」することを示したものではない。請求項4は,ゲームルール上の利益行動の度に「電子データ」としての「電子的メリット」を「端末」に送信するという点について,新規事項といわざるを得ない。

(オ) 請求項5について

請求項5の記載に従えば,「通信による情報量を前記端末装置に記憶」した上で,これを「ゲーム的メリット」の提供に用いなければならないが,当初明細書には【0082】【0083】に,通信に応じて「メリット」を得させることに関する記載が存在するのみであり,「通信による情報量を前記端末装置に記憶」させた上でこれを用いるという具体的事項は示されていない。

また,請求項5にいう「通信による情報量を前記端末装置に記憶する記憶手段」は,当該記憶手段が「端末装置」側にあるのか「ゲーム情報供給装置」側にあるのかも特定できないが,「ゲーム情報供給装置」側にあるとして,「記憶させる記憶指示手段」の趣旨とすれば,「ゲーム情報供給装置」側が「端末装置」に「通信による情報量」を「記憶」させるような制御を実行することについても,当初明細書には示されていない。

さらに,当初明細書には,請求項5に記載されているように,「ゲーム情報供給装置」が「端末装置」から「通信による情報量をネットワークを介して受信する」ことも示されていなければ,「自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量」又は「前記通信手段により受信した端末装置の通信による情報量」に応じて「電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して送信」して,「前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能」にすることも示されていない。

加えて,「端末装置」が「前記記憶手段により記憶された情報量に応じて前記端末装置内の電子データであるゲーム的メリットを表示可能」であること,「前記送信手段により送信されたゲーム的メリットを受信するとそのゲームメリットを表示可能」であることも示されていない。特許法17条の2第3項の規定に違反する補正である。

(カ) 請求項7について

請求項7の「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記記録媒体から読み取り可能になり」という事項は当初明細書に記載されたものではない。

すなわち,当初明細書の記載の【0079】【0080】には,「アンチカードと称するものについて,「カードから500円分の価値が引かれる。これに反比例して,ゲームで使える仮想のお金が貯まる。」については,どこにどう貯まるのか示されていないし,当該カードと協働する外部装置及びその動作についても何ら示されていない。したがって,「仮想のお金が貯まる」という記載が,請求項7の「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して読み取り可能に」なるという事項を記載したものということはできない。

また,上記【0079】【0080】の記載のうち,「キャラクター」についての記載は,「カードに記録されたキャラクター」がカードを「使い切る」ことによって「使用可能」となることを示すものであり,カードを使い切らずとも,「課金情報を記録すると,これに応じた」態様でカード内の記憶データを読み取り可能とすることは示していない。また,「キャラクター」以外の「エサ,アイテム,ポイント・・・サウンド又はストーリー」といって「ゲーム的メリット」についても,事前にカードに記録した上で,カードを使い切らずとも「課金情報を記録すると,これに応じた」態様で読み取り可能としていくことを示してはいない。すなわち,「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記記録媒体から読み取り可能となり」という事項は,当初明細書に記載されたものではない。

さらに,当初明細書には,「アンチカード」と協働する外部装置側の構成については,何ら示されていない。そのため,請求項7に係る発明の対象そのものである「記録媒体」と協働する「ゲーム情報供給装置」自体についても,当初明細書には記載されたものではない。

請求項7は,当初明細書に記載された事項を総合してみても,新たな技術的事項を追加導入したものである。

イ 特許法36条6項2号の要件不備について

(ア) 請求項4について

請求項4の「広告情報を含むゲーム」及び「前記広告情報をゲーム上で活用した旨の情報について,請求人は,「ゲームルール上」で活用したか否かにより発明を特定しようとする趣旨とも解される。しかし,「ゲームルール上」で活用したか否かということは,「ゲーム」とその「ルール」とが定まらなければ特定しようがない上にコンピュータ上のゲームであっても,どの処理までが「ゲームルール上」であるかは明瞭でない。したがって,請求項4の「広告情報を含むゲーム」及び「前記広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」については,その意味する内容と範囲が明瞭でなく,請求項4の記載により特許を受けようとする発明は明確でない。

仮に,「ルール上」か否かという観点にこだわらないとしても,どういうゲームにおけるどういう状態であれば請求項4にいう「広告情報を含むゲーム」及び「前記広告情報をゲームの上で活用」に該当するかは,依然として明確ではない。例えば,請求項4と異なる用語を用いた請求項1における「クイズ形式の広告情報」及び「回答情報」は,請求項4にいう「広告情報を含むゲーム」及び「前記広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」に該当するか否か明瞭に特定できない。

(イ) 請求項5について

請求項5の記載は,「端末装置」と「ゲーム情報供給装置」に関する事項が入り乱れており,「ゲーム情報供給装置」の構成が明瞭に特定できない。とりわけ,「通信による情報量を前記端末装置に記憶する記憶手段」については,「端末装置」側の構成要素か「ゲーム情報供給装置」側の構成要素かが特定できない。

加えて,請求項5中では,「又は」を多数使用しているが,各箇所の「又は」で示される択一事項について相互の対応関係が明瞭でなく,結局のところ,どういう「ゲーム情報供給装置」であれば,請求項5の記載に該当するのかも特定することができない。

(ウ) 請求項7について

請求項7では,「記録媒体」自体に関する記載と,「記録媒体」自体の構成要素とは思量されない記載とが混在するとともに,後者に該当する「前記記録媒体の電子マネーを活用した旨の情報を記憶する記憶手段と,前記電子マネー活用情報を記憶すると,課金情報を前記記録媒体に記録する記録手段と,」の部分については,そこで文章が中断しており,これが「ゲーム情報供給装置」が備える構成であるか否かが明確に特定できる記載となっていない。

そして,「記憶手段」及び「記録手段」が「ゲーム情報供給装置」の構成要素でない場合には,その構成は「コンピュータを用いた」ことを除いて不明となる。逆に,「記憶手段」及び「記録手段」が「ゲーム情報供給装置」の構成要素であるとしても,電子マネーの「記録媒体」に対して,活用情報を記憶するとともに課金情報を書き込むことは,単なる通常の課金処理端末の動作と何ら変わるところがない。そのため,請求項7では,「ゲーム情報供給装置」たる物の発明として,いかなる物が「ゲーム情報供給装置」として特定されているのか,極めて不明確である。

第3当事者の主張

1  本審決の取消事由に係る原告の主張

本審決には,以下のとおり,(1)特許法17条の2第3項の判断の誤り(取消事由1),(2)特許法36条6項2号違反の判断の誤り(取消事由2)がある。

(1)  特許法17条の2第3項の判断の誤り(取消事由1)

ア 請求項1に係る判断の誤り

本願発明の各請求項に共通するのが「コンピュータを用いたゲーム情報供給装置」であり,「ゲーム情報供給装置」自体は一般的なハードウェアで構成可能な汎用性を持たせているので,当業者の通常の知識があれば,図36及び図38を参照することで実施をすることができる程度に明確かつ十分である。「コンピュータを用いたゲーム情報供給装置」が何を含むかで,各請求項の発明の特徴が定義される。

(ア) 本審決は,当初明細書には,サーバ側の「出力装置(ディスプレイ)317」が,「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信して表示させる」という一連の動作を行うことは当初明細書に記載されていないとした。

しかし,当初明細書の図38をみると,「出力装置」と記載されているだけで,ディスプレイとは記載されておらず,出力装置=ディスプレイとは限定していない。本審決は,出力装置=ディスプレイであることを前提として,上記結論を導いているが,誤りである。請求項1の表示手段は,当初明細書図38のCPU312及び/又は出力装置317に対応し,受信手段及び送信手段は図38のネットワークインターフェース315に対応する。これらが,請求項1の「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段」を示している。

(イ) また,本審決は,当初明細書には,サーバ側の「CPU312」について,「表示させる」動作まで行う「表示手段」とすることは記載されていないし,「クイズ形式の広告情報」の「読み出し」動作等の各動作を行うことも記載されていないと判断した。しかし,そのようなことは当初明細書に明示的に記載されていなくとも,当初明細書の記載を総合して導き出されるものであり,当業者にとって自明の事項である。当初明細書の記載として参照されるべきものとしては,審決が挙げる【0027】のほかに,【0026】,【0039】ないし【0043】,【0060】,【0061】,【0104】ないし【0113】,図37(A),図6(A),図17ないし図27,図38等多数挙げられる。

イ 請求項2,6に係る判断の誤り

(ア) 本審決が請求項1と同様の理由で新規事項の追加であるとする点の誤りは,前記アで述べたとおりである。

(イ) 当業者は,図36,図38を見れば,サーバ側の「送信手段」について「回答情報を受信」すると,「募金のための課金情報を記憶」するという構成を導くことは容易である。当業者であれば,前記各図のほか図6,図7,図15ないし図30を見ることにより,インターネットを使ったクイズゲームを想定して,「回答情報を受信」することや「募金のための課金情報を記憶」することを,一般的なコンピュータ構成を基礎として実施することができるから,前記構成を新規事項とした本審決の判断は誤りである。

ウ 請求項3に係る判断の誤り

本審決は,「ゲーム情報供給装置」が「ネットワークを介して端末装置から電子商取引サイトへのアクセスを受信すると,・・・前記端末装置に送信し表示させる表示手段を有する」との点は,「電子商取引サイトへのアクセス」との特定がされている点を除き,請求項1についてと同様の理由で新規事項であると判断するが,この判断は前記アのとおり誤りである。

エ 請求項4に係る判断の誤り

(ア) 本審決が請求項1と同様の理由で新規事項の追加であるとする点の誤りは,前記アで述べたとおりである。

(イ) 本審決は,請求項4については,ゲームルール上の利益行動の度に,「電子データ」としての「電子的メリット」を「端末」に送信するという点は新規事項であると判断した。

しかし,【0038】には,「ゲームのルールとして,広告スペースに子が逃げ込めば,鬼に捕まることはないものとする。すなわち,安全圏として広告スペースが使用される。この場合のゲーム的メリットは,例えば鬼に捕まらないというルール上のメリットである。ゲーム中はプレイヤーの集中力が高いので,広告をゲームに活用することにより,広告の効果を倍増させることができる。」との記載がある。コンピュータゲームであるから,この「ゲームルール上の利益行動の度」に「ゲームルール判定情報」を処理しなければならず,それが「電子データ」であり,「電子データであるゲームメリット」に他ならない。

以上のとおり,「電子データ」としての「電子的メリット」を「端末」に送信するとの構成は,新規事項に当たらない。

オ 請求項5に係る判断の誤り

(ア) 本審決は,当初明細書には,「通信による情報量を前記端末装置に記憶」させた上で,これを用いるという具体的事項は示されていないと判断した。

しかし,当初明細書の図36と図38には,「通信」を担うネットワークの構成及び端末,「記憶」を担うRAM,ROM及び外部記憶装置が記載されている。記憶装置を備えないコンピュータは,一般的ではないので,前記構成は自明であり,新規事項とはいえない。

(イ) 本審決は,当初明細書には「ゲーム情報供給装置」側が「端末装置に「通信による情報量」を「記憶」させるような制御を実行することが示されていないと判断した。

しかし,当業者であれば,当初明細書の図36,図38の記載から,一般的コンピュータにおいて,「通信による情報量」を「記憶」させる構成が示されていると理解する。前記構成は自明であり,新規事項ではない。

(ウ) 本審決は,当初明細書には,「ゲーム情報供給装置」が「端末装置」から「通信による情報量をネットワークを介して受信する」ことが示されていないと判断した。しかし,同構成は,当然の従来技術であって,記載するまでもない自明の事項であり,当初明細書にその旨の明示の記載がなかったことをもって,新規事項の追加になるものではない。

同様に,本審決は,「自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量」又は「前記受信手段により受信した端末装置の通信による情報量」に応じて「電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して送信」して「前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能」にすることも示されていないと判断する。しかし,当初明細書の図14(A)には,「『ぎんぱち』さんから電話です。」,図14(B)には,「通話時間3:00です。」と表示されており,この表示からは,「自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量」又は「前記通信手段により受信した端末装置の通信による情報量」を記憶していることは明らかである。そして,図14(B)には,ゲーム的メリットのうち「ポイント」に相当する「+3」が表示されており,これは「通話時間3:00」分,すなわちこの「通信量」に応じた「+3」ポイントのゲーム的メリットの「表示」を,「前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能にする送信手段」を想定していることが明らかである。

以上のとおり,同構成が新規事項に当たるとした本審決の判断は,誤りである。

(エ) 本審決は,当初明細書には,「端末装置」が「前記記憶手段により記憶されたゲーム的メリットを受信するとそのゲーム的メリットを表示可能」であること,「前記送信手段により送信されたゲーム的メリットを受信するとそのゲーム的メリットを表示可能」であることが示されていないと判断した。

しかし,当初明細書の図14(B)が,「端末装置」に当たることは自明であり,そこには,情報量「3:00」分に応じて,「+3」と表示されているゲーム的メリット(ポイント)の電子データが,あらかじめ端末に記憶されていたものか,あるいはサーバから送信されたものが表示されている。したがって,同構成が新規事項に当たるとした本審決の判断は,誤りである。

カ 請求項7に係る判断の誤り

本審決は,当初明細書には,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記記録媒体から読み取り可能に」なるとの事項が記載されていないと判断した。

しかし,本審決の判断は,以下のとおり,誤りである。

(ア) 当初明細書【0079】【0080】の「仮想のお金が貯まる」と記載されているが,同記載から,仮想のお金がカードに蓄えられ,500円分の価値がカードから引かれると,これに反比例した量の「仮想のお金」をカードから読み取ることができることが理解できる。したがって,「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記記録媒体から読み取り可能に」なるとの事項が記載されているといえる。

(イ) 当初明細書【0079】【0080】において,「使い切る」としているのは,課金情報に「応じた」態様の一例として示したものにすぎない。使用量に応じて何らかのメリットが得られるという思想はありふれており,「課金情報を記録すると,それに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して読み取り可能となり」という点は,当初明細書の記載から十分読み取れるものである。

また,当初明細書においては,クレジットカード,テレホンカード,プリペイドカードを例として挙げている(【0080】)。テレホンカードは「電話機」という外部装置を想定しない限り成り立たないし,プリペイドカードやクレジットカードも,そこに記録されたデータを読み取るハードウエアないしソフトウエア上の外部装置を想定することなく機能しない。記録媒体と協働する「ゲーム情報供給装置」は,当初明細書の記載から十分理解できる。

(ウ) したがって,同構成が新規事項に当たるとした本審決の判断は,誤りである。

(2)  特許法36条6項2号の判断の誤り(取消事由2)

ア 請求項4に係る判断の誤り

(ア) 本審決は,請求項4の「広告情報を含むゲーム」と「前記広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」の意味する内容と範囲が明瞭でないとし,具体的には,請求項4と異なる用語を用いた請求項1における「クイズ形式の広告情報」及び「回答情報」は,請求項4にいう「広告情報を含むゲーム」及び「前記広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」に該当するのか否か明瞭に特定できないとした。

しかし,本審決の判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

請求項1の「クイズ形式の広告情報」及び「回答情報」は,「クイズの問題になっている広告とその答え」である。当初明細書の図21の「【第1問】ICEって何の略?」とその問題の正解として選択されている図24の「①インタラクティブ・コンテンツ・アントレプレナー」が,「クイズ形式の広告情報」及び「回答情報」である。注意すべきは,ここで,広告情報が「問題(クイズ)」になっていることである。

これに対し,請求項4の「広告情報を含むゲーム」及び「広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」については,「広告情報」が必ず「クイズ」になっているわけではない。当初明細書の図9に例示したものとして色鬼ゲームがあるが,この色鬼ゲームに係る広告情報は,広告に関連したスペースであり,「クイズ形式」になっていない。このように「広告情報を含むゲーム」には,クイズ以外の種々のゲームも要素として含まれる。

(イ) また,本審決は,「クイズ形式の広告情報」及びこれに対する「回答情報」が請求項4に記載する「広告情報を含むゲーム」及び「広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」に含まれるか否かによらず,当該クイズと回答情報以外の部分において,請求項4の上記記載に該当するかしないかの判別基準は明瞭でないとした。

しかし,前記のとおり,請求項4の「広告情報を含むゲーム」は請求項1の「クイズ形式の広告情報」を含むものであり,請求項4の「広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」は請求項1の「(広告クイズの)回答情報」を含む。

請求項4において,請求項1以外の部分とは,「広告情報を含むゲーム」については,例えば「『広告スペース=安全圏』とした鬼ごっこ」であり,「広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」については,例えば「『広告スペース=安全圏』の利用」である。そして,この場合の「ゲーム的メリット」は,当初明細書にあるとおり,「鬼に捕まらない」というゲームルール上の判定情報である。

したがって,請求項4において,請求項1以外の構成部分も明瞭である。

イ 請求項5に係る判断の誤り

(ア) 本審決は,請求項5の記載は,「端末装置」と「ゲーム情報供給装置」に関する事項が入り乱れており,どこからどこまでが「ゲーム情報供給装置」の構成であるかはっきりしないと判断した。

しかし,「ゲーム情報供給装置」という「システム」を構成する要素として「端末装置」があり,その端末装置は,一般的なコンピュータとしての構成を有することが,汎用性を与えるために必要である。不明確な点はなく,本審決の判断は誤りである。

(イ) また,本審決は,請求項5中で「又は」を多数使用しており,各箇所の「又は」で示される択一事項についての相互の対応関係が明瞭でないとする。

しかし,以下に説明するように,「又は」の前後の事項の対応関係は明瞭である。

① 「自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量」又は「前記受信手段により受信した端末装置の通信による情報量」

前記構成は,情報量に関する構成(電話にたとえるならば「どの程度,電話(通信)したか」であり,上記構成については,当初明細書の図14(A)(B)において明瞭に説明がされている。「自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量」は,「通信による情報量」を端末に記憶させる場合であり,「前記受信手段により受信した端末装置の通信による情報量」は,「通信による情報量」を通信会社等のサーバに記憶させる場合であり,「又は」は,その両者を含む旨を記載したものであって,同記載内容は明瞭である。

② 「前記端末装置は,前記記憶手段により記憶された情報量に応じて前記端末装置内の電子データであるゲーム的メリットを表示可能」又は「前記送信手段により送信されたゲーム的メリットを受信するとそのゲーム的メリットを表示可能」

前記構成は,「通信による情報量(通話時間等)に応じて,ゲーム的メリットをあげます」というサービスにおいて,前者は,「もともと端末(のゲームソフト)に記憶したアイテムを使えるようにしてあげます」というサービスについての構成であり,後者は,「ウチのサーバからアイテムのデータを送信してあげます」というサービスについての構成であり,「又は」は,その両者を含む旨を記載しているものであって,同記載内容は明瞭である。

ウ 請求項7に係る判断の誤り

請求項7の記載が明瞭であることは,前記(1)のカで述べたとおりである。

2  被告の反論

(1)  特許法17条の2第3項の判断の誤り(取消事由1)に対し

ア 請求項1に係る判断の誤りに対し

(ア) 請求項1により「特許を受けようとする発明」は,単に「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる」機能を有した「ゲーム情報供給装置」であれば足りるものであるわけではなく,当該機能を「表示手段」の部分に備えることを構成要件とする「ゲーム情報供給装置」と理解すべきである。

請求項1記載の発明は,表示手段の機能等について特定しているわけではなく,当初明細書に表示手段は記載されているから,新規事項の追加ではないとの原告の主張は,失当である。

(イ) 原告は,「表示手段」に関しては,当初明細書に「ネット機能を備えたディスプレイ」が存在する旨の記載があるから,新規事項の追加ではないと主張する。

しかし,出願当初の明細書には,「ネット機能を備えたディスプレイ」をゲーム的メリットを配信する側のコンピュータ装置の「表示手段」部分に採用し,当該「ネット機能を備えたディスプレイ」に「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる」機能を分担させるという,特定の装置構成とすることは記載されていない。

(ウ) したがって,本審決が,請求項1に記載する「表示装置」を備えて,ゲーム的メリットを端末に向けて送信する「ゲーム情報供給装置」を構成するとした補正が,新規事項の追加であるとした点に,誤りはない。

イ 請求項2ないし請求項4及び請求項6に係る判断の誤りに対し

請求項1について述べたのと同じ理由で,請求項2ないし請求項4及び請求項6についても,審決の判断に誤りはない。

ウ 請求項5に係る判断の誤りに対し

請求項5は,「前記端末装置から通信による情報量をネットワークを介して受信する受信手段」とされているから,少なくともゲーム的メリットの供給に関して,通信の情報量を,端末が「情報量」として外部に送信し,受信側がこれを受信して利用するという,特定の技術的処理形態が記載されている。

しかし,当初明細書には,通信による情報量によりゲーム的メリットを与えることは記載されているものの,通信の情報量を端末が「情報量」の形で外部送信し,受信側がこれを受信して「ゲーム的メリット」の提供に用いるという,特定の技術的処理形態を用いることは記載されていない。図14では,「通話時間3:00です。」及び「+3」という表示がされた状態が示されているものの,そのような状態に至る過程において,端末側が通信の情報量を「情報量」として外部に送信し,外部側の装置が送信された「情報量」を受信してこれを利用するという,特定の技術的処理過程を経由することは示されていない。

したがって,本件補正は,新たな技術的事項を導入するもので許されない。

エ 請求項7に係る判断の誤りに対し

当初明細書には,「アンチカード」との名称を付したカードに関する記載があるのみで,これと協働する外部装置について具体的な記載はない。

この点につき,原告は,当初明細書にはクレジットカード等に「応用がきく」と記載するとともに,クレジットカード等に対する外部側装置はありふれているから,「アンチカード」と協働する外部装置についても記載したに等しいと主張する。

しかし,当初明細書においては,単にクレジットカード等に「応用がきく」と記載されているのみであり,従来のクレジットカードを「ゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録」したものに改変した場合に,これと協働する外部側装置にはカードとの適合のためにどのような改変を行うのか,あるいは課金処理装置等には何の改変も行わずに従来から存在する装置を単に使用するのか,何ら記載されていない。従来からのクレジットカード等への言及があるのみであって,改変したカードに対する外部側の課金処理装置等については,実際上の技術的開示は存在しない。

請求項7には,補正によって「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連付けて記録」した「前記記録媒体」に対して処理を行い,ゲーム的メリットを読み取り可能とする変化を生じさせる「記憶装置」及び「記録装置」の記載が追加されている。これらは,仮に従来の課金処理装置を何らの改変もせずにそのまま用いるという趣旨であれば,課金処理装置側には何らの変更も加えずシステムを構築するという新たな技術的事項を追加導入するものであり,また,従来の課金処理装置とは何らか異なる改変された外部側装置の趣旨であれば,当初明細書に記載のなかった技術的事項を追加導入するものである。

したがって,請求項7の補正を新規事項の追加とした本審決の判断に誤りはない。

(2)  特許法36条6項2号違反の判断の誤り(取消事由2)に対し

ア 請求項4に係る判断の誤りに対し

原告の主張には理由がなく,本審決の判断に誤りはない。

イ 請求項5に係る判断の誤りに対し

請求項5についての原告の主張は,自己の内部に記憶する通信情報量によって記憶済みのゲーム的メリットを表示可能となる端末の発明と,通信会社の側から端末装置の通信による情報量に応じてゲーム的メリットを端末あてに送信する送信側装置の発明とを,混在させた趣旨と理解される。

しかし,仮にそのような趣旨であるとしても,端末をゲーム的メリットの「供給装置」とする発明と送信側装置をゲーム的メリットの「供給装置」とする発明とが混合されるとともに,前者の場合の「装置」が有する手段と,後者の場合の「装置」が有する手段とが,特許請求の範囲における請求項5に断片的に混然一体と記載されていることになるから,請求項5の記載が,特許を受けようとする「装置」の発明を,該「装置」の発明ごとに,明確に特定したということはできない。

したがって,請求5の記載が特許法36条6項2号の要件を満たさないとした本審決の判断に誤りはない。

ウ 請求項7に係る判断の誤りに対し

原告の主張によれば,請求項7は,記録済みの「ゲーム的メリット」を課金処理に応じて解放する「記録媒体」を,それ自体「ゲーム情報供給装置」とする場合と,該「記録媒体」とそれに対して動作する「記憶手段」及び「記録手段」を備えた装置からなる「システム」を「ゲーム情報供給装置」と称する場合とを,混合して包含することを前提としている。しかし,そうであれば,前者の場合の発明については,そのような記憶内容と特性を持たせた「記録媒体」として「物」の発明を記載し,後者の場合の発明については,請求項を改めて「記録媒体」とそれに対して動作する外部装置とからなる「システム」として,「物」の発明を記載すべきである。

原告は,請求項7は,前者及び後者のすべてを包含する発明である旨を主張する。「物」としての発明の対象が「媒体」である場合や「システム」である場合を一体に記載することは,発明の明確性を欠くというべきである。

請求項7の記載は,「記録媒体」に対して動作を行う「記憶手段」や「記録手段」を並べた後に,文章が中断されており,最後に「ゲーム情報供給装置」で結ばれている。特許を受けようとする物の発明である「ゲーム情報供給装置」は,「記録媒体」及び「システム」のいずれかを特定することができない。

請求項7の記載は,「物」の発明として不明確である。

したがって,請求項7の記載は特許法36条6項2号の要件を満たさないとした本審決の判断に誤りはない。

第4当裁判所の判断

1  特許法17条の2第3項の判断の誤り(取消事由1)について

(1)  請求項1に係る判断の誤りについて

本審決は,補正明細書の請求項1において,「ゲーム情報供給装置」が「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段」を有するとするのは,当初明細書に記載のない新規事項を追加したものであるとする。

しかし,本審決の前記判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

ア 当初明細書の記載

当初明細書には,次の記載がある。

「【0025】【発明の実施の形態】 図36は,本発明の実施形態によるネットワーク構成を示す。ネットワーク(例えばインターネット)102には,サーバ101及び複数の端末103が接続される。サーバ101は,例えば汎用コンピュータ又はパーソナルコンピュータである。端末103は,例えば携帯電話,携帯端末又はパーソナルコンピュータである。

【0026】 端末103は,端末ゲーム121を有する。端末ゲーム121は,例えばアイコン育成ゲームである。ゲームプレイヤーは,自己が作成又は選択したアイコンを電子ペットとして育成する。プレイヤーが1日3回エサを与えないと電子ペットが死んでしまう。そこで,プレイヤーは,ネットワーク102を介して,サーバ101のゲームバナー113にアクセスする。

【0027】 図37(A)は,ゲームバナー113の処理を示す。ステップS201で,プレイヤーがクイズ形式の広告情報にアクセスする。具体的には,ブラウザを用いて,所定のバナー広告が掲載されているホームページにアクセスする。そのバナー広告は,クイズ形式になっており,ステップS202にてプレイヤーはそのクイズに回答する。クイズは,広告情報になっており,プレイヤーに回答させることにより,広告情報を深く認識し,広告効果が倍増する。クイズに正解すると,ステップ203にて,ゲーム的メリットを取得する。具体的には,図36にて,プレイヤーの端末103は,サーバ101からゲーム的メリット116としてのエサを,ネットワーク102を介してダウンロードすることができる。プレイヤーは,そのエサを電子ペットに与えることにより,アイコンの電子ペットを育成することができる。ゲームバナー113の詳細は,後に図6,図7,図17~図30を参照しながら説明する。」(当初明細書4頁6欄5行~36行)

「【0039】 図38は,図36のサーバ101及び端末103のハードウエア構成を示す。バス311には,中央処理装置(CPU)312,ROM313,RAM314,ネットワークインターフェース315,入力装置316,出力装置317及び外部記憶装置318が接続されている。

【0040】 CPU312は,データの処理又は演算を行うと共に,バス311を介して接続された各種構成要素を制御するものである。サーバ101及び端末103は,CPU312の処理や制御により,図37(A)~(D)の処理,図1~34の画面を表示することができる。

【0041】 ROM313には,予めCPU312の制御手順(コンピュータプログラム)を記憶させておき,このコンピュータプログラムをCPU312が実行することにより,起動する。外部記憶装置318にコンピュータプログラムが記憶されており,そのコンピュータプログラムがRAM314にコピーされて実行される。RAM314は,データの入出力,送受信のためのワークメモリ,各構成要素の制御のための一時記憶として用いられる。

【0042】 ネットワークインターフェース315は,図36に示すネットワーク102に接続するためのインターフェースである。入力装置316は,例えばキーボード,マウス,携帯電話ボタン,マイク,カメラ等であり,各種指定又は入力等を行うことができる。出力装置317は,ディスプレイ,スピーカ等であり,図1~図34の画面等を表示することができる。

【0043】 外部記憶装置318は,例えばハードディスク記憶装置やCD-ROM等であり,電源を切っても記憶内容が消えない。サーバ101は,処理に必要なデータベース319を外部記憶装置318に記憶する。」(当初明細書5頁8欄43行~6頁9欄24行)

「【0060】 (ゲームバナー)図6(A)に示す「ゲームバナー」を用いることで,クライアントは従来型のどんなネット広告よりも効果的な広告を打つことが出来る。広告視聴者へのサービスもゲームというエンターテインメント,また「メリット」というデジタルクーポンであるため,コストがかからない。

【0061】 「ゲームバナー」はあらゆるホームページ上に掲載することが出来る。クイズの設問もクライアントのホームページの内容と関連づけて,自由に設定することが出来る。この点,各クライアントの広告を集中する従来型の広告ゲームサイトに比べ,視聴者に伝えたい情報が散漫にならずに済む。「ゲームバナー」を効果的に運用するために,引き続き三つのアイデアを説明する。」(当初明細書7頁12欄12行~25行)「【0105】「ゲームバナー」の表現については,Webサイトでの表示の他に,メールでの配信(例:「ゲームバナー」をメールで配信し,ユーザーのオンライン接続を促す=バナーズネットワークの方式),アプリケーションにまるごと組み込む(例:「ゲームバナー」をあるゲームソフトに組み込み,オンライン接続を促すか,もしくはオフラインで遊ばせる。新規の広告・教育情報はオンラインでダウンロードさせる=All Advantageの方式)等多様な方法が考えられる。各々で情報の伝達形式が微妙に異なるが,広告・教育情報の確認の代償として「メリット」を用意するという本実施形態の性格から鑑みれば,本質的に重要ではない。」(当初明細書11頁20欄13行~24行)

イ 判断

(ア) 前記当初明細書の記載によれば,サーバ及び端末がそのハードウエア構成として中央処理装置(CPU)を有すること,CPU312は,データの処理又は演算を行うと共に,バス311を介して接続された各種構成要素を制御するものであること,サーバ又は端末のCPUの処理や制御により図37(A)~(D)の処理を行うことが示されている。

このように,当初明細書においては,サーバ及びその端末の構成が共通性を有するものとして記載されており,補正明細書の各請求項の冒頭に記載された「コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって」との部分は,サーバと端末を含んだ全体の構成を意味するものと解するのが合理的である。

(イ) 図37(A)には,クイズ形式の広告情報について,「ゲームバナー→クイズ形成の広告情報にアクセス→クイズに回答→ゲーム的メリット取得→エンド」との全体の流れが図示され,また,「プレイヤーがクイズ形式の広告情報にアクセスする。具体的には,ブラウザを用いて所定のバナー広告が掲載されているホームページにアクセスする。」(【0027】)と記載されている。同記載部分は,端末装置から,ブラウザを用いて,ネットワークを介して,所定のバナー広告が掲載されているホームページにアクセスすることを示していると解される。

図36(113)は,所定のバナー広告(ゲームバナー)が,サーバ内に置かれていることを示していると解される。また,【0061】の記載から,ゲームバナーは,あらかじめ内容が「設定」されるものであるから,サーバに記憶されているものであると理解できる。

そうすると,端末のブラウザが,サーバのホームページにアクセスすることは,サーバ側から見れば,端末装置からのアクセスを受信すると,記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して,端末装置に送信する動作を指すと理解できる。

また,【0040】には,端末又はサーバの「CPU」が,図1ないし図34の画面の表示を制御することが記載されているから,図6,すなわち「ゲームバナー」の表示処理も行うと認定できる。

サーバが,ゲームバナーを端末装置に送信することにより,「結果として」端末装置で表示が行われることから,サーバ側のCPUは,端末装置に「送信し表示させる」表示手段であると理解することができる。さらに,「新規の広告・教育情報はオンラインでダウンロードさせる」(【0105】)との記載からも,クイズ形式の広告情報を端末に送信し,端末に表示させることが示されていると理解できる。

そうすると,当初明細書には,「ゲーム情報供給装置」において,サーバが,「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段」を有するとの技術事項が記載されていると解すべきである。本件補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

(2)  請求項2,6に係る判断の誤りについて

ア 本審決は,請求項1と同様の事項は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてした補正ではないとする。

しかし,当初明細書の【0031】には,「図37(B)は,募金ゲームバナー114の処理を示す。・・・これは,図37(A)のゲームバナーと基本的には同じであるが,この情報は広告目的ではなく,募金目的である点が異なる。」との記載があり,請求項2,6の「表示手段」についても,前記(1)の「表示手段」と同様,当業者に認識できる程度に記載されているものと認められる。

したがって,請求項1と同様の事項は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてした補正ではないとした本審決の判断は誤りである。

イ 本審決は,請求項2,6においては「ゲーム情報供給装置」が「回答情報を受信」すると「送信手段」が「課金情報を記憶」するとの事項について,当初明細書にはその記載はないとする。

しかし,本審決の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

(ア) 当初明細書の記載

当初明細書には,次の記載がある。

「【0030】 また,プレイヤーは,端末103からネットワーク102を介してサーバ101の募金ゲームバナー114にアクセスすることができる。

【0031】 図37(B)は,募金ゲームバナー114の処理を示す。ステップS211で,プレイヤーがクイズ形式の募金目的の教育情報にアクセスする。これは,図37(A)のゲームバナーと基本的には同じであるが,この情報は広告目的ではなく,募金目的である点が異なる。例えば,野生動物保護のためのWWFが募金を目的として行うバナーである。プレイヤーは,通常のネットワーク回線使用料の他に募金を支払い,クイズに参加する。クイズの内容は,例えば野生動物の教育情報に関するものである。ステップS212にてプレイヤーはそのクイズに回答する。プレイヤーにクイズを回答させ,野生動物のことをよりよく知ってもらうことができる。クイズに正解すると,ステップ213にて,例えばエサ等のゲーム的メリットを取得することができる。ゲーム的メリット取得により,募金収集力が向上する。募金ゲームバナー114の詳細は,後に図15及び図16を参照しながら説明する。」(当初明細書4頁6欄48行~5頁7欄17行)

「【0093】 本実施形態の骨子は,単発のゲームソフトで終わらせることなく,恒久的に運営可能な募金システムを構築することにある。端的には赤い羽共同募金の様なものを,ゲームソフトを介して実現する。赤い羽共同募金は,募金するかわりに「赤い羽」という「メリット」がもらえる募金システムだと解釈出来る。この「メリット」という要素に,ゲームの歴史が蓄積してきた娯楽の手法を生かして,「楽しめる募金システム」を構築する。

【0094】 (応用1 世界遺産への募金)プレイヤーが保全を望む世界遺産が募金対象である。その広告クイズ(教育クイズ)に正解すると,「レアメリット」を得ることが出来る。京都府にある上賀茂神社を例にとり,以下に流れを示す。」(当初明細書10頁17欄50行~18欄13行)

「【0096】 最大の特徴は,図15(A)でクイズに参加するとき,「募金する必要がある」ことである。ゲームセンターでおなじみの,コインオペレーション式のゲームと同じく,「レアメリット」を入手するための「募金ゲームバナー」には,お金を払わないと参加出来ない。」(当初明細書10頁18欄22行~27行)

「【0101】 (課金のしくみ)本実施形態を,携帯電話向けコンテンツとして開発した場合の,課金のしくみを想定すると,例えば以下のようになる。

「月額使用料」:150円+150円(料金+寄付金)

「ゲームバナー」:1プレイ5円(広告料)

「鬼遊び(相撲)」:1プレイ5円(料金)

「募金ゲームバナー」:1プレイ10円(寄付金)

ただし,「ゲームバナー」は1人のプレイヤーが1日3回見るものとする(図6(A)~(C)参照)。「鬼遊び」及び「募金ゲームバナー」への参加はプレイヤーの任意とする。上記に基づき,月当たりのプレイヤーを30000人と想定した場合の,目算を下記に示す。

「月間収益」:4500000円+13500000円(月額使用料+広告料)+α(鬼遊び,相撲)

「寄付金」:4500000円(月額使用料)+β(募金ゲーム+バナー)

「総利益」:22500000円(収益18000000円+寄付金4500000円)+α+β」(当初明細書11頁19欄12行~29行)

(イ) 判断

前記記載によれば,当初明細書には,利用者がクイズに対する回答を送信するために,募金額の情報を送信することにより,利用者がゲーム的メリットを取得することが記載されている。当初明細書には,サーバ側が「回答情報を受信」すると,「募金のための課金情報を記憶」するという明示の記載はないが,サーバ側が回答情報を受けて,レアメリットを送信するまでの間に,端末側から募金額の提示を受けることは,その対価的関係から当然の前提となっているものと考えられる。そして,その受けた募金を現実に募金として処理するためには,サーバ側において「募金のための課金情報を記憶」することもまた当然の前提となっているものと考えられる。

すなわち,当初明細書において,「ゲーム情報供給装置」は,サーバ側及び端末側がそれぞれ図38に示すハードウェア構成を有し,それらによって構成されることが示されているから,募金を有効に機能させるためには,それらの構成の中において募金のための課金情報を記憶するシステムが存在する必要があり,サーバ側の記憶装置にその情報が記憶されるものと解されるのである。また,【0101】の記載からも,携帯電話(端末)に対して,サーバが「ゲームバナー」と同様に,「募金」を「課金」として処理するものであり,「課金」するサーバ側が,そのために料金を記録することがうかがえる。

そうすると,当初明細書の記載から,サーバ側が「回答情報を受信」すると,サーバ側に「募金のための課金情報を記憶」するというシステムが構築されるとの構成は,当業者であれば当然に認識することができる自明の事項といえる。補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

(3)  請求項3に係る判断の誤りについて

請求項3に係る判断は,請求項1についての判断と同様である。補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

なお,当初明細書の図13(図31も同じ)中の,アドレス欄を参照すると,ウェブページの一部ではなく,ウェブページ全体(index.htmlとのHTML形式ファイルであることが示されている。)をサーバから端末装置へ送信している。一般に,HTML形式のファイルには,文字や写真などのコンテンツ自体に関するデータに加えて,各コンテンツのレイアウト,文字や画像等の表示サイズ等を定めるデータも含まれているはずである。したがって,同図から,サーバがHTML形式のファイルを送信して端末側の表示を制御していることが,より明確であるということができる。

(4)  請求項4に係る判断の誤りについて

ア 本審決の判断に誤りがある点は,前記(1)と同様である。

イ 本審決は,ゲームルール上の利益行動の度に,「電子データ」としての「電子的メリット」を「端末」に送信するとの事項は,当初明細書に記載した事項の範囲内ではないと判断した。

しかし,本審決の判断は誤りである。その理由は以下のとおりである。

(ア) 請求項4の記載

請求項4には,「前記広告情報活用情報を受信すると,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する送信手段とを有し,」との記載がある。

前記記載によれば,請求項4には,「利益行動の度に」送信するとの記載はないから,本審決の判断は,前提を誤ったものといえる。

(イ) 当初明細書の記載

当初明細書には,次の記載がある。

「【0037】 また,アクセスするしないに関わらず,ゲーム的メリット123は大事である。例えばアクセスし,「フラグ」のチェックに成功して,メリットをダウンロードする場合はゲーム的メリット116になるが,ダウンロードせずに,予め端末に記憶されたメリットを出すきっかけとしてアクセスするなら,それはメリット123となる。要するに,ゲームバナーで正解してエサをダウンロードしてくるか,あるいは,既に端末に記憶してあるエサを出させるかの違いである。・・・」(当初明細書5頁8欄13行~21行)

「【0038】 図37(D)は,アドゲーム112又は122の処理を示す。ステップS224では,ゲーム画面に広告情報を表示する。ステップS225では,その広告表示をゲームに活用する。すると,ステップS226でゲーム的メリット116又は123を取得することができる。例えば,広告表示には,スペースがいる。このゲームのルールとして,広告スペースに子が逃げ込めば,鬼に捕まることはないものとする。すなわち,安全圏として広告スペースが使用される。この場合のゲーム的メリットは,例えば鬼に捕まらないというルール上のメリットである。ゲーム中はプレイヤーの集中力が高いので,広告をゲームに活用することにより,広告の効果を倍増させることができる。アドゲーム112又は122の詳細は,後に図9を参照しながら説明する。」(当初明細書5頁8欄29行~42行)

「【0070】 (アドゲーム)「アドゲーム」では,図9に示すように,画面に表示される広告スペースをゲームに組み込む。図9が色鬼という「鬼遊び」であり,右下に広告スペースがある。色鬼は鬼に指定された色が安全圏になる。これを応用し,「色」=「広告」とする。結果として子は広告に集まりたがるため,プレイヤーの広告情報へ対する注意を喚起することが出来る。

【0071】 上の例は,アイテムの様に形はないが,これもゲームにおける「メリット」と言える。「色鬼」と同じく,特定の対象を活用する「鬼遊び」は,動物鬼・赤白鬼・高鬼など様々である。これら全ての「鬼遊び」や,同様のコンセプトを持つゲームに,上と同様のデザインを施すことが出来る。

【0072】 例えば,前提条件として,以下の「フラグ」がある。

1. 「広告スペースにプレイヤーキャラクターを置く」「フラグ」をチェックすると,以下のような「メリット」が得られるゲームの応用例が考えられる。

A. 得点がもらえるアクションゲーム

B. 武器がパワーアップするシューティングゲーム

C. 生命力が回復するロールプレイングゲーム

D. 味方が増えるシミュレーションゲーム

E. 謎が解けるアドベンチャーゲーム

F. マスを進めるボードゲーム

ゲームデザインによっては,ここでの広告スペースに「ゲームバナー」を充てることもできる。

【0073】 (相撲)「ゲームバナー」を利用して育成したPIを使い,図10(A)に示す「相撲」の対戦ゲームを行うことができる。基本的に押し相撲である。相手を押したりすかしたりしながら,土俵の外へ出せば勝ちとなる。自分の端末に相手を招いて行う場合は,図10(B)のように,ゲーム画面もカスタマイズできる。「ギャラリー」的な賭けの要素を加えることや,「アドゲーム」的な広告の表示も可能である。

【0074】 「相撲」は「鬼遊び」以外の対戦ゲームを総括した呼称であると考えることができる。『じんぱち』の「相撲」には,図10(C)に示すサッカーもあれば,図10(D)に示すカードゲームや,図10(E)に示すRPG(role-playinggame)もある。『じんぱち』スタイルでは,「エレメント」を基本に,あらゆるゲームソフトを制作することが出来る。」(当初明細書8頁13欄42行~14欄32行)

(ウ) 判断

前記記載によれば,当初明細書には,ゲームを利用して広告するという「アドゲーム」についての記載があり,その1例を示す【0038】には,広告のスペースに子が逃げ込めば鬼に捕まらないというゲームの手法を使用した広告方法が示されているが,そこには,ゲームルール上の利益行動の度に,「電子データ」としての「電子的メリット」を「端末」に送信することは記載されていない。しかし,同じアドゲームについての記載である【0072】には,ゲームの応用例として,「D.味方が増えるシミュレーションゲーム」,「E.謎が解けるアドベンチャーゲーム」,「F.マスを進めるボードゲーム」のように,ゲームが1回で完結せず,複数回にわたって進行していくと考えられるものが記載されている。

この場合,当初明細書の図36に示されたシステム構成を前提として考えると,1回のゲームごとにサーバから「端末」に「電子データ」としての「電子メリット」が送信され,ゲームが進行していくという形態が当然に考えられるのであって,当初明細書には,ゲームルールの利益行動の度に,「電子データ」としての「電子的メリット」が「端末」に送信されるという構成が予定されているものというべきである。

したがって,仮に,審決が前提としたように,利益行動の度ごとに「電子的メリット」が端末に送信されるとの事項が存在するか否かについて検討してみても,当初明細書に,ゲームルール上の利益行動の度に「電子的メリット」が「端末」に送信されるとの事項が記載されていると認めることができる。

本件補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

(5)  請求項5に係る判断の誤りについて

本審決は,当初明細書には,①「通信による情報量を前記端末装置に記憶」させた上で,これを「ゲーム的メリット」の提供に用いるという具体的事項,②「記憶する記憶手段」が記憶させる記憶指示手段の趣旨であるとすれば,「ゲーム情報供給装置」側が「端末装置」に「通信による情報量」を「記憶」させるような制御を実行すること,③「ゲーム情報供給装置」が「端末装置」から「通信による情報量をネットワークを介して受信する」こと,④「自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量」又は「前記通信手段により受信した端末装置の通信による情報量」に応じて「電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して送信」して,「前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能」にすること,⑤「端末装置」が「前記記憶手段により記憶された情報量に応じて前記端末装置内の電子データであるゲーム的メリットを表示可能であること」及び「前記送信手段により送信されたゲーム的メリットを受信するとそのゲーム的メリットを表示可能であること」,のいずれもが示されていないと判断した。

しかし,本審決の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

ア 請求項5の記載

補正明細書における請求項5の記載は,前記のとおりであり,「端末装置が通信を開始すると,通信による情報量を前記端末装置に記憶する記憶手段」を有し,「前記端末装置から通信による情報量をネットワークを介して受信する受信手段と,」を有することが記載されている。

請求項5の記載によれば,「記憶する記憶手段」を「記憶させる記憶指示手段」とする本審決の理解は,誤りである。したがって,本審決の指摘する②の事項について,本件補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内のものであるか否かを判断するまでもなく,同認定を前提とした本審決には,誤りがある。

イ 当初明細書の記載

当初明細書には,次の記載がある。

(ア) 「【0082】 (チア)図14(A),(B)に示すように,プレイヤー同士が通信(通話)することで,互いのPIを元気づけることが出来る。『じんぱち』を遊ぶプレイヤーが,任意の相手を「チア」の対象に設定する。「チア」に設定した相手から通信が入ると,PIの「スピリット」が向上していく。通信する者同士で,お互い相手を「チア」に設定すると,さらなる「メリット」が得られる。「チア」はプレイヤーに通信を促すための仕掛けである。通信を担う事業者は,プレイヤーに「メリット」を用意することで通信を促すことが出来る。

【0083】 なお,「メリット」の大きさは通話時間や受け取るメールの数に比例する。後者の場合は「メリット」の得られるメールの数を1日単位で限定する。同じ相手(同じアドレス)から,同じ日に何百通ものメールを受信したとしても,その数に比例した「メリット」を得ることはできない。」(当初明細書9頁15欄38行~16欄3行)

(イ) 前記記載及び図14によれば,「チア」における端末での「通話時間3:00です。」(図14(B))との記載に接した当業者は,端末が通話時間(通信量)を検出していることを認識し,通信量を検出できるのは,端末側か端末以外(本件特許ではサーバ)のいずれかであると認識することができる。そして,【0083】において,「受け取るメールの数に比例」して「メリット」を受け取ることができるとされていること,【0082】において,検出された通信量を利用して「プレイヤーに「メリット」を用意する」とされていることからすれば,当業者は,メールを受け取る端末において,通信量を測定して記憶し,その通信量をサーバに送信し,サーバがこれを受信することをも自然に認識できる。

そうすると,前記本審決が指摘する事項のうち,①の「通信による情報量を前記端末装置に記憶」させた上で,これを「ゲーム的メリット」の提供に用いるという具体的事項,③の「ゲーム情報供給装置」が「端末装置」から「通信による情報量をネットワークを介して受信する」ことについては,当初明細書の記載から認識することができ,新規事項とはいえない。

ウ また,前記(1)において判断したとおり,当初明細書からは,「ゲーム情報供給装置」において,サーバが「ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段」を有することを読み取ることができることからすれば,本審決が指摘する前記④,⑤のうち,「前記通信手段により受信した端末装置の通信による情報量」に応じて「電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して送信」して,「前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能にすること」及び「前記送信手段により送信されたゲーム的メリットを受信するとそのゲーム的メリットを表示可能であること」も,同様に,当初明細書から認識することができるものといえる。

さらに,前記1(1)イ(ア)のとおり,本件「ゲーム情報供給装置」においては,サーバ及び端末がその構成を共通にしていること,及び図14(B)において,端末の表示手段に「通話時間3:00です。」という通信情報量及び「+3」というゲームメリットと見られる表示がされていることに照らせば,当業者は,本審決が指摘する前記④,⑤のうちの「自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量」に応じて「前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能」にすること及び「端末装置」が「前記記憶手段により記憶された情報量に応じて前記端末装置内の電子データであるゲーム的メリットを表示可能であること」をも,当初明細書から,理解できるものといえる。

したがって,本件補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

(6)  請求項7に係る判断の誤りについて

ア 本審決は,請求項7の「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して読み取り可能となり」との点で当初明細書に記載のない事項を含むとした。この点の当否について,判断する。

(ア) 当初明細書の記載

当初明細書には,次の記載がある。

「【0077】 (メリバン)メリバンは,「メリットバンドル」を略した造語である。図13に示すように,Eコマース商品と「メリット」をバンドル(同梱)し,販促を行なう。「スピリット」を用いて作った「エレメンタルアイテム」には,独自の価値がある。プレイヤーはこの「エレメンタルアイテム」を,商品の「おまけ」として事業者に売ることが出来る。この他,バンドル可能な「メリット」には,様々な電子データが含まれる。

【0078】 「メリバン」はユーザーが育てたPIや,自分で作った「メリット」を,販促用のおまけにするアイデアである。キャラクター商品を持つ企業は,このアイデアに基づき,キャラクターを販促に利用することが出来る。

【0079】 (アンチカード)「アンチカード」は電子マネーの一種である。お金を使えば使うほど,「メリット」が貯まる。図35(A)に示す「アンチカード」を用いて,図35(B)に示すしば漬けを買う。するとカードから500円分の価値が引かれる。これに反比例して,ゲームで使える仮想のお金が貯まる。やがてカードを使い切ると,カードに記録されたキャラクターも,ゲームで使える様になる。

【0080】 クレジットカードやテレホンカードは,普通使い切ると無価値なものになるが,「アンチ カード」は反対である。使い切った「アンチ カード」は,ゲーム等,仮想の世界で最大の価値=「メリット」を記録したものになる。「アンチ カード」は電子マネーを記録したカードだけでなく,特定の価値を記録したあらゆるカード(クレジットカード,テレホンカード,プレペイドカード等)に応用が利く。キャッシュバック等のサービスと違い,「メリット」はあくまでも電子データであるため,クレジット会社はコストをかけずにこれを実施することが出来る。

【0081】 「アンチ カード」の仕組みは,カードが実在のものでなくても成立する。例えば電子商取引で商品とお金をやり取りする際,「アンチカード」を電子マネーとして,電子決済に活用することが出来る。「アンチ カード」を「メリバン」や「チア」と併用すれば,料金支払いのさいに得られる「メリット」が,さらに大きなものになる。」(当初明細書8頁14欄49行~9頁15欄37行)

(イ) 判断

当初明細書の前記記載,特に,【0079】の「お金を使えば使うほど,「メリット」が貯まる。図35(A)に示す「アンチカード」を用いて,図35(B)に示すしば漬けを買う。するとカードから500円分の価値が引かれる。これに反比例して,ゲームで使える仮想のお金が貯まる。やがて,カードを使い切ると,カードに記録されたキャラクターがゲームで使える様になる。」,【0080】の「使い切った「アンチカード」は,ゲーム等,仮想の世界で最大の価値=「メリット」を記録したものになる。」との記載によれば,「使えば使うほど」メリットが貯まるとは,課金情報を記録すると,「これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して読み取り可能となり」との技術的事項が記載されていると理解することができる。また,アンチカードについては,「特定の価値を記録したあらゆるカード(クレジットカード,テレホンカード,プリペイドカード等)に応用が利く」,「『メリット』はあくまでも電子データであるため,クレジット会社はコストをかけずにこれを実施することができる。」と記載されており,例えば外部装置としてクレジットカード読み取り装置(記録媒体)で電子決済し,その際,クレジット会社のコンピュータが電子マネー活用情報を記憶手段に記憶し,課金情報を記録媒体に記録し,課金情報が記録されると,「これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して読み取り可能となり」との構成を,当業者であれば,理解することができる。

したがって,本件補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

イ また,本審決は,当初明細書の【0079】【0080】には,「カードに記録されたキャラクター」がカードを「使い切る」ことによって「使用可能」となることが示されているが,カードを使い切らずとも「課金情報を記録すると,これに応じた」態様でカード内の記憶データを読み取り可能とすることは示されておらず,「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」について,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記情報媒体から読み取り可能になり」という事項は当初明細書に記載されていないとする。

しかし,本審決の前記認定には,誤りがある。すなわち,【0079】の「図35(A)に示す「アンチカード」を用いて,図35(B)に示すしば漬けを買う。するとカードから500円分の価値が引かれる。これに反比例して,ゲームで使える仮想のお金が貯まる。やがてカードを使い切ると,カードに記録されたキャラクターも,ゲームで使える様になる。」という記載から,カードに記録されたキャラクターが,カードを使い切ると使えるようになるとの事項を理解することができる。しかし,本審決が述べるように,カードを使い切らない限り課金情報を記録する記憶データの読み取りができないと理解することはできない。カードの利用状況とそれに応じたゲーム的メリットの取得状況を知らせることは,販促という目的に照らしても自然なことであり,カードを使い切る前に,利用者の端末装置から,カードの利用状況及びそれに応じたゲーム的メリットの取得状況を読み取りができると解するのが自然であるから,本審決のように,当初明細書には,「課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記記録媒体から読み取り可能」との構成が記載されていないと解することはできない。以上のとおり,本審決の判断には誤りがある。

ウ さらに,本審決は,当初明細書には,「アンチカード」と協働する外部装置側の構成については,何ら示されていないから,請求項7における発明の対象である「記録媒体」と協働する「ゲーム情報供給装置」についても記載がないと判断する。

しかし,「電子マネーの一種」であるアンチカードについて,何らかの情報を記録・読み取りする外部装置側の構成は,請求項7に記載がないから,当初明細書にその点が記載されていないことをもって,本件補正が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないとした本審決の判断は,誤りである。

また,前記のとおり,当初明細書の【0080】には,「「アンチカード」は電子マネーを記録したカードだけでなく,特定の価値を記録したあらゆるカード(クレジットカード,テレホンカード,プリペイドカード等)に応用が利く。キャッシュバック等のサービスと違い,「メリット」はあくまで電子データであるため,クレジット会社はコストをかけずにこれを実施することが出来る。」との記載があり,前記例示されたカードの種類に応じた外部装置を自明のものとして観念できる。

2  特許法36条6項2号違反の判断の誤り(取消事由2)について

(1)  請求項4に係る判断に誤りについて

本審決は,「ゲームルール上」で活用したか否かは,「ゲーム」とその「ルール」が定まらなければ特定できない上に,コンピュータ上のゲームであってもどの処理までが「ゲームルール上」であるか明瞭でない,例えば,請求項1の「クイズ形式の広告情報」及び「回答情報」は,請求項4の「広告情報を含むゲーム」及び「前記広告情報をゲーム上で活用した旨の情報」に該当するか否か明瞭に特定できないと判断する。

しかし,請求項4の発明は,広告情報をゲーム上で活用できるようなゲームとすることでその目的を達成できるから,ゲームとしても多種多様のものが想定され,ゲームとそのルールまで特定しない限り,発明の内容が特定できないとはいえない。また,本審決は,広告情報の活用が「ゲームルール上」で行われることを前提とした上で,どの処理までが「ゲームルール上」であるか明らかでないとする。しかし,請求項4には,「ゲームルール上」との記載はなく,「広告情報の活用」とは,図9にその1例が示されているように,利用者がゲームにおいて,ゲーム画面上の広告情報に接したと評価できる客観的状況を示すものと解されるから,その意義が明瞭でないということはできない。

また,【0037】には,端末ゲームの場合について,「端末で自己完結的にアドゲーム(広告ゲームという意味で,ゲームバナーも含む)」とされており,アドゲーム(請求項4に対応)が,ゲームバナー(請求項1に対応)を含むことが記載されている。

したがって,本審決の判断は誤りである。

(2)  請求項5に係る判断の誤りについて

ア 本審決は,「通信による情報量を前記端末装置に記憶する記憶手段」が「ゲーム情報供給装置」側の構成であるのか,「端末装置」側の構成であるのか明らかでないと述べる。しかし,請求項5の記載から,端末装置側の構成を示していることは明らかであり,この点において請求項5の記載が不明確ということはできない。

本審決は,請求項5記載発明について,「ゲーム情報供給装置」を「端末装置」と同様の構成要素であるとの前提に立っているが,「ゲーム情報供給装置」は,発明の全体の構成を示すものであるから,本審決はその前提において誤りがある。

イ 本審決は,請求項5の「又は」で示される各事項について,相互関係が明瞭でないと判断する。

すなわち,本審決は,①「前記端末装置から通信による情報量をネットワークを介して受信する受信手段と,自己の内部に記憶する端末装置の通信による情報量又は前記通信手段により受信した端末装置の通信による情報量に応じて,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信して前記端末装置にゲーム的メリットを表示可能にする送信手段」との事項,及び②「前記端末装置は,前記記憶手段により記憶された情報量に応じて前記端末装置内の電子データであるゲーム的メリットを表示可能,又は前記送信手段により送信されたゲーム的メリットを受信するとゲーム的メリットを表示可能であり」との事項において,それぞれ,「又は」の前後の相互関係が不明瞭であると述べているものと理解される。

しかし,図14から,通信量の検出場所が,端末側か端末以外の2通りのいずれかが判別できないのであるから,当初明細書の当該箇所は,その両者の場合を記載した趣旨であることは,明確である。本審決の判断は,その点で誤りがある。

(3)  請求項7に係る判断の誤りについて

ア 本審決は,請求項7には,「記録媒体」自体に関する記載と,「記録媒体」自体の構成要素とは思料されない記載とが混在しており,不明確であると判断している。

しかし,「電子データであるゲーム的メリット及び電子マネーを関連づけて記録したコンピュータ読み取り可能の記録媒体と」とする部分が記録媒体に関する記載であり,

それ以後の

「前記記録媒体の電子マネーを活用した旨の情報を記憶する記憶手段と,

前記電子マネー活用情報を記憶すると,課金情報を前記記憶媒体に記録する記録手段と,

課金情報を記録すると,これに応じたゲーム的メリットが端末装置を介して前記記録媒体から読み取り可能になり」とする部分が記録媒体以外に関する部分であって,両者を区別する記載は明瞭であるというべきである。

本審決は,文章が途中で中断しており,それが「ゲーム情報供給装置」が備える構成であるか明確に特定できないとするが,審決の同判断は,「ゲーム情報供給装置」を発明全体の構成を示すものでなく,発明の構成の一部との前提に立った上での判断であって誤りである。

イ また,本審決は,いかなる物が「ゲーム情報供給装置」として特定されているか不明確であるとするが,請求項7に記載された,全体の記載が「ゲーム情報供給装置」として特定されているのであって,不明確とはいえない。

被告は,原告の主張によれば,請求項7には,①記録済みの「ゲーム的メリット」を課金処理に応じて解放する「記録媒体」を,それ自体「ゲーム情報供給装置」とする場合と,②「記録媒体」とそれに対して動作する「記憶手段」及び「記録手段」を備えた装置からなる「システム」を「ゲーム情報供給装置」と称する場合を,いずれも混合して包括するものであり,①の場合であれば,そのような記憶内容と特性を持たせた「記録媒体」として「物」の発明を記載し,②の場合については請求項を改めて,「記録媒体」とそれに対して動作する外部装置からなる「システム」として「物」の発明を記載すべきであるとする。

しかし,請求項7の発明においては,「記録媒体」は,「ゲーム情報供給装置」の一部を構成するものであるから,前記①の解釈は採り得ない。

したがって,前記②と解釈すべきである。この場合に,複数の請求項に分けて記載せずに,そのうちの一つのみを選択したからといって,請求項7の記載が不明確となるものではない。本審決の判断は誤りである。

3  結論

以上によれば,原告主張の取消事由には理由があるから,本審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 齊木教朗)

裁判官大須賀滋は,填補につき,署名押印することができない。裁判長裁判官 飯村敏明

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