知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10388号 判決 2010年6月29日
原告
磯じまん株式会社
同訴訟代理人弁護士
辻本希世士
同
辻本良知
同
笠鳥智敬
同
松田さとみ
同訴訟代理人弁理士
辻本一義
同
神吉出
同
上野康成
同
森田拓生
被告
特許庁長官
同指定代理人
岩崎安子
同
渡邉健司
同
瀧本佐代子
同
小林和男
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2008-32352号事件について平成21年10月28日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,別紙商標目録記載の構成で,指定商品を同「指定商品」欄記載のとおりとする商標(商願2008-11080)を出願したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとして,請求不成立の審決を受けたことから,その審決の取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成20年2月18日,本願商標を出願したところ,拒絶査定を受けたため,同年12月24日に拒絶査定不服審判請求をしたが,特許庁は,審理の結果,平成21年10月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年11月9日,その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由
審決は,次のとおり,本願商標は,商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当し,同法3条2項の要件を具備しないと判断した(なお,以下において引用した審決中の当事者及び関係者名,商標等の略号並びに文献等の表記は,本判決の表記に統一した。)。
(1) 商標法3条1項3号及び同法4条1項16号について
「本願商標は,‥‥『生のり』の文字を,未だ普通に用いられる方法の域を脱しないといえる態様で横書きしてなるところ,証拠調べ通知で示したとおり,『生のり(生海苔)』の文字は,本願指定商品『のりの佃煮』の原材料を表す文字として新聞,パンフレット及びインターネットにおけるウェブサイトにおいて,広く一般に使用されているといい得るものである。
そして,このような商標は,指定商品との関係において,当該商品の品質等を表示するために,取引において必要適切な表示として何人も使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないといわなければならない。
してみれば,本願商標を,その指定商品中『生のりを原材料とするのりの佃煮』に使用するときは,これに接する取引者,需要者は,商品の原材料,品質を普通に用いられる方法の範囲で表示された商標と理解,認識するに止まり,自他商品の識別標識としての機能を果たし得る商標とは認識し得ないというべきであり,かつ,前記商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。」
「登録出願された商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するものであるか否かの判断は,当該商標の構成態様と指定商品との関係並びに他人による使用の状況及び取引の実情等を考慮して,個別具体的に判断されるべきものであり,かつ,その判断時期は,査定時又は審決時と解されるべきものであるところ,証拠調べ通知書における請求人以外の『生のり(生海苔)』の文字の使用は,原告も認めているように,近年(2000年以降),すなわち審決時においても『のりの佃煮』の原材料を表す文字として実際に多数使用されている事実が認められるものであるから,本願商標は自他商品を識別する機能を果たし得ないといわなければならず,前述のように判断することが取引界の実状に反する不当かつ不自然な解釈であるとはいえないものである。
よって,原告が『生のり』の文字を含む登録商標を所有していること,該文字が辞書に記載されていないこと,請求人が以前から『生のり』の文字を『のりの佃煮』に使用していることを理由に,本願商標が自他商品の識別標識としての機能を果たし得るとする原告のいずれの主張も採用することはできない。
したがって,本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当する。」
(2) 同法3条2項の該当性について
「ア 甲2ないし甲8は,スーパーマーケット等販売店で発行されたレシートであるところ,そこには,『磯じまん 生のり』及び『イソジマンナマノリ』のように表記されていることから,それらが原告の取り扱いに係る商品を表したものであることは推認できる。
イ 甲10及び甲11は,顧客(販売店や消費者)に配付されたとする商品リーフレット,また,甲12ないし甲14は,俳優を起用したテレビコマーシャルのリーフレットであるところ,それらには,『磯じまん』及び『生のり』の文字が付された商品『のりの佃煮』が掲載されているものの,当該リーフレットの印刷部数,頒布地域などは示されていない。
ウ 甲15は,昭和58年7月4日付け「フード・ウィークリー」と称する紙面であるところ,そこには,『磯じまん』及び『生のり』の文字が付された商品『のりの佃煮』が同年6月に販売された記事が掲載されている。
エ 甲16は,原告の取り扱いに係る磯じまん製品建値表(昭和58年10月)であるところ,そこには,品名『生のり』の文字とその小売価格などが記載されている。
オ 甲17は,「生のり」の地域別主力商品売上表であるところ,そこには,1991年から2007年までの売上げ函数が地域ごとに記載されており,1995年は24,730函(一函48個入り),2007年は14,723函(同)の売上げが示されている。
カ 甲18はテレビ番組「朝だ!生です/旅サラダ」のパンフレットであり,甲19ないし甲45は,1996年4月,10月及び12月に前記番組を朝日放送,テレビ朝日ほか25放送局を通じて全国に放送したとする放送通知書である。前記パンフレットには,『生のり』の文字及び商品『のりの佃煮』に関する記載は見当たらず,また,前記放送通知書には,広告主欄に原告の名称,番組放送日及びコマーシャルの秒数が記載されているが,広告の対象となる商品名については,甲19に『ナマノリブシA』及び『ナマノリカンメ』と記載されているのみであり,さらに,前記各号証をみても,広告に使用された本願商標の態様などは記載されていない。
キ 甲46ないし甲50は,新聞の紙面であるところ,平成4年3月から12月,同12年,同16年及び同18年,同19年1月から4月及び12月に朝日新聞,中国新聞,東京新聞等において,『磯じまん』,『佃煮』及び『生のり』の文字並びに該文字が付された商品『のりの佃煮』についての広告記事が掲載されているものの,当該新聞の頒布地域及び販売部数は示されていない。」
「以上の証拠からすると,原告は,本願商標と同一の態様である『生のり』の文字を,本願指定商品と同一の商品『のりの佃煮』に付して,昭和58年から販売していることが認められる。」
「甲17は,その売上高は確認できるものの,『のりの佃煮』を扱う業界全体の売上げに対する前記商品の比率が示されていないことから,その売上げの規模について確認することはできず,また,販売数については,例えば,2006年東北・信越239函及び四国205函並びに2007年東北・信越233函及び四国219函しかないことから,本願商標が,商品『のりの佃煮』に使用された結果,何人かの業務に係る商品であることを認識することができる出所表示として,その商品の需要者の間で全国的に認識されているものとは認め難いものである。
また,広告宣伝については,リーフレットや新聞を用いて行っていることは認められるものの,リーフレットの印刷部数及び頒布地域が示されていないことから,広告宣伝の回数や地域が不明である上に,新聞の頒布地域及び販売部数も示されていないことから,新聞による広告宣伝がどの地域で,どの程度行われたのか確認することもできない。
さらに,テレビ放送によるコマーシャルは,現在よりも10年以上前にわずか3ヶ月の間だけ放送されたものでしかない上に,広告の対象となる商品やそれに使用された本願商標と同一の態様が記載されていないことから,これが『生のり』の文字を付した商品『のりの佃煮』についての,広告宣伝であるのか不明であり,加えて,テレビコマーシャルのリーフレット(甲12ないし甲14)と関連付けて,判断しなければならない理由も見出せないものである。
してみれば,原告が,本願商標と同一の態様である『生のり』の文字を,商品『のりの佃煮』に使用していることは認められるとしても,商品『のりの佃煮』の売上げの規模について明らかでない上に,本願商標が出所表示として当該需要者の間で全国的に認識されているとは認め難く,さらに,広告宣伝の回数及び内容についても詳細に確認できないことは前記のとおりであるから,原告の提出した証拠を総合して勘案しても,本願商標が使用により識別力を有するに至ったとはいえず,本願商標が,商品『のりの佃煮』について使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものとは認められないものである。」
「原告は『スーパーマーケット等販売店で発行されたレシート(甲2ないし甲8)に,本願商標を付した商品『のりの佃煮』が,単に『生のり』,『ナマノリ』と表記されているのは,『生のり』といえば,原告の業務に係る商品と認識されているからである。』旨,主張する。しかしながら,提出された証拠の中には,『磯じまん生のり(イソジマンナマノリ)』のように,原告の略称と共に『生のり(ナマノリ)』の文字が表示されているものも見受けられることに加えて,通常レシートの表記は文字数の制限があるため,しばしば商品名や商標が省略されて表示されることが一般に行われていることからすれば,提出されたレシートの『生のり』の表記をもって,原告の取り扱いに係る商品と特定することはできず,ひいては『生のり』といえば,原告の業務に係る商品とは認め難いといわなければならない。
したがって,本願商標は商標法3条2項の要件を具備するものとは認められない。」
(3) むすび
「以上のとおり,本願商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当し,かつ,同法3条2項の要件を具備しないとした原査定は妥当なものであって,取り消すべき限りでない。」
第3原告主張の取消事由
審決は,次に述べるとおり,認定及び判断に誤りがあるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法3条1項3号及び同法4条1項16号適用の可否)
(1) 審決は「生のり(生海苔)」の文字が広く一般に使用されているものであるとする。しかし,本願商標は原告が昭和58年から今日に至るまで30年近くの長きに渡って独占的に使用してきたものである。最近になって,原告以外の者が「生のり」という文字を使用する場合が存在するようになったとしても,このような例はごく僅少であり,本願商標をもって原告の商品が識別されている社会的事実を覆すほどのものではない。このことは,スーパーマーケット等の個々の販売店が様々な商品を識別するため,そのレシートに独自に入力している表記に,原告の商品を表すものとして単に「生のり」「ナマノリ」の文字を使用していること(甲2ないし甲8)からも明らかである。
(2) 審決は,原告が新聞広告やテレビコマーシャルによって本願商標を長年に渡り使用し続けてきたと主張したのに対し,「新聞の頒布地域及び販売部数も示されていないことから,新聞による広告宣伝がどの地域で,どの程度行われたのか確認することもできない。」「広告宣伝の回数及び内容についても詳細に確認できない」としてこれを排斥するが,審決こそ,原告以外の者による「生のり」の使用についての販売地域や販売部数,期間を何ら確認することなく,かつ何らの合理的・明確な根拠もなく,「生のり(生海苔)」の文字は広く一般に使用されているといい得ると認定しており,不合理である。
(3) 本願商標は原告所有の登録商標(甲1)から「生のり」の文字を取り出したバリエーション商標であり,かかる文字は広辞苑にも記載されていない原告創作にかかる造語である上,前記(1) のとおり,原告が30年近くの長期に渡って独占的に使用してきた結果,販売店も単に「生のり」「ナマノリ」と表記することによって原告と他社とを識別するに至ったものである。
このように,本願商標は,自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものであるから,本願商標の登録性が否定されるとするのは,取引界の実情に反する不当かつ不自然な解釈という以外にあり得ない。
(4) したがって,本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当しないものとして登録されるべきであり,同条項号に関する審決の判断は誤ったものとして取り消されるべきである。
2 取消事由2(商標法3条2項適用の可否)
仮に本願商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとしても,次のとおり,本願商標は需用者において原告の商品であると十分に認識し得るものであって,商標法3条2項の要件を具備するものである。
(1) 原告の商品の販売形態及びその販売数について
審決は,原告が「生のり」を昭和58年から販売していることのみを認定する。しかし,原告はこれを単に販売していたのではなく,昭和58年から現在に至るまで,「生のり」を他の商品よりも高額な商品として差別化し,かつ独占的に販売してきたのである。その結果,「生のり」といえば原告が販売する高級ブランドであるとの認識が消費者の間に生まれ,本願商標は他の商品とは明確に区別され,識別されるに至ったものである。
また,審決は「販売数については,例えば,2006年東北・信越239函及び四国205函並びに2007年東北・信越233函及び四国219函しかないことから」として,「その商品の需要者の間で全国的に認識されているものとは認め難い」と判断している。しかしながら,審決は,「生のり」1函が48個入りであることを看過している。それを前提に地域別主力商品売上表(甲17)を考察すれば,原告は,例えば1995年は合計で2万4730函×48個=118万7040個を販売していることになり,1994年から2007年までの14年間では,25万1479函×48個=合計1207万992個を販売していることになる。とすれば,「生のり」の販売数は,審決がいうように僅少なものではなく,のりの佃煮のマーケットがそれ程大きいものでないことを考慮に入れるならば,むしろ原告の「生のり」の販売数は相当なものとさえいえるのであって,需要者の間で全国的に認識され得るのに十分な販売数量というべきである。
(2) テレビ放送のコマーシャルについて
ア 「生のり」に関するテレビコマーシャルは,TXN6局ネットワークで平成7年5月から平成8年3月までの11か月間,同一番組中において15秒のコマーシャルを2本放送する(計30秒)という形式で流されており,例えば,TXN6局ネットワークであるテレビ東京の放送エリア内テレビ台数は3278万3000台であり,テレビ大阪のそれは1121万1000台である(甲57,59)。次に当該テレビコマーシャルはANN26局ネットワークで平成8年4月から平成10年3月までの24か月間,前記と同じく同一番組中において15秒のコマーシャルを2本放送する(計30秒)という形式で流されており,例えば,ANN26局ネットワークであるテレビ朝日の放送エリア内テレビ台数は3278万3000台であり,名古屋テレビ放送のそれは895万5000台であり,九州朝日放送のそれは616万6000台であり,北海道テレビ放送のそれは451万3000台である(甲58,59)。
イ この点について,審決は「テレビ放送によるコマーシャルは,現在よりも10年以上前にわずか3か月の間だけ放送されたものでしかない」と指摘する。しかし,「生のり」に関するテレビ放送のコマーシャルは,上記のとおり,長期に渡って行われたものであり,わずか3か月の間だけ放送されたようなものではない。原告が審判段階で提出した放送通知書(甲19ないし45)は平成8年4月から同年12月までの間に行われた「生のり」のテレビコマーシャルに関するものである。
また,審決は,テレビ放送のコマーシャルについて,「広告の対象となる商品やそれに使用された本願商標と同一の態様が記載されていない」と指摘する。しかし,例えば甲19には広告商品名及びCM素材の内容として「ナマノリブシA」「ナマノリカンメ*」という表記があるところ,例えば,「ナマノリブシA」との表記は,原告商品である「生のり」と「山海ぶし」のふたつの商品を宣伝放送したことを意味するのであり,また,甲19ないし甲45はすべてANN26局ネットワーク各局において放送された同一番組「朝だ!生です旅サラダ」に関する放送通知書であって,いずれにおいても広告主として原告が表示されていることからすれば,本願商標が広告の対象であったことは優に推認することができるというべきである。
さらに,審決は「テレビコマーシャルのリーフレット(甲12ないし甲14)と関連付けて,判断しなければならない理由も見いだせない」とするが,当該箇所において問題となっているのはテレビコマーシャルなのであるから,当該テレビ番組の存在を証明するためにそのリーフレットが意義を有するのは当然であり,これをあえて排除する根拠こそ見いだせないというべきである。
ウ 以上のとおり,「生のり」のテレビコマーシャルは長期間に渡って全国的に行われていたのであるから,本願商標は需要者の間で全国的に十分に認識されているというべきである。
(3) 新聞による広告宣伝について
審決は,「新聞の頒布地域及び販売部数も示されていないことから,新聞による広告宣伝がどの地域で,どの程度行われたのか確認することもできない」と指摘する。しかし,原告が提出している新聞広告(甲46ないし甲50)は,例えば,中日新聞,愛媛新聞,東京新聞などの地方紙の他に,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞,日本経済新聞などの大手の新聞社も含まれるなど多岐に渡っており,しかも平成4年(1992年)から平成19年(2007年)の長期に及ぶ新聞広告が提出されているばかりか,その発行部数も,例えば,日本経済新聞は301万部,朝日新聞は232万5000部,産経新聞は102万8000部,西日本新聞は83万8000部,中国新聞は69万9000部を数えるなど,極めて多数に上っている(甲52ないし甲56)から,例え具体的な販売地域,販売数の明示がなかったとしても,「生のり」が需要者の間で全国的に十分に認識されていることは明らかである。
(4) レシートについて
審決は,「通常レシートの表記は文字数の制限があるため,しばしば商品名や商標が省略されて表示されることが一般に行われている」として,提出されたレシートの「生のり」の表記をもって,原告の取扱いに係る商品と特定することはできないと指摘する。
しかしながら,レシートというものは,購入者が具体的にどの商品を購入し,それに対していくらの代金を支払ったのかが識別し得るものでなければならず,したがって,レシートには当該商品の製造元と商品名とが併記されるのが通常である(そうでなければ,事後的な返品,返金の際にレシートがその機能を果たし得なくなってしまう。)。審決が指摘するように,レシートに商品名や商標等が省略表記されるのは,当該商品等の認知度が高いため,これらを省略して表記しても,販売店及び購入者の双方において,いずれの商品が購入されたのかを具体的に特定し得るような場合である。そうであれば,甲2ないし甲8において,多数に及ぶ各販売店の各レシートが単に「ナマノリ」とのみ表示しているのは,「ナマノリ」とさえ表示すれば,購入者が具体的にどの商品を購入したのかを,当該店舗及び購入者の双方において識別し得るからということができる。そして,原告は新聞やテレビコマーシャルを通じて「生のり」を長期間に渡り全国的に宣伝し,「生のり」は原告の商品として全国的に認識されるに至っており,原告以上に「ナマノリ」の販売元として認識されているようなものは存在しない。このような事実からすれば,各レシートの販売店が,そのレシートに単に「ナマノリ」と表示したのは,原告の商品を意味するために用いたものとしか考えられない。また,本件において注目しなければならないのは,各販売店がレシートへの印字を省略するに際して選択したのが「磯じまん」ではなく「ナマノリ」だったということである。つまり,単に「磯じまん」と印字したのみでは,購入者は,原告である「磯じまん株式会社」が販売するいかなる商品を購入したのか,具体的に明らかとならない。これに対して,「ナマノリ」とさえ印字すれば,購入者は磯じまん株式会社が販売する「生のり」を購入したことが具体的に明らかとなるのである。だからこそ,各販売店は「ナマノリ」という表記を選択しているのである。
以上のとおり,販売店において「生のり」といえば原告商品を意味するものとして認識され,「生のり」は他商品との識別力を有しているということができる。
第4被告の主張
次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(商標法3条1項3号及び同法4条1項16号適用の可否)に対して
本願商標「生のり」は,普通に用いられる方法の域を脱しない態様で表示してなるものであり,また,「生ののり」の意味合いを容易に認識させるものである。
また,乙5ないし乙34によれば,「生のり(生海苔)」の語は,審決前の新聞,パンフレット及びインターネット情報等において,商品「のりの佃煮」について,当該商品が「生ののりを原材料とする商品」であること,すなわち,商品の原材料,品質を表示するものとして広く一般に使用されているというべきである。
そうとすれば,本願商標「生のり」の文字を,その指定商品中「生ののりを原材料とするのりの佃煮」に使用するときは,これに接する取引者,需要者は,当該文字を「生ののりを使用したもの」,すなわち,商品の原材料若しくは品質を表示したものと認識し理解するに止まり,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないというべきであり,かつ,前記商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。
以上のとおり,「生のり」の語は,商品「のりの佃煮」との関係において,その商品の原材料若しくは品質を普通に用いられる方法で表示するに止まるものであって,それ以上に,特定の者によって製造販売されたことを明らかにする出所表示機能を果たし得ないものである。
また,本願商標「生のり」の文字は,商標法3条1項3号の趣旨にかんがみれば,その使用の機会をその指定商品「のりの佃煮」を製造販売する多くの事業者に開放しておくことが適当であって,これを特定人に当該商標の商標登録を許し,独占使用させることは公益上適当でないというべきである。
したがって,本願商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するものとした審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(商標法3条2項適用の可否)に対して
(1) 商標法3条2項は,本来自他商品の識別標識としての機能を有しない商標に登録を認めるものであるから,その商標が使用された結果,実際に何人かの業務に係る商品であることを認識できる,いわば自他商品識別力を獲得したものでなければならない。
そして,商標法3条2項を具備する要件として,出願商標と使用商標とが原則同一でなければならないところ,同法3条2項の適用に際しては,出願商標が使用の結果,自他商品の識別標識としての機能を果たし得るに至ったことが求められるのであるから,出願商標と使用商標が同一か,出願商標が単独で使用されているのか,他の標章と共に使用されているのか,さらに,共に使用されている標章がどのようなものであるのかをも考慮すべきである。
これを,本願についてみると,原告が提出した証拠からは,本願商標「生のり」の文字は,その指定商品「のりの佃煮」において,瓶(容器)のふたの中央及び瓶の側面のラベルに表示されているが,常に「磯じまん」の文字と共に使用されており,また,新聞による広告においても,常に「磯じまん」の文字と共に使用されているものである。
ところで,「生のり」の文字と共に使用されている「磯じまん」の文字は,原告の著名な略称と認められるものである。そうとすれば,本願商標「生のり」の文字自体が使用されていることは認め得るものの,常に原告の著名な略称である「磯じまん」の文字と共に使用されていることから,本願商標「生のり」の文字は,強い識別力のある「磯じまん」の文字と共に結びついて使用されているといわなければならない。また,原告の提出に係る各資料からは,本願商標「生のり」の文字が単独で使用されている事実は見い出せない。
(2) 原告が,本願商標「生のり」の文字をその指定商品「のりの佃煮」に付して,昭和58年ころから販売し,その後,カタログ,新聞,テレビのコマーシャル等により広告宣伝や販売促進等を行っている事実は認められる。
しかしながら,本願商標「生のり」の文字は,商品「のりの佃煮」の瓶の蓋や側面のラベルや広告等において,常に原告の著名な略称である「磯じまん」の文字と共に使用されている。また,「生のり」の語が,「生ののり」の意味合いを容易に認識させることは前述のとおりであり,さらに,「生のり(生海苔)」の語が,審決前の新聞,パンフレット,インターネット情報等(乙5ないし乙34)によれば,商品「のりの佃煮」について,当該商品が「生ののりを原材料とする商品」であること,すなわち,商品の原材料,品質を表示するものとして広く一般に使用されていることが認められる。
そうとすれば,「磯じまん」及び「生のり」の表示に接する取引者,需要者は,原告の著名な略称である「磯じまん」の文字部分に着目し,「磯じまんの生のりの佃煮」と認識するとみるのが自然である。
したがって,これらの実情を考慮すると,本願商標「生のり」は,これをその指定商品について使用するときは,これに接する取引者,需要者は,当該文字を「生ののりを使用したもの」との商品の原材料,品質を表示したものと認識するにすぎないものと判断するのが相当であり,本願商標「生のり」の文字自体が,使用の結果,単独で原告の業務に係る商品であることを認識することができるに至っていると認めることはできない。
(3) よって,本願商標は,商標法3条2項に規定する要件を具備しているとは認められない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号及び同法4条1項16号適用の可否)について
(1) 商標法3条1項3号該当性について
ア 本願商標は,別紙のとおりの構成であり,「生のり」という文字を,毛筆体で普通に用いられる方法の域を脱したとはいえない態様で横書きしてなるものであるところ,広辞苑第6版(乙1)によれば,「生」の文字は,「動植物を採取したままで,煮たり,焼いたり,乾かしたりしないもの。また,その状態。」等を意味し,また,「のり(海苔)」の文字は,「紅藻または緑藻などのうち,水中の岩石に着生する藻類の総称。特にアサクサノリ。」等を意味する日常生活において使用頻度の高い一般的な語と認められるから,「生のり」という語は,このように,日常生活においてごく一般的に使用される「生」と「のり(海苔)」という各文字とを単に接続して合成した語にすぎず,「生のり」という文字からは,「乾燥加工等していない生の海苔」という観念を生じるものである。
実際,証拠(乙5ないし34)によれば,別紙「『生のり』の語の使用状況」記載のとおり,少なくとも,平成12年(2000年)以降,「生のり」が「乾燥加工等していない生の海苔」を意味するものとして,「のりの佃煮」等の原材料若しくは「生の海苔を使用した」という意味でその品質を示す語として,新聞,パンフレット,インターネット上のウェブサイト等において,一般に使用されていることが認められる。
したがって,「生のり」という文字は,「乾燥加工等していない生の海苔」を示すものであって,「のりの佃煮」との関係においては,「生の海苔を使用したもの」としてその「原材料」若しくは「品質」を記述するものであることが明らかであるから,これを,本願商標の指定商品である「のりの佃煮」に使用するときは,これに接する取引者,需要者は,一般的に,海苔の佃煮の「原材料」若しくはその「品質」を普通に用いられる方法の範囲で表示されていると理解,認識するに止まるものと解され,これが自他商品の識別標識としての機能を果たしている商標とは認識しないというべきである。
以上のとおり,本願商標が商標法3条1項3号に該当することは明らかである。
イ この点について,原告は,本願商標「生のり」は,原告が創作した造語であり,辞書にも記載されていないと主張する。しかしながら,本願商標は,上記のとおり,ごく一般的に使用される「生」と「のり」を接続した合成語にすぎず,現に,昭和44年発行の「商品大辞典」(乙19)に「生のり」の語が掲載されているのをはじめてとして,昭和51年発行の「日本国語大辞典第15巻」(乙2)には「なまのり(生海苔)」の項があり,「なまのままの海苔。干したりしてない海苔」と記載されており,また,昭和61年発行の「総合食品事典(第6版)」(乙4)には,「〔のりつくだ煮〕本来は生のりを醤油で煮たものだが,一般には,<ひとえぐさ,(あおのり)>を用いたものが大部分である。」というように,各種の辞書に「生のり」という語が掲載されていることが認められるばかりか,このような言葉の用法は,「生わかめ」「生しいたけ」等の例を持ち出すまでもなく,一般人が日常生活上普通に使用している用法にすぎないから,たとえ,「生のり」という合成語を商品に使用した最初の業者が原告であったとしても,そのことをもって「生のり」という文字が原告の創作に係る造語であると認めることはできない。
(2) 商標法4条1項16号該当性について
前記のとおり,本願商標は,ごく一般的に使用されている「生」と「のり」を単に接続した文字であって,「乾燥加工等していない生の海苔」という観念を生じる一般的な合成語であり,これを生の海苔を加工した商品に使用するときは,その「原材料」若しくは「品質」を記述するものであって,これが,そのような商品以外の商品に使用されるときは,商品の品質について誤認を生じるおそれがあることは明らかである。
したがって,本願商標は,商標法4条1項16号に該当する。
2 取消事由2(商標法3条2項適用の可否)について
(1) 商標登録出願された商標が,商標法3条2項の要件を具備し,登録が認められるか否かは,使用に係る商標及び商品,使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品の販売数量等並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願商標が使用された結果,判断時である審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否かによって決すべきものであり,商標法3条2項の要件を具備するためには,使用商標は,出願に係る商標と同一であることを要するものというべきである。
(2) そこで,これを本件について検討すると,証拠(甲1ないし8,10ないし50)によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は,昭和58年ころから,容量125グラム,小売価格300円(ただし,昭和58年当時)の海苔の佃煮を瓶詰めした商品(以下「本件商品」という。)の販売を開始し,同商品の蓋及び瓶の側面のラベルに,本願商標と同様の文字を含む商標を使用し,以後,審決時である平成21年10月28日まで継続して,日本全国で販売している(甲16)。
イ 原告が本件商品に使用する商標のうち,瓶の蓋の使用商標は,白地に赤の円の中央に大きく「生のり」という緑色の毛筆体様文字を配し,その右上に小さく赤色で「磯じまん」というやや小さい文字を配してなるものであり,また,瓶の側面に貼付されたラベルの使用商標は,緑色の空間に白色若しくは銀色の白波及び波しぶき様の模様が記載された背景の中央に大きく「生のり」という黒色の毛筆体様文字を配し,その右上に小さく「佃煮」という文字を黒色の線で長方形上に囲まれた中に配し,さらにその上にやや大きく「磯じまん」という黒色の文字を配してなるものである。原告は,上記商品の瓶の側面のラベルに貼付したのと同様の原告商標を出願し登録されている(甲1)。そして,本願商標は,上記原告商標のうち中央の大きく記載された「生のり」とほぼ同一の態様のものである。
ウ 原告の地域別主力商品売上表(甲17)によれば,平成3年(1991年)から平成19年(2007)年までの本件商品の売上げ函数は,平成3年(1991年)は1万7188函,ピーク時の平成7年(1995年)で2万4730函,2007年では1万4723函であり,年間平均で1万7911函であった。なお,1函には,本件商品が48個入っている。したがって,ピーク時である平成7年(1995年)の総売上個数は118万7040個(2万4730函×48個),平均で年間85万9728個(1万7911函×48個)であった。
エ 昭和58年7月4日付け「フード・ウィークリー」と称する新聞様の紙面の左上隅に紙面全体の15分の1程の大きさで,「人気呼ぶ『生のり』 磯じまん6月から発売」との小見出しのもとに本件商品の写真が付いた商品の紹介記事が掲載された(甲15)。
オ 平成7年5月から平成8年12月,及び平成9年4月から平成10年2月にかけて,朝日放送,テレビ朝日ほか25放送局等を通じて,テレビ番組「朝だ!生です/旅サラダ」というテレビ番組等において,本件商品を含む原告の商品のテレビコマーシャルが全国で放送された(甲18ないし45,甲64の1ないし20)。
カ 本件商品の写真が紙面に大きく掲載されたリーフレット(甲10,11)及びタレントを使用した本件商品のテレビコマーシャルのコマの一部を抜き出し掲載したと思われるリーフレット(甲12ないし14)が,頒布された。ただし,その時期,場所及び枚数は不明である。
キ 少なくとも,平成4年3月から平成19年12月までの間,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞,日本経済新聞の全国紙,及び中日新聞,愛媛新聞,東京新聞などの地方紙において,本件商品の広告記事が掲載されている。その形態は様々であるが,そのほとんどが,新聞の番組欄の中に番組表の一放送局分若しくは2放送局分の大きさの枠を利用してその枠の中に「磯じまん 佃煮 生のり」と小さく記載されているもの,社会面の記事の中に,その段落の枠を利用して,その中に「磯じまん 佃煮 生のり」の文字を小さく縦書きしているもの,及び原告の他の複数の商品と並列して本件商品の写真を掲載しているものであって,表記の仕方として,本件商品のすぐ下に「生のり」との記載が見受けられる広告もあるものの,そのほとんどが,常に「磯じまん」もしくは「磯じまん佃煮」の文字と共に掲載されており,「生のり」のみの広告記事は見当たらない(甲46ないし52)。
(3) 以上の事実によれば,原告が,本願商標「生のり」の文字を含む商標をその指定商品「のりの佃煮」に相当する本件商品に付して,昭和58年ころから販売を開始し,その後,リーフレット,新聞,テレビのコマーシャル等により広告宣伝や販売促進等を行っている事実が認められる。
しかしながら,上記のとおり,「生のり」という語が,ごく一般的に使用されている「生」と「のり(海苔)」という文字を単純に接続した合成語であること,各種辞書にも一般的な日本語として掲載されていること,前記1(1) アで認定したとおり,少なくとも,平成12年(2000年)以降,「生のり」という語が,需要者及び業界の間で「乾燥加工等していない生の海苔」を意味するものとして,「のりの佃煮」の原材料若しくは品質を示す語として,広く一般に使用されていること,本願商標が「生のり」という毛筆体様の文字であるのに対し,本件商品の宣伝広告に使用された商標はそのほとんどが「磯じまん 佃煮 生のり」であることを考慮すると,たとえ,原告が「生のり」という語を商品に使用した最初の業者であり,昭和58年ころから審決時に至るまでの30年近くに渡って「生のり」という文字を含んだ商標を使用した商品を販売し続け,その間,上記のように,リーフレット,新聞,テレビのコマーシャル等により広告宣伝や販売促進等を行っている事実があったとしても,上記認定の原告の商標の使用態様及び商品の形態,使用開始時期及び使用期間,使用地域,当該商品の販売数量並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮すると,審決時において,「生のり」という表示によって,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識できるものとはいえない。
(4) この点に関し,原告は,前記第3の2の理由により,本願商標は,商標法3条2項の要件を具備する旨主張するので,以下,個別に検討する。
ア 本件商品の販売形態及びその販売数について
(ア) 原告は,本件商品を単に販売していたのではなく,「生のり」を他の商品よりも高額な商品として差別化し,かつ独占的に販売してきた結果,「生のり」といえば原告が販売する高級ブランドであるとの認識が消費者の間に生まれ,本願商標は他の商品とは明確に区別され,識別されるに至ったものであると主張する。
しかしながら,そもそも,証拠(甲61,62)に記載されているような本件商品における原料海苔の種類や使用量の多さ及びガラス瓶へのこだわりがどれほど他の商品との差別化に寄与していたかは明らかではなく(甲61においても上記こだわりは「秘話」として紹介され,一般需要者に対してことさらその点を強調して長年宣伝されてきたかどうかは不明である。),前記認定のとおり,「生のり」という語は,ごく一般的に使用されている「生」と「のり」を単に接続して結合した語にすぎないこと,原告の本件商品における「生のり」という文字の使用態様は前記認定のとおりであって,「生のり」のみが独立して使用されているものではなく,常に「磯じまん」若しくは「佃煮」が併記されており,テレビコマーシャル,新聞の広告宣伝等においても同様であること,遅くとも平成10年(2000年)ころには,既に,「生のり」という語が,「乾燥加工等されていない生の海苔」を示す用語として,広く需要者及び業界関係者の間で使用されていたこと,以上の事実を考慮すれば,原告がのりの佃煮の商品において,「生のり」という語を昭和58年から審決時まで独占的に使用し,「生のり」といえば原告が販売する高級ブランドのことを指すという社会的事実が存在すると認めることはできない。
(イ) また,原告は,「生のり」の販売数は相当なものとさえいえるのであって,需要者の間で全国的に認識され得るのに十分な販売数量というべきであると主張するが,本件商品のような容量125グラム,小売価格300円の瓶詰め商品において,ピーク時で118万7040個,平均で年間85万9728個程度の販売数量が,「生のり」が需要者において原告の業務に係る商品を示すと認識され得るに十分な販売数量といえるかどうかは,証拠からは必ずしも明らかではない。
イ テレビ放送のコマーシャルについて
確かに,前記認定のとおり,平成7年5月から平成8年12月,及び平成9年4月から平成10年2月にかけて,朝日放送,テレビ朝日ほか25放送局等を通じて,テレビ番組「朝だ!生です/旅サラダ」というテレビ番組等において,本件商品を含む原告の商品のテレビコマーシャルが全国で放送されたことが認められる。
ただし,前記掲記の証拠によっても,平成8年4月以降のコマーシャルの内容は必ずしも明らかではなく,証拠(甲13,14)によれば,上記テレビコマーシャルにおいて,甲13及び甲14の左欄に記載されているような態様で,本件商品のテレビコマーシャルが放送されたことが推認されるが,一方において,原告の販売している商品には,のりの佃煮である本件商品の外に,本件商品とほぼ同じ大きさの瓶詰め商品である「磯じまん 山海ぶし」「まるしいたけ 磯じまん」等の商品も存し,甲14の右欄のとおり,それらの商品のテレビコマーシャルも放送されていることが認められる。そして,テレビタイム放送通知書(甲19,64の12,64の15,64の18,64の20)には,「広告商品名およびCM素材の内容」欄に「ナマノリブシA」あるいは「ナマノリカンメ*」と記載されているものもあるが,その他のテレビタイム放送通知書(甲20ないし45,64の13,64の14,64の16,64の17,64の19)には,そのような記載すら一切存在しないことからすれば,仮に「ナマノリブシA」あるいは「ナマノリカンメ*」という記載が原告が主張するように本件商品を含むものであったとしても,上記の証拠によって,上記期間中のテレビコマーシャルが本件商品のみを取り扱ったテレビコマーシャルであったと認めることはできない。
ウ 新聞による広告宣伝について
確かに,前記認定のとおり,本件商品の新聞広告は,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞,日本経済新聞の全国紙,及び中日新聞,愛媛新聞,東京新聞などの地方紙において,広範囲に渡り行われたものであり,掲載期間も比較的長いといえるが,その広告態様については,前記認定のとおり,その大部分が,新聞の番組欄の中に番組表の一放送局分若しくは2放送局分の大きさの枠を利用してその枠の中に「磯じまん 佃煮 生のり」と小さく記載されているもの,あるいは社会面の記事の中にその段落の枠を利用して,その中に「磯じまん 佃煮 生のり」の文字を小さく縦書きしているものであって,ほとんど目立たない小さな広告にすぎず,また,写真入りの広告にしても,原告の他の複数の商品と並列して本件商品の写真を掲載しているにすぎないものであって,表記の仕方として,常に「磯じまん」もしくは「磯じまん佃煮」の文字と共に掲載されており,「生のり」のみの広告記事は見当たらないのであるから,これらの広告をもって,「生のり」の文字が原告の業務に係る商品を表すものであることを,需要者の間で全国的に認識されていた証拠と評価するのは妥当ではない。
エ レシートについて
原告は,甲2ないし甲8において,多数に及ぶ販売店のレシートが本件商品を単に「ナマノリ」とのみ表示しているのは,「ナマノリ」とさえ表示すれば,購入者が具体的にどの商品を購入したのかを,当該店舗及び購入者の双方において識別し得るからであるとし,販売店が,本件商品について,そのレシートに単に「ナマノリ」と表示したのは,本件商品を意味するために用いたものとしか考えられず,したがって,販売店において「生のり」といえば本件商品を意味するものとして認識され,「生のり」は他商品との識別力を有しているといえる旨主張する。
確かに,証拠(甲2ないし8)によれば,複数の販売店において,レシートに本件商品を表記する場合に,単に「生のり」「ナマノリ」と表記されているものが見受けられる。しかしながら,一方において,「磯じまん生のり」あるいは「イソジマンナマノリ」と表記されているレシートも相当数あることが認められ,証拠として提出された20枚のレシートのうち,「生のり」と単独で表記されているのは6枚のみであり,「ナマノリ」と表記されたものを併せても9枚にすぎず,その他はすべて,「磯じまん生のり」あるいは「イソジマンナマノリ」と表記されていることが認められる。以上によれば,「生のり」「ナマノリ」との表記は,文字数の制限等による略号である可能性も否定できず,上記証拠から,直ちに,販売店において「生のり」といえば本件商品を意味するものとして認識され,「生のり」は他商品との識別力を有しているとはいえず,むしろ,レシートの関係においては,一般的に,「磯じまん生のり」と表記しなければ,本件商品との同一性を認識できないものと取り扱われているというべきである。
したがって,この点に関する原告の主張も採用できない。
3 結論
以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却を免れない。
(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)
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