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知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10394号 判決 2010年8月19日

原告

ヤフー株式会社

同訴訟代理人弁理士

佐藤武史

八木澤史彦

被告

特許庁長官

同指定代理人

松元伸次

竹井文雄

廣瀬文雄

小林和男

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2007-11478号事件について平成21年10月27日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,名称を「情報提供システム,Webサーバ,及び情報表示媒体」とする発明につき特許出願(特願2003-398590)されたものであるが,拒絶査定がされたので,これを不服として審判請求されたものの,特許庁が,同発明は後出の公知文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,請求不成立の審決をしたことから,原告が,その審決の取消しを求める事案である。

1  特許庁における手続の経緯

株式会社アルプス社(愛知)は,平成15年11月28日,上記発明につき特許出願した。その後の平成17年1月21日,その特許を受ける権利が,株式会社アルプス社(愛知)から株式会社アルプス社(東京)に譲渡された。同社は,平成19年3月12日付けで拒絶査定を受けたので,これを不服として,同年4月19日付けで審判請求をするとともに,同年5月21日付けで手続補正書(甲7)を提出した。その後の平成20年7月2日,原告が株式会社アルプス(東京)を吸収合併した。

特許庁は,審理の結果,平成21年10月27日,本件審判請求は成り立たないとの審決をし,同年11月10日,その謄本を原告に送達した。

2  補正前の特許請求の範囲

平成18年9月29日付け手続補正書(甲5)の記載によれば,請求項9の発明は,次のとおりである(以下「本願発明」という。なお,請求項は1ないし10まで存在するが,請求項1ないし8及び10に関する部分は,以下,省略する。)。

「【請求項9】 印刷された地図の頁に形成された情報コードを読み取るための読取手段により読み取られ,通信手段により発信されたデータを通信ネットワークを介して受信し,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される所定の情報の中から前記データに基づいて特定の情報を抽出する情報管理用サーバであって,

前記データが,前記地図の頁に記載された地域の場所を特定するためのデータであるとともに,前記特定の情報が前記地域に存在する施設及び店舗を含む情報,並びに前記施設や店舗の位置情報であり,前記位置情報が,前記頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行の組合せで定義される位置情報として前記通信手段に発信されることを特徴とする情報管理用サーバ。」

3  補正後の特許請求の範囲

平成19年5月21日付け手続補正書(甲7)の記載によれば,同手続補正書の補正(以下「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲請求項7の発明は次のとおりである(以下「本件補正発明」という。下線部分が補正された部分である。なお,請求項は1ないし8まで存在するが,請求項1ないし6及び8に関する部分は,以下,省略する。)

「【請求項7】 印刷された地図の頁に形成された情報コードを読み取るための読取手段により読み取られ,通信手段により発信されたデータを通信ネットワークを介して受信し,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される所定の情報の中から前記データに基づいて特定の情報を抽出する情報管理用サーバであって,

前記データが,前記地図の頁に記載された頁を示すデータであるとともに,

前記特定の情報が,前記頁を示すデータに関連付けられた地域データを基に抽出された,前記頁内の地域に存在する施設及び店舗を含む情報,並びに前記施設や店舗の前記頁における位置情報であり,

前記印刷された地図の頁には,予め頁ごとに,前記頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行を形成し,前記列及び行の組合せにより定義される位置情報として前記通信手段に発信されることを特徴とする情報管理用サーバ。」

4  審決の理由

審決は,本件補正発明は,特開2001-125904号公報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに特開2003-57066号公報(甲2。以下「周知例1」という。),特開2002-352334号公報(甲3。以下「周知例2」という。)などに示されている周知事項及び慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして本件補正を却下した上で,本願発明についても,同様の理由により,当業者が容易に発明できたものであると判断した。

審決が認定した補正却下の内容,引用発明等の内容,一致点及び相違点並びに容易想到性の判断内容は,次のとおりである(なお,以下において引用した審決中の当事者及び公知文献等の表記は,本判決の表記に統一した。)。

(1)  補正の適否について

ア 引用発明の内容

「地図冊子のページに形成されたバーコードを読み込むためのバーコードリーダにより読み取られ,クライアントにより送信された書籍識別子及びページ識別子をネットワークを介して受信し,書籍識別子及びページ識別子に基づいてエリア情報を抽出する地図情報サービス管理装置において,

前記ページ識別子は,地図冊子のページを識別するデータであり,

前記エリア情報が,前記書籍識別子及びページ識別子に基づいて抽出された,地図冊子のページのエリアに存在するガソリンスタンドやコンビニの情報,並びにガソリンスタンドやコンビニの位置を追加した地図冊子のページの地図情報であり,当該エリア情報は前記クライアントに送信される地図情報サービス管理装置。」

イ 引用発明と本件補正発明の一致点

「印刷された地図の頁に形成された情報コードを読み取るための読取手段により読み取られ,通信手段により発信されたデータを通信ネットワークを介して受信し,前記データに基づいて提供情報を抽出する情報管理用サーバであって,

前記データが,前記地図の頁に記載された頁を示すデータであるとともに,

前記提供情報が,前記頁を示すデータに基づいて抽出された,前記頁内の地域に存在する施設及び店舗を含む情報を含み,当該提供情報は通信手段に発信される情報管理用サーバ。」

ウ 引用発明と本件補正発明の相違点

(ア) 相違点1

「提供情報について,本件補正発明は,『情報提供者から通信ネットワークを介して提供される所定の情報の中から』抽出するものであるのに対して,引用発明は,この点について明示しない点。」

(イ) 相違点2

「提供情報について,本件補正発明は,『頁を示すデータに関連づけられた地域データを基に』抽出されるものであるのに対して,引用発明は,書籍識別子及び頁を示すデータ(ページ識別子)に基づいて抽出されるものである点。」

(ウ) 相違点3

「提供情報について,本件補正発明は,『前記施設や店舗の前記頁における位置情報であり,前記印刷された地図の頁には,予め頁ごとに,前記頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行を形成し,前記列及び行の組合せにより定義される位置情報』を含むのに対して,引用発明は,施設及び店舗の位置を追加した地図情報を含むものである点。」

エ 相違点に関する容易想到性の判断

(ア) 相違点1について

「施設や店舗等の情報を利用者に提供する情報提供システムにおいて,利用者に提供する情報を,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出することは,例えば,周知例1,周知例2に示されているように周知事項と認められ,引用発明において,提供情報を『情報提供者から通信ネットワークを介して提供される所定の情報の中から』抽出するようにすることは,当業者が容易になし得ることである。」

(イ) 相違点2について

「引用発明において,利用者に提供される情報は,地図の頁に存在する施設及び店舗の情報を含んでおり,地図の頁に印刷された地図が『地域』に対応していることは当然であるから,提供情報を抽出する際に,頁を示すデータに基づいて行うか,頁を示すデータに関連づけられた地域データに基づいて行うかは設計的事項にすぎない。また,対象とする地図の種類が1つであるなどの場合には書籍の識別は不要であるから,書籍識別子を用いるかどうかも設計的事項である。

したがって,相違点2に係る構成を採用することに困難性は認められない。」

(ウ) 相違点3について

「地図の頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行を形成して印刷しておき,地図上の位置を当該列及び行の組合せにより表すことは,広く用いられている慣用手段である。

利用者に施設及び店舗の位置情報を提供するために,引用発明は,施設及び店舗の位置を追加した地図情報を送信するものであるが,利用者は印刷された地図を所持しているわけであるから,印刷された地図として,予め頁ごとに,頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行を形成して印刷したものとし,列及び行の組合せにより表された地図上の位置を送信するようにすることは,前記慣用手段を考慮すれば当業者が容易になし得ることである。

したがって,引用発明において,相違点3に係る構成を採用することに困難性は認められない。」

オ まとめ

「以上のとおり,本件補正発明は,引用発明,周知事項及び慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。」

カ むすび

「したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項の規定において準用する特許法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。」

(2)  本願発明について

ア 引用発明と本願発明との対比

「本願発明は,本件補正発明から本件補正に係る限定を省いたものである。

そうすると,本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した本件補正発明が,上記のとおり,引用発明,周知事項及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明できたものである。」

イ むすび

「以上のとおり,本願発明は,引用発明,周知事項及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」

第3原告主張の取消事由

審決は,次に述べるとおり,認定及び判断に誤りがあるから,取り消されるべきである。

1  取消事由1(引用発明の認定の誤り)

(1)  審決が認定した引用発明における「地図冊子のページの地図情報」との構成は,引用例から一義的に導ける構成でなく,引用例の記載を不当に抽象化して無理な認定を行って得たものであるから,審決の認定は,誤りである。

すなわち,引用例全体の記載の中で「地図冊子のページの地図情報」における地図情報に関する記載を探すと,「地図情報サービス」,「地図情報データベース」と記載されているのみである。ここで,「地図情報サービス」における「地図情報」とは,引用例における発明のサービスにつけられたサービス名称であり,地図情報が何を指すのかについては記載されていない。また「地図情報データベース」における「地図情報」とは,引用例の段落【0070】に「該エリアの地図と表示識別子に対応した情報とを重ねて表示する。表示識別子に対応した情報は,地図情報データベース(5104)に格納されている。」と記載されているのみであり,「表示識別子に対応した情報」であるということがいえるだけである。

また,審決が「地図冊子のページの地図情報」と称するものは,地図冊子のページに印刷されている地図なのか,それとも地図冊子のページとは別の新たな地図を用いたものなのか全く不明である。そして,その地図に対してどのように追加情報を表示し,利用者に見せ,あるいは使用してもらうのかについても全く不明である。そのため,「エリア情報」の定義も不明となり,この「エリア情報」を同義で使用している「提供情報」の定義も不明である。

(2)  引用例の記載を斟酌して「エリア情報」の定義を考察すると,まず,「書籍識別子とページ番号を用いてエリアを特定し」との記載より地図冊子のページのエリアを特定するものであり,そして,「そのエリアの追加的な情報を」との記載及び「(特定したエリアの追加的な情報を)閲覧者は,エリアの地図と共に,ガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報を見る」との記載より,エリアの地図と共に施設及び店舗を含む情報であることがわかる。以上から,「エリア情報」とは「地図冊子のページからエリアを特定し,そのエリアの施設及び店舗を含む情報を地図に重ねて見るための情報」(以下「『新たなエリア情報』の定義」という。)であることがわかる。

上記「新たなエリア情報」の定義に基づくと,引用発明は,「地図冊子のページに形成されたバーコードを読み込むためのバーコードリーダにより読み取られ,クライアントにより送信された書籍識別子及びページ識別子をネットワークを介して受信し,書籍識別子及びページ識別子に基づいてエリア情報を抽出する地図情報サービス管理装置において,前記ページ識別子は,地図冊子のページを識別するデータであり,前記エリア情報が,前記書籍識別子及びページ識別子に基づいて抽出された,地図冊子のページのエリアに存在するガソリンスタンドやコンビニの情報,並びにガソリンスタンドやコンビニの位置を追加した地図冊子のエリアに関する情報であり,当該エリア情報は地図に重ねてみるための情報であり地図と共に前記クライアントに送信される情報サービス管理装置。」であると認定されるべきである。

2  取消事由2(引用発明と本件補正発明の一致点及び相違点の認定の誤り)

(1)  一致点の認定の誤り

審決は,引用発明と本件補正発明の一致点として,「提供情報」という文言を使用している。そして,審決は,この「提供情報」の定義を,「引用発明の『エリア情報』と本件補正発明の『特定の情報』とは,利用者に提供される情報である点で共通しているので,『提供情報』と呼ぶことにする。」と認定している。すなわち,審決は,この「提供情報」を,引用発明においては,「エリア情報」を示す言葉として使用していることがわかる。しかしながら,「エリア情報」の意義は,上記のとおり,認定されるべきであるから,「提供情報」という点で引用発明と本件補正発明が一致するとの審決の認定は,不当な上位概念化により一致点を拡大するものであり,誤りである。

(2)  相違点3の認定の誤り

前記1で主張したとおり,引用発明における「地図情報」なる構成は,不当な抽象化により無理に認定された構成であり,このような構成を前提とする相違点3の認定は,誤りである。そして,前記1(2) の引用発明の認定を前提とすると,相違点3は,次のとおり認定されるべきである。

「『提供情報』について,本件補正発明は,『前記印刷された地図の頁には,予め頁ごとに,前記頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し』ており,この頁ごとの『列及び行の組合せにより定義される位置情報として前記通信手段に発信される』のに対して,引用発明の提供情報は地図に重ねて見る情報であり,地図と共に送信されるものである点。」

3  取消事由3(相違点1における容易想到性の判断の誤り)

引用発明は,書籍識別子とページ番号を用いてエリアを特定し,そのエリアの追加的な情報を表示するのであるから,書籍識別子とページ番号によって情報を抽出する技術である。このため,情報を提供する装置は,情報を書籍識別子とページ番号に対応付けて記憶していなければならない。すなわち,引用発明における情報提供者のデータベースは,極めて限定された構成を有することを必須としている。しかも,この限定された構成は,特定の書籍を前提としており,極めて汎用性・拡張性のない構成である。

ところが,周知技術においては,このような限定された構成は存在しない。このため,「情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出する」ことが周知技術であったとしても,引用発明に適用するためには,引用発明が要求する極めて汎用性・拡張性を欠く限定されたデータベース構造にする必要があるから,その適用は困難である。

審決は,引用発明における上記のような必須の構成を看過して,引用発明に,周知技術を適用することが容易であると判断しており,当該判断が誤りであることは明らかである。

4  取消事由4(相違点2における容易想到性の判断の誤り)

審決が,相違点2に係る構成を設計事項と判断したことは誤りである。

すなわち,取消事由3において述べたとおり,引用発明は,書籍識別子とページ番号を用いてエリアを特定し,そのエリアの追加的な情報を表示するのであるから,書籍識別子とページ番号によって情報を抽出する技術である。このため,情報を提供する装置は,情報を書籍識別子とページ番号に対応付けて記憶していなければならない。つまり,引用発明において抽出される情報は,書籍識別子とページ番号に対応付けて記憶された情報に限定される。

これに対して,本件補正発明の「地域データ」は書籍識別子とページ番号に限定されないから,「地域データ」に基づいて抽出される情報は,書籍識別子とページ番号に対応付けて記憶されている必要はない。

このように,引用発明において抽出される情報は極めて限定されているが,本件補正発明においてはそのような限定はないのである。

したがって,「頁を示すデータに基づいて行うか」と「頁を示すデータに関連づけられた地域データに基づいて行うか」とは,抽出できる情報の範囲が大きく異なり,作用・効果が大きく異なるから,「設計的事項にすぎない」という審決の判断は誤りである。

5  取消事由5(相違点3における容易想到性の判断の誤り)

(1)  本件補正発明における情報表示方法は,テキストの文字列で表現されるものであって,印刷された地図に対する位置のみをマトリックス座標で表示するための技術である。これにより,印刷された地図のマトリックスである情報をクライアントに表示させることによる位置情報と紙媒体地図上での情報との連携を担保し,印刷された地図をもとに施設及び店舗を含む情報を表現し,位置情報の画面と印刷された地図とを照らし合わせることにより,手元の地図の大きさとは関係なく,画面と手元の地図とを見比べることができる。そして,本件補正発明は,電子地図上の位置情報ではなく印刷された地図上の位置情報に変換することにより携帯画面のような小さい画面でも効率よく情報を提供できる特徴を持っている。

一方,引用発明は,印刷された地図情報に関する施設及び店舗を含む情報を別の地図に重ねてみるための情報表示技術である。すなわち,引用発明は,一旦,印刷された地図の情報を受け取った後は,電子媒体の地図上に表示する仕組みで構成され,ユーザは印刷された地図のほかに電子地図を端末上で閲覧することになり,印刷された地図を用いては表示できない情報を,印刷された地図とは異なる地図を用いて表示する技術であり,本件補正発明の課題,作用及び効果は全く想定していない発明である。

よって,審決は,以上のような相違を看過し,相違点3に起因する進歩性判断を誤った違法がある。

(2)ア  審決の相違点3における容易想到性の判断では,印刷された地図として情報を追加して送信するという,引用発明が奏する効果とは全く正反対の処理内容を判断している。すなわち,引用発明が紙が小さいのでそれを解決すると述べているにもかかわらず,印刷された地図として情報を追加して送信するという審決の説明は明らかに論理破綻している。また,引用発明は,地図に情報が示されているので,手元の地図と照らし合わせる必要がないのであるから,印刷された地図上の位置情報を送信するという本件補正発明の構成を想定し得ない。

イ  引用発明に審決がいう慣用手段を適用することを想定した場合,地図上に情報を表示する場合は電子地図上の座標で管理することが必要であり,その電子地図上の座標と印刷地図の各頁のマトリックス表示との対応表を持つ必要が生じるから,引用発明に上記慣用手段を適用する阻害要因となる。

また,引用発明においては,そもそも電子地図上の座標で管理さえしておけば,新たなマトリックス表示を導入する必要はないから,引用発明に上記慣用手段を適用する阻害要因となる。

さらに,引用発明のように画面に地図という画像を出して,その地図上に情報を重ねて見るという方法においては,一旦,地図を行と列に区切り,その区切り番号の組合せである座標表示に変換し,その座標表示であるテキストのみの情報になっている位置に関する情報をユーザに返すという動機は生じない。

そして,引用発明においては,位置情報を地図という現実地理上の位置関係の表現体の中に埋め込むという手法であるのに対し,上記慣用手段のマトリックス表示は,地図を線分で縦横に分割した交点情報を記号の組により表現したものであり,両者は技術構造を異にしている。このような構造上の相違が存する以上,引用発明に上記慣用手段を適用することは困難である。

ウ  以上のとおり,「引用発明において,相違点3に係る構成を採用することに困難性は認められない。」との審決の判断は,論理付けを妨げる要因を見逃した判断であり,誤りである。

第4被告の主張

次のとおり,審決の認定判断には誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対して

引用例記載の第5の実施形態において,クライアントは,ネットワークを介して地図情報サービス管理装置と接続されており,クライアントから,「地図冊子」の書籍識別子と「あるエリアの地図が示されているページ」のページ識別子とが送信されると,地図情報サービス管理装置は,エリア情報をクライアントに送信するものであることが示されている。

また,後記第5の1(2) の引用例の段落【0070】及び【0073】の記載を総合すれば,エリア情報を受信したクライアントは,「エリアの地図」に「追加的な情報」が重ねて表示されたものを見るといえる。

この「エリアの地図」は,手元の地図と同じエリアを表示するのであるから,クライアントが送信した書籍識別子とページ識別子で特定された「あるエリア」の地図である(なお,この「地図」は,表示装置に表示されるものであり,「地図冊子」の紙の地図との混同を避けるため,以下では,「電子地図」と呼ぶことにする。)。

ここで,「あるエリア」とは,地図冊子のあるページのエリアであるから,審決における「地図冊子のページの地図情報」とは,平易に表現すれば「地図冊子のあるページのエリアに対応した電子地図」のことであり,引用例から適切に認定できる事項である。

そうすると,引用例の【請求項6】の「読み込んだ識別データに関連づけて記憶している前記エリア情報を出力するエリア情報出力手段とを具備することを特徴とする情報提供装置」という記載によれば,引用例の「エリア情報」は,識別データ(すなわち,書籍識別子及びページ識別子)に関連づけて記憶されており,情報提供装置(すなわち,地図情報サービス管理装置)が出力するものであるから,「地図冊子のあるページのエリアに対応した電子地図」(すなわち,「地図冊子のページの地図情報」)に,「追加的な情報」(すなわち,「地図冊子のページのエリアに存在するガソリンスタンドやコンビニの情報,並びにガソリンスタンドやコンビニの位置」の情報)を追加した情報であるといえる。したがって,審決が,「引用例の地図情報サービス管理装置は,書籍識別子及びページ識別子に基づいてエリア情報を抽出するものであり,当該エリア情報は,地図冊子のページのエリアに存在するガソリンスタンドやコンビニの情報,並びにガソリンスタンドやコンビニの位置を追加した地図冊子のページの地図情報であるといえる。」とした引用発明の認定に誤りはない。

したがって,引用発明について認定の誤りはなく,原告の主張は失当である。

2  取消事由2(引用発明と本件補正発明の一致点及び相違点の認定の誤り)に対して

(1)  引用発明と本件補正発明の一致点の認定の誤りに対して

審決では,「引用発明の『エリア情報』と本件補正発明の『特定の情報』とは,利用者に提供される情報である点で共通しているので,『提供情報』と呼ぶことにする。」とし,引用発明と本件補正発明との一致点及び相違点1ないし3について,前記第2の4(1) イ及びウのとおりに認定し,審決では,「提供情報」を,本件補正発明の「特定の情報」と引用発明の「エリア情報」との双方を含む広い意味で用い,一致点としているのであり,本件補正発明において「提供情報」が「特定の情報」であることは,上記相違点1ないし3として認定し,判断しているのであるから,審決における「提供情報」の認定も明確なものである。

したがって,一致点の認定の誤りはなく,原告の主張は失当である。

(2)  相違点3の認定の誤りに対して

審決では,相違点3について,「引用発明は,施設及び店舗の位置を追加した地図情報を含むもの」と認定しており,この「地図情報」は,「地図冊子のページの地図情報」と同義である。したがって,取消事由1に対して述べたように,「地図情報」は,引用例から適切に認定できる事項であり,相違点3の認定に誤りはない。

また,「エリア情報」は,審決で認定したように,「地図冊子のページのエリアに存在するガソリンスタンドやコンビニの情報,並びにガソリンスタンドやコンビニの位置を追加した地図冊子のページの地図情報」であるから,エリア情報が「地図冊子のページからエリアを特定し,そのエリアの施設及び店舗を含む情報を地図に重ねて見るための情報」であるとする原告の主張は,審決における相違点3の認定を正解しないものであり,失当である。

3  取消事由3(相違点1における容易想到性の判断の誤り)に対して

原告は,引用発明の情報を提供する装置は,情報を書籍識別子とページ番号に対応付けて記憶していなければならないことを根拠に,引用発明における情報提供者のデータベースは,極めて限定された構成を必須としていると主張するが,その主張は誤りである。確かに,引用発明の情報提供者のデータベースは,情報を書籍識別子とページ番号に対応付けて記憶していると解されるが,データベース自体の構成は通常のものであり,データベースに記憶される要素の1つとして,書籍識別子及びページ識別子を含むものであるから,データベースとして何ら限定された構成を有するものではない。

また,審決は,「施設や店舗等の情報を利用者に提供する情報提供システムにおいて,利用者に提供する情報を,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出する」ことが周知事項であると認定したものであり,これは情報提供者の提供する情報と利用者に提供する情報との関連についての事項であるから,情報提供者のデータベースの構成によらずに適用することができることは当然である。まして,引用発明のデータベースは限定された構成を有するものでもないから,審決で認定した周知事項を引用発明に適用することが容易であることは明らかである。

4  取消事由4(相違点2における容易想到性の判断の誤り)に対して

本件補正発明の「地域データ」は,地図の頁に記載された「頁を示すデータ」に関連付けられたものである。すなわち,「地域データ」と「頁を示すデータ」とは一対一に対応するものであり,提供情報の抽出を,地域データに基づいて行うか,頁を示すデータに基づいて行うかによって,抽出される情報が相違するものではない。したがって,提供情報の抽出を頁を示すデータに基づいて行うか,地域データに基づいて行うかによって,抽出できる情報の範囲は異なるものではなく,格別な作用効果も認められないから,原告の主張は失当であり,審決の相違点2についての判断に誤りはない。

5  取消事由5(相違点3における容易想到性の判断の誤り)に対して

(1)  前記第3の5(1) の原告の主張に対して

原告は,本件補正発明を「情報表示方法」として,引用発明とは課題,作用及び効果が相違すると主張しているが,本件補正発明は「情報管理用サーバ」の発明であり,「情報表示方法」ではないから,原告の主張は失当である。

また,本件補正発明における情報表示方法は,「印刷された地図に対する位置のみをマトリックス座標で表示する」との原告の主張は,本件補正発明が,「印刷された地図に対する位置のみ」を「マトリックス座標で表示する」ことに特定されているものではないことから,特許請求の範囲の記載に基づく主張ではない点で失当である。

さらに,後記第5の1(1) の本願明細書の段落【0003】及び【0004】の記載によれば,本願は,リモート端末からインターネット上のサイトで提供される情報へのアクセスを簡便にすることを課題とするものであり,「情報表示方法」を課題とするものではない。したがって,本件補正発明の課題に関する原告の主張は,前提において誤りである。

そして,本件明細書の第1実施形態においてはリモート端末は携帯電話であるが,第2実施形態においてはリモート端末はパソコンである。リモート端末の表示装置は,リモート端末の種類に応じて種々のものが想定され,画面の大きさも異なることが想定されるから,原告が主張するように携帯画面のような小さい画面に限定して解釈する必要はない。そうすると,リモート端末でどのように情報を表示するかは,表示装置の種類や画面の大きさに応じて種々の態様を採り得るものであることから,原告の主張する本件補正発明の作用効果も当業者の予測の範囲のものでしかない。したがって,審決における相違点3の容易想到性の判断に誤りはない。

(2)  前記第3の5(2) の原告の主張に対して

ア 原告の主張アについて

上記原告の主張からすると,原告は,審決が引用発明が印刷された地図に対して情報を追加して送信するものであるとしていると理解しているようであるが,これは審決を正解しないものである。前記1において述べたように,引用発明は,「電子地図」に情報を追加して送信するものであり,審決の相違点3の判断においても,引用発明の認定は一貫しており,論理も整合しているから,原告の主張は失当である。

イ 原告の主張イについて

後記第5の1(2) の引用例の段落【0073】には,「(3)手元の地図と同じエリアを表示することで,閲覧者の意識のギャップを減らし,情報の理解が素早くなる。」と記載されており,引用発明において,利用者は印刷された地図を所持しているわけであるから,印刷された地図における施設及び店舗の位置を把握できるようにすることは,当然の要求であり,引用発明において,慣用手段を適用する動機が存在するといえる。

したがって,「電子地図」上の位置情報の代わりに,印刷された地図における位置情報を用いることは当業者が容易になし得ることである。

また,原告は,引用発明に慣用手段を適用することに阻害要因があり,困難があると主張しているが,上記のとおり,「電子地図」上の位置情報の代わりに,印刷された地図における位置情報を用いることは当業者が容易になし得ることであり,印刷された地図における位置情報の表し方として慣用手段が用いられるわけであるから,「電子地図」上の位置情報が阻害要因になり得ないことは明らかである。

したがって,「引用発明において,相違点3に係る構成を採用することに困難性は認められない。」とした審決の判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  本願明細書,引用例及び周知例の内容

(1)  本願明細書の内容

証拠(甲4)によれば,本願明細書には次の記載がある。

「【技術分野】

本発明は,通信ネットワークを介して提供される情報へのアクセスに関する。」(段落【0001】)

「【発明が解決しようとする課題】

刊行物等の印刷物に搭載される情報量は紙面の制限があり限られている。一方,インターネット上のサイトで提供される情報の情報量は刊行物のような制限はないが,アクセスするためには上述のリモート端末及び通信環境が必要である。従って,刊行物で得た情報の関連情報をインターネット上で得ようとすると,リモート端末で該当するサイトを検索したり,あるいは該当するサイトのURLを手入力するという作業が必要であり,利用者の負担が大きい。」(段落【0003】)

「本発明は,以上の問題を解決するものであり,通信ネットワーク上で提供される情報へのアクセスを簡便なものとすることを目的とする。」(段落【0004】)

「【課題を解決するための手段】

本発明に係る情報提供システムは,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される所定の情報にアクセスするための,情報表示媒体に形成される情報コードを読み取り,通信ネットワークを介して発信するデータ発信手段と,情報コードを受信し,情報コードに含まれるデータを解析し,所定の情報の中からデータに関連する特定の情報を抽出し,通信ネットワークを介して発信する情報抽出手段と,情報抽出手段により抽出される特定の情報を受信し表示する表示手段とを備えることを特徴とする。情報表示媒体は,例えば表示する情報が印刷されている印刷物である。」(段落【0005】)

「例えば印刷物が地図であり,情報コードに含まれるデータが,地図において情報コードの形成された頁に記載された地域の場所を示すデータであり,特定の情報が地域に存在する施設及び店舗を含む情報である。」(段落【0006】)

「また,情報コードに含まれるデータは,地図において情報コードの形成された頁を示すデータでもよい。この場合,情報抽出手段は,頁データと情報コードの形成された頁に記載された地域の場所を示すデータとを関連付けて記憶する記憶手段を有するよう構成される。」(段落【0007】)

「好ましくは,特定の情報と共に情報コードの形成された頁内における施設や店舗等の位置情報が表示手段により表示されてもよい。」(段落【0008】)

「特定の情報と共に表示される位置情報は,例えば,頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行の組合せで定義される。」(段落【0009】)

「本発明に係るWebサーバは,情報表示媒体に形成された情報コードを読み取るための読取手段から読み取られたデータを通信ネットワークを介して受信し,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される所定の情報の中から読取データに基づいて特定の情報を抽出することを特徴とする。情報表示媒体は,例えば表示する情報が印刷されている印刷物である。」(段落【0012】)

「【発明の効果】

以上のように,本発明によれば,情報表示媒体に記載された情報と通信ネットワークを介して提供される情報が,情報表示媒体に形成される情報コードを介して容易にリンクされる。従って,情報表示媒体に搭載しきれないより多くの情報を容易に手に入れることができ,情報表示媒体の利用価値が向上する。」(段落【0014】)

「【発明を実施するための最良の形態】

図1は本発明に係る第1実施形態が適用される情報提供システムのシステム構成図である。地図10の各頁には2次元コードであるコードCDが印刷されている。…コードCDには,当該頁に記載されている地域の位置情報を示すデータが含まれる。携帯電話20はコードCDの読取機能を備えており,通信業者のゲートウェイ21を介してインターネットに接続される。情報提供会社30及び40は,それぞれインターネットに接続されたWebサーバ31,41,及びデータベース32,42を有する。情報提供会社30はデータベース32に蓄積された情報に基づいて飲食店の店舗情報の提供を行い,情報提供会社40はデータベース42に蓄積された情報に基づいて宿泊施設の提供を行う。情報管理会社50は,携帯電話20の利用者からの要求に基づいて,情報提供会社30,40が提供する情報から特定の情報を適宜抽出し,携帯電話20の利用者へ提示する。これらの処理は,情報管理会社のWebサーバ51を介して行われる。」(段落【0015】)

「図2は第1実施形態における情報提供サービスの流れを示すフローチャートである。携帯電話20の利用者が地図10のある頁に印刷されたコードCDを携帯電話20のQRコード読取機能を利用して読み取ったことが確認されると(ステップS100でYES),コードCDが携帯電話20からゲートウェイ21,インターネットを介して情報管理会社50のWebサーバ51へ送信される(ステップS102)。第1実施形態の説明において,渋谷区のあるエリアが記載されている頁のコードCDが読み取られたものとして以降の説明を行う。」(段落【0016】)

「Webサーバ51では,コードCDを受信すると(ステップS104),コードCDに含まれるデータを解析する(ステップS106)。第1実施形態においてコードCDに含まれるデータとは,コードCDが印刷されている頁に記載されている地域を示すデータ(地域データ)である。すなわち,上述の渋谷区のあるエリアを示す地域データが解析される。次いでステップS108において,情報管理会社50が提供するサービスの項目と地域データを携帯電話20へ送信する。サービスの項目は,情報提供会社30及び40が提供する情報に対応している。すなわち,第1実施形態においては,飲食店情報の提供と宿泊施設情報の提供がサービス項目となる。」(段落【0017】)

「携帯電話20が提供するサービスの項目と地域データを受信すると(ステップS110),これら受信データは図3に示されるようなレイアウトで画面に表示される(ステップS112)。携帯電話20では,利用者によりサービス項目が選択されたかチェックされ(ステップS114),サービス項目が選択されたことが確認されたら(S114でYES),選択されたサービス項目がWebサーバ51へ送信される(ステップS116)。以降の説明は,図3の画面において「グルメ情報検索」が選択されたものとして行う。」(段落【0018】)

「Webサーバ51では,利用者が「グルメ情報検索」を選択したことを受信すると(ステップS118),情報提供会社30が提供する飲食店情報の中から,上述のステップS106で解析した地域データに基づいて,特定の飲食店の情報を抽出する(ステップS120)。すなわち,コードCDが印刷されている頁に記載されている地域,渋谷区のあるエリアに存在する飲食店の情報のみを抽出する。次いで,抽出した情報を携帯電話20へ送信する(ステップS122)。」(段落【0019】)

「携帯電話20が抽出された飲食店情報を受信すると(ステップS124),これら受信データは図4に示すレイアウトで画面に表示される(ステップS126)。図4に示されるように,飲食店の店名と共に,地図10の頁における当該飲食店の位置情報(「A3」「B2」等)も表示される。地図10の各頁には,縦方向に沿って所定の行数で分割し,各行にアルファベットを順次割当て,横方向に沿って所定の列数で分割し,各列に数字を順次割当てて構成されるマトリックスが形成されている。飲食店の位置は,このマトリックスにおける列及び行の組合せで定義される。」(段落【0020】)

「利用者が飲食店のリストからいずれか1つの飲食店を選択すると,情報提供会社30のWebサーバ31へ当該データが送信される。選択された飲食店の詳細情報が取得され,携帯電話20へ返信される。」(段落【0021】)

「以上のように,第1及び第2実施形態によれば,地図10という書店等で購入できる刊行物に記載された情報と,インターネットを介して提供される情報とを容易にリンクして利用することができる。その結果,刊行物には搭載し切れない大量の情報を簡便な操作で刊行物の購入者に提供することができる。」(段落【0024】)

「また,刊行物自体に情報コードという付加価値を付けることになるため,刊行物の利用価値が高まり売上げ向上に貢献することができる。」(段落【0025】)

「情報提供会社30,40のデータベース32,42は情報提供会社30,40自身により常に更新されるため,地図10のコードCDを介して提供される情報は最新のものとなる。すなわち,発行日から年数が経過しても地図10の利用価値が低下することはない。」(段落【0026】)

「また,飲食店の店名や施設名と共に,地図10の頁における当該店舗・施設の位置情報(「A3」「B2」等)を表示することにより,利用者は地図10でその位置を即座に発見することができる。従って,携帯電話20の限られた画面に微小な地図を表示させる必要がない。」(段落【0027】)

【図1】

file_2.jpgoy【図2】

file_3.jpgama +> FOS RIB |-sio4 ORS Faz |-~sto6 FEAR 8108 sein — ae BRO ER mes [Ste [vom st2a fia F—3 Se 4 | __ 5 Sm] s12e sit6【図4】

file_4.jpg(2)  引用例の内容

証拠(甲1)によれば,引用例には次の記載がある。

「【発明の属する技術分野】 本発明は,情報提供装置に関し,さらに詳しくは,書籍の利用者に対して,該書籍に関連する情報を速やかに提供しうる情報提供装置に関する。」(段落【0001】)

「【従来の技術】 書籍に関連する情報を提供する方法としては,例えば特開平7-230467号公報に記載された参考文献アクセス処理方式がある。これは,計算機のディスプレイ上に頁めくり等の本の機能を擬似し,本のイメージで書籍を表示するシステムにおいて,複数冊分の書籍データを一元管理し,表示中の書籍に参考文献があるときには,それを簡単な操作で閲覧できるようにしたものである。」(段落【0002】)

「【発明が解決しようとする課題】 上記の参考文献アクセス処理方式では,電子化された書籍に明記されている参考文献しか閲覧できないため,次のような問題点があった。

(1)  電子化されていない書籍に関連する情報を提供できない。

(2)  新たに参考文献を追加したい場合,書籍を改訂して参考文献を明記し,それを電子化しなければ閲覧できず,速やかな対応が困難である。

(3)  書籍に関連して閲覧したい情報としては,参考文献以外にも,静止画,動画,音声,ソフトウェアなどがあるが,このような情報を提供できない。」(段落【0003】)

「そこで,本発明の目的は,電子化されていない書籍でも関連する情報を提供可能とし,また,書籍の改訂や電子化をしなくても閲覧可能な参考文献を追加でき,さらに,静止画,動画,音声,ソフトウェアなども提供できるようにした情報提供装置を提供することにある。」(段落【0004】)

「【課題を解決するための手段】 第1の観点では,本発明は,書籍および書籍のページの少なくとも一方を識別する識別データに関連づけて提供情報を記憶する提供情報記憶手段と,書籍および書籍のページの少なくとも一方を識別する識別データを読み込む識別データ読込手段と,読み込んだ識別データに関連づけて記憶している前記提供情報を出力する提供情報出力手段とを具備することを特徴とする情報提供装置を提供する。上記第1の観点の情報提供装置では,書籍およびページの少なくとも一方の識別データを読み込むと,その識別データに関連づけて記憶していた提供情報を出力する。すなわち,識別データだけを入力すればよいため,書籍を電子化しなくてもよい。また,識別データに関連づけて記憶する提供情報を更新すれば情報を最新化でき(参考文献の追加も可能),書籍を改訂し電子化する必要がない。さらに,静止画,動画,音声,ソフトウェアなども提供可能となる。」(段落【0005】)

「第6の観点では,本発明は,地図冊子および地図冊子のページの少なくとも一方を識別する識別データに関連づけて該地図冊子に載っているエリアに関するエリア情報を記憶するエリア情報記憶手段と,地図冊子および地図冊子のページの少なくとも一方を識別する識別データを読み込む識別データ読込手段と,読み込んだ識別データに関連づけて記憶している前記エリア情報を出力するエリア情報出力手段とを具備することを特徴とする情報提供装置を提供する。上記第6の観点の情報提供装置では,地図冊子およびページの少なくとも一方の識別データを読み込むと,その識別データに関連づけて記憶していたエリア情報を出力する。すなわち,識別データだけを入力すればよいため,地図冊子を電子化しなくてもよい。また,識別データに関連づけて記憶するエリア情報を更新すれば情報を最新化でき,地図冊子を改訂し電子化する必要がない。さらに,静止画,動画,音声,ソフトウェアなども提供可能となる。」(段落【0010】)

「-第1実施形態-

第1実施形態では,計算機システムと計算機マニュアルとを想定して,マニュアルの改訂情報を利用者に通知するサービスと,マニュアルのページに関連付けられたソフトウェアを利用者に送信するサービスと,マニュアルのページに関連付けられた情報を利用者に提供するサービスとを行う情報提供装置を説明する。なお,マニュアルの改訂情報を利用者に提示するサービスおよびマニュアルのページに関連付けられた情報を提供するサービスについては,如何なるマニュアルでも一般書籍でもよい。また,マニュアルのページに関連付けられたソフトウェアを利用者に送信するサービスについては,ソフトウェアをインストールして用いる如何なる機械のマニュアルでもよい。」(段落【0013】)

「図1は,第1実施形態に係る情報提供装置の構成図である。この情報提供装置(1)は,CPU(13)および主記憶手段(14)からなる計算機(12)と,ディスプレイ(11)と,キーボード,マウス,バーコードリーダなどのデータ入力手段(15)と,外部記憶(17)とを有する計算機システム上に構成されている。‥‥」(段落【0014】)

「ステップ1002では,計算機マニュアルを特定できる書籍識別データを読み込む。例えば,計算機マニュアルにバーコードで印刷されている書籍識別データをバーコードリーダで読み込む。‥‥」(段落【0017】)

「-第3の実施形態-

第3の実施形態では,書籍識別子とページ番号とからサービスを特定して呼び出す情報提供装置を説明する。」(段落【0048】)

「図20は,第3の実施形態に係る情報提供装置の構成図である。この情報提供装置(20)は,クライアント(3101)と,ネットワーク(3102)と,書籍サービス管理装置(3103)と,書籍サービスデータベース(3104)とを具備してなる。」(段落【0049】)

「図21は,前記情報提供装置(20)によるサービス特定処理の動作を示すフロー図である。ステップ3201では,クライアント(2101)は,データ入力装置を用いて,書籍の書籍識別子を読み込む。ステップ3202では,クライアント(2101)は,データ入力装置を用いて,書籍のページ識別子を読み込む。」(段落【0050】)

「ステップ3203では,クライアント(2101)は,読み込んだ書籍識別子とページ識別子を,ネットワーク(3102)を介して,書籍サービス管理装置(3103)に送信する。書籍サービス管理装置(3103)は,書籍識別子とページ識別子とから,サービス識別子テーブルを用いて,該当するサービス識別子を検索する。図22に,サービス識別子テーブルを例示する。このサービス識別子テーブル(22)は,書籍識別子(3301)と,ページ識別子(3302)と,サービス識別子(3303)とからなる。このサービス識別子テーブル(22)は,書籍サービスデータベース(3104)に格納されている。」(段落【0051】)

「ステップ3207では,各サービス識別子に対応する複数のサービスのいずれかを選択するサービス選択メニューをディスプレイに表示する。ステップ3208では,データ入力装置を用いて利用者が選択したメニュー番号に対応するサービス識別子を読み込む。そして,ステップ3210へ進む。」(段落【0055】)

「ステップ3210では,読み込んだサービス識別子に対応するサービスを呼び出す。そして,処理を終了する。」(段落【0057】)

「上記第3の実施形態の情報提供装置(20)によれば,書籍識別子とページ番号とからサービスを特定して呼び出すことが出来る。」(段落【0058】)

「-第5の実施形態-

第5の実施形態では,前記第3の実施形態の情報提供装置(20)において,書籍識別子が『地図冊子』であり,ページ識別子が『あるエリアの地図が示されているページ』であるときに,特定されて呼び出される『地図情報サービス』を説明する。」(段落【0067】)

「『地図冊子』の書籍識別子と『あるエリアの地図が示されているページ』のページ識別子とから『地図情報サービス』が呼び出されたとき,図27に示すように,クライアント(3101)は,ネットワーク(3102)を介して,地図情報サービス管理装置(5103)に接続される。前記地図情報サービス管理装置(5103)は,地図情報データベース(5104)を有している。なお,図20の書籍サービス管理装置(3103)および書籍サービスデータベース(3104)が,前記地図情報サービス管理装置(5103)および地図情報データベース(5104)として働く構成であってもよい。」(段落【0068】)

「図28は,前記地図情報サービス管理装置(5103)で実施する地図情報サービス処理の動作を示すフロー図である。ステップ5201では,図21のサービス特定処理で得た書籍識別子とページ識別子からエリア範囲情報テーブルよりエリア範囲とサービスフラグを検索する。図29に,前記エリア範囲情報テーブルを例示する。このエリア範囲情報テーブル(29)は,書籍識別子(5301)と,ページ識別子(5302)と,エリア範囲情報(5303)と,サービスフラグ(5304)とからなる。」(段落【0069】)

「ステップ5202では,サービスフラグ(5304)のビット情報から提供可能なサービスを特定し,一覧メニューを表示する。ステップ5203では,利用者が選択したメニュー番号に対応する表示情報識別子を読み込む。ステップ5204では,該エリアの地図と表示識別子に対応した情報とを重ねて表示する。表示識別子に対応した情報は,地図情報データベース(5104)に格納されている。‥‥」(段落【0070】)

「ステップ5207では,ページ移動後のページ識別子を読み込む。ステップ5208では,読み込んだページ識別子に対応するエリア範囲を得る。そして,前記ステップ5204に戻る。」(段落【0071】)

「ステップ5209では,メニュー識別子が「表示情報切替」なら前記ステップ5202に戻り,そうでないなら処理を終了する。」(段落【0072】)

「以上の第5の実施形態によれば,次の効果が得られる。

(1) 小さい地図冊子の場合,紙面の都合で,ガソリンスタンドやコンビニの位置などが省略されてしまう。ここでは,書籍識別子とページ番号を用いてエリアを特定し,そのエリアの追加的な情報を表示するので,閲覧者は,エリアの地図と共に,ガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報を見ることが出来る。なお,追加的な情報には,施設の情報や観光情報や道路のプロファイル情報などを含めてもよい。

(2) 当該エリアの道路混雑情報,駐車場の満車率,道路工事情報,災害情報,公害情報などのリアルタイム情報も表示することが出来る。

(3) 手元の地図と同じエリアを表示することで,閲覧者の意識のギャップを減らし,情報の理解が素早くなる。」(段落【0073】)

【図27】

file_5.jpgS100 5104 RyhIR-2 3102 Sled | G-Ex veneeds ou samt FHBR-A【図28】

file_6.jpg‘MURA TE NTMI DS BREATHS TY FOMRERR BEY 7 OME RMIT HOULAMMEMO TRE(3) 周知事項の内容

ア 周知例1について

証拠(甲2)によれば,周知例1には次の記載がある。

「【発明の属する技術分野】 本発明は,外出先から,所定の商品やサービスを提供している店を検索するシステムに関し,特に,ユーザの現在位置付近の店を検索してこの店の位置をユーザの位置とともに地図上に表示するシステムに関する。」(段落【0001】)

「‥‥,図1に示されるように,本発明の実施の形態に係る外出先での店検索システムは,ユーザ端末1と,管理センター2と,店舗用端末3とから構成される。」(段落【0022】)

「(ユーザ端末)ユーザ端末1は,インターネット等のネットワークを介して管理センター2と接続する機能を有する。同様に,店舗用端末3もインターネット等のネットワークを介して管理センター2と接続する機能を有する。」(段落【0023】)

「(管理センター)管理センター2は,図示しないデータベースサーバによって実現される,あるいはデータベースサーバを備える。そして,管理センター2は,検索情報データベースと条件情報データベースとを有する。」(段落【0032】)

「検索情報データベースは,店の情報を格納する。店の情報は,後述するように店舗用端末3によって登録されまたは変更されるものである。また,この店の情報には,例えば図2に示されるように,店の名称,店舗の位置情報,検索条件,店の詳細情報,地域コード等が含まれる。」(段落【0033】)

「管理センター2は,ユーザ端末1からのアクセスに応答して,入力画面を送信し,ユーザに対してジャンルの選択(商店検索,飲食店検索等)および検索条件の入力を促す検索条件入力促進手段を有する。」(段落【0043】)

「また,ユーザ端末1から送信された位置情報に基づいて,ユーザ端末1の現在位置を確認する位置確認手段を有する。」(段落【0044】)

「そして,位置確認手段によって特定されたユーザ端末1の位置に基づいて,ユーザが位置する地域を特定し,この地域を検索範囲の地域的条件として検索情報データベースを検索し,特定された地域に存在し,かつユーザ端末1から受信した検索条件に該当する店を検索し抽出する店検索手段を有する。また,店検索手段は,抽出した店の一覧を作成し,この一覧をユーザ端末1へ送信する機能を有する。また,一覧内の各店表示欄に検索情報データベースに登録された各店の詳細情報へのリンクを含ませるようにすることもできる。これにより,ユーザが一覧内の所望の店を選択することで,さらなる詳細情報をユーザ端末1へ表示させることができる。」(段落【0045】)

「(店舗用端末)店舗用端末3は,パーソナルコンピュータ,ワークステーション等の情報処理装置によって実現可能である。」(段落【0054】)

「店舗用端末3は,管理センター2にアクセスして,店の新規登録を行う機能,登録内容の更新を行う機能,検索データの参照を行う機能を有する。」(段落【0055】)

イ 周知例2について

証拠(甲3)によれば,周知例2には次の記載がある。

「【発明の属する技術分野】 本発明は,移動端末から商品情報や,在庫情報等とともに,位置情報の提供を受ける,位置情報を利用した販売時点情報管理(POS)データサービスシステムに関するものである。」(段落【0001】)

「スーパーマーケット10,カメラ店20,書店30などの各店舗は,POS端末11,21,31をそれぞれ設置している。各POS端末11,21,31は,現在販売されている商品,すなわち在庫が残っている商品のバーコード番号とその在庫情報等を専用線または公衆電話網12,22,32を介してPOSデータベースサーバ100に接続される。POSデータベースサーバ100は,商品情報,在庫情報,店舗位置(緯度,経度)情報などを格納したPOSデータベース110を有している。」(段落【0010】)

「移動端末50は,位置検出部210を有するデータ通信サーバ200と,図示しない無線基地局,移動体通信交換局等を介して通信を行うことができる。データ通信サーバ200は,移動端末50からの接続要求により,POSデータベースサーバ100と接続する。」(段落【0014】)

「データ通信サーバ200は,移動端末50とデータ通信を行う。移動端末の位置情報又は識別番号を位置検出部210に送り移動端末50の位置を決定し,移動端末50から送られたデータとともにPOSデータベースサーバ100に送信する。また,POSデータベースサーバ100から情報を受け取る。POSデータベースサーバ100から受け取った情報のうち,店舗の位置情報は,位置検出部210が所有する地図データに重ね合せ,店舗位置,経路等の画像データに加工し,POSデータベースサーバ100から送られた商品情報と共に移動端末50に送信する。」(段落【0015】)

「本システムを利用する者は,まず,移動端末50の端末制御部51により携帯端末用インターネット接続サービスなどを行うデータ通信サーバ200に接続し,ユーザの望む商品群名,商品名,又はバーコード番号(JANコード)などのキーワードをデータ入力部52により入力する。」(段落【0018】)

「商品群名又は商品名を受信したデータ通信サーバ200は,移動端末50から受信した商品群名又は商品名をデータ通信サーバ記憶部202に記憶し,位置検出部210に移動端末50の位置情報を送り移動端末50の位置を決定する。‥‥」(段落【0019】)

「データ通信サーバ200は,位置検出部210から得られた移動端末50の位置データと移動端末50から受信した商品群名,商品名又はJANコードなどのキーワードをデータ通信サーバ記憶部202から読み取り,データ通信サーバ制御部201によりPOSデータベースサーバ100に送信する。」(段落【0020】)

「POSデータベースサーバ100は,データベース制御部101によりPOSデータベース110に送られ,移動端末50の所在地周辺にある,ユーザ(移動端末)の望む商品の在庫がある店舗,商品の価格,製造者等の詳細な商品情報及び商品の在庫がある店舗の所在地,位置情報をPOSデータベース110から検索し,データベース制御部101によりデータ通信サーバ200に送信される。」(段落【0021】)

「POSデータベースサーバ100が検索した商品の情報,在庫情報及び店舗の位置情報を受信したデータ通信サーバ200は,店舗の位置情報を位置検出部210に送り,位置検出部210に格納している地図データに店舗情報を重ね合わせ,ユーザ(移動端末)のいる位置からその店舗までの道順を示す地図画像データを作成し,その地図画像データとPOSデータベースサーバから送信された在庫情報,商品情報等とをデータ通信サーバ制御部201により移動端末50へ送信する。」(段落【0022】)

2  取消事由1(引用発明の認定の誤り)について

(1)  前記1(2) の記載を総合すると,引用例に記載された第5の実施形態は,地図冊子に書籍識別子及びページ識別子をバーコードで印刷し,クライアントがこれらの識別子をバーコードリーダで読み込み,ネットワークを介して地図情報サービス管理装置に送信すると,地図情報サービス管理装置は,書籍識別子とページ識別子に基づいて,地図情報データベースから該当するエリア情報を出力し,クライアントに提供するものであると認められ,これにより,クライアント(閲覧者)は,エリアの地図と共に,ガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報を見ることができ,また,識別データに関連づけて記憶するエリア情報を更新すれば情報を最新化でき,地図冊子を改訂し電子化する必要がない等の効果が得られるものである。また,引用例には,「地図冊子および地図冊子のページの少なくとも一方を識別する識別データに関連づけて該地図冊子に載っているエリアに関するエリア情報を記憶するエリア情報記憶手段と,地図冊子および地図冊子のページの少なくとも一方を識別する識別データを読み込む識別データ読込手段と,読み込んだ識別データに関連づけて記憶している前記エリア情報を出力するエリア情報出力手段とを具備することを特徴とする情報提供装置」(段落【0010】)という記載もある。

これらのことから,「エリア情報」とは,地図冊子及び地図冊子のページの識別データに関連付けて地図情報データベース(エリア情報記憶手段)に記憶されたエリアに関する情報であって,識別データにより特定される地図冊子のページのエリアの地図と,そのエリアのガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報とを含む情報であること,すなわち,地図冊子のページのエリアの地図に関連する情報であると理解することができる。そうすると,「地図冊子のページの地図情報」についても,地図冊子のページのエリアの地図に関連する電子情報という意味であることが一義的に明らかである。

したがって,「エリア情報」は,「地図冊子のページのエリアに存在するガソリンスタンドやコンビニの情報,並びにガソリンスタンドやコンビニの位置を追加した地図冊子のページの地図情報」であるとした審決の認定は一義的に明確であり,誤りはない。

(2)  原告の主張について

ア 上記の認定に対し,原告は,「地図冊子のページの地図情報」という審決の認定は,引用例の記載を不当に抽象化したものであると主張する。

しかし,上記のとおり,引用例に直接の記載がないとしても,引用例に記載された事項から,引用発明における「地図情報」の技術的意義を理解することができ,「地図情報」に含まれる情報の意義も明確であるというべきであるから,引用例の記載を不当に抽象化したものということはできない。

イ また,原告は,「地図冊子のページの地図情報」は,地図冊子のページに印刷されている地図なのか,それとも地図冊子のページとは別の新たな地図を用いたものなのか不明であり,また,その地図に対してどのように追加情報を表示し,利用者に見せ,あるいは使用してもらうのかも不明であると主張する。

しかし,引用例には,「ステップ5204では,該エリアの地図と表示識別子に対応した情報とを重ねて表示する。」(段落【0070】)と記載されており,「地図冊子のページの地図情報」である「エリア情報」を表示することにより,クライアントは,エリアの地図と共にガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報を見ることができ,また,識別データに関連付けて記憶するエリア情報を更新すれば情報を最新化でき,地図冊子を改訂し電子化する必要がないのであるから,書籍である地図冊子とは別にクライアントに提供される情報であること及びその表示態様や機能は明確であるというべきである。

ウ さらに,原告は,「エリア情報」と同義で使用している「提供情報」も不明であると主張する。

しかし,引用例には,「第1の観点では,本発明は,書籍および書籍のページの少なくとも一方を識別する識別データに関連づけて提供情報を記憶する提供情報記憶手段と,書籍および書籍のページの少なくとも一方を識別する識別データを読み込む識別データ読込手段と,読み込んだ識別データに関連づけて記憶している前記提供情報を出力する提供情報出力手段とを具備することを特徴とする情報提供装置を提供する。」(段落【0005】)と記載されており,引用発明は,その実施形態の1つといえるから,「提供情報」は,引用発明における「エリア情報」の上位概念ということができ,また,上記イのとおり,クライアントに提供される情報であることは明らかであるから,審決において,「エリア情報」を「提供情報」と認定したことに誤りがあるとはいえない。

エ 最後に,原告は,「エリア情報」とは,「地図冊子のページからエリアを特定し,そのエリアの施設及び店舗を含む情報を地図に重ねて見るための情報」と認定すべきであると主張するが,引用発明における「エリア情報」は,上記のとおり,地図冊子のページのエリアの地図と,そのエリアのガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報とを含む情報であることが理解できるから,「エリア情報」からエリアの地図を除外し,「地図に重ねて見るための情報」に限定して引用発明を解釈しようとする原告の主張は失当である。

3  取消事由2(引用発明と本件補正発明の一致点及び相違点の認定の誤り)について

(1)  一致点の認定の誤りについて

この点について,原告は,審決が「引用発明の『エリア情報』と本件補正発明の『特定の情報』とは,利用者に提供される情報である点で共通しているので,『提供情報』と呼ぶことにする。」と認定した点について,不当な上位概念化により一致点を拡大するものであると主張する。しかしながら,「エリア情報」の意義は,上記2(1) で認定したとおりであるから,引用発明の「エリア情報」と本件補正発明の「特定の情報」とは,利用者に提供される情報である点で共通していることは明らかである。したがって,審決が,引用発明と本件補正発明との構成要素間の対応関係を明確にするために,引用発明の「エリア情報」と本件補正発明の「特定の情報」の共通する概念を抽出し,「提供情報」と表現してこれを一致点とし,本件補正発明の「特定の情報」と引用発明の「エリア情報」との相違については,相違点1ないし3として認定したことは相当であり,不当な上位概念化とはいえないから,この点に関する原告の主張は失当である。

(2)  相違点3の認定の誤りについて

前記認定のとおり,引用発明における「エリア情報」は,引用例に記載された技術的事項から,地図冊子及び地図冊子のページの識別データに関連付けて地図情報データベース(エリア情報記憶手段)に記憶されたエリアに関する情報であって,識別データにより特定される地図冊子のページのエリアの地図と,そのエリアのガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報とを含む情報,すなわち「地図冊子のページの地図情報」であると認定することができ,また,引用発明の「エリア情報」は,本件補正発明の「特定の情報」に対応する技術的事項であって,いずれも「提供情報」である点で共通すると認めることができる。

そうすると,引用発明における「地図冊子のページの地図情報」,すなわち「施設及び店舗の位置を追加した地図情報」は,本件補正発明における「前記施設や店舗の前記頁における位置情報であり,前記印刷された地図の頁には,予め頁ごとに,前記頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行を形成し,前記列及び行の組合せにより定義される位置情報」と対応する技術的事項と認められるから,審決において,「提供情報について,本件補正発明は,『前記施設や店舗の前記頁における位置情報であり,前記印刷された地図の頁には,予め頁ごとに,前記頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行を形成し,前記列及び行の組合せにより定義される位置情報』を含むのに対して,引用発明は,施設及び店舗の位置を追加した地図情報を含むものである点。」を相違点3として認定したことに誤りはない。

したがって,この点に関する原告の主張は失当である。

4  取消事由3(相違点1における容易想到性の判断の誤り)について

(1)  周知技術の内容について

ア 前記1(3) アの記載によれば,周知例1には,データベースを備える管理センターと,ネットワークを介して管理センターに接続されたユーザ端末及び店舗用端末とからなる店検索システムであって,管理センターは,店の名称,店舗の位置情報,検索条件,店の詳細情報,地域コード等の店の情報をデータベースに格納しており,ユーザが,ユーザ端末から検索条件と位置情報を管理センターへ送信すると,管理センターは,ユーザ位置付近に存在する店の中から検索条件に該当する店を抽出し,抽出された店の情報をユーザ端末に送信する技術が記載されている。

ここで,店の情報は,ネットワークを介して管理センターに接続された店舗用端末によって登録され又は変更される情報であるから,ユーザに提供される店の情報は,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出された情報ということができる。

イ 前記1(3) イの記載によれば,周知例2には,POSデータベースを有するPOSデータベースサーバと,移動端末とデータ通信を行うデータ通信サーバと,各店舗に設置され,専用線又は公衆電話網を介してPOSデータベースサーバに接続されたPOS端末とから構成された販売時点情報管理(POS)データサービスシステムであって,POSデータベースには,商品情報,在庫情報,店舗位置情報等を格納しており,ユーザが移動端末からユーザの望む商品群名,商品名等のキーワードを入力すると,POSデータベースサーバは,POSデータベースから商品情報,在庫情報,位置情報を含む店舗情報を検索し,移動端末に送信する技術が記載されている。

ここで,店舗情報に含まれる在庫情報は,各店舗に設置され,専用線又は公衆電話網を介してPOSデータベースサーバに接続されたPOS端末から取得した情報であるから,ユーザの移動端末に送信される在庫情報は,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出された情報ということができる。

ウ 以上によれば,周知例1及び2には,通信ネットワークを利用した情報提供システムが記載されており,各システムにおいて,ユーザに送信される店の情報及び在庫情報は,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出された情報といえるから,施設や店舗等の情報を利用者に提供する情報提供システムにおいて,利用者に提供する情報を,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出することは,本願出願当時,周知技術であったと認められる。

(2)  容易想到性の判断について

上記(1) の周知技術の内容を前提とすると,引用発明において,ガソリンスタンドやコンビニの位置などの情報として,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報を使用し,利用者に提供する情報,すなわち「提供情報」を,情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出した情報とすることは,当業者が上記周知技術に基づいて容易に想到し得たことということができる。したがって,この点に関し,審決の判断に誤りはない。

(3)  この点について,原告は,「情報提供者から通信ネットワークを介して提供される情報の中から抽出する」ことが周知技術であったとしても,引用発明においては,情報を提供する装置は,情報を書籍識別子とページ番号に対応付けて記憶していなければならず,引用発明における情報提供者のデータベースは,このような極めて限定された構成を有することを必須としているから,上記周知技術を引用発明に適用するためには,引用発明が要求する極めて汎用性・拡張性を欠く限定されたデータベース構造にする必要があるから,その適用は困難である旨主張する。

しかしながら,審決が認定した相違点1は,前記第2の4(1)ウ(ア)のとおりであり,審決は,「提供情報を抽出する」点については,前記第2の4(1)イのとおり,これを,引用発明と本件補正発明との一致点として認定しており,また,本件補正発明には,情報提供者から提供される所定の情報の中から特定の情報を抽出することは特定されているが,情報を抽出するための構成については特定されていないのであるから,上記相違点1は,提供情報を抽出するための構成ではなく,利用者に提供する情報の情報源を相違点として認定したものと理解できる。そうすると,データベース構造は,情報を抽出するための構成に応じて定めることができるものであり,情報源を選択するに当たっての妨げとなるものではないから,引用発明における提供情報の情報源として,周知技術を適用することが困難であるとはいえない。したがって,この点に関する原告の主張は失当である。

5  取消事由4(相違点2における容易想到性の判断の誤り)について

本件補正発明には,「地域データ」について,「印刷された地図の頁に形成された情報コード」に含まれる「地図の頁に記載された頁を示すデータ」に関連付けられた情報であることが特定されているから,本件補正発明の「地域データ」は,引用発明の「エリア」と同様に,地図の頁を示すデータに対応付けられた情報にほかならず,原告が主張するように,頁に対応付けて記憶されている必要はないとはいえない。また,本件補正発明においても,「地図の頁に記載された頁を示すデータ」は,「印刷された地図の頁に形成された情報コード」に含まれるのであって,それが特定の「印刷された地図」の情報である以上,書籍に対応付けられているというべきであるから,本件補正発明の「地域データ」が,書籍識別子に対応付けて記憶されている必要はないともいえない。

そして,本件補正発明は,「地域データ」に基づいて,「頁内の地域に存在する施設及び店舗を含む情報,並びに前記施設や店舗の前記頁における位置情報」を抽出することにより,情報表示媒体に搭載しきれないより多くの情報を容易に手に入れることができ,情報表示媒体の利用価値が向上するという効果を奏するものであるが,一方で,引用発明も,「頁を示すデータ」に基づいて,該当するエリア情報を出力し,クライアントに提供することにより,クライアントは,エリアの地図と共にガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報を見ることができるものであるから,両者の作用効果に実質的な差異があるとはいえない。

また,地理上の領域が特定されれば,抽出できる情報は特定できるのであるから,仮に「地域データ」に基づいて情報を抽出する場合と,「頁を示すデータ」に基づいて情報を抽出する場合とで抽出できる情報の範囲が異なり,抽出できる情報が相違することがあるとしても,それは予想できる範囲内のことであり,本件補正発明において,「地域データ」に基づいて情報を抽出したことによる作用効果が,引用発明のそれと比較して,格別のものであるともいえない。

したがって,「提供情報を抽出する際に,頁を示すデータに基づいて行うか,頁を示すデータに関連づけられた地域データに基づいて行うかは設計的事項にすぎない。」とした審決の判断に誤りがあるとはいえないから,この点に関する原告の主張は失当である。

6  取消事由5(相違点3における容易想到性の判断の誤り)について

(1)  前記第3の5(1) の原告の主張について

ア 地図上の位置を特定する手段として,地図の頁を縦方向に沿って所定の行数で分割し,横方向に沿って所定の列数で分割したマトリックスにおける列及び行を形成して印刷しておき,地図上の位置を当該列及び行の組合せにより表すことは,審決が認定するとおり,慣用手段である(この点,原告も認めるところである。)。

そして,引用発明の情報提供装置は,地図に関連する施設や店舗の位置などの情報を,地図上に施設や店舗の位置を追加した画像情報として提供するものであり,このような情報提供装置は,当然,施設や店舗の地図上の位置に関する情報を有していると認められる。そうすると,上記のとおり,地図上の位置を地図に形成された列及び行の組合せにより表すことが慣用手段であることにかんがみれば,地図冊子の地図に関連する施設や店舗の位置情報を提供する手段として,地図上に施設や店舗の位置などを追加した画像情報として提供することに代えて,施設や店舗の地図上の位置を地図に形成された列及び行の組合せにより表現された文字情報として提供することは,当業者が容易に想到し得たことということができる。したがって,この点に関する原告の主張は失当である。

イ 原告は,本件補正発明は,画面に地図上の位置のみを表示する技術であり,位置情報は,テキストの文字列で表現され,携帯画面のような小さい画面でも効率よく情報を提供できるのに対し,引用発明は,印刷された地図情報に関する施設及び店舗を含む情報を別の地図に重ねて見るための情報表示技術であり,本件補正発明の課題,作用及び効果は全く想定していないと主張する。

しかし,本件補正発明は,印刷された地図で得た情報の関連情報をインターネット上で得ることを課題とし,本件補正発明によって,情報表示媒体に搭載しきれないより多くの情報を容易に手に入れることができ,情報表示媒体の利用価値が向上するという効果を奏するものであり,一方,引用発明は,電子化されていない書籍においても書籍に関連する情報を提供可能とすることを課題とし,引用発明によって,クライアントは,エリアの地図と共に,ガソリンスタンドやコンビニの位置などの追加的な情報を見ることができるものであるから,表示形態は異なるものの,いずれも実質的に同様の課題を解決し,同様の作用効果が得られるものである。また,同一の情報を文字として表示するか画像として表示するか,すなわち表示形態の違いによって,特性が相違することは技術常識というべきであり,上記のとおり,引用発明において慣用手段を採用すれば,本件補正発明と同様の特性が得られることは,当然に予想できることであるから,表示形態の相違は,容易想到性の判断の妨げになるものではないというべきである。したがって,この点に関する原告の主張も失当である。

(2)  前記第3の5(2) の原告の主張について

ア 原告の主張アについて

引用発明は,「電子地図」に情報を追加して送信するものであるから,そもそも引用発明が印刷された地図に対して情報を追加して送信するものであると審決が認定しているとの原告の主張の前提は,誤りであって,審決の相違点3の判断には,何ら論理的不整合は存しないから,この点に関する原告の主張は失当である。

イ 原告の主張イについて

提供する情報に応じて必要なデータを備えることは,当業者であれば当然に考えることであり,引用発明において,地図冊子の地図に関連する施設や店舗の位置情報を提供する手段として,地図上に施設や店舗の位置を追加した画像情報として提供することに代えて,慣用手段を採用し,施設や店舗の地図上の位置を地図に形成された列及び行の組合せにより表現された文字情報として提供する場合,地図冊子の地図上の列及び行の組合せにより表現された位置情報を備える必要があることは,当業者であれば当然に考えることである。したがって,引用発明が電子地図上の座標を備えているとしても,慣用手段を適用することの阻害要因となるものではない。

また,引用発明における,地図上に施設や店舗の位置を追加した画像情報は,施設や店舗の位置情報を提供するための手段であって,手元の地図と照らし合わせる必要をなくすことを目的としたものではない。したがって,引用発明において,手元の地図と照らし合わせる必要がないからといって,地図上の位置情報を提供する手段として,同様に地図上の位置情報を提供する手段である上記慣用手段を採用することを想起することの妨げとなるものではない。

さらに,引用発明における,地図上に施設や店舗の位置を追加した画像情報として提供することと,慣用手段における,地図上の位置を地図に形成された列及び行の組合せにより表現された文字情報として提供することは,いずれも位置情報を提供する手段であるから,引用発明に上記慣用手段を適用することに技術上の困難があるとはいえない。

したがって,この点に関する原告の主張はいずれも失当である。

7  結論

以上のとおり,原告の主張する審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却を免れない。

(裁判長裁判官 塚原朋一 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)

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