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知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10396号 判決 2010年7月21日

原告

株式会社ROKI

訴訟代理人弁護士

鳥海哲郎

訴訟代理人弁理士

稲葉良幸

佐藤俊司

訴訟代理人弁護士

関真也

被告

特許庁長官

指定代理人

榎本政実

小林由美子

田村正明

主文

1  特許庁が不服2009-6517号事件について平成21年10月28日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,原告が,後記商標について商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。

2  争点は,下記(1)の商標(本願商標)が,下記(2)の引用商標1及び2に類似するか(商標法4条1項11号),である。

(1)  本願商標

・ (商標)

file_3.jpgmala THE FILTRATION COMPANY ROKICo,Ltd.・ (指定商品)

第7類

「ろ過機・その他の化学機械器具」

第11類

「家庭用空気清浄機及びそのフィルター・家庭用アルカリイオン水生成器及びそのフィルター・その他の家庭用電熱用品類,家庭用浄水器及びそのフィルター,業務用浄水器及びそのフィルター・その他の浄水装置」

(2)  引用商標

① 引用商標1-登録第2543597号

・ (商標)

file_4.jpg・ 出願  平成2年10月22日

・ 登録  平成5年6月30日

・ 書換登録  平成16年9月8日

・ 商標権者  株式会社ロキテクノ

・ (指定商品)

第6類

「金属製荷役用パレット,荷役用ターンテーブル,荷役用トラバーサー,金属製人工魚礁,金属製養鶏用かご,金属製の吹付け塗装用ブース,金属製セメント製品製造用型枠,てんてつ機,金属製道路標識(発光式又は機械式のものを除く。),金属製航路標識(発光式のものを除く。),金属製液体貯蔵槽,金属製工業用水槽,金属製液化ガス貯蔵槽,金属製滑車(機械要素に当たるものを除く。),金属製ばね(機械要素に当たるものを除く。),金属製バルブ(機械要素に当たるものを除く。),金属製管継ぎ手,キー。」

第7類

「ろ過機,その他の化学機械器具,金属加工機械器具,鉱山機械器具,土木機械器具,漁業用機械器具,繊維機械器具,食料加工用又は飲料加工用の機械器具,製材用・木工用又は合板用の機械器具,パルプ製造用・製紙用又は紙工用の機械器具,印刷用又は製本用の機械器具,ミシン,栽培機械器具,牛乳ろ過器,ふ卵器,蚕種製造用又は養蚕用の機械器具,靴製造機械,たばこ製造機械,ガラス器製造機械,塗装機械器具,包装用機械器具,陶工用ろくろ,プラスチック加工機械器具,半導体製造装置,ゴム製品製造機械器具,石材加工機械器具,動力機械器具(陸上の乗物用のもの及び「水車・風車」を除く。),水車,風水力機械器具,機械式の接着テープディスペンサー,業務用電気洗濯機,修繕用機械器具,機械式駐車装置,乗物用洗浄機,業務用攪拌混合機,業務用電気式ワックス磨き機,芝刈機,電動式カーテン引き装置,廃棄物圧縮装置,軸・軸受・軸継ぎ手・ベアリング(機械要素)(陸上の乗物用のものを除く。),動力伝導装置(機械要素)(陸上の乗物用のものを除く。),緩衝器及びばね(機械要素)(陸上の乗物用のものを除く。),制動装置(機械要素)(陸上の乗物用のものを除く。),バルブ(機械要素)(陸上の乗物用のものを除く。),但し,動力機械器具(陸上の乗物用のもの及び「水車・風車」を除く。)を除く。」

第8類

「組ひも機(手持ち工具に当たるものに限る),くわ(手持ち工具に当たるものに限る),靴製造用靴型(手持ち工具に当たるものに限る)。」

第9類

「アーク溶接機,オゾン発生器,検卵器,金銭登録機,自動販売機,ガソリンステーション用装置,駐車場用硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,火災報知機,保安用ヘルメット,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,潜水用機械器具,業務用テレビゲーム機,電動式扉自動開閉装置,乗物運転技能訓練用シミュレーター,運動技能訓練用シミュレーター。」

第11類

「乾燥装置,牛乳殺菌機,工業用炉,飼料乾燥装置,ボイラー,暖冷房装置,冷凍機械器具,業務用衣類乾燥機,美容院用又は理髪店用の機械器具(いすを除く),業務用加熱調理機械器具,汚水浄化槽,業務用ごみ焼却炉,太陽熱利用温水器,浄水装置,水道用栓,但し,ボイラー,暖冷房装置を除く。」

第12類

「カーダンパー,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),落下傘,乗物用盗難警報器,軸・軸受け・軸継ぎ手・ベアリング(陸上の乗物用の機械要素),動力伝導装置(陸上の乗物用の機械要素),緩衝器及びばね(陸上の乗物用の機械要素),制動装置(陸上の乗物用の機械要素)、但し、陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。)を除く。」

第16類

「印刷用インテル,青写真複写機,マーキング用孔開型板。」

第17類

「消防用ホース,オイルフェンス,ゴム製又はバルカンファイバー製のバルブ(機械要素に当たるものを除く。),ガスケット。」

第19類

「人工魚礁(金属製のものを除く。),養鶏用かご(金属製のものを除く。),吹付け塗装用ブース(金属製のものを除く。),セメント製品製造用型枠(金属製のものを除く。),道路標識(金属製又は発光式若しくは機械式のものを除く。),航路標識(金属製又は発光式若しくは機械式のものを除く。),石製液体貯蔵槽,送水管用バルブ(金属製又はプラスチック製のものを除く。)。」

第20類

「荷役用パレット(金属製のものを除く。),養蜂用巣箱,美容院用いす,液体貯蔵槽(金属製又は石製のものを除く。),液化ガス貯蔵槽(金属製又は石製のものを除く。),プラスチック製バルブ(機械要素に当たるものを除く。)。」

第21類

「かいばおけ,家禽用リング。」

第26類

「メリヤス機械用編針。」

第28類

「遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。)。」

② 引用商標2-登録第4599178号

・ (商標)(標準文字)

file_5.jpgROKI・ (指定商品)

第11類

「照明用器具,石油ストーブ,石油コンロ,アイスボックス,家庭用電熱用品類,シャワー器具,家庭用浄水器,家庭用ごみ焼却炉,化学物質を充填した保温保冷具 」

・ 出願  平成13年8月30日

・ 登録  平成14年8月23日

・ 商標権者  株式会社星籌

第3当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁における手続の経緯

原告は,平成20年5月27日,本願商標につき商標登録出願(商願2008-40103号)をしたが,平成21年2月24日に拒絶査定を受けたので,平成21年3月26日付けでこれに対する不服の審判請求をするとともに,同日付けで,指定商品を上記第2,2(1)のとおりとする旨の手続補正を行った。

特許庁は,上記請求を不服2009-6517号事件として審理した上,平成21年10月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年11月9日原告に送達された。

(2)  審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商標は引用商標1及び2に類似し指定商品も同一又は類似する(商標法4条1項11号),というものである。

(3)  審決の取消事由

しかしながら,審決には次のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(本願商標に関する認定の誤り)

審決は,幾何模様的な図形の下に「THE FILTRATIONCOMPANY」と「ROKI Co.,Ltd.」の二段書きからなる文字を配した構成からなる結合商標である本願商標について,本願商標の文字部分のうち,下段の「ROKI Co.,Ltd.」の文字部分の更に一部分にすぎない「ROKI」の文字をもって取引に資されることも決して少なくないとした上で,「本願商標からは,「ROKI」の文字に相応して「ロキ」の称呼をも生ずるものというべきであり…」(4頁13行~14行)と認定した。

しかしながら,以下に述べるとおり,本願商標の構成上の一体性及び意味上の一体性,実際の取引における本願商標の一体的な使用態様,並びに濾器・フィルター業界において「ROKI」の文字及び「ロキ」との称呼が自他商品識別力を有しないこと等からすれば,本願商標は,全体が不可分一体に構成されたものとして取引者,需要者に認識されるものであるから,本願商標全体のごく一部を占めるにすぎない「ROKI」の文字部分のみを殊更に抽出して,そこから生じる称呼をもって引用商標1及び2と対比することは誤りである。

(ア) 本願商標は全体の約3分の2を占める図形部分file_6.jpgと全体の約3分の1を占める文字部分file_7.jpgTHE FILTRATION COMPANY ROKICo.Ltd.とから構成される,図形と文字との結合商標である。そして,本願商標の図形部分と文字部分とは,左右両端を同一の幅にして構成されており,かつ,文字部分をゴシック系のオリジナル書体(ロゴタイプ)により書して特徴的な図形部分との一体性を高めるよう配置,デザインされている。

また,本願商標の図形部分は,フィルターをイメージした縦の白いラインと,濾過作用を表すフィルトレーションをイメージした横の白いラインに,「+(プラス)」と「叶」のシルエットを取り入れてデザイン化させた矢じり状の図形である。

そして,本願商標文字部分上段の「THE FILTRATION COMPANY」は,「フィルトレーション(濾過作用)技術の会社」という意味を持ち,図形部分の横の白いラインと意味ないしイメージを同じくするものである。本願商標文字部分下段の「ROKICO.,Ltd.」は,そのうちの「ROKI」という文字が,濾器・フィルター業界においてフィルターを表わす語として一般的に用いられている「濾器」の語をアルファベット表記したものであり,図形部分の縦の白いラインと共通の意味ないしイメージを持つものである上,先頭の「R」の文字左縦の一画の上半分があえて省略されており,フィルトレーションをイメージした図形部分の横の白いラインと共通の印象,イメージを持たせるよう構成されている。

このように,本願商標の図形部分及び文字部分は,いずれも外観的に全体で一体性を持つように配置,デザインされており,観念的にも,フィルターないしフィルトレーションという意味において全体的に統一された印象,イメージを有していることからすれば,本願商標は,図形部分と文字部分がそれぞれ独立して出所識別機能を有しているのではなく,全体が1つのデザインとしての外観上・観念上の有機的な関連性を有する不可分一体のものとして取引者,需要者に認識され,全体の構成をもって1つの出所識別機能を果たしているというべきである。

(イ) 原告は,その製品及び製品の包装等,ウェブサイト,新聞・雑誌広告・看板,販売促進物,取引関係書類並びに社内手続書類など,取引先その他の目に触れるあらゆる書類や物品に本願商標全体を一体として使用している。

このような,本願商標の現実の使用態様からすれば,本願商標は,常に全体が不可分一体の商標として取引者,需要者に認識,記憶,想起されるものであって,取引者,需要者が本願商標の一部のみを抽出して認識,記憶,想起することはない。

(ウ) 本願指定商品は,第7類「ろ過機」や第11類「家庭用空気清浄機」など,フィルターを基盤とした機器ないし装置を含んでいるところ,「ろ過機」は,「濾過機」という文字で表されるほか,「ろ器」,「濾器」,「・※器」,「ろ機」,「濾機」又は「・※機」といった文字でも表され,いずれも「ロキ」と発音されるのが本願商標の指定商品の業界,すなわち,濾器・フィルター業界において一般的となっているから,本願商標の指定商品との関係では,フィルターを表わす語として一般的に用いられているこれらの文字をアルファベット表記したものである「ROKI」という文字,及びこれらから生ずる「ロキ」という称呼自体,商品の出所を識別する機能がないか,あるいは著しく弱いものというべきである。

また,「ろ過機」その他の製品を扱うこの濾器・フィルター業界内には,原告及び引用商標1の権利者である株式会社ロキテクノのほか,「ロキ」の称呼が生ずる文字を含む商号の業者が多数存在するから,かかる出所識別力の弱い「濾器」等の文字から生ずる「ロキ」との称呼のみで商品の出所が識別されることは,取引上ほとんど行われていない。

そうすると,本願商標に接した取引者,需要者は,「ROKI」の文字のみに着目することなく,「ROKI」の文字以外の文字部分をも含めて称呼しなければ,商品の出所を識別することができない。

イ 取消事由2(引用商標1及び2に関する認定の誤り)

(ア) 審決は,引用商標1について,「全体として「ROKI」の文字を表したものと容易に認識できるものであり,…「ロキ」の称呼を生ずるものであり,特定の観念を生じさせないものである。」(4頁18行~21行)と認定している。

しかしながら,引用商標1は,「ROKI」の欧文字をモチーフにしたとの印象を与える図形を,三本の白い横線が貫く構成からなり,この白い三本の横線は,文字に通常用いられる表現方法といえない極めて特異なものであるから,たとえ「ROKI」の欧文字がモチーフにされていると視認することが不可能ではないとしても,それ以上に,三本の白い横線を特徴とする,全体の特異な表現・デザインこそが自他商品識別機能を果たしているものである。したがって,引用商標1は,単に「ROKI」の文字として認識されるというよりは,全体として1つの特徴的な図形として理解,認識されるものであって,特定の観念・称呼を生じないというべきである。

また,仮に,引用商標1が「ROKI」の欧文字として認識され,そこから「ロキ」の称呼を生じる場合があり得るとしても,引用商標1の指定商品である第7類「ろ過機,その他の化学機械器具」及び第11類「浄水装置」は,いずれもフィルターを基盤とした機器ないし装置であるところ,前記ア(ウ)で述べたとおり,フィルターを意味する言葉として,「ろ器」,「濾器」,「・※器」,「ろ機」,「濾機」又は「・※機」など,「ロキ」と称呼される言葉が業界で一般的に用いられている上,原告だけでなく「ロキ」の称呼が生ずる文字を含む商号の業者が多数存在するから,これらの文字のアルファベット表記である「ROKI」の文字及び,そこから生ずる「ロキ」との称呼のみで商品の出所が識別されることは取引上ほとんど行われていない。したがって,かかる指定商品の取引業界における実際の取引実情をも考慮すれば,仮に引用商標1から「ロキ」の称呼が生じる場合があり得るとしても,現実の取引において「ロキ」の称呼のみをもって取引に資されることはない。

(イ) 引用商標2は,「ROKI」の欧文字を横書きにした構成からなり,「ロキ」との称呼が生じる。

しかしながら,引用商標2の指定商品に含まれる第11類「家庭用浄水器」等は,フィルターを基盤とした機器であるところ,前記で述べたとおり,濾器・フィルター業界においては,「ロキ」との称呼のみで商品の出所が識別されることは取引上ほとんど行われておらず,「ロキ」の称呼をもって取引に資されることはない。したがって,引用商標2から「ロキ」の称呼が生じたとしても,それは商標の類否判断を行うに当たって特に考慮すべき程度のものとはいえない。

ウ 取消事由3(類否判断の誤り)

審決は,本願商標と引用商標1及び2は,いずれも「ロキ」の称呼を共通にしている上,「外観においても,取引者,需要者の注意をひく「ROKI」部分の綴り字が共通しており,また,観念については,比較し得ないものであるから,取引者,需要者に与える印象,記憶及び連想等を総合して全体的に考察すると,両者は相紛らわしい類似の商標と判断せざるを得ない。」(4頁30行~33行)と判断した。

しかしながら,仮に,本願商標と引用商標1及び2から「ロキ」との称呼が生じる場合があり得るとしても,本願商標と引用商標1及び2との外観及び観念の著しい相違並びに本願商標の具体的な取引の実情も考慮すれば,本願商標と引用商標1及び2に接する取引者,需要者が,商品の出所を混同するおそれは全くない。

(ア) まず,外観について検討すると,前記のとおり,本願商標は図形部分と文字部分とが不可分一体の商標として取引者,需要者に認識されるものであるところ,極めて特徴的な図形部分が取引者,需要者の注意を最も惹きやすい部分であることから,本願商標においては,かかる図形部分が商品の出所を識別する機能を果たす上で特に重要な役割を果たしている。

これに対し,引用商標1及び2は,外観において本願商標の最も特徴的な部分である図形部分をその構成に含まないのであるから,本願商標とは全く異なるものとして印象付けられ,記憶され,連想されることが明らかである。

したがって,本願商標と引用商標1及び2とは,一見して明らかな外観上の相違がある。

(イ) 次に,観念について検討すると,本願商標からは「濾過技術の会社たる(原告である)株式会社ROKI」との観念を生じるのに対し,引用商標1及び2からは特定の観念を生じないから,本願商標と引用商標1及び2は,観念において対比することができず,顕著な相違がある。

(ウ) 以上のとおり,本願商標と引用商標1及び2の外観,観念及び称呼を総合して全体的に観察すると,仮に,称呼の点のみにおいて本願商標と引用商標1及び2とが共通するとしても,「ロキ」との称呼が商品の出所を識別する指標とはならず,あるいは商品の出所を識別する指標となる程度が著しく低い以上,称呼が共通する点は,全体として誤認混同が生じるおそれがあるか否かを判断するに当たっての要素としては極めてウェイトが低い一方,外観及び観念において前記のような顕著な相違があり,かつ,本願商標においてはその全体的な外観が商品の出所を識別する上で重要な機能を果たしているのであるから,これらを総合すれば,本願商標と引用商標1及び2は,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれのない非類似の商標であることが明らかである。

(エ) さらに,本願指定商品は,いずれも取引者,需要者による実際の購入に当たって,商品の性能やメーカーの信用等につき慎重な検討が行われるものであるから,本願商標と引用商標1及び2との外観上の顕著な相違や観念や称呼における相違が看過されることは滅多になく,その他の商品に比べて一層出所の誤認混同のおそれが低いものである。

まず,引用商標1との関係においては,本願商標の補正後の指定商品である第7類「ろ過機・その他の化学機械器具」及び第11類「業務用浄水器及びそのフィルター・その他の浄水装置」については,業務用の機械装置であって,その取引者,需要者は濾器又はフィルター業界等の専門的知識を有する少数の者であり,実際の購入に当たっては,機械,器具の性能やメーカーの信用等についての慎重な検討が行われた上で,専門的知識を有する取引者,需要者の高い注意力のもとで購入されるものである。

また,同様に本願商標の補正後の指定商品である第11類「家庭用浄水器及びそのフィルター」についても,一般消費者が手にする商品ではあるものの,一般量販店等で販売される日用雑貨品等とは異なるから,実際の購入に当たっては,機械,器具の性能やメーカーの信用等についての慎重な検討が行われるものである。

さらに,引用商標2との関係においても,本願商標の補正後の指定商品である第11類「家庭用空気清浄機及びそのフィルター・家庭用アルカリイオン水生成器及びそのフィルター・その他の家庭用電熱用品類」については,一般消費者が手にする商品ではあるものの,一般量販店等で販売される日用雑貨品等とは異なるから,実際の購入に当たっては,機械,器具の性能やメーカーの信用等についての慎重な検討が行われるものである。

これに対し,審決は,「補正後の本願指定商品中には,例えば,「家庭用電熱用品類」に属する商品として一般消費者が購入する「扇風機,ヘアドライヤー」等の比較的安価な商品も含まれていることからして,取引者,需要者が必ずしもその商品の購入等にあたって慎重な検討を行うものとは期待することができない。」(6頁1行~5行)と認定しているが,審決が指摘する「扇風機,ヘアドライヤー」のような商品でも,消費と買替えが頻繁に繰り返されるような商品とは異なり,日常生活において相当長期間にわたって使用することが想定される家庭用の機械,器具については,取引者,需要者は,専門的な業者ほどではないとしても,相当程度の注意を払って機械,器具の性能やメーカーの信用等を慎重に検討するのが通常である。しかも,近時では,家庭用の機械,器具の種類が極めて豊富で,商品によって性能に大きな差があり,また,メーカーによっても商品の性能等の個性に顕著な差が存在していることは取引者,需要者の間でも広く知られているところである。かかる取引状況をも考慮すれば,いわゆるハウスマークである本願商標と引用商標1及び2との前記のような外観,観念,称呼における顕著な相違が見過ごされることはほとんどなく,商品の出所につき誤認混同が生じるおそれはないということができる。

(オ) しかも,原告は,自動車向けフィルター関連機器のメーカーとして,業界屈指の生産数,売上高及びシェアを獲得している。また,自動車向けフィルター関連機器の取引者,需要者である自動車メーカーは,ごく限られた少数の企業しか存在しない。こうした自動車向けフィルター関連業界の取引実情に鑑みれば,本願商標は,原告を指標する商標として,自動車向けフィルター関連機器業界及び自動車メーカーの間で広く認識されている。したがって,本願商標が現実の取引において引用商標1及び2と誤認混同される可能性はないというべきである。

(カ) なお,引用商標2の権利者である株式会社星籌は,平成17年10月26日午後5時に,東京地方裁判所の破産手続開始決定を受け(平成17年10月28日登記),平成18年5月11日に同裁判所の破産手続終結決定が確定し(平成18年5月15日登記),同社の登記簿が閉鎖されるに至っている。

したがって,平成18年5月11日ころには,同社の法人格は消滅しており,遅くとも同時期までには,同社が引用商標2を使用する可能性はなくなっていたはずであるから,本願商標出願時である平成20年5月27日及び本件審決時である平成21年10月28日において,引用商標2は商標法上において保護すべき信用を欠く商標となっており,引用商標2と本願商標との間で商品の出所についての一般的混同が生ずることがあり得ない状況となっていた。

かかる取引の実情をも考慮すれば,本願商標と引用商標2は,誤認混同のおそれのない非類似の商標であることが明らかである。

2  請求原因に対する認否

請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。

3  被告の反論

審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。

(1)  取消事由1に対し

ア 本願商標を構成する図形部分file_8.jpgと文字部分file_9.jpgTHE FILTRATION COMPANY ROKICo.Ltd.とは,左右両端の位置がそろえて配置されているものの,上下に明確に分かれている上,それぞれの高さも,図形の方が文字に比べ平均1.3倍(最大2.7倍)程度高いだけであるから,文字部分も図形部分と同様によく目立つ態様となっている。そして,本願商標を構成する図形部分は,それ自体特定の観念及び称呼を生じさせない抽象的な図形というべきものであって,文字部分を含む本願商標全体として観察しても,その点は何ら変わらないものである。

したがって,本願商標を構成する図形部分と文字部分とは,外観的にも,観念的にも,それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないというべきであるから,それぞれが独立して自他商品の識別機能を有するものといえる。

イ また,本願商標を構成する文字部分は,左右両端の位置をそろえて2段書きされており,上段が「THE FILTRATION COMPANY」の文字であり,下段が「ROKICo.,Ltd.」の文字である。このように,これらの文字部分は,上下に明確に分かれている上,文字数の少ない下段の「ROKICo.,Ltd.」の文字の方が,上段の「THEFILTRATION COMPANY」の文字に比べ,相対的に太く大きな文字で表されている。それぞれの文字の大きさも,下段の文字は,上段の文字に比べ,文字の高さで1.5倍程度,横幅で1.3倍ないし2.7倍程度大きい。書体についても,下段の文字が,「R」の文字部分や「t」の文字部分等に特徴があるロゴタイプであるのに対し,上段の文字は,ごく普通のゴシック体である。よって,両文字部分は,視覚的に分離して看取されるものである。

両文字部分の意味合いについても,太く大きな文字で表された下段の「ROKICo.,Ltd.」の文字部分は,その後半部に法人組織の種類を表す英語表記「company limited」の略語として一般に知られている「Co.,Ltd.」の文字を有してなるものであるから,「ROKI」という会社,すなわち,原告の商号を英語で表示した部分と認識されるものであって,本願商標の使用をする者を表す商号商標部分として強く印象付けられるものであるといえるのに対し,上段の「THE FILTRATION COMPANY」の文字部分は,下段の文字部分が上記のとおり会社名として認識されるものであることから,全体として「ろ過の会社」程度の意味合いで,下段に表示する会社の業種や内容を端的に表す形容句として認識されるものであるといえるから,このように両文字部分は,その意味合いにおいても軽重の差がみられるものである。

そして,本願商標の文字部分全体から生ずる称呼も,「ザフィルトレーションカンパニーロキシーオーエルティーディー」又は「ザフィルトレーションカンパニーロキカンパニーリミテッド」と著しく冗長である。

そうすると,本願商標の2段書きされた文字部分は,その称呼の冗長さもさることながら,外観的にも,観念的にも,下段の「ROKICo.,Ltd.」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものというべきである。

ウ そこで,本願商標において商号商標部分として認識される「ROKICo.,Ltd.」の文字について更に検討すると,前半部の「ROKI」と後半部の「Co.,Ltd.」とは,文字の大きさからみて,前半部の「ROKI」の方が後半部の「Co.,Ltd.」よりも大きく表示されていること,後半部の「Co.,Ltd.」は,前記のとおり,法人組織の種類を表す英語表記「company limited」の略語として一般に知られているものであるところ,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,しばしば商号中にある「株式会社」や「Co.,Ltd.」などの法人組織の種類を表す部分を省略し,残余の部分をもって取引に当たることも少なくないというのが経験則に照らして相当であることから,「ROKI」の文字部分をもって取引に当たることも少なくないものというべきである。

さらに,「ROKICo.,Ltd.」の文字部分全体から生ずる「ロキシーオーエルティーディー」又は「ロキカンパニーリミテッド」の称呼も冗長である。

そうすると,本願商標に接する取引者,需要者が,「ROKICo.,Ltd.」の文字部分の中でも特に「ROKI」の文字部分に着目して取引に当たることも少なくないものと解されるから,本願商標は,当該文字部分に相応して「ロキ」の称呼をも生ずるものといえる。

エ 原告が主張するように,本願商標を構成する「ROKI」の欧文字について,本願商標の指定商品との関係での出所識別力の有無を問題にするのであるのならば,立証すべきは,当該「ROKI」の欧文字それ自体であって,それとは異なる「ろ器」,「濾器」,「工器」,「ろ機」,「濾機」又は「工機」といった漢字や平仮名をもって表した文字ではないし,ましてや「ロキ」との称呼でもない。

また,原告が「ROKI」の欧文字について示した証拠は,フィルター業界において,商号の英語表記として,原告及び同業各社が「ROKI」の欧文字を使用しているというにとどまるものであるから,それを越えて,これら商号の英語表記の一部に使用されているにすぎない「ROKI」の欧文字が,本願商標の指定商品である第7類「ろ過機」や第11類「家庭用空気清浄機」などのフィルターを基盤とした機器ないし装置との関係において,商品の出所を識別する機能がないとか,著しくそれが弱いものであるといったことを認めるに足りる的確な証拠にはなり得ないものである。

さらに,原告のいう第7類「ろ過機」や第11類「家庭用空気清浄機」などのフィルターを基盤とした機器ないし装置は,本願商標と引用商標1及び2とで抵触する指定商品のうちのごく一部の商品にすぎないものである。例えば,本願商標と引用商標1とで抵触する指定商品である第7類「化学用機械器具」には「かくはん機,破砕機」等の商品が,また,本願商標と引用商標2とで抵触する指定商品である第11類「家庭用電熱用品類」には「扇風機,ヘアドライヤー」等の商品が含まれており,これらは,いずれもフィルターを使用しない商品であるか,仮にフィルターがどこかに使用されているとしても,そのことを直ちに認識させない商品といえるものであるから,このような商品との関係においては,「ROKI」の文字に出所識別力がないなどということはできないものである。

(2)  取消事由2に対し

ア 引用商標1は,文字列の中央部が白い3本の横線で切り抜かれたように,やや装飾されているものの,一見して,ローマ字4字を図案化して横書きしたものであると容易に理解できるものであり,しかも,それらの文字が左から順に「R」,「O」,「K」及び「I」であることもまた容易に認識し得るものであるから,文字として判読できないような極めて特異な構成からなる商標とはいえず,その「ROKI」との文字に相応した「ロキ」の称呼が生ずるものである。

イ 引用商標2について,本願商標と抵触する指定商品は,フィルターを基盤とした機器のみではないこと,また,そもそも「ROKI」の文字に出所識別力がないとはいえないことについては,前記(1)エのとおりであるから,引用商標2の「ロキ」の称呼が,商標の類否判断を行うに当たって考慮されることは当然である。

(3)  取消事由3に対し

ア 本願商標と引用商標1及び2との外観を対比すると,引用商標1及び2では,本願商標の図形部分に相当する部分や文字も2段書きされていないことから,外観は相違するということができる。

しかし,取引者,需要者の注意をひく「ROKI」の部分は,その綴り字を共通にするものである。

また,本願商標及び引用商標1及び2は,共に特定の観念を生じさせないものであるから,それらを比較することはできない。なお,本願商標を構成する文字部分から,原告も主張するような「濾過技術の会社(ろ過の会社)である株式会社ROKI」の意味合いを想起させなくもないが,引用商標1及び2からは特定の観念を生じさせないのであるから,やはり互いを比較することはできないものである。

そうすると,本願商標と引用商標1及び2とは,「ロキ」の称呼において共通している上,外観においても,取引者,需要者の注意をひく「ROKI」の部分の綴り字が共通しており,また,観念については,比較し得ないものであるから,取引者,需要者に与える印象,記憶及び連想等を総合して全体的に考察すると,本願商標と引用商標1及び2とは相紛らわしい類似の商標というべきである。

イ 商標の類否判断に当たり考慮することができる取引の実情とは,指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって,一部の指定商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないところ,例えば,本願商標と引用商標2とで抵触する指定商品である第11類「家庭用電熱用品類」に含まれる「扇風機,ヘアドライヤー」等の商品は,いまやその基本的な機能や性能はそれほど変わらないものであって,家電量販店や大手スーパー等のチラシやインターネットのウェブサイトなどでも安売り広告されるなど比較的安価な商品も含まれていることからすると,取引者,需要者が必ずしもその商品の購入等に当たって慎重な検討を行うものとは期待することができないというべきである。

また,仮に,原告が,自動車向けフィルター関連機器メーカーとして広く認識されているとしても,商標の類否判断に当たり考慮することができる取引の実情とは,その指定商品全般についての一般的,恒常的なそれを指すものであって,単に該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的,限定的なそれを指すものではないから,そのような本願商標の指定商品における一部の商品についていえる特殊的,限定的な取引の実情は,商標の類否判断において考慮されるべきではない。

ウ 引用商標2について,商標法4条1項11号にいう先願の「他人の登録商標」は,後願の同一又は類似商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続しているものであれば足り,現実に使用されていることを必要とするものではない。また,商標の類否判断に際しては,取引の実情を考慮することが必要であるが,ここで考慮すべき取引の実情とは,指定商品又は指定役務全般についての一般的,恒常的なものを指すものであるから,「他人の登録商標」が現実に使用されているかどうかということは類否判断に際し考慮すべき取引の実情には当たらないのであり,査定時又は審決時において,先願の「他人の登録商標」が現に有効に存続しているものである以上,現実に使用されていなくても,それが使用された場合に混同を生ずるか否かを一般的,恒常的な取引の実情に照らして判断すべきものと解される。

さらに,引用商標2に係る商標権が,本願商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続している以上,その商標権者であった株式会社星籌が破産前に引用商標2の使用を許諾した第三者によって今も使用されている可能性がないとまでは言い切れないし,仮にそうでないとしても,将来において,第三者が引用商標2に係る商標権を承継して使用する可能性も否定できないというべきである。

したがって,引用商標2の商標権者である株式会社星籌が破産後,引用商標2を使用する可能性はなくなっていたとしても,引用商標2が本願商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続していた以上,本願商標と引用商標2との類否判断に影響を及ぼすものではない。

第4当裁判所の判断

1  請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2  本願商標と引用商標1及び2との類否(商標法4条1項11号)について

審決は,本願商標が引用商標1及び2に類似する(商標法4条1項11号該当)としたのに対し,原告はこれを争うので,以下,その類似性の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。

(1)  取消事由1(本願商標に関する認定の誤り)について

ア 本願商標は,前記第2,2(1)記載のとおり,上部に配置され全体の約3分の2を占める図形部分file_10.jpgと,下部に配置され全体の約3分の1を占める文字部分file_11.jpgTHE FILTRATION COMPANY ROKICo.Ltd.とから構成される結合商標であり,図形部分と文字部分とは,左右両端の位置は同一であるものの,上下に分かれており,図形部分が文字部分の背景となったり,文字部分が意匠化されて図形部分と組み合わされていたりするものではないから,両者を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。

そこで検討するに,本願商標の図形部分は,左側にやや扁平で内部が中空の六角形の図形が,右側に十字形がそれぞれ配置され,十字形の内部の白のクロスラインが強調され左に伸びた部分が左側の六角形の内部と連通しており,幾何模様的でかなり特徴的な形態であるが,特定の観念及び称呼を生じさせるような具体的な図形とは認められない。

次に,本願商標の文字部分は,左右両端の位置が同一の上下2段に横書きされたゴシック体文字からなり,上段に「THE FILTRATION COMPANY」の欧文字が,下段に「ROKICO.,Ltd.」の欧文字(独自のロゴタイプ)が配置されており,下段の「R」と「t」の欧文字にはやや特徴がある。また,文字数の少ない下段の「ROKICo.,Ltd.」の方が,文字数の多い上段の「THE FILTRATION COMPANY」に比べ相対的に太く大きく表され,特に「ROKI」の部分は,上段の欧文字に対し高さで1.5倍程度,横幅で3倍程度大きく表示されているから,視覚的に,下段の一連の欧文字が上段の一連の欧文字に対してやや強調されたものと受け止められる。

また,本願商標の文字部分全体から生ずる称呼は,「ザフィルトレーションカンパニーロキシーオーエルティーディー」又は「ザフィルトレーションカンパニーロキカンパニーリミテッド」であり,著しく冗長なものであるから,取引者,需要者は,本願商標の文字部分を上段と下段に分離して把握し,上段の「THE FILTRATION COMPANY」から「ザフィルトレーションカンパニー」の称呼と下段の「ROKICO.,Ltd.」から「ロキシーオーエルティーディー」又は「ロキカンパニーリミテッド」の称呼も生じるものと認められるが,これらもやや冗長なものと認められる。

そして,後述する本願指定商品の取引者,需要者の通常の理解力を前提とすると,上段の「THE FILTRATION COMPANY」の文字部分からは,「フィルトレーション(濾過作用)に関する会社」との一般的な意味合いが生じるのに対し,下段の「ROKICO.,Ltd.」の文字部分については,後半の「Co.,Ltd.」の欧文字が法人組織の種類を表す英語表記「company limited」の略語として理解されることから,「ROKI」という特定の名称の会社を表示したと認識されるものと認められる。

ところで,本願指定商品は,第7類「ろ過機・その他の化学機械器具」と第11類「家庭用空気清浄機及びそのフィルター・家庭用アルカリイオン水生成器及びそのフィルター・その他の家庭用電熱用品類,家庭用浄水器及びそのフィルター,業務用浄水器及びそのフィルター・その他の浄水装置」であって,「ろ過機」や「業務用浄水器」のみならず,「家庭用空気清浄機」「家庭用アルカリイオン水生成器」「家庭用電熱用品類」及び「家庭用浄水器」などが含まれるものであるから,その取引者,需要者には,家庭用器具に関する一般的な消費者も含まれるものと認められる。

イ 以上の事実を前提として,本願商標から生じる称呼を検討すると,本願商標は,上部の図形部分と下部の文字部分とが上下に分かれており,両者が組み合わされていたりするものではないから,両者が不可分一体とはいえず,その図形部分からは,特定の観念及び称呼が生じないのに対し,文字部分は,文字数の少ない下段の「ROKICo.,Ltd.」が文字数の多い上段の「THE FILTRATION COMPANY」よりも視覚的にやや強調されるが,文字部分全体から生ずる称呼や上段と下段を分離して生じる称呼は,いずれも冗長なものと認められる。そして,上段の文字部分からは「フィルトレーション(濾過作用)に関する会社」との一般的な意味合いが生じるのに対し,下段の文字部分からは「ROKI」という特定の名称の会社を表示したものと認識されることなどを考慮すると,本願商標に接する一般的な取引者,需要者は,その称呼を検討する際,強調された下段部の「ROKICo.,Ltd.」の文字部分の中でも特定の会社名を表示した「ROKI」の欧文字に着目することも少なくないと解されるから,簡易迅速が要請される取引の場面において,本願商標は,当該文字部分に相応して簡潔に「ロキ」と称呼される場合もあるものといわなければならない。

この点について原告は,まず,本願商標の図形部分と文字部分とが一体性を高めるよう配置,デザインされているから,不可分一体のものと認識され,図形部分は,フィルターをイメージした縦の白いラインと濾過作用を表すフィルトレーションをイメージした横の白いラインとをデザイン化させたものであるなどと主張する。

しかし,本願商標の図形部分と文字部分とは上下に分かれており,図形部分が文字部分の背景となったり,文字部分が意匠化されて図形部分と組み合わされていたりするものではないことは前述のとおりであるから,両者は不可分一体のものとまではいえず,本願商標の図形部分が,仮に,原告が主張するような意図の下でデザインされてものであるとしても,本願指定商品の取引者,需要者は,上記のとおり,一般的な家庭用器具に関する消費者も含まれるのであるから,特にフィルターないし濾過作用を想定して本願商標に接するものではないことから,原告主張の意図をデザインしたものと認識するとはいえず,当該図形部分から特定の観念及び称呼が生じるものとは認められない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

また,原告は,その製品及び製品の包装等,ウェブサイト,新聞・雑誌広告・看板,販売促進物,取引関係書類並びに社内手続書類などに本願商標全体を一体として使用しているから,本願商標は常に全体が不可分一体の商標として取引者,需要者に認識,記憶,想起され,取引者,需要者が本願商標の一部のみを抽出して認識,記憶,想起することはないと主張する。

しかし,仮に,原告が本願商標をその図形部分と文字部分とを分離せずに一体として使用しているとしても,本願商標が,その構成自体において,図形部分と文字部分とが上下に分かれていること,文字部分のうちやや強調された下段部の中の特定の会社名を表示した「ROKI」の欧文字が注目されることは,前述したとおりであるから,取引者,需要者が本願商標の称呼を検討する際,常に全体を不可分一体と認識するとまでは考えられず,原告の上記主張は採用することができない。

さらに,原告は,本願指定商品には,第7類「ろ過機」や第11類「家庭用空気清浄機」など,フィルターを基盤とした機器ないし装置を含んでいるところ,「ろ過機」は,「ろ器」,「濾器」,「・※器」,「ろ機」,「濾機」又は「・※機」といった文字でも表され,いずれも「ロキ」と発音されるのが本願指定商品の業界,すなわち,濾器・フィルター業界において一般的となっていること,濾器・フィルター業界内には,原告及び引用商標1の権利者である株式会社ロキテクノのほか,「ロキ」の称呼が生ずる文字を含む商号の業者が多数存在することを理由に,これらの文字をアルファベット表記したものである「ROKI」という文字,及びこれらから生ずる「ロキ」という称呼自体,商品の出所を識別する機能がないか,著しく弱いものであると主張する。

しかし,本願指定商品は,前述のとおり,「ろ過機」や「家庭用空気清浄機」などのフィルターを基盤とした機器ないし装置だけでなく,「家庭用空気清浄機」「家庭用アルカリイオン水生成器」「家庭用電熱用品類」など,必ずしもフィルターを必須の構成としない商品やフィルターを使用していると直ちに認識できない商品も含まれているのであるから,原告の主張はその前提において誤りがあり,採用することができない。

ウ そうすると,審決が,「本願商標からは,「ROKI」の文字に相応して「ロキ」の称呼をも生ずるものというべきであり…」(4頁13行~14行)と認定したことに誤りはなく,原告主張の取消事由1は,理由がない。

(2)  取消事由2(引用商標1及び2に関する認定の誤り)について

ア 引用商標1

原告は,審決が,引用商標1について,「全体として「ROKI」の文字を表したものと容易に認識できるものであり,…「ロキ」の称呼を生ずるものであり,かつ,特定の観念を生じさせないものである。」(4頁18行~21行)と認定したことに関して,引用商標1は,「ROKI」の欧文字をモチーフにしたとの印象を与える図形を三本の白い横線が貫く構成からなり,この白い三本の横線は文字に通常用いられる表現方法といえない極めて特異なものであるから,「ROKI」の欧文字をモチーフにしていると視認することが不可能ではないとしても,それ以上に,三本の白い横線を特徴とする,全体の特異な表現・デザインこそが自他商品識別機能を果たしているものであり,単に「ROKI」の文字として認識されるというよりは,全体として1つの特徴的な図形として理解,認識されるものであって,特定の観念・称呼を生じないと主張する。

確かに,引用商標1は,前記第2,2(2)①記載のとおり,太いゴチック体からなる「ROKI」の欧文字が横書きされたとの印象を与える図形の中央部分を,三本の白い横線が右端から左端までを貫く構成からなるものであるところ,必ずしも明瞭ではない(とりわけ3番目の字が「K」と視認できるかにつき)ものの,「ROKI」の欧文字4字をデザイン化している図形と一応視認できることから,「ロキ」の称呼を生ずるものであり,特定の観念は生じないものと認められる。ただし,一般の消費者である本願指定商品の取引者,需要者にあっては,図形の意味が把握できず,明確に「ロキ」と称呼できない場合もあるものと推測される。

原告は,引用商標1の指定商品である第7類「ろ過機,その他の化学機械器具」及び第11類「浄水装置」は,いずれもフィルターを基盤とした機器ないし装置であるところ,フィルターを意味する言葉として,「ろ器」,「濾器」,「・※器」,「ろ機」,「濾機」又は「・※機」など,「ロキ」と称呼される言葉が業界で一般的に用いられている上,原告だけでなく「ロキ」の称呼が生ずる文字を含む商号の業者が多数存在するから,これらの文字のアルファベット表記である「ROKI」の文字及びそこから生ずる「ロキ」との称呼のみで商品の出所が識別されることは取引上ほとんど行われておらず,仮に引用商標1から「ロキ」の称呼が生じる場合があり得るとしても,現実の取引において「ロキ」の称呼のみをもって取引に資されることはないと主張する。

しかし,引用商標1の指定商品は,前記第2,2(1)①記載のとおり,「ろ過機」や「家庭用空気清浄機」などのフィルターを基盤とした機器ないし装置だけでなく,第7類及び第11類に含まれる多数の商品並びに第6類,第8類,第9類,第12類,第16類,第17類,第19類ないし第21類,第26類及び第28類に属する商品の一部を含むものであるから,そのごく一部の商品にすぎないフィルターを基盤とした機器ないし装置の取引に限定した旨の原告の主張は,その前提において誤りがあり,これを採用することはできない。

イ 引用商標2

引用商標2が,「ROKI」の欧文字4字を横書きにした構成からなり,「ロキ」との称呼が生じることは,当事者間に争いがないところ,原告は,引用商標2の指定商品に含まれる第11類「家庭用浄水器」等は,フィルターを基盤とした機器であり,濾器・フィルター業界においては,「ロキ」との称呼のみで商品の出所が識別されることは取引上ほとんど行われておらず,「ロキ」の称呼をもって取引に資されることはないから,引用商標2から「ロキ」の称呼が生じたとしても,それは商標の類否判断を行うに当たって特に考慮すべき程度のものとはいえないなどと主張する。

しかし,引用商標2の指定商品は,前記第2,2(2)②記載のとおり,第11類「照明用器具,石油ストーブ,石油コンロ,アイスボックス,家庭用電熱用品類,シャワー器具,家庭用浄水器,家庭用ごみ焼却炉,化学物質を充填した保温保冷具 」であるから,上記アと同様に,フィルターを基盤とした機器ないし装置の取引に限定した旨の原告の主張は,その前提において誤りがあり採用することができない。

ウ 以上のとおり,引用商標1及び2に関する審決の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由2には,理由がない。

(3)  取消事由3(類否判断の誤り)について

ア 引用商標2につき

引用商標2に係る商標権は,平成13年8月30日に商標登録出願され,平成14年8月23日に商標登録されたものであり,その存続期間満了日が平成24年8月23日である(商標法19条)ところ,その商標権者である株式会社星籌は,平成6年2月14日に設立され,平成17年10月26日午後5時に,東京地方裁判所から破産手続開始決定を受け(同年10月28日登記),平成18年5月11日に東京地方裁判所の破産手続終結決定が確定し(同年5月15日登記),同年5月15日に同社の登記簿が閉鎖されたものと認められる(甲126)。また,同社の破産手続終結決定が確定した平成18年5月11日から引用商標2に係る商標権の存続期間満了日である平成24年8月23日までの間,同社(破産管財人を含む。)及び同社からの使用許諾を受けた第三者が,当該商標を使用した又は使用すると認めるに足りる証拠はない。

そうすると,本願商標の出願時である平成20年5月27日,拒絶査定時である平成21年2月24日及び審決時である平成21年10月28日において,引用商標2がその正当な権利者(商標権者又はこれから使用許諾を受けた者)によって使用される可能性は極めて低いものと認められ,引用商標2と本願商標との間で商品の出所についての混同を生ずるおそれはないものというべきである。

被告は,商標法4条1項11号にいう先願の「他人の登録商標」は,後願の同一又は類似商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続しているものであれば足り,現実に使用されていることを必要とするものではなく,また,商標権者が破産前に引用商標2の使用を許諾した第三者によって同商標が使用されている可能性や,将来,第三者が引用商標2に係る商標権を承継して使用する可能性も否定できないから,引用商標2が本願商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続していた以上,本願商標と引用商標2との類否判断に影響を及ぼすものではないと主張する。

しかし,引用商標2に係る商標権者については,本願商標の出願登録前に破産手続終結決定が確定しており,当該商標権の存続期間満了日までの間,引用商標2がその正当な権利者(商標権者又はこれから使用許諾を受けた者)によって現実に使用される可能性は極めて低いものと認められるのであるから,引用商標2と本願商標との間で商品の出所についての混同を生ずるおそれはないものといえる。したがって,被告の主張は採用することができない。

以上のとおり,本願商標は,引用商標2との関係においては,商品の出所についての誤認混同のおそれのない非類似の商標であるから,商標法4条1項11号に該当するものではなく,この点に関する原告主張の取消事由3には理由がある。

イ 本願商標と引用商標1との類否判断につき

(ア) 外観

本願商標は,前記(1)アで認定したとおり,上部に配置され全体の約3分の2を占める図形部分と,下部に配置され全体の約3分の1を占める文字部分とから構成される結合商標であり,両者は区分して認識できるものの,図形部分は,左側にやや扁平で内部が中空の六角形の図形が,右側に十字形が配置され,十字形の内部の白のクロスラインが強調され左に伸びた部分が左側の六角形の内部と連通しており,かなり特徴的な形態であるから,本願指定商品の取引者,需要者は,当該図形部分に注目するものと認められる。また,文字部分は,上段に「THE FILTRATION COMPANY」の欧文字が,下段に「ROKICO.,Ltd.」の欧文字が配置されており,下段部及び「ROKI」の部分がやや強調されているものの,「ROKI」の部分のみが特徴的なものとは認められない。

他方,引用商標1は,前記(2)アで認定したとおり,「ROKI」の欧文字が横書きされたとの印象を与える図形の中央部分を,三本の白い横線が右端から左端までを貫く構成と認められる。

したがって,本願商標と引用商標1とは,その外観において大きく相違するものといわなければならない。

(イ) 観念

本願商標からは,前記(1)アで認定したとおり,上段の文字部分から「フィルトレーション(濾過作用)に関する会社」との一般的な意味合いが生じ,上段の文字部分については,後半の「Co.,Ltd.」の欧文字が法人組織の種類を表す英語表記「company limited」の略語として理解されることから,「ROKI」という特定の名称の会社を表示したと理解され,結局,本願商標全体は,「フィルトレーション(濾過作用)に関する「ROKI」という名称の会社」と観念されるものと認められる。

他方,引用商標1は,前記(2)アで認定したとおり,特定の観念を生じるものではない。

したがって,本願商標と引用商標1とは,その観念において比較できないものといえる。

(ウ) 称呼

本願商標からは,前記(1)アで認定したとおり,その文字部分全体から「ザフィルトレーションカンパニーロキシーオーエルティーディー」又は「ザフィルトレーションカンパニーロキカンパニーリミテッド」の称呼が生じ,上段の「THE FILTRATION COMPANY」から「ザフィルトレーションカンパニー」の称呼と下段の「ROKICO.,Ltd.」から「ロキシーオーエルティーディー」又は「ロキカンパニーリミテッド」の称呼が生じるとともに,「ロキ」の称呼も生じるものと認められる。

他方,引用商標1は,前記(2)アで認定したとおり,「ROKI」の欧文字4字をデザイン化している図形と一応視認できるものと解されるから,「ロキ」の称呼が生じるものと認められるが,本願指定商品の取引者,需要者にあっては,図形の意味が把握できず,必ずしも明確に「ロキ」と称呼できない場合もあるものと推測される。

したがって,本願商標と引用商標1とは,その称呼において一応共通するものの,場合によっては相違することもあるものと解される。

(エ) 本願商標の使用態様

証拠(甲23,73~110)によれば,原告は,インターネット上での自らのウェブサイト,新聞・雑誌における広告や設置した看板,製造納品する製品及び製品の包装,対外的な取引関係書類等において,本願商標をその図形部分及び文字部分全体を一体として使用するとともに,社報や社内手続書類,社用車,名刺,社員証などの社内物品においても,本願商標全体を一体として使用しているものと認められる。

そうすると,本願商標は,その文字部分と図形部分とが切り離されて使用されたり,図形部分中の「ROKI」の部分のみが使用されることは極めて少ないものと解される。

(オ) 類否判断

以上の本願商標と引用商標1との外観,観念,称呼についての比較検討の結果を踏まえて,全体的に考察すると,両商標は,称呼について共通する場合があるものの,外観において大きく相違し,観念においても比較できないものと認められるところ,「商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,従って,右三点のうちその一において類似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない。」(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)といえるから,本願商標がその図形部分と文字部分とが常に一体として使用されているという取引の実情も考慮すれば,本願商標を使用した商品が引用商標1を使用した商品とその出所につき誤認混同を生ずるおそれは極めて少ないものといえる。

したがって,審決が,本願商標と引用商標1とが称呼において共通する場合があることのみを重視し,両商標が類似すると判断したことは誤りであり,この点に関する原告の取消事由3には理由がある。

3  結論

以上によれば,原告主張の取消事由3は理由があり,本願商標が引用商標1及び2に類似し商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断は,誤りといわなければならない。

よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 清水節 裁判官 古谷健二郎)

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

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