大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成21年(行ケ)10421号 判決 2010年10月25日

原告

ジュピター オキシジェン コーポレーション

訴訟代理人弁理士

木村高久

被告

特許庁長官

指定代理人

長者義久

吉水純子

志水裕司

北村明弘

田村正明

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1原告の求めた判決

特許庁が不服2006-4610号事件について平成21年8月10日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,国際特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成13年(2001年)4月27日(米国)の優先権を主張して,平成14年3月22日,名称を「ガス式燃焼システムおよびその使用法」(平成14年9月3日付けの補正により「炉およびその炉を用いた酸素供給式燃焼システムまたは燃焼方法またはアルミニウム回収方法またはアルミニウム分離方法またはアルミニウム回収炉または廃棄物焼却装置廃棄物焼却方法若しくはその炉の制御方法」と変更)とする発明について国際特許出願(PCT/US02/08701,日本国における出願番号は特願2002-585679号)をし,平成14年9月2日に特許庁に翻訳文を提出し(甲8,国内公表公報は特表2004-520490号),数回の補正を経た後に拒絶査定を受けたので,不服の審判請求をした。

特許庁は,この請求を不服2006-4610号事件として審理し,その中で原告は,平成18年4月12日付けで特許請求の範囲等を変更する補正をしたが(甲23,請求項の数18),この補正は却下され,平成20年10月7日付けで特許請求の範囲等を変更する補正をしたところ(甲10,請求項の数18),特許庁は,平成21年8月10日,この補正に基づき発明の要旨を認定した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成21年8月25日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

平成20年10月7日付け補正による請求項の数は18であるが,そのうち【請求項1】は,次のとおりである(本願発明1)。

「少なくとも1つのバーナを有し,空気の侵入を実質的に防止するように構成され,水が入ったチューブが電気を発生させるスチームを発生する燃焼反応領域を有するように設計された炉と,

純度が少なくとも85%である酸素を供給する酸素供給源と,

炭素系燃料を供給する炭素系燃料供給源と,

前記酸素または前記炭素系燃料のいずれかの化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑えるように調整する制御装置を有する制御システムと

を備え,

前記炭素系燃料および前記酸素の燃焼によって4500°Fを超える火炎温度を形成し,前記炉からの排気流は,温度が1100°F以下である酸素供給式燃焼システム。」

3  審決の理由の要点

刊行物1(特開2001-21139号公報,公開日 平成13年1月26日,甲1)には,次のとおりの引用発明が記載されていると認められる。

「少なくとも1つの純酸素バーナを有し,密閉型に構成され,被加熱流体が入った熱交換チューブがバーナからの燃焼ガスによって被加熱流体を加熱する加熱領域を有するように設計された本体と,

酸素を供給する酸素供給源と,

炭素系燃料を供給する炭素系燃料供給源とを備え,

前記炭素系燃料および前記酸素の燃焼によって火炎を形成し,

前記本体からの排熱ガスは,温度が392~2012°Fである熱交換装置。」

本願発明1と引用発明とは,次のとおりの一致点で一致し,相違点(イ)~(ハ)で相違するが,相違点(イ)に係る本願発明1の構成は当事者が容易に想到できたことであり,相違点(ロ)の構成については,刊行物1に課題解決の示唆があり,また,例示された文献に記載されたとおり周知技術であったと認められるので,引用発明に周知技術を適用することは当業者が容易になし得たことであり,相違点(ハ)は実質的な差異でないから,本願発明1は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【一致点】

「少なくとも1つのバーナを有し,空気の侵入を実質的に防止するように構成され,燃焼反応領域を有するように設計された炉と,

純度が少なくとも85%である酸素を供給する酸素供給源と,

炭素系燃料を供給する炭素系燃料供給源と

を備え,

前記炭素系燃料および前記酸素の燃焼によって火炎を形成し,

前記炉からの排気流は,温度が1100°F以下である酸素供給式燃焼システム。」

【相違点(イ)】

本願発明1では,燃焼反応領域で,水が入ったチューブが電気を発生させるスチームを発生するのに対して,引用発明では,燃焼反応領域で,被加熱流体が入った熱交換チューブがバーナからの燃焼ガスによって被加熱流体を加熱するものの,電気を発生させるスチームを発生するか否か不明である点

【相違点(ロ)】

本願発明1では,酸素または炭素系燃料のいずれかを化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑えるように調整する制御装置を有する制御システムを備えるのに対して,引用発明では,このような制御装置を有する制御システムを備えるか否か不明である点

【相違点(ハ)】

本願発明1では,4500°Fを超える火炎温度を形成するのに対して,引用発明では,火炎温度が不明である点

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(一致点認定の誤り)

審決は,刊行物1の記載から,引用発明の「酸素」は「窒素を多量に含有しない高純度の酸素を意図したものであり」(6頁12行)と認定するが,刊行物1の「純酸素バーナ自体からNOxが発生することなく」(段落【0025】)という記載と,刊行物1全体に「純酸素バーナ」という用語が用いられていることからすると,引用発明のバーナに導入される酸化剤は純粋な酸素であり,窒素が全く含まれないものと判断すべきである。また,純酸素ということは,バーナに導入される酸化剤の組成は一定しているともいえる。

これに対し,本願発明1は,酸化剤として「純度が少なくとも85%である酸素」を用いており,ある程度の不純物を含み,また,品質にばらつきが生じるものと考えるべきである。

したがって,引用発明の「酸素」は,本願発明1の「純度が少なくとも85%である酸素」に相当するものではない。

2  取消事由2(相違点(ロ)に関する判断の誤り)

(1)  審決は,バーナに供給する燃料又は酸素を化学量論比に調整することは周知技術であるとし,特開昭54-83123号公報(甲4)および特表平11-503224号公報(甲3)を例示している(8頁8行~11行)。

しかしながら,特開昭54-83123号公報及び特表平11-503224号公報に記載されているのは,バーナに燃料と空気を供給して燃焼させる燃焼装置であり,刊行物1のような純酸素や本願発明1のような濃縮した酸素を酸化剤として用いる装置ではない。特開昭54-83123号公報及び特表平11-503224号公報により,バーナに供給する燃料又は空気を化学量論比に調整することが本願の優先権主張日前に周知技術であったことは認めるが,バーナに供給する燃料又は純度が少なくとも85%である酸素を化学量論比に調整することは,これらの文献には記載されておらず,周知技術であったとは認められない。

(2)  審決は,燃料又は酸素を化学量論比に制御するために,酸素の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制することは周知技術であるとし,特開平10-54509号公報(甲5)及び特開平7-324704号公報(甲6)を例示している(8頁12行~16行)。

しかしながら,特開平10-54509号公報の段落【0004】及び【0007】には,燃焼させる燃料の量を基準にした空気の使用量は燃料の完全燃焼に要する化学量論比の100~105%であることが記載されている。さらに,ここでの空気とは空気中に含まれる酸素に相当するものとして理解できることも記載されている。

燃料又は空気を化学量論比に制御するために,空気の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制することは,特開平10-54509号公報により本願の優先権主張日前に周知であったと認める。しかし,燃料又は純度が少なくとも85%である酸素を化学量論比に制御するために,酸素の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制することは,同公報には記載されておらず,周知技術であったとは認められない。

(3)  また,特開平7-324704号公報には,燃料および酸化剤を化学量論比の99~105%で燃焼させることが記載されている。加えて,酸化剤は空気又は空気よりも酸素濃度が高い流体であることが記載されている(段落【0005】)という点において,本願発明と共通しているようにみえる。

しかし,特開平7-324704号公報では,燃料と酸化剤とを化学量論比で炉に導入しているものの,燃焼温度は2200°F~3100°F(1204℃~1704℃)と本願発明の燃焼温度よりも明らかに低い。また,不完全燃焼による生成物が発生し(段落【0006】),排気ポートへさらなる酸化剤の導入を行う(段落【0008】)ことが記載されており,完全燃焼のためには二次酸化を必要としている。

一方,本願発明1では,二次酸化を行わずに完全燃焼を達成することができる。

したがって,本願発明1と特開平7-324704号公報とは技術的思想が大きく異なるものであり,燃料又は純度が少なくとも85%である酸素を化学量論比に制御するために,酸素の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制することは,周知技術であったとは認められない。

(4)  よって,引用発明に周知技術を組み合わせたとしても,本願発明1が想到容易であるとはいえない。

第4被告の主張

1  取消事由1に対し

(1)  引用発明において使用される酸素には,実質的に純粋な酸素のような高純度の酸素が使用されていると考えられる。ただ,「純粋な酸素」といっても,実用上は,工業用酸素の純度が「99.5%以上」であるように(「JIS K 1101」。乙2),酸素以外の物質を全く含まないのではなく,不純物程度の含有は許容されている。このため,審決は,「窒素が多量に含有しない」としたのであって,「窒素が全く含まれない」とは認定していない。

他方,本願明細書(翻訳文(甲8)及び平成16年3月16日付け手続補正書(甲9))の記載からすると,本願発明1は,「高純度の酸素」を使用することが好ましく,酸素の純度をできる限り高くするとしており,これには「酸素が100%純度」(段落【0044)】)のものも包含される。また,酸素の純度が「少なくとも85%である」点は,段落【0034】及び【0044】の記載からすると,酸素以外の成分を最大15%含有する酸素供給源でも利用可能であるとしているにすぎない。さらに,本願発明1は,純度が「85%~100%」の酸素を使用することを特定事項としている。この特定事項は,使用する酸素供給源を純度の数値範囲によって特定したものであり,その数値範囲に含まれる純度を有する酸素供給源であれば,当該特定事項に該当することになる。

以上のとおり,本願発明1の「純度が少なくとも85%である酸素を供給する酸素供給源」という特定事項は,高純度の酸素を対象としたものであり,それには100%あるいは100%に近い純度も含まれる。そうすると,引用発明における酸素は,本願発明で特定された酸素供給源の酸化剤に含まれることは明らかであり,審決の一致点の認定に誤りはない。

(2)  本願明細書に,本願発明の燃焼システムが「予め定められた純度の酸素を供給する酸素供給源」を有することが記載されているように(段落【0011】,【0020】),本願発明は,純度が85%~100%の範囲のうち,「予め定められた純度」の酸素をバーナに供給するものである。そうすると,使用される酸素供給源の酸素は,その高低はともかくとして「予め定められた純度」を一定に維持して供給されるから,供給される酸化剤として組成にバラツキが生じることは考えにくい。

2  取消事由2に対し

(1)  特開昭54-83123号公報及び特表平11-503224号公報には,燃焼装置において「燃料又は空気を化学量論比に調整する」ことが記載されている。

ところで,特表平11-503224号公報の「燃焼プロセスの化学量論比Φは,ある量の燃料を燃焼するために供給された酸素モル数を,同量の燃料を燃焼するのに理論的に必要な酸素モル数で割ることによって定まる。」(9頁11行~13行)という記載や,特開昭54-83123号公報の「化学量論という語は,広義に用いて,燃焼反応における反応剤としての元素および化合物の相対的割合を意味する。ここにおいて化学量論的比は,生成物中に過剰の反応剤を残すことなく完全な反応を行なう,反応剤の(燃料:酸化剤)の特定の比を意味する。たとえば,CH4:O2の化学量論的(分子)比は,CH4+2O2→CO2+2H2Oの平衡反応を行なうには1:2である。」(4頁右下欄14行~5頁左上欄1行)という記載によれば,燃焼における化学量論比とは,酸化剤中の酸素と燃料とが完全反応し完全燃焼する量を意味する。

そうすると,特開昭54-83123号公報及び特表平11-503224号公報の燃焼装置は,供給された空気中の酸素により燃料を燃焼させるものであり,かつ,「化学量論比に調整する」とは,燃料と酸化剤中の酸素とが完全反応(完全燃焼)する量,すなわち燃料の量と空気中の酸素の量とが化学量論比にすることを意味するのであるから,特開昭54-83123号公報及び特表平11-503224号公報には,実質的に「バーナに供給する燃料又は酸素を化学量論比に調整する」ことが記載されていることは明らかである。

したがって,審決の周知技術の認定が,バーナに燃料及び空気を供給して燃焼させる燃焼装置におけるものであるとしても,上記のとおり,化学量論比で調整される成分は,酸化剤(空気)中の酸素であることから,高純度の酸素を使用する引用発明に対して,審決が認定した「制御装置により,バーナに供給する燃料又は酸素を化学量論比に調整する」との周知事項を適用し,相違点に係る構成を想到することは,当業者が容易になし得ることである。

(2)  特開平10-54509号公報には,バーナに供給された燃料及び空気を化学量論比で燃焼させる装置において,空気の使用量として,燃料の完全燃焼に要する化学量論的量の100%以上~105%未満,すなわち化学量論比に対する余剰分が5%未満の範囲であることが示されている。

そして,上記(1)で述べたとおり,化学量論比で調整される成分は酸化剤(空気)中の酸素であるから,特開平10-54509号公報に記載された105%未満の空気量とは,実質的には,105%未満の酸素量を意味するものであって,「酸素の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制すること」が特開平10-54509号公報に開示されていることは明らかである。したがって,高純度の酸素を使用する引用発明に対して,「燃料又は酸素を化学量論比に制御するために,酸素の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制すること」という周知事項を適用し,相違点に係る構成を想到することは,当業者が容易になし得ることである。

(3)ア  特開平7-324704号公報には,バーナに燃料及び酸化体を供給して燃焼させる燃焼装置が記載されており,「実質的に化学量論比率での燃料及び酸化体を,煙管システムと連通し且つ装入物を含んでなる炉内に提供する」,「“実質的に化学量論の”とは化学量論の99%よりも小さく無い或は105%よりも大きいことを意味し」の記載(段落【0004】。ただし,「105%よりも大きい」は「105%よりも大きくない」の誤記である。)によれば,燃料又は酸化体を99%~105%の範囲で供給することが記載されている。したがって,特開平7-324704号公報に「燃料又は酸素を化学量論比に制御するために,酸素の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制すること」が開示されていることは明らかであり,審決の認定に誤りはない。

イ  なお,原告は,特開平7-324704号公報について,本願発明1よりも燃焼温度が低い旨主張している。

しかし,特開平7-324704号公報において,「2200°F乃至3100°F(約1204℃乃至約1704℃)」とされているのは,火炎によって生じた燃焼反応ガスが炉内に創出する温度である。他方,本願明細書の記載に照らすと,本願発明1についても,炉内温度は,約1300°F(約704℃)~2200°F(約1204℃)であって,特開平7-324704号公報の炉内温度よりも低い。

したがって,特開平7-324704号公報に記載された燃焼温度が本願発明の燃焼温度より低いことを根拠にして技術的思想が異なるとする原告の主張は,前提において失当である。

ウ  また,原告は,特開平7-324704号公報では二次酸化を必要としており,本願発明1とは技術的思想が異なる旨主張する。

しかし,特開平7-324704号公報の燃焼装置では,「燃料及び酸化体」を化学量論の99%~105%の比率で供給し,完全燃焼を実施しようとするものの,当該燃焼によっても不完全燃焼の生成物が幾らか創出されることから,完全燃焼を行うために,二次酸化を行っているにすぎない。

したがって,特開平7-324704号公報において,二次酸化を行う燃焼方法が記載されているとしても,化学量論の99%~105%の比率で酸化体を供給するとの技術的思想が開示されていることは明らかであって,技術的思想が大きく異なるとする原告の主張には理由がない。

第5当裁判所の判断

1  本願発明1の意義

本願明細書(翻訳文(甲8)及び平成16年3月16日付け手続補正書(甲9))の段落【0001】,【0011】,【0021】及び【0034】などの記載によれば,本願発明1は,酸化剤と燃料とを燃焼させる炉などの燃焼システムに関する発明であって,酸化剤として空気を供給する従来の燃焼システムでは,空気の約79%が窒素であることから,燃焼後にNOXが発生するなどの欠点があるのに対し,本願発明1では,酸化剤として純度85%以上である酸素を供給し,かつ,当該酸素と燃料とを供給する際に,化学量論比に対する酸素又は燃料の余剰分を5%未満に抑えるよう調整することで,燃焼生成物には酸化剤に由来する窒素が含まれないようにし,また,燃焼の際に窒素や余剰酸素等の加熱にエネルギーが利用されることがなくなり熱効率を向上させることができるなどというものであることが認められる。

2  引用発明

刊行物1(甲1)の記載によれば,引用発明は,酸化剤と燃料とを燃焼させる燃焼システムに関する発明であって,従来技術では酸化剤として空気を供給するため,バーナで燃焼した後にNOxが発生するなどの問題があるのに対し,引用発明では,燃料に純酸素を供給することで,バーナで燃焼した後にNOxを発生させないなどとするものであることが認められる。

3  取消事由1(一致点認定の誤り)について

(1)  原告は,審決が,引用発明の「酸素」は本願発明1の「純度が少なくとも85%である酸素」に相当するとした上,「純度が少なくとも85%である酸素」を一致点として認定したのは誤りである旨主張する。

上記1のとおり,本願発明1における酸化剤は,「純度が少なくとも85%である酸素」,すなわち純度が85%から100%までの酸素であるのに対し,上記2のとおり,引用発明の酸素は,純酸素,すなわち理論的には100%の酸素であるから,引用発明の「酸素」は,本願発明1の「純度が少なくとも85%である酸素」に含まれるのであって,審決がした一致点の認定につき原告主張の誤りはない。

(2)  ここで,本願発明1における酸化剤は,「純度が少なくとも85%である酸素」であって,15%までの不純物が含まれ得るという点で引用発明の酸素(純酸素)と一致しない場合があり得る。

しかし,上記1で認定した本願発明1の技術的課題と本願明細書の記載によれば,本願発明1は,従来技術である「空気」供給燃焼システムの欠点を解消するため,「酸素」供給式燃焼システムを提供するものであって,従来技術で用いられる「空気」は約79%が窒素であるため,燃焼後にNOXが発生するなどの欠点があるのに対し,本願発明1では,「本質的に純粋な酸素を…用い」(段落【0034】),「燃料とともに給送される窒素がないため,…排気に含まれる燃焼生成物には実質的に窒素が含まれ」ない(段落【0021】)というのであり,「濃度が約85%~約99+%である酸素であれば利用可能であるが,酸素濃度(すなわち酸素供給源の純度)は高いほど好ましい」とされている。このような作用効果,特に「燃料とともに給送される窒素がない」ことに照らすと,本願発明1は,基本的に,窒素の含まれない,純度の高い酸素を用いることを課題解決の手段とする発明であって,15%までの不純物を含み得るとの視点においての技術的意義はなく,若干の不純物であれば許容されるものとして数値範囲を定めたにすぎないものと解される。

他方,引用発明についても,上記2のとおり,従来技術の空気を供給するバーナに代えて純酸素バーナを用いることでNOxの発生を阻止するというものであって,窒素を含まない酸素を用いることを解決手段とするものと認められるから,解決すべき課題とこれに対する手段は本願発明1と同じである。

したがって,課題解決のための技術的意義の視点からみても,本願発明1の「純度が少なくとも85%である酸素」は引用発明の「酸素」と一致すると認められるのであって,審決の一致点認定に誤りはない。

(3)  また,原告は,引用発明の酸素は組成が一定しているのに対し,本願発明1の「純度が少なくとも85%である酸素」は品質にばらつきが生じる旨主張している(純度が変動し得る旨の主張と解される。)。

しかし,本願発明1の特許請求の範囲や発明の詳細な説明等の記載によっても,本願発明1について,酸化剤として用いる酸素の純度が変動するものに限定されたり,純度が一定のものが除外されたりするものとは認められない。

したがって,この点に関する原告の主張も採用することができない。

以上のとおり,取消事由1には理由がない。

4  取消事由2(相違点に関する判断の誤り)について

原告は,特開昭54-83123号公報,特表平11-503224号公報及び特開平10-54509号公報に記載された技術事項に関して,空気と燃料とを化学量論比に調整する,あるいは空気の余剰分を5%未満に抑制する技術は周知技術であったが,少なくとも純度が85%である酸素と燃料とを化学量論比に調整する,あるいは酸素の余剰分を5%未満に抑制する技術は周知技術ではなかったなどと主張する。

ここで,審決が特開昭54-83123号公報と特表平11-503224号公報を挙げたのは,制御装置により,バーナに供給する燃料又は酸素を化学量論比に調整することが周知技術であったとするためであり,この認定については原告も争っていない。調整される酸素は空気中に含まれる酸素に限定されるものではなく,また,「純度が少なくとも85%である酸素」もこれに含まれるから,この割合の酸素も調整対象として周知であったことは自明であり,この点に関する原告の主張は理由がない。

酸素の化学量論比に対する余剰分を5%未満に抑制することが周知であること自体についても,原告は争っておらず,5%未満に抑制される酸素も空気中に含まれる酸素に限定されるものではないから,以上の周知技術を参照して相違点(ロ)の本願発明1の構成に至ることは当業者にとって容易になし得たことというべきであり,この点の審決の判断に誤りはない。

取消事由2において原告が主張する点は,上記判断を左右するものではなく,理由がない。

以上のとおり,取消事由2は理由がない。

第6結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 清水節 裁判官 古谷健二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例