知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10047号 判決 2011年3月24日
原告
アルマーレ・エンジニアリング株式会社
被告
特許庁長官
指定代理人
伊波猛
北村明弘
田村正明
土屋真理子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2008-12410号事件について平成21年12月21日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,容易推考性の存否である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成18年9月21日,名称を「流動化処理土の製造方法」とする発明の特許出願(特願2006-256078号,請求項の数5)をしたが,平成20年4月7日付けで拒絶査定を受けたので,平成20年5月15日,拒絶査定に対する不服審判請求をした。
特許庁は,上記審判請求を不服2008-12410号事件として審理し,平成21年12月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。そして,審決謄本は平成22年1月12日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨
平成20年2月18日付けの手続補正書(甲6)により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明は,次のとおりである。
【請求項1】
少なくとも建設発生土などの再生原料を用い,
各原料の粒度などを分析する分析工程と,
流動化処理土の急硬性,弾性,強度特性など,用途に合わせて所定の品質を設計する設計工程と,
設計に基づいた原料を得るための原料の加工と粒度調整を行う,粒度調整工程と,設計に基づき,各原料を混合する原料混合工程と,
混合した原料に固化材と水と混和剤を加えて混練りする混練り工程と,
打設時において,硬化速度を調整するための混和材を添加して打設する打設工程とより構成した,
流動化処理土の製造方法。
3 審決の理由の要点
審決の理由の要点は,本願発明は,特開2002-371588号公報(刊行物1,甲13)に記載された引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
本願発明と引用発明との一致点,相違点1~4は次のとおりである。
【一致点】
「少なくとも建設発生土などの再生原料を用い,
各原料の土質を考慮する工程と,
流動化処理土の強度特性について,用途に合わせて所定の品質を設計する設計工程と,
設計に基づいた原料を得るための原料の加工と粒度調整を行う,粒度調整工程と,
設計に基づき,各原料を混合する原料混合工程と,
混合した原料に固化材を加えて混練りする混練り工程と,
打設工程とより構成した,
流動化処理土の製造方法。」
【相違点1】
「各原料の土質を考慮する工程が,本願発明は「粒度などを分析する分析工程」であるのに対し,引用発明は土質を考慮するものの,粒度を分析するかどうか明らかでない点。」
【相違点2】
「設計工程が,本願発明は「流動化処理土の急硬性,弾性,強度特性など,用途に合わせて所定の品質を設計する設計工程」であるのに対し,引用発明は,強度特性について,用途に合わせた所定の品質を設計するものであるが,急硬性や弾性などについての品質を設計するものではない点。」
【相違点3】
「混練り工程が,本願発明は「混合した原料に固化材と水と混和剤を加え」るものであるのに対し,引用発明は,予め水を混合した原料を用いるものであって,混練り時にさらに水を加えるかどうか明らかでなく,また,混和剤を加えるかどうかも明らかでない点。」
【相違点4】
「打設工程が,本願発明は「硬化速度を調整するための混和材を添加して打設する」ものであるのに対し,引用発明は混和剤を添加するかどうか明らかでない点。」
相違点1について,土質を考慮する指標として,分析して得られた粒度などを用いることは例示するまでもなく周知技術であるから,引用発明において,土質を考慮するにあたり,各原料の粒度などを分析するようにすることは,当業者が容易になし得たことである。
相違点2について,引用発明は,構造物直接支持地盤として用いられる流動化処理土の設計を行うものであって,例示されている「急硬性,弾性,強度特性など」のうち,少なくとも,「強度特性」について,用途に合わせた所定の品質を設計する設計工程を有するものであって,この点において引用発明と本願発明とは一致しているから,相違点2は,実質的に相違点とはいえない。なお,急硬性や弾性などについても,流動化処理土において,必要に応じてさまざまな特性の品質が求められることは技術常識であり,引用発明において,必要に応じて,硬化速度(急硬性)や弾性などについて,所望の品質を設計するようにすることは,当業者が容易になし得たことである。
相違点3,4について,まず,混練り時に水を加えるかどうかは,当業者が適宜選択すべきものであるから,引用発明において,混練り時に必要に応じて水を加えるようにすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。また,流動化処理土に混和剤を添加して硬化速度の調整等を行うことは,例えば,「土の流動化処理工法-建設発生土・泥土の再生利用技術」(久野悟郎編著,技報堂出版株式会社,1997年5月25日,1版1刷発行)の72頁(甲14)の9行~14行に記載されているとおり,周知技術である。その添加時期についても,混和剤の特性に応じて選択されるべきもの(例えば,速硬性混和剤を添加してから打設までに時間がかかると固化してしまうから,このようなものは打設時に添加すべき。)である。そうすると,引用発明において,混練り時に水や混和剤を添加したり,打設時に混和剤を添加したりすることは,所望する流動化処理土の品質に応じて,当業者が適宜なし得たことである。
そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測できた範囲内のものであって,格別なものということはできない。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点認定の誤り)
刊行物1記載の処理土は,構造物の基礎を直接支持する地盤に用いられるものであり,本願発明の流動化処理土のように,短期強度の必要性による「急硬性」や「弾性」を有することを目的とするものではない。
したがって,本願発明の流動化処理土と刊行物1の処理土とは,その用途(求めているもの)が異なり,一致するものではないから,審決が,流動化処理土を一致点として認定したのは誤りである。
2 取消事由2(相違点3,4に関する判断の誤り)
審決は,相違点4の混和剤の添加については,「土の流動化処理工法-建設発生土・泥土の再生利用技術」(久野悟郎編著,技報堂出版株式会社,1997年5月25日,1版1刷発行)の72頁(甲14)の9行~14行に記載されているとする。
しかし,甲14には,混和剤について記載されているだけで,「急硬性」や「弾性」のための混和剤の添加時期については,一切示唆されていない。また,そもそも,流動化処理土に「急硬性」や「弾性」を備えるための混和剤を用いる考え方も,一切示唆されていない。したがって,本願発明の「打設時において,硬化速度を調整するための混和剤を添加して打設する」考え方は,刊行物1及び甲14から導き出すことはできず,当業者が容易に発明できるものではない。
甲14の文献は,我が国における流動化処理土に関する基本的な文献であるにもかかわらず,審決が引用するその72頁以外の頁をみても,打設時に「急硬性」や「弾性」を備えるための混和剤を使用することは,全く記載されていない。「急硬性」や「弾性」は,混和剤の量を調整することによって制御されるものであるが,特に「弾性」に関する考え方は,全く記載されていない。したがって,流動化処理土の技術分野において,打設時に「急硬性」や「弾性」を備えるための混和剤を使用することが周知技術であるということはできない。
打設時に用いる「急硬性」や「弾性」を備えるための混和剤の具体例については,刊行物1や甲14の文献には全く記載されておらず,打設時に用いる混和剤について,当業者が実施できる程度に記載されていない。したがって,当業者は,刊行物1や甲14に基づき,打設時に用いる混和剤として,実施できる程度の混和剤を創作することはできない。
また,相違点3の混練り時に加える混和剤についても,同様に,「急硬性」や「弾性」の点が考慮されていない。
以上のとおり,本願発明の打設時や混練り時に用いる「急硬性」や「弾性」のための混和剤は,上記の文献に基づいて当業者が容易に発明できたものと判断することはできず,審決は誤りである。
3 取消事由3(効果に関する判断の誤り)
本願発明は,「打設時において,硬化速度を調整するための混和剤を添加して打設する」ことで,打設する現場ごとに混練り機を設置し,打設する直前に現場で再度混練りし,その後に打設するという不経済な方法を採用する必要が無くなるという作用効果を有する。また,本願発明において,混和剤の添加量や添加時期を調整することは,「急硬性」のみならず「弾性」を調整することができるという作用効果を有する。
本願発明の作用効果は,刊行物1や「土の流動化処理工法一建設発生土・泥土の再生利用技術」の文献を組み合わせたとしても達成できるものではない。
第4被告の反論
1 取消事由1に対し
本願発明の特許請求の範囲には,「流動化処理土の急硬性,弾性,強度特性など,用途に合わせて所定の品質を設計する設計工程」と特定されているのみであり,これによれば,流動化処理土の設計工程においてどのような特性を考慮するかについては,流動化処理土の「用途に合わせて」,「急硬性,弾性,強度特性など」の特性のうちの何れかを選択することが特定されているにすぎない。例えば,原告の主張する「急硬性やゴムのような弾性体」の品質が要求される用途であれば,それに関係する特性を任意に選択できるのであり,本願発明の特定事項は,「急硬性」や「弾性」を必須の特性として選択することまで特定したものといえない。
また,本願発明の特許請求の範囲には,「用途に合わせて所定の品質を設計する」と特定されているのみであって,流動化処理土の用途が何ら特定されている訳ではなく,しかも,その「急硬性,弾性,強度特性など」の特性と関連する「所定の品質」が具体的にどのようなものであるのかについても,何ら特定されていない。
したがって,原告の上記主張は,本願発明について,特許請求の範囲の記載ないしは明細書及び図面の記載に基づかない「流動化処理土」の定義を前提としたものであり,本願発明の流動化処理土と引用発明の処理土との用途に実質的相違はない。
2 取消事由2に対し
(1) 混和剤の配合について,本願発明の特許請求の範囲には,「混合した原料に固化材と水と混和剤を加えて混練りする」,「打設時において,硬化速度を調整するための混和材を添加して打設する」と特定されているのみである。そして,「硬化速度を調整する」ことには,硬化速度を促進させる調整だけでなく,硬化速度を遅延させる調整も含まれることから,「硬化速度を調整」が「急硬性」と同義であるとは直ちにいえないし,ましてや「弾性」と同義であるともいえない。したがって,ここにいう混和剤は,「急硬性」や「弾性」のためのものに限定されない。
また,本願明細書には,混練り時に添加される「混和剤」として,「硬化促進材」,「硬化遅延材」,「減水材」,「硬化しやくするするための補助材」,「硬化速度を鋭敏にする補助材」,「弾性を形成する混和剤」の各例が示され,また,打設時に添加される「混和剤」として,「硬化速度を調整するため…の混和剤」,「流動性を調整する混和剤」,「硬化速度を鋭敏化する混和剤」,「硬化速度を若干鈍く…するための混和剤」の各例が示されており,使用される「混和剤」には,「急硬性」や「弾性」のためのものだけではなく,その他種々の特性を得るために添加される「混和剤」も示されている。
したがって,本願発明において,流動化処理土の混練り時や打設時に添加される混和剤は,「急硬性」や「弾性」を備えるためのものに限定されるものではなく,原告の主張は前提において失当である。
(2) 甲14の文献には,①「流動性を一定に保つ」,「流動性を回復する」,「流動性を高める」,②「固化速度を増進させる」,「固化速度を調節する」,③「材料分離やブリーディングを防止する」,④「再掘削が容易な程度に固化強度を制御する」など種々の目的で,流動化処理土に,保持剤,分散剤,速硬性混和剤,減水剤,急結剤,遅延剤,増粘剤,気泡剤などの混和剤を用いることが記載されており,かかる混和剤の添加は本願出願前周知であったといえる。
よって,審決が,「流動化処理土に混和剤を添加して硬化速度の調整等を行うことは…周知技術である」(7頁15行~23行)と認定したことに誤りはない。
なお,上記の各混和剤の添加により,流動性,固化速度,固化強度などの性質を制御することができるのであり,本願明細書には,「弾性体を形成する混和剤」として,硬化しやすくするための補助材や,硬化遅延材あるいは流動性を調整する混和剤としての「…増粘材」が利用できること等が記載されているのであるから,「土の流動化処理工法一建設発生土・泥土の再生利用技術」の文献に記載された各混和剤に,急硬性や弾性などの特性を制御する混和剤が含まれていることは,自明の事項である。したがって,上記文献には急硬性や弾性を備えるための混和剤を用いる考え方が一切示唆されていないとする原告の主張には理由がない。
(3) 混和剤の添加時期について,甲14には,「プラントから離れた打設現場へ流動化処理土を運搬する場合,流動性が低下する。そこで,流動性を一定に保つ保持剤や,固化の進んだ流動化処理土の流動性を回復する分散剤などが用いられる。一方,供用中の道路下の埋設管埋戻しのように,埋戻し後の復旧が急がれる場合などには固化速度を増進させる速硬性混和剤が使われることもある。」と記載されているところ,その記載からすると,混和剤のうち,「保持剤」については,プラントにおいて,あるいは積込み直後の運搬中において,「分散剤」及び「固化速度を増進させる速硬性混和剤」については,打設現場において,あるいは打設現場到着直前の運搬中において添加されるものと理解される。
また,拒絶理由通知書で周知例として引用された特開2004-284844号公報(乙1)には,凝結硬化促進剤の添加を,各種セメント混和剤とは別個に,注入現場箇所で行うことが記載されている。
このような技術事項によれば,混和剤の添加を混練り時や打設時に行うようにすることは,混和剤の使用目的や用途に応じて普通に採用される事項である。よって,審決が,混和剤の添加時期について,「混和剤の特性に応じて選択されるべきもの(例えば,速硬性混和剤を添加してから打設までに時間がかかると固化してしまうから,このようなものは打設時に添加すべき。)である」(7頁24行~26行)と認定したことに誤りはない。
(4) 引用発明は,設定した調合強度に応じて配合量などを適宜決定できるものであって,本願明細書に例示された,「埋め戻し,および裏込め材などに用いる」(段落【0001】)ことができる程度にその調合強度を設定した流動化処理土を得ることを格別に排除するものではない。そうすると,そのような流動化処理土を得ることを含む引用発明において,混和剤の添加時期についての技術事項に基づき,混和剤の添加を混練り時だけではなく,打設時にも行うことは,当業者が容易になし得た設計事項であるというべきである。
したがって,相違点3,4について,審決が,「引用発明において,混練り時に水や混和剤を添加したり,打設時に混和剤を添加したりすることは,所望する流動化処理土の品質に応じて,当業者が適宜なし得たことである」(7頁27行~29行)と判断したことに誤りはない。
3 取消事由3に対し
(1) 混和剤の添加を,混練り時だけではなく打設時にも行うことは,甲14等において開示された混和剤の添加時期に関する技術事項に基づき,当業者が容易になし得た手段である。そうすると,かかる構成を用いた場合,流動化処理土は,すでに混練りされて調製されているから,打設時の混和剤の添加に際しては,混練り機によって再度混練りする方法を採用する必要がないことは自明の事項である。よって,上記の作用効果は予想できる範囲内のものである。
(2) 急硬性のみならず弾性を調整できるという作用効果についても,本願発明で使用される混和剤は,急硬性や弾性を付与するものに限定されるものではなく,また,混和剤は,流動化処理土に種々の特性を付与するために配合されるものであるから,予想できる作用効果である。
第5当裁判所の判断
1 本願発明について
本願明細書及び図面(甲1の1~5,甲6)によれば,本願発明は,流動化処理土の製造方法,詳細には,埋戻しや裏込材などに用いる急硬性流動化処理土の製造方法に関するものであり(段落【0001】),従来の製造方法は,泥水を作成し,打設箇所に混練り機を設置し,急硬性固化剤を泥水に添加して混練りし,製造,打設していたが(段落【0002】),このような方法では,不経済であり強度の制御が困難である,弾性のある裏込材であるゴムやゲル状の固形物は不経済である,また,ゴムは追従性に,ゲル状の固形物は強度に難点がある,コンクリートのような材料は再掘削が難しいなどの欠点があったことから(段落【0003】),そのような課題を解決するため,本願発明の請求項1に記載された構成を採用することで,経済的で施工性がよく,適当な硬化速度,強度特性,弾性を制御することが可能であり,打設工程で混和剤を添加する場合には人力による添加が可能な添加量を採用することが可能であるなどの効果を奏するというものである(段落【0005】,【0022】)。
2 引用発明について
刊行物1(甲13)によれば,引用発明について次のとおり認められる。
引用発明は,構造物建設現場において発生した残土を処理して得られる,構造物の基礎を直接支持する処理土,その製造方法等に関するものである(段落【0001】)。従来技術の流動化処理土は,地下空洞等の埋め戻しや充填が主であり,構造物の基礎を直接支持する地盤への適用を目的としたものではなかったことから,(段落【0003】),掘削土を被処理土とし,体積収縮やクラックの発生のない,高品質の処理土,その製造方法及び構造物直接支持地盤を提供することを目的とするものである(段落【0004】)。そのために,引用発明では,建設発生土を被処理土とし,これに水を加えて得た泥水を篩にかけて調整泥水を得る第1泥水製造工程と,この調整泥水に砂質土を加えて,一定密度の泥水を得る第2泥水製造工程と,この泥水にセメント系固化材を加えて一定範囲の密度,フロー値,ブリージング率を満たした流動化処理土を得る流動化処理土製造工程とを有する製造方法を採用し(段落【0012】),製造された流動化処理土は,例えばアジテータ車により現場に搬入され,構造物建設予定の直下にある所定の良好な支持地盤上に充填される(段落【0021】)。そして,流動化処理土の調合強度の設定は,品質基準強度を目標値とし,構造物建設発生土の土質,調整泥水や泥水の物性及びセメント系固化材などを考慮し,配合量などが適宜決定されるものである(段落【0017】)。
3 取消事由1(一致点認定の当否)について
原告は,本願発明と引用発明の「流動化処理土」が一致するとした審決の認定が誤りであると主張する。
しかし,上記1のとおり,本願発明は流動化処理土に関するものであり,他方,上記2のとおり,引用発明も,建設発生土から流動化処理土を製造するものであって,引用発明の処理土が流動化処理土であることは明らかである。したがって,審決が,流動化処理土を一致点として認定したことに誤りはない。
なお,原告は,本願発明の流動化処理土が,急硬性や弾性を備えることを目的とするものであるのに対し,引用発明の処理土はそうではないから,これらは一致しないと主張する。しかし,本願発明の特許請求の範囲には,流動化処理土について,「流動化処理土の急硬性,弾性,強度特性など,用途に合わせて所定の品質を設計する設計工程」と特定されているにとどまり,急硬性又は弾性を備えることを目的とするものに限定されるものではないから,原告の上記主張は,本願発明の構成に基づかない主張であって,採用することができない。
以上のとおり,取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(相違点3,4に関する判断の当否)について
原告は,本願発明の流動化処理土が急硬性又は弾性を備えるものであることを前提として,刊行物1や「土の流動化処理工法-建設発生土・泥土の再生利用技術」の文献には,急硬性又は弾性を備えるために打設時に混和剤を用いる考え方が開示されていないから,これらの文献に基づいて,当業者が,本願発明の「打設時において,硬化速度を調整するための混和剤を添加」するという構成や,混練り時に混和剤を加えるという構成を想到することは容易ではない旨主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲には,流動化処理土について,「流動化処理土の急硬性,弾性,強度特性など,用途に合わせて所定の品質を設計する設計工程」と特定されているにとどまり,急硬性又は弾性を必須の構成とするものであるとは認められない。また,混練り時に加える混和剤については,「混和剤」という以上の特定はされておらず,打設時の混和剤の添加についても,「硬化速度を調整するため」と特定されているにすぎず,いずれも急硬性又は弾性を備えるための混和剤の添加を必須の構成とするものとは認められない。
したがって,原告の主張は,その前提を欠く。
そして,上記のような限定がされない,一般的な,混和剤の添加やこれによる硬化速度の調整については,「土の流動化処理工法一建設発生土・泥土の再生利用技術」の72頁(甲14)に,「「混和剤」は,流動性や固化時間等の調整のために添加される材料である。流動化処理土は,時間の経過とともにセメントの固化が始まるので,プラントから離れた打設現場へ流動化処理土を運搬する場合,流動性が低下する。そこで,流動性を一定に保つ保持剤や,固化の進んだ流動化処理土の流動性を回復する分散剤などが用いられる。一方,供用中の道路下の埋設管埋戻しのように,埋戻し後の復旧が急がれる場合などには固化速度を増進させる速硬性混和剤が使われることもある。」と記載されているように,周知であると認められる。また,混和剤の添加時期を打設時とすることについても,技術常識に照らし,例えば,速硬性混和剤を添加する場合には,流動化処理土の使用前の固化を避けるために,使用直前である打設時に添加するなど,混和剤の性質に応じて適宜選択し得るものといえる。
したがって,相違点3,4の混和剤の添加に関する審決の判断に誤りはない。
以上のとおり,取消事由2も理由がない。
5 取消事由3(効果に関する判断の当否)について
原告は,本願発明について,「打設時において,硬化速度を調整するための混和剤を添加して打設する」ことで,打設する現場ごとに混練り機を設置し,打設する直前に現場で再度混練りし,その後に打設するという不経済な方法を採用する必要が無くなるという作用効果を奏すると主張する。
しかし,本願明細書及び図面(甲1の1~5,甲6)には,混練り機を設置するかどうかに関して,従来技術では打設箇所に混練り機を設置すること(段落【0002】),発明の効果として,「…打設工程において混和剤を添加する場合には人力による添加ができる添加量と添加方法を採用…」すること(段落【0005】),打設工程として,「…打設時に最終的な流動性の調整として硬化速度を調整するために微量の混和剤を添加して打設する…」こと(段落【0015】)が記載されているものの,本願発明の特許請求の範囲においては,「打設時において,硬化速度を調整するための混和剤を添加して打設する」と特定されているにすぎず,混練り機を設置しないことや,人力で添加し得る混和剤の添加量・添加方法については特定されていないのであるから,原告の上記作用効果に関する主張は,本願発明の構成に基づかない主張であって,採用することができない。
また,原告は,本願発明について,急硬性のみならず,弾性を調整することができるという作用効果を有すると主張する。
しかし,既に説示したとおり,本願発明は,急硬性又は弾性を備えることを必須の構成とするものとは認められない。したがって,原告の上記主張も,本願発明の構成に基づかない主張であって,採用することができない。
以上のとおり,取消事由3も理由がない。
第6結論
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 清水節 裁判官 古谷健二郎)