知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10157号 判決 2011年2月28日
原告
株式会社プロリンク
訴訟代理人弁理士
八木澤史彦
同
佐藤武史
被告
日本電信電話株式会社
被告補助参加人
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
被告補助参加人
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ
被告訴訟代理人兼被告補助参加人ら訴訟代理人弁護士
水谷直樹
同
曽我部高志
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が取消2009-300343号事件について平成22年4月7日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 被告の商標権
被告は,「NTTデータ」の文字を標準文字により表してなり,第35類ないし第45類に属する別紙1記載の役務を指定役務とする登録第4657563号商標(平成14年3月18日登録出願・商願2002-21196号,平成15年3月28日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
2 審判請求に至る経緯
(1) 原告は,工業所有権,映像,文芸,美術,音楽に関する著作権などの財産権の取得,譲渡並びに貸与等を目的とする株式会社であり,正林国際特許商標事務所の業務を受託している(弁論の全趣旨)。
(2) 被告は,東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社(以下「地域会社」という。)がそれぞれ発行する株式の総数を保有し,地域会社による適切かつ安定的な電気通信役務の提供の確保を図ること並びに電気通信の基盤となる電気通信技術に関する研究を行うことを目的とする株式会社である。
被告補助参加人株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「補助参加人A」という。)は,電気通信事業,データ通信システムの開発及び保守の受託,販売並びに賃貸,データ通信システムに係るソフトウェア又は装置の開発及び保守の受託,販売並びに賃貸等を目的とする株式会社であり,被告の子会社である。本件商標は,補助参加人Aの略称として著名である(甲3,6,7,弁論の全趣旨)。
被告補助参加人株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ(以下「補助参加人B」という。)は,情報システムの受託開発,運用保守の販売ならびに賃貸等を目的とする株式会社であり,補助参加人Aが60%,積水化学工業株式会社(以下「積水化学」という。)が40%を出資しており,各種会社の業務支援システム(コンピュータプログラム)の開発などを行っている。補助参加人Bは,補助参加人Aを中心とする企業グループ及び積水化学を中心とする企業グループのいずれにも属している(甲4,7,弁論の全趣旨)。
(3) 原告は,原告及び正林国際特許商標事務所における工業所有権の出願手続等を支援するコンピュータシステムの作成業務を補助参加人Bに委託することとし,そのために,補助参加人Bとの間で,平成18年11月1日,取引基本契約を締結し,平成19年6月1日,同日付け個別契約により,「国内出願業務支援システム開発第1段階(サーバ開発)」に関する業務を補助参加人に委託し(甲8),同年9月1日,同日付け個別契約により,「国内出願業務支援システム開発第2段階(クライアント開発)」に関する業務を補助参加人に委託した(甲23)。
補助参加人Bは,上記コンピュータシステムを開発し,平成20年(2008年)5月,原告に納入し,原告は,「国内出願業務支援システム開発第1段階(サーバ開発)」,「国内出願業務支援システム開発第2段階(クライアント開発)」について検収書を作成し,補助参加人に交付した(甲25の1,2)。
しかし,原告は,納入されたシステムには不備があると主張している。
3 特許庁における手続の経緯
原告は,平成21年3月18日,以下の理由により,被告を被請求人として,商標法53条1項の規定により本件商標の登録の取消しを求めて審判を請求した(取消2009-300343号)。
すなわち,原告は,補助参加人らが,本件商標の通常使用権者であり,補助参加人Bは,本件商標に類似する使用標章(別紙2記載1,2の標章。以下,別紙2記載1の標章を「使用標章1」,別紙2記載2の標章を「使用標章2」といい,これらを包括して「使用標章」という。)及び結合標章(別紙3記載1,2の標章。以下,別紙3記載1の標章を「結合標章1」,別紙3記載2の標章を「結合標章2」といい,これらを包括して「結合標章」という。)を使用するものであるとした上,補助参加人らは,広告等により,本件商標の指定役務である「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守及びこれらに関する助言・指導」について,高質な役務を提供するという印象を需要者に与えていたにもかかわらず,補助参加人Bが原告に提供した役務の質は,極めて低質であったから,補助参加人Bは,本件商標に類似する商標の使用であって役務の質の誤認を生ずるものをしたと主張して,商標法53条1項の規定により本件商標の取消しを求めた。
特許庁は,平成22年4月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。
4 審決の理由
別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。
(1) 補助参加人らは,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはいえない。
(2) 補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標であるとはいえない。
(3) 使用標章,結合標章について,補助参加人Bによる商標としての使用があったとは認められない。
(4) 補助参加人Bが,本件商標の役務の質の誤認を生じさせたとは認められない。
(5) そうすると,補助参加人Bによる使用標章,結合標章の使用は,商標法53条1項の要件を欠くので,本件商標の登録は取り消すことはできない。
第3取消事由に関する原告の主張
審決には,通常使用権者等への該当性に関する判断の誤り(取消事由1),商標の類否判断の誤り(取消事由2),商標としての使用の有無に関する判断の誤り(取消事由3),役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由4)があり,これらの判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。
1 通常使用権者等への該当性に関する判断の誤り(取消事由1)
補助参加人らは,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはいえないとした審決の判断は,誤りである。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,①被告は,補助参加人らに資本参加していること,②補助参加人らの商号中に本件商標と同じ「NTTデータ」との文字が含まれていること,③被告と補助参加人らが同一の企業グループに属すること,④補助参加人らが「NTTデータ」との文字を含む標章を使用しているにもかかわらず,商標権者である被告が何らの権利行使もしていないことから,補助参加人らは,本件商標の通常使用権者であると推認される。甲54,55,66ないし69,71,75によれば,被告及び補助参加人Aは,補助参加人Aが本件商標の使用権者であることを認めている。また,補助参加人Bは,補助参加人Aとともに被告を中心とする企業グループに属しており,本件商標と同じ「NTTデータ」との文字を含む商標を使用しているから,補助参加人Bも本件商標の使用権者である。
2 商標の類否判断の誤り(取消事由2)
審決は,補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標であるとはいえないと判断した。しかし,使用標章は,以下のとおり,本件商標と類似するから,審決の上記判断は誤りである。
(1) 使用標章1について
使用標章1は,「株式会社」との文字が上段に,「NTTデータセキスイシステムズ」との文字が下段に記載され,二段に分離して表示されているから,会社の略称としてのみ認識されるものではない。また,会社の略称として認識されたとしても,そのことから直ちに,商標であることが否定されるわけではない。
本件商標の「NTTデータ」との文字のうち,「データ」の部分は識別力が弱く,「NTT」の部分は著名表示であるから,取引者・需要者には,「NTT」の部分が強く印象づけられる。他方,使用標章1の「NTTデータセキスイシステムズ」との文字のうち,「データ」の部分と「システムズ」の部分は,補助参加人が提供する役務を示すから識別力が弱いのに対し,「NTT」,「セキスイ」の部分は,いずれも著名表示であり,取引者・需要者には,「NTT」,「セキスイ」の部分が強く印象づけられる。そして,使用標章1のうち強く印象づけられる「NTT」の部分は,本件商標の「NTT」の部分と,外観,称呼及び観念において共通する。
したがって,本件商標と使用標章1は類似する。
(2) 使用標章2について
使用標章2は,「株式会社」との文字と「NTTデータセキスイシステムズ」との文字の間にスペースがあり,前者が後者よりやや小さく表されているから,「NTTデータセキスイシステムズ」との文字が「株式会社」との文字と分離して認識される。そして,使用標章1の場合(前記(1))と同様に,使用標章2においても,取引者・需要者には,「NTT」の部分が強く印象づけられ,「NTT」の部分は,本件商標の「NTT」の部分と外観,称呼及び観念において共通する。
したがって,本件商標と使用標章2は類似する。
3 商標としての使用の有無に関する判断の誤り(取消事由3)
審決は,使用標章,結合標章について,補助参加人Bによる商標としての使用があったとは認められないと判断した。しかし,使用標章,結合標章は,以下のとおり,補助参加人Bにより商標的使用態様において使用されたから,審決の上記判断は誤りである。
(1) 使用標章1,結合標章1について
使用標章1,結合標章1を表示した名刺は,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守の役務の提供に際して交付されたものであるから,使用標章1,結合標章1は,役務との具体的関係において使用されたものであり,商標的使用態様において使用されたといえる。
(2) 使用標章2,結合商標2について
使用標章2,結合商標2は,補助参加人Bのサービスが記載されたウェブページに表示されており,サービスとの具体的関係において使用されているから,商標的使用態様において使用されたといえる。
4 役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由4)
審決は,補助参加人Bが,本件商標の役務の質の誤認を生じさせたとは認められないと判断したが,その判断は,以下のとおり,誤りである。
すなわち,補助参加人らは,甲5に抜粋された広告,甲6の書籍,甲7(CSR報告書)等により,本件商標の指定役務である「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守及びこれらに関する助言・指導」について,被告に期待されるのと同様に高質な役務を提供するという印象を需要者に与えていた。しかし,甲9の1,2,甲10の1ないし5,甲11,甲13の1,2によれば,補助参加人Bが原告に提供した役務の質は極めて低質であった。したがって,補助参加人Bは,本件商標に類似する商標の使用であって役務の質の誤認を生ずるものをしたといえる。
5 審決の結論への影響
以上によれば,補助参加人Bによる使用標章,結合商標の使用は,商標法53条1項の要件を充たしている。したがって,「補助参加人Bによる使用標章,結合標章の使用は,商標法53条1項の要件を欠くので,本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断は誤りである。
第4被告及び補助参加人らの反論
審決は,その判断に誤りはなく,取り消されるべき違法はない。
1 通常使用権者等への該当性に関する判断の誤り(取消事由1)に対し
補助参加人らは,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはいえないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
すなわち,原告が主張する①被告が補助参加人らに資本参加していること,②補助参加人らの商号中に本件商標と同じ「NTTデータ」との文字が含まれていること,③被告と補助参加人らが同一の企業グループに属すること,④補助参加人らが「NTTデータ」との文字を含む標章を使用しているにもかかわらず,商標権者である被告が何らの権利行使もしていないこととの事実から,補助参加人らが通常使用権者であると認定することはできない。
また,使用標章,結合標章及び補助参加人Bの商号である「株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」との表示は,後記2のとおり,いずれも本件商標と類似しないから,これらの表示を使用していることを根拠として,本件商標の通常使用権が許諾されているとはいえない。
したがって,補助参加人らは,本件商標に係る専用使用権者又は通常使用権者であるとはいえない。
2 商標の類否判断の誤り(取消事由2)に対し
補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標であるとはいえないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 使用標章1について
使用標章1は,以下のとおり,本件商標と類似しない。
本件商標と使用標章1を対比すると,本件商標は「NTTデータ」の文字を標準文字により表してなるのに対し,使用標章1は,識別力のない「株式会社」との文字部分を除いても,「NTTデータセキスイシステムズ」との15文字からなるものであり,本件商標と使用標章1とは,外観において異なる。また,本件商標は「えぬてぃてぃでーた」との称呼が生ずるのに対し,使用標章1は「株式会社」との文字部分を除いても「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」との称呼が生ずるものであり,本件商標と使用標章1とは,称呼において異なる。さらに,本件商標からは,補助参加人Aの名称との観念が生じるのに対し,使用標章1からは補助参加人Bの名称との観念を生じ,本件商標と使用標章1とは,観念において異なる。
使用標章1は,「NTTデータ」との文字を含む点で,本件商標と共通するが,その故に使用標章1と本件商標が類似するとはいえない。すなわち,使用標章1のうちの「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,各文字の書体,大きさ,間隔,配置等が等しく,全体としてまとまりよく一連一体として表記されており,「NTTデータ」又は「NTT」の部分のみが殊更強調して表示されていることはない。そのため,「NTTデータ」又は「NTT」の部分のみが取引者・需要者に強く支配的な印象を与えることはなく,補助参加人Bが,「NTTデータ」又は「NTT」との略称によって特定されることもない。実際上も,補助参加人Bの略称は「NDiS」であり,「NTTデータ」又は「NTT」ではない。このように,使用標章1のうち「NTTデータ」又は「NTT」の部分は,その他の部分と区別してその部分のみが取引者・需要者に強く支配的な印象を与えるものではないから,使用標章1が「NTTデータ」又は「NTT」との文字を含む点で本件商標と共通するとしても,そのことの故に使用標章1と本件商標が類似するとはいえない。
したがって,本件商標と使用標章1は類似しない。
(2) 使用標章2について
使用標章2は,以下のとおり,本件商標と類似しない。
本件商標と使用標章2を対比すると,両者の構成は基本的に異なり,本件商標と使用標章2の外観は異なる。そして,使用標章1の場合(前記(1))と同様に,使用標章2においても,称呼,観念は本件商標と異なる。
したがって,本件商標と使用標章2は類似しない。
なお,補助参加人Bの商号である「株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズ」との表示も,使用標章2と同様に本件商標とは類似しない。
(3) 小括
以上のとおり,使用標章は,本件商標と類似しない。したがって,補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標であるとはいえないとした審決の判断に誤りはない。
3 商標としての使用の有無に関する判断の誤り(取消事由3)に対し
使用標章,結合標章について,補助参加人Bによる商標としての使用があったとは認められないとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 使用標章について
甲14の1,2,甲53の1ないし4(補助参加人Bのウェブページ)に使用標章2が付されていたとしても,そのウェブページに表示されている内容は,パッケージソフトやインターネットを通じたソフトウェアの提供に関するものであり,本件商標の指定役務である「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守及びこれらに関する助言・指導」とは異なるから,使用標章2が上記指定役務について使用されたとはいえない。
(2) 結合標章について
原告が,結合標章1の商標的使用の証拠として挙げる甲16の1ないし12(補助参加人Bの職員の名刺),結合標章2の商標的使用の証拠として挙げる甲14の1,2,甲53の1ないし4(補助参加人Bのウェブページ)において,結合標章は,「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」という補助参加人Bの名称とともに表示されているから,結合標章は,補助参加人Bが補助参加人Aの企業グループの一員であることを示しているにすぎず,商標として使用されているとはいえない。
結合標章は,被告の登録第3084129号商標(「NTT」の文字と「DaTa」の文字を上下二段に横書きにしたもの,甲26の1,2)と補助参加人Aの登録第3086207号商標(10個の白点を三角形状に配した図形,甲27の1,2)を結合したものであるから,補助参加人Bは,これらの商標と異なる結合標章を使用していることにはならない。
4 役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由4)に対し
補助参加人Bが,本件商標の役務の質の誤認を生じさせたとは認められないとした審決の判断に誤りはない。
すなわち,甲5ないし7等は,補助参加人らが顧客に提供する役務の内容や質を特定したり広告するものではないし,補助参加人Bが原告に提供した役務の質が極めて低質であったということもないから,補助参加人Bが,本件商標の役務の質の誤認を生じさせたとは認められない。
5 審決の結論への影響に対し
以上によれば,補助参加人Bによる使用標章,結合商標の使用は,商標法53条1項の要件を充たしておらず,したがって,「補助参加人Bによる使用標章,結合標章の使用は,商標法53条1項の要件を欠くので,本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,「補助参加人Bによる使用標章,結合標章の使用は,商標法53条1項の要件を欠くので,本件商標の登録は取り消すことはできない」とした審決の判断に誤りはないと解するものであり,その理由は,以下のとおりである。
1 商標の類否判断の誤り(取消事由2)について
事案にかんがみ,まず,取消事由2の当否について検討する。当裁判所は,補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないとした審決の判断に誤りはないと解するものであり,その理由は,以下のとおりである。
(1) 使用標章1について
ア 本件商標の外観,称呼及び観念
本件商標は,「NTTデータ」の文字を標準文字により表してなるものである。本件商標は,「えぬてぃてぃでーた」との称呼を生ずる。本件商標は,これに相当する普通名詞はなく,特定の観念は生じない。
イ 使用標章1の外観,称呼及び観念
使用標章1の外観は,別紙2記載1のとおりである。すなわち,「株式会社」と「NTTデータセキスイシステムズ」の文字を二段に横書きしてなるものであり,使用標章1に用いられた各文字は,いずれもゴシック体で,ほぼ同じ大きさである。
使用標章1は,その全体から「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」,又は株式会社を除いた部分から「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」とのいずれかの称呼を生じる。
使用標章1は,「株式会社」,「データ」,「システム」との文字を含むことから,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるが,一方で,使用標章1の全体又は「NTTデータセキスイシステムズ」の部分のいずれに相当する普通名詞も存在しないことに照らせば,特定の観念を生じないというべきである。
ウ 本件商標と使用標章1との類否
本件商標は,「NTTデータ」(6文字)の文字を標準文字により表してなるものであるのに対し,使用標章1は,「株式会社」(4文字)と「NTTデータセキスイシステムズ」(15文字)の文字を二段に横書きしてなるものであるから,本件商標と使用標章1は,外観において異なる。
本件商標は,「えぬてぃてぃでーた」との称呼を生ずるのに対し,使用標章1は,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」との称呼を生ずるから,本件商標と使用標章1は,称呼において異なる。
本件商標は,データ関係の名称であるとの推測を生ずる余地があるとしても,格別の観念を生じない。また,使用標章1も,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるものの,むしろ,格別の観念は生じないというべきである。したがって,本件商標と使用標章1とは,観念において同一とはいえない。
上記のとおり,本件商標と使用標章1は,外観,称呼において異なり,観念において同一とはいえない。また,その取引の実情を考慮した場合に,本件商標と使用標章1の類似性を肯定すべき格別の事情があることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件商標と使用標章1は,類似しないというべきである。
エ 原告の主張に対し
原告は,本件商標の「NTTデータ」との文字のうち,「データ」の部分は識別力が弱く,「NTT」の部分は著名表示であるから,取引者・需要者には,「NTT」の部分が強く印象づけられるとし,他方,使用標章1の「NTTデータセキスイシステムズ」との文字のうち,「データ」の部分と「システムズ」の部分は,補助参加人Bが提供する役務を示すから識別力が弱いのに対し,「NTT」,「セキスイ」の部分は,いずれも著名表示であり,取引者・需要者には,「NTT」,「セキスイ」の部分が強く印象づけられるとした上で,使用標章1のうち強く印象づけられる「NTT」の部分と本件商標の「NTT」の部分は,外観,称呼及び観念において共通するから,本件商標と使用標章1は類似すると主張する。しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,採用することはできない。
すなわち,本件商標のうち「データ」の部分は,被告の提供する役務に関連する普通名称であり,本件商標がデータ関係の名称であるとの推測を生じさせる余地があり,また,「NTT」は,被告を示す著名表示である。しかし,本件商標は,「NTTデータ」の文字を標準文字により表してなるものであり,「NTT」の部分のみが殊更目立つ態様のものではないから,これに接した取引者・需要者は,本件商標全体を一体として把握するものと認められ,「NTT」の部分のみを取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできない。
他方,使用標章1のうち「データ」の部分と「システムズ」の部分は,補助参加人Bの提供する役務に関連する普通名称であり,使用標章1が電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生じさせるものである。また,「NTT」は,被告を示す著名表示であり,「セキスイ」は積水化学又は積水化学を中心とした企業グループを示す著名表示である(弁論の全趣旨)。しかし,使用標章1のうち「株式会社」の部分は会社の種類を示すにとどまり,自他役務の識別機能が弱いとしても,「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,より強い自他役務の識別機能を有しており,さらに,「NTTデータセキスイシステムズ」の部分は,各文字がいずれもゴシック体でほぼ同じ大きさであり,まとまりよく一連に記載されているから,これに接した取引者・需要者は,この部分全体を一体として把握するものと認められる。そして,使用標章1において,「NTTデータ」の部分は,15文字からなる「NTTデータセキスイシステムズ」の部分に包含されており,6文字を占めるにとどまるから,殊更に他の構成部分と切り離し,「NTTデータ」の部分のみを取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできないし,原告が主張するように「NTT」の部分のみを取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすこともできない。
したがって,本件商標と使用標章1が,「NTTデータ」又は「NTT」の部分で共通するとしても,使用標章1のうちの「NTTデータ」又は「NTT」の部分だけを本件商標と比較して本件商標と使用標章1が類似するとすることはできず,原告の主張は,採用することができない。
(2) 使用標章2について
ア 使用標章2の外観,称呼及び観念
使用標章2の外観は,別紙2記載2のとおりである。すなわち,「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字を横書きしてなるものであり,使用標章2に用いられた各文字は,いずれもゴシック体で,ほぼ同じ大きさである。
使用標章2は,使用標章1と同様に,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」のいずれかの称呼を生じ,特定の観念を生じない。
イ 本件商標と使用標章2との類否
本件商標は,「NTTデータ」の文字を標準文字により表してなるものであるのに対し,使用標章2は,「株式会社NTTデータセキスイシステムズ」の文字を横書きしてなるものであるから,本件商標と使用標章2は,外観において異なる。
本件商標は,「えぬてぃてぃでーた」との称呼を生ずるのに対し,使用標章2は,「かぶしきがいしゃえぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」又は「えぬてぃてぃでーたせきすいしすてむず」のいずれかの称呼を生ずるから,本件商標と使用標章2は,称呼において異なる。
本件商標は,格別の観念を生じない。また,使用標章2も,電子計算機のプログラム関連の会社の名称であるとの推測を生ずる余地があるものの,格別の観念は生じないというべきである。したがって,本件商標と使用標章2とは,観念において同一とはいえない。
上記のとおり,本件商標と使用標章2は,外観,称呼において異なり,観念において同一とはいえない。また,その取引の実情を考慮した場合に,本件商標と使用標章2の類似性を肯定すべき格別の事情があることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件商標と使用標章2は,類似しないというべきである。
そして,使用標章2のうち「NTTデータ」又は「NTT」の部分だけを本件商標と比較して本件商標と使用標章2が類似するとの原告の主張を採用することができない点は,前記(1)エで述べたとおりである。
2 商標としての使用の有無に関する判断の誤り(取消事由3)について
また,当裁判所は,審決に,商標としての使用の有無に関する判断の誤りがあるとの原告の主張(取消事由3)は,審決の取消事由として理由がないものと解する。その理由は,以下のとおりである。
(1) 結合標章1について
甲16の1ないし12によれば,結合標章1は,補助参加人Bの職員の名刺に付されたものであり,その具体的使用態様に鑑みると,補助参加人Bが補助参加人Aと同じ企業グループに属することを表示するために付されているものと認められ,商標として使用されているものとは認められない。
原告が補助参加人Bに委託したコンピュータシステムの作成業務に従事した者が,結合標章1が表示された名刺を原告に交付したとしても,その名刺自体に補助参加人Bの業務や広告文等が記載されているものではなく,自己の氏名や役職を相手方に示すために名刺が用いられたものと認められるから,その名刺が役務に関する広告であると解することはできず,結合標章1を付した名刺を交付したことをもって,結合標章1の商標としての使用であるということはできない。
したがって,審決が,結合標章1について,補助参加人Bによる商標としての使用があったとは認められないとした判断に誤りはない。
(2) 結合標章2について
商標法53条1項本文は,「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定する。同規定には,その要件として,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされること,及び役務の質の誤認を生ずるものをしたことが挙げられている。したがって,同項の要件に該当するというためには,一般的抽象的に,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在するのみでは足りず,質の誤認を生じさせると主張されている具体的な役務との関連において,登録商標又はこれに類似する商標の使用がされた事実が存在することが必要といえる。
この観点から,本件における結合標章2の使用態様について検討すると,甲14の1,2,甲53の1ないし4によれば,補助参加人Bのウェブページには,パッケージソフトやインターネットを通じたソフトウェアの提供に関する説明,紹介等が記載されていたこと,結合標章2は,同ウェブページの上端に表示されたことが認められるが,同ウェブページは,補助参加人Bの製品,サービス等を公衆に向けて一般的に紹介したものであり,原告が補助参加人Bに委託した具体的なコンピュータシステムの開発,作成業務に関連するものではない。そうすると,補助参加人Bのウェブページにおいて結合標章2が表示された態様は,補助参加人Bが原告に提供した具体的な役務(原告が質が低いと主張する役務)との関連において結合標章2が使用されたものということはできないから,商標法53条1項本文の要件に該当しない。その他,補助参加人Bが,原告に対して提供した役務と具体的な関連性を有する態様で結合標章2を商標として使用していたことを認めるに足りる証拠はない。
以上のとおりであり,結合標章2の使用は,仮に商標的使用に当たるという余地があるとしても,役務の質の誤認を生ずるものとはいえず,商標法53条1項の「登録商標・・・に類似する商標の使用であつて・・・役務の質の誤認・・・を生ずるもの」との要件を充たさないから,結合標章2に係る取消事由3は,審決の結論に影響を及ぼす取消事由とはいえない。
3 審決の結論の当否について
前記1のとおり,補助参加人Bの使用標章は,本件商標と同一又はこれと類似する商標とはいえないとした審決の判断に誤りはないから,使用標章については,商標法53条1項の「登録商標又はこれに類似する商標の使用」との要件を欠く。
また,前記2(1)のとおり,結合標章1について,補助参加人Bによる商標としての使用があったとは認められないから,商標法53条1項の「登録商標又はこれに類似する商標の使用」との要件を欠く。
さらに,前記2(2)のとおり,仮に,結合標章2について,ウェブページでの使用が商標としての使用に当たるとしても,その使用は,役務の質に誤認を生ずるようなものではないから,商標法53条1項の「登録商標・・・に類似する商標の使用であつて・・・役務の質の誤認・・・を生ずるもの」との要件を欠く。
したがって,「補助参加人Bによる使用標章,結合標章の使用は,商標法53条1項の要件を欠くので,本件商標の登録は取り消すことはできない」との審決の判断に誤りはないというべきである。
4 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官 知野明)
file_2.jpg別紙