知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10171号 判決 2010年12月14日
原告
ブッキング.コム リミテッド
(Booking.com Limited)
訴訟代理人弁理士
小笠原史朗
同
石川達久
被告
特許庁長官
指定代理人
小田昌子
同
佐藤達夫
同
田村正明
主文
1 特許庁が不服2009-650090号事件について平成22年4月19日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は各自の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文第1項と同旨
第2事案の概要
1 本件は,原告が,英国において,下記本願商標につき国際登録出願をし,同商標につき国際登録がなされたところ,締約国官庁たる日本国特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
2 争点は,①下記本願商標が下記引用商標と類似するか(商標法4条1項11号),及び,②本件審判手続の違法性の有無,である。
記
(1) 本願商標
・ 商標
file_2.jpgBOOKING.COM・ 指定役務(後記補正後のもの)
39 Travel and tour agency services, ticket reservation and booking agency services for travel, tourist agency services, provision of information relating to travel and travel destinations; advisory and consultancy services relating to all the aforesaid services; and including the provision of all the aforesaid services on-line.
※ 訳文
第39類 旅行代理店による役務の提供,旅行用のチケットの予約及び予約の取次ぎ,旅行代理店による役務の提供,旅行及び旅行先に関する情報の提供,前述のすべての役務に関する指導及び助言(前述の全ての役務はオンラインによる提供を含む。)
43 Hotel reservation services, holiday accommodation reservation services and resort hotel room reservation services; provision of information relating to hotels, holiday accommodation and resort hotels; appraisal of hotel accommodation; advisory and consultancy services relating to all the aforesaid services; including the provision of all the aforesaid services on-line.
※ 訳文
第43類 ホテルの予約の取次ぎ,休暇用宿泊施設の予約及びリゾートホテルルームの予約,ホテル・休暇用宿泊施設及びリゾートホテルに関する情報の提供,ホテルの宿泊設備の評価,前述のすべての役務に関する指導及び助言(前述の全ての役務はオンラインによる提供を含む。)
(2) 引用商標(指定役務第42類の下線部は,後記不使用取消審判請求に係るもの)
・ 商標
file_3.jpg・ 出願日 平成11年10月6日
・ 登録日 平成14年4月12日
・ 登録番号 第4558717号
・ 権利者 東京都千代田区神田駿河台4丁目3番地 株式会社ほるぷ出版
(原権利者 株式会社ブッキング)
・ 指定商品・役務
第16類 紙類,紙製包装用容器,・・・≪以下略≫
第35類 広告,経営の診断及び指導,・・・≪以下略≫
第40類 布地・被服又は毛皮の加工処理・・・≪以下略≫
第41類 書籍・雑誌その他の印刷物・・・の制作,≪以下略≫
第42類 (下線部分は後記不使用取消審判によって取り消されたもの)宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,入浴施設の提供,・・・≪以下略≫
第3当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁等における手続の経緯
ア 本願商標は,原告から2007年(平成19年)3月12日に英国において国際登録出願(基礎出願番号2449192号)され,同年9月11日に第940124号として国際登録されたところ,締約国官庁たる日本国特許庁から,平成21年4月2日付けで拒絶査定がなされた(甲36)ので,原告は,これに対する不服の審判請求をした。
イ 日本国特許庁は,同請求を不服2009-650090号事件として審理し,その中で原告は,従来からなしていた指定役務の一部削除等を内容とする手続補正をしたが,日本国特許庁は,平成22年4月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(本件審決)をし,その謄本は同年4月28日原告に送達された。
ウ なお,原告は,平成22年5月10日付けで,前記引用商標に関する指定役務「第42類 宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき不使用取消審判を請求し(取消2010-300494号),同年8月31日これを認容する審決がなされ,確定した。
(2) 商標の内容
本願商標は,前記第2,2(1)記載のとおりである(甲15)。
(3) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願商標は引用商標と類似しかつ本願商標の指定役務は引用商標の指定役務と同一又は類似の役務を包含するから商標法4条1項11号に該当する,というものである。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のような誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願商標と引用商標との類否判断の誤り)
(ア) 本願商標を「BOOKING」と「.COM」とに分離して類否判断すべきとした誤り
a 本願商標がドメイン名を表すとすれば,なおさら,本願商標の[.COM]部分を捨象すべきでなく,同部分を捨象すると,それはもはやドメイン名ではなくなり,本来の本願商標全体から受ける印象や連想を著しく違えてしまう。
最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(民集22巻2号399頁)の指針のとおり,本願商標の外観・観念・称呼が本願指定役務の分野の取引者及び需要者(以下「本件需要者」という。)に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すると,本願商標は分離されるべきではない。
b まず,外観については,本願商標は,「BOOKING.COM」という文字が明確に看取され,その文字部分は,引用商標と同様に,同じ書体,同じ大きさ,等間隔をもってまとまりよく一体的に表され,加えて,その文字部分は青色の四角枠内に収まっていることから,分離する理由はない。してみると,本願商標の文字部分の一体的外観の印象,連想を本件需要者に与えているにもかかわらず,審決の類否判断では,文字部分の色彩の相違点によって「BOOKING」と「.COM」とに分離しており,本願商標の他の外観が無視され,総合して全体的に考察されてはいないから,かかる認定は誤りであって,取り消されなければならない。
また,背景色は極めて濃い青色(実質紺色)であるから,色調の差異をもってすれば,本願商標の[.COM]の文字部分が看取し難いとすることは,極めて不自然であり,本件需要者が,本願商標の[.COM]の文字部分を見落とすとは到底考えられない。
c 本願商標は,[.COM]の文字部分を背景色と色調差を有する色彩とし,その色彩により前半の[BOOKING]の文字部分と異ならせることによって,比較的識別力の弱い[.COM]部分を外観上で看者に印象・記憶されるよう意図的に仕向けられている。これにより,本願商標は「ドメイン名のような商標」という印象・記憶・連想をその外観から与えているものである。
すなわち,ドメイン名では,本願商標のような表示方法はしないので,本件需要者は,本願商標を直接的にドメイン名と認識せず,その外観から「ドメイン名のような商標」という印象,記憶,連想をすることから,これをむやみに分離すれば,本願商標が本来看取される観念とは異なってしまうこととなる。
よって,ドメイン名を表したと看取される[.COM]部分を有する他の商標とは異なり,本願商標の[.COM]部分は,よりその前半の文字部分と強く結び付くものである。
したがって,[.COM]部分が商標に表示されているとしても,それをドメイン名と同様に前記部分より前方部分に自他商品識別力を有するとして判断するのではなく,その商標の外観全体を考察し,分離判断すべきか否かを決しなければならない。
なお,本願商標の[.COM]の文字部分は,ドメイン名の「表示方法」の一つであるから,これに固有の意味を有するとする被告の主張は失当である。
このほか,本願商標の図形部分は,「地球」と旅行時に頻繁に用いられる「トランクケース」とで構成され,その構成から「世界旅行」又は「海外旅行」を想起させ得るものであって,これに本願商標の文字部分を結合すると,「海外旅行の予約アドレス等」の観念を暗示的に看取され得るものである。
よって,本願商標の図形部分と文字部分とは密接な関わりがあり,本願商標全体の構成をもって,一つの出所識別機能を果たしているというべきである。
また,原告は,本願指定役務に係るウェブサイトにおいて,本願商標全体を一体にして使用している。このような本願商標の構成態様及び使用態様からすれば,本件需要者に本願商標は図形部と文字部とが渾然一体として認識・記憶・想起されるものである。
なお,被告がいうように,本願商標の[.COM]の文字部分が意味を有するとするのであれば,引用商標の「ing」の文字部分も意味を有するとされなければならない。
しかるに,引用商標にはこのような判断をせず,本願商標にのみ上記被告主張の判断を適用し分離すべきとするのは矛盾がある。
d 本願商標は,称呼音数8音であって,格別冗長ではなくよどみなく称呼可能で,かつ,一連称呼すると「ブッキング」と「ドットコム」とは「グ」音と「ド」音とが並び,両音とも「有声破裂音」でかつ「唇を尖らせる小開音」でもあることから連続して発音しやすく,語呂も良いことから,取引の実際においても[.COM]部分を略称せずに取引に資されるものである。
このように,本願商標は,よどみなく一気に「ブッキングドットコム」と称呼し得るものである。
なお,簡易迅速を尊ぶ取引の実際においても,格別冗長でなくよどみなく称呼可能なドメイン名と看取される商標は,[.COM]部分を略称せずに取引に資されるものである。この点については,甲4(意見書)に示すとおり,多数の審査例及び審判例が存在する。さらに,甲16ないし甲22に添付した審決例及び登録例に示すとおり,[.COM]の文字部分を有するとしても,分離判断されるべきではない。
e 前述のとおり,たとえ,構成中「.COM」がインターネット上のアドレスを表示する単位だとしても,本願商標は,表された構成全体を一体不可分のものとして認識・把握される,特定の観念を有しない造語であると看取されるとみるのが自然である。
従前の審査においても,原告の上記主張と同様に,「.COM」以外の文字部分の称呼は同一であるが「.COM」の有無によって対比する商標を非類似と判断している(甲4の6~11頁参照)ものである。
以上のとおり,本願商標の外観・観念・称呼からすれば,本願商標の文字部分は「BOOKING.COM」の一連一体で類否判断されるのが順当であるから,審決の類否判断手法は違法である。
(イ) 引用商標の[Book]と[ing]との間にハイフンがあっても引用商標は「Booking」と認識されるとした認定の誤り
引用商標は「Book-ing」であって「Booking」ではない。引用商標から「-」(ハイフン)を捨象する正当理由はない。
審決は,「Booking」という既成単語が周知であるから引用商標の「-」は捨象すべきとしているが,かかる判断は,既成単語と一字違い等の近似した造語は,その既成単語として類否判断すべきというものであるが,これに反する見解に基づく審決等がある(甲25ないし甲29参照)ことからすれば,審決の上記見解は独自の見解であって,実情から飛躍している。
引用商標は,8文字と少ない文字数からなるのであって,本件需要者が,この8文字中の1文字(ハイフン)を見落とすことはない。よって,本件需要者は引用商標をその外観どおりに認識するのであるから,「Book-ing」と把握されるものである。
なお,「-」(ハイフン)は,「英文などで,一語内の形態素(意味を持つ最小の言語単位)の区切りを明確にするのに使う。」といった意味をも有する。
そうすると,引用商標「Book-ing」は,「Book」と「ing」とに区切られて看取され得るといえ,「-」(ハイフン)を他の語と同列に「1文字」として取り扱うことは適当である。
また,英和辞書の「ing」の項の「-ing」の表記は,辞書の表記の特殊性からであり,解説の便宜を図るためのものであって,日常において実際に英単語として用いられる際には「-」(ハイフン)は表記されず,使用されない。標準的英語知識においても,「ing」の付記により動名詞・分詞・進行形を表現する場合,動詞と「ing」とを接続するのに「-」(ハイフン)を表記するとは理解されていない。
同様に,英和辞書の「booking」の項の「book-ing」との表記も,英和辞書特有の表記方法であって,日常ではこのような表記はされない(甲24参照)。
このように,「-」(ハイフン)が,「一語内の形態素(意味を持つ最小の言語単位)の区切りを明確にするのに使う。」ものでもあり,日常で「booking」を表記する際には「book-ing」とはされないこと,標準的英語知識等々にかんがみれば,引用商標「Book-ing」は造語と看取されるものである。
また,引用商標は,「-」(ハイフン)により「Book」部分が顕著に表れ,「Booking」よりも下級レベルで学ぶ名詞「Book」の方が広く親しまれた語といい得るから,名詞「Book」が強調された造語という印象を受けるものである。
このように,標準的英語知識においても「Book-ing」は造語と認識されるものであるにもかかわらず,審決は引用商標を「Booking」と既成単語として理解されると判断しており,飛躍しすぎているので,違法である。
(ウ) 本願商標と引用商標とは類似するとした認定の誤り
a 以上のとおり,本願商標の「BOOKING.COM」と引用商標の「Book-ing」とを対比すると,その外観・観念・称呼において著しく相違しているから,出所の誤認混同のおそれはない。
仮に,本願商標が「BOOKING」と認識され,引用商標から「ブッキング」の称呼が生ずるとしても,引用商標の「Book-ing」は造語であるから,両商標の観念は著しく異なっている。さらに,両商標の外観も著しく異なっている。
そうすると,仮に,両商標の称呼が類似するとしても,これほど顕著に観念及び外観が相違していると,本件需要者には,称呼の類似性を凌駕するほどに記憶・認識されるから,出所混同のおそれは生じ得ない。
最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決(民集22巻2号399頁)の指針を本件に当てはめると,本願商標の文字部分と同様に「地球」と「トランクケース」との図形部分は十分なほどの識別力を発揮しており,引用商標の「白抜きの極太線で二つの半円弧を配置した図形」部分においても識別力を十分に発揮していることから,本件需要者にとって,両商標が相紛れるというおそれはない。
さらに,文字部分についても,仮に本願商標が「BOOKING」とされたとしても,引用商標の「Book-ing」とは相違し,両者が相紛れるおそれはない。
これらに加えて,本願商標が仮に「BOOKING」とされたとしても,既成単語の「予約」という意味合いが生ずるが,引用商標の「Book-ing」は造語なので何らの意味合いを有せず,両者の観念も異なる。
よって,本件指定役務において称呼のみで取引される実情があるとも認められない以上,これほどまでに顕著に両商標に相違点があるのであれば,両商標の間で出所の誤認混同が生ずるおそれがあるということはできない。
過去の審決例においても,称呼が同一又は類似するとしても外観が明らかに異なる商標間では,出所混同が生じないとして非類似である旨の判断が多数されている(甲5ないし甲9参照)。
b 本願商標は,最安値料金など有用なホテル情報を満載したウェブサイト(甲10)で使用され,周知となっている。当サイトは,世界中の本願指定役務に属する需要者に対し,ビジネスからレジャーまで,小規模な家族経営ホテルから豪華ホテルまで,と様々なタイプの宿泊施設を簡単に予約できるようにしたもので,その宿泊施設の最安値を保証しており,これらは1600人以上の多言語で対応する従業員により提供されている。
本願指定役務に属する取引者であるホテル経営者に対しても,毎日15万以上の客室予約を提供しており,コストパフォーマンスの高いコミッションベースのビジネスモデル,4000以上のアフィリエイトパートナーネットワーク,行き届いたアカウント管理サービスを提供し,その者たちの収益向上への貢献を行っている。
そのため,世界中から月間3000万人以上の需要者に利用され,世界中のオンラインホテル予約業界をリードする高い予約数を誇っている(甲11)。
日本国内においても本願商標が周知であることは,本願商標が使用されているサイトの訪問者数が極めて多いことからも立証される。
「Yahoo!Japan」の検索エンジンにおいて,キーワード「book」と入力しただけで,本願商標の文字部分全体がキーワード候補としてポップアップされる(甲12)。
また,「Google」の検索エンジンにおいても,キーワード「booki」と入力しただけで,本願商標の文字部分全体がキーワード候補としてポップアップされる(甲13)。なお,「Google検索エンジン」では,Webページ上で入力した検索キーワードと一緒によく出現する言葉を関連検索としてポップアップ表示されるものである。つまり,過去に積み重ねられた Webページの文書群から,その言葉とよく一緒に取り上げられた言葉を表示している(甲30)。
このように,「BOOKING.COM」と入力せずとも,本願商標の文字部分が検索キーワード候補として表示され,本願商標が使用されているサイトを検索できるということは,相当数の需要者が当サイトを訪問しているということであるから,本願商標が非常に多くの需要者に「BOOKING.COM」として目にされているということができる。よって,本願商標は,本件需要者には「BOOKING.COM」と認識されているものであるから,[BOOKING]と[.COM]とに分離されることはない。したがって,本願商標を分離して類否判断をしている審決は誤りである。
(エ) まとめ
以上のように,本願商標は,その周知性から「BOOKING」と「.COM」とは分離されるべきではなく,本願商標の外観・観念・称呼からしても分離されるべきではない。本願商標を一連一体で引用商標と対比すると,両者の外観・観念・称呼は相違し,両者が相紛れるおそれはない。
仮に,本願商標が「BOOKING」と分離されたとしても,引用商標の「Book-ing」とは外観・観念が顕著に相違し,両者が相紛れるおそれはないから,審決の類否判断には誤りがある。
イ 取消事由2(手続の違法)
(ア)a 譲受交渉が口頭においてされる場合も多くあることは一般に認知されているところであり,その口述交渉での交渉日及びその交渉内容も詳細に記録されていないことが多く,「具体的な証拠」の提出が不可能の場合が多々あり得る。原告が引用商標の権利者との間でなした譲受交渉(本件交渉)の場合,具体的に書簡として残していたのは,特許庁に提出した平成22年3月2日付け回答書に添付した甲1のみであったため,これを「具体的な証拠」とした。しかし,その後も,交渉は口頭で行われていた。本件での審判官の合議体は,甲1で示す譲受交渉以降は譲受交渉が行われていないと勝手に判断しているところに違法性がある。なお,甲1は,本件譲受交渉初頭における挨拶状的なものである。
原告は,引用商標の譲受交渉を平成21年8月に開始した。引用商標権者との交渉を始めた際には,引用商標権者は同年11月に大幅な社内改革を行う後に商談を開始したい旨申し出たため,原告は当該時期まで待ったが,さらなる時間的猶予の申出を受け,その後,交渉が開始されたが,引用商標の売却範囲・金額の合意交渉が難航していた。
原告は,平成22年2月8日に,被告から,引用商標権者との譲受交渉の進捗状況の回答を求める「審尋」を受領した。その際,原告は,引用商標権者との譲受交渉を継続していくことに限界を感じ,原告内部で不使用取消審判請求を検討し始めた。
同請求の要否の結論が出ないまま,平成22年3月2日回答期限に,上記審尋に対する回答書を提出したが,その直後の同日に,原告内部で不使用取消審判請求を行う意思決定がなされた。この時間差は,英国と日本国との時差により生じた地理的事情によるものであった。原告は,上記意思決定に基づき,上記回答書提出日と同日に,不使用取消審判請求をするに当たっての手続補正書を国際事務局に提出した。
原告は,上記手続補正書が国際事務局から正式に日本国特許庁に通知され,本願に反映されるには,上記手続補正書提出日から約1か月は要すると見込み,その反映後に不使用取消審判請求を予定していた。
しかし,原告が不使用取消審判請求をする矢先に,平成22年4月2日に被告は「審理終結通知書」を起案した。
このように,審決に至る経緯において,「審尋」に対する「回答書」提出日から「審理終結通知書」起案日まではわずか30日程度であり,この間に難航している譲受交渉を完結させることは,譲受交渉慣行上不可能である。加えて,原告は,英国籍であるから,原告の上記交渉に対する応答には相当程度の時間を要することをも考慮して起案されなければならなかった。
b なお,本願の指定商品/役務の補正は,譲受交渉の後半段階において,引用商標権者が引用商標について第35類に係る指定役務については使用しているが,第43類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」に対しては使用していないことが判明したことに基づくもので,本願から第35類の指定役務を削除訂正し,第43類の上記指定役務に対する不使用取消審判請求を前記時期に予定していた。原告は,前記取消審判の審決確定により,本願商標は登録されると確信していた。
しかし,原告の回答書提出から30日後に審理終結が決定され,その通知受領当日に,不使用取消審判請求をするので審理再開を申し出たが,却下されたため,本願を商標登録される機会を奪われた。
被告が公表する審判便覧(甲31)では,審理再開の指針には,「(4)引用商標に対して不使用取消審判等を請求した旨を主張するもの」については,「審理を再開するための合理的な理由に該当するものでない」とされるが,そのただし書にて「不使用取消審判請求を審理終結通知後にする合理的理由があるもの」については除かれ,審理再開する旨が規定されている(甲32)。
本願では,国際商標登録出願という事情から,商標法68条の28の規定により,日本国特許庁へ手続補正書を提出できず,原告の本国である英国の受理官庁を通じて国際事務局へすることになる。
本願が日本国において拒絶審決となってからでは手続補正書提出が無意味となるから,本願が審判に係属している間にと,不使用取消審判請求より先にこれを行った。そして,国際事務局での事故を考慮し,手続補正書による削除訂正が確定した後に不使用取消審判請求するという経緯には,合理的理由があるといえる。
本件で「審理終結通知書」が送達された時点では,国際事務局から被告に対し,上記手続補正書提出の通知がされていたはずである。
そうすると,本件では,「不使用取消審判請求を審理終結通知後にする合理的理由」があったから,被告は,前記の審判便覧の指針に沿って,審理を再開すべきであった。
しかし,本願の国際事務局への上記手続補正書の提出が,被告の審理再開の判断に参酌されていない。上記手続補正は,本願が審理係属中に行う必要があり,その補正は,不使用取消審判の審決が確定して本願が商標登録されるために行ったものであるから,「審理を再開すべき適切な手続補正書の提出」といえるものである。
原告が請求予定の不使用取消審判の審決が確定すれば,本願が商標登録されるため,本件は,商標法56条で準用される特許法156条2項所定の「(審理再開の)必要があるとき」に該当する。
なお,同規定は,確かに審判長の裁量によるものではあるが,適正な裁量権の範囲を超えた場合には,その裁量権に基づく権利行使は取り消されなければならない。
c 本件では,①原告が在外者であるにもかかわらず,審尋から審理終結通知発行までの期間が,在内者と同一又は少ない期間でしか与えられなかった点,②この期間であったとしても,在外者というハンディを考慮して審理再開されるべき点,③本願が国際商標登録出願であることから生ずる補正手続の特殊性を考慮しなかった点,④審判便覧での審理再開の「合理的理由」が本願にはあったことが考慮されなかった点,からすれば,前記の「適正な裁量権の範囲」を超えたものであり,本願は審理再開されるべきであった。
(イ) 原告が平成22年3月2日に国際事務局にした手続補正により,本願指定役務と引用商標の指定商品/役務とは,「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,旅行に関する役務」のみが類似することとなった。すなわち,「類似商品・役務審査基準」で規定される類似群コードでの「42A01(宿泊施設の提供)」と「42A02(宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ)」のみとなった。これは,特許庁が発行した甲15(商標出願・登録情報検索)でも示されている。なお,引用商標の商標公報(甲33)では,上記取消審判の審決確定内容が反映されてはいない。よって,甲33と甲14とを照らし合わせて引用商標の権利範囲を把握しなければならない。
(ウ) 原告が,引用商標に対し不使用取消審判を請求した結果,本願商標と引用商標で重複している,上記類似群コード「42A01」及び「42A02」に係る指定役務は,甲14(平成22年8月31日付け審決)のとおり取り消された。よって,本願指定役務と引用商標の指定商品/役務は非類似となり,本願商標は商標法4条1項11号の規定に該当しなくなっている。
なお,被告の審尋書内では,本願指定役務内の「advisory and consultancy services relating to all the aforesaid services; including the provision of all the aforesaid services on-line.(訳:前述のすべての役務に関する指導及び助言[前述の全ての役務はオンラインによる提供を含む]。)」においても引用商標の指定商品/役務と類似している旨を通知しているが,この「前述のすべての役務」とは,「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,旅行に関する役務」であるから,上記取消審判により引用商標から類似するすべての指定商品/役務は取り消されていること,上記補正により本願のすべての指定役務は「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,旅行に関する役務」のみとなったことによって,本願と引用商標との指定商品/役務は非類似となっている。
そうすると,本願商標は,本来商標登録されるべき出願であり,原告が不使用取消審判を請求するため審理の再開を申し出たにもかかわらず,当該認定にて審決を下した判断に誤りがあるから,審決は取り消されるべきである。
2 請求原因に対する認否
請求の原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 本願商標の外観,称呼及び観念
本願商標は,青色横長の矩形図形の左端に,トランクと地球の図形を配し,その矩形内中央に白抜きで,英語で「予約」の意味を有する「BOOKING」の文字と薄い青色で「.COM」の文字とを一連に横書きしてなるところ,その構成中の図形部分と文字部分とは,これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く,さらに,「BOOKING.COM」の文字部分についても,背景色の青色に対して,前半の「BOOKING」の文字部分は,白色でよく目立っているのに対し,後半の「.COM」の文字部分は,同系色の薄い青色であることから,前半の「BOOKING」の文字部分に比べ,視覚的に明瞭に看取し難いばかりでなく,観念的にも「インターネットのドメイン名の中のトップレベル・ドメインと呼ばれるもののひとつ。登録された一般企業の URLの最後に『.com』とつく。」(現代用語の基礎知識,乙5)の意味を有するものとして認識されるものである。
すなわち,「社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター」のホームページによれば,「.com」の表示は,商業組織用として世界の誰もが登録でき,使用されているものであることが記載されている(乙6)。
さらに,「.com」は,ウェブサイトのアドレスに付く記号として「ドットコム」と称呼され,一般にも広く知られて慣用されているものである。
そして,近時,我が国におけるインターネットの普及により,インターネットを介して行う電子商取引が,幅広い分野において行われており,また,「.com」の文字は,インターネットを通じてその役務を提供する際に,前記アドレスの一部として普通に使用されている実情がある。
そうとすると,本願商標の構成中の「.COM」の文字部分は,トップレベルドメイン名である「.com」の大文字表記と認識されるというべきであるから,本願の指定役務との関係において,その各種「情報の提供」等の役務がインターネットを通じて提供されるものであること,すなわち,役務の提供手段を表示したものと看取されるものであって,独立して自他役務の出所識別標識として認識されるものではないと解するのが相当である。
してみれば,「○○.COM」の文字に接した取引者,需要者は,「.COM」の前にくる「○○」部分が,識別上,重要な部分として印象付けられ,記憶される場合も決して少なくないというべきである。
そして,トップレベルドメインの文字部分が自他役務の出所標識としての機能を果たし得ないことは,「.COM」と同様にトップレベルドメイン名として用いられている「.net」及び「.jp」について,平成22年(行ケ)第10052号事件判決(平成22年7月7日言渡し)や平成20年(行ケ)第10295号事件判決(平成21年1月29日言渡し)において判示されていることからも首肯できるところである。
そうすると,本願商標を構成する両文字部分は,「BOOKING」の文字と「.COM」の文字の色彩が異なることもあいまって,視覚上分離して看取されるものであり,それぞれが独立した意味を有している上に,その意味内容において相互に関連性を有するものとはいえないから,これを更に分断して観察することが取引上不自然であると思わせるほどに不可分に結合しているものとはいえないというべきであり,観念上も,本願商標の構成文字全体を一体不可分のものとして把握しなければならない格別の事情も見出せない。
してみれば,本願商標に接する取引者,需要者は,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得る「BOOKING」の文字部分を分離して把握,認識し,取引に資する場合もあることは取引の経験則に照らして自然なことというべきである。
したがって,本願商標は,その構成中,独立して,自他役務の識別標識としての機能を果たし得る「BOOKING」の文字部分に相応して,「ブッキング」の称呼及び「予約」の観念をも生ずるものというべきである。
本願商標の外観を全体観察した上でなお,「BOOKING.COM」の文字部分と図形部分とは,視覚上分離して看取されるものであり,相互に関連性を有するものとはいえないから,これを分断して観察することが取引上不自然であると思わせるほどまでに不可分的に結合しているものとはいえないというべきであり,観念上も,本願商標の構成全体を一体不可分のものとして把握しなければならない格別の事情も見出せない。
そうすると,本願商標の文字部分である「BOOKING.COM」についても,更にその一部だけによって簡略に称呼,観念されるものであるか否かを検討し,類否判断することも許されるものというべきである。
また,インターネット上の住所表示を目的としているドメイン名と自他商品・役務を識別するための商標とを比較すること自体適当ではない。そもそも,商標法における商標は,自他商品・役務識別機能を本質的機能とするところ,簡易迅速を尊ぶ商取引の場で,各構成部分がそれを分離観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体をもって称呼,観念されず,その一部だけによって簡略に称呼,観念され得るものであり,このことは商取引の経験則の教えるところである。
そして,本件については,本願商標の構成中「.COM」の文字部分は,前述したとおり,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ない部分である。
さらに,本願商標が全体として特定の意味合いを看取させるものではないことからすれば,本願商標は,常に一体不可分のものとしてのみ判断しなければならないものではない。
また,「.COM」の文字部分は,前述のとおり,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ない部分であることから,本願商標全体から「ブッキングドットコム」の称呼が生じるほか,「BOOKING」の文字部分に相応して「ブッキング」の称呼をも生ずるものである。
イ 引用商標の外観,称呼及び観念
引用商標は,左下角部中央に向けてややぼかしを施した黒色の正方形内に正方形の左下角部を分割する形で白抜きの極太線で二つの半円弧を配置し,中央部に白抜きで「Book-ing」の文字を表してなるところ,その構成中の図形部分と文字部分とは,これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く,文字部分も要部として把握されるものということができる。
そして,当該文字部分は,英語で「予約する」の意味を有する「Book」の文字と,英語で「動詞に付いて動名詞・名詞を作る接尾語」の意味を有する「ing」の文字とを「-」(ハイフン)で連結してなるところ,構成中の「-」(ハイフン)は,「欧文で,二語を結びつけたり,一語を行末で区切って二行に分けて書いたりするときに間に記す短い横線の符号。」である。
そして,両文字が,「-」(ハイフン)で連結してなるものであるとしても,「Book-ing」の文字部分を構成する各文字はすべて同じ色彩であり,かつ,同書,同大,等間隔に外観上まとまりよく一体的に表現されていることから,視覚上一体的に看取されるものであり,前記のとおり,「ing」が動詞に付いて動名詞や名詞を作る接尾語であること,また,このハイフンが欧文で二語を結び付けたりするために使用されるものであることは,上記意味合いからも明らかであるところ,「Book-ing」の文字部分中,前半の「B」の文字部分のみが大文字で,後半の「i」の文字を含む残りの文字部分がすべて小文字で表されていること,「-」(ハイフン)の長さが短く,かつ,「-」(ハイフン)と「ing」の文字との間隔が狭く一体的に書されていること,「-」(ハイフン)に比して,「Booking」の文字の全体に占める割合が大きいこと等もあいまって,一つの単語として認識されるとみるのが自然である。
そして,「Book-ing」の文字と綴りを同じくし,英語で「予約」の意味を有する「booking」の単語があることから,かかる商標の構成,事情の下においては,「Book-ing」の文字に接する取引者,需要者は「BOOKING」(booking)の文字を容易に連想し,これより「ブッキング」の称呼及び「予約」の観念を生じ得るものである。
したがって,引用商標は,「Book-ing」の文字に相応して「ブッキング」の称呼及び「予約」の観念をも生ずるものというべきである。
なお,「-」(ハイフン)は,「欧文で,二語を結びつけたり,一語を行末で区切って二行に分けて書いたりするときに間に記す短い横線の符号。」の意味を有するものであるから,「符号」である「-」(ハイフン)を他の語と同列に「1文字」として取り扱うことは適当ではなく,むしろ,「Book」と「ing」を一体にして,英単語の「BOOKING」(booking)の文字を容易に連想するものというべきである。
また,英和辞書の「ing」の項には,「-ing」のように「-」(ハイフン)と「ing」の文字が一体化した態様で表記されている(ジーニアス英和辞典,乙4の3)上,前記のとおり,「-」(ハイフン)の後に続く「ing」の文字が動詞に付いて動名詞や名詞を作る接尾語であること,この「-」(ハイフン)が欧文で二語を結びつけたりするために使用されるものであること,「Book-ing」の文字と綴りを同じくし,英語で「予約」の意味を有する「booking」の単語があることから,これらを総合すると,取引者,需要者は「BOOKING」(booking)の文字を容易に連想し得るものである。
そして,原告の「・・・『-』によって『Book』が強調されているという印象を受ける」という主張についても,同主張を裏付ける証拠がない。
そうとすれば,「Book-ing」が全体として辞書に掲載されていない語であること及び「-」(ハイフン)で連結してなる構成であることのみをもって,本願商標が造語と認識されるとする原告の主張は失当である。
ウ 本願商標と引用商標の類否
本願商標は,その構成中の図形部分と「BOOKING.COM」の文字部分とは,分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえず,また,「BOOKING.COM」の文字部分のうち,「.COM」の文字部分は,自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものとはいえず,「BOOKING」の文字は独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものといえるから,本願商標に接する取引者,需要者は,「.COM」の文字部分を分離して把握し,認識し,称呼することが十分にあり得るものであることは前記アのとおりである。
そして,本願商標と引用商標との文字部分を比較するに,本願商標には,引用商標の「-」(ハイフン)に相当する部分がなく,また,引用商標には,本願商標の「.COM」の文字部分がないとしても,取引者,需要者の注意をひく「BOOKING」の文字部分と「Book-ing」の文字部分とは,小文字,大文字で表されている等の差異があるとしても,文字の綴りを同一とするものであって,外観上,近似した印象を与えるものであり,また,「ブッキング」の称呼及び「予約」の観念を共通にするものであるから,両者は,互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。さらに,本願商標の指定役務中には,引用商標の指定役務と同一又は類似の役務が含まれているものである。
したがって,本願商標と引用商標とは,これに接する取引者,需要者をして役務の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標というべきであり,かつ,本願商標の指定役務と引用商標の指定役務とは同一又は類似のものであるから,審決の認定判断には,商標法4条1項11号該当性の解釈及び適用を誤った違法はない。
なお,原告は,「.COM」の有無にかかわらず併存して商標登録されている例があるとするが,原告が挙げる登録例は,例えば,商標の識別力の有無を争った事例であるとか,「.COM」以外の文字部分が数字であったり,漢字と欧文字との対比や綴りが異なる欧文字どうしの対比であって観念が異なる事例等であって,対比される商標の具体的な構成等が本願商標とは異なるものであるところ,商標法4条1項11号該当性については,過去の登録例の判断に拘束されることなく,本願商標と引用商標との対比において,個別具体的に判断されるべきものであるから,そのような登録例があるからといって本願商標が引用商標に類似しないとは直ちにいうことができない。
また,以下のとおり,本願商標が我が国において周知商標であるとは直ちにはいえないというべきである。
すなわち,原告が提出した証拠資料(甲10,11)から,①原告のウェブサイトによると,東京を含む欧米を中心とした約30都市に海外支社を置き,ホテル情報のウェブサイトに「BOOKING.COM オンラインホテル予約」の文字を使用していること,②会社情報によれば,原告は,平成8年(1996年)に設立されて以来,様々なタイプの宿泊施設情報を提供し,掲載ホテルの数は89か国10万件以上であり,グループ会社全体で1600人以上のスタッフがいる旨の記載があることが認められ,以上によれば,原告は,平成8年(1996年)に設立されて以来,東京を含む欧米を中心とした約30都市に海外支社を置き,様々なタイプの宿泊施設情報を提供するウェブサイトに「BOOKING.COM」の文字に「オンラインホテル予約」の文字を併記した態様で使用していることは窺うことができる。
しかし,原告が「BOOKING.COM」の標章を使用した時期は,原告会社の設立と同時期(平成8年)と推測できるとしても,原告の東京支社や日本語にも対応したウェブサイトがいつから利用できるようになったのか定かではなく,また,たとえ東京支社があるとしても,日本国内において同種のサービスを提供する業界において,どの程度の市場規模であるか,また,どの程度の売上高であるか等の実績の証拠もない。
さらに,日本国内の新聞,雑誌及び一般需要者が接する機会が多いと認められるテレビ等の大衆向けマスメディア等における広告・宣伝を行っている事実も認められない等の実情からすれば,一般需要者の多数が,本願商標の存在を知り,かつ,本願商標に接しているとはいい難いから,本願商標が,需要者の間に広く知られているものとは,直ちにいうことができないというべきである。
また,本願商標の使用期間,市場規模及び売上高,広告・宣伝等,本願商標の周知性を認めるに足りる証拠がないことは,前述のとおりであり,「Yahoo!Japan」及び「Google」の検索エンジンにおいて,「book」又は「booki」と入力しただけで「BOOKING.COM」がキーワード候補の一つとしてポップアップされるとしても,その利用件数は定かではないのであるから,この一事をもって,本願商標が使用されているサイトへの訪問者数が極めて多いなどとはいえず,本願商標が周知であるということにはならない。
したがって,本願商標の周知性に係る原告の上記主張は,いずれも失当であり,本願商標が常に一体不可分のものとして把握されるべき特段の事情が見出し得ないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由2に対し
ア 拒絶査定に対する不服審判は,第一審である審査を基盤として審理を続行し,新しい資料を補充して,審査官の判断(拒絶査定)の当否を調査するものであること,すなわち,続審として,出願事件そのものの再審査を行うものであること(商標法56条1項,特許法158条),また,同じく商標法56条1項が準用する特許法156条1項は,「審判長は,事件が審決をするのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人に通知しなければならない。」と規定し,審判合議体において事件が審決をするのに熟したものと認めたときは,いつでも審理を終結することができる旨を定めていることからすれば,本件審判において,第一審である審査を基盤として審理を続行し,審判段階における新しい資料を補充して,本願商標が引用商標との関係で商標法4条1項11号に該当するとした拒絶査定の結論及び理由の当否を調査した結果,審決をすることができる状態に至ったものと審判合議体が認めた場合には,いつでも審理を終結することができるのである。
そして,原告は,本件審判の請求の理由(平成21年8月11日付けで補正)においては,引用商標権者と譲受交渉するとの理由で,審決の猶予を申し出ていたにすぎなかったものである。
したがって,本件審判においては,審理着手時期が到来すれば,審判合議体は,続審として,速やかに当該拒絶査定の当否を調査し,審決をすることができたのであるが,本件の審理着手時期(審判請求から約7か月経過後であり,当該譲受交渉の申出からでも既に約6か月の経過)になっても,原告からは当該譲受交渉に関するその後の進捗状況につき何ら報告がなかったため,審判合議体は,その具体的な進捗状況を確認した上で,最終的な判断をしようと審尋を行ったものである。そして,審尋に対する回答によれば,当該譲受交渉の進捗状況を具体的に判断できるに足りる証拠の提出もなく,もはやこれ以上,本件審判の審理を遅延させるべき理由はないものと審判合議体が判断したことから,本件審判の審理を終結することとしたのである。
なお,審理終結通知後に,原告代理人から,電話にて審理の再開の打診があったが,その理由は,引用商標に対して不使用取消審判を請求するとのことであったため,かかる対応は,審理を再開するための合理的な理由に該当するものではなく,時機に後れた対応であることから,審理の再開は行わずに審決をすることにしたものである。
イ 「具体的な証拠」の認定につき
審判における平成22年2月3日付け審尋(同月5日発送)(乙1)の目的は,原告による譲受の申入れに対して引用商標権者から何らかの応答がされているか等,譲受交渉の進捗状況を判断できる具体的な書面の提出を求めたものであるところ,原告は,平成22年3月2日付け回答書において,「譲渡対価の合意について交渉が難航している。また,引用商標と類似する役務の削除補正についても検討している。」旨主張するのみであり(なお,本願商標の指定役務から引用商標と類似する役務を削除する補正をした事実はない。),しかも,原告が譲受交渉の内容を具体的に証する書面として提出した甲1(回答書)は,原告が引用商標権者に対して譲受を申し入れている事実は認められるものの,原告がいうように「交渉初頭の挨拶状的なもの」にすぎず,また,当該ファクシミリ送信書の作成日付は,本件審判を請求した日から約1か月後の平成21年8月19日であって,それ以降に,原告の譲受の申入れに対して引用商標権者から何らかの応答がされている等,原告と引用商標権者との間での譲受交渉の進捗状況を判断できるに足る証拠の提出はなかったものである。
そして,「甲1提出以降も譲受交渉は口頭において行われていた」との原告の主張も,これを裏付ける証拠の提出はなく,譲受交渉の進捗を判断できるに足る材料が何もなかったのであるから,審尋の後段で「なお,本件に対し,所定の期間内に譲渡交渉内容を具体的に証する書面を添付した回答がなされず,状況の具体的な進捗がみられないとき,あるいは審理を猶予し得る合理的事情が認められないときは,本件審判の審理を終結することとなるので留意されたい。」と付記していたとおり,合議体としては,これ以上,審理を遅延させるべき理由はないものと判断したのであって,そのこと自体に違法性があったとまではいうことができない。
ウ 審理終結通知書の起案日につき
原告が英国籍であるとの事情を考慮しても,原告には,引用商標権者との譲受交渉を行う機会は,本件審判を請求した日(平成21年7月21日)以降,少なくとも審判における審尋(平成22年2月5日発送)がされるまでの間十分に与えられていたわけであり,また,審判請求から相当の期間が経過していることを原告が認識していたことは,訴状の記載からも明らかであるから,審尋に対する回答書提出日から審理終結通知書を起案された日までの期間のみを捉えて,「譲受交渉に対する応答には相当程度の時間を要することをも考慮して『審理終結通知書』が起案されなければならなかった。」との原告の主張は,その前提において失当である。
エ 審理の再開につき
商標法56条1項で準用する特許法156条1項では,「審判長は,事件が審決をするのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人に通知しなければならない。」と規定している。そして,この「審決をするのに熟したとき」とは,「審理に必要な事実をすべて参酌し,取り調べるべき証拠をすべて調べて,結論を出せる状態に達したことをいう。したがって,審理終結の通知後は,原則として審理は行わない。」と解説されている(乙2)とおり,審理終結通知は,職権審理主義が支配する審判手続において,区切りをつけて審理の進行を図り,審判終了の遅滞を防止するためのものであるから,審理終結の通知が到達された後は,原則として審理を行うことはできないというべきである。
また,商標法56条1項で準用する特許法156条2項では,「審判長は,必要があるときは,前項の規定による通知をした後であっても,当事者若しくは参加人の申立てにより又は職権で,審理の再開をすることができる。」と規定されているが,「審理の再開」は,審理の完全を期するために行われるものであって,「重大な証拠の取調べが未済であった」あるいは「審理終結の通知後に不使用取消審判を請求した場合であって,その請求自体が審理終結の通知後となった理由がやむを得ないと認められる」又は「審理終結の通知後に引用商標と類似する役務を削除する補正などがされていた」等の場合であって,かつ,審判長が必要と認めた場合に行われるものである。
したがって,原告から上申書や手続補正書が提出されたからといって,常に又は自動的に,審理が再開されるものではない。
すなわち,たとえ請求人が審理再開の申立てをしても,審判長が審理は尽くされていると判断すれば,審理の再開の必要もないのである。
これを本件についてみるに,本件での審理終結通知書(乙3)は,平成22年4月2日を起案日とし,同年4月6日を発送日とするものである。
そして,訴状の記載からも,同通知書が同年4月2日に起案され,同年4月7日までに原告に到達していたことは明らかである。
本件では,回答書には,不使用取消審判を請求することにつき一切述べられておらず,原告は,審理終結の通知後の平成22年4月7日に,唐突に,引用商標に対し不使用取消審判を請求する予定である旨を電話連絡によって口頭で申し出たものであるが,審理を再開すべき適切な手続補正書の提出も,不使用取消審判を請求した証拠の提出もなかったものである。
以上の経緯を踏まえると,審理終結の通知後の原告の口頭での申出(不使用取消審判の請求)は,審理を再開するための合理的な理由に該当するものではなく,時機に後れた対応であるといえるから,もはやこれ以上審理進行を猶予し得る理由はないと判断し,審判長は,審理の再開の必要性を認めなかったものである。
したがって,審決には,原告主張の商標法56条1項で準用される特許法156条2項に違反する手続的違法があるとはいえず,その主張は理由がない。
オ 不使用取消審判につき
商標法4条1項11号にいう「先願の登録商標」は,後願の商標の査定時又は審決時において,現に有効に存続していれば足りると解すべきところ,本件の場合,審決時(平成22年4月19日)において,不使用取消審判の請求がされている事実は認められないから,引用商標が本件の審決時に有効に存続していた事実は何ら影響を受けることがない。
審決後に原告によってされた,商標法50条1項に基づく不使用取消審判において,本願商標の指定役務と同一又は類似の関係にある引用商標の指定役務が取り消された場合であっても,審決の認定判断に何らの違法性はなく,これが取り消されるべき事情はない。
実際に不使用取消審判により,引用商標の指定役務中の本願商標の指定商品と同一又は類似の役務が取り消され,それが確定した場合は,本願商標が商標法4条1項11号に該当する理由は解消するが,審決後に請求された不使用取消審判の結果により,遡って審決が取り消される理由はない。そして,審決が維持され,本願商標の拒絶が確定した場合であっても,原告は,事後指定による再出願を行うことができるものであり,原告に多大なる不利益が生ずるものとはいえない。
仮に,審決を取り消すとする判断がされる場合,被告側に何らの瑕疵はないといえることから,敗訴者負担の原則が適用されるのは不当であり,訴訟費用については原告が負うべきものである。
第4当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(商標の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
また,証拠(甲2,14)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件審決後である平成22年5月10日付けで,引用商標である商標登録第4558717号の指定役務のうち第42類の「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,権利者である株式会社ほるぷ出版(原権利者 株式会社ブッキング)を被請求人として,商標法50条1項に基づく不使用取消審判を請求し,同年5月21日(処分日)にその旨の予告登録がなされ,同年8月31日に認容審決(甲14)がなされ,同年11月2日(処分日)に確定登録がなされたことが認められる。
上記事実によれば,上記予告登録がなされた平成22年5月21日の3年前である平成19年5月21日から,引用商標の商標権者である株式会社ほるぷ出版ないし株式会社ブッキングは,指定役務第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,引用商標を使用していなかったことになる。
2 本願商標と引用商標の類否について(取消事由1)
商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品・役務に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
一方,甲33(引用商標に係る公報)及び甲15(本願商標に係る出願・登録情報の検索結果)の各指定役務欄を比較すると,本願商標(35類は取り除かれ,39類及び43類はそれぞれ変更された後のもの)と引用商標(上記不使用取消審判事件の審決により,第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」が除かれた後のもの)では,その指定役務の抵触関係はないものと認められる。
そこで,以上の観点に立って,本願商標と引用商標の類否につき検討する。
(1) 外観
本願商標は,青色横長の長方形の図形の左端に,地球とトランクの図柄を配し,上記長方形内中央に,白抜きで,「BOOKING」の文字と,薄い青色で「.COM」の文字とを組み合わせた結合商標である。
他方,引用商標は,左下角部中央に向けてややぼかしを施した黒色の正方形内に,左下角部を分割する形で,白抜きの太線で2つの半円弧を配し,さらに,中央部に白抜きで「Book-ing」の文字とを組み合わせた結合商標である。
このように,両商標は,その外観は,相当異なる(審決も,その3頁13行で「外観において相違する」としている。)。
(2) 観念
ア 証拠(乙4の1ないし3,乙5ないし7)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 「booking」には英語で予約という意味があり,「book」には,英語で名詞の「本」という意味のほか,動詞で「(座席・部屋・切符などを)予約する」という意味がある(乙4の1,4の2)。
(イ) 「ing」は,英語で,動詞に付いて動名詞,名詞を作る接尾語となる場合がある(乙4の3)。
(ウ) 「com」は,インターネットのドメイン名の中のトップレベル・ドメインと呼ばれるものの一つで,登録された一般企業の URLの最後に「.com」と付く(乙5)。「.com」は,世界の誰もが登録できる分野別トップレベルドメインの一つである(乙6)。
(エ) 「ハイフン(-)」とは,欧文で,二語を結び付けたり,一語を行末で区切って二行に分けて書いたりするときに間に記す短い横線の符号を意味する(乙7)。
イ(ア) 本願商標は「BOOKING.COM」との文字からなること,「Booking」は英語で「予約」との意味を有すること,「.COM」の部分はインターネットの定型アドレスの一部と同じであることからすれば,本願商標からは,全体として「予約に関するインターネットアドレス」との観念が生じるものと解される。
なお,「BOOKING」部分と「.COM」部分とを分離すべきか否かにつき当事者間に争いがあるが,「.COM」がインターネットアドレスの後部に付くものであることはよく知られているというべきであり,「○○.COM」との表示は,全体が一体となってインターネットアドレスの一部を表すもので,一体であることによって特定の意味を持つといえ,本願商標においても,「.COM」部分と「BOOKING」部分は文字の大きさも同じであり,色彩が違うとはいえ,「.COM」部分も十分判読可能であるから,本願商標をあえて分離して,「.COM」部分を要部から外すことに合理的理由はない。
このほか,原告は,本願商標の図柄部分(地球とトランクケース)をも併せ考慮すると,本願商標全体から「海外旅行の予約アドレス」等の観念をも生じる旨主張するが,上記図柄部分の与える印象から一義的に上記観念のみが生ずるとまでは認められない。
(イ) 他方,引用商標が「Book-ing」の文字からなることからすれば,「Book」と「ing」との間に「-」(ハイフン)があるとしても,同商標から「予約」(Booking)の観念も生じる余地があるといえる(引用商標の原権利者は「株式会社ブッキング」であった。)。ただし,図柄部分は,特段の観念を生じさせるものとは認められない。
(ウ) 原告は,引用商標の文字部分「Book-ing」には「-」(ハイフン)があるから,これは造語であって,同商標からは予約(Booking)の観念は生じないと主張するが,ハイフンそれ自体に特段の意味はないことに加え,引用商標における「-」(ハイフン)はごく小さいものであって,引用商標において「Booking」(予約)の意味が生じないとするほど「-」(ハイフン)が重要な意味を持つとまではいえず,上記主張は採用できない。したがって,本願商標と引用商標とでは,「予約」との部分で共通の観念が生ずる余地があるといえる。
もっとも,引用商標において,「Book」と「ing」が「-」(ハイフン)で一応区切られていることや,「Book」が「本」を意味することは我が国でもよく知られていることから,引用商標から「本」に関する何らかの観念が生じる可能性の方が強いということもできる。
(3) 称呼
本願商標は,「BOOKING.COM」との文字部分からすれば,「ブッキングドットコム」又は「ブッキングコム」との称呼が生ずるものと解され,かつ,同称呼は格別冗長なものともいえない。
この点,被告は,我が国におけるインターネットの普及により,「○○.COM」の文字に接した需要者は,インターネットにおいて汎用される「.COM」を捨象した「○○」部分は,識別上重要な部分として印象付けられ,本願商標から「BOOKING」の文字部分に相応して「ブッキング」の称呼をも生じる旨主張する。
しかし,前記(2)イのとおり,本願商標において「.COM」部分を要部から外すことに合理的理由はなく,仮に本願商標から「ブッキング」との称呼が生じる場合があるとしても,第一次的には「ブッキングドットコム」又は「ブッキングコム」との称呼が生じることを否定することはできない。
他方,引用商標は,「Book-ing」との文字部分からすれば,「ブッキング」との称呼が生ずるものと解される。
この点につき,原告は,「-」(ハイフン)の存在を強調し,引用商標からは「ブッキング」との称呼を生じない旨主張するが,前記(2)イのとおり,引用商標における「-」(ハイフン)はごく小さいものであって,同ハイフンの存在により引用商標から「ブッキング」の称呼が生じないと解するのは合理的でなく,原告の上記主張は採用することができない。
以上のとおり,本願商標と引用商標の称呼は,原則として「ブッキング」の部分で共通しており,一定程度類似するものと認められる。
(4) 取引の実情
ア(ア) 証拠(甲10ないし甲13)によれば,以下の事実が認められる。
a 原告は,東京を含む欧米を中心とした約30都市に海外支社を置き,ホテル情報のウェブサイトに「BOOKING.COM オンラインホテル予約」の文字(本願商標のうち図柄部分を除き,「オンラインホテル予約」との小さい文字を付加した形態)を使用している。
原告は,平成8年に設立されて以来,様々なタイプの宿泊施設情報を提供し,掲載ホテルの数は89か国10万件以上であり,グループ会社全体で1600人以上のスタッフがいる(甲10,11)。
b 上記ウェブサイトは,需要者に対し,ビジネスからレジャーまで,小規模な家族経営ホテルから豪華ホテルまで,と様々なタイプの宿泊施設を簡単に予約できるようにしたもので,宿泊施設の最安値を提供している(甲11)。
c 上記ウェブサイトは,世界中から月間3000万人以上の需要者に利用されている(甲11)。
d 平成22年9月24日時点で,「Yahoo!Japan」の検索エンジンにおいて,キーワード「book」と入力しただけで,本願商標の文字部分全体がキーワード候補としてポップアップされていた(甲12)。
e 平成22年9月24日時点で,「Google」の検索エンジンにおいて,キーワード「booki」と入力しただけで,本願商標の文字部分全体がキーワード候補としてポップアップされていた(甲13)。
(イ) 以上の事実を総合すれば,確かに,原告による東京支社の設立時期や日本国内向けのウェブサイト上での営業開始時点等が必ずしも明らかではないものの,遅くとも本願商標にかかる審決時(平成22年4月19日)には,本願商標には一定の信用が形成されていたものと推測される。
イ 一方,前記1のとおり,引用商標に係る商標登録(登録第4558717号)は,所定の指定役務のうち第42類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」につき,その登録を取り消す旨の平成22年8月31日付け審決がなされ,確定したのであるから,引用商標の商標権者たる株式会社ほるぷ出版ないし株式会社ブッキングは,予告登録の3年前たる平成19年5月21日から,上記指定役務に関し,引用商標を使用していなかったものと認められる。
(5) 以上の(1)ないし(4)からすれば,本願商標と引用商標とは,外観は相当異なり,観念は「予約」との部分で一部共通し,称呼は原則として「ブッキング」との共通部分があり,これらの諸要素に,前述した取引の実情,とりわけ不使用取消審判により認められた平成19年5月21日からの引用商標不使用の実情を総合考慮すると,本件審決時(平成22年4月19日)において本願商標と引用商標とが類似するとはいえないと認めるのが相当であり,本願商標は商標法4条1項11号には該当しないというべきである。
3 結論
以上によれば,その余について検討するまでもなく,本願商標と引用商標とが類似するとした審決の判断には誤りがあることになる。
なお,訴訟費用の負担については,本件の事実経過にかんがみ,民訴法62条を適用して原被告各自の負担とすることとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)