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知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10243号 判決 2011年3月23日

原告

被告

特許庁長官

指定代理人

山口由木

土屋真理子

黒瀬雅一

小林和男

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2008-25832号事件について平成22年6月21日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は,発明の名称を「屏風式製品」とする発明について,平成16年9月11日に特許出願(特願2004-298197号。以下「本願」という。)をしたが,平成20年8月15日付けで拒絶査定を受け,同年10月8日付けで拒絶査定不服審判(不服2008-25832号事件)を請求し,平成22年5月24日付けで手続補正(甲21。以下「本件補正」という。)をした。

特許庁は,平成22年6月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月1日,原告に送達された。

2  特許請求の範囲

本件補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数3)の請求項1は,次のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。)。願書に添付された図2は,別紙のとおり。

「【請求項1】

複数枚のパネルと,

前記各パネルの幅方向の両端を連結する蝶番装置とを備え,

前記蝶番装置は,同形同大に形成された一対のみぞ形部材と,屏風に用いられる紙蝶番と同一の構成で強度が紙と同等以上の素材から形成された蝶番とを備え,

前記各みぞ形部材は,ウェブと,ウェブの両側に設けられ互いに対向してそれらの間で前記パネルの幅方向の端部を着脱可能に連結する一対のフランジとを有し,

前記蝶番は前記一対のみぞ形部材に接着され,隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できるように前記一対のみぞ形部材を連結しており,

前記みぞ形部材と前記パネルの幅方向の端部の連結は,前記ウェブに設けられたフックが,前記パネルの幅方向の端部に設けられたフック受けに引っ掛かることで行なわれる,

ことを特徴とする屏風式製品。」

3  審決の内容

(1)  別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実公昭51-5923号公報(甲15。以下「刊行物1」という。)及び実願昭62-83589号(実開昭63-191969号)のマイクロフィルム(甲16。以下「刊行物2」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。

(2)  審決が上記結論を導くに当たり行った,刊行物1,2記載の発明の認定,本願発明と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点を認定,容易想到性の判断の要旨は,以下のとおりである。

ア 刊行物1記載の発明

複数枚の板材イ,ロと,

前記各板材の幅方向の両端を連結する連結具とを備え,

前記連結具は,同形同大に形成された一対のコ字形の縁材1と,軟質合成樹脂テープ,レザー等から形成された可撓性の連繋帯3からなり,

前記各コ字形の縁材1は,ウェブと,ウェブの両側に設けられ互いに対向してそれらの間で前記板材の幅方向の端部を連結する一対のフランジとを有し,

前記連繋帯3は前記一対のコ字形の縁材1に接着され,隣り合うパネル間で一方の板材に対して他方の板材を180度回転できるように前記一対のコ字形の縁材1を連結している,

仕切板等の建具類。

イ 本願発明と刊行物1記載の発明との一致点

複数枚のパネルと,

前記各パネルの幅方向の両端を連結する蝶番装置とを備え,

前記蝶番装置は,同形同大に形成された一対のみぞ形部材と,強度が紙と同等以上の素材から形成された蝶番とを備え,

前記各みぞ形部材は,ウェブと,ウェブの両側に設けられ互いに対向してそれらの間で前記パネルの幅方向の端部を連結する一対のフランジとを有し,

前記蝶番は前記一対のみぞ形部材に接着され,隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを回転できるように前記一対のみぞ形部材を連結している屏風式製品。

ウ 本願発明と刊行物1記載の発明との相違点

(ア) 相違点1

蝶番が,本願発明では,「屏風に用いられる紙蝶番と同一の構成」であり,「隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できるように一対のみぞ形部材を連結している」のに対し,刊行物1記載の発明では,「可撓性の連繋帯3」であり,隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できない点。

(イ) 相違点2

みぞ形部材とパネルの幅方向の端部の連結が,本願発明では,着脱自在であり,ウェブに設けられたフックが,パネルの幅方向の端部に設けられたフック受けに引っ掛かることで着脱自在とされているのに対し,刊行物1記載の発明では,着脱自在か否か不明であり,具体的に例示されているのは,接着剤或いはビスによる連結であって,フックとフック受けを設けることは示されていない点。

エ 刊行物2記載の発明

屏風に用いられる和紙及び合成樹脂シートから形成された屏風板連結シートであって,

隣り合う屏風板間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できるように連結する屏風板連結シート。

オ 容易想到性の判断

(ア) 相違点1について

屏風式製品のパネルを連結する蝶番として,隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できるように連結できるものは,刊行物2記載の発明に示されている。相違点1の構成は,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用することより容易である。

(イ) 相違点2について

①刊行物1記載の発明では,ビスによる連結が示されており,ビスのはめはずしにより着脱ができることは明らかであること,②刊行物1記載の発明では,パネルとして,破損しやすい段ボールが例示されており,強靱材よりなるみぞ型部材を着脱自在として,破損したパネルを取りかえようとすることは容易である,③みぞ型部材をパネルに連結する際に,ウエブに設けたフックをパネル体のフック受けに着脱自在に連結することは周知技術である。相違点2の構成は,刊行物1記載の発明及び周知技術により容易である。

第3取消事由に係る原告の主張

1  取消事由1(容易想到性についての判断の誤り)

(1)  審決は,本願発明の効果として本件補正後の明細書(以下「本願明細書」という。)に記載された,蝶番装置を量産化できること,様々なパネルを連結させることが容易になること,パネル同士に隙間がなく,形を自在に変化させることができること,蝶番装置が着脱式になるため屏風式製品の組立てが簡素化されてコストが下がること,部分的な取替えやパネルの増減が簡単にできることなどの効果は,全体として刊行物1,2記載の発明及び周知技術から予測できる程度のものであり,格別顕著なものとはいえないと判断した。

しかし,本願発明の効果は,これにとどまるものではなく,パネルを何枚か連ねて全体の形が自在になる使い方を想定して,蝶番は,くるみがけを表裏1枚ずつかけて羽根を隠すようにし,表裏の仕上りを同じにするとともに,一対のみぞ形部材に接着して蝶番装置を作製し,その蝶番装置とパネルとの連結は,みぞ形部材に設けられたフックとパネルに設けられたフック受けによる着脱自在の連結手段によりなされるものである。これに対し,刊行物2記載の発明では,一対のパネルを開閉自在に連結することを想定して,蝶番は,くるみがけが1枚だけで表裏の仕上りが異なり,裏面の羽根は露出するとともに,パネルに直に接着されているため,パネルの増減や部分的な取替えはできず,利便性や量産体制としての効率が落ちる。以上のとおり,刊行物2記載の発明では,本願発明の効果が奏されない。

本願発明は,近代化によってもたらされた屏風の背景にある閉塞的な状況において,屏風のパネルを連ねて全体の形を自在にして使用することを想定し,屏風を量産化することに思い至ることが容易でないところ,原告の実体験に基づき発明されたものである。

したがって,本願発明は,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明ないし周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)  審決は,原告が平成22年5月24日付け意見書(甲20)において主張した,本願発明において,フック受けを,家具ないし床と天井間に調節するツッパリ棒に設けておくと,屏風式製品の一端を係止する使い方と両端を係止する使い方ができるという効果(以下「効果F」という場合がある。)を,本願発明を特定する事項に基づかないものであって,本願発明の特有の効果とは認められないと判断した。

しかし,本願発明の蝶番装置によれば,隣り合うパネル間に蝶番装置を設ける使い方のほか,パネルの幅方向の両端を連結する蝶番装置のうち,一端をパネルと同様のフック受けを有するものに着脱するという効果Fは,本願発明の特有の顕著な効果である。

(3)  以上のとおり,審決には,本願発明の効果についての判断を誤り,その結果容易想到性の判断を誤った違法がある。

2  取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断に当たり,刊行物2を引用した誤り)

審決は,相違点1について,刊行物2を引用例とすることにより容易想到と判断しているが,360度回転する蝶番としては刊行物2を引用するまでもなく,それ以前からある周知技術の紙蝶番を適用すれば足りるから,刊行物2を引用例とすることは誤りである。

第4被告の反論

1  取消事由1(容易想到性についての判断の誤り)に対し

(1)  原告は,本願発明と刊行物2記載の発明との相違点を挙げて,本願発明に特有の効果を主張している。

しかし,審決は,本願発明と刊行物1記載の発明とを対比した上,相違点1について,蝶番として360度回転可能な屏風に用いられる紙蝶番と同一の構成の蝶番は,刊行物2に記載されており周知の技術事項であるから,相違点1に係る本願発明の構成とすることは容易になし得ると判断したものであり,原告の主張は前提を誤っており失当である。また,原告が主張する本願発明と刊行物2記載の発明との効果の相違についても,本願発明に基づかない主張か,刊行物1記載の発明又は刊行物2記載の発明が有する構成にすぎず,本願発明に特有の効果ではない。

(2)  本願発明では,蝶番装置が隣り合うパネル間に設けられるものと特定されており,隣り合うパネルが存在しない屏風式製品自体の端部(パネルを連結していない側の端部に位置するパネルの外側端部)に蝶番装置を設けること,及びフック受けを家具ないし床と天井との間に調節するツッパリ棒に設けることは,本願明細書の発明の詳細な説明又は願書に添付された図面にも記載されていない。したがって,効果Fは,本願発明に基づく効果とは認められない。

(3)  以上のとおり,本願発明は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本願発明の効果は,刊行物1,2記載の発明及び周知技術から予測できる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。したがって,審決の容易想到性の判断に誤りはない。

2  取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断に当たり,刊行物2を引用した誤り)に対し

紙蝶番は,くるみがけが表裏1枚ずつあるものだけではなく,刊行物2記載の実施例のように,くるみがけが屏風の片側にだけ形成される簡易なものも含まれる。また,本願発明の紙蝶番は,くるみがけの有無や枚数により限定されておらず,パネル同士を隙間なく360度回転させることができる紙で作られた蝶番を意味するものである。この点に関し,審決は,360度回転する蝶番が周知技術であるとしても,そのような紙蝶番が具体的に記載されている刊行物2を証拠として提示し,引用例としたものにすぎない。

したがって,審決が相違点1について刊行物2記載の発明を引用例とした判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

当裁判所は,原告が主張する取消事由には理由がなく,審決を取り消すべき違法は認められないから,原告の請求を棄却すべきものと判断する。

1  取消事由1(容易想到性についての判断の誤り)について

本願発明が,刊行物1及び刊行物2に基づいて,容易に発明することができたとした審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1)  相違点1,2に係る構成の容易想到性の有無について

ア 事実(争いない事実を含む。)

本願発明の特許請求の範囲は,第2の2記載のとおりである。すなわち,

「【請求項1】

複数枚のパネルと,

前記各パネルの幅方向の両端を連結する蝶番装置とを備え,

前記蝶番装置は,同形同大に形成された一対のみぞ形部材と,屏風に用いられる紙蝶番と同一の構成で強度が紙と同等以上の素材から形成された蝶番とを備え,

前記各みぞ形部材は,ウェブと,ウェブの両側に設けられ互いに対向してそれらの間で前記パネルの幅方向の端部を着脱可能に連結する一対のフランジとを有し,

前記蝶番は前記一対のみぞ形部材に接着され,隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できるように前記一対のみぞ形部材を連結しており,

前記みぞ形部材と前記パネルの幅方向の端部の連結は,前記ウェブに設けられたフックが,前記パネルの幅方向の端部に設けられたフック受けに引っ掛かることで行なわれる,

ことを特徴とする屏風式製品。」というものである。

他方,刊行物1記載の発明は,「複数枚の板材イ,ロと,前記各板材の幅方向の両端を連結する連結具とを備え,前記連結具は,同形同大に形成された一対のコ字形の縁材1と,軟質合成樹脂テープ,レザー等から形成された可撓性の連繋帯3からなり,前記各コ字形の縁材1は,ウェブと,ウェブの両側に設けられ互いに対向してそれらの間で前記板材の幅方向の端部を連結する一対のフランジとを有し,前記連繋帯3は前記一対のコ字形の縁材1に接着され,隣り合うパネル間で一方の板材に対して他方の板材を180度回転できるように前記一対のコ字形の縁材1を連結している,仕切板等の建具類」とするものである。

イ 判断

本願発明の相違点1に係る構成(「屏風に用いられる紙蝶番と同一の構成」であり,「隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できるように一対のみぞ形部材を連結している」)は,刊行物2記載の発明に開示され,かつ,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用することに,何ら阻害要因はない。

また,本願発明の相違点2に係る構成(「みぞ形部材とパネルの幅方向の端部の連結が,本願発明では,着脱自在であり,ウェブに設けられたフックが,パネルの幅方向の端部に設けられたフック受けに引っ掛かることで着脱自在とされている」)は,みぞ型部材をパネルに連結する際に,ウェブに設けたフックをパネル体のフック受けに着脱自在に連結することは周知技術であり,同技術を刊行物1記載の発明に適用することにも阻害要因はない。

したがって,審決が本願発明の刊行物1記載の発明との相違点1及び2について,容易に想到できたと判断した点に誤りはない。

ウ 原告の主張に対して

(ア) 原告は,「本願発明は,パネルを何枚か連ねて全体の形が自在になる使い方を想定するものであって,蝶番は,くるみがけを表裏1枚ずつかけて羽根を隠すようにし,表裏の仕上りを同じにするとともに,一対のみぞ形部材に接着して蝶番装置を作製し,その蝶番装置とパネルとの連結は,みぞ形部材に設けられたフックとパネルに設けられたフック受けによる着脱自在の連結手段によりなされるものであるのに対し,刊行物2記載の発明は,一対のパネルを開閉自在に連結することを想定して,蝶番は,くるみがけが1枚だけで表裏の仕上りが異なり,裏面の羽根は露出するとともに,パネルに直に接着されているため,パネルの増減や部分的な取替えはできず,利便性や量産体制としての効率が落ちる。刊行物2記載の発明では,本願発明の効果が奏されない」と主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,審決は,本願発明の容易想到性を判断するに当たり,刊行物1記載の発明(いわゆる主引用発明)を起点として,両発明を対比した上,本願発明の刊行物1記載の発明との相違点1に係る構成(360度回転できるとの構成)は,刊行物2記載の発明(副引用発明)に開示された技術であって,これを適用して,本願発明に到達することは容易であると判断したのであり,刊行物2記載の発明を起点として,両発明を対比して,本願発明に到達することが容易であると判断したものではない。したがって,本願発明と刊行物2記載の発明とは,効果において相違する点があるという原告の主張は,直ちには,本願発明と刊行物1記載の発明の相違点1に係る構成が容易想到であるとの審決の判断が誤りであることの根拠とはならない。

のみならず,原告は,本願発明は,刊行物2記載の発明が有しない効果(例えば,パネルを何枚か連ねて全体の形が自在になる等の効果)を有する旨主張するが,原告主張に係る効果は,いずれも,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明ないし周知技術を適用することにより予測可能な効果にすぎない。

以上のとおりであり,本件における原告の上記主張は,採用の限りではない。

(イ) 原告の主張に係る,その他の本願発明の格別の効果について

a 原告は,「本願発明は,蝶番を一対のみぞ形部材に接着して蝶番装置を作製し,その蝶番装置とパネルとの連結は,みぞ形部材に設けられたフックとパネルに設けられたフック受けによる着脱自在の連結手段によりなされるのに対し,刊行物2記載の発明では,蝶番がパネルに直に接着されているため,パネルの増減や部分的な取替えはできず,利便性や量産体制としての効率が落ちる,そもそも本願発明では屏風のパネルを連ねて全体の形を自在にして使用することを想定し,屏風を量産化することに思い至ることが容易でなかった」などと主張する。

しかし,蝶番をパネルに直に接着しないとの構成は,刊行物1記載の発明が備えており,また,蝶番装置とパネルとの連結方法がフックとフック受けによる着脱自在の連結手段によるとの構成は,実願昭57-160568号(実開昭59-63120号)のマイクロフイルム(甲19)に記載されているように格別の効果とはいえない。

b 原告は,「本願発明の蝶番装置は,隣り合うパネル間に設けられる使い方のほか,パネルの幅方向の両端を連結する蝶番装置のうち,一端をパネルと同様のフック受けを有するものに着脱することができ,かかる効果は,本願発明の顕著な効果である」と主張する。

しかし,本願発明は,前記特許請求の範囲の記載のとおり,「前記各パネルの幅方向の両端を連結する蝶番装置とを備え,」「前記蝶番は前記一対のみぞ形部材に接着され,隣り合うパネル間で一方のパネルに対して他方のパネルを360度回転できるように前記一対のみぞ形部材を連結して」いるものであり,蝶番装置は,隣り合うパネル間に設けられることが特定されており,隣り合うパネルが存在しない屏風式製品自体の端部(パネルを連結していない側の端部に位置するパネルの外側端部)に蝶番装置を設けることや,フック受けを家具や床と天井との間に調節するツッパリ棒に設けることは,本願の特許請求の範囲において特定されておらず,本願明細書及び願書に添付された図面にもかかる構成に関する記載も示唆もない。そうすると,原告の主張に係る効果は,本願発明に基づく効果とはいえない。

c 原告は,「本願発明には,蝶番は,くるみがけを表裏1枚ずつかけて羽根を隠すようにし,表裏の仕上りを同じにするとともに,一対のみぞ形部材に接着して蝶番装置を作製し,その蝶番装置とパネルとの連結は,みぞ形部材に設けられたフックとパネルに設けられたフック受けによる着脱自在の連結手段によりなされる格別の効果を有する」と主張する。

しかし,原告の主張に係る本願発明の格別の効果は,いずれも本願発明の構成に基づかない効果に関する主張か,刊行物1記載の発明又は刊行物2記載の発明が有する構成にすぎず,本願発明に特有の効果はない。

(2)  小括

以上のとおり,審決の本願発明の効果及び容易想到性の判断に誤りはない。

2  取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断に当たり,刊行物2を引用した誤り)に対し

原告の主張は,必ずしも,その趣旨が明らかでないが,審決が,相違点1について,刊行物2を引用例とすることにより容易想到と判断したことについて,360度回転する蝶番としては刊行物2を引用するまでもなく,それ以前からある周知技術の紙蝶番を適用すれば足りるのであるから,刊行物2を引用例としたことは誤りであるとの主張をするものと解される。しかし,本願発明の紙蝶番は,くるみがけの有無や枚数により限定されておらず,パネル同士を隙間なく360度回転させることができる紙で作られた蝶番を意味する。そうである以上,紙蝶番が具体的に記載されている刊行物2を引用例とした審決の判断に誤りはない。

3  結論

以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に本件審決にはこれを取り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官 知野明)

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