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知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10264号 判決 2011年3月23日

原告

株式会社スーパー・フェイズ

訴訟代理人弁理士

栗原浩之

村中克年

訴訟復代理人弁理士

澤井容子

被告

特許庁長官

指定代理人

松下聡

長浜義憲

岡本昌直

紀本孝

小林和男

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2008-14717号事件について平成22年6月29日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成18年(2006年)6月13日,発明の名称を「使用済み紙おむつの再生利用システム及び再生利用方法」とする発明について,国際出願し(以下「本願」という。優先権主張 平成17年(2005年)6月14日 日本国),本願は,平成18年(2006年)12月21日,国際公開された(国際公開番号 WO2006/134941 A1,国際公開時の請求項の数は11であった。)。

原告は,平成20年4月9日付け手続補正により,特許請求の範囲及び明細書を変更する補正をした。

本願は,平成20年5月9日付けで拒絶査定を受け,原告は,同年6月12日,拒絶査定不服審判(不服2008-14717号)を請求するとともに,同日付け手続補正(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を「本願明細書」という。)をした。

特許庁は,平成22年6月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月14日,原告に送達された。

2  特許請求の範囲

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願補正発明」という。)。

使用済み紙おむつを破砕すると共に発酵菌と共に攪拌する破砕手段と,当該使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整すると共に所定時間加熱して殺菌する加熱手段とを少なくとも有し,投入した使用済み紙おむつの全てを,所定の水分を含有すると共に所定の容量に減容された全て燃料として使用できる再生物を生成し,且つ当該再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される再生物を生成する処理装置と,前記再生物を燃料として燃焼し且つ熱エネルギーを取り出すことで使用済み紙おむつを再生利用する再生設備とを具備することを特徴とする使用済み紙おむつの再生利用システム。

3  審決の理由

(1)  別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

本願補正発明は,甲1(特開2004-338989号公報,以下「刊行物1」という。),甲2(特開2001-116228号公報,以下「刊行物2」という。),甲3(特開2000-220812号公報,以下「刊行物3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成20年4月9日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)であり,本願発明の構成要件を全て含み,更に他の構成要件を付加した本願補正発明が刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1ないし3記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(2)  審決が,本願補正発明に進歩性がないとの結論を導く過程において認定した刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)の内容,本願補正発明と刊行物1発明の一致点,相違点は,次のとおりである。

ア 刊行物1発明の内容

使用済み紙おむつを,発酵菌の存在下で発酵槽内壁あるいは攪拌翼の切断刃により発酵槽内で破砕しながら加温を行って発酵処理する手段と,発酵槽に発酵反応の制御や病原菌の不活性化のための加温手段を付帯するものであって,使用済み紙おむつは,発酵の進行に伴い水分を放出し減容すると共に所定時間加温して病原菌の不活性化を加熱殺菌により行うものであり,発酵物と非発酵物とに分別し,非発酵物をペレット状に固形化した後に工場などで,使用済み紙おむつが固形燃料として燃焼し温水,蒸気などの熱源として使用できる使用済み紙おむつを再利用するシステム。

イ 本願補正発明と刊行物1発明の一致点

使用済み紙おむつを破砕すると共に発酵菌と共に攪拌する破砕手段と,当該破砕物を所定時間加熱して殺菌する加熱手段とを少なくとも有し,投入した使用済み紙おむつを減容された燃料として使用できる再生物を生成する処理装置と,前記再生物を燃料として燃焼し且つ熱エネルギーを取り出すことで使用済み紙おむつを再生利用する再生設備とを具備する使用済み紙おむつの再生利用システム。

ウ 本願補正発明と刊行物1発明の相違点

(ア) 相違点1

本願補正発明においては,「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として使用できる再生物を生成するのに対して,刊行物1発明においては,「投入した使用済み紙おむつ」を発酵物と非発酵物に分別したもののうち,非発酵物を燃料として使用できる再生物として使用する点。

(イ) 相違点2

本願補正発明においては,「使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する」のに対して,刊行物1発明においては,使用済み紙おむつの破砕物を加熱して発酵処理を行う過程で水分を放出して減容するものの,水分含有量を「所定」のものとすることまでは明らかでない点。

(ウ) 相違点3

本願補正発明においては,燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものであるのに対し,刊行物1発明においては,再生物がどの程度の水分を含有するものであり,どの程度の容量まで減容されたものか明らかでない点。

(エ) 相違点4

本願補正発明においては,「再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される」のに対し,刊行物1発明において,CO2の排出量に関して言及されていない点。

第3取消事由に関する原告の主張

審決は,相違点1の認定の誤り(取消事由1),相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2),相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3),相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4),相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)があるから,違法として取り消されるべきである。

1  相違点1の認定の誤り(取消事由1)

本願補正発明と刊行物1発明の相違点1について,「本願補正発明においては『投入した使用済み紙おむつの全て』を燃料として使用できる再生物を生成するのに対して,刊行物1発明においては,『投入した使用済み紙おむつ』を発酵物と非発酵物に分別したもののうち,非発酵物を燃料として使用できる再生物として使用する点。」とした審決の認定は,不十分であり,誤りである。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明において,使用済み紙おむつのうち発酵物は,含水率が高く,燃料に適さず,堆肥として使用されるものである。したがって,相違点1については,さらに,「本願補正発明においては,『投入した使用済み紙おむつの全て』を燃料として使用できる再生物を生成するのに対し,甲1記載の発明においては,発酵物を燃料として使用できる再生物として使用するのではなく堆肥として使用する点。」(以下「相違点5」という。)を相違点として認定すべきである。

2  相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより相違点1に係る本願補正発明の構成(「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として使用できる再生物を生成する)を容易に想到することができたとする審決の判断は,以下のとおり,誤りである。

(1)  使用済み紙おむつの「全て」を燃料として使用することについて

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願補正発明の構成のうち,使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの構成を容易に想到することはできない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明において,使用済み紙おむつのうちの発酵物は,堆肥としての利用に好適とされているが,燃料として使用することはできず,これを燃料として使用するためには,発酵物を非発酵物とするか,発酵物を堆肥ではなく燃料として使用できる再生物とするか,のいずれかを実現しなければならない。しかし,刊行物2の記載を参照しても,これを実現することはできない。

また,刊行物1には,人糞は発酵物であり堆肥としての利用に適するとされているほか,10%程度含有される高吸水性ポリマーは発酵物とも非発酵物とも言及されておらず,水分含有量などの性状が紙おむつに比べて不安定である生ゴミも併せて処理するとされている。しかし,刊行物2の記載を参照しても,投入した材料の全てを,本願補正発明にいう「所定の水分を含有すると共に所定の容量に減容された全て燃料として使用できる生成物」とすることは極めて困難である。

さらに,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用する一方,非発酵物は固形燃料として利用するものであり,発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していない。そのため,投入した使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの技術思想が刊行物2に記載されていたとしても,これを刊行物1発明と組み合わせる動機付けはなく,刊行物1発明を主引用例とする限り,発酵物と非発酵物を分けず全てを燃料として使用できる再生物とすることに想到することはできない。

(2)  「燃料」として使用できる再生物を生成することについて

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願補正発明の構成のうち,燃料として使用できる再生物を生成するという構成を容易に想到することはできない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,燃料とは,材料を燃焼させるために加工したものであり,移動・保管できるものであって,性能・有用性が所定の基準以上であることが望まれており,ごみの燃焼を熱源とすることとは異なる。刊行物2記載の発明は,被処理物を焼却し,発生した廃熱を有効利用することを目的としており,刊行物2記載の発明において,おむつなどの被処理物を乾燥したものは,それらの被処理物を燃焼させる過程で一時的に存在するものにすぎず,それらを取り出すことはない。また,刊行物2記載の発明のように使用済み紙おむつを焼却処理すると,一酸化炭素や二酸化炭素が発生して環境に悪影響を及ぼし,焼却した場所で廃熱を有効利用する必要があるのに対し,本願補正発明のように再生利用すれば,再生物を製造する段階では焼却していないから環境への悪影響が少なく,再生物を他の場所で再利用することができる。そのため,刊行物2記載の発明におけるおむつなどの被処理物を乾燥したものは,廃熱利用のための燃料ということはできない。刊行物3記載の発明も,刊行物2記載の発明と同様に,廃棄物の焼却処理システムに係るものであり,廃棄物を再生利用するものではない。

3  相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点2に係る本願補正発明の構成(使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する)を容易に想到することができたとする審決の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,前記2(1)のとおり,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するものであり,発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していない。そのため,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,「使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する」という,相違点2に係る本願補正発明の構成を容易に想到することはできない。

4  相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)

刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより相違点3に係る本願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものである)を容易に想到することができたとする審決の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,前記2(1)のとおり,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するものであり,発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していない。そのため,仮に刊行物3から,生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥することにより最適な燃焼状態を得るという技術事項を読み取れたとしても,燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものであるという,相違点3に係る本願補正発明の構成を容易に想到することはできない。

5  相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点4に係る本願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到することができたとする審決の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,前記1のとおり,審決は,相違点1の認定に誤りがあり,前記2のとおり,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願補正発明の構成(「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として使用できる再生物を生成する)を容易に想到し得たとはいえないから,相違点4に係る本願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到し得たとはいえない。

第4被告の反論

審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  相違点1の認定の誤り(取消事由1)に対し

審決による相違点1の認定に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,本願補正発明は,「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として利用するものであるから,この構成に係る相違点を認定するに当たっては,刊行物1発明が「発酵物を堆肥として利用する」ことまでを相違点として認定する必要はなく,刊行物1発明が発酵物と非発酵物とを区別し,そのうち非発酵物を固形燃料として利用することとの対比における相違点を認定すれば足りる。したがって,本願補正発明と刊行物1記載発明の相違点として,原告が主張する相違点5までを認定する必要はない。

2  相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより相違点1に係る本願補正発明の構成(「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として使用できる再生物を生成する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,本願出願時には,廃棄物の循環的利用について,廃棄物を原材料として再利用する「再生利用」や,廃棄物から熱エネルギーを回収する「熱回収」などが知られており,技術的,経済的な事情に応じて,再生利用や熱回収を適宜選択して行うことが一般的な認識であった(乙1)。刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として再生利用するとともに非発酵物を燃料として熱回収に利用するものであるのに対し,刊行物2記載の発明は,使用済み紙おむつの全てを燃料として熱回収に利用するものである。そうすると,刊行物1発明を前提としつつ,発酵物を分別して再生利用するための手間やコストを削減するなどの事情により,刊行物2記載の発明に倣って,使用済み紙おむつの全てを熱回収に利用することは,容易に想到し得た。

発酵物をペレットにして燃料として使用することは周知であったから(乙2,3),刊行物1発明における発酵物を燃料として利用できることは明らかである。刊行物1には,「生ゴミも併せて処理することもできる」と記載されているが,生ゴミを併せて処理することが必須とされているわけではないし,生ゴミを併せて処理する場合でも,乙2,3に照らせば,全てを燃料とすることができる。

刊行物2記載の発明におけるおむつなどの被処理物を乾燥させたものは,これを燃焼させて発生した熱を有効に利用するから,再生物でないとしても燃料であることは明らかである。また,刊行物1発明における非発酵物の再生物が燃料として移動,保管,燃焼できることは,言うまでもない。刊行物1発明は,使用済み紙おむつから分別した非発酵物をいったん固形燃料の形態とし,その後燃焼するものであるから,使用済み紙おむつを燃焼させて熱源として利用する点において,刊行物2記載の発明と共通する。そして,刊行物1発明の発酵物と非発酵物の分別を特段行わなければ,それらの全てが燃料として使用できる再生物となることは明らかである。

3  相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対し

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点2に係る本願補正発明の構成(使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明において,使用済み紙おむつの破砕物を加熱して発酵処理を行う過程で,どの程度まで減容するか等を考慮して,破砕物が所定の水分含有量となるよう調整することは,当業者にとって容易になし得たものである。

4  相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対し

刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより相違点3に係る本願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものである)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物3には,廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥し,最適な燃焼状態を得るという技術思想が記載されており,水分を蒸発させることにより減容が行われるから,刊行物1発明に刊行物3記載の発明を適用して,再生物を燃料に適したものとするために水分,容量を所定のものとすることは,容易に想到することができた。

5  相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対し

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点4に係る本願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明は,使用済み紙おむつから生成された非発酵物を,工場などで固形燃料として燃焼させ,温水・蒸気などの熱源として利用するので,その分,本来の燃料である重油,LPG等を節約することができる。また,刊行物2には,おむつなどの水分含有量の多い被処理物を乾燥することにより,ガスバーナーの燃料消費量を少なくし得ることが開示されている。したがって,本願補正発明において,再生物を生成する場合のCO2の排出量が使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減されることは,当業者が容易に想到し得ることであった。

第5当裁判所の判断

1  相違点1の認定の誤り(取消事由1)について

本願補正発明と刊行物1発明の相違点1について,「本願補正発明においては『投入した使用済み紙おむつの全て』を燃料として使用できる再生物を生成するのに対して,刊行物1発明においては,『投入した使用済み紙おむつ』を発酵物と非発酵物に分別したもののうち,非発酵物を燃料として使用できる再生物として使用する点。」とした審決の認定に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1)  相違点1の認定の当否について

相違点1は,本願補正発明と刊行物1発明について,本願補正発明の「投入した使用済み紙おむつの全てを,・・・燃料として使用できる再生物を生成する」との構成部分に係る対比を示したものと解される。そうであるとすれば,刊行物1発明における本願発明の上記構成の対応部分,すなわち,使用済み紙おむつにつき,燃料として使用できる再生物とするのがその全てか否か,どのような部分が燃料として使用できる再生物とされるかにつき,相違点を認定すれば足りるというべきである。審決は,相違点1として,刊行物1発明において,「投入した使用済み紙おむつ」を発酵物と非発酵物に分別したもののうち非発酵物を燃料として使用できる再生物とすることを認定しており,相違点の認定として尽くされており,その認定に誤りはない。

(2)  原告の主張に対し

原告は,相違点1については,さらに,「本願補正発明においては,『投入した使用済み紙おむつの全て』を燃料として使用できる再生物を生成するのに対し,刊行物1発明においては,発酵物を燃料として使用できる再生物として使用するのではなく堆肥として使用する点。」(相違点5)を相違点として認定すべきであると主張する。しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。

すなわち,審決は,相違点1として,刊行物1発明において,「投入した使用済み紙おむつ」を発酵物と非発酵物に分別したもののうち,非発酵物については燃料として使用すると認定しており,同認定は,発酵物については燃料として使用しないことをも示していると合理的に理解できる。したがって,刊行物1発明において発酵物を堆肥として使用する点を相違点1として明示的に認定しなかったことが,相違点の認定の誤りということはできない。なお,原告の指摘に係る,刊行物1中の発酵物を堆肥として使用するとの記載は,容易想到性の判断における考慮要素とすれば足りるというべきである。

2  相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより相違点1に係る本願補正発明の構成(「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として使用できる再生物を生成する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1)  刊行物2記載の発明

ア 刊行物2には,次のとおりの記載がある。

(ア) 「【0005】

【課題を解決するための手段】 上記目的は各請求項記載の発明により達成される。すなわち,本発明の加熱炉の特徴構成は,被処理物を投入する第1開口部と,前記被処理物を加熱処理可能な炉本体と連通する第2開口部とを備えると共に前記第1,第2開口部との間に熱流路を形成し,この熱流路内に前記被処理物を受けると共に回動することにより前記被処理物を前記炉本体に落下させる受け具を有する加熱筒を備え,前記炉本体に,この炉本体から発生する熱により動力を取り出す発動機を接続可能であることにある。

【0006】 この構成によれば,加熱筒内の複数の受け具が被処理物の加熱筒内での滞留時間を長くすることができ,この間に被処理物は加熱・乾燥され,あるいは炭化されるので,生ゴミのような水分を多量に含有する被処理物であっても,大量に,かつ早い速度で効率よく高温での加熱処理をすることができると共に,炉から発生する廃熱から動力を取り出すことが可能であるため,この動力を,例えば発電機に利用することにより,排ガスを加熱処理する発熱体などに供給できて,排ガス中の有害成分の分解処理を効率的に促進でき,有害成分を低毒化あるいは無害化できる。・・・」

(イ) 「【0010】 更に,本発明の加熱炉の特徴構成として,被処理物を投入する第1開口部と,前記被処理物を加熱処理可能な炉本体と連通する第2開口部とを備えると共に前記第1,第2開口部との間に熱流路を形成し,この熱流路内に前記被処理物を受けると共に回動することにより前記被処理物を前記炉本体に落下させる受け具を有する加熱筒を備え,この加熱筒の下流側に二次加熱炉が接続されていて,この二次加熱炉の下流側に二次加熱炉から発生する熱により動力を取り出し可能な発動機を備えるようにしてもよい。」

(ウ) 「【0015】 複数の前記受け具が,前記加熱筒を構成するハウジング内で鉛直方向に沿って交互に異なる位置に配置されていることが好ましい。

【0016】 この構成によれば,複数の受け具は,ハウジング内で鉛直方向に沿って交互に異なる位置に配置されているから,ハウジングの内壁面と受け具との間に空間を確保することができる。その結果,十分な熱流路を確保できて,生ゴミのような水分を多量に含有する被処理物であっても,一層大量に,かつ早い速度で効率よく処理できて都合がよい。」

(エ) 「【0022】 加熱筒4は,図2にその要部を拡大して示すように,角筒状あるいは円筒状のハウジング12を有していて,その内部に被処理物Aを受けると共に回動することにより,被処理物Aを加熱筒内に滞留させつつ炉本体2に落下させる受け具11を複数個有する(図2の場合,4個。尚,図1には煩雑化を避けるため3個のみ示す)。これら受け具11は,上方から順次互いに逆回転すると共に,鉛直方向に幾分ずれて配置されていて,被処理物Aを落下させるのに都合が良いように空間が形成されている。この空間は,下方の炉本体2から上昇してくる熱流路14として機能し,被処理物Aは落下するに従い加熱・乾燥されるようになっていて,下方の炉本体2に落下した際には,加熱が進行して燃焼あるいは炭化された状態になる。従って,炉本体2での加熱に必要な燃料は少なくて済み,被処理物Aの燃焼が進行すると,その発熱反応によっては燃料の消費はなくて済む。」

(オ) 「【0029】 炉本体2の一方の端部にガスバーナ10が設けられていて,搬送されてきた被処理物Aを燃焼する。被処理物Aは,ロータリーキルン9内を搬送されている間に乾燥あるいは不完全燃焼による炭化が進行しており,炉本体2での燃焼時間は短く,燃料消費量は少ない。従って,被処理物Aがたとえ水分含有量の多い生ゴミ,家畜排泄物,おむつ,包帯などの医療廃棄物についても,従来技術による焼却に比べて格段に効率良く処理できる。

【0030】 炉本体2での焼却処理により生じた灰分などは,下方に配置されている焼却灰回収装置19によって,炉外に自動的にあるいは手動操作によって排出される。そして,炉本体2から発生する廃熱は,次に説明する発動機6により,動力源として有効に利用される。」

イ 前記アの刊行物2の記載によれば,刊行物2には,次の発明が記載されているものと認められる。

「炉本体2の一方の端部にガスバーナ10が設けられていて,搬送されてきた被処理物Aを燃焼するものにおいて,水分含有量の多い生ゴミ,おむつなどの被処理物をロータリーキルン9内を搬送されている間に乾燥させてから燃焼させることにより,ガスバーナ10の燃料消費量が少なくなり,炉本体2から発生する廃熱は,動力源として有効に利用される加熱炉。」

また,刊行物2には,水分含有量の多い生ゴミ,家畜排泄物,おむつ,包帯などの医療廃棄物といった被処理物も,加熱,乾燥されるため,燃焼させるための加熱に必要な燃料が少なくて済むなど効率よく燃焼させることができることが示唆されている。

(2)  相違点1に関する容易想到性について

刊行物2記載の発明における「おむつなどの被処理物」は,本願補正発明の「使用済み紙おむつ」に当たる。また,刊行物2記載の発明は,「おむつなどの被処理物」をそのまま乾燥し,燃焼することから,「おむつなどの被処理物」の全てを燃焼するものである。さらに,刊行物2記載の発明において,「炉本体2から発生する廃熱は,動力源として有効に利用される」ことから,刊行物2記載の発明における「おむつなどの被処理物」を乾燥したものは,廃熱利用のための「燃料」といえる。そうすると,刊行物2記載の発明は,「投入した使用済み紙おむつの全てを燃料として使用する」ものであると認められる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより,相違点1に係る本願補正発明の構成(「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として使用できる再生物を生成する)を容易に想到することができたと解される。

(3)  原告の主張に対し

ア 使用済み紙おむつの「全て」を燃料として使用することについて

原告は,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願補正発明の構成のうち,使用済み紙おむつの「全て」を燃料として使用するとの構成を容易に想到することはできないと主張する。

しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。

確かに,刊行物1には,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用することが記載されており,発酵物を燃料として使用することは明示的には記載されていない。

しかし,刊行物1にいう発酵物とは,使用済み紙おむつに含まれていた人糞と併用された生ゴミの発酵物(刊行物1【0027】)を指し,それらは有機物から成るものと解され,そのような発酵物が,加温処理され,水分の少ない乾燥状態に近い粉末(刊行物1【0028】)の性状をとるというのであるから,刊行物1の記載から,そのような発酵物も含めて燃料として使用することを想到するのは容易であるといえる。

のみならず,乙2(特開平9-142980号)には,発酵・減容化せしめた有機性廃棄物を圧縮固形化して定型に成型した発酵堆肥化物ペレットを肥料又は固形燃料として用いるとの技術事項が記載されており(乙2,特許請求の範囲の請求項1,3等),乙3(特開平8-2986号)には,家庭から排出された生ゴミ,プラスチック等のゴミを発酵処理して作成したペレットを燃料や肥料に再利用するとの技術事項が記載されている(乙3,特許請求の範囲の請求項1,【0001】,【0020】等)。このように,有機物等から成る廃棄物により作成したペレット等を燃料,肥料のいずれにも使用し得ることは,本願の出願前に周知であったものであり,この点に照らしても,刊行物1記載の発酵物を燃料として使用することは,容易に想到することができたと解される。

さらに,刊行物1発明においては,発酵物の性状は上記のとおり水分の少ない乾燥状態に近い粉末であり,非発酵物の性状は,粉砕もしくは裁断されたフィルム状又は布状のものであり,発酵物と非発酵物は機械篩により分別される(刊行物1【0028】)とされているから,発酵物と非発酵物の分別の煩雑さを避けて,発酵物を含めた全てを燃料とすることは,発酵物の処理用法として容易に想到することができたものといえる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせ,相違点1に係る本願補正発明の構成のうち,使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの構成を容易に想到することはできたといえるから,この点に関する原告の主張は,採用できない。

イ 「燃料」として使用できる再生物を生成することについて

原告は,刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願補正発明の構成のうち,燃料として使用できる再生物を生成するとの構成を容易に想到することはできないと主張する。

しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。すなわち,刊行物1発明は,「非発酵物をペレット状に固形化した後に工場などで・・・固形燃料として燃焼し温水,蒸気などの熱源として使用できる使用済み紙おむつを再利用するシステム」であり,刊行物1発明には,非発酵物について,ペレット状に固形化して,移動・保管可能な燃料とすることが示されている。そして,刊行物1発明も,刊行物2,3記載の発明も,紙おむつ等の廃棄物を処理して熱源等に利用するとの共通する技術分野に属するものであることに照らすならば,刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることについて阻害要因は見出せない。なお,刊行物2,3に,乾燥された被処理物又は廃棄物を加熱炉又は処理装置から取り出すこと等の記載はないが,その点が,刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を適用することの妨げになるとはいえない。そして,使用済み紙おむつのうち,非発酵物のみならず発酵物も移動・保管可能な燃料(再生物)とする場合には,再生物を製造する段階で焼却しないことになるから,環境への悪影響が少なく,再生物を他の場所で利用することもできるといえる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより,相違点1に係る本願補正発明の構成のうち,燃料として使用できる再生物を生成するとの構成を容易に想到することはできたものと認められる。刊行物2,3に,乾燥された被処理物又は廃棄物を加熱炉又は処理装置から取り出すこと等が記載されていないとしても,そのことは,上記構成の容易想到性を否定する理由にならないと解される。

3  相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点2に係る本願補正発明の構成(使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明においては,使用済み紙おむつの破砕物は,加熱して発酵処理を行う過程で,水分を放出して減容するが,どの程度まで減容するか等を考慮して,破砕物が所定の水分含有量となるよう調整することは,当業者にとって容易になし得たものといえる。

この点につき,原告は,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するものであり,発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していないから,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,「使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する」という,相違点2に係る本願補正発明の構成を容易に想到することはできないと主張する。

しかし,前記2(3)のとおり,刊行物1記載の発酵物を燃料とすることは容易に想到することができ,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせ,使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの構成を容易に想到することはできたものと認められるから,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。

4  相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)について

刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより相違点3に係る本願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものである)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1)  刊行物3記載の発明

ア 刊行物3には,次のとおりの記載がある。

「【0001】

【発明の属する技術分野】 本発明は,主として水分の多い廃棄物,生ゴミ,厨介,残飯,排水溝内の汚泥,グリースピット廃油,病院,老健施設の感染性廃棄物,使い捨ておむつ等を焼却処理する際にダイオキシンなどの有害物の生成を抑制するようにした廃棄物の焼却処理システムおよびその処理装置に関する。」

「【0015】 本発明の廃棄物の焼却処理システムは,立設した焼却筒の内部を一部に排出口を備えた複数の底板で縦方向に区画して上下に少なくとも2つ以上の乾燥室および燃焼室からなる廃棄物収容部屋を形成し,前記焼却筒上部のホッパー内に貯留される生ゴミなどの廃棄物を前記ホッパー直下の乾燥室内に連続的に所定量供給し,該乾燥室内に供給された廃棄物を移動する過程で攪拌しつつ余熱によって乾燥させたのち,前記乾燥室直下の燃焼室内に受け入れられた廃棄物を攪拌しつつ前記燃焼手段によって燃焼,焼却することを特徴としている。この特徴によれば,ホッパー内に貯留される廃棄物が立設した焼却筒の乾燥室内に所定量供給され,供給された廃棄物が移動する過程で攪拌しつつ,余熱によって生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて自己燃焼する位まで乾燥されるので,むらなく均一な燃焼を行うことができ,また,乾燥した廃棄物を連続的に所定量供給することにより,高温領域で燃焼を継続することができ,前記廃棄物が攪拌しつつ燃焼手段によって燃焼,焼却されるので,炉内温度の低下が防止され,ダイオキシンの生成を安定的に抑制することができる。

【0016】 本発明の廃棄物の焼却処理システムは,横設した焼却筒の内部を該焼却筒の中心に支持される支持軸により回転駆動される複数の隔壁により半径方向に仕切って複数の廃棄物収容部屋を形成し,前記焼却筒上部のホッパー内に貯留された生ゴミなどの廃棄物を前記焼却筒側壁の廃棄物供給口より前記焼却筒内の廃棄物収容部屋に順次連続的に所定量供給し,廃棄物収容部屋が1回転される過程で廃棄物を攪拌つつ(判決注 「攪拌しつつ」の誤記と認められる。)焼却手段によって燃焼,焼却することを特徴としている。この特徴によれば,横設した焼却筒内に連続的に所定量供給される廃棄物が余熱によって水分が蒸発されて自己燃焼する位まで乾燥されるので,むらなく均一な燃焼を行うことができ,また,乾燥された廃棄物を順次廃棄物収容部屋に連続的に所定量供給することにより,高温領域での燃焼を継続することができ,かつ前記廃棄物収容部屋が1回転される過程で攪拌されつつ燃焼手段によって燃焼,焼却されるので,炉内温度の低下が防止され,ダイオキシンの生成を安定的に抑制することができる。・・・

【0018】 本発明の廃棄物の焼却処理システムは,前記焼却筒内に供給された廃棄物の含水率ないし焼却される際の発熱量を監視し,これら含水率ないし発熱量に応じて破砕された廃棄物の供給量を制御すれば好適である。このようにすることにより,生ゴミなどの廃棄物が燃焼可能な条件で炉内に供給されるので,常に炉内においては最適な燃焼状態を得ることができる。」

イ 前記アの刊行物3の記載によれば,刊行物3には,「ホッパー内に貯留される廃棄物が立設した焼却筒の乾燥室内に所定量供給され,供給された廃棄物が移動する過程で攪拌しつつ,余熱によって生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて自己燃焼する位まで乾燥することにより炉内において最適な燃焼状態を得る処理装置。」に係る発明が記載されている。

また,刊行物3には,水分の多い廃棄物,生ゴミ,厨介,残飯,排水溝内の汚泥,グリースピット廃油,病院,老健施設の感染性廃棄物,使い捨ておむつ等を焼却処理する際に,これらを乾燥させたのちに燃焼,焼却することにより,高温領域で燃焼を継続することができるため,炉内温度の低下を防止し安定的にダイオキシンの生成を抑制することができることが示唆されている。

(2)  相違点3に関する容易想到性について

刊行物3記載の発明には,生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥することにより最適な燃焼状態を得るという技術事項が示されており,水分を蒸発させることによる減容も併せて行われるものと認められる。そうすると,刊行物1発明において,刊行物3記載の発明における上記技術事項を適用して,最適な燃焼状態を得るという課題のもとに,燃料としての再生物を燃焼に適したものとするために,「水分」,及び水分を蒸発させることによる減容の過程で得られる「容量」を燃焼に適した「所定」のものとすることは,当業者にとって容易になし得たものといえる。したがって,刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより,相違点3に係る本願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものであること)を容易に想到することができたものと解される。

(3)  原告の主張に対し

原告は,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するものであり,発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していないから,仮に刊行物3から,生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥することにより最適な燃焼状態を得るという技術事項を読み取れたとしても,燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものであるという,相違点3に係る本願補正発明の構成を容易に想到することはできないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。

すなわち,刊行物1発明においても,非発酵物を燃料として利用できる再生物とする際に,その再生物を燃焼に適したものとするために水分及び容量を所定のものとすることは,事柄の性質上,当業者であれば当然に行うと推認されるから,刊行物1発明に刊行物3記載の技術事項を適用することは可能と解される。また,本願補正発明において発酵物も含めて燃料とされる点を考慮するとしても,その点は,前記2(3)のとおり,刊行物1記載の発酵物を燃料とすることは容易に想到することができ,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせ,使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの構成を容易に想到することができたものと認められるから,発酵物も含めた使用済み紙おむつの全てを燃料として使用することを前提として,刊行物3記載の技術事項を適用することは可能であると解される。

5  相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)について

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点4に係る本願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1)  本願補正発明におけるCO2排出量削減の機序について

ア 本願補正発明の請求項には,「再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される」と記載されている。

また,発明の詳細な説明中には,以下の記載がある。

「・・・使用済み紙おむつは,し尿などの水分を含んでいることから燃焼温度を高くしなければ燃焼しきれず,処理コストの増大及び焼却時に生じるCO2の排出量の増加が問題となっている。」(【0002】,「背景技術」の欄)

「本発明はこのような事情に鑑み,使用済み紙おむつを再生物として有効に再利用することができると共に,使用済み紙おむつを再生物にせずに処分する場合に比べて排出されるCO2の削減に柔軟に寄与することができる使用済み紙おむつの再生利用システム及び再生利用方法を提供することを課題とする。」(【0007】,「発明が解決しようとする課題」の欄)

「本発明によれば,・・・使用済み紙おむつを再生物にせずに処分する場合に比べて排出されるCO2の削減に柔軟に寄与することができる使用済み紙おむつの再生利用システム及び再生利用方法を提供することが可能となる。」(【0030】,「発明の効果」の欄)

「・・・ここでいう再生物101とは,水分を5%含有し,通常の容量から1/3程度に減容されたものであり,使用済み紙おむつ100を処分する施設2の内外で再生燃料として利用できる燃材である。」(【0035】,「発明を実施するための最良の形態」の欄)

「上述のような処理装置20により,使用済み紙おむつ100を投入時の1/3程度の容量に減容された再生物101とすることができるため,その再生物101を施設2の内外で再生燃料として利用することで,使用済み紙おむつ100をそのまま燃焼処分する場合と比較してCO2の排出量を削減させることができる再生物101を生成することができる。」(【0064】「発明を実施するための最良の形態」の欄)

「具体的なCO2の排出量については,次のようになる。ここでは,使用済み紙おむつ100として,水分を65%含有するものを想定している。一般的には,1日当たり300kgの使用済み紙おむつ100を1ヶ月間そのまま燃焼処分した場合には,単にCO2が1ヶ月(30日)当たり169kg排出されることになる。一方,本実施形態において,1日当たり300kgの使用済み紙おむつ100を再生物101として1ヶ月(30日間)再生燃料として利用した場合には,使用済み紙おむつ100を再生物101とした場合の1ヶ月当たりのCO2の排出量は2209kg削減される。したがって,使用済み紙おむつ100を再生物101にせず処分する場合に比べてCO2の排出量を2378kg/月削減することができ,また,年間では28536kg,すなわち約30tものCO2を削減することができる。なお,本実施形態では,処分装置10の1ヶ月の電力使用量(消費電力量)を333kwhとしている。」(【0065】,「発明を実施するための最良の形態」の欄)

「・・・本実施形態では,使用済み紙おむつ100を原料として処理装置20で生成した再生物101を再生設備70又は90で燃焼して再生利用することで,使用済み紙おむつ100をそのまま焼却処分する場合に比べて,最終的に排出されるCO2を削減することができる。・・・」(【0071】,「発明を実施するための最良の形態」の欄)

イ 前記アによれば,本願明細書に記載された,本願補正発明によるCO2排出量の削減の機序は,次のとおりであると理解される。すなわち,使用済み紙おむつは,そのまま焼却処分すると,し尿などの水分を含んでいることから燃焼温度を高くしなければ燃焼しきれず,燃焼温度を高くするために燃料を多く消費し,焼却処分する過程で排出されるCO2の排出量は多い。これに対し,本願補正発明により,使用済み紙おむつの水分を減少させて所定の水分を含有する再生物を生成し,その再生物を燃料として使用する場合には,再生物に含まれる水分は,使用済み紙おむつに含まれる水分よりも少ないから,再生物の生成及び燃料としての燃焼の過程で排出されるCO2の総排出量は,使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合のCO2の排出量に比べて削減されることとなり,本願明細書には,このようなCO2排出量の削減の機序が記載されているものと解される。

そうすると,本願補正発明の「再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される」との構成は,使用済み紙おむつの水分を減少させて所定の水分を含有する再生物を生成し,その再生物を燃料として使用する場合,再生物の生成及び燃料としての燃焼の過程で排出されるCO2の総排出量が,使用済み紙おむつをそのまま焼却処分する過程で排出されるCO2の排出量と比較して削減されることを記載したものと解される。

(2)  相違点4に関する容易想到性について

前記2(1)イのとおり,刊行物2には,水分含有量の多い生ゴミ,家畜排泄物,おむつ,包帯などの医療廃棄物といった被処理物も,加熱,乾燥されることにより,燃焼させるための加熱に必要な燃料が少なくて済むなど効率よく燃焼させることができることが示唆されている。そして,燃焼させるために消費する燃料が少なくなればCO2の排出量も減少することは,当然に認識し得ることである。

刊行物2に基づいて認識される上記の技術事項は,対象物の水分を減少させることによって対象物を燃焼しやすくして燃料の消費量を少なくし,CO2の総排出量を少なくするとの点において,本願補正発明によるCO2排出量の削減の機序と共通する。

そうすると,本願補正発明におけるCO2排出量の削減の構成は,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより,容易に想到することができたものといえる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点4に係る本願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到することができたと解される。

6  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。

よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 中平健 裁判官 知野明)

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