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知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10282号 判決 2011年10月12日

原告

シノバ・ソシエテ・アノニム

訴訟代理人弁護士

橋口泰典

達野大輔

松本慶

訴訟代理人弁理士

志賀正武

高橋詔男

佐伯義文

渡邊隆

被告

株式会社スギノマシン

訴訟代理人弁護士

松尾和子

訴訟代理人弁理士

弟子丸健

訴訟代理人弁護士

藤井輝明

訴訟代理人弁理士

渡邊誠

訴訟代理人弁護士

水沼淳

訴訟代理人弁理士

鈴木博子

訴訟代理人弁護士

小林正和

主文

1  特許庁が無効2008-800124号事件について平成22年8月25日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,発明の名称を「レーザーによつて材料を加工する装置」とし権利者を原告とする特許第3680864号(請求項の数17。以下「本件特許」といい,これに記載された発明を「本件発明」という。)につき被告がその請求項1ないし17につき無効審判請求をし,これに対し原告が上記特許の請求項を1減じる(訂正後の請求の数16)と共に特許請求の範囲の変更等を内容とする訂正請求をしたところ,特許庁が,上記訂正を認めた上,訂正後の全請求項(1ないし16)につきこれを無効とする審決をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。

2  争点は,訂正後の特許請求の範囲請求項1ないし16記載の各発明(以下,各請求項記載の発明を「本件訂正発明1」等と,全体を「本件各訂正発明」という。)が下記引用例との間で進歩性を有するか(特許法29条2項),等である。

・ EP第0515983A1号公報(発明の名称「材料アブレーション装置,特に歯科用ハンドピース」,公開日 1992年(平成4年)12月2日,甲1。以下「甲1文献」といい,これに記載された発明を「甲1発明」という。)

第3当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁等における手続の経緯

ア 原告は,平成6年5月30日の優先権(ドイツ国)を主張して平成7年5月22日になされた前記名称の国際特許出願(PCT/1B1995/000390 日本における出願番号は特願平8-500602号,公表公報は特表平10-500903号)に係る特許(設定登録平成17年5月27日,特許番号第3680864号,請求項の数17。本件特許)の特許権者である。

イ これに対し,被告は,平成20年6月30日,本件特許の請求項1ないし17につき下記無効理由に基づき無効審判請求をしたところ,特許庁は,これを無効2008-800124号事件として審理した上,平成21年5月11日,下記改正前特許法36条5項2号(ただし,審決は同号につき「特許を受けようとする発明が明確であること」とするが,下記のとおり,同号は「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項・・・に区分してあること」であって,審決は誤りである。)違反,法36条4項違反を理由に,特許第3680864号の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(以下「第1次審決」という。)をした。

・ 無効理由1: 本件発明1ないし17は平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「法」という。)36条4項に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない。

・ 無効理由2: 本件発明3及び10は法36条5項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない。(ただし,この無効理由は後記エの審理中に撤回された。)

・ 無効理由3: 本件発明1ないし17は法36条5項2号(発明の構成に欠くことができない事項のみを記載)に規定する要件を満たしていない。

・ 無効理由4: 本件発明1,5及び9は法29条1項3号(新規性なし)に該当する。

・ 無効理由5: 本件発明1ないし17は法29条2項(進歩性なし)の規定に違反してなされたものである。

<判決注> 平成6年法律第116号による改正前の特許法36条の規定は,次のとおりである。

・ 法36条(特許出願)

1項: 特許を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならない。

1 特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあっては代表者の氏名

2 提出の年月日

3 発明の名称

4 発明者の氏名及び住所又は居所

2項: 願書には,明細書,必要な図面及び要約書を添付しなければならない。

3項: 前項の明細書には,次に掲げる事項を記載しなければならない。

1 発明の名称

2 図面の簡単な説明

3 発明の詳細な説明

4 特許請求の範囲

4項: 前項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。

5項: 第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。

1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。

2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。

3 その他通商産業省令で定めるところにより記載されていること。

6項: 前項の規定は,その記載が1の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である特許請求の範囲の記載となることを妨げない。

7項: 第2項の要約書には,明細書又は図面に記載した発明の概要その他通商産業省令で定める事項を記載しなければならない。

ウ 原告はこれを不服として平成21年9月15日に審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10277号)を提起するとともに,同年12月11日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とする訂正審判請求(訂正2009-390151号。旧請求項6を削除し,他の請求項の内容を変更するもの。請求項の数16。以下「本件訂正審判請求」という。)をしたところ,当庁は平成22年1月19日に特許法181条2項に基づき上記第1次審決を取り消す旨の決定をした。

エ 特許庁は上記決定を受けて無効2008-800124号事件の審理を再開し,その中で本件訂正審判請求は特許法134条の3第5項により訂正請求(以下「本件訂正」という。請求項の数16)とみなされたところ,特許庁は,平成22年8月25日,「訂正を認める。特許第3680864号の請求項1ないし16に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(第2次審決・本件審決)をし,その謄本は同年8月27日原告に送達された。

(2)  発明の内容

上記のとおり本件訂正は,訂正前(設定登録時)の旧請求項6を削除しその余の請求項の内容を変更したものであるが,請求項の数が16である本件訂正後の請求項1ないし16の内容は,以下のとおりである(下線部分は訂正箇所,甲43,44。本件訂正発明1~16)。

・ 【請求項1】

収束されるレーザービームによる材料加工方法であって,レーザービーム(3)を導く液体ビーム(12)がノズル(43)により形成され,加工すべき加工片(9)へ向けられるものにおいて,

前記ノズル(43)の上面と,前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には,前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され,

前記ノズル(43)は,ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し,

レーザービームガイドとして作用する液体ビーム(12)へレーザービーム(3)を導入するため,

前記レーザービーム(3)がノズル(43)のノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束され,

前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が,前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ,

それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が,十分に高く決められるようにし,

したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧されることを特徴とする,

材料を加工する方法。

・ 【請求項2】

ノズル入口開口(30)に形成された液体ビーム(12)が,そのビーム形成の直後に,エアクッション(39)によって囲まれ,したがってノズル壁から“絶縁”されていることを特徴とする,

請求項1記載の方法。

・ 【請求項3】

液体としてシリコンオイルが使用され,かつ0.25μmと2.1μmの間の波長を有するレーザービームが使用されることを特徴とする,

請求項1又は2記載の方法。

・ 【請求項4】

加工片(9)の材料加工の際にその通口(24)から通り抜けたかつ/又はここから流出した液体ビーム(12)の液体が捕獲され,フィルタに通され,かつノズル(43)に戻されることを特徴とする,

請求項1ないし3の1つに記載の方法。

・ 【請求項5】

レーザービーム(3)を送出するレーザー(1),及び液体ビーム(12)を形成するノズル通路(23)を備えたノズル(43)とビームガイドとしての液体ビーム(12)へレーザービーム(3)を導入する光学要素(21,25)とを有する加工モジュール(7)によって,請求項1ないし4の1つに記載の方法を実施する装置において,

前記ノズル(43)の上面と,前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間には,前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間(35)が形成され,

前記ノズル(43)は,ノズル通路(23)のノズル入口開口(30)を有し,

前記光学要素(21,25)が,レーザービーム(3)を,ノズル通路(23)の前記ノズル入口開口(30)の所で収束させ,

前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が,前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ,

それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が,十分に高くあらかじめ与えることができ,

したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,液体内における熱レンズの形成が抑圧されていることを特徴とする装置。

・ 【請求項6】

ノズル通路(23)及びノズル入口開口(30)の範囲の表面,及び液体が,電気的に絶縁されており,かつノズル入口開口(30)及びノズル通路(23)の範囲における液体の流速が,材料取除き速度を高めるために液体ビームの帯電を行なうように,高く選ばれていることを特徴とする,

請求項5記載の装置。

・ 【請求項7】

ノズル通路(23)の液体入口縁(37)が,50μmより小さい半径を有する鋭い縁に構成されていることを特徴とする,

請求項5又は6に記載の装置。

・ 【請求項8】

ノズル出口開口(40)が,ノズル入口開口(30)に対して広げられており,かつノズル通路(23)の広がりが,その上側1/3のところにおいてすでに始まっていることを特徴とする,

請求項5ないし7の1つに記載の装置。

・ 【請求項9】

空間的に離れたところにあるレーザー(1)からフォーカスユニット(21,25)へレーザービームを供給するビームガイド(6)が設けられていることを特徴とする,

請求項5ないし8の1つに記載の装置。

・ 【請求項10】

液体がシリコンオイルであり,レーザービームが0.25μmと2.1μmの間の波長範囲内にあることを特徴とする,

請求項5ないし9の1つに記載の装置。

・ 【請求項11】

材料加工の際に加工片通口から通り抜けたかつ/又は加工片から流出した液体を捕獲する捕獲槽(11),及び捕獲槽(11)からポンプ吸出し可能な液体を浄化してノズル通路(23)へ戻すことができるフィルタユニット(15)を有するポンプ(17)が設けられていることを特徴とする,

請求項5ないし10の1つに記載の装置。

・ 【請求項12】

複数の軸線方向液体通路(61a,61b)を介して,ディスク状液体供給空間(35)へ液体が供給されることを特徴とする,

請求項1記載の方法。

・ 【請求項13】

液体がリング通路(63)を介して,軸線方向液体通路(61a,61b)へ導入され,これらの液体通路からディスク状液体供給空間(35)へ供給されることを特徴とする,

請求項12記載の方法。

・ 【請求項14】

液体供給空間(35)の高さが挿入体(53)のねじ込み深さにより調節可能であることを特徴とする,

請求項5記載の装置。

・ 【請求項15】

ディスク状液体供給空間(35)へ液体を供給する複数の軸線方向液体通路(61a,61b)が設けられていることを特徴とする,

請求項5記載の装置。

・ 【請求項16】

リング通路(63)が設けられ,このリング通路から液体が,複数の軸線方向通路(61a,61b)を介してディスク状液体供給空間(35)へ供給されることを特徴とする,

請求項5記載の装置。

(3)  審決の内容

ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,①本件訂正は,特許請求の範囲の減縮・誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから,適法である,②前記無効理由3(法36条5項2号違反・ただし,同号の条文が正しくは「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項・・・に区分してあること」であるのに,「特許を受けようとする発明が明確であること」と誤って判断している。)・無効理由1(法36条4項違反)・無効理由4(法29条1項3号違反)はいずれも認められないが,③本件訂正後の発明(本件各訂正発明)は甲1発明等に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明することができたから特許法29条2項により特許を受けることができない(無効理由5),等というものである(無効理由2は審理の途中で主張撤回)。

イ なお,審決が認定した甲1発明の内容,本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点1,2は,次のとおりである。

(ア) 甲1発明の内容

「合焦されるレーザービームによる材料アブレーション方法であって,レーザービーム10を導く液状流体噴流32がノズル20により形成され,加工すべき材料へ向けられるものにおいて,

前記ノズル20の上面と,前記ノズル20の上方に配置されるとともに前記レーザービーム10に対して透明なウインドウ36の下面との間には,前記液状流体噴流32を形成するための液体を供給するチャンバー30が形成され,

前記ノズル20は,ノズル通路のノズル入口開口を有し,

レーザービームガイドとして作用する液状流体噴流32へレーザービーム10を導入するため,

レーザービーム10がノズル20の管路44の入口開口の所で合焦され,

チャンバー30内に加圧液状流体の準停留,順定常状態が確保される,材料アブレーション方法。」

(イ) 一致点

「収束されるレーザービームによる材料加工方法であって,レーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成され,加工すべき加工片へ向けられるものにおいて,

前記ノズルの上面と,前記ノズルの上方に配置されるとともに前記レーザービームに対して透明な窓の下面との間には,前記液体ビームを形成するための液体を供給する液体供給空間が形成され,

前記ノズルは,ノズル通路のノズル入口開口を有し,

レーザービームガイドとして作用する液体ビームへレーザービームを導入するため,

前記レーザービームがノズルのノズル通路の前記ノズル入口開口の所で収束され,

液体供給空間へ液体が供給される,

材料を加工する方法。」

(ウ) 相違点1

「『液体供給空間』について,本件訂正発明1は『ディスク状』であるが,甲1発明はそのようなものではない点。」

(エ) 相違点2

「液体供給空間への液体の供給について,本件訂正発明1は,『ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が,ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ,それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が,十分に高く決められるようにし,したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される』ものであるが,甲1発明は,『チャンバー30内に加圧液状流体の準停留,順定常状態が確保される』ものであり,『熱レンズの形成が抑圧される』か不明である点。」

(4)  審決の取消事由

しかしながら,審決には,以下のとおりの誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)

(ア) 審決は,本件訂正発明1と甲1発明についての相違点1について,「『ディスク状』の『液体供給空間』それ自体は,甲第13,14号証にみられるごとく周知である。」(審決62頁5~6行)と判断しているが,誤りである。

すなわち,甲13(特開昭50-118121号公報。発明の名称「流動媒体,特に燃料用の噴出ノズル」,公開日 昭和50年9月16日。以下「甲13文献」という。)及び甲14(特開平6-42432号公報。発明の名称「液状媒体用噴射ノズル」,公開日 平成6年2月15日。以下「甲14文献」という。)は,本件訂正発明1と技術分野が全く異なっており,噴出される流体の形状も甲1発明では円柱状の層流噴流であるのに対し,甲13文献及び甲14文献のものは広く拡散して霧状となるものである。

甲13文献及び甲14文献は,「ディスク状液体供給空間」が,いわゆるウォータージェット,特にウォータージェットの中でも層流噴流を形成する技術分野において公知であることを示したものではないし,少なくとも層流の噴流中にレーザービームを導入して材料を加工する技術分野において公知であることを示したものでなく,何らの示唆等もない。

本件訂正発明1は層流を作るものであるのに対し,甲13文献及び甲14文献は乱流を作るもので,全く異なるものである。

そして,甲13文献の「円板状の間隙15」及び甲14文献の「円板状の隙間15」は,層流の噴流を形成するための「ディスク状液体供給空間」であるということはできない。

したがって,甲13文献及び甲14文献は,本件訂正発明1のディスク状液体供給空間に対する周知例,公知例とすることが不適切なものである。

以上により,本件訂正発明1のディスク状液体供給空間について,甲13文献及び甲14文献を挙げて周知とした審決の判断には誤りがある。

(イ) 被告の主張に対する反論

被告は,「ディスク状」の液体供給空間の周知性を補強する証拠として,新たに,乙1(特開平3-68468号公報。以下「乙1文献」という。),乙2(特開昭63-251199号公報。以下「乙2文献」という。),乙3(特開昭63-267199号公報。以下「乙3文献」という。),乙4(「Applied Physics Letters Vol.43 №9 pp876-878〔Laser-enhanced jet plating : A method of high-speed masklesspatterning〕」1983年11月作成。以下「乙4文献」という。),乙5(「Journal of the Electrochemical Society Vol.132, №11,pp2575-2581〔Electrochemical and Metallurgical Aspects ofLaser-enhanced jet Plating of Gold〕」1985年11月作成。以下「乙5文献」という。),及び乙6(「Journal of the ElectrochemicalSociety Vol.136,№8,pp2251-2256〔Jet and Laser-jet ElectrochemicalMicromachining of Nickel and Steel〕1989年8月作成。以下「乙6文献」という。)を提出している。

しかし,乙1文献は,いわゆる液体による高圧洗浄の技術に関するもので,この高圧洗浄の代表的な用途は,プラント洗浄や配管洗浄あるいは金型洗浄等のような広い面積の表面洗浄であって,層流の噴流中にレーザービームを導入して材料を加工するという本件訂正発明1の技術分野とは全く異なるし,液体が広角に噴射されるものであるから技術思想において何らの近接性もなく,ディスク状空間は開示されていない。

乙2文献は,高圧液噴射加工装置に関するもので,加工装置であるという点では本件訂正発明1と共通するが,乙2文献においては,強い衝撃力によって被加工物を加工するのであってレーザーは全く関係がないから,その技術分野は層流の噴流中にレーザービームを導入して材料を加工するという本件訂正発明1の技術分野と異なり,技術思想も何ら近接せず,そもそも乙2の液体供給空間はディスク状とはいえない。

乙3文献は,ウォータージェット切断用アブレッシブノズルチップに関するものであり,加工装置であるという点では本件訂正発明1と共通するが,乙3文献においては,研磨剤を混入して被加工物の切断を行うのであってレーザーは全く関係がないから,その技術分野は,層流の噴流中にレーザービームを導入して材料を加工するという本件訂正発明1の技術分野とは異なり,技術思想も何ら近接せず,そもそも乙3文献の液体供給空間がディスク状とはいえない。

乙4ないし乙6文献はいわゆるメッキに関する技術が記載されたものであり,材料の切断等の加工をするものではなく,層流の噴流中にレーザービームを導入して材料を加工するという本件訂正発明1の技術分野と異なるため,本件訂正発明1のディスク状液体供給空間に対する周知例とならない。

以上のとおり,これらの証拠は,「ディスク状」の液体供給空間の周知性を示す証拠ではない。

イ 取消事由2-1(相違点2についての判断の誤り:論理付けの誤り)

(ア) 相違点2に関する審決の論理付けは,次の3段階に分けられる。

① レーザービームの利用において熱レンズ現象が生じ,それが甲1発明のノズル損傷の原因であると究明すること。

② 「熱レンズの形成」を抑制する手段として,レーザービームが透過する範囲において,液体がよどむことなく流れるという「思想」を想到すること。

③ 「液体がよどむことなく流れる」ようにするため,形状を「ディスク状」とし,さらに,「周辺から液体を供給」し,ノズル開口周りにおいて流速を高くする,という構成の採用を想到すること。

審決は,上記いずれの段階においても当業者であれば容易に想到できると判断しているが,次のとおり,誤りである。

(イ) 上記①の「熱レンズ現象」について

この点に関し,審決は,「レーザービームの利用において,『熱レンズ』現象が生じると,ビームが影響を受けることは,甲第9,16,17号証にみられるごとく周知である。」(審決62頁10~11行),「セッティングに誤りがない場合,他の原因を究明することは当然であるから,他の原因の一つとして,上記周知技術を踏まえ,『熱レンズ』現象に想到することに,格別の困難性は認められない。」(審決62頁20~22行)と判断する。

しかし,熱レンズの発生は,固体においてはよく知られていたが,流体においてはあまり知られておらず,動きのある流体においては全く知られていなかったものであって,実際,本件特許の出願当時,本件特許の技術分野において熱レンズに言及した文献は存在しない。

審決が指摘する甲9(「Journal of Applied Physics Vol.36, No.36pp.3-8」。以下「甲9文献」という。),甲16(特開平6-112575号公報。以下「甲16文献」という。),甲17(特開平6-5962号公報。以下「甲17文献」という。)は,いずれも本件訂正発明1の技術分野における熱レンズ現象に関する文献ではない。

本件訂正発明1の技術分野において熱レンズがノズル損傷の原因であることは,本件特許の発明者が高度な実験設備を準備し実験してはじめて実証されたものである。

以上より,ノズル損傷の原因が熱レンズであると想到することが容易であるとした審決には判断の誤りがあることは明らかである。

この点,被告は,乙7(平成22年10月28日付け富山県工業技術センター作成の試験成績通知書。以下「乙7文献」という。),乙8(被告従業員A作成平成22年11月1日付け陳述書。以下「乙8文献」という。)並びに乙9(同人作成平成22年11月18日付陳述書。以下「乙9文献」という。)を根拠として,水中に照射したYAGレーザー基本波が水を加熱し,水の屈折率を変化させることは,目視で容易に観察できるものであり,そのために特別な実験装置は必要でなく,当業者であれば,流体にレーザーを照射すれば流体の温度が局所的に上昇して熱レンズが発生することは容易に想到することができたと主張する。

しかし,乙9文献の実験は,そのチャンバーの寸法等も本件訂正発明1や甲1発明の技術分野のものと全くレベルの違うものであり,せいぜい乙9文献において立証できるのは,一般的に熱レンズ現象が起こる,ということにすぎない。一方,原告が問題としているのは,本件訂正発明1の技術分野において,熱レンズがノズル損傷の原因となることを容易に想到できるか否か,という具体的な問題なのであり,例えば,甲1発明においてノズルが損傷したとして,それが熱レンズに起因するものであることについて,出願当時の当業者の技術常識を前提として,その原因を究明することが容易であったかどうかである。この点について,乙7ないし乙9文献には何も記載されていない。

また,被告は,グリーンレーザーにおいては,YAGレーザーとは異なり,問題となるような「熱レンズ」はほとんど「形成」されずノズル壁の損傷は起こり得ないとも主張するが,甲38(「Impact of thermallensing on Laser-Microjet」。以下「甲38文献」という。)に記載されているとおり,グリーンレーザーにおいても熱レンズの形成があることは明らかであり,それを抑制するために流速を十分に高くする必要があるから,被告の上記主張は失当である。

(ウ) 上記②「液体がよどむことなく流れる」という技術的思想について

この点に関し,審決は,「不都合の原因が判明した場合に,それを除去することは当然であり,『熱レンズ』は,液体にレーザービームのエネルギーが供給され続けることにより生じる。よって,『熱レンズの形成』を抑制する手段として,レーザービームが透過する範囲において,液体がよどむことなく流れるという『思想』は,当業者がごく自然に想到しうるものである」(審決62頁23~28行)と判断している。

この審決の論理付けは,甲1文献を主引用例としながら,液体がよどむことなく流れるという「思想」をごく自然に想到しうる,とするものであるが,そもそも,甲1発明は,液体を「準停留状態」にする,言い換えれば「液体をよどませる」ことを明言している発明である。これに対して,本件訂正発明1は液体をよどむことなく流すものであって,技術思想が異なる。したがって,甲1発明を基礎としながら,液体をよどむことなく流れる,という正反対の思想に着想するためには,何らかの発想の転換が必要であって,他の引用例による示唆等の動機付けが不可欠であるところ,審決は,かかる動機付けを全く示すことなく容易想到と判断しているものであって,いわゆる後知恵的な発想であり,誤りである。

この点に関し,被告は,甲1発明と本件訂正発明1との液体供給空間内の液体の流れの違いは,結局,液体の流速を低くするか高くするかの違いでしかなく,発想の転換は必要でないと主張する。

しかし,甲27,乙10の資料1や乙12の22頁にある図を対比すると,甲1発明と本件訂正発明1との液体供給空間内の液体の流れの違いには単に流速が低いか高いか以上の質的な違いが看取できる。すなわち,本件訂正発明1では,液体供給空間の全方向の内周壁近傍からノズルへ向かって液体が流れ込むような流れとなるが,甲1発明では,液体が膨張チャンバーに流入するところからノズルへ向かう流れがあるものの,例えばそれと対向する内周壁付近を見ると上側へ向かう流れとなっており,そこから液体供給空間内の上部において循環している等,液体供給空間の全方向の内周壁近傍からノズルへ向かって液体が流れ込むような流れとなっていないのであって,被告の上記主張は失当である。

(エ) 上記③の「ディスク状」「周辺から液体を供給」という構成について

この点に関し,審決は,「甲1発明の『液体供給空間』は,透明な窓の下面によって,その高さが規定され,『準停留,順定常状態』であるものの流れが生じている。甲1発明において,『光路の品質を向上』させるため,『液体がよどむことなく流れる』ようにすることを踏まえて,『透明な窓の下面』の高さを検討すると,高さを低くすることが良いことは明らかであり,そのような空間は,『ディスク状』『液体供給空間』となる。以上から,液体がよどむことなく流れるようにするため,形状として周知であって,装置の小型化にも寄与する『ディスク状』とし,その『周辺から』液体を供給することは,設計的事項にすぎない。」(審決62頁35行~63頁6行)と判断している。

しかし,まず,上記(ウ)で述べたように,「液体をよどませない」本件訂正発明1と「液体をよどませる」甲1発明は,「液体がよどむか否か」という点において技術思想において本質的に全く異なるものであり,甲1発明から本件訂正発明1を想到するためには発想の転換が必要である。それにもかかわらず,審決は何らの引用例等証拠に基づく根拠もなく,あたかも「液体をよどむことなく流れる」という技術的思想が甲1発明から導き出せるかのように認定しており,上記の本質的な技術思想を全く理解していないものであって,誤りである。

次に,「ディスク状」の液体供給空間が本件訂正発明1の技術分野において周知技術でないことは前記アのとおりであり,また,本件訂正発明1のように,「周辺から」,すなわち液体供給空間の内周壁近傍からノズルへ向かって液体が流れ込むような構造を,層流噴流を作る液体供給空間として示唆した証拠もない。

したがって,この点について何ら根拠なく「容易想到」とした審決の判断は誤りである。

ウ 取消事由2-2(相違点2についての判断の誤り:甲1発明の理解の誤り)

審決は,「甲1発明は,『液状流体の均質性』を増加させ,『光路の品質を向上』させるものである」(審決62頁下5行~下4行)と認定している。

しかし,「液状流体の均質性」が何についての「均質性」を問題としているのか,どのようにして「光路の品質を向上」させようとしているのか,という点については何ら言及されていない。この点について,甲1発明の発明者の理解では,甲1発明における「液状流体の均質性」は圧力についてのことであって温度についてのことではなく,圧力の勾配がなければ,レーザービームが真っ直ぐに進む,すなわち「光路の品質を向上」すると考えていたものである。

しかし,このように圧力を一定にするという発想は,本件訂正発明1とは矛盾するものである。本件訂正発明1では,むしろ流速及び圧力の勾配が大きいからである。本件訂正発明1では,むしろ液体供給空間内の「温度」の均質性を重視し,それを保つために「ディスク状」液体供給空間内において「周辺から」液体が流れる構造としたものである。したがって,この点を考慮することなく,上記記載に依拠して「ディスク状」液体供給空間において「周辺から」液体が流れる構造を「設計的事項」とした審決の判断は誤りである。

エ 取消事由2-3(相違点2についての判断の誤り:設計的事項)

審決は,前記イ(エ)で言及したとおり,「液体がよどむことなく流れるようにするため,形状として周知であって,装置の小型化にも寄与する『ディスク状』とし,その『周辺から』液体を供給することは,設計的事項にすぎない。」と判断している。

しかし,「設計的事項」とは,本来的には,部品の形状・寸法・材料の決定や機械要素の選択など,日常的な設計の具体的場面において当然に決定すべき事項という意味であり,技術的思想を変えない設計変更の過程で行われる事項に限られる。したがって,技術思想が異なっている場合においては,「設計事項」で論理付けできる範囲を超えている,というべきである。

そして,前記のとおり,甲1発明は,本件訂正発明1とは技術思想を全く異にし,発明の課題・目的に相違があることは明らかであるから,本件訂正発明1の特徴をあたかも液体供給空間の高さの設定と単純化し,「『ディスク状』とし,その『周辺から』液体を供給することは,設計的事項にすぎない。」とした審決は,「設計的事項」を濫用して恣意的判断をしたものであって,誤りである。

オ 取消事由2-4(相違点2についての判断の誤り:阻害要因)

(ア) 審決は,「被請求人は,甲1発明は『チャンバー30内に加圧液状流体の準停留が確保される』ことが必要であり,阻害要因がある,本件発明は,流体供給空間を『ディスク状』とした工夫がある旨,主張する。しかし,甲1発明においては,『準停留が確保』されない限り,加工が不可能なものではない。そして,加工において,種々の条件の変更を試みることは,一般的であるから,阻害要因があるとまでは言えない。」(審決63頁7~12行)と判断している。

しかし,従来は,層流噴流を作るためにリザーバータイプのチャンバーを用いるのが一般であり,甲1発明は,このような当時の技術常識に基づいて,リザーバータイプのチャンバー(膨張チャンバーと称されている。)を採用したのであり,このことは甲1発明の発明者自身の認識でもある。すなわち,甲1発明は,チャンバー内において流れを滞留させることにより,流れの乱れをなくして層流を作る,というものであった。これに対し,本件訂正発明1は,流れを滞留させると熱レンズによるノズルの損傷という問題があるという仮説を立て,上記のような常識の逆を行き,層流噴流を形成する前提で,熱レンズを回避するために,液体を淀みなく流すということを着想し,本件訂正発明1の構成に至ったものである。したがって,層流噴流を形成するためにはリザーバータイプのチャンバーが必要であるという従来の技術常識は,「液体がよどみなく流れる」「ディスク状」の液体供給空間を着想することに対する阻害要因であったことは明らかである。

(イ) この点に関し,被告は,本件訂正発明1における「ディスク状液体供給空間」という限定は,文言上,原告が従来の技術常識であると主張する「リザーバタイプのチャンバー」を排除するものではないなどと主張する。

しかし,本件特許の公表日以後の平成11年(1999年)8月23日に被告自らが出願した特許の公報である甲37(特許第4364974号,発明の名称「噴射流とレーザの複合加工装置」以下「甲37文献」という。)では,「液体が通過するノズル通路の長さを充分に確保して,ノズル通路通過中に導入された流体の乱れを減衰させて噴射口から噴射させる」ために,70mm以上のノズル通路の長さが必要としており,甲37文献の図1の形状からしても,原告が従前から説明してきたリザーバータイプのチャンバーであることが明らかで,当業者である被告の技術常識において,なお当該技術分野において,甲37文献の出願時点(本件特許の出願より後)において,リザーバータイプのチャンバーが必要であると認識していたことが明らかである。そして,かかる技術常識では,チャンバーの高さを低くすると,層流噴流の形成は不可能と認識されていた。したがって,被告の上記主張は失当である。

カ 取消事由3(本件訂正発明2ないし16についての容易想到性の判断の誤り)

(ア) 本件訂正発明2ないし4について

本件訂正発明1が進歩性を有することが明らかである以上,請求項1を引用する本件訂正発明2ないし4は,甲1発明および周知例から容易には想到し得ない。したがって,本件発明2ないし4は進歩性を有しないとした審決の判断は誤りである。

(イ) 本件訂正発明5について

本件訂正発明5は,本件訂正発明1の方法を実施するための「装置」として必要な事項を特定したものであるとともに,本件訂正発明1の構成要件を全て具備しているから,本件訂正発明1が進歩性を有する以上,本件訂正発明5は進歩性を有しないとした審決の判断は誤りである。

(ウ) 本件訂正発明6ないし11について

本件訂正発明1が進歩性を有することが明らかである以上,請求項1又は5を引用する本件訂正発明6ないし11は,甲1発明及び周知例から容易には想到し得ない。したがって,本件訂正発明6ないし11についての審決の容易想到性判断は誤りである。

(エ) 本件訂正発明12について

審決は,本件訂正発明12について,「相違点13:本件発明12は,『複数の軸線方向液体通路(61a,61b)を介して,ディスク状液体供給空間(35)へ液体が供給される』が,甲1発明は明らかではない点。」であるとし,「液体供給空間への供給流路を『複数の軸線方向液体通路』とすることは,構造上,格別のものではなく,これによる技術的意義は認められないから,この点は,設計的事項にすぎない。」(審決68頁17~23行)と認定判断している。

しかし,従来の甲1発明においては,液体供給空間に液体を流入させる液体通路が1本の場合には,液体供給空間内に流路の急拡大やキャビティを生じさせて「せき止め空間」を発生させ,ひいては熱レンズによるノズルの損傷を生じさせるところ,本件訂正発明12は,液体通路を複数本とすることにより液体供給空間内における流路の急拡大やキャビティを生じさせずに,液体をノズル入口開口に向かって周辺から流れるようにして「せき止め空間」の発生をより確実に防止することができるものである。液体供給空間内への「複数の軸線方向液体通路」については,甲1発明は無論,甲4ないし甲7文献にも開示も示唆もされていない。

このように,本件訂正発明12は,各公知技術には記載も示唆もされていない事項を特定することにより本件訂正発明1の作用効果をより十分に奏することができるから,相違点13を設計的事項と即断した審決は誤りである。

(オ) 本件訂正発明13について

本件訂正発明13は,請求項12を引用するものである。そして,本件訂正発明12が,進歩性を有することは前記のとおり明らかであるから,相違点14を設計的事項と即断した審決は誤りである。

(カ) 本件訂正発明14について

本件訂正発明14は,請求項5を引用するものである。そして,本件発明5が,進歩性を有することは前記のとおり明らかであるから,相違点15を設計的事項と即断した審決は誤りである。

(キ) 本件訂正発明15について

本件訂正発明15と本件訂正発明12は,請求項1を引用するか請求項5を引用するかの相違はあるものの,実質的に同一である。そして,審決が認定するように,本件訂正発明15についての相違点16と本件訂正発明12についての相違点13とは,実質的に同一である。そうすると,本件訂正発明12が進歩性を有することは前記のとおり明らかであるから,相違点15を設計的事項と即断した審決は誤りである。

(ク) 本件訂正発明16について

本件訂正発明16と本件訂正発明13は,請求項12(請求項1)を引用するか請求項5を引用するかの相違はあるものの,実質的に同一である。そして,審決が認定するように,本件訂正発明16についての相違点17と本件訂正発明13についての相違点14とは,実質的に同一である。そうすると,本件訂正発明13が進歩性を有することは前記のとおり明らかであるから,相違点17を設計的事項と即断した審決は誤りである。

2 請求原因に対する認否

請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。

3 被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1)  取消事由1に対し

ア 原告の主張(ア)につき

「液体供給空間」を「ディスク状」に構成することは,本件明細書(甲32〔本件特許公報〕,なお,甲43の訂正審判請求書には,特許請求の範囲の変更以外の記載はない。)に「液体供給空間35をディスク状に構成する代わりに,この液体供給空間は,鋭角半角を有する円錐状に製造してもよく」(8頁32,33行)と記載されているように,元来,任意的な構成であるとともに,「液体供給空間」を「ディスク状」にすることにより奏される作用効果が本件明細書には一切記載されていない。

また,「ディスク状」には,「直径よりも高さが低い円筒」との意味があるのみであり,「ディスク状」の「液体供給空間」は「ディスク状」という形状にかかる格別な構成ではなく,むしろ「設計的事項」とみなされるべき構成である。

すなわち,「液体供給空間」を「ディスク状」にすることは,何ら格別な構成ではなく,設計的な複数の選択肢の中から適宜選択される一つの設計態様にすぎないから,「ディスク状」の「液体供給空間」を例示する文献の技術分野,開示技術は問題とはならず,例えそれが真逆の技術を開示するものであったとしても問題ではない。

しかも,甲13文献及び甲14文献は,燃料という液体をノズルから吐出する技術であり,その点において本件訂正発明1と共通の技術分野に属するものであるから,本件訂正発明1のディスク状液体供給空間に対する周知例,公知例として適切である。

したがって,甲13文献及び甲14文献が周知技術を示す文献として不適切であるとの原告の上記主張は理由がない。

イ 周知技術の追加

前記アのとおり,甲13文献及び甲14文献は,「ディスク状」の液体供給空間が周知技術であることを示す文献として適切であるが,被告は,新たに乙1ないし乙6文献を提出し,「ディスク状」の液体供給空間の周知性を補強する。

これらの文献には,ディスク状の液体供給空間が記載されている。すなわち,乙1ないし乙6文献には,液体供給空間に供給された液体をノズルから噴射させる装置において,ディスク状の液体供給空間が開示されている。ここで,本件訂正発明1は,液体供給空間に供給された液体をノズルから噴射させる液体の経路と,レーザー発振器からレーザー光を出射し,レーザー光をノズルの入口開口で収束させて液柱に導光させるレーザーの経路とはそれぞれ別個の経路である。そのうちの液体の経路は,液体が供給される液体供給空間と,液体供給空間内の液体を噴射するノズルとを備えた構成であり,これは,乙1ないし乙6文献に開示された構成と基本的構成が共通するものである。したがって,本件訂正発明1において液体の経路の構成を検討するに当たり,当業者が乙1ないし乙6文献の構造を参照することは当然のことである。つまり,乙1ないし乙6文献は,液体を液体供給空間に供給してノズルから噴射するという技術において,本件訂正発明1と共通するものでありその技術分野に属するものである。

また,甲1文献の図3には,レーザーを出射するファイバが液体供給空間内に突出し,その端部がノズル入口開口のすぐ上に配置された構造が記載されている。この図3に示すように,ファイバとノズル入口開口との間に点線で示された部分は,「ディスク状」の液体供給空間となっている。また,甲4(特開昭60-193452号公報。以下「甲4文献」という。)には図2,図3にディスク状の液体供給空間が記載されている。さらに,甲5(特公平1-38372号公報。以下「甲5文献」という。)には図1.2にディスク状の液体供給空間が記載されている。

以上のように,原告の主張はいずれも理由がなく,「ディスク状」の液体供給空間が周知であるとした審決の認定判断に誤りはない。

(2)  取消事由2-1に対し

ア 原告の主張(イ)(熱レンズ現象)につき

(ア) 原告は,熱レンズの発生は流体においてはあまり知られておらず,動きのある流体においては全く知られていなかったと主張する。

しかし,レーザービームによる熱レンズの発生は,乙15(Journal ofApplied Physics Vol. 36, No. 36, pp.3-8(1965)。以下「乙15文献」という。)に記載されており,本件特許の優先日(平成6年5月30日)前に既に公知であるから,原告の上記主張は失当である。

(イ) 原告は,本件訂正発明1の技術分野において熱レンズがノズル損傷の原因であることは,本件特許の発明者が高度な実験設備を準備して実験してはじめて実証されたものであるなどとして,『熱レンズ』現象に想到することに格別の困難性は認められないとした審決の判断を誤りであると主張する。

しかし,乙7ないし乙9文献が示すとおり,水中に照射したYAGレーザー基本波が水を加熱し,水の屈折率を変化させることは,目視で容易に観察できるものである。そして,このようなレーザーを水に照射する実験は,特別な実験装置を必要とするものではなく,極めて容易に実施できるものであって,レーザーを水に透過させて導光する装置の開発を行っている当業者であれば試みられる可能性が大きく,特に,レーザーを水に透過させる際に不具合が発生しているとすれば,当然に試みられるものと合理的に推測できるものである。しかも,甲1発明のチャンバー内の液体は準停留状態であるから,準停留状態の流体にレーザーを照射すれば,流体の温度が局所的に上昇して熱レンズが発生することは容易に想到することができるものである。

また,上記乙7ないし乙9文献から明らかなとおり,グリーンレーザーにおいては,YAGレーザーとは異なり,問題となるような「熱レンズ」はほとんど形成されずノズル壁の損傷は起こり得ない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

イ 原告の主張(ウ)(「液体がよどむことなく流れる」という技術的思想)につき

原告は,甲1発明と本件訂正発明1とは技術思想が異なるから,甲1発明を基礎としながら,液体をよどむことなく流れるという正反対の思想に着想するためには,何らかの発想の転換が必要であるなどと主張する。

しかし,甲1発明においても,膨張チャンバーから液状流体が層状噴流となって出て行く以上,膨張チャンバー内において常になんらかの液状流体の流れは生じている。したがって,甲1発明と本件訂正発明1との液体供給空間内の液体の流れの違いは,結局,液体の流速を低くするか高くするかの違いでしかない。よって,甲1発明において,液体をよどませないようにするためには,もともと流れている液状流体の流速の程度を変更して流速を高めればよいのであり,ここに発想の転換は必要でない。

したがって,原告の上記主張は失当である。

ウ 原告の主張(エ)(「ディスク状」「周辺から液体を供給」という構成)につき

(ア) まず,本件訂正発明1と甲1発明は,「液体がよどむか否か」という点において技術思想において本質的に全く異なるものであり,甲1発明から本件訂正発明1を想到するためには発想の転換が必要であるとの原告の主張が失当であることは上記イのとおりである。

(イ) また,原告は,本件訂正発明1の「前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ」との構成要件の「周辺から」を,「液体供給空間の内周壁近傍からノズルへ向かって液体が流れ込むような構造」だと主張する。しかし,そうすると,甲1発明においては,液体は膨張チャンバーの外縁から膨張チャンバー内に導入され,膨張チャンバーの中央にあるノズルに向かって流れる。したがって,甲1発明においても,膨張チャンバー内の液体は,膨張チャンバーの内周壁近傍からノズルへ向かって流れ込むように導かれているから,結局,本件訂正発明1の上記構成は,甲1発明の構成を含むものである。

したがって,原告の上記主張は失当である。

(3)  取消事由2-2に対し

原告は,甲1発明の発明者の理解では,「液状流体の均質性」は圧力についてのことであり,このように圧力を一定にするという発想は,本件訂正発明1とは矛盾するものであるなどの理由により,「ディスク状」液体供給空間において「周辺から」液体が流れる構造を「設計的事項」とした審決の判断は誤りであると主張する。

しかし,原告の主張を読んでも,「液状流体の均質性」と,「ディスク状」液体供給空間において「周辺から」液体が流れる構造とが,どのような関係を有するのか不明である。仮に原告の主張するとおり「液状流体の均質性」が「温度の」均質性を意味するものであったとしても,本件明細書には,「液状流体の温度の均質性」を確保するために,「ディスク状」の液体供給空間を採用するということは記載されておらず,また,「液状流体の温度の均質性」を確保するために,液体供給空間の「周辺から」液体が流れる構造としたことも記載されていない。したがって,上記原告の主張は明細書の記載に基づかない主張である。

また,前述のように,甲1発明においても,液体は液体供給空間内において,ノズル入口開口の「周辺から」流れる構造となっているのであるから,周知の形状である「ディスク状」液体供給空間を採用したことは設計的事項に他ならず,審決の認定判断に誤りはない。

(4)  取消事由2-3に対し

原告は,甲1発明は,本件訂正発明1とは技術思想を全く異にし,発明の課題・目的に相違があることを理由として,「『ディスク状』とし,その『周辺から』液体を供給することは,設計的事項にすぎない。」とした審決の判断は,「設計的事項」を濫用した恣意的判断であると主張する。

しかし,前記のとおり,液体供給空間を「ディスク状」にすることは本件訂正発明1において任意的な構成要件であり,しかも「ディスク状」の限定は甲1文献に記載されているリザーバタイプのチャンバーの形状を単に変形させただけであって特段の技術的意義を見出すことはできないから,「液体供給空間」を「ディスク状」に構成することは単なる設計的事項であるとした審決の判断に誤りはない。

(5)  取消事由2-4に対し

ア 原告は,層流噴流を形成するためにはリザーバータイプのチャンバーが必要であるという従来の技術常識は,「液体がよどみなく流れる」「ディスク状」の液体供給空間を着想することに対する阻害要因であったと主張する。

しかし,原告が当時の技術常識であると主張している「リザーバタイプのチャンバー」とは,原告自身「膨張チャンバーと称されている」と述べているように,大きな体積を有し,流入した液体が膨張されるチャンバーを意味するものであり,チャンバーの形状を規定する用語ではない。すなわち,チャンバーの直径よりも高さが低く,チャンバーが「ディスク状」であったとしても,十分な体積を備えていれば,そのチャンバーは従来の技術常識である「リザーバタイプのチャンバー」に該当する。

また,「液体がよどみなく流れる」については,本件明細書はいうに及ばず,原告のこれまでの主張を参酌しても,液体が具体的にいかなる速度でチャンバー内を流れると「液体がよどみなく流れる」に該当するのか判断することができない。したがって,従来の「リザーバタイプのチャンバー」においても,内部を「液体がよどみなく流れ」ている可能性は排除されていない。

このように,本件訂正発明1における「ディスク状液体供給空間」という限定は,文言上,原告が従来の技術常識であると主張する「リザーバタイプのチャンバー」を排除するものではないので,この構成を着想することに対する「阻害要因」を論ずることには意味がない。

イ この点に関し,原告は,新たな証拠として甲37文献を提出し,層流噴流を作成するためにリザーバタイプのチャンバーが必要であるということが従来の技術常識であると主張する。

しかし,甲37文献は,層流噴流を得るための様々な手法の中からノズル通路の長さを長くするという手法を採用したということにすぎず,液体供給空間の形状としても様々な形状がある中,単に図1に示されたような構造のものを採用したというにすぎない。したがって,甲37文献1件のみをもって層流噴流を作成するために液体供給空間をリザーバタイプのチャンバーにすることが技術常識とはいえないことは明らかである。

(6)  取消事由3に対し

本件訂正発明2ないし16について,審決は,いずれも,設計的事項である,周知である,格別な技術的意義は認められない等と認定しており,この認定判断に誤りはない。

第4当裁判所の判断

1  請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2  容易想到性の有無

審決は,本件各訂正発明は甲1発明(甲1)及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

(1)  本件各訂正発明の意義

ア 本件明細書(特許公報。甲32)平成21年12月11日付け審判請求書及び同添付の訂正明細書(甲43,44)には,次の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

前記第3,1(2)のとおりである。

(イ) 発明の詳細な説明

・ 「本発明は,特許請求の範囲第1項の上位概念に記載された装置に関する。

レーザービームは,種々の方法で工業における材料加工-切断,穴あけ,溶接,マーキング及び材料切除-のために利用される。」(3頁12~14行)

・ 「レーザービームは,加工過程に必要な強度を発生するために,例えばレンズのような光学要素によって加工すべき材料上に収束される。」(3頁16~17行)

・ 「ドイツ連邦共和国特許出願公開第3643284号明細書によれば,レーザービームにより材料を切断する方法が公知であり,ここではこのレーザービームは,切断すべき材料に向けられた水ビーム内に結合され,かつこの中において案内されている。ビームの供給は,ビームガイド(ファイバ)を介して行なわれ,このビームガイドの一方の端部は,ノズル内において発生される水ビーム内に突出している。水ビームの直径は,ビームガイドのものより大きい。公知の装置は,水ビームの直径が,決してビームガイドのものより小さくてはいけないという欠点を有する。

しかし加工場所における大きな強度を維持するために,できるだけ小さなビーム直径が必要である。ビーム直径が小さくなるほど,レーザービーム源のわずかな出力で加工を行なうことができる。」(3頁20~29行)

・ 「ドイツ連邦共和国特許出願公開第3643284号明細書の装置のその他の欠点は,水ビーム内に突出したビームガイド端部によって明らかである。すなわちガイド端部の下に死水領域が生じ,この死水領域は,とりわけ流れ内に妨害を形成し,これら妨害は,水ビームの長さにわたって指数状に増大し,かつ最終的に水ビームの分離水滴を生じる。それ故にこの装置によって,30mmを越す層状のコンパクトなビーム長さを得ることは不可能である。」(3頁30~35行)

・ 「この時,ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書において,もはやビームガイドを直接含まない水ノズルを構成することによって,前記の欠点を解消することが試みられている。水ビームを形成するノズルの前に,水入口とノズル入口に対して空間を閉じるフォーカスレンズとを有する水空間がある。このフォーカスレンズは,光学系の一部であり,それによりビームガイドから出たビームは,ノズルのノズル通路内に収束することができる。空間は,水ビームのためにその中にある水が,擬似的に静止状態に,すなわち緊張解除した状態にあるように構成されている。

この時,水ビーム内に結合されたレーザービームのこの第2の構成変形は,ノズル通路入口の周範囲におけるノズルの壁に管理できない損傷を引起こすことがわかった。

本発明の課題は,液体ビームを形成するノズルをレーザーのビームによって損傷することなく,レーザービームを材料加工のために液体ビーム内に光学的に結合することができる装置を提供することにある。

本発明は,フォーカス光学系によってノズルの範囲に収束したレーザービームが,液体における強度の分布に応じてこの液体を多かれ少なかれ強力に加熱することができるという知識に基づいている。異なった温度,空間的温度勾配を有する液体範囲は,空間的に固有の密度分布を有するだけでなく,空間的な屈折率分布も有する。すなわち空間的な温度勾配を有する液体は,光学的にレンズとして反応し,かつ収束したレーザービームのフォーカス円錐内において,通常発散レンズとして反応する。」(3頁36行~4頁3行)

・ 「ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書に示された装置において,ノズル通路入口の上のフォーカス円錐先端の範囲に,熱レンズが生じ,この熱レンズは,ここに示された焦点の場所を上方へずらし,かつ焦点直径を大幅に増加する。それによりフォーカス円錐内のレーザービームの一部は,ノズル壁に,とくにここにおいて利用された液体せき止め空間の方に向いたノズル表面に当たる。この時一方において材料加工のために必要な高い強度によって,この時ノズルの壁が損傷する。」(4頁6~12行)

・ 「ヨーロッパ特許出願公開第0515983号明細書により公知の構造において,さらに液体として水を利用し,かつレーザービームとして,1.064μmのND:YAGのものを利用することは,不利に作用する。この時,このビームは,ちょうど水中において無視できない吸収を有する。収束したビームのピラミッド先端の上側範囲(フォーカス円錐の先端範囲)における水の範囲は,強度分布(軸線における高い強度及び縁におけるわずかなもの)に相応して加熱され,かつ前に予想された熱レンズが生じ,この熱レンズは,ノズル壁の,とくにノズル入口の範囲におけるノズル表面の損傷を引起こし,かつ結局液体ビームを形成するノズルの破壊を引起こす。」(4頁13~20行)

・ 「ノズル入口前においてできるだけ液体の静止状態を達成する努力が試みられた。まさしくこの液体静止状態は,熱レンズの構成を可能にし,又は強化する。すなわち(すでにわずかな)吸収によって加熱される液体は,なお強力に加熱されることがなく,それによりレンズ効果を減少するようにするため,できるだけ早く運び去るのではなく,逆に進行する加熱によってなお生じる熱レンズの屈折力の増強が行なわれる。

しかし本発明は,別の方法をとる。ここではすべてのことは,できるだけ熱レンズを生じることがなく,又はその作用を大幅に小さくすることにかけている。」(4頁23~29行)

・ 「さらにノズル装置及びフォーカスユニットを含む加工モジュールの構造的構成は,無視できない小さなビーム吸収の場合にも,熱レンズの効果が,そもそも生じるかぎり,最小に,したがって無視できる程度に維持されるように選択されている。

すなわち本発明は,次のことを提案する。すなわち加熱時間をそもそもできるだけ短く維持するために,液体が,レーザービームのフォーカス円錐の範囲から,とくにその先端範囲からできるだけ迅速に運び出される。明らかに最善の結果は,わずかな吸収を有するフォーカス円錐における液体の短い滞在時間の際に達成される。」(4頁32~38行)

・ 「液体を静止状態に維持するここに普及された液体せき止め空間を有する液体空間は,完全に回避される。ノズルへの液体供給の高さは,流れの渦形成を減少するために,ほぼノズル通路の直径を有し,又はそれよりわずかだけ大きい。」(4頁40~42行)

・ 「図1に示された材料加工装置は,ビーム源としてND:YAGレーザー1を有し,このレーザーは,1.064μmの波長を有するレーザービーム3を送出する。」(7頁15~16行)

・ 「加工モジュール7は,ビームガイド6によって近くに案内されるレーザービームを平行化するコリメータ21,加工片9上の加工位置24に向けられた液体ビーム12を形成するノズル通路23を有するノズルブロック43,及び図3に拡大して示すように,ノズルブロック43のノズル通路23のノズル軸線31の場所における入口開口30の平面29に平行化されたレーザービーム27を収束するフォーカスレンズ25を有する。ノズル入口開口30の上に,液体供給導管としてディスク状の液体供給空間35がある。液体供給空間35は,ノズル入口開口30の周囲にせき止め空間として作用する液体空間を持たない。液体供給空間35の高さは,理論的にはノズル通路23の横断面の半分を有するだけでよい。しかしこれは,液体の管摩擦損失を減少するため及び渦形成を避けるために,それよりいくらか大きく選定されている。液体供給空間35の壁内に,ノズル入口開口30の上においてなるべく反射防止コーティングされた窓36が挿入されており,これを通ってレーザービームは,フォーカスレンズ25によってノズル通路23の入口開口30の平面内の収束することができる。」(7頁32~44行)

・ 【図1】 材料加工装置の概略ブロック図

file_2.jpg・ 【図3】 ノズルブロック及び液体導管の長手断面図

file_3.jpghe ra, Ei LAイ 上記記載によると,本件訂正発明1は,収束されるレーザービームによる材料加工方法であって,レーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成され加工すべき加工片へ向けられる加工方法に関し,従来の加工方法では,ノズル通路入口の上のフォーカス円錐先端の範囲に熱レンズが生じ,ノズル通路入口の周範囲におけるノズルの壁に管理できない損傷を引き起こすという欠点があったので,液体ビームを形成するノズルをレーザーのビームによって損傷することなく,レーザービームを材料加工のために液体ビーム内に光学的に結合することができる装置を提供することを課題とし,その課題を解決するために,ノズルの上面とノズルの上方に配置されるとともにレーザービームに対して透明な窓の下面との間に液体ビームを形成するための液体を供給するディスク状液体供給空間を形成し,そのディスク状液体供給空間へ供給される液体が,ノズル入口開口の周りにおいてせき止め空間のないようにノズルからの窓の高さを設定したディスク状液体供給空間内をノズル入口開口に向かって周辺から流れるように導き,それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲における液体の流速が十分に高く決められるようにし,そうすることによって,フォーカス円錐先端範囲において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで熱レンズの形成を抑圧することを特徴とする材料の加工方法の発明であると認めることができる。

(2)  甲1発明の意義

ア 甲1文献(ヨーロッパ特許第0515983A1号公報,以下訳文による。)には,次の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

・ 【請求項1】 材料アブレーション装置,特に歯科用ハンドピース(1)において,

ボディー(4)および作業ヘッド(5)を画定するケース(2)と,コヒーレント光ビーム(10)を作業表面まで伝播および案内する光学的手段(6,16,22,32;50,52,66)であって,光軸(18)を画定し,コヒーレント光発生源(12)に接続されるようになっている光学的手段と,

加圧流体を前記作業ヘッド(5)まで供給し,加圧液状流体発生源(26)に接続されるようになっている配管手段(24,30;62)と,

前記配管手段(24,30;62)の下流側の前記作業ヘッド(5)内に位置し,液状流体噴流(32)を形成するためにこれらの手段に通じているノズル(20;64)を備え,前記ノズル(20;64)の管路(44)が前記光軸(18)とほぼ一直線になり,前記配管手段が,前記ノズル(20;64)のすぐ上流側に位置し前記加圧液状流体を受け入れるようになっている少なくとも1つの体積(46;60)を備えるチャンバー(30;62)を含み,コヒーレント光ビーム(10)が前記ノズル(20;64)の管路(44)に入る前にこのコヒーレント光ビームが前記体積(46;60)を横断し,前記液状流体が,加圧された状態で前記体積(46;60)内および前記ノズル(20;64)の管路(44)内に供給されること,ならびにこのノズルにより発生した前記液状流体噴流(32)が,前記コヒーレント光ビーム(10)の光学的伝播および案内手段となることを特徴とする装置。

・ 【請求項2】 前記光学的伝播および案内手段が,

基本的に,グリップボディーとなる前記ボディー(4)の領域内の前記ケース(2)の内部に位置する光ファイバー(6)であって,端面(8)が前記作業ヘッド(5)の領域内に位置する光ファイバー(6)と,

光ファイバー(6)の前記端面(8)の下流側であって前記ノズル(20)の上流側の前記作業ヘッド(5)の領域内に位置し,焦点がノズル(20)の前記管路(44)の内部に位置するよう前記コヒーレント光ビーム(10)の焦点を合せるのに使用される前記コヒーレント光ビーム(10)の合焦手段(22)

を備えることを特徴とする,請求項1に記載の装置。

(イ) 発明の詳細な説明

a 「本発明は材料アブレーション装置に関し,より詳細には,コヒーレント光ビームを使用する歯科用ハンドピースに関する。そのような装置はまた,コヒーレント光ビームにより処理された表面に到達する液状流体噴流を形成させるための手段も備える。」(原文1欄1行~7行。訳文1頁12~14行)

b 「ノズルのすぐ上流側に位置する体積は,膨張チャンバーとなるチャンバー内に含まれる。この膨張チャンバーにより,加圧状態で供給される流体の準よどみが確保される。」(原文4欄5~9行。訳文3頁31~32行)」

c 「このハンドピース1は,グリップボディー4ならびに作業ヘッド5を有するケース2を備える。ケース2の内部には,コヒーレント光ビーム10を光ファイバー6の端部8まで伝播および案内するための手段となる光ファイバーが設置される。光ファイバー6は,コヒーレント光ビーム10のフレキシブル伝播案内手段14によりコヒーレント光発生源12に接続されるようになっている。フレキシブル手段14は光ファイバー6の延長部により形成されるのが好ましく,そうすることにより2つの伝播案内手段間での接続を回避することができる。コヒーレント光発生源12はたとえば,パルスモードで供給されマルチモードまたは基本モードTEM00で動作するNd:YAGタイプのレーザーで構成される。もちろん他の種類のレーザーも使用することができる。」(原文6欄11~28行。訳文5頁20~28行)

d 「したがってチャンバー30により加圧液状流体の準停留が確保され,その後,この流体はノズル20の管略に入り,液状流体の層流噴流32が形成される。チャンバー30は,ノズル20と最後尾合焦レンズ34の間に位置する体積を画定し,このレンズは,コヒーレント光ビーム10がチャンバー30内に入ることができるよう,合焦光学部22とチャンバーの間に透明なウインドウ36を画定する。こうすることにより,最後尾合焦レンズ34から出たコヒーレント光ビーム10は,膨張チャンバー30内にある加圧液状流体内を直接伝播する。したがって合焦光学部22を出たところの界面は,レンズ-液状流体界面である。このようにビーム10は加圧液状流体内をノズル20の管路の入口まで伝播し,次に液状流体の層流噴流32と結合される。するとこの層流噴流32はコヒーレント光ビーム10用の光導波路となる。」(原文7欄32~52行。訳文6頁26~35行)

e 「管路24によって供給される加圧液状流体は膨張チャンバー30に到達し,このチャンバー内で順定常状態に保たれる。チャンバー30からはこの液状流体はノズル20の管路44を通過し,液状流体の層流噴流32を形成する。」(原文8欄31~36行。訳文7頁19~21行)

f 「ノズル20のレベルにおいて光エネルギーの大きな損失を防止し,特に乱流のリスクを制限するためには,長さが比較的短い管路が有利であり,この管路がコヒーレント光ビーム10の光軸18に完壁に一致していることが最も重要である。液状流体噴流32内においてコヒーレント光ビーム10の最良の結合が得られるようにするために,焦点がノズル20の管路44の内部に位置しかつコヒーレント光ビーム10の包絡線45がノズル20の管路44の壁に触れないようにして,コヒーレント光ビーム10が合焦される。したがってそのような特性を保証する合焦光学部が設けられる。」(原文8欄58行~9欄15行。訳文7頁33~8頁5行)

g 「加圧液状流体中を伝播するコヒーレント光ビーム10にとって高品質な光路を保証するために,膨張チャンバー30の内部にある自由体積46は,最後尾の合焦レンズ34とノズル20の管路44の入口の間を通るコヒーレント光ビームが通過する体積の全部は少なくとも包含する。次に,管路44の入口側に収束するコヒーレント光ビーム10は界面を通過することなく管路44に入るが,この管路44自体は完全に自由である。」(原文9欄29~40行。訳文8頁12行~17行)」

h 「したがって自由体積46内にある液状流体自体も加圧されており,これにより液状流体の均質性が増加し,したがってこの自由体積46の内部のコヒーレント光ビーム10のための光路の品質が向上する。上で記載した種々の適切な手段により発生する液状流体噴流32は,ノズル20の管路24の入口から少なくとも1cm程度の距離までは完全に層流である。」(原文9欄46~56行。訳文8頁20~26行)

・ Fig2(膨張チャンバーの断面図)

file_4.jpgイ 上記記載によれば,甲1発明は,コヒーレント光ビームを使用する歯科用ハンドピースにおいて,コヒーレント光ビームにより処理される表面に到達する液状流体噴流を形成させるための手段に関し,審決が認定したとおり(当事者間に争いがない。),前記第3,1(3)イ(ア)に記載されたとおりの内容を有する装置の発明であると認めることができる。

(3)  各周知例の記載内容

ア 甲13文献

(ア) 甲13文献(特開昭50-118121号公報)には,次の記載がある。

・ 「本発明は,・・・特に燃料用の噴出ノズルに関する。・・・本発明の目的は,・・・様々な燃料で内燃機関を運転し得るようにした,噴出ノズルを提供することである。」(1頁左下欄下3行~右下欄11行)

・ 「本発明は・・・次のように構成されている。旋回室が本質的に,ノズル体における環状の凹部とここに取付けられたカバープレートから形成され,カバープレートが旋回室によって区画されたノズル体の芯部の端面と共に円板状の間隙を形成し,カバープレートに存する出口開口部が円板状の間隙を介して旋回室と通じており,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成されている。

公知の構造の場合にはノズルの最も狭い位置が噴出孔であったが,本発明によりこれは噴出孔の前に配設される。これにより,従来この技術分野で達成できないと考えられていたような噴出比が得られる。

本発明の有利な構成によれば,ノズル体の芯部に,出口開口部と整列していてしかも流れ方向において円板状間隙の後方で且つ出口開口部の前方に配設された孔が設けられている。孔により形成された鋭い縁部は良好な噴霧に寄与する。

本発明のさらに他の構成により,ノズル体の芯部に存する孔が貫通孔として構成され且つ逆行路を形成するようにすれば都合が良い。」(1頁右下欄12行~2頁左上欄14行)

・ 「第4図に示すように受入室11と旋回室12との間には接線方向の旋回路13が形成されており,前記旋回室12は内方の環状溝7とカバープレート8とにより形成されている。

旋回室12により囲まれたノズル本体5の芯部14における端面と,カバープレート8とにより円板状の間隙15が形成され,該間隙の周面は,カバープレート8における出口開口部9断面よりも何倍も小さく形成されている。

さらにカバープレートを芯部14の端面に弾性的に当て,したがって円板状の間隙15を実際上零に等しいように対接させ,そして相当する噴出圧力が生じた際に初めにわずかだけ広げるように構成することができる。」(同2頁右上欄9行~左下欄2行)

・ Fig,4(【第4図】) 第5図のⅣ-Ⅳ線による横断面図

file_5.jpg・ Fig5(【第5図】) 噴出ノズルの実施例の縦断面図

file_6.jpg(イ) 上記記載によれば,甲13文献は,燃料用の噴出ノズルに関する発明であって,様々な燃料で内燃機関を運転し得るようにし,燃料を燃焼しやすくするために霧状に噴霧する技術が開示されており,特に,「円板状の間隙15」は,噴出圧力が生じた場合に「ディスク状」の液体供給空間を形成することが記載されている。

イ 甲14文献

(ア) 甲14文献(特開平6-42432号公報)には,次の記載がある。

・ 「【産業上の利用分野】 本発明は,ノズル本体が流入通路と,それに接続された,渦流室の方へ向いている接線方向の渦流通路と,ノズルコア内に設けられた中央の戻し通路とを備え,渦流室が実質的にノズル本体の出口側の端面に形成された環状の溝と,このノズル本体の端面に固定された,中央の出口を有する被覆板とによって形成され,この被覆板がノズルコアと共に,円板状の隙間を形成し,この隙間が一方では渦流室を被覆板の出口に接続し,他方では渦流室を戻し通路に接続し,出口の横断面積が円板状隙間の外周面積の数倍の大きさであり,被覆板がノズル本体を取り囲むノズルケーシングのつばに載っている,液状媒体,特に燃料のための噴射ノズルに関する。」(段落【0001】)

・ 「【従来の技術】 このような噴射ノズルはドイツ連邦共和国特許第2407856号明細書によって知られており,0.05~10kg/hの噴出量に適することが実証されている。環境を汚さないようにする要求や燃焼装置やエンジンの経済性に対する要求が高まって来ており,噴出量をきわめて少ない量に低減する必要がある。この場合,噴射流を非常に正確に形成することが非常に重要である。これは非常に正確な製作を前提条件として必要とする。」(段落【0002】)

・ 「被覆板とそれに固定されたノズル本体を単に挿入するだけでは,誤差が異なるときに噴射状態が非常に乱れ,特に噴射流の形が乱れ,そしてノズルの組み立て分解時に新たな誤差を生じることが判った。良好な噴射状態とするためには,噴射通路と出口とをきわめて正確に一直線上に並べることと,噴射流の偏向を回避するために渦流室に対して出口をきわめて正確にセンタリングすることが必要である。」(段落【0003】)

・ 「【発明が解決しようとする課題】 本発明の根底をなす課題は,公知の噴射ノズルの噴射精度を改善することである。」(段落【0004】)

・ 「【課題を解決するための手段】 この課題は冒頭に述べた種類の噴射ノズルにおいて本発明に従い,被覆板の直径がノズル本体の直径よりも小さく,ノズル本体がその出口側の端面に,被覆板を形状補完的に収容するための中央の窪みを備え,窪みの深さが被覆板の厚さよりも浅いことによって解決される。これにより,被覆板が渦流室の中心にきわめて正確に保持され,それによって出口が渦流室の中心に配置されないことによる噴射流の偏向が回避される。」(段落【0005】)

・ 「噴射媒体は高圧で渦流室に達し,この渦流室内で強い渦流を生じる。そして,噴射媒体は渦流室によって囲まれたノズルコアと被覆板との間の円板状の隙間を高圧で流れて,非常に加速されてあらゆる側から被覆板の出口内に直接達し,ここで噴霧が行われる。」(段落【0006】)

・ 図1は,液状媒体,例えば燃料のための噴射ノズルの下側部分を示している。この噴射ノズルは中央の穴2を有するノズルケーシング1を備えている。この穴の出口側の端部はつば3によって直径が縮小している。」(段落「【0012】)

・ 「ノズル本体4の下側端面5は更に,中央の窪み11を有する。この窪みは被覆板12の厚さの一部を形状補完的に収容する働きをする。被覆板は前述の溝6,7を被覆し,溝7によって包囲されたノズルコア14の端面13と共に,円板状の隙間15を形成する。この隙間の外周面積は被覆板12内の中央の出口16の横断面積よりもはるかに小さい。更に,被覆板12は溝6と共に収容室を形成し,かつ溝7と共に噴射媒体用渦流室18を形成する。」(段落【0015】)

・ 「数μの厚さである被覆板12は好ましくは弾性材料,例えばばね鋼からなり,ノズルコア14の端面13に次のように接触している。すなわち,静止位置で円板状の隙間15の厚さが零であり,適当な噴射圧力のときに初めてほんの少し大きくなるように接触している。」(段落【0016】)

・ 「被覆板12の出口16はそのノズルコア14側に,窪み22を備えている。この窪みの深さは被覆板12の厚さの主要な部分を占めている。この窪みは,大きな加速を受けて円板状隙間15を通って来る噴射物のために,この噴射物があらゆる側から異なる速度および量で渦流室に流れるときにも,静め室を形成する。これによって,噴射物が出口16の横断面積全体にわたって均一に分配された圧力で流出することにより,噴霧流が変形したり偏向することが回避される。」(段落【0020】)

・ 「図2に更に示すように,ノズルケーシング1のつば3は円錐形の窪みを有する。この窪みは円錐形の噴出口23を形成している。この噴出口の開放角度βは100°よりも大きい。」(段落【0021】)

・ 「この構造により,噴霧流の円錐形の境界層24上で空気が吸い込まれる。この空気は噴出口23の壁に沿って出口16まで移動し,妨害する噴射物フィルムの堆積を防止する。この噴射物フィルムは噴射流を偏向し,流出口を変更する。この構造は同時に噴射ノズルの自己清掃を生じる。」(段落【0022】)

・ 【図1】 噴射ノズルの一部の横断面図

file_7.jpg・ 【図2】 変形噴射ノズルの一部の縦断面図

file_8.jpg(イ) 上記記載によれば,甲14文献には,燃料用の噴射ノズルに関し,甲13文献と同様に,燃料を霧状に広角に噴霧する技術が開示されており,特に,「円板状の隙間15」は,噴出圧力が生じた場合に「ディスク状」の液体供給空間を形成することが記載されている。

ウ 甲4文献

甲4文献(特開昭60-193452号公報)には,「ウォータージェット型レーザー治療装置」において,「レーザー光(10)としては,水による吸収の少ない波長を選択する必要があり,可視域から近赤外領域の波長が適している」(2頁左下欄5~7行)として,レーザー光は水による吸収の少ない波長を選択する必要がある旨が記載されている。

エ 甲5文献

甲5文献(特公平1-38372号公報)には,「レーザめつきおよびレーザ・エツチング方法,さらに具体的にいえば,ジエツトめつきまたはジエツト・エツチング過程をレーザ光線と組み合わせて実施する」(1欄下6行~3行)ものにおいて,エネルギービームとして「アルゴン・レーザ40」を利用し(11欄30~36行),「めつき液25から構成される液体ジエツト21がめつき液25の供給源からめつきすべきイオンを再補給し,光線44のレーザ・エネルギーに対する光学的導波管ないし光導体として働く。」(10欄19~23行)との記載がある。

オ 甲9文献

(ア) 甲9文献(「Journal of Applied Physics Vol.36, No.36 pp.3-8」昭和40年1月号)には,「6328Åの赤色で作動するヘリウム-ネオンレーザーの光共振器の中に,有極性又は無極性液体セルが配置された場合における増強及び減衰過渡現象が観察された。」(甲9抄訳1~3行),「これらの効果は,ビームの近傍における局所加熱,及び屈折率の横勾配から生じるレンズ効果を生成する,材料中の赤色光の吸収に起因するものと考えられる。」(甲9抄訳8~10行)との記載がある。

(イ) 上記記載によれば,甲9文献には,液体中をレーザー光が通過するとき,液体がレーザー光によって加熱され,液体の屈折率が変化してレンズ効果を生じることが記載されていると認められる。

カ 甲16文献

(ア) 甲16文献(特開平6-112575号公報)には次の記載がある。

・ 「【請求項1】 固体レーザ媒質を光励起し,光共振器を用いてレーザ光を出力させる固体レーザ装置において,上記光共振器を支持する固定部に前記レーザ光の一部を照射し,該固定部を熱的に膨張あるいは収縮させることにより該共振器長を変化させる手段を備えたことを特徴とする固体レーザ装置。」

・ 「【請求項2】 請求項1記載の固体レーザ装置において,上記共振器長を変化させる手段は,該共振器長変化による前記レーザ光の出力強度の変化により,固体レーザ媒質の熱レンズ効果による前記レーザ光の出力強度の変化を補正するものであることを特徴とする固体レーザ装置。」

・ 「【産業上の利用分野】 本発明は,光により固体レーザ媒質を励起し,レーザ発振させる固体レーザ装置に関する。」(段落【0001】)

・ 「【従来の技術】 一般に,固体レーザ媒質を光で励起する際,レーザ発振に寄与しない光の吸収により,固体レーザ媒質の温度が上昇し,屈折率が変化して,固体レーザの共振状態が変化する現象がみられる。この現象は固体レーザにおける熱レンズ効果と呼ばれている。・・・」(段落【0002】)

・ 「従来,上記の半導体レーザ励起固体レーザ装置における熱レンズ効果の補正は図3に示すように電気的なフィードバック機構により行われていた。・・・」(段落【0003】)

・ 「・・・励起用半導体レーザ31から出力されるレーザ光のうち,レーザ上位準位への励起に寄与しないレーザ光は固体レーザ媒質30の中で熱を発生し,熱レンズ効果により光共振器39内の固体レーザ媒質30から発振される光のビーム形状が変化する。これにより,最適状態に設定されていた光共振器39が最適状態から外れるためレーザ出力強度が低下する。このとき,レーザ光の一部はハーフミラー34でモニター光として取り出され,光検出器35によって検出される。電気信号処理回路36はその変化量を電気信号として受取り,出力ミラー駆動装置37に出力ミラーの駆動範囲を指定する。出力ミラー駆動装置37は出力ミラー33を最適位置に移動させる。以上のように,光共振器長を電気的なフィードバック機構により最適状態にすることで熱レンズ効果によって生じるレーザ出力強度の低下を補償している。」(段落【0004】)

・ 「【発明が解決しようとする課題】 しかしながら,上記のような電気的なフィードバック機構による補正は,固体レーザ装置が大がかりなものとなり,コストアップにもつながった。本発明は,上述した問題点を解決するためになされたものであり,簡単な構成で熱レンズ効果によるレーザ出力強度の低下を補償することができ,コストダウンに貢献することができる固体レーザ装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】)

・ 「【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために請求項1の発明は,固体レーザ媒質を光励起し,光共振器を用いてレーザ光を出力させる固体レーザ装置において,前記光共振器を支持する固定部に前記レーザ光の一部を照射し,該固定部を熱的に膨張あるいは収縮させることにより該共振器長を変化させる手段を備えたものである。請求項2の発明は,請求項1記載の固体レーザ装置において,上記共振器長を変化させる手段は,該共振器長変化による前記レーザ光の出力強度の変化により,固体レーザ媒質の熱レンズ効果による前記レーザ光の出力強度の変化を補正するものである。」(段落【0006】)

・ 「【作用】 上記の請求項1の構成によれば,光励起された固体レーザ媒質は光共振器により発振してレーザ光を出力する。この出力されたレーザ光の一部は光共振器を支持する固定部を照射する。照射された固定部は熱的膨張あるいは収縮し,この変化により光共振器長を変化させることができる。さらに,請求項2の構成によれば,前記光共振器は,レーザ光の出力強度の上昇に伴う前記固体レーザ媒質の熱レンズ効果による出力強度の低下を補償し,安定したレーザ光を出力することができる。」(段落【0007】)

(イ) 上記記載によれば,甲16文献には,光により固体レーザ媒質を励起し,レーザ発振させる固体レーザ装置に関し,一般に,固体レーザ媒質を光で励起する際,レーザ発振に寄与しない光の吸収により,固体レーザ媒質の温度が上昇し,屈折率が変化して,固体レーザの共振状態が変化する現象(熱レンズ効果)がみられるところ,簡単な構成で熱レンズ効果によるレーザ出力強度の低下を補償することができ,コストダウンに貢献することができる固体レーザ装置に関する発明が記載されていることが認められる。

キ 甲17文献

(ア) 甲17文献(特開平6-5962号公報)には,次の記載がある。

・ 「【産業上の利用分野】 本発明は,レーザ光発生装置に関し,特に,非線形光学結晶素子により波長変換されたレーザ光を発生させるようなレーザ光発生装置に関する。」(段落【0001】)

・ 「本発明は,・・・共振器内部で第2高調波(SHG)を発生する非線形光学結晶素子の位相整合条件にタイプIIを用い,共振器内部に基本波の1/4波長板を挿入することにより,2偏光モード間のカップリングを除去したレーザ光発生装置において,1/4波長板の無反射コーティングに製造誤差があっても,安定な出力が得られ,高効率発振が可能となるレーザ光発生装置の提供を目的とするものである。」(段落【0017】)

・ 「【課題を解決するための手段】 本発明に係るレーザ光発生装置は,少なくとも一対の反射手段を用いて構成される共振器と,該共振器内部に設けられて外部から照射される励起光により基本波レーザ光を発生するレーザ媒質と,上記共振器内部に設けられて上記レーザ媒質からの基本波レーザ光が共振動作されて通過する際にタイプIIの位相整合条件を用いた第2高調波レーザ光を発生し,いずれか一方の面を上記共振器を構成する反射手段となす非線形光学結晶素子と,上記励起光の入射側に位置する一方の面に高反射率コーティング,該一方の面に平行とされる他方の面に無反射コーティングを施し,上記高反射率コーティングを施した一方の面を上記共振器を構成する反射手段となし,上記非線形光学結晶素子に対して所定の方位角だけ傾いた方位に設定される複屈折性素子とを有してなることを特徴として上記課題を解決する。」(段落【0018】)

・ 「ここで,上記共振器を構成する上記複屈折性素子の一方の面と上記非線形光学結晶素子の一方の面を平行に保ち,かつ上記非線形光学結晶素子に照射させる基本波レーザ光の径を拡げないために,上記非線形光学結晶素子の光軸を含む平面内で共振器内の折り返し方位がとられる折り返し手段を用いてもよい。また,光軸上の一方の面が凸面であるようなレーザ媒質や,励起光が照射されることにより内部に生じる熱レンズ効果を用いたレーザ媒質を用いてもよい。さらに,上述した通常のレーザ媒質(一方の面が凸面であるかあるいは熱レンズ効果を用いたレーザ媒質を除くレーザ媒質)と上記非線形光学結晶素子との間の共振器内光路中に凸レンズを挿入してもよい。」(段落【0019】)

・ 「また,上記レーザ媒質としては,Nd:YAG,Nd:YVO4,LNP,Nd:BEL等が用いられ,上記非線形光学結晶素子としては,KTP,LN,BBO,LBO等が用いられ,上記複屈折性素子としては,1/4波長板等が用いられる。」(段落【0020】)

・ 「・・・この励起レーザ光は,レンズ42で集光され,一つの面44Rに高反射コーティングが施され,他の面44T(透過面)に無反射コーティングが施された1/4波長板44を介して,熱レンズ効果を有するレーザ媒質45に入射される。この熱レンズ効果は,レーザ媒質に入射される上記レーザダイオード41からの励起光の一部が熱に変換され,該レーザ媒質内の温度分布が不均一となり,屈折率分布が不均一となることで該レーザ媒質の光軸方向に波面収差が生じて得られる。つまり,上記レーザ媒質45に励起光が入射されることにより,該レーザ媒質45があたかも凸レンズ45aのような働きをし,該レーザ媒質45によって発生された基本波レーザ光の径を集束する。」(段落【0046】)

・ 「・・・熱レンズ効果を有するレーザ媒質45で発生した基本波レーザ光は,レーザ共振器43の反射面44R及び反射面46Rの間を往復進行し,第2高調波レーザ光の発振が行われる。」(段落【0047】)

・ 「ここで,上記レーザ媒質45に熱レンズ効果を持たせるのは,上記第2,第3の実施例と同様に上記非線形光学結晶素子46へ照射するレーザ光の径を拡がらないようにするためである。すなわち,本第4の実施例は,上記レーザ媒質45に熱レンズ効果を持たせることにより,基本レーザ光の径を絞り込み,上記非線形光学結晶素子46に照射することにより,効率のよい第2高調波レーザ光を発生できる。」(段落【0048】)

(イ) 上記記載によれば,甲17文献には,非線形光学結晶素子により波長変換されたレーザ光を発生させるようなレーザ光発生装置に関し,共振器を構成する上記複屈折性素子の一方の面と上記非線形光学結晶素子の一方の面を平行に保ち,かつ上記非線形光学結晶素子に照射させる基本波レーザ光の径を拡げないために,励起光が照射されることにより内部に生じる熱レンズ効果を用いたレーザ媒質を用いる技術,レーザ媒質45に熱レンズ効果を持たせることにより,基本レーザ光の径を絞り込み,上記非線形光学結晶素子46に照射することにより,効率のよい第2高調波レーザ光を発生できるという技術的事項が記載されていると認められる。

ク 乙1文献

乙1文献(特開平3-68468号公報)は,名称を「可動型高圧ノズルの効果を改良するための方法並びに該方法を実施するための装置」とする発明についての公開特許公報であって,そこには,高圧洗浄機に使用される高圧ノズルであって,流体ジェットの方向を連続的に変化させるために移動するノズルに流体入口の作動圧力を伝達するために,高さの低い流体供給空間が形成する,という技術的事項が記載されている。

ケ 乙2文献

乙2文献(特開昭63-251199号公報)は,名称を「高圧液噴射加工装置」とする発明についての公開特許公報であって,そこには,ノズルから高圧で液を噴射して被加工物を衝撃加工する高圧液噴射加工装置であって,ノズル本体に設けられた高圧液導入孔とノズルホルダに保持されたノズルチップに設けられた噴射孔等をつなげる内空部を高さの低い液体供給空間として形成する,という技術的事項が記載されている。

コ 乙3文献

乙3文献(特開昭63-267199号公報)は,名称を「ウオータジエツト切断用アブレツシブノズルチツプ」とする発明についての公開特許公報であって,そこには,高圧水に砥粒(研磨材)を混入して噴射するためのアブレッシブ切断用ノズルチップであって,アダプターに設けられた高圧水通路とアブレッシブノズルチップ本体に取付けられた高圧水ノズルチップに設けられた通路をつなぐ部分に高さの低い液体供給空間を形成する,という技術的事項が記載されている。

サ 乙4ないし乙6文献

乙4ないし乙6文献(学術論文)には,いずれも,収束されるレーザービームによるメッキないしデポジション方法であってレーザービームを導く電解液ビームがノズルにより形成されて対象物に向けられるメッキ方法に関し,電解液を保持するチャンバーについて,レーザーの進行方向の長さの寸法がレーザーの進行方向に直交する方向の長さの寸法よりも短い形状のチャンバーが記載されている。

(4)  原告主張の取消事由に対する判断

ア 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について

(ア) 前記(1)で認定した本件訂正発明1の意義によれば,本件訂正発明1の「ディスク状」「液体供給空間」は,以下の構成を備えたものであることが明らかである。

ⅰ) 「前記ノズル(43)の上面と,前記ノズル(43)の上方に配置されるとともに前記レーザービーム(3)に対して透明な窓(36)の下面との間に」「形成され,」「前記液体ビーム(12)を形成するための液体を供給する」ものであること,

ⅱ) 「供給される液体が,前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定」されるものであること,

ⅲ) その「内」部を「供給される液体が,」「前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ」るものであること,

ⅳ) 「それによりレーザービームのフォーカス円錐先端範囲(56)における液体の流速が,十分に高く決められるようにし」ていること,

ⅴ) 「したがってフォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧されること」

(イ) 以上によれば,本件訂正発明1の「液体供給空間」は,単に「ディスク状」であるだけでなく,さらに,上記ⅰ)ないしⅴ)の構成を一体的に備えることによって,課題を解決できるという技術的意義を有するものと認められる。

この点に関して,審決は,相違点1について,「『ディスク状』の『液体供給空間』それ自体は,甲第13,14号証にみられるごとく周知である。」(審決62頁5~6行)と判断している。

しかし,本件訂正発明1は,前記(1)イで認定したとおり,収束されるレーザービームによる材料加工方法であってレーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成されて加工すべき加工片へ向けられる加工方法における「ディスク状」の「液体供給空間」を対象とする発明であるところ,甲13文献は,前記(3)アのとおり,内燃機関に用いられる燃料用の噴出ノズルに関し,従来この技術分野で達成できないと考えられていたような噴出比を得ることを課題とするものであり,本件訂正発明1とは技術分野もその機序も相違している。しかも,甲13文献に記載されたものは,前記課題を解決するために,カバープレートが旋回室によって区画されたノズル体の芯部の端面と共に円板状の間隙15を形成し,カバープレートに存する出口開口部が円板状の間隙15を介して旋回室と通じ,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成することを中核的解決手段としているものであって,「円板状の間隙15」のみを取り出せば「ディスク状」と呼べないこともないが,出口開口部の断面が間隙の周面よりも数倍大きく構成されていることに鑑みれば,「円板状の間隙15」のみを独立した空間と捉えるのは不自然であり,むしろ,出口開口部と一体の空間,そして,好ましくはさらに出口開口部と整列して形成される孔も含めた一体の空間として課題を解決するものである。さらに,「円板状の間隙15」を実際上「零」に等しいように対接させる態様もあり得るものとされており,もはや「ディスク状」の形状の空間を備えているものとはいえないというべきである。

また,甲14文献に記載された発明も,燃焼装置やエンジンに用いられる,燃料のような液状媒体のための噴出ノズルに関し,噴射精度を改善するというものであり,本件訂正発明1とは技術分野もその機序も相違する。しかも,甲14文献に記載されたものは,前記課題を解決するために,被覆板の直径がノズル本体の直径よりも小さく,ノズル本体がその出口側の端面に,被覆板を形状補完的に収容するための中央の窪みを備え,窪みの深さが被覆板の厚さよりも浅く構成することを中核的解決手段としているものであって,その実施例に記載された「円板状の隙間15」のみを取り出せば「ディスク状」と呼べないこともないが,円板状の隙間15の外周面積は被覆板12内の中央の出口16の横断面積よりもはるかに小さく構成されていることに鑑みれば,「円板状の隙間15」のみを独立した空間と捉えるのは不自然であり,むしろ,出口と一体の空間として所要の機序を備えるものであり,さらには,静止位置で「円板状の隙間15」の厚さが「零」であり,適当な噴射圧力のときに初めてほんの少し大きくなるように接触する態様もあり得るものとされており,もはや「ディスク状」の形状の空間を備えているものとはいえないというべきである。

以上によれば,本件訂正発明1の「ディスク状」「液体供給空間」について甲13文献及び甲14文献から周知とした審決の判断は誤りである。

(ウ) 被告の主張に対する補足的説明

a 被告は,「液体供給空間」を「ディスク状」に構成することは,元来任意的な構成であり,何ら格別な構成ではないから,「ディスク状」の「液体供給空間」を例示する文献の技術分野,開示技術は問題とはならないと主張する。

しかし,「ディスク状液体供給空間」は訂正前請求項5に記載されていたものである(甲43〔平成21年12月11日付け審判請求書〕によれば,請求項5に関する本件訂正は,「ノズル通路(23)のための液体供給空間(35)が,ノズル入口開口(30)の上においてディスク状に従って液体せき止め空間のないように形成されており,」を「前記ディスク状液体供給空間(35)へ供給される液体が,前記ノズル入口開口(30)の周りにおいてせき止め空間のないように前記ノズル(43)からの前記窓(36)の高さを設定した前記ディスク状液体供給空間(35)内を前記ノズル入口開口(30)に向かって周辺から流れるように導かれ」等と訂正することを内容とするものであった。)し,そもそも本件訂正後は本件訂正発明1の構成の一部をなしているものであるから,「任意的な構成」ということはできない。また,「ディスク状」という構成は,本件訂正発明1の前記ⅰ)ないしⅴ)の構成と一体不可分の構成として技術的意義を有することは明らかであるから,いずれにしても被告の主張は採用することができない。

b また,被告は,乙1ないし乙6文献からも「ディスク状」の液体供給空間が周知技術であることが明らかであると主張する。

しかし,上記各文献は,いずれも,本件訂正発明1とは技術分野が異なるか,「液体供給空間」としての機能が異なる技術を開示しているにすぎない。

すなわち,乙1文献には,高圧洗浄機に使用される高圧ノズルに関し,高さの低い流体供給空間が記載されているものの,いわゆる液体による高圧洗浄の技術に関するものであって,本件訂正発明1とは技術分野が異なるし,液体供給空間の機能も相違している。

また,乙2文献には,ノズルから高圧で液を噴射して被加工物を衝撃加工する高圧液噴射加工装置に関し,高さの低い液体供給空間が記載されているものの,レーザービームを導入して材料を加工するものではなく,本件訂正発明1とは技術分野が異なる。

さらに,乙3文献には,高圧水に砥粒(研磨材)を混入して噴射するためのアブレッシブ切断用ノズルチップに関し,高さの低い液体供給空間が記載されているものの,研磨剤を混入して被加工物の切断を行うものであって,レーザービームを導入して材料を加工する本件訂正発明1とは技術分野が異なる。

そして,乙4ないし乙6文献は,いずれも収束されるレーザービームによるメッキないしデポジション方法であってレーザービームを導く電解液ビームがノズルにより形成されて対象物に向けられるメッキ方法についてのものであって,材料の切断等の加工をするものではなく,本件訂正発明1とは技術分野が異なる。

以上のとおり,乙1ないし乙6文献は,本件訂正発明1の「ディスク状液体供給空間」に関する周知技術と認めることはできず,被告の上記主張は採用することができない。

c さらに,被告は,甲1文献の図3,甲4文献の図2,図3及び甲5文献の図1.2にもディスク状の液体供給空間が記載されていると主張する。

しかし,甲1文献の図3は,チャンバーの一部に自由体積領域(点線で示されている部分)が示されているが,現実に流体供給空間が画成されているわけではないので,本件訂正発明1の前記ⅰ)ないしⅴ)の構成と一体不可分の構成として技術的意義を有する「ディスク状」の「液体供給空間」と同等の液体供給空間といえないことは明らかである。

また,甲4文献は,ウォータージェット型レーザー治療装置に関するものであり,そもそも本件訂正発明1とは技術分野が異なるし,甲4文献の図2,3では液体供給空間の高さについて低い様子が示されているが,具体的な説明はされていないのであって,本件訂正発明1の前記ⅰ)ないしⅴ)の構成と一体不可分の構成として技術的意義を有する「ディスク状」の「液体供給空間」と同等の液体供給空間といえないことは明らかである。

さらに,甲5文献は,収束されるレーザービームによるメッキ方法に関するものであって,材料の切断等の加工をするものではなく,本件訂正発明とは技術分野は異なるものである。

以上のとおり,上記各文献は,本件訂正発明1の「ディスク状液体供給空間」に関する周知技術と認めることはできず,被告の上記主張は採用することができない。。

イ 取消事由2-1(相違点2についての判断の誤り:論理付けの誤り)について

(ア) 原告の主張(イ)(熱レンズ現象)につき

a 審決は,「レーザービームの利用において,『熱レンズ』現象が生じると,ビームが影響を受けることは,甲第9,16,17号証にみられるごとく周知である。」(審決62頁10~11行),「セッティングに誤りがない場合,他の原因を究明することは当然であるから,他の原因の一つとして,上記周知技術を踏まえ,『熱レンズ』現象に想到することに,格別の困難性は認められない。」(審決62頁20~22行)と判断する。

審決の挙げた甲9(乙15)文献(「Journal of Applied PhysicsVol.36, No.36 pp.3-8」),甲16文献(特開平6-112575号公報),甲17文献(特開平6-5962号公報)の記載事項は,いずれも,レーザー光を発生させるための共振器における熱レンズ現象について記載されたものである。

すなわち,甲9文献には「セル」内の「液体」における熱レンズ現象が,甲16文献には「固体レーザ媒質」における熱レンズ現象が,甲17文献には「Nd:YAG」等の固体である「レーザ媒質」における熱レンズ現象が,それぞれ記載されていると認められる。

しかし,これらは,いずれも静止する液体や固体における熱レンズ現象の発生について示すにとどまり,かえって,甲17文献においては,レーザ媒質に熱レンズ効果を持たせることをレーザ光を効率良く発生させるために利用しているものである。

そうすると,レーザービームの加熱による熱レンズ現象と呼ばれる物理的現象が生じることについては,本件特許の優先日(平成6年5月30日)当時,一般的に知られていた事項といえるものの,単に物理的現象それ自体が知られていたにとどまり,甲9文献,甲16文献及び甲17文献に記載された事項のいずれにおいても,流れのある液体に関して物理的現象である熱レンズ現象の発生や消失に関して何らの示唆も記載されていないから,「技術」として確立された何らかの手段が知られていたとまでいうことはできない。

したがって,審決の示した甲9文献,甲16文献及び甲17文献の記載をもってしても,本件訂正発明1のような収束されるレーザービームによる材料加工方法であってレーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成されて加工すべき加工片へ向けられる加工方法においては,何らかの態様で熱レンズ現象が発生している可能性を想定することはできるものの,かかる加工方法において既知あるいは未知の様々な物理現象が生じていることはいうまでもないことであるから,その現象の1つに当たる熱レンズ現象が,かかる加工方法においてどのように作用し,またそれによっていかなる問題を生じるかについては,精緻な実験,分析,考察等を経ることなしに当業者が認識し得るものではないというべきである。

b この点に関し,被告は,乙7ないし乙9文献を根拠に,流体にレーザーを照射すれば流体の温度が局所的に上昇して熱レンズが発生することは当業者が容易に想到することができたと主張する。

しかし,上記各文献には,次のとおり,ノズルの損傷が熱レンズに起因するものである点についての根拠は何ら記載されていない。

(a) まず,乙7文献(平成22年10月28日付け富山県工業技術センター作成の試験成績通知書)には,レーザー光の吸収特性試験に関し,次の内容の記載がある。

α レーザー光の水に対する作用

・ ガラスビーカー内の水にYAGレーザー基本波を照射すると,経過時間に応じて同ビーカーの表面温度が上昇している(1-2.試験結果,特に表2。)。

・ 水とガラス容器を透過した後のレーザー出力は,透過させずに直接受けた場合のレーザー出力よりも減少している(2-2.測定結果)。

β 水ジェットへのレーザー光の導光試験

甲1発明とほぼ同様の構成を備えた装置において,YAGレーザー基本波を照射,透過,導光させると,液体供給空間の高さが1mm以上で,入射したレーザーパワー(入力)の増加に応じて,導光されたレーザーパワー(出力)が増加しなくなる(3-2.試験結果,特に表5,図5。)。

γ しかし,上記の試験結果からすると,物理現象である熱レンズ現象が,レーザービームを導く液体ビームがノズルにより形成されて加工すべき加工片へ向けられる加工方法において発生している可能性があることまでは理解できるものの,かかる加工方法におけるノズルの損傷の問題が熱レンズ現象に起因するものであるのか否か,さらには,熱レンズ現象によりかかる加工方法においてどのような問題が生じるかについては,何らの示唆も認められない。

(b) 乙8文献(被告従業員A作成平成22年11月1日付け陳述書)では,「・・・この試験において,水ジェットにより導光されるレーザーのパワーは,液体供給空間に入射したレーザーのパワーに対して低下します。この低下の原因として,レーザーが水の中を透過する際の吸収の他に,熱レンズ現象が考えられます。」(4頁34行~5頁1行)とか,「液体供給空間の高さが1mm以上になると,・・・入射したレーザーパワーの増加に対して逆に導光されたレーザーパワーが低下するという現象が見られます。この現象は,・・・単なる水による吸収では説明することができず,レーザーが水ジェットの中へ導入されにくくなっているものと考えられます。・・・高さ1mm以上の液体供給空間では,YAGレーザー基本波を吸収した水の温度上昇が大きくなり,熱レンズが発生します。液体供給空間内で熱レンズが形成されることによりYAGレーザー基本波が散乱し,散乱されたレーザーが水ジェットの中に導入されなくなり,導光されるレーバーパワーが著しく低下しているものと考えられます。」(6頁23行~7頁2行)と記載されているものの,いずれも,陳述者の推論に基づいてレーザーのパワーが熱レンズ現象に起因して低下するという意見が開示されているにすぎず,熱レンズ現象そのものが発生し,そのことによりかかる加工方法におけるノズル損傷の問題が生じることを直接裏付けるものではない。

(c) 乙9文献(Aの平成22年11月18日付け陳述書)では,レーザー光の水に対する透過試験において,「・・・YAGレーザー基本波の合焦点付近から次々に小さな気泡状物質が発生される様子が観察されました。・・・メカニズムは,・・・水の温度が局部的に上昇したことによって,比重の下がった水塊が球状となり上方に移動する現象であると考えられます。」(1頁下1行~2頁5行)とか,「・・・今回の観測でも上記の他に,・・・レーザーが水中を通っている部分で,明らかに揺らぎが生じていることを観察できました。」(2頁11行~14行)と記載されているが,前段の「気泡状物質」が次々と発生することも,後段の「揺らぎ」が生じることも,レーザービームによる加熱により熱レンズ現象と呼ばれる物理的現象が生じることを示唆するにとどまり,それ以上に,そのことによりかかる加工方法におけるノズル損傷の問題が生じることを直接裏付けるものではない。さらに,乙9文献では,「・・・このように発生する水塊は,・・・観察できるものと思われます。」(2頁5~7行)とか,「・・・YAGレーザー基本波が水に対して大きな熱影響を与えることはレーザーを水に透過させる装置を開発している技術者であれば,簡単な実験で認識できたものと推測できます。」(2頁17行~19行)ということも記載されているが,これらの記載は,レーザービームによる加熱により熱レンズ現象と呼ばれる物理的現象が生じることを簡単に観察できることを説明したにすぎず,そのことによりかかる加工方法におけるノズル損傷の問題が生じることを直接裏付けるものでもない。

c なお,被告は,グリーンレーザーにおいては,YAGレーザーとは異なり,問題となるような「熱レンズ」はほとんど「形成」されずノズル壁の損傷は起こり得ないなどと主張する。

しかし,グリーンレーザーにおいて熱レンズが形成されるか否かは本件訂正発明1の容易想到性の判断に影響するものとは認められないから,その点について判断するまでもなく,この点に関する被告の主張は採用することができない。

(イ) 原告の主張(ウ)(「液体がよどむことなく流れる」という技術的思想)につき

a 審決は,「不都合の原因が判明した場合に,それを除去することは当然であり,『熱レンズ』は,液体にレーザービームのエネルギーが供給され続けることにより生じる。よって,『熱レンズの形成』を抑制する手段として,レーザービームが透過する範囲において,液体がよどむことなく流れるという『思想』は,当業者がごく自然に想到しうるものである」(審決62頁23~28行)と判断している。

しかし,「熱レンズ」は液体にレーザービームのエネルギーが供給され続けることによって生じることが解明されたとしても,原因が判明した場合にそれを除去する解決手段は1つに限定されるものではなく,「液体がよどむことなく流れるようにする」という解決手段を含め,エネルギーの供給が継続する場合の解決手段には,例えば,レーザーの種類と液体の種類の組合せとしてエネルギー吸収能の低い組合せを用いてエネルギー吸収そのものを抑止するなど,複数の解決手段があり得るところである。

ましてや,本件では,主引用例である甲1発明は,液体を「準停留状態」にすることによって所定の課題を解決する発明と認められるから,甲1発明を基礎としながら,「準停留状態」とは着想の異なる「液体がよどむことなく流れる」との思想に想到するためには発想の転換が必要というべきである。

したがって,液体がよどむことなく流れるという「思想」を自然に想到しうるものとした審決の上記論法は,後知恵的な論法であり,誤りである。

b この点に関して,被告は,甲1発明と本件訂正発明1との液体供給空間内の液体の流れの違いは,結局,液体の流速を低くするか高くするかの違いでしかないから,甲1発明において,液体をよどませないようにするためには,もともと流れている液状流体の流速の程度を変更して流速を高めればよいのであり,ここに発想の転換は必要でないと主張する。

しかし,甲1発明の「準停留状態」と本件訂正発明1の「液体がよどむことなく流れる」とは,それぞれ課題解決に向けた別の技術的意義を有しているから,単に液体の流速を低くするか高くするかの違いでしかないということはできない。そして,前記のとおり,熱レンズ現象が,かかる加工方法においてどのように作用し,またそれによっていかなる問題を生じるかについては,およそ,当業者といえども,精緻な実験,分析,考察等を経ることなしに認識し得るものではないし,その解決手段は1つに限定されるものでもないので,甲1文献を主引用例として熱レンズの問題を解決する手段として,「液体がよどむことなく流れる」という思想に想到するには何らかの発想の転換が必要であるというべきであるから,被告の上記主張は採用することができない。

(ウ) 原告の主張(エ)(「ディスク状」「周辺から液体を供給」という構成)につき

a 審決は,「甲1発明の『液体供給空間』は,透明な窓の下面によって,その高さが規定され,『準停留,順定常状態』であるものの流れが生じている。甲1発明において,『光路の品質を向上』させるため,『液体がよどむことなく流れる』ようにすることを踏まえて,『透明な窓の下面』の高さを検討すると,高さを低くすることが良いことは明らかであり,そのような空間は,『ディスク状』『液体供給空間』となる。以上から,液体がよどむことなく流れるようにするため,形状として周知であって,装置の小型化にも寄与する『ディスク状』とし,その『周辺から』液体を供給することは,設計的事項にすぎない。」(審決62頁35行~63頁6行)と判断している。

しかし,前記(2)ア(イ)b,d,eの各記載によれば,甲1発明は,「チャンバー30」が「ノズル20と最後尾合焦レンズ34の間に位置する体積を画定し,」「最後尾合焦レンズ34から出たコヒーレント光ビーム10(判決注:本件発明1の「フォーカス円錐先端範囲」に相当する。)は,膨張チャンバー30内にある加圧液状流体内を直接伝播」し,「加圧液状流体内をノズル20の管路の入口まで伝播」するものであって,「ノズルのすぐ上流側に位置する体積は,膨張チャンバーとなるチャンバー内に含まれ」,「この膨張チャンバーにより,加圧状態で供給される流体の準よどみが確保され」るものであり,また,少なくとも「熱レンズ現象」やノズルの損傷についての記載も示唆もないのであるから,液状流体をチャンバー内でよどませ,そのチャンバー内の液状流体内をコヒーレント光ビームがノズルの管路の入口まで伝播するものと解される。したがって,甲1発明からは,チャンバー内の,すなわちビーム10の伝播する,液状流体がよどみなく流れるという思想を把握することはできないというべきである。

また,審決は,そのような判断を前提として,「透明な窓の下面」の高さは低くすることがよいことが明らかであると判断するが,「ノズルのすぐ上流側に位置する体積は,膨張チャンバーとなるチャンバー内に含まれる。この膨張チャンバーにより,加圧状態で供給される流体の準よどみが確保される。」とする甲1発明において,いかなる根拠をもって「透明な窓の下面」の高さを低くすることがよいことが明らかであると判断できるのか,その合理的な理由は何ら示されていない。

以上のとおり,そのことを根拠として「ディスク状」「液体供給空間」を構成することが設計的事項にすぎないと判断した審決は,誤りである。

b 被告の主張に対する補足的説明

本件訂正発明1と甲1発明は,技術思想において本質的に異なるものではないとの被告の主張が失当であることは前記のとおりであり,そうである以上,その余の被告の主張は全て前提を欠き,採用することができない。

ウ 取消事由2-2(相違点2についての判断の誤り:甲1発明の理解の誤り)について

(ア) 審決は,「甲1発明は,『液状流体の均質性』を増加させ,『光路の品質を向上』させるものである」(審決62頁下から5行~)と認定している。

しかし,前記(2)で認定した甲1発明の意義,特に,(2)ア(イ)g,hの記載によれば,甲1文献には,自由体積内にある液状流体自体が加圧されることにより均質性が増加し,光路の品質が向上することについては記載されているものの,液状流体の均質性が何を意味するかについて具体的な説明はなく,ましてや温度の分布に関する言及もないので,審決がどのような認識の下で前記認定をしたかは不明というほかない。

また,甲1文献には,熱レンズ現象を生じさせる温度について均質性を考慮することも何ら示唆されていない。

そして,甲1発明は,前記のとおり,液状流体をチャンバー内でよどませ,そのチャンバー内の液状流体内をコヒーレント光ビームがノズルの管路の入口まで伝播するものと解されるものであるから,審決がいう「液状流体の均質性」とは,せいぜいチャンバー内でよどんだ液状流体のまさにその状態を示すものと理解するほかなく,それは熱レンズ現象を生じさせる温度についての均質性とは無関係であるから,審決の甲1発明に対する理解は誤っているといわざるを得ない。

(イ) 被告の主張に対する補足的説明

被告は,甲1発明においても,液体は液体供給空間内において,ノズル入口開口の「周辺から」流れる構造となっているのであるから,周知の形状である「ディスク状」液体供給空間を採用したことは設計的事項に他ならないと主張する。

しかし,「液状流体の均質性」とは上記のように理解するほかないし,前記のとおり,甲1発明から,チャンバー内の,すなわちビーム10の伝播する液状流体がよどみなく流れるという思想を把握することは困難であり,ましてや,「ノズルのすぐ上流側に位置する体積は,膨張チャンバーとなるチャンバー内に含まれる。この膨張チャンバーにより,加圧状態で供給される流体の準よどみが確保される。」とする甲1発明において,如何なる根拠をもって「ディスク状」液体供給空間を採用しうるのか,その根拠も不明であるから,被告の上記主張は採用することができない。

エ 取消事由2-3(相違点2についての判断の誤り:設計的事項)について

(ア) 審決は,前記イ(ウ)で言及したとおり,「液体がよどむことなく流れるようにするため,形状として周知であって,装置の小型化にも寄与する『ディスク状』とし,その『周辺から』液体を供給することは,設計的事項にすぎない。」と判断している。

しかし,前記第3,1(4)イ及びウにおいて検討したとおり,「液体がよどむことなく流れるようにするため,液体供給空間を『ディスク状』とし,その『周辺から』液体を供給するという構成が単なる設計的事項といえないことは,明らかであるから,審決の上記判断は誤りである。

(イ) 被告の主張に対する補足的説明

被告は,「ディスク状」との限定は甲1文献に記載されているリザーバタイプのチャンバーの形状を単に変形させただけであって特段の技術的意義を見出すことはできないから,「液体供給空間」を「ディスク状」に構成することは単なる設計的事項にすぎないと主張する。

しかし,甲1発明と本件訂正発明1とは技術思想が異なること,「チャンバー30内に加圧液状流体の準停留が確保される」あるいは「供給される流体の準よどみが確保される」とする甲1発明において,「よどみなく流れる」ことを確保する趣旨で「ディスク状」液体供給空間を採用するのは困難であること,さらに,本件発明1の「液体供給空間」は,「ディスク状」であるだけでなく,さらに,前記したⅰ)ないしⅴ)の構成を一体的に備えることによって,本件訂正発明1の課題を解決できるという技術的意義を有するのであるから,「デイスク状」であることのみを捉えて設計事項とする被告の上記主張は前提において失当であり,採用することができない。

オ 取消事由2-4(相違点2についての判断の誤り:阻害要因)について

(ア) 審決は,「甲1発明においては,『準停留が確保』されない限り,加工が不可能なものではない。そして,加工において,種々の条件の変更を試みることは,一般的であるから,阻害要因があるとまでは言えない。」(審決63頁10~12行)と判断している。

しかし,前記のとおり,甲1発明と本件訂正発明1とは技術思想が異なること,「チャンバー30内に加圧液状流体の準停留が確保される」あるいは「供給される流体の準よどみが確保される」とする甲1発明において,「よどみなく流れる」ことを確保する趣旨で「ディスク状」液体供給空間を採用するのは困難であるから,阻害要因があるというべきである。

(イ) 被告の主張に対する補足的説明

被告は,従来の「リザーバタイプのチャンバー」においても,内部を「液体がよどみなく流れ」ている可能性は排除されていないから,本件訂正発明1における「ディスク状液体供給空間」という限定は,文言上,「リザーバタイプのチャンバー」を排除するものではないと主張する。

しかし,本件訂正発明1の「液体供給空間」は,「ディスク状」であるだけでなく,さらに,前記したⅰ)ないしⅴ)の構成を一体的に備えることによって本件訂正発明1の課題を解決できるという技術的意義を有するのであるから,甲1発明のチャンバーを含む従来の「リザーバタイプのチャンバー」では達成できない技術的意義を有していることは明らかである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

カ 取消事由3(本件訂正発明2ないし16の容易想到性の判断の誤り)について

前記のとおり,本件訂正発明1について,審決が容易に想到し得るとした判断は誤りであるから,同審決において,本件訂正発明1の方法を実施する装置に係る本件訂正発明5及び本件訂正発明1又は5の構成を全て含む本件訂正発明2ないし4,6ないし16が容易に想到し得るとした判断も誤りである。

3  結論

以上のとおり,原告の主張する取消事由1ないし3はいずれも理由があり,その誤りは結論に影響を及ぼすから,審決は違法として取消しを免れない。

よって,原告の請求を認容して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)

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