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知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10297号 判決 2011年9月21日

原告

株式会社グツドマン

訴訟代理人弁理士

山田強

安藤悟

辻野拓也

被告

株式会社カネカ

訴訟代理人弁理士

柳野隆生

森岡則夫

関口久由

中川正人

訴訟代理人弁護士

宇佐美貴史

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2009-800210号事件について平成22年8月10日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,被告が有する特許第3894224号(発明の名称「吸引カテーテル」)の全請求項につき原告が特許無効審判請求をし,被告が訂正請求をして対抗したところ,特許庁が訂正を認めた上,請求不成立の審決をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。

2  争点は,①訂正後の上記特許の出願書類に記載要件違反(特許法36条4項1号[実施可能要件違反],6項1号[サポート要件違反],2号[明確性要件違反])があるか,②訂正後の上記発明が下記引用例に記載された発明及び周知技術から容易想到であったか(ただし,請求項ごとに引用例等は異なる。特許法29条2項)等,である。

甲1発明:米国特許第6152909号明細書(以下,訳文による)(発明の名称「吸引システム及び方法」,特許日 2000年[平成12年]11月28日,甲1)

甲3発明:特開平9-10182号公報(発明の名称「血管内圧力測定用の医療機器」,公開日 平成9年1月14日,甲3)

甲13発明:特開2003-284780号公報(発明の名称「スタイレット付きカテーテル」,公開日 平成15年10月7日,甲13)

甲15発明:特開平5-253304号公報(発明の名称「血管カテーテル」,公開日 平成5年10月5日,甲15)

第3当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁における手続の経緯

ア 被告は,平成15年11月7日の優先権(特願2003-378329号,日本)を主張して,平成16年10月26日,名称を「吸引カテーテル」とする発明につき日本語による国際特許出願(PCT/JP2004/016205号・特願2005-515281号)をしたところ,平成18年12月22日に特許第3894224号としてその設定登録を受けた(請求項の数17。以下「本件特許」という。)。

イ これに対し原告は,平成21年10月6日,本件特許の全請求項(以下「旧請求項」という。)につき下記理由に基づき特許無効審判請求(甲28)をしたので,これを受けた特許庁は,同請求を無効2009-800210号事件として審理した。

・ 無効理由A:旧請求項1及び同9には特許法36条6項1号違反(サポート要件違反)及び同条4項1号違反(実施可能要件違反)がある。

・ 無効理由B:旧請求項1,同9及び同15には特許法36条6項2号違反(明確性要件違反)がある。

・ 無効理由C:各旧請求項(1~17)には,以下のとおり特許法29条2項違反(各引用発明から容易想到である)がある。

旧請求項1

甲1発明及び周知例(甲2~甲11)から容易想到

旧請求項2

周知例(甲12~甲14)から容易想到

旧請求項3

同上

旧請求項4

周知例(甲2~甲4,甲12)から容易想到

旧請求項5

甲13発明から容易想到

旧請求項6

甲3発明から容易想到

旧請求項7

同上

旧請求項8

甲13発明から容易想到

旧請求項9

甲1発明から容易想到

旧請求項10

設計事項にすぎない

旧請求項11

甲1発明から容易想到

旧請求項12

周知例(甲9~甲11)から容易想到

旧請求項13

甲1発明から容易想到

旧請求項14

同上

旧請求項15

甲15発明から容易想到

旧請求項16

甲1発明から容易想到

旧請求項17

周知例(甲4~甲8)から容易想到

ウ 上記審理の中で被告は,上記無効審判請求に対抗するため,平成21年12月28日,特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を理由として,下記内容の訂正請求(請求項の数15,以下この訂正を「本件訂正」といい,訂正後の請求項を「新請求項」という。甲27)をした。

旧請求項

訂正請求の内容

新請求項

内容変更

2~5

変更なし

2~5

(削除)

番号変更

番号変更

番号変更

10

番号変更

11

番号変更

10

12

番号変更

11

13

番号変更

12

14

番号変更

13

15

番号変更

14

16

番号変更

15

17

(削除)

エ これに対し原告は,上記訂正請求につき新たな無効理由(後記無効理由3)を付加した上,本件特許の無効理由を下記のとおり整理した。

・ 無効理由1:上記イの無効理由Aを旧請求項1及び同9から新請求項1及び同8に改める。

・ 無効理由2:上記イの無効理由Bを旧請求項1,同9及び同15から新請求項1,同8及び同14に改める。

・ 無効理由3:新請求項1に記載された「ストレート形状」は明確でないため,新請求項1,同5及び同6には特許法36条6項2号違反(明確性要件違反)がある。

・ 無効理由4:上記イの無効理由Cを旧請求項(1~17)から新請求項1~15に改める。

オ これにつき特許庁は,平成22年8月10日,上記訂正を認めた上,上記各無効理由はいずれも理由がないとして「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決をし,その謄本は同年8月19日原告に送達された。

(2)  発明の内容

本件訂正後の特許請求の範囲(新請求項)の内容は,以下のとおりである(甲27,なお下線部分は訂正箇所。以下,請求項の番号ごとに「本件発明1」等という。)。

・ 【請求項1】  血管内から物質を吸引除去するための吸引カテーテルであって,前記カテーテルは先端側シャフトおよび基端側シャフトから構成されるメインシャフトを有し,前記メインシャフトの内部に物質を吸引除去するための吸引ルーメンを,前記先端側シャフトの最先端部にガイドワイヤを挿通可能なガイドワイヤルーメンを内部に持つガイドワイヤシャフトをそれぞれ備え,前記吸引ルーメンは前記基端側シャフトの基端側に設けられたハブに連通し,前記吸引ルーメンの内部に脱着可能なストレート形状のコアワイヤを有し,前記コアワイヤの最大外径をR1,前記ハブより先端側の吸引ルーメンの最小内径をR2とする場合に,0.45≦R1/R2≦0.65であり,前記吸引ルーメンの内部に前記コアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,前記コアワイヤが取り出され,前記吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去されるものであることを特徴とする吸引カテーテル。

・ 【請求項2~4】 (略)

・ 【請求項5】 前記コアワイヤが金属素線を巻回したスプリングワイヤであることを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれかに記載の吸引カテーテル。

・ 【請求項6】 前記コアワイヤの少なくとも一部が先端側ほど柔軟であることを特徴とする請求の範囲第1項から第5項のいずれかに記載の吸引カテーテル。

・ 【請求項7】 (略)

・ 【請求項8】 前記先端側シャフトの先端が斜め方向にカットされており,前記ガイドワイヤシャフトの先端部が該斜めカットされた前記先端側シャフトの最先端部に位置するか,もしくは該最先端部よりも先端側に突出して位置しており,前記先端側シャフトが斜めカットされている部分のカテーテル長手軸方向の長さをL1とし,前記ガイドワイヤシャフトの基端から前記先端側シャフトの最先端部までの長さをL2とした場合に,0.5≦L2/L1であることを特徴とする請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載の吸引カテーテル。

・ 【請求項9~13】 (略)

・ 【請求項14】 前記基端側シャフトの少なくとも基端側の部分の曲げ弾性率が1GPa以上であることを特徴とする請求の範囲第1項から第13項のいずれかに記載の吸引カテーテル。

・ 【請求項15】 (略)

(3)  審決の内容

ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本件訂正は適法であるとした上,訂正後の本件特許には前記無効理由1ないし4をいずれも認めることができない,というものである。

イ なお,審決が認定した甲1発明の内容,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

(ア) 甲1発明の内容

「血管から塞栓,プラーク,血栓又は他の閉塞物を吸引するための吸引カテーテルであって,前記カテーテルは長い管状ボディ36を有し,前記長い管状ボディ36の内部に塞栓,プラーク,血栓又は他の閉塞物を吸引するための吸引ルーメン42を,前記長い管状ボディ36の最先端部にガイドワイヤ26を挿入するためのガイドワイヤルーメン40を内部に持つ先端38をそれぞれ備え,前記吸引ルーメン42は前記長い管状ボディ36の基端に設けられたアダプタ32に連通している吸引カテーテル。」

(イ) 本件発明1と甲1発明との一致点

「血管内から物質を吸引除去するための吸引カテーテルであって,前記カテーテルはメインシャフトを有し,前記メインシャフトの内部に物質を吸引除去するための吸引ルーメンを,前記メインシャフトの最先端部にガイドワイヤを挿通可能なガイドワイヤルーメンを内部に持つガイドワイヤシャフトをそれぞれ備え,前記吸引ルーメンは前記メインシャフトの基端側に設けられたハブに連通している吸引カテーテル。」

(ウ) 本件発明1と甲1発明との相違点1

「本件発明1では,メインシャフトが先端側シャフトおよび基端側シャフトから構成されているのに対して,甲1発明では,メインシャフト(長い管状ボディ36)が1つのシャフトから構成されている点。」

(エ) 本件発明1と甲1発明との相違点2

「本件発明1では,吸引ルーメンの内部に脱着可能なストレート形状のコアワイヤを有し,コアワイヤの最大外径をR1,ハブより先端側の吸引ルーメンの最小内径をR2とする場合に,0.45≦R1/R2≦0.65であり,吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,コアワイヤが取り出され,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去されるものであるのに対して,甲1発明では,そのようにはなっていない点。」

(4)  審決の取消事由

しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(特許法36条6項1号違反及び同条4項1号違反[無効理由1]についての判断の誤り)

(ア) 本件発明1の構成Fについての具体例が一切示されていない点

a 審決は,本件訂正明細書(甲27参照。以下「訂正明細書」という。)の参考例10の記載(段落【0072】参照)を根拠として,訂正明細書の段落【0060】の「1.00mm」との記載は「1.10mm」の誤記であると解釈し,訂正明細書には「0.45≦R1/R2≦0.65であること」(以下「構成F」という。)の具体例が記載されていると判断している(審決24頁21行~25頁15行)。

しかし,参考例10のR1の記載がそもそも誤記である,又は参考例10は意味不明の具体例であると解することもできる。

本件特許は,特願2003-378329号(甲34)を基礎出願としたパリ条約による優先権主張(特許法43条)をした出願に係るものであるが,上記基礎出願(甲34)の明細書の段落【0048】には,実施例1の内容として,「ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの内部に位置するように配置し」と記載されているのに対して,訂正明細書の段落【0062】には,同様の実施例1の内容として,「ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの外側に位置するように配置し」と記載されている。

ガイドワイヤシャフトが先端に設けられた吸引カテーテルにおいては,そのガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの内部に配置されている状態から,先端側シャフトの外側に配置されている状態に変更された場合,それだけ吸引カテーテルの先端側のサイズが大きくなるため,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)であれば,通過性は低下すると考えるのが普通である。

しかるに,上記基礎出願の明細書の段落【0057】及び表1における比較例2が,訂正明細書の参考例10に対応するところ,ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの内部に配置されていることを前提とした上記比較例2では,通過性の評価が「×」であったのに対して,ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの外側に配置されていることを前提とした上記参考例10では,通過性の評価が「△」とされており,ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの外側に配置されている方が,通過性が向上した結果となっている。

したがって,参考例10の評価結果は疑わしいといわざるを得ず,参考例10を根拠としただけでは,訂正明細書の段落【0060】の「1.00mm」という記載が「1.10mm」の誤記であると解釈することはできない。

b また,仮に「1.00mm」が「1.10mm」の誤記であるとしても,表1に記載されているようなR2が「1.10mm」となるメインシャフトを得るためには,平成21年12月28日付け審判事件答弁書(甲29)に添付された図1を参照した上での「本発明の目的の一つが,吸引ルーメンを最大限確保することであり(明細書の段落【0012】),先端から基端にかけて内径が一定である方が,吸引を行う上で,血栓等の引っかかりが生じないため好ましいことからすると,基端側シャフトと先端側シャフトの内径を同一(本実施例では1.10mm)にするのが当業者の一般的な考え方である。」(審判事件答弁書7頁37行~8頁3行)という主張を採用する必要がある。

しかし,訂正明細書の段落【0060】の実施例1についての記載及び図1~図4からすると,メインシャフトの先端側シャフトと基端側シャフトとの接合部分において段差が生じているものであって,その段差は,基端側シャフトの縮径部分において生じている構成となるから,「基端側シャフトと先端側シャフトの内径を同一(本実施例では1.10mm)にする」との主張は明らかに矛盾している。

また,出願時の明細書から一貫して「ハブより先端側の吸引ルーメンの最小内径」という用語が用いられ,「最小内径」という用語は本件発明1においても記載されているが,同記載は吸引ルーメン100に段差が存在していることを前提としないとあり得ない。

このほか,訂正明細書の段落【0036】並びに図2及び図4にはガイドワイヤシャフト112が吸引ルーメン100の内部に位置する構成が示されており,この点からも,上記被告の主張は失当であり,この主張を採用した審決の判断は明らかに誤りである。

c 前記aのとおり,ガイドワイヤシャフトが先端に設けられた吸引カテーテルにおいては,そのガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの内部に配置されている場合と,先端側シャフトの外側に配置されている場合とで,耐キンク性及び通過性の評価結果は大きく変化するものと考えられるが,訂正明細書の実施例1~3,参考例4~6,実施例7における評価結果は,前記基礎出願のものと全く変化していない。この点からも,訂正明細書に記載された具体例は,そもそもその内容が疑わしいものであり,「基端側シャフト材質:ポリイミド,コアワイヤ形状:ストレート」という条件であったとしても,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとする根拠は,訂正明細書に示されていない。

d 以上のとおり,訂正明細書には構成Fについての具体例が一切示されておらず,訂正明細書の記載からは0.45≦R1/R2≦0.65とした場合の効果を把握することができない。

よって,本件発明1に係る記載が特許法36条6項1号(サポート要件)及び同条4項1号(実施可能要件)の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(イ) 本件発明1の構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書に記載された所望の効果が得られるか否かが不明である点

a 審決は,「・・・本件発明1の基端側シャフト及びコアワイヤとしては上記各機能を担保するために類似の特性を有するものが用いられると解される」(審決23頁10行~17行)ことを根拠として,訂正明細書の実施例1~3,7,8とは異なる条件の吸引カテーテルであったとしても,当業者であれば構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書に記載された所望の効果が得られることが理解できると判断している(審決23頁4行~24頁20行)。

しかし,仮に上記各機能を担保するために類似の特性を有するものが用いられるとしても,各種条件の変更に伴って訂正明細書記載の所望の効果が得られる範囲は変化し得ると考えるのが普通である。

そして,当業者が,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書記載の所望の効果が得られると理解できるためには,基端側シャフトの材質やコアワイヤの形状といった条件を本件発明1の構成として明記しないのであれば,各種条件において所望の効果が得られるとする数値範囲を具体例によって明示し,かつそれら各種条件の数値範囲が重なる部分を構成Fの数値範囲として記載するか,又は所望の効果が得られるとする数値範囲の具体例を一つの条件について明示するのみだが,それ以外の条件であっても所望の効果が得られると当業者が理解できるような根拠を出願時の明細書に記載する必要がある。

本件では,実施例7として1点のみが示されている「基端側シャフト材質:ポリイミド,コアワイヤ形状:スプリングワイヤ」という条件においては,確かに「R1/R2=0.55」については耐キンク性及び通過性の両方が良好である評価結果が示されているが,この結果と,上記「類似の特性を有するものが用いられる」という前提のみから,「R1/R2=0.45」付近や,「R1/R2=0.65」付近において,「訂正明細書に記載された所望の効果が得られる」と判断する根拠は,訂正明細書等には一切示されていない。

また,訂正明細書には,スプリングワイヤのコアワイヤがストレートのコアワイヤよりも柔軟性が高いことが明記されている(段落【0042】,【0044】参照)から,当業者であれば,コアワイヤとして前者を利用した場合と後者を利用した場合とでは,所望の効果が得られるとする数値範囲の境界は変化すると考えるのが普通である。

さらに,他の条件を変更したものについても一切具体例が示されておらず,その場合において,所望の効果が得られるとする数値範囲の境界は不明である。例えば,本件発明1では,「コアワイヤにおいて最大外径となっている箇所」と「吸引ルーメンにおいて最小内径となっている箇所」との位置関係は何ら限定されていないから,前者と後者とがカテーテルの長手軸方向に相当離れた位置関係であっても,さらには前者が後者の先端側に存在する構成及びその逆の基端側に存在する構成も構成Fに含まれることとなるが,このような場合において,所望の効果が得られるとする数値範囲の境界は不明である。

以上より,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書に記載された所望の効果が得られることが理解できるとした審決の判断には明らかな誤りがある。

b なお,審決は,上記構成Fを数値範囲の単なる最適化と判断するのではなく,これを根拠の一つとして本件発明1の進歩性を認めており,これは,当業者の通常の創作能力では,訂正明細書に記載の効果が得られるような数値範囲を見出すことができないことを前提としているはずである。他方,当業者であれば「上記各機能を担保するために類似の特性を有するものが用いられると解される」との審決の論理は,明らかに矛盾しており,この点からも審決の判断は誤りである。

c 以上のとおり,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書記載の所望の効果が得られるか否かは不明であり,本件発明1に係る記載が特許法36条6項1号(サポート要件)及び同条4項1号(実施可能要件)の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(ウ) 本件発明8

実施例に記載されているのは,「L2/L1」の値が0.5であるときの1点のみであり,本件発明8に係る「L2/L1」の数値範囲について0.5以外の場合の具体例は何ら示されていない。

したがって,「当業者であれば,訂正明細書及び図面の記載から,本件発明8に規定される『0.5≦L2/L1』である場合に,訂正明細書に記載された所望の効果が得られることを理解するといえる。」(審決26頁9行~11行)とした審決の判断は誤りである。

(エ) 小括

以上のとおり,本件発明1及び本件発明8に係る記載は,特許法36条6項1号及び同条4項1号の規定に違反するものである。

また,本件発明1を引用する本件発明2~15に係る記載も同様に,特許法36条6項1号及び同条4項1号の規定に違反するものである。

イ 取消事由2(特許法36条6項2号違反[本件発明1の「ストレート形状」についての判断は除く,無効理由2]についての判断の誤り)

(ア) 本件発明1の「0.45≦R1/R2≦0.65」という記載では,R1,R2の各々の値の下限又は上限が不明瞭である点

a 審決は,「本件発明1の吸引カテーテルが挿入される血管の大きさは所定の範囲内にとどまると解されるから,コアワイヤの最大外径R1,吸引ルーメンの最小内径R2の値には血管に挿入できる上限値が存在するといえる。」(審決28頁2行~4行)と判断している。

しかし,血管の大きさが定まったとしても,吸引ルーメンの最小内径R2が定まるといえるためには,使用されるガイディングカテーテルや吸引カテーテルの外径及び肉厚等が定まる必要があるため,吸引ルーメンの最小内径R2の値にどのような上限値が存在するのか不明であり,そうである以上,コアワイヤの最大外径R1の値にどのような上限値が存在するのか不明である。

また,血管に挿入されるものにおいて何らかの上限値が存在するのは当然であり,血管に挿入されるものにおいて,構成Fに係る数値範囲の全てで訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係では,R1の上限値及びR2の上限値は不明である。審決は,この点について何ら判断しておらず,明らかに誤りである。

b 審決は,訂正明細書の段落【0008】,【0041】の記載等からすると,「物質を吸引除去する吸引ルーメンの機能及びキンクの可能性を低減させるコアワイヤの機能を考慮すると,R1,R2の値には,吸引ルーメン及びコアワイヤの機能を確保するための下限値が存在するといえる。」(審決28頁5行~12行)と判断している。

しかし,訂正明細書の段落【0008】の「吸引するための吸引ルーメンの断面積を十分確保できず,吸引能力の低いものしか得られていない。」との記載からどのようにR2の下限値が定まるのかは不明であり,訂正明細書の段落【0041】の「吸引ルーメン100に対してコアワイヤ101が細すぎるため,コアワイヤ101による挿入時の折れ防止効果は十分発揮されない。」との記載からどのようにR1の下限値が定まるのかは不明である。

また,仮に上記各訂正明細書の記載からR1の下限値及びR2の下限値が定まるとしても,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係で,R1の下限値及びR2の下限値が不明である。審決は,この点について何ら判断しておらず,明らかに誤りである。

c 以上のとおり,本件発明1の「0.45≦R1/R2≦0.65」という記載では,R1,R2の各々の値の下限又は上限が不明瞭であり,それに伴って本件発明1は明確ではない。

よって,本件発明1に係る記載が特許法36条6項2号(明確性要件)の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(イ) 本件発明1において構成Fを備えることの技術的意義を理解することができない点

a 前記ア(イ)のとおり,訂正明細書には,構成Fに含まれる広範囲の構成のうちわずかなパターンの構成に対応した具体例しか示されておらず,さらには前記ア(ア)のとおり,そもそも構成Fについての具体例が一切示されていないため,本件発明1について構成Fを備えることの技術的意義を理解することができない。

また,同様に,「コアワイヤにおいて最大外径となっている箇所と吸引ルーメンにおいて最小内径となっている箇所との位置関係を限定していないとしても,当業者であれば,『0.45≦R1/R2≦0.65』という数値範囲を採用することの技術上の意義を理解することができるといえる。」(審決29頁9行~13行)と判断した根拠が不明であり,やはり本件発明1について構成Fを備えることの技術的意義を理解することができない。

b 訂正明細書には,段落【0075】~【0079】に実験結果が示されているが,耐キンク性の評価及び通過性の評価が「○」,「△」,「×」という実施者の主観による評価のみとなっており,「○」と「△」との境界や,「△」と「×」との境界が不明である。

また,前記ア(ア)a及びcに記載した各事情があるほか,前記基礎出願(甲34)の明細書の段落【0056】及び表1における比較例1では,耐キンク性の評価が「×」であったものが,訂正明細書において当該比較例1に対応する参考例9では,耐キンク性の評価が「△」となっている。

以上の点から,訂正明細書に記載の具体例は,そもそもその内容が疑わしいといわざるを得ない。

c 以上のとおり,本件発明1において構成Fを備えることの技術的意義を理解することができず,それに伴って本件発明1は明確ではない。

よって,本件発明1に係る記載が特許法36条6項2号(明確性要件)の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(ウ) 本件発明8

本件発明8の構成として記載されているのは「0.5≦L2/L1」という記載だけであり,L1,L2の各々の値の下限及び上限は記載されていない。仮に,訂正明細書にL1の上限及び下限が記載されていたとしても,本件発明8においてL1,L2の各々の値の下限及び上限が記載されていないため,本件発明8は,発明の範囲が明確ではない。

また,審決は,「先端側シャフトの最先端部に備えられたガイドワイヤシャフトの長さには上限値が存在するから,ガイドワイヤシャフトの基端から先端側シャフトの最先端部までの長さであるL2にも上限値が存在するといえる。」(審決29頁32行~34行)と判断しているが,先端側シャフトの最先端部にガイドワイヤシャフトが設けられる構成において,「0.5≦L2/L1」の全ての範囲で訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係では,L1,L2の各々の値の下限及び上限は不明である。

したがって,本件発明8に係る記載が特許法36条6項2号(明確性要件)の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(エ) 本件発明14

血管内から物質を吸引除去するための吸引カテーテルであって,吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入されるものである場合には「基端側シャフトの少なくとも基端側の部分」の「曲げ弾性率」に上限値が存在することとなるとする根拠は不明であり,本件発明14に係る記載が特許法36条6項2号(明確性要件)の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(オ) 小括

以上のとおり,本件発明1,本件発明8及び本件発明14に係る記載は,特許法36条6項2号の規定に違反し,本件発明1を引用する本件発明2~15に係る記載も同様に,特許法36条6項2号の規定に違反するものである。

ウ 取消事由3(本件発明1に記載された「ストレート形状」について[無効理由3]の判断の誤り)

(ア) 本件発明1に記載された「ストレート形状」が本件発明5との関係で不明瞭である点

a 審決は,「ストレート」という一般的語義及びカテーテルの分野における技術常識から,本件発明1の「ストレート形状」が「まっすぐな形状」であると認定した(31頁27行,29行~33行参照)。そして,このような認定に従えば,「テーパー形状」であっても「まっすぐな形状」に含まれることとなる。

他方で,審決は,「ただし,訂正明細書の段落【0043】の記載では,コアワイヤの形状として『ストレート形状』と『テーパー形状』とが区別されているから,テーパー形状のコアワイヤは訂正明細書に記載されたストレート形状のコアワイヤには含まれないと解される。」(審決32頁21行~24行)と認定している。

つまり,審決は,「ストレート形状」の意味について,「スプリングワイヤ」との関係では一般的語義及びカテーテルの分野の技術常識を参酌し,「テーパー形状」との関係では訂正明細書の定義を参酌していることとなるが,このような都合の良い解釈は明らかに誤りである。

b コアワイヤとしてスプリングワイヤを採用した実施例7の内容(訂正明細書の段落【0069】,スプリングワイヤの概略断面図(参考図1))と,コアワイヤとしてテーパー形状を採用した参考例6の内容(訂正明細書の段落【0068】,テーパー形状のコアワイヤの概略断面図(参考図2))とを比較すると,「スプリングワイヤ」には「テーパー形状」と同程度又はそれ以上の外径差が生じているので,「スプリングワイヤ」及び「テーパー形状」のそれぞれの表面形状を比較したとしても,「テーパー形状」は「ストレート形状」に含まれないとしながら,「スプリングワイヤ」は「ストレート形状」に含まれるとする根拠を見出すことはできない。

c 特許請求の範囲に記載された用語の定義が明細書にてなされている場合にはそれを参酌すべきであり,訂正明細書の段落【0042】,【0043】の記載,表1及び【図面の簡単な説明】の記載からすれば,本件特許においては,訂正明細書にて「テーパー形状」及び「スプリングワイヤ」の両方と区別して「ストレート形状」が定義されているというべきである。

d 以上のとおり,訂正明細書の定義からすると,本件発明1記載の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」は含まれないはずであり,本件発明1の従属項である本件発明5において「ストレート形状」に「スプリングワイヤ」が含まれるとするのは上記定義と矛盾する。

したがって,本件発明1及び本件発明5の記載は不明瞭であり,本件発明1及び本件発明5に係る記載が特許法36条6項2号(明確性要件)の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(イ) 本件発明1に記載された「ストレート形状」が本件発明6との関係で不明瞭である点

訂正明細書の段落【0044】の記載によれば,「コアワイヤの少なくとも一部が先端側ほど柔軟である」形状には,スプリングワイヤやテーパー形状が含まれ,スプリングワイヤとテーパー形状の組合せも含まれる。これに対し,前記(ア)のとおり,訂正明細書の定義からすると,本件発明1に記載の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」及び「テーパー形状」が含まれないはずである。

そうすると,本件発明1の従属項である本件発明6において「ストレート形状」の一部として「前記コアワイヤの少なくとも一部が先端側ほど柔軟である」形状が含まれるとするのは上記定義と明らかに矛盾する。

したがって,本件発明1及び本件発明6の記載は不明瞭であり,本件発明1及び本件発明6に係る記載が特許法36条6項2号の規定に違反しないとした審決の判断は誤りである。

(ウ) 小括

以上のとおり,本件発明1,本件発明5及び本件発明6に係る記載は,特許法36条6項2号の規定に違反するものである。

エ 取消事由4(特許法29条2項違反[無効理由4]についての判断の誤り)

(ア) 相違点1の認定及び判断の誤り

a 審決は,甲1には,本件発明1の「前記カテーテルは先端側シャフト及び基端側シャフトから構成されるメインシャフトを有」するという構成(以下「構成B」という。)は記載されていないと判断している(審決11頁20行~25行)。

しかし,甲1には,剛性が相違する別シャフトである先端側シャフト及び基端側シャフトから,メインシャフトを構成する内容が記載されている(原文9欄32行~38行,10欄31行~41行参照)。

b また,先端側ほど柔軟となるように,メインシャフトをそれぞれ異なるシャフトである先端側シャフトと基端側シャフトとで構成することは,以下のとおり,カテーテルの技術分野において周知技術である。

すなわち,甲9(特開2001-29449号公報)には「本実施形態の拡張用バルーンカテーテル2は,いわゆるモノレール方式のバルーンカテーテルであり,バルーン部4と,カテーテルチューブとしての外チューブ6と,コネクタ8とを有する。外チューブ6は,比較的柔軟性のある第1外チューブ部材6aと,当該第1外チューブ部材6aに接合部9にて接合される比較的剛性が高い第2外チューブ部材6bとで構成してある。」(段落【0041】)との記載があり,甲11(特開2002-291900号公報)には「本実施形態では,外チューブ6は,円形断面の第1外チューブ部材6aと,当該第1外チューブ部材6aの近位端部に接合された異形断面の第2外チューブ部材6bとを有し,」(段落【0043】),「第2外チューブ部材6bは,第1外チューブ部材6aと同じ材質で構成しても良いが,他の材質で構成することが好ましい。たとえば第1外チューブ部材6aを,第2外チューブ部材6bよりも軟質の合成樹脂で構成することが好ましい。」(段落【0048】)との各記載があり,甲17(特開2003-102841号公報)には「バルーンカテーテルであって,前記バルーンカテーテルは,何れも先端部と後端部を有する金属管から構成される後端側シャフト,樹脂製チューブから構成される先端側シャフト,~を有し,」(【請求項1】)との記載がある。

ちなみに,甲9,甲11及び甲17はいずれもバルーンカテーテルであるところ,バルーンカテーテルにおける周知技術が吸引カテーテルの周知技術となり得るかという問題があるが,いずれもカテーテルとして分野を共通にするため,上記周知技術は吸引カテーテルの周知技術となり得る。これは,被告自身が認めているところであり,それは審決においても採用されている。すなわち,本件発明1の「ストレート形状」が「まっすぐな形状」であることが技術常識であると証明するために被告自身が提供した甲25(特開2001-70252号公報)は,バルーンカテーテルに適用されるガイドワイヤーの内容を示す文献である(段落【0042】参照)。そして,被告は,ガイドワイヤーに関する記載を利用して,吸引カテーテルに設けられるコアワイヤの技術常識を主張する上で,バルーンカテーテルと吸引カテーテルとが技術分野(カテーテル)を共通にすることを前提としている。

c 以上のとおり,本件発明1と甲1発明とが,本件発明1が構成Bを有する点で相違するとした審決の判断は誤りであり,仮に,構成Bを有する点で相違するとしても,当該構成Bはカテーテルの技術分野において周知技術であり,同構成により生じる効果も当業者が予測できる範囲のものであるから,「相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は,当業者が容易に想到することができたものとはいえない。」(審決35頁28行~29行)とした審決の判断は誤りである。

(イ) 相違点2の判断の誤り

a 本件発明1に記載された「前記吸引ルーメンの内部に脱着可能なストレート形状のコアワイヤを有し」という構成,及び「吸引ルーメンの内部に前記コアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,前記コアワイヤが取り出され,前記吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される」という構成について

(a) 審決は「甲2~甲4には,・・・吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルについては記載されていない。」(審決36頁36行~37頁6行)と判断するが,そうであるとしても,カテーテルの分野において流体が流通することとなるルーメン内にコアワイヤに対応する部材を着脱式に設けることが周知技術であることは,甲2~甲4(順に,特表平7-505559号公報,特開平9-10182号公報,米国特許第4068659号明細書)により明らかである。

また,審決は「甲5,甲6には,・・・カテーテルの耐キンク性を向上させることについては記載されていない。」(審決37頁7行~11行),「甲7及び甲8には,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルについては記載されていない。」(審決37頁12行~20行)と,それぞれ判断するが,そうであるとしても,カテーテルの分野において陰圧が付与されるルーメン内にコアワイヤに対応する部材を着脱式に設けることが周知技術であることは,甲5~甲8(順に,特開昭59-151969号公報,特開昭62-243566号公報,実願平4-49557号(実開平6-3353号)のCD-ROM,クリエートメディック株式会社「クリニー 医用シリコーン製品総合カタログ '87」)により明らかである。

また,審決は,甲18~甲20に記載された周知技術について言及していないが,甲18~甲20(順に,特表平9-511159号公報,特開平10-127790号公報,特開平10-85339号公報)には,RX型のバルーンカテーテルにおいて,耐キンク性の向上を図るべく,コアワイヤに対応する部材を着脱式に設けることが記載されている。

つまり,甲2~甲8及び甲18~甲20によれば,カテーテルという技術分野において,コアワイヤに対応する部材をカテーテルに対して挿入させて設けるとともに,それを着脱式とすることが周知技術であることが示され,さらにこの周知技術はカテーテルという技術分野に含まれる様々な種類のカテーテルにおいて採用されていることが容易に理解できる。

ちなみに,特表2002-513653号公報(甲35)は,上記周知技術を補強するための証拠として新たに提出する証拠であるところ,甲35には,所望の度合いの剛性及び堅さを付与する着脱式のスタイレットを吸引カテーテルのルーメンに設けることが示唆されている。

なお,甲35には,スタイレット68を着脱式に設けることの技術的意義が独立して記載されており,同記載に接した当業者は,スタイレットを着脱式に設ける構成を,外部磁石による誘導の構成やセンサの構成とは独立した技術であると容易に認識するといえる。

また,米国特許第5476450号明細書(甲36)には,被告が主張する「吸引用ルーメンの他にガイドワイヤ用ルーメンを設けた吸引用のカテーテルにおいては,吸引用ルーメンには,全く何も配されていない。むしろ,このように構成することで,利点が得られることを特徴するものである。」との記載は存在しない。

甲35記載の着脱式のスタイレットはカテーテルの挿入に際して剛性や堅さを付与するために使用され,同カテーテルの挿入に際してはガイドワイヤ用ルーメンにはガイドワイヤが挿通される。そうすると,既にガイドワイヤが挿通されているガイドワイヤ用ルーメンに当該着脱式のスタイレットをあえて設けることは非常に不自然であり,吸引用ルーメンに設けようとするものと解される。

ちなみに,吸引カテーテルが様々な種類のカテーテルと技術分野を共通にするかとの問題はあるが,いずれもカテーテルの分野として共通する(被告自身も認めており,審決でも採用されている。)。

すなわち,本件発明1の「ストレート形状」が「まっすぐな形状」であることを技術常識であるとして証明するために被告自身が提供した甲23(特開平6-218060号公報)は,血管,消化管,胆管等を対象とした注入カテーテルに適用されるガイドワイヤーの内容を示す文献であり(段落【0002】参照),甲24(特許第3180073号公報)は,血管,消化管等を対象とした注入カテーテルに適用されるガイドワイヤーの内容を示す文献であり(段落【0002】参照),甲25(特開2001-70252号公報)は,前記のとおりバルーンカテーテルに適用されるガイドワイヤーの内容を示す文献である。

そして,被告は,甲23~甲25におけるガイドワイヤーに関する記載を利用して,吸引カテーテルに設けられるコアワイヤの技術常識を主張する上で,吸引カテーテルが上記様々な種類のカテーテルと技術分野を共通にすることを前提としている。

(b) 上記周知技術を甲1発明に適用する上での動機付けは,甲1に記載されている。すなわち,甲1には,吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという目的(課題)が記載されている(原文2欄57行~62行参照)。また,同課題は甲2~甲4,甲7,甲8,甲10,甲11,甲17~甲20にも記載されており,周知の課題である。

このほか,甲1には,「図示しない他の形態として,吸引カテーテルの吸引ルーメンに治療デバイスが配置されるような吸引カテーテルとしてもよい。」(原文12欄11行~13行),「治療が完了した場合,吸引カテーテルをそのまま残しながら,治療デバイスは取り除かれる。」(原文12欄17行~18行)との記載があり,吸引カテーテルを使用して血栓等の吸引を行う場合に吸引効率を向上させる目的(課題)が記載されている。また,同課題は,吸引カテーテルにおいて一義的に導き出すことができる。

(c) このような動機付けが存在する状況下で,カテーテルの分野における前記周知技術を適用することは,当業者であれば容易に想到し得ることである。

すなわち,前記(a)のとおり,甲2~甲4,甲7及び甲8,甲18~甲20には,通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという課題が記載されている。他方で,甲1には,吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという課題が記載されており,課題が共通する点において,甲1発明に,甲2~甲4,甲7,甲8,甲18,甲19に記載された「コアワイヤに対応する部材を着脱式に設ける」という構成を適用する上での動機付けが存在する。

したがって,甲1発明に対して上記構成を適用することで,本件発明1に記載された「吸引ルーメンの内部に脱着可能なストレート形状のコアワイヤを有し」という構成,及び「吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,コアワイヤが取り出され,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される」という構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである。

b 本件発明1に記載された構成Fについて

(a) 吸引ルーメン内にコアワイヤを挿入した構成においては「R1/R2」として何らかの数値を採ることとなり,さらに通過性及び耐キンク性の向上を目的としてコアワイヤを装着する以上,コアワイヤの最大外径や吸引ルーメンの最小内径を必要に応じて適宜調整することは当業者であれば当然行うことである。

この場合,構成Fに係る相違点が進歩性を肯定する根拠となるためには,「構成Fを採用する上で前提となる課題が新規であること」,「構成Fを採用したことにより有利で異質な効果を奏すること」,「数値範囲の下限値(0.45)及び上限値(0.65)が臨界的意義を有すること」の少なくともいずれかを満たす必要がある。

本件において,構成Fを採用する上で前提となる課題は,通過性及び耐キンク性の向上であり,既に周知である。また,構成Fを採用したことによる効果も異質な効果とはいえない。

そうすると,構成Fに係る数値範囲の下限値(0.45)及び上限値(0.65)が臨界的意義を有するかが問題となるが,訂正明細書の表1からは,数値範囲の下限値及び上限値にて,通過性及び耐キンク性の性能が局所的に変化すると読み取ることはできない。

構成Fは,上記のような結果を得た状況で,概ね好ましい下限値と上限値とを単純に取り出してそれを数値範囲の根拠としたものと見受けられ,構成Fに係る数値範囲は臨界的意義を有しない。

ちなみに,構成Fに係る数値範囲の下限値及び上限値が臨界的意義を有しないことは,被告自身が認めている(審判事件答弁書[甲29]13頁14行~18行,21頁23行~26行参照)。

以上のとおり,構成Fを採用することは,数値範囲の単なる最適化にすぎず,当業者であれば容易に想到し得ることである。審決は,この点に関する原告の主張につき一切判断を示すことなく,構成Fの存在を,進歩性を肯定する根拠の一つとしており,誤りである。

(b) また,構成Fに係る数値範囲に含まれる構成は,甲8~甲11,甲13に記載されるとおり,カテーテルに剛性を付与するためにコアワイヤのような部材を設けた場合において,当業者であれば自ずと採用する数値である。

すなわち,甲8(クリエートメディック株式会社「クリニー 医用シリコーン製品 総合カタログ '87」)には,吸引ルーメンの内径(R2)が1.1mmであって,スタイレットの外径(R1)が0.5mmである構成が記載されており,この場合,R1/R2≒0.45となる。これは,構成Fに係る数値範囲の下限値に近い値となる。

また,甲13(特開2003-284780号公報)の段落【0035】には,カテーテルの内径(R2)が1.00mmであって,スタイレットの外径(R1)が0.6mmである構成が記載されており,この場合,R1/R2=0.6となる。これは,構成Fに係る数値範囲の上限値に近い値となる。

このほか,甲9(0.32≦R1/R2≦0.73),甲10(0.08≦R1/R2≦0.83)及び甲11(0.32≦R1/R2≦0.73)(順に,特開2001-29449号公報,特開2002-102359号公報,特開2002-291900号公報)にも,構成Fに係る数値範囲に類似した数値範囲の構成が記載されている。

以上のとおり,構成Fに係る数値範囲に含まれる構成は,カテーテルのルーメン内にコアワイヤのような部材を配置した場合に自ずと採用される構成であるため,構成Fを採用することは,当業者であれば容易に想到し得ることである。

また,上記甲8には,「スタイレットが装着されていますので意識喪失時や挿入の困難な症例でも,短時間で挿入できます。」と記載され,甲10の段落【0020】には,「剛性付与体33は,シャフトチューブ32の可撓性をあまり低下させることなく,屈曲部位でのシャフトチューブ32の極度の折れ曲がり,シャフトチューブ32の血管内での蛇行を防止する。」と記載され,甲11の段落【0093】には,「バルーンカテーテルの押し込み特性がさらに向上すると共に,カテーテルチューブの遠位端側が柔軟になり,曲がりくねった血管などの体腔内での挿入特性がさらに向上する。」と記載されている。他方で,甲1には,吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという課題が記載されており,甲1発明に対してコアワイヤのような部材を着脱式に設けた場合において,甲8,甲10及び甲11に記載された数値を適用する上での動機付けは存在する。

以上のとおり,構成Fを採用することは,当業者であれば容易に想到し得ることである。

c 相違点2についてのまとめ

以上のとおり,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は,甲1発明及び周知技術から当業者が容易に想到し得る事項であり,同発明特定事項により生じる効果も当業者が予測できる範囲のものであるから,「相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は当業者が容易に想到することができたものではない。」とした審決の判断は誤りである。

なお,コアワイヤのような部材を「ストレート形状」とすることは,甲2のFig.3,甲4のFig.3及び甲5の第4図に示されているように,カテーテルの分野において周知技術である。

(ウ) 小括

以上のとおり,本件発明1は,甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから,特許法29条2項の規定に違反し,本件発明2~本件発明15も,甲1発明,甲3発明,甲13発明及び甲15発明と周知技術とに基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから,特許法29条2項の規定に違反する。

オ 取消事由5(訂正要件違反について)

当初の明細書(甲26)の定義からすると,同明細書記載の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」及び「テーパー形状」は含まれないはずである。これに対して,本件発明1の従属項として本件発明5及び本件発明6が存在すると,当初の明細書(甲26)の記載と矛盾する「ストレート形状」の態様を追加することとなる。つまり,請求項1において「ストレート形状の」との限定を付加しながら,その従属項として本件発明5及び本件発明6が存在する状態とする訂正は,願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものではない。

したがって,本件訂正は,特許法134条の2第5項の規定によって準用する特許法126条3項の規定に違反してなされたものであり,認められないものである。この状態を解消するためには,本件発明5及び本件発明6を削除する必要があり,この点を看過した審決の判断は誤りである。

2  請求原因に対する認否

請求の原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。

3  被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1)  取消事由1に対し

ア 構成Fの具体例の記載につき

(ア) 原告は,本件特許の基礎出願に係る明細書(甲34)の記載等からすると,参考例10の記載を根拠としただけでは,訂正明細書の段落【0060】の「1.00mm」という記載につき,「1.10mm」の誤記と解釈することはできないと主張する。

しかし,審決は,訂正明細書の実施例,参考例,表1の記載を総合すると,訂正明細書の段落【0060】の「1.00mm」という記載は「1.10mm」の誤記と解される(審決24頁下6行~下4行)としたものであって,単に,参考例10の記載を根拠としただけで,上記「1.00mm」との記載が「1.10mm」の誤記と判断したものではない。

また,訂正明細書の実施例1以外の他の実施例及び参考例は,いずれも実施例1と同様に作製したカテーテルを用いて構成されており(実施例8は除く。),かつ,「訂正明細書の表1から把握される各実施例,参考例におけるR2の値は,すべてほぼ1.1mmとなる」(審決24頁下8行~下7行)ことからすれば,原告が主張するように参考例10のR1を誤記と解する合理的理由はない。

さらに,基礎出願の明細書の記載とその基礎出願に基づく優先権主張を伴った出願(以下「優先権主張出願」ということがある。)の明細書の記載との間に相違があったとしても,優先権の効果を措くとして,優先権主張出願の明細書の記載内容自体に影響を与えるものではない。

そもそも,優先権主張を伴った出願をする目的の一つは,先願主義の法制の下,出願を急いで行った結果として当該出願の内容に不備があったことが事後的に判明した場合に,その不備を正すことにあるほか,事情の変化等により,基礎出願の内容の修正が必要になる場合もある。

本件の優先権出願は,基礎出願における「ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの内部に位置するように配置し」との記載を「ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの外側に位置するように配置し」と訂正するとともに,基礎出願の明細書において明示されていなかった評価基準を見直し,これを明示することを目的の一つとして行ったものである。

なお,基礎出願の実施例1におけるガイドワイヤシャフトに関する記載には,先端側シャフトの外部に連通するガイドワイヤシャフトの基端側開口部の加工方法について記載がない(段落【0048】参照)。仮にガイドワイヤシャフトを先端側シャフトの内部に位置するように配するとすれば,吸引カテーテルの構造は,例えば,基礎出願における図2や図4のように,先端側シャフトの側壁に開口部を形成した構造になるはずであるが,基端側開口部の加工方法について記載がない以上,先端側シャフトの側壁から外部に連通するガイドワイヤシャフトの基端側の開口部が存在しないことになる。しかし,そのような構造では,ガイドワイヤが吸引ルーメン内に配されることとなり,本件発明の主旨に反することとなる。また,吸引ルーメン外に配され得るとしても,ガイドワイヤの挿通が非常に困難となり,カテーテルの操作性などに影響を及ぼすこととなり,吸引カテーテルの構造としても常識的に想定されないものである。

したがって,ガイドワイヤシャフトの基端側開口部の位置を考慮すれば,基礎出願における「ガイドワイヤシャフトが先端側シャフトの内部に位置するように配置し」との記載が誤記であったことは明らかである。

また,基礎出願時においては出願を急ぐために,厳しめの評価基準を設けていたが,本件特許に係る優先権主張出願時に,改めて術者との詳細な検討を行って,より実状に即した評価基準に見直し,訂正明細書の段落【0075】に示すような評価基準を追加し,当該評価基準に基づき,表1に実施例,比較例の評価結果をまとめたものである。

本件において,基礎出願の明細書に記載の実施例1の吸引カテーテルと本件特許に係る優先権主張出願の明細書に記載の実施例1の吸引カテーテルとは,その構造上の差異はない。また,その評価は本件特許に係る優先権主張出願に際して見直した評価基準に基づいてなされた評価結果を表1に記載したものである。

このように,訂正明細書における表1の実験結果は,優先権主張出願時に改めて見直した訂正明細書の評価基準に基づき,耐キンク性及び通過性について当業者によりなされた技術的評価であって,妥当であり,「参考例10の評価結果は疑わしい」との原告の主張は理由がない。

(イ) 原告は,被告の審判事件での「基端側シャフトと先端側シャフトの内径を同一にするのが当業者の一般的な考え方である」との主張につき,訂正明細書の段落【0060】及び図1~4の記載と矛盾し,「最小内径」との記載は吸引ルーメン100に段差が存在することを前提としており,被告の上記主張を採用した審決の判断は誤りであると主張する。

しかし,審決は,訂正明細書の実施例,参考例,表1の記載を総合すると,訂正明細書の段落【0060】の「1.00mm」という記載は「1.10mm」の誤記と解されると判断したものであって,審決には,上記の被告の主張については記載されていない。

また,訂正明細書において参照している図1~4は,具体例の幾つかを示したものであり,本件発明が当該例のみに限定されるものではない。

確かに,最小内径という用語は,吸引ルーメンにおける長さ方向の最小部分の内径を示すものではあるが,それによって,吸引ルーメンの内径がその長さ方向に最小部分が存在するものに限られることを示すものではない。例えば,コアワイヤの外径については,最大外径との記載を用いているが,本件特許の出願当初の明細書では,長さ方向に外径の変更するテーパー形状だけでなく,長さ方向に実質的に外径の変更のないストレート形状も記載されている(図6参照)。したがって,本件特許の明細書において,吸引ルーメンやコアワイヤの所定部分の寸法につき,最小内径ないし最大外径と記載されているとしても,コアワイヤの形状が,その長さ方向に最大部分が存在するものに限られないのと同様に,吸引ルーメンの形状が,その長さ方向に最小部分が存在するものに限られないことは明らかである。

以上のように,被告の上記主張は,訂正明細書及び図面の記載と何ら矛盾するものではなく,審決の上記判断に誤りはない。

(ウ) 原告は,基礎出願(甲34)に係る明細書とその優先権主張出願に係る訂正明細書の記載の相違に基づき,訂正明細書記載の具体例はその内容が疑わしく,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書記載の所望の効果が得られるとする根拠は示されていないと主張する。

しかし,前記(ア)のとおり,基礎出願とこれに基づく優先権主張出願の明細書の記載内容に相違があるとしても,訂正明細書における表1の評価結果の妥当性には何ら影響はなく,訂正明細書には構成Fについての具体例が示されているといえる。

イ 構成Fの数値範囲全てにおいて,所望の効果が得られるかにつき

(ア) 原告は,訂正明細書に記載されている基端側シャフト,コアワイヤ,吸引カテーテルに求められている機能を担保するために類似の特性を有するものが用いられるとしても,各種条件の変更に伴って,訂正明細書に記載された所望の効果が得られる範囲は変化し得ると考えるのが普通であり,他の条件を変更したものについても一切具体例が示されておらず,コアワイヤにおいて最大外径になっている箇所と吸引ルーメンにおいて最小内径となっている箇所とがカテーテルの相当離れた位置関係にあっても構成Fに含まれることとなる旨主張する。

しかし,審決23頁6行~下4行記載のとおり,当業者であれば,訂正明細書及び図面の記載から,訂正明細書に記載されている基端側シャフト,コアワイヤ,吸引カテーテルに求められている機能を担保するため,本件発明1の基端側シャフト及びコアワイヤとしては上記各機能を担保するために類似の特性を有するものが用いられると考えるのが普通である。したがって,例えば,基端側シャフトの材質が編組チューブであってコアワイヤ形状がストレートである場合(実施例8)や,基端側シャフトの材質がポリイミドであってコアワイヤ形状がスプリングワイヤである場合(実施例7)にも,それらの基端側シャフト及びコアワイヤは,基端側シャフトの材質がポリイミドであって,コアワイヤ形状がストレートのものと類似の特性を示すものといえる。

そして,実施例7,8の構成Fに係る「R1/R2」の値の変化に応じて耐キンク性及び通過性が不連続に大きく変化すると解すべき理由はなく,しかも,実施例7,8の「R1/R2」の値は,構成Fに規定する「0.45≦R1/R2≦0.65」の中央値の0.55であって,良好な耐キンク性及び通過性を示すものである。

したがって,当業者であれば,訂正明細書及び図面の記載から,実施例8や実施例7の基端側シャフトの材質とコアワイヤ形状の場合にも,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書に記載された所望の効果が得られることを理解するといえる。

また,本件発明1の吸引カテーテルの機能を担うために,変更事項は類似の特性を担保できる範囲内で行われるものであるから,この範囲内で本体側シャフトの材質及びコアワイヤの形状,並びにこれら以外の条件の変更を行う限りは,吸引カテーテルは訂正明細書に記載されたものとほぼ類似の特性を示すといえる。

したがって,仮に各種条件の変更に伴って,訂正明細書に記載された所望の効果が得られる範囲は変化し得るとしても,「0.45≦R1/R2≦0.65」の範囲において,良好な耐キンク性及び通過性を示す各種条件は,訂正明細書の実施例,表1を参照した当業者であれば容易に理解できることである。また,原告が主張する極端な変更事項が,本件発明1の吸引カテーテルの機能を担保できる範囲を超えることは,訂正明細書及び図面を参照した当業者であれば,当然に理解可能である。

そして,訂正明細書の記載や技術常識を考慮すれば,R1/R2が概ね好適な範囲となるように基端側シャフトなどの材質,寸法を選択することが,当業者にとって過大な試行錯誤を要するものとはいえない。

したがって,原告の上記主張はいずれも理由がない。

(イ) 原告は,審決において,構成Fを根拠の一つとして本件発明1の進歩性を認めていることと,記載不備に対する判断において基端側シャフトなどの機能を考慮して当該機能を担保するために類似の特性を有するものを用いることができるとの判断には矛盾がある旨主張する。

しかし,構成Fは進歩性を肯定する根拠の一つではあるものの,審決は,構成Fの存在のみで進歩性を肯定したのではなく,甲1ないし甲20によっては,相違点2につき当業者が容易に想到できたものではないとしたものである。一方,原告が主張する記載不備については,訂正明細書の記載を参照すれば,材質などについての技術常識を考慮して,基端側シャフトなどの機能を担保するために類似の特性を有するものを用いることができると判断したものであって,審決における上記判断には,原告が主張する矛盾は存在しない。

ウ 本件発明8につき

原告は,実施例に記載されているのは「L2/L1」値が0.5であるときの1点のみであり,本件発明8に係る「L2/L1」の数値範囲について0.5以外の場合の具体例は何ら示されていないから,「当業者であれば,訂正明細書及び図面の記載から,本件発明8に規定される「0.5≦L2/L1」である場合に,訂正明細書に記載された所望の効果が得られることを理解するといえる。」との審決の判断は誤りであると主張する。

しかし,審決25頁下2行~26頁13行に記載されているように,当業者であれば,訂正明細書及び図面の記載から,本件発明8の範囲まで拡張ないし一般化したものを理解できるから,原告の上記主張は理由がない。

(2)  取消事由2に対し

ア 「0.45≦R1/R2≦0.65」との記載ではR1,R2の上限,下限が不明瞭であるとの点につき

原告は,吸引ルーメンの最小内径R2の上限値及び下限値,コアワイヤの最大外径R1の上限値及び下限値が不明であり,構成Fに係る数値範囲の全てで訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係では,R1,R2の上限値/下限値は不明であると主張する。

しかし,原告も自ら認めるように(原告準備書面(第1回)11頁下5行~下4行),血管に挿入されるものにおいて何らかの上限値が存在することは当然であり,血管に挿入されるガイディングカテーテルの内外径の上限値は存在する。したがって,当該ガイディングカテーテルに挿入可能な吸引カテーテルの内外径の上限値も存在することになり,吸引ルーメンの最小内径R2の上限値に対応する,特定関係を満たすコアワイヤの最大外径R1の上限値も存在する。また,血管の大きさは,年齢,性別,人種,人体の部位などによって相違するが,一般にガイディングカテーテルの外径は,その血管の大きさに基づいて適宜選択され,そのように選択されたガイディングカテーテルに応じて,吸引ルーメンの最小内径R2及びコアワイヤの最大外径R1の上限値は定まることになる。

また,上記のようにR1とR2の上限値は定められ得るが,例えば,R1とR2の比は概ね好適な範囲を有するものであるため,その比を変動させるためにR1とR2を変動させることがあり得る。その際,吸引カテーテルの吸引能力を確保するためには,吸引ルーメンの断面積を確保する(吸引ルーメンの最小内径R1を大きくする)必要があるが,吸引ルーメンの最小内径R1を小さくしすぎれば吸引能力を確保できず,コアワイヤの最大外径R1を細くしすぎれば挿入時の折れ防止効果が十分発揮されない。

したがって,これらの点を考慮して,R1とR2の比を調整すれば,当然,R1とR2の下限値も存在することとなる。

このほか,前記(1)イのとおり,仮に各種条件の変更に伴って,訂正明細書に記載された所望の効果が得られる範囲が変化し得るとしても,構成Fすなわち「0.45≦R1/R2≦0.65」の範囲において,良好な耐キンク性及び通過性を示す各種条件は,訂正明細書の実施例,表1を参照した当業者であれば容易に理解できることである。

したがって,治療対象となる血管の大きさに対応して選択されるガイディングカテーテルに応じて定められる「0.45≦R1/R2≦0.65」の範囲において良好な耐キンク性及び通過性を示す吸引ルーメンの最小内径R2及びコアワイヤの最大外径R1の上限値/下限値は,訂正明細書の実施例,表1を参照した当業者であれば容易に理解できることである。

以上のように,当業者であれば,訂正明細書及び図面の記載から,R1,R2の上限値及び下限値を理解できるのであるから,原告の上記主張は理由がない。

イ 本件発明1において構成Fを備えることの技術的意義が理解できないとの点につき

(ア) 原告は,取消事由1のとおり,訂正明細書には構成Fに含まれる広範囲の構成のうちわずかなパターンの構成に対応した具体例しか示されておらず,そもそも構成Fについて具体例が一切示されておらず,審決が「当業者であれば,『0.45≦R1/R2≦0.65』という数値範囲を採用することの技術上の意義を理解することができるといえる。」と判断した根拠が不明であり,本件発明1について構成Fを備えることの技術的意義を理解することができないと主張する。

しかし,前記(1)ア,イのとおり取消事由1に関する原告の主張はいずれも理由がなく,当業者であれば,訂正明細書及び図面の記載から構成Fにつき具体例が示されていること及び構成Fに係る数値範囲の全てにおいて訂正明細書記載の所望の効果が得られることが理解可能である。

そして,前記(1)イのとおり,本件発明1の吸引カテーテルの機能を担うために,変更事項は類似の特性を担保できる範囲内で行われるものであるから,この範囲内で本体側シャフトの材質及びコアワイヤの形状,並びにこれら以外の条件の変更を行う限りは,吸引カテーテルは訂正明細書に記載されたものとほぼ類似の特性を示すといえる。また,原告が主張する前述の極端な構成が,本件発明1の吸引カテーテルの機能を担保できる範囲を超えるものであることは,訂正明細書及び図面を参照した当業者であれば,当然に理解できることである。

したがって,訂正明細書及び図面を参照した当業者であれば,本件発明1につき構成Fを備えることの技術的意義を理解することができる。

(イ) 原告は,訂正明細書の段落【0075】~【0079】には実験結果が示されているが,耐キンク性の評価及び通過性の評価が「○」,「△」,「×」という実施者の主観による評価のみとなっており,「○」と「△」との境界や「△」と「×」との境界が不明である上,取消事由1で検討した本件特許に係る出願の基礎出願(甲34)の記載と優先権主張出願の記載の相違があることからすれば,訂正明細書記載の具体例は,そもそもその内容が疑わしいといわざるを得ないと主張する。

しかし,前記(1)アのとおり,本件特許に係る基礎出願及びそれに基づく優先権主張出願の明細書の記載に相違があったとしても,優先権主張出願の明細書の記載内容の妥当性には何ら影響はない。

また,審決28頁下14行~下6行に記載のように,訂正明細書に記載された表1の実験結果は,耐キンク性及び通過性について当業者によりなされた技術的評価であって一応の妥当性を有し,耐キンク性や通過性の評価が実施者の主観による評価のみであるとしても,実験結果の妥当性自体を否定するものとまではいえないことは明らかである。

ウ 本件発明8につき

原告は,本件発明8の構成として記載されているのは「0.5≦L2/L1」という記載だけであり,L1,L2の各々の値の下限値及び上限値は記載されておらず,仮に訂正明細書にL1の上限及び下限が記載されていたとしても,本件発明8において,L1,L2の各々の値の下限及び上限が記載されていないため,本件発明8は,発明の範囲が明確ではなく,先端側シャフトの最先端部にガイドワイヤシャフトが設けられる構成において,「0.5≦L2/L1」の全ての範囲で訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係では,L1,L2の各々の値の下限及び上限は不明であると主張する。

しかし,L1の上限値と下限値は訂正明細書の段落【0047】に明示されている以上,L2にも上限値と下限値が存在することは訂正明細書の記載から明らかであり,また,「0.5≦L2/L1」との規定の技術的意義は,接合部の面積を確保して剥離の危険性を低減することにある(訂正明細書の段落【0046】)。

したがって,訂正明細書及び図面の記載を参照すれば,本件発明1の構成,想定され得るL1及びL2の寸法範囲,0.5≦L2/L1との構成による接合部の面積の確保,実施例の態様等を総合的に考慮し,本件発明8において常識的に想定され得るL1とL2の全範囲において0.5≦L2/L1による効果が得られることは,当業者であれば理解可能である。

エ 本件発明14につき

原告は,本件発明14について,血管内から物質を吸引除去するための吸引カテーテルであって吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入されるものである場合には「基端側シャフトの少なくとも基端側の部分」の「曲げ弾性率」に上限値が存在するとする根拠は不明であると主張する。

しかし,血管は,通常生体内で屈曲して存在するものであるため,当該血管に挿入されたガイディングカテーテルも同様に屈曲した状態で血管内に配されることとなる。そして,当該ガイディングカテーテルに吸引カテーテルを挿入する場合は,吸引カテーテルを操作する術者が加えた力を先端に十分伝える観点から,基端側シャフトの少なくとも基端側の部分は,ある程度の曲げ弾性率を有する,すなわち,ある程度の硬さのあるものが好ましい(訂正明細書の段落【0053】)。他方で,基端側シャフトの少なくとも基端側の部分であっても,血管内に挿入される部分は存在し,また,挿入されない部分は存在し得るものの,体外における吸引カテーテルの操作性や吸引時などの取扱いの容易性を考慮する必要がある。その場合,基端側シャフトの少なくとも基端側の部分が,ある程度の柔軟性をも備えておく必要があることは,当業者が訂正明細書,図面,技術常識を考慮すれば容易に理解できることである。

したがって,基端側シャフトの少なくとも基端側の部分には,ある程度の硬さと柔軟性とが必要であり,その曲げ弾性率には自ずと上限値が存在することは,訂正明細書及び図面に接した当業者であれば容易に理解できることである。

(3)  取消事由3に対し

ア 本件発明1の「ストレート形状」が本件発明5との関係で不明瞭とする点につき

原告は,訂正明細書にて「テーパー形状」及び「スプリングワイヤ」の両方と区別して「ストレート形状」が定義されていること等からすると,本件発明1記載の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」は含まれないはずであり,本件発明1の従属項である本件発明5において「ストレート形状」の一部として「スプリングワイヤ」が含まれるとするのは訂正明細書の定義と明らかに矛盾すると主張する。

しかし,「ストレート」の一般的定義,カテーテルのガイドワイヤの周知技術(甲23~甲25)並びに訂正明細書及び図面の記載を総合すると,本件発明1のストレート形状のコアワイヤは,「まっすぐな形状のコアワイヤであって,まっすぐな形状のスプリングワイヤや,まっすぐな形状のスプリングワイヤの内部にコア線を有するもの,まっすぐな形状のコアワイヤの表面に各種の切り込みを付与する等の加工を施したものを含み,テーパー形状のコアワイヤは含まない」ことは明らかである。

イ 本件発明1の「ストレート形状」が本件発明6との関係で不明瞭とする点につき

原告は,ストレート形状との記載を含む本件発明1と本件発明6との関係につき,訂正明細書の定義からすると,本件発明1記載の「ストレート形状」には「スプリング形状」及び「テーパー形状」は含まれないはずであると主張する。

しかし,本件発明1のストレート形状のコアワイヤの内容は,前記アのとおりであって,本件発明6において「ストレート形状」の一部としてコアワイヤの少なくとも一部が先端側ほど柔軟である形状が含まれるとしても,何ら矛盾はない。

(4)  取消事由4に対し

ア 相違点1の認定及び判断の誤りにつき

(ア) 甲1には,原告指摘の9欄32行~38行及び10欄31行~41行の記載はあるものの,例えば訂正明細書の実施例1に示す具体例のようなメインシャフトの構成については明示されていない。

(イ) 原告は,「バルーンカテーテルにおける周知技術が吸引カテーテルの周知技術となり得るかという問題があるが,いずれもカテーテルの分野として共通するため,上記周知技術は吸引カテーテルの周知技術となり得るもので,これは被告自身が認めている」と主張し,甲9,甲11,甲17記載のバルーンカテーテルについての特定の記載内容が周知技術であるとし,被告が審判段階で提出した甲25(特開2001-70252号公報)はバルーンカテーテルに適用されるガイドワイヤの内容を示す文献であり,被告が甲25の記載を利用して主張していることが,「バルーンカテーテルと吸引カテーテルとが,技術分野(カテーテル)を共通にすることを前提としている」旨主張する。

しかし,バルーンカテーテルと吸引カテーテルとは,用途,機能,各カテーテルを使用する背景事情などは全く異なるものであって,これらの前提条件を考慮すれば,バルーンカテーテルの技術事項が吸引カテーテルの技術事項とはならないことは明らかである。

また,被告が,バルーンカテーテルの周知技術が吸引カテーテルの周知技術となり得ることを認めた事実はない。被告が審判時において提出した甲23ないし甲25は,「ストレート」との用語につき,ガイドワイヤやコアワイヤなどの医療用のワイヤにおける一般的な用語の使用方法を示すために用いたものであり,甲25は,経皮的に体内に挿入して体内温度を測定する医療用ガイドワイヤに関するものである(段落【0001】)。そして,ガイドワイヤやコアワイヤなどの医療用のワイヤにおける一般的な用語の使用方法を示すに際して,バルーンカテーテルと吸引カテーテルとが技術分野を共通にするか否かは全く関係がない。

以上のように,被告が甲25を審判時に提出したからといって,これが,バルーンカテーテルの周知技術が吸引カテーテルの周知技術となり得ることを示すものでもなく,まして,当該事項を被告が認めたことを示すものでもない。

また,バルーンカテーテルと吸引カテーテルにおける前記の前提条件を全く考慮せずに,甲9,甲11,甲17記載のバルーンカテーテルの技術事項が吸引カテーテルの技術事項となり得るものでもない。

(ウ) 小括

前記(ア)のとおり,甲1には,訂正明細書の実施例1に示す具体例のようなメインシャフトの構成については明示されていない。

また,前記(イ)のとおり,原告の主張には明らかな誤りが含まれる。いずれにしても,後記イ,ウのとおり,審決における相違点2の判断に誤りがない以上,相違点1についての審決の判断の是非にかかわらず,本件発明1の容易想到性に関する審決の判断に誤りはない。

イ 相違点2のうち「吸引ルーメンの内部に脱着可能なストレート形状のコアワイヤを有し」との構成及び「吸引ルーメンの内部に前記コアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,前記コアワイヤが取り出され,前記吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される」との構成の容易想到性につき

(ア) 原告は,甲2~甲8及び甲18~甲20によれば,カテーテルという技術分野において,コアワイヤに対応する部材をカテーテルに対して挿入させて設けるとともに,それを着脱式とすることが周知技術であることが示され,さらにこの周知技術はカテーテルという技術分野に含まれる様々な種類のカテーテルにおいて採用されていることが容易に理解できる上,甲1には,吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという課題が記載され,同課題は,甲2~甲4,甲7,甲8,甲10,甲11,甲17~甲20にも記載されており,このように課題が共通するため,甲1発明に対し,甲2~甲4,甲7,甲8,甲18,甲19に記載された「コアワイヤに対応する部材を着脱式に設ける」という構成を適用する上での動機付けは存在する旨主張する。

(イ) 甲2~甲8,甲10,甲11,甲17~甲20,甲35,甲36につき

甲2記載の発明は,注入カテーテルであって,吸引するものではなく,また,ガイドワイヤを用いてカテーテルを目的部位に進ませる際の問題点を解決することを目的として(3頁左上欄17行~24行),ガイドワイヤを用いず「血液の流れによって血管内を目標部位まで静かに誘導される」(5頁右上欄4行~5行)ものである。

また,甲3記載の発明は,極めて扁平なガイドワイヤの形態で圧力波の滑らかな進行を可能とする血管内圧力測定用の医療機器である(段落【0009】)。

そして,甲4記載の発明は,金属針12が留置されたままで挿入される「catheter placement assembly」(カテーテル挿入装置)である。

また,審決認定のとおり,甲2~甲4には,流体が流通することとなるルーメン(注入カテーテル100,シャフト1,カテーテルチューブ24)内にコアワイヤに対応する部材(スタイレット208,ワイヤ13,補強材36)を設けることについて記載されているものの,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルについては記載されていない。

このほか,甲5,甲6には,審決認定のとおり,「カテーテル」,「予備成形可能なカテーテル」において,コアワイヤに対応するスタイレットによりカテーテルに形状を付与することは記載されているものの,カテーテルの耐キンク性を向上させることについては記載されていない。

また,甲7,甲8には,審決認定のとおり,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルについては記載されていない。また,甲8記載のカテーテルは,特に,胃,腸に挿入する際に使用されるものであるため,ガイディングカテーテルを介して血管内に挿入する必要がある吸引カテーテルとは,その要求される機能は全く異なるものである(甲29,19頁6行~20行)。なお,甲7記載のバルーンカテーテルも,食道,胃に挿入されるものであり,ガイディングカテーテルを介して血管内に挿入する必要がある吸引カテーテルとは,その要求される機能は全く異なるものである。

また,甲10,甲11,甲17~甲20には,通過性及び耐キンク性を向上させるためのコアワイヤに相当する部材は記載されているものの,バルーンカテーテルしか記載されておらず,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルについては全く記載されていない。

そして,バルーンカテーテルにおいてバルーン膨張に要する時間は,血栓などの多くの塊を含む血液を吸引する時間に比べて極めて短く,仮にバルーン膨張用のルーメン内にコアワイヤを配したとしても,それによる影響は非常に小さいため,バルーン拡張用のルーメン内に常時,又は着脱可能にコアワイヤを配したとしても,術者や患者への影響は小さいものといえる。したがって,バルーンカテーテルの場合であれば,緊急性を考慮しても,コアワイヤをバルーン膨張用のルーメン内に配することは許容される事情が存在したといえる。

これに対して,血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルの場合は,バルーンカテーテルの場合に比べてその処置に要する時間が極めて長くなる可能性が高く,緊急性の観点から,一刻も早く吸引操作を行いたいという事情があった。また,吸引カテーテルの場合は,作動圧は最大でも1気圧の陰圧であり,しかも,塊を含む血液が通過するものであるため,吸引ルーメン内はできる限り大きく確保しておく必要があるとするのが当業者の一般的な考え方であった。

したがって,バルーンカテーテルのバルーン膨張用のルーメンに,コアワイヤに相当する部材を固定式又は着脱式に設けることが,一般に行われているとしても,血管用の吸引カテーテルの吸引ルーメンに,血栓吸引の効率化とは直接的関係が希薄なコアワイヤに相当する部材を設けることは,当業者が全く想定していなかったことである。

さらに,甲10,甲11,甲17~甲20記載のバルーンカテーテルにおいてワイヤが配されているのは,ワイヤ専用のルーメンか,バルーン膨張流体を注入するためのルーメンであって,直接血管内に連通していないルーメンである。このように,ルーメン内を通過する流体が全く異なる上,流体を注入してバルーンを膨張・収縮させる場合と血液を吸引する場合とでは全く事情が異なり,ルーメン内にワイヤを配する困難性はバルーンカテーテルと吸引カテーテルとでは全く異なるのである。

以上のように,甲10,甲11,甲17~甲20のバルーンカテーテルにおいて,通過性及び耐キンク性を向上させるためのコアワイヤに相当する部材を設けることが記載されているとしても,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルについては全く記載されておらず,しかも,ガイディングカテーテルを使用する必要があるような部位の血管内から物質が吸引除去される吸引カテーテルにおいては,吸引ルーメンにコアワイヤに相当する部材を設けることは,当業者には想定外のことであったといえる。

なお,甲35(特表2002-513653号公報)には,甲36(米国特許第5476450号明細書)が援用されているとしても,甲35に記載されている胃の幽門を通って十二指腸の中にまで進展するためのカテーテルの構成の一つであるセンサ及び外部磁石などを,血管系で用いるカテーテルに適用しても,その目的の一つであるX線などを用いることなく使用することは実質的にはほとんど不可能であり,しかも,血管系のカテーテルの誘導において一般的に使用するガイドワイヤを使用する以上,あえてカテーテルの先端部にセンサなどを配する必要がない。したがって,センサが配されたスタイレットを甲36記載の血管系のカテーテルに適用することもないといえる。

また,甲36記載の発明では,図1,2に示される単一のルーメンしか有しない構成の場合は,ガイドワイヤ24,68はそのルーメン内に配されてはいるものの,吸引用ルーメン(第2ルーメン246)の他にガイドワイヤ用ルーメン(第1ルーメン244)を設けた吸引用のカテーテルにおいては,吸引用ルーメンには全く何も配されていない。むしろ,このように構成することで,「薬剤の輸送と塞栓物の吸引とを同時に行うことができること」,「一連の操作において吸引用組立体の分解が不要であり,処置の遅れによる罹患及び死亡の危険性がなく,迅速な処置が可能であること」との利点が得られるものである。

したがって,甲35の単一のルーメンしか有しない構成のカテーテルのルーメン内にスタイレットが配されているとしても,甲36記載の単一のルーメンしか有しない構成のカテーテルであれば別段,吸引用ルーメン(第2ルーメン246)の他にガイドワイヤ用ルーメン(第1ルーメン244)を別途設けた吸引用のカテーテルにおいて,その吸引用のルーメン内に甲35記載のスタイレットを配することを示唆するものではない。

(ウ) 甲1につき

甲1の2欄57行~62行には,原告指摘の記載はあるものの,当該部分には吸引圧力に耐えうるだけの剛性がカテーテルに要求されることが記載され,それに続く2欄62行~64行には,「A supportmandrel may be incorporated into the catheter to provide additionalstrength.」(サポートマンドレルは,追加的な強度を付与するために,カテーテル内に配されてもよい。)と記載されている(なお,原告の提出した対応箇所の翻訳文には「additional」の翻訳が欠落しており,誤訳である。)。

以上の記載からすると,甲1発明のカテーテルは,その構成のうちのサポートマンドレルを除く構成について,その長さ方向に沿って柔軟性が変化することで,損傷を与えることなく患者の血管系を通過するのに十分な柔軟性と,カテーテルを適切に配置するために要求される軸方向の押しに耐え,かつ,吸引圧力に耐えるだけの剛性とを有するものであること,及び,サポートマンドレルは追加的な補強手段としてカテーテル内に配してもよいとの技術的事項が把握される。

したがって,甲1には,カテーテルの血管内の通過性や,軸方向の押しに対する剛性に関する記載はあるものの,それらに対応するための構成は,マンドレルを含まない構成により達成するのが原則的なものであると理解することができる。

また,原告の指摘する甲1の12欄11行~13行,17行~18行の記載からすれば,当該構成における甲1の吸引カテーテルのルーメンには,その血管内への挿入に際して予め「therapy catheter」,すなわち,血管内を治療するためのカテーテルなどのデバイスが配されるように構成されている。

このような構成の場合,治療用として用いられることのないサポートマンドレルをルーメン内に配することは,全く想定されないことである。

なお,原告は,甲1の12欄11行~13行,17行~18行の記載を参照して,「吸引カテーテルを使用して血栓等の吸引を行う場合には,吸引カテーテルの吸引効率を向上させる目的(課題)が記載されている。また,この課題は,吸引カテーテルにおいて一義的に導き出すことができる課題である。」と主張する。

しかし,甲1の上記記載,すなわち,予め治療用のカテーテルを吸引カテーテルのルーメン内に配し,その後取り除くという記載から,いかなる理由で,吸引カテーテルの吸引効率を向上させる目的が記載されているといえるのか,その論理が不明である。

甲1の上記記載は,前述のとおり,吸引カテーテルのルーメン内に予め治療用のカテーテルなどのデバイスを配し,それを取り除いた後,吸引を行うことを示すにすぎず,このような構成は,吸引カテーテルと治療用のカテーテルを同時に患者内に挿入するために採用されるものである(12欄15行~17行)。

そうすると,同記載を参照した当業者は,吸引カテーテルと治療用のカテーテルを同時に患者の体内に挿入するためには,予め治療用のカテーテルを吸引カテーテルのルーメン内に配して,それらを同時に患者の体内に挿入すればよいと認識するだけであり,予め治療用のカテーテルを吸引カテーテルのルーメン内に配するため,そのルーメンにサポートマンドレルを配することはないと認識するのが常識的である。

このように,原告が指摘する甲1の上記記載には,吸引カテーテルを使用して血栓等の吸引を行う場合には,吸引カテーテルの吸引効率を向上させる目的(課題)が記載されているとはいえず,むしろ,吸引カテーテルにおいてそのルーメン内にサポートマンドレルを配することはないことを一義的に示すものであるといえる。

加えて,甲1発明は,血管の大きさによらず,迅速な吸引と使用の容易のために設計されたものであり(甲1の2欄42行~49行),具体例では,ガイドワイヤルーメンが先端部のみ存在する場合(図5の場合)及びカテーテルの全長にわたり存在する場合(例えば図13の場合)においても,吸引ルーメン42はより効果的な吸引を行うために全く妨害されないようにされている点が好適であるとされている(甲1の9欄10行~16行)。そして,甲1の図14に示すように,サポートマンドレル(216a,216b)は,ルーメン(212,214)の内部ではなく外側に設けられており,サポートマンドレルが使用されている具体例は,これ以外には記載されていない。

以上のような甲1の記載を総合すると,甲1発明は,血管の大きさによらず,迅速な吸引と使用の容易のために,吸引ルーメンはより効果的な吸引を行うために全く妨害されないようにされている構成を有するものであり,その実施態様は,サポートマンドレルを用いない構成により,損傷を与えることなく患者の血管系を通過できるのに十分な柔軟性と,カテーテルを適切に配置するために要求される軸方向の押しに耐え,かつ,吸引圧力に耐えるだけの剛性を付与するものである。そして,治療に供さないサポートマンドレルにより補強するとしても,吸引ルーメンではなく,その外側に配することで,迅速な吸引と使用の容易を実現すべく,吸引ルーメンはより効果的な吸引を行うために全く妨害されないようにするものであるといえる。

しかも,治療後に迅速な吸引を行うべく,治療用カテーテルを吸引カテーテルと同時に挿入する構成が想定されていることからして,治療に供さないサポートマンドレルを吸引ルーメン内に配さないことを示すものであると同時に,血管に用いる吸引カテーテルでは,その迅速な挿入と吸引が重要であったことを示すものでもある。

そして,前記(イ)のとおり,血管用の吸引カテーテルにおいては,緊急時の迅速な吸引処置が要求されていたところ,血液の吸引処置は特にバルーンカテーテルによる処置に比べて時間を要するという事情が存在した。このような事情は,甲1の迅速な吸引と使用の容易のために,吸引ルーメンはより効果的な吸引を行うために全く妨害されないようにされているという記載や,治療用のカテーテルを予め配置しておくという記載と符合するものであるといえる。

(エ) 甲1と甲2~甲8,甲10,甲11,甲17~甲20の組合せにつき

以上のように,甲1発明は,吸引ルーメン内にコアワイヤを設けない点に意義を有するものと認められ,甲2~甲8,甲10,甲11,甲17~甲20に原告の主張する記載があるとしても,吸引ルーメン内にコアワイヤを有しない甲1発明に,甲2~甲8,甲10,甲11,甲17~甲20に部分的に記載された事項を結合して,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を構成する「吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,コアワイヤが取り出され,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される」ことを示唆する記載はない。

なお,原告は,甲23~甲25について縷々主張するが,甲23及び甲24は医療用ガイドワイヤに関するものであり,相違点2の構成について記載も示唆もなく,これらを考慮しても審決の判断に影響はない。

ウ 相違点2のうち構成Fの容易想到性につき

(ア) 原告は,構成Fにつき,コアワイヤの最大外径や吸引ルーメンの最小内径を必要に応じて適宜調整することは当業者であれば当然行うことであって,前提となる課題(通過性及び耐キンク性の向上)は周知であり,構成Fを採用したことによる効果も異質とはいえず,構成Fに係る数値範囲は臨界的意義を有しないから,構成Fを採用することは数値範囲の最適化にすぎず,当業者であれば容易に想到し得る旨主張する。

また,原告は,構成Fに係る数値範囲に含まれる構成は,甲8~甲11,甲13に記載されているとおり,カテーテルに剛性を付与するためにコアワイヤのような部材を設けた場合において,当業者であれば自ずと採用する数値であり,甲1には,吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという課題が記載されており,課題が共通する点で,甲1発明に対してコアワイヤのような部材を着脱式に設けた場合において,甲8,甲10及び甲11記載の数値を適用する上での動機付けは存在するとも主張する。

(イ) 甲1発明と甲8~甲11,甲13の組合せについて

前記イ(イ)のとおり,甲8記載のカテーテルは,胃・腸へ挿入するものであって,血管内に挿入するものではなく,カテーテルに要求される機能・構造が本来的に異なるものである。

そして,甲9~甲11は,バルーンカテーテルに関するものであって,「吸引ルーメンの内部に前記コアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,前記コアワイヤが取り出され,前記吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される」ことを示唆する記載は存在しない。また,前述のとおり,バルーンカテーテルにコアワイヤに相当する部材を設けることは容易であっても,血管用の吸引カテーテルの場合に,当該部材を設けることは,当業者が全く想定していなかったことである。

さらに,甲13(特開2003-284780号公報)は,特に鎖骨下穿刺法により体内に挿入され,カテーテルの先端が上大静脈へ留置される高カロリー輸液療法に用いられるスタイレット付きカテーテルに関するものであって,「吸引ルーメンの内部に前記コアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,前記コアワイヤが取り出され,前記吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される」ことを示唆する記載は存在しない。また,甲13記載のカテーテルは,上記のように鎖骨下穿刺法により体内に挿入されるものであって,ガイディングカテーテルを用いることを要するカテーテルとは機能・構造が異なる。

以上のように,吸引ルーメン内にコアワイヤを有しない甲1発明に,甲2~甲8,甲10,甲11,甲17のほか,甲18~甲20に部分的に記載された事項を結合して,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を構成する「吸引ルーメンの内部に前記コアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,前記コアワイヤが取り出され,前記吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去される」ことを示唆する記載は存在しない。さらに,甲9~甲11記載の「バルーンカテーテル」及び「バルーンカテーテルを用いた生体器官拡張器具」に係る前提構成を抜きにしてルーメンとそれに挿入される部材との径の比に係る数値のみを適用することを示唆する記載はなく,甲13についても同様である。

また,本件発明1の発明特定事項の一部である「前記コアワイヤの最大外径をR1,前記ハブより先端側の吸引ルーメンの最小内径をR2とする場合に,0.45≦R1/R2≦0.65であり,前記吸引ルーメンの内部に前記コアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,前記コアワイヤが取り出され,前記吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去されるものであること」は数値限定を含むが,同数値限定は二次的なものである。

特に,本件発明1は,例えば吸引ルーメン内にコアワイヤを配さないことに意義を有する甲1記載の吸引カテーテルにおいて,その吸引ルーメン内にコアワイヤを配するという,当業者が全く想定していなかった構成を採用した結果,屈曲した血管にも十分追随していけるだけの柔軟性を実現すると同時に,体外からガイディングカテーテルに挿入させる際のカテーテルシャフトのキンクの可能性を低減させ,良好な操作性をもたらし,かえって迅速な吸引操作が可能になるという当業者が予測していなかった効果が得られることを見出したものである。

そして,本件発明1に係る吸引カテーテルを製品化し,上市したところ,術者の好評を博し,当初普及していなかった血管用の吸引カテーテルが,現在広く普及するに至ったものである。これは,本件発明1に係る製品が世に出る前は,血管用の吸引カテーテルにおいてコアワイヤを用いることが全く想定されておらず,コアワイヤを用いることで優れた効果が奏されることが知られるに至ったことを示唆するものといえる。

以上より,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は,甲1発明及び甲2~甲20に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,原告の上記主張はいずれも理由がない。

エ 小括

以上のとおり,本件発明1は,甲1発明及び甲2~甲20の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,相違点2に関する原告の主張はいずれも理由がない。

したがって,本件発明1を引用し,さらにその発明特定事項を限定した本件発明2~本件発明15も,甲1発明,甲3発明,甲13発明及び甲15発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことになり,取消事由4に関する原告の主張はいずれも理由がない。

(5)  取消事由5について

原告は,訂正明細書記載の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」及び「テーパー形状」は含まれないはずであり,請求項1において「ストレート形状の」との限定を付加しながら,その従属項として本件発明5及び本件発明6が存在する状態とする本件訂正は,願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものではないと主張する。

しかし,前記(3)のとおり,本件発明のストレート形状のコアワイヤは,「まっすぐな形状のコアワイヤであって,まっすぐな形状のスプリングワイヤや,まっすぐな形状のスプリングワイヤの内部にコア線を有するもの,まっすぐな形状のコアワイヤの表面に各種の切り込みを付与する等の加工を施したものを含み,テーパー形状のコアワイヤは含まない」から,ストレート形状のコアワイヤにはスプリングワイヤが含まれ,スプリングワイヤは先端側ほど柔軟な部分を有するものである(段落【0044】)。

よって,原告の上記主張は,前提を欠き,失当である。

第4当裁判所の判断

1  請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2  記載要件違反及び容易想到性の有無

審決は,本件特許の出願書類には記載要件違反(実施可能要件違反,サポート要件違反及び明確性要件違反)はなく,また,本件発明1は甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるものではなく,本件発明2ないし本件発明15も,甲1発明,甲3発明,甲13発明,甲15発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるものではない等とし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

(1)  本件各発明の意義

ア 訂正明細書(本件訂正後のもの,甲27参照)には,以下の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

前記第3,1(2)のとおり。

(イ) 発明の詳細な説明

・ 【技術分野】

「本発明は,経皮経管的に体内に導入され,体内に存在する物質を体外へ吸引除去するカテーテルに関し,特に体内の血管に生成した血栓や血管内に遊離したアテローマなどのデブリス(異物)を,カテーテル基端側から加える陰圧により体外に吸引除去する吸引カテーテルに関する。」(段落【0001】)

・ 【背景技術】

「一方で,手元側から陰圧を加えることによって血栓を体外に吸引除去する簡単な構造のカテーテルも,現在臨床でその効果が確認されつつある。しかしながら,吸引するための吸引ルーメンの断面積を十分確保できず,吸引能力の低いものしか得られていない。この理由は,カテーテルが血管内の目的とする部位までガイドワイヤに沿って搬送される構造であることに起因する。すなわち,ガイドワイヤに追随するガイドワイヤルーメンを吸引ルーメンの内部に設けているために十分な吸引ルーメンを確保できないのである。」(段落【0008】)

・ 「また,ガイドワイヤルーメンを吸引ルーメンの外側に有する構造の場合,必然的に吸引カテーテルの外径は大きくなる。従って,併用するガイディングカテーテルは内径を確保するために外径が大きなものとなり,患者の負担が格段に大きくなってしまうという問題が生じる。」(段落【0009】)

・ 「加えて,これらのガイドワイヤルーメンは通常吸引カテーテルの最先端から30cm程度の長さを有しているためカテーテルシャフト全体が硬くなってしまい,屈曲した血管内への挿入性が悪いという問題点も生じている。」(段落【0010】)

・ 【発明の開示】

「これらの状況を鑑み,本発明が解決しようとするところは,吸引ルーメンを最大限確保し,かつガイドワイヤに追随して目的部位まで搬送でき,屈曲した血管にも十分追随していけるだけの柔軟性を実現させると同時に,体外からガイディングカテーテルに挿入させる際のカテーテルシャフトのキンクの可能性を低減させ,良好な操作性を実現可能な吸引カテーテルを提供することにある。」(段落【0012】)

・ 【発明を実施するための最良の形態】

「以下に本発明にかかる吸引カテーテルの実施形態について図を用いて詳細に説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。」(段落【0031】)

・ 「・・・コアワイヤ101を吸引ルーメン100の内部に設けることで,吸引カテーテルを体外からガイディングカテーテルに挿入させる際のカテーテルシャフトのキンクの可能性を効果的に低減させ,良好な操作性を実現することができる。また,ガイドワイヤルーメン110を有するため,ガイドワイヤに沿って屈曲した部位へも容易に吸引カテーテルを位置させることができる。」(段落【0032】)

・ 「・・・しかしながら,本発明においてはコアワイヤ101を脱着可能に設けているため,吸引時には図3から図4に典型例を示したようにコアワイヤ101を取り外すことが可能であり,従って十分な吸引量が容易に実現される。・・・」(段落【0033】)

・ 「コアワイヤ101の最大外径109をR1,吸引ルーメン100の最小直径108をR2とする場合,R1/R2は0.3以上,0.9以下であることが好ましい。R1/R2が0.3よりも小さい場合,吸引ルーメン100に対してコアワイヤ101が細すぎるため,コアワイヤ101による挿入時の折れ防止効果は十分発揮されない。R1/R2が0.9よりも大きい場合は吸引カテーテル全体が硬くなり,屈曲した部位を通過させることが極めて困難となる。R1/R2は0.4以上,0.7以下であることがより好ましい。」(段落【0041】)

・ 「コアワイヤ101の構造,形状は本発明の効果を何ら制限しない。典型例は図5に示すストレート形状である。屈曲した部位への通過性をより向上させる観点からは,図6に示すように金属素線を巻回したスプリングワイヤであることが好ましい。・・・」(段落【0042】)

・ 「コアワイヤ101は先端側ほど柔軟であることが好ましい。・・・このような柔軟性を付与する手段としては,・・・コアワイヤ101をスプリングワイヤやテーパー形状を呈するワイヤとすることが挙げられる。他の手段としてはスプリングワイヤとテーパー形状の組み合わせやワイヤ表面に各種の切り込みを付与する等の加工が挙げられる。」(段落【0044】)

・ 「・・・L2/L1は0.5以上であることが好ましい。L2/L1が0.5よりも小さい場合,ガイドワイヤシャフト112と先端側シャフト103の接合部の面積が小さくなり,ガイドワイヤシャフト112が先端側シャフト103から剥離する危険性が高くなる。」(段落【0046】)

・ 「また,基端側シャフト104の少なくとも基端側は曲げ弾性率が1GPa以上の高弾性材料からなることが好ましい。このような高弾性材料からなるシャフトを用いることで,術者が加えた吸引カテーテルを操作する力を先端に十分に伝えることが可能である。つまり,押す力,引く力に加えて,回転させる力を充分に先端に伝達させることが容易に実現できる。・・・」(段落【0053】)

・ 「(実施例1)ポリアミド酸のワニスを用いたディッピング成形により外径1.30mm,内径1.10mm,長さ1100mmのポリイミドチューブを作製し,基端側シャフトとした。低密度ポリエチレン(LF480M,日本ポリケム株式会社)を用いて押出成形により外径1.30mm,内径1.00mm,長さ300mmのチューブを作製し,先端側シャフトとした。・・・」(段落【0060】)

・ 「(参考例10)

SUS304合金から作製した外径1.05mmのストレート形状のワイヤをコアワイヤとした以外は実施例1と同様に作製した。」(段落【0072】)

・ 「表1中,耐キンク性の結果において,○は耐キンク性が良好なことを,△は耐キンク性があまり良くないことを,×は耐キンク性が悪いことを示す。また表1中,通過性の結果において,○は通過性が良好なことを,△は通過性があまり良くないことを,×は通過性が悪いことを示す。」(段落【0075】)

表1

基端側シャフト材質

コアワイヤ形状

コアワイヤ材質

R1[mm]

R1/R2

耐キンク性

通過性

実施例1

ポリイミド

ストレート

SUS304

0.605

0.55

実施例2

ポリイミド

ストレート

SUS304

0.715

0.65

実施例3

ポリイミド

ストレート

Ni-Ti合金

0.495

0.45

参考例4

ポリイミド

ストレート

SUS304

0.385

0.35

参考例5

ポリイミド

ストレート

Ni-Ti合金

0.880

0.80

参考例6

ポリイミド

テーパー形状

SUS304

0.605

0.55

実施例7

ポリイミド

スプリングワイヤ

SUS304

0.605

0.55

実施例8

編組チューブ

ストレート

SUS304

0.605

0.55

参考例9

ポリイミド

ストレート

SUS304

0.275

0.25

参考例10

ポリイミド

ストレート

SUS304

1.05

0.95

比較例1

ポリイミド

×

(段落【0076】)  ・ 【産業上の利用可能性】

「以上のごとく,本発明によれば,生体内から物質を吸引除去するための吸引カテーテルであって,前記カテーテルは物質を吸引除去するための吸引ルーメンを備え,前記吸引ルーメンは前記カテーテルの基端側に設けられたハブに連通し,前記吸引ルーメンの内部に脱着可能なコアワイヤを有することを特徴とする吸引カテーテルを容易に提供することが可能であり,屈曲した血管にも十分追随していけるだけの柔軟性を実現させると同時に,体外からガイディングカテーテルに挿入させる際のカテーテルシャフトのキンクの可能性を低減させ,良好な操作性をもたらす点で有用である。」(段落【0080】)

イ 上記記載によれば,本件各発明は吸引カテーテルに関するものであるが,吸引ルーメンを最大限確保し,かつガイドワイヤに追随して目的部位まで搬送でき,屈曲した血管にも十分追随していけるだけの柔軟性を実現させると同時に,体外からガイディングカテーテルに挿入させる際のカテーテルシャフトのキンクの可能性を低減させ,良好な操作性を実現可能な吸引カテーテルを提供することを課題とし,これを解決するために,特許請求の範囲記載の構成(特に,コアワイヤの最大外径R1と吸引ルーメンの最小内径R2との比につき,所定の数値範囲とすること)を採ることによって,上記課題を解決し,耐キンク性及び通過性の良好な吸引カテーテルを提供した発明であると認めることができる。

(2)  甲1発明の意義

ア 一方,甲1(訳文による。)には,以下の記載がある。

・ 【発明の分野】

「本発明は,患者の血管系から塞栓,血栓及びその他のタイプの破片を吸引するための吸引カテーテルに関するもので,器具は特に伏在静脈移植片,冠状動脈,及び類似の血管内部での吸引に最適なものである。」(1欄15行~20行)

・ 「カテーテルにはシャフトの長さ方向に変動する柔軟性が備わっており,損傷を起こすことなく患者の血管系内を通過できるよう十分に滑らかで柔軟であるが,カテーテルを適切な位置に据えるために必要な軸方向の押し出しに耐え,吸引圧力にも耐え得るだけの十分な剛性を備えている。」(2欄57行~62行)

・ 「本発明は,血管から塞栓,プラーク,血栓又は他の閉塞物を吸引するために利用される吸引カテーテル及びその使用方法を提供する。」(5欄21行~23行)

・ 「他に,単独の施術者で利用することができる吸引カテーテル30がFIG.5~FIG.7に示されている。カテーテル30はその基端にアダプタ32及び吸引ポート34を有している。オーバー・ザ・ワイヤータイプの吸引カテーテル10のように,単独の施術者により利用されるタイプの吸引カテーテル30は,先端38を有するような長い管状ボディ36から構成されている。」(8欄47行~52行)

・ 「・・・故に,一の好ましい形態として,吸引カテーテルの管状のボディは,管状ボディの基端側部分が管状ボディの先端側部分よりも低い柔軟性となるといった,その長さ方向に種々の剛性が付与されるように,ポリエチレンやペバックスといった合成樹脂により形成されている。」(9欄32行~38行)

・ 「他の形態として,管状のボディにおける種々の剛性は,基端側部分と先端側部分とを異なる剛性を有するような合成樹脂により作り出すことによって付与される。例えば,72Dペバックスよりなるインナーチューブの半分を,40Dペバックスよりなるアウターチューブに対して挿入するとともに,上記インナーチューブの残り半分を,72Dペバックスよりなるアウターチューブに対して挿入する。この結合部は,既に説明したように熱溶着される。40D/72Dペバックスの結合部は,72D/72Dペバックスの結合部の範囲よりも柔軟な管状のボディを生じさせる。」(10欄31行~41行)

イ 上記記載によれば,甲1発明は,血管から塞栓,プラーク,血栓又は他の閉塞物を吸引するために利用される吸引カテーテル及びその使用方法を提供する発明であると認められる。

(3)  周知例とされた文献の技術内容

ア 甲8(クリエートメディック株式会社「クリニー 医用シリコーン製品総合カタログ '87」1987年(昭和62年),15頁)には,シリコーンEDチューブの規格に関する以下の表が記載されている。

file_2.jpgYUD—-YVEDFA—-F BBARBFITI) UA | WERE im ee 77, RES oh im) (02-3206, 6Fr (53- Sa 02-3207 | 7Fe | 23-13 "4 gq! ISEC teso0s| Bee | D713 500! tbe (02-3208 Fr 3.0-1.8 1 1 (2Fr nin, 40. 600.600 1000. 1200 AYO aoe Rim) SB te oe [Ao 51 it 0.6—1.510 are 06-1510 “seve AR: Stvh/ i: BEAイ 甲10(特開2002-102359号公報,発明の名称「生体器官拡張用器具」,公開日 平成14年4月9日)には,以下の記載がある。

・ 「・・・剛性付与体33は,シャフトチューブ32の可撓性をあまり低下させることなく,屈曲部位でのシャフトチューブ32の極度の折れ曲がり,シャフトチューブ32の血管内での蛇行を防止する。剛性付与体33は,線状体により形成されていることが好ましい。線状体としては,金属線であることが好ましく,線径0.05~1.5mm,好ましくは0.1~1.0mmのステンレス鋼等の弾性金属,超弾性合金などであり,特に好ましくは,ばね用高張力ステンレス鋼,超弾性合金線である。」(段落【0020】)

・ 「・・・シャフトチューブ32としては,外径が0.5~1.5mm,好ましくは0.6~1.3mmであり,内径が0.3~1.4mm,好ましくは0.5~1.2mmである。・・・」(段落【0022】)

ウ 甲13(特開2003-284780号公報,発明の名称「スタイレット付きカテーテル」,公開日 平成15年10月7日)には,以下の記載がある。

・ 【実施例】

「本発明の一実施例に係わるスタイレット付きカテーテルは,可撓性合成樹脂である熱可塑性ポリウレタン(ポリカーボネート系ポリウレタン,ショアー硬度98A)からなる外径φ1.5mm,内径φ1.0mm,カテーテル有効長300mmのチューブ状のカテーテルと,該カテーテルの基端部に固着されたポリプロピレン樹脂製のカテーテルコネクタと,該カテーテルコネクタの内腔の中心部に,一端が固定され他端がカテーテルの内腔を挿通させてカテーテルの先端手前2cmで終わるように設けられた,外形φ0.6mmのステンレス製スプリングワイヤからなるスタイレットと,該スタイレットの基端部に固着されたポリプロピレン製のスタイレットコネクタとからなっている。・・・」(段落【0035】)

エ 甲9(特開2001-29449号公報,発明の名称「バルーンカテーテル用バルーンおよびその製造方法」,公開日 平成13年2月6日)には,以下の記載がある。

・ 「本実施形態では,図1(C)に示すように,第2外チューブ部材6bの横断面外形形状は,Y軸方向に細長い楕円形状を有し,外チューブ部材6の断面で,Y軸と垂直なX軸方向のカテーテルチューブの最大断面幅xmと,Y軸方向の最大断面幅ymとの比(xm/ym)が,0.8~0.1の範囲にあり,断面半円形の第3ルーメン24および断面円形の第4ルーメン26が,前記Y軸方向に沿って分離して形成してある。」(段落【0043】)」

・ 「第3ルーメン24の半円形の横断面積は,・・・好ましくは0.08~0.20mm²である。また,第4ルーメン26の円形の横断面積は,・・・好ましくは0.05~0.5mm²,さらに好ましくは0.1~0.2mm²である。」(段落【0044】)

・ 「・・・補強ロッド28の最大外径は,第1外チューブ部材6aのルーメン10を塞がないように決定され,特に限定されないが,好ましくは0.3~0.6mmである。」(段落【0057】)

・ 【図1】

file_3.jpgオ 甲11(特開2002-291900号公報,発明の名称「医療器具およびその製造方法」,公開日 平成14年10月8日)には,以下の記載がある。

・ 「本実施形態では,図2(B)に示すように,第2外チューブ部材6bの横断面外形形状は,Y軸方向に細長い楕円形状を有し,外チューブ部材6bの断面で,Y軸と垂直なX軸方向のカテーテルチューブの最大断面幅xmと,Y軸方向の最大断面幅ymとの比(xm/ym)が,0.8~0.1の範囲にあり,断面半円形の第3ルーメン24および断面円形の第4ルーメン26が,前記Y軸方向に沿って分離して形成してある。」(段落【0050】)

・ 「第3ルーメン24の半円形の横断面積は,・・・好ましくは0.08~0.20mm²である。また,第4ルーメン26の円形の横断面積は,内部に補強ロッド28が挿入されるために十分な面積であれば良く,特に限定されないが,好ましくは0.05~0.5mm²,さらに好ましくは0.1~0.2mm²である。」(段落【0051】)

・ 「なお,補強ロッド28の最大外径は,・・・好ましくは0.3~0.6mmである。・・・」(段落【0056】)

・ 【図2】

file_4.jpgy 0: tc) {B) tA Ym(4)  取消事由の主張に対する判断

ア 取消事由1(特許法36条6項1号違反及び同条4項1号違反[無効理由1])の有無について

(ア) 本件発明1の構成Fの具体例の記載がない点につき

a 原告は,本件特許の基礎出願に係る明細書(甲34)の記載等からすると,参考例10の記載を根拠としただけでは,訂正明細書の段落【0060】の「1.00mm」という記載につき,「1.10mm」の誤記と解釈することはできないと主張する。

しかし,審決は,参考例10のみならず,訂正明細書の表1から把握される各実施例及び参考例におけるR2の値が,全てほぼ1.1mmとなるとした上で,訂正明細書の実施例,参考例,表1の記載を総合して,先端側シャフトの内径に関する訂正明細書の段落【0060】の「1.00mm」が「1.10mm」の誤記であると判断している。

そして,訂正明細書の表1の「R1」及び「R1/R2」の値からR2を求めると,いずれも約1.10mmとなるから,訂正明細書の段落【0060】における先端側シャフトの内径「1.00mm」は「1.10mm」の誤記であると解するのが合理的であり,参考例10のR1(外径1.05)の記載が誤記であるとする余地はない。

以上からすれば,訂正明細書には,構成Fについての具体例が記載されているといえる。

また,訂正明細書の記載不備の有無を判断する上で,優先権主張基礎出願の明細書の記載内容は関係がなく,この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。

b 原告は,R2が1.10mmとなるメインシャフトを得るためには,「基端側シャフトと先端側シャフトの内径を同一にするのがよい」旨の被告の主張を採用する必要があるところ,同主張は,訂正明細書の段落【0060】,図1~4,段落【0036】の記載や,明細書で「最小内径」という用語が一貫して用いられていることと矛盾する旨主張する。

しかし,訂正明細書の段落【0031】において,本件発明は,吸引カテーテルの実施形態についての図によって限定されるものではない旨記載されているように,図はあくまで例示であって,実施例についての記載も同様に例示であると解されることに加え,明細書において「最小内径」という用語が一貫して用いられているとしても,表1の「R1」及び「R1/R2」の値から算出されるR2の値がいずれも約1.10mmとなることは事実であるから,いずれにしても原告の上記主張は理由がない。

(イ) 本件発明1の構成Fに係る数値範囲全てにおいて所望の効果が得られるかにつき

a 原告は,訂正明細書に記載されている基端側シャフト,コアワイヤ,吸引カテーテルに求められている機能を担保するために類似の特性を有するものが用いられるとしても,各種条件の変更に伴って,訂正明細書に記載された所望の効果が得られる範囲は変化し得ると考えるのが普通であり,他の条件を変更したものについても一切具体例が示されておらず,コアワイヤにおいて最大外径になっている箇所と吸引ルーメンにおいて最小内径となっている箇所とがカテーテルの相当離れた位置関係にあっても構成Fに含まれることとなる旨主張する。

しかし,訂正明細書の表1,段落【0041】の記載等から,本件発明1の「0.45~0.65」の範囲は,良好な耐キンク性,通過性を発揮する好例とされる「0.4~0.7」よりもさらに狭い範囲を特定するものと解することができ,また,表1において,構成Fに係る数値範囲(0.45≦R1/R2≦0.65)では,耐キンク性及び通過性は,いずれも「○」(良好)になっており,上記数値範囲外では,耐キンク性及び通過性のいずれかが「△」(あまり良くない)となっているから,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて所望の効果が得られているといえ,シャフトの材質,コアワイヤの形状・材質等のその他の条件とは無関係に同効果が奏されるといえるから,原告の主張は理由がない。

なお,耐キンク性や通過性の評価における「○」や「△」が量的な評価ではなく主観的評価にすぎないとしても,これらは技術者によってなされた評価である以上,全く妥当性を欠くということはなく,この点に関する原告の主張は理由がない。

また,当業者であれば,原告が主張するような極端な構成を採ることは想定せず,吸引カテーテルが所望の効果を奏するように構成しようとするのが通常であり,この点に関する原告の主張は理由がない。

b 原告は,審決において,構成Fを根拠の一つとして本件発明1の進歩性を認めながら,他方で,記載不備に関する判断において,基端側シャフトなどの機能を考慮して当該機能を担保するために類似の特性を有するものを用いることができると判断しており,矛盾がある旨主張する。

しかし,本件発明1における構成Fについての容易想到性の判断基準と,構成Fについての特許法36条6項1号(サポート要件)・同条4項1号(実施可能要件)についての判断基準とは全く異なるものであるから,審決の上記判断は何ら矛盾するものではなく,原告の上記主張は理由がない。

(ウ) 本件発明8につき

原告は,実施例に記載されているのは「L2/L1」値が0.5であるときのみであり,0.5以外の場合の具体例は何ら示されていないから,実施可能要件違反やサポート要件違反である旨主張する。

しかし,本件発明8の「0.5≦L2/L1」につき,実施例において,L2/L1の値が0.5の場合しか記載されていないとしても,直ちにサポート要件違反又は実施可能要件違反になるとはいえない。

そして,前記(1)ア(イ)のとおり,訂正明細書には,「L2/L1は0.5以上であることが好ましい。L2/L1が0.5よりも小さい場合,ガイドワイヤシャフト112と先端側シャフト103の接合部の面積が小さくなり,ガイドワイヤシャフト112が先端側シャフト103から剥離する危険性が高くなる。」(段落【0046】)と記載されているから,本件発明8が発明の詳細な説明にサポートされているのは明らかであり,また,上記「L2/L1は0.5以上である」という記載から,ガイドワイヤシャフト112と先端側シャフト103の接合部の構造(ガイドワイヤシャフト112と先端側シャフト103の位置関係)は明確であり,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(エ) 小活

以上のとおり,本件発明1及び8に係る訂正明細書の記載に,原告が主張するような実施可能要件違反やサポート要件違反はなく,本件発明1を引用する他の発明についても同様であるから,原告主張の取消事由1は理由がない。

イ 取消事由2(特許法36条6項2号違反[本件発明1の「ストレート形状」についての判断は除く,無効理由2])の有無について

(ア) 本件発明1の「0.45≦R1/R2≦0.65」との記載では,R1,R2の各下限,上限が不明瞭であるとの点につき

a 原告は,吸引ルーメンの最小内径R2,コアワイヤの最大外径R1の各上限値及び下限値が不明であり,いずれにしても,構成Fに係る数値範囲の全てで訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係で,R1,R2の上限値及び下限値は不明であると主張する。

しかし,本件発明1の吸引カテーテルは,血管に挿入されるものであるから,吸引ルーメンの外径は,血管の太さに基づいて適宜選択されるものであるところ,本件発明1の吸引カテーテルの「R1」及び「R2」は,血管の太さに関係なく「0.45≦R1/R2≦0.65」の条件を満たすものであるから,本件発明1は十分に明確であり,本件発明1において,R1及びR2の上限値及び下限値が不明であるからといって,本件発明1が不明確であるとはいえない。

b そもそも,特許請求の範囲の明確性要件の判断は,特許請求の範囲の記載がそれ自体で明確であるかどうかに尽き,解決課題や作用効果いかんに左右されるものではないというべきである。

そして,前記ア(イ)aのとおり,本件発明1は,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて所望の効果が得られる上,前記aのとおり,本件発明1は十分に明確であり,R1及びR2の上限値及び下限値が不明であるからといって,本件発明1が不明確であるとはいえない。

(イ) 本件発明1において構成Fを備えることの技術的意義を理解できないとの点につき

原告は,取消事由1と同様に,本件発明1について構成Fを備えることの技術的意義を理解することができず,それにより本件発明1は明確ではない旨主張する。

しかし,前記ア(イ)aのとおり,本件発明1は,構成Fに係る数値範囲の全てにおいて所望の効果が得られるといえるし,前記(ア)aのとおり,本件発明1は十分に明確であるから,本件発明1において構成Fを備えることの技術的意義が理解できないとはいえず,本件発明1が不明確であるともいえない。

また,前記ア(ア)aのとおり,訂正明細書の記載不備の有無を判断する上で,優先権主張基礎出願の明細書の記載内容は関係がなく,この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。

(ウ) 本件発明8につき

原告は,本件発明8の構成として記載されているのは「0.5≦L2/L1」という記載だけであり,L1,L2の各々の値の下限値及び上限値は記載されておらず,本件発明8は,発明の範囲が明確ではなく,先端側シャフトの最先端部にガイドワイヤシャフトが設けられる構成において,「0.5≦L2/L1」の全ての範囲で訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係では,L1,L2の各々の値の下限及び上限は不明であると主張する。

しかし,本件発明8におけるL1及びL2の値は,「0.5≦L2/L1」を満たす値であることは明らかであるから,本件発明8は十分に明確であり,L1,L2の各下限値及び上限値が記載されていないからといって,本件発明8が不明確であるとはいえない。

なお,前記ア(ウ)のとおり,訂正明細書(甲27)の段落【0046】には,「・・・L2/L1は0.5以上であることが好ましい。L2/L1が0.5よりも小さい場合,ガイドワイヤシャフト112と先端側シャフト103の接合部の面積が小さくなり,ガイドワイヤシャフト112が先端側シャフト103から剥離する危険性が高くなる。」と記載されているから,L1,L2の各上限値及び下限値に関係なく,接合部の面積が確保され剥離の危険性を低減できるという効果が得られることは明らかであり,「0.5≦L2/L1」の全ての範囲で所望の効果が得られるといえる。

(エ) 本件発明14につき

原告は,本件発明14について,血管内から物質を吸引除去するための吸引カテーテルであって吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入されるものである場合には「基端側シャフトの少なくとも基端側の部分」の「曲げ弾性率」に上限値が存在するとする根拠は不明であると主張する。

しかし,本件発明14の特許請求の範囲の記載は,基端側シャフトの少なくとも基端側の部分の曲げ弾性率の下限値を特定するものである(前記第3,1(2)参照)から,十分に明確であり,基端側シャフトの少なくとも基端側の部分の曲げ弾性率の上限値が記載されていないからといって,本件発明14が不明確であるとはいえない。

なお,前記(1)ア(イ)のとおり,訂正明細書には,「また,基端側シャフト104の少なくとも基端側は曲げ弾性率が1GPa以上の高弾性材料からなることが好ましい。このような高弾性材料からなるシャフトを用いることで,術者が加えた吸引カテーテルを操作する力を先端に十分に伝えることが可能である。つまり,押す力,引く力に加えて,回転させる力を充分に先端に伝達させることが容易に実現できる。」(段落【0053】)と記載されており,曲げ弾性率の上限値にかかわらず,術者が加えた吸引カテーテルを操作する力を先端に十分に伝えることができるという効果が得られることは明らかである。

また,そもそも本件発明14の吸引カテーテルは,吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入するものであるところ,硬すぎると血管に沿って挿入できないため,血管内に挿入可能な柔軟性が必要であり,その範囲において曲げ弾性率の上限値が存在することは自明というべきである。

(オ) 小活

以上のとおり,本件発明1,8及び14に係る訂正明細書の記載に,原告が主張するような明確性要件違反はなく,本件発明1を引用する他の発明についても同様であるから,原告主張の取消事由2は理由がない。

ウ 取消事由3(本件発明1に記載された「ストレート形状」との記載について[無効理由3]の判断の誤り)の有無について

(ア) 本件発明1と本件発明5の関係

原告は,訂正明細書において「テーパー形状」及び「スプリングワイヤ」の両方と区別して「ストレート形状」を定義していること,コアワイヤとして「スプリングワイヤ」,「テーパー形状」のそれぞれを採用した実施例7,参考例6を比較すると,前者には後者と同程度又はそれ以上の外径差が生じていること等からすると,本件発明1の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」は含まれないはずであり,本件発明1の従属項である本件発明5において「ストレート形状」の一部として「スプリングワイヤ」が含まれるとするのは訂正明細書の定義と明らかに矛盾し,本件発明1及び5はいずれも不明確である旨主張する。

しかし,本件訂正(甲27)は,訂正事項bで,本件発明1のコアワイヤの形状をストレート形状に限定するとともに,コアワイヤがテーパー形状を呈するものについての旧請求項6を削除しているから,コアワイヤのうちテーパー形状のものを除くことを意図したものと解される。

そして,「ストレート形状」及び「テーパー形状」は,コアワイヤの形状を特定するものであるが,「スプリングワイヤ」は,金属素線を巻回したものであるから(訂正明細書の段落【0042】参照),コアワイヤの構造を特定するものであって形状を特定するものではない。

また,「スプリングワイヤ」(本件特許に係る明細書の図6)は,金属素線による微小な凹凸はあるものの,全体としてみれば太さは一定であり,「ストレート形状」であるといえる。

【図6】

file_5.jpgoom aeしたがって,本件発明1の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」は含まれない旨の原告の主張は理由がなく,本件発明1の従属項である本件発明5において「ストレート形状」の一部として「スプリングワイヤ」が含まれることが訂正明細書の定義と矛盾するものではなく,本件発明1及び5が不明確であると認めることはできない。

(イ) 本件発明1と本件発明6の関係

原告は,ストレート形状との記載を含む本件発明1と本件発明6との関係に関して,本件発明1記載の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」及び「テーパー形状」が含まれないはずであり,他方で,訂正明細書の段落【0044】の記載等からすると,本件発明6にはスプリングワイヤやテーパー形状のものが含まれるから,本件発明1とその従属項である本件発明6は互いに矛盾し,ひいては本件発明1及び6はいずれも不明確である旨主張する。

しかし,前記(ア)のとおり,本件発明1の「ストレート形状」には「スプリングワイヤ」が含まれないとの原告の主張は失当である。

また,本件発明6の「前記コアワイヤの少なくとも一部が先端側ほど柔軟である」とは,コアワイヤの特性を特定するものであって形状を特定するものではない。

さらに,訂正明細書の段落【0044】の記載(前記(1)ア(イ)参照)は,少なくとも一部が先端側ほど柔軟なコアワイヤとして,ストレート形状のコアワイヤを排除するものではなく,例えば,ストレート形状のコアワイヤの表面に各種の切り込みを付与する等の加工をしたものを含むものと解される。

したがって,原告の主張は失当であり,採用することができない。

(ウ) 小活

以上のとおり,本件発明1,5及び6に係る訂正明細書の記載は,「ストレート形状」との記載に関して明確性に欠けるものとは認められず,原告主張の取消事由3は理由がない。

エ 取消事由4(特許法29条2項違反[無効理由4]についての判断の誤り)の有無について

(ア) 相違点1の認定及び判断につき

審決は,本件発明1と甲1発明の相違点1として「本件発明1では,メインシャフトが先端側シャフトおよび基端側シャフトから構成されているのに対して,甲1発明では,メインシャフト(長い管状ボディ36)が1つのシャフトから構成されている点」と認定した。

原告は,甲1の記載からすれば,審決が認定した本件発明1と甲1発明との相違点1は存在せず,仮にこれが存在したとしても,同構成は,カテーテルの技術分野においては周知技術にすぎず,容易想到である旨主張する。

そこで検討するに,前記(2)アのとおり,甲1(訳文による。)の9欄32行~38行,10欄31行~41行の記載からすれば,甲1には,吸引カテーテルの管状のボディを剛性の異なる基端側部分と先端側部分とで形成することが「好ましい形態」等として記載されているから,管状のボディは,基端側部分と先端側部分の2つの部材から構成されているといえる。

そうすると,甲1発明の「管状ボディ」,「基端側部分」,「先端側部分」は,本件発明1の「メインシャフト」,「基端側シャフト」,「先端側シャフト」にそれぞれ相当し,甲1発明の吸引カテーテルは,「先端側シャフト及び基端側シャフトから構成されるメインシャフトを有し」ているものと認められる。

したがって,審決が「本件発明1では,メインシャフトが先端側シャフトおよび基端側シャフトから構成されているのに対して,甲1発明では,メインシャフト(長い管状ボディ36)が1つのシャフトから構成されている点」を相違点1と認定したことは誤りである。

しかし,後記のとおり相違点2についての判断に誤りはないから,相違点1についての認定の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものではない。

(イ) 相違点2の判断につき

a 審決は,本件発明1と甲1発明の相違点2として「本件発明1では,吸引ルーメンの内部に脱着可能なストレート形状のコアワイヤを有し,コアワイヤの最大外径をR1,ハブより先端側の吸引ルーメンの最小内径をR2とする場合に,0.45≦R1/R2≦0.65であり,吸引ルーメンの内部にコアワイヤが存在する状態でガイディングカテーテルを介して血管内に挿入された後,コアワイヤが取り出され,吸引ルーメンに陰圧を付与することで血管内から物質が吸引除去されるものであるのに対して,甲1発明では,そのようにはなっていない点。」と認定した。

原告は,甲1の2欄57行~62行の記載(前記(2)ア参照)を根拠として,吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという目的(課題)が記載されていると主張するが,甲1には,吸引ルーメン内にコアワイヤを挿入した構成において,通過性及び耐キンク性の向上を目的として,「R1/R2」の範囲を設定することは記載されているとはいえず,その示唆もない。

b 原告は,構成Fに係る数値範囲に含まれる構成は,甲8~甲11,甲13に記載されるとおり,カテーテルに剛性を付与するためにコアワイヤのような部材を設けた場合に,当業者が自ずと採用する数値である旨主張するので,以下検討する。

(a) 甲8には,前記(3)アのとおり,シリコーンEDチューブの規格に関する表が記載されており,同表には,製品番号02-3206として,スタイレットの外径が0.5mmであるとともに,チューブの内径が1.1mmであることが記載されている。そして,スタイレットの外径(0.5mm)が本件発明1のR1に相当し,チューブの内径(1.1mm)が本件発明1のR2に相当するから,R1/R2≒0.45となり,甲8には,本件発明1のR1/R2の数値範囲の下限値にほぼ等しい値が記載されているといえる。

また,甲10には,前記(3)イの記載があり,同記載において,剛性付与体33の線径が本件発明1のR1に相当し,シャフトチューブ32の内径が本件発明1のR2に相当し,0.1mm≦R1≦1.0mm,R2=1.2mmとすると,0.08≦R1/R2≦0.83となるから,甲10には,本件発明1のR1/R2の数値範囲を包含する数値範囲が記載されているといえる。

さらに,甲13には,前記(3)ウの記載があり,同記載において,スタイレットの外形(φ0.6mm)が本件発明1のR1に相当し,チューブ状のカテーテルの内径(φ1.0mm)が本件発明1のR2に相当するから,R1/R2=0.6となり,甲13には,本件発明1のR1/R2の数値範囲内の値が記載されているといえる。

以上のとおり,甲8,甲10,甲13には,構成Fに係る数値範囲に含まれる構成が記載されているといえる。

(b) しかし,甲8,甲10,甲13のいずれにも,吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要があるという課題は記載されておらず,同課題を解決するためにR1/R2の数値範囲を設定すること,さらに,その数値範囲を「0.45≦R1/R2≦0.65」とすることも記載されておらず,示唆もない。

そうすると,「吸引カテーテルにおいて通過性及び耐キンク性を向上させる必要がある」という課題を解決するためにR1/R2の数値範囲を設定することは,上記のいずれの証拠にも記載されていないから,甲1発明における吸引ルーメン内にコアワイヤを挿入した構成において,通過性及び耐キンク性を向上させるために「0.45≦R1/R2≦0.65」とすることは,当業者が甲8,甲10及び甲13から容易に想到し得たとはいえない。

(c) このほか,甲9には,前記(3)エのとおりの記載があるところ,原告は,甲9の図1(C)における断面半円形状の第3ルーメン24と,断面円形状の第4ルーメン26を,断面円形状の1つのルーメンとして想定した場合の内径をR2として,0.32≦R1/R2≦0.73という範囲を算出している(甲28[審判請求書]の31頁参照)。

また,甲11には,前記(3)オのとおりの記載があるところ,原告は,上記甲9における方法と同様に,甲11の図2(B)における断面半円形状の第3ルーメン24と,断面円形状の第4ルーメン26を,断面円形状の1つのルーメンとして想定した場合の内径をR2として,0.32≦R1/R2≦0.73という範囲を算出している(甲28の32~33頁参照)。

しかし,本件発明1と甲9,甲11とでは,ルーメンの断面形状が明らかに異なり,甲9,甲11における断面半円形状のルーメンと断面円形状のルーメンとを断面円形状の1つのルーメンとして想定した場合の内径R2が,本件発明1のR2に相当するとはいえない。

このように,甲9,甲11には,本件発明1のR2に相当する構成が記載されているとはいえないから,構成Fに係る数値範囲に含まれる構成が,甲9,甲11の記載から,当業者であれば自ずと採用するものであるとはいえない。

(d) よって,甲1発明において,吸引カテーテルの通過性及び耐キンク性を向上させるために「0.45≦R1/R2≦0.65」との数値範囲を設定することは,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

c なお,原告は,吸引ルーメン内にコアワイヤを挿入した構成において「R1/R2」として何らかの数値を採ること,通過性及び耐キンク性の向上を目的として上記値を適宜調整することは,当業者が当然行うことである旨主張するが,吸引ルーメン内にコアワイヤを挿入した構成において「R1/R2」として何らかの数値を採ることは当業者が当然行うことであるとしても,通過性及び耐キンク性の向上を目的として上記R1/R2の値を適宜調整することは,本訴において提出された証拠のいずれにも記載されておらず,自明の事項であるともいえないから,当業者が当然行うことであるとはいえない。

d このように,相違点2のうち,通過性及び耐キンク性の向上を目的としてR1/R2の値を0.45以上,0.65以下とすること(構成Fに関する部分)は容易想到ではないから,相違点2のうち構成F以外の部分が容易想到であるか否かを検討するまでもない。

(ウ) 小活

以上のとおり,原告主張の取消事由4のうち,審決による相違点1の認定には誤りがあるものの,審決による相違点2の判断には誤りはなく,本件発明1を引用し,要件をさらに限定した他の発明についても同様であるから,原告主張の取消事由4は理由がない。

オ 取消事由5(訂正要件違反)について

原告は,本件訂正(甲27参照)は,「ストレート形状」に関して当初の明細書の記載と矛盾する態様のもの(新規事項)を追加することになり,訂正要件違反である旨主張するが,前記ウのとおり,本件訂正は,当初の明細書の記載と矛盾する「ストレート形状」の態様を追加するものではないから,原告主張の取消事由5は理由がない。

3  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決は結論において誤りはない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)

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