知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10341号 判決 2011年7月27日
原告
三星電子株式会社
訴訟代理人弁理士
佐藤英昭
同
丸山亮
同
林晴男
被告
特許庁長官
指定代理人
木村史郎
同
小林和男
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2008-9988号事件について平成22年6月21日にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年8月30日,発明の名称を「カラーレジストレーション及び画像濃度制御装置」とする発明について,特許出願(特願2002-254531。パリ条約による優先権主張2001年9月4日 韓国。以下「本願」という。)をしたが,平成20年1月17日付けで拒絶査定がされたため,同年4月21日付けで拒絶査定に対する不服審判請求(不服2008-9988号事件)をし,同年5月20日付けで手続補正書を提出したところ,平成21年11月13日付けで手続補正を却下する決定がされるとともに,拒絶理由通知がされたので,平成22年5月17日付けで意見書及び手続補正書を提出した。
特許庁は,同年6月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年7月6日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
平成22年5月17日付け補正後の本願の明細書(甲1,17。以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】
印刷機の転写ベルト上に副走査方向に配列された第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと,
前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの全体に対して前記副走査方向に配列され,各々複数のグレイレベルマークを含む第1乃至第4カラー別画像濃度マークと,
前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークを検出するものとして,スポット状のビームを照射する発光部と前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークから反射されたビームを受光する受光部とを備える一対の光モジュールとを有し,
前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマークを含み,
前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含み,
前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークは前記転写ベルト上の主走査方向の一側に前記第1レジストレーションマークと第1画像濃度マークが副走査方向に一列に配列され,前記転写ベルト上の主走査方向の他側に前記第2レジストレーションマークと第2画像濃度マークが副走査方向に一列に配列され,
前記一対の光モジュールは,前記転写ベルトの上方に主走査方向にお互い離隔されるよう配置され,前記第1レジストレーションマークと前記第1画像濃度マークを連続的に検出する第1光モジュールと,前記第2レジストレーションマークと前記第2画像濃度マークを連続的に検出する第2光モジュールとを含むことを特徴とするカラーレジストレーション及び画像濃度制御装置。」
3 審決の理由
(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願優先日前に頒布された刊行物である特開2000-147915号公報(甲2。以下「刊行物1」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないので,本願は拒絶すべきであるというものである。
(2) 上記判断に際し,審決が認定した刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明の内容
カラー電子写真複写機の中間転写ベルト上の画像領域に,副走査方向に,イエロー,マゼンタ,シアン,ブラックの各色のレジストコントロール用の横向きV字形状のパッチと,前記レジストコントロール用の横向きV字形状のパッチに対して,副走査方向に離隔して,それぞれ異なった濃度で複数形成されるイエロー,マゼンタ,シアン,ブラックの各色のプロセスコントロール用のパッチとを形成し,
前記レジストコントロール用の横向きV字形状のパッチの位置,及び前記プロセスコントロール用のパッチの濃度を検出する光学センサーを有し,
前記光学センサーにより検出された当該パッチの濃度や位置のデータが所定の範囲内に入るように,画像形成用の種々のパラメータを制御する,
カラー電子写真複写機の制御装置。
イ 一致点
印刷機の転写ベルト上に副走査方向に配列された第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと,
前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークに対して前記副走査方向に配列され,各々複数のグレイレベルマークを含む第1乃至第4カラー別画像濃度マークと,
前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークを検出する,光学による検出手段とを有する,
カラーレジストレーション及び画像濃度制御装置。
ウ 相違点
(ア) 相違点1
本願発明では,第1乃至第4カラー別レジストレーションマーク全体に対して副走査方向に各々複数のグレイレベルマークを含む第1乃至第4カラー別画像濃度マークが配列されており,前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマークを含み,前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含み,前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークは前記転写ベルト上の主走査方向の一側に前記第1レジストレーションマークと第1画像濃度マークが副走査方向に一列に配列され,前記転写ベルト上の主走査方向の他側に前記第2レジストレーションマークと第2画像濃度マークが副走査方向に一列に配列されるのに対して,
引用発明では,第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと,第1乃至第4カラー別画像濃度マークの位置が,本願発明とは異なる点。
(イ) 相違点2
第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと第1乃至第4カラー別画像濃度マークを検出する,光学による検出手段が,
本願発明は,スポット状のビームを照射する発光部と前記第1乃至第4カラー別レジストレーションマークと前記第1乃至第4カラー別画像濃度マークから反射されたビームを受光する受光部とを備える一対の光モジュールであり,前記一対の光モジュールは,前記転写ベルトの上方に主走査方向にお互い離隔されるよう配置され,前記第1レジストレーションマークと前記第1画像濃度マークを連続的に検出する第1光モジュールと,前記第2レジストレーションマークと前記第2画像濃度マークを連続的に検出する第2光モジュールとを含むのに対して,
引用発明は,光学センサーの構成は明らかでなく,また,光学センサーが一対の光モジュールであり特定位置に配置されるものとはされていない点。
第3当事者の主張
1 審決の取消事由に係る原告の主張
審決は,以下のとおり,本願発明についての容易想到性の判断に誤りがあり,この誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
(1) 審決は,本願発明と引用発明の相違点1に関し,引用発明において,周知技術を適用して,「本願発明のごとく『第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マーク』とすることは,当業者が容易に想到し得る」と判断した(審決10頁15ないし18行)。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア 本願発明の「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」との相違点1に係る構成は,以下のとおり,周知技術とはいえない。
すなわち,まず,周知技術を例示する文献として,平成21年11月13日付け拒絶理由通知(甲6)において,甲12(特開2001-194851号公報),甲13(特開2001-209292号公報),甲14(特開平10-260567号公報)等が挙げられている。しかし,甲12の図8には中間転写ベルト(12)の中央部に画像濃度の検出のための各色別のテストパターン(29-32)が一列に配置された構成が開示されているものの,各色別のテストパターン(29-32)全体が中間転写ベルト(12)の主走査方向の両側に各々配列される構成は開示されていない。甲13の図2には濃度パッチ(24)に関して記載されているが,濃度パッチ(24)が各色別に形成されるという事項と転写再搬送ベルト(8)の主走査方向の両側各々に各色の濃度パッチの全体が配置されるとの構成に関する記載はない。甲14の図7には濃度制御用マーク(27K,27M)が搬送ベルト(7)に一列に配置されたとの構成が開示されているが,各色別の濃度制御用マーク(27K,27M)の全体が搬送ベルト(7)の主走査方向の両側に各々配列されているとの構成は開示されていない。
また,審決は,甲7(特開平8-278680号公報),甲8(特開2000-275926号公報),甲9(特開平10-142880号公報),甲10(特開平6-106779号公報)を挙げる。しかし,甲7の図1は,テストパターン(レジストレーションマーク)のみが記載され,甲8の図1も,レジストマークのみが記載され,甲9の図11も色ずれ補正パターンのみが記載され,甲10の図3も,画像位置ずれ検出用パターンのみが記載されているにすぎない。
さらに,審決は,画像濃度マークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2画像濃度マークとすることが周知である旨を記載する文献として,甲3(特開平1-207764号公報。審決の「周知例1」である。),甲4(特開平5-80625号公報。審決の「周知例2」である。)及び甲5(特開平1-167769号公報。審決の「周知例3」である。)を挙げている。しかし,甲3の第2図のカラーマークは,画像位置検出用レジスタマークと画像濃度検出用レジスタマークとが組み合わされた形状のものを両者同時に検出し,その画像のヒストグラムを解析して補正する手法を採用するものであって,甲3の明細書中にはそれらが主走査方向にお互い離隔された位置に配置されるという記載はなく,甲4の図8のレジストセンサは,主走査方向にお互い離隔された位置に配置されており,レジストセンサがパッチ濃度センサの機能を兼用する旨の記載はあるものの,各カラー別にレジストレーションマークと画像濃度マークを主走査方向にお互い離隔された位置に副走査方向に一列に配列するとの構成に関する記載はなく,甲5の第3,5図にはレジストレーションと濃度パターンが記載されているものの,各カラー別にレジストレーションと濃度パターンを主走査方向にお互い離隔された位置に副走査方向に一列に配列するとの構成に関する記載はない。
したがって,引用発明に周知技術を適用しても,本願発明の相違点1に係る「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」との構成を容易に想到することはない。
イ 本願発明は,「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」との構成を有することから,画像形成装置の製造上の要因又は画像形成装置の長時間の使用による性能の劣化によって主走査方向の両側の濃度が変わる場合にも,主走査方向の両側に配置された第1,第2画像濃度マークの濃度検出値の中間値に基づいて現像条件を調節する等の画像濃度制御の動作を遂行することによって,より精密で均一する画像濃度制御を可能とするという特有の効果を奏するものである。
すなわち,現像機からトナーが転写ベルトの両側に十分に供給されるならば,画像領域の一方の側のみに第1乃至第4画像濃度マークを形成することはできるが,トナーの供給量が不十分な場合,画像領域の両側に印刷される画像濃度マークの濃度が異なり,画像領域のいずれか一側のマークが薄いか濃くなる可能性が生じる。そして,いずれか一側のみに第1乃至第4画像濃度マークを形成しこれを検出して画像濃度を補正する場合には,画質をむしろ劣化させる可能性が生じる。このように,左右の濃度差が発生する要因には,現像機のトナーの残量が十分ではなく感光体へのトナー供給が主走査方向で不均一になること,現像機を使用者が着脱する時に現像機の装着位置がある程度変動して現像電位や転写電位が主走査方向で不均一になること,現像ローラと感光ドラムとの間隔を維持する部材の中で主走査方向のいずれか一側の部材が摩耗して主走査方向で現像ローラと感光ドラムとの間隔が不均一になること,感光体から転写ベルトへ,トナーが転写される時に感光体と転写ローラ間の圧力が主走査方向で不均一になること,光疲労によって感光体の帯電電位と露光電位が主走査方向で不均一になること等が挙げられる。
引用発明は,イエロー(Y)及びマゼンタ(M)のプロセスコントロール用パッチ(53Y,53M)とシアン(C)及びブラック(BK)のプロセスコントロール用パッチ(53C,53BK)はその形成位置がお互いに主走査方向に離隔している。そのため,例えば,イエロー(Y)及びマゼンタ(M)のプロセスコントロール用パッチ(53Y,53M)が形成される位置では現像ローラから感光ドラムで供給されるトナーの供給量が少なくて正常より低い濃度で印刷され,シアン(C)及びブラック(BK)のプロセスコントロール用パッチ(53C,53BK)が印刷される位置では現像ローラから感光ドラムで供給されるトナーの供給量が多くて正常より高い濃度で印刷されるとすると,プロセスコントロール用パッチ(53Y,53M,53C,53BK)を検出して画像濃度を制御する時,イエロー(Y)及びマゼンタ(M)色の画像はプロセスコントロール用パッチ(53Y,53M)が形成される位置では正常濃度範囲で制御できるが,プロセスコントロール用パッチ(53C,53BK)が形成される位置では過度に高い濃度で印刷される可能性が生じ,シアン(C)及びブラック(BK)色の画像はプロセスコントロール用パッチ(53C,53BK)が形成される位置では正常濃度範囲で制御できるが,プロセスコントロール用パッチ(53Y,53M)が形成される位置では過度に低い濃度で印刷される可能性が生じる。
これに対して,本願発明は,第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は主走査方向にお互い離隔された第1,第2画像濃度マークを具備しているため,主走査方向の位置によって画像濃度マークの濃度が違っても,主走査方向にお互い離隔された2つの位置に各々設けられる第1,第2画像濃度マークを第1,第2光モジュールで各々検出し,2つの検出値を平均して画像濃度を制御することによって主走査方向の全体にわたって濃度の不均一性を緩和させることができる。すなわち,第1乃至第4カラーに対して各々第1,第2画像濃度マークの検出値を平均して画像濃度を制御することによって画像濃度マークが形成される位置によって発生する濃度検出誤差及びこれに基づく濃度制御誤差を縮めることが可能となる。
したがって,本願発明は,主走査方向の両側の濃度が変わる場合にも,主走査方向の両側に配置された第1,第2画像濃度マークの濃度検出値の中間値に基づいて現像条件を調節する等の画像濃度制御の動作を遂行することによって,より精密で均一する画像濃度制御を可能にする,引用発明には開示されない特有の効果を奏するから,本願発明の相違点1に係る「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」という構成に容易に想到できない。
(2) 審決は,本願発明と引用発明の相違点1に関し,「レジストレーションマークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2レジストレーションマークとすることは,周知技術ということができるから,このような周知技術を引用発明に適用して,本願発明のごとく『第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマーク』とすることは,当業者が容易に想到し得る」旨判断した(審決9頁25ないし32行)。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
すなわち,本願発明は,画像形成装置の長時間の使用による性能の劣化によって主走査方向の両側の濃度が変わる場合にも,主走査方向の両側に配置された第1,第2画像濃度マークの濃度検出値の中間値に基づいて現像条件を調節する等の画像濃度制御の動作の遂行するのと一連で各色相が形成する単位画像が互いに正確に重なるようにするためのカラーレジストレーションをすることにより,カラーレジストレーションのマークの濃度が安定し,より品質を高めることができる。しかし,刊行物1,甲3ないし甲5,甲7ないし甲10記載の技術においては,そのような課題及び解決手段の開示はないから,引用発明に周知技術を適用しても,上記の観点に注視した本願発明の構成である「第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマーク」は,当業者が容易に想到し得ないというべきである。
(3) 以上のとおり,審決は,相違点1に関する本願発明の構成に係る容易想到性の判断に誤りがあり,この誤りは結論に影響を及ぼすから,取り消されるべきである。
2 被告の反論
(1) 原告は,本願発明と引用発明の相違点1に関し,引用発明において,周知技術を適用して,本願発明のごとく「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マーク」とすることは,当業者が容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア 原告は,周知技術を開示するとされる各文献に,本願発明の相違点1に係る「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」との構成についての記載を見いだすことはできない旨主張する。
しかし,原告の主張は誤りである。甲7ないし甲10により,「レジストレーションマークや画像濃度マークを画像領域の両側に配列すること」のうち「レジストレーションマーク」「を画像領域の両側に配列すること」が示され,甲3ないし甲5(周知例1ないし3)により,「画像濃度マークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2画像濃度マークとすること」,すなわち,「画像濃度マークが主走査方向に互いに隔離された第1,第2の画像濃度マークを具備する」との技術が示されている。
引用発明は,レジストレーションマークと画像濃度マークを副走査方向に離隔して配列する構成を有していることから,それぞれ周知である「レジストレーションマークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2レジストレーションマークとする」技術と「画像濃度マークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2画像濃度マークとする」技術とを引用発明に適用し,引用発明のいずれか一側のみに各色の画像濃度マークを形成する構成に代えて,各色の画像濃度マークが主走査方向に互いに隔離された第1,第2の画像濃度マークとすること,すなわち,本願発明の相違点1に係る構成である「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マーク」とすることは,当業者が容易に想到し得る。
周知技術を開示するとされる各文献に,「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」との本願発明の構成に係る記載がないことを前提とする原告の主張は失当である。
イ 原告は,本願発明は,画像形成装置の製造上の要因又は画像形成装置の長時間の使用による性能の劣化によって主走査方向の両側の濃度が変わる場合にも,主走査方向の両側に配置された第1,第2画像濃度マークの濃度検出値の中間値に基づいて現像条件を調節する等の画像濃度制御の動作を遂行することによって,より精密で均一する画像濃度制御が可能であるという特有の効果を奏する旨主張する。
しかし,原告の主張は誤りである。
上記アのとおり,甲3ないし甲5には,「画像濃度マークが主走査方向に互いに隔離された第1,第2の画像濃度マークを具備する」技術が開示され,甲4には,「テストパッチ22も,搬送ベルト6aの搬送方向と直交する端部にテストパッチ22a,22bとして転写される。その際,現像材搬送ムラ等により,濃度の濃淡が存在する場合がある。そこで,テストパッチ22a,22bの読み取り画像情報に所定の補正演算を施して1つの濃度信号としてコントローラ15に取り込んで制御を実行してもよい。」と記載されている。上記の技術と比較するならば,原告主張に係る本願発明の効果は,特有のものとはいえない。
また,「画像濃度マークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2画像濃度マークとする」技術について,甲4,甲5には,引用発明のような,主走査方向のいずれか一側のみに各色の画像濃度マークを形成する手法と,本願発明のような,主走査方向の両側に各色の画像濃度マークを形成する手法(画像濃度マークが主走査方向に互いに隔離された第1,第2の画像濃度マークを具備すること)とがあり,いずれも選択可能である旨が示されているから,引用発明の手法に代えて,本願発明のような,主走査方向の両側に各色の画像濃度マークを形成する手法(画像濃度マークが主走査方向に互いに隔離された第1,第2の画像濃度マークを具備すること)を採用することに何ら困難性はない。
したがって,原告の主張する本願発明の効果は,甲3ないし甲5記載の周知技術を知る当業者には,十分に予測可能なものである。
(2) 原告は,本願発明と引用発明の相違点1に関し,周知技術を引用発明に適用して,本願発明のごとく「第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマーク」とすることは,当業者が容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
甲3及び甲7ないし甲10には,「レジストレーションマーク」「を画像領域の両側に配列する」技術が示され,甲7の段落【0007】,【0051】(図5と記載されているのは,図4の誤記である。)や甲8の段落【0017】ないし【0020】などに記載されているように,カラーレジストレーション(複数色のトナーを重ね合わせた際における位置ズレを補正する)の対象となるズレには,複数種類あって,「レジストレーションマークが主走査方向に互いに隔離された第1,第2のレジストレーションマークを具備する」技術(2つのマークに対応した検出センサも2つある)により,各種のズレに対応した,高い精度での補正をすることができる。引用発明に,そのような技術を適用することは,カラーレジストレーションを確実に行いたいという当業者であれば,容易に想到し得る。
また,本願発明は,レジストレーションマークと画像濃度マークの両方を検出する光モジュール(センサー)から検出されたデータをどのように処理して,カラーレジストレーションのマークの濃度が安定するように補正値を算出して印刷機を制御するかについて,光モジュールを備えることを記載するのみで,その他格別の限定はない。本願明細書(甲1)の段落【0017】,【0025】によれば,従来,レジストレーションマークを検出するセンサーと画像濃度マークを検出するセンサーとが別々であったものを,本願発明では,レジストレーションマークと画像濃度マークの両方を検出することができる共通のセンサーを用いて,同時に検出できるようにしたものであると記載されているので,「同時に検出する」の技術的意義は,せいぜい,レジストレーションマークと画像濃度マークの両方を若干の時間差をもって検出して,レジストレーションの誤差補正と画像濃度の誤差補正を,ほぼ同時にすることを意味するにすぎない。そして,本願明細書の実施例を記載した段落【0093】ないし【0123】や関連する図面を参酌しても,本願発明において,レジストレーションマークの検出データから算出される補正と画像濃度マークの検出データから算出される補正とは別個に算出され,両方の検出データを用いて新たな補正を算出するものではない。そうすると,原告主張のカラーレジストレーションのマークの濃度が安定するような処理は,本願発明として特定されず,本願明細書にも具体的に説明されていないというべきである。
一方,引用発明でも,レジストレーションマークと画像濃度マークの両方を連続的に検出することができる光学センサーがあり,複写動作を開始するセットアップ動作などになされるレジストレーション補正及び画像濃度補正は,マークの形成,検出,補正値の算出が速やかに行われ,レジストレーションの誤差補正と画像濃度の誤差補正が,短時間にされる。また,甲3ないし甲5の「画像濃度マークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2画像濃度マークとする」技術において,画像濃度マークの検出に使用されるセンサーは,レジストレーションマークの検出にも使用され得るものであり,レジストレーションの誤差補正と画像濃度の誤差補正は,共通のセンサーからの検出データを用いて行われる。さらに,甲3には,レジストレーションマークと画像濃度マークは副走査方向に並んでいないものの,レジストレーションマークと画像濃度マークの両方を検出することができる共通のセンサーを用いて,同時に検出できるようにしたものが開示されている。
したがって,引用発明に周知技術を適用して,本願発明の構成である「第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマーク」とすることは,当業者が容易に想到し得るとした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,原告主張の取消事由(本願発明についての容易想到性の判断の誤り)は理由がなく,審決に取り消すべき違法はないものと判断する。
1 原告は,本願発明と引用発明の相違点1に関し,引用発明において,周知技術を適用して,「本願発明のごとく『第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マーク』とすることは,当業者が容易に想到し得る」とした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
(1) 原告は,周知技術を開示するとされる各文献に,「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」という本願発明の構成と同一の構成及びそれを示唆した箇所を見いだすことはできない旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア 認定事実
(ア) 甲3(特開平1-207764号公報)には,次の記載がある。
a 1頁左下欄18行ないし右下欄2行
「本発明は,例えば電子写真装置,レーザビームプリンタ,印刷装置等の画像形成装置,特に,複数の画像形成手段を並設した多重画像形成装置に関するものである。」
b 3頁左上欄13ないし19行
「搬送ベルト6a上には,前記転写紙上に形成される画像とは別に,画像位置および濃度を検出するためのカラーマーク34,35が,電子写真プロセスにより,各色ごとに一定間隔をもって形成される。14,15はこれらのカラーマークを読取るための各センサであり,通常はCCD(電荷結合素子)が用いられる。」
c 3頁右上欄13ないし18行
「第2図に,カラーマークを構成する各レジスタマークの詳細図を示す。レジスタマークは,」形と□形の2種類のフオントで構成され,このうち,」形は画像位置検出用であり(ライン幅は約100μmである),□形は画像濃度検出用である。」
d 3頁右上欄18行ないし右下欄7行
「まず,CCDセンサ14により,40に示す範囲内の画像濃度(輝度)情報を8bitで読取る。・・・
次に画像処理方法としては例えば,各画素の縦と横の列の情報をそれぞれ加算し,各ヒストグラム41h,41vを求める。そして,各ヒストグラムのピーク値を持つアドレスから点Pの位置を求め,それをそのマークを転写したステーションの画像位置とする。さらに,各ヒストグラムは,谷をはさんでそれぞれほぼ一定の値dh,dvを持つ領域をつくる。そこで,その領域の幅(画素数)lh,lvを求め,dh/lv,dv/lhを計算した後,両者の平均値をそのステーションの画像濃度Dとする。
以上の処理を4つの各色マークについて順次行い,それぞれの転写位置Pを求めた後,ある1つの画像を基準とした他の3つの画像の位置ずれを算出し,走査光学装置にフィードバックし,それぞれの相互間の位置ずれ分の補正を行う。・・・また,それと同時に検出された画像濃度Dに関しては,基準濃度からの差を求め,それぞれ個別に各ステーションにフィードバックする。」
e 3頁右下欄12ないし17行
「なお,上記のレジスタマークの形状や読取,画像処理方法,あるいは補正方法などは,これのみに限定されるものでなく,例えば,濃度検出用□形マークは,その中を数段階に濃度差をつけたものにすれば,処理方法が多少複雑にはなるが,より精度の良い濃度補正が可能となる。」
f 添付された図面の第1図及び第2図
別紙図面1記載のとおりである。
(イ) 甲4(特開平5-80625号公報)には次の記載がある。
a 【0001】【産業上の利用分野】 本発明は,読取り画像濃度に基づいて像形成条件を自動設定可能な画像形成装置に関するものである。
b 【0021】 給紙カセット7から記録媒体が給送されると,この記録媒体が記録材質検出手段11を通過する際に,図2に示したように記録材質検出手段11の導体ローラ11a,11bを通電する電流Iが変化しするので,この変化量を測定してコントローラ15が記録媒体の記録材質が検出される(1)。これに並行して,転写ベルト6a上に複数のテストパッチ22を転写し(2),パッチ濃度センサ12によりパッチ濃度を検出して(3),A/D変換器14を介してパッチ濃度データをコントローラ15に入力する。・・・
c 【0030】 また,図8に示すように4ドラム方式の画像形成装置に具備されるレジストストセンサ62(受光器62aと光源62bからなる),レジストストセンサ63(受光器63aと光源63bからなる)に上記パッチ濃度センサ12の機能を兼用させる構成であっても良い。
d 【0031】 なお,レジストストセンサ62,63は感光ドラム1Kのドラム軸方向のレジストずれを検出するため,レジストスト補正マークが搬送ベルト6aの搬送方向と直交する端部に形成されるので,テストパッチ22も,搬送ベルト6aの搬送方向と直交する端部にテストパッチ22a,22bとして転写される。その際,現像材搬送ムラ等により,濃度の濃淡が存在する場合がある。そこで,テストパッチ22a,22bの読み取り画像情報に所定の補正演算を施して1つの濃度信号としてコントローラ15に取り込んで制御を実行してもよい。
e 添付された図面の【図8】
別紙図面2記載のとおりである。
(ウ) 甲5(特開平1-167769号公報)には次の記載がある。
a 1頁左下欄16行ないし右上欄1行
「本発明は,電子写真装置,レーザビームプリンター,印刷装置等のように画像情報を転写材のような像支持体上に形成する画像形成装置に関し,・・・」
b 3頁右上欄5行ないし左下欄12行
「このように4つの画像形成部を有する多重画像形成装置において,画像を形成する際には,シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックの各色に対応する各画像形成部Pa~Pdの両端部に,第4図に示すような位置決めパターンとしての位置決めマーク像30を,カールソンプロセス等の所定のプロセスを介し,それぞれ,シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックの各色に対して形成し(第3図に示されているように,それぞれの各色に対し形成された位置決めマーク像を,それぞれ30a,30b,30c及び,30dとする),順次搬送ベルト109上に転写する。
転写ベルト109上において,各画像形成部Pa~Pdの両端部に形成されるこの位置決めマーク像30は,第3図から明らかなように,転写ベルト109の搬送方向と直行する方向,すなわち主走査方向の各画像形成部の右側端及び左側端に転写され,しかもその転写位置は,転写ベルト109の搬送方向,すなわち副走査方向Aに対してシアン,マゼンタ,イエロー,ブラックの順にそれぞれが混色しないようにずらしてある。
転写ベルト109上において各画像形成部の右側端及び左側端に転写された位置決めマーク像30は,第2図に示されるように,これを読みとれるように,それぞれに対応して配設されたパターン読み取り装置,すなわち位置決めマーク像読み取りセンサとしてのCCDイメージセンサ21,22により読み取られる。」
c 4頁右上欄9行ないし左下欄11行
「次に,第5図を用いて転写材上に形成される濃度パターンの読み取りについて述べる。
まず,この濃度パターンの読み取りは,レジストレーション補正の際の位置決めマーク像の読み取りとは別に行なわれる。第5図に示すように,濃度パターン54のプリントについては,階調を変えた一様な濃度パッチを有する濃度パターン54が,各色ごとに,前述したパターン読み取り装置,すなわち位置決めパターン読み取りセンサと共用される濃度パターン読み取りセンサとしてのCCDイメージセンサの読み取り領域もしくはそれよりも広い領域の範囲で,カールソンプロセス等の所定のプロセスを介して形成される数階調の濃度パッチを,ある間隔をもって転写ベルト109の右,左の両端あるいは両端のどちらか一方に,CCDイメージセンサ21,22に対応するように,転写ベルト109上の位置にプリントする。
数階調の濃度パッチを有する濃度パターン54の転写ベルト109への転写は,転写ベルト109上に1色ずつ適当な間隔をもって行なわれ,それぞれ,シアン,マゼンタ,イエロー,ブラックの各色について行なわれる。」
d 添付された図面の第3図及び第5図
別紙図面3記載のとおりである。
イ 判断
上記ア(ア)によれば,甲3には,画像位置及び濃度を検出するためのカラーマーク34,35が,搬送ベルト(転写ベルト)上の主走査方向の両側に離隔して配置されていること,センサ14,15によってカラーマークを読取ることにより,画像位置と画像濃度とが同時に検出されることが記載されていると認められる。
上記ア(イ)によれば,甲4には,レジストずれを検出するためのレジストスト補正マーク及び画像濃度を検出するためのテストパッチが,搬送ベルト(転写ベルト)上の主走査方向の両側に離隔して配置されていること,レジストストセンサ62,63が,パッチ濃度センサ12の機能を兼用できることが記載されていると認められる。
上記ア(ウ)によれば,甲5には,位置決めマーク像30が,転写ベルト109上の各画像形成部の右側端及び左側端に転写されること,及び濃度パターン54は,転写ベルト109の左右両端又はその一方に転写されること,位置決めマーク像及び濃度パターンを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置したこと,また,CCDイメージセンサ21,22が位置決めパターン読み取りセンサ及び濃度パターン読み取りセンサとして共用されることが記載されていると認められる。
上記認定の事実によれば,甲3ないし甲5には,画像濃度マークとレジストレーションマークの全体が,転写ベルト上に,主走査方向の両側に離隔して配置された構成が開示されているということができる。
したがって,引用発明に,上記構成の周知技術を適用して,「第1乃至第4カラー別画像濃度マークの各々は前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2画像濃度マークを含(み)」との相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到することができるといえる。
(2) 原告は,本願発明は,画像形成装置の製造上の要因又は画像形成装置の長時間の使用による性能の劣化によって主走査方向の両側の濃度が変わる場合にも,主走査方向の両側に配置された第1,第2画像濃度マークの濃度検出値の中間値に基づいて現像条件を調整する等の画像濃度制御の動作を遂行することによって,より精密で均一な画像濃度制御を可能とする特有の効果を得られる旨主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
本願明細書の記載を参酌しても,第1,第2画像濃度マークの濃度検出値の中間値に基づいて画像濃度制御を行うことが特定されているとはいえず,また,精密で均一する画像濃度制御を可能とするとの効果を奏することも記載されていない。
仮に,本願発明について,原告主張に係る効果についての開示がされていると理解できたとしても,上記(1)ア(イ)認定のとおり,甲4の段落【0031】には,「画像濃度マークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2の画像濃度マークとする」構成において,第1,第2の画像濃度マークに相当するテストパッチ22a,22bを搬送ベルト6aの搬送方向と直交する端部に転写する際,テストパッチ22a,22bの濃度に濃淡が生じた場合,「テストパッチ22a,22bの読み取り画像情報に所定の補正演算を施して1つの濃度信号としてコントローラ15に取り込んで制御を実行してもよい。」ことが記載されている。また,複数の濃度の検出値を補正する場合において,それらの中間値を算出して1つの検出値とすることは通常行われる手段の1つであり(甲3にも,画像処理方法として,複数の検出値の平均値を求める方法が記載されている(上記(1)ア(ア)d)。),中間値を採用することによって検出値が均一化されることは,技術常識といえる。このことに鑑みれば,甲4に記載された所定の補正演算は,第1,第2の画像濃度マークの濃度検出値の中間値を求め,1つの濃度信号とすることを含むものであり,この結果,濃度検出値が均一化され,「より精密で均一する画像濃度制御」が可能となることは,当業者であれば,当然に予想し得ることである。
したがって,画像形成装置の製造上の要因又は画像形成装置の長時間の使用による性能の劣化によって主走査方向の両側の濃度が変わる場合にも,主走査方向の両側に配置された第1,第2画像濃度マークの濃度検出値の中間値に基づいて現像条件を調整する等の画像濃度制御の動作を遂行することによって,「より精密で均一する画像濃度制御」が可能となるという効果は,格別顕著なものではなく,「画像濃度マークを,転写ベルト上の主走査方向の両側に離隔して配置される第1,第2の画像濃度マークとする」構成による自明の効果というべきである。
2 原告は,本願発明と引用発明の相違点1に関し,周知技術を引用発明に適用して,本願発明のごとく「第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマーク」とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるとした審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,上記1(1)のとおり,甲3には,画像位置及び濃度を検出するためのカラーマーク34,35が,搬送ベルト(転写ベルト)上の主走査方向の両側に離隔して配置されていること,センサ14,15によってカラーマークを読取ることにより,画像位置と画像濃度とが同時に検出されることが記載されているから,画像濃度制御の動作の遂行するのと一連で各色相が形成する単位画像が互いに正確に重なるようにするためのカラーレジストレーションをする構成が開示されているといえる。そして,甲3の(発明が解決しようとする課題)における,「・・・感光体上に現像化された濃度検出用マークをいったん搬送ベルト上に転写してその濃度を検出する方法が考えられる。これによれば,現像および転写時の不安定性による濃度変化要因を含めた補正が可能になる。・・・画像形成装置において常に高品位なカラー画像を維持するためには,搬送ベルト上において各色の画像位置および各画像濃度を検出し,画像形成部にフィードバックして補正するための装置が必要となる。」(2頁右上欄5ないし14行)との記載に照らすならば,マークの濃度を安定化させ,品質の高い画像形成装置とする構成が示されていると解するのが合理的である。
したがって,本願発明と引用発明の相違点1に関し,周知技術を引用発明に適用して,本願発明のごとく「第1乃至第4カラー別レジストレーションマークの各々は,前記転写ベルト上の主走査方向の両側に各々離隔して配置される第1,第2レジストレーションマーク」とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるとした審決の判断は誤りである旨の原告の主張は失当である。
3 小括
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,審決に取り消すべき違法は認められない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
第5結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 池下朗 裁判官 武宮英子)
file_2.jpg別紙