知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10373号 判決 2011年7月21日
原告
X1
原告
X2
上記両名訴訟代理人弁護士
上谷清
永井紀昭
仁田陸郎
萩尾保繁
山口健司
薄葉健司
石神恒太郎
瀧村美和子
同弁理士
古賀哲次
永坂友康
下道晶久
被告
特許庁長官
同指定代理人
古川哲也
板橋通孝
樋口信宏
板谷玲子
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007-9027号事件について平成22年10月18日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告らが,下記1のとおりの手続において,本件補正後の特許請求の範囲の記載を下記2とする原告らの本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告らは,平成16年6月21日,発明の名称を「インターネット情報通信システムを介した画像伝達における色変化情報提供方法とこの方法を利用した商品選択方法」とする発明について,特許出願(特願2004-182595。特願2002-28622(平成14年2月5日出願)の分割出願)をした(甲1)。
(2) 原告らは,平成19年2月19日付で拒絶査定を受け,同年3月29日,これに対する不服の審判を請求し(不服2007-9027号事件),同年4月27日付で,発明の名称を「インターネット情報通信システムを介した画像伝達における色変化情報伝達方法」と変更し,平成21年3月9日,手続補正書(甲7。以下「本件補正」という。)を提出した(甲3~7)。
(3) 特許庁は,平成22年10月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年11月2日,原告らに送達された。
2 本願発明の要旨
(1) 本件審決が対象とした本件補正後の特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,以下のとおりである。なお,文中の「/」は原文の改行箇所であり,下線部は本件補正による補正箇所である。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明1」,請求項2に記載された発明を「本願発明2」という。また,本件出願に係る願書に最初に添付された明細書及び図面(甲1)を「本願当初明細書等」といい,本件補正後の明細書(甲1,5,7)を「本願明細書」という。
【請求項1】:少なくとも一つの彩色商品の見本画像と,基準色画像αを組込んで彩色商品カタログとし,この商品カタログをデジタル・データとしてコンピューターの記憶装置に格納し,/情報の送信元がこのデジタル・データをデジタル商品カタログXとしてインターネット情報通信システムを介して不特定多数の潜在消費者である情報の受信者に送信し,/デジタル商品カタログXを受信した前記受信者がデジタル商品カタログの受信データをデジタル画像X‘として自己が所有する画像システムのモニタに表示し,/自己のシステムにおける選択機能を機能させずに,その画像中のデジタル化されており,送信に伴い色変わりしている前記基準色画像部分α‘の色調を,前記情報の受信者が自己が所有する前記基準色画像αの色調に合致した色調に色補正することによって,この補正と同一条件で且つ同時にモニタ表示画像X‘のα‘以外の他の部分の色調も補正することを特徴とする,彩色商品カタログの画像伝達における色変化情報の伝達方法。
【請求項2】:前記基準色画像がRGB基準色であることを特徴とする,請求項1に記載の彩色商品カタログの画像伝達における色変化情報の伝達方法
(2) なお,本件補正には,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」を追加するという補正事項(以下「本件追加事項」という。)が含まれる。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,①本件補正は,本件追加事項が本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものではなく,平成14年法律第24号による改正前の特許法(以下「法」という。)17条の2第3項に規定する要件を満たしていない,②本願発明は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしておらず,また,発明の詳細な説明の記載が,法36条4項に規定する要件を満たしていない,③本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イの引用例2に記載された技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないから,拒絶査定すべきものである,というものである。
ア 引用例1:特開平9-160527号公報(甲12)
イ 引用例2:特開平11-19050号公報(甲13)
(2) 本件審決は,その判断の前提として,引用発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を,以下のとおり認定した。
ア 引用発明:文字,イメージ,音声,ビデオ等の情報で構成された複数件分の商品情報と,標準イメージとをCD-ROMに格納し,業者がこの商品情報と,標準イメージとを公衆網を介して利用者に送信し,商品情報と,標準イメージとを受信した利用者が受信した商品情報の中のイメージと標準イメージとを画像として操作端末の表示装置であるコンピュータ用のディスプレイに表示し,その画像中の表示装置の特性や調整により現物の色調や濃淡が正しく表示されない前記標準イメージ及びこの標準イメージに対して色調や濃淡を段階的に少しずつ変化させたイメージと,利用者側にある,標準として別途用意された写真とを利用者が見比べて最も適切なイメージを選択することによって色調や濃淡の補正値を得て,この補正値をパラメータとして色調や濃淡を補正した商品情報のイメージを表示する文字,イメージ,音声,ビデオ等の情報で構成された複数件分の商品情報と標準イメージとの送信方法
イ 一致点:少なくとも一つの彩色商品の見本画像と,色調対比用画像とを彩色商品カタログとし,この商品カタログをデジタル・データとしてコンピューターの記憶装置に格納し,情報の送信元がこのデジタル・データをデジタル商品カタログXとして通信手段を介して情報の受信者に送信し,デジタル商品カタログXを受信した前記受信者がデジタル商品カタログの受信データをデジタル画像X‘として自己が所有する画像システムのモニタに表示し,その画像中のデジタル化されており,色変わりしている前記色調対比用画像部分の色調を,前記情報の受信者が自己が所有する前記色調対比用基準画像の色調に合致した色調に色補正することによって,この補正と同一条件でモニタ表示画像X‘の前記色調対比用画像部分以外の他の部分の色調も補正する,彩色商品カタログの画像伝達における色変化情報の伝達方法
ウ 相違点1:色調対比用画像が,本願発明では,「基準色画像α」であるのに対し,引用発明では,「標準イメージ」である点
エ 相違点2:彩色商品カタログが,本願発明では,「少なくとも一つの彩色商品の見本画像」と色調対比用画像である「基準色画像α」とを「組込ん」だものであるのに対し,引用発明では,「少なくとも一つの彩色商品の見本画像」と色調対比用画像である「標準イメージ」とを彩色商品カタログとするが,この彩色商品カタログが「少なくとも一つの彩色商品の見本画像」と色調対比用画像である「標準イメージ」とを「組込ん」だものであるか否か明確でない点
オ 相違点3:デジタル商品カタログを送信する通信手段が,本願発明では,「インターネット情報通信システム」であり,そのため,情報の受信者が,「不特定多数の潜在消費者」であるのに対し,引用発明では,「公衆網」であり,そのため,情報の受信者は,「不特定多数の潜在消費者」であるか否か明確でない点
カ 相違点4:色補正を,本願発明では,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」行うのに対し,引用発明では,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」行うのか否か明確でない点
キ 相違点5:色調対比用画像部分の色が,本願発明では,「送信に伴い」変わっているのに対し,引用発明では,「表示装置の特性や調整により」変わっているが,「送信に伴い」変わっているのか否か明確でない点
ク 相違点6:色調対比用画像部分が,本願発明では,「基準色画像部分α‘」であるのに対し,引用発明では,「標準イメージ」部分である点
ケ 相違点7:色調対比用基準画像が,本願発明では,「前記情報の受信者が自己が所有する前記基準色画像α」であるのに対し,引用発明では,「標準として別途用意された写真」である点
コ 相違点8:その画像中のデジタル化されており,色変わりしている前記色調対比用画像部分の色調を,前記情報の受信者が自己が所有する前記色調対比用基準画像の色調に合致した色調に色補正することによって,この補正と同一条件でモニタ表示画像X‘の前記色調対比用画像部分以外の他の部分の色調も補正する際に,本願発明では,上記両補正を「同時に」行うのに対し,引用発明では,「同時に」行うのか否か明確でない点
4 取消事由
(1) 法17条の2第3項に関する判断の誤り(取消理由1)
(2) 特許法36条6項1号及び法36条4項に関する判断の誤り(取消事由2)
(3) 特許法29条2項に関する判断の誤り(取消事由3)
第3当事者の主張
1 取消理由1(法17条の2第3項に関する判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件追加事項を加えた点が新規事項を追加するものではないこと
ア 新規事項か否かの判断基準
本件追加事項について,当初明細書及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,本件追加事項の追加が,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを判断することによって,適法な補正か否かを判断すべきである。
イ 本願当初明細書等に記載の技術的事項について
本願当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項として,以下の事項を把握することができる。
① 販売元が,彩色商品の見本画像とRGB等の公知の基準色画像を組込んだ(併記した)商品カタログを作成し,これをインターネット情報通信システムを介して潜在消費者に情報提供すること
② 潜在消費者が,カラーマッチング処理操作によって,基準色画像が組み込まれた商品カタログのデジタル画像が表示されたモニタ表示につき,モニタ表示のデジタル基準色画像の色を印刷基準色画像の色と実質的に合致させることによって,その結果同時に色調整されたデジタル商品カタログのデジタル画像(モニタ表示)を得ること
③ 上記②の色補正に当たっては,公知のコンピューター画像処理手法(例えばAdobe社 Photoshop LE-J(登録商標))を用いた色補正処理を用いることができること
ウ 本件追加事項の技術的意義
本件追加事項の意味は,「色調整の指標とする「基準色画像部分」のみを画像処理(色補正)対象として選択しないこと」,つまり,商品カタログに組み込まれてデジタル化されて消費者に送信され,モニタに表示された商品カタログの「基準色画像(部分)」は,消費者の手元にある基準色画像と対比するための比較対象部分とするが,その基準色部分のみを画像処理(色補正)対象として選択しないことを意味する(甲8の1,10)。そして,本件追加事項の部分の意義が,画像中の「基準色画像部分α‘」のみを色補正の対象として選択するのではなく,画像全体につき色補正の対象とすることは,「同時」補正という本願発明の技術思想を理解し,また,色補正手段として「Adobe社 Photoshop LE-J」等の公知手段を利用できることを理解した当業者であれば,当然に理解する具体的処理方法である。
エ 新規事項の有無
よって,本件追加事項を追加する本件補正は,本願当初明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないことは,明らかである。
(2) 本件審決の具体的誤り
ア 当業者であれば,本件追加事項は,本来なら,補正処理の目標である基準色画像(部分)のみを補正対象として選択するところを,あえて,そのような選択をしないこと(画像全体を補正対象として同時に色補正を行うこと)を指示する意味であると理解する。すなわち,本件追加事項における「選択機能を機能」は,画像の一部の処理の場合のみを意味し,画像全体の処理の場合を含んでいない。
イ そもそも,本願発明における「選択機能を機能させる」という文言の技術的意義を認定もせずに判断した本件審決は,一種のトートロジーである。
(3) 小括
よって,本件補正は法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとした本件審決の判断は,誤りであり,取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
(1) 原告らは,本件追加事項における「選択機能を機能させずに」の意義は,「画像全体を補正対象とする場合」を表す文言としてとらえるべきであると主張する。
しかしながら,まず,特許請求の範囲の「自己」,「システム」及び「選択機能」が何を示すか本願明細書に記載されていない上,様々な構成が想定され得るものであり,原告らの主張するような限定的な意味に把握することはできない。
次に,本願当初明細書には,色補正の技術として「例えば公知のコンピューター画像処理手法(例えばAdobe社 Photoshop LE-J(登録商標))を用いた色補正処理」を用いることが可能であることが記載されているが,色補正処理の具体的な動作が記載されているものでなく,これが「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正を行うものであることや,「Adobe社 Photoshop LE-J」以外の手法を用いて色補正処理を行う場合の具体的な動作については何ら記載されていない。
さらに,「Adobe社 Photoshop LE-J」では,たとえ画像全体を処理対象とする場合であっても,画像全体を「選択する」ことに変わりはないから,本願当初明細書に「選択機能を機能させず」に色補正処理を行うことは何ら記載されていない。
よって,本件追加事項に関しては,本願当初明細書等には記載されておらず,また,これから自明な事項であるともいえない。
(2) 原告らが本件追加事項は色調整の指標とする「基準色画像部分」のみを画像処理(色補正)対象として選択しないことを意味するという趣旨で主張していることを考慮したとしても,本願当初明細書において,自己のシステムにおける選択機能を機能させることの記載は見当たらないから,本件審決の判断に誤りはない。
(3) 本件審決においては,「選択機能」に関係する技術的事項を,単に「選択機能」という文言だけでなく,当初本願明細書等の実質的な記載や,色補正に関する公知技術として挙げられた「Adobe社 Photoshop LE-J」のユーザガイドに記載された事項も含めて,総合的に考慮して認定したものである。
また,色補正処理の公知の技術として例示した「Adobe社 Photoshop LE-J」のユーザガイドを考慮すれば,たとえ画像全体を補正対象とする場合であっても,「画像全体を選択する」のであるから,当業者であれば,本願発明において「画像全体を補正対象とする」事項に対しても「選択機能を機能させる」と考えるのが合理的である。
(4) よって,本件審決の法17条の2第3項についての判断に誤りはない。
2 取消理由2(特許法36条6項1号及び法36条4項に関する判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
(1) 原告らが,審判請求時に,「基準色画像が一体にされた商品カタログの画像」において,基準色画像部分を色調整した場合に,その基準色画像は基準色以外の部分と同時に色調整されることが記載されていると主張していたことは,明らかである。本件審決の判断は,意味不明である。
(2) 本件審決は,「Adobe社 Photoshop LE-J」を使用した場合には,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正を行うことはないため,この点においても,上記原告らの主張を採用することはできないと判断したが,前記1のとおり失当である。
(3) 画像処理方法が「Adobe社 Photoshop LE-J」に限られるものではないことは,本願当初明細書(【0024】)の記載から明らかであり,他の画像処理が発明の詳細な説明に開示されていないとした本件審決は誤りである。
(4) デジタル商品カタログの一部に組み込まれている基準色画像部分を画像処理(色補正)対象として選定することをしないで,例えば「Adobe社 PhotoshopLE-J」などの公知の画像処理手法で,当該基準色画像部分を含んだ画像を補正しようとすれば,画像全体を補正対象とする以外にあり得ず,当業者も当然そのように理解することは,前記1のとおりである。
〔被告の主張〕
(1) 本願当初明細書等には,そもそも「選択機能」に関する説明は何ら記載されておらず,「選択機能を機能させる」という文言の意味も,「選択機能を機能させずに」という文言の意味も,本願当初明細書等には全く記載されていないのであるから,たとえ本願発明における色補正処理の公知の技術が「Adobe社 Photoshop LE-J」に限られないものであっても,「選択機能を機能させずに」色補正の画像処理を行うこと自体,発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(2) よって,本件審決の特許法36条6項1号及び法36条4項についての判断に誤りはない。
3 取消事由3(特許法29条2項に関する判断の誤り)について
〔原告らの主張〕
(1) 相違点の認定判断手法の不当性
相違点1,3,6及び7に係る本願発明の各構成並びに相違点2,3,4及び8に係る本願発明の各構成は,それぞれ密接不可分の構成であり,これらの相乗作用によって本願発明の効果が奏されるものであるから,これらはひとまとまりの相違点として認定の上,その容易想到性を検討すべきであって,本件審決がそれぞれの容易想到性を別個に判断している認定判断手法自体,不当である。
本件審決は,本願発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく,相違点をことさらに細かく分けて認定した上で,その容易想到性を別個に判断した結果,本来進歩性が肯定されるべき本願発明に対し,進歩性を否定したものである。
(2) 相違点1,3,6及び7に係る構成(「基準色画像」に係る構成)の容易想到性判断の誤りについて
ア 相違点1,3,6及び7に係る本願発明の構成の特徴と容易想到性について
(ア) 本願発明の「基準色画像」に係わる構成の特徴について
本願当初明細書等の記載から明らかなとおり,本願発明の課題解決手段の特徴の一つは,「インターネット情報通信システム」による色化け問題の解決手段の一部として,RGB等公知の「基準色画像」を,商品の販売元と一般消費者に共通する判断の物差しとして設定した点にある。この構成により,本願発明は,複数の販売元と複数の消費者との間の取引となる,「インターネット情報通信システム」を介した商品取引における,不特定多数の利用者(不特定多数の潜在消費者)に対して,販売元と共通の物差しを提供することを可能にし,もって,インターネット通信システムを介した販売商品の宣伝における「色化け」問題を解決したのである。
(イ) 対比すべき引用発明の特徴について
引用例1及び2には,本願発明のように,色調対比用の画像として,消費者と販売元とで容易に共有することができる,RGB等の公知の「基準色画像」を採用するという技術思想については,開示も示唆もない。そもそも,引用発明は,特定二者間の取引においてのみ有効な,色補正値を得ることを前提とする2段階の手法であるため,「インターネット情報通信システム」を利用した場合に直面する不特定多数の利用者という発想がない。よって,引用発明には本願発明の課題の認識も存在しない。
(ウ) 以上のとおり,相違点1,3,6及び7に係る本願発明の構成は,引用発明及び引用例2から当業者が容易に想到し得たものでないことは明らかである。
イ 本件審決の判断の具体的な誤りについて
(ア) 相違点3の判断について
デジタル商品カタログを送信する通信手段が,本願発明では,「インターネット情報通信システム」であり,そのため,情報の受信者が不特定多数の潜在消費者であるという,相違点3に係る本願発明の構成は,本願発明の「基準色画像」に関する構成(相違点1,6及び7に係る構成)の容易想到性を判断する上で不可欠の前提であり,これのみを切り出して判断してよいものではない。「インターネット情報通信システム」を利用し,情報の受信者が不特定多数の潜在消費者であるからこそ,「標準として別途用意された写真等不特定多数の利用者に提供するのは,現実的に不可能」という課題が発生するところ,引用発明には,このような課題に対する認識は全く存在しない。本件審決は,相違点3のみを切り出して容易想到性の判断を行うことで,引用発明が上記の課題認識を前提としていないことを俎上に載せることを阻害している。これは,他の相違点の容易想到性の判断にも大きな影響を与えるものであり,誤りである。
(イ) 相違点1及び6の判断について
本願発明の課題解決手段の特徴の1つは,RGB等公知の「基準色画像」を,商品の販売元と一般消費者に共通する判断の物差しとして設定したことにより,「標準として別途用意された写真等不特定多数の利用者に提供するのは,現実的に不可能」というインターネット情報通信システムを利用した場合に特有の課題を解決した点にある。これに対し,引用例1には,色調対比用の画像として,消費者と販売元とで容易に共有することができる,RGB等の公知の「基準色画像」を採用するという技術思想は,開示も示唆もない。
よって,引用発明における「標準イメージ」と本願発明における「基準色画像α」,引用発明における「前記標準イメージ」部分と本願発明における「基準色画像部分α‘」とは,それぞれ明らかに相違するものであり,本件審決の判断は,失当である。
(ウ) 相違点7の判断について
本件審決は,相違点1及び6についての判断を前提に相違点7について判断したが,その前提が誤りであるから,失当である。
(3) 相違点2,3,4及び8(「一体組込み」「同時補正」に係る構成)の容易想到性判断の誤りについて
ア 相違点2,3,4及び8に係る本願発明の構成の特徴と容易想到性について
(ア) 本願発明の「一体組込み」「同時補正」に関する構成の特徴
本願発明の課題解決手段の特徴の1つは,彩色商品の見本画像と基準色画像を「組込ん」だ商品カタログを作成,送信し,これを受信者側で,この彩色商品の見本画像と基準色画像とが「一体」となった画像について,公知の画像処理手法を用いて,かつ,比較・色補正の対象となる基準色画像部分のみを補正対象として選択せずに,画像全体を補正対象として基準色画像部分の色補正を実施することで,残りの画像部分も「同時に」同一条件で色補正するという点にある。この構成により,本願発明は,複数の販売元と複数の消費者との間の取引となる,インターネット情報通信システムを介した商品取引における次の課題を解決したものである。
a 引用発明のような段階的イメージから最適イメージを選択して補正値を得るという手法(2段階手法)では,低い精度での色補正しか実現できなかったという課題を,上記構成に係る手法により,精度の高い色補正を可能とした。
b 引用発明のような2段階手法の場合は,販売元及び/又は消費者それぞれのシステムを構成する機器に変更がないこと,販売元及び/又は消費者の作業システム,作業環境が実質的に変化していないことを前提条件としているので,これらが常に変化する可能性を持っている「インターネット情報通信システム」を利用した商品取引の場合,定期的にこれらの前提条件に変化がないかを確認する煩雑な作業が必要であった。
本願発明は,上記の「一体組込み」,「同時補正」の構成によって,販売元及び/又は消費者それぞれのシステムを構成する機器・環境が常に変化する可能性のある「インターネット情報通信システム」を利用した場合において,機器・環境の変化の有無にかかわらず,いつでも精度の高い色補正を可能としたものである。
(イ) 対比すべき引用発明の特徴について
引用発明は,まずは標準イメージから補正値を取得し,その後,この補正値を商品情報のイメージに適用することで商品情報イメージを補正するという構成を採用することで,「表示装置のつまみ等を操作せず」に,また,「表示毎の調整を行う必要がなく,操作が簡単になる」という効果を奏するものである。
引用発明の上記効果は,販売元及び/又は消費者それぞれのシステムを構成する機器に変更がないこと,販売元及び/又は消費者の作業システム,作業環境が実質的に変化していないことを前提条件としているため,当該前提を遵守することが事実上不可能な「インターネット情報通信システム」を利用した取引には適用できないが,上記の前提条件が遵守できる特定二者間の取引である限り,表示毎の調整が不要なので,本願発明の方法より簡便である。すなわち,引用発明は,上記の前提が遵守できる状況における特定二者間の取引において,商品情報画像の色補正を簡易化することを目的とした発明である。そして,「インターネット情報通信システム」を利用する場合は,引用発明の効果を奏することはできないから,引用発明は,そもそも,「インターネット情報通信システム」を利用して不特定多数の潜在消費者を取引先とする場合に適用することを想定していない。
(ウ) これに対し,本願発明は,販売元及び/又は消費者それぞれのシステムを構成する機器に変更がないこと,販売元及び/又は消費者の作業システム,作業環境が実質的に変化していないことを前提条件とした場合には,表示毎の調整(補正)を必要とするため,引用発明よりも不便かもしれないが,販売元及び/又は消費者の機器・環境の変化の可能性が常に存在する「インターネット情報通信システム」を利用し,「不特定多数の潜在消費者」を取引先とした場合において「一体組込み」,「同時補正」の構成を採用することによって,機器・環境の変更の有無にかかわらず,いつでも精度の高い色補正を可能としたものである。
(エ) 以上のとおり,引用発明と本願発明とは,目的・効果において相互に全く異なるから,引用発明にいかなる発明を組み合わせようと,本願発明の相違点2,3,4及び8に係る構成を当業者が容易に想到し得たはずがない。
イ 本件審決の判断の具体的な誤りについて
(ア) 相違点2,4及び8に係る本願発明の構成は,いずれも,本願発明の「一体組込み」,「同時補正」に関わる構成であるから,一体不可分の構成として,その容易想到性を検討すべきものである。また,「インターネット情報通信システム」を利用するからこそ,販売元側にも消費者側にも機器・環境の変更の可能性が常に存在することになり,そのような場合における色補正の精度を高めることが,本願発明の解決課題の一つであるから,相違点3を上記の「一体組込み」,「同時補正」に関わる構成と切り離してその容易想到性を検討することは許されない。
(イ) 相違点3の判断について
「インターネット情報通信システム」を利用するからこそ,販売元側にも消費者側にも機器・環境の変更の可能性が常に存在することになるのであり,引用発明には,このような課題に対する認識は全く存在しない。本件審決は,相違点3のみを切り出して容易想到性の判断を行うことで,引用発明が上記の課題認識を前提としていないことを俎上に載せることを阻害している。これは,他の相違点の容易想到性判断にも大きな影響を与えるものであり,違法である。
(ウ) 相違点2の判断について
本願発明は,「少なくとも一つの彩色商品の見本画像」に「色調対比用画像」を「組込ん」だものを1つのデータとして利用者に提供するからこそ,販売元側にも消費者側にも機器・環境の変更の可能性が常に存在する「インターネット情報通信システム」を利用した場合において,機器・環境の変化の有無にかかわらず,いつでも精度の高い色補正を可能としたものである。
他方,引用発明は,まずはイメージデータの色補正により補正値を得て,その後に当該補正値を適用して商品情報のイメージの色補正をするというものであり,補正値取得の前後で,販売元・消費者双方の機器・環境に変化がないことを前提とした上で,「表示毎の調整を行う必要がなく,操作が簡単になる」という効果を奏することを目的とした発明であるから,わざわざ,商品情報のイメージに標準イメージを「組込む」必要性がない。
以上のとおり,引用発明には,「少なくとも一つの彩色商品の見本画像」に「色調対比用画像」を組込む動機付けがないから,相違点3に係る本願発明の構成を,当業者が引用発明から容易に想到し得たとはいえないことは明らかである。
(エ) 相違点4及び8の判断について
「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正を行うことも,色補正を「同時に」行うことも,引用例2に開示されていると仮定しても,それらの構成を引用発明に組み合わせる動機付けが存在しない。
すなわち,引用発明は,補正値取得の前後で,販売元・消費者双方の機器・環境に変化がないことを前提とした上で,「表示毎の調整を行う必要がなく,操作が簡単になる」という効果を奏することを目的とした発明であるから,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正を行うことも,色補正を「同時に」行うことも,わざわざ行う必要性がない。
したがって,相違点4及び8に係る本願発明の構成を,当業者が引用発明及び引用例2から容易に想到し得たとはいえないことは明らかである。
〔被告の主張〕
(1) 相違点の認定判断手法及び相違点3について
本願明細書(【0013】)に記載された色化けの原因の中にインターネット特有の問題はない。また,たとえ本願発明のようにインターネットを用いた不特定多数に対する配信であっても,送信側と受信側の双方の作業環境の違いによる補正値は受信側の環境に応じて異なることに変わりはなく,各受信側における補正値は特定二者間の通信の場合と変わらず,当該送信側と受信側の関係のみに有効な値であるとみるべきである。よって,本願発明において,通信手段として「インターネット情報通信システム」を用いることや,「不特定多数の潜在消費者」に対して情報を提供することに格別の効果があるとはいえない。
また,インターネットを利用するからこそ常に変更の可能性が生じる要因としては,例えば通信帯域やビットレート等の通信環境の変化が考えられるが,たとえ通信環境が変化したとしても,その変化によって販売元側と消費者側でのモニタの表示特性が影響を受けるとは考えられない。そのため,「インターネット情報通信システム」の利用に関する相違点3が,本願発明の「基準色画像」に関する構成(相違点1,6及び7に係る構成)と一体不可分であるとする合理的な理由はない。
さらに,たとえ引用発明が2段階手法であったとしても,その手法を「インターネット情報通信システム」で利用することと,引用発明のように公衆網を介して伝送するシステムで利用することの間に,格別の問題意識の違いは生じないから,本願発明の相違点3を,「一体組込み」,「同時補正」に関する構成(相違点2,4及び8に係る構成)と一体不可分の構成であるとする合理的な理由はない。
(2) 相違点1,6及び7について
ア 相違点1及び6について
引用発明において,公衆網を経由して商品情報や標準イメージを提供する場合の「標準イメージ」は,利用者の端末において正しい色調及び濃淡で商品情報のイメージを表示するための判断基準として「業者」,すなわち販売元から利用者の操作端末側へ送信されるものであるから,本願発明の「基準色画像」と実質的に違いはない。加えて,引用発明の「基準イメージ」も,送信側から受信側へと提供されることにより簡単に送信側と受信側で同一のデータを共有できるから,原告らが主張する「一般消費者,販売元が容易に共有することができる」という効果は,引用発明の「基準イメージ」も本願発明の「基準色画像」と何ら変わりはない。
イ 相違点7について
上記のとおり,相違点1及び6に関する本件審決の判断に誤りはないから,相違点7に関する原告らの主張も失当である。
(3) 相違点2,4及び8について
ア 相違点2について
引用発明において,「商品情報」と「標準イメージ」をあえて別々に送信されるものとしてみるべき理由はなく,両者を一緒に提供されるものとして捉えることに誤りはない。「インターネット情報通信システム」を利用することによる機器や環境の変化によって,本願発明が課題とする色化けの問題がより顕著になるとは考えられないから,引用例1にインターネットによる情報通信を行うことが記載されていないからという理由のみをもって,動機付けがないという根拠にはならない。
イ 相違点4及び8について
引用発明の課題や目的に照らすと,引用発明においても,「標準イメージ」だけでなく「商品情報」のイメージを色調や濃淡の補正の対象と見るべきである。また,引用発明において,同一の補正値により「標準イメージ」と「商品情報」のイメージの両方を補正する際に,両者への色補正を別々に行うものであろうと,同時に行うものであろうと,目的が双方に同様の色補正をするものであることに変わりはないから,引用発明が同時に色補正を行うものではないからといって,「同時に」色調補正を行う技術を組み合わせる動機付けが存在しないとはいえない。
第4当裁判所の判断
1 本願発明について
特許請求の範囲の請求項1及び本願明細書の記載(【0001】~【0027】【0059】)によれば,本願発明は,以下のような課題を解決するため,発明されたものである。
すなわち,インターネット情報通信システムやCD-ROM等の記録媒体により提供されて消費者のパソコンのモニタに表示される商品カタログの色が必ずしも販売元の商品カタログの色ひいては現実の商品の色と一致しないという問題の解決手法として,従来,CD-ROM等の記録媒体を介して商品情報を入手した利用者が自らの表示装置に標準イメージ及びこれの色調や濃淡を段階的に変化させた複数のイメージを表示装置に並べて表示し,表示された複数のイメージから別途用意された標準イメージに対応する写真と合致するイメージを選択することにより色調や濃淡を変化させる際のパラメータを記憶装置に格納して,以降の同じ記録媒体からの商品イメージを表示する際格納されたパラメータを適用して色補正をする例が存在したが,色調や濃淡の組合せの数に比して表示されるイメージの数が少ないことから最適のパラメータが設定される可能性が低い等の問題があった。
本願発明は,前記の色の不一致の問題と併せて,この問題をも解決すべく,彩色商品の見本画像と基準色画像を組み込んで商品カタログとしたものをデジタルデータとしてインターネット情報通信システムを介して不特定多数の潜在消費者である受信者に送信し,これを受信した受信者が自己が所有する前記基準色画像の色調に合致するように「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」モニタ表示画像中の基準色画像部分の色調を色補正してモニタ表示画像の基準色画像部分以外の他の部分の色調も「同一条件」かつ「同時に」補正するようにしたものである。
2 取消事由1(法17条の2第3項に関する判断の誤り)について
(1) 「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」の技術的意義について
ア 特許請求の範囲の記載
本願発明の特許請求の範囲には,デジタル商品カタログを受信した受信者が,デジタル商品カタログの受信データをデジタル画像として自己が所有する画像システムのモニタに表示した上で「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」,その画像中の送信に伴い色変わりしている基準色画像部分の色調を,情報の受信者が自己が所有する基準色画像の色調に合致した色調に色補正することによって,この補正と同一条件でかつ同時にモニタ表示画像の基準色画像部分以外の他の部分の色調も補正することが記載されている。
このことから,特許請求の範囲の文言上は,商品カタログの基準色画像部分以外の他の部分が基準色画像部分と同一条件でかつ同時に色補正されるように,商品カタログの受信者が基準色画像の色補正を「自己のシステムにおける選択機能」を機能させずに行うことは特定されているものの,この「自己のシステムにおける選択機能」の意義は明らかでない。
イ 発明の詳細な説明の記載
この点について,発明の詳細な説明(【0024】)には,「最近コンピューター画像処理技術が急速に発展し,自己の所有するパソコンのモニタに表示されたデジタル画像色の単純な補正が一般家庭でも容易に出来るようになった。従って,本願発明の場合でも,自己の所有するパソコンのモニタに表示された基準色のデジタル画像の色を自己が所有するこの基準色画像の色(印刷された基準色画像の色)と比較して目視で両者間の相違が明瞭に認識された場合に,例えば公知のコンピューター画像処理手法(例えばAdobe社 Photoshop LE-J(登録商標))を用いた色補正処理によって,モニタ表示のデジタル基準色画像の色を自己が保有する印刷基準色画像の色と実質的に合致するように補正すれば,前記デジタル基準色画像と共に表示されている商品のデジタル画像の色も補正されるので,色品質を重視した商品の選択が効率的に高い精度で可能となる。」と記載されている。
ウ 「自己のシステムにおける選択機能」の意義
発明の詳細な説明に「公知のコンピューター画像処理手法」として記載された「Adobe Photoshop LE-J」のユーザガイド(以下「本件ユーザガイド」という。)の「第3章:選択範囲の操作」には,選択ツールにより,①「画像の一部を補正する具体的方法」と②「画像全体を補正する具体的方法」とが記載されている(甲8の2)。なお,「公知のコンピューター画像処理手法を用いた色補正処理」として,本件ユーザガイドに記載された上記以外の技術的事項があると認めるに足りない。
そうすると,「自己のシステムにおける選択機能」とは,受信者所有のパソコンのような「自己のシステム」に含まれる,本件ユーザガイドにおける①「画像の一部を補正する具体的方法」と②「画像全体を処理する具体的方法」のことであり,いわゆる「選択ツール」により編集操作の対象として画像の一部又は全部を選択する機能のことをいうものと解される。
エ 「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」の意義
また,「機能させずに」は,文字どおり,上記のような「自己のシステムにおける選択機能」を機能させないことを示している。
そうすると,基準色画像を「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正するとは,受信者所有のパソコンのような「自己のシステム」に含まれた「選択機能」である「選択ツール」により編集操作の対象として画像の一部又は全部を選択する機能を機能させないで色補正をすることを意味するものである。すなわち,選択機能を機能させて色補正するものと,上記選択機能を機能させずに色補正するもののうちの,後者を特定して記載したものである。
オ 原告らの主張について
原告らは,本件追加事項にいう「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」における「選択機能を機能(させる)」とは,画像の一部の処理の場合のみを意味し,画像全体の処理の場合を含んでいないと主張する。
しかしながら,発明の詳細な説明を参酌しても,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」との文言が,上記②の「画像の全部」を選択する機能と区別された,上記①の「画像の一部」を選択する機能を機能させないことを表現したものであると解することはできない。
すなわち,本件ユーザガイド(甲8の2)の「画像の選択」や「選択ツールの使い方」には,選択ツールは画像の一部を長方形状か楕円形状に選択することができること,矩形では選択範囲が長方形状になり,Shiftキーを押しながらドラッグすれば正方形状に選択できること,標準ではドラッグして選択範囲を指定すること,画像全体をカット,コピー又は塗りつぶしなどの編集操作の対象としたい場合は,選択範囲メニューから「全てを選択」を選択すること,「全てを選択」のコマンドを選ぶと,画像の周囲全体に選択範囲を表す境界線が現れること等が記載されている。ここでは,画面の長方形状の「部分」を選択するための選択ツールで最大の長方形としての画面「全体」を選択することができ,逆に「全てを選択」を選択することでいわゆるマーキーとよばれる境界線が現れてこれをドラッグすれば長方形の「部分」選択となる。このことから,本件ユーザガイドに記載された「選択ツール」の機能としての「画像の全部」の選択と「画像の一部」の選択とは,同じものであり,一方から他方を区別することはできないものである。よって,本願明細書における「選択機能」も,画像の全部の選択と画像の一部の選択をそもそも区別することができないものと解される。
このように,本願明細書には,上記②の「画像の全部」を選択する機能から区別された上記①の「画像の一部」を選択する機能は記載されていないのであるから,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」との文言が,上記②と区別された上記①を機能させないことを意味すると解することはできない。
よって,「公知のコンピューター画像処理手法」を用いた「色補正処理」(【0024】)につき,本件ユーザーガイド(甲8の2)においても「画像の一部」を選択する機能と「画像の全部」を選択する機能とを技術的に区別することができないから,その区別を前提に,画像の一部を選択する機能を選択しないことが本件追加事項であるかのようにいう原告らの主張は採用できない。
(2) 本件補正の適否
ア 新規事項か否かについて
本件補正の適否については,本願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,本件追加事項の追加が,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを判断することによって,適法な補正か否かを判断すべきである。
イ 本願当初明細書の記載
本願明細書(【0024】)の記載内容は,審査審判段階を通じて補正されていないから,本願当初明細書等の記載においても,「公知のコンピューター画像処理手法」を用いた「色補正処理」においては,「画像の一部」を選択する機能を「画像の全部」を選択する機能から区別することができず,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」に対応する技術的事項が記載されていない。そして,本願当初明細書等の他の箇所を併せて検討しても,これを含むように一般化された技術的事項を導くことはできない。
そうすると,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」という事項は,本願当初明細書等に明示的に記載されていない。のみならず,本願当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項ということもできない。
したがって,本件追加事項(「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」という事項)は,本願当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項とはいえず,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものといわざるを得ない。
(3) 原告らの主張について
ア 原告らは,通常は実際に補正する基準色画像α‘の部分のみを対象として色補正するところを,本願発明では,あえて,残りの画像部分と補正処理を一体とすることで「同時に」画像全体を色補正するものであり,本件追加事項は,基準色画像α‘部分のみを色補正の対象とするのではなく,画像全体を色補正の対象とすることを注意的に明らかにする趣旨のものであると主張する。
しかしながら,基準色画像の色補正を「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」行うことは,このような色補正を,受信者所有のパソコンのような「自己のシステム」に含まれた「選択機能」である「選択ツール」の機能を用いずに行うことを意味すると解されるのであって,基準色画像α‘部分のみならずこれ以外の部分をも色補正の対象とすることは,「この補正と同一条件で且つ同時にモニタ表示画像X‘のα‘以外の他の部分の色調も補正する」という記載によって示されているものである。自己のシステムにおける選択機能を機能させずに行う色補正が画像全体を対象とするものであるかのようにいう原告らの主張は,特許請求の範囲の記載を正解しないものである。
イ 原告らは,本件追加事項の根拠となる記載として,本願当初明細書の【0024】のほか,本件審決が摘示した【0024】【請求項1】【請求項4】【請求項6】【0029】【0032】【0034】【0045】【0057】や本件審決が摘記していない【0019】【0020】【0042】~【0044】及び図1の記載を挙げている。
しかしながら,前記(1)エのとおり,基準色画像の色補正を「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」行うとは,このような色補正を,受信者所有のパソコンのような「自己のシステム」に含まれた「選択機能」である「選択ツール」の機能を用いずに行うことを意味するものである。
そして,原告ら主張に係る本願当初明細書の記載は,いずれも,「選択ツール」の機能を用いずに色補正を行うことを記載したものではないし,基準色画像の色補正を,上記の意味における「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」行うことを示すものとはいえない。
(4) 小括
よって,取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2(特許法36条6項1号及び法36条4項に関する判断の誤り)について
(1) 特許法36条6項1号について
前記2(1)のとおり,特許請求の範囲に記載された「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正するとは,このような色補正を,受信者所有のパソコンのような「自己のシステム」に含まれた「選択機能」である「選択ツール」の機能を用いずに色補正することを意味するものであって,「選択機能」を機能させて色補正するものと,機能させずに色補正するもののうち,後者を特定して記載したものである。
これに対して,発明の詳細な説明(【0024】)に記載された「公知のコンピューター画像処理手法」を用いた「色補正処理」においては,「画像の一部」を選択する機能を「画像の全部」を選択する機能から区別することができず,この記載を含め発明の詳細な説明において,基準色画像の色補正を「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」に行うことに対応する技術的事項が何ら記載されていない。
そうすると,特許請求の範囲に,発明の詳細な説明には記載されていない,基準色画像の色補正を「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」行うことを記載したものであるから,特許法36条6項1号の要件を満たしていない。
(2) 法36条4項について
同様に,発明の詳細な説明が「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」行う点につき当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから,法36条4項の要件を満たしていない。
(3) 原告らの主張について
ア 原告らは,発明の詳細な説明(【0024】)の記載から,ここでいう画像処理方法が「Adobe社 Photoshop LE-J」に限られないことは明らかであると主張する。
しかしながら,特許請求の範囲に記載の「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」が,前記のとおり,「自己のシステム」に含まれた「選択機能」である「選択ツール」の機能を用いずに色補正することを意味するにもかかわらず,「選択機能」を機能させて色補正する「Adobe社 Photoshop LE-J」以外の具体的内容は,発明の詳細な説明に何らの記載もない。また,原告らは,「公知のコンピューター画像処理手法」を用いた「色補正処理」として,「Adobe社 Photoshop LE-J」に係る本件ユーザーガイド以外の具体的方法について,何ら主張立証しない。
イ 原告らは,デジタル商品カタログの一部に組み込まれている基準色画像部分を画像処理対象として選定することをしないで,例えば「Adobe社 PhotoshopLE-J」などの公知の画像処理手法で,当該基準色画像部分を含んだ画像を補正しようとすれば,画像全体を補正対象とする以外にあり得ず,当業者も当然そのように理解する旨主張する。
しかしながら,原告らの主張は,特許請求の範囲の「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」における「選択機能を機能(させる)」とは画像の一部の処理の場合のみを意味し,画像全体の処理の場合を含んでいないという解釈を前提としているところ,前記2のとおり,この解釈を採用することはできない。原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
(4) 小括
よって,取消事由2も,理由がない。
4 取消事由3(特許法29条2項に関する判断の誤り)について
(1) 本願発明の意義
ア 「基準色画像」の技術的意義について
特許請求の範囲には,デジタル・データとして送信される商品カタログに「基準色画像」を「組込」むこと及びモニタ表示された,色変わりした商品カタログの画像のうちの「基準色画像」の部分の色調を,情報の受信者が所有する「基準色画像」の色調に合致するように補正することが記載されている。
このことから,「基準色画像」とは,送信される商品カタログに組み込まれている画像又は商品カタログを受信して表示する者が所有する画像であって,送信に伴って色変わりした画像の色調の補正の際の基準となる画像を意味するものである。また,請求項1は,基準色画像がどのような種別のものであるかを特定していない。
この点について,発明の詳細な説明(【0021】【0059】)の記載によれば,RGB基準色画像,JIS規格等公知の画像を基準色画像とすることが手数や費用からみれば望ましいものの,このような手数や費用を考えなければ,特別に設計した専用の基準色画像のような公知でないものも採用できることが示されている。このことからみても,特許請求の範囲の「基準色画像」の文言自体により基準色画像の種別が特定されていると解することはできない。
イ 「組込」みの技術的意義について
特許請求の範囲は,基準色画像を「組込」んだ彩色商品の見本画像を商品カタログとすることを特定するものの,「組込」む態様を特定していない。
そして,発明の詳細な説明も「組込」む態様につき何ら述べるところがない。
(2) 相違点3の判断を他の相違点の判断から切り離したことについて
ア 引用例1に引用発明が記載されていること及び本件審決の一致点の認定は,当事者間に争いがない。また,本件審決が認定した相違点1ないし8が相違点であること自体も争いがない。
イ 相違点1,2,4ないし8は,いずれも,彩色商品カタログの画像伝達における色変化情報の伝達方法の相違を指摘するものである。これに対し,相違点3は,彩色商品カタログの画像伝達を行うための手段とその手段により画像が伝達される者の相違を指摘するものであり,色変化情報の伝達方法そのものではなく,その前提となる彩色商品カタログの画像の伝達のための手段に係る相違を指摘するものである。
そして,本願発明が課題とした,消費者のパソコンのモニタに表示される商品カタログの色が販売元の商品カタログの色や現実の商品と一致しないという色不一致の問題は,商品カタログの画像を消費者が不特定多数者であるか否か及びどのように消費者に画像を伝達するかとは無関係に生ずるのであり(本願明細書【0004】),このことからすれば,彩色商品カタログの画像の伝達のための手段に係る相違を色変化情報の伝達方法の相違と一体のものとして判断すべきであるとはいえない。
そうすると,本願発明の構成のみならず課題に照らしても,相違点3をその余の相違点と一体不可分の構成として検討しなければならないものではなく,本件審決が相違点3を他の相違点と独立したものとして検討し判断した点に,取り消すべき違法があるとはいえない。
ウ 原告らの主張について
(ア) 原告らは,相違点3に係る本願発明の構成は,本願発明の「基準色画像」に関する構成である相違点1,6及び7に係る構成の容易想到性を判断する上で不可欠の前提であり,これのみを切り離して判断してよいものではなく,「インターネット情報通信システム」を利用し,情報の受信者が「不特定多数の潜在消費者」であるからこそ,「比較対象となる写真等を不特定多数の利用者に提供するのは,現実的に不可能」(【0009】)という課題が発生するのに対し,引用発明には,このような課題認識が全く存在しないと主張する。
しかしながら,本願明細書においては,比較対象となる写真等を不特定多数の利用者に提供するのが現実的に不可能であるとの課題(【0009】)は,基準色画像としてRGB基準色画像やJIS規格等の公知の基準色画像を採用することによって解決されるところ(【0021】【0059】),特許請求の範囲の請求項1は基準色画像がどのような種別のものであるかを特定していない。
そうすると,原告らが主張する課題は,そもそも本願発明が解決しようとしたものとはいえないのであって,原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
(イ) 原告らは,相違点3に係る本願発明の構成は,本願発明の「一体組込み」「同時補正」に関する構成である相違点2,4及び8に係る構成の容易想到性を判断する上で不可欠の前提であり,これのみを切り出して判断してよいものではなく,「インターネット情報通信システム」を利用するからこそ,販売側にも消費者側にも機器や環境の変更の可能性が常に存在することになり,特定二者間の取引を前提とした引用発明には,このような課題認識が全く存在しないからこそ2段階手法を採用している旨を主張する。
しかしながら,CD-ROMや公衆網を用いても,不特定多数の潜在消費者にカタログを提供することはでき,特定二者間の取引に限定されるとはいえないし,インターネットにより提供された商品カタログであっても以前に表示した際の色調の補正の結果を用いた表示ができないこともなく,2段階手法を採用できないともいえない。
よって,本願発明の「一体組込み」「同時補正」に関する構成は,必ずしも「インターネット情報通信システム」を利用することにより生ずるものではないから,原告らの主張は,失当である。
(3) 相違点1,6及び7の判断について
ア 相違点1,6及び7は,いずれも,彩色商品カタログの画像伝達における色変化情報の伝達に係る色調対比のための画像(本願発明にいう「基準色画像」)が本願発明と引用発明との間で相違することをいうものである。
そして,前記(1)のとおり,本願発明は,基準色画像の種別について何ら特定していないのであるから,これらの相違点は表現の上でのものであって,実質的なものではない。
よって,相違点1及び6について「単なる呼称の相違」であるとし,さらに相違点7について相違点1及び6の判断を引用して「適宜なし得たこと」であるとした本件審決の判断に誤りはない。
イ 原告らの主張について
(ア) 原告らは,本願発明にいう「基準色画像」とは,RGB基準色画像,JIS規格等の公知の基準色画像である旨主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,本願発明は基準色画像の種別を特定しておらず,原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
(イ) 原告らは,本願当初明細書(【0059】)の「特別に設計した自社商品カタログ専用の基準色画像」が本願発明の基準色画像でない旨主張する。
しかしながら,本願発明は基準色画像の種別を特定しておらず,本願明細書においても,「特別に設計した自社商品カタログ専用の基準色画像」が「基準色画像」でないとの主張を裏付ける記載も見当たらない。原告らの主張は,特許請求の範囲の記載にも本願明細書の記載にも基づかないものである。
(4) 相違点2,4及び8の判断について
ア 相違点8について
色調対比用画像部分の色調と彩色商品の見本画像を含む他の部分の色調とを同一条件で補正することに関し,相違点8は,この両部分の色調の補正を「同時に」行うことが引用発明において明確でないというものである。
引用例2には,遠隔地から受信カラー画像表示装置に表示された画像のうち色調対比用画像部分となる基準色見本画像の部分の色調を比較のための基準色見本部材の色調と略一致するように補正する操作に応じて,同時に表示されている患者の部分もこの操作に応じた同じ条件により補正されることによって色ずれが解消されることが記載されている(【0004】【0005】【0017】【0021】【0024】【0025】【0033】【0037】【0043】)。
そして,引用発明は,利用者により受信されて表示装置に表示され色調等が正しく表示されていない商品情報のイメージを補正するにあたって,標準イメージの色調等の補正において用いられた補正値により補正するのであるから,引用例2に記載された技術と同様に,伝達されて表示装置に表示された色ずれを解消すべきである画像の色調を色調対比用画像を補正したのと同じ条件で補正するものである。
そうすると,引用発明において色調等が正しく表示されていない商品情報のイメージの色調等を色調対比用画像の色調を補正するのと同じ条件で補正するにあたって,引用例2に記載された上記技術を採用し,これを同時に行うように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
そして,引用例2には「カラーマッチング操作」に当たって「同時に色調整されること」が記載されているから,引用発明において引用例2記載のとおり「同時に」色補正を行うことは容易に想到することができる。
イ 相違点4について
引用発明に引用例2に記載された技術を採用して「同時」に色補正するように構成することが容易に想到できることは,上記のとおりであるところ,引用例2における色調の補正は,モニタ側のカラー画像表示装置に色信号を調節するための信号を出力する表示画像色調整装置を手動操作することによって行われ,表示画面上の領域選択を伴わないものであることが認められる(【0021】【0033】)。
そうすると,色調を補正する際「選択手段」を「機能させずに」行う点は,引用発明に引用例2に記載された技術を採用することに伴って,必然的に備わるものである。
ウ 相違点2について
彩色商品カタログが「彩色商品の見本画像」と「色調対比用画像」とからなる点について,相違点2は,前者に後者が「組込」まれることが引用発明において明確でないというものである。なお,本願発明が「組込」む態様を特定していないことは,前記(1)のとおりである。
画像を提供する際に用いられる画像ファイルのフォーマットの中に複数の画像を組み込めるものが存在することは当業者において明らかであり,本願明細書が画像を「組込」む態様につき何ら述べていないことからも,裏付けられる。
そして,引用例1においては,彩色商品の見本画像である商品情報を標準フォーマットや利用者側操作端末で処理可能な専用フォーマットで提供する旨の記載から(【0010】),見本画像の提供者は,複数の見本画像(【0011】)を組み込めるフォーマットを含めた任意のフォーマットから適宜選択することができる。
また,利用者側の操作端末のプロセッサが「彩色商品の見本画像」を格納したCD-ROMから色調対比用画像である「標準イメージ」を取り込む旨の記載(【0022】【0025】【0030】)があるから,「標準イメージ」を見本画像と同様のフォーマットで提供することを予定している。
したがって,引用発明は,操作端末で処理可能であり商品の見本画像の提供に用いることができるフォーマットのうち提供者により任意に選択されたものによって見本画像と標準イメージが提供されることを予定しているのであり,このことを踏まえれば,複数の画像を組み込める周知の標準フォーマットを選択したり何らかの態様で標準イメージを見本画像に「組込」んで商品カタログとして提供することは,商品の見本画像の提供者において適宜なし得たことである。
エ 原告らの主張について
(ア) 原告らは,引用発明には,わざわざ,商品情報のイメージに標準イメージを「組込」む必要性も動機付けもなく,また,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」「同時に」色補正を行うことについても,仮に引用例2に記載されていたとしても,これらを引用発明に組み合わせる動機付けが存在しないと主張する。
しかしながら,引用発明において色調等が正しく表示されていない商品情報のイメージの色調等を色調対比用画像の色調を補正するのと同一条件で補正するにあたって引用例2に記載された上記技術を採用し,この補正を同時に行うように構成すること,引用発明において標準イメージを見本画像に「組込」むこと,及び,色補正にあたって「選択手段」を「機能させずに」行うことが,容易に想到できることは,前記のとおりである。
そして,本願発明の「同時に」とは,基準色画像部分とそれ以外の部分の色調の補正のタイミングを特定するにとどまり,補正後の機器や環境の変化に対応すべくいったん補正された補正値を積極的に記憶しない趣旨を含むものと解することはできないし,他方で,引用例1(【0036】)の「表示毎の調整を行う必要がなく,操作が簡単になる」との記載は,いったん補正値が設定されれば表示毎に調整する必要がないことを述べたものであって,標準イメージに基づく補正値の設定と同時には見本画像の色調を補正できないことを示したものではない。この記載を含め,引用発明に引用例2に記載された技術の採用を阻害する記載はない。
原告らの主張は,本願発明及び引用例1の記載内容を正解したものでない。
(イ) 原告らは,引用例2が特殊な構成を含んだ医療用画像伝送装置に係る発明であって「インターネット通信システム」を利用した場合についての課題に認識も同システムを利用するという技術思想もないと主張する。
しかしながら,本件審決は「インターネット通信システム」につき相違点3として認定しその容易想到性を判断している。そして,この相違点3を相違点4及び8と一体不可分の構成として検討しなければならない理由がないことは,前記のとおりであり,引用例2が「インターネット通信システム」の利用に係る課題や技術思想を開示していないことは,相違点4及び8の判断とは無関係の事情である。
5 結論
以上の次第であるから,原告ら主張の取消事由にはいずれも理由がなく,原告らの請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 髙部眞規子 裁判官 齋藤巌)