知財高等裁判所 平成22年(行ケ)10408号 判決 2011年8月25日
原告
株式会社ミゾタ
同訴訟代理人弁理士
富崎元成
富崎曜
被告
特許庁長官
同指定代理人
倉田和博
川本眞裕
常盤務
黒瀬雅一
板谷玲子
主文
1 特許庁が不服2009-23754号事件について平成22年11月24日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成16年6月29日,発明の名称を「ポンプ」とする特許を出願した(特願2004-190665。国内優先権主張日:平成15年7月7日(特願2003-192835)。甲4(枝番については,省略。以下同じ。))。
原告は,平成21年9月16日付けで拒絶査定を受け,同年12月3日,これに対する不服の審判を請求した。
(2) 特許庁は,これを不服2009-23754号事件として審理し,平成22年11月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その審決謄本は,同年12月6日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨
本件審決が判断の対象とした特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(甲4)。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所である。以下,特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本願発明」といい,本願発明に係る明細書(甲4)を,図面を含めて「本願明細書」という。
水路中に設置されるものであって,流入側より吸い込まれる水を吐出させる羽根車を有するポンプにおいて,/前記羽根車に対向して前記ポンプのケーシング内部に設けられたライナーと,/このライナーの内周に設けられ水とともに吸い込まれ絡み付いた異物を捕捉して前記ポンプ内を通過させる異物捕捉体とからなり,/前記異物捕捉体は,前記羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛けるために,前記羽根車の外周縁部に対向して前記ライナーの内周の一部から前記羽根車方向に干渉しない長さに張り出して設けられた1以上の凸部材である/ことを特徴とするポンプ
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明及び下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例1:実願昭52-140767号(実開昭54-67303号)のマイクロフィルム(甲1)
イ 引用例2:実願平4-7485号(実開平5-61489号)のCD-ROM(甲2)
(2) なお,本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明1:汚水中に設置されるものであって,流入側より吸い込まれる汚水を吐出させる羽根車を有する汚水ポンプにおいて,前記羽根車に対向して前記汚水ポンプのケーシング内部に設けられたケーシングライナーと,このケーシングライナーの内周に設けられ汚水とともに吸い込まれ前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を前記羽根先端によって押し込んで前記羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる溝とからなる汚水ポンプ
イ 一致点:水路中に設置されるものであって,流入側より吸い込まれる水を吐出させる羽根車を有するポンプにおいて,前記羽根車に対向して前記ポンプのケーシング内部に設けられたライナーと,このライナーの内周に設けられ水とともに吸い込まれ絡み付いた異物を捕捉して前記ポンプ内を通過させる異物捕捉体とからなるポンプ
ウ 相違点:本願発明においては,「前記異物捕捉体は,前記羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛けるために,前記羽根車の外周縁部に対向して前記ライナーの内周の一部から前記羽根車方向に干渉しない長さに張り出して設けられた1以上の凸部材である」のに対して,引用発明においては,異物捕捉体は溝である点
4 取消事由
本願発明の進歩性に係る判断の誤り
(1) 引用発明1の認定の誤り
(2) 一致点及び相違点の認定の誤り
(3) 相違点についての判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1) 引用発明1の認定の誤りについて
ア 本件審決における引用発明1の認定のうち,「このケーシングライナーの内周に設けられ汚水とともに吸い込まれ前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を前記羽根先端によって押し込んで前記羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる溝とからなる汚水ポンプ」との部分は,誤りである。
イ 引用例1に記載された発明は,直線状の溝と,羽根の螺旋状の先端(線状)とが交差する部分は点であり,塊状固体はこの溝の交点にのみ押し込まれており,この交点は羽根の回転により引用例1の第2図におけるgの方向に移動して,塊状固体が排出されるものである。本件審決は,引用例1の「この羽根と溝の交点に沿い」「溝に沿って」という記載部分を意図的に無視したものというほかない。
したがって,本件審決の上記認定のうち,特に,「前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を前記羽根先端によって押し込んで」との部分は明らかに誤りであって,正しくは,「このケーシングライナーの内周に設けられ汚水とともに吸い込まれ前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を羽根の先端と溝が交差する交点の溝内に押し込まれた状態で,前記羽根の回転により前記交点が前記溝内を移動して,前記羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる前記溝とからなる汚水ポンプ」と認定されるべきである。
ウ 小括
以上からすると,本件審決の引用発明1の認定は,誤りである。
(2) 一致点及び相違点の認定の誤りについて
ア 本願発明について
本願発明の「凸部材」は,最初に異物が羽根車の羽根に絡み,羽根車が回転すると異物が凸部材に引っ掛かり,さらに凸部材に絡み付き,羽根から取り除かれ,ポンプ内を通過して排出されるものである。すなわち,本願発明でいう「捕捉」とは,羽根車の羽根に異物が絡んだ後,この異物を凸部材に引っ掛けて捕捉するものであって,あたかも陸上競技におけるバトンのように,異物が羽根車から凸部材へと受け渡されるものである。
したがって,本願発明では,この凸部材に引っ掛けられた異物は,何かに挟まれているわけではなく,凸部材から外れない限りポンプ内から排出されることもない。
イ 引用発明1について
引用例1に記載された発明において,塊状固体は,「羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を羽根の先端と溝が交差する交点の溝内に押し込まれた状態で,前記羽根の回転により前記交点が前記溝内を移動して,前記羽根車の吸込口から吐出口へ強制的に移動させられる」ものである。すなわち,同発明の溝は,塊状固体を引っ掛けるのではなく,羽根の先端と溝との間で挟んで捕捉するものであり,しかも,羽根の回転に伴って溝内を強制的に移動させられるものである。
ウ 本願発明と引用発明1との対比について
前記ア及びイのとおり,本願発明は,異物を引っ掛けて捕捉するものであるのに対し,引用例1に記載された発明は,塊状固体を挟んで捕捉するものである。
また,本願発明の凸部材で捕捉された異物は,水流又は羽根の先端部等の作用により除去されるまで移動することはなく,除去された後はポンプ内の水流に乗って排出されるのに対して,引用例1に記載された発明の塊状固体は,捕捉された後,溝内を強制的に移動させられるものであるから,本願発明の「異物捕捉体」に相当するものは「溝」ではなく,「溝と羽根との交点」であるというべきである。
したがって,本願発明の異物捕捉体は,異物を絡み付かせて捕捉するものであるのに対して,引用例1に記載された発明の異物捕捉体は,溝と羽根の先端とで挟んで捕捉するものであり,両者は,①異物を捕捉するための構造,②異物の捕捉方法,③捕捉後の異物の動きがいずれも全く異なるものである。
以上からすると,引用例1に記載された発明の,「羽根先端によって押し込んで」「羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる」「溝」が,本願発明の,「捕捉して」「ポンプを通過させる」「異物捕捉体」にそれぞれ相当するとした本件審決の認定は明らかに誤りである。
なお,被告は,本願明細書には,本願発明の実施の形態として「溝」を「異物捕捉体」とする構成が開示されているなどと主張するが,当該構成は,補正により既に削除された請求項の発明に係る構成であるから,被告の主張は失当である。
エ 一致点及び相違点について
前記ウからすると,少なくとも,引用例1に記載された発明の「異物捕捉体」は,「溝と羽根の先端との間で挟んで異物を捕捉するための溝である点」についても,相違点として認定すべきである。
オ よって,本件審決の一致点及び相違点の認定は誤りである。
(3) 相違点についての判断の誤りについて
ア 引用例1に記載された発明について
引用例1には,「塊状固体が溝の側壁に引っ掛かることによって溝内に押し込まれる」「溝は塊状固体を引っ掛ける機能を有している」等の記載は一切ない。
また,一般常識からしても,高速で水流が流れるケーシングライナーにおいて,内面に形成された深さが浅い凹部状の溝に,塊状固体が引っ掛かるとは考え難い。
したがって,引用例1に記載された発明の溝が塊状固体を引っ掛ける機能を有しているとする本件審決の判断は明らかに誤りである。
イ 引用発明2について
(ア) 引用例2には,夾雑物がケーシングと捩り羽根の外縁との隙間部分に入り込む旨が記載されているが,本件審決の「ケーシングの内面から捩り羽根方向に張り出して設けられたカッターには,それ以上に引っ掛かる可能性が高いことは明らかである」との判断に関する記載はない。
(イ) 引用発明2の汚水ポンプは,吸込口から汚水を吸い込むが,汚水の中の夾雑物が汚水ポンプに引っ掛かる場合,最初に回転している捩り羽根に引っ掛かり,これに巻き込まれることになり,その次に,カッターで切断される。
引用発明2におけるカッターは,少なくとも積極的に夾雑物を引っ掛けるためではなく,夾雑物を切断するために配置されたものである。そのため,当該カッターは,円錐状のケーシングの母線に沿わせ,水流の流れを妨げないように,ポンプ内の水流の方向とほぼ平行に,夾雑物が引っ掛からないように配置されている。
そして,引用発明2においては,まず,捩り羽根に夾雑物が絡み,捩り羽根に絡んだ夾雑物がケーシングと捩り羽根の外縁との隙間部分に入り込んでケーシングと捩り羽根の外縁との間に挟まれ,その後に切断されるものである。すなわち,カッターと捩り羽根の外縁との間に夾雑物を挟み,カッターと捩り羽根を互いに接近する方向に移動させて,カッターと外縁との隙間部分にずれを生じさせるせん断力を発生させて夾雑物を2分割するものであって,この切断は一般的な鋏と同じ原理に基づくものである。本件審決は,夾雑物が切断のために「挟まれた状態」を意図的に歪曲し,「引っ掛かる状態」というものにすぎない。
(ウ) また,カッターの取付け部分は,ケーシングの内面の一部であり,ポンプの設計上の運転効率を考慮すると,切断機能を損なわない限り,水流の流れを邪魔しないように取り付ける必要がある。そのため,カッターが取り付けられている捩り羽根とカッターとの間の隙間と,捩り羽根とケーシングの内面との間の隙間の大きさは可能な限り小さくする必要があり,両者の隙間には大差はない。その上,カッターは,ケーシング内の水流の方向に沿って配置されているから,夾雑物が引っ掛かる可能性はかなり低いものであるし,捩り羽根に夾雑物が絡まない限り,そのままポンプを通過させたほうがよいのであるから,少なくとも積極的に引っ掛けるように設計する理由はない。引用発明2におけるカッターは,その名称のとおり,切断のためのカッターにすぎない。
(エ) したがって,引用例2には,夾雑物がカッターに引っ掛かった状態になるとの記載はなく,技術的にもそのように解することはできないから,カッターは,捩り羽根の外縁に絡み付いた夾雑物を引っ掛けるために設けられたものということができるとした本件審決の認定は誤りである。
ウ 本願発明の凸部材及び引用発明2のカッターについて
本願発明は,異物を引っ掛けて捕捉するものであるのに対して,引用発明2は,夾雑物を挟んで捕捉するものである。
また,本願発明の凸部材で捕捉された異物は,羽根の先端部より除去されるまでは凸部材から移動することはなく,除去後はポンプ内の水流に乗って排出されるのに対し,引用発明2における夾雑物は,捕捉された後,捩り羽根の外縁に絡んでカッターで切断されるものである。
仮に,引用発明2のカッターの切断機能を「引っ掛けて捕捉するもの」と解するとしても,本願発明の凸部材では,異物は引っ掛けた後では排出されない限り移動しないのに対し,引用発明2の夾雑物は切断中に移動しているから,「引っ掛ける」意味が異なるものである。
確かに,本願明細書には,本願発明の凸部材は,いかなる形状,構造であってもよい旨が記載されているが,凸部材の機能は,異物を引っ掛けて捕捉するものであるから,このような機能を有しない構造はその技術的範囲には含まれない。引用発明2のカッターには,異物を引っ掛ける機能がない以上,両者に共通する作用,機能はない。
したがって,本願発明の凸部材と引用発明2のカッターとは,異物を捕捉するための構造,機能,捕捉後の異物の動きが全く異なるものであって,カッターが凸部材に相当するとした本件審決の判断は誤りである。
なお,被告は,本願明細書には,凸部材に傾斜面を設ける構成が開示されており,当該構成は,異物を挟んで捕捉する機能を有すると主張するが,当該構成は,補正により既に削除された請求項の発明に係る構成であって,被告の主張は失当である。
エ 小括
以上からすると,本願発明は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができるものということはできない。
(4) 本件審決は,以上のとおり,引用例1に記載された発明の認定ないし本件発明との一致点及び相違点の認定を誤り,一致点についての判断を誤った結果,本願発明の進歩性を否定したものであって,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
(1) 引用発明1の認定の誤りについて
ア 引用例1には,汚水中に含有した繊維類,土砂等の塊状固体が羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ場合,塊状固体が羽根先端によって溝内に押し込まれる旨の記載があるから,本件審決は,当該記載に基づいて,引用発明1について,「前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を前記羽根先端によって押し込んで」と認定したものである。上記認定は,単に主語を「塊状固体」から「羽根」に変えて表現したにすぎず,実質的な相違はない。
また,引用例1には,塊状固体を,羽根の回転に伴ってこの羽根と溝の交点に沿い,吸込口から吐出口に向かって移動させる旨の記載があるから,溝に押し込まれた塊状固体は溝に沿って吸込口から吐出口に向かって移動するものであって,「前記羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる溝」との認定にも誤りはない。
イ 小括
以上からすると,本件審決における引用発明1の認定に誤りはない。
(2) 一致点及び相違点の認定の誤りについて
ア 本願発明について
本願発明における「異物捕捉体」は,「異物を捕捉してポンプ内を通過させる」機能又は作用を有するものである。また,本願明細書には,本願発明の実施の形態として,「溝」を「異物捕捉体」として用いる形態が明示されている。
イ 引用発明1について
引用発明1において,溝は,「このケーシングライナーの内周に設けられ汚水とともに吸い込まれ前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を前記羽根先端によって押し込んで前記羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる溝」であり,異物(塊状固体)を捕捉して(汚水)ポンプ内を通過させるという機能又は作用を有するものである。
ウ 本願発明と引用発明1との対比について
(ア) 引用発明の「溝」と本願発明の「異物捕捉体」とは,「異物を捕捉してポンプ内を通過させる」という機能又は作用の限りにおいて共通するものである。
また,引用発明において,「溝」は,「塊状固体を羽根先端によって押し込まれる」ものであるから,「溝」に異物(塊状固体)が押し込まれて捕まえられている状態にあるといえる。
そして,「捕捉」とは,「とらえること。つかまえること。」(広辞苑第6版)を意味するから,引用発明1において,異物は溝に捕捉されるものということができる。
本願発明においても,異物は異物捕捉体に捕捉されるところ,本願明細書には,異物捕捉体である「溝」に異物が「捕捉」されることに関する記載がある。
したがって,引用発明の「羽根先端によって押し込んで」とは,その機能又は作用等からみて,本願発明の「捕捉」に相当するものである。
(イ) さらに,引用発明1では,溝(異物捕捉体)に捕捉された塊状固体(異物)は,ポンプ(汚水ポンプ)の吸込口から吐出口へとポンプ内を移動通過して排出されるところ,本願発明においても,異物はポンプ内を通過することになる。
そうすると,引用発明1の「羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる」とは,その機能又は作用等からみて,本願発明の「ポンプを通過させる」に相当するものである。
(ウ) しかも,本件審決は,引用発明1における「異物捕捉体」としての「溝」と本願発明における「異物捕捉体」としての「凸部材」との形状や構造等の異なる点を相違点として挙げて,別途検討して判断しているものである。
(エ) よって,本件審決における本願発明と引用発明1との対比に誤りはない。
エ 一致点及び相違点について
前記ウのとおり,本件審決における本願発明と引用発明1との対比に何らの誤りはない以上,本件審決の一致点及び相違点の認定にも,誤りはない。
(3) 相違点についての判断の誤りについて
ア 引用発明1について
引用発明1において,塊状固体が羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ場合,当該塊状固体は,羽根先端により溝に押し込まれて捕捉される,すなわち,引っ掛かった状態になるから,「塊状固体は溝に引っ掛かる」ことは明らかである。
また,引用例1には,羽根回転に伴って,この羽根と溝の交点に沿い,吸込口から吐出口に向かって塊状固体を移動させる旨の記載があるところ,溝に引っ掛かっていなければ,羽根と溝の交点に沿って吐出口に向けて移動することもないから,塊状固体が溝に引っ掛かった状態となることは明らかである。
イ 引用発明2について
(ア) 引用発明2において,ケーシングと捩り羽根の外縁との隙間部分に夾雑物が引っ掛かるおそれがあり,しかも,ケーシングの内面に設けられたカッターと捩り羽根の外縁との間隔は,カッターがケーシングの内面から捩り羽根方向に張り出しているから,ケーシングの内面と捩り羽根の外縁との間隔と比較して狭く,当然隙間部分が広いよりは狭い方が夾雑物は引っ掛かり易いものである。
そうすると,カッターと捩り羽根の外縁との間には,カッターがないケーシングの内面と捩り羽根の外縁との間以上に夾雑物が引っ掛かる可能性が高いことは明らかである。
したがって,ケーシングの内面から捩り羽根方向に張り出して設けられたカッターは,それ以上に引っ掛かる可能性が高いことは明らかであるとした本件審決の判断に誤りはない。
(イ) また,引用発明2においては,最初に捩り羽根に夾雑物が絡み,ケーシングと捩り羽根の外縁との隙間部分に入り込んで,捩り羽根の回転に伴ってケーシングの表面を擦られるようにして移動し,ケーシングの表面に設けられたカッターに行く手を阻まれて,捩り羽根の外縁との間で挟まれ,入り込んだ夾雑物が切断されるものであるから,「夾雑物はカッターに引っ掛かった状態になる」とは,捩り羽根に絡み付いた夾雑物がカッターに行く手を阻まれて捩り羽根の外縁との間で挟まれた状態をいうものである。
したがって,引用発明2におけるカッターは,捩り羽根の外縁に絡み付いた夾雑物を引っ掛けるために設けられたものということができるとした本件審決の判断に誤りはない。
ウ 本願発明の凸部材と引用発明2のカッターについて
(ア) 引用発明2において,夾雑物がカッター上を移動するか否かにかかわらず,当該カッターは,本願発明の凸部材と同様に異物を引っ掛けて捕捉するものである。
また,本願発明において,「羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛ける」ことは,引用発明2と同様,羽根(捩り羽根)の先端部(外縁)に絡み付いた異物(夾雑物)が凸部材(カッター)と羽根(捩り羽根)の先端部(外縁)との間で挟まれた状態を包含するものであるから,本願発明の凸部材と引用発明2のカッターとは,いずれも異物を引っ掛けて捕捉するものである。
(イ) また,本願発明において,「凸部材」は,「前記羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛けるために,前記羽根車の外周縁部に対向して前記ライナーの内周の一部から前記羽根車方向に干渉しない長さに張り出して設けられた1以上の凸部材である」とのみ特定されているにすぎず,どのような形状,構造であってもよいものである。引用発明2のカッターも,「捩り羽根の外縁に絡み付いた夾雑物を引っ掛けるために,捩り羽根の先端部に対向してケーシングの内周面の一部から前記捩り羽根方向に干渉しない長さに張り出して設けられた1つのカッター」と特定されるものにすぎない。
そして,本願明細書には,実施の形態6として,凸部材に傾斜角を設けた構成が開示されているが,当該構成においては,引用発明2と同様に,羽根に絡み付いた異物が異物捕捉体である凸部材に行く手を阻まれて羽根の先端部との間で挟まれた状態で切断されるものと説明されているものである。そうすると,本願発明の「凸部材」は,引用発明2と同様に,羽根に絡み付いた異物が異物捕捉体である凸部材に行く手を阻まれて羽根の先端部との間で挟まれた状態で切断されるものを包含するものである。
したがって,本願発明の凸部材と引用発明2のカッターとは,異物を捕捉するための構造,機能,捕捉後の異物の動きが共通するものであるから,引用発明2のカッターは,本願発明の凸部材に相当するものということができる。
よって,本件審決の判断に誤りはない。
エ 小括
以上からすると,本願発明は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 本願発明の進歩性を否定した本件審決の判断には,以上のとおり,何ら誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 本願発明について
(1) 本願明細書の記載
本願明細書(甲4)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
ア 本願発明は,ポンプ内を異物がスムーズに通過できるようにライナーを改良し,ポンプ内の異物による詰まりを防止したポンプに関する発明である(【0001】)。
揚水及び排水ポンプにおいて,異物をポンプ内に吸い込むことは避けられないが,塵芥類が羽根車やハブ等に絡み付いて離れなかったり,羽根車とケーシング又はライナーの隙間にかみ込まれた場合,安全装置によりポンプが停止するため,このような事態が頻繁に生じると問題である。従来技術においては,ポンプ上流側水路に除塵設備を設ける方法,ポンプ側に後退翼を設けることによってライナーとの隙間を大きくする方法,2台のポンプを使用する方法,ケーシングに溝を設けて異物通過を容易にさせる方法等が採用されている(【0002】~【0004】)。
もっとも,従来技術には,設備コストが高くなること,上流水路に設備設置スペースを確保しなければならない等の問題点があるのみならず,塵芥類の通過性をよくするため,ポンプの羽根車とライナーの隙間を大きくしていたから,ポンプの効率を著しく低下させる原因となっていた。また,ポンプの羽根車にまとわりつく異物をどうしても除去できない場合,ポンプのメンテナンスを行う必要がある。2台のポンプを用いる方法やケーシングに溝を設ける方法にも,同様に問題点が存在する(【0005】)~【0007】)。
イ 本願発明は,従来技術の問題点をふまえ,羽根車とライナーとの隙間を大きくすることなく,ポンプ効率を低下させないで異物をスムーズに通過させることができるポンプを提供すること,羽根車に絡み付く異物を破砕又は強制的に取り込むことによって取り除き,スムーズにポンプ内を通過させることができるポンプを提供すること,除塵設備等の簡素化を可能とし,水路系全体の設備を低コストかつメンテナンスが容易な構成にすることができるポンプを提供することを目的とするものである(【0008】)。
ウ 本願発明は,ポンプの内周に設けられ,水とともに吸い込まれ,絡み付いた異物を捕捉してポンプ内を通過させる異物捕捉体とからなり,この異物捕捉体は,羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛けるために,羽根車の外周縁部に対向してライナーの内周の一部から羽根車方向に干渉しない長さに張り出して設けられた1以上の凸部材を有することを特徴とするものである(【0009】)。本願発明は,ポンプ内のライナーリングに凸部材を部分的に設けたことにより,羽根とライナーリングとに絡み付いた異物を除去でき,異物を含んだ水がポンプ内をスムーズに流れるようになったことから,例えば水中ポンプの絡み付き除去のため,水中ポンプを頻繁に水面上に出すようなメンテナンスの回数が大幅に少なくなり,ポンプの稼動時間の向上をもたらすものである。さらに,異物を除去する構成及び上流の除塵設備のいずれについても簡素化され,水路に設置される設備全体を低コストに抑えることができるものである(【0022】)。
エ 本願発明の実施の形態(実施の形態1)として,円柱体の一部がライナーリングの内面より内側に羽根と干渉しない長さで張り出して凸部を構成し,異物を捕捉する構成がある。当該形態において,羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物は,羽根車が回転すると,この凸部材に引っ掛かり,さらに凸部材に絡み付き,羽根から取り除かれ,あるいは回転の水流で羽根及びライナーリングから離れ,ポンプ内を通過するようになる(【0028】【0029】,図1・2)。
(2) 本願発明の技術内容
以上の記載からすると,本願発明は,水とともに吸い込まれ,ポンプ内に流入した異物を捕捉するための具体的手段に特徴を有する発明であり,その異物捕捉体は,羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛け,絡み付かせる点に技術的意義を有するものである。
そして,本願明細書の実施の形態に関する記載からすると,異物捕捉体は,羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛け,絡み付かせることにより,羽根から異物を取り除くか,回転の水流により羽根から離れさせるようにする作用を奏するものである。
2 引用発明1の認定の誤りについて
(1) 引用例1の記載
引用例1(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
ア 引用例1の実用新案登録請求の範囲は,以下のとおりである。
オープン形羽根車を有する遠心ポンプにおいて,羽根先端に対応するケーシングあるいはケーシングライナーに,前記羽根車の吸込口と吐出口を連絡する溝を前記羽根先端の傾斜面と交差するように少なくとも一条穿ってなることを特徴とする汚水ポンプ
イ 引用例1に記載された発明は,土砂,繊維類等の塊状固体を含む液体の揚水に使用するポンプに関する発明である。
汚水ポンプにクローズド形羽根車を採用した場合,塊状固体が詰まり,運転不能となることもあるから,一般的にオープン形羽根車が用いられる。ポンプ性能を効率的に得るためには,羽根先端とケーシングあるいはケーシングライナーとの間の間隙を十分小さく設定する必要があるが,あまりに小さく設定すると,間隙内に汚水中の塊状固体をかみ込み,ポンプ性能が減少する。そこで,引用例1に記載された発明は,塊状固体が羽根先端の間隙にかみ込んで停滞することがなく,速やかにポンプの吐出口側に送り出される効率の高い汚水ポンプを提供するものである。
ウ 引用例1に記載の発明には,羽根先端が対向する面にケーシングライナーがケーシングに取付けられており,その表面には羽根車の吸込口と吐出口とを連絡する溝が,羽根の傾斜方向と交差するように放射状に穿って構成されている。汚水中に含有した繊維類,土砂などの塊状固体が羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ場合,羽根先端によって溝内に押し込まれ,かつ羽根の回転に伴ってこの羽根と溝の交点に沿い,吸込口から吐出口に向かって移動させるため,羽根の先端の間隙にかみ込んだ塊状固体は外部から人為的な処理を施すことなく溝を経て吐出口側に吐出される。このように,羽根先端に対応するケーシングあるいはケーシングライナーに,羽根車の吸込口と吐出口を連絡する溝を羽根先端の傾斜方向と交差するように穿って構成したことにより,汚水中に含有した繊維類,土砂等が羽根先端の間隙内に侵入した際,ポンプの性能を低下させることなく速やかに吐出口側に送り出すことができるものである。
(2) 引用例1に記載された発明の技術内容
以上の引用例1の記載によると,引用例1に記載された発明は,汚水ポンプにおいて,汚水中に含有した繊維類,土砂などの塊状固体が羽根先端とケーシングライナーとの間隙にかみ込んだ場合,これを除去するため,この塊状固体を羽根先端によって溝内に押し込み,かつ羽根の回転に伴ってこの羽根と溝の交点に沿い,吸込口から吐出口に向かって移動させて,溝を経て吐出口側に吐出されるようにしたものである。
(3) 本件審決の引用発明1の認定の当否
ア 上記(1)及び(2)によると,引用例1に記載された発明は,塊状固体が羽根先端とケーシングライナーとの間隙にかみ込んだ場合,これを除去するため,この塊状固体を羽根先端によって溝内に押し込んでいるものであることは明らかである。
したがって,引用例1に記載された発明について,本件審決が前記第2の3(2)アのとおり,すなわち引用発明1とした認定に誤りがあるとはいえない。
イ この点について,原告は,引用例1に記載された発明は,「前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を羽根の先端と溝が交差する交点の溝内に押し込まれた状態で,前記羽根の回転により前記交点が前記溝内を移動して」と認定されるべきであると主張する。
しかしながら,引用例1に記載の発明は,塊状固体を羽根先端によって溝内に押し込んだ上で,吸込口から吐出口に向かって移動させているのであるから,本願発明との対比に必要な限度で,引用例1に記載された発明につき,塊状固体を羽根先端によって溝内に押し込んでいるものとした本件審決の認定それ自体に誤りがあるとまでいうことはできない。
しかも,本件審決は,引用発明1における「異物捕捉体」としての「溝」と本願発明における「異物捕捉体」としての「凸部材」との形状や構造等の異なる点を相違点として指摘した上で,別途検討しているものである。この点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 小括
以上からすると,本件審決の引用発明1の認定それ自体に誤りはないといわなければならない。
3 一致点及び相違点の認定の誤りについて
(1) 一致点の認定について
ア 本願発明における「異物捕捉体」は,「ライナーの内周に設けられ水とともに吸い込まれ絡み付いた異物を捕捉して前記ポンプ内を通過させる」機能を有するものである。
引用発明1は,汚水中の塊状固体を羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ場合,この塊状固体を,羽根先端によって溝内に押し込み,かつ羽根の回転に伴ってこの羽根と溝の交点に沿い,吸込口から吐出口に向かって移動させて,溝を経て吐出口側に吐出されるものである。
そして,「捕捉」とは,「とらえること。つかまえること。」(広辞苑第5版)を意味するから,引用発明1の溝は,羽根とともに異物を捕捉してポンプ内を通過させる機能を奏しているものである。
イ したがって,引用発明1の「羽根先端によって押し込んで」「羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる」「溝」が,本願発明の「捕捉して」「ポンプを通過させる」「異物捕捉体」に,それぞれ相当するとした本件審決の判断は,直ちに誤りということはできない。
(2) 相違点の認定について
本件審決の一致点の認定を直ちに誤りであるということはできない以上,それを前提として,本願発明と引用発明1との「異物捕捉体」の具体的な形状等の相違について相違点として認定した本件審決の判断も,同様に,直ちに誤りであるということはできない。
4 相違点についての判断の誤りについて
以上を前提に,相違点に係る容易想到性について判断する。
(1) 引用発明2について
ア 引用例2(甲2)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
(ア) 引用例2の実用新案登録請求の範囲は,以下のとおりである。
駆動軸の先端に取り付けた円錐状のハブに,このハブの軸芯線方向に伸びる先細り状の捩り羽根の内縁を固定し,この捩り羽根の外縁が描く仮想円錐面に沿わせてケーシングを設けるとともに,このケーシングの内面には,上記捩り羽根の外縁に近接させて異物切断用のカッターを設けたことを特徴とする汚水ポンプにおける異物の切断装置
(イ) 引用発明2は,汚水ポンプにおける異物の切断装置に関する発明である(【0001】)。
従来,下水には比較的大きな異物が含まれており,送水ポンプが詰まることがしばしば発生する。そのため,従来,ポンプ内の汚水の流入路中に異物を切断するためのカッターや破砕するための格子板を設けるなどしているが,通過する異物までも引っ掛けてしまい,ポンプが閉塞するという難点が生じるおそれがある(【0002】【0003】)。
(ウ) 引用発明2は,送水用の羽根が,回転軸芯線方向に伸びて吸込水路が広く,異物が詰まり難いポンプを用いた上,羽根とケーシングとの間に引っ掛かろうとする異物までも切断することができる無閉塞ポンプを実現するものである。引用発明2は,駆動軸の先端に取り付けた円錐状のハブに,ハブの軸芯線方向に伸びる先細り状の捩り羽根の内縁を固定し,この捩り羽根の外縁が描く仮想円錐面に沿わせてケーシングを設けるとともに,このケーシングの内面には,捩り羽根の外縁に近接させて異物切断用のカッターを設けるものである(【0004】【0005】)。
(エ) 捩り羽根の回転に伴って吸入された汚水は,捩り羽根の螺旋状の空隙に沿って吐出口へと流れる。夾雑物が唯一引っ掛かるおそれのある捩り羽根とケーシング内面との隙間には,ケーシング側にカッターが設けてあるので,空隙に入ろうとする夾雑物は,捩り羽根の回転によってカッターに押し付けられて切断吸引され,流路が閉塞されることはない(【0008】)。
イ 引用発明2の技術内容
以上の引用例2の記載によると,引用発明2は,汚水ポンプにおいて,駆動軸の先端に取り付けた円錐状のハブに,その軸芯線方向に伸びる先細り状の捩り羽根の内縁を固定し,この捩り羽根の外縁が描く仮想円錐面に沿わせてケーシングを設けるとともに,その内面に捩り羽根の外縁に近接させて異物切断用のカッターを配置することにより,流入した異物を捩り羽根の回転によってカッターに押し付けて切断し,異物がポンプを詰まらせることを防止することを技術内容とするものである。
(2) 相違点に係る容易想到性について
ア 本願発明は,前記認定のとおり,羽根車とケーシングライナーとの隙間を大きくすることなく,ポンプ効率を低下させないで羽根車に絡み付く異物を除去し,ポンプ内をスムーズに通過させるために,ケーシングライナーの内周に異物捕捉体としての凸部材を設け,捕捉された異物を羽根車の間を通過させることをその技術内容とするものである。
また,引用発明1は,前記認定のとおり,ポンプ性能を効率的に得るためには,羽根先端とケーシングあるいはケーシングライナーとの間の間隙を十分小さく設定する必要があることを前提として,そのような設定をした場合,間隙内に汚水中の塊状固体をかみ込み,ポンプ性能が減少することから,ケーシングライナーの内周に異物捕捉体としての溝を設け,汚水中の塊状固体を羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ場合,この塊状固体を,羽根先端によって溝内に押し込み,溝を経て吐出口側に吐出させることをその技術内容とするものである。
さらに,引用発明2は,ケーシングライナーの内周の捩り羽根の外縁に近接させて異物切断用のカッターを配置することにより,流入した異物を捩り羽根の回転によってカッターに押し付けて切断し,異物がポンプを詰まらせることを防止することをその技術内容とするものである。
イ そうすると,本願発明,引用発明1,引用発明2は,いずれもポンプの羽根に絡み付く異物を除去してポンプ内を通過させることをその技術内容とするものであるが,本願発明は,その手段として,ケーシングライナーの内周に凸部材を設けることにより,異物を引っ掛けて捕捉して羽根から取り除き,さらに異物を羽根と羽根の間を通過させてポンプ外に排出させる構成を有することをその技術的特徴とするものであるということができる。
これに対し,引用発明1は,溝に異物を押し込んで捕捉し,溝内を通過させる構成を有するものであり,本願発明1とは,異物捕捉体の具体的構成及び捕捉後の異物の排出方法が異なるものである。
さらに,引用発明2は,ケーシングライナーの内周にカッターを設けるものであり,当該カッターは突起形状を有するものの,あくまで異物を切断する目的で設けられた部材であって,異物を引っ掛けて捕捉することを目的として設けられた構成ではない。
ウ したがって,本願発明は,異物捕捉体として,引用発明1のように,異物を押し込んで排出する溝や,引用発明2のように,異物を切断して排出するカッターを設けることなく,凸部材を設けるだけで,異物を引っ掛けて捕捉し,羽根と羽根の間を通過させて排出する構成を有する点に,その技術的な特徴を有する発明であるというべきであって,引用発明1及び2とは,異なる技術思想を有するものということができる。
また,引用発明1の「溝」に換えて,引用発明2のカッターから刃を除いた「凸部材」の構成を採用することは,動機付け欠くものというほかない。
よって,相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものということはできない。
エ この点について,被告は,引用発明1において,塊状固体は異物捕捉体としての溝に引っ掛かって捕捉されるものである,本願発明の凸部材と引用発明2のカッターとは,異物を捕捉するための構造,機能,捕捉後の異物の動きが共通するから,引用発明2のカッターは,本願発明の凸部材に相当するなどと主張する。
しかしながら,先に指摘したとおり,本願発明は,引用発明1のような「溝」を設けて異物を排出するのではなく,「凸部材」を設けることによって異物を捕捉し,羽根と羽根との間を通過させて異物を排出することをその技術内容とするものであるから,引用発明1の溝が異物を引っ掛けて捕捉するか否かは,上記結論を左右するものではない。
また,引用発明2のカッターは,異物を引っ掛けて捕捉するためのものではなく,切断するために設けられた構成であるから,異物を切断する前段階において異物が刃に引っ掛った状態となるとしても,本願発明の凸部材とは明らかにその機能が異なるものである。
したがって,被告の主張はいずれも採用できない。
(5) 小括
以上からすると,本願発明は,引用発明1及び2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断は誤りである。
5 結論
以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 井上泰人 裁判官 荒井章光)