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知財高等裁判所 平成23年(ネ)10028号 判決 2012年1月31日

控訴人(原審第2事件原告)

生長の家

控訴人(原審第2事件原告)

上記両名訴訟代理人弁護士

田中美登里

田中伸一郎

相良由里子

外村玲子

佐竹勝一

水沼淳

控訴人・附帯被控訴人(原審第1事件被告・原審第3事件原告)

株式会社日本教文社

訴訟代理人弁護士

脇田輝次

被控訴人・附帯控訴人(原審第1事件原告・原審第2及び第3事件被告)

財団法人生長の家社会事業団

被控訴人(原審第2及び第3事件被告)

株式会社光明思想社

上記両名訴訟代理人弁護士

内田智

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  本件附帯控訴による請求を棄却する。

3  控訴費用は控訴人(原審第2事件原告)生長の家,控訴人(原審第2事件原告)X及び控訴人・附帯被控訴人(原審第1事件被告・原審第3事件原告)株式会社日本教文社の負担とし,附帯控訴費用は被控訴人・附帯控訴人(原審第1事件原告・原審第2及び第3事件被告)財団法人生長の家社会事業団の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  控訴人ら(原審第2事件原告ら,附帯被控訴人・原審第1事件被告・原審第3事件原告)の請求

(1)  原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人財団法人生長の家社会事業団の請求を棄却する。

(3)  被控訴人らは,別紙第2書籍目録1記載の書籍を出版,販売,頒布してはならない。

(4)  被控訴人らは,その保有する前項の書籍を廃棄せよ。

(5)  被控訴人財団法人生長の家社会事業団は,控訴人生長の家に対し,控訴人生長の家が別紙第1書籍目録1記載の書籍の著作権を有することを確認する。

(6)  被控訴人財団法人生長の家社会事業団は,別紙第2書籍目録2記載の各書籍について,控訴人生長の家の承諾なく,その出版権の設定及び消滅を行ってはならない。

(7)  被控訴人らは控訴人生長の家に対し,金300万円及びこれに対する平成21年6月11日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(8)  被控訴人らは,別紙謝罪広告目録2記載の内容及び条件による謝罪広告を,控訴人生長の家の発行する機関紙「聖使命」及び月刊誌「生長の家」に掲載せよ。

(9)  被控訴人財団法人生長の家社会事業団は控訴人株式会社日本教文社に対し,控訴人株式会社日本教文社が別紙第3書籍目録1ないし34記載の各書籍について出版権を有することを確認する。

(10)  被控訴人らは,別紙第3書籍目録1ないし15及び同目録31ないし34記載の各書籍を出版,販売,頒布してはならない。

(11)  訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人らの負担とする。

(12)  3項,4項,6項,7項及び10項につき仮執行宣言

2  附帯控訴人(被控訴人・原審第1事件原告・原審第2及び第3事件被告)の請求

(1)  附帯被控訴人は,別紙第1書籍目録1記載の書籍の18版(発行日,平成12年5月1日)及び19版(発行日,平成20年5月1日)の奥付における「©A,X,1932」との表示及び「<検印省略>」の表示につき,別紙訂正措置目録記載の訂正措置を行なうとともに,別紙訂正広告目録記載の内容及び掲載条件による訂正広告を附帯被控訴人が発行する「いのちの環」,「白鳩」及び「日時計24」の各誌に連続して各2回掲載せよ。

(2)  附帯被控訴人は,附帯控訴人に対し,金100万円及びこれに対する平成12年5月1日より支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とする。

(4)  第2項につき仮執行宣言

第2事案の概要

別紙第1書籍目録記載の書籍を本件①の各書籍,別紙第2書籍目録記載の書籍を本件②の各書籍,別紙第1書籍目録記載の書籍を本件③の各書籍という。略語については,当裁判所も原判決と同一のものを用いる。

1  原審における経緯及び主張

(1)  原審の事案の概要

ア 原審第1事件

原告社会事業団は,①亡Bが戦前に創作した多数の著作物の集合体としての「生命の實相」の著作権は,亡Bが原告社会事業団の設立者として行った寄附行為の寄附財産であって,原告社会事業団に帰属しているところ,同原告は,上記「生命の實相」に属する書籍をそれぞれ復刻した復刻版である本件①の書籍1及び本件①の書籍2について,被告日本教文社との間で著作権使用(出版)契約を締結したが,印税(著作権使用料)に未払がある,②本件①の書籍1の著作権者は原告社会事業団であるのに,被告日本教文社が原告社会事業団に無断で本件①の書籍1に真実と異なる著作権表示を行ったことが不法行為を構成するなどと主張して,被告日本教文社に対し,著作権使用(出版)契約に基づき,印税の支払を求めるとともに,民法723条に基づき,別紙謝罪広告目録1記載の謝罪広告の掲載を求めた。

イ 原審第2事件

原告生長の家及び亡Bの遺族である原告Xは,①亡Bが戦前に創作した著作物である「生命の實相 <黒布表紙版>」(全20巻)及び本件①の書籍1について,原告生長の家が,亡Bを相続した共同相続人から著作権(共有持分)の遺贈及び売買による譲渡を受けたから,当該著作権は原告生長の家に帰属する,②本件②の各書籍は,第2事件被告ら(原告社会事業団及び被告光明思想社)が「生命の實相<黒布表紙版>」の第16巻として出版された「神道篇 日本国の世界的使命」から「第1章 古事記講義」を抜き出し,別の題号を付して共同で出版したものであるが,亡Bは,戦後に「生命の實相」として出版された書籍から,第16巻を削除していることに照らすと,第2事件被告らへの出版の許諾を撤回したものと認められるから,第2事件被告らによる本件②の書籍1の出版は,原告生長の家の著作権(複製権)を侵害するとともに,亡Bが存命であればその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条)に該当し,これにより亡Bの声望が害された,③原告生長の家と原告社会事業団は,本件②の各書籍2について,原告生長の家がこれらの出版その他の利用の管理を決定する旨の合意をしたなどと主張し,原告生長の家及び原告Xにおいて原告社会事業団及び被告光明思想社に対し,著作権法112条1項,2項(原告Xにつき更に同法116条1項)に基づき,本件②の書籍1の出版等の差止め及び廃棄を,民法723条又は著作権法115条及び116条1項に基づき,別紙謝罪広告目録2記載の謝罪広告の掲載を,原告生長の家において原告社会事業団及び被告光明思想社に対し,不法行為に基づく損害賠償を,原告生長の家において原告社会事業団に対し,原告生長の家が本件①の書籍1の著作権を有することの確認を,上記合意に基づき,本件②の各書籍2について原告生長の家の承諾なく,その出版権の設定及び消滅を行うことの禁止を求めた。

ウ 原審第3事件

被告日本教文社は,本件③の各書籍について,原告社会事業団との間の出版契約に基づいて出版権の設定を受けたにもかかわらず,原告社会事業団及び被告光明思想社が,被告日本教文社に無断で,本件③の書籍31ないし34について出版及び販売を行い,本件③の書籍1ないし15について出版を行うおそれがあるなどと主張して,原告社会事業団に対し,被告日本教文社が本件③の各書籍の出版権を有することの確認を,原告社会事業団及び被告光明思想社に対し,著作権法112条1項に基づき,本件③の書籍1ないし15,31ないし34の出版等の差止めを求めた。

(2)  原判決の内容

ア 原審第1事件について

原審は,原告社会事業団は,その設立により亡Bから「生命の實相」の著作権の移転を受けたものと認定し,(ア)未払印税請求は,原告社会事業団は被告日本教文社に対し,本件昭和49年契約に基づき印税の支払請求権を取得したが,本件①の書籍1の未払印税50万円を除き消滅時効が完成した,(イ)謝罪広告掲載請求は,被告日本教文社の誤った著作権表示により原告社会事業団の社会的評価が低下したものとはうかがわれないから理由がないと判示して,原告社会事業団の請求のうち,本件①の書籍1の未払印税50万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成21年3月12日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求の限度で認容した。

イ 原審第2事件について

原審は,(ア)著作権に基づく請求については,原告生長の家が本件①の書籍1及び本件②の書籍1の著作権を取得したとは認められず,(イ)原告Xの著作権法60条に基づく請求については,本件②の書籍1の出版により亡Bの声望が害されたとは認められず,(ウ)謝罪広告掲載請求については,本件②の書籍1の出版が著作者が存命であればその著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為に該当せず,原告社会事業団及び被告光明思想社が「生長の家」の布教活動を不当に妨害する行為又は原告生長の家の名誉を侵害する行為をしたとは認められず,(エ)原告生長の家と原告社会事業団との,原告生長の家が本件②の各書籍2の出版その他の利用の管理を決定する旨の合意に基づく請求については,そのような合意があったとは認められないから,いずれも理由がないと判示した。

ウ 原審第3事件について

原審は,(ア)本件③の書籍1ないし30,32について,被告日本教文社,原告生長の家及び原告社会事業団が本件合意②又は独占的排他的な出版権設定合意を含む本件各出版使用許諾契約をしたとは認められず,(イ)本件③の書籍31,33及び34について,原告社会事業団が被告日本教文社に対し独占的排他的使用権を設定する契約を締結したことは認められるが,原告社会事業団の解約により効力を失ったから,被告日本教文社の出版権確認請求及び出版等の差止請求は理由がないと判示した。

(3)  控訴の内容

原告生長の家,原告X及び被告日本教文社は,原判決中の敗訴部分を不服として本件控訴を提起した。また原告社会事業団は,附帯控訴して,債務不履行又は不法行為に基づき,本件①の書籍1の18版及び19版の誤った著作権表示の訂正,弁護士費用及び誤った著作権表示による権利侵害状態についての損害賠償を求めた。

2  争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張

原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実等」,「2 争点」,「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決6頁8行目から44頁6行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決6頁19行目の「人類公明化」を「人類光明化」と訂正する。

3  当審における追加的主張

当事者の表記について,以下,控訴人(原審第2事件原告)生長の家を「控訴人生長の家」,控訴人(原審第2事件原告)Xを「控訴人X」,控訴人・附帯被控訴人(原審第1事件被告・原審第3事件原告)株式会社日本教文社を「控訴人日本教文社」,被控訴人・附帯控訴人(原審第1事件原告・原審第2及び第3事件被告)財団法人生長の家社会事業団を「被控訴人社会事業団」,被控訴人(原審第2及び第3事件被告)株式会社光明思想社を「被控訴人光明思想社」という。

(1)  本件①の各書籍の著作権の時効取得の成否

ア 控訴人らの主張

亡Bの相続人らは,平成7年末ないし本件確認書の日より10年経過した平成10年3月22日をもって,本件①の各書籍に係る著作権を時効取得した。

すなわち,本件①の書籍1の印税は,昭和58年9月出版の8版まで被控訴人社会事業団と亡Bに振り分けられていたが,その後は被控訴人社会事業団へ印税は全く支払われず,全て亡Bとその相続人に支払われており,また本件①の書籍2の印税は,最初から亡Bに支払われ,被控訴人社会事業団には支払われたものはないところ,本件①の各書籍については亡Bの相続人が遺産目録に明示した上で,被控訴人社会事業団の当時の理事長で代表者であるCと相続人は昭和63年3月22日付で本件確認書を作成し,その後は,本件①の書籍1について14版から19版まで合計2700冊が出版され,その印税は亡Aの指示に基づき,従前通り亡Bの相続人に支払われ,また著作権表示において著作権者は亡A他の相続人と記載された。

以上によれば,本件①の各書籍は,亡Bが死亡した昭和60年ころ,あるいは遅くとも昭和63年3月22日の本件確認書の締結の日より,同人の相続人である亡A他2名が,自己のためにする意思をもって,平穏且つ公然と著作権者であることを表明し,印税を受領するなどし,少なくとも被控訴人社会事業団の理事長にDが就任し,同人と同調する理事が理事会の多数を占めた平成18年12月まで被控訴人社会事業団等から何らの異議も述べられたことはない。よって,10年後の平成7年末,あるいは平成10年3月22日の経過をもって亡Bの相続人らが時効取得した。亡Bの相続人らの特定承継人である控訴人生長の家は取得時効を援用する。

イ 被控訴人らの反論

取得時効の成立については争う。

控訴人らは書籍の印税支払や遺産目録への記載を根拠として主張するが,それらの事実は公然となされたものではなく,いわば密室で隠れてなされたことであるから,「平穏かつ公然と」行使されたものではない。被控訴人社会事業団は,本件訴訟の提起時期まで,控訴人日本教文社による印税未払の事実を知らなかった。

昭和63年4月,著作者亡Bの相続人全員により,文化庁長官に対して昭和7年1月1日初版発行の「生命の實相」の著作権が,昭和21年1月8日に被控訴人社会事業団への譲渡がされたことにつき著作権登録申請がなされ,登録されているから,相続人において「自己のためにする意思」がないことも明白である。

複製権を行使したという外形があるというためには,他人による複製行為の排除行為が必要であるが(東京高裁平成4年5月14日判決参照),本件でそのような事実はない。最高裁判決(平成9年7月17日)では,「時効取得の要件としての複製権の継続的な行使があるというためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利を専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要し,そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負う」としているが,そのような立証はされていない。

したがって,本件において取得時効が成り立たず,控訴人らの主張は理由がない。

(2)  被控訴人社会事業団は控訴人日本教文社に対し,債務不履行又は不法行為に基づいて,本件①の書籍1に記載した「本件表示」及び「<検印省略>」についての是正措置等及び損害賠償金の支払を求めることができるか(第1事件に係る附帯控訴における附帯控訴人の主張)

ア 被控訴人社会事業団の主張

控訴人日本教文社は,本件昭和49年契約に基づいて出版した著作権者を被控訴人社会事業団とする本件①の書籍1について,著作権者である被控訴人社会事業団の許諾を得ずに,被控訴人社会事業団の理事長を表す「理長」の文字の印影の検印(本件検印)が押印されていた初版の奥付を変更し,18版(発行日平成12年5月1日)及び19版(同平成20年5月1日)の各奥付において,「©A,X,1932」との記載(本件表示)及び「<検印省略>」との記載をした。

本件表示は,本件①の書籍1の著作権者が「A,X」(亡A及び控訴人X)であることを示すものであるところ,本件①の書籍1の18版及び19版が発行された当時,本件①の書籍1の著作権は被控訴人社会事業団に帰属していたのであるから,本件表示は誤った著作権表示である。

著作権者において著作物の複製物に誤りのない著作権表示がされることは法律上保護に値する利益に当たる。控訴人日本教文社が,本件検印が押印されていた本件①の書籍1の初版の奥付を変更し,18版及び19版の奥付において本件表示を行うに際しては,被控訴人社会事業団の意思を確認し,あるいはその許諾を得るべき注意義務があったのに,これを怠り,本件表示をするとともに被控訴人社会事業団に何らの確認をすることなく「<検印省略>」の記載をした。これは,本件昭和49年契約の付随的な注意義務に違反する債務不履行に当たるとともに,被控訴人社会事業団に対する不法行為に該当する。

本件①の書籍1の18版及び19版は,現在も「生長の家」誌友信徒を対象に販売がされ,また,控訴人日本教文社において,在庫保管している。上記各版の各奥付における「本件表示」及び「<検印省略>」の記載は,いずれも被控訴人社会事業団による債務不履行及び不法行為による違法かつ客観的に間違った記載であり,是正され真実の表示へ回復される必要がある。

したがって,本件①の書籍1の18版及び19版について未販売で控訴人日本教文社の倉庫等にあるものについては,別紙訂正措置目録記載(1)の方法及び内容による変更がされるべきであるし,委託販売先等に存するものについては,別紙訂正措置目録記載(2)の方法及び内容による「正誤表」の差し込み挿入により,適正に是正される「訂正措置」がされる必要がある。

また,既に販売がされるなどして読者の手元に保持されている本件①の書籍1の誤った表示については,本件表示が誤りであり,その違法な侵害状態を訂正する旨を明らかにした別紙訂正広告目録に記載の掲載条件と内容による「訂正広告」によって,上記違法な侵害状態が回復されなければならない。訂正広告が掲載されるべき各雑誌は,いずれも控訴人日本教文社が,「生長の家」信徒を主たる読者対象ととして発行される雑誌であるから,その読者は本件①の書籍1(18版及び19版)を所持している可能性が高く,上記違法な侵害状態の是正にとって効果的であり,その経済的負担も大きくない。

上記債務不履行及び不法行為により被控訴人社会事業団の受けた損害に対する賠償金額は,損害額50万円,弁護士費用相当額50万円(合計100万円)と評価されるべきである。

被控訴人社会事業団は,控訴人日本教文社に対し,本件昭和49年契約に基づく債務不履行責任及び不法行為責任として,著作権表示等についての是正措置及び訂正広告と,債務不履行及び不法行為のなされた平成12年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金100万円の損害賠償金の支払を求める。(本件附帯控訴)

イ 控訴人日本教文社の反論

本件①の書籍1の18版及び19版を出版するに当たり,著作権表示において著作権者を亡A他の相続人と記載されてきたことは認める。著作権表示が誤りであること及び本件①の書籍1の18版及び19版の出版が本件昭和49年契約に基づくものであることは否認する。本件①の書籍1に「本件表示」及び「<検印省略>」の記載をした控訴人日本教文社の行為が債務不履行及び不法行為に該当するとの被控訴人社会事業団の主張には,理由がない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,本件控訴及び本件附帯控訴による追加請求は,いずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正し,当審における主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」1ないし3(原判決44頁8行目から78頁26行目)記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決46頁20行目の「万里」を「万教」と訂正する。

(2)  原判決63頁17行目から65頁10行目を,以下のとおり変更する。

「本件①の書籍1の18版及び19版が発行された当時,本件①の書籍1の著作権者は被控訴人社会事業団に帰属していたところ,本件表示は,本件①の書籍1の著作権が「A,X」(亡A及び控訴人X)に帰属することを示す表示と理解されるから,誤った表示といえる。

イ 出版の許諾等を得た者が,著作物を複製,出版するに当たり,著作権の帰属を表記する際に,誤りのない表記をすべきことはいうまでもない。しかし,本件においては,本件寄附行為がされた昭和21年から,長い期間が経過していること,本件確認書及び本件覚書のいずれにも本件①の書籍1の題号が記載されていなかったこと,被控訴人社会事業団は,長期にわたって,印税の支払等を受けていなかったこと等の諸事情があること,その他加害行為の態様及び被害の程度等の一切の事情を総合的に考慮するならば,控訴人日本教文社が本件①の書籍1の18版及び19版について,著作権者の帰属に関する表示に適切を欠いたこと及び「<検印省略>」の記載をした行為について,これを不法行為と評価するほどの違法性があると解することはできない。

以上のとおり,本件表示及び「<検印省略>」の記載をした控訴人日本教文社の行為は,不法行為を構成しない。」

2  当審における追加的主張に対する判断

(1)  本件①の各書籍の著作権の時効取得の成否について(控訴人らの主張)

控訴人らは,被控訴人社会事業団に属していたとしても,亡Bの相続人において,平成7年末ないし本件確認書の日より10年経過した平成10年3月22日をもって,本件①の各書籍の著作権を時効取得した旨主張する。

控訴人らの上記主張は,各事件における結論を導く上で,どのような要件に関連する主張であるのかは,必ずしも,明確でない。すなわち,取得時効に係る控訴人らの主張が,第1事件(被控訴人社会事業団の控訴人日本教文社に対する,本件①の各書籍に係る契約に基づく金銭支払請求等)に関係した主張であれば,同事件において控訴の対象とされているのは,そもそも契約に基づく金銭支払請求についてである点で,また,第2事件(控訴人生長の家及び控訴人Xの被控訴人らに対する,本件②の各書籍に係る著作者人格権に基づく請求)に関係した主張であれば,同事件には,本件②の各書籍に関する請求及び著作者人格権に基づく請求が含まれている点で,さらに,第3事件(控訴人日本教文社の被控訴人光明思想社に対する,本件③の各書籍に係る出版権確認請求)に関係した主張であれば,同事件の対象は,専ら本件③の各書籍であるとの点で,いずれも,結論を導く上で,どのような攻撃,防御方法に係る主張であるのかは,必ずしも判然としない。

その点はさておき,亡Bの相続人らの①の書籍に係る著作権の時効取得が成立したとする控訴人らの主張は,以下のとおり失当と判断する。

著作権の時効取得が観念されると解した場合,著作権の時効取得が認められるためには,自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作権(例えば,複製権)を行使する状態を継続していたことを要する。換言すれば,著作権の時効取得が認められるためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利などを専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するのであって,そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月17日判決・民集51巻6号2714頁参照)。

この観点から,本件をみると,平成20年5月12日に,亡B(昭和60年6月17日に死亡)の共同相続人である亡Aが25万円を,同月14日に,控訴人Xが25万円を,本件①の書籍1(19版)の印税として,控訴人日本教文社から支払を受けたこと,本件①の書籍1の平成12年5月1日出版に係る18版及び平成20年5月1日出版に係る19版の各奥付に,「検印省略」,「©A,X,1932」との記載がされていること等の事実が認められる。他方,本件確認書(乙1,丙7)末尾の「著作物の表示」に「生命の實相(頭注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」の記載はあるにもかかわらず,本件①の各書籍は記載されていないこと,亡E,亡A及び控訴人Xが,昭和60年12月13日付けで亡Bの遺産について作成した遺産分割協議書(丙77)の第3遺産目録(著作権)には,「64復刻版 実相」,「71 久遠の實在」との記載があること,本件①の書籍1の他の版及び本件①の書籍2には「©」表示がないこと等の事実を認めることができる。

上記認定事実によれば,亡Bの相続人が,控訴人日本教文社から印税を受け取ったり,控訴人日本教文社に対し本件①の書籍1の18版及び19版の奥付に誤った「©」表示をさせたりした経緯を認定することはできるが,そのような経緯によっては,複製権等を独占的,排他的に行使する状態を継続している事実,及び他の者に対する著作権の行使を排除した事実を主張,立証したと認めることはできない。そうすると,亡Bの相続人が,本件①の各書籍の著作権を時効取得したと認めることはできない。その他本件全証拠によるも,外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを認めることはできない。

(2)  被控訴人社会事業団の控訴人日本教文社に対する損害賠償金の支払請求,訂正措置ないし訂正広告請求の可否について(附帯控訴における附帯控訴人の主張)

被控訴人社会事業団は,債務不履行又は不法行為を根拠として,本件①の書籍1の18版,19版の奥付における本件表示及び「<検印省略>」の表示につき,損害賠償金の支払,訂正措置及び訂正広告を求める。

当裁判所は,被控訴人社会事業団の上記請求は,債務不履行に基づく請求及び不法行為に基づく請求のいずれも失当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

まず,債務不履行に基づく請求の当否から判断する。被控訴人社会事業団の控訴人日本教文社との間で締結された昭和49年契約書の約款13条には,「使用者は権利者のために,万国著作権条約加盟の方式国,例えば米国に於いて著作権を取得し且つ保全するため,同条約第三条に基づき©表示など権利保全のため必要な措置をとるものとする。」と規定されている。同規定は,著作権を取得し且つ保全するために©表示などの措置を要する国においては,そのための必要な措置を採ることを使用者に対して義務づけたものと解されるが,上記約款の条項から,著作物の複製物に著作権者の表示をする義務,及び「<検印省略>」の記載をしない義務を控訴人日本教文社に負わせたものと解することはできない。他に,被控訴人社会事業団と控訴人日本教文社との間において,同控訴人が著作物の複製物に著作権者の表示をする義務又は「<検印省略>」の記載をしない義務を負う旨の合意をしたと認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人日本教文社がした本件表示及び「<検印省略>」の記載が,債務不履行に該当すると認めることはできない。

また,控訴人日本教文社がした本件表示及び「<検印省略>」との記載行為が不法行為を構成すると認められないことは上記1(2)に記載したとおりである。

第4結論

以上によれば,本件各控訴にはいずれも理由がない。また,附帯控訴に係る被控訴人社会事業団の請求,すなわち,債務不履行又は不法行為を根拠とする訂正措置等の請求,及び損害賠償金の支払を求める請求のいずれも理由がない。

本件各控訴及び本件附帯控訴による請求にはいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 池下朗 裁判官 武宮英子)

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