知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10043号 判決 2011年10月11日
原告
アップリカ・チルドレンズプロダクツ株式会社
訴訟代理人弁護士
国谷史朗
重冨貴光
若林元伸
竹平征吾
吉村幸祐
廣瀬崇史
弁理士
伊藤英彦
竹内直樹
被告
サンジェニック・インターナショナル・リミテッド
訴訟代理人弁護士
鮫島正洋
髙見憲
伊藤雅浩
和田祐造
久礼美紀子
弁理士
蔵田昌俊
砂川克
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告が求めた判決
特許庁が無効2010-800055号事件について平成23年1月4日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告による無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟であり,被告が特許権者である。
争点は,明確性要件充足の有無(請求項9,14),請求項9及び14の発明が本件優先日前に頒布された刊行物に記載された発明と実質的に同一であるか否か,請求項9,10,14ないし18及び20の発明が,当業者において本件優先日前に頒布された刊行物に基づいて容易に発明することができたか否かである。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,平成16年10月21日,名称を「ごみ貯蔵機器」とする発明につき,優先日を平成15年10月23日,優先権主張国を英国として特許出願し(特願2006-536164号),平成21年6月5日,これを分割出願し(特願2009-135619号),平成21年11月6日,本件特許の設定登録を受けた(特許第4402165号)。
本件特許に関し,原告は,平成22年3月29日,請求項9,10,14ないし18及び20につき無効審判請求をしたが(無効2010-800055号),特許庁は,平成23年1月4日,当該請求が成立しないとの審決をし,その謄本は同月14日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨
本件発明は,赤ちゃんのおむつ等のごみを貯蔵する貯蔵機器及びこれに用いるカセットに関し,請求項の数は20であるが,そのうち特許発明1ないし8(請求項9,10,14ないし18,20)の特許請求の範囲は以下のとおりである。なお請求項14にいう「前記外部壁」は「前記外側壁」の誤記である。
【請求項9(特許発明1)】
「ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
前記ごみ貯蔵カセットは,略円柱状のコアを画定する内側壁と,外側壁と,前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成と,を有し,
前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された,ごみ貯蔵カセット。」
【請求項10(特許発明2)】
「前記構成は,フランジ形状を有し,前記外側壁の環状方向に設けられた,請求項9に記載のごみ貯蔵カセット。」
【請求項14(特許発明3)】
「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
該ごみ貯蔵カセットは,
略円柱状のコアを画定する内側壁と,
外側壁と,
前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,
前記内側壁の上部から前記外部壁に向けて延出する延出部であって,使用時に前記ごみ貯蔵袋織りが前記延出部をこえて前記コア内へ引き出される延出部と,
前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように,前記外側壁から突出する構成と,を備え,
前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された,ごみ貯蔵カセット。」
【請求項15(特許発明4)】
「前記貯蔵部に入れられたごみ貯蔵袋織りをさらに備える請求項14に記載のごみ貯蔵カセット。」
【請求項16(特許発明5)】
「前記構成は,フランジ形状を有し,前記外側壁の環状方向に設けられた,請求項14又は15に記載のごみ貯蔵カセット。」
【請求項17(特許発明6)】
「前記小室に接触せずに吊り下げられるように構成された,請求項9,10,14乃至16のいずれか1項に記載のごみ貯蔵カセット。」
【請求項18(特許発明7)】
「前記構成は,前記ごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合するように構成された,請求項9又は10に記載のごみ貯蔵カセット。」
【請求項20(特許発明8)】
「前記構成は,前記ごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合するように構成された,請求項14乃至17のいずれか1項に記載のごみ貯蔵カセット。」
3 原告が審判で提出した証拠方法及び主張した無効理由
(1) 証拠方法
【甲第1号証】 WO 03/059748A2号
【甲第2号証】 WO 02/083525A1号
【甲第3号証】 WO 03/068635A1号
【甲第4号証】 US2002/0162304A1号
【甲第5号証】 特開2002-226003号公報
【甲第6号証】 実願平5-58963号(実開平7-28104号)のCD-ROM
【甲第7号証】 実願昭59-74243号(実開昭60-184807号)のマイクロフィルム
【甲第8号証】 特表2002-502784号公報
【甲第9号証】 特公平5-2732号公報
【甲第10号証】 実願昭62-105691号(実開昭64-12002号)のマイクロフィルム
(2) 無効理由
・ 無効理由1
特許発明1及び3は,その特許請求の範囲において,特許を受けようとする発明が明確に記載されておらず,特許を受けようとする発明が「ごみ貯蔵カセット」なのか,「ごみ貯蔵カセットとごみ貯蔵容器との組合せ構造」なのか明確でない(特許法123条1項4号,36条6項2号)。
・ 無効理由2
特許発明1及び3はいずれも甲第1号証に記載された発明と同一であるから,新規性を欠く(特許法123条1項2号,29条1項3号)。
・ 無効理由3
特許発明3は,甲第1号証に記載された発明に基づくか,甲第2号証に記載された発明に基づくか,又は甲第1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を組み合せることに基づいて,本件優先日当時,当業者において容易に発明できたものであり,進歩性を欠く。特許発明1,2,4及び5も,特許発明3と同様に進歩性を欠く。
特許発明6も,さらに甲第9号証に記載された事項を組み合せれば,本件優先日当時,当業者において容易に発明できたものであり,進歩性を欠く。
特許発明7及び8も,さらに甲第4号証(特許発明1等の進歩性が甲第1号証に記載された発明のみに基づいて否定される場合には甲第2号証も)を組み合せれば,本件優先日当時,当業者において容易に発明できたものであり,進歩性を欠く。
4 審決の理由の要点
(1) 無効理由1について
「原告がごみ貯蔵機器に関する事項とした『ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けるための』は『ごみ貯蔵カセット』自体が配置される装置,状態を特定するための事項であり,また,『前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように』は『ごみ貯蔵カセット』の『外側壁から突出する構成』を特定するための事項であり,さらに『前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された』は『ごみ貯蔵カセット』自体がどのように配置されるかを特定するための事項であることは明らかである。そして,これらの特定事項は明確であって,全体として『ごみ貯蔵カセット』は明確である。
したがって,特許請求の範囲14に記載された事項で特定された特許発明3は,明確である。
さらに,特許請求の範囲の請求項9に記載された事項で特定された特許発明1も特許発明3と同様に,明確である。」
(2) 無効理由2について
【特許発明1との対比の観点から認定される,甲第1号証に記載された発明(引用発明1)】
「内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるためのカセット110であって,
前記カセット110は,内壁116と,外壁118と,内壁116と外壁118との間に設けられたパック122収納部と,カセット110を支持するために,外壁118に設けられ,筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成と,を有し,
前記筒状部材(図番無し)から吊り下げられるように構成された,カセット。」
【特許発明1と引用発明1の一致点】
「ごみ貯蔵機器の上部に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
前記ごみ貯蔵カセットは,略円柱状のコアを画定する内側壁と,外側壁と,前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,前記ごみ貯蔵カセットを支持させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,ごみ貯蔵機器と係合するように備えられた構成と,を有し,
前記ごみ貯蔵機器から吊り下げられるように構成された,ごみ貯蔵カセット」である点
【特許発明1と引用発明1の相違点】
・ 相違点1
特許発明1はごみ貯蔵カセットが,「ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるための」ものであるのに対し,引用発明1は,「内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるための」ものであって,「ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内」に「回転可能に」据え付けるためのではない点
・ 相違点2
特許発明1はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成」を有したものであるのに対し,引用発明1は,「カセット110を支持するために,外壁118に設けられ,筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成」を有したものであって,ごみ貯蔵カセットを「支持し且つ回転させるため」に,「外側壁から突出」し,「小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成」を有したものではない点
・ 相違点3
特許発明1はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された」ものであるのに対し,引用発明1は,「筒状部材(図番無し)から吊り下げられるように構成された,カセット」であって,「ごみ貯蔵カセット回転装置」から吊り下げられるように構成されたものではない点
【特許発明1と引用発明1の実質的同一性に係る審決の判断(14~17頁)】
「a.特許発明1の『係合』に関して
・・・
『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』の解釈について検討する。
まず,本件特許明細書には,上記『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』に関して,【0017】に,『回転可能な円板は前記カセットに係合し,前記カセットそれ自体,あるいは前記袋織りに触れる必要がなく,ほとんど苦もなく,前記カセットは手動でねじる又は回転させることができる。』とごみ貯蔵カセットを『回転させる』ための『係合』に関する記載がなされている。
さらに,本件特許明細書には,『ごみ貯蔵カセット(の)・・外側壁から突出し・・た構成』と『ごみ貯蔵カセット回転装置』との係合ではないものの,『回転』のための『係合』に関して,【0023】の『カセット上の前記環状フランジ106は,前記小室それ自体に形成された構成上に置かれ,前記円板100は,前記カセット内の複数の切り欠きのような構成と係合作用をする複数の突起のような構成を含んでいる。いずれにしても,より簡単な,及び回転するためにより少ない抵抗を持つ,カセット回転手段が提供される。』,【0026】の『外側円筒状壁の下部表面から突出している突出部118は,完全な回転係合を確実にするために,前記カセット1内で凹所又は孔119に係合する。」及び「回転可能な円板100上の協同する突出部又は他の形成部と係合する複数の軸方向に方向付けられたリブを担持することができる。』と記載されている。
なお,【0026】には,『図6から理解できるように,その基底で前記カセット1を支持する前記肩を規定する内側方向に突出した環状支持フランジ115を備えている。前記カセット1は,その外壁上に,前記支持フランジ115上に載っている外方向に突出する環状フランジ又はくちびる116を備えている。』と,カセットが『支持フランジ115上に載っている外方向に突出する環状フランジ又はくちびる116を備えている』ことも記載されているものの,『係合』なる表現は使用されていない。
そして,
(a) 一般的に『係合』なる表現は,被告が主張するように『2つの物が,互いにかみ合うことにより,またはその突出部と対応する凹部がひっかかることにより,連動したり,両者の相対位置が固定されたりするような構成をとること』を表す意図で用いられる用語であり,特許発明1の『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』の『係合』が,『支持し且つ回転させるために,・・・突出し・・・係合する』として用いられているように,『突出し』た構成による『係合』であって,該『突出し』た構成が上記の『かみ合う』や『ひっかかる』で例示される作用を生じ,結果として『係合』するものと普通に理解でき,かつ,『支持し且つ回転させる』ことを意図した『係合』である以上,該『突出し』た構成の『かみ合う』等の作用は,『支持』及び『回転させる』ことに寄与すると理解でき,『係合』を上記一般的な意図で用いられると解することに特段の支障は存在しない。
(b) 本件特許明細書において,『回転』のための『係合』を図示して具体的に表されている【0026】の『外側円筒状壁の下部表面から突出している突出部118は,完全な回転係合を確実にするために,前記カセット1内で凹所又は孔119に係合する。』も,突出部が設けられている部材は異なるものの,まさに上記『かみ合う』や『ひっかかる』で例示される作用で回転させるものであり,このことも,『係合』が上記一般的な意図で用いられると解することと整合している。
(c) 上記(b)以外の本件特許明細書における『回転』のための『係合』に係る記載である,【0017】,【0023】及び,【0026】の『回転可能な円板100上の協同する突出部又は他の形成部と係合する複数の軸方向に方向付けられたリブを担持することができる。』とのいずれの記載も,上記『かみ合う』や『ひっかかる』で例示される作用で回転させるものと矛盾するものではない。
これら(a)~(c)を考慮すると,本件特許明細書においては,『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』の係合は,上記一般的な意図で使用されているものと解される。
さらに,『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』は『支持し且つ回転させるために,・・・突出し・・・係合する』ものであって,『支持』及び『回転させる』ことに寄与する,『突出』構成による『かみ合う』等の作用を伴う係合であるので,原告が主張するような『単にごみ貯蔵カセット回転装置上に載っているという構造的関係』のものまでも包含すると解することは妥当でない。
b.相違点について
特許発明1と甲第1号証に記載された発明とは,上記相違点1~3で相違する。
そして,特許発明1は,相違点1~3の『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有し,『ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成』されることで,明細書段落【0017】の『回転可能な円板は前記カセットに係合し,前記カセットそれ自体,あるいは前記袋織りに触れる必要がなく,ほとんど苦もなく,前記カセットは手動でねじる又は回転させることができる。』という作用効果を奏するものであるから,該相違点1~3は形式的なものではなく,実質的な相違点である。
原告は,・・・『相違点カ),キ)およびク)(判決注:特許発明1の進歩性に関して引用された,特許発明3と甲第1号証に記載された発明との相違点)は,いずれもカセット自体の構造的な特徴に関するものではなく・・・区別することができない。』旨の主張をしているが,・・・請求項に記載された事項はすべてごみ貯蔵カセットを特定する事項であるから理由がない。
したがって,特許発明1は甲第1号証に記載された発明と同一であるということはできない。」
【特許発明3との対比の観点から認定される,甲第1号証に記載された発明(引用発明2)】
「内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるためのカセット110であって,
該カセット110は,
内壁116と,
外壁118と,
内壁116と外壁118との間に設けられたパック122収納部と,
内壁116の上部から外壁118に向けて延出する張出し部128であって,使用時にパック122が張出し部128をこえて内壁116内側へ引き出される張出し部128と,
カセット110の支持のために,前記筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように,外壁118から突出する構成と,を備え,
前記筒状部材(図番無し)から吊り下げられるように構成された,カセット」
【特許発明3と引用発明2の一致点】
「ごみ貯蔵機器の上部に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
該ごみ貯蔵カセットは,
略円柱状のコアを画定する内側壁と,
外側壁と,
前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,
前記内側壁の上部から前記外側壁に向けて延出する延出部であって,使用時に前記ごみ貯蔵袋織りが前記延出部をこえて前記コア内へ引き出される延出部と,
前記ごみ貯蔵カセットの支持のために,前記ごみ貯蔵機器と係合するように,前記外側壁から突出する構成と,を備え,
前記ごみ貯蔵機器から吊り下げられるように構成された,ごみ貯蔵カセット」である点
【特許発明3と引用発明2の相違点】
・ 相違点4
特許発明3はごみ貯蔵カセットが,「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けるためのごみ貯蔵カセット」であるのに対し,引用発明2は,「内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるためのカセット110」であって,「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置」に「係合され回転可能」に据え付けるためのものではない点
・ 相違点5
特許発明3はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように,前記外側壁から突出する構成」を備えたものであるのに対し,引用発明2は,「カセット110の支持のために,前記筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように,外壁118から突出する構成」を備えたものであって,「ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため」に,「ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう」に,外側壁から「突出する構成」を備えたものではない点
・ 相違点6
特許発明3はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された」ものであるのに対し,引用発明2は,「筒状部材(図番無し)から吊り下げられるように構成された,カセット」であって,「ごみ貯蔵カセット回転装置」から吊り下げられるように構成されたものではない点
【特許発明3と引用発明2の実質的同一性に係る審決の判断(19,20頁)】
「a.特許発明3の『係合』に関しては,上記(1)イ.(イ)a.(判決注:特許発明1と引用発明1の実質的同一性に係る判断のa)と同様の意図で使用されているものと解される。
b.相違点について
特許発明3と甲第1号証に記載された発明とは,上記相違点4~6で相違する。
そして,特許発明3は,相違点4~6の『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』を備え,『ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成』されることで,明細書段落【0017】の『回転可能な円板は前記カセットに係合し,前記カセットそれ自体,あるいは前記袋織りに触れる必要がなく,ほとんど苦もなく,前記カセットは手動でねじる又は回転させることができる。』という作用効果を奏するものであるから,該相違点4~6は形式的なものではなく,実質的な相違点である。
原告は,審判請求書7.(10)で「相違点カ),キ)およびク)(判決注:特許発明3と甲第1号証に記載された発明との相違点)は,いずれもカセット自体の構造的な特徴に関するものではなく・・・区別することができない。」旨の主張をしているが,・・・請求項に記載された事項はすべてごみ貯蔵カセットを特定する事項であるから理由がない。
したがって,特許発明3は甲第1号証に記載された発明と同一であるということはできない。」
(3) 無効理由3について
ア 特許発明1の進歩性について
【甲第1号証に記載された引用発明1に主として基づく容易想到性に係る判断(30,31頁)】
「原告は,・・・『本件発明の優先日の時点において,カセットから引き出されたフィルムの上方部分と下方部分との間にねじれ部分を形成するために,カセットと引き出されたフィルムの下方部分との間で相対的なねじれを生じさせるようにすること,および相対的なねじれ操作のためにフィルムを収容しているカセットを回転させることは,例えば甲第2号証,甲第4号証及び甲第5号証にも開示されており,この分野において周知の事項と認められる。
・・・甲第1号証において,器具を用いたねじり操作によってカセットを回転させるために,ごみ貯蔵カセットを支持する部材を回転させるようにすることを容易に想到し得る。・・・ごみ貯蔵カセット回転装置がごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたことを規定しているが,係る特徴はごみ貯蔵カセット自体の構造的特徴とは無関係であり,何ら特許性を高めるものではない。
以上のように,当業者であれば,甲第1号証の開示内容を根拠に,ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する構成をごみ貯蔵カセット回転装置に係合させ,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げるようにして請求項14発明に到達することは容易である。』旨の主張をしているので,それについて検討する。
・・・引用発明1は,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有したものではない。
そして,原告が主張するように,『カセットから引き出されたフィルムの上方部分と下方部分とのねじれ部分を形成するために,カセットと引き出されたフィルムの下方部分との間で相対的なねじれを生じさせるようにすること,および相対的なねじれ操作のためにフィルムを収容しているカセットを回転させること』が甲第2号証,甲第4号証及び甲第5号証に開示されて周知の事項であったとしても,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』が,甲第1号証,甲第2号証,甲第4号証,甲第5号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,請求項9発明(すなわち特許発明1)に到達することは容易ではない。
なお,相違点2に係る『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』は,『支持し且つ回転させるために,・・・突出し・・・係合する』ものであって,その『係合』は,上記2.(1)イ.(イ)a.(判決注:無効理由2についての判断のうち特許発明1の『係合』の意義に関するaの部分)の意図で使用されているものである。
また他に,相違点2が甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたことであるとする合理的理由も発見できない。
したがって,特許発明1は甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」
【甲第2号証に記載された発明(引用発明3)】
「本体100の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるためのカセット130であって,
前記カセット130は,内側壁と,外側壁と,前記内側壁と前記外側壁との間に設けられた織り畳まれた状態のフィルム135を入れる貯蔵部と,前記カセット130を支持し且つ回転させるために,クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるカセット130の底部構成と,を有し,
クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるように構成された,カセット130。」
【特許発明1と引用発明3の一致点】
「ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
前記ごみ貯蔵カセットは,略円柱状のコアを画定する内側壁と,外側壁と,前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,関連づけられた構成と,を有し,
前記ごみ貯蔵カセット回転装置に支持されるように構成された,ごみ貯蔵カセット」である点
【特許発明1と引用発明3の相違点】
・ 相違点7
特許発明1はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成」を有したものであるのに対し,引用発明3は,「前記カセット130を支持し且つ回転させるために,クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるカセット130の底部構成」を有したものであって,ごみ貯蔵カセットを「支持し且つ回転させるため」に,「外側壁から突出」し,「小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成」を有したものではない点
・ 相違点8
特許発明1はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された」ものであるのに対し,引用発明3は,「クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるように構成された,カセット130」であって,ごみ貯蔵カセット回転装置「から吊り下げられるように構成」されたものではない点
【甲第2号証に記載された引用発明3に主として基づく容易想到性に係る判断(33,34頁)】
「原告は,・・・『請求項14発明の優先日の時点において,吊り下げ式カセット支持構造・・・および底部支持式カセット支持構造の両者が一般的に知られている。・・・
請求項14発明の優先日の時点において,吊下げ式カセット支持構造および底部支持式カセット支持構造の両者が一般的に知られているので,当業者にとって,どちらの支持構造を採用するかは単なる設計上の選択事項である。したがって,甲第2号証において,ごみ貯蔵カセットの支持・回転のための構造として,ごみ貯蔵カセットの底部をカセット回転装置上に係合させる底部支持式カセット支持構造に代えて,ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する部分をカセット回転装置上に係合させる吊下げ式カセット支持構造を採用して請求項14発明に到達することは,当業者にとって容易になし得ることである。』旨の主張をしているので,それについて検討する。
・・・引用発明3は,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有したものではない。
そして,原告が主張するように,『吊下げ式カセット支持構造』および『底部支持式カセット支持構造』の両者が甲第1,3,7号証,及び,甲第2,4,8号証に開示されて一般的に知られていることであったとしても,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』が,甲第1,3,7号証,甲第2,4,8号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,請求項9発明(すなわち特許発明1)に到達することは容易ではない。
なお,相違点7に係る『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』は,『支持し且つ回転させるために,・・・突出し・・・係合する』ものであって,その『係合』は,上記2.(1)イ.(イ)a.(判決注:無効理由2についての判断のうち特許発明1の『係合』の意義に関するaの部分)の意図で使用されているものである。
また他に,相違点7は甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたことであるとする合理的理由も発見できない。
したがって,特許発明1は甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。」
【甲第1号証に記載された引用発明1に甲第2号証に記載された引用発明3を組み合せたことに基づく容易想到性に係る判断(35,36頁)】
「原告は,・・・『引用発明1の示唆,引用発明3の教示内容および請求項14発明の優先日における当業者の技術水準を考慮すれば,引用発明1における手動でのフィルム捩じり操作に代えて,器具を用いたねじり操作によってカセットを回転させるために,引用発明1のごみ貯蔵カセットを,支持・回転のために,引用発明3の回転装置上に係合させるようにすることは当業者にとって容易なことである。また,その際に,カセット支持構造として,底部支持式カセット支持構造および吊下げ式カセット支持構造のいずれを採用するかは単なる設計上の選択事項にすぎないこと,および引用発明1のカセットが吊下げ式カセット支持構造に適合するように外側壁から突出した構成を備えていることから,引用発明1のカセットの外側壁から突出する構成を引用発明3に開示されたような回転装置に係合させてこの回転装置から吊下げるようにして請求項14発明に到達することは,当業者が容易になし得るものである。』旨の主張をしているので,それについて検討する。
・・・引用発明1は,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有したものではない。
そして,原告が主張するように,『引用発明1における手動でのフィルム捩じり操作に代えて,器具を用いたねじり操作によってカセットを回転させる』ことが『当業者にとって容易なこと』であったとしても,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』が甲第1号証,甲第2号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し『係合する』構成には到達できず,結局,請求項9発明(すなわち特許発明1)に到達することは容易ではない。
なお,相違点2に係る『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』は,『支持し且つ回転させるために,・・・突出し・・・係合する』ものであって,その『係合』は,上記2.(1)イ.(イ)a.(判決注:無効理由2についての判断のうち特許発明1の『係合』の意義に関するaの部分)の意図で使用されているものである。
また他に,相違点2が甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたことであるとする合理的理由も発見できない。
したがって,特許発明1が甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。」
イ 特許発明2の進歩性について(36,37頁)
「特許発明2は,特許発明1を引用する形式で記載された発明であるので,特許発明2と引用発明1とを対比すると,両者は少なくとも,上記2.(1)イ.(ア)c.(判決注:特許発明1と引用発明1の一致点)の点で一致し,少なくとも上記2.(1)イ.(ア)d.(判決注:特許発明1と引用発明1の相違点)の相違点1~3で相違する。
また,特許発明2と引用発明3とを対比すると,両者は少なくとも,上記(2-2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明1と引用発明3の一致点)の点で一致し,少なくとも上記(2-2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明1と引用発明3の相違点)の相違点7~8で相違する。
そして,少なくとも相違点2,及び相違点7は,上記(2-1)イ.(イ)(判決注:引用発明1に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(2-2)イ.(イ)(判決注:引用発明3に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明3の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(2-3)イ.(イ)(判決注:引用発明1及び3に基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断)で述べたように,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものとすることはできないものなので,特許発明2は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,または甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」
ウ 特許発明3の進歩性について
【甲第1号証に記載された引用発明2に主として基づく容易想到性に係る判断(37,38頁)】
「原告は,・・・『本件発明の優先日の時点において,カセットから引き出されたフィルムの上方部分と下方部分との間にねじれ部分を形成するために,カセットと引き出されたフィルムの下方部分との間で相対的なねじれを生じさせるようにすること,および相対的なねじれ操作のためにフィルムを収容しているカセットを回転させることは,例えば甲第2号証,甲第4号証及び甲第5号証にも開示されており,この分野において周知の事項と認められる。
・・・甲第1号証において,器具を用いたねじり操作によってカセットを回転させるために,ごみ貯蔵カセットを支持する部材を回転させるようにすることを容易に想到し得る。・・・ごみ貯蔵カセット回転装置がごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたことを規定しているが,係る特徴はごみ貯蔵カセット自体の構造的特徴とは無関係であり,何ら特許性を高めるものではない。
以上のように,当業者であれば,甲第1号証の開示内容を根拠に,ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する構成をごみ貯蔵カセット回転装置に係合させ,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げるようにして請求項14発明に到達することは容易である。』旨の主張をしているので,それについて検討する。
・・・引用発明1は,『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』を備えたものではない。
そして,原告が主張するように,『カセットから引き出されたフィルムの上方部分と下方部分とのねじれ部分を形成するために,カセットと引き出されたフィルムの下方部分との間で相対的なねじれを生じさせるようにすること,および相対的なねじれ操作のためにフィルムを収容しているカセットを回転させること』が甲第2号証,甲第4号証及び甲第5号証に開示されて周知の事項であったとしても,『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』が,甲第1号証,甲第2号証,甲第4号証,甲第5号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,請求項14発明(すなわち特許発明3)に到達することは容易ではない。
なお,相違点5に係る『前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように,前記外側壁から突出する構成』は,『支持・回転のために,・・・係合するように・・・突出する』ものであって,その『係合』は,上記2.(1)イ.(イ)a.(判決注:無効理由2についての判断のうち特許発明1の『係合』の意義に関するaの部分)の意図で使用されているものである。
また他に,相違点5が甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたことであるとする合理的理由も発見できない。
したがって,特許発明3が甲第1号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」
【特許発明3との対比の観点から認定される,甲第2号証に記載された発明(引用発明4)】
「本体100の上部に備えられた小室に設けられたクラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれ回転可能に据え付けるためのカセット130であって,
該カセット130は,
内側壁と,
外側壁と,
前記内側壁と前記外側壁との間に設けられた織り畳まれた状態のフィルム135を入れる貯蔵部と,
前記内側壁の上部から外部壁に向けて延出する延出部であって,使用時に織り畳まれた状態のフィルム135が前記延出部をこえて内側壁の内側へ引き出される延出部と,
前記カセット130の支持・回転のために,クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるカセット130の底部構成と,を備え,
クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるように構成された,カセット130。」
【特許発明3と引用発明4の一致点】
「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に回転可能に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
該ごみ貯蔵カセットは,
略円柱状のコアを画定する内側壁と,
外側壁と,
前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,
前記内側壁の上部から前記外部壁に向けて延出する延出部であって,使用時に前記ごみ貯蔵袋織りが前記延出部をこえて前記コア内へ引き出される延出部と,
前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と関連づけられた構成と,を備え,
前記ごみ貯蔵カセット回転装置に支持されるように構成された,ごみ貯蔵カセット。」である点
【特許発明3と引用発明4の相違点】
・ 相違点9
特許発明3はごみ貯蔵カセットが,「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けるためのごみ貯蔵カセット」であるのに対し,引用発明4は,「本体100の上部に備えられた小室に設けられたクラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれ回転可能に据え付けるためのカセット130」であって,ごみ貯蔵カセット回転装置に「係合され」回転可能に据え付けるものではない点
・ 相違点10
特許発明3はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように,前記外側壁から突出する構成」を備えたものであるのに対し,引用発明4は,「カセット130の支持・回転のために,クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるカセット130の底部構成」を備えたものであって,「ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため」に,「ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう」に,「外側壁から突出する構成」を備えたものではない点
・ 相違点11
特許発明3はごみ貯蔵カセットが,「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された」ものであるのに対し,引用発明4は,「クラッチ270上に取り付けられたカセット130を支える支持部上に置かれるように構成された」ものであって,ごみ貯蔵カセット回転装置「から吊り下げられるように構成」されたものではない点
【甲第2号証に記載された引用発明4に主として基づく容易想到性に係る判断(40,41頁)】
「原告は,・・・『請求項14発明の優先日の時点において,吊り下げ式カセット支持構造・・・および底部支持式カセット支持構造の両者が一般的に知られている。・・・
請求項14発明の優先日の時点において,吊下げ式カセット支持構造および底部支持式カセット支持構造の両者が一般的に知られているので,当業者にとって,どちらの支持構造を採用するかは単なる設計上の選択事項である。したがって,甲第2号証において,ごみ貯蔵カセットの支持・回転のための構造として,ごみ貯蔵カセットの底部をカセット回転装置上に係合させる底部支持式カセット支持構造に代えて,ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する部分をカセット回転装置上に係合させる吊下げ式カセット支持構造を採用して請求項14発明に到達することは,当業者にとって容易になし得ることである。』旨の主張をしているので,それについて検討する。
・・・引用発明4は,『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,『外側壁から突出する構成』を備えたものではない。
そして,原告が主張するように,『吊下げ式カセット支持構造』および『底部支持式カセット支持構造』の両者が甲第1,3,7号証,及び,甲第2,4,8号証に開示されて一般的に知られていることであったとしても,『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』が,甲第1,3,7号証,甲第2,4,8号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,請求項14発明(すなわち特許発明3)に到達することは容易ではない。
なお,相違点10に係る『前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように,前記外側壁から突出する構成』は,『支持・回転のために,・・・係合するように・・・突出する』ものであって,その『係合』は,上記2.(1)イ.(イ)a.(判決注:無効理由2についての判断のうち特許発明1の『係合』の意義に関するaの部分)の意図で使用されているものである。
また他に,相違点10が甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたことであるとする合理的理由も発見できない。
したがって,特許発明3が甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」
【甲第1号証に記載された引用発明2に甲第2号証に記載された引用発明4を組み合せたことに基づく容易想到性に係る判断(42,43頁)】
「原告は,・・・『引用発明2の示唆,引用発明4の教示内容および請求項14発明の優先日における当業者の技術水準を考慮すれば,引用発明2における手動でのフィルム捩じり操作に代えて,器具を用いたねじり操作によってカセットを回転させるために,引用発明2のごみ貯蔵カセットを,支持・回転のために,引用発明4の回転装置上に係合させるようにすることは当業者にとって容易なことである。また,その際に,カセット支持構造として,底部支持式カセット支持構造および吊下げ式カセット支持構造のいずれを採用するかは単なる設計上の選択事項にすぎないこと,および引用発明2のカセットが吊下げ式カセット支持構造に適合するように外側壁から突出した構成を備えていることから,引用発明2のカセットの外側壁から突出する構成を引用発明4に開示されたような回転装置に係合させてこの回転装置から吊下げるようにして請求項14発明に到達することは,当業者が容易になし得るものである。』旨の主張をしているので,それについて検討する。
・・・引用発明2は,『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』を備えたものではない。
そして,原告が主張するように,『引用発明2における手動でのフィルム捩じり操作に代えて,器具を用いたねじり操作によってカセットを回転させる』ことが『当業者にとって容易なこと』であったとしても,ごみ貯蔵カセットを『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』が甲第1号証,甲第2号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,『支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』構成には到達できず,結局,請求項14発明(すなわち特許発明3)に到達することは容易ではない。
なお,相違点5に係る『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように,前記外側壁から突出する構成』は,『支持・回転のために,・・・係合するように・・・突出する』ものであって,その『係合』は,上記2.(1)イ.(イ)a.(判決注:無効理由2についての判断のうち特許発明1の『係合』の意義に関するaの部分)の意図で使用されているものである。
また他に,相違点5が甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたことであるとする合理的理由も発見できない。
したがって,特許発明3が甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」
エ 特許発明4及び5の進歩性について(43頁)
「特許発明4~5は,特許発明3を引用する形式で記載された発明であるので,特許発明4~5と引用発明2とを対比すると,両者は少なくとも,上記2.(2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明3と引用発明2の一致点)の点で一致し,少なくとも上記2.(2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明3と引用発明2の相違点)の相違点4~6で相違する。
また,特許発明4~5と引用発明4とを対比すると,両者は少なくとも,上記(4-2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明3と引用発明4の一致点)の点で一致し,少なくとも(4-2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明3と引用発明4の相違点)の相違点9~11で相違する。
そして,少なくとも相違点5,及び相違点10は,上記(4-1)イ.(イ)(判決注:引用発明2に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明2の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(4-2)イ.(イ)(判決注:引用発明4に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明4の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(4-3)イ.(イ)(判決注:引用発明2及び4に基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明2の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断)で述べたように,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものとすることはできないものなので,特許発明4~5は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」
オ 特許発明6の進歩性について(44,45頁)
「特許発明6は,特許発明1または,特許発明3を引用する形式で記載された発明であるので,特許発明6と引用発明1とを対比すると,両者は少なくとも,上記2.(1)イ.(ア)c.(判決注:特許発明1と引用発明1の一致点)の点で一致し,少なくとも上記2.(1)イ.(ア)d.(判決注:特許発明1と引用発明1の相違点)の相違点1~3で相違する。
また,特許発明6と引用発明2とを対比すると,両者は少なくとも,上記2.(2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明3と引用発明2の一致点)の点で一致し,少なくとも上記2.(2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明3と引用発明2の相違点)の相違点4~6で相違する。
また,特許発明6と引用発明3とを対比すると,両者は少なくとも,上記(2-2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明1と引用発明3の一致点)の点で一致し,少なくとも上記(2-2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明1と引用発明3の相違点)の相違点7~8で相違する。
また,特許発明6と引用発明4とを対比すると,両者は少なくとも,上記(4-2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明3と引用発明4の一致点)の点で一致し,少なくとも(4-2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明3と引用発明4の相違点)の相違点9~11で相違する。
そして,少なくとも,相違点2,及び相違点7は,上記(2-1)イ.(イ)(判決注:引用発明1に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(2-2)イ.(イ)(判決注:引用発明3に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明3の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(2-3)イ.(イ)(判決注:引用発明1及び3に基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断)で述べたように,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものとすることはできないものであり,相違点5,及び相違点10は,上記(4-1)イ.(イ)(判決注:引用発明2に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明2の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(4-2)イ.(イ)(判決注:引用発明4に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明4の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(4-3)イ.(イ)(判決注:引用発明2及び4に基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明2の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断)で述べたように,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものとすることはできないものなので,特許発明6は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお,・・・『甲第9号証は,ごみを収容する内容器を,外容器の上部開口部に取り付けた枠体から吊り下げる構造を開示している。この構造であれば,内容器が外容器に接触することは無い。甲第2号証においても,ごみを収容する内容器は,外容器に接触していない。これらの開示内容を考慮すれば,ごみ貯蔵カセットを小室に接触させずに吊り下げるように構成することは当業者が容易に想到し得るものであり,請求項17発明の進歩性は否定されるべきである。』旨の主張をしているので,甲第9号証についても検討する。
原告が主張するように,甲第9号証が『ごみを収容する内容器を,外容器の上部開口部に取り付けた枠体から吊り下げる構造を開示している。』としても,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』,及び『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』を示すものでない以上,請求項17発明(すなわち特許発明6)に到達することは容易ではない。」
カ 特許発明7の進歩性について(45,46頁)
「特許発明7は,特許発明1を引用する形式で記載された発明であるので,特許発明7と引用発明1とを対比すると,両者は少なくとも,上記2.(1)イ.(ア)c.(判決注:特許発明1と引用発明1の一致点)の点で一致し,少なくとも上記2.(1)イ.
(ア) d.(判決注:特許発明1と引用発明1の相違点)の相違点1~3で相違する。
また,特許発明7と引用発明3とを対比すると,両者は少なくとも,上記(2-2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明1と引用発明3の一致点)の点で一致し,少なくとも上記(2-2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明1と引用発明3の相違点)の相違点7~8で相違する。
そして,少なくとも相違点2,及び相違点7は,上記(2-1)イ.(イ)(判決注:引用発明1に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(2-2)イ.(イ)(判決注:引用発明3に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明3の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記3.(2-3)イ.(イ)(判決注:引用発明1及び3に基づく進歩性判断に関する,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断)で述べたように,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものとすることはできないものなので,特許発明7は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお,・・・『甲第2号証に開示されたごみ貯蔵カセットは,その底部において,ごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合するものである。また,甲第4号証は,ごみ貯蔵カセットの外側壁に環状に設けられたフランジ部分がごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合する構造を開示している。これらの公知文献の開示内容を考慮すれば,請求項18発明及び請求項20発明の進歩性は否定されるべきである。』旨の主張をしているので,甲第4号証についても検討する。
原告が主張するように,甲第4号証が『ごみ貯蔵カセットの外側壁に環状に設けられたフランジ部分がごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合する構造を開示している。』としても,それは『ごみ貯蔵カセットの支持』を前提とした係合ではなく,結局,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』が甲第1,2,4号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,請求項18発明(すなわち特許発明7)に到達することは容易ではない。」
キ 特許発明8の進歩性について(46,47頁)
「特許発明8は,特許発明3を引用する形式で記載された発明であるので,特許発明8と引用発明2とを対比すると,両者は少なくとも,上記2.(2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明3と引用発明2の一致点)の点で一致し,少なくとも上記2.(2)イ.
(ア) d.(判決注:特許発明3と引用発明2の相違点)の相違点4~6で相違する。
また,特許発明8と引用発明4とを対比すると,両者は少なくとも,上記(4-2)イ.(ア)c.(判決注:特許発明3と引用発明4の一致点)の点で一致し,少なくとも(4-2)イ.(ア)d.(判決注:特許発明3と引用発明4の相違点)の相違点9~11で相違する。
そして,少なくとも相違点5,及び相違点10は,上記(4-1)イ.(イ)(判決注:引用発明2に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明2の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(4-2)イ.(イ)(判決注:引用発明4に主として基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明4の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断),上記(4-3)イ.(イ)(判決注:引用発明2及び4に基づく進歩性判断に関する,特許発明3と引用発明2の相違点に係る構成の容易想到性に係る判断)で述べたように,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に想到できたものとすることはできないものなので,特許発明8は,甲第1号証に記載された発明,甲第2号証に記載された発明,甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお,・・・『甲第2号証に開示されたごみ貯蔵カセットは,その底部において,ごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合するものである。また,甲第4号証は,ごみ貯蔵カセットの外側壁に環状に設けられたフランジ部分がごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合する構造を開示している。これらの公知文献の開示内容を考慮すれば,請求項18発明及び請求項20発明の進歩性は否定されるべきである。』旨の主張をしているので,甲第4号証についても検討する。
原告が主張するように,甲第4号証が『ごみ貯蔵カセットの外側壁に環状に設けられたフランジ部分がごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合する構造を開示している。』としても,それは『ごみ貯蔵カセットの支持』を前提とした係合ではなく,結局,『ごみ貯蔵カセットの支持・回転のため』に,『ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するよう』に,外側壁から『突出する構成』が甲第1,2,4号証及び,その他の甲各号証に記載されておらず,また,それらの記載に示唆されている構成ということもできない以上,請求項20発明(すなわち特許発明8)に到達することは容易ではない。」
第3原告主張の審決取消事由
1 明確性要件の充足判断の誤り(取消事由1)
特許発明1(請求項9)がごみ貯蔵カセットに関する発明であれば,「ごみ貯蔵カセットとごみ貯蔵カセット回転装置との組合せ構造」ではなく,「ごみ貯蔵カセット」自体の構造的特徴に焦点を当てる必要がある。
しかしながら,特許発明1の特許請求の範囲の記載は,発明の内容が真実「ごみ貯蔵カセット」自体なのか,あるいは「ごみ貯蔵カセットとごみ貯蔵機器(ごみ貯蔵カセット回転装置等)の組合せ構造」要素を含むのかが不明確となっており,その結果特許発明1の技術的範囲が甚だ不明確であり,ごみ貯蔵カセット自体を業として製造又は販売する第三者の活動が不当に制限されることになる。
だとすると,特許発明1の特許請求の範囲の記載は不明確であり,特許法36条6項2号の要件を充足するとはいえない。
特許発明3(請求項14)の特許請求の範囲の記載も,上記と同様の理由で不明確であり,特許法36条6号2号の要件を充足しない。
しかるに,審決は,特許発明1の特許請求の範囲の記載も特許発明3の特許請求の範囲の記載も明確であると判断したものであって,明確性要件の充足の有無に係る審決の判断には誤りがある。
2 特許発明1の認定の誤り,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り等(取消事由2)
(1) 仮に特許発明1が「ごみ貯蔵カセット」に関する発明であるのなら,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定に当たっては,「ごみ貯蔵カセット」自体の構成が問題とされるべきである。「ごみ貯蔵カセット」を回転装置に付けて使用すること自体は極めてありふれており,技術常識に属する事項にすぎず,「ごみ貯蔵カセット」の発明との関係ではみるべき技術的意義を有しないからである。そこで,特許発明1の特許請求の範囲の記載をみるに,同記載のうち「ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように」の「係合」とは,当該用語が有する通常の意義として,明確に「係わり合う」という意味を有するものである。特許発明1の特許請求の範囲の記載上,「ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出した構成」が「ごみ貯蔵カセット回転装置」とどのように係わるかや,その係わり方の程度は問われていない。本件明細書の段落【0023】,【0026】を前提にしても,「ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する構成」は「ごみ貯蔵カセット回転装置」の内側に突出した部分に単に載っているにすぎない構成が排除されていないことは明らかである。「ごみ貯蔵カセット」と「ごみ貯蔵カセット回転装置」の相対位置を回転方向に対して確実に固定する作用効果は,「ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する構成」以外の構成である,「ごみ貯蔵カセット」内の複数の切欠きの構成や,「ごみ貯蔵カセット」内の凹部又は孔によって初めて達成されるものにすぎない。
しかるに,審決は,「ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出した構成」と「ごみ貯蔵カセット回転装置」との「係合」態様を問題にせず,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない等の特段の事情もないのに,特許明細書の記載を詳細に検討した上で,無関係な他の構成に着目して,上記「係合」の意義につき,「2つの物が,互いにかみ合うことにより,またはその突出部と対応する凹部がひっかかることにより,連動したり,両者の相対位置が固定されたりするような構成をとること」をいうと解して,特許発明1を認定し,これに従って特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点を認定しており,審決のかかる認定には誤りがある。
(2) 審決は,ごみ貯蔵カセット自体の構成には含まれない構造部分の存否及び内容を考慮して,特許発明1と引用発明1の相違点1ないし3を認定しており,かかる相違点の認定には誤りがある。なお,相違点2に係る特許発明1の構成は「ごみ貯蔵カセット」の構成部分たる「ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出した構成」にほかならないところ,かかる構成は甲第1号証に記載されており(カセットの縁部152),この観点からも審決の相違点の認定には誤りがある。
(3) 特許発明1にいう「係合」を上記のとおり「係わり合う」ことと解すると,引用発明1のごみ貯蔵カセットもかかる「係合」の構成を有する(ごみ貯蔵カセット回転装置の上に載って係わり合っている。)し,本件明細書の段落【0017】の作用効果も「ごみ貯蔵カセット」自体の構成によってもたらされるものではない(ごみ貯蔵カセット回転装置の存在を前提にして初めて奏されるものにすぎない。)から,特許発明1と引用発明1とは実質的に同一であり,特許発明1は新規性を欠く。したがって,これに反し,特許発明1と引用発明1とでは上記「係合」の態様が異なるから両発明は実質的に同一でないなどとした審決の新規性判断には誤りがある。
(4) 上記(1),(2)と同様の理由で,審決の特許発明3の認定,特許発明3と引用発明2の一致点及び相違点の認定にも誤りがある。
したがって,上記(3)と同様に,審決がした特許発明3と引用発明2の実質的同一性の判断(特許発明3の新規性の有無の判断)にも誤りがある。
3-1 引用発明1に主として基づく特許発明1の進歩性判断の誤り(取消事由3-1)
前記2のとおり,審決による特許発明1の認定,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定には誤りがあるが,審決の認定を前提としても,特許発明1と引用発明1の相違点の容易想到性に係る審決の判断には誤りがある。
すなわち,前記2のとおり,甲第1号証にも「ごみ貯蔵カセット」の構成部分たる「ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出した構成」は記載されており,相違点2のかかる構成に関する部分は実質的なものではない。
また,甲第1号証の段落【0024】には,ごみ貯蔵カセットから引き出されたフィルムの下方部分をねじることで,フィルムの上方部分と下方部分の間に臭いを遮断するねじれ部分を形成すること,ねじり操作を人手に代え器具によって実施してもよいことが記載されているが,この記載は,フィルムのねじり操作すなわちごみ貯蔵カセットの回転動作を行なう器具に,ごみ貯蔵カセットに取り付ける旨,より具体的には,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置に取り付けて回転させるなどして,カセットから引き出されたフィルムの下方部分にねじれ部分を形成する旨を開示ないし示唆するものである。
他方,ごみ貯蔵カセットから引き出されたフィルムの上方部分と下方部分との間に相対的なねじれを生じさせるべく,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵回転装置に係合させることにより回転させること自体は,甲第2号証等に記載された本件優先日当時の周知技術である。
そうすると,本件優先日当時,当業者において引用発明1に基づいて相違点2を解消することは容易である。
そして,本件優先日当時,ごみ貯蔵カセットの外側壁突出部を支持部材で下方から支持してカセットを吊り下げる吊下げ式カセット支持構造についても(甲1の図4,甲3の図5,甲7の図1),ごみ貯蔵カセットの底部を支持部材の上に載せて支持する底部支持式カセット支持構造についても(甲2の図1,甲4の図1,甲8の図1),これらを開示する公知文献が多数存在し,当業者に一般的に知られており,上記両方式のいずれを採用するかは当業者の設計上の選択事項にすぎなかった。そうすると,引用発明1のごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置に係合させて取り付けるものとする際に,吊下げ式を維持した態様とすることは,本件優先日当時の当業者にとって容易であった。だとすると,本件優先日当時,当業者において,引用発明1自体が開示ないし示唆する「ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置に取り付けて回転させること等によってカセットから引き出されたフィルムの下方部分にねじれ部分を形成する」との課題を解決するために,引用発明1の吊下げ式係合態様を維持したまま,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置によって回転させる技術的思想を適用し,相違点3に係る構成を解消することは容易である。
これらのとおり,本件優先日当時,当業者において引用発明1に基づいて相違点1ないし3に係る構成に想到することは容易であって,これに反する審決の進歩性判断には誤りがある。
3-2 引用発明3に主として基づく特許発明1の進歩性判断の誤り(取消事由3-2)
特許発明1の特許請求の範囲にいう「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された」とは,糸などを用いてごみ貯蔵カセットを下方に吊り下げる態様のものを意味するのではなく,ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する部材をごみ貯蔵カセット回転装置の内方突出部で下方から支えることを意味する。しかるに,引用発明3のごみ貯蔵カセットはごみ貯蔵カセット回転装置で下方から支持される構造を有しているから,特許発明1のごみ貯蔵カセットの構造と根本的な違いはなく,相違点8は特許発明1と引用発明3の実質的な相違点にはならない。
また,ごみ貯蔵カセットや袋に触れなくても,ごみ貯蔵カセットに係合された円板を回転させることにより,ほとんど苦もなくごみ貯蔵カセットを手動で回転させることができるという特許発明1等の作用効果や,ごみ貯蔵カセットが環状フランジから吊すように設計されているため,多数の異なるタイプの容器に据え付けることができ,また回転するため低抵抗であるという特許発明1等の作用効果は,いずれもごみ貯蔵カセットが回転可能な円板に支持されて一緒に回転するようなものであれば必然的に奏し得るものにすぎず,ごみ貯蔵カセット回転装置の支持態様(吊下げ式か,底部支持式か)によって異なるものではないから,作用効果の観点からも相違点8は実質的なものではない。
そして,前記のとおり,本件優先日当時,ごみ貯蔵カセットの支持態様を吊下げ式にするか,底部支持式にするかは,当業者の設計上の選択事項にすぎなかった。ここで,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵機器に吊り下げる場合には,ごみ貯蔵機器の支持部分のうちごみ貯蔵カセットを直接支持する部分に,ごみ貯蔵カセットを載せることを可能にするべく,必然的にごみ貯蔵カセットに外側に突出した部材を設けることになる。
そうすると,本件優先日当時,ごみ貯蔵カセット回転装置によって底部支持されている引用発明3のごみ貯蔵カセットの構成に,ごみ貯蔵カセットの外側壁を突出させ,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げる技術的思想を適用し,特許発明1に想到することは当業者において容易であり,容易想到性を否定した審決の進歩性判断には誤りがある。
3-3 引用発明1及び甲第2号証に記載された発明に基づく特許発明1の進歩性判断の誤り(取消事由3-3)
前記2のとおり,審決による特許発明1の認定,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定には誤りがあるが,審決の認定を前提としても,特許発明1と引用発明1の相違点の容易想到性に係る審決の判断には誤りがある。
前記のとおり,甲第1号証にはごみ貯蔵カセットの外側に突出した部分の構成が記載されているし,甲第1号証にも甲第2号証にも,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置に取り付け,フィルムの下方部分にねじれ部分を形成する技術的思想が記載されているか又は示唆されているものである。
引用発明1と甲第2号証に記載の発明は,いずれもごみ貯蔵カセットに関する発明であり,廃棄物の臭気を遮断するためにフィルムをねじるというものであって,技術的課題が共通であるから,当業者において,引用発明1に甲第2号証に記載の発明を適用し,人手に代えて器具を用いてフィルムをねじるべく,ごみ貯蔵カセットを回転させるようにし,このためにごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置上に載せて支持するように構成すること,また引用発明1のごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する部材を甲第2号証のごみ貯蔵カセット回転装置に係合させて,ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げるように構成することは,いずれも容易になし得る事柄である。
また,前記のとおり,ごみ貯蔵カセットの支持態様につき吊下げ式を採用するか,底部支持式を採用するかは,当業者において周知技術の中から適宜選択し得る事柄にすぎない。
そうすると,本件優先日当時,当業者において引用発明1及び甲第2号証に記載された発明に基づいて特許発明1に想到することは容易であるということができ,これに反する審決の進歩性判断には誤りがある。
4 特許発明3の進歩性判断の誤り(取消事由4)
前記2のとおり,審決による特許発明3の認定,特許発明3と引用発明2の一致点及び相違点の認定には誤りがあるが,前記3-1ないし3と同様に,審決の認定を前提としても,特許発明3と引用発明2の相違点の容易想到性に係る審決の判断には誤りがあるし,また特許発明3と引用発明4の相違点の容易想到性に係る審決の判断にも誤りがある。
5 特許発明2の進歩性判断の誤り(取消事由5)
請求項10(特許発明2)は請求項9(特許発明1)を引用し,「前記構成は,フランジ形状を有し,前記外側壁の環状方向に設けられた」との構成を具備するものであるところ,ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出する部分の構成が「フランジ形状」であるのか,引用発明1のごみ貯蔵カセットのように「逆U字形状」であるのかは,単なる設計上の選択事項にすぎない。
そうすると,前記3-1ないし3と同様に,本件優先日当時,当業者において特許発明2に容易に想到し得るというべきであって,これに反する審決の進歩性判断には誤りがある。
6 特許発明4の進歩性判断の誤り(取消事由6)
請求項15(特許発明4)は請求項14(特許発明3)を引用し,「前記貯蔵部に入れられたごみ貯蔵袋織りをさらに備える」との構成を具備するものであるところ,かかる構成は甲第1号証の図1(22)等に開示されている。
そうすると,前記4と同様に,本件優先日当時,当業者において特許発明4に容易に想到し得るというべきであって,これに反する審決の進歩性判断には誤りがある。
7 特許発明5の進歩性判断の誤り(取消事由7)
請求項16(特許発明5)は請求項14(特許発明3)又は同15(特許発明4)を引用し,「前記構成は,フランジ形状を有し,前記外側壁の環状方向に設けられた」との構成を具備するものである。
前記4,6と同様に,本件優先日当時,当業者において特許発明5に容易に想到し得るというべきであって,これに反する審決の進歩性判断には誤りがある。
8 特許発明6の進歩性判断の誤り(取消事由8)
請求項17(特許発明6)は請求項9(特許発明1),同10(特許発明2),同14ないし16(特許発明3ないし5)を引用し,「前記小室に接触せずに吊下げられるように構成された」との構成を具備するものであるところ,甲第9号証に記載された,外容器の上部開口部に取り付けた枠体からごみを収納する内容器を吊り下げる構成を適用すれば,ごみ貯蔵カセットを「小室に接触せずに吊下げられるように構成」することは本件優先日当時の当業者において容易である。
そうすると,前記3ないし7と同様に,本件優先日当時,当業者において特許発明6に容易に想到し得るというべきであって,これに反する審決の進歩性判断には誤りがある。
9 特許発明7及び8の進歩性判断の誤り(取消事由9)
請求項18(特許発明7)は請求項9(特許発明1)又は同10(特許発明2)を引用し,請求項20(特許発明8)は請求項14ないし17(特許発明3ないし6)を引用して,いずれも「前記構成は,前記ごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合するように構成された」との構成を具備するものであるところ,甲第2号証のごみ貯蔵カセットは,その底部においてごみ貯蔵カセット回転装置と直接係合しているし,甲第4号証のごみ貯蔵カセットも,その外側壁に環状に設けられたフランジ部分がごみ貯蔵カセット回転装置と直接係合しているものであるから,甲第2号証又は甲第4号証に記載された上記事項を適用すれば,「前記ごみ貯蔵カセット回転装置に直接係合するように構成」することは本件優先日当時の当業者において容易である。
そうすると,前記3ないし8と同様に,本件優先日当時,当業者において特許発明6に容易に想到し得るというべきであって,これに反する審決の進歩性判断には誤りがある。
第4取消事由に関する被告の反論
1 取消事由1に対し
審決が説示するとおり,「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けるための」との記載は「ごみ貯蔵カセット」自体が配置される装置,状態を特定するための事項であることが明らかであるし,「前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように」との記載も「ごみ貯蔵カセット」の「外側壁から突出する構成」を特定するための事項であることが明らかであるし,「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げるように構成された」との記載も「ごみ貯蔵カセット」自体がどのように配置されるかを特定するための事項であることが明らかであり,またこれらの特定事項自体は明確で,特定された「ごみ貯蔵カセット」も明確である。
したがって,請求項9(特許発明1)及び同14(特許発明3)の記載はいずれも第三者に不測の不利益を及ぼすほど不明確ではないから,特許法36条6項2号(明確性)の要件を充足しており,審決の明確性要件の充足の判断に誤りはない。
2 取消事由2に対し
(1) 前記1のとおり,「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けるための」との構成,「前記ごみ貯蔵カセットの支持・回転のために,前記ごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように」との構成,「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げるように構成された」との構成は,それぞれ,「ごみ貯蔵カセット」自体が配置される装置・状態,「ごみ貯蔵カセット」の「外側壁から突出する構成」,「ごみ貯蔵カセット」自体がどのように配置されるかを特定するための事項であることが明らかであり,「ごみ貯蔵カセット」の構成に関するものであるから,上記特定事項を特許発明1や同3の認定に当たって考慮すべきは当然である。仮に上記特定事項が「ごみ貯蔵カセット」以外の物に係る構成であるとしても,特許請求の範囲にわざわざ記載されて発明を特定しているにもかかわらず,進歩性判断において考慮対象外とする法理は存しない。
「係合」の一般的な意義には,「2つの部材が,互いに噛み合わされたり,突出部と対応して凹部が引っ掛かったりして,『係合』される両部材の位置(関係)が相対的に動かないようにする」という意味もあるところ(乙2参照),審決はかかる一般的な意義に従って特許発明1等にいう「係合」の意義を解釈したものであるから,リパーゼ事件最高裁判決に反するものではないし,本件明細書の基礎となったPCT英文明細書(乙3)においては,「歯車等を噛み合せる」等の意義を有する英語「engage」が特許発明1等にいう「係合」に対応する語として当てられているものである。仮に特許発明1等にいう「係合」が,特許請求の範囲の記載上,一義的に明確でないとしても,本件明細書の段落【0017】等を斟酌すれば,上記「係合」は上記の一般的な意義を有するものと解される。そうすると,かかる一義的に明確でない場合であったとしても,審決の「係合」の解釈は上記最高裁判決に反するものではない。
したがって,審決がした特許発明1及び3の認定に誤りはない。
(2) 原告が構成を一部捨象して主張するように,特許発明1の「ごみ貯蔵カセット」の構成部分は,「ごみ貯蔵カセットの外側壁から突出した構成」にすぎないものではなく,審決が認定するとおり,「ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,外側壁から突出し,小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成」(相違点2)であるところ,引用発明1はかかる構成(相違点2)を備えていない。なお,特許発明1等にいう「係合」に当たるためには,上下方向ないし径方向に相対位置を固定するだけでなく,回転方向に対しても相対位置を固定するものでなければならないところ,引用発明1の外壁118と筒状部材とは,両者の相対位置を回転方向に対して固定することはできず,「係合」しているものとはいえないが,この点の認定に係る審決の誤りは,進歩性判断に影響を及ぼすものではない。
(3) 特許発明1等にいう「係合」は前記(1)のとおりに解されるところ,甲第1号証に記載された引用発明1は,
「内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるためのカセット110であって,
前記カセット110は,内壁116と,外壁118と,内壁116と外壁118との間に設けられたパック122収納部と,カセット110を支持するために,外壁118に設けられ,筒状部材に対して径方向に移動しないように筒状部材を上方から覆い,筒状部材により支持されるように備えられた構成と,を有し,
前記筒状部材から吊り下げられるように構成された,カセット。」(下線を付した部分は審決の認定と異なる被告主張部分である。)
というものであり,特許発明1と引用発明1の一致点は,
「ごみ貯蔵機器の上部に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,
前記ごみ貯蔵カセットは,略円柱状のコアを画定する内側壁と,外側壁と,前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,前記ごみ貯蔵カセットを支持させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,ごみ貯蔵機器を上方から覆うように備えられた構成と,
を有し,
前記ごみ貯蔵機器から吊り下げられるように構成された,ごみ貯蔵カセット」(下線を付した部分は審決の認定と異なる被告主張部分である。)
である点
というものである。審決は上記と概ね同趣旨(引用発明1の外壁118に係る部分を除く。)の認定をするものであるし,特許発明1と引用発明1の相違点を正しく認定しているから,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点に係る審決の認定に誤りはない。
したがって,上記認定に基づく審決の特許発明1と引用発明1の実質的同一性(新規性)の判断にも誤りはない。
(4) 上記(1)ないし(3)と同様の理由で,審決がした特許発明3の認定,特許発明3と引用発明2の一致点及び相違点の認定,特許発明3と引用発明2の実質的同一性の判断にも誤りはない。
3-1 取消事由3-1に対し
前記のとおり,審決が認定する特許発明1と引用発明1の相違点2は,甲第1号証でも開示されていないし,原告が提出するその余の先行技術文献でも開示されていない。したがって,原告が主張する各点の当否を検討するまでもなく,本件優先日当時,当業者が相違点2に係る構成に容易に想到できないことを理由に,特許発明1の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。
3-2 取消事由3-2に対し
特許発明1のごみ貯蔵カセットの吊下げ構造と甲第2号証のごみ貯蔵カセットを下方から支える構造との間に根本的な相違はないとするのは,専らある構成による技術的な効果のみを論じるものにすぎないし,本件明細書の作用効果の記載を基に,ごみ貯蔵カセットの支持態様(吊下げ式か,底部支持式か)のいかんにかかわらずその作用効果が異ならないと結論付けるのも,後知恵的な主張にすぎない。また,ごみ貯蔵カセットの支持態様として,吊下げ式及び底部支持式の双方が当業者に知られているとしても,本件優先日当時,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセットから吊り下げられるように構成することが当業者に一般に知られていたとはいえず,かかる事項が当業者の技術常識であったとはいえない。そうすると,本件優先日当時,甲第2号証に接した当業者であれば誰でも,ごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセットから吊り下げられるように構成すること(相違点8)が記載されているに等しいものと認識できるとはいえず,相違点8は特許発明1と引用発明1の実質的な相違点であり,かかる相違点を実質的なものとした審決な判断に誤りがあるとはいえない。
また,本件優先日当時,当業者が相違点7に係る構成に容易に想到できないことを理由に,特許発明1の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。
3-3 取消事由3-3に対し
前記3-1と同様に,特許発明1と引用発明1の相違点2は,甲第1号証でも開示されていないし,原告が提出するその余の先行技術文献でも開示されていないところ,本件優先日当時,甲第2号証に記載された発明を引用発明1に適用したところで,当業者が相違点2に係る構成に容易に想到できるものではなく,特許発明1の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4ないし9に対し
前記3-1ないし3と同様に,本件優先日当時,甲第1号証に記載された発明(引用発明1,2)に基づくことによっても,甲第2号証に記載された発明(引用発明3,4)に基づくことによっても,甲第1号証に記載された発明(引用発明1,2)に甲第2号証に記載された発明を適用することに基づいても,当業者が特許発明2ないし8を容易に発明できたものではなく,特許発明2ないし8の進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(明確性要件の充足判断の誤り)について
審決は請求項14及9の特許請求にそれぞれ記載された特許発明3及び1はいずれも明確であると判断したが,原告は,発明の内容が真実「ごみ貯蔵カセット」自体であるのか,あるいは「ごみ貯蔵カセットとごみ貯蔵機器の組合せ構造」であるのか不明であり,特許発明1及び3はいずれも不明確であると主張する。
請求項9(特許発明1)の特許請求の範囲の記載は,「ごみ貯蔵カセット。」で結ばれており,「ごみ貯蔵カセット」の発明であることが記載の体裁上示されている。その上,この特許請求の範囲の記載においては,「ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるための」との要素が「ごみ貯蔵カセット」を特定するためのものとして記載されているが,かかる要素が「ごみ貯蔵カセット」がごみ貯蔵機器上部の小室内に据え付けられる構造を有しており,かつ小室内で回転可能な構造を有していることを要求していることは当然であって,上記要素は特許発明1の「ごみ貯蔵カセット」の構成を特定する事項の一つである。また,同請求項の特許請求の範囲にいう「前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように(備えられた構成と,を有し,)」との要素も,「ごみ貯蔵カセット」の上記回転可能な構成を実現するための具体的な構造であるところ,やはりかかる要素も「ごみ貯蔵カセット」の構成を特定する事項の一つである。同様に,同請求項の特許請求の範囲にいう「前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように」との要素も「,ごみ貯蔵カセット」がごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げることを可能にする構造を有していることを要求するものであって,「ごみ貯蔵カセット」の構成を特定する事項の一つである。したがって,請求項9の特許請求の範囲においては,「ごみ貯蔵カセット」の発明を特定する事項が記載されていることは明らかであって,「ごみ貯蔵カセット」の発明であるのか不明確であるとはいえないし,その記載内容ゆえに「ごみ貯蔵カセット」を業として製造・販売する第三者の活動が不当に制限されることになるともいえない。そうすると,請求項9の特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明(特許発明1)が明確に記載されており,この旨を説示する審決の明確性要件(特許法36条6項2号)の充足判断に誤りはない。
同様に,請求項14(特許発明3)の特許請求の範囲にいう「ごみ貯蔵機器の上部に備えられた小室に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置に係合され回転可能に据え付けるための」等の要素も「ごみ貯蔵カセット」の構成を特定する事項であって,特許請求の範囲の記載上,「ごみ貯蔵カセット」の発明であるのか不明確であるとはいえない。したがって,請求項14の特許請求の範囲には,特許を受けようとする発明(特許発明3)が明確に記載されており,この旨を説示する審決の明確性要件の充足判断に誤りはない。
以上のとおり,原告が主張する取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(特許発明1の認定の誤り,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り等)について
(1) 前記1のとおり,請求項9の特許請求の範囲にいう「ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるための」等の要素はいずれも「ごみ貯蔵カセット」の構成を特定する事項であるところ,かかる発明特定事項はその全部が相まって一つの発明を特定するものであるから(特許法36条5項参照),従前の発明との関係で進歩性を有しないかは,特許請求の範囲に記載された発明特定事項全体を総覧して初めて判断できる事柄であって,一部の発明特定事項が仮に技術常識に属するものであったとしても,これを除外して発明の認定をすることは相当でない。
審決は,かかる見地から特許発明1を認定し,この認定内容に従って引用発明1との一致点及び相違点を認定した(12~14頁)ものであるから,審決のかかる認定の手法に誤りはなく,「ごみ貯蔵カセット」自体の構成には含まれない構造部分の存否等を考慮して特許発明1と引用発明1の相違点を認定したとし,審決の相違点の認定には誤りがあるとする原告の主張は採用できない。
(2) 審決は,特許発明1と引用発明1の相違点に係る構成の実質的同一性の有無を判断するに当たり,特許発明1(請求項9)にいう「係合」の意義につき説示したが(14~16頁),原告は上記説示には誤りがあり,「係合」とは「係わり合う」という意味であると主張する。
そこで,特許発明1(請求項9)にいう「係合」の意義につき判断するに,特許請求の範囲には,「前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように設けられた構成と,」との記載の前に,「前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,」との記載があるから,「ごみ貯蔵カセット」「外側壁に設けられ,前記外側壁から突出」する構成(部分)が,「ごみ貯蔵カセット」を外部から支持し,かつ「ごみ貯蔵カセット」を小室内で回転できるように,「ごみ貯蔵カセット回転装置」と「係合」するものでなければならない。したがって,上記「係合」は,「ごみ貯蔵カセット」「外側壁に設けられ,前記外側壁から突出」する構成(部分)が,「ごみ貯蔵カセット」を外部から支持し,かつ「ごみ貯蔵カセット」を小室内で回転できるような態様のものでなければならないことは明らかである。
ところで,特許明細書で用いられる一般的な用語を搭載した「特許技術用語集(第2版)」44頁(乙2)には,「係合」の用例として「左右の歯車が係合し,回転が伝達される。受け具と可動突起が係合してドアが閉鎖される。」との記載があるから,特許明細書において「係合」の語が使用される場合には,「2つの部材が,互いに噛み合わされたり,突出部と対応して凹部が引っ掛かったりして,『係合』される両部材の位置(関係)が相対的に動かないようにする」という意味で用いられることがあるということができ,かかる用語の意味な理解は一般的なものである。
そうすると,本件発明1にいう「係合」も,「ごみ貯蔵カセット」を外部から支持し,かつ「ごみ貯蔵カセット」を小室内で回転できるようにするべく,「ごみ貯蔵カセット」の外側壁突出部分(構成)とごみ貯蔵カセット回転装置の一部が互いに噛み合うなどして,「ごみ貯蔵カセット」とごみ貯蔵カセット回転装置の相対的な位置関係が変わらないように(動かないように)することをいうと解される。
審決は,上記の特許明細書作成上の一般的な用語の理解に従い,かつ請求項9の特許請求の範囲の記載を合理的に理解して,「係合」の意義につき「2つの物が,互いにかみ合うことにより,またはその突出部と対応する凹部がひっかかることにより,連動したり,両者の相対的位置が固定されたりするような構成をとることをいう。」とする解釈を採用したものと解され,審決のかかる判断に誤りがあるとはいえない。
この点,原告は,特許発明1(請求項9)の「係合」は通常の意味である「係わり合う」という意義を有するものとして明確であるなどと主張するが,原告主張のように解すると,特許発明1の特許請求の範囲にいう「前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,」との記載を捨象することになって相当でないから,原告の上記主張を採用することはできない。
なお,被告は,特許発明1にいう「係合」に当たるためには「ごみ貯蔵カセット」の回転方向に対して「ごみ貯蔵カセット」とごみ貯蔵カセット回転装置が動かないようにすることが必要である旨主張する。特許発明1の特許請求の範囲の記載上「ごみ貯蔵カセット」回転装置が「ごみ貯蔵カセット」を連動して回転させるものであることが明らかであることに照らせば,被告主張のように「係合」の意義を解した方がより正確であるとも考えられるが,かように解したとしても,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定にも,相違点に係る構成の容易想到性の判断にも影響しない(いずれにしても引用発明1の構成は「係合」の構成を有していない)。
また,審決は,特許発明1の「係合」の解釈に当たり,本件明細書の段落【0017】等の記載を引用して検討しているが(15頁),その後に用語の一般的な意義に照らして解釈をしているし,念のために上記段落の記載との整合性を検討したにすぎないから,審決の「係合」の解釈に違法はない。
(3) 以上のとおり,審決がした特許発明1の認定に誤りはない。
原告は審決による引用発明1の認定の内容を争っていないところ,甲第1号証(対応する日本国公表特許公報は特表2005-514295号)の明細書1,5~7頁及び図3,4によれば,引用発明1は,審決が認定するとおりの,「内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるためのカセット110であって,前記カセット110は,内壁116と,外壁118と,内壁116と外壁118との間に設けられたパック122収納部と,カセット110を支持するために,外壁118に設けられ,筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成と,を有し,前記筒状部材(図番無し)から吊り下げられるように構成された,カセット。」というものであると認められる。
そして,特許発明1にいう「係合」の意義が前記のとおりに解釈されることに照らすと,審決が認定・判断するとおり,引用発明1の外壁118に設けられた,「カセット110を支持するために,・・・筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成」(部分)は,上記のとおり筒状部材を径方向に移動しないようにするだけで,筒状部材とカセット110の相対的位置関係が動かないようにするものではない(とりわけ,カセット110の回転方向に対して。)。
そうすると,特許発明1と引用発明の一致点は,審決が認定するとおりの,「『ごみ貯蔵機器の上部に据え付けるためのごみ貯蔵カセットであって,前記ごみ貯蔵カセットは,略円柱状のコアを画定する内側壁と,外側壁と,前記内側壁と前記外側壁との間に設けられたごみ貯蔵袋織りを入れる貯蔵部と,前記ごみ貯蔵カセットを支持させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,ごみ貯蔵機器と係合するように備えられた構成と,を有し,前記ごみ貯蔵機器から吊り下げられるように構成された,ごみ貯蔵カセット』である点」にあると認められ,特許発明1と引用発明1の相違点も,審決が認定するとおりの,「特許発明1はごみ貯蔵カセットが,『ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内に回転可能に据え付けるための』ものであるのに対し,引用発明1は,『内部に廃棄物を包んだチューブが納められる筒状部材の上部に据え付けるための』ものであって,『ごみ貯蔵機器の上部に設けられた小室内』に『回転可能に』据え付けるためのではない点」(相違点1),「特許発明1はごみ貯蔵カセットが,『前記ごみ貯蔵カセットを支持し且つ回転させるために,前記外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し,前記小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有したものであるのに対し,引用発明1は,『カセット110を支持するために,外壁118に設けられ,筒状部材に対して径方向に移動しないように上方から係合するように備えられた構成』を有したものであって,ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』を有したものではない点」(相違点2),「特許発明1はごみ貯蔵カセットが,『前記ごみ貯蔵カセット回転装置から吊り下げられるように構成された』ものであるのに対し,引用発明1は,『筒状部材・・・から吊り下げられるように構成された,カセット』であって,『ごみ貯蔵カセット回転装置』から吊り下げられるように構成されたものではない点」(相違点3)にあると認められる。
よって,審決がした引用発明1の認定,特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
(4) 特許発明1の「係合」の意義は前記(2)のとおりに解されるから,これと異なる解釈を前提とする原告の発明の実質的同一性の主張は採用の限りでないが,相違点1ないし3(とりわけ相違点2)に係る特許発明1の構成は,これを備えることにより,ごみ貯蔵「カセットそれ自体,あるいは前記袋織りに触れる必要がなく,ほとんど苦もなく,前記カセットは手動でねじる又は回転させることができる」(段落【0017】),「多数の異なるタイプの容器に据え付けることができ,回転するために低抵抗である。」(段落【0020】)という作用効果を奏するのであって,相違点1ないし3は特許発明1と引用発明1の実質的な相違点であるということができる。なお,本件明細書の図4,6からは,ごみ貯蔵カセット回転装置の内方に突出した部分が上方に位置するごみ貯蔵カセットの一部に下方から上向きの力を加える様子を看取することもできるが,ごみ貯蔵カセットとごみ貯蔵カセット回転装置のそれぞれ全体をみれば,ごみ貯蔵カセット回転装置がごみ貯蔵カセットを吊り下げていると評価して差し支えないものであるし,引用発明1の(ごみ貯蔵)「ひだ付チューブ供給カセット」は筒状部材から吊り下げられてはいるものの,これが回転装置によって回転可能なように構成されているものではないから,相違点3は実質的なものである。
したがって,「特許発明1は甲第1号証に記載された引用発明1と同一であるということはできない」とした審決の新規性判断に誤りはない。
(5) 特許請求の範囲の記載の体裁に照らせば,特許発明3にいう「係合」の意義も特許発明1にいう「係合」の意義と同様に解釈されるべきところ,特許発明1におけるのと同様に,審決がした特許発明3の認定,特許発明3と引用発明2(甲1)の一致点及び相違点の認定,特許発明3と引用発明2の実質的同一性の判断(新規性判断)に誤りはない。
(6) 結局,原告が主張する取消事由2は理由がない。
3 取消事由3-1ないし3(特許発明1の進歩性判断の誤り)について
(1) 取消事由3-1及び3について
前記2のとおり,特許発明1と引用発明1の相違点2は実質的なものであるところ,原告は,甲第1号証にはごみ貯蔵カセットをごみ貯蔵カセット回転装置に取り付けて回転させるなどして,カセットから引き出されたフィルムの下方部分にねじれ部分を形成する旨が開示ないし示唆されている旨を主張する。
甲第1号証に対応する日本国公表特許公報(特表2005-514295号)の段落【0024】には,「前記ねじりは,人手によって実施しても良いし,器具により実施しても良い。」との記載があるが,どのような器具の構成によって(ごみ貯蔵)カセットを回転させ,チューブをねじるのか,その具体的構成が全く開示されておらず,相違点2にいうように,ごみ貯蔵カセットの外側壁に突出部を設ける一方,この突出部と対応する部位を有するごみ貯蔵カセット回転装置を設けるなどして,両者を「係合」させ,ごみ貯蔵カセットを回転可能なように構成し,ごみ貯蔵カセットから引き出されたフィルムをねじることができるようにすることまで開示ないし示唆されているとはいうことができない。したがって,甲第1号証には,ひだ付きチューブ供給用カセット(特許発明1にいうごみ貯蔵カセット)を回転させ,カセットから引き出されたひだ付きチューブ(特許発明1にいうごみ貯蔵袋織り)をねじること自体は開示されているといい得るが,さらに具体的に,ひだ付きチューブ供給用カセット(ごみ貯蔵カセット)の外側壁にこれから突出する部分(構成)を設け,さらにこの突出部分と「係合」する部分を有する装置(部材)を設けて,ひだ付きチューブ供給用カセット(ごみ貯蔵カセット)を回転できるようにすること(相違点2)までの開示ないし示唆はないというべきである。
また,甲第2号証の明細書6,7頁には,廃棄物貯蔵装置の本体100の内部にフランジ117と嵌合するクラッチ270を設け,クラッチ270が単一の回転方向に回転するときに,クラッチ270の上方に位置する貯蔵フィルムカセット130が回転する構成が記載されているが,同文献の図7にも照らせば,貯蔵フィルムカセット130はクラッチ270の上に載置されているだけであって,クラッチ270の上面に例えば凸部を設け,他方貯蔵フィルムカセット130の底面には凹部を設けるなどして両者を嵌合し,クラッチ270の回転動作と貯蔵フィルムカセット130の回転動作がすべらずに連動するようにされているかは同文献(甲2)の記載上不明である。のみならず,同文献では,貯蔵フィルムカセット130を底面から支える構成が採用されていることが明らかであるところ,カセットの外側面に突出した部分を設け,この突出部を利用して,カセットを吊り下げるように支持する構成に関する記載は同文献中には存せず,かかる吊下げ式の構成を示唆する記載も同文献中には存しない。
そして,甲第3,第7号証はごみ貯蔵カセットを上方から吊り下げる構造のごみ貯蔵機器を開示するもの(特に甲3の図5,甲7の図1),甲第4,第8号証はごみ貯蔵カセットをその底部で支持する構造のごみ貯蔵機器を開示するもの(特に甲4の図1,甲8の図1),甲第5号証はコンテナ1に対してパック4(特許発明1のごみ貯蔵カセットに相当)を回転させて可撓性チューブをねじるごみ貯蔵容器を開示するもの(図1)であるが,いずれの文献においてもごみ貯蔵カセットを吊り下げたままこれを別の装置(部材)で回転させることは開示されていない。
そうすると,甲第2ないし第5,第7,第8号証に記載された事項を適用しても,ごみ貯蔵カセットを吊り下げたままこれを別の装置(部材)で回転させる構成(相違点2,3)に想到できるものではない。
だとすると,審決が説示するとおり,「ごみ貯蔵カセットを『支持し且つ回転させるため』に,『外側壁から突出』し,『小室内に設けられたごみ貯蔵カセット回転装置と係合するように備えられた構成』が」甲第2,第4,第5号証等に記載されておらず,甲第2,第4,第5号証等で示唆されているともいえない以上,本件優先日当時,当業者が引用発明1に基づいて特許発明1に到達することは容易ではないということができる。
結局,本件優先日当時,当業者が,引用発明1に甲第2ないし第5,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても(取消事由3-1),引用発明1に甲第2号証に記載された発明を組み合わせること(取消事由3-3),あるいはさらに甲第3,第4,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,特許発明1と引用発明1の相違点(とりわけ相違点2)に係る構成に想到することは容易でないのであって,この旨判断する審決の進歩性判断に誤りはない。
(2) 取消事由3-2について
前記(1)のとおり,甲第2号証に記載された引用発明3においては,貯蔵フィルムカセット130はクラッチ270の上に載置されているだけであって,クラッチ270の上面に例えば凸部を設け,他方貯蔵フィルムカセット130の底面には凹部を設けるなどして両者を嵌合し,クラッチ270の回転動作と貯蔵フィルムカセット130の回転動作がすべらずに連動するようにされているかは甲第2号証の記載上不明であるし,同発明では貯蔵フィルムカセット130を底面から支える構成が採用されており,カセットの外側面に突出した部分を設け,この突出部を利用して,カセットを吊り下げるように支持する構成は記載も示唆もされていない。
そして,前記(1)のとおり,甲第1号証にはごみ貯蔵カセットを回転させ,チューブをねじる具体的構成が全く開示されていないし,甲第3,第4,第7,第8号証にもごみ貯蔵カセットを吊り下げたままこれを別の装置(部材)で回転させることは開示されていないから,甲第1,第3,第4,第7,第8号証に記載された事項を適用しても,ごみ貯蔵カセットを吊り下げたままこれを別の装置(部材)で回転させる構成(相違点7,8)に想到できるものではない。そして,この事情は,原告が提出する他の証拠を斟酌しても異ならない。
なお,原告は,特許発明1の作用効果はごみ貯蔵カセットの支持態様によって異なるものではないとか,上記支持態様の選択は当業者の設計上の選択事項にすぎないなどと主張するが,かように抽象的な技術的事項の取捨選択のみでは,相違点7にいうような具体的な構成には容易に想到し得ないことは明らかであって,原告の上記主張を採用することはできない。
結局,本件優先日当時,当業者が,引用発明3に甲第1,第3,第4,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,特許発明1と引用発明3の相違点(とりわけ相違点7)に係る構成に想到することは容易でないのであって,この旨判断する審決の進歩性判断に誤りはない。
(3) 以上のとおり,特許発明1の進歩性に係る審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由3-1ないし3はいずれも理由がない。
4 取消事由4(特許発明3の進歩性判断の誤り)について
特許発明3(請求項14)は,特許発明1(請求項9)の特許請求の範囲の記載に,主として「前記内側壁の上部から前記外側壁に向けて延出する延出部であって,使用時に前記ごみ貯蔵袋織りが前記延出部をこえて前記コア内へ引き出される延出部」を備える点を付加するものであるが,「ごみ貯蔵カセット」の「外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し」た構成が「ごみ貯蔵カセット回転装置」と「係合」する構成を有している点は特許発明1と異なるものではない。
そうすると,特許発明1におけるのと同様に,本件優先日当時,当業者が,引用発明2に甲第2ないし第5,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,引用発明2に甲第2号証に記載された発明を組み合わせること,またさらに甲第3,第4,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,あるいは引用発明4に甲第1,第3,第4,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,特許発明3と引用発明2,4の相違点(とりわけ相違点5,10)に係る構成に想到することは容易でないのであって,この旨判断する審決の進歩性判断に誤りはない。
したがって,原告が主張する取消事由4は理由がない。
5 取消事由5ないし9(特許発明2,4ないし8の進歩性判断の誤り)について
請求項10(特許発明2)は請求項9(特許発明1)を,請求項15(特許発明4)は請求項14(特許請求3)を,請求項16(特許発明5)は請求項14又は15を,請求項17(特許発明6)は請求項9,10,14ないし16を,請求項18(特許発明7)は請求項9又は10を,請求項20(特許発明8)は請求項14ないし17をそれぞれ引用する従属項であるところ,「ごみ貯蔵カセット」の「外側壁に設けられ,前記外側壁から突出し」た構成が「ごみ貯蔵カセット回転装置」と「係合」する構成を有している点は特許発明1及び3と異なるものではない。
そうすると,特許発明1あるいは3におけるのと同様に,本件優先日当時,当業者が,甲第1号証に記載された発明(引用発明1,2)に甲第2ないし第5,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,甲第1号証に記載された発明(引用発明1,2)に甲第2号証に記載された発明を組み合わせること,またさらに甲第3,第4,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,あるいは甲第2号証に記載された発明(引用発明3,4)に甲第1,第3,第4,第7,第8号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせることに基づいても,容易に発明することができないというべきであって,この旨をいう審決の判断に誤りはない。
したがって,原告が主張する取消事由5ないし9はいずれも理由がない。
第6結論
以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 古谷健二郎 裁判官 田邉実)