知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10048号 判決 2011年10月20日
原告
フリュー株式会社
同訴訟代理人弁理士
稲本義雄
西川孝
被告
特許庁長官
同指定代理人
安久司郎
大野克人
田部元史
板谷玲子
主文
1 特許庁が不服2008-23865号事件について平成22年12月27日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本件補正を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) オムロンエンタテインメント株式会社は,平成17年7月25日,発明の名称を「画像印刷装置および方法」とする発明について特許出願(特願2005-213778号。平成14年5月24日に出願した特願2002-150121号を分割したもの。請求項の数は3)した(甲2)。
その後,原告は,同社から特許を受ける権利を譲り受け,平成19年5月29日,特許庁長官に対し,その旨の名義人変更を届け出た(甲3)。
(2) 特許庁は,平成20年8月14日付けで拒絶査定をした(甲10)。
(3) 原告は,平成20年9月18日,これに対する不服の審判を請求し(不服2008-23865号事件),同年10月20日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが(甲6),特許庁は,平成22年12月27日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は平成23年1月11日,原告に送達された。
2 本件補正前後の特許請求の範囲の記載
本件審決が判断の対象とした特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。
(1) 本件補正前の請求項1の記載(ただし,平成20年6月27日付け手続補正書(甲4)による補正後のものである。以下,本件補正前の特許請求の範囲に属する発明を「本願発明」という。なお,「/」は原文における改行箇所である。(2)も同じ。)
編集対象の画像と,前記編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像のうちの少なくともいずれかを表示可能な表示領域が複数設けられる表示手段と,/それぞれの前記表示領域に対応して設けられる入力手段と,/前記表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,前記編集対象の画像の印刷に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる表示制御手段と/を備える画像印刷装置
(2) 本件補正後の請求項1の記載(ただし,下線部分は本件補正による補正箇所である。以下,本件補正後の特許請求の範囲に属する発明を「本件補正発明」といい,本件補正発明に係る明細書(甲2,4,6)を「本件補正明細書」という。)
撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像と,前記編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像のうちの少なくともいずれかを表示可能な表示領域が複数設けられる表示手段と,/それぞれの前記表示領域に対応して設けられる入力手段と,/前記撮影処理が終了した後の編集処理中,前記表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の印刷処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる表示制御手段と/を備える画像印刷装置
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,①本件補正発明は,引用例(特開2002-77782。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものであって,特許法29条2項に該当するから,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものとして却下すべきものであり,②本願発明も,引用発明及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(2) なお,本件審決が認定した引用発明並びに本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明:画像印刷装置の筐体の前面の左右には,上方から下方へ向かって操作パネル(13-1)及び操作パネル(13-2),操作パネル(13-1)及び操作パネル(13-2)のそれぞれに表示された画像に対して,編集図形,文字などを入力するタッチペン(14-1)およびタッチペン(14-2)が設けられており,CCDカメラにより撮影された画像が操作パネルに表示されるため,利用者は,タッチペンを利用して撮影画像に後述する落書き処理を施すことができ,操作パネル(13-1)の近傍にタッチペン(14-1)が,また,操作パネル(13-2)の近傍にはタッチペン(14-2)が,それぞれ設けられており,操作パネル(13-1)および操作パネル(13-2)のそれぞれに表示された撮影画像に,2人の利用者が同時に落書き処理などを入力することができ,操作パネルには,撮影画像の他に,画像プリントの作成および印刷処理の進行段階に応じて種々の選択ボタン,メッセージなどが表示され,操作パネルに表示された選択ボタンをタッチペンを利用して選択することにより撮影手順が進行されるもので,操作パネル(13-1)と操作パネル(13-2)に,異なる撮影画像をそれぞれ表示させることができ,利用者は,別々の撮影画像に対して落書き処理などを入力することもでき,操作パネル(13-1)には,それまでに撮影した撮影画像のうち,キープする画像を選択するために表示され,利用者は,タッチペン(14-1)でカーソルを移動して,キープ画像を選択し,操作パネル(13-1)には,選択された撮影画像が表示され,その画像の明るさを調整するとき操作される明るさ調整ボタン,シールに加工しないとき操作される写真風ボタン,シールシートにプリントするとき操作されるシール風ボタン,横方向に表示されているキープ画像を縦方向に表示を変更するとき操作される表示切換ボタン,表示されている画像を削除して再び撮影するとき操作されるとりなおしボタン,編集対象の画像として残しておくとき操作されるキープボタンが表示されており,操作パネル(13-2)には,利用者がキープボタンを操作することにより,編集対象の画像として選択したキープ画像が表示され,操作パネル(13-2)には,削除ボタンが表示されており,利用者は,これを操作して,選択したキープ画像を削除することができる画像印刷装置
イ 一致点:撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像と,前記編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像のうちの少なくともいずれかを表示可能な表示領域が複数設けられる表示手段と,それぞれの前記表示領域に対応して設けられる入力手段と,前記撮影処理が終了した後の編集処理中,前記表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる表示制御手段とを備える画像印刷装置
ウ 相違点:本件補正発明は,撮影処理が終了した後の編集処理中,表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,編集対象の画像と操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,編集処理が終了した後に行われる,編集処理とは別の処理としての編集対象の画像の印刷処理に関する選択操作を行う画面を,他の表示領域に編集対象の画像もしくは操作画像を表示させることと並行して表示させるものであるのに対して,引用発明は,編集処理が終了した後に行われる,編集処理とは別の処理としての編集対象の画像の選択操作を行う画面が,画像の印刷処理に関する選択操作の画面ではなく,画像の削除の処理に関する選択操作の画面である点
4 取消事由
本件補正を却下した判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1) 一致点の認定の誤り
ア 引用発明及び本件補正発明の各操作手順
(ア) 引用発明について
引用発明では,引用例図3及び4のとおり,ステップS1でデモ画面が表示され,ステップS2で利用者が代金を投入したと判定されると,ステップS3で説明画面が表示され,ステップS4で取り込み画像が表示される。ステップS5で撮影開始ボタンが操作されると,ステップS6で撮影が行われ,ステップS7で印刷写真選択画面が表示され,利用者はキープ画像を選択する。ステップS8で,選択された撮影画像の明るさ調整画面が表示され,利用者は明るさ調整ボタンを操作して,撮影画像の明るさを調整する。明るさ調整画面には,とりなおしボタン,キープボタン,撮影終了ボタンが表示され,ステップS9でとりなおしボタンが操作された場合,ステップS4に戻り,再び取り込み画像が表示される。ステップS9でとりなおしボタンが操作されていないと判定された場合,ステップS10でキープボタンが操作されたかが判定され,キープボタンが操作されたと判定された場合には,ステップS11で指示された画像がキープ画像に追加される。次に,ステップS12で残り撮影可能枚数が0となったかが判定され,撮影可能枚数が残っている場合はステップS4に戻り,再び取り込み画像が表示される。撮影可能枚数が残っていない場合及びステップS10でキープボタンが操作されていないと判定された場合は,ステップS13で撮影終了ボタンが操作されたかが判定される。撮影終了ボタンが操作されていない場合,処理はステップS8に戻り,再び明るさを調整する処理が行われる。撮影終了ボタンが操作された場合,撮影処理が終了され,ステップS14で落書き画面が表示される。落書き画面には,落書きメニューボタン,くりかえしボタン,消しゴムボタン,クロマキボタン,プリントボタンが表示され,画面上方には,色パレットボタン,ライン選択ボタンも表示される。利用者はこれらのボタンを利用して落書きを行い,落書き処理を終了してプリントボタンが操作されるか,所定の制限時間が経過すると,ステップS15で分割数選択画面が表示され,利用者により好みの分割数が選択される。ステップS16でプリントしたシールが横から排出されることを案内する案内画面が表示され,写真をシールに印刷する処理が実行される。
(イ) 本件補正発明について
本件補正発明における画像印刷装置の全体の処理は,本件補正明細書図7のとおり,ステップS1において,代金が投入されたと判定された場合,ステップS2で撮影空間における撮影処理が実行される。撮影処理が終了すると,ステップS3で,編集空間において,撮影した画像の編集処理が実行され,ステップS4で,編集画像のデータがプリンタユニットのプリンタ部に転送され,印刷される。
イ 本件審決の認定の誤り1
(ア) 本件審決は,引用発明においては,CCDカメラにより撮影された画像が操作パネルに表示されるが,操作パネル(13-1)には,それまで撮影した撮影画像のうち,キープする画像を選択するために表示され,操作パネル(13-2)には,利用者がキープボタンを操作することにより,編集対象の画像として選択したキープ画像が表示されるから,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」に相当すると認定している。
(イ) しかし,前記ア(ア)のとおり,引用発明では,利用者は撮影終了ボタンを操作するまで,許容された枚数の範囲内で撮影を繰り返すことができるから,ステップS4で取り込み画像を表示する処理からステップS13で撮影終了ボタンが操作されたかを判定するまでの処理が撮影処理であり,スッテップS14の「落書き画面を表示し,選択された処理を実行する処理」が編集処理である。引用発明において,「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,ステップS8で実行される「明るさ調整画面を表示する」機能に基づくものであるから(引用例【0069】),撮影処理時の画像である。
他方,本件補正発明の「撮影処理」とは,ステップS2で行われる撮影処理を意味し,「編集処理」とは,撮影処理の後にステップS3で行われる編集処理を意味するところ,請求項1記載の表示制御手段は,撮影処理が終了した後の編集処理中,表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,編集対象の画像と操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,編集処理が終了した後に行われる,編集処理とは別の処理としての編集対象の画像の印刷処理に関する選択操作を行う画面を表示させるのと並行して,他の表示領域に編集対象の画像もしくは操作画像を表示させるものであるから,表示手段に複数設けられている表示領域のうちの他の表示領域に表示される「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」は,撮影処理が終了した後の編集処理中に表示される画像であり,編集処理の前に行われる撮影処理時の画像ではない。
(ウ) したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
ウ 本件審決の認定の誤り2
(ア) 本件審決は,引用発明の操作パネル(13-1)には,選択された撮影画像に加え,調整ボタン,写真風ボタン,シール風ボタン,表示切換ボタンが表示されているから,上記調整ボタン等は,本件補正発明の「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」に相当すると認定している。
(イ) しかし,操作パネル(13-1)(図10(A))に表示されている画像は,ステップS8で明るさを調節するための画像であるから,前記イのとおり,撮影処理中の画像である。編集対象の画像が表示されていない操作パネルに,編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像が表示されるはずはないから,上記調整ボタン等は,「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」には当たらない。
(ウ) したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
エ 本件審決の認定の誤り3
(ア) 本件審決は,引用発明の操作パネル(13-1)には,選択された撮影画像に加え,調整ボタン,写真風ボタン,シール風ボタン,表示切換ボタン,とりなおしボタン,キープボタンが表示されているから,同パネルには,本件補正発明の「編集対象の画像」と「操作画像」に相当する画像が表示されていると認定している。
(イ) しかし,この認定は,「編集対象の画像」は操作パネル(13-2)に表示されているとした前記イ記載の本件審決の認定と矛盾するものである。
また,前記イ及びウのとおり,操作パネル(13-1)に表示されている画像は,本件補正発明の「編集対象の画像」には当たらないし,同パネルに表示されている調整ボタン等も「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」には当たらない。
(ウ) したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
オ 本件審決の認定の誤り4
(ア) 本件審決は,引用発明の操作パネル(13-1)に選択された撮影画像が表示され,調整ボタン等が表示されている状態は,本件補正発明における「撮影処理が終了した後の編集処理中」に相当すると認定している。
(イ) しかし,引用発明の操作パネル(13-1)に選択された撮影画像や調整ボタン等が表示されているのは,前記ウのとおり,編集処理の前の撮影処理中の画像であり,本件補正発明において,撮影処理後の編集処理中に表示される画像である「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」に相当する画像は表示されていない。
(ウ) したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
カ 本件審決の認定の誤り5
(ア) 本件審決は,引用発明の操作パネル(13-2)には,利用者がキープボタンを操作することにより,編集対象の画像として選択したキープ画像が表示されるが,利用者は,同パネルに表示された削除ボタンを操作して,キープ画像を削除することができるから,同パネルは,本件補正発明の「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」に相当する旨認定している。
(イ) しかし,本件審決は,前記イ記載の認定では,引用発明の操作パネル(13-2)には,利用者がキープボタンを操作することにより,編集対象の画像として選択したキープ画像が表示されるから,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」に相当すると判断しているのであり,この判断を前提にすると,同パネルは,本件補正発明の「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」に相当することはないから,本件審決の上記認定は,前記イ記載の認定と矛盾している。
また,削除ボタンは,操作パネル(13-2)に消去する画像(キープ画像)が表示されていることを前提とするから,同パネルは,本件補正発明の「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」には当たらない。
(ウ) したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
キ 本件審決の認定の誤り6
(ア) 本件審決は,引用発明において,「削除ボタンが表示されており,利用者は,これを操作して,選択したキープ画像を削除することができる」ことは,本件補正発明において,「前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示」の機能に相当すると認定している。
(イ) しかし,引用発明において,削除ボタンが表示される操作パネル(13-2)(図10(B))の表示は,ステップS8で明るさを調整するための画面の表示であるから,利用者が削除ボタンを操作してキープ画像を削除する処理は,撮影処理中の処理であり,本件補正発明の「撮影処理」に相当する。そして,本件補正発明の「編集処理」は,撮影処理の後に行われる処理であるから,操作パネル(13-2)の上記表示は,本件補正発明の「前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示」することに相当しない。
また,上記削除ボタンを操作することは,結果的に操作パネル(13-1)において明るさ調整のやり直しを指示することになるから,操作パネル(13-2)には,操作パネル(13-1)において行われる処理とは別の処理としての選択操作を行う画面が表示されているとはいえない。
(ウ) したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
ク 本件審決の認定の誤り7
(ア) 本件審決は,引用発明の操作パネル(13-1)と操作パネル(13-2)に表示されている内容は,別々に並行して表示されているので,引用発明は,本件補正発明における「前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる表示制御手段」に相当する機能を有していると認定している。
(イ) しかし,「引用発明の操作パネル(13-1)と操作パネル(13-2)に表示されている内容は,別々に並行して表示される」という構成は,引用例に記載がない。
また,本件審決は,前記イ記載の認定では,「操作パネル(13-1)には,それまでに撮影した撮影画像のうち,キープする画像を選択するために表示され,操作パネル(13-2)には,利用者がキープボタンを操作することにより,編集対象の画像として選択したキープ画像が表示される」と判断しているところ,操作パネル(13-1)のキープする画像を選択するための表示は,ステップS7の「印刷写真選択画面を表示する」処理時に行われるものであるのに対し,操作パネル(13-2)の利用者がキープボタンを操作することにより選択したキープ画像の表示は,ステップS8の「明るさ調整画面を表示する」処理時の表示であるから,これらの表示は,並行して行われる表示ではない。
(ウ) 仮に,本件審決が前記イで認定した操作パネル(13-1)と操作パネル(13-2)が,ともにステップS8の処理時のものを意味するとしても,その際,操作パネル(13-1)に表示されているのが「前記編集対象の画像」や「前記操作画像」ではないことは,前記イ及びウのとおりであるから,操作パネル(13-1)は,「他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示」していない。
(エ) また,前記キのとおり,操作パネル(13-2)の表示と並行して操作パネル(13-1)に表示されるのは,削除ボタンを操作することでやり直すことが必要となる明るさ調整の画面であるから,操作パネル(13-2)に並行に表示されているのは,操作パネル(13-1)において行われる処理と同じ明るさ調整処理のための画面であり,別の処理の画面ではない。
(オ) したがって,本件審決の上記認定は誤りである。
ケ 小括
引用発明は,表示領域が複数設けられる表示手段を有しているが,前記イ及びウのとおり,操作パネル(13-1)は,「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像と,前記編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像のうちの少なくともいずれかを表示」していない。また,引用例図10の画像は,前記イ,ウ,オ及びキのとおり,「編集処理」の前の「撮影処理」の表示であり,「前記撮影処理が終了した後の編集処理中」の表示をしていない。 さらに,同画像は,前記クのとおり,本件補正発明における「前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示」してもいない。
したがって,「前記撮影処理が終了した後の編集処理中,前記表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる」ことは,引用発明の構成には存在せず,本件審決の一致点の認定は誤りである。
(2) 相違点の認定の誤り
前記(1)のとおり,本件審決は,本件補正発明と引用発明との一致点の認定を誤っているので,相違点の認定も誤っている。
相違点は,「引用発明は,編集処理が終了した後に行われる,編集処理とは別の処理としての編集対象の画像の選択操作を行う画面が,画像の印刷処理に関する選択操作の画面ではなく,画像の削除の処理に関する選択操作の画面である点」だけではなく,前記(1)ケのとおり,引用発明においては行われていない制御である「前記撮影処理が終了した後の編集処理中,前記表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の印刷処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる」という制御を,本件補正発明では行っている点である。
(3) 相違点に係る判断の誤り
ア 本件審決は,「画像印刷装置において,対象となる画像を選択し,その選択された画像に対して編集,印刷,削除等の各種の処理を行う選択操作を行う画面を持たせることは周知慣用な技術であるので,引用発明における操作パネル(13-2)に,削除ボタンの他に印刷処理のためのボタンも設けて選択された画像を印刷できるようにもすることは,当業者が設計時に適宜選択して設定し得ることであり,格別の困難性は認められない。また,本件補正発明の構成によって生じる効果も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測できるものである。」と判断している。
イ しかしながら,本件審決は,相違点の認定を誤っており,正しい相違点について検討していない。
また,本件審決は,本件補正発明の認定を誤った結果,「編集処理と並列して処理を実行できるようにすることにより,ユーザ毎に分担して処理を行うことができ,1組のユーザに対して予め与えられた制限時間を有効に利用することができる。」(【0125】)や,「分割数を選択する画面を表示させ,編集処理と並行して分割数を選択できるようにすることにより,3人のユーザで同時に編集処理を行い,それが終了した後に分割数を選択する場合と較べて,並列して異なる処理を行うことができる分だけ,制限時間を有効に利用することができる。」(【0126】)という本件補正発明の効果を看過している。
ウ したがって,本件審決の相違点に係る判断は誤りである。
(4) 本件補正却下の誤り
本件審決は,相違点に関する上記(3)記載の判断に基づき,本件補正には独立特許要件が欠けるとして,これを却下した。
しかし,本件補正発明は,独立特許要件を具備するものであるから,本件審決の上記判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1) 一致点の認定の誤りについて
ア 本件審決の認定の誤り1について
(ア) ①引用例では,撮影処理が図3のどのステップに当たるのか明示されていないこと,②一般に,画像編集においては,明るさ調整は最も基本的な編集処理であること,③引用例(【0052】)には,「第2の領域は,落書き処理や明るさ調整などの編集処理において使用される記憶領域であり」と記載され,ステップS8の明るさ調整は「編集処理」であると示す記載があることからすると,引用発明において,操作パネル(13-1)に表示される明るさ調整画面は,「撮影処理」のものではなく,「編集処理」のものであることは明らかである。
(イ) 引用発明のステップS4からステップS13までが撮影処理であるとする原告の主張は,本件補正発明と引用発明とを対比するのではなく,本件補正発明の実施の形態と引用発明を比較した場合に,引用発明のステップS8(明るさ調整画面を表示する)の構成が本件補正発明の実施の形態における「撮影処理」に対応していることを根拠にしているが,引用発明の用語の解釈を本件補正発明の実施の形態の記載に基づいて解釈するのは誤りである。引用発明と本件補正発明の対比は,特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきであり,特許請求の範囲の記載が明確であるにもかかわらず,その記載を越えて,実施の形態にのみ記載された撮影処理の手順を含めて対比すべきではない。
(ウ) また,原告は,利用者は撮影終了ボタンを操作するまで,許容された枚数の範囲内で撮影を繰り返すことができるから,引用発明のステップS7とステップS8の処理は,撮影処理中の処理であると主張しているが,引用例には,撮影終了ボタンが押されるまでが,撮影処理であるという記載はない。
(エ) 前記(ア)のとおり,引用発明では,明るさ調整は編集処理であり,「キープ画像」は明るさ調整という編集の対象の画像であることは明らかであるから,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」に相当する。
(オ) したがって,本件審決の認定に誤りはない。
イ 本件審決の認定の誤り2について
(ア) 引用発明において,ステップS8の明るさ調整画面を表示する処理は,編集処理であるから,明るさ調整画面が表示された操作パネル(13-1)には,「編集対象の画像」が表示されているのであり,同パネルに表示された調整ボタン,写真風ボタン,シール風ボタン,表示切換ボタンは,本件補正発明の「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」に相当する。
(イ) したがって,本件審決の認定に誤りはない。
ウ 本件審決の認定の誤り3について
(ア) 前記イのとおり,引用発明の操作パネル(13-1)には,本件補正発明の「編集対象の画像」に相当する画像が表示されている。
(イ) 本件補正発明の「表示制御手段」は,「編集処理中,・・・前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,・・・他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる表示制御手段」であるので,「表示制御手段」によって「他の前記表示領域」に表示されるのは,「編集処理中」の「編集対象の画像もしくは前記操作画像」であり,「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」は,「編集処理中」の「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」である。引用発明では,編集処理は操作パネル(13-1)で行われる明るさ調整であるから,同パネルに表示される画像が,本件補正発明の「表示制御手段」で表示される「編集処理中」の「編集対象の画像」に相当し,同パネルに表示される上記調整ボタン等が,本件補正発明の「編集処理中」の「操作画像」に相当する。
(ウ) したがって,本件審決の認定に誤りはない。
エ 本件審決の認定の誤り4について
引用発明の操作パネル(13-1)で行われる明るさ調整は編集処理であるから,本件審決の判断に誤りはない。
オ 本件審決の認定の誤り5について
(ア) 引用発明において,操作パネル(13-2)に表示されたキープ画像は,編集処理中の画像ではないので,本件補正発明の「表示制御手段」における編集処理中の「編集対象の画像」に相当せず,同パネルは,本件補正発明の「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」に相当する。
(イ) したがって,本件審決の認定に誤りはない。
カ 本件審決の認定の誤り6について
(ア) 〔原告の主張〕(1)キ(ア)について
利用者が,操作パネル(13-2)に表示された削除ボタンを操作して,選択したキープ画像を削除する処理は,明るさ調整という編集処理の後に行われる処理といえる。削除ボタンを操作することによるキープ画像の削除は,選択操作を含むから,同パネルには処理に関する選択操作を行う画面が表示されていることになる。
(イ) 同(イ)について
引用例(【0069】)には,「利用者はキープ画像を4枚選択する前でも,次に進むことができる。」と記載されており,削除ボタンでキープ画像を削除しても,明るさ調整の処理を必ずしもやり直す必要はない。
(ウ) 同(ウ)について
前記(イ)のとおり,引用発明では,削除ボタンでキープ画像を削除しても,明るさ調整の処理を必ずしもやり直す必要はない。そして,操作パネル(13-1)に選択された撮影画像とその画像の明るさを調整するときに操作される明るさ調整ボタン等が表示され,操作パネル(13-2)に編集対象の画像として選択したキープ画像と選択したキープ画像を削除するための削除ボタンが表示されることは,明るさ調整とキープ画像の削除という異なる処理を並行して行うことができるという効果を有することは明らかである。
キ 本件審決の認定の誤り7について
(ア) 〔原告の主張〕(1)ク(ア),(イ)について
引用発明の操作パネル(13-1)と操作パネル(13-2)が,ともにステップS8の明るさ調整画面を表示する処理時の表示であることは明らかであり,各パネルの表示は並行しているから,本件審決の認定に誤りはない。
(イ) 同(ウ)について
引用発明における明るさ調整は編集処理であり,引用発明の操作パネル(13-1)に表示されるのは,本件補正発明の「編集対象の画像」及び「操作画像」に相当する画像である。
(ウ) 同(エ)について
引用発明において,操作パネル(13-2)に表示されているのは,キープ画像の削除処理の画面であり,操作パネル(13-1)において行われる明るさ調整という編集処理の画面とは,別の処理の画面である。
ク 小括
以上によれば,本件審決の一致点の認定に誤りはない。
(2) 相違点の認定の誤りについて
本件審決の本件補正発明と引用発明の一致点の認定に誤りはないから,相違点の認定にも誤りはない。
(3) 相違点に係る判断の誤りについて
本件審決の相違点の認定に誤りはない。
また,前記(1)カ(ウ)のとおり,引用発明は2つの異なる処理を並行して行えるという効果を有することは明らかであって,本件補正発明の効果は予測できる範囲のものである。
したがって,本件審決の相違点に係る容易想到性の判断に誤りはない。
(4) 本件補正却下の誤りについて
本件補正発明は,独立特許要件を欠くものであるから,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 一致点の認定の誤りについて
(1) 本件補正明細書及び引用例の記載
ア 本件補正明細書には,概略,次の記載がある。
(ア) ユーザは,画像印刷装置を利用するとき,撮影空間に入場し,撮影処理を行う。所定の数の画像を編集対象の画像として選択し,撮影を終えたとき,編集空間に移動する(【0043】)。編集空間から確認できる編集用モニタには,撮影空間において撮影し,選択した画像が表示され,編集を行う。ユーザは,編集を終えると印刷待ち空間に移動し,編集した画像がシール紙にプリントされ,排出されるまで待機し(【0044】),排出されたシール紙を受け取り,画像印刷装置の利用を終える(【0045】)。撮影を行う空間,編集を行う空間,印刷が終了するのを待機する空間をそれぞれ設けることにより,撮影処理,編集処理,印刷処理を併行して実行させることができ,これらの処理を1つの空間で実行させる場合に比べ,顧客の回転率を向上させることができる。また,撮影処理に要する時間,編集処理に要する時間等を長く確保することができる(【0046】)。
(イ) 画像印刷装置の全体の処理は,図7のとおりであり(【0062】),制御装置のCPUは,代金が投入されたと判定した場合(ステップS1,【0064】),撮影空間での撮影処理を実行する(ステップS2,【0064】)。次に,ユーザの入力に応じて,撮影した画像の編集処理を実行し(ステップS3,【0065】),編集画像の画像データをプリンタユニットのプリンタ部に転送して,印刷させる(ステップS4,【0066】)。
(ウ) ステップS2の撮影処理の詳細は,図8のとおりであり(【0068】),CPUは,ユーザに対し,撮影/落書きの人数を選択する画面を撮影用モニタに表示させ(ステップS11,【0069】),選択された人数を受け付ける(ステップS12,【0073】)。次に,CCDにより取り込まれた動画像が画像表示部に表示され(ステップS13,【0074】),撮影を開始するか否かを判定し(ステップS14,【0074】),撮影を開始すると判定した場合,撮影までのカウントダウンを撮影用モニタに表示する(ステップS15,【0075】図8)。撮影までの時間が0になったとき,CCDにより撮影を行う(ステップS16,【0076】)。撮影を終了するか否かを判定し,撮影を終了すると判定した場合(ステップS17),撮影した画像の中から編集する画像を選択する画面を撮影用モニタに表示させ(ステップS18),ユーザは,所定の数の画像を編集対象画像として選択する(ステップS19,【0078】図8)。ステップS18で表示される編集対象画像の選択画面では,ユーザは,編集対象画像の明るさ(明度)を調節できるようにされており,画像の明るさが調節される(ステップS20,【0079】)。明るさが調節された編集対象画像は,編集処理において編集する画像として保存される(ステップS21,【0080】)。その後,ユーザに対し,編集空間に移動することが案内され(ステップS22),撮影処理を終えたユーザは,撮影空間から編集空間に移動する(【0081】)。
(エ) ステップS3の編集処理の詳細は,図10のとおりであり(【0082】),CPUは,撮影処理において登録されたグループの人数をRAM又は記憶部から読み出し(ステップS31),グループの人数に応じて編集用モニタを割り当てるとともに,編集用モニタに表示される編集対象画像及び編集ツールを選択するとき操作されるボタンの画像の配置を切り替え,編集画面を表示する(ステップS32,【0083】)。次に,ユーザの入力に応じて,編集対象画像を編集し(ステップS33,【0108】),終了ボタンが操作された場合,編集処理を終了すると判定する(ステップS34,【0111】)。その後,編集用モニタに印刷待ち空間に移動することを案内するメッセージを表示させ(ステップS35),編集が入力された編集対象画像のデータをプリンタ部に出力する(ステップS36,【0112】)。ユーザは,印刷待ち空間に移動し,シール取り出し口からシール紙が排出されてくるのを待機する(【0113】)。編集画像が印刷されたシール紙は,シール取り出し口から排出され,ユーザに提供される(【0114】)。
イ 上記ア(ア),(イ)のとおり,本件補正発明では,撮影処理(S2)は撮影空間で行い,編集処理(S3)は,撮影空間とは別の編集空間へ移動して行うものであるから,撮影処理と編集処理とは明確に区別されている。
また,上記ア(ウ),(エ)の記載からすると,本件補正発明の撮影処理(ステップS2)は,単に撮影することのみを意味するものではなく,撮影/落書きの人数の選択,編集対象画像の選択,編集対象画像の明るさ調節など,撮影に関連する一連の処理(ステップS11ないし22)により構成されるものといえる。同様に,編集処理(ステップS3)は,単に編集することのみを意味するものではなく,編集に関連する一連の処理(ステップS31ないし34)により構成されるものといえる。
ウ 他方,引用例には,概略,次の記載がある。
画像印刷装置の印刷処理は,図3及び4のとおり(【0056】),操作パネルにデモ画面を表示し(ステップS1,【0057】),代金が投入されたと判定した場合(ステップS2,【0058】),操作パネルに撮影手順の説明画面を表示する(ステップS3,【0059】)。次に,操作パネルに取り込み画像を表示するが(ステップS4,【0062】),操作パネル(13-1)には,図7(A)のように,CCDカメラが撮影している取り込み画面が表示される(【0062】)。続いて,CPUは,撮影開始ボタンが操作されたか否かを判定し(ステップS5,【0064】),撮影開始ボタンが操作されたと判定した場合,撮影を実行する(ステップS6,【0065】)。その後,操作パネルに印刷写真選択画面を表示するが(ステップS7),操作パネル(13-1)には,図9(A)のように,プリントする(キープする)画像を選択するため,それまでに撮影した撮影画像が表示され,利用者は,タッチペンでカーソルを移動して,キープ画像を選択する。操作パネル(13-2)には,図9(B)のように,操作パネル(13-1)に表示された撮影画像から選択された画像が表示される。利用者は,操作パネル(13-2)に表示されているプリントボタンを操作し,撮影画像をプリント(キープ)するか,削除ボタンを操作して撮影画像を削除するかを選択する。利用者がプリントボタンを操作したと判定した場合,操作パネルに明るさ調整画面を表示する(ステップS8)。操作パネル(13-1)には,図10(A)のように,印刷することが選択された撮影画像が表示され,明るさ調整ボタン,写真風ボタン,シール風ボタン,表示切換ボタン,とりなおしボタン,キープボタンが表示される(【0067】【0068】)。操作パネル(13-2)には,利用者がキープボタンを操作することにより,編集対象の画像として選択したキープ画像が表示される。また,同パネルには,削除ボタンが表示され,利用者は,これを操作して,選択したキープ画像を削除することができる。さらに,同パネルには,撮影終了ボタンが表示され,利用者は,キープ画像を4枚選択する前でも,次に進むことができる(【0069】【0070】)。CPUは,明るさ調整画面でとりなおしボタンが操作されていないと判定した場合(ステップS9),同画面でキープボタンが操作されたか否かを判定し(ステップS10),操作されたと判定した場合,キープすることが選択された撮影画像をキープ画像に追加する(ステップS11,【0071】【0072】)。CPUは,残り撮影可能枚数が0か否かを判定し(ステップS12),残り撮影可能枚数が0であると判定した場合及びキープボタンが操作されていないと判定された場合,操作パネル(13-2)に表示されている撮影終了ボタンが操作されたか否かを判定する(ステップS13,【0074】【0075】)。撮影終了ボタンが操作されたと判定した場合,操作パネルに落書き画面を表示し(ステップS14,【0076】【0077】),プリントボタンが操作されたか又は制限時間が経過したと判定した場合,操作パネルに分割数選択画面を表示し(ステップS15),利用者は,好みの分割数(プリントサイズ)のシートを選択することができる(【0081】)。表示プロセッサは,プリントしたシールが横から排出されることを案内する案内画面を操作パネル(13-1)及び操作パネル(13-2)に表示させる(ステップS16,【0082】)。
エ 上記ウのとおり,引用発明は,撮影と編集を同じ場所で行うものであり,また,引用例には,各ステップでの処理が,撮影処理と編集処理のいずれに区分されるのか明示の記載はないが,引用発明では,利用者は,撮影開始ボタンが操作されてから(ステップS5),撮影終了ボタンが操作されるまで(ステップS13)の間に,撮影,撮り直し,撮影の終了など,撮影に関する一連の処理を行うものであること,本件補正発明の「撮影処理」は,単に撮影することを意味するものではなく,撮影/落書き人数の選択,編集対象画像の明るさ調整,編集対象画像の選択等,撮影に関連する一連の処理を意味することなどからすると,本件補正発明と引用発明との対比においては,引用発明において,撮影開始ボタンが操作されてから(ステップS5),撮影終了ボタンが操作されるまで(ステップS13)の一連の処理が,本件補正発明の「撮影処理」に相当し,撮影終了ボタンが操作された後,操作パネルに落書き画面を表示して,選択された処理を実行する処理(ステップS14)が,本件補正発明の「編集処理」に相当するものであると認めるのが相当である。
この点に関し,引用例(【0052】)には,「(フレームバッファの)第2の領域は,落書き処理や明るさ調整などの編集処理において使用される記憶領域であり,・・・」と,明るさ調整(ステップS8)が編成処理に当たるとする記載もあるが,前記のとおり,本件補正発明の進歩性の有無を判断する前提として,本件補正発明と引用発明を対比した場合には,引用発明における明るさ調整は,本件補正発明の「撮影処理」に相当する一連の処理(ステップS5からステップS13)に含まれるものと認めるのが相当であり,引用例の記載上では,明るさ調整は編集処理と位置付けられているとしても,その記載により直ちにこの明るさ調整が本件補正発明の「編集処理」に相当するものと認めることはできない。
(2) 本件審決の認定の誤り1について
ア 前記(1)エのとおり,引用発明における撮影処理は,撮影開始ボタンが操作されてから(ステップS5),撮影終了ボタンが操作されるまで(ステップS13)に行われるものであるところ,「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,ステップS5からステップS13の間に行われるステップS11よって表示されるものであるから,撮影処理中に表示される画像であると認められる。
イ 他方,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」は,編集用モニタに表示される「編集対象画像」に対応するものであるが(本件明細書【0083】),編集用モニタに編集対象画像を表示するステップS32は,編集処理中に行われるものである。
したがって,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」は,編集処理中に表示される画像であると認められる。
ウ 以上によれば,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,撮影処理中に表示される画像であり,他方,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」は,編集処理中に表示される画像であって,両者は異なる処理中に表示される画像であるから,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」に相当するということはできない。
エ 被告の主張について
(ア) 第3の〔被告の主張〕(1)アの(ア),(ウ)及び(エ)について
上記(1)エのとおり,引用発明における明るさ調整(ステップS8)は,本件補正発明との対比においては,撮影処理に含まれるから,ステップS8で操作パネル(13-1)に表示される明るさ調整画面は,編集処理のものではなく,撮影処理のものである。
したがって,被告の主張は採用できない。
(イ) 同(イ)について
本件補正発明や引用発明の特許請求の範囲の記載には,いずれも各発明における「撮影処理」及び「編集処理」の区分やその手順に関する特定はないから,本件補正発明と引用発明を対比するに当たり,それぞれの技術内容を把握して,これを確定させるためには,特許請求の範囲の記載に加え,発明の詳細な説明の記載を参酌することも許されるというべきである。
したがって,被告の主張は採用できない。
(3) 本件審決の認定の誤り2について
ア 上記(1)エのとおり,引用発明のステップS8により表示される明るさ調整画面は,撮影処理に含まれるから,同画面に表示される調整ボタン,写真風ボタン,シール風ボタン,表示切換ボタンは,いずれも撮影処理中に表示される画像である。
イ 他方,本件補正発明の「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」は,編集用モニタに表示される「編集ツールを選択するとき操作されるボタンの画像」に対応するが(本件明細書【0083】),編集用モニタに「編集ツールを選択するとき操作されるボタンの画像」を表示するステップS32は,編集処理中に行われるものであるから,同画像は,編集処理中に表示されるものである。
ウ 以上によれば,引用発明の上記調整ボタン等は,撮影処理中に表示される画像であり,他方,本件補正発明の「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」は,編集処理中に表示される画像であって,両者は異なる処理中に表示される画像であるから,引用発明の上記調整ボタン等は,本件補正発明の「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」に相当するということはできない。
(4) 本件審決の認定の誤り3について
ア 上記(3)のとおり,引用発明の操作パネル(13-1)に表示される上記調整ボタン等は,撮影処理中に表示される画像である。
イ 他方,上記(2),(3)のとおり,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」及び「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」は,いずれも編集処理中に表示される画像である。
ウ 以上によれば,引用発明の操作パネル(13-1)には,本件補正発明の「編集対象の画像」と「操作画像」に相当する画像が表示されているということはできない。
(5) 本件審決の認定の誤り4について
本件審決の「引用発明の操作パネル(13-1)に「上記の画像」が表示されている状態は,撮影処理に編集を行うことができる状態であるので,当該状態は,本件補正発明における撮影処理が終了した後の編集処理中であるといえる。」との判断における「上記の画像」とは,本件補正発明の「編集対象の画像」と「操作画像」に相当する画像を指すものであるところ,上記(2),(3)のとおり,引用発明のステップS8では,操作パネル(13-1)に本件補正発明の「編集対象の画像」と「操作画像」に相当する画像は表示されていない。
したがって,引用発明の操作パネル(13-1)に選択された撮影画像が表示され,調整ボタン等が表示されている状態は,本件補正発明における「撮影処理が終了した後の編集処理中」に相当するものではない。
(6) 本件審決の認定の誤り5について
ア 引用発明では,ステップS8で利用者がキープボタンを操作すると,操作パネル(13-2)には,編集対象の画像として選択したキープ画像が表示されるが(【0069】),上記(2)のとおり,このキープ画像は,撮影処理中に表示される画像である。
イ 他方,本件補正発明の「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」に表示される「前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の印刷処理に関する選択操作を行う画面」は,「前記撮影処理が終了した後の編集処理中」に表示される画面である。
ウ 以上によれば,引用発明において,キープ画像が表示されている操作パネル(13-2)は,本件補正発明の「前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の印刷処理に関する選択操作を行う画面」が表示されている「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」に相当するということはできない。
(7) 本件審決の認定の誤り6について
上記(2)のとおり,引用発明において,利用者がステップS8でキープボタンを操作することにより,操作パネル(13-2)に表示されるキープ画像は,撮影処理中に表示される画像であるから,キープ画像を削除する処理も撮影処理中に行われる処理であり,編集処理の終了後に行われる編集処理とは別の処理ではない。
したがって,引用発明において,利用者が削除ボタンを操作して,キープ画像を削除できることは,本件補正発明の「前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示」の機能に相当するということはできない。
(8) 本件審決の認定の誤り7について
ア 引用発明において,操作パネル(13-1)に表示される明るさ調整画面(図10(A))は,撮影処理に関するものであり,また,操作パネル(13-2)に表示される「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,撮影処理中に表示される画像であるから,各パネルに表示されている内容はいずれも撮影処理中のものである。
イ 他方,本件補正発明における「前記編集処理とは別の処理」は,「前記編集処理が終了した後に行われる」処理である。
ウ 以上によれば,引用発明の各操作パネルに表示されている内容が,別々に並行して表示されているからといって,引用発明が,本件補正発明における「前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる表示制御手段」に相当する機能を有しているということはできない。
(9) 小括
以上のとおり,引用発明の「編集対象の画像として選択したキープ画像」は,本件補正発明の「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像」に相当せず(上記(2)),引用発明の調整ボタン等は,本件補正発明の「編集対象の画像に施す編集を指示するとき操作される操作画像」に相当しない(上記(3))。また,引用発明の操作パネル(13-1)に本件補正発明の「編集対象の画像」と「操作画像」に相当する画像は表示されないし(上記(4)),引用発明の操作パネル(13-1)に選択された撮影画像が表示され,調整ボタン等が表示されている状態は,本件補正発明における「撮影処理が終了した後の編集処理中」に相当するものであるとはいえず(上記(5)),キープ画像が表示されている操作パネル(13-2)が,本件補正発明の「前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域」に相当するともいえない(上記(6))。さらに,引用発明において,利用者が削除ボタンを操作して,キープ画像を削除できることは,本件補正発明の「前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示」の機能に相当しないし(上記(7)),引用発明が,本件補正発明における「前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の」「処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる表示制御手段」に相当する機能を有しているともいえない(上記(8))。
以上からすると,本件補正発明と引用発明は,「表示領域が複数設けられる表示手段」を有している点では一致しているものの,引用発明の操作パネル(13-1)は,「撮影処理によって撮影された画像の中から選択された編集対象の画像と,前記編集対象の画像に施す編集を支持するとき操作される操作画像のうちの少なくともいずれかを表示」するものではないし,また,引用発明は,「前記撮影処理が終了した後の編集処理中,前記表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる」機能を有しないから,本件審決の一致点の認定は誤りであるといわなければならない。
2 相違点の認定の誤りについて
本件審決は,相違点の認定において,「引用発明は,編集処理が終了した後に行われる,編集処理とは別の処理としての編集対象の画像の選択操作を行う画面が,画像の印刷処理に関する選択操作の画面ではなく,画像の削除の処理に関する選択操作の画面である」と判断しているところ,前記1(7)のとおり,引用発明の画像の削除の処理(キープ画像を削除する処理)は,撮影処理中の処理であり,編集処理(前記1(1)エのとおり,引用発明では,ステップS14の落書き画面を表示し,選択された処理を実行する処理が,本件補正発明の「編集処理」に相当する。)の終了後に行われるものではないから,上記相違点の認定には,誤りがある。
また,前記1(9)のとおり,本件補正発明と引用発明との間には,少なくとも,引用発明においては,「前記撮影処理が終了した後の編集処理中,前記表示手段に設けられる複数の表示領域のうち,前記編集対象の画像と前記操作画像のいずれの画像も表示していない表示領域に,前記編集処理が終了した後に行われる,前記編集処理とは別の処理としての前記編集対象の画像の印刷処理に関する選択操作を行う画面を,他の前記表示領域に前記編集対象の画像もしくは前記操作画像を表示させることと並行して表示させる」機能がないという相違点もある。
3 本件補正を却下した判断の誤りについて
以上のとおり,本件審決が認定した本件補正発明と引用発明の相違点には全体として誤りがあり,その結果,本来の相違点に係る容易想到性の判断を欠いているのであるから,この相違点の認定の誤りは,本件補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができるとし,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項が準用する同法126条5項に違反するとして,これを却下した本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
4 結論
以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 髙部眞規子 裁判官 齋藤巌)