知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10050号 判決 2011年10月11日
原告
X
訴訟代理人弁理士
宮田信道
被告
特許庁長官
指定代理人
上條のぶよ
内田淳子
須藤康洋
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2007-23664号事件について平成22年12月27日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成13年8月9日,名称を「抗骨粗鬆活性を有する組成物」とする発明について,特許出願(特願2001-242097号,平成15年2月26日出願公開,特開2003-55238号)をしたが,平成19年7月24日付けで拒絶査定を受けたので,同年8月29日,これに対する不服の審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2007-23664号事件として審理した上,平成22年12月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成23年1月11日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明は,以下のとおりである。
【請求項1】 「カルシウム,キトサン,プロポリスを配合したことを特徴とする抗骨粗鬆活性を有する組成物。」
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明は,引用例A(特開平7-194316号公報,甲1)に記載された引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2) 審決がした引用発明の認定,引用発明と本願発明との一致点及び相違点の認定並びに相違点についての判断は,次のとおりである。
【引用発明】
「水溶性キトサンおよびカルシウム塩を有効成分とするカルシウム吸収促進性組成物。」
【一致点】
「カルシウム,キトサンを配合した組成物」
【相違点】
① 相違点1
本願発明は,「抗骨粗鬆症活性を有する組成物」であるのに対し,引用発明は,「カルシウム吸収促進性組成物」である点。
② 相違点2
本願発明は,プロポリスを配合するのに対し,引用発明は,これを配合していない点。
(相違点1についての判断)
本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」なる記載は,組成物の有する活性を単に記載したものであり,「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するとは認められないから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。
仮に「抗骨粗鬆活性を有する」なる記載により,組成物の用途が特定されるとしても,引用例Aの記載からみて,引用発明は,骨粗鬆症の予防,治療を目的とすることが明らかであり,当該技術分野における技術常識を考慮すると,引用発明は,腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させる作用を有し,骨粗鬆症を予防,治療するための組成物にほかならないから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。
(相違点2についての判断)
引用例B(特開平9-37711号公報,甲2)の記載からみて,引用例Bの健康食品にカルシウム塩を配合する目的及び得られる効果として,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防,治療が包含されることが明らかである。また,引用例Bには,プロポリスがカルシウムの吸収効率を高める作用を有し,これをカルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得ることが記載されている。実施例2には,乳酸カルシウム粉末,キトサンとともに,プロポリスを含有する組成物である健康食品が具体的に開示されている。
そうすると,引用発明において,カルシウムの吸収効率を更に高め,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防,治療効果を向上させるために,プロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることである。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
審決は,相違点1についての検討に当たり,「本願発明における「抗骨粗鬆症活性を有する」なる記載は,組成物の有する活性を単に記載したものであり,「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するものとは認められないため,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」(7頁30行~末行),「引用発明は,腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させる作用を有し,骨粗鬆症を予防,治療するための組成物に他ならないものであるから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」(8頁11行~13行)と判断するが,本願発明は,骨粗鬆症の治療に対しカルシウムを骨へ直接取り込むことを主眼とする上記引用発明とは根本的に発想の異なる技術思想に基づくものであるから,上記判断は誤りである。
すなわち,本件の発明者らは,研究の結果,骨粗鬆症の発症は単にカルシウム不足に起因するものではなく,骨の劣化に原因があることを究明した。そして,骨の劣化は「骨吸収」(骨からのカルシウム溶出)と「骨形成」のバランスの崩れから発生することを明らかにした。
そこで,本願発明は,カルシウムを補給する前に骨の劣化を抑えることが重要であるとの観点から,カルシウム,キトサン,プロポリスの配合(以下「3種混合物」という。)としたことを技術的特徴とするもので,その配合成分のうちキトサンは,骨吸収を抑制する役割を担っているのに対し(段落【006】),引用発明のキトサンの役割は,腸管内でのカルシウム吸収を促進するためのものであり(段落【0007】),両者の役割が本質的に異なっている。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
審決は,相違点2についての検討に当たり,「引用例Bには,プロポリスがカルシウムの吸収効果率を高める作用を有し,これをカルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得ることが記載されていることに基づき,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防・治療効果を向上させるために,プロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることであると認められる。」(8頁26行~34行)と認定するが,以下のとおり,誤りである。
すなわち,本件の発明者の一人である原告は,プロポリスの抗糖尿効果は活性酸素消去作用にあること及びプロポリスの肝保護作用も活性酸素消去作用にあることを究明し,その成果を踏まえて,骨形成の阻害要因,つまり骨内カルシウムの劣化の大きな要因は,活性酸素であることを初めて解明した。本願発明は,上記の知見に基づくものであり,本願発明における配合成分のうちプロポリスは,骨形成の阻害要因の一つである活性酸素を除去するという重要な役割を担っており(段落【0006】),骨形成の根本を改善することを主眼としている。
これに対して,引用発明に記載されているプロポリスに関しては,骨の劣化を防ぐ旨の記載はもちろん,その旨を示唆する記載もなく,プロポリスの役割は単にカルシウムの骨への吸収を高める(段落【0035】)にすぎず,本願発明とはその役割・作用を大きく異にしている。
3 取消事由3(作用効果についての判断の誤り)
審決が,「本願発明が,引用発明においてさらにプロポリスを併用するものとしたことにより,引用発明から予測し得ない格別顕著な効果を奏し得たものと認めることができない。」(9頁27行~29行)と判断したことは,以下のとおり,誤りである。
すなわち,審決では,図1で示す基礎実験データ(動物モデル)の内容を十分に検証することを怠り,「3種混合物投与ラットが,キトサン投与ラットより有意に平均骨密度が増加しているものとは認められない」とデータの真意を読み取ることなく結論付けるとともに,臨床試験データ(表2及び表4)についても「本願発明の製剤の抗骨粗鬆活性を確認したにとどまるものである」旨の評価をして,試験2,3の重要な臨床データを顧慮することなく,本願発明の効果を否定している(8頁36行~9頁26行)。
しかし,本願発明では,図1に示す動物モデルで行った基礎実験が重要な意味を持っている。この実験によれば,骨粗鬆症を想定した卵巣摘出ラットを基準としての平均骨密度の増加率は,カルシウムでは2.33%,キトサンとプロポリスではいずれも3.88%に対して,3種混合物では6.20%と極めて高い増加率を示した。すなわち,キトサンにより骨吸収を抑えた結果では3.88%の骨密度増加率を示し,プロポリスにより活性酸素を消去した結果も3.88%の骨密度増加率を示したが,キトサンとプロポリスとを混合して骨の劣化を抑えた後の結果では,平均骨密度の増加率は骨粗鬆症想定時(卵巣摘出ラット)に比し6.20%もの顕著な増加を示したことが判る。図1の見た目の増加では微増であるが,医療の場ではカルシウム単独投与の増加率に対して2割増加,3割増加でも注目するのであって,この6.20%の増加率は,カルシウム単独で投与した場合の2.66倍に当たり骨粗鬆症の治療分野では驚異的な増加率である。これは,キトサンとプロポリスとの併用投与による相乗効果として骨の劣化が抑えられた結果にほかならない。
第4被告の反論
1 取消事由1に対し
(1) 本願発明の特定事項である「抗骨粗鬆活性を有する」は,「カルシウム,キトサン,プロポリスを配合」した組成物が有する活性(性質)を単に特定したものであり,当該組成物の用途を特定するものではない。また,引用発明は,「水溶性キトサンおよびカルシウム塩を有効成分とするカルシウム吸収促進性組成物」であるが,ここでいう「カルシウム吸収促進性」なる語も,引用発明の組成物が有する性質を単に特定しているにすぎないものである。以上のことは,本願発明及び引用発明のそれぞれにおいて,キトサンがどのような役割を担っているかとは無関係である。
そうすると,相違点1は,組成物の発明である本願発明及び引用発明における性質の差異にすぎず,実質的な相違点とはいえないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 仮に,「抗骨粗鬆活性を有する」なる特定により,その用途が特定されると解すとしても,本願明細書の記載(段落【0001】,【0033】)からすると,本願発明の組成物は,「骨粗鬆症の予防及び改善」をその用途とする組成物であるといえる。一方,引用例Aの記載(段落【0002】~【0004】,【0017】~【0020】,【0027】)から,引用発明のカルシウム吸収促進性組成物は,適用対象としてカルシウム摂取が不足している人,対象となる疾病としてカルシウムの摂取不足による骨粗鬆症を包含するものである。
また,本件出願時において,骨粗鬆症とは,骨量が減少しかつ骨組織の微細構造が変化し,そのため骨が脆くなり骨折しやすくなった病態であること,特に,高齢者において,カルシウム摂取不足や腸管からのカルシウム吸収低下などが骨粗鬆症の危険因子であること,その治療にカルシウム製剤や腸管からのカルシウム吸収を促進する作用を有する活性型ビタミンDなどの薬剤が有効であることが一般的に知られていた(乙1~5)。
そうすると,引用例Aの記載及び本件出願時の技術常識からみて,引用発明の「カルシウム吸収促進性組成物」は,「経口摂取されたカルシウムの腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させることにより,無理なカルシウムの摂取を行うことなく十分な量のカルシウムが生体に利用できるようにする性質を有する組成物」であり,該組成物の具体的な用途として,「骨粗鬆症の予防,治療」を包含することが明らかである。
したがって,本願発明と引用発明とは,用途について,表現上異なってはいるものの,いずれも骨粗鬆症の予防,治療に用いられるものである点で一致しており,実質的に区別できない。
2 取消事由2に対し
本件出願時において,カルシウム摂取不足や腸管からのカルシウム吸収低下などが骨粗鬆症の危険因子であること,骨粗鬆症の治療にカルシウム製剤や腸管からのカルシウム吸収を促進する作用を有する活性型ビタミンDなどの薬剤が有効であることは,一般的に知られていることである。また,引用例Bには,プロポリスがカルシウムの吸収効率を高める作用を有し,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を防止することが記載されている(段落【0028】,【0035】等)が,このプロポリスが骨粗鬆症の予防・治療に有効であることも当業者にとって自明であるといえる。
そうすると,薬効増大という当業者によく知られた課題を解決するために,同様な症状に有効であることが公知である成分を併用することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであることからすると,引用発明において,その骨粗鬆症の予防,治療効果の増強を期待して,抗骨粗鬆活性を有することが公知であるプロポリスを併用することは,当業者が容易になし得ることである。このことは,本願発明及び引用例Bにおいて,それぞれに配合されたプロポリスが,同一の役割・作用を奏するか否かとは無関係である。
3 取消事由3に対し
原告は,図1で示す骨密度増加率は,キトサンにより骨吸収を抑え,プロポリスにより活性酸素を消去し,キトサンとプロポリスとを混合して骨の劣化を抑えた後の結果であると主張するが,証拠からは,キトサン,プロポリスがこれらの作用機序により骨密度を増加させることを裏付ける根拠を認めることができない。
また,原告は,平均骨密度の変化を示す図1の結果から,キトサンとプロポリスとの併用投与による相乗効果を主張するが,本願発明の引用発明と比較した場合の効果,すなわち,本願発明が,キトサンとカルシウムの混合物である引用発明にさらにプロポリスを併用して3種混合物としたことで顕著な効果を奏することについて,何ら実証されていない。
引用例Aには,実施例において,ラットを用いた場合の結果が記載され,ヒトにおける効果の記載はないが,出願時の技術常識を考慮すれば,引用発明の組成物を実際にヒトに投与した場合に抗骨粗鬆活性が得られることは当然予測し得ることである。また,カルシウムとキトサンを併用した組成物である炭酸カルシウム入りキトサンを骨粗鬆症患者に使用した結果,骨量増加が具体的に確認されている(乙6)。
そうすると,本願明細書の表2,表4に示される結果は,本願発明の組成物の抗骨粗鬆活性を確認したにとどまるものであり,これらの結果から,本願発明が引用発明及び公知技術から予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであるということはできない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
原告は,審決が,相違点1についての検討に当たり,「本願発明における「抗骨粗鬆症活性を有する」なる記載は,組成物の有する活性を単に記載したものであり,「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するものとは認められないため,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」,「引用発明は,腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させる作用を有し,骨粗鬆症を予防,治療するための組成物に他ならないものであるから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」と判断したのは誤りであると主張し,その理由として,本願発明が,骨粗鬆症の治療に対しカルシウムを骨へ直接取り込むことを主眼とする上記引用発明とは異なる技術思想に基づくものであること,本願発明が,カルシウムを補給する前に骨の劣化を抑えることが重要であるとの観点から,カルシウム,キトサン,プロポリスの3種混合物としたことを技術的特徴とするもので,その配合成分のうちキトサンは,骨吸収を抑制する役割を担っているのに対し,引用発明のキトサンの役割は腸管内でのカルシウム吸収を促進するためのものであり,両者の役割が本質的に異なることなどを述べる。
しかし,原告が本願発明の技術的特徴として主張する,骨粗鬆症に対する治療手法としての機序や,キトサンが骨吸収を抑制するという役割などは,本願発明を特定する特許請求の範囲において記載されておらず,「物」の発明としての本願発明を特定するものではないから,そのことを理由に引用発明との相違点の判断を否定する原告の主張は,失当といわなければならない。
なお,本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
原告は,審決が,相違点2についての検討に当たり,「引用例Bには,プロポリスがカルシウムの吸収効果率を高める作用を有し,これをカルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得ることが記載されていることに基づき,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防・治療効果を向上させるために,プロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることであると認められる。」と認定したのは誤りであると主張し,その理由として,本願発明におけるプロポリスは,骨形成の阻害要因の一つである活性酸素を除去し骨形成の根本を改善するのに対し,引用発明のプロポリスは,カルシウムの骨への吸収を高めるにすぎず,両者はその役割・作用を大きく異にすると述べる。
しかし,本願明細書において,原告が主張する,プロポリスが活性酸素を除去したことにより骨内カルシウムの劣化が抑制される際の具体的な機序に関する記載はなく,その実施例,試験例においても,具体的に測定されているのは,被験者の骨密度や,ラットの骨密度,体重であって,活性酸素の除去に関しては何ら測定されていないから,原告の本願発明に係る上記主張は,明細書の記載により根拠付けられるものではなく,理由を欠くものといわなければならない。
なお,引用例Bには,プロポリスが,カルシウムの吸収効率を高める作用を有し,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得ることが開示されている。一方,引用発明のカルシウム吸収促進性組成物は,カルシウム摂取が不足している人を対象として,カルシウムの摂取不足に起因する骨粗鬆症などの疾患を防止し得るものとして提供されていると認められる。そうすると,引用発明において,カルシウムの吸収効率を更に高め,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症の予防・治療効果を向上させる観点から,技術分野や解決課題の共通する引用例Bに開示された,プロポリスがカルシウムの吸収効率を高める作用を有し,カルシウム不足に起因する骨粗鬆症等の疾患を予防し得る旨の技術的事項を適用して,引用発明にプロポリスを配合することは,当業者が容易になし得ることといえる。
したがって,相違点2に関する審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(作用効果の判断の誤り)について
原告は,審決が,「本願発明が,引用発明においてさらにプロポリスを併用するものとしたことにより,引用発明から予測し得ない格別顕著な効果を奏し得たものと認めることができない。」と判断したのは誤りであると主張し,その理由として,本願明細書の図1に示す動物モデルで行った基礎実験において,骨粗鬆症を想定した卵巣摘出ラットを基準としての平均骨密度の増加率は,カルシウムでは2.33%,キトサンとプロポリスではいずれも3.88%に対して,3種混合物では6.20%と極めて高い増加率を示し,これがキトサンとプロポリスとの併用投与による相乗効果であると述べる。
しかし,カルシウムとキトサンを有する引用発明に,カルシウムの吸収効率を更に高めるためにプロポリスを配合するという引用例Bに開示された技術事項を適用することが,当業者にとって容易に想到し得ることは,前記2のとおりであり,その結果,カルシウムとキトサンにプロポリスを配合した組成物が,本願発明と同様の平均骨密度の増加という作用効果を奏するであろうことも,当業者が容易に予測し得ることと認められる。
本願明細書における上記実験では,「カルシウム」,「キトサン」及び「プロポリス」をそれぞれ単独で投与したものと,「3種混合物」を投与したものとを比較したのみであり,前記引用例の組合せからは予想し得ない顕著な作用効果を示すものではない。また,その実験結果も,3種混合物を投与したものの平均骨密度の増加率が,各成分単独の増加率より大きいとするものであって,同等の単位数量に基づいて比較したものでなく,他にどのような飼料が与えられていたかも明らかにされていないから,本願発明が,いわゆる相加的効果でなく,当業者が予測できないような相乗的効果を有することを立証するものではない。
なお,本願明細書の表2及び表4には,本願発明の組成物を含む抗骨粗鬆錠を投与した患者の骨密度が改善したことが示されているが,3種混合物を投与することでカルシウムの吸収が促進され,骨密度が向上することは,前示のとおり,当業者が容易に予測するところである。原告の主張する,キトサンにより骨吸収が抑制されることや,プロポリスにより活性酸素が除去されることも,実施例の記載により根拠付けられるものではなく,理由を欠くものといわなければならない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,審決の判断に原告主張の誤りはない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 清水節 裁判官 古谷健二郎)