知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10066号 判決 2011年9月28日
原告
株式会社三共
訴訟代理人弁理士
岩壁冬樹
同
塩川誠人
同
川村武
同
眞野修二
被告
日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士
山崎優
同
三好邦幸
同
川下清
同
河村利行
同
加藤清和
同
沢田篤志
同
伴城宏
同
今田晋一
同
梁沙織
同
小林悠紀
同
高橋幸平
同
古賀健介
同
中村昭喜
同
笹山将弘
同
池垣彰彦
同
沖山直之
同
吉岡実奈穂
訴訟代理人弁理士
梁瀬右司
同
振角正一
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2009-800093号事件について平成23年1月17日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
原告は,平成10年6月18日,発明の名称を「遊技機」とする発明について,特許出願をし,平成11年3月5日,特許権の設定登録を受けた(特許第2896369号。以下「本件特許」という。)。
被告は,平成21年5月14日,本件特許について特許無効審判請求(無効2009-800093号)を行い,原告は,同年8月27日付けで訂正請求を行い(以下「本件訂正」という。),特許庁は,同年12月15日,本件訂正を認め,無効審判請求は成り立たないとする審決(以下「第一次審決」という。)をした。被告は,第一次審決について審決取消訴訟(平成22年(行ケ)第10024号)を提起し,知的財産高等裁判所は,平成22年10月28日,第一次審決を取り消すとの判決をした。
上記判決後の無効審判において,特許庁は,平成23年1月17日,本件訂正を認め,本件特許の請求項1ないし3に係る発明を無効とするとの審決(以下「本件審決」という。)をし,その審決の謄本は,同月27日原告に送達された。そこで,原告は,平成23年2月24日に本件審決の取消しを求めて本訴を提起した(原告は,平成23年3月24日付けで,特許庁に対し,訂正審判を請求したが,当裁判所は,本件を審判官に差し戻すために本件審決を取り消すとの決定をしていない。)。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,これらの請求項に係る発明を項番号に対応して,「本件訂正発明1」などといい,これらをまとめて「本件訂正発明」という。)。なお,請求項1の各分説冒頭の符号は,審決の表記に倣った。
【請求項1】
(α) 表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じて前記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,
(β) 識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって,
(γ) 遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と,
(δ) 前記遊技制御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を行う表示制御手段が搭載された表示制御基板とを有し,
(ε) 前記表示制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するために,前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段を実装し,
(ζ) 前記遊技制御基板内に,遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するために,前記表示制御基板への信号の出力のみを可能とし,前記表示制御基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手段を実装した
(η) ことを特徴とする遊技機。
【請求項2】
信号伝達方向規制手段は,汎用のバッファIC回路で構成されている請求項1記載の遊技機。
【請求項3】
バッファIC回路のイネーブル端子は,常に入出力導通状態に設定されている請求項2記載の遊技機。
3 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は本件訂正を認めた上で,本件訂正発明1は,特開平8-224339号公報(甲3)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)に,特開平9-173564号公報(甲9)に記載された技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができ,また,本件訂正発明2,3は,甲3発明に,甲9及び株式会社日立製作所発行のデータブック「日立Bi-CMOS/CMOSロジック HD74BC/AC/HC/UHシリーズ」(甲10)に記載された技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものであるから,特許法29条2項に違反するというものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,本件訂正発明1と甲3発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1) 一致点
表示状態が変化可能な可変表示部を含み,変動開始の条件の成立に応じて前記可変表示部に表示される識別情報の変動を開始し,識別情報の表示結果があらかじめ定められた特定の表示態様となった場合に所定の遊技価値が付与可能となる遊技機であって,
遊技進行を制御する遊技制御手段が搭載された遊技制御基板と,前記遊技制御基板からの信号にもとづいて前記可変表示部の表示制御を行う表示制御手段が搭載された表示制御基板とを有し,
遊技制御基板と表示制御基板との間の全ての信号について,信号の伝達方向を前記遊技制御基板から前記表示制御基板への一方向に規制するための信号伝達方向規制手段を設けた遊技機。
(2) 相違点
本件訂正発明1では,「表示制御基板内」及び「遊技制御基板内」各々に「信号伝達方向規制手段」が「実装」され,「表示制御基板内」の「信号伝達方向規制手段」が「前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能」とし,「遊技制御基板内」の「信号伝達方向規制手段」が「前記表示制御基板への信号の出力のみを可能とし,前記表示制御基板からの信号の入力を不能と」するのに対し,甲3発明は,そもそも「信号伝達方向規制手段」が「メイン制御部1」及び「サブ制御部6」各々の内部に設けられていない点。
第3取消事由に関する原告の主張
1 甲9の段落【0004】,【0006】,【0007】,【0136】によれば,甲9記載の発明は,入賞玉検出手段からの検出出力を払出動作制御手段に入力させることに代えて,直接遊技制御手段に入力させることによって,払出動作制御手段から遊技制御手段に信号が入力されることがないようにし,不正行為を防止するというものである。甲9には,信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するため,遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,遊技制御基板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段や,サブ基板への信号の出力のみを可能とし,サブ基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手段は示されていない。
また,甲9には,フォトカプラを電気的に絶縁するために用いるとの記載はあるが,信号伝達方向規制のために用いるとの記載はなく,フォトカプラを不正行為防止のために使用することは記載も示唆もされていない。フォトカプラには,種々の使用形態があるが,それらが信号伝達方向規制手段として使用されているわけではないことは,甲25ないし27からも明らかである。
したがって,当業者は,甲9の記載から,フォトカプラで構成された信号回路209,217について,メイン基板である遊技制御基板からのコマンドをサブ基板へ一方的に転送することのみを許可し,双方向通信を禁止する回路を技術常識として認識することができ,甲9記載の技術事項を甲3発明に適用し,本件訂正発明1の構成とすることは当業者において容易である,との審決の認定には誤りがある。
2 これに対し,被告は,甲9に関し,入賞玉検出手段からの検出出力を,払出動作制御手段に入力するのではなく,直接遊技制御手段に入力させることによって実現できるのは,払出動作制御手段から遊技制御手段へ信号を入力する機会を減らすことだけであるから,入賞玉検出手段からの検出出力を,直接遊技制御手段に入力させるだけでは,遊技制御手段から払出動作制御手段への通信を一方向として,不正行為を防止する目的を達成することができない,甲9には,遊技制御手段と払出動作制御手段との間での情報通信を一方向に規制する方法として,フォトカプラの性質を利用する以外の方法は記載されていない,と主張する。
しかし,甲9の段落【0004】,【0136】によれば,甲9記載の発明において,一方向通信が意味していることは,払出動作制御手段から遊技制御手段に伝達される信号を規定せず,遊技制御手段と払出動作制御手段との間では,遊技制御手段から払出動作制御手段に伝達される信号のみが存在するようにすること,すなわち,遊技制御手段において,払出動作制御手段からの信号の入力部が存在しないようにするというものにすぎず,上記被告の主張は,甲9の記載に基づかないものである。甲9記載の発明には,不正防止のために遊技制御手段から払出動作制御手段に信号を伝達する回路の構成に工夫を施すとの技術思想は含まれていない。
第4被告の反論
原告は,甲9に記載されている不正行為防止手段は,入賞玉検出手段からの検出出力を直接遊技制御手段に入力させるものであり,フォトカプラを不正行為防止のために使用したものではないと主張する。
しかし,入賞玉検出手段からの検出出力を,払出動作制御手段に入力するのではなく,直接遊技制御手段に入力することにより実現できるのは,払出動作制御手段から遊技制御手段へ信号を入力する機会を減らすことだけであり,これだけでは遊技制御手段から払出動作制御手段への通信を一方向として,不正行為を防止することはできない。甲9には,遊技制御手段から払出動作制御手段への情報通信を一方向に規制すること,その方法として,フォトカプラの性質を利用する以外の方法は記載されていない。そして,フォトカプラは,発光素子と受光素子を1つのケース内に収納し,一次側に発光素子,二次側に受光素子をそれぞれ配置して入・出力を電気的に絶縁し,入力側から出力側に一方向に信号を伝達することを基本的な構成としており,フォトカプラによって信号を一方向とすることは周知技術である。したがって,フォトカプラで構成された信号回路209,217の記載があれば,当業者においてフォトカプラを利用した一方向通信であることは容易に理解することができる。なお,甲25ないし27においても,フォトカプラは,発光ダイオードからフォトトランジスタへ一方向のみに信号が送られ,逆に信号が送られることはなく,信号伝達規制手段として機能している。
以上のとおり,原告の主張には理由がない。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,取消事由に係る原告の主張には理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 甲9の記載等
甲9には,以下の記載がある。
【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は,たとえば,パチンコ遊技機やコイン遊技機等で代表される弾球遊技機に関し,詳しくは,打玉を遊技領域に打込んで遊技が行なわれる弾球遊技機に関する。
【0003】 また,この種の従来の弾球遊技機においては,弾球遊技機の遊技状態を制御する遊技制御手段と,玉を払出す玉払出装置を制御する払出動作制御手段とを有しており,前記入賞玉検出手段の検出出力が前記払出動作制御手段に入力され,払出動作制御手段から前記遊技制御手段に対し入賞玉が検出されたことを表わす入賞玉検出信号が送信され,その信号を受けた遊技制御手段は,その入賞玉に対して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に返信するように構成されていた。そしてその払出動作制御手段は,払出個数情報に従った個数だけの景品玉の払出を前記玉払出装置に行なわせる制御を行なう。
【0004】【発明が解決しようとする課題】 一方,この種の従来の弾球遊技機においては,前記遊技制御手段が弾球遊技機の遊技状態を制御するものであるために,たとえば賭博性の高い遊技動作が行なわれるように改造するべく前記遊技制御手段が不正改造される不都合があった。特に,前記遊技制御手段は,前記払出動作制御手段から入賞玉検出信号が入力されるため,その信号の入力ポートから不正なデータを入力して遊技制御手段を通常の正常な動作とは異なった動作をするように不正改造するおそれがあった。
【0005】 また,入賞玉が短期間のうちに大量に発生した場合には,前記入賞玉処理手段による入賞玉の処理動作速度を速めて迅速に入賞玉の処理を行ないたいというニーズもあった。
【0006】 本発明は,係る実情に鑑み考え出されたものであり,その目的は,前述した遊技制御手段の不正改造を極力防止するとともに,入賞玉の処理動作速度を速めることのできる弾球遊技機を提供することである。
【0007】【課題を解決するための手段】 請求項1に記載の本発明は,打玉を遊技領域に打込んで遊技が行なわれる弾球遊技機であって,弾球遊技機の遊技状態を制御する遊技制御手段と,前記遊技領域に設けられ,打玉が入賞可能な入賞領域と,該入賞領域に入賞した入賞玉に基づいて景品玉の払出動作を行なうために該入賞玉を処理する入賞玉処理装置と,玉を払出す玉払出装置と,該玉払出装置と前記入賞玉処理装置とを制御する払出動作制御手段とを含み,前記入賞玉処理装置は,前記入賞玉を保持する入賞玉保持手段と,該入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を検出してその検出出力を前記遊技制御手段に出力する入賞玉検出手段と,前記入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を排出する入賞玉排出手段とを含み,前記遊技制御手段は,前記入賞玉検出手段からの検出出力が入力されることを条件として,該入賞玉に対応して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に出力し,前記払出動作制御手段は,前記払出個数情報が入力されたことを条件として,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を前記玉払出装置から払出す制御を行なうとともに,該払出制御に伴う景品玉の払出の終了を待たずに前記入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開始する制御を行ない,前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段との間での情報通信は,前記遊技制御手段から,前記払出動作制御手段への一方向通信としたことを特徴とする。
【0062】 前記ROM207には,打玉がどの入賞領域に入賞したかに応じて払出すべき景品玉の数である賞球個数データが記憶されている。そして,入賞玉検出器122(図7参照。判決注・添付省略)が入賞玉を検出してその検出信号がスイッチ回路229を介して遊技制御用マイクロコンピュータ202に入力されてくれば,遊技制御用マイクロコンピュータ202は,打玉が入賞した入賞領域に対応する賞球個数データをROM207から読出して,信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)を介して払出制御用マイクロコンピュータ220に返信する。本実施例では,賞球個数信号は,図示するように4本の信号線からなる4ビットデータ(D0~D3)の形で払出制御用マイクロコンピュータ220に伝送される。
【0133】 前記入賞玉処理装置は,入賞玉を保持する入賞玉保持手段(第2玉係止部130)と,該入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を検出してその検出出力を前記遊技制御手段に出力する入賞玉検出手段(入賞玉検出器122)と,前記入賞玉保持手段により保持されている入賞玉を排出する入賞玉排出手段(ソレノイド127,第1玉係止部124)とを含んでいる。そして,前記遊技制御手段は,前記入賞玉検出手段からの検出出力が入力されたことを条件として,該入賞玉に対応して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を前記払出動作制御手段に出力する。また払出動作制御手段は,前記払出個数情報が入力されたことを条件として,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を前記玉払出装置から払出す制御を行なうとともに,該払出制御に伴う景品玉の払出の終了を待たずに前記入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開始する制御を行なう。また,前述したように,入賞玉の排出時期は景品玉払出開始と同時でなくてもよい。そして,前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段との間での情報通信は,前記遊技制御手段から,前記払出動作制御手段への一方向通信となっている。
【0136】【課題を解決するための手段の具体例の効果】 請求項1に関しては,入賞玉が発生した場合には,その入賞玉に対応して払出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報が遊技制御手段から払出動作制御手段に出力され,その払出動作制御手段がその入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を払出す制御を行うために,入賞玉に基づいた払出動作を行なうに際し,前記払出動作制御手段から前記遊技制御手段への情報の送信を何ら行なうことなく払出動作が可能となり,払出動作制御手段から遊技制御手段へ入力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を極力防止し得ることができる。しかも,景品玉の払出動作の終了を待たずに入賞玉の排出動作が開始されるために,入賞玉の処理を迅速に行なうことができる。
2 容易想到性の有無に関する判断
甲9には,パチンコ遊技機等の弾球遊技機に関し,従来の弾球遊技機においては,遊技制御手段は,払出動作制御手段から入賞玉検出信号が入力されるため,その信号の入力ポートから不正なデータを入力して遊技制御手段を通常の正常な動作とは異なった動作をするように不正改造するおそれがあるとともに,入賞玉が短期間のうちに大量に発生した場合には,入賞玉の処理動作速度を速めて迅速に入賞玉の処理を行なうとの技術課題が示されている(前記段落【0001】【0003】【0004】【0005】)。甲9記載の発明は,上記技術課題に基づいて,遊技制御手段の不正改造を極力防止するとともに,入賞玉の処理動作速度を速めることができる弾球遊技機を提供することを目的とした発明である(前記段落【0006】)。
甲9記載の発明は,遊技制御手段は,入賞玉検出手段からの検出出力が入力されることを条件として,該入賞玉に対応して払い出すべき景品玉の個数を特定する払出個数情報を払出動作制御手段に出力し,払出動作制御手段は,上記払出個数情報が入力されたことを条件として,その入力された払出個数情報に従った個数の景品玉を上記玉払出装置から払い出す制御を行うとともに,該払出制御に伴う景品玉の払出動作の終了を待たずに入賞玉排出手段による入賞玉の排出動作を開始する制御を行う発明である。甲9記載の発明は,上記遊技制御手段と上記払出動作制御手段との間の情報通信について,上記遊技制御手段から,上記払出動作制御手段への一方向通信とするとの構成を採用することにより,入賞玉に基づいた払出動作を行うに際し,上記払出動作制御手段から上記遊技制御手段への情報の送信を何ら行うことなく払出動作を可能とし,払出動作制御手段から遊技制御手段へ入力される情報の入力部を利用した不正なデータの入力による不正改造等を極力防止し得ることができる上,景品玉の払出動作の終了を待たずに入賞玉の排出動作を開始させるため,入賞玉の処理を迅速に行うことができるとの効果を奏するものといえる(前記段落【0007】【0133】【0136】)。
また,甲9には,その実施例において,「入賞玉検出器122・・・が入賞玉を検出してその検出信号がスイッチ回路229を介して遊技制御用マイクロコンピュータ202に入力されてくれば,遊技制御用マイクロコンピュータ202は,打玉が入賞した入賞領域に対応する賞球個数データをROM207から読出して,信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)を介して払出制御用マイクロコンピュータ202に返信する。」との技術が示されている(前記段落【0062】)。同実施例は,「前記遊技制御手段と前記払出動作制御手段への一方向通信とした」(前記段落【0007】)との構成の具体例として示されたものである。そうすると,上記信号回路209,217(ともにフォトカプラで構成されている)は,一方向通信を実現するための一要素であり,甲9添付の図12(別紙図面)によれば,信号回路209は遊技制御基板199に,信号回路217は払出制御回路基板152に,それぞれ設けられていることが認められる。
さらに,証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,フォトカプラは,一旦電気信号から変換した光信号を,一次側の発光素子から二次側の受光素子へ伝達する特性を備え,発光素子から受光素子に至る光信号の経路において,信号の一方向伝達特性が維持されるとの特徴を有することが認められる。
上記によれば,甲9の記載に接した当業者であれば,甲9のフォトカプラで構成された信号回路209,217について,メイン基板である遊技制御基板からのコマンドをサブ基板へ一方的に転送することのみを許可し,双方向通信を禁止する回路を認識,理解する。また,信号回路217は,払出制御回路基板152(サブ基板)に,信号回路209は,遊技制御基板199(メイン基板)に,それぞれ設けられているから,信号回路217は,サブ基板内に実装された「信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,前記遊技制御基板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段」(本件訂正発明1の構成(ε)参照)に相当し,「信号回路209」は,遊技制御基板(メイン基板)内に実装された「信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するために,前記サブ基板への信号の出力のみを可能とし,前記サブ基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手段」(本件訂正発明1の構成(ζ)参照)に相当することを,当業者は容易に認識し得るものと認められる。
3 原告の主張について
これに対し,原告は,甲9記載の発明は,入賞玉検出手段からの検出出力を払出動作制御手段に入力させることに代えて,直接遊技制御手段に入力させることによって,払出動作制御手段から遊技制御手段に信号が入力されることがないようにして,不正行為を防止する目的を達成する発明であり,甲9には,信号の伝達方向を遊技制御基板(メイン基板)からサブ基板への一方向に規制するため,遊技制御基板からの信号の入力のみを可能とし,遊技制御基板への信号の出力を不能とする信号伝達方向規制手段や,サブ基板への信号の出力のみを可能とし,サブ基板からの信号の入力を不能とする信号伝達方向規制手段は示されていない,また,甲9には,フォトカプラを不正行為防止のために使用することは記載も示唆もされていない,と主張する。
しかし,上記2のとおり,フォトカプラは,一旦電気信号から変換した光信号を,一次側の発光素子から二次側の受光素子へ伝達する特性を有し,入出力を電気的に絶縁し,入力側から出力側に一方向に信号を伝達するものと認められる。そして,甲9には,その実施例(前記段落【0062】,図12)として,遊技制御基板199と払出動作制御基板152との間の情報通信について,共にフォトカプラで構成されている信号回路209,217を経由する信号線のみが記載されており,当該信号線により伝送される賞球個数信号D0~D3は,遊技制御基板199から払出動作制御基板152への一方向通信を予定した信号であると認識,理解するのが合理的であり,信号回路209,217を双方向通信とする合理的な理由はないのみならず,そのような構成に関する記載も示唆もない。そうすると,甲9に,フォトカプラで信号回路209,217を構成要素とする技術が示されている以上,当業者であれば,甲9には,信号線(賞球個数信号D0~D3)それぞれについて,遊技制御基板側を入力側(発光素子側)とし,払出動作制御基板側を出力側(受光素子側)とする一方向通信の技術が示されていると認識,理解するものといえる。
以上のとおり,甲9記載の発明は,遊技制御手段から払出動作制御手段への一方向通信が,フォトカプラで構成された信号回路により実現され,入賞玉検出器の検出信号が遊技制御手段に入力されると,遊技制御手段は賞球個数データをフォトカプラで構成された信号回路を介して払出動作制御手段に伝送することにより,不正行為を防止する発明であると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
4 結論
したがって,審決には甲9に記載された事項の認定に誤りはなく,本件訂正発明1は,甲3発明に甲9記載の技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができたといえる。また,本件訂正発明2は,本件訂正発明1を引用して記載された発明であり,本件訂正発明3は,本件訂正発明2を引用して記載された発明であり,いずれも,甲3に記載された発明に甲9,10記載の技術事項及び周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たといえる。
原告主張の取消事由は理由がない。原告はその他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 知野明)
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