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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10105号 判決 2012年2月07日

原告

富士フイルム株式会社

訴訟代理人弁護士

吉田和彦

高石秀樹

奥村直樹

水沼淳

訴訟代理人弁理士

鈴木信彦

訴訟代理人弁護士

松野仁彦

被告

特許庁長官

指定代理人

佐藤匡

和田志郎

稲葉和生

田村正明

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2008-30275号事件について平成23年2月15日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,富士フイルムホールディングス株式会社(以下「訴外会社」という。)が名称を「画面表示部を有する機器の操作装置およびデジタルカメラ」とする発明につき特許出願をし,その後原告が出願人たる地位を訴外会社から承継したが,拒絶査定を受けたので,原告はこれに対する不服の審判請求をし,その中で,平成20年12月4日付けでも特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正(後記第2次補正,以下「本件補正」という。)をしたところ,特許庁が本件補正を却下した上,請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。

2  争点は,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が下記引用例との間で独立特許要件(進歩性,特許法29条2項)を有するか,である。

・ 引用例:特開平4-205137号公報(発明の名称「メニュー表示方式」,公開日 平成4年7月27日,甲1。以下,これに記載された発明を「引用発明」という。)

第3当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁における手続の経緯

訴外会社は,平成9年11月27日になされた原出願(特願9-325662号)からの分割出願として,平成18年8月21日,前記名称の発明について特許出願(特願2006-224270号,請求項の数6,公開特許公報は特開2007-52795号)をし,その後,訴外会社から出願人の地位を承継した原告が平成20年7月10日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする手続補正(第1次補正,請求項の数4,甲8)をしたが,同年10月28日付けで拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は,上記請求を不服2008-30275号事件として審理し,その中で原告は,平成20年12月4日付けで特許請求の範囲の変更を内容とする本件補正(第2次補正,請求項の数3。甲4)をしたが,特許庁は,平成23年2月15日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年2月25日原告に送達された。

(2)  発明の内容

ア 平成20年7月10日付けでなされた第1次補正時の請求項の数は前記のとおり4であるが,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の内容は,次のとおりである。

【請求項1】

少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部と,

前記画面表示部の前面に設けられたタッチパネルと,

前記タッチパネルが押された位置を検出する検出手段と,

前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,各エリア毎に操作ボタンの配置形態が予め定められ,前記検出手段が検出した押圧位置が前記複数のエリアのうち,何れのエリアに属するかを判別するエリア判別手段と,前記エリア判別手段で判別したエリアに対応した操作ボタンの配置形態で所定の操作ボタンを前記文字又は画像の情報と重ねて配置することにより前記画面表示部に表示させる操作ボタン表示処理手段と,

前記操作ボタン表示処理手段によって前記画面表示部に表示した操作ボタンがタッチパネルを介して押圧操作されると,その押された操作ボタンに応じた動作制御を行う制御部と,

を備えたことを特徴とする画面表示部を有する機器の操作装置。

イ 平成20年12月4日付けでなされた本件補正(第2次補正)時の請求項の数は前記のとおり3であるが,その請求項1に記載された発明(本願補正発明)の内容は,以下のとおりである(下線部分は補正箇所)。

【請求項1】

少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部と,

前記画面表示部の前面に設けられたタッチパネルと,

前記タッチパネルが押された位置を検出する検出手段と,

前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,各エリア毎に複数の操作ボタンの配置形態が予め定められ,前記検出手段が検出した押圧位置が前記複数のエリアのうち,何れのエリアに属するかを判別するエリア判別手段と,前記エリア判別手段で判別したエリアに対応した複数の操作ボタンの配置形態で所定の複数の操作ボタンを前記文字又は画像の情報と重ねて配置することにより前記画面表示部に表示させる操作ボタン表示処理手段と,

前記操作ボタン表示処理手段によって前記画面表示部に表示した複数の操作ボタンのいずれかがタッチパネルを介して押圧操作されると,その押された操作ボタンに応じた動作制御を行う制御部と,

を備えたことを特徴とする画面表示部を有する機器の操作装置。

(3)  審決の内容

ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,①本願補正発明は前記引用発明及び周知技術に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明することができたから独立して特許を受けることができないので本件補正は却下すべきものである,②本件補正前の本願発明も上記引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

イ なお,審決が認定した引用発明の内容,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,上記審決写しのとおりである。

(4)  審決の取消事由

しかしながら,独立特許要件がないとして本件補正を却下した審決には次のような誤りがあるから,審決は違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(一致点認定の誤り-その1)

審決は,「引用発明の『複数の機能を持つメニューを表示する表示画面51』は,本願補正発明の『少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部』と『少なくとも情報を表示する画面表示部』である点で共通する。」(審決6頁下3行~末行)として,引用発明における「複数の機能を持つ(メイン)メニュー」をもって,本願補正発明における「文字又は画像の情報」に一致すると認定している。

しかし,かかる審決の認定は,本願補正発明と引用発明の一致点の認定を誤ったものである。審決は,上記のとおり「少なくとも情報を表示する画面表示部である点で共通する」として,具体的構成を全く離れて上位概念レベルで両発明を対比しているが,実質的には,引用発明における「複数の機能を持つ(メイン)メニュー」をもって,本願補正発明における「文字又は画像の情報」に一致すると認定しているに等しい。仮に「複数の機能を持つ(メイン)メニュー」(引用発明)と「文字又は画像の情報」(本願補正発明)とが,審決のいうように「少なくとも情報を表示する画面表示部」という上位概念の限度でしか一致しないのであれば,本来,引用発明と本願補正発明との相違点を認定したうえで,相違点についての検討を行うべきである。

すなわち,本願補正発明の特許請求の範囲並びに本願明細書の段落【0002】,【0005】,【0006】及び【0017】の各記載によれば,本願補正発明における「文字又は画像の情報」とは,カメラにおける被写体や撮影画像等,「画面表示部」全体に表示されうる「情報」を意味するものであって,画面表示部上において特定の機能を有し何らかの動作制御を実行するための「操作ボタン」とは,特許請求の範囲の記載上,明確に区別されるものである。本願補正発明において,「文字又は画像の情報」は「操作ボタン」が表示される前に画面表示部に予め存在するものであり,「操作ボタン」はユーザーがタッチパネルを押圧することによってはじめて表示されるものである。

他方,引用発明における「メニュー」は,ある機能を実行し,情報処理装置の動作を制御するものであって,被写体や撮影画像等の情報そのものではない。これらは,むしろ,本願補正発明における「操作ボタン」に対応する概念であり,「文字又は画像の情報」に対応するものではない。また,引用発明では,メインメニューが何らかの操作を行う前から表示されているものであることは開示されていない。

また,審決は,相違点(2)として,「本願補正発明は,画面表示部が少なくとも文字又は画像の情報を表示するものであって,所定の複数の操作ボタンを,文字又は画像の情報と重ねて配置しているのに対して,引用発明は,表示画面51は,複数の機能を持つメニューを表示するものであって,階層化された副メニューを,文字又は画像の情報と重ねて表示していない点」を挙げている。

すなわち,審決は,引用発明の表示画面51は,「複数の機能を持つメニュー」以外の「文字又は画像の情報」を表示しないと認定していると読める。そうすると,審決は,引用発明において,本願補正発明の「文字又は画像の情報」に対応する部分は,「複数の機能を持つメニュー」以外にはないとの前提に立つものである。

以上のとおり,審決が引用発明の「メニュー」をもって「文字又は画像の情報」に相当するとの認定は,一致点の認定を誤ったものであることは明らかである。

イ 取消事由2(一致点認定の誤り-その2)

審決は,「引用発明は,表示画面を境界線52で上下二つの領域に分け」(審決7頁3行)と述べたうえで,引用発明における「表示画面」は,本願補正発明の「タッチパネルの領域」に一致するものと判断している(審決7頁3行~11行参照)が,かかる一致点の認定の判断には誤りがある。

すなわち,本願補正発明は,「前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,各エリア毎に複数の操作ボタンの配置形態が予め定められ,前記検出手段が検出した押圧位置が前記複数のエリアのうち,何れのエリアに属するかを判別するエリア判別手段」をその要件としている。

上記記載からすれば,本願補正発明は,「画面表示部の前面に設けられた」「タッチパネルの領域」全体がもれなく「エリア」へと分けられ,かつ,タッチされる「各エリア」に応じて,複数の操作ボタンが予め定められたとおりの配置形態で表示される構成を採用するものである。

これに対して,引用発明において,ユーザーが実際にペン型座標指示装置によって指示できる領域は,「表示画面」全体ではなく,「表示画面」中のごく一部である「メインメニュー」部分である。

そして,引用発明においては,ペンで指示できる場所(メニュー)と,「選択された機能55」がどちらにあるかが判定される「上下二つの領域」とは一致していないが,本願補正発明では,タッチできる「エリア」は,画面の全ての領域であり,このタッチできる「エリア」が,押圧位置が判別される「エリア」と同じである。

したがって,引用発明には,「前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,各エリア毎に複数の操作ボタンの配置形態が予め定められ」るという構成が存在しないにもかかわらず,審決はこれらの相違点を看過し,上記の点で本願補正発明と引用発明が一致すると認定したことは誤りである。

また,引用発明は,そもそも「座標指示装置」という機器を用いて「表示画面上に表示される操作メニューを指示する情報処理装置」における「メニュー表示方式に関する」ものであり,メインメニューの表示されている状態において,副メニューの表示位置をどの個所にもってくるかということに関する発明である。

これに対して,本願補正発明は,ユーザーが直接画面をタッチすることによって,はじめて機器の操作ボタンが表示される技術であり,引用発明とはその技術思想を異にする。

さらに,引用発明は,上記構成をとるものであるから,引用発明の表示画面中のメインメニューのみに反応するものであって,「画面表示部の表示画面の何処を押しても,その押圧位置に応じて操作ボタンが適正に配置される」(本願明細書の段落【0012】)という本願補正発明の重要な作用効果をもたらすこともない。

引用発明は,画面に,「メインメニュー」が既に表示された後に,そのうち一つの「機能」を押して,「副メニュー」を表示する際に,ユーザーの利き手を避けるように「副メニュー」を表示することに関する発明であり,画面のいかなる場所が押されても「複数の操作ボタン」を適切に表示することを目的とする本願補正発明とは,課題(目的)も構成も作用効果も異なる。

以上のとおり,審決は,このような両発明の本質的差異を無視して両発明の構成が一致すると認定したものであり,誤りである。

ウ 取消事由3(一致点認定の誤り-その3)

審決は,「引用発明の階層化された副メニューのプルダウン表示は,複数のメニュー項目一覧が選択された機能53から下に向かって表示され,プルアップ表示は,複数のメニュー項目一覧が選択された機能55から上に向かって表示されることは明らかであるから,本願補正発明の『複数の操作ボタンの配置形態』と『複数の操作領域の配置形態』である点で共通する。」(審決7頁17行~21行)として,本願補正発明と引用発明の一致点とを認定している。

しかし,かかる一致点の認定は,本願補正発明における「複数の操作ボタンの配置形態」の意義を誤ったものであり,審決にはかかる点でも一致点の認定誤りの違法が存在する。

すなわち,本願補正発明における「複数の操作ボタンの配置形態」とは,文字通り「複数の操作ボタン」の配置の形態,すなわち「かたち」を意味するものであって,単に,ボタンの位置を上下方向にずらす場合(たとえば複数ボタンについてその位置関係をそのままに上下方向へとずらすにすぎない場合など)は,「複数の・・・配置形態」を備えるものではない。

このことは,甲5(「広辞苑第4版」791頁~792頁」)によれば,「形態」という用語が,「ありさま。かたちに現れた姿。形式」という意義を通常有するものであることや,本件特許請求の範囲があえて「配置」の「位置」ではなく「形態」という用語を用いていることに鑑みても理解されるとおりである。

また,本願補正発明では,このような複数の操作ボタンの「配置形態」が「各エリア毎に」種々存在することは,「各エリア毎に複数の操作ボタンの配置形態が予め定められ」という特許請求の範囲の規定から明らかである。

本願明細書(本願公開特許公報,甲3)の実施例は,以下のとおり,「複数の操作ボタンの配置形態」の例として具体的に4例をあげ,「操作ボタンの配置形態」が上記のような意義すなわちボタンの配置の「かたち」を意味することを裏付けている。

上記実施例で示されるとおり,本願明細書において,配置形態として示されているのは,本願明細書図6の4種類の複数のボタンの配置形態であって,いずれも,単に同一パターンのボタンの位置をその位置関係はそのままに上下にずらすだけのものとは異なっている。

これに対して,引用発明は,単一の「副メニュー」を「メインメニュー」に対してプルダウン表示又はプルアップ表示する構成を有するものである。かかる構成は,メインメニューに対する副メニューの表示位置を上下にずらす(シフトする)ものにすぎず,副メニューのかたち自体は異ならない。引用発明におけるプルダウン表示及びプルアップ表示は,かたち自体が異なるのではなく,「副メニュー」という同一のかたちの「位置」をそのまま上下へとずらすものにすぎない。

上記のとおり,引用発明では,単一の「副メニューの」配置形態自体としては,選択された機能が境界線の上にある場合も下にある場合も同一のかたちが開示されているにすぎず,ボタン配置はそのままに位置が上下していることが開示されているにすぎない。これに対して,本願補正発明は,複数の操作ボタンの「配置形態」が種々存在する(「各エリア毎に複数の操作ボタンの配置形態が予め定められ」る)ことをその構成とするから,引用発明は,「操作ボタンの配置形態」に相当する構成を開示したものではない。

したがって,引用発明は,「配置形態」を開示したものではなく,審決は一致点の認定を誤ったものである。

引用発明は,画面に,メインの「複数の操作ボタン」(本願補正発明の用語を用いる。)が表示された後に,そのうちの一つの「操作ボタン」を押して,単一の「副メニュー」を表示する際に,利き手を避けるように単一の「副メニュー」を表示することに関する発明であり,画面のいかなる場所を押しても「複数の操作ボタン」を適切に表示することを目的とする本願補正発明とは,課題(目的)も構成も作用効果も異なる。

エ 取消事由4(相違点(2)に関する判断の誤り)

取消事由1において論じたとおり,引用発明における「メインメニュー」は本願補正発明における「文字又は画像の情報」に相当するものではないが,仮に,引用発明における「メインメニュー」が本願補正発明における「文字又は画像の情報」に当たるとしても,審決の判断には以下のとおり誤りがある。

すなわち,審決は,「本願補正発明は,画面表示部が少なくとも文字又は画像の情報を表示するものであって,所定の複数の操作ボタンを,文字又は画像の情報と重ねて配置しているのに対して,引用発明は,表示画面51は,複数の機能を持つメニューを表示するものであって,階層化された副メニューを,文字又は画像の情報と重ねて配置して表示していない点」(審決9頁8行~12行)を本願補正発明と引用発明との相違点(2)として認定しつつ,かかる相違点について,「メニューを,文字又は画像の情報と重ねて配置して表示する」という「周知技術を引用発明に適用して,表示画面に少なくとも文字又は画像の情報を表示するようにし,階層化された副メニューを,文字又は画像の情報と重ねて配置することは,当業者が容易になし得ること」(審決9頁下2行~10頁5行)と判断している。

しかし,本願出願当時の当業者が引用発明に対してこのような周知技術を適用することはあり得ないから,審決のかかる判断は誤ったものである。

すなわち,引用発明は,「メインメニュー」が「ペン型座標指示装置」で「指示された」場合,「副メニュー」は当該「メニュー」には重ならない位置に表示するという構成を有するものである。

これに対して,引用例中には,メインメニューと副メニューとが重なってもよいことを示唆するような記載は一切存しない。

仮に,引用発明が,メインメニューと副メニューとの重なりを許容しているなら,引用例(甲1)の記載部分(2頁右下欄16行~17行)は,「階層メニューの表示を展開すること」という表現にはならないはずであるし,また,メインメニューと副メニューが重なれば,「表示内容が隠れ,操作しにくい」ものとなって,引用発明が解決しようとする課題に反することとなる。

また,一般的に,表示画面を有する情報処理装置において,メインメニューの一部を指示した際に,副メニューが,メインメニューの横に,メインメニューと重なることなく表示されるのは,副メニューがメインメニューを隠すべきではないという技術常識に鑑みても当然である。

以上のとおりであるから,引用発明において,副メニューをメインメニューに重ねて表示することは,本願出願当時の当業者にとって阻害要因となり,当業者が本願補正発明の構成に至ることはありえない。

オ 取消事由5(一致点認定の誤り-その4)

審決は,引用発明の「選択された機能53が境界線52より上部にある場合には副メニュー54をプルダウン表示し,選択された機能55が境界線51より下部にある場合には副メニュー56をプルアップ表示する座標制御装置8」と,本願補正発明の「前記エリア判別手段で判別したエリアに対応した複数の操作ボタンの配置形態で所定の複数の操作ボタンを前記文字または画像の情報と重ねて配置することにより前記画面表示部に表示させる操作ボタン表示処理手段」とが,「前記エリア判別手段で判別したエリアに対応した複数の操作領域の配置形態で所定の複数の操作領域を配置することにより前記画面表示部に表示させる操作領域表示処理手段」である点で共通すると述べる(審決5頁下4行~6頁11行)。

これは,引用発明における「座標制御装置」をもって,本願補正発明における「操作ボタン表示処理手段」に一致すると認定したものである。

しかしながら,本願補正発明における「操作ボタン表示処理手段」は「タッチパネルの領域」の何処を押圧しても「複数の操作ボタン」を表示するのに対して,引用発明における「座標制御装置」は「表示画面」中のごく一部である「メインメニュー」部分を指示した場合に限って副メニューを表示する点で重大な違いがある。

仮に,本願補正発明において,「タッチパネルの領域」の何処を押圧しても「複数の操作ボタン」を表示する,という点が構成要件となっていなかったとしても,引用発明においては,「タッチパネルの領域」に相当する表示画面を押圧した場合,90%以上の確率で,「複数の操作ボタン」に相当するとされる副メニューが表示されないのであるから,「タッチパネルの領域」が「押された」又は「押圧」された場合において,「複数の操作ボタン」が「表示」されるとはいえない。

それにもかかわらず,「操作ボタン表示処理手段」をもって「座標制御装置」と一致すると判断した審決の上記判断は重大な誤りである。

引用発明においては,表示画面51のほとんどの部分(メインメニュー以外の部分)において押圧しても,「座標制御装置」が,(本願補正発明にいう「操作ボタン」に相当する)副メニューを「配置」したり「表示」することはないから,引用発明の「座標制御装置8」は,本願補正発明にいう「操作領域表示処理手段」と一致しない。

かかる審決の認定は,本願補正発明の重要な技術的特徴に関し,本願補正発明と引用発明の一致点の認定を誤ったものであり,重大な誤りである。

2  請求原因に対する認否

請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。

3  被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1)  取消事由1に対し

原告は,審決が,引用発明における「複数の機能を持つ(メイン)メニュー」を,本願補正発明における「少なくとも文字又は画像の情報」に一致すると認定したことは誤りであると主張している。

確かに,審決には,「引用発明の『複数の機能を持つメニューを表示する表示画面51』は,本願補正発明の『少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部』と『少なくとも情報を表示する画面表示部』である点で共通する。」との記載がある。

しかし,これは,引用発明の「複数の機能を持つメニュー」が本願補正発明の「文字又は画像の情報」に一致すると認定したものではない。原告は,「上位概念レベルで両発明を対比しているが,実質的には,引用発明における『複数の機能を持つ(メイン)メニュー』をもって,本願補正発明における『文字又は画像の情報』に一致すると認定しているに等しい」と主張するが,審決は,引用発明の「表示画面51」と本願補正発明の「画面表示部」の機能の対比において,引用発明の「複数の機能を持つメニューを表示する表示画面51」と本願補正発明の「文字又は画像の情報を表示する画面表示部」がいずれも,「少なくとも情報を表示する画面表示部」である点で共通すると述べたにすぎない。

したがって,審決の認定に誤りはなく,原告の主張は審決を正解しないものであって失当である。

(2)  取消事由2に対し

ア 原告は,引用発明には,「前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,各エリア毎に複数の操作ボタンの配置形態が予め定められ」るという構成が存在しないにもかかわらず,審決はこれらの相違点を看過し,上記の点で本願補正発明と引用発明が一致すると認定したことは誤りである旨主張する。

しかし,引用例(甲1)の記載によれば,引用発明は,表示画面51を境界線52で上下二つの領域に分けるものであると認められる。したがって,引用発明には,「前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分される」構成が存在しているといえる。

よって,審決が,引用発明として「前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分される」と認定したことに誤りはない。

また,審決では,相違点(1)として,本願補正発明の複数の操作領域が「複数の操作ボタン」である点,及びエリア毎に配置形態が予め定められている点で引用発明と相違することを挙げ,その容易想到性を検討している。

したがって,審決が,相違点を看過し,本願補正発明と引用発明が一致すると認定した旨の原告の主張は審決を正解しないものである。

イ 原告は,審決の判断の誤りの根拠として,本願補正発明は,タッチパネルの領域全体が「もれなく」エリアへと分けられるものである旨を主張している。

しかし,本願補正発明の請求項にはエリアを「もれなく」分けることは記載がないから,原告の主張は本願補正発明の請求項の記載に基づくものではない。

なお,万一,本願補正発明がタッチパネルの領域全体を「もれなく」エリアに分けるものであると限定的に解釈できたとしても,引用発明のものも,表示画面51を境界線52によって上下二つの領域に「もれなく」分ける点で本願補正発明と相違しない。

ウ 原告は,本願補正発明の作用効果として,「画面表示部の表示画面の何処を押しても,その押圧位置に応じて操作ボタンが適正に配置される」旨を主張する。

しかし,「何処を押しても」の点は本願補正発明の請求項には記載がないこと,本願明細書(甲3)の段落【0017】~【0018】には,原告の主張する効果の記載がないことから,原告の主張は本願補正発明の請求項の記載に基づくものではない。

エ 原告が,引用発明においては,ユーザーがペン型座標指示装置で指示できる場所は,表示画面51全体ではなく,表示画面の中でも,特定の限られた領域である「メニュー」部分にすぎず,この点において本願補正発明と相違すると主張する。

しかし,本願補正発明の請求項には,タッチパネルの全ての領域を押圧するとも,特定の限られた領域を押圧するとも記載されておらず,原告の主張は請求項の記載に基づくものではない。

また,原告は,本願補正発明は,ユーザーが直接画面をタッチすることによって,「はじめて」機器の操作ボタンが表示される技術である点で引用発明とは相違する旨主張する。

しかし,上記主張は,本願補正発明の請求項の記載及び明細書の記載に基づくものではないから,失当である。

オ 原告は,引用発明はユーザの利き手を避けるようにする発明である点で,本願補正発明とは課題・構成・作用効果が異なると主張する。

しかし,本願補正発明においても明細書(甲3)の段落【0028】に利き手に関する記載があるのであって,そもそもその点は本質的な差異であるとはいえないから,原告の上記主張は失当である。

(3)  取消事由3に対し

ア 原告は,本願補正発明の用語「配置形態」の解釈として,用語「形態」の辞書的な意義が「ありさま。かたちに現れた姿。形式」であることを根拠に,「複数の操作ボタンの配置形態」が「複数の操作ボタンの」配置の形態,すなわち「かたち」を意味する旨を主張する。

しかし,この定義(広辞苑第四版第一刷,甲5)によれば,「形態」という用語は「かたち」だけを指すものではなく,「ありさま」や「形式」を指す用語でもあるから,原告の「複数の操作ボタンの配置形態」を「複数の操作ボタンの配置」の「かたち」に限定する旨の上記主張は,原告の引用する辞書の定義からしても,失当である。

そして,本願補正発明の構成を参照しても,ボタンの位置を上下方向にずらすものを含まないと解すべき構成はない。むしろ,上記のとおり,「配置形態」には,「配置」の「ありさま」も含むと理解できることからは,引用発明の複数のボタンをプルアップ/プルダウン表示する態様も「複数の操作ボタンの配置形態」の一態様として含まれるものと解するのが自然である。

なお,広辞苑第四版(第五刷,乙2)によれば,「かたち」という言葉の意味は,「感覚,特に視覚・触覚でとらえ得る,ものの有様(ただし色は除外)。」と記載されている。また,「ありさま」という言葉の意味については,「物事のようす。状態。」と記載されている。つまり,辞書的な意味が循環的(トートロジー的)であることからは,本願補正発明の「エリアに対応した複数の操作ボタンの配置形態」とは,複数の操作ボタンを配置するにあたり,視覚などでとらえ得る複数の操作ボタンの状態が,エリアに対応して異なる配置をとるものを広く指すものと解するのが自然である。

したがって,仮に「形態」という用語を原告主張のとおり「かたち」のみを指すと理解できたとしても,原告の主張は失当である。

イ また,本願明細書(甲3)を参照しても,段落【0012】には,「画面表示部の表示画面を複数のエリアに区切り,各エリア毎に操作ボタンを表示する際のボタン配置パターン(配置形態)を定めている。」と配置形態が配置パターンの意味であることが記載され,段落【0025】には,「次に,操作ボタンの表示形態の例について説明する。図6は,カメラを把持した際に指が表示部10に接触する領域と,操作ボタンの配置形態との対応関係を示す図表である。」と記載され,図6は表示形態の例にすぎず,「配置形態」を「配置」の「かたち」であると限定的に解釈すべき記載はない。

ウ さらに,本願明細書(甲3)の段落【0025】及び【0026】の記載並びに図6の実施例1の記載から,本願補正発明は,タッチ判断領域36(押圧位置)を基準として,表示することができないボタンの表示する位置を変えるという技術思想を有するものであると理解できる。

一方,引用発明は,押圧位置に対して,複数の副メニュー項目をプルアップ/プルダウン表示するものであって,例えば,画面上側のメニューに対して,画面の範囲の制約でプルアップ表示できない場合があることは自明であって,押圧位置が画面上側の領域であれば,副メニューが上側に表示できない可能性を考慮して,プルダウン表示をし,押圧位置が画面下側の領域であれば,プルアップ表示をするものであり,押圧位置を基準として,表示する複数のボタンの位置を変えるという技術思想において異なるものではない。

エ 以上のとおり,審決の一致点の認定は,本願補正発明における「複数の操作ボタンの配置形態」の意義を誤ったものとはいえず,本願補正発明と引用発明とが,複数の操作領域の配置形態である点で一致すると認定した審決に判断の誤りはない。

(4)  取消事由4に対し

この点に関する原告の主張は,取消事由1と同じく,審決が,引用発明における「複数の機能を持つ(メイン)メニュー」が本願補正発明の「文字又は画像の情報」に相当すると判断していることを前提としている。

しかし,前記のとおり,審決は,引用発明の「表示画面に表示された何らかの情報」が本願補正発明の「文字又は画像の情報」に相当すると判断したものであり,引用発明における「複数の機能を持つ(メイン)メニュー」が本願補正発明の「文字又は画像の情報」に相当すると判断したものではないから,このような前提に基づく原告の上記主張はいずれも審決を正解しないもので失当である。

したがって,引用発明に,メニューを文字又は画像の情報と重ねて配置して表示する周知技術を適用して,引用発明の表示画面に少なくとも文字又は画像の情報を表示するようにし,階層化された副メニューを,文字又は画像の情報と重ねて配置することは,当業者が容易になし得ることであると判断した審決の判断に誤りはない。

(5)  取消事由5に対し

この点に関する原告の主張は,取消事由2における主張と同様のものであるから,前記(2)で反論したとおりである。

なお,本願補正発明が,画面表示部の表示画面の「何処を押しても」操作ボタンを表示する点については請求項の記載に基づく主張ではないが,仮に,本願補正発明の請求項に,全ての領域を押圧するものであるという限定がなされた場合であっても,引用発明においても,メニューの機能の選択位置はメニューの大きさ,階層,初期設定などの具合によって変化するから,表示画面の全ての領域にメニューが配置されて押圧される可能性があることは明らかである。

したがって,本願補正発明と引用発明とはこの点においても何ら相違するものではなく,原告の上記主張は失当である。

第4当裁判所の判断

1  請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2  本願補正発明の容易想到性(独立特許要件)の有無

審決は,本願補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

(1)  本願補正発明の意義

ア 本願補正明細書(特許請求の範囲については平成20年12月4日付け手続補正書のもの〔甲4〕,その他の記載及び図面については出願当初明細書のもの〔甲3〕)には,次の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

【請求項1】 前記第3,1(2)イのとおり。

(イ) 発明の詳細な説明

・ 【技術分野】

「本発明は画面表示部を有する機器の操作装置に係り,特にデジタルカメラ等に適用され表示部に設けられたタッチパネルを介して所望の操作を行う装置に関する。」(段落【0001】)

・ 【背景技術】

「従来のデジタルカメラは,筐体にレリーズボタンやズームレバー等の操作部を有し,この操作部を操作することでカメラを動作させることができる。また,カメラの背面等に液晶表示器等の表示部が設けられ,該表示部に撮影画像を表示することができるものも広く知られている。このように,従来のデジタルカメラは,操作部と表示部とが分かれているものである。しかし,カメラの小型化及び表示部の大型化を図る上で操作部の構成が問題となっている。」(段落【0002】)

・ 「一方,テレビジョンカメラの分野では,カメラ画像を表示するモニタ画面の前面にタッチパネルを設け,タッチパネルのタッチ操作によってテレビカメラを制御するシステムが提案されている(特許文献1)。また,特許文献2には,カメラ付きドアホンのカメラが捕らえた映像を映し出す画像表示装置の表示部の前面に透過型パネル入力装置(タッチパネルに相当)を配置し,画面表示されている操作キーをタッチすることで機器を制御するホームコントロールシステムの表示操作装置が開示されている。」(段落【0003】)

・ 「その他,ビデオカメラで撮影した映像を表示する表示装置にビデオカメラの操作項目を重ねて表示するとともに画像表示部にタッチパネルを設け,操作項目を指で触ってビデオカメラを操作する方法も提案されている(特許文献3)。

【特許文献1】 特開平6-121219号公報

【特許文献2】 特開平7-212857号公報

【特許文献3】 特開平9-116792号公報」(段落【0004】)

・ 【発明が解決しようとする課題】

「しかしながら,上記各公報に記載された技術を転用してデジタルカメラの表示部にタッチパネルを設けて画面タッチによるカメラ操作を実現しようとしても,以下のようなデジタルカメラ特有の課題があり,上記各公報に記載の技術を単純にデジタルカメラに適用することはできないという問題がある。」(段落【0005】)

・ 「即ち,表示部に操作部(操作項目)を表示すると,必然的に被写体の画像が小さく表示されてしまうという欠点がある。また,デジタルカメラでは,撮影者がカメラのボディを把持するため,必ず表示部(画面)を握らなければならない。従って,その把持部分に操作キーや操作項目を設けることが困難であり,該把持部分をどうやって避けるのかという工夫も必要になる。特に,カメラの握り方には人によって異なる上,手の大きさも違うので,全ての人が操作し易いタッチ式操作パネルを提供することは困難である。」(段落【0006】)

・ 「本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので,画面表示部を有する機器において全ての人が操作し易い操作装置を提供することを目的とし,特に,カメラの小型化及び表示部の大型化を図ることができるデジタルカメラを提供することを目的とする。」(段落【0007】)

・ 【課題を解決するための手段】

「本発明は,前記目的を達成する為に,少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部と,前記画面表示部の前面に設けられたタッチパネルと,前記タッチパネルの押された位置を検出する検出手段と,前記検出手段が検出した押圧位置を基準として,その押圧位置の周囲に所定の操作ボタンを前記文字又は画像の情報と重ねて前記画面表示部に表示させる操作ボタン表示処理手段と,前記操作ボタン表示処理手段によって前記画面表示部に表示した操作ボタンがタッチパネルを介して押圧操作されると,その押された操作ボタンに応じた動作制御を行う制御部と,を備えたことを特徴としている。」(段落【0008】)

・ 「本発明によれば,画面表示部に触れると,その触れた位置(押圧位置)がタッチパネル及び検出手段を介して検出される。そして,検出した押圧位置を基準として,その周囲に所定の操作ボタンが画面上に文字や画像の情報と共に重ね表示される。こうして表示された操作ボタンをタッチパネルを介して押圧操作すると,その押された操作ボタンに定義付けられている動作が実行される。」(段落【0009】)

・ 「これにより,操作者が任意に画面表示部に触れた位置の近くに操作ボタンを表示することができ,全ての操作者にとって操作が容易なものとなる。また,前記操作ボタンは文字や画像等の情報に重ねて表示するようにしたので,文字や画像等の情報が小さく表示されることもなく,必要な画像等の情報と操作ボタンとが共に見やすく画面上に同時表示される。」(段落【0010】)

・ 「また,画面表示部が押された位置(押圧位置)を基準に所定の操作ボタンを表示するに際し,押圧位置に応じて操作ボタンを表示することができる画面上の表示エリアが限定されることに着眼し,本発明は更に,前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,各エリア毎に操作ボタンの配置形態が予め定められ,前記検出手段が検出した押圧位置が前記複数のエリアのうち,何れのエリアに属するかを判別するエリア判別手段と,前記エリア判別手段で判別したエリアに対応した操作ボタンの配置形態で操作ボタンを表示させる配置形態変更手段と,を備えたことを特徴としている。」(段落【0011】)

・ 「かかる構成によれば,画面表示部の表示画面を複数のエリアに区切り,各エリア毎に操作ボタンを表示する際のボタン配置パターン(配置形態)を定めている。そして,画面表示部が押された際にその押圧位置がどのエリアに属しているかをエリア判別手段で判別し,属するエリアに応じた配置形態に変更するようになっている。これにより,画面表示部の表示画面の何処を押しても,その押圧位置に応じて操作ボタンが適正に配置される。」(段落【0012】)

・ 「本発明によれば,デジタルカメラを把持した際に画面表示部に触れると,その触れた位置(押圧位置)がタッチパネル及び検出手段を介して検出される。そして,検出した押圧位置を基準として,その周囲に所定の操作ボタンが画面上に映像と重ねて表示される。以後,その操作ボタンをタッチパネルを介して押圧操作すると,その押された操作ボタンに定義付けられているカメラの各種動作が実行される。」(段落【0015】)

・ 「これにより,撮影者が任意に画面表示部に触れた位置の近くに操作ボタンを表示することができ,全ての撮影者にとってカメラ操作が容易なものとなる。また,画面表示部とカメラの操作部とを一体化することが可能になり,カメラの小型化を図ることができる。」(段落【0016】)

・ 【発明の効果】

「以上説明したように本発明に係る画面表示部を有する機器の操作装置によれば,画面表示部にタッチパネルを設け,画面表示部を押圧した位置を検出してその押圧位置の周囲に操作ボタンを表示するようにしたので,操作者は最初に押圧した位置から所望の操作をスムーズに行うことができ,操作が容易になる。また,前記操作ボタンは文字や画像等の情報に重ねて表示するようにしたので,文字や画像等の情報が小さく表示されることもなく,必要な画像等の情報と操作ボタンとが共に見やすく画面上に同時表示されるという利点がある。」(段落【0017】)

・ 【発明を実施するための最良の形態】

「図4に示したように,このデジタルカメラ1を右手26で把持しようとすると,通常の場合,親指27が表示部10に触れることになる。カメラの握り方や手の大きさは人によって異なることから,本実施の形態では,図5に示したように,表示部10を触った場所を判別し,その場所の周囲に,シャッターボタン30,ズームアップボタン(TELEボタン)32及びズームダウンボタン(WIDE ボタン)34等の操作ボタンを撮影画像に重ね表示(オーバーレイ表示)する。」(段落【0024】)

・ 【図4】(デジタルカメラを把持した様子を示す図)

file_2.jpg・ 【図5】(操作ボタンの表示例を示す図)

file_3.jpg・ 「次に,操作ボタンの表示形態の例について説明する。図6は,カメラを把持した際に指が表示部10に接触する領域と,操作ボタンの配置形態との対応関係を示す図表である。

同図に示したように表示部10の画面は4つのエリアに区分され,各エリアに対応して操作ボタンの配置形態が定められている。即ち,表示部10の中央右側の場所1のエリア10Aに触れた場合は,最初に押されたと判断した領域(タッチ判断領域)36を基準として,その左横にフォーカシング及び測光のスタートを指示するS1ボタン30Aと,該S1ボタンの内側に撮影実行を指示するS2ボタン(シャッターレリーズボタン)30Bとを配置する。そして,タッチ判断領域36の上側にズームアップボタン32,下側にズームダウンボタン34を配置する(図6第1欄)。」(段落【0025】)

・ 【図6】(デジタルカメラを把持した際に指が触れる領域と操作ボタンの配置形態との関係を示す図表)

file_4.jpgae BREK ER ORR ERE Lad 30 (32 son {308 (36 24 ERI SG i 303 [i] 34 a0 ZEB \iop real Iie 0 10D・ 「画面表示部10の上方や下方といった縁部を触った場合には,ズームアップボタン32とズームダウンボタン34とを上下に分けて表示出来ない場合も起こりうるので,同図第2欄に示したように,表示部10の上側の場所2のエリア10Bに触れた場合は,タッチ判断領域36を基準として,その左横にS1,S2ボタン30A,30Bを配置し,タッチ判断領域36の下側にズームアップボタン32とズームダウンボタン34とを並べて配置する。」(段落【0026】)

・ 「また,同図第3欄に示したように,表示部10の下側の場所3のエリア10Cに触れた場合は,タッチ判断領域36を基準として,左横にS1,S2ボタン30A,30Bを配置し,タッチ判断領域36の上側にズームアップボタン32とズームダウンボタン34とを並べて配置する。通常は,上記三形態で足りると思われるが,更に,画面表示部10の左端を触った場合には,S1,S2ボタン30A,30Bをタッチ判断領域36の左側に配置できない場合が起こり得るので,同図第4欄に示したように表示部10の左側の場所4のエリア10Dに触れた場合は,タッチ判断領域36を基準として,その右横にS1,S2ボタン30A,30Bを配置し,タッチ判断領域36の上側にズームアップボタン32,下側にズームダウンボタン34を配置するようにしてもよい。」(段落【0027】)

・ 「図6に示した操作ボタンの配置形態は,カメラのグリップ部4を右手で把持する場合を想定しているが,左手で把持・操作する利用態様も考えられ,左手で操作し易いようなボタン配置を設定してもよい。また,右手/左手の何れでも操作できるように,右手で把持されたか,左手で把持されたかを検出する手段を設け,把持された側の手で操作し易いようなボタン配置形態に切り換えるようにすることも可能である。」(段落【0028】)

イ 上記記載によると,本願補正発明は,画面表示部を有する機器の操作装置に係り,特にデジタルカメラ等に適用され表示部に設けられたタッチパネルを介して所望の操作を行う装置に関し,従来の技術では,表示部に操作部(操作項目)を表示すると,必然的に被写体の画像が小さく表示されてしまうという欠点があり,また,デジタルカメラでは撮影者がカメラのボディを把持するため,必ず表示部(画面)を握らなければならないため,その把持部分に操作キーや操作項目を設けることが困難であり,該把持部分をどうやって避けるのかという工夫も必要であったところ,そのような課題を解決し,画面表示部を有する機器において全ての人が操作しやすい操作装置を提供することを目的として,少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部と,前記画面表示部の前面に設けられたタッチパネルと,前記タッチパネルの押された位置を検出する検出手段と,前記検出手段が検出した押圧位置を基準として,その押圧位置の周囲に所定の操作ボタンを前記文字又は画像の情報と重ねて前記画面表示部に表示させる操作ボタン表示処理手段と,前記操作ボタン表示処理手段によって前記画面表示部に表示した操作ボタンがタッチパネルを介して押圧操作されると,その押された操作ボタンに応じた動作制御を行う制御部とを備えたことを特徴とする発明である,と認めることができる。

(2)  引用発明の意義

ア 一方,引用例(甲1)には,次の記載がある。

(ア) 産業上の利用分野

「本発明は,表示装置と座標読み取り装置を一体化し,座標指示装置で直接表示画面上に表示される操作メニューを指示する情報処理装置におけるメニュー表示方式に関する。」(2頁左上欄11行~15行)

・ 発明が解決しようとする課題「以上述べたように,この種の情報機器では,操作者の手,あるいは,座標指示装置によって,メニューの表示内容が隠れ,操作しにくいという問題点がある。

又,操作者の利き手が異なる場合について考慮していないという問題点もある。

本発明の目的は,画面上で,直接,座標指示する座標指示装置を用い,メニュー上の機能選択作業を行う情報処理装置において,利き手が左右いずれの場合であっても,手,あるいは座標指示装置で作業に支障を来さないメニュー表示方式を提供することにある。」(2頁右下欄2行~14行)

(イ) 実施例

・ 「以下,本発明の実施例を図を用いて詳細に説明する。

第1図は,本発明の第一の実施例を示す概略ブロック図である。ペン型座標指示装置2で指示された座標データを座標読み取り装置1で読みとる。

座標読み取り装置1の座標読み取り方式は,電磁誘導方式が一般に良く知られている。座標読み取り装置1から得られた座標データ3は,利き手判別装置4の出力である利き手データ5と共に,表示メモリ9を備えた座標制御装置8に転送される。この座標制御装置8は利き手データ5を元にして,中央演算処理装置11からバス10を通して転送されてくる表示データを利き手に合わせた画面になるように変換し,変換後の表示データ7を一時,表示メモリ9に記憶し,表示装置6に転送する。表示画面の変更にともなう座標読み取り領域の変更は,座標制御装置8で表示データを変換した方法と逆の方法で,座標データを変換し,変換後の座標データとしてバス10を通して中央演算処理装置11に転送される。第3図は,本発明の第一の実施例のおける座標制御装置8の概略ブロック図を示したものである。この座標制御装置8は,座標制御部21とメニューのx軸方向の幅(dx)22とメニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)23を記憶するメモリと表示データを記憶する表示メモリ9で構成される。ここで,メニューのx軸方向の大きさ(dx)22は,一定値とする。又,(x0,y0)は,表示可能範囲の最小値,(xmax,ymax)は,最大値,ykは,画面を上下に分割する境界線のy座標を示す。座標制御部21には,メニューのy軸方向の大きさを示す(dy)24と表示開始位置データ(xn,yn)25と座標変換を行うがどうかを指示する変換指示データ26が,中央演算処理装置からバス10を介して入力され,利き手判別装置4からは,利き手データ5が入力される。利き手データ5が右手の場合は,表示展開する副メニューは,既に表示しているメニューの左側に表示するようにし,利き手データ5が左手の場合は,既に表示しているメニューの右側に表示するようにする。変換方法は,後述する方法を用いる。更に,座標制御部21は,メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)23とメニューの表示開始点,表示終了点を比較し,表示範囲内に表示できない場合には,メニューの表示が表示可能範囲内に納まるように,表示開始位置を上下左右にずらして表示する。

メニューとそれ以外の表示データのように変換の必要な表示データと変換の不要な表示データの区別は,例えば,中央演算処理装置11がメニュー等の表示データを転送するときに転送の前後,あるいは転送中にメニュー表示データであることを表す変換指示データ26を座標制御部21に出すことによって可能である。」(3頁右上欄2行~同頁右下欄16行)

・ 【第1図】(本発明における第一実施例のブロック図)

file_5.jpg"fie \ Roane Goan) 2b Bigs -93 bs RIMGAERF-IT . A #23・ 【第3図】(上記実施例の座標制御装置の説明図)

file_6.jpgmkama a BRT-77 % llores BIZFT-75 z ee locsotean seasivell 9 EIRENE 8(ウ) 「第4図は,本発明の第一の実施例におけるメニュー表示画面の一例である。図中の表示画面31は,左上方を原点とし,横軸をx軸,縦軸をy軸とする。x軸は,原点から右側を正とする。y軸は,原点から下側を正とする。表示画面31に初めに五つの機能を持つ,大きさ(dxl,dyl)メニュー32が,表示開始座標を(xl,yl)とする位置に表示される。操作者が五つの機能の中から機能3を選択すると,y軸方向の大きさ(dy2)の副メニューの表示開始座標(x2,y2)が決まる。この時の副メニューは,左上を表示開始点,右下を表示終了点とする。座標制御装置8は,メニューのx軸方向の幅dxlの値をメモリに記憶してあり,利き手データ5から利き手を判断し,副メニューの展開方向を決める。この時,利き手データ5が左手の場合には座標制御装置8は,表示開始座標を(x2,y2)とし,表示終了点は表示開始座標(x2,y2)に副メニューの大きさ(dxl,dx2)を加えた点とする。よって,右に展開する副メニュー33は,(x2,y2)と(x2+dx1,y2+dy2)を対角座標とする四角形の中に表示される。また,利き手データ5が右手の場合,副メニューの表示開始座標(x2,y2)は,座標制御装置8により先のメニューの幅dxlと副メニュー幅dxlを減じた点(x2-2×dxl,y2)に変更される。表示終了点は,この方法により決まる。よって,右手にあわせた副メニュー34は,(x2-2×dxl,y2)と(x2-dx1,y2+dy2)を対角座標とする四角形の中に表示される。」(4頁左上欄11行~同頁右上欄20行)

・ 【第4図】(上記実施例の座標制御の説明図)

file_7.jpgaod A wi) Bites Tam Ghd) \ | AML) I ~ os | are | a2/ cota | winapi | | Geaeaet, xznayay (eitder y2t dey ae at ban(エ) 「第6図は,本発明の第一の実施例において,階層化された副メニューを一つ以上持つ場合,選択した機能の位置によりプルアップ表示,または,プルダウン表示を制御する表示方法である。図中の表示画面51は,左上方を原点とし,横軸をx軸,縦軸をy軸とする。x軸は,原点から右側を正とする。y軸は,原点から下側を正とする。座標制御装置8は,表示画面51をy座標値をykとする境界線52で上下二つの領域に分ける。選択された機能53が境界線52より上部にある場合は,y軸方向の大きさ(dy)の副メニュー54が,表示開始位置を(xl,yl),表示終了位置を(x1+dx,y1+dy)としてプルダウン表示される。また,選択された機能55が境界線51より下部にある場合には,この表示位置(x3,y3)から副メニューのy軸方向の大きさ(dy)を減じた値y2を新しいy軸方向の開始位置とする。x軸方向の開始位置x3は,x2とする。このように開始位置を(x2,y2)と変換して,上述の方法を用いると,y軸方向の大きさ(dy)の副メニュー56は,表示開始位置を(x2,y2),表示終了位置を(x2+dx,y2+dy)としてプルアップ表示される。」(4頁左下欄19行~5頁左上欄1行)

・ 【第6図】(上記実施例の副メニュー表示の説明図)

file_8.jpg| ty celts, itd) 3.¥3)/ | = FRE ARE 65 bd ) Eiteo 5)イ 上記記載によれば,引用発明は,表示装置と座標読み取り装置を一体化し,座標指示装置で直接表示画面上に表示される操作メニューを指示する情報処理装置におけるメニュー表示方式に関し,利き手が左右いずれの場合であっても,手,あるいは座標指示装置で作業に支障を来さないメニュー表示方式を提供することを目的とした発明であって,審決が認定したとおり,「複数の機能を持つメニューを表示する表示画面51と,前記表示画面51の前面に設けられ,ペン型座標指示装置で指示された座標データを読み取る座標読み取り装置と,前記表示画面51を境界線52で上下二つの領域に分け,表示されているメニューの複数の機能の中から選択された機能53が前記境界線52より上部にある場合は,階層化された副メニュー54をプルダウン表示し,選択された機能55が前記境界線52より下部にある場合は,階層化された副メニュー56をプルアップ表示する座標制御装置8と,を備えたことを特徴とする情報処理装置のメニュー表示方式。」,という発明であると認めることができる。

(3)  審決において周知技術とされた技術の内容

ア 特開平8-286829号公報(発明の名称「メニュー制御システム」,公開日 平成8年11月1日,甲2。以下「甲2文献」という。)には,次の記載がある。

・ 「そこで,従来技術では,機能メニューエリアの一部,もしくは全部を,操作画面上に常時表示するのではなく,ユーザの表示要求があった場合に,一定期間だけ表示する方法がとられた。例えば,特開平6-202836号公報に示されたポップアップメニューを表示するコンピュータシステムおよび方法がある。この従来技術では,入力装置にマウスを使用し,マウスに付随しているボタンを押すことによって,操作画面上に,一時的な機能メニューエリアを表示することができた。図4は,この従来技術による操作例を示している。通常状態では,図4(a)に示すように,操作画面401上に,文字列403などを含むデータ表示エリア402及び,マウスカーソル404が表示されている。ここで,マウス405のボタン406を押すことにより,図4(b)に示すような機能メニューエリア408を表示する。・・・」(段落【0004】)

・ 「図8は,メニューの一形態として,グラフィカルユーザインタフェースで一般的に使用される,ボタンを用いた操作例である。操作場面としては,データ表示エリアのスクロール処理の指示を想定している。図8(a)は,従来技術による操作画面を示している。操作画面801内に表示されたスクロール指示用のボタン803及び804を,ペン802でタッチすることにより操作する。このスクロールボタン803と804は,何時でも操作できるようにするため,基本的に常時表示されている。画面デザインによって差があるが,データ表示エリア805を狭くする一因となっている。一方,図8(b)は,本発明を適用した場合の操作画面を示している。操作画面801内には,スクロール指示用のボタンは無く,データ表示エリア805を広くとっている。スクロール指示を行う場合には,ペン802を操作画面801に接触させ,一定時間保持し,スクロール指示用のボタン806を表示させる。その後に,ボタン806をタッチし,スクロール指示を行うことができる。また,一定時間保持しなければ,データ表示エリア805内のポインティング操作,つまり文字列の指定操作などをそのまま行うことができる。ここで,ボタン806を表示させる位置は,ペン802の接触位置座標の近傍であるとペンの移動量が少なくなり使い勝手がよい。」(段落【0021】)

・ 【図4】(従来技術の説明図)

file_9.jpg40. 408 405 w Leos pr—sot YY 408 408 cy) hod・ 【図8】(本発明を用いた操作例を示す説明図)

file_10.jpga05 eho Ca) pooner jr 806 fa sot (o) aRaomamイ 上記記載によれば,画面表示部を有する情報処理装置において,メニューを文字又は画像の情報と重ねて配置して表示することは,原出願の出願時(平成9年11月27日),当該技術分野においてほぼ周知の技術であったと認めることができる。

(4)  本願補正発明と引用発明との対比

前記(1)ないし(3)から本願補正発明と引用発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点の認定並びに相違点(1)及び相違点(2)に対する判断は,審決の認定・判断(5頁9行~7頁下8行)のとおりであって,本願補正発明は,引用発明及び甲2文献に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものと認めるのが相当である。

(5)  取消事由に対する判断

ア 取消事由1(一致点認定の誤り-その1)について

(ア) 原告は,審決は引用発明における「複数の機能を持つ(メイン)メニュー」をもって本願補正発明における「文字又は画像の情報」に一致すると認定しているが,かかる審決の認定は本願補正発明と引用発明の一致点の認定を誤ったものであると主張する。

しかし,審決は,「引用発明の『複数の機能を持つメニューを表示する表示画面51』は,本願補正発明の『少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部』と『少なくとも情報を表示する画面表示部』である点で共通する。」と認定したものであって,その文言から判断しても,引用発明の「・・・表示画面51」は,本願補正発明の「・・・画面表示部」と「・・・」である点で共通する,と述べているにすぎない。

また,引用発明において,「表示画面51」に表示される「複数の機能を持つメニュー」は,特定の機能を有し何らかの動作制御を実行するための手段であるから,本願補正発明における「文字又は画像の情報」に対応するものではなく,本願補正発明における「操作ボタン」に対応する概念と認めるのが相当である。

そして,引用例(甲1)の「メニューとそれ以外の表示データのように変換の必要な表示データと変換の不要な表示データの区別は,例えば,中央演算処理装置11がメニュー等の表示データを転送するときに転送の前後,あるいは転送中にメニュー表示データであることを表す変換指示データ26を座標制御部21に出すことによって可能である。」(3頁右下欄10行~16行)との記載にみられるように,画面表示部を有する情報処理装置において,特定の機能を有し何らかの動作制御を実行するための手段である「メニュー」とともに,何らかの処理対象となる情報を画面表示部に表示することは当該技術分野では技術常識である。以上の点に照らせば,引用発明の「表示画面51」には,「複数の機能を持つメニュー」以外に,何らかの処理対象となる情報が表示されると解するのが合理的である。

そうすると,審決は,引用発明の「表示画面51」が情報を表示するものである点で本願補正発明の「画面表示部」と共通すると認定したにすぎず,引用発明の「表示画面51」に表示される「複数の機能を持つメニュー」が,本願補正発明の「画面表示部」に表示される「文字又は画像の情報」に一致すると認定するものでないことは明らかである。

審決は,それを前提として「相違点(2)」において,「所定の複数の操作ボタンを,文字又は画像の情報と重ねて配置」したという,本願補正発明の「画面表示部」における「所定の複数の操作ボタン」の表示と,「階層化された副メニュー」と何らかの処理対象となる情報との配置が不明である,引用発明の「表示画面51」における「階層化された副メニュー」の表示との相違を認定し,この「相違点(2)」の容易想到性について判断したものである。

以上のとおり,原告の上記主張は,審決の内容を正解しないものであり,採用することができない。

(イ) 原告は,本願明細書(甲3)の記載(段落【0002】,【0006】,【0017】等)から,本願補正発明における「文字又は画像の情報」とは,デジタルカメラ等の撮影機器によって撮影された対象,具体的には撮影画像や被写体等を意味することは明らかであると主張する。

確かに,本願明細書(甲3)の発明の名称の一部には「デジタルカメラ」の名称が付され,また本件補正(甲4)後の請求項3には「デジタルカメラ」の表現があるが,肝腎の請求項1(本願補正発明)には,「画面表示部を有する機器の操作装置」と記載されているだけで,デジタルカメラと限定された表示はないから,この表示をもってデジタルカメラ等の撮影機器であると特定されると解することはできない。また,本件補正後の請求項1の「少なくとも文字又は画像の情報を表示する画面表示部」との記載では,「文字又は画像の情報」が,デジタルカメラ等の撮影機器によって撮影された対象,具体的には撮影画像や被写体等に特定されると限定して解することもできない。

原告の上記の主張は,本件補正後の請求項1の文言に記載のない事項,すなわち,本願明細書の発明の詳細な説明や図面にのみ記載されているところの「画面表示部を有する機器の操作装置」がデジタルカメラ等の撮影機器であることや,「画面表示部」に表示される「文字又は画像の情報」がデジタルカメラ等の撮影機器によって撮影された対象,具体的には撮影画像や被写体等であることを付加して,本件補正後の特許請求の範囲を限定して発明を認定するものであって相当でなく,採用することができない。

(ウ) 原告は,審決が掲げる相違点(2)の記載をもって,審決は,引用発明の表示画面51は「複数の機能を持つメニュー」以外の「文字又は画像の情報」を表示しないと認定していると読めるし,そうすると,審決は,引用発明において,本願補正発明の「文字又は画像の情報」に対応する部分は「複数の機能を持つメニュー」以外にはないとの前提に立つものであると主張する。

しかし,前記認定のとおり,当該技術分野における技術常識に照らせば,引用発明の「表示画面51」には「複数の機能を持つメニュー」以外に何らかの処理対象となる情報が表示されると解され,その上で,審決は,相違点(2)において,「所定の複数の操作ボタンを,文字又は画像の情報と重ねて配置」したという本願補正発明の「画面表示部」における「所定の複数の操作ボタン」の表示と,「階層化された副メニュー」と何らかの処理対象となる情報との配置が不明である引用発明の「表示画面51」における「階層化された副メニュー」の表示との相違を認定したことは明らかである。

そうすると,審決の相違点(2)の認定において,原告が主張するように,引用発明の表示画面51は,「複数の機能を持つメニュー」以外の「文字又は画像の情報」を表示しないと認定しているということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

イ 取消事由2(一致点認定の誤り-その2)について

(ア) 原告は,引用発明には,「前記タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,各エリア毎に複数の操作ボタンの配置形態が予め定められ」るという構成が存在しないにもかかわらず,審決はこれらの相違点を看過し,上記の点で本願補正発明と引用発明が一致すると認定したことは誤りである旨主張し,その理由として,引用発明においては,ユーザーが実際にペン型座標指示装置によって指示できる領域は「表示画面」全体ではなく,「表示画面」中のごく一部である「メインメニュー」部分であり,引用発明の表示画面中のメインメニューのみに反応するものであって,「画面表示部の表示画面の何処を押しても,その押圧位置に応じて操作ボタンが適正に配置される」(本願明細書の段落【0012】)という本願補正発明の重要な作用効果をもたらすこともないと主張する。

しかし,引用例(甲1)に関する記載(前記(2)ア(イ))によれば,引用発明の「座標制御装置8」では,「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」がメモリに記憶され,上記「座標制御装置8」により,「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」とメニューの表示開始点,表示終了点とが比較され,表示範囲内に表示できない場合には,メニューの表示が表示可能範囲内に納まるように,表示開始位置を上下左右にずらしてメニューが表示されることが認められる。

そして,「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」を記憶する際,この表示可能範囲が広いほど,「表示画面51」におけるメニューの表示領域が増え,機器の操作性に優れることは当然である。

そうすると,引用発明において,「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」として,最大限の広さである,「表示画面51」全体の領域を充てることは,引用例(甲1)の記載に接した当業者が当然に想到することである。

また,上記のとおり,引用発明では,「座標制御装置8」により,メニューが表示範囲内に表示できない場合には,メニューの表示が表示可能範囲内に納まるように,表示開始位置を上下左右にずらしてメニューが表示されるから,「複数の機能を持つメニュー」が,「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」の左右(x軸方向)端部の辺(すなわち,点(x0,y0)と点(x0,ymax)とを結ぶ辺,又は点(xmax,y0)と点(xmax,ymax)とを結ぶ辺)の近傍に表示され,表示可能範囲内に「副メニュー54,56」を展開する領域がない場合でも,表示開始位置をずらすことにより,上記「副メニュー54,56」を表示可能範囲内に納まるように展開させることが可能となるものと認められる。

さらに,引用例(甲1)に関する記載(前記(2)ア(イ))によれば,引用発明の「座標制御装置8」において,「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」をメモリに記憶する際,画面を上下に分割する「境界線52」のy座標(yk)も上記メモリに記憶され,引用例(甲1)に関する記載(前記(2)ア(エ))によれば,引用発明において,「表示画面51」の「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」で設定された領域は,「座標制御装置8」により,「境界線52」で上下(y軸方向)二つの領域に分けられ,「複数の機能を持つメニュー」の中から選択された機能が「境界線52」より上部にあるか下部にあるかにより,「副メニュー54,56」が,プルダウン表示又はプルアップ表示のいずれかで表示されることが認められる。

そして,「座標制御装置8」のメモリに記憶される「メニューの表示可能範囲(x0,y0,xmax,ymax,yk)」として,「表示画面51」全体の領域を充てることは,引用例(甲1)の記載に接した当業者が当然に想到するものである。

そうすると,引用発明において,「複数の機能を持つメニュー」は,「表示画面51」全体の任意の位置に表示され,表示されたメニューの各機能が,「表示画面51」全体のどの位置にある場合でも,「座標制御装置8」により,「ペン型座標指示装置」の指示による「副メニュー54,56」の展開が可能と認められる。

以上から,引用発明において,「ペン型座標指示装置」で指示できる場所は,「表示画面51」の前面に設けられた「座標読み取り装置」(本願補正発明の「タッチパネル」に相当するもの)の全体と認められるから,原告の上記主張は採用することができない。

(イ) また,原告は,引用発明においては,ペンで指示できる場所(メニュー)と,「選択された機能55」がどちらにあるかが判定される「上下二つの領域」とは一致していないが,本願補正発明では,タッチできる「エリア」は,画面の全ての領域であり,このタッチできる「エリア」が,押圧位置が判別される「エリア」と同じであると主張する。

しかし,前記(ア)のとおり,引用発明において,「表示画面51」のメニュー表示可能範囲は「境界線52」で上下二つの領域に分けられ,「複数の機能を持つメニュー」の中から選択された機能が「境界線52」の上下いずれにあるかにより,「副メニュー54,56」がプルアップ表示又はプルダウン表示で表示されると認められ,また,引用発明において,「表示画面51」及びその前面に設けられた「座標読み取り装置」(本願補正発明の「タッチパネル」に相当するもの)の全体で,「ペン型座標指示装置」の指示による「副メニュー54,56」の展開が可能と認められる。

そうすると,引用発明において,「表示画面51」及び「座標読み取り装置」それぞれの全体がもれなく,「境界線52」により,上下二つの領域からなる「エリア」に区分されることは明らかであり,そして,「座標読み取り装置」における「ペン型座標指示装置」で指示できる場所と,「ペン型座標指示装置」で指示される上下二つの領域からなる「エリア」とは一致すると認められる。

以上によれば,「引用発明においては,ペンで指示できる場所(メニュー)と,「選択された機能55」がどちらにあるかが判定される「上下二つの領域」とは一致していないという原告の主張は採用することができない。

(ウ) 原告は,引用発明はそもそも「座標指示装置」という機器を用いて「表示画面上に表示される操作メニューを指示する情報処理装置」における「メニュー表示方式に関する」ものであり,メインメニューの表示されている状態において,副メニューの表示位置をどの個所にもってくるかということに関する発明であるのに対して,本願補正発明は,ユーザーが直接画面をタッチすることによって,はじめて機器の操作ボタンが表示される技術であり,引用発明とはその技術思想を異にすると主張する。

しかし,本件補正後の請求項1の記載からみて,本願補正発明は,ユーザーが直接画面をタッチすることによって,はじめて機器の操作ボタンが表示されるものと特定されているとは認められない。

そうすると,原告の上記主張は,補正後の請求項1の記載に基づくものとはいえず,採用することができない。

(エ) 原告は,引用発明は,画面に「メインメニュー」が既に表示された後に,そのうち一つの「機能」を押して,「副メニュー」を表示する際に,ユーザーの利き手を避けるように「副メニュー」を表示することに関する発明であり,画面のいかなる場所が押されても「複数の操作ボタン」を適切に表示することを目的とする本願補正発明とは,課題(目的)も構成も作用効果も異なると主張する。

しかし,前記(ア)のとおり,引用発明では,「座標読み取り装置」(本願補正発明の「タッチパネル」に相当するもの)の全体で,「ペン型座標指示装置」の指示による「副メニュー54,56」(本願補正発明の「複数の操作ボタン」に相当するもの)の展開が可能と認められ,そして,前記(イ)のとおり,「座標読み取り装置」における「ペン型座標指示装置」で指示できる場所と,「ペン型座標指示装置」で指示される上下二つの領域からなる複数の「エリア」とは一致すると認められるから,引用発明は,「タッチパネルの領域が予め複数のエリアに区分されるとともに,」,「前記検出手段が検出した押圧位置が前記複数のエリアのうち,何れのエリアに属するかを判別するエリア判別手段」を備えている点で本願補正発明と共通するものである。

そうすると,引用発明は,本願補正発明とは課題(目的)が異なるとしても,本願補正発明と同様に,画面のいかなる場所が押されても「複数の操作ボタン」を適切に表示することができるものと認められるから,原告の上記主張は採用することができない。

ウ 取消事由3(一致点認定の誤り-その3)について

原告は,本願補正発明における「複数の操作ボタンの配置形態」とは文字どおり「複数の操作ボタン」の配置の形態,すなわち「かたち」を意味するものであって,単に,ボタンの位置を上下方向にずらす場合(たとえば複数ボタンについてその位置関係をそのままに上下方向へとずらすにすぎない場合など)は,「複数の・・・配置形態」を備えるものではない旨主張する。

しかし,甲5(広辞苑第4版)によれば,「形態」という語は,「かたちに現れた姿。」だけでなく,「ありさま。形式。」とも解されるから,本願補正発明における「複数の操作ボタンの配置形態」とは,原告が主張する,「画面表示部」に表示される「複数の操作ボタン」の「かたち」に限定されず,「複数の操作ボタン」が「画面表示部」に表示される際の表示位置や表示形式をも包含すると解するのが合理的である。

また,引用発明の「副メニュー54,56」のプルダウン表示は,「表示画面51」において,複数のメニュー項目一覧が選択された機能から下に向かって表示される表示形式であり,プルアップ表示は「表示画面51」において,複数のメニュー項目一覧が選択された機能から上に向かって表示される表示形式である。

そして,前記認定のとおり,引用発明では,「座標読み取り装置」(本願補正発明の「タッチパネル」に相当するもの)の全体で,「ペン型座標指示装置」の指示による「副メニュー54,56」(本願補正発明の「複数の操作ボタン」に相当するもの)の展開が可能と認められ,「表示画面51」は「境界線52」で上下二つの領域に分けられ,「複数の機能を持つメニュー」の中から選択された機能が「境界線52」の上下いずれにあるかにより,「副メニュー54,56」の表示にプルアップ表示又はプルダウン表示のいずれかの表示形式,すなわち「配置形態」が採用される。

さらに,引用発明において,「副メニュー54,56」がプルアップ表示又はプルダウン表示で表示されているときに,表示されているメニュー及び「副メニュー54,56」それぞれの輪郭線により,「副メニュー54,56」の配置に応じた「かたち」,すなわち「配置形態」が作られることも明らかである。

以上のとおり,引用発明の「副メニュー54,56」のプルアップ表示及びプルダウン表示は,「副メニュー54,56」の配置形態と認められるから,原告の上記主張は採用することができない。

エ 取消事由4(相違点(2)に関する判断の誤り)について

原告は,引用発明における「メインメニュー」が本願補正発明における「文字又は画像の情報」に当たると審決が認定したことを前提として,引用発明において,副メニューをメインメニューに重ねて表示することは,出願当時の当業者にとって阻害要因となり,当業者が本願補正発明の構成に至ることはありえない旨主張する。

しかし,前記認定のとおり,審決は,引用発明の「表示画面51」は情報を表示するものである点で本願補正発明の「画面表示部」と共通すると認定しただけであって,引用発明の「表示画面51」に表示される「複数の機能を持つメニュー」が本願補正発明の「画面表示部」に表示される「文字又は画像の情報」に一致すると認定するものではない。

そうすると,引用発明における「複数の機能を持つメニュー」が本願補正発明における「文字又は画像の情報」に当たることを前提に,引用発明において,副メニューをメインメニューに重ねて表示することは出願当時の当業者にとって阻害要因が存在し,当業者が本願補正発明の構成に至ることはありえないとの原告の上記主張はその前提において誤りであり,採用することができない。

そして,甲2の段落【0004】及び【0021】の各記載によれば,画面表示部を有する情報処理装置において,メニューを文字又は画像の情報と重ねて配置して表示することは,原出願の出願当時(平成9年11月27日),当該技術分野において周知の技術であったと認められ,前記認定のとおり,引用発明の「表示画面51」には「複数の機能を持つメニュー」以外に何らかの処理対象となる情報が表示されると解される。

そうすると,引用発明において,「表示画面51」における「複数の機能を持つメニュー」の表示位置に対応する「座標読み取り装置」(本願補正発明の「タッチパネル」に相当するもの)を,「ペン型座標指示装置」で指示して階層化された「副メニュー54,56」を「表示画面51」に表示させる際に,「表示画面51」に何らかの処理対象となる情報として文字又は画像の情報を表示し,その上で,「副メニュー54,56」を文字又は画像の情報と重ねて配置して表示することは,上記周知の技術を適用することにより当業者が容易に想到し得たものと認められる。

以上から,審決における相違点(2)の判断に誤りはなく,この点に関する原告の主張は採用することができない。

オ 取消事由5(一致点認定の誤り-その4)について

(ア) 原告は,本願補正発明における「操作ボタン表示処理手段」は「タッチパネルの領域」の何処を押圧しても「複数の操作ボタン」を表示するのに対して,引用発明における「座標制御装置」は「表示画面」中のごく一部である「メインメニュー」部分を指示した場合に限って副メニューを表示する点で重大な違いがあると主張する。

しかし,本願補正発明の「タッチパネルの領域」は,物理的にみて全て押圧可能な領域と解されるとしても,本願補正発明において,装置の操作時に,タッチパネルの全ての領域のいずれかの場所が押圧されたときに必ず「複数の操作ボタン」が画面に表示されるか,又はタッチパネルの領域の特定の場所が押圧されたときに「複数の操作ボタン」が画面に表示されるかについて,本件補正後の請求項1の記載では特定されていない。

また,本願補正発明の「複数の操作ボタン」が,画像表示部における文字又は画像の情報の表示位置に対応するタッチパネルを押圧した場合に表示されるか,あるいは操作ボタンのような文字又は画像の情報以外のものの表示位置に対応するタッチパネルを押圧した場合に表示されるかについても,本願の補正後の請求項1の記載では特定されていない。

そして,本願補正発明の構成を備えていれば,タッチパネルの全ての領域のいずれかの場所が押圧されたときに必ず「複数の操作ボタン」が画面に表示されるか否かに関係なく,「画面表示部の表示画面の何処を押しても,その押圧位置に応じて操作ボタンが適正に配置される。」(段落【0012】)との本願補正発明の所期の効果を奏することは,本願明細書の記載から自明であるし,本願補正発明の構成を備えていれば,画像表示部における文字又は画像の情報の表示位置に対応するタッチパネルが押圧されたときにだけ「複数の操作ボタン」が表示されるか否かに関係なく,上記の本願補正発明の所期の効果を奏することも,本願明細書の記載から自明である。

そうすると,本件補正後の請求項1の記載から,本願補正発明には,文字又は画像の情報とともに,引用発明の「複数の機能を持つメニュー」のような操作ボタンが画面表示部の任意の場所に表示され,上記操作ボタンの表示位置に対応するタッチパネルが押圧された場合に限って,引用発明の「副メニュー54,56」のような複数の操作ボタンを上記文字又は画像の情報と重ねて配置し,上記画面表示部に表示させるものも含まれると解される。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(イ) また,原告は,仮に本願補正発明において,「タッチパネルの領域」のどこを押圧しても「複数の操作ボタン」を表示する,という点が構成要件となっていなかったとしても,引用発明においては,「タッチパネルの領域」に相当する表示画面を押圧した場合,90%以上の確率で,「複数の操作ボタン」に相当するとされる副メニューが表示されないのであるから,「タッチパネルの領域」が「押された」又は「押圧」された場合において,「複数の操作ボタン」が「表示」されるとはいえないにもかかわらず,本願補正発明の「操作ボタン表示処理手段」をもって引用発明の「座標制御装置」と一致すると判断した審決の判断には重大な誤りがあると主張する。

しかし,前記認定のとおり,引用発明では,「座標読み取り装置」(本願補正発明の「タッチパネル」に相当するもの)の全体で,「ペン型座標指示装置」の指示による「副メニュー54,56」(本願補正発明の「複数の操作ボタン」に相当するもの)の展開が可能と認められる。

そうすると,引用発明の「座標読み取り装置」の領域は,その領域において,「ペン型座標指示装置」で指示されることがあることを前提とし,その上で,装置の操作時には,「表示画面51」における「複数の機能を持つメニュー」の表示位置に対応する「座標読み取り装置」が,「ペン型座標指示装置」で指示されると認められる。

そして,前記のとおり,本件補正後の請求項1の記載から,本願補正発明には,文字又は画像の情報とともに,引用発明の「複数の機能を持つメニュー」のような操作ボタンが画面表示部の任意の場所に表示され,上記操作ボタンの表示位置に対応するタッチパネルが押圧された場合に限って,引用発明の「副メニュー54,56」のような複数の操作ボタンを上記文字又は画像の情報と重ねて配置し,上記画面表示部に表示させるものも含まれると解される。

以上によれば,本願補正発明の「タッチパネルの領域」と引用発明の「座標読み取り装置」の領域とは,「その領域においては,タッチ(押圧)されることがあるのが当然の前提である」点で相違はなく,また,本願補正発明には,「タッチパネルの領域」を押圧しても,90%以上の確率で,「複数の操作ボタン」が「表示」されないものも含まれるというべきである。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

3  結論

以上のとおり,本願補正発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるから独立特許要件を欠くとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)

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