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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10135号 判決 2011年12月26日

原告

株式会社スーパーみらべる

訴訟代理人弁理士

古志達也

被告

特許庁長官

指定代理人

小川きみえ

鈴木修

芦葉松美

主文

1  特許庁が不服2010-6747号事件について平成23年3月2日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯等

原告は,平成19年5月30日に登録出願した商願2007-54510号を原出願とする分割出願として,平成20年4月27日,別紙商標目録記載(1)に示すとおりの構成からなる商標(以下「本願商標」という。)について,指定役務を同目録記載(2)のとおりとして,登録出願(商願2008―33130号)をしたが,平成21年12月24日付けで拒絶査定を受け,平成22年4月1日,同査定に対する不服の審判(不服2010-6747号事件)を請求した。

特許庁は,平成23年3月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その謄本は同月25日に原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願商標は,その構成中「みらべる」の文字部分が,独立して自他役務の識別標識としての機能を果たすものとみるのが相当であり,別紙引用商標目録記載1ないし4の商標(以下,これらの商標を順に,「引用商標1」などといい,これらを総称して「引用商標」という場合がある。)とは,外観において相違するとしても,「ミラベル」の称呼を共通にする類似の商標であり,本願商標の指定役務は,引用商標の指定商品と類似の役務を含むから,本願商標は,商標法4条1項11号により商標登録を受けることができない,というものである。

第3当事者の主張

1  審決の取消事由に関する原告の主張

審決には,以下のとおり誤りがある。

(1)  分離観察の可否について

本願商標の文字部分は,同じ書体で,同色で統一され,文字の大きさもほとんど差異がなく,上下の文字は近接して配置されており,文字数も少ない。また,本願商標の指定役務は,スーパーマーケットに関係する「小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」であることを考慮すると,需要者において一連のものとして称呼されるとともに,「『みらべる』というスーパーマーケット」との観念が生ずる。そうすると,本願商標のうち「みらべる」部分が取引者,需要者に対し,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとはいえず,本件商標から「みらべる」だけを分離して,類否の判断を行うことは相当でない。

(2)  本願商標と引用商標との類否について

原告は,昭和52年10月ころ,原告代表者によって創業され,昭和56年8月ころ「有限会社ミラベル」に法人成りし,そのころから,「スーパーみらべる」と称され,現在,東京都北部を中心に,8店舗を有し,地場のスーパーマーケットとして一定の地位を確立している。本願商標は,原告が長年にわたって使用した結果,需要者に一定の知名度を有するものであり,本願商標と引用商標は,その出所につき誤認混同を生ずるおそれはない。また,商標の外観,観念及び称呼の類似は,その商標を使用した商品ないし役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,本願商標は,「『みらべる』というスーパーマーケット」との特定の観念を生ずる点で引用商標と著しく相違している。さらに,原告が一般消費者及び流通業者に対して行ったアンケート結果によっても,本願商標は需要者に対し一定の知名度を有するのに対し,引用商標は使用の有無も定かでなく,本願商標と引用商標に誤認混同が生じるおそれはない。

なお,被告は,原告が,チラシ広告において,自ら本願商標の「スーパー」の文字部分を捨象して,「みらべる」との略称を使用していると主張するが,上記チラシ広告の他の記載を併せみれば,「みらべる」は「スーパーマーケットの『みらべる』」を意味していることは明らかである。

以上のとおり,本願商標と引用商標は,その外観,観念及び称呼が異なり,取引の実情等を考慮しても,出所の誤認混同を来すおそれはなく,類似しない。

2  被告の反論

(1)  分離観察の可否について

本願商標は,赤字矩形内に,白色で縁取りされた黒色の「スーパー」の片仮名文字と,該文字に比べて大きく書され,白色で縁取りされた黒色の「みらべる」の平仮名文字とを上下2段に配してなるものであるが,上記赤字矩形は背景的に描かれ,文字部分は「みらべる」の文字が「スーパー」の文字の約2倍の大きさで書され,片仮名と平仮名で文字の態様を異にし,上下に離れて配されていることからすれば,両文字は視覚的に分離して看取,把握されるものである。

また,本願商標は,全体から「スーパーミラベル」との称呼が生じるが,一連として称呼するには冗長であり,「スーパー」と「ミラベル」との間に段落が存在するから,分断して称呼され得るといえる。

さらに,本願商標の構成中,「スーパー」の文字部分は,「超」,「上の」,「より優れた」のほか,役務の提供場所や業種・業態を表す「スーパーマーケットの略」を意味すると認識されるものであって,独立して,自他役務の出所識別標識としての機能を果たし得ないというべきである。実際の取引においても,飲食料品の小売等役務を提供するスーパーマーケットでは,チラシ広告や商品販売において,その名称中「スーパー」の文字部分を捨象する例が多く,原告も同様である。他方,本願商標の構成中,「みらべる」の文字部分は,特定の観念は生じないものであり,独立して,自他役務の出所識別標識としての機能を果たし得るといえる。

以上によれば,本願商標は,その構成文字の「スーパー」と「みらべる」が,常に一体不可分のものとしてのみ認識されるものではなく,本願商標と引用商標との類否判断において,本願商標からスーパーマーケットを特定するに当たり不可欠の要部である「みらべる」の文字部分を抽出することができる。

(2)  本願商標と引用商標の類否について

本願商標と引用商標とは,それぞれを構成する文字の相違及び本願商標に係る赤字矩形の図形の有無において,外観上区別し得る。また,本願商標からは「スーパーミラベル」のほか「ミラベル」の称呼が生じ,引用商標からは「ミラベル」の称呼が生じるから,両者は「ミラベル」の称呼を共通にする。さらに,本願商標と引用商標は,共に特定の観念は生じない造語であるから,観念上は比較することができない。そして,実際の取引においては,上記のとおり,スーパーマーケットの名称中「スーパー」の文字部分を捨象する例が多いうえ,スーパーマーケット等の小売業者が,プライベートブランドを飲食料品等に使用していることが広く一般に行われており,その際,スーパーマーケットの名称やその一部を使用していることがある。実際,原告は,自らチラシ広告に「みらべる特製太巻」と記載するなど,本願商標のうち「スーパー」の文字部分を捨象して,「みらべる」との略称を使用している。

なお,商標法4条1項11号所定の先願の「他人の登録商標」は,後願の同一又は類似の商標の査定時又は審決時において,現に有効に存在しているものであれば足り,現実に使用されていることは必要でない。また,商標の類否判断に際して考慮すべき取引の実情とは,指定商品又は指定役務全般についての一般的,恒常的なものであり,「他人の登録商標」が現実に使用されているか否か,商標登録出願に係る商標が周知か否かは,取引の実情として考慮すべきでない。

以上のとおり,本願商標と引用商標とは,外観において区別し得るものであるとしても,「ミラベル」の称呼を共通にし,観念においても相違するところがなく,取引の実情等を考慮すると,その出所について誤認混同を生ずるおそれがあり類似する。また,本願商標の指定役務中「飲食料品の小売等役務」の取扱商品である飲食料品の範疇には,引用商標の指定商品である茶,コーヒー等が全て含まれており,両者に同一又は類似する商標が使用された場合,誤認混同を生ずるおそれがあるから,本願商標の指定役務と引用商標の指定商品とは類似する。

したがって,本願商標は,商標法4条1項11号により商標登録を受けることができないとした審決の判断に誤りはない。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,本願商標と引用商標が類似するとした審決の認定判断には誤りがあると判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  商標の類否判断について

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察し,取引の実情を明らかにし得るかぎり,具体的な取引状況に基づいて判断されるべきであり,このような考察によって,役務や商品の出所についての誤認混同を来すおそれがないものについては,類似の商標とすべきではないというべきである(最三小判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁参照)。また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁,最二小判平成5年9月10日民集47巻7号5009頁,最二小判平成20年9月8日裁判集民事228頁561頁参照)。

そこで,上記の観点から本件について判断する。

2  本願商標と引用商標について

(1)  本願商標の外観,称呼及び観念等

ア 外観,称呼及び観念

本願商標の構成は,別紙商標目録記載(1)のとおりである。すなわち,本願商標は,赤色の横長矩形内に,上段中央部に片仮名で「スーパー」をやや小さく,下段中央部に平仮名で「みらべる」をやや大きく(後者の縦横の長さは前者の縦横の長さの概ね1.6倍ないし1.8倍である。),いずれも白色の縁取りがされた黒色の太文字で,横書きしたものである。本願商標中,「みらべる」のひらがな部分は,丸文字風に描かれ,柔らく表記されているのに対し,「スーパー」の片仮名部分は,直線的に描かれているが,赤,黒及び白を配色していることから,鮮やかで,明瞭,かつ,全体として,まとまった印象を与えている。

本願商標の「スーパー」の文字部分は,「超」,「上の」,「より優れた」,「スーパーマーケットの略称」などの意味が生じる。他方,本願商標の「みらべる」部分は,これに相当する語はない。平仮名で表記されていることから,日本語として近いものとして挙げてみると,「みられる」,「みくらべる」,「ならべる」等の語を連想させることはあったとしても,そのようなことから,何らかの確定的な観念を生じさせるものではない。したがって,本願商標からは,「『みらべる』との名称のスーパーマーケット」との観念が生じる余地がある。また,本願商標から,「スーパーミラベル」の称呼を生じるとともに,場合によっては,「ミラベル」との称呼が生じる余地も排除できない。

イ 取引の実情等

原告は,昭和52年10月ころ,原告代表者により,東京都板橋区で「ミラベル」の名称で,スーパーマーケットの営業が開始され,昭和56年8月ころ,「有限会社ミラベル」となり,さらに,平成9年10月ころ,株式会社に組織変更がされ,「株式会社スーパーみらべる」の名称となった。原告は,現在,東京都北部にスーパーマーケットを8店舗営んでおり,各店舗の出入口の上部に,本願商標とほぼ同一の書体と色彩による「スーパーみらべる」の店舗名の表示を掲げるなどして,本願商標を継続的に使用している(甲13,弁論の全趣旨)。

そして,原告は,平成20年4月27日,別紙商標目録記載(2)のとおり,各種商品に係る小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供を指定役務として,商標登録出願をした。原告は,引用商標に係る商標権者などとの間で指定商品について,取引及び販売をしたことはなく,また,原告の顧客の間で,引用商標に係る商品の出所を認識している者はいないと推認される(甲19,弁論の全趣旨)。

(2)  引用商標の外観,称呼及び観念

各引用商標の構成は,それぞれ別紙引用商標目録記載のとおりである。

引用商標1は,欧文字「MIRABELL」が,大文字で,垂直に正立した書体により,横書きされ,その下段に片仮名「ミラベル」が小さく横書きされたものである。引用商標2は,欧文字「Mirabell」(先頭のMの文字が大文字,その他の文字は小文字)が,筆記体(斜体)により,横書きされたものである(もっとも,先頭の文字は,Mであるか,他の文字[例えば,U]を表記したものであるかについて,その需要者,取引者において判別できるか否かは不明である。)。引用商標3は,欧文字「MIRABEL」が,大文字で,垂直に正立した書体により,横書きされたものである。引用商標4は,欧文字「MIRABELL」が,標準文字で横書きされたものである。

上記「MIRABELL」,「Mirabell」及び「MIRABEL」は,別紙各引用商標目録記載の外観を生じ,「ミラベル」の称呼が生じる。引用商標は,欧文字で表記され,これらの文字列に対応した語は,一般には存在せず,取引者,需要者にとって,その意味を認識,理解することはできないから,観念を生じない(なお,引用商標1,2及び4については,後半の「BELL」,「bell」から,「ベル」や「鈴」を連想する余地はあり得る。)。

3  本願商標と引用商標の類否についての判断

(1)  上記認定した事実に基づいて,本願商標と引用商標との類否を判断する。

本願商標は,赤系色の横長矩形内に,上段中央部に片仮名で「スーパー」をやや小さく,下段中央部に平仮名で「みらべる」をやや大きく,いずれも白色の縁取りがされた黒色の太文字で,横書きしたものであって,鮮やかで明瞭な配色により,全体として,まとまった外観を呈しているのに対し,各引用商標は,「MIRABELL」,「Mirabell」及び「MIRABEL」であり,本願商標と引用商標とは,その外観において,著しく相違する。

本願商標は,「スーパーミラベル」の称呼を生じるとともに,場合によって,「スーパー」ないし「ミラベル」の称呼を生じる余地があり,これに対し,引用商標は,「ミラベル」の称呼を生じることから,本願商標が「スーパー」,「スーパーミラベル」の称呼を生じる場合には,両者の称呼は類似しないというべきであるが,本願商標が「ミラベル」の称呼を生じる場合には,類似することがある。

本願商標が一般的な観念を生じないと解される場合には,引用商標は格別の観念を生じないので,対比することができず,結局,両商標は,類似するとまではいえない。本願商標が,「『みらべる』との名称のスーパーマーケット」との観念が生じる場合があるならば,引用商標は格別の観念を生じないので,両者は,類似しない。

また,原告は,各店舗の出入口の上部に,本願商標とほぼ同一の書体と色彩により「スーパーみらべる」の店舗名の表示を掲げるなどして,本願商標を顧客に対する便益の提供役務に使用している実情があり,引用商標と類似する使用態様がされているとの事実は存在しない。

(2)  以上によれば,本願商標と引用商標とは,「ミラベル」との称呼において類似する場合があり得たとしても,外観において著しく相違し,かつ観念において類似するとはいえず,取引の実情等を考慮しても,本願商標がその指定役務「『飲食料品』,『食肉』,『食用水産物』,『野菜及び果実』,『菓子及びパン』,『牛乳』,『清涼飲料及び果実飲料』,『茶・コーヒー及びココア』,『加工食料品』の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に使用された場合に,引用商標との間で商品ないし役務の出所に誤認混同を生じさせるおそれはないから,両商標は,類似しない。

4  被告の主張について

これに対し,被告は,実際の取引においては,スーパーマーケットの名称中「スーパー」の文字部分を捨象する例が多い上,スーパーマーケット等の小売業者が,プライベートブランドを飲食料品等に使用していることが広く一般に行われており,その際,スーパーマーケットの名称やその一部を使用していることがあると主張する。

しかし,スーパーマーケットの名称中「スーパー」の文字部分を捨象して使用される場合があるとしても,本願商標と引用商標は,本願商標の「みらべる」の文字部分が平仮名により,白色の縁取りがされた黒色の太文字で,鮮やかで明瞭な配色がされているのに対して,引用商標はいずれも欧文字であり,外観において著しく相違することや原告の取引の実情等を考慮するならば,その出所について誤認混同を生じるおそれがあるとはいえず,被告の主張は採用の限りでない。

5  結論

以上によれば,原告の請求は理由がある。被告はその他縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 知野明)

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