知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10144号 判決 2012年1月16日
原告
コネコーポレイション
訴訟代理人弁理士
香取孝雄
北島弘崇
被告
特許庁長官
指定代理人
西山真二
中川隆司
伊藤元人
黒瀬雅一
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2009-11799号事件について平成22年12月13日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,拡大先願発明との実質的同一性及び進歩性の有無(補正の独立特許要件の有無)である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,2002年(平成14年)1月9日の優先権(フィンランド共和国)を主張して,平成15年1月9日,名称を「エレベータ」とする発明について特許出願をしたが(特願2003-3681号,公開公報は2003-221176号〔甲33〕),拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした(不服2009-11799号)。
その中で原告は平成21年7月28日付けで特許請求の範囲等の変更の補正(本件補正,甲11)をしたが,特許庁は,平成22年12月13日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),その謄本は平成22年12月28日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
【本件補正前の請求項1の発明(以下「補正前発明」という。)】
「巻上機械が1組の巻上ロープにトラクションシーブによって係合し,該1組の巻上ロープは実質的に円形の断面の複数の巻上ロープを含み,該1組の巻上ロープはカウンタウエイトおよびエレベータカーをそれらの各経路上に支持するエレベータにおいて,前記実質的に円形の巻上ロープは8mm以下の太さを有し,前記巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角は180°以上であり,前記巻上ロープの鋼ワイヤの太さの平均は0.1mm以上で,かつ0.5mm以下であることを特徴とするエレベータ。」
【本件補正後の請求項1の発明(以下「補正発明」という。)】
「巻上機械が1組の巻上ロープにトラクションシーブによって係合し,該1組の巻上ロープは実質的に円形の断面の複数の巻上ロープを含み,該1組の巻上ロープはカウンタウエイトおよびエレベータカーをそれらの各経路上に支持するエレベータにおいて,前記実質的に円形の巻上ロープは8mm以下の太さを有し,前記巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角は180°以上であり,前記巻上ロープの鋼ワイヤの太さの平均は0.1mm以上かつ0.2mm以下であり,前記巻上ロープは非被覆状態であることを特徴とするエレベータ。」(下線は補正部分)
3 審決の理由の要点
(1) 補正却下の理由1
(1)-1 本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項28を請求項1に繰り上げるとともに,鋼ワイヤの太さの平均について,「0.1mm以上で,かつ0.5mm以下」を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」と限定する補正を含むものであるから,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(1)-2 引用文献(特公平3-43196号公報,甲1)には,実質的に次の発明(引用文献記載の発明)が記載されていることが認められる。
「駆動装置1が1組の昇降ロープ4に綱車3によって係合し,該1組の昇降ロープ4は複数の昇降ロープ4を含み,該1組の昇降ロープ4はつりあいおもり6および昇降ケージ5をそれらの各経路上に支持する昇降装置において,前記昇降ロープ4と綱車3との間の接触角は180°より大きく,昇降ロープ4は素線を構成要素とする,昇降装置。」
(1)-3 補正発明と引用文献記載の発明との一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】
「巻上機械が1組の巻上ロープにトラクションシーブによって係合し,該1組の巻上ロープは複数の巻上ロープを含み,該1組の巻上ロープはカウンタウエイトおよびエレベータカーをそれらの各経路上に支持するエレベータにおいて,前記巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角は180°以上であり,前記巻上ロープは素線を構成要素とする,エレベータ。」
【相違点1】
補正発明においては,巻上ロープが「実質的に円形の断面」であり,「前記実質的に円形の巻上ロープは8mm以下の太さを有し」ているのに対し,引用文献記載の発明においては,昇降ロープ4の形状や太さが明らかではない点。
【相違点2】
補正発明においては,「巻上ロープの鋼ワイヤの太さの平均は0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるのに対し,引用文献記載の発明においては,「巻上ロープ」に相当する「昇降ロープ4」は素線を構成要素とするものの,素線の材質が「鋼」であるかどうかや,素線の太さについて明らかではない点。
【相違点3】
補正発明においては,「巻上ロープは非被覆状態である」のに対し,引用文献記載の発明においては,巻上ロープが被覆されているかどうかが明らかではない点。
(1)-4① 巻上ロープの形状や太さは,エレベータに想定される運用条件や巻上ロープのほかの構成等に応じて,設計段階で適宜決定すべき事項であるところ,巻上ロープの太さを低減しようとすることが周知の技術課題(周知の技術課題1)であるとともに,エレベータ用巻上ロープの太さを8mm以下とすることが周知技術(周知技術1)で,8mm以下の太さのワイヤロープ自体がありふれた周知のもの(周知技術2)であり,さらに,巻上ロープの断面形状を「実質的に円形」とすることが周知技術(周知技術3)であることから,引用文献記載の発明において,「巻上ロープ」に相当する「昇降ロープ4」を「実質的に円形の断面」で「8mm以下の太さ」に決定し,相違点1に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである。
② エレベータ,クレーン等の巻上機に用いる巻上用のワイヤロープを,0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは周知技術(周知技術4。例えば,特開2001-262482号公報の段落【0023】ないし【0025】,特開平9-21084号公報の段落【0002】ないし【0006】,特公平7-91621号公報の段落【0012】及び【0018】,特開平11-12967号公報の段落【0001】及び【0010】を参照。)である。
また,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープは,ありふれた周知のもの(周知技術5。例えば,特開平6-240590号公報の段落【0001】,【0021】,及び図1,特開2001-106453号公報の段落【0025】,特開平10-132035号公報の段落【0001】及び【0002】,実願平5-49517号(実開平7-15796号)のCD-ROMの【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】,国際公開第00/37738号の第11ページ第17ないし26行,図6を参照。)である。
巻上ロープを構成する素線の材質や太さについては,巻上ロープに要求される性能に応じて,巻上ロープの太さやほかの構成等と併せて,設計段階で適宜決定すべき事項であるところ,巻上ロープの太さを低減しようとすることが周知の技術課題(周知の技術課題1)であることから,巻上ロープを構成する素線の太さを低減しようとすることも同様に周知の技術課題(「周知の技術課題2」)であるといえる。
してみれば,引用文献記載の発明において,周知技術4及び周知の技術課題2に基づいて,素線を鋼ワイヤとするとともにその太さを低減することは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことであり,具体的な太さとして「0.1mm以上かつ0.2mm以下」というありふれた値に決定し,相違点2に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた程度のことである。
③ エレベータ用の巻上ロープは,非被覆状態で用いることが通常(周知技術6。例えば,特開昭59-102787号公報の第1ページ右下欄第10~16行,特開2001-192183号公報の【0003】,【0004】,JIS G 3525:1998の表1を参照)であることから,引用文献記載の発明において,「巻上ロープ」に相当する「昇降ロープ4」を「非被覆状態」とし,相違点3に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた程度のことである。
④ 補正発明を全体としてみても,その奏する効果は,引用文献記載の発明,周知の技術課題1及び2,周知技術1ないし6から当業者が予測できた範囲内のものであり,格別に顕著な効果ではない。
よって,補正発明は,引用文献記載の発明,周知の技術課題1及び2,周知技術1ないし6に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
(2) 補正却下の理由2
(2)-1 2001年(平成13年)12月31日(平成13年1月4日及び同年8月10日の優先権〔ドイツ連邦共和国〕を主張)を国際出願日とし,平成14年7月11日に国際公開(WO2002/053486)がされた国際特許出願(PCT/EP2001/015380,日本における出願番号は特願2002-554612号,公表公報は特表2004-520245号〔甲3〕)の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲及び図面(先願明細書,甲2)には,実質的に次の発明(拡大された先願発明。以下,単に「先願発明」という。)が記載されていることが認められる。
「駆動モータ7が1組の支持ケーブル1に駆動滑車2によって係合し,該1組の支持ケーブル1は丸型の複数の支持ケーブル1を含み,該1組の支持ケーブル1はバランスウェイト11およびケージ6をそれらの各経路上に支持するエレベータにおいて,前記丸型の支持ケーブル1の公称直径が5ないし7mm,特に6mm以下であり,前記支持ケーブル1と駆動滑車2との間の接触角は180°以上であり,前記支持ケーブル1は鋼ワイヤを構成要素とする,エレベータ。」
(2)-2 補正発明と先願発明との一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】
「巻上機械が1組の巻上ロープにトラクションシーブによって係合し,該1組の巻上ロープは実質的に円形の断面の複数の巻上ロープを含み,該1組の巻上ロープはカウンタウエイトおよびエレベータカーをそれらの各経路上に支持するエレベータにおいて,前記実質的に円形の巻上ロープは8mm以下の太さを有し,前記巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角は180°以上であり,前記巻上ロープは鋼ワイヤを構成要素とする,エレベータ。」
【相違点4】
補正発明においては,「巻上ロープの鋼ワイヤの太さの平均は0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるのに対し,先願発明においては,鋼ワイヤの太さについて明らかではない点。
【相違点5】
補正発明においては,「巻上ロープは非被覆状態である」のに対し,先願発明においては,巻上ロープが被覆されているかどうかが明らかではない点。
(2)-3① 先願発明においては,「巻上ロープ」に相当する「支持ケーブル」を細くすることを目的の一つとしているので,「巻上ロープ」を構成する鋼ワイヤの太さを細くすることも当然に考慮しているといえ,このことは周知の技術課題(周知の技術課題2)であるといえる。
また,エレベータ,クレーン等の巻上機に用いる巻上用のワイヤロープを,0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは周知技術(周知技術4)であり,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープは,ありふれた周知のもの(周知技術5)である。
してみれば,先願発明において,鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた微差程度のことにすぎず,このことによる新たな効果を奏するものではない。
② エレベータ用の巻上ロープは,非被覆状態で用いることが通常(周知技術6)であることから,先願発明において,「巻上ロープ」に相当する「支持ケーブル」を「非被覆状態」とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた微差程度のことにすぎず,このことによる新たな効果を奏するものではない。
③ してみれば,補正発明と先願発明との相違は,課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないので,両発明は実質的に同一である。
また,補正発明の発明者は先願発明の発明者と同一ではなく,また,本件の出願の時において,その出願人が先願発明についての出願人と同一でもない。
よって,補正発明は,特許法184条の13で読み替えて適用される同法29条の2の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができない。
(3)① 補正前発明について
補正前発明は,補正発明において,鋼ワイヤについて「太さの平均は0.1mm以上かつ0.2mm以下」を「太さの平均は0.1mm以上で,かつ0.5mm以下」に拡張するとともに,巻き上げロープが「非被覆状態である」という限定を省くことによって,補正発明を上位概念化したものである。
したがって,補正前発明の下位概念である補正発明が引用文献記載の発明,周知の技術課題1及び2,周知技術1ないし6に基づいて当業者が格別の創意を要することなく想到できたものであるから,補正前発明も同様の理由により当業者が格別の創意を要することなく想到できたものである。
さらに,補正前発明の下位概念である補正発明が先願発明と実質的に同一であることから,補正前発明も先願発明と実質的に同一である。また,補正前発明の発明者は先願発明の発明者と同一ではなく,また,本件出願の時において,その出願人が先願発明についての出願人と同一でもない。
② よって,補正前発明は,引用文献記載の発明,周知の技術課題1及び2,周知技術1ないし6に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
さらに,補正前発明は,先願発明と実質的に同一であり,しかも,補正前発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく,また,本件の出願の時において,その出願人が先願発明についての出願人と同一でもないので,補正前発明は,特許法184条の13で読み替えて適用される同法29条の2の規定により,特許を受けることができない。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用文献記載の発明との間の相違点1に関する判断の誤り)
審決が,周知技術2について,8mm以下の太さのワイヤロープ自体がありふれた周知のものであることを裏付けるために挙げている文献は,いずれも補正発明の進歩性の有無を検討する材料として用いるには相応しくない。その理由を以下説明する。
(1) 「ワイヤロープハンドブック」(ワイヤロープハンドブック編集委員会編,日刊工業新聞社,平成7年〔1995年〕3月30日発行,甲15)
審決は,甲15の754頁「7.1.1 ミニロープの規格と使用分野」に,ミニロープの使用分野がほとんどすべての分野に拡大するようになったと記載されているとして,ミニロープの存在をもって,8mm以下の太さのワイヤロープ自体がありふれた周知のものであるとしている。
しかし,ミニロープの直径は一般には直径3mm程度まであり得る(同頁参照)ことに鑑みると,たとえ個人住宅用エレベータで8mm径の巻上ロープの仕様が実際に認められてエレベータ用巻上ロープの太さを8mm以下とすることが周知技術1として当業者に認識されていたとしても,当業者は8mmの半分以下の直径となり得るミニロープをエレベータ用巻上ロープとして使用しようとは考えないのが通常である。仮にミニロープをエレベータ用巻上ロープとして使用しようとする当業者がいたとすれば,それは当業者としての通常程度を超えた創意を必要としたのであり,当該ミニロープの存在をもってして「8mm以下の太さのワイヤロープ自体がありふれた周知のもの」と結論付けるべきではない。甲15の754頁が,ミニロープの応用的使用分野の拡大を述べているとしても,実際,具体的にエレベータ用巻上ロープが拡大された使用分野として挙げられているわけではない。したがって,甲15を周知技術2を立証するための文献として用いることは誤りである。
また,JIS G 3525:1998(甲16)の付表5には,公称径が6mmおよび6.3mmのものが記載され,ISO4344 First Edition-1983-12-01(甲32)のTable 2では,Nominal diameter(公称径)が6mmのものが記載されているが,これらの公称径についても直径3mmのミニロープとは2倍の差があるため,やはりミニロープをエレベータ用巻上ロープとして使用しようとは考えないのが通常である。したがって,甲15を周知技術2を立証するための文献として用いることは誤りであるという結論は変わらない。
なお,特開平9-21084号公報(甲17)には略4mmφのワイヤロープが記載されていたとしても,このワイヤロープは補正発明と異なり,ロープ本体に被服層が被覆されているものであって,「巻上ロープは非被覆状態である」という点について構成が異なる。そのため,エレベータの技術分野について正しい知識を有する当業者であれば,甲17に略4mmφのワイヤロープが存在するからといって,甲15に記載のミニロープもまたエレベータ用巻上ロープとして適用できると考えるべきではない。
(2) 特開平6-240590号公報(甲18)
上記公報には,充分なゴムを浸透させそれにより最大の補強効果を有するマルチストランドスチールコードが記載されている(段落【0003】参照)。すなわち,図2や段落【0028】が示すように,コード全体の個々の鋼素線をすべてゴムで囲んで使用することを想定している。補正後発明の巻上ロープが非被覆状態であることに鑑みると,上記公報のコードとはエレベータの部品として実際に使用する際に採られる構成が本質的に異なるので,かかるコードを補正発明の進歩性を判断する際の周知技術として用いることは誤りである。
(3) 特公平7-91621号公報(甲19)
上記公報には,径0.33mmの素線を加工して製造されたワイヤロープが開示されている(段落【0012】参照)。
ここで補正発明を鑑みるに,巻上ロープは8mm以下の太さを有するのみならず,鋼ワイヤの太さの平均は0.1mm以上0.2mm以下であることもまた発明特定事項として定義されている。すなわち,鋼ワイヤの太さの平均値の点で補正後発明と上記公報に開示のロープは異なる構成をしている。「巻上ロープは8mm以下の太さを有し」ているという構成上の特徴は,それのみを独立して捉えるべきではなく,「巻上ロープの鋼ワイヤの太さの平均は0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるなど他の構成上の特徴を満たしつつも備えることに意味を有する構成であることを見落とすべきではない。
したがって,ワイヤロープの太さは8mm以下であっても鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上0.2mm以下の範囲にないワイヤロープが開示された同公報を,補正発明の進歩性を判断する材料として用いることは誤りである。
(4) 国際公開第00/37738号(甲20。甲21は日本語訳に相当)
この国際公開には,約1.6mmの直径を有するコードがエラストマに挿入されているエレベータ用の平形ロープが開示されている。すなわち,かかる技術を用いた場合,カウンタウエイト及びエレベータカーをそれらの各経路上に支持するものは,「実質的に円形の断面の」巻上ロープではなく,平形ロープである。また,約1.6mmの直径を有するコードは実質的にエラストマに被覆されることとなる。
このように,たとえ8mm以下の直径を有するコードが開示されていようとも,当該コードは平形ロープの構成要素となる点,及びエラストマに被覆されている点の二点において補正発明とは構成が本質的に異なるので,かかるコードが記載された文献を補正発明の進歩性を判断する際に用いる周知技術とすることは誤りである。
(5) 小活
以上のとおり,審決が認定した周知技術2,すなわち8mm以下の太さのワイヤロープがありふれた周知のものであるという認定は根拠のないものであり,かかる誤った認定を前提にした「相違点1に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことである」という判断は,審決の結論に影響する誤った判断である。
2 取消事由2(引用文献記載発明との間の相違点2に関する判断の誤り)
審決は,相違点2を認定しながらも,巻上用のワイヤロープを0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは周知技術(周知技術4)であり,巻上ロープを構成する素線の太さを低減しようとすることは周知の技術課題(周知の技術課題2)であるため,具体的な素線の太さとして「0.1mm以上かつ0.2mm以下」に決定し,相違点2に係る補正後発明の発明特定事項とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた程度のことであると判断した。
しかし,0.3mmの太さの鋼ワイヤを0.1~0.2mmに細くする場合,数値としてその差をみればわずか0.1mm~0.2mmの低減であるものの,太さの低減率で考えれば約33.3~66.6%にも及ぶ。少なくとも33%も太さを低減することが,当業者にとって「格別の創意を要することなく想到できた」はずはない。実際に,本件出願の優先日の時点において,補正発明に係る巻上ロープと構成を同じくする,鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下であるワイヤロープは存在しない。
この点,審決は,特開平6-240590号公報等を周知技術5として挙げている。しかし,特開平6-240590号公報(甲18)に開示されたスチールコードは,巻上ロープは非被覆状態である補正発明とは異なり,実際の使用に当たっては十分なゴムを浸透させることを前提とするものである(例えば,段落【0003】参照)。2001-106453号公報(甲24)に開示されたワイヤロープは,液圧エレベータに用いられるワイヤロープである点で,巻上機が1組の巻上ロープにトラクションシーブによって係合し,巻上ロープはカウンタウエイト及びエレベータカーをそれらの各経路上に支持するエレベータに係る発明である補正発明とは全く異なる。特開平10-132035号公報(甲25)に従来技術として開示されたワイヤロープはエレベータ用として使用できる旨の言及もない上に,公報の趣旨自体ワイヤロープの熱処理方法に関するものである。実開平7-15796号公報(甲26)に開示されたワイヤーロープは,あくまで窓操作用のロープであり,エレベータ用の巻上ロープとして使用することを想定していない。そして,国際公開第00/37738号(甲20。特表2002-533276号公報〔甲21〕を日本語訳として参照)に開示されたエレベータ用引張り部材は,平坦な形状を主な特徴としている(甲20の3頁11行~12行及び甲21段落【0010】参照)。しかし,これらの公報に開示されたワイヤロープ又はそれに相当する部材はいずれも,補正発明に係るエレベータとは本質的に異なる構成下でのみ使用されるものである。そのため,構成上の制限を無視して,単に鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下である点のみを都合良く取り出して,補正発明の進歩性の有無を判断するための周知技術として挙げるべきではない。したがって,補正発明に係るエレベータに関する技術分野の範囲では,鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下であるワイヤロープはありふれた周知技術とはいえない。
以上のとおり,周知技術4及び周知の技術課題2に基づいて素線を鋼ワイヤとするとともにその太さの平均を低減,特に「0.1mm以上かつ0.2mm以下」の値に決定することは,当業者にとって高度な創意を必要とすることである。また,周知技術5として挙げられた公報は,それらに記載された技術の構成上の観点から,引用文献の発明の巻上ロープを「0.1mm以上かつ0.2mm以下」に低減することは容易であったことを推認させる技術とはならない。
なお,審決は,鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」と限定する点につき,周知技術4と比較しての臨界的な意義を認めることはできないとしている。しかし,補正発明で鋼ワイヤの太さの平均を0.1mm以上かつ0.2mm以下とする理由の一面には,明細書段落【0024】にも記載されているように,「細い鋼ワイヤは,太いワイヤより強い材料から製造できる」という側面がある。周知技術4として挙げられた公報はどれも材料選択の優位性については述べていない。そもそも,特開平11-12967号公報(甲23)に至っては,作業ゴンドラ装置等に用いるワイヤロープの開示文献であり,補正発明とは全く技術分野が異なる。そのため,補正発明は,これらの公報に記載された発明が有する効果とは異質な効果を有するといえる。本件補正発明で特定した数値限定に対して技術的意義や臨界的異議がないと決めつけ,当業者が通常なし得る程度の単なる設計的事項にすぎないものであるとして補正発明と引用文献記載の発明の間に存する相違点2を認めなかった審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(引用文献記載発明との間の相違点3に関する判断の誤り)
審決は,相違点3を認定しながらも,エレベータ用の巻上ロープは非被覆状態で用いることが通常である(周知技術6)とし,引用文献記載の発明において昇降ロープを非被覆状態とし,相違点3に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた程度のことであると判断した。
審決は,周知技術6を裏付ける文献として,特開昭59-102787号公報(甲27)と,特開2001-192183号公報(甲28)を挙げている。ところが,甲27の場合,図1を見ると,ロープ6とトラクションシーブ本体3の間の接触角は明らかに180°未満であり,明細書にも接触角に関する特別の記載は見当たらない。同様に,甲28の場合も,ロープ1とシーブ4の間の接触角は明らかに180°未満であり,明細書にも接触角に関する特別の記載は見当たらない。
他方,補正発明では,「巻上ロープとトラクションシーブの間の接触角は180°以上」と定義されている。すなわち,補正発明と周知技術6として挙げられた公報に記載の技術とでは,接触角に関する構成が異なる。かかる構成上の相違を無視して甲27及び甲28を周知技術6として挙げて下した判断は,審決の結論に影響する誤った判断である。
4 取消事由4(先願発明との間の相違点4に関する判断の誤り)
相違点4は,素線の材質が鋼で一致していることを除けば,相違点2と同じある。そのため,審決は,相違点4の検討に際しても,相違点2の検討の場合と同様に,周知の技術課題2並びに周知技術4及び5に基づいて,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた微差程度のことにすぎないと判断した。
しかし,前記のとおり,周知技術4及び周知の技術課題2に基づいて素線を鋼ワイヤとするとともにその太さの平均を低減,特に「0.1mm以上かつ0.2mm以下」の値に決定することは,当業者にとって高度な創意を必要とすることである。また,周知技術5として挙げられた公報は,それらに記載された技術の構成上の観点から,引用文献の発明の巻上ロープを「0.1mm以上かつ0.2mm以下」に低減することは容易であったことを推認させる技術とはならない。
したがって,審決が周知の技術課題2並びに周知技術4及び5に基づいて下した相違点4に関する判断は,審決の結論にも影響する誤ったものである。
5 取消事由5(先願発明との間の相違点5に関する判断の誤り)
相違点5は,相違点3と同じである。そのため,審決は,相違点5の検討に際しても相違点3の検討の場合と同様に,周知技術6に基づいて,先願発明において,補正発明の巻上ロープに相当する支持ケーブルを非被覆状態とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた微差程度のことにすぎないと判断した。
しかし,前記のとおり,補正発明と周知技術6として挙げられた公報に記載の技術とでは,接触角に関する構成が異なり,補正発明を先願発明と対比する際に参酌する周知技術とすべきではない。
したがって,かかる構成上の相違を無視して甲27及び甲28を周知技術6として挙げて下した相違点5に関する判断は,審決の結論にも影響する完全に誤った判断である。
第4被告の反論
1 取消事由1に対し
(1) 原告の主張は,要するに,周知技術2を立証するために例示した甲15,18~20それぞれは,補正発明で特定された巻上ロープの太さ,断面形状,被覆状態,及び鋼ワイヤの太さのいずれかが異なっており,補正発明の巻き上げロープとは本質的に異なっているということである。
しかし,審決は「,8mm以下の太さのワイヤロープ自体がありふれた周知のもの」であることを「周知技術2」とし,この「周知技術2」を裏付けるために甲15,18~20を例示したのであって,これら甲15,18~20に,補正発明のエレベータ用巻上ロープの断面形状,被覆状態,及び鋼ワイヤの太さ等に関して記載されているとは判断していない。
そして,審決は,巻上ロープの太さを低減しようとすることが周知の技術課題1であるとともに,エレベータ用巻上ロープの太さを8mm以下とすることが周知技術1であり,8mm以下の太さのワイヤロープが周知技術2であり,さらに,巻上ロープの断面形状を「実質的に円形」とすることが周知技術3であることから,引用文献記載の発明において,上記周知の技術課題1を解決するために周知技術1及び2を適用するとともに,周知技術3を適用して,相違点1に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたと判断したものである。
(2) また,原告は「巻上ロープは8mm以下の太さを有し」という構成のみを独立した相違点として捉えるべきではない旨を主張している可能性もあるので,念のために補足すると,審決は,補正発明において,上記周知技術2を示すだけでなく,「エレベータ用巻上ロープの太さを8mm以下とする」点については周知技術1に示されている(11頁33行~12頁6行),「実質的に円形の断面」である点については周知技術3に示されている(12頁22行~34行),「巻上ロープの鋼ワイヤの太さの平均は0.1mm以上かつ0.2mm以下」である点については周知技術4及び5に示されている(13頁9行~23行),及び「巻上ロープは非被覆状態である」点については周知技術6に示されている(14頁22行~15頁5行)とした上で,「巻上ロープの形状や太さは,エレベータに想定される運用条件や,巻上ロープのほかの構成等に応じて,設計段階で適宜決定すべき事項である」(12頁35行~36行),「巻上ロープを構成する素線の材質や太さについては,巻上ロープに要求される性能に応じて,巻上ロープの太さやほかの構成等と併せて,設計段階で適宜決定すべき事項である」(13頁24行~26行),及び「補正発明を全体としてみても,その奏する効果は,引用文献記載の発明,周知の技術課題1及び2,周知技術1ないし6から当業者が予測できた範囲内のものであり,格別に顕著な効果ではない。」(15頁9行~11行)のように,補正発明の巻上ロープの上記の個々の構成について個別に判断するのみではなく,上記の個々の構成を考慮して総合的にも判断している。
したがって,相違点1に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が格別の創意を要することなく想到できたことであるとした審決に誤りはない。
2 取消事由2に対し
(1) 原告は,0.3mmの太さの鋼ワイヤを0.1~0.2mmに細くする場合,数値としてその差をみればわずか0.1mm~0.2mmの低減であるものの,太さの低減率で考えれば約33.3~66.6%にも及ぶのであり,少なくとも33%も太さを低減することが,当業者にとって格別の創意を要することなく想到できたはずはない旨を主張する。
しかし,鋼ワイヤの低減率が少なくとも33%であるとしても,エレベータ,クレーン等の巻上機に用いる巻上用のワイヤロープを,0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは周知技術4であり,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープは,周知技術5である(これは,補正発明の鋼ワイヤの太さと同等である。)。また,巻上ロープを構成する素線の太さを低減しようとすることは,周知の技術課題2であることから,引用文献記載の発明においても内在する自明の課題である。しかも,技術の改良に際して当該技術分野における周知の技術事項の適用を試みることは,当業者に期待される通常の創作活動の範囲のことである。してみると,引用文献記載の発明において,上記周知の技術課題2を解決するために,周知技術4及び5を適用して,相違点2に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた程度のことである。
また,原告は,「実際に,本件出願の優先日の時点において,補正発明に係る巻上ロープと構成を同じくする,鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下であるワイヤロープは存在しない」旨を主張するが,当該主張の根拠となる証拠も何ら示されておらず,また,仮に,当該主張が事実であるとしても,このようなワイヤロープが実際に存在したかどうかと,当業者が容易に発明をすることができたかどうかとは別問題であり,実際に存在しなかったことを根拠として,当業者が容易に発明をすることができたものではないと結論することはできないので,原告の主張は失当である。
(2) 原告は,周知技術5を立証するために例示した甲18,24~26及び20のそれぞれについて,「補正発明に係るエレベータとは本質的に異なる構成下でのみ使用されるもの」であり,「補正発明に係るエレベータに関する技術分野の範囲では,鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下であるワイヤロープ」を示すものではなく,したがって「引用文献の発明の巻上ロープを0.1mm以上かつ0.2mm以下に低減することは容易であったことを推認させる技術とはならない」旨を主張する。
しかし,審決で示した周知技術5は,「鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下であるワイヤロープがありふれた周知のもの」,すなわち,鋼ワイヤの太さについて「0.1mm以上かつ0.2mm以下」という数値が,当業者において従前には想像できなかったような極めて小さな数値であるとか,到底実現不可能な数値であるとは認識されておらず,鋼ワイヤの太さを小さな数値に決定する場合,幅広い技術分野においてその候補となり得る程度のありふれた数値であるということを示している。審決は,この周知技術5を裏付けるために甲18,24~26及び20を例示したのであって,補正発明のロープの断面形状や被覆状態,使用する技術分野等に関して甲18,24~26及び20号証に開示されているとは判断していない。なお,原告が主張するように,これら甲18,24~26及び20はロープとしての具体的な構成がそれぞれ異なるが,それにもかかわらず「0.1mm以上かつ0.2mm以下」という鋼ワイヤの太さにおいて共通しているということは,取りも直さず「0.1mm以上かつ0.2mm以下」が種々のロープに採用され得るありふれた数値であることの証左にほかならない。
また,原告は,鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下である点のみを都合良く取り出して,補正発明の進歩性の有無を判断するための周知技術として挙げるべきではない旨も主張する,前記のとおり,審決は,「巻上ロープを構成する素線の材質や太さについては,巻上ロープに要求される性能に応じて,巻上ロープの太さやほかの構成等と併せて,設計段階で適宜決定すべき事項である」(13頁24行~26行),及び「補正発明を全体としてみても,その奏する効果は,引用文献記載の発明,周知の技術課題1及び2,周知技術1ないし6から当業者が予測できた範囲内のものであり,格別に顕著な効果ではない。」(15頁9行~11行)のように,補正発明の巻上ロープの鋼ワイヤの太さについて個別に判断するのみではなく,ほかの個々の構成と併せて総合的にも判断している。
(3) 補正発明において,鋼ワイヤの太さの平均を0.1mm以上かつ0.2mm以下であるとの数値に限定することの意義について検討する。
まず,「0.1mm以上かつ0.2mm以下」という数値の技術的意義について,本願明細書には,「本発明に適用可能なロープは,ワイヤ太さが平均で0.4mm以下である。強力ワイヤからなる良好に適用可能なロープは,平均ワイヤ太さが0.3mm,または0.2mm以下でさえある。たとえば,細いワイヤの強力な4mmロープは,ロープ完成時の平均ワイヤ太さが0.15~0.25mmの範囲にあるようなワイヤから比較的経済的に撚って作ることができる。一方,最も細いワイヤはわずかに約0.1mmの太さを有するものでもよい。」(甲4,段落【0012】),「細いワイヤを使用すれば,ロープ自体を細くできる。これは,細い鋼ワイヤは,太いワイヤより強い材料から製造できるからである。たとえば,0.2mmワイヤを用いれば,かなり良好な構造の太さ4mmのエレベータ巻上ロープを製造できる。使用する巻上ロープの太さや他の理由に応じて,鋼ワイヤロープの各ワイヤは,好ましくは0.15mmと0.5mmの間の太さを有するのがよく,この範囲では,個々のワイヤでさえ,十分な耐磨耗性,および損傷に対する十分に低い脆弱性を有する良好な強度特性の鋼ワイヤが容易に入手できる。」(甲5,段落【0024】)等と記載されている程度である。これらの記載からは,ワイヤ太さに関して,「細いものが好ましい」(これは,周知の技術課題2と共通する。),せいぜい,「強いワイヤを用いればワイヤ太さを小さく,ロープを細くできる」という程度の技術的意義が示されているにすぎない。また,鋼ワイヤの具体的な太さについては,「0.4mm以下」,「0.3mm以下」,「0.2mm以下」,「0.1mm」,「0.15ないし0.25mmの範囲」,「0.15ないし0.5mmの範囲」というような適宜の値を取り得ることが示されており,鋼ワイヤの太さを決定するに際しては,これらの複数ある選択肢から適宜選択したという意味を越えて,格別の技術的意義は存在しない。
してみると,補正発明における「0.1mm以上かつ0.2mm以下」という限定に格別の技術的意義や有利な効果が存在しないことから,鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」とする点に臨界的な意義はない。なお,臨界的な意義とは,「請求項に係る発明が引用文献記載の発明の延長線上にあるとき,すなわち,両者の相違が数値限定の有無のみで,課題が共通する場合は,有利な効果について,その数値限定の内と外で量的に顕著な差異があることが要求される」,この顕著な差異のことである(審査基準第Ⅱ部第2章 2.5(3)④参照。)。
原告は,臨界的な意義について,補正発明で鋼ワイヤの太さの平均を0.1mm以上かつ0.2mm以下とする理由の一面には,明細書段落【0024】にも記載されているように,「細い鋼ワイヤは,太いワイヤより強い材料から製造できる」という側面があるところ,周知技術4として挙げられた公報はどれも材料選択の優位性については述べておらず,そのため,補正発明には,審決が掲げた公報に記載された発明が有する効果とは異質な効果を有するといえる旨を主張する。
しかし,補正発明と同様の太さの鋼ワイヤは,上記のとおり,上記周知技術4及び5に示されているのであるから,上記の効果は上記周知技術4及び5にも内在する効果であり,異質な効果とはいえない。しかも,上記の効果は,太いワイヤに対する細いワイヤの相対的な一般的効果を示しているにすぎず,鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」とすることに対応する効果ではない。
(4) なお,原告は,周知技術4を立証するために例示した文献の一つである甲23が「作業ゴンドラ装置等に用いるワイヤロープ」であり,補正発明とは全く技術分野が異なる旨を主張する。
しかし,甲23には,「作業用ゴンドラ装置やクレーン装置等の機器において,その機器系統内での荷重の負担…(中略)…に用いることができる…(中略)…ワイヤロープ」(段落【0001】),「巻上機から導出された昇降用のワイヤロープでゴンドラを支持し,このゴンドラ内に作業員が乗り込んで所定の作業を行う」(段落【0002】)等の記載がある。そして,作業用ゴンドラ装置はエレベータと同じく人間が乗り込むため厳しい安全基準が要求されるものであることや,例えば「このようなワイヤロープ100は,…(中略)…具体的な用途としては,…(中略)…クレーン用,エレベータの吊持用,…(中略)…等が挙げられる。」(甲17,段落【0006】),「本発明のロープは,前述のエレベータ以外の用途にも利用が可能である。その1つとして,揚重用クレーンに適用した場合…(後略)…」(甲22,段落【0070】),及び「1.適用範囲 この規格は,機械,エレベータ,建設,…(中略)…などに用いる一般用ワイヤロープ(以下,ロープという。)について規定する。」(甲16第2頁8行~9行。クレーン用途は「建設」に含まれる。)と記載されているように,エレベータ用とクレーン用とでは共通のワイヤロープが用いられることが広く知られていることからも明らかなように,甲23に記載されたワイヤロープは,補正発明とは全く技術分野が異なるものではない。
また,原告は甲23のみを殊更取り上げて反論しているが,審決において周知技術4を立証するために例示した甲17,19,22には「エレベータの巻上機に用いる巻上用のワイヤロープ」が示されている。
(5) したがって,相違点2に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた程度のことであるとした審決に誤りはない。
3 取消事由3に対し
審決は,「エレベータ用の巻上ロープは,非被覆状態で用いることが通常」であることを周知技術6とし,この周知技術6を裏付けるために甲27及び28を例示したのであって,甲27及び28は,補正発明における「巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角が180°以上」であることに関して示したものではない。そして,補正発明における「巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角が180°以上」であることは,原告も認めるとおり,引用文献記載の発明に示されている。
本願明細書には,「転向プーリを使用する接触角を増すことによって,トラクションシーブと巻上ロープの間の把持力を向上できる。」(甲5,段落【0013】),「被覆ロープまたは非被覆ロープのどちらも使用できる。」(甲8,段落【0045】)と記載されているように,巻上ロープを非被覆状態で用いることに格別の技術的意義はなく,また巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角を180°以上とすることの技術的意義は,トラクションシーブと巻上ロープの間の把持力を向上することにある。そして,本願明細書には,「巻上ロープを非被覆状態で用いること」と「巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角を180°以上とすること」との技術的関連性を示す記載や示唆はない。してみると,エレベータ用の巻上ロープを非被覆状態で用いることと,巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角を180°以上とすることとは,技術的関連性のない独立した技術事項といえるから,相違点3を判断するに際し,「巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角を180°以上とすること」を考慮する理由はない。さらに,前記のとおり,審決は,「補正発明を全体としてみても,その奏する効果は,引用文献記載の発明,周知の技術課題1及び2,周知技術1ないし6から当業者が予測できた範囲内のものであり,格別に顕著な効果ではない。」(15頁9行~11行)としたように,補正発明全体について総合的に判断している。
したがって,相違点3に係る補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が設計上適宜に決定できた程度のことであるとした審決に誤りはない。
4 相違点4に対し
前記のとおり,審決における相違点2についての判断に誤りはなく,同様の理由により,相違点4についての判断にも誤りはない。
5 相違点5に対し
前記のとおり,審決における相違点3についての判断に誤りはなく,同様の理由によって,相違点5についての判断にも誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(引用文献記載の発明との間の相違点1に関する判断の誤り)について
(1) 本件補正後のものを含む本願明細書(甲4,甲5,甲8,甲11)によれば,補正の前後を通じての本願発明は,エレベータ,好ましくは機械室なしエレベータに関するものであり,主たる適用領域は,乗客や貨物の輸送に設計されたエレベータであって,巻上機械が1組の巻上ロープにトラクションシーブによって係合し,この1組の巻上ロープは実質的に円形の断面の複数の巻上ロープを含み,カウンタウエイトおよびエレベータカーをそれらの各経路上に支持するものであること,その第1の目的は,建物及びエレベータシャフト内で従来より効率的な空間利用をさらに行なえる機械室なしエレベータを開発することであり,第2の目的は,エレベータの大きさや重量,又は少なくともその機械装置の大きさや重量を減らすことであり,第3の目的は,細い巻上ロープや小さいトラクションシーブを有し,巻上ロープがトラクションシーブに良好に把持/接触するエレベータを達成することであって,その際,基本的なエレベータ配置を変更できる可能性を損なうことなく達成するようにしたものであり,そのために,実質的に円形の巻上ロープは8mm以下の太さを有し,又はトラクションシーブの径は320mm以下であり,巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角は180°以上としたものであることが認められる。
(2) 甲15(ワイヤロープハンドブック編集委員会編「ワイヤロープハンドブック」,日刊工業新聞社,平成7年〔1995年〕3月30日発行)の記載(632頁10行~17行)によれば,エレベータの巻上ロープの太さを低減しようとすることは周知の技術的課題(周知の技術的課題1)であると認められる。
また,甲15,甲16(JIS G 3525:1998),甲32(ISO4344 First Edition-1983-12-01),甲17(特開平9-21084号公報)の記載によれば,エレベータ用巻上ロープの太さを8mm以下とすることは,周知技術(周知技術1)であると認められる。
さらに,甲15の625頁,甲16の表1,甲17の図6,甲18(特開平6-240590公報)の図1,2によれば,エレベータにも用いられるワイヤロープにおいて,実質的に円形の断面のロープは周知技術(周知技術3)であることが認められる。
そうすると,補正発明と「巻上機械が1組の巻上ロープにトラクションシーブによって係合し,該1組の巻上ロープは複数の巻上ロープを含み,該1組の巻上ロープはカウンタウエイトおよびエレベータカーをそれらの各経路上に支持するエレベータにおいて,前記巻上ロープとトラクションシーブとの間の接触角は180°以上であり,前記巻上ロープは素線を構成要素とする,エレベータ」である点で一致する引用文献記載の発明においても,周知の技術的課題1が内在していると認められるから,それらと共通するエレベータ,特にワイヤロープに係る技術分野に属する周知技術1及び周知技術3を引用文献記載の発明に適用することで,「相違点1」の構成である「補正発明では,巻上ロープが『実質的に円形の断面』であり,『前記実質的に円形の巻上ロープは8mm以下の太さを有し』ている」構成を想到することは,当業者が容易になし得たことであるというべきである。
(3) 原告は,審決が,8mm以下の太さのワイヤロープ自体がありふれた周知のもの(周知技術2)であることを裏付けるために挙げている文献は,いずれも進歩性の有無を検討する材料として用いるには相応しくないと主張する。
しかし,8mm以下の太さのワイヤロープそれ自体がありふれた周知のものでないとしても,前記のとおり,エレベータ用巻上ロープの太さを8mm以下とすることは周知技術(周知技術1)であると認められるのであるから,周知技術2の周知性の有無により相違点1の判断が変わるものではなく,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
なお,原告は,甲15に記載されたミニロープのエレベータ用への適用に関し,特開平9-21084号公報(甲17)には略4mmφのワイヤロープが記載されているとしても,このワイヤロープは補正発明と異なり,ロープ本体に被覆層が被覆されているものである旨主張する。
確かに,甲17に記載されたロープは被覆層が形成されている。しかし,後記3における取消事由3についての判断のとおり,そもそも補正発明において被覆層を形成するか否かは選択的事項に位置付けられているにすぎないことに照らすと,その直径が4mmであることをもって周知技術を認定することを妨げるものではないというべきである。
2 取消事由2(引用文献記載の発明との間の相違点2に関する判断の誤り)について
(1) 甲17,甲22(特開2001-262482号公報),甲23(特開平1-12967号公報)の記載によれば,エレベータ,クレーン等の巻上機に用いる巻上用のワイヤロープを,0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは,周知技術(周知技術4)であると認められる。
また,甲18(特開平6-240590号公報),甲24(特開2001-10643号公報),甲25(特開平10-132035号公報),甲26(実開平7-15796号公報),甲20(国際公開第00/37738号,特表2002-533276号公報〔甲21〕が翻訳文に相当)によれば,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープを構成することは,ありふれた周知技術(周知技術5)であると認められる。
すなわち,エレベータ,クレーン等の巻上機に用いる巻上用のワイヤロープを0.3mm程度の太さの鋼ワイヤで構成することは周知技術4であると認められ,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープを構成することは,ありふれた周知技術5であると認められる。
そうすると,一般に,周知技術を採用することは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得るものであるから,引用文献記載の発明に周知技術4を適用することは単なる設計上の事項にすぎないものである。そして,その際,前記のとおり,エレベータの巻上ロープの太さを低減しようとすることが周知の技術的課題1と認められることからすれば,さらに太さを低減するために,その構成要素である素線やストランドの構成と合わせて素線の太さを細くすることも選択肢となることはその機序に照らして容易に認められるから,素線について,より細い径を選択することも設計上可能であるというべきである。すなわち,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープ自体がエレベータ用であるか否かはともかくとして,これは普通に使用されるワイヤロープの構成材料であるから(周知技術5),引用文献記載の発明に周知技術4を適用する際に,かかる周知技術5の知見を得て,そのワイヤロープの鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」に設定することは当業者であれば容易に想到し得たものというべきである。
また,引用文献記載の発明に周知技術4を適用する際に,かかる周知技術5の知見を加えて,そのワイヤロープの鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」に設定することを妨げる事情は見当たらない。むしろ,本願明細書の段落【0012】には,平均のワイヤ太さが,「0.4mm以下」,「0.3mm,または0.2mm以下」,「0.15~0.25mmの範囲」又は「約0.1mm」というような幅のある任意の値を選択することができることが記載されており,選択し得る値には,周知技術4の鋼ワイヤの太さも含まれることになるのであるから,補正発明が,鋼ワイヤの太さの平均が「0.1mm以上かつ0.2mm以下」であるワイヤロープという構成を採用したことに格別の技術的意義を認めることはできない。
よって,相違点2は,引用文献記載の発明に周知技術4を適用する際に,周知技術5を考慮して当業者が適宜設定し得る事項でしかなく,また,その効果も,格別の意義を呈するようなものではないというべきである。相違点2は,当業者が容易に想到することができたことと認められ,同旨の判断をした審決に誤りはない。
(2) 原告は,0.3mmの太さの鋼ワイヤを0.1~0.2mmに細くすることは,太さの低減率で考えれば約33.3~66.6%にも及ぶので,格別の創意を要するものであるし,実際に,本件出願の優先日の時点において,補正発明に係る巻上ロープと構成を同じくする鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下であるエレベータ用のワイヤロープは存在しなかったと主張する。
しかし,前記のとおり,0.3mmの太さの鋼ワイヤを0.1~0.2mmに細くすることは当業者が容易に想到することができたことであって,太さの低減率や本件出願の優先日の時点において,補正発明に係る巻上ロープと構成を同じくする鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下であるエレベータ用のワイヤロープは存在しなかったことをもって想到困難であるということはできない。
(3) また,原告は,審決が示した周知技術5の根拠となった文献にかかる技術は,補正発明に係るエレベータとは本質的に異なる構成下でのみ使用されるものであるから,構成上の制限を無視して,単に鋼ワイヤの太さの平均が0.1mm以上かつ0.2mm以下である点のみを都合良く取り出すことはできないと主張する。
しかし,審決は,周知技術5により,「0.1mm以上かつ0.2mm以下」という鋼ワイヤの太さがワイヤロープを構成するものとしてありふれた数値の範囲であることを示しているにすぎないのであるから,エレベータと同様の構成下で使用される鋼ワイヤの太さについての周知技術を審決が認定したことを前提とするかのような原告の主張は,審決を正解しないものであって,採用することができない。
(4) さらに,原告は,本願明細書には,「細い鋼ワイヤは,太いワイヤより強い材料から製造できる」(段落【0024】)との記載があるところ,周知技術4として挙げられた公報はどれも材料選択の優位性の側面については記載されておらず,補正発明は周知技術4,5とは異なる異質の効果を有すると主張する。
しかし,補正発明と同様の太さの鋼ワイヤは,上記のとおり,周知技術4及び5に示されているところ,補正発明の鋼ワイヤの太さの効果は周知技術4及び5にも内在する効果であって,異質な効果とはいえない。また,本願明細書に記載されている効果(段落【0024】)は,太いワイヤに対する細いワイヤの相対的な一般的効果を示しているにすぎず,鋼ワイヤの太さの平均を「0.1mm以上かつ0.2mm以下」とすることに対応する効果ではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3 取消事由3(引用文献記載の発明との間の相違点3に関する判断の誤り)について
(1) 甲27(昭59-102787号公報),甲28(特開2001-192183号公報)の記載によれば,エレベータ用の巻上ロープにおいて,当該ロープを非被覆状態で用いることは,周知技術(周知技術6)であると認められる。
また,本願明細書の段落【0045】には,本願発明を適用することによって達成できる利点の一つとして,「・・・被覆ロープまたは非被覆ロープのどちらも使用できる。・・・」との記載がある。
そうすると,相違点3の「補正発明では,『巻上ロープは非被覆状態である』のに対し,甲1は,巻上ロープが被覆されているかどうかが明らかではない点」は,周知技術6の差異にすぎない上,補正発明においても,非被覆とするか否かは選択的事項と位置付けられているから,当業者が必要に応じて適宜採用し得る事項にすぎないものである。
よって,相違点3は,当業者が容易に想到することができたことであるというべきである。
(2) 原告は,甲27,甲28を見ると,接触角は明らかに180°未満であり,明細書に接触角に関する特別の記載はないのに対して,補正発明は,「巻上ロープとトラクションシーブの間の接触角は180°以上」と特定しているので,両者は,接触角に関する構成が異なるものであって,かかる構成上の相違を無視して周知技術6を認定した判断は誤りであると主張する。
しかし,本願明細書には,「転向プーリを使用する接触角を増すことによって,トラクションシーブと巻上ロープの間の把持力を向上できる。したがって,エレベータカーおよびカウンタウエイトの重量を減らすことができ,それらの大きさも同様に減らせるので,エレベータの空間節約の可能性が向上する。これに代わって,またはそれと同時に,カウンタウエイトの重量に対するエレベータカーの重量を減らすことができる。1つ以上の補助転向プーリを使用することによって,トラクションシーブと巻上ロープの間に180°以上の接触角が得られる。」(段落【0013】),「本発明のエレベータの好ましい実施例は,機械装置を上方に有する機械室なしエレベータである。その駆動機械は,被覆トラクションシーブを含み,実質的に円形の断面の細い巻上ロープを使用する。エレベータの巻上ロープとトラクションシーブの間の接触角は,180°以上である。このエレベータは,駆動機械,トラクションシーブ,およびトラクションシーブに対して正しい角度で配設された転向プーリを含み,これらの装置はすべて装着基台に配設されている。このユニットはエレベータ案内レールに保持されている。」(段落【0014】)との記載がある。かかる記載によれば,接触角を180°以上とすることの技術的意義は,トラクションシーブと巻上ロープの間の把持力を向上することにあると認められる。しかも,本願明細書に接触角と非被覆状態との技術的関連性についても特段開示はなく,いずれも,把持力を向上させるための手段として各別に採用された構成とみるのが自然である。したがって,相違点3を判断する際に接触角の差異を考慮しなければならないとは認められず,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由4(先願発明との間の相違点4に関する判断の誤り)について
相違点2は,引用文献記載の発明に周知技術4を適用する際に,周知技術5を考慮して当業者が適宜設定しうる事項でしかなく,また,その効果も,格別の意義を呈するようなものではないことは前記2のとおりである。そうすると,相違点2と内容を同じくする相違点4も,課題解決のための具体化手段における微差にすぎないものと認められ,同旨の判断をした審決に誤りはないというべきである。
5 取消事由5(先願発明との間の相違点5に関する判断の誤り)について
相違点3の「補正発明では,『巻上ロープは非被覆状態である』のに対し,甲1は,巻上ロープが被覆されているかどうかが明らかではない点」は,周知技術6の差異にすぎない上,補正発明においても,非被覆とするか否かは選択的事項と位置付けられているから,当業者が必要に応じて適宜採用し得る事項にすぎないものであることは,前記3のとおりである。そうすると,相違点3と内容を同じくする相違点5も,課題解決のための具体化手段における微差にすぎないものと認められ,同旨の判断をした審決に誤りはないというべきである。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 真辺朋子 裁判官 田邉実)