知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10158号 判決 2012年1月30日
原告
株式会社ジェイテクト
訴訟代理人弁護士
上谷清
永井紀昭
仁田陸郎
萩尾保繁
山口健司
薄葉健司
石神恒太郎
弁理士
鶴田準一
大橋康史
被告
Y
訴訟代理人弁護士
小林幸夫
坂田洋一
弁理士
幸田全弘
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告が求めた判決
特許庁が無効2009-800198号事件について平成23年4月5日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,被告からの無効審判請求に基づき原告の特許を無効とする審決の取消訴訟である。争点は,訂正後の請求項1,2に係る発明の進歩性(容易想到性)の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年9月17日,名称を「転がり軸受装置」とする発明につき,特許出願をし(特願2002-270208号),平成20年7月7日,この出願の一部を分割する分割出願をし,平成21年5月15日,特許登録を受けた(特許第4305562号,請求項の数は3)。
被告は,平成21年9月11日,請求項1ないし3につき特許無効審判請求をした(無効2009-800198号)。特許庁は,平成22年8月3日,原告による訂正を認め,本件特許を無効とするとの第一次審決をした。
そこで,平成22年9月10日,原告が第一次審決の取消しを求める訴えを提起するとともに,同年11月9日,特許請求の範囲の記載の一部及び明細書の発明の詳細な説明の記載の一部をそれぞれ改める訂正審判請求をして,同年11月26日,特許法181条2項に基づく第一次審決の取消決定を得た。原告は,平成22年12月17日,同訂正審判請求と同一の内容の訂正請求をしたので(本件訂正),訂正審判請求は取り下げたものとみなされた(特許法134条の3第4項)。
特許庁は,平成23年4月5日,「訂正を認める。特許第4305562号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,この謄本は同月14日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨
本件発明は,車両等に用いられる転がり軸受装置に関する発明で,本件訂正後の特許請求の範囲は以下のとおりである。
【請求項1(本件発明1)】
「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と,前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり,前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面および前記内輪の外周面に軸方向二列の第1,第2内輪軌道面を有する内輪部材と,
内周面に前記内輪部材の二列の第1,第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1,第2外輪軌道面を有し,前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と,
前記外輪部材の第1,第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1,第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1,第2転動体群とを含み,
前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において,車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と,車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係が,D1>D2に設定され,前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1を大きく設定し,
前記D1と前記D2との関係が,D1≦1.49×D2に設定されており,
前記第1,第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて,さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように,前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されているとともに,
前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている転がり軸受装置。」
【請求項2(本件発明2)】
「請求項1の転がり軸受装置において,
前記第1転動体群の各転動体の直径が,前記第2転動体群の各転動体の直径の88%よりも小さく,81%よりも大きく設定されている転がり軸受装置。」
【請求項3(本件発明3)】
「請求項2の転がり軸受装置において,
前記第1転動体群の転動体数が,前記第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定されている転がり軸受装置。」
3 審決の理由の要点
被告が掲げた技術文献の証拠方法は甲第1ないし第23号証であるが,本件発明1ないし3は,甲第1号証に記載された発明に甲第2,第3号証に記載された発明ないし技術的事項及び周知技術に基づいて,当業者において容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠く。
【甲第1号証】 特開昭57-6125号公報
【甲第2号証】 米国特許第5226737号明細書
【甲第3号証】 転がり軸受工学編集委員会編「転がり軸受工学」(昭和51年5月20日株式会社養賢堂発行)81,82頁
【甲第8号証】 曽田範宗著「軸受」(1986年9月25日株式会社岩波書店発行)92,93,114~117,122~133頁
【甲第9号証】 特公平8-3333号公報
【甲第10号証】 特開平6-320903号公報
【甲第11号証】 特開平10-181304号公報
【甲第12号証】 特開平11-118816号公報
【甲第13号証】 特開平6-307438号公報
【甲第14号証】 特開2001-88510号公報
【甲第15号証】 特開2001-180212号公報
【甲第16号証】 特開平10-185717号公報
【甲第17号証】 特開昭53-132641号公報
【甲第18号証】 特開2000-186721号公報
【甲第19号証】 特開2001-304277号公報
【甲第20号証】 特開平11-321211号公報
【甲第21号証】 特開2000-130433号公報
【甲第22号証】 光洋精工株式会社(現在の原告)発行「Koyo ENGINEERING JOURNAL No.147」(平成7年)51~56頁
【甲第23号証】 光洋精工株式会社発行「Koyo ENGINEERING JOURNAL No.131」(昭和62年)16~22頁
【甲第1号証に記載された発明(甲第1号証発明)】
「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジ(4)を有し,軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有する一体形内輪(2)と,
内周面に上記内輪(2)の二列の軌道溝(16)(15)と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の軌道溝(14)(13)を有し,軌道溝(14)より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジ(3)を有する外輪(1)と,
外輪(1)の軌道溝(14)(13)と内輪(2)の軌道溝(16)(15)との間に介装された複数のボール(6)(5)からなる二列のボール(6)(5)列とを含み,
負荷容量をさらに大きくするため外輪(1)の軌道溝(14)と内輪(2)の軌道溝(16)との間に形成されるフランジ(4)寄りの軌道(Ⅰ)の直径を大きくして内輪のフランジ寄りの列のボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした,フランジ付ユニット軸受。」
【本件発明1と甲第1号証発明の一致点(本件発明2,3と甲第1号証発明の一致点も同様である。)】
「軸方向一方側の外周面に車両アウタ側のフランジを有するハブ軸と,前記ハブ軸の軸方向他方側に軸方向二列の第1,第2内輪軌道面を有する内輪部材と,
内周面に前記内輪部材の二列の第1,第2内輪軌道面と径方向でそれぞれ対向する軸方向二列の第1,第2外輪軌道面を有し,前記第1外輪軌道面より軸方向他方側における外周面に車両インナ側のフランジを有する外輪部材と,
前記外輪部材の第1,第2外輪軌道面と前記内輪部材の第1,第2内輪軌道面との間に介装される軸方向二列の第1,第2転動体群とを含み,
前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間において,車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1と,車両インナ側の前記第2転動体群のピッチ円直径D2との関係が,D1>D2に設定され,
前記第1転動体群の転動体数が前記第2転動体群の転動体の数よりも増大されている転がり軸受装置。」である点
【本件発明1と甲第1号証発明の相違点】
・ 相違点1
本件発明1は,内輪部材が上記ハブ軸と「前記ハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に嵌合装着された内輪とからなり」,上記ハブ軸の軸方向他方側「の外周面および前記内輪の外周面」に軸方向二列の第1,第2内輪軌道面を有するものであるのに対し,甲第1号証発明は,内輪部材がハブ軸と内輪を一体的に形成したものであることから,「軸方向他方側の外周面に軸方向二列の軌道溝(16)(15)を有する一体形内輪(2)」である点。
・ 相違点2
本件発明1は「,前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1を大きく設定し,前記D1と前記D2との関係が,D1≦1.49×D2に設定されて」いるものであるのに対し,甲第1号証発明は,負荷容量をさらに大きくするためにD1>D2に設定したものであって,当該D2に対してD1がどの程度大きいか明らかではない点。
・ 相違点3
本件発明1は,「前記第1,第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて,さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように,前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されている」のに対し,甲第1号証発明は,転動体(二列のボール(6)(5))の直径の大小関係が明らかではないものの,技術常識及び図面からは同一の大きさであるものと捉えられる点。
【本件発明2と甲第1号証発明の相違点(相違点1ないし3以外のもの)】
・ 相違点4
本件発明2は,前記第1転動体群の各転動体の直径が,前記第2転動体群の各転動体の直径の88%よりも小さく,81%よりも大きく設定されているのに対し,甲第1号証発明は,上記第1転動体群の各転動体の直径が,前記第2転動体群の各転動体の直径に対してどの程度か明らかでなく,第7図からは両者の直径が同一に見える点。
【本件発明3と甲第1号証発明の相違点(相違点1ないし4以外のもの)】
・ 相違点5
本件発明3は,前記第1転動体群の転動体数が,前記第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定されているのに対し,甲第1号証発明は,第1転動体群と第2転動体群の転動体数の比率が明らかではない点。
【本件発明1と甲第1号証発明の相違点に係る構成の容易想到性判断(27~41頁)】
「(2-1) 転がり軸受装置の技術水準について
上記相違点を検討するにあたって,転がり軸受装置に関する技術水準を基本的事項として整理すると,以下のとおりである。・・・
(2-1-1) 転がり軸受装置の形式
(i) 甲第22号証には,『第2世代ハブユニットは外輪回転タイプと内輪回転タイプに大別される。外輪回転タイプは・・・。これに対し内輪回転タイプは,外輪に一体化されたフランジ部をナックル[車両インナ側]に取り付け,内輪に圧入嵌合されたハブシャフトにホイールを取り付けて使用するタイプで,駆動輪にも従動輪にも使用されている。・・・
第3世代ハブユニットは内輪回転タイプ第2世代ハブユニットのアウタ側内輪とハブシャフトを一体化した形状で,よりユニット化が進んだ構造となっている。』(第52ページ右欄上段)と記載され,第52ページ左欄の図1『ホイール用軸受および周辺構造の変遷』及び第53ページの図4『第2世代ハブユニット』,図5『第3世代ハブユニット』には,それぞれ第2世代ハブユニット及び第3世代ハブユニットの内輪部材を含む構造が記載されている(上記ハブユニットは,本件発明1の『転がり軸受装置』に相当する。以下同じ。)。
(ii) 甲第23号証の第21ページの図8『ハブユニット軸受の各世代比較』には,第1世代~第4世代の転がり軸受装置の構造図とともにその特徴が記載されている。特に,第3世代を示す構造図は,左側に『分離内輪付』,右側に『内輪一体型』が示されており,当該分離内輪付は,甲第22号証に記載された第3世代ハブユニットと同様に,内輪回転タイプ第2世代ハブユニットのアウタ側内輪とハブシャフトを一体化した形状(本件発明1の内輪部材の形式)を有しており,当該内輪一体型は,アウタ側内輪及びインナ側内輪をハブシャフトに一体化した形状(甲第1号証発明の内輪部材の形式)を有している。そして,甲第23号証の第22ページの左欄には,1990年までの10数年のハブユニットに関する採用状況が図9『ハブユニット軸受の採用状況』に示され,車種によって上記第2世代ハブユニット,上記第3世代(分離内輪付)ハブユニット,及び上記第3世代ハブユニット(図9の左欄には注釈がないが図8などから見て『内輪一体型』と解される。)が選択的に用いられていることが理解できる。
(iii) 上記(i)及び(ii)から,本件発明1の出願時において,甲第1号証発明のように内輪を一体に形成した内輪一体型のハブユニットと,本件発明1のように車両インナ側の内輪を嵌合装着するとともに車両アウタ側の内輪をハブシャフトと一体化した分離内輪付のハブユニットは,車種に応じた要求仕様や企業の設計思想などに基づいて適宜選択して用いられていたものと解される。
(2-1-2) 転がり軸受装置の課題
(iv) 『ホイール軸受[転がり軸受装置]に要求される基本的な性能として寿命,剛性が挙げられる。』(甲第22号証の第52ページ右欄中段)
(v) 『軸受の内外輪または転動体のいずれかに疲れによるはく離が起こり始めるまでの総回転数を,与えられた一定荷重のもとにおける寿命とよぶ。』(甲第8号証第123ページ中段)
(vi) 『このように,ハブユニット軸受10では,互いに二律背反である高寿命や高剛性と,重量低減や低コストとを共に満足することができる。』(甲第11号証の段落【0029】)
(vii) 『軸受の転がり寿命を維持しつつ軸受の剛性アップが図れる。』(甲第13号証の段落【0017】)
(viii) 『予圧量が9810N(1000kgf)より大きいと,軸受剛性を高めることができるが,それだけ軸受の負荷が増大するため,軸受寿命の低下を招く。』(甲第15号証の段落【0046】)
(ix) 上記(iv)~(viii)から,転がり軸受装置において,寿命,負荷容量又は剛性(転がり軸受装置の剛性とは,特に注釈がない限り『モーメント剛性』を意味する。以下,同じ。)を課題として捉えることは,周知事項であり,転がり軸受装置の設計にあたって,寿命又は負荷容量に重点を置くか,剛性に重点を置くか,又は,両者の適切なバランスをとるか,ということは,車種に応じた要求仕様や企業の設計思想などに基づいて検討されていたものと解される。
(2-1-3) 転がり軸受装置のモーメント剛性に影響を与える要素
(x) 『耐モーメント剛性は,軸受の作用点間距離S[軸受負荷中心間距離]が長く,軸方向及び径方向の支持剛性が高いほど有利となる。』(甲第23号証第20ページ左欄下)
(xi) 『本発明では,(1)同一空間内で軸受のスパン[軸受負荷中心間距離]を広く採る設計が可能となり,軸受剛性を大きく向上させることが可能となる。(2)同一空間内で内部諸元を変更し,転動体個数を増加させて軸受剛性を向上させたり,外方部材の肉厚やフランジの肉厚を最適化して外方部材の変形を抑え,軸受剛性を向上させることが可能となる。』(甲第14号証の段落【0011】)
『同一空間内で内部諸元を変更し,転動体個数を増加させて軸受剛性を向上させたり,外方部材24の肉厚やフランジ23の肉厚を最適化して外方部材24の変形を抑え,軸受剛性を向上させることが可能となる。』(甲第14号証の段落【0024】)
(xii) 『ハブユニット軸受50[転がり軸受装置]の耐久性や寿命を向上させるためには,ボール54[転動体]の径の大径化,ボール54のPCD[ピッチ円直径]拡大,ボール54間のスパン[軸受負荷中心間距離]拡大,等で対応することが可能である。』(甲第11号証の段落【0006】)
(xiii) 甲第22号証には,『ハブユニット軸受[転がり軸受装置]の剛性に関する要因としては,下記4項目が挙げられる。』として,『(1)作用点間距離』,『(2)外輪・内軸強度』,『(3)アキシアルすきま』,『(4)ボール構成』が記載され,そのうち『(1)作用点間距離』について,以下のように記載されている。
『作用点間距離[軸受負荷中心間距離]は,軸受の内部諸元により幾何学的に求まる。作用点間距離をSとすると,
S=DM・tanα+L
ここで,L:球心距離
DM:ボールのピッチ円直径
α:接触角
例えば,図3から分かるように,同じ外形寸法の場合,DAC+ハブに対し第2世代ハブユニットにすることにより,
(1) トータルでの外輪肉厚を薄くできることから,DMを大きくできる。
(2) 軸シール内蔵タイプにすることで,Lを大きくすることができる。
その結果作用点間距離を大きくすることが可能,言い換えれば,剛性を大きくすることが可能となる。』(甲第22号証の第53ページ左欄中段~第54ページ左欄(審決注:丸数字の1,2をそれぞれ(1),(2)と表記した。))
(xiv) 甲第8号証の第128ページの『(i)転動体の直径,d』の項の式,及び同第129ページ『(ii)一列中の転動体数,z』の項の式から,玉軸受の負荷容量C(『動負荷容量』又は『基本負荷容量』と近似した概念と考えられる。)は,転動体の直径dの1.8乗(d≦25.4mmの場合)に比例し,転動体数zの2/3乗に比例するものであるから,転動体の直径dを大きくした場合も,転動体数zを増やした場合も,負荷容量は大きくなるものの,転動体の直径dを大きくする方が転動体数zを増やすより負荷容量を大きくする効果が大きいものと解される。
他方,甲第8号証の第117ページの(3.42)式から,玉軸受の弾性変位量(変形接近量)δは,転動体直径dの1/3乗の逆数に比例し,転動体数zの2/3乗の逆数に比例する。そして,剛性は,上記弾性変位量δの逆数に比例するから,結局,玉軸受の剛性は,転動体直径dの1/3乗に比例し,転動体数zの2/3乗に比例するから,転動体の直径dを大きくした場合も,転動体数zを増やした場合も,剛性は大きくなるものの,転動体数zを増やす方が転動体の直径dを大きくするより剛性を向上させる効果が大きいものと解される。
(xv) 乙参考図4は,甲第8号証に記載された上記(xiv)の転動体の直径と転動体数の関係をモデルを用いて説明したものであり,各モデルは,いずれも100Nの荷重を負荷したときであって,『モデル1』が玉径10mmの玉4個で受けた場合,『モデル2』がモデル1に示す玉径の1/2の玉径5mmの玉4個で受けた場合,『モデル3』がモデル1に示す玉径の1/2の玉径5mmの玉8個で受けた場合,のシミュレーション結果を示している。その結果は,負荷容量と剛性の大きさをそれぞれ『大』,『中』,『小』で表すと以下のような関係になっている。
モデル1(玉径10mm,玉数4):負荷容量『大』,剛性『中』
モデル2(玉径5mm,玉数4):負荷容量『小』,剛性『小』
モデル3(玉径5mm,玉数10):負荷容量『中』,剛性『大』
すなわち,玉数を4個に固定して玉径を5mmから10mmに大きくする(モデル2→モデル1への変更)と負荷容量が大きくなる(『小』→『大』)ことは当然であるが,剛性も『小』から『中』へ大きくなっている。また,玉径を5mmに固定して玉数を4個から10個に増やす(モデル2→モデル3への変更)と剛性が大きくなる(『小』→『大』)ことは当然であるが,負荷容量も『小』→『中』へ大きくなっている。このことから,転動体の直径(玉径)を大きくした場合も,転動体数(玉数)を増やした場合も,その程度は別として,負荷容量も剛性も大きくなることが分かる。
ただし,軸受のピッチ円直径が固定されているという条件の下では,転動体は幾何学的に固定されたピッチ円の円周長(πd)に収容する必要があることから,転動体の直径を大きくすると収容できる転動体数は少なくなり,逆に転動体の直径を小さくすると収容できる転動体数は多くなることになる。そして,転動体の直径と転動体数が負荷容量と剛性に及ぼす影響は,上記(xiv)に挙げたとおりであるから,甲第22号証の図6に示すようなバランスを念頭に,必要に応じて負荷容量と剛性のいずれかに重み付けをして設計することになる。
(xvi) 甲第22号証には,『一般的にボール数[転動体数]が多いほど剛性は向上するが,動定格荷重は低下する。』(第54ページ左欄中段)と記載され,第54ページの図6には,ボールのピッチ円直径58.6mm,内輪幅42mmという条件において,ボール数に対する動定格荷重と剛性の関係は,逆の相関を有しているグラフが表示されている。
すなわち,上記図6は,転動体(ボール)のピッチ円直径が58.6mmに固定されているから,本件訂正明細書の表2に記載された試験結果と同様に,転動体の直径を小さくして転動体数を増加させるか,転動体直径を大きくして転動体数を減少させるかによって,動定格荷重と剛性がボール数14の左右で逆の特性を示しているものと解される。そうでないとすると,ボール数を12個から16個に増やすほど動定格荷重が一様に低下するという結果となり,不自然なだけでなく,上記(xiv)とも矛盾するからである。
したがって,甲第22号証の上記記載は,転がり軸受装置の負荷容量を大きくすることと剛性を大きくすることが逆の方向への課題を追究することであることを示しているのではなく,設計上ピッチ円直径を変更できないなど,ピッチ円直径が固定されている条件の下では,軌道面に収容する転動体の直径と転動体数は,負荷容量と剛性に逆の相関があるから両者のバランスを考慮する必要があることを示しているものである。
(xvii) 上記(x)~(xiii)及び甲第22号証の図3,甲第11号証の図1,甲第14号証の図1などから,転がり軸受装置のモーメント剛性は,軸受負荷中心間距離を大きくすることによって向上させることができ,その距離は,転動体のピッチ円直径,転動体の球心距離,転動体と軌道面の接触角(上記(xiii)の『α』)から,幾何学的・力学的に計算できるものと解される。
(xviii) 上記(xiv)~(xvi)から,転がり軸受装置は,転動体の直径を大きくした場合も,転動体数を増やした場合も,程度の差はあるが負荷容量及びモーメント剛性はいずれも大きくなる。ただし,設計上ピッチ円直径を変更できないなど,ピッチ円直径が固定されている条件の下では,固定されたピッチ円の円周長に収容する転動体の直径と転動体数がトレードオフの関係にあることから,その負荷容量と剛性に逆の相関があるものと解される。
(上記(i)~(xviii)を,それぞれ『基本的事項(i)~(xviii)』又は『周知事項』という。)
(2-2) 本件発明1の課題と構成について
本件発明1は,『狭隘な車体に対して,装置を大型化させることなく高剛性化を図れる構造でもって,転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題とする』ものである(本件訂正明細書の段落【0004】)。この点に関連して,本件訂正明細書には,次のような記載がある。
『【0025】
これらの距離L1,L2は,軸受負荷中心間距離を示しており,これらL1,L2が大きいほど,転がり軸受装置100の剛性が大きくなる。したがって,D1>D2に設定することにより,軸受負荷中心間距離が増大し,転がり軸受装置100の剛性を向上させることができ,ひいては転がり軸受装置100の長寿命化につながる。』
『【0042】
さらに,以上のように車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより,上記参考例に比べてさらに車両アウタ側の玉群4の周方向における介装数を増やすことができる。図5に示すように,玉4の直径を小さくすると,周方向に隣り合う玉4同士の配置間隔を狭めることができるので,玉4の介装数を増やすことができる。これにより,玉一個当たりの荷重を分散することができ,転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。
【0043】
ただし,玉4の直径を小さくするにつれ,転がり軸受装置100の剛性は向上するものの,寿命は低下する傾向にある。そのため,玉4の直径は,従来例に比べて転がり軸受装置100の寿命が低下しない範囲で適切に設定する必要がある。』
そして,本件訂正明細書の表2に記載された試験結果をみると,試料1(玉4の直径を玉5の直径の88%,玉4の介装数を18個)が従来例との比較で剛性は84%と向上し,寿命も玉4側が147%,玉5側が120%といずれも向上しており,試料2(玉4の直径を玉5の直径の81%,玉4の介装数を20個)も従来例との比較で,剛性は83%となって試料1より向上し,寿命も玉4側が115%,玉5側が117%と向上しているのに対し,試料3(玉4の直径を玉5の直径の75%,玉4の介装数を21個)では従来例との比較で,剛性は82%となって試料2よりさらに向上しているものの,寿命は従来例との比較で玉4側が78%と低下していることから(本件訂正明細書の段落【0046】~【0048】),玉4の直径の下限値は,第1転動体群のピッチ円直径D1=73mmとしたとき,玉5の直径の81%,すなわち約10.32mm(試料2のデータ)とするのが好ましく,さらには,玉4の直径を約10.32mm,玉4の介装数を20個に設定(試料2のデータ)すると,極めて剛性が高く,しかも長寿命な転がり軸受装置100とすることができる(同【0049】)ことが記載されている。すなわち,試料1,試料2及び試料3は,従来例に対して,アウタ側の玉径を,順次,11.11mm,10.32mm及び9.53mmと小さくして,アウタ側の玉の介装数を,順次,18個,20個及び21個と増加させるに従って,剛性がそれぞれ84%,83%及び82%(値が小さいほど剛性が高い(同【0029】)。)と高くなっているが,アウタ側の寿命はそれぞれ147%,115%及び78%と低下していることから,アウタ側の玉4の直径の下限値は,剛性が最も高い試料3の直径9.53mmを除外して,試料2の10.32mmが好ましいとしているのであり,このことは上記『高剛性化を図れる構造でもって,転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにする』こととも整合するものである。
以上のことから,本件発明1は,転がり軸受装置の寿命を度外視して高剛性化を図るものではなく,本件訂正明細書に記載されたとおり,『高剛性化を図れる構造でもって,転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題』としているものと解される。
この点に関して,原告は,・・・本件特許明細書では,高剛性化と同時に長寿命化という副次的な課題をも解決する手段として剛性が高く長寿命な転がり軸受装置とすることができる技術思想を開示するが,これらはあくまで試験結果についての記載であって,本件発明1によって特定される技術事項ではないこと・・・,アウタ側の転動体の直径を小さくすることにより,従来例より剛性は向上しているが寿命は低下しているものも,寿命低下が許容範囲内であれば,その技術的範囲に含んでいること・・・,本件明細書の段落【0044】~【0049】,表2は,検証するための試験結果を示しているにすぎず,この試験結果の設定自体が,本件訂正発明1の実施形態そのものを示しているわけではないこと・・・,を主張している。
しかしながら,本件訂正明細書の段落【0004】,【0025】,【0046】~【0048】の記載に照らせば,本件発明1が寿命を考慮することなくモーメント剛性を課題としたものであると捉えることには無理があり,従来例より寿命が低下しても許容範囲内であれば本件発明の技術的範囲に含んでいることを示唆する記載もなく,上記許容範囲があるとしてもどの程度の範囲をいうのかも明らかではないから,上記主張は採用できない。
次に,本件発明1の構成について検討するに,本件発明1の『前記第1,第2転動体群の転動体の直径が同じ場合に比べて,さらに軸受負荷中心間距離の増大を図るように,前記第1転動体群の各転動体の直径が前記第2転動体群の転動体の直径よりも小さく設定されている』構成は,図4及び本件訂正明細書の段落【0040】~【0042】などから理解できるが,表2の試料1~3による試験は,いずれもピッチ円直径を73mmに固定して行ったものであり,これを図4に当てはめると点線で描かれた玉4の幾何学的な中心を固定して玉径を縮小する(この場合,内輪軌道面は拡径し,外輪軌道面は縮径して玉を支持することになる。)ことを意味するから,図4に記載された車両アウタ側の外輪軌道面の内径寸法を固定して玉径を縮小することにより軸受負荷中心間距離をL2からL3に拡大した説明とは異なり,軸受負荷中心間距離はL2のまま変化させずに試験をして検証したことになる。この点ではこの試験結果が本件発明1の実施形態そのものを示していないという原告の主張を首肯できるが,そうだとすると,本件発明1の上記構成は,具体的な試験の裏付けがなく,発明の課題を解決する技術思想を上記基本的事項に基づく幾何学的・力学的な観点から検討して得られた構成を特定したものというほかない。
(2-3) 本件発明1と甲第1号証発明の課題について
甲第1号証発明が解決しようとする課題について検討するに,甲第1号証発明は,一義的には転がり軸受全体の負荷容量を大きくすることによって軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるようにすることを解決課題としているものであるが(判決注:4頁左上欄2行~右下欄18行),第7図の実施例では『負荷容量をさらに大きくするため軌道(I)の直径を大きくしてボール(6)の個数をさらに多く組み込めるようにした』(判決注:4頁左上欄2行~右下欄18行)ことにより,甲第1号証の第1図に記載された実施例と比較してピッチ円直径が大きくなって軸受負荷中心間距離が大きくなると同時に転動体数が増加して転がり軸受の剛性が向上していることは(転動体数の増加は負荷容量も大きくするが,剛性を大きくする効果が大きい。),上記基本的事項(xiv)~(xvi)に照らして,当業者に明らかである。さらに,『第7図の実施例の軸受全体の負荷容量は第1図のそれに比較してさらに大きくなっている。たゞし,第7図の実施例の軸受を使用するときは車輪からの荷重は第1図の実施例の場合よりもさらに軌道(I)の方にかたよった位置に負荷して使用するようにするが,どれだけかたよらせるかはラジアル荷重,スラスト荷重,モーメント荷重等を考慮して軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるような位置』(判決注:4頁左上欄2行~右下欄18行)としていることの技術的意義は,車輪からのラジアル荷重,スラスト荷重,モーメント荷重等が軌道(I)と(II)に対して負荷される相対的な位置によって軌道(I)と(II)が分担するラジアル荷重やモーメント荷重のバランスが変わることに伴って軌道(I)と(II)の負荷のみならず剛性の変化の影響も受けた結果として軌道(I)および(II)の組合せ寿命が最大になるような位置とすることを示唆している。すなわち,甲第1号証発明は,剛性を度外視して負荷容量のみの観点から転がり軸受装置の寿命を考慮しているわけではなく,転がり軸受装置の負荷容量に着目しつつ,剛性にも配慮して転がり軸受装置を長寿命化することを課題の前提としているものと解される。このことは,負荷容量だけに着目して寿命を向上させると,上記基本的事項(xiv)~(xvi)に示したように,剛性が低下して要求仕様を満たさなくなる可能性があることからも理解できる。
そうすると,上記基本事項(xiv)~(xvi)に挙げたとおり,転がり軸受装置は,設計上ピッチ円直径を変更できないなど,ピッチ円直径が固定されている条件の下では,剛性に着目するか負荷容量に着目するかによってその特性に逆の相関があるとしても,本件発明1と甲第1号証発明は,従来の転がり軸受装置の長寿命化を図ることを前提としてその特性を向上させたものである点において共通するものである。そして,その前提において,本件発明1は,剛性という課題に着目し,甲第1号証発明は,負荷容量という課題に着目したものということができる。
ところで,転がり軸受装置には,その使用条件に応じて,ラジアル荷重,スラスト荷重,及びモーメント荷重が作用することは,甲第1号証の記載事項(イ)(判決注:1頁右下欄4行~2頁左上欄14行)にも示唆されているように,技術常識である。したがって,ラジアル荷重,スラスト荷重,及びモーメント荷重が作用する転がり軸受装置において,寿命を向上させることを前提として,負荷容量に重点を置いて設計するか,剛性に重点を置いて設計するかは,当該転がり軸受装置を使用する車種の要求仕様(高速車両か低速車両か,大型車両か小型車両か)や企業の設計思想などに応じて決定できる設計事項ということができる。さらに,甲第1号証発明が負荷容量に着目した発明であることは,上記基本的事項(i)~(xviii)を考慮して別の観点から設計変更をすることを妨げることにはならないことは明らかであって,転がり軸受装置の構成を検討する上で,その寿命を前提としつつ剛性に着目することは周知事項(例えば,甲第11号証の段落【0029】,【0033】,及び甲第13号証の段落【0007】,【0017】を参照。)であることに照らせば,甲第1号証発明において,長寿命化を図ることを前提としつつ,負荷容量ではなく剛性に着目して高めるようにすることは,当業者が上記設計事項を考慮して適宜なし得たことである。
原告は,・・・甲第22号証の図6に示される上記技術的事項によれば,甲第1号証も甲第2号証も,いずれも,負荷容量を増大することを目的とする技術思想であるから,剛性は向上するが負荷容量は低下することになる,転動体直径を小さくして転動体数を増加させることを,甲第1号証に適用することは阻害要因がある旨を主張している。確かに,上記基本的事項(xvi)に挙げた,設計上ピッチ円直径を変更できないなど,ピッチ円直径が固定されている条件の下であれば,軌道面に収容する転動体の直径と転動体数がトレードオフの関係にあるから負荷容量と剛性に逆の相関があるので,阻害要因があるといえる余地もあるが,転がり軸受装置は,上記基本的事項(i)~(xviii)を考慮した上で,転動体の直径と転動体数のみならず,ピッチ円直径や軸受負荷中心間距離なども含めて設計されるのであるから,甲第22号証の図6に示された技術的事項が甲第1号証発明に甲第2号証の構成を適用することを妨げる理由にはならない。
なお,負荷容量と剛性に逆の相関があるという原告の主張は,上述のとおり,ピッチ円直径が固定されていることを前提としたものであるが,この点に関する構成は本件発明1の請求項に特定されていないばかりか,本件発明1の実施形態を説明する図4(外輪軌道面の直径を固定し,転動体の直径が小さくなるにつれてピッチ円直径を大きくした作図。この作図の手法は,甲第2号証の図1のアウトボード側のボール(22)の大きさを変更する手法と同じである。)の構成とも矛盾するものである。ただし,原告が本件発明を検証したものであって本件発明の実施形態そのものを示しているわけではない・・・としている表2の試験は,ピッチ円直径を73mmに固定して行われており,試料3では剛性が大きくなっているにも拘わらず寿命は低下しており,上記基本的事項(xvi)にも整合している。
(2-4) 相違点1について
上記相違点1において,本件発明1がハブ軸の軸方向他方側の外周面に一体回転可能に内輪を嵌合装着して内輪軌道面とした点について検討する。
上記基本的事項(iii)に挙げたように,本件発明1の出願時において,甲第1号証発明のように内輪を一体に形成した内輪一体型の転がり軸受装置と,本件発明1のように車両インナ側の内輪を嵌合装着するとともに車両アウタ側の内輪をハブシャフトと一体化した分離内輪付の転がり軸受装置は,いずれも車種などに応じて広く採用されていた周知のものであり,甲第23号証の図9に見られるように,車種に応じた要求仕様や企業の設計思想などに基づいて適宜選択して用いられていたものである。そして,転がり軸受装置を構成する内輪部材,外輪部材,転動体などの要素は,上記要求仕様や上記設計思想などにしたがって上記基本的事項(x)~(xviii)を適用して各要素毎に当業者が通常の創作能力を発揮して設計できるものであるから,原告が・・・主張するように,甲第1号証発明が内輪を一体型とすることにより低原価で高性能,低原価,軽量のフランジ付軸受及びその組合方法を提供するものであるとしても,上記要求仕様や上記設計思想などによる別の観点から当業者が内輪を上記分離内輪付のような形式に変更することを妨げる事情はないから,上記相違点1に係る本件発明1の構成は,甲第1号証発明に内輪をハブシャフトに嵌合装着して一体化した上記周知の形式を適用して当業者が容易に想到し得たものである。
(2-5) 相違点2について
転がり軸受装置において,上記(2-3)で述べたとおり,その発明の解決課題として剛性に着目することは当業者が必要に応じて容易になし得たことであり,剛性を向上させるためにピッチ円直径,転動体の個数と直径,軸受負荷中心間距離などの要素を幾何学的・力学的な観点から検討して設計することは周知事項であるところ(上記基本的事項(i)~(xviii)),これらの要素のうち,ピッチ円直径について,その大小関係を数値範囲で特定することに困難性があるか,さらに,前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1を大きく設定することに困難性があるかについて,以下に検討する。
まず,上記相違点2において,本件発明1が,転動体群のピッチ円直径である上記D1と上記D2との関係をD1≦1.49×D2に設定した点について検討するに,甲第1号証には,上述のとおり,第1転動体群のピッチ円直径D1と第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定した点が記載されているところ,本件発明1の『D1≦1.49×D2』は,上記D2に対する上記D1の上限値を特定したものと解されるが,この点について本件訂正明細書には表1とともに次のような記載がある。
『【0031】
表1において,試料1では,D1をD2の110%とし,玉4の介装数を玉5と同じ11個としている。この場合,転がり軸受装置100は,従来例との比較において,剛性が98%と向上しており,寿命も玉4側が108%,玉5側が107%と向上している。
【0032】
試料2では,D1をD2の149%とし,玉4の介装数を16個としている。この場合,転がり軸受装置100は,従来例との比較において,剛性が84%と向上しており,寿命も玉4側が257%,玉5側が121%と向上している。しかも,試料1との比較においても,剛性,寿命ともに向上している。
【0033】
ただし,D1をD2の149%より大きく設定すると,転がり軸受装置100の大型化,重量化の問題があるため,D1はD2の149%以下に設定するのが好ましい。
【0034】
以上より,1.10×D2≦D1≦1.49×D2に設定するのが好ましく,さらには,D1=1.49×D2,つまりD1=73mmに設定すれば,剛性,寿命ともに優れた転がり軸受装置100とすることができる。』
すなわち,表1において,試料1はD1をD2の110%とすることにより従来例に比較して寿命は玉4側が108%,玉5側が107%,剛性は98%(値が小さいほど剛性が高い(本件訂正明細書の段落【0029】)。以下同じ。)に向上し,試料2はD1をD2の149%とすることにより従来例に比較して寿命は玉4側が257%,玉5側が121%と向上し,剛性は84%に向上している。そして,試料1と試料2からみて,上記D1は上記D2に対してその比率を大きくするに従って寿命,剛性の双方の特性が向上しているにもかかわらず,上記1.49(149%)を上限として設定した根拠は,軸受の寿命や剛性の特性が上記1.49を境に急激に変化したり極大化するなどの臨界的な特徴を示すというものではなく,『D1をD2の149%より大きく設定すると,転がり軸受装置100の大型化,重量化の問題があるため,D1はD2の149%以下に設定するのが好ましい』(本件訂正明細書の段落【0033】)というものであり,転がり軸受装置の大型化,重量化の問題があるという観点から特定したものである。確かに,無制限に上記比率が大きくなると一般的に転がり軸受装置が大型化,重量化する問題があることは明らかであるとしても,上記2つの試料1と試料2の試験の結果から上記1.49を境にして大型化や重量化の問題が普遍的に生じるものとは認められず,かつ,上記1.49は,本件発明1が目的とする寿命や剛性を上げる観点での上限ではなく,転がり軸受装置の適用にあたっての大型化,重量化の観点から好ましい値とされているにすぎないことは上記のとおりである。
そうすると,第1転動体群のピッチ円直径D1と第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定した点が甲第1号証に記載されている以上,その大小関係をどの程度に設定するか,すなわち,適用にあたって大型化,重量化の問題が生じないような設計上の配慮をして数値範囲を設定することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
次に,本件発明1が,前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の前記第1転動体群のピッチ円直径D1を大きく設定した点について検討するに,車両を構成する機械部品は,デッドスペースあるいは自由空間を有効利用することは一般的に行われている設計上の技術常識であるところ,甲第1号証発明も内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる空間を利用して車両アウタ側の第1転動体群のピッチ円直径を大きくしているものといえるものである。また,本件発明1は,本件訂正明細書及び図面から見て,上記自由空間を有効利用するために車両の支持部材や車輪との関連構成において第1転動体群の配置やピッチ円の大きさを工夫したものと解することはできないから,甲第1号証発明に上記技術常識を適用して内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の第1転動体群のピッチ円直径D1を大きく設定することは設計事項にすぎないということもできる。
以上のとおり,上記相違点2に係る本件発明1の構成は,甲第1号証発明に設計上の配慮や技術常識に基づく設計変更を加えて当業者が容易に想到し得たものである。
(2-6) 相違点3について
第1転動体群の個数を第2転動体群より増大させることは甲第1号証に記載されていることから,さらに進んで,甲第1号証発明について,第1転動体群が第2転動体群の直径と異なる直径のものであって,軸受負荷中心間距離の増大を図るような大小関係をもって第1転動体群の転動体の直径を小さくすること(例えば,本件の図面の図4に記載されているように,ピッチ円直径を固定せず,かつ,接触角を一定に保ちつつ,ピッチ円直径が大きくなる方向に転動体を小さくすること)が当業者にとって格別困難なことなのかどうかについて検討する。
甲第1号証発明は負荷容量に着目して転がり軸受装置の長寿命化を図った発明だとしても,当業者が転がり軸受装置を使用する車種の要求仕様(高速車両か低速車両か,大型車両か小型車両か)や企業の設計思想などに応じて転がり軸受装置の剛性を高めるようにすることができたことは,上記『(2-3)本件発明1と甲第1号証発明の課題について』に示したとおりである。転がり軸受装置の剛性を高めるためには,上記基本的事項(xiii)に示されているように,(1)作用点間距離,(2)外輪・内軸強度,(3)アキシアルすきま及び(4)ボール構成,を検討する必要があるが,そのうち,軸受負荷中心間距離に相当する上記『(1)作用点間距離』(S)は,上記基本的事項(xiii)に記載された『S=DM・tanα+L』の式に基づいて計算される。この式によれば,ボールのピッチ円直径DMが大きいほど,tanα が大きいほど,球心距離Lが長いほど,軸受負荷中心間距離が大きくなり,剛性が高くなることが理解できる。これらの要素のうち,上記ピッチ円直径DMは,外輪軌道面の直径を大きくできないという制約された条件においては,幾何学的に,転動体の大小(例えば,甲第2号証の図1(FIG.1)の左側のピッチ円直径は実線の大きな転動体ではピッチ円直径が小さくなり,点線の小さな転動体ではピッチ円直径が大きくなっている。)に左右されるものであり,外輪軌道面に接近するように転動体の直径を小さくするとピッチ円直径も大きくなる。したがって,軸受負荷中心間距離を増大して剛性の向上を図るには,外輪軌道面に接近する方向に転動体の直径を小さくすればよいことは当業者であれば容易に理解できることである。
また,甲第2号証に記載された実施例は,一方の直径が大きく他方の直径が小さい転動体を採用して車両アウタ側又は車両インナ側の負荷容量を大きくするものであることから,甲第2号証の上記技術事項(B)(判決注:『ハブ(10)あるいは主軸(12)のいずれかは,車輪支持部材とすることができ,軸ではなく外側のハブに車輪が支持される場合,軌道輪(28)は,外側にすることができ,インボード側の列ではなく,アウトボード側のボール列の軌道を保ち,インボード側のボール列が大きな直径を有する。』という技術事項)は,車両アウタ側と車両インナ側の転動体の直径は要求される寿命,負荷容量,又は剛性の機能に応じて大小が異なる転動体を採用することができるという技術思想を示唆しているものと解され,剛性を高める観点から転動体の一方の直径が小さく他方の直径が大きい転動体を採用することを妨げる設計上の理由はない。
さらに,上記『(4)ボール構成』に関して,甲第3号証には,転がり軸受単体ではあるが,『内部設計から剛性を上げるには,(a)転がり接触部の変形を小さくする。・・・(a)は玉径,軌道溝半径やころ径,ころ長さと転動体数に関係し,一般に,小さい転動体を多数使う方がよい。』(判決注:81頁16行~82頁2行)と記載されていることや,上記基本的事項(xiv)~(xvi)から,直径の小さい転動体を多数用いることによって剛性を上げることができることは,周知事項の一つと解される。
そうすると,上記『(1)作用点間距離』と上記『(4)ボール構成』によって剛性を高めるために,甲第1号証発明の第1転動体群の各転動体の直径について,甲第2号証に記載された車両アウタ側と車両インナ側の転動体の直径の大小が異なる転動体を採用する技術思想,及び甲第3号証ないし上記基本的事項(xiv)~(xvi)に記載された小さい転動体を多数用いる周知事項に基づいて,幾何学的又は力学的な関係から上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
上記転動体の直径について,原告は,ボール径を小さくすることは,ボール径を大きくして負荷容量を増大するという甲第2号証に記載された発明の技術思想に対して逆行する行為である・・・こと,甲第1号証発明に甲第2号証に記載された発明を適用しても,甲第1号証発明における2列の玉径を共に大きくするという構成しか想到し得ない・・・,などを主張している。
しかしながら,転がり軸受装置は,転動体の直径の大小のみで設計されるのではなく,車種の要求仕様(高速車両か低速車両か,大型車両か小型車両か)や企業の設計思想などに応じて,転動体の直径,個数,ピッチ円直径,軸受負荷中心間距離などの数値を組み合わせて設計されるものであるから,甲第1号証発明を構成するこれらの要素を必要に応じて,剛性に着目して設計変更することは当業者の通常の創作活動といえるものであり,そのことを阻害する事情は見あたらない。また,原告の『ボール径を小さくすることは,ボール径を大きくして負荷容量を増大するという甲第2号証に記載された発明の技術思想に対して逆行する行為である』という主張は,『ボール径を小さくすること』が直ちに『負荷容量』を小さくすることになることを前提としているものである。このことは,本件訂正明細書の表2や甲第22号証の図6のようにピッチ円直径を一定に固定したまま転動体の直径と個数を変更した場合には,両者がトレードオフの関係にあることから,正当としても,本件発明1は,ピッチ円直径を固定して転動体の直径を小さくするものではない。すなわち,本件発明1は,その実施形態が図4に記載されているように,外輪軌道面の直径を固定して転動体と軌道面の接触角を一定に保ちながら内輪軌道面の直径を大きくしつつ,転動体の直径を小さくすることによってピッチ円直径を車両アウタ側の外輪軌道面に接近させ,軸受負荷中心間距離を大きくするものであるから,転動体の直径を小さくしてもピッチ円直径を大きくすることによって転動体数を増加させることができ,そのため剛性だけでなく負荷容量も大きくすることができるものである。したがって,上記主張は本件発明1の構成に基づく主張ではない。
(2-7) 効果について
転がり軸受装置が奏する基本的な機能ないし特性は,上記周知事項(基本的事項(i)~(xviii))に示した転がり軸受装置の形式(構造),転動体の直径,ピッチ円直径,転動体の個数,軸負荷中心間距離等を設定した幾何学的・力学的な検討や試験などによって予測可能なものであるところ,本件発明1は甲第1~3号証に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できないような効果を奏するものではない。
(3) 小括
したがって,本件発明1は,甲第1~3号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
【本件発明2と甲第1号証発明の相違点に係る構成の容易想到性判断(41,42頁)】
「上記相違点1ないし3については上記7-1.(判決注:本件発明1と甲第1号証発明の相違点に係る構成の容易想到性判断)において検討したので,以下に上記相違点4について検討する。
本件発明2において,転動体の直径を上記のように数値で特定した点は,転がり軸受装置の『アウタ側』の『ピッチ円直径』を73mm,『インナ側』の『ピッチ円直径』を49mmの一定の値として試験をした本件訂正明細書の表2の試料1と試料2における第1転動体群の直径を,第2転動体群の直径(従来の大きさ)と比較した比率をそれぞれ上限と下限の数値としたにすぎないものであって,当業者が通常の創作能力を発揮して数値範囲を最適化したことにほかならず,臨界的意義がないことは明らかである。また,上記のように特定の『ピッチ円直径』のみの転がり軸受装置に対する試験結果が技術的に普遍的な意義を有するものとも認められない。
よって,上記相違点4に係る本件発明2の構成は,甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに上記周知事項を適用して当業者が容易に想到し得たものである。」
「したがって,本件発明2は,甲第1~3号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
【本件発明3と甲第1号証発明の相違点に係る構成の容易想到性判断(42頁)】
「上記相違点1ないし4については上記7-1.(判決注:本件発明1と甲第1号証発明の相違点に係る構成の容易想到性判断)及び上記7-2.(判決注:本件発明1と甲第1号証発明の相違点4に係る構成の容易想到性判断)において検討したので,以下に上記相違点5について検討する。
本件発明3において,第1転動体群の転動体数を第2転動体群の転動体数の182%よりも小さく設定した点は,転がり軸受装置の『アウタ側』の『ピッチ円直径』を73mm,『インナ側』の『ピッチ円直径』を49mmの一定の値として試験をした本件訂正明細書の表2の試料1~3のうち,試料3を除外して試料2における第1転動体群の転動体数を第2転動体群の転動体数(従来の転動体数)と比較した比率を上限の数値としたものであって,当業者が通常の創作能力を発揮して数値範囲を最適化したことにほかならず,上記特定の試料のみから得られた値に臨界的意義がないことは明らかである。また,上記のように73mmという特定の『ピッチ円直径』の転がり軸受装置の試験に基づいて得られた結果が技術的に普遍的な意義を有するものとも認められない。
よって,上記相違点5に係る本件発明3の構成は,甲第1号証発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに上記周知事項を適用して当業者が容易に想到し得たものである。」
「したがって,本件発明3は,甲第1~3号証に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」
第3原告主張の審決取消事由(本件発明1と甲第1号証発明の相違点に係る構成の容易想到性の判断の誤り等)
1 外輪と内輪の組合せのうち,外輪には一体形のものを用いるが,内輪には一部が分割されて2体形となっているものを用いる軸受装置では,内輪を組み合わせるための留めリング,保持リングが必要であり,部品点数が増加し,製造工程が繁雑になって原価が増大するばかりか,軸方向の長さが大きくなり軸受装置の重量が大きくなるという欠点があったため,甲第1号証の軸受装置では内輪を一体で形成する方法を採用したもので,内輪部材が一体のものであることは甲第1号証発明の必須の構成である。そうすると,甲第1号証発明の軸受装置の構成を内輪の一部が分割されるように改めることは,甲第1号証発明で克服した従来の軸受装置の欠点が現れるように構成を改めるものであって,逆行している。
また,甲第1号証発明の軸受装置では,このように内輪を一体のものとし,したがってこれに伴う特有の組立方法が採用されたために,一方の軌道に挿入できる転動体(ベアリングのボール)の玉数が少なくなってしまう問題点が生ずるのであって,甲第1号証発明ではかかる問題点を補完するために,他方の軌道のピッチ円直径(PCD)を大きくし,この他方の軌道に挿入できる転動体の玉数を増やして,軸受全体の負荷容量を大きくしたのである。内輪を一体のものとせず,複数の部材で構成し,ハブ軸に組み込む方法を採用するとすれば,そもそもPCDを大きくする必要はないから,当業者が甲第1号証発明の軸受装置の構成を内輪が一体のものでない構成に改めるはずはない。そうすると,仮に内輪を別体として(複数の部材で構成して)ハブ軸に組み込むことが当業者の周知技術であるとしても,かかる周知技術の適用には阻害要因があるか,又はかかる適用により甲第1号証発明の軸受装置の構成を内輪が一体のものでない構成に改めることは当業者にとって容易でない。
しかるに,審決は,相違点1に係る構成の容易想到性につき,「上記相違点1に係る本件発明1の構成は,甲第1号証発明に内輪をハブシャフトに嵌合装着して一体化した上記周知の形式を適用して当業者が容易に想到し得たものである。」(36頁)としており,かかる判断には誤りがある。
2 審決は,甲第1号証発明に技術常識を適用して相違点2に係る構成の容易想到性を肯定するが,甲第1号証では,特殊な組み立て方法の複列転がり軸受装置において,軸受全体に組み込むことができる転動体の玉数を増加させて,負荷容量を増大させるという技術的思想しか開示されていないし,一方の軌道のPCDを大きくするのに際して内輪,外輪のフランジと軌道溝との位置関係をどうするかについては,その技術的意義につき何ら記載がされていない。そうすると,甲第1号証では,内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を利用して車両アウタ側のPCDを大きく設定するという技術的思想については開示も示唆もされておらず,またかかる技術思想を開示するものは従来技術に存在しない。装置を大型化させることなく剛性を向上させる目的で,かかる自由空間を利用してD1を大きく設定するという技術的思想は本件発明1において新規に開示されたものであって,甲第1号証発明に技術常識等を適用しても当業者において相違点2に係る構成に容易に想到できるものではない。
しかるに,審決は,「そうすると,第1転動体群のピッチ円直径D1と第2転動体群のピッチ円直径D2との関係がD1>D2に設定した点が甲第1号証に記載されている以上,その大小関係をどの程度に設定するか,すなわち,適用にあたって大型化,重量化の問題が生じないような設計上の配慮をして数値範囲を設定することは,当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。」,「車両を構成する機械部品は,デッドスペースあるいは自由空間を有効利用することは一般的に行われている設計上の技術常識であるところ,甲第1号証発明も内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる空間を利用して車両アウタ側の第1転動体群のピッチ円直径を大きくしているものといえるものである。また,本件発明1は,本件訂正明細書及び図面から見て,上記自由空間を有効利用するために車両の支持部材や車輪との関連構成において第1転動体群の配置やピッチ円の大きさを工夫したものと解することはできないから,甲第1号証発明に上記技術常識を適用して内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用して車両アウタ側の第1転動体群のピッチ円直径D1を大きく設定することは設計事項にすぎないということもできる。」,「以上のとおり,上記相違点2に係る本件発明1の構成は,甲第1号証発明に設計上の配慮や技術常識に基づく設計変更を加えて当業者が容易に想到し得たものである。」(38頁)と認定判断しており,誤りがある。
3(1) 審決は甲第1号証発明に甲第2号証記載の技術的事項等を適用して相違点3に係る構成の容易想到性を肯定するが,本件訂正明細書の段落【0004】,【0043】の記載に照らし明らかであるように,本件発明1の技術的課題は剛性(モーメント剛性)の向上にあり,長寿命化(負荷容量の増大)は好ましい実施形態(段落【0049】)でのみ同時に達成され得る,副次的な技術的課題にすぎない(加えて,本件発明1の転動体の玉径の数値範囲には,従来のものよりも剛性は向上するが寿命は低下する玉径のものが含まれている。)。他方,甲第1号証発明は負荷容量ないし寿命(耐久性)の向上を技術的課題としており,モーメント剛性の向上については全く考慮されていない。甲第1号証中の第7図の実施例に係る記載も,PCD及び転動体(同一玉径である。)の玉数が相違する2つの軌道に対し,各軌道の相違する負荷容量に見合う荷重がそれぞれかかるようにして,双方の軌道が最も長く寿命(耐久性)を保持できるようにする旨を述べているものにすぎず,モーメント剛性の向上に対して示唆を与えるものではない。また,上記実施例で車両アウタ側の軌道のPCDを車両インナ側の軌道のPCDよりも大きくしているのは,あくまでも両軌道全体で挿入可能な転動体の玉数を大きくし,第1図に係る実施例の軸受装置よりも負荷容量を大きくするためであって,軸受負荷中心間距離を大きくしてモーメント剛性を向上させるためではない。甲第1号証が第1図に係る実施例の軸受装置でも負荷容量が十分に大きいと評価していることは,モーメント剛性の向上に対して考慮していない証左である。加えて,外輪と内輪を分割せずに一体に成形し,外輪と内輪とが成す三日月状の隙間に転動体を挿入する方法では,軌道に挿入される転動体の玉数が相当数減少するところ,甲第1号証発明の軸受装置では,部品点数の削減,製造工程の簡略化の観点から,外輪と内輪をそれぞれ一体に成形する構成が採用され,モーメント剛性に大きく影響する転動体の玉数が相当数減少しているから,甲第1号証においてはモーメント剛性が考慮されていないことは明らかである。軸受装置の負荷容量又は寿命と剛性とは,全く異なる場面の,全く異なる技術的課題についての指標であり,剛性を向上させたからといって軸受装置の寿命が伸びるわけではないから,両者の間に直接の関係はない。すなわち,軸受の寿命は転がり疲れによる材料の損傷を起こさずに回転できる総回転数であって,転がり疲れによる材料の損傷の発生のみに注目した指標であり,軸受の負荷容量(動負荷容量)は所要の寿命を保つために許容し得る最大荷重の大きさを示す指標である一方,軸受の剛性は荷重(外力)が加わったときにどれだけ変形するかを示す値ないし特性であって,軸受の寿命や負荷容量と剛性との間に直接の関係はない。これらのとおり,甲第1号証発明と本件発明1とでは技術的課題が異なるから,当業者において甲第1号証発明に基づいて本件発明1に想到するのは容易でない。しかるに,審決は,甲第1号証発明の技術的課題に関し,「甲第1号証発明は,剛性を度外視して負荷容量のみの観点から転がり軸受装置の寿命を考慮しているわけではなく,転がり軸受装置の負荷容量に着目しつつ,剛性にも配慮して転がり軸受装置を長寿命化することを課題の前提としているものと解される。」,「本件発明と甲第1号証発明は,従来の転がり軸受装置の長寿命化を図ることを前提としてその特性を向上させたものである点において共通する」(34頁)との認定をしており,誤りである。
(2) 次のとおり,甲第1号証発明に甲第2号証記載の技術的事項を組み合わせることができないか,組み合わせたとしても当業者が相違点3に係る構成に想到することは容易でない。
すなわち,甲第2号証に記載されている発明ないし技術的事項は,ハブと主軸との間のボール収容空間を最大限利用して,転動体(ボール)の直径を可能な限り大きくし,ハブや主軸のサイズを大きくすることも強度を小さくすることもないまま,転動体が並べられた配列(転動体群)が複数ある複列軸受ユニット全体の負荷容量を増大させるものであって,転動体の玉径を小さくする本件発明1とは技術的思想の方向が反対である。
転動体の配列のうちの一方の配列の玉径が他方の配列の玉径よりも大きいのは,他方の配列には分離可能な軌道輪の厚さがあるため,転動体を収容する空間が狭いからにすぎない。逆にいえば,いずれの軌道の転動体の玉径を大きくするかは,当該軌道の軌道輪が分離可能な別体のものか否かによるだけである。
ここで,複列転がり軸受装置(複列軸受ユニット)においては,特別な目的や理由がない限り,2列の転動体群の構造を同一構造とし,したがって,PCDや転動体の玉径も同一にするのが当業者の技術常識であり,固定観念(思考の壁)である。なぜなら,各転動体群でPCDを異ならせると,軸受装置の製造上の手間やコストが非常に嵩むことになるし,転動体の玉径を異ならせると,転動体自体や内輪等の部材の共通化が図れなくなって,やはりコストが嵩むことになるからである。
甲第1号証発明の軸受装置の内輪は一体型のものであって,甲第2号証の軸受装置のような転動体を収容する空間の制約がないから,2列の転動体群で転動体の玉径を異ならせる必要はないところ,上記の当業者の技術常識を踏まえると,甲第1号証発明に甲第2号証に記載の技術的事項を適用しても,各転動体群で転動体の玉径を異ならせる理由も目的もなく,各転動体群で転動体の玉径を共に大きくして揃える程度の発想しか生じない。2列の軌道のうちの一方の転動体の玉径を小さくすれば,甲第2号証が増大を目指す負荷容量を小さくすることになるので,甲第2号証の基本的な技術的思想に反し,当業者において甲第2号証からかような発想に至るものではない。
甲第2号証では,「車両アウタ側と車両インナ側の転動体の直径は要求される寿命,負荷容量,又は剛性の機能に応じて大小が異なる転動体を採用することができるという技術思想」は開示も示唆もされておらず,かかる事項は事後分析的な思考の産物にすぎない。仮にかかる事項が開示ないし示唆されているとしても,甲第2号証中には車両アウタ側の転動体群の玉径を小さくして軸受負荷中心間距離を大きくする技術的思想は開示も示唆もされていない。
そうすると,甲第1号証発明に甲第2号証で開示ないし示唆された技術的事項を組み合わせる動機付けがないか,又は仮に組み合わせたとしても,当業者において相違点3に係る構成に想到するのは容易でない。
(3) 甲第22号証の図6で開示されているのは,転動体の玉数を増やすとともに玉径を小さくすることであって,かような行為は剛性の向上には資しても,負荷容量(寿命)の向上には反する。他方,甲第1号証発明の軸受装置は,一方の軌道のPCDを他方の軌道のPCDよりも大きくし転動体の玉数を多くして,負荷容量を大きくするという技術的思想に基づくものであり,甲第2号証の軸受装置は,限られた転動体の収容空間の支持限界を最大限利用し転動体の玉径を可能な限り大きくして,負荷容量を大きくするという技術的思想に基づくものである。そうすると,負荷容量の向上に反する甲第22号証の技術的事項である,転動体の玉径を小さくして転動体の玉数を多くすることを,いずれも負荷容量を大きくするとの技術的思想に基づく甲第1号証発明や甲第2号証に記載の技術的事項に適用することはできない(阻害要因)。
(4) 車両アウタ側の軌道の転動体の玉径を小さくして軸受負荷中心間距離を大きくし,モーメント剛性を向上させるという具体的な技術的思想を開示ないし示唆するものは,甲第2号証のみならず,甲第3,第22号証中にも,審決がいう基本的事項のいずれにも存しない。甲第3号証についていえば,これに記載されている技術的事項も,剛性の向上には小さな転動体を多数使用するのが有効であることを示すものにすぎず,転動体の玉径を共通にする当業者の技術常識に照らせば,かかる技術的事項を適用したとしても,単に両軌道の転動体の玉径を等しく小さくする程度の発想しか生じず,一方の軌道にのみ玉径の小さい転動体を多数用いる特別な目的や積極的な理由はない。
(5) 結局,甲第1号証発明に甲第2号証に記載された技術的事項や甲第3号証等に記載された技術的事項ないし周知技術を組み合わせても,当業者において相違点3に係る構成に想到することは容易でないのであって,「そうすると,上記『(1)作用点間距離』と上記『(4)ボール構成』によって剛性を高めるために,甲第1号証発明の第1転動体群の各転動体の直径について,甲第2号証に記載された車両アウタ側と車両インナ側の転動体の直径の大小が異なる転動体を採用する技術思想,及び甲第3号証ないし上記基本的事項(xiv)~(xvi)に記載された小さい転動体を多数用いる周知事項に基づいて,幾何学的又は力学的な関係から上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。」(40頁)との審決の判断には誤りがある。
4 本件発明1は,相違点1ないし3に係る構成を採用することによって,軸受装置を大型化させることなく,軸受負荷中心間距離の増大による剛性向上,軌道の転動体の玉数の増加による剛性向上,車両アウタ側のハブ軸を太くしたことによる剛性向上,車両アウタ側のPCDを大きくし,転動体の玉径を小さくしたことによりフランジ最下端部周辺の変位量が減少したことによる剛性向上という作用効果を一挙に奏することができるというもので,かかる作用効果を当業者が容易に予測し得たものではない。したがって,本件発明1の構成を事前に知らない当業者においても,「転がり軸受装置が奏する基本的な機能ないし特性は,上記周知事項(基本的事項(i)~(xviii))に示した転がり軸受装置の形式(構造),転動体の直径,ピッチ円直径,転動体の個数,軸負荷中心間距離等を設定した幾何学的・力学的な検討や試験などによって予測可能なものであるところ,本件発明1は甲第1~3号証に記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できないような効果を奏するものではない。」(40,41頁)との審決の判断には誤りがある。
5 以上のとおり,甲第1号証発明に甲第2号証に記載の発明ないし技術的事項や甲第3号証等に記載の技術的事項ないし周知技術を組み合わせても,当業者において本件発明1に想到することができないか,又は想到することが容易でないのであって,これに反する審決の容易想到性判断には誤りがある。
第4取消事由に対する被告の反論
1 本件発明1の出願当時,転がり軸受装置において,内輪を一体に形成したハブユニット(内輪一体型ハブユニット)を採用するか,車両インナ側の内輪を一部分離できるものにして,同内輪を嵌合装着するとともに車両アウタ側の内輪をハブシャフトと一体化したハブユニット(分離内輪付きハブユニット)を採用するかは,車種に応じた要求仕様,設計思想などに基づいて適宜選択される程度の事柄にすぎなかった。そうすると,甲第1号証発明が内輪を一体型とすることにより低原価,高性能,軽量のフランジ付き軸受装置やその組立方法を提供するものであるとしても,また,内輪を分離内輪付きのものに改めることで原価の増加等を招くことがあるとしても,転がり軸受装置に対する要求仕様,設計思想などの別の観点から,内輪を分離内輪付きのものに改めることを妨げる事情は存しない。
また,転がり軸受装置のモーメント剛性は,軸受負荷中心間距離を大きくすることによって向上させることができることが周知であり,その結果,当業者であれば,転動体のピッチ円直径,転動体間の球心距離,転動体と軌道面の接触角度から,幾何学的,力学的に計算することができる。しかるに,当業者において,甲第1号証の第1図の実施例と第7図の実施例を対比すれば,PCD(ピッチ円直径)が大きくなることに伴って軸受負荷中心間距離も大きくなっていること,軌道に挿入される転動体の玉数が増加して軸受装置のモーメント剛性が向上していることを容易に認識できる。
そうすると,当業者が,甲第1号証発明に基づき,モーメント剛性の向上の点も考慮して,PCDの大きさを変更したり,転動体の玉数を増加させたりすることは容易であった。
2 甲第1号証の第7図の実施例も,本件発明1と同様に,車両アウタ側の第1転動体群のPCDが,内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間の環状空間で大きくなっており,これは両フランジ間の自由空間を有効に利用するものである。そうすると,甲第1号証に基づいて当業者が相違点2に係る構成に想到することは容易であって,審決の認定判断に誤りはない。
3(1) そもそも,転がり軸受装置の剛性,負荷容量,寿命は,軌道中の転動体の玉径,玉数と密接に関係し,互いに関連するものであるところ,本件発明1は,従来の軸受装置と比較して,寿命が低下しない範囲で転動体の玉径を適切に設定するという性格のものであるから(段落【0005】,【0008】,【0010】,【0026】,【0027】,【0029】,【0030】,【0031】,【0034】,【0048】,【0066】等を参照。),本件発明1においては装置の長寿命化が技術的課題でないとはいえず,原告の主張は自らの明細書の記載を無視する不当なものである。
また,そもそも,本件発明1の出願当時,転がり軸受装置において,寿命,負荷容量及び剛性がいずれも技術的課題であることは当業者に周知であるところ,甲第1号証の軸受装置では,軸受負荷中心間距離が大きくなるのに伴って転動体の玉数が多くなり,モーメント剛性が向上していることが明らかであるから,甲第1号証発明は負荷容量の増大に着目しつつ,モーメント剛性の向上にも配慮して軸受装置を長寿命化することを示唆している。
したがって,本件発明1と甲第1号証発明の技術的課題の相違を理由にして容易想到性を否定することはできない。
(2) 転動体の玉径,玉数,PCDの関係を種々変更して,軸受装置の負荷容量,モーメント剛性,寿命がどうなるかを検討する程度のことは,車両用転がり軸受装置を設計する上でされる基本的事項にすぎない。
甲第2号証の図1において,軌道上に実線で描かれた玉径の大きな転動体と,破線で描かれた玉径の小さな転動体を比較すると,当業者であれば,玉径の小さな転動体の方が,PCDが大きく,軌道に玉数を多く組み込めること,この場合には2列の軌道の軸受負荷中心間距離がさらに大きくなることを認識することができる。そうすると,原告主張のように,甲第2号証では転動体の支持限界を最大限利用して転動体の直径を大きくし,負荷容量を増大させるという技術的思想しか開示されていないとするのは,当業者が甲第2号証中の図面から幾何学的に認識できる技術的事項を意図的に無視するもので不適切である。
なお,一般に,技術文献に接する当業者は,当該技術分野における周知技術も参照しながら発明等の内容を把握し,自己の目的に沿った形で利用するのであって,当該文献に具体的な目的や作用効果が明示されていなくても,他の周知技術を参照して,例えば図面に表された実施例の作用効果を的確に把握することができる。そうすると,甲第1,2号証等に剛性の向上という技術的課題ないし作用効果が明示的に記載されていないとしても,当業者が当時の周知技術を参照し,図面から剛性の向上という作用効果を認識(ないし推測),把握しても差し支えない。
また,車両用転がり軸受装置においては,転動体の大小だけで設計がされるものではなく,車種の要求仕様,設計思想などに応じて,転動体の直径,個数,PCD,軸受負荷中心間距離などが定められ,また軸受装置の負荷容量と剛性との兼ね合いを評価,検討して設計がされるものであるから,当業者がこれらの各種要素を勘案し,剛性に着目して設計変更を行うのは当然であって,甲第2号証記載の発明ないし技術的事項を適用したからといって,両軌道で転動体の直径をともに大きく改めなければならないものではない。
ここで,PCD及び転動体の玉径の共通化は必ずしも当業者の技術常識ではないか,かかる技術常識があったとしても絶対的なものではない。甲第1号証においても,2つの軌道のPCDが相違しており,内輪,保持器,シールリング等の部品を共通化することができていない。
当業者であれば,甲第2号証から,車両アウタ側の軌道と車両インナ側の軌道の各転動体の直径は,軸受装置に要求される寿命,負荷容量又は剛性に応じて,その大小が異なるものを採用することができること,軸受負荷中心間距離を大きくして軸受装置の剛性を向上させるには,外輪軌道面に近付ける方向に転動体の直径を小さくすればよいことを容易に思い付くことができる。
そうすると,甲第1号証発明に甲第2号証で開示ないし示唆された発明ないし技術的事項を組み合わせる動機付けがないとはいえないし,かかる組合せにより相違点3に係る構成に想到するのは当業者にとって容易である。
(3) 甲第22号証の図6において転動体の玉径を小さくし玉数を増加させることによる負荷容量の増大と剛性の向上との間で逆の相関があるのは,PCDが固定されているからであって,甲第1号証の第7図の軸受装置では,PCDは固定されておらず,第1図の軸受装置に比して軌道(Ⅰ)のPCDを大きくして転動体の玉数を増加させ,負荷容量と剛性の双方を大きくしている。また,甲第2号証の図1では,左右の軌道で異なる玉径の転動体及び異なるPCDの軌道輪を使用し,負荷容量と剛性の両立を図っているものである。そうすると,本件発明1の出願当時の周知技術を考慮すれば,甲第1号証発明の一方の軌道の転動体の玉径を小さくし,軌道中の転動体の玉数を増加させることには阻害要因は存せず,当業者であれば,かかる場合に軸受負荷中心間距離が大きくなり,剛性が向上することを理解することができる。
4 軸受装置の車両アウタ側の軌道のPCDを大きくし,転動体の玉径を小さくすることにより,車両アウタ側のハブ軸の軸径を太くできることや,車両アウタ側フランジ最下端部の変位量を減少させることによって,軸受装置の剛性を向上させるという作用効果は,出願当初の明細書には一切記載されていない。そうすると,原告が主張する上記の作用効果は自明なものにすぎず,当業者において予測困難な格別のものではない。
このほか,本件発明1の作用効果は,出願当時の転がり軸受装置に関する周知技術や基本的技術事項から当業者が当然に予測できる程度のものにすぎない。
5 よって,本件発明1の容易想到性等に係る審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1(1) 自動車に使用する車輪用軸受装置の変遷に関して一般的な見地から解説を加えている文献である甲第23号証21頁の図8では,第3世代の転がり軸受装置として,内輪の一部が分離可能な分離内輪付きのハブユニットと内輪が一体型のハブユニットとが掲げられているが,甲第22号証の52頁の記載にも照らせば,本件出願当時,上記図にいう第1ないし第3世代の転がり軸受装置の構造や,第3世代のものでいえば,内輪回転タイプのハブユニットで内輪の一部が車両アウタ側,車両インナ側とも分離可能である第2世代ハブユニットの車両アウタ側内輪を,ハブシャフト(ハブ軸)と一体化したものに改めた分離内輪付きハブユニットと,上記第2世代ハブユニットの内輪を車両アウタ側,車両インナ側ともハブシャフトと一体化したものに改めた内輪一体型ハブユニットの各構造は当業者において広く知られており,内輪を分離内輪付きのものとするか,ハブシャフトと一体のものとするかは,当業者が設計上の観点から適宜選択することができる事柄であると認められる。
そうすると,審決が説示するとおり,甲第1号証発明に周知技術を適用することにより,当業者において容易に相違点1に係る構成に容易に想到できたということができる。
(2) 原告は,内輪部材が一体のものであることは甲第1号証発明の必須の構成であり,分離内輪付きの構成に改めることは,甲第1号証発明で克服した欠点が現れるように逆行するものであるとか,内輪が別体のものでもよいのであれば,PCD(ピッチ円直径)を大きくする必要はなく,阻害要因があるなどと主張する。
確かに,甲第1号証の発明は,転がり軸受装置の耐久性等を確保するとともに,部品点数を少なくし低原価,軽量の装置を提供しようとするものであり(1頁右下欄3行~2頁左下欄11行),これらの目的,技術的課題の達成のために一体型の内輪を採用したものであるが,内輪を分離内輪付きのものに改めた場合に生ずるデメリットを上回るメリットがあれば,当業者において甲第1号証発明の内輪の構成から分離内輪付きの内輪の構成に改めることは必ずしも困難でない。加えて,前記のとおり,内輪を分離内輪付きのものとするか,ハブ軸(ハブシャフト)と一体のものとするかは,設計上の観点から当業者が適宜選択することができる程度のものにすぎない。ここで,2列の軌道から成る転がり軸受装置において,各列の球状の転動体の中心から内輪(ハブ軸と一体になっている場合にはハブ軸)の軌道面に加わる力の作用方向を示す2つの作用線と軸受装置(ハブ軸)の中心軸線とが交差する2点間の長さ(距離)である軸受負荷中心間距離(作用点間距離)を考えたときに,この軸受負荷中心間距離が大きくなれば軸受装置の剛性が大きくなることは,本件出願当時の当業者に周知の技術的事項である(甲22の53頁)。甲第1号証の特許請求の範囲には「内輪のフランジ寄りの列のボール数を他列のボール数より多くし」との記載があるし,4頁左下欄4ないし9行には,各軌道のPCD(軌道中の各転動体の中心が成す円の直径,ピッチ円直径)を異ならせ,大きなPCDの軌道にさらに多くの転動体を組み込むことで,2列の軌道のPCDが等しい場合(第1図の実施例)よりも,負荷容量をさらに大きくしている旨(第7図の実施例:後記38頁)の記載があるから,当業者であれば,審決が引用した甲第1号証発明において,耐久性の向上をもたらす上で大きな役割を果たしているのは,2列の軌道のPCDを相異なるものとし,より大きなPCDの方の軌道により多くの転動体を組み込むことであり,また,PCDを相異ならせて軸受負荷中心間距離が大きくなることで剛性も向上していると容易に理解することができる。そして,PCDの相違に由来する耐久性の向上,剛性の向上は,いずれも内輪が分離内輪付きのものであるか,ハブ軸と一体であるかによって異なるものではない。そうすると,内輪が分離内輪付きのものであることに由来する原価の増加等は,甲第1号証発明の内輪の構成を改めるように想到する上で障害となるものではなく,内輪を分離内輪付きのものとするか,ハブ軸と一体のものとするかはPCDの選択等と独立して考えることができる性格の事柄である。したがって,原告の前記主張を採用することはできず,相違点1に係る構成の容易想到性についての審決の判断に誤りはない。
2(1) 甲第1号証の第7図(後記38頁)の転がり軸受装置においても,本件発明1の転がり軸受装置と同様に,車両アウタ側の軌道のPCD(D1)が車両インナ側の軌道のPCD(D2)よりも大きいところ,本件発明1におけるD1/D2比の上限である1.49という数値は,本件訂正明細書(甲25)の段落【0028】ないし【0034】の記載に照らせば,転がり軸受装置の大型化,重量化,製造コストの不相当な上昇を抑制するために原告が適宜設定した,好適なものにすぎず,格別臨界的意義がない。そうすると,上記D1/D2比の範囲も,当業者において任意に選択可能な性格のものであって,当業者が甲第1号証に基づいて想到することは容易である。
そして,本件訂正明細書では,段落【0003】にとかく大型化しがちな転がり軸受装置を車体に取り付けるスペースが狭隘で,装置の大きさに限界がある旨が,段落【0013】にフランジ間の自由空間を有効利用する旨がそれぞれ記載されているにとどまるから,本件発明1の特許請求の範囲にいう「前記内輪部材のフランジと前記外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を有効利用」することの趣旨も,限られた取り付けスペースのために大型化が困難で設計の自由度が限定される転がり軸受装置の設計において,両フランジ間にできる空間(隙間)を有効に活用するという程度の意味合いに止まるものと解される。しかるに,甲第1号証の転がり軸受装置においても内輪部材のフランジと外輪部材のフランジの間の空間を有効に活用して転動体の玉径の大きさを確保しているから(なお,甲第2号証の転がり軸受装置においても同様に評価することができる。),かかる空間の活用という点において本件発明1と甲第1号証発明は格別に異なるものではない。
したがって,相違点2に係る構成の容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,甲第1号証では,内輪部材のフランジと外輪部材のフランジとの間にできる自由空間を利用して車両アウタ側のPCDを大きく設定するという技術的思想については開示も示唆もされておらず,装置を大型化させることなく剛性を向上させる目的で,かかる自由空間を利用してD1を大きく設定するという技術的思想は本件発明1において新規に開示されたものであるなどと主張する。しかしながら,前記のとおり,本件発明1のD1/D2比の範囲の設定は当業者に容易な事柄にすぎないし,車体の取り付けスペースが限られており,所要の剛性の確保などの見地から転がり軸受装置においてスペースを有効活用する必要がある程度の事柄は当業者において自明であるから,原告の上記主張を採用することはできない。
3(1) 自動車に使用する車輪用軸受装置の変遷に関して一般的な見地から解説を加えている文献である甲第22号証の52頁に,「ホイール軸受に要求される基本的な性能として寿命,剛性が挙げられる。」とあるとおり,車両用の転がり軸受装置においては,装置の寿命,すなわち部材(材料)の損傷(より正確には,転がり動作による損傷)を生じることなく連続して動作できる総回転数ないし時間を長くすることと,装置の強度の指標であり,外部から荷重(外力)が加わったときに変形する量である剛性を両立させることが,当業者の一般的課題であるということができる。ここで,負荷容量(ここでは,動的負荷容量のみを指す。)は,一定の使用条件,動作時間(例えば,総回転数106回転,総連続動作時間500時間)の下で,軸受装置がどれだけの負荷に耐えられるかを示す量であって,負荷容量が大きくなると寿命が長くなる関係にあり,所望の寿命から逆算して当該軸受装置が許容できる最大荷重の大きさを示すものであるから(甲8),車両用の転がり軸受装置においては,負荷容量と剛性の両立が当業者の一般的課題であるともいうことができる。
ところで,軸受に関する一般的な文献である甲第8号証の128,129頁には,球状の転動体を用いる転がり軸受(玉軸受)では,負荷容量は,転動体の直径(玉径)に応じて同直径の1.8乗又は1.4乗に比例し,かつ軌道一列の転動体数の3分の2乗に比例する旨が(したがって,転動体の玉径の方が玉数よりも負荷容量の増大に果たす役割が大きい),前記の甲第22号証にも,PCDや内輪の幅を固定した場合には,一般に転動体の玉数が多くなるほど軸受装置の剛性は向上するが負荷容量(動定格荷重)は低下する旨がそれぞれ記載されているし,また車両用転がり軸受装置の発明に関する特許公報である甲第11号証にも「ハブユニット軸受50の耐久性や寿命を向上させるためには,ボール54の径の大径化,ボール54のPCD拡大,ボール54間のスパン拡大,等で対応することが可能である。」(段落【0006】)との記載があるから,転がり軸受装置の寿命,負荷容量と転動体(ボール)の玉径及び玉数との間には密接な関係があり,一般に転動体の玉径を大きくすればするほど負荷容量が大きくなること,転動体の玉径を固定し,玉数を自由に多くすることができれば負荷容量が大きくなるが,PCDを自由に変更できない場合には,玉数を多くするのに伴って玉径が小さくなり,負荷容量も小さくなることが,本件出願当時における当業者の技術常識であったということができる。
他方,前記の甲第22号証中の軸受装置の剛性に関する記載や甲第8号証116,117頁の記載に加えて,転がり軸受装置に関する一般的な文献である甲第3号証の81頁には,「剛性を上げるには,(a)転がり接触部の変形を小さくする。(b)転がり接触部の変形量が軸受の変位量に変換されるとき,後者が小さくなる形をとる。(a)は玉径,軌道みぞ半径やころ径,ころ長さと転動体数に関係し,一般に,小さい転動体を多数使う方がよい。(b)では軸受の接触角を変え,転動体と内外輪の接点を結ぶ方向を外部荷重の方向に近づけることが行われる。使い方では,つぎを利用する。(a)転がり接触部の剛性は荷重の増加で高まる。(b)軸受剛性は荷重を支えている転動体数が多いほど高い。」と記載されているし,車両用転がり軸受装置の発明に関する特許公報である甲第14号証にも「本発明では,・・・同一空間内で内部諸元を変更し,転動体個数を増加させて軸受剛性を向上させたり」(段落【0011】)と記載されているから,転がり軸受装置の剛性と転動体の玉径との間には密接な関係があり,一般に転動体の玉数を多く,玉径を小さくする方が,転動体の玉数を少なく,玉径を大きくするよりも,転がり接触部の変形量が相対的に小さく,また転がり接触部に対する荷重が相対的に小さくなるため,剛性がより大きくなることが,本件出願当時における当業者の技術常識であったということができる。
そうすると,軸受負荷中心間距離と軸受装置の剛性の関係に関する周知の技術的事項ないし技術常識にもかんがみれば,本件出願当時,車両用の転がり軸受装置の設計を行う当業者にあっては,負荷容量ないし寿命と剛性との両立という一般的な技術的課題を達成するべく,上記技術常識等に従って,転動体の玉径,玉数,PCD,軸受負荷中心間距離の数量ないし数値を適宜増減して組み合わせるのが一般であったということができる。
(2) 甲第1号証の特許請求の範囲に記載された発明は,前記のとおり,転がり軸受装置の耐久性等を確保するとともに,部品点数を少なくし低原価,軽量の装置を提供しようとするものであって,このうち下記第7図の実施例に係る構成は,軌道(Ⅰ)(左側)のPCDを大きくし,挿入する転動体の玉数を多くして,負荷容量の増大を図ったものであるが,車両用の転がり軸受装置においては,負荷容量と剛性の両立が当業者の一般的課題であるから,甲第1号証発明においても,軸受装置の剛性の確保が技術的前提の1つになっているものと解される。
【第7図】
file_2.jpgそして,当業者が上記第7図を見れば,PCDが相等しい2列の軌道を設けた第1図に係る実施例の軸受装置に比して,軸受負荷中心間距離が大きくなり,剛性が向上している様子を容易に看て取ることができる。
そうすると,甲第1号証発明を基礎にする場合でも,負荷容量を犠牲にしない範囲で軸受装置の剛性を向上させる構成を適用する動機付けがあるとして差し支えない。
(3) 甲第2号証の図1には,下記のとおり,2列の軌道を有し,右側の軌道の内輪のみが分離可能な軌道輪であって,左側の軌道の転動体の玉径が右側の軌道の転動体の玉径よりも大きい転がり軸受装置が図示されている(右側の軌道の方がPCDが大きい。)が,4欄58行ないし5欄8行(訳文7頁20行ないし8頁3行)には,車輪をハブ(10),主軸(12)のいずれにも取り付けることができ,前者の場合には2つの軌道間で転動体の玉径を交換し,車両アウタ側(アウトボード側)の軌道の転動体の玉径を車両インナ側(インボード側)の軌道の転動体の玉径より小さくすることもできる旨が記載されている。
【図1】
file_3.jpgそうすると,審決が説示するとおり,「車両アウタ側又は車両インナ側の転動体の直径は要求される寿命,負荷容量,又は剛性の機能に応じて大小が異なる転動体を採用することができるという技術思想を示唆して」おり,「剛性を高める観点から転動体の一方の直径が小さく他方の直径が大きい転動体を採用することを妨げる設計上の理由はない」(39頁)。ここで,甲第2号証の図1のように,2列の軌道でPCDと転動体の玉径を異ならせるときは,玉径が同一の場合よりも軸受負荷中心間距離が大きくなって軸受装置の剛性の向上に資することは当業者にとって明らかである。
だとすると,当業者が甲第1号証発明の軸受装置の剛性を向上させようとする場合には,甲第2号証に記載された発明ないし技術的事項を甲第1号証発明に適用する動機付けがあり,かかる適用によって車両アウタ側の軌道の転動体の玉径を相対的に小さくし,車両インナ側の転動体の玉径を相対的に大きくする構成に想到することは本件出願当時の当業者にとって容易であったというべきである。したがって,甲第1号証発明に甲第2号証記載の発明ないし技術的事項を適用し,相違点3に係る構成の容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
(4) 原告は,本件発明1と甲第1号証発明とでは,解決すべき技術的課題が異なるし,甲第1号証発明ではモーメント剛性の向上を考慮していないから,当業者が甲第1号証に基づいて本件発明に想到するのは容易ではないなどと主張する。しかしながら,転がり軸受装置において,負荷容量と剛性の両立は一般的技術的課題であるから,いずれの点に重点を置くかという問題にすぎず,甲第1号証で剛性の向上が明示されていないとしても,剛性の確保が念頭に置かれていることは否定できないし,甲第1号証に接した当業者が上記の一般的技術的観点から剛性の向上を考慮するのは当然である。加えて,前記のとおり,甲第1号証では,2列の軌道のPCDが等しい構成(第1図)から2列の軌道のPCDが相異なる構成(第7図)に改めることで,軸受負荷中心間距離を大きくし,モーメント剛性を向上させていることを当業者において容易に認識することができるから,甲第1号証においてもモーメント剛性の向上が実質的に考慮されているということもできる。反対に,車両用転がり軸受装置に関する一般的技術的知見を記載した甲第22号証においても,車両用転がり軸受装置(ホイール軸受装置)に要求される基本的性能として,剛性のほかに寿命も挙げられているから(52頁),負荷容量の増大が考慮されているのは当然であって,甲第22号証中の剛性の向上のための技術的事項を甲第1号証発明に適用することができるとして何ら差し支えはない。なお,本件発明1においても,本件訂正明細書(甲25)の段落【0004】に「したがって,本発明は,狭隘な車体に対して,装置を大型化させることなく高剛性化を図れる構造でもって,転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題とする。」との記載があるから,寿命の向上ないし負荷容量の増大が技術的課題から捨象されているわけではない。そうすると,甲第1号証発明に甲第2号証に記載された発明ないし技術的事項等を適用して,当業者において相違点3に係る構成に想到することは容易であり,原告の上記主張を採用することはできない。なお,車両用転がり軸受装置において,車両の取り付けスペースが限定されているために,軸受装置の大型化に限界があり,このために軸受装置の設計の自由度が大きく制約されているという当業者に自明な事情を考慮しても,かかる結論は異ならない。
原告は,甲第2号証に記載されている発明ないし技術的事項は,ハブと主軸との間のボール収容空間を最大限利用して負荷容量を増大させることであって,これを甲第1号証発明に適用しても相違点3に係る構成に想到することは容易でないなどと主張する。しかしながら,負荷容量の増大も剛性の向上もいずれも転がり軸受装置に普遍な一般的技術的課題にすぎないのであって,その両立が重要であり(一般的技術的課題),一方のみが充足されれば足りるというものではない。そうすると,甲第2号証で明示されている発明ないし技術的事項が上記のとおりであるとしても,当業者において軸受負荷中心間距離の増大による剛性の向上を読み取って甲第1号証発明に適用することは容易であるし,上記のとおりの転がり軸受装置の一般的技術的課題に照らせば,当業者において甲第3号証や甲第22号証に記載されている転がり軸受装置に関する一般的技術的事項を組み合わせることに支障があるとはいえない。また,甲第2号証中には,軌道輪の厚さがあるため転動体の玉径が小さくなる旨の記載(3欄60~67行,訳文5頁下から2行~6頁上から4行)があるが,かかる事情のみで甲第2号証記載の発明ないし技術的事項を甲第1号証発明に適用できなくなるものではない。また,甲第2号証の図1の車両アウタ側の転動体の内部に破線で小径の円が描き入れられているのは,左右の転動体の大小を比較するための例示にすぎないものと解される上,同図を見た当業者は片方の軌道の転動体の玉径を大きくする構成とのみ理解しなければならないものではなく,両軌道の転動体の玉径を相違させる構成と理解することができる(また,甲第2号証中の他の記載中にも,一方の軌道の転動体の玉径を相対的に小さくする構成を排斥する趣旨の記載は見当たらない。)。そして,複数列の軌道を有する転がり軸受装置において,PCDや転動体の玉径を共通にして,部材の共通化を図れば,確かに製造上の手間の節約(特別な研削条件の指定が不要である等)やコストの低減の点では有利であるが,甲第26号証等で各軌道のPCDが相異なる構成が開示されており,甲第2号証では各軌道のPCD及び転動体の玉径が相異なる構成が開示されていることにかんがみると,本件出願当時,仮に複数列の軌道で転動体の玉径を異ならせる転がり軸受装置の例が少なかったとしても,各軌道のPCDや転動体の玉径を共通にするのが当業者の固定観念であり,甲第2号証に接してもなおPCDや転動体の玉径を相異ならせる構成に想到することが困難であったとまではいうことができない。したがって,原告の前記主張は採用できない。
4 本件発明1の作用効果は,軸受負荷中心間距離を増大させることで「装置の大型化を避けつつ,転がり軸受装置の高剛性化および長寿命化を図る」ことにあるところ(段落【0008】),かかる作用効果は,甲第1号証発明に甲第2号証等に記載の発明ないし技術的事項や周知技術を適用し,想定される転がり軸受装置の構造をシミュレーション等することによって当業者において容易に予測し得る。なお,一方の軌道のPCDを相対的に大きくして挿入される転動体の玉数を多くすることにより,剛性の向上をもたらすことや,車両アウタ側のハブ軸が太くなったことにより軸受装置の剛性が向上することや,フランジ最下端部周辺の変位量が減少したことにより軸受装置の剛性が向上することといった効果は,甲第1号証発明に甲第2号証等に記載の発明ないし技術的事項や周知技術を適用し,相違点を解消した場合に想定される転がり軸受装置の構造から当業者が容易に予測できる程度の事柄にすぎない。そうすると,本件発明1の作用効果は,当業者において予測困難な格別のものではなく,この旨をいう審決の認定判断に誤りはない。
5 結局,審決の本件発明1の進歩性判断に誤りはなく,かかる判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
なお,原告は,本件発明2,3の進歩性判断につき特有の取消事由を主張していない。
第6結論
以上によれば,原告が主張する取消事由は理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 古谷健二郎 裁判官 田邉実)