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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10161号 判決 2011年12月12日

原告

株式会社ユニバーサルエンターテインメント

訴訟代理人弁理士

鹿股俊雄

被告

特許庁長官

指定代理人

澤田真治

伊藤陽

吉村尚

田部元史

田村正明

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2009-22002号事件について平成23年3月31日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,原告(旧商号アルゼ株式会社)が名称を「遊技機」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をし,平成23年1月17日付けでも特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。

2  争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)が別添審決書にいう引用文献1~15との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。

第3当事者の主張

1  請求の原因

(1)  特許庁における手続の経緯

原告は,平成12年4月26日の優先権を主張して,平成12年5月26日,名称を「遊技機」とする発明について特許出願(特願2000-155626号,公開特許公報は特開2002-11143号)をし,平成14年2月15日付け及び平成21年6月8日付けで手続補正をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は,上記請求を不服2009-22002号事件として審理し,その中で原告は,平成21年11月11日付け及び平成23年1月17日付け(本件補正,請求項の数4,甲19)で特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正をしたが,特許庁は平成23年3月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年4月12日原告に送達された。

(2)  発明の内容

本件補正後の請求項の数は前記のとおり4であるが,その請求項1である本願発明の内容は,次のとおりである(甲19)。

・ 【請求項1】 メインCPUと,サブ制御基板に各種信号を送信するサブ制御部通信ポートと,乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段と,1遊技用監視用タイマと,を備えたメイン制御基板と,

サブCPUと,前記メイン制御基板からの信号を受信するメイン制御部通信ポートと,前記メイン制御基板からの指示にしたがい操作音又は所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段と,この出音手段の音量を制御する出音制御手段と,所定のタイミングからの経過時間を計時する非遊技状態監視用タイマと,を備えたサブ制御基板とを具備するスロットマシンにおいて,

前記出音手段は,遊技状態が一般遊技状態と比べて高い確率で入賞態様が決定される特定の入賞態様にあるときに前記メイン制御基板からの指示にしたがい継続的な効果音を出音し,

前記サブCPUは,前記メイン制御基板から前記所定のタイミングに対応する信号を受信すると,前記非遊技状態監視用タイマをセットし,前記所定のタイミングからの経過時間を計時し,

前記サブ制御基板に備えられた前記出音制御手段は,遊技状態が前記特定の入賞態様にある場合において,前記非遊技状態監視用タイマが非遊技状態を所定時間計時したときに,前記継続的な効果音の音量を下げるか又は消音することを特徴とする遊技機。

(3)  審決の内容

審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願発明は引用文献1~15に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。

なお,審決が認定した引用文献1(特開平11-178990号公報[発明の名称「遊技装置」,公開日 平成11年7月6日])に記載された発明(引用発明)の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点1~4は,上記審決写し記載のとおりである。

(4)  審決の取消事由

しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。

ア 取消事由1(相違点認定の誤り)

審決では,本願発明と引用発明との相違点1及び3を以下のように認定している。

<相違点1>

「遊技制御基板が,本願発明では,『メインCPUと,サブ制御基板に各種信号を送信するサブ制御部通信ポートと,乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段と,1遊技用監視用タイマと,を備えたメイン制御基板と,サブCPUと,前記メイン制御基板からの信号を受信するメイン制御部通信ポートと,前記メイン制御基板からの指示にしたがい操作音又は所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段と,この出音手段の音量を制御する出音制御手段と,を備えたサブ制御基板』とから構成されるのに対し,引用発明では『CPUを有し,乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段と,所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段と,この出音手段の出音の音量を制御する出音制御手段とからなる遊技制御基板』である点。」

<相違点3>

「本願発明では,所定のタイミングからの経過時間を計時する非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に設けるとともに,サブCPUは,前記メイン制御基板から前記所定のタイミングに対応する信号を受信すると,前記非遊技状態監視用タイマをセットし,前記所定のタイミングからの経過時間を計時するのに対し,引用発明は非遊技状態監視用タイマを有していない点。」

本願発明は上述した構成及び技術的意義を有するものであるが,上記相違点1及び3の認定では,非遊技状態監視用タイマを意図的に相違点1から省き,相違点3で取り上げている。

しかし,1遊技用監視用タイマ等をメイン制御基板に搭載し,非遊技状態監視用タイマ等をサブ制御基板に搭載する構成は,タイマ及び出音機能の役割分担を規定する上で本願発明の根幹をなす構成であるから,非遊技状態監視用タイマのみを相違点1から省き,それ以外の機器が搭載されたメイン制御基板とサブ制御基板を相違点1として抽出することは,本願発明の本質を無視して本願発明を無理に容易想到と結論づけるためのものといわざるを得ない。

このように,審決における相違点1及び3の認定は,本来一体として判断すべき構成を意図的に細分化し,その結果,誤った結論に導くものであるから取り消されるべきである。

イ 取消事由2(引用文献11認定の誤り)

審決では相違点4の判断に際して,引用文献11(特開平7-51442号公報,甲11。以下「甲11」という。)を「遊戯者による遊戯操作の有無を操作ハンドル10への触手の有無としてこれをタッチスイッチ17により検知し,操作ハンドル10への触手がなくタッチスイッチ17がオンすると,タイマーを介して,その一定時間経過後に,遊戯場内の騒音を増大しないようスピーカー26から発生する音声の音量を小さくしたりスピーカー26を動作しないようにすることが好ましいデモンストレーションを実行させるようにした制御手段を備えたパチンコ機が記載されている。」と認定し(審決11頁4行~9行),さらに「これによれば,当該パチンコ機は,少なくとも,所定のタイミング(操作ハンドル10への触手がなくタッチスイッチ17がオン)からの経過時間を計時する非遊戯状態監視用タイマ(タイマー)を備え,非遊戯状態監視用タイマが非遊戯状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する(スピーカーを動作しないようにする)ものである。」(審決11頁14行~18行)と認定している。

しかし,甲11には,「操作ハンドル10を離すと同時に,デモンストレーションが作動すると,まだ遊戯板面2を転球している打球が,デモンストレーションの実行により開放した入賞玉受口器5に入る恐れがある。このため,タイマーをステップ1の前に介装して,一定時間経過後にのみデモンストレーションを実行するようにする。」(段落【0015】(b))と記載されているように,「一定時間」とは,操作ハンドル10を離した時点(タッチスイッチ17がオン)から,遊戯板面2を転球している打球がデモンストレーションの実行により開放した入賞玉受口器5に入るおそれがなくなるまでの時間を意味する。

このように甲11のタイマは操作ハンドルを離した時点(タッチスイッチ17がオン)から経過時間(非遊技時間)を計測し始めるが,その目的は一義的にはデモンストレーションを実行するタイミングを測るためである。そして,甲11によれば,操作ハンドルを離した時点からデモンストレーションが実行されるまでの間に,スピーカから何らかの音を出音するとの記載はなく,かつ,その間は遊技が中断した状態であり特段出音する必要がないことを考慮すれば,基本的に出音していない期間と解するのが相当である。

一方,甲11には遊技場内の騒音を増大しないようにデモンストレーション中は音量を低下又は消音することが記載されているが(段落【0016】),初めから音量が小さいか消音状態にあるデモンストレーションを実行するもので,デモンストレーションに入る前の当該遊技機が発する音の音量を低下させたり消音するものでない。

したがって,甲11はデモンストレーションに入る前の当該遊技機が発する音の音量を低下させたり消音するものでない以上,審決の「非遊戯状態監視用タイマが非遊戯状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する(スピーカーを動作しないようにする)ものである。」(審決11頁16行~18行)との認定は誤りである。

なお,審決の「非遊戯状態監視用タイマが非遊戯状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する(スピーカーを動作しないようにする)ものである。」との認定では,一定時間経過前(非遊技状態)の出音状態がどのようなものか必ずしも明確ではないが,「非遊戯状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する」との記載からして,計時時間中において当該遊技機が出音していることを前提とした認定であると解される。

してみれば,甲11はデモンストレーションに入る前の当該遊技機が発する音の音量を低下させたり消音するものでないから,審決における甲11の認定は明らかに誤りである。

なお,被告の「一定時間経過前の出音状態がどのようなものか認定していない。」との主張は,審決における甲11の認定とは明らかに矛盾する。

ウ 取消事由3(相違点3,4についての判断の誤り)

(ア) 相違点4

a 判断の誤り-その1

審決では,相違点4とは「遊技状態が特定の入賞態様にある場合において,出音制御手段は,本願発明では,『前記非遊技状態監視用タイマが非遊技状態を所定時間計時したときに,前記継続的な効果音の音量を下げるか又は消音する』のに対し,引用発明ではそのような構成を有していない点。」とするが,これに関する判断において「ところで,引用発明がスロットマシンに関する発明であり,引用文献11に記載された発明がパチンコ機に関する発明であるとしても,スロットマシンの発明である引用発明における遊技音について,遊技がなされていない状態において出音されている場合に,パチンコ機の発明である引用文献11に記載された発明の構成を適用して,遊技中ではないスロットマシンについて,遊技場内の騒音を増大しないようにその音量を小さくすることは,本願発明の出願当時において,当業者が容易に想到しえたことといわざるをえない。」(審決11頁19行~26行)と説示する。

しかし,甲11の発明のタイマはあくまでもデモンストレーションに入るタイミングを測ることを目的としたものであり,かつ,デモンストレーションに入る前の遊技機は効果音等を出音している状態ではないから,目的・課題が異なる甲11のタイマの構成を,ビッグボーナス時に継続的な効果音を出音する引用発明に適用する動機付けは存在せず,仮に適用したとしてもデモンストレーションに突入するタイミングを測るためのタイマの構成が付加されるだけで,上記相違点4の構成が導かれることはない。

なお,上記説示において「遊技がなされていない状態において出音されている場合に,パチンコ機の発明である引用文献11に記載された発明の構成を適用して,・・・」との説示も,甲11が前述したとおり「遊技がなされていない状態において出音されている」ものではないことから,誤りである。

さらに,審決では「そして,相違点4として摘記した本願発明の構成は,『遊技状態が前記特定の入賞態様にある場合において』のものであるが,引用発明は,特別の遊技が行われる際にそれに応じた遊技音の出音を制御する出音制御手段を備えたスロットマシンである点で本願発明と一致し,入賞の態様に対応して音声を発生する遊技機である点において,引用文献11に開示された技術と共通するものであるから,引用発明において特別の遊技が行われる際についても,遊技操作のない状態,すなわち,遊技がされていない状態が検出されたときに,遊技場内の騒音を増大しないようにするため,特別の遊技状態に応じた遊技音の音量を下げることは,引用文献11に開示された技術に基づいて,当業者が容易になし得る程度のことである。」(審決11頁27行~36行)と説示している。

この点についても,上述のとおり,甲11発明のタイマはあくまでもデモンストレーションに入るタイミングを測ることを目的としたものであり,また,継続音の音量を低下又は消音するものではないから,目的・課題が異なる甲11のタイマの構成を,ビッグボーナス時に継続的に効果音を出音する引用発明に適用する動機付けは存在せず,仮に適用したとしてもデモンストレーションに突入するタイミングを測るためのタイマの構成が付加されるだけで,上記相違点4の構成が導かれることはない。

被告は,「引用発明は,入賞の態様に対応して音声を発生する遊技機である点において,甲11に開示された技術と共通するものであるから引用発明に適用する動機付けは存在するといえ,原告の主張は失当である。」と主張するが,「入賞の態様に対応して音声を発生する遊技機」は極めて上位の概念であり,甲11を具体的に検討すれば,両者を結びつける動機付けは存在しないことは明白である。

すなわち,甲11の「(b)操作ハンドル10を離すと同時に,デモンストレーションが作動すると,まだ遊戯板面2を転球している打球が,デモンストレーションの実行により開放した入賞玉受口器5に入る恐れがある。このため,タイマーをステップ1の前に介装して,一定時間経過後にのみデモンストレーションを実行するようにする。」(甲11の段落【0015】)との記載から,甲11のタイマは「まだ遊戯板面2を転球している打球が,デモンストレーションの実行により開放した入賞玉受口器5に入る恐れ」を回避するために非遊技状態を計時するもので,遊技球が遊技盤上を転動流下するパチンコ機特有の課題に基づく構成であるから,この点からも遊技球が存在しないパチスロ機を対象とした引用発明に甲11のタイマを適用する動機付けは存在しない。

なお,相違点4に対する審決の判断では,上記のように,「遊技中ではないスロットマシンについて,遊技場内の騒音を増大しないようにその音量を小さくすることは,本願発明の出願当時において,当業者が容易に想到しえたことといわざるをえない。」(審決11頁23行~26行),及び「遊技がされていない状態が検出されたときに,遊技場内の騒音を増大しないようにするため,特別の遊技状態に応じた遊技音の音量を下げることは,引用文献11に開示された技術に基づいて,当業者が容易になし得る程度のことである。」(審決11頁33行~36行)と記載され,同じ引用発明と甲11を用いて容易想到の判断を2回行っているが,それらの関係及び論理付けが甚だ不明確であり,この点からも相違点4が容易想到とする審決の判断には取り消されるべき重大な瑕疵がある。

b 判断の誤り-その2

審決では,上記判断の後に,「仮に,上記のように,直ちに,認定できないとしても・・・相違点4として摘記した本願発明の構成は,引用発明,引用文献11に記載された発明の技術,及び,引用文献3,12~15に記載されたスロットマシン等の遊技機の技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものといわざるを得ない。」(審決11頁下2行~14頁3行)と説示しているところ,この「仮に」以下の判断が前記aで示された判断とどのような関係にあるのか明確ではないが,上記の相違点4についての判断(その2)も誤りである。

ここで新たに用いられた証拠は甲3,甲12~甲15であるが,甲3(特開2000-116845号公報)はデモンストレーションに入るタイミングを測るために非遊技状態を計時しているものであり(段落【0035】参照),甲12(特開平8-796号公報)はインストラクション画像を表示するためのタイミングを測るために稼働状態判断手段143が非遊技状態を計時しているものであり(段落【0012】,【0014】参照),甲13(特開平10-305130号公報)は周囲の人をゲームに誘う表示(デモンストレーション表示)を行うためのタイミングを測るために非遊技状態を計時しているものであり(段落【0102】参照),甲14(特開平5-305173号公報)はデモンストレーション表示を行うタイミングを測るために非遊技状態を計時しているものであり(段落【0070】参照),甲15(特開平8-187316号公報)はデモンストレーションを行うタイミングを測るために非遊技状態を計時しているものである(段落【0058】参照)。

このように,これらの文献には遊技がされていない状態が所定時間経過したことを検出する手段について記載されているが,いずれもデモンストレーション表示又はインストラクション表示を行うためのタイミングを測るために非遊技状態を計時しているものであり,その点で甲11のものと何ら変わることはない。

したがって,新たに追加された甲3及び甲12~甲15を参酌したとしても,相違点4の容易想到性の論理付けは,前記aの論理付けと実質的に同じであるから,前記aと同様に,上記の相違点4の判断(その2)も誤りである。

(イ) 相違点3

a 審決における相違点3の判断は相違点1の判断を前提としているもので,容易想到とする論理付けには重大な瑕疵がある。

すなわち,相違点1の判断において,審決では「そうすると,引用発明において,上記周知技術及び上記慣用技術を適用し,相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者にとって想到容易である。なお,上記適用において1遊技用監視タイマを設ける場所は,メイン制御基板とサブ制御基板の何れかとなるが,1遊技用監視タイマは4.1秒経過しないと次のゲームを開始させないという,ゲームの進行に関係するものであるから,ゲーム全体の制御を司っているメイン制御基板に設けることは当業者なら当然行うことに過ぎない。」(審決8頁下9行~下3行)と説示し,さらにこの容易想到とした構成を用いて相違点3について「非遊技状態監視用タイマを出音手段及び出音制御手段を備えたサブ制御基板に設けることは当業者であれば容易に想起することである。」(審決14頁下10行~12行)と,さらなる容易想到の判断を行っており,いわば2階建ての容易想到の理屈を展開している。

このような論理付けが許されるならば,本来ならば容易想到とはいえない構成も全て容易想到となり,出願人の特許を受ける権利は著しく損なわれることになる。

これに対し,被告は,2階建ての容易想到の理屈を展開したことにはならない旨主張する。

しかし,被告は1遊技監視タイマと非遊技状態監視用タイマとはタイマとして別構成であるとの前提に立って相違点1及び3の判断を行っているが,そもそも本願発明では1遊技監視タイマと非遊技状態監視用タイマはタイマとして別個の構成とし,かつ,メイン制御基板に1遊技監視タイマを搭載し,非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に搭載したことを一つの構成上の特徴とするものである。

すなわち,従来の遊技機において1遊技監視タイマを制御基板に搭載することは周知ではあるが,その他の経過時間(本件でいえば非遊技状態)を計時する必要がある場合,制御基板に搭載されている1遊技監視タイマの計時機能を用いることも可能であるところ,審決では,相違点1及び相違点3の認定において,本願発明の1遊技監視タイマと非遊技状態監視用タイマをタイマとして別個の構成とした点について,その新規性,進歩性について全く論じていない。

ここで,甲3及び甲11~甲15を参酌しても,これらの文献にはデモンストレーションに入るタイミングを計るために非遊技状態を計時することが記載されているだけで,1遊技監視タイマと非遊技状態監視用タイマをタイマとして別個の構成とする点についてはもちろん,メイン制御基板に1遊技監視タイマを搭載し非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に搭載する点についても何ら記載がない。

そして,審決では本願発明の1遊技監視タイマと非遊技状態監視用タイマをタイマとして別個の構成とした点について何ら判断せずに,相違点1の判断において制御基板を,1遊技監視タイマ等を備えたメイン制御基板とサブ制御基板とする構成が容易想到と判断し,その判断の上に,相違点3での判断で,「非遊技状態監視用タイマ」の構成のみを抽出して「非遊技状態監視用タイマを出音手段及び出音制御手段を備えたサブ制御基板に設けることは当業者であれば容易に想起することである。」と結論付けているもので,その論理付けには飛躍があり,実質的に2階建ての論理付けを行っているものである。

さらに,被告の2階建ての論理付けは「・・・制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板とした際には・・・」(審決14頁4行~7行),及び「・・・メイン制御基板とサブ制御基板に分かれているならば・・・」(平成23年8月22日付け被告準備書面16頁下5行~2行)との主張からみて,相違点3の判断が相違点1の判断を前提としたものであることを明確に示している。

このように,相違点3に対する審決の判断は,その論理付けに重大な瑕疵があるから取り消されるべきである。

b 次に,相違点3の判断の具体的な内容について検討する。

前記(ア)のとおり,そもそも甲11,甲3及び甲12~甲15記載の「非遊技状態監視用タイマ」は,いずれもデモンストレーション表示又はインストラクション表示を行うタイミングを測るために非遊技状態の経過時間を計時するもので,非遊技状態に出音している効果音等の音量を制御するという発想は全くないものである。

確かに,甲11発明では副次的に遊技場内の騒音を増加させないものではあるが,最初から無音又は低音量に設定されたデモンストレーションを実行するもので,デモンストレーション実行前に当該遊技機が発する音の音量を低下又は消音するものではない。

このように,甲11等に記載の「非遊技状態監視用タイマ」と本願発明における「非遊技状態監視用タイマ」とは目的,課題及び音量制御に関する具体的な構成が明らかに相違するから,相違点4の判断はもちろんのこと,相違点3の判断も誤りである。

すなわち,相違点3では非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に設けることの容易想到性について論じているが,前述のとおり本願発明に係る非遊技状態監視用タイマの構成,機能は甲11,甲3及び甲12~甲15等には何ら開示されていないから,その前提において相違点3の判断は誤りである。

2  請求原因に対する認否

請求の原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。

3  被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1)  取消事由1に対し

ア 原告は,審決における相違点1及び3の認定は,本来一体として判断すべき構成を意図的に細分化し,その結果,誤った結論に導くものであると主張するが,以下のとおり誤りである。

審決記載のとおり,メイン制御基板とサブ制御基板それぞれに,制御に必要な手段をどのように割り振るかは,本来,単なる設計事項にすぎないものであり,非遊技状態監視用タイマについても同様であって他の手段と切り離して考えることができないというわけではないから,相違点を分けて認定したことに違法はない。

イ また審決では,相違点1と相違点3とに分けて認定し,判断しているものの,仮に,両者を一つの相違点として判断した場合にも同じ結論となり,結論に影響がないことは以下のとおり明らかであるから,原告の主張は失当である。

すなわち,審決では,相違点1の判断において,

「(1) 相違点1について

・・・なお,上記適用において1遊技用監視タイマを設ける場所は,メイン制御基板とサブ制御基板の何れかとなるが,1遊技用監視タイマは4.1秒経過しないと次のゲームを開始させないという,ゲームの進行に関係するものであるから,ゲーム全体の制御を司っているメイン制御基板に設けることは当業者なら当然行うことに過ぎない。・・・」(審決8頁下7行~下3行)

と説示し,相違点3,4の判断において,

「(3) 相違点3,4について

・・・一方,引用発明において周知技術を適用して,制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板とした際には,非遊技状態監視用タイマは,メイン制御基板,出音手段及び出音制御手段を備えたサブ制御基板のいずれかに設けることとなる。そして,どちらに設けるかは単なる設計事項に過ぎないものであるが,非遊技状態監視用タイマは,音に関連するもの(音を下げる又は消音するための構成の1つ)であり,メイン制御基板が司る主たるゲームフローに影響を与えるものではないから,非遊技状態監視用タイマを出音手段及び出音制御手段を備えたサブ制御基板に設けることは当業者であれば容易に想起することである。

更に,メイン制御基板からサブ基板にコマンドを送信することは従来周知の技術手段であること,メイン制御基板がゲームの進行を司るものであるということが技術常識であることを考慮すると,非遊技状態監視タイマのセットをメイン制御基板からの信号に基づいて行うようにすることは当業者であれば容易に想起することである。・・・」(審決14頁4行~17行)

と説示している。

ウ そうすると,上記の各判断は,相違点1及び3の判断として,別の箇所に記載はされているものの,ともに引用発明に周知技術を適用して,制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板とした際に,所定のタイマ(1遊技用監視タイマ,非遊技状態監視用タイマ)をどちらの基板に設けるかを判断したものであり,相違点1及び3を一つの相違点として判断した場合にも,判断を記載する箇所が異なるのみであり結論が異なることはなく,結論に影響がないことは明らかであるため,原告の主張は誤りである。

(2)  取消事由2に対し

ア 原告は,甲11はデモンストレーションに入る前の当該遊技機が発する音の音量を低下させたり消音するものでないから,審決における甲11の認定は明らかに誤りであると主張するが,その主張は以下のとおり誤りである。

イ 原告が,「上記審決の『非遊戯状態監視用タイマが非遊戯状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する(スピーカーを動作しないようにする)ものである。』との認定では,一定時間経過前(非遊技状態)の出音状態がどのようなものか必ずしも明確ではないが」とするように,審決は,甲11の認定において,一定時間経過前の出音状態がどのようなものか認定していない。

ウ 審決では,「特開平7-51442号公報(以下,「引用文献11」という。)には,遊戯者による遊戯操作の有無を操作ハンドル10への触手の有無としてこれをタッチスイッチ17により検知し,操作ハンドル10への触手がなくタッチスイッチ17がオンすると,タイマーを介して,その一定時間経過後に,遊戯場内の騒音を増大しないようスピーカー26から発生する音声の音量を小さくしたりスピーカー26を動作しないようにすることが好ましいデモンストレーションを実行させるようにした制御手段を備えたパチンコ機が記載されている。」と甲11に記載された技術事項を指摘した上で,「これによれば,当該パチンコ機は,少なくとも,所定のタイミング(操作ハンドル10への触手がなくタッチスイッチ17がオン)からの経過時間を計時する非遊戯状態監視用タイマ(タイマー)を備え,非遊戯状態監視用タイマが非遊戯状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する(スピーカーを動作しないようにする)ものである。」(審決11頁14行~18行)と認定しているとおり,一定時間経過前の出音状態については何ら言及していないのであるから,原告の「『非遊技状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する』との記載からして,計時時間中において当該遊技機が出音していることを前提とした認定であると解される。」との解釈は根拠がなく失当といわざるを得ない。

エ 原告は「甲11はデモンストレーションに入る前の当該遊技機が発する音の音量を低下させたり消音するものではない」,すなわち甲11はデモンストレーションに入る前まで遊技機が発していた音の音量を,デモンストレーションに入る際に低下,消音させるものではない旨の主張をしているが,審決はそのような認定を行っていないから,原告の主張は前提においてそもそも誤りである。

オ なお,原告は「甲11によれば,操作ハンドルを離した時点からデモンストレーションが実行されるまでの間に,スピーカから何らかの音を出音するとの記載はなく,かつ,その間は遊技が中断した状態であり特段出音する必要がないことを考慮すれば,基本的に出音していない期間と解するのが相当である。」と主張しているが,甲11には,操作ハンドルを離した時点からデモンストレーションが実行されるまでの間に出音するとも出音しないとも記載はされていない。操作ハンドルを離したとたんに遊技機が消音状態となることは通常考えられないし,当然のことながらそのようなことが技術常識であるとはいえないから,原告の「操作ハンドルを離した時点からデモンストレーションが実行されるまでの間」が「基本的に出音していない期間と解するのが相当である。」との主張は失当である。

(3)  取消事由3に対し

ア 相違点4

(ア) 判断の誤り-その1-につき

a 甲11には,「遊戯者による遊戯操作の有無を操作ハンドル10への触手の有無としてこれをタッチスイッチ17により検知し,操作ハンドル10への触手がなくタッチスイッチ17がオンすると,タイマーを介して,その一定時間経過後に,遊戯場内の騒音を増大しないようスピーカー26から発生する音声の音量を小さくしたりスピーカー26を動作しないようにすることが好ましいデモンストレーションを実行させるようにした制御手段を備えたパチンコ機」(審決11頁4行~9行)が記載されており,「一定時間経過後に」とは操作ハンドル10への触手がない状態が一定時間続いていることを意味し,操作ハンドル10への触手がないことは遊戯者が遊戯していない状態であるから,非遊戯状態が所定時間計時されたということができる(審決11頁10行~13行)から,当該パチンコ機は,少なくとも,所定のタイミング(操作ハンドル10への触手がなくタッチスイッチ17がオン)からの経過時間を計時する非遊戯状態監視用タイマ(タイマー)を備え,非遊戯状態監視用タイマが非遊戯状態を所定時間計時したとき(一定時間経過後)に音量を下げるか消音する(スピーカーを動作しないようにする)ものである(審決11頁14行~18行)。

b 原告は,審決11頁19行~26行,同頁27行~36行の説示を指摘して,その説示の前提となる甲11のタイマはあくまでもデモンストレーションに入るタイミングを測ることを目的とするものであり,かつ,デモンストレーションに入る前の遊技機は効果音等を出音している状態ではないから,目的・課題が異なる甲11のタイマの構成を,ビッグボーナス時に継続的な効果音を出音する引用発明に適用する動機付けは存在せず,仮に適用したとしてデモンストレーションに突入するタイミングを測るためのタイマの構成が付加されるだけで,上記相違点4の構成が導かれることはないと主張する。

しかし,甲11の「一定時間経過後に」とは操作ハンドル10への触手がない状態が一定時間続いていることを意味し,操作ハンドル10への触手がないことは遊戯者が遊戯していない状態であるから,当該状態の継続時間を計時するということは非遊戯状態を所定時間計時することにほかならず,甲11のタイマーが本願発明の非遊技状態監視用タイマに相当することは明らかであって,審決11頁19行~26行,同頁27行~36行の説示の前提となっている審決11頁14行~18行の説示には誤りはなく,引用発明は,入賞の態様に対応して音声を発生する遊技機である点において,甲11に開示された技術と共通するものであるから引用発明に適用する動機付けは存在するといえ,原告の主張は失当である。

c また,原告は,なお,上記説示において「遊技がなされていない状態において出音されている場合に,パチンコ機の発明である引用文献11に記載された発明の構成を適用して,・・・」との説示も,甲11が前述したとおり「遊技がなされていない状態において出音されている」ものではないことから,誤りであると主張する。

しかし,甲11が遊技がなされていない状態において出音されていることと無関係であることは,前記(2)のとおりであるから,原告の主張は失当である。なお,「デモンストレーションに入る前の遊技機は効果音等を出音している状態ではないから」との主張は,前記(2)オのとおり,失当である。

d また,原告は,相違点4に対する審決の判断では,審決11頁23行~26行及び審決11頁33行~36行に,同じ引用発明と甲11を用いて容易想到の判断を2回行っているが,それらの関係及び論理付けが甚だ不明確であり,この点からも相違点4が容易想到とする審決の判断には取り消されるべき重大な瑕疵があると主張する。

しかし,審決11頁19行~26行(原告指摘の23行~26行を含む)においては,引用発明がスロットマシンに関する発明であり,甲11発明がパチンコ機に関する発明であることから,パチンコ機の発明の構成をスロットマシンの発明に適用することが容易であると説示していることは,審決の記載から明らかである。また,審決11頁27行~36行(原告指摘の33行~36行を含む)においては,相違点4が「遊技状態が特定の入賞態様にある場合」の構成に関するものであり,甲11に開示された技術が「遊技状態が特定の入賞態様にある場合」でないことから,引用発明において特別の遊技が行われる際の遊技操作のない状態が検出されたときに音量を下げることは,甲11に開示された技術に基づけば当業者が容易になし得る程度のことと説示していることは,審決の記載から明らかである。

このように,審決は,引用発明に甲11発明を適用することが可能か否か,次に,適用した結果,相違点4が容易想到であるか否か,をそれぞれ判断したものであり,それらの関係及び論理付けは明確であるから,審決には原告の主張するような重大な瑕疵はない。

(イ) 判断の誤り-その2-につき

a 原告は,審決では,上記判断の後に,審決11頁下2行~14頁3行で説示をしているが,この「仮に」以下の判断が前記(ア)で示された判断とどのような関係にあるのか明確ではないと主張する。

しかし,「仮に」と記載されていることから分かるように,審決11頁下4行までの判断により相違点4に係る発明が容易に想到し得るものでないと仮定した場合の念のための説示であり,「仮に」以下の判断と前記(ア)で示された判断との関係は明確であるから,原告の主張は失当である。

b また,原告は,ここで新たに追加された甲3及び甲12~甲15を参酌したとしても,相違点4の容易想到性の論理付けは,前記(ア)で示された論理付けと実質的に同じであるから,先に述べた理由と同じ理由によりこの相違点4の判断(その2)も誤りであると主張する。

しかし,甲3には,遊技がされていない状態が所定時間以上継続していることを検出する手段を備えるスロットマシンの技術,甲12には,遊技媒体が投入されていない遊技開始条件成立前であることを状態検出手段が判断するタイミングを,前回遊技における所定のタイミングとするスロットマシンの技術,甲13には,遊技がされていない状態が所定時間以上継続してゲームが開始されないことを検出する状態検出手段を備える回胴式遊技機の技術,甲14には,遊技がされていない状態が所定時間経過したことを検出する手段を備える遊技機の技術,甲15には,前回遊技における所定のタイミングから所定時間が経過したときに遊技がされていない状態を検出する状態検出手段を備えるパチンコ装置の技術が開示されており,甲3,甲12~甲15には,遊技がなされていない状態,すなわち,非遊技状態を検出するタイマーを備えていることは明らかであり,原告の主張は失当である。

なお,本件出願の分割出願に係る特許3708056号の無効審決に対する審決取消請求訴訟の判決(甲22)においても,甲3,甲12~甲15に対応する刊行物3~7には,「スロットマシンあるいはその他の遊技機の技術分野において,所定のタイミングを基準にして遊技がされていない状態を検出する手段を備え,当該手段によって遊技がされていない状態が検出されたときに,直ちに,あるいは,所定時間経過後に,その状態を表示や効果音等により報知することが記載されており,このことは従来周知の技術であった」(32頁13行~20行)と認定されているところである。

イ 相違点3

(ア) 審決において,制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板にすることが容易想到である(審決8頁下9行~下3行)とし,非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に設けることが容易想到である(審決14頁10行~12行)としたことについて,原告は「いわば2階建ての容易想到の理屈を展開している」と主張する。

しかし,制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板にすることと,非遊技状態監視用タイマをスロットマシンの制御基板に設けることは,一方の構成がないと他方の構成が成立しないというようなものではなく,互いに独立した技術事項であることは自明である。例えば,非遊技状態監視用タイマをスロットマシンの制御基板に設ける際には,当該制御基板が一つのものであればその制御基板に設け,メイン制御基板とサブ制御基板に分かれているならばどちらか一方の制御基板に設けることとなる。したがって,制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板にすることが容易想到であるとし,非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に設けることが容易想到であるとしても,その容易想到の判断は並列したものであって,容易想到の判断を重層したもの,すなわち2階建ての容易想到の理屈を展開したものとはならない。

実際,審決においては,「一方,引用発明において周知技術を適用して,制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板とした際には,非遊技状態監視用タイマは,メイン制御基板,出音手段及び出音制御手段を備えたサブ制御基板のいずれかに設けることとなる。そして,どちらに設けるかは単なる設計事項に過ぎないものであるが,・・・」(審決14頁4行~8行)と説示しているように,相違点1の判断において,制御基板をメイン制御基板とサブ制御基板とした際には,必然的に非遊技状態監視用タイマをいずれかの制御基板に設けることとなるため,そのいずれの制御基板に設けるのかをここで判断しているのであり,相違点1の判断で容易想到とした構成を前提とし,さらにこれに変更を加えて異質の構成を導き出すというような,重層した容易想到の判断を行っているのではないことから,原告の主張は誤りである。

(イ) また,原告は,相違点3では非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に設けることの容易想到性について論じているが,前述のとおり本願発明に係る非遊技状態監視用タイマの構成,機能は甲11,甲3及び甲12~甲15等には何ら開示されていないから,その前提において相違点3の判断は誤りであると主張する。

しかし,前記アのとおり,原告の主張は失当である。

第4当裁判所の判断

1  請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

2  容易想到性の有無

審決は,本願発明は引用文献1~15に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

(1)  本願発明の意義

ア 本願明細書(公開特許公報[甲23],平成21年6月8日付け補正[甲21],平成23年1月17日付け補正[本件補正,甲19])には,次の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲

【請求項1】 前記第3,1(2)のとおり。

(イ) 発明の詳細な説明

・ 【発明の属する技術分野】

「本発明は,遊技音を継続的に出音して現在の遊技状態が所定の入賞態様に応じた遊技状態であることを遊技者に報知する出音手段を備えた遊技機に関するものである。」(甲23,段落【0001】)

・ 【従来の技術】

「従来,この種の遊技機としては,例えば,前面扉の背後に3個のリールが3列に並設されたスロットマシンがある。これらリールは複数の図柄を可変表示する可変表示装置を構成している。各リールの外周には種々の図柄が描かれており,前面扉に形成された各窓を介して観察される。この窓には入賞ラインが記されており,スロットマシン遊技は,各停止ボタンの操作により,いずれかのこの入賞ライン上に所定の図柄の組み合わせが停止するか否かによって行われる。」(甲23,段落【0002】)

・ 「入賞態様は,スタートレバーが操作された直後に入賞態様決定手段で行われる乱数抽選によって決定され,各リールが遊技者によって停止操作される前には既に定まっている。機械内部で決定された入賞態様は内部当選フラグとして記憶される。その後,遊技者の停止ボタン操作および内部当選フラグの種類に応じて各リールの回転がリール停止制御回路によって停止制御され,内部当選フラグに対応する入賞の図柄組合せが入賞ライン上に停止表示されると,遊技者は入賞を実際に体験できる。」(甲23,段落【0003】)

・ 「入賞態様には大当たり入賞や中当たり入賞,小当たり入賞等があり,大当たり入賞や中当たり入賞は図柄『7』や所定のキャラクタ図柄が入賞ライン上に3個揃うと発生する。大当たり入賞ではビッグ・ボーナス・ゲーム(BBゲーム),中当たり入賞ではレギュラー・ボーナス・ゲーム(RBゲーム)といった特別の遊技が行え,大量のコインを獲得することが出来る。また,小当たり入賞は『プラム』や『ベル』といった図柄が入賞ライン上に3個揃うと発生し,この小当たり入賞では数枚のメダルを獲得することが出来る。」(甲23,段落【0004】)

・ 「スロットマシンのキャビネット内部にはスピーカが内蔵されており,上記のBBゲームやRBゲームが行われる際には,このスピーカから特別の遊技音が継続的に出音される。遊技者はこの特別の遊技音を聞くことにより,現在の遊技状態がBBゲームやRBゲームであることを確認することが出来る。」(甲23,段落【0005】)

・ 【発明が解決しようとする課題】

「しかしながら,BBゲームやRBゲームが行われている最中,遊技者の中にはその遊技台を離れてしまう者がおり,このような場合,上記従来の遊技機ではスピーカから特別の遊技音が継続的に出音されたままの状態になる。遊技者がその遊技台で遊技をしていないのにもかかわらず,スピーカから大きな遊技音が出音され続けると,その遊技台の周囲で遊技をしている遊技者はその大きな遊技音によってはなはだ迷惑をこうむる。」(甲23,段落【0006】)

・ 「また,BBゲームやRBゲームが行われている最中に,獲得したメダルをドル箱と呼ばれるメダル貯留箱に移す作業をしている場合にも,上記従来の遊技機では,スピーカから特別の遊技音が継続的に出音されたままの状態になる。この場合には,遊技をしていないのにもかかわらずスピーカから大きな遊技音が出音され続けるため,その遊技台で遊技をしている遊技者自身がその大きな遊技音によって煩わされる。」(甲23,段落【0007】)

・ 【課題を解決するための手段】

「本発明はこのような課題を解決するためになされたもので,メインCPUと,サブ制御基板に各種信号を送信するサブ制御部通信ポートと,乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段と,1遊技用監視用タイマと,を備えたメイン制御基板と,サブCPUと,前記メイン制御基板からの信号を受信するメイン制御部通信ポートと,前記メイン制御基板からの指示にしたがい操作音又は所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段と,この出音手段の音量を制御する出音制御手段と,所定のタイミングからの経過時間を計時する非遊技状態監視用タイマと,を備えたサブ制御基板とを具備するスロットマシンにおいて,前記出音手段は,遊技状態が一般遊技状態と比べて高い確率で入賞態様が決定される特定の入賞態様にあるときに前記メイン制御基板からの指示にしたがい継続的な効果音を出音し,前記サブCPUは,前記メイン制御基板から前記所定のタイミングに対応する信号を受信すると,前記非遊技状態監視用タイマをセットし,前記所定のタイミングからの経過時間を計時し,前記サブ制御基板に備えられた前記出音制御手段は,遊技状態が前記特定の入賞態様にある場合において,前記非遊技状態監視用タイマが非遊技状態を所定時間計時したときに,前記継続的な効果音の音量を下げるか又は消音することを特徴とする。」(甲19,段落【0008】)

・ 【発明の実施の形態】

「図8および図9は,上述したスロットマシン1の遊技処理動作を制御するメイン制御基板61およびサブ制御基板62に構成された回路構成を示している。」(甲23,段落【0039】)

・ 「図8に示すメイン制御基板61における制御部はマイクロコンピュータ(以下,マイコンという)63を主な構成要素とし,これに乱数サンプリングのための回路を加えて構成されている。マイコン63は,予め設定されたプログラムに従って制御動作を行うメインCPU(中央演算処理装置)64と,プログラム記憶手段であるプログラムROM(リード・オンリ・メモリ)65およびバックアップ機能付き制御RAM(ランダム・アクセス・メモリ)66とを含んで構成されている。CPU64には,基準クロックパルスを発生するクロックパルス発生回路67および分周器68と,一定範囲の乱数を発生する乱数発生器69および発生した乱数の1つを特定する乱数サンプリング回路70とが接続されている。さらに,後述する周辺装置(アクチュエータ)との間で信号を授受するI/Oポート71が接続されている。ROM32は,入賞確率テーブル,シンボルテーブル,入賞シンボル組合せテーブル,およびシーケンスプログラムを格納するように記憶部が区分されている。これらテーブルの内容については後述する。」(甲23,段落【0040】)

・ 「なお,同図の回路構成では乱数発生手段および乱数サンプリング手段として,マイコン63とは別の回路である乱数発生器69および乱数サンプリング回路70を用いるようにしているが,マイコン63内で,すなわちCPU64の動作プログラム上で乱数サンプリングを実行するように構成してもよい。その場合,乱数発生器69および乱数サンプリング回路70は省略可能であり,あるいは乱数サンプリング動作のバックアップ用として残しておくことも可能である。」(甲23,段落【0041】)

・ 「また,このI/Oポート71にはサブ制御部通信ポート79が接続されており,マイコン63はこのサブ制御部通信ポート79を介してサブ制御基板62へ信号を送出する。図9に示すサブ制御基板62には,この信号を受信するメイン制御部通信ポート80が設けられている。サブ制御部通信ポート79およびメイン制御部通信ポート80間の通信は,サブ制御部通信ポート79からメイン制御部通信ポート80へ向かう一方向についてだけ行われる。本実施形態では,サブ制御部通信ポート79からメイン制御部通信ポート80へ送出される信号は,7ビット長でその制御種別が表されるコマンド種別と,8ビットまたは24ビット長でそのコマンドの内容が表されるパラメータとのセットで構成されている。」(甲23,段落【0046】)

・ 「サブ制御基板62における制御部はマイコン81を主な構成要素とし,これに乱数サンプリングのための回路を加えて構成されている。マイコン81も,メイン制御基板61におけるマイコン63と同様,予め設定されたプログラムに従って制御動作を行うサブCPU82と,プログラム記憶手段であるプログラムROM83およびバックアップ機能付き制御RAM84とを含んで構成されている。CPU81にも,基準クロックパルスを発生するクロックパルス発生回路85および分周器86が接続されており,さらに,上記のメイン制御部通信ポート80や後述するアクチュエータとの間で信号を授受するI/Oポート87が接続されている。サブCPU82は,液晶表示装置22に遊技機データを表示させるのに必要なデータを,メイン制御基板61から送信されるコマンドに基づいてゲーム毎に算出し,制御RAM84に記憶したデータをゲーム毎に算出したデータに更新している。」(甲23,段落【0047】)

・ 「また,I/Oポート87には非遊技状態監視用タイマ97が接続されている。このタイマ97は遊技が開始されるタイミングにサブCPU82によって後述するようにセットされ,遊技が開始されてからの経過時間を計時する。サブCPU82,ROM83,RAM84およびこの非遊技状態監視用タイマ97は,遊技がされていない状態を検出する状態検出手段を構成している。」(甲23,段落【0049】)

・ 「また,音源IC91にはサウンド・データが記憶されたサウンドROM94が接続されており,音源IC91は,マイコン81の制御の下,パワーアンプ95を介してスピーカ96からサウンドを放音させる。後述するように,マイコン81は,メイン制御部通信ポート80を介してメイン制御基板61から入力される指示に従い,音源IC91およびパワー・アンプ95を制御し,メダル投入音,スタートレバー操作音,停止ボタン操作音,ボーナスゲーム中の遊技音といった効果音をスピーカ96から出力させる。」(甲23,段落【0051】)

・ 「ここで,サブCPU82,ROM83,RAM84,サウンドROM94,音源IC91,パワーアンプ95およびスピーカ96は,遊技音を継続的に出音して現在の遊技状態が入賞態様決定手段によって決定されたボーナス入賞態様に応じた遊技状態であることを遊技者に報知する出音手段を構成している。また,これと共に,前記の状態検出手段によって遊技がされていない状態が検出されたときに,この出音手段による継続的な出音の音量を下げるか,または消音させる出音制御手段をも構成している。」(甲23,段落【0052】)

・ 「図10はメイン制御基板61のROM65内に格納された入賞確率テーブルを概念的に示している。この入賞確率テーブルは,サンプリング回路70で抽出された乱数を各入賞態様に区分けするために使用され,乱数発生器69で発生する一定範囲の乱数を各入賞態様に区画するデータを記憶している。・・・」(甲23,段落【0053】)

・ 「つまり,入賞態様は,サンプリングされた1つの乱数値がこのどの数値範囲に属するかによって決定され,当たり要求フラグによって表される。ここで,乱数発生器69,サンプリング回路70,入賞確率テーブルおよびマイコン63は,入賞態様決定手段を構成している。」(甲23,段落【0055】)

・ 「さらにROM65内には,このスロットマシン1でゲームが実行される際のプログラム(シーケンスプログラム)が格納されている。」(甲23,段落【0058】)

・ 「サブCPU82は,遊技開始コマンドを受信すると,まず,非遊技状態監視用タイマ97をセットし,このタイマ97に遊技開始タイミングからの経過時間の計時を開始させる(ステップ161)。また,このタイマセット処理と共に,サブCPU82は,このタイマー97による計時の一定時間の経過毎,例えば,10秒経過毎に,図25に示すサウンド音量調節処理を割り込み処理として行わせるセットをする。」(甲23,段落【0126】)

・ 「図25に示すサウンド音量調節割り込み処理では,サブCPU82は,まず,現在,スピーカ96から遊技音(ボーナス作動音)を出音している最中か否かを判別する(ステップ171)。出音中でない場合には割り込み処理を終了し,また,出音中である場合には,サブCPU82は,次に,非遊技状態監視用タイマ97を読み込み,今回のゲームの開始タイミングから30秒以上経過しているか否かを判別する(ステップ172)。30秒以上経過していない場合には,サブCPU82は,スピーカ96から出音している遊技音の音量を最大(MAX)にセットして出音させる(ステップ173)。その後,割り込み処理を終了する。」(甲23,段落【0128】)

・ 「また,ステップ172で30秒以上経過している場合には,サブCPU82は,次に,今回のゲームの開始タイミングから60秒以上経過しているか否かを判別する(ステップ174)。60秒以上経過していない場合には,サブCPU82は,スピーカ96から出音している遊技音の音量を1段階下げて出音させる(ステップ175)。その後,割り込み処理を終了する。」(甲23,段落【0129】)

・ 「また,ステップ174で60秒以上経過している場合には,サブCPU82は,次に,今回のゲームの開始タイミングから90秒以上経過しているか否かを判別する(ステップ176)。90秒以上経過していない場合には,サブCPU82は,スピーカ96から出音している遊技音の音量をさらに1段階下げて出音させる(ステップ177)。その後,割り込み処理を終了する。また,ステップ176で90秒以上経過している場合には,サブCPU82は,次に,スピーカ96から出音されている遊技音を消音させる(ステップ178)。」(甲23,段落【0130】)

・ 「すなわち,本実施形態によるスロットマシン1によれば,BBゲームまたはRBゲームが行われている際,非遊技状態監視用タイマ97等からなる状態検出手段によって遊技がされていない状態が検出されると,スピーカ96から継続的に出音されているボーナス作動音の音量は,経過時間に応じて段階的に下げられて行き,ついには消音させられてしまう。このため,本実施形態によるスロットマシン1によれば,遊技者が遊技台を離れてしまってその遊技台で遊技が行われていないのにもかかわらず,スピーカ96から大きな遊技音が出音され続けたり,獲得メダルをドル箱に移す作業をしている際に,遊技をしていないのにもかかわらずスピーカ96から大きな遊技音が出音され続けてしまう,といった不都合を回避することが出来る。」(甲23,段落【0134】)

・ 「なお,上記実施形態の説明においては,BBゲームまたはRBゲームが行われている際,遊技がされていない状態が検出されると,スピーカ96から出音されているボーナス作動音の音量を段階的に下げ,ついには消音させる構成とした。しかし,BBゲームまたはRBゲームが行われている際,遊技がされていない状態が検出されると,スピーカ96から出音されているボーナス作動音の音量を最小音量まで段階的に下げるだけで消音しない構成にしたり,また,ただ単に最小音量までいきなり下げる構成にしてもよい。さらに,遊技がされていない状態が検出されると,いきなり消音させる構成としてもよい。・・・」(甲23,段落【0135】)

・ 【発明の効果】

「以上説明したように本発明によれば,所定の入賞態様に応じた遊技が行われている際,状態検出手段によって遊技がされていない状態が検出されると,出音制御手段が出音手段による継続的な効果音の音量を下げるか又は消音させる。このため,所定の入賞態様に応じた遊技が行われている際,遊技者が遊技台を離れたり,獲得メダルをドル箱に移す作業をするために遊技を中断すると,出音手段による継続的な効果音の音量を下げるか又は消音させる。」(甲21,段落【0149】)

・ 「よって,本発明によれば,遊技者が遊技台を離れてしまってその遊技台で遊技が行われていないのにもかかわらず,大きな遊技音が出音され続けたり,獲得メダルをドル箱に移す作業をしている際に,遊技をしていないのにもかかわらず大きな遊技音が出音され続けてしまう,といった不都合を回避することが出来る。」(甲23,段落【0150】)

イ 上記記載によれば,本願発明は,遊技音を継続的に出音して現在の遊技状態が所定の入賞態様に応じた遊技状態であることを遊技者に報知する出音手段を備えた遊技機であるスロットマシンにおいて,遊技をしていないのにもかかわらず大きな遊技音が出音され続け周囲の遊技者の迷惑となり遊技者自身も煩わされることを課題とし,これを解決するために,メインCPUや乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段等を備えたメイン制御基板からの指示に従い操作音又は所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段やこの出音手段の音量を制御する出音制御手段を備えたサブ制御基板に,所定のタイミングからの経過時間を計時する非遊技状態監視用タイマを備えることとして,この非遊技状態監視用タイマによる所定のタイミングからの経過時間の計時による遊技がされていない状態の検出に応じて出音制御手段が出音手段から出音されている継続的な効果音の音量を下げるかまたは消音するようにしたものであることが認められる。

(2)  引用発明の意義

ア 審決が認定した引用発明の内容は,次のとおりである(当事者間に争いがない。)

「CPUを有し,乱数サンプリングを実行し得られたサンプリング値をROMに書き込まれているデータに照らして当選か否か及びその賞の種類等を判定することにより内部当りか否かの抽選を行うとともに,BB(ビッグボーナス。以下同様。)ゲームであるとき,音声出力部52に指示してスピーカ20からBB効果音を発生させて現在の遊技状態がBBゲームであることを遊技者に報知する制御部50を備えて構成されるスロットマシンにおいて,

制御部50は,BBフラグがセットされ有効ライン16上に各リール14におけるシンボルが『赤7-赤7-赤7』又は『青7-青7-青7』と揃うと,音声出力部52に指示してスピーカ20からBB効果音を発生させてBBゲームをスタートさせ,BBゲーム中は,メダル払込み,スタートレバー28押下,リール14回転,各ストップボタン30押圧,リール14停止等を繰り返し,所定の遊技回数を消化すると,スピーカ20からのBB効果音の発生を停止させてBBゲームを終了させるものであるスロットマシン。」

イ そして,上記引用発明の基礎となった引用文献1(特開平11-178990号公報,発明の名称「遊技装置」,甲1)には,次の記載がある。

・ 【発明の属する技術分野】

「本発明は,種々の表示内容を連続的に変化させつつ表示し得る1又は2以上の表示手段と,遊技者の表示固定操作に応じ,その表示手段に表示内容を固定的に表示させるための表示固定手段とを有し,表示手段が固定的に表示した表示内容が所定の入賞条件を達成することと入賞とが対応する,スロットマシン等の遊技装置に関する。」(段落【0001】)

・ 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】

「このように遊技者の技量が勝ち負けにほとんど反映されないのでは,技術の向上が無意味なものになりスロットマシンに対する興味が半減しかねない。そうかといって,上述の抽選及びリール停止制御を全く行わないものとすれば,熟練した遊技者等のように回転中のリールにおける特定のシンボルを狙って停止させることができる遊技者は,BB等の遊技者の利益が大きい特別なゲームを開始する賞を高い頻度で当てることができ,スロットマシンを設置している遊技店の経営が成り立たなくなる。また,特定のシンボルを狙って停止させることが不得手な遊技者は,負けてばかりとなって遊技をする意欲がなくなるおそれがある。」(段落【0007】)

・ 「本発明は,従来技術における上記のような課題に鑑み行われたものであって,その目的とするところは,例えば遊技者にとって利益の大きい所謂ビッグボーナス等の所定の賞には入賞し得ないが,それ以外の賞について遊技者の技量に応じ入賞頻度を高めることができるように制御することができるようにすることにより,遊技に対する興味を一層増大させることができる遊技装置を提供することにある。」(段落【0008】)

・ 【課題を解決するための手段】

「特別ゲームは,一般ゲームよりも入賞確率が高いというような,一般に,遊技者にとって有利な条件のゲームである。・・・特別ゲームとしては,・・・RBを所定回数繰り返すことができるBB(ビッグボーナス)等・・・を挙げることができる。・・・」(段落【0030】)

・ 【発明の実施の形態】

「上下方向中央部のやや上方には,・・・3つのシンボル表示窓12が設けられ,スロットマシン内部における各対応位置に,3つのリール14が水平方向回転軸線を中心として互いに独立的に回転自在に支持されている。各リール14の外周面には,多種のシンボル・・・が周方向における一定距離毎に順に表示され,そのうち周方向に連続する任意の3つのシンボルが,各リール14の停止時に,シンボル表示窓12における上中下の各位置にリール14毎に表示される。・・・各リール14は,それぞれ別々のステッピングモータ・・・によって,回転駆動され,また停止保持される。」(段落【0059】)

・ 「シンボル表示窓12には,3つのリール14それぞれが停止状態で表示する3つのシンボルに関し,入賞判定において,払い込まれたメダルの枚数(1乃至3枚)に応じて有効とされる整列位置を示すライン16(線)が5本描かれている。・・・遊技者は,有効ラインランプ18によって示された有効ライン16上に,各リール14におけるどのようなシンボルが位置しているかを見てゲームの結果・・・を知ることができる。ゲームの結果は,ヒットランプ10の点灯若しくは点滅等やスピーカ20からの音声出力などによっても知らされる。」(段落【0060】)

・ 「メダルを払い込むには,上下中央部の右方部に設けられたメダル投入口22からメダルを投入するか,スロットマシンに保留されているメダルがある場合は,BETボタン24を押して必要枚数を払い込む。BETボタン24はメダル投入口22の左方に設けられている。」(段落【0061】)

・ 「有効ラインランプ18の下方に,リール14の回転開始が可能であることを示すために点灯するスタートランプ26(START)が設けられ,BETボタン24の下方に,3つのリール14の回転を一斉に開始させるためのスタートレバー28が設けられている。」(段落【0062】)

・ 「各リール14の下方には,それぞれのリール14が回転中であり,その回転をストップボタン30の押圧により停止させることが可能であることを示すために点灯する3つのストップランプ32(STOP)が設けられている。・・・」(段落【0063】)

・ 「下端部にはメダル受皿部42が設けられ,その中央部の上側にメダル払出口44が設けられ,その右側にスピーカ20が設けられている。・・・」(段落【0065】)

・ 「制御部50は,ゲームの実行や周辺機器等の制御及び各種データの読み書きなどの処理を行うCPU(中央処理装置),RAM,ゲームの実行や周辺機器等の制御などのためのプログラム及び各種データが書き込まれたROM,並びに周辺機器等との接続のための入出力インターフェイスなど・・・からなり,必要に応じ周辺機器等と連携して,上記表示内容検知手段,入賞適合判定手段,固定表示制御手段,引き込み手段,特定賞設定手段,所定賞選択手段,表示手段,表示固定手段等の機能を実現する。」(段落【0066】)

・ 「スタートレバー28は,リール14の回転開始が可能な状態において3つのリール14の回転を一斉に開始させる場合に,押下することにより回転開始信号を制御部50に出力する。」(段落【0071】)

・ 「ストップボタン30(停止ボタン)は,回転中のリール14を停止させる場合に各リール14毎に押圧するものであり,各ストップボタン30の押圧により,対応するリール14を停止させるための信号を制御部50に出力する。」(段落【0073】)

・ 「音声出力部52は,制御部50から出力される音声出力信号に応じ,スピーカ20から音声を出力する。」(段落【0077】)

・ 「メダル払出部44aは,ゲームの結果に応じ制御部50において計算されたメダル払出数に応じて制御部50から出力される払出信号に従って,その枚数に応じたメダルをメダル払出口44から払い出す。」(段落【0080】)

・ 「スタートレバー28を押下すると,ステップS3はYとなり,制御部50は,スタートランプ26を消灯し(S4),3つのリール14を一斉に回転させる(S5)。」(段落【0084】)

・ 「次のステップS6では,BB(ビッグボーナス),RB(レギュラーボーナス),及びSB(シングルボーナス),並びにその他の遊技者にとって比較的利益の小さい賞(小物)・・・について,制御部50において,内部当りか否かの抽選を行う。抽選は,乱数サンプリングを実行し,得られたサンプリング値をROMに書き込まれているデータに照らして,当選か否か,及びその賞の種類等を判定することにより行う。・・・」(段落【0085】)

・ 「抽選により何れかの賞の内部当りとなった場合,その賞に対応するフラグがセットされる。BB(ビッグボーナス)に当選した場合,すなわち所謂BBの内部当りの場合(S7-Y),制御部50においてBBフラグがセットされる(S8)。・・・」(段落【0086】)

・ 「BBに当選しなかった場合(S7-N)において,RB(レギュラーボーナス),SB(シングルボーナス),再遊技(リプレイ),・・・の何れかに当選した場合は(S11-Y),制御部50においてそれらの賞にそれぞれ対応するフラグが制御部50にセットされる(S12)。何れにも当選しなかった場合は(S11-N),外れフラグがセットされる(S13)。」(段落【0087】)

・ 「次いで,制御部50が全てのストップランプ32を点灯させる。その後,遊技者が適宜のタイミングで各ストップボタン30を押圧することにより・・・,制御部50は,対応するリール14のステッピングモータを停止させる。」(段落【0088】)

・ 「何れかの賞について内部当りを示すフラグがセットされている場合は,制御部50は,ストップボタン30の押圧等による停止信号を受けた時点から内部当り状態となっている賞への入賞に必要なシンボルが入賞に必要な位置に達するまでの差が規定停止時間内であるときは,そのシンボルが当該入賞に必要位置に表示されるようにリール14を停止させる。すなわち,そのシンボルをシンボル表示窓12の必要位置に引込む。・・・入賞した場合,各賞に応じた処理が行われる。」(段落【0090】)

・ 「BB(ビッグボーナス)フラグがセットされていて有効ラインランプ18によって示される有効ライン16上に各リール14におけるシンボルが「赤7-赤7-赤7」又は「青7-青7-青7」と揃うと,制御部50は,メダル払出部44aに指示してメダル払出口44から15枚のメダルをメダル受皿部42に払出させると共に,払出枚数表示部40aに指示して払出されたメダル枚数を払出枚数表示器40に表示させる。更に,制御部50は,ヒットランプ部10a及び音声出力部52に指示してヒットランプ10を点滅させると共にスピーカ20からBBの効果音を発生させ,BBゲームをスタートさせる。BB中は,メダル払込み,スタートレバー28押下,リール14回転,各ストップボタン30押圧,及びリール14停止等を繰り返す。」(段落【0091】)・「制御部50は,所定の遊技回数を消化すると,ヒットランプ10を消灯させ,スピーカ20のBB効果音を停止させ,BBを終了する。」(段落【0092】)

・ 【発明の効果】

「本発明の遊技装置においては,・・・・遊技者にとって技量を高めて所定の賞以外の入賞頻度を上げることが可能なので,遊技に対する興味を一層増大させることができる。」(段落【0117】)

ウ 上記記載によれば,引用発明は,ビッグボーナス等以外の賞について,遊技者の技量に応じ入賞頻度を高めることができるようにし,遊技に対する興味を一層増大させることができる遊技装置を提供した発明であると認めることができる。

(3)  その他の文献記載の技術内容

ア 甲2(特開平9-299548号公報,発明の名称「遊技機」)

・ 【実施例】

「図3の回路において,マイコン30からの制御信号により動作が制御される主要なアクチュエータとしては,前記リール2,3,4をそれぞれ回転駆動するリール駆動機構72,73,74,前述の有効化ライン表示ランプ19,リールランプ41,表示ランプ82,83,84,クレジット数表示部21,入賞配当数表示部22,コインを収納するホッパー(払い出しのための駆動部を含む)40及びスピーカ43があり,これらは各々,モータ駆動回路44,ランプ駆動回路45,表示部駆動回路(例えば,コインの枚数を計数するカウンタから成る)46,ホッパー駆動回路47,スピーカ駆動回路48によって駆動される。そして,これらの駆動回路は,マイコン30のI/Oポート38を介してCPU31に接続されている。ここで,リール駆動機構72,73,74には,後述のリール回転センサ及びリール位置検出回路が含まれる。また,スピーカ43及びスピーカ駆動回路48は,後述の音発生手段80(図4)に含まれ,スピーカ駆動回路48は音発生手段80内のマイコン90のI/Oポート96及び前述のI/Oポート38を介してCPU31に接続されている。」(段落【0026】)

file_2.jpg+ [23] FIG.3 FIG.4 sad 80 \ 0 Faarane se Pee 2 [eee oe , HE oS 3 ui ile : ° (eRe・ 「図4は,実施例における前述の制御部20が発生する制御信号に応じて音を発生する音発生手段80と,これに電気的に接続する周辺装置(アクチュエータ)とを含む回路構成を示す。」(段落【0034】)

・ 「この場合,音発生手段80はマイコン90を主構成要素とし,後述のプログラムに従って制御動作を行うCPU91,記憶手段のROM92及びRAM93を含む。CPU91には,基準クロックパルスを発生するクロックパルス発生回路94,分周器95,及び前記制御部内のI/Oポート38からの音発生信号を受けてスピーカ駆動回路48に音発生信号を送るためのI/Oポート96が接続されている。スピーカ駆動回路48は,I/Oポート96からの音発生信号に応じてスピーカ43を駆動し,実際に音を発生する。」(段落【0035】)

イ 甲3(特開2000-116845号公報,発明の名称「ゲーム装置」)

・ 【発明の実施の形態】

「そこで,この実施形態では,以下のようにして,液晶表示器22が備えられているスロットマシン10の制御基板を,液晶表示器22が備えられていないスロットマシンに対しても適用できるようにされている。この点が,この実施形態の特徴の1つである。図3は,スロットマシン10に備えられている制御回路の構成を示すブロック図である。制御回路は,複数の制御基板によって構成されている。換言すれば,制御回路は,複数の制御基板に分割されている。具体的には,制御回路は,主制御基板30,リール制御基板31,ホッパ制御基板32,画像制御基板33,および音声制御基板34を含む構成になっている。各制御基板間はコネクタおよび接続線により接続されている。」(段落【0027】)

・ 【図3】

file_3.jpg・ 「主制御基板30は,スロットマシンによるゲームの基本となる内容を制御するための回路基板であり,制御の中枢となるCPUや,プログラムソフトが記憶されたROMや,制御時に必要なデータが書き込まれるRAM等が含まれている。リール制御基板31は3つのリール11a,11b,11cの回転を制御するためのものである。リール制御基板31は,主制御基板30から与えられるコマンドに基づいてリール制御動作を行うとともに,制御結果や必要なデータを主制御基板30へ返送する。」(段落【0028】)

・ 「ホッパ制御基板32は,メダル払い出しのためのホッパ(図示せず)を制御するためのものである。ホッパ制御基板32も,主制御基板30から与えられる所定のコマンドに基づいて動作をし,制御結果や予め定められたデータを主制御基板30へ返送する。画像制御基板33は液晶表示器22に表示される画像およびランプ23の点灯等を制御するための基板である。また音声制御基板34はスピーカ24から出力される音声を制御するための基板である。この実施形態の特徴は,主制御基板30に対して画像制御基板33および音声制御基板34が直列に接続されていることである。より具体的には,主制御基板30の出力用コネクタ35と画像制御基板33の入力用コネクタ36とが接続線37で接続されており,画像制御基板33の出力用コネクタ38と音声制御基板34の入力用コネクタ39とが接続線40で接続されている。この構成によって,主制御基板30から画像制御基板33に対して,予め定めるメッセージ信号が与えられる。メッセージ信号は,画像制御基板33を経て音声制御基板34へも与えられる。メッセージ信号は,たとえば2バイト~6バイト程度の容量で構成された信号であり,入賞メッセージ,メダル投入メッセージ,メダル払い出しメッセージ,ボーナスゲームメッセージ,デモ画面表示メッセージ等を知らせるための信号である。」(段落【0029】)

・ 「画像制御基板33および音声制御基板34では,メッセージ信号が与えられると,そのメッセージ(内容)に基づいて,それぞれ,液晶表示器22,ランプ23およびスピーカ24を制御して,所定の画像や光の点滅や音声を出力する。その際,画像制御基板33および音声制御基板34からは,主制御基板30に対して信号が返信されることはなく,これら2つの制御基板33,34は,主制御基板30から一方的に与えられるメッセージ信号に基づいて,画像制御および音声制御を行う。」(段落【0030】)

ウ 甲4(特開平11-342238号公報,発明の名称「遊技機」)

・ 【従来の技術】

「このような状態を放置することは,遊技者に経済的な負担を与えることとなり,遊技機がゲーム性を無視した単なる賭博機となりかねないため,遊技機には1回の遊技に消化義務のある割当時間が設定されている。そして,この割当時間(例えば,4.1秒)を下回るような速い速度で遊技を行うことを試みた場合には,割当時間が経過するまでスタートレバーの入力(操作)を無視したり,あるいはスタートレバーを操作しても割当時間が経過してからリールを回動させるなどの制御を行っている(いわゆる割当時間規制である)。例えば,実公平5-33173号公報などに,その技術内容が開示されている。」(段落【0004】)

・ 【発明の実施の形態】

「ここで,制御回路部30はメダルを50枚を限度として記憶処理して貯留(すなわち,クレジット)することが可能であるとともに,1回のゲームの実行につき所定の割当時間(例えば,4.1秒)を設定し,この割当時間に満たないようなゲーム進行を規制する規制手段,所定条件を満たす(例えば,大当り乱数の抽出)ことにより遊技者に有利な特別遊技状態(ビッグボーナス)を発生させる特別遊技状態発生手段,特別遊技状態発生手段によって特別遊技状態が発生しているか否かを判定する判定手段,および判定手段により特別遊技状態が発生していると判定された場合には,規制手段による割当時間を常態よりも短縮させる処理を実行する規制緩和手段の各機能を実現する。また,本実施の形態のゲームは,メダル(所定の遊技媒体)の賭操作によって実行を可能とするゲームであり,制御回路部30は,ゲームの終了とともに次回のゲームの実行のための賭操作を自動的に行う賭操作自動化手段,および特別遊技状態が発生している間は賭操作自動化手段を有効にする自動有効手段の各機能を実現する。」(段落【0017】)

・ 「次いで,ステップS7で割当タイマ=『0』であるか否かを判別する。割当タイマは,1回の遊技の消化義務に必要な割当時間を設定するもので,例えば4.1秒に設定される(ステップS8参照)。そして,割当時間を下回るような速い速度で遊技を行うことを試みた場合には,割当時間が経過するまでスタートレバー20の入力を無視したり,あるいはスタートレバー20を操作しても割当時間が経過してからリールを回動させるなどの割当時間規制の制御を行うようになっている。そのため,スイッチ7で割当タイマ=『0』でなければステップS7に待機し,割当タイマが『0』になると,ステップS8に進む。ステップS8では割当タイマに4.1秒を設定する。なお,割当タイマは所定の割込処理により,0に到達するまで常に減算されている。」(段落【0021】)

エ 甲5(特開平11-216224号公報,発明の名称「スロットマシン」)

・ 【発明の実施の形態】

「ゲームスタート条件が成立した場合には,CPU101は,乱数発生器105からそのときの乱数値Rを入力し(ステップS112),リール回転処理を開始する。図9および図10は,リール回転処理を示すフローチャートである。リール回転処理において,CPU101は,まず,1ゲームタイマがタイムアップしているか否か判断する(ステップS201)。1ゲームタイマとは,1ゲームが開始されてから終了するまで最低限経過しておかなければならない時間(たとえば4.1秒)を計時するためのものであり,ステップS202でセットされる。1ゲームタイマがタイムアップしていない場合には,CPU101は,CRT2の表示画面におけるウェイト表示部32を点灯するように表示制御回路240に制御データを与える。表示制御回路240は,制御データに従って,ウェイト表示部32を点灯する。」(段落【0051】)

・ 「1ゲームタイマがタイムアップしている場合には,1ゲームタイマを新たにセットし,全リールの回転を開始する(ステップS202)。このスロットマシン1は可変表示装置としてCRT2を有するので,CPU101は,表示制御回路240に対して,各リールの図柄変動を開始させるための制御データを与える。表示制御回路240は,その制御データに応じて,CRT2の表示画面の左中右の可変表示部5L,5C,5Rに変動する図柄が表示されるように制御する。」(段落【0052】)

オ 甲11(特開平7-51442号公報,発明の名称「パチンコ機」)

(ア) 特許請求の範囲

・ 【請求項1】

「所定の入賞玉受口器への玉流入を検知するセンサーと,前記センサーの玉検知に伴って作動し,数種の表示態様を有する複数個の表示器の,その表示態様を順次変換して表示する可変表示手段と,前記表示手段の停止状態の表示態様に関係づけられた時間で,所定の入賞玉受口器を開放する制御手段とを備えてなるパチンコ機において,遊技者による遊戯操作の有無を検知する判定スイッチと,前記判定スイッチによって検知される,遊戯操作の無い状態で作動し,可変表示手段の駆動と,その停止とを,順次繰り返すデモンストレーション実行手段とを備えたことを特徴とするパチンコ機。」

(イ) 発明の詳細な説明

・ 【発明が解決しようとする課題】

「本発明は,・・・遊戯をしていない場合に,遊戯板面において,デモンストレーションを行ない,視覚的に,パチンコ機の機能を表示するようにすることを目的とするものである。」(段落【0003】)

・ 【課題を解決するための手段】

「本発明は,前記構成のパチンコ機において,遊技者による遊戯操作の有無を検知する判定スイッチと,前記判定スイッチによって検知される,遊戯操作の無い状態で作動し,可変表示手段の駆動と,その停止とを,順次繰り返すデモンストレーション実行手段とを備えてなるものである。」(段落【0004】)

・ 【作用】

「遊戯をしていない間に,遊戯板面の複数個の表示器を駆動してデモンストレーションを行うようにしたから,パチンコ機の機能を遊戯者に視覚的に知得させることができる。」(段落【0005】)

・ 【実施例】

「・・・中央処理装置CPUには,情報検出回路14が接続している。前記情報検出回路14は,その入力装置として球検出センサー15,16及び押釦スイッチ11と,さらに,操作ハンドル10に設けられて,遊戯者による遊戯操作の有無を検知するタッチスイッチ(判定スイッチ)17とが接続されており,各センサーからの入力信号を・・・前記中央処理装置CPUに送る。・・・」(段落【0007】)

・ 「次に,中央処理装置CPUの出力側には,表示駆動回路(可変表示手段)22と,スピーカー駆動回路23と,ソレノイド駆動回路24とが夫々接続されている。・・・スピーカー駆動回路23は,同じく音制御信号に基づき,パチンコ機1裏面に設けられたスピーカー26を鳴らす。・・・」(段落【0009】)

・ 「・・・前記スピーカー26は,前記入賞の態様に対応して,例えば前記LED表示器3a,b,3cの循環駆動時に音声を発生する。・・・」(段落【0011】)

・ 「次に本発明の要部を説明する。前記ROMには,前記タッチスイッチ17により,遊戯者による遊戯操作のない場合にのみ実行するデモンストレーションプログラムが書き込まれている。ここでタッチスイッチ17は,遊戯者が操作ハンドル10を触手している場合には,オフとなり,開放するとオンとなるものである。前記デモンストレーションの態様は,(イ)LED表示器3a,3b,3cの表示内容と,入賞玉受口器5の開放時間の関係を明示するインストラクションを実行するもの(ロ)『フィーバー』状態と通常の乱数表を用いたものを交互に表示し,その内容に伴い入賞玉受口器5を開放するもの(ハ)『フィーバー』状態又は,通常の乱数表を用いたもののみを表示し,その内容に伴い入賞玉受口器5を開放するもの等種々の実行態様があり得る。」(段落【0012】)

・ 「図3は,前記(イ)を実行するためのフローチャートの一例を示す。すなわち,前記タッチスイッチ17のオンによりスタートし,ステップ1で,指数Nを1に設定し,ステップ2で遊戯板面2のLED表示器3a,3b,3cを所定時間循環駆動させるためのタイマT1をオンとし,さらにステップ3で,LED表示器3a,3b,3cを駆動する。前記タイマーT1のタイムアップ信号により,ステップ5に移行し,指数Nを判別し,N=1の場合には,LED表示器3a,3b,3cに『7・7・7』を表示し,前記ソレノイド6の駆動時間を設定するタイマT2を30秒に設定し,かつソレノイド6を駆動して入賞玉受口器5を開放する。当該時間消化後,タイマT2のタイムアップ信号に基づきステップ10でソレノイド6が駆動解除する。この後ステップ11で指数Nに1を加えて後,ステップ2に戻る。さらにステップ5で選択的に分岐して,次のルーチンに移行し,『2・2・2』の表示と,該表示に伴う入賞玉受口器5の5秒間の開放がなされる。このように,前記指数Nの1加算に伴い,その循環毎に次のルーチンに移行して,順次当り表示がなされ,一巡すると再びステップ1に移行する。」(段落【0013】)

・ 【図3】

file_4.jpg・ 「前記の態様は一例であって,その他,遊戯板面2上には種々のデモンストレーションの態様,例えば,LED表示器3a,3b,3cだけのデモンストレーション又は入賞玉受口器5だけのデモンストレーション等の態様を生じさせることができる。」(段落【0014】)

・ 「なお,タッチスイッチ17により遊戯者による遊戯操作の無い場合にのみ,前記デモンストレーションが実行されるが,前記入賞玉受口器5の開放を伴う場合には,確実に,前記デモンストレーション中に入賞玉受口器5に打玉が入らないように次の構成を施すことが好ましい。

(a) タッチスイッチ17のオン作動を同時に,発射レール基端位置に打球を供給する供給孔を遮断する。なお,前記供給孔には,打止めと同時に前記孔を遮断する開放装置が設けられているから,供給孔の遮断は,既存手段を利用して容易に施すことができる。

(b) 操作ハンドル10を離すと同時に,デモンストレーションが作動すると,まだ遊戯板面2を転球している打球が,デモンストレーションの実行により開放した入賞玉受口器5に入る恐れがある。このため,タイマーをステップ1の前に介装して,一定時間経過後にのみデモンストレーションを実行するようにする。」(段落【0015】)

・ 「その他,前記デモンストレーション中は,遊戯場内の騒音を増大しないように,スピーカー26の音量を小さくしたり,動作しないようにすることが好ましい。」(段落【0016】)

・ 【発明の効果】

「本発明は,上述のように,遊戯していない間に,遊戯板面2のLED表示器3a,3b,3cを駆動してデモンストレーションを行うようにしたから,パチンコ機1の機能を遊戯者に視覚的に知得させることができ,遊戯操作への興味を刺激することができて,この種パチンコ機の顧客吸引力を高め得る等の優れた効果がある。」(段落【0017】)

(4)  取消事由の主張に対する判断

ア 取消事由1(相違点認定の誤り)について

(ア) 原告は,審決が本願発明と引用発明との相違点の認定を誤っている旨主張するので,以下,本願発明と引用発明とを対比する。

a 前記(1),(2)によると,引用発明の「スロットマシン」は,本願発明の「遊技機」に相当する。そして,引用発明における「当選か否か及びその賞の種類を判定することにより内部当たりか否かの抽選を行う」は,本願発明の「入賞態様を決定する」に相当し,その際,引用発明では「乱数サンプリングにより得られた値をROMに書き込まれているデータに照らして」つまり乱数抽選によって入賞態様を決定するから,引用発明の遊技機は本願発明の「乱数抽選によって入賞態様を決める入賞態様決定手段」に相当する構成を具備している。

そして,引用発明における「BBゲーム」は「一般ゲームよりも入賞確率が高いような遊技者にとって有利な条件のゲーム」である「特別ゲーム」(甲1[引用文献1]の段落【0030】)の1つであるから,引用発明の「遊技状態がBBゲームである」ことは,本願発明の「遊技状態が一般遊技状態と比べて高い確率で入賞態様が決定される特定の入賞態様にある」ことに相当する。

b 引用発明の「音声出力部52(及びスピーカ20)」は,所定の遊技状態に応じた効果音を発生するものであり,本願発明の「所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段」に相当する。

そして,引用発明の「BB効果音」は,現在の遊技状態が一般の遊技状態ではなく特定の入賞態様であるときにその旨を遊技者に報知すべく発生させられる音であるから,「継続的な」ものであるか否かは明示されていないものの,本願発明の「遊技状態が一般遊技状態と比べて高い確率で入賞態様が決定される特定の入賞態様にあるとき」に出音手段が出音する効果音に対応する。

c 引用発明の「制御部50」は,音の発生及び停止を出音手段に指示してその音量を制御する手段であり,BBゲームの終了により遊技状態が特定の入賞態様でなくなるに当たって特定の入賞態様にあるときに出音されている効果音の発生を停止させ消音する点において,本願発明の「出音制御手段」に対応する。

(イ) 以上によれば,本願発明と引用発明とは,

「乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段と,操作音又は所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段と,この出音手段の音量を制御する出音制御手段と,を具備する遊技機において,

前記出音手段は,遊技状態が一般遊技状態と比べて高い確率で入賞態様が決定される特定の入賞態様にあるときに効果音を出音し,

前記出音制御手段は,遊技状態が前記特定の入賞態様にある場合において,前記効果音の音量を下げるか又は消音する遊技機」

である点で一致し,以下の4点において相違していると認められる。

a 入賞態様決定手段が,本願発明では,メインCPU,サブ制御基板に各種信号を送信するサブ制御部通信ポート及び1遊技用監視用タイマを備えたメイン制御基板に備えられており,これに対し,引用発明では,メインCPU,サブ制御部通信ポート及び1遊技用監視用タイマを備えたメイン制御基板に備えられていると明示されていない点。(審決が認定した相違点1に対応する。)

b 出音手段が出音する効果音が,本願発明では,メイン制御基板からの指示に従って出音される継続的なものであり,これに対し,引用発明では,メイン制御基板からの指示に従って出音される継続的なものであると明示されていない点。(審決が認定した相違点2に対応する。)

c 出音手段及び出音制御手段が,本願発明では,非遊技状態監視用タイマとともに,メイン制御基板から所定のタイミングに対応する信号を受信すると非遊技状態監視用タイマをセットして前記所定のタイミングからの経過時間を計時するサブCPU及びメイン制御基板からの信号を受信するメイン制御部通信ポートを備えたサブ制御基板に備えられており,これに対し,引用発明では,非遊技状態監視用タイマとともに,サブCPU及びメイン制御部通信ポートを備えたサブ制御基板に備えられていると明示されていない点。(審決が認定した相違点3に対応する。)

d 遊技状態が特定の入賞態様にある場合の出音制御手段が,本願発明では,非遊技状態監視用タイマが非遊技状態を所定時間計時したときに効果音の音量を下げ又は消音するものであり,これに対し,引用発明では,所定の遊技回数を消化すると効果音を停止し,非遊技状態監視用タイマが非遊技状態を所定時間計時したときに効果音の音量を下げ又は消音するものではない点。(審決が認定した相違点4に対応する。)

(ウ) 審決が認定した相違点1ないし4は,表現は異なるものの,当裁判所が認定した上記(イ)aないしdに対応しており,審決に相違点看過は見当たらない。

なお,審決は,対比に当たって,本願発明が,遊技者が遊技をしていないのにもかかわらず大きな遊技音が出音され続け周囲の遊技者の迷惑となり遊技者自身も煩わされるという従来技術における課題を非遊技状態監視用タイマによる所定のタイミングからの経過時間の計時による遊技がされていない状態の検出に応じて出音制御手段が出音手段から出音されている継続的な効果音の音量を下げるか又は消音することにより解決するものであることを踏まえた検討を行ったものである。

そして,審決は,相違点を摘記するに当たって,非遊技状態監視用タイマ及び出音制御手段に係る上記課題解決のための構成及び機能の相違を,それぞれ相違点3及び4とし,本願発明と解決しようとする課題を内在する従来技術とで共通する構成に係る相違点となる構成及び機能の相違を,それぞれ相違点1及び2として整理したものであり,この審決の整理は是認することができる。

(エ) 原告の主張に対する説明

原告は,1遊技用監視用タイマ等をメイン制御基板に搭載し,非遊技状態監視用タイマ等をサブ制御基板に搭載する構成は,タイマ及び出音機能の役割分担を規定する上で本願発明の根幹をなす構成であり,審決の相違点1及び3の認定は,この本来一体として判断されるべき構成を意図的に細分化して誤った結論に導くものであると主張する。

しかし,前記(ウ)のとおり,審決は,相違点を摘記するに当たって,非遊技状態監視用タイマ及び出音制御手段に係る課題解決のための構成の相違を相違点3とし,他方で,本願発明と解決しようとする課題を内在する従来技術とで共通する構成に係る相違点となる構成の相違を相違点1として整理したものであるから,別の相違点として検討されてしかるべきものであって,意図的に細分化したものであるということはできない。また,後記のとおり,審決がなした相違点1,3に関する判断にも誤りはなく,相違点看過も見当たらない。

イ 取消事由2(引用文献11認定の誤り)及び取消事由3(相違点3,4についての判断の誤り)について

(ア) 審決は,相違点1の判断に当たって,遊技機において制御装置を,メインCPUと乱数抽選によって入賞態様を決定する入賞態様決定手段を備えたメイン制御基板と,サブCPUとメイン制御基板からの指示に従い操作音又は所定の遊技状態に応じた効果音を出力する出音手段とこの出音手段を制御する出音制御手段とを備えたサブ制御基板から構成することは周知技術であり,ゲーム間を4.1秒以上にすることは遊技規則によって定められていることであって,1遊技用監視タイマを設けることは慣用技術であることを踏まえて,引用発明に上記周知技術及び上記慣用技術を適用して相違点1に係る本願発明の構成とすることは容易想到である旨を説示している(審決8頁13行以下)。

また,審決のいう相違点3の判断に当たって,甲11(引用文献11)に「遊戯者による遊戯操作の有無を操作ハンドル10への触手の有無としてこれをタッチスイッチ17により検知し,操作ハンドル10への触手がなくタッチスイッチ17がオンすると,タイマーを介して,その一定時間経過後に,遊戯場内の騒音を増大しないようスピーカー26から発生する音声の音量を小さくしたりスピーカー26を動作しないようにすることが好ましいデモンストレーションを実行させるようにした制御手段を備えたパチンコ機」が記載されていること,「遊技音」が「遊技がなされていない状態において出音されている」スロットマシンである引用発明においてこの甲11に記載された構成を適用して遊技中ではないスロットマシンについて遊技場内の騒音を増大しないようにその音量を小さくすることは容易想到である旨を説示している(審決11頁4行~26行)。

原告は,取消事由2として,相違点3及び4の判断に係る甲11(引用文献11)記載の技術の認定を争い,これを踏まえて,取消事由3においても,甲11の認定が誤っていることを前提として,相違点4の判断を争い,このほか,相違点3の判断につき,審決が相違点1の判断を前提とした,いわば2階建ての論理付けをしており,重大な瑕疵がある旨主張している。

そこで,以下において,まず甲11に関する認定及び相違点判断の誤り(取消事由2,及び取消事由3の一部)について検討し,その上で,相違点3の判断につき,いわば2階建ての論理付けをしている旨の主張(取消事由3の一部)について検討する。

(イ) 検討

a 甲11の認定及び相違点4の判断につき

(a) 甲11には,前記(3)オの記載があり(段落【0003】,【0007】,【0011】,【0012】,【0013】,【0015】,【0016】参照),以上からすれば,甲11には,遊戯をしていない場合にデモンストレーションを行い,入賞の態様に対応した音を発生するパチンコ機において遊戯者が操作ハンドル10を触手していればオフであるタッチスイッチがオンとなりデモンストレーションのためのプログラムをスタートするに当たって,介装されたタイマーにより一定時間経過後にデモンストレーションのためのプログラムの最初のステップであるステップ1をスタートする旨,及び,遊戯場内の騒音が増大しないように,デモンストレーション中は,スピーカー26の音量を小さくしたり,動作しないようにすることが好ましい旨が記載されている。すなわち,甲11には,場内の騒音が増大しないように遊技者が手を離したことによってタッチスイッチからの信号を受信したタイマーが所定時間計時したときにスピーカー26の音量を小さくしたりこれを動作しないようにする技術が記載されているものである。

(b) そして,引用発明の遊技機は遊技店に設置されるスロットマシン等である遊技装置(甲1の段落【0001】,【0007】)であり,スピーカからBB効果音を発生するのであるから,甲11記載の技術と同様に,入賞態様に応じて発せられる音による場内の騒音が増大しないようにすることが求められるものである。

(c) してみると,引用発明において甲11記載の技術を適用して,遊技状態が特定の入賞態様にある場合に,遊技者が手を離したタイミングで発せられる信号を受信した非遊技状態監視用タイマが非遊技状態を所定時間計時したときに出音制御手段が効果音の音量を下げ又は消音するように構成することは,当業者が容易になし得たことというべきである。

審決は,概ね以上の趣旨を説示しており,その内容に誤りはない。

b 相違点1及び相違点3の判断につき

(a) 前記ア(ウ)のとおり,審決は,相違点を摘記するに当たって,非遊技状態監視用タイマ及び出音制御手段に係る課題解決のための構成の相違を相違点3とし,他方で,本願発明と解決しようとする課題を内在する従来技術とで共通する構成に係る相違点となる構成の相違を相違点1として整理したものであり,この審決の整理は是認することができ,相違点の看過もない。

(b) そして,遊技機においては,遊戯規則によって1ゲームの開始後所定時間(例えば4.1秒間)次のゲームを開始させないようにするためのタイマーを設ける必要があり(甲4(段落【0004】,【0017】,【0021】),甲5(段落【0051】,【0052】)参照),甲1に明示されていなくとも遊技店に設置される遊戯装置である引用発明の遊戯機がこのようなタイマーを遊戯全体の制御のために備えていることは明らかである。また,遊技機の入賞態様を決定する機能を含む遊戯全体の制御に係る機能と音を発生する機能とを異なる制御基板に配置することは,甲2(段落【0026】,【0034】,【0035】,図3及び4)及び甲3(段落【0027】~【0030】,図3)に示されるように周知技術であり,このような遊技機においては,メインCPU,サブ制御基板に各種信号を送信するサブ制御部通信ポート,及び1遊技用監視用タイマを備えたメイン制御基板に入賞態様決定手段が備えられ,かつ,メイン制御基板から所定のタイミングに対応する信号を受信すると非遊技状態監視用タイマをセットして前記所定のタイミングからの経過時間を計時するサブCPU及びメイン制御基板からの信号を受信するメイン制御部通信ポートを備えたサブ制御基板に出音手段及び出音制御手段が備えられることになる。

(c) してみると,引用発明において甲11記載の技術を適用するに際し,上記周知技術を採用して構成し,遊技状態が特定の入賞態様にある場合の出音制御手段につき,非遊技状態監視用タイマが非遊技状態を所定時間計時したときに効果音の音量を下げ又は消音するように構成し,その際,メインCPU,サブ制御基板に各種信号を送信するサブ制御部通信ポート,及び1遊技用監視用タイマを備えたメイン制御基板に入賞態様決定手段が備えられ,メイン制御基板から所定のタイミングに対応する信号を受信すると非遊技状態監視用タイマをセットして前記所定のタイミングからの経過時間を計時するサブCPU及びメイン制御基板からの信号を受信するメイン制御部通信ポートを備えたサブ制御基板に出音手段及び出音制御手段が備えられるようにすること,その際,音量を下げ又は消音するために用いられるタイマーを音を発生する機能を配置した制御基板であるサブ制御基板に配置することは,当業者が容易になし得たことというべきである。

(d) 審決は,概ね,以上の趣旨を説示しており,仮に相違点1と相違点3とを一体の相違点として検討しても,これらの相違点につき引用発明及び周知技術から容易想到であることに変わりはない。

(ウ) 原告の主張についての説明

a 甲11の認定及び相違点4の判断につき

(a) 原告は,甲11の段落【0015】の記載を根拠として,甲11のタイマーはデモンストレーションを実行するタイミングを測るためのものであり,デモンストレーションが実行されるまでの間に何らかの音を出音するとの記載はなく,その間は遊技が中断した状態であり出音する必要がないから基本的に出音していない期間と解するのが相当であり,同段落【0016】の記載は,初めから音量が小さいか消音状態にあるデモンストレーションを実行することを記載しているのであって,デモンストレーションに入る前の当該遊技機が発する音の音量を低下させたり消音するものではない旨主張する。

しかし,甲11のタッチスイッチ17により遊戯者による遊戯操作のない場合にのみデモンストレーションが実行され,その際,タイマーにより一定時間経過後にのみデモンストレーションを実行する旨の記載(段落【0015】)及び「前記デモンストレーション中」はスピーカー26の音量を小さくしたり,動作しないようにすることが好ましい旨の記載(段落【0016】)からみて,甲11には,遊技者が手を離して一定時間が経過した後にデモンストレーションを実行するとともにスピーカー26の音量を小さくしたり,動作しないようにすることが示されているといえる。

そして,甲11には,デモンストレーションの開始と異なるタイミングにおいて音量を下げ又は消音することを示す記載はなく,仮に,デモンストレーションに入る前から音量が小さいか消音状態にあることのみを記載する趣旨であれば「前記デモンストレーション中」に限定して音量を小さくしたり消音する旨を記載するはずもない。

してみると,原告の主張は,甲11の記載内容を正解しないものである。

(b) 原告は,甲11のタイマはデモンストレーションに入るタイミングを測ることを目的とし,デモンストレーションに入る前の遊技機は効果音等を出音している状態でないから,ビッグボーナス時に継続的な効果音を出音する引用発明に適用する動機付けは存在しないし,仮に適用しても相違点4の構成が導かれることはない旨,「入賞の態様に対応して音声を発生する遊技機」は極めて上位の概念であり,甲11を具体的に検討すれば動機付けは存在しない旨,甲11の段落【0015】にあるように甲11のタイマはデモンストレーションの実行により開放した入賞玉受口器5に打球が入るおそれを回避するというパチンコ機特有の課題に基づく構成であり,パチスロである引用発明に適用する動機付けはない旨,それぞれ主張する。

しかし,前記(イ)aのとおり,甲11には場内の騒音が増大しないように遊技者が手を離してタッチスイッチからの信号を受信したタイマーが所定時間計時したときにスピーカー26の音量を小さくしたりこれを動作しないようにする技術が記載されており,遊技店に設置される遊技装置であって入賞の態様に応じた音を発し場内の騒音が増大しないようにすることが求められる引用発明の遊技機において甲11記載の技術を適用することは容易想到というべきである。

そして,甲11記載の技術は,遊技操作終了後の遊戯板面を転球する打球が残っていないことを検出してデモンストレーションや消音等を行うものではなく,場内の騒音が増大しないことが求められるにもかかわらず遊技者が手を離してから所定時間計時するまでの一定の期間内は遊技中と同様にデモンストレーションや消音等を行わないものであるから,パチンコ機特有の課題に基づく構成であるということはできず,パチスロ機にも適用可能なものである。

このように,原告の主張は甲11の記載内容を正解しないものである。

(c) 原告は,審決は相違点4の判断において甲1と甲11を用いて容易想到の判断を2回(11頁23行~26行及び同頁33行~36行)行っているが,それらの関係及び論理付けが不明確であり,この点からも審決を取り消すべき重大な瑕疵があると主張する。

しかし,審決は,前者の説示において,パチンコ機ではなくスロットマシンに関する引用発明においても,遊技場内の騒音を増大しないようにその音量を小さくすることについて容易想到であると判断し,後者の説示においては,特別の遊技状態に応じた遊技音の音量を下げることについても前者の説示が妥当する旨判断したものであり,容易想到の判断を2回行ったものではなく,原告の上記主張は理由がない。

b 相違点1及び相違点3の判断につき

(a) 原告は,相違点3の判断は相違点1の判断を前提とした2階建ての容易想到の理屈を展開しており論理付けに重大な瑕疵がある旨,このことは,審決14頁4行~7行の「・・際には,・・」,被告準備書面16頁の「・・いるならば,・・・」という表現からも明らかである旨,それぞれ主張する。

しかし,審決の相違点1,3,4の判断を全体としてみれば,審決は,引用発明において甲11記載の技術を適用することが容易想到である旨判断するとともに,その際,音の制御に係る手段をメイン制御基板と異なる基板(サブ制御基板)に設ける構成である審決認定の周知技術を採用して,引用発明において甲11記載の技術を適用するにあたってこの周知技術の構成とすることも容易想到である旨判断したものである。

そして,引用発明の遊技機を場内の騒音が増大しないものとするか否かによって遊技機の基板の構成が変わるものではないから,引用発明の遊技機においてこの周知技術の構成を採用することは,引用発明に甲11を適用するか否かにかかわらず,当業者が適宜なし得たことである。

してみると,審決の相違点1,3,4の判断を全体としてみれば,ここで説示された論旨に誤りはなく,原告の主張は,審決を正解しないものである。

(b) 原告は,従来の遊技機において1遊技監視タイマを制御基板に搭載することは周知ではあるが,その他の経過時間(本件でいえば非遊技状態)を計時する必要がある場合,制御基板に搭載されている1遊技監視タイマの計時機能を用いることも可能であるところ,本願発明ではこれを別個の構成とし,かつ,メイン制御基板に1遊技監視タイマを搭載し,非遊技状態監視用タイマをサブ制御基板に搭載したことを一つの構成上の特徴とするものであり,審決は,本願発明の1遊技監視タイマと非遊技状態監視用タイマをタイマとして別個の構成とした点について,その新規性,進歩性を論じていないと主張する。

しかし,審決は遊技規則の要請により設けられる1遊技用監視タイマについては相違点1の検討の中で判断しており,他方,甲11記載の技術におけるタイマーについては相違点4の判断において言及し,その上で,後者をメイン制御基板とサブ制御基板のいずれに設けるかは「単なる設計事項に過ぎない」と判断していることに照らせば,審決は本願発明が「1遊技用監視用タイマ」と「非遊技状態監視用タイマ」とを別々の構成として有することを踏まえて別々に検討しているのであり,前者を後者のタイマーとして流用することが可能か否か及びこれを流用することの是非は,本願発明とも審決の説示の論旨とも無関係である。

また,一般論として,遊技規則の要請により設けられる1遊技用監視タイマを,遊技規則の要請によらずに設けられるタイマーとして流用することは必ずしも望ましいものではないから,これらを別個の構成として別々の基板に設けることは適宜なし得たというべきであり,この点を「単なる設計事項」であるとした審決の判断に誤りはない。

3  結論

以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に誤りはない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)

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