知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10184号 判決 2012年3月08日
原告
株式会社ハッピー
原告
株式会社京都産業
被告
株式会社きょくとう
訴訟代理人弁理士
平井安雄
同
栫生長
主文
1 特許庁が取消2010-300705号事件について平成23年5月6日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,平成13年7月19日に,別紙被告登録商標目録記載の商標(以下「本件登録商標」という。)につき,第37類「洗濯,被服のプレス,被服の修理,毛皮製品の手入れ又は修理」を指定役務として設定登録(第4492310号)を受けた商標権者である(甲1,41)。
原告株式会社ハッピー(以下「原告ハッピー」という。)及び原告株式会社京都産業(以下「原告京都産業」という。)は,平成22年6月25日,被告が,故意に,指定役務について本件登録商標に類似する商標(別紙被告使用商標目録1ないし5記載の商標(以下,目録の順序に従い「被告使用商標1」などという。))を使用して,原告らの業務に係る役務と混同を生じる行為をしたなどと主張して,本件登録商標につき,商標法51条1項に基づいて商標登録取消審判(取消2010-300705号事件。以下,「本件審判」という。)を請求し(甲30),特許庁は平成23年5月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月14日,原告らに送達された(注 審判手続において,原告らが取消原因として主張した,被告の使用に係る商標は,上記の商標の外,2つの商標があったが,本訴訟の対象とされていないので,審決の概要の要旨から割愛した。)。
2 審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は次のとおりである。
被告が使用する被告使用商標1ないし5は,原告ハッピーが商標権を有する別紙引用商標目録記載の商標(登録第4305744号。以下「引用商標」という。)とは類似しない。
被告が被告使用商標1ないし5を使用することによって,引用商標と混同を生じることも,役務の質の誤認を生じることもない。被告による被告使用商標1ないし5の使用について,商標法51条1項所定の「故意」を認めることもできない。したがって,本件登録商標は,同法51条1項により取り消すべきではない。
第3当事者の主張
1 取消事由に関する原告らの主張
審決には,被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同に関する判断の誤り(取消事由1),役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由2),故意の有無に関する判断の誤り(取消事由3),本件審判手続における手続違背(取消事由4)があり,結論に影響を及ぼすから,審決は違法であるとして取り消されるべきである。
(1) 被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同に関する判断の誤り(取消事由1)
ア 引用商標である「アクアドライ」は,「アクア」と「ドライ」を結語させた造語であるが,一体不可分な複合語のように認識され,「アクアドライ」の称呼及び外観を備え,「従前のドライクリーニングではなし得なかった,水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方に対して同時に対応できる新規な洗浄方法」の観念が想起され,指定役務「洗濯」においても,出所についての識別力を有する。
イ 被告使用商標1は,「OZONE」と「AQUA DRY」に分離して観察され,そのうち「AQUA DRY」の部分からは,「アクアドライ」の称呼を生じ,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」という観念を生じる。
被告使用商標2は,「オゾン」と「アクアドライクリーニング」の間に「&」が配置されていることから,「オゾン」と「アクアドライクリーニング」に分離して観察でき,「オゾン」からは「オゾン洗浄」の観念を,「アクアドライクリーニング」からは「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄」の観念を生じる。
被告使用商標3及び4は,「&」又は「アンド」が使用されていること,「アクアドライ」の語は,クリーニング業界において自他識別力の高いものであることから,「オゾン」と「アクアドライ」が分離観察され,「オゾン」からは「オゾン洗浄」の観念を,「アクアドライ」からは「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄」の観念を生じる。
被告使用商標5は,「アクアドライ」の語がクリーニング業界において自他識別力の高いものであることから,「オゾン」と「アクアドライ」が分離観察され,「オゾン」からは「オゾン洗浄」の観念を,「アクアドライ」からは「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄」の観念を生じる。
なお,「アクアドライ」と「オゾン洗浄」は別個の洗浄方法であるから,「洗濯」を役務とするクリーニング業界において,役務を表す商標として「オゾン」と「アクアドライ」が並立した商標が使用された場合には,「オゾン」と「アクアドライ」を分離して観察すべきである。
そして,被告は,そのウエブサイトにおいて,本件登録商標により提供している役務の内容につき,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」であると説明しており,これは被告使用商標1ないし5の「AQUA DRY」「アクアドライクリーニング」及び「アクアドライ」から観念される洗浄方法と同じであること,被告は,全商品に適用する基本サービスとして「オゾンクリーニング」を提供し,これに付加されるオプションサービスとして本件登録商標による役務を提供していること,被告は,「オゾン」の表記のない被告使用商標6(「アクア/ドライ」を横書きした商標)を使用することによって,「オゾンクリーニング」を基本的な役務として提供し,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」をオプション的な役務として提供することを表示していたといえることなどからすると,「AQUA DRY」「アクアドライクリーニング」又は「アクアドライ」に品質保証機能等が備わっているといえる。
したがって,被告使用商標1ないし5と引用商標とは,外観,称呼及び観念において類似している。
ウ 原告らによる引用商標を使用した基本サービスである役務の提供について,ウエブサイト,カタログ,ちらし等による宣伝だけでなく,他業界における多くの業者による広告の協力や,各種メディアによる報道,広告などがされた結果,本件審判請求時である平成22年6月ころには,引用商標は,原告らの業務に係る洗濯又はその技法を表示するものとして,日本全国で周知となっている。
よって,被告が「洗濯」の役務において被告使用商標1ないし5を使用することにより,引用商標を使用した原告らの役務と出所の混同を生じるおそれがある。
(2) 役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由2)
原告らが引用商標を用いて提供している役務は,水を使用した洗浄効果の高い洗浄方法という,ドライクリーニングとは異質の洗浄方法を用いた役務である。これに対し,被告が被告使用商標1ないし5を使用して提供している役務は,水溶性の汚れにも多少は対応できるが,溶剤として使用する水の量は極めて少なく,ドライクリーニングであることは変わらない。
被告使用商標1ないし5は,「水」の観念を想起させる「AQUA」又は「アクア」を含んでいるだけでなく,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」の観念を生じる「AQUA DRY」又は「アクアドライ」を含んでおり,被告使用商標1ないし5により提供される被告の役務が,引用商標により提供している原告らの役務のように,水を用いた水系洗浄による役務であるという誤認を生じさせる。
さらに,引用商標からは「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる原告らが独自に開発した洗浄方法」の観念が想起されることから,被告使用商標1ないし5により提供される被告の役務は,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる原告らが独自に開発した洗浄方法」を使用していると消費者を誤認させる。
(3) 故意の有無に関する判断の誤り(取消事由3)
被告は,原告京都産業から平成15年7月4日付けの警告書を受領した後,被告使用商標3及び5につき商標登録出願を行い,被告使用商標1及び3の表示の変更や抹消をするなどしている。このように,被告は,被告使用商標1ないし5の使用により,原告らの業務に係る役務と混同を生じさせることを認識し,役務の質の誤認が生じることを認識していたのであるから,商標法51条1項所定の「故意」を認めることができる。
(4) 本件審判手続における手続違背(取消事由4)
ア 本件審判事件の審判番号は,原告ハッピーには通知されたが,原告京都産業には通知されていないので,商標法施行規則22条8項で準用する特許法施行規則48条1項に違反する。
イ 本件審判事件の審判官及び審判書記官の氏名,並びに審判官及び審判書記官の変更について,原告ハッピーには通知されたが,原告京都産業には通知されていないので,商標法施行規則22条8項で準用する特許法施行規則48条2項に違反する。
ウ 本件審判事件では,原告ハッピーに対して審理終結通知がされた後に,原告京都産業に対し書面審理通知がされた。このように,審理終結後に審理の再開もされずに書面審理の通知がされたのは,商標法56条1項で準用する特許法145条,156条1項,2項に違反する。
エ 本件審判事件では,審決は審理終結後20日以上経過した後にされた。本件審判事件は,複雑であるとはいえず,その他やむを得ない事情がないにもかかわらず審決が遅れた点は,商標法56条1項で準用する特許法156条3項に違反する。
オ 審判長は,原告京都産業に対する審理終結通知の発送よりも前に,原告らに対し,答弁書の副本を送達することが可能であったにもかかわらず,審決書の謄本と同時に送達した。これは,商標法56条1項で準用する特許法134条3項に違反する。
カ 以上の手続違背により,原告らは十分な主張立証の機会を得られず,その結果,取消事由1ないし3に係る誤った判断がなされたのであり,これらの手続違背は審決の結論に影響を及ぼす。
2 被告の反論
(1) 被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同に関する判断の誤り(取消事由1)に対して
引用商標は,「アクア」の語と「ドライ」の語を結合した「アクアドライ」が,同書,同大,等間隔に全体として一体的にまとまりよく構成された造語として,自他役務の識別機能を有するのであり,特定の観念は生じない。
指定役務「洗濯」との関係においては,「アクア」の文字は,水溶性の汚れを落とす水洗いによる「アクアクリーニング」又は「ウエットクリーニング」を指し,「ドライ」の文字は,油溶性の汚れを落とす洗浄システムの「ドライクリーニング」を指すものとして理解,認識されている。したがって,仮に,原告ら主張のように,引用商標が「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」の観念を生じるのであれば,引用商標を指定役務「洗濯」について使用するときには,商標法26条1項2号に規定する,役務の提供の方法を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないこととなり,商標権の効力は及ばない。
また,原告ら主張のように,引用商標から上記の観念が想起されるとすると,引用商標は,指定役務「洗濯」との関係において,自他役務の識別機能は極めて弱いか,識別機能がないこととなる。したがって,被告使用商標1ないし5は引用商標とは類似しないとした審決の判断に誤りはない。
原告らは,引用商標について,宣伝を繰り返し,多くのメディアに取り上げられ,報道,広告がされたと主張する。しかし,「アクアドライ」が登録商標として理解され,認識される程度に,独立して目立つように顕著に表現されて広告,宣伝されていたとは認められず,むしろ,原告ハッピーが開発した水洗いによるドライクリーニングの洗浄方法を表示したものとして理解されていたと認められる。したがって,引用商標は,役務の出所の混同を生じる程度に,登録商標として周知,著名ではない。
(2) 役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由2)に対して
被告使用商標1ないし5の使用が役務の質の誤認を生じるとはいえないとした審決の判断に誤りはない。
(3) 故意の有無に関する判断の誤り(取消事由3)に対して
被告による被告使用商標1ないし5の使用について,商標法51条1項所定の「故意」を認めることはできないとした審決の判断に誤りはない。
(4) 本件審判手続における手続違背(取消事由4)に対して
原告ら主張の事実関係は知らない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,取消事由4には理由があり,審決は取り消すべきであると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件審判手続における手続違背(取消事由4)について
(1) 本件審判手続の経緯
原告らは,平成22年6月25日,本件審判を請求した。
原告ハッピーに対し,特許庁長官は,同年7月8日ころ,本件審判事件の審判番号並びに本件審判事件の審判官及び審判書記官の氏名を(甲32,33),審判長は,同年9月17日,本件審判の審理は書面審理にする旨を(甲34),特許庁長官は,平成23年3月1日ころ,審判官及び審判書記官の変更を(甲35),審判長は,同月30日ころ,審理の終結を(甲36),それぞれ通知した。
また,原告京都産業に対しては,審判長は,平成23年4月21日ころ,本件審判の審理は書面審理にする旨を(甲37),同月22日ころ,審理の終結を(甲38)それぞれ通知したが,特許庁長官は,本件審判事件の審判番号,本件審判事件の審判官及び審判書記官の氏名,審判官及び審判書記官の変更については,通知しなかった(弁論の全趣旨)。
被告は,平成22年9月6日ころ,特許庁に答弁書を提出した(甲31)。特許庁は,平成23年5月6日付けで審決をし,同月13日,原告らに対し,審決書謄本と共に答弁書の副本が発送された(甲39の1,39の2,40の1,40の2)。
(2) 判断
商標法56条1項が準用する特許法134条3項は,審判長は,答弁書を受理したときは,その副本を請求人に送達しなければならないと規定する。同規定は,審判請求手続において,答弁書が提出された場合には,その副本を請求人に送達して,請求人に被請求人の主張の内容を知らせ,請求人にこれに対応する機会を付与するなど,適正な審判手続を実現する趣旨で設けられた規定といえる。
同項が設けられた上記の趣旨に照らし,本件審判手続の当否を検討すると,平成22年9月6日には被告から答弁書が出されていたにもかかわらず,答弁書副本が原告らに発送されたのは,答弁書提出から8か月を経過した後である平成23年5月13日であり,しかも,審決書謄本と共に発送されている。このような手続は,特許法が答弁書副本の送達を義務づけた上記の趣旨に著しく反した措置というべきであり,同法134条3項に違反する。
もっとも,審判長は,請求人に対し,答弁書に対する再反論等の機会を与えなければならないものではない(商標法56条1項が準用する特許法134条1項参照)。しかし,その点を考慮に入れたとしてもなお,審決書謄本とともに答弁書副本を送達した本件の措置が適法として許されるものとはいえない。
したがって,審決はその審判手続に瑕疵があり,取り消されるべきである。
なお,上記のとおり,審決は違法なものであるが,事案にかんがみ,迅速な紛争解決に資するため,取消事由1,2の有無についても,以下に検討した結果を記載する。
2 被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同に関する判断の誤り(取消事由1)について
(1) 事実認定
ア 被告の営業内容
被告は,クリーニング業を営む会社である。被告は,そのウエブサイト及びパンフレット,会社説明会資料等において,被告では,すべての商品をオゾンで洗浄し,これにより水溶性の汚れの除去率が上昇したこと,オプションとして,オゾンのドライクリーニングに水を加えて洗う「オゾン&アクアドライ」があり,これを利用するとさらに水溶性の汚れが落ち,水溶性の汚れと油溶性の汚れが1回の工程で落とせること(甲2の3ないし2の5,2の7ないし2の14),オゾンクリーニング,アクアクリーニング(ウエットクリーニング),ドライクリーニングの3つの効果により,それまで取れにくかった汗染み等がきれいに落ちることなどを説明して,宣伝,広告をしている(甲2の1,2の2,2の15)。
イ 本件登録商標について
本件登録商標の構成は別紙被告登録商標目録記載のとおりであり,上段に「オゾン&アクア」の片仮名文字及び記号を「かご文字」風の書体で横書きし,下段中央に「ドライ」の片仮名文字を,やや大きく「かご文字」風の書体で横書きした商標である。「オゾン」と「アクア」の文字は,その輪郭が藍色の線で囲まれた上で同色のグラデーションが,「&」の文字は,その輪郭が朱色の線で囲まれた上で同色のグラデーションが,「ドライ」の文字は,その輪郭がやや薄い藍色の線で囲まれた上で同色のグラデーションが,それぞれ施されている。(甲1)
ウ 被告使用商標1ないし5について
(ア) 被告使用商標1
被告は,自己が運営するウエブサイトやパンフレット等において,被告使用商標1を使用している。被告使用商標1の構成は,別紙被告使用商標目録1記載のとおりであり,「OZONE & AQUA DRY」の欧文字を横書きした商標である。被告使用商標1は本件登録商標(ただし,各文字の輪郭の有無や「ドライ」の文字の色等において本件登録商標とは異なるものを含む。)の上部に,本件登録商標の各文字よりも小さく表記されている。(甲2の1ないし2の4,2の7,2の9ないし2の14,26の4)
(イ) 被告使用商標2
被告は,パンフレットにおいて,被告使用商標2を使用している。被告使用商標2の構成は別紙被告使用商標目録2記載のとおりであり,「オゾン&アクアドライクリーニング」の文字を横書きした商標である。(甲2の2)
(ウ) 被告使用商標3
被告は,パンフレットや決算説明会資料,会社説明会資料等において,被告使用商標3を使用している。被告使用商標3の構成は別紙被告使用商標目録3記載のとおりであり,「オゾン&アクアドライ」の文字を横書きした商標である。(甲2の2,2の4ないし2の14,26の4)
(エ) 被告使用商標4
被告は,被告が経営する店舗のウエブサイトにおいて,被告使用商標4を使用している。被告使用商標4の構成は別紙被告使用商標目録4記載のとおりであり,「オゾンアンドアクアドライ」の片仮名文字を横書きした商標である。(甲2の15,3の1)
(オ) 被告使用商標5
被告は,被告が経営する店舗のウエブサイトにおいて,被告使用商標5を使用している。被告使用商標5の構成は別紙被告使用商標目録5記載のとおりであり,「オゾンアクアドライ」の片仮名文字を横書きした商標である。(甲2の16,3の2)
エ 引用商標
引用商標の構成は,別紙引用商標目録記載のとおりであり,「アクアドライ」の片仮名文字を標準文字で横書きした商標である。
原告京都産業は,平成11年8月13日,引用商標を登録商標とし,第37類「洗濯,被服のプレス,被服の修理,毛皮製品の手入れ又は修理」を指定役務として,設定登録(第4305744号)を受けた(甲4)。原告ハッピーは,平成14年1月に設立され(弁論の全趣旨),そのころ,原告京都産業から引用商標使用の許諾を受け(甲6),さらに平成19年2月,原告京都産業から上記設定登録に係る商標権を譲り受け,移転登録を受けた(甲5)。
オ 引用商標の使用状況等
(ア) 原告らは,クリーニング業を営む会社であり,平成13年12月までは原告京都産業が,平成14年1月から原告らが本件審判を請求した平成22年6月までは原告ハッピーが,それぞれ行うクリーニング業に関して,以下のとおり,引用商標が使用された。
a 原告らは,それぞれ運営するウエブサイトやカタログ,ちらし,葉書,ハッピー通信等において,引用商標を使用していた(甲8の1ないし8の15,10の1ないし10の8,11の1,11の2,12,13の1ないし13の28,81の2,82の1ないし4)。
b 以下の新聞等に,原告らは,引用商標である「アクアドライ」を表記した広告を掲載した。また,同様の新聞等に,原告らの提供する洗浄方法として「アクアドライ」を紹介する記事が掲載された。
繊研新聞(甲16の1ないし16の4,18の7,58の1),日本工業新聞(甲18の1,18の2,18の4),その他の業界新聞(甲18の3,18の5,18の6),雑誌レタスクラブやレタスリビングクラブ(甲17の1ないし17の12,19の10,56の1,56の2),雑誌週刊ダイヤモンドやダイヤモンドプラス(甲17の13,19の16,19の27),その他の雑誌等(甲19の1ないし19の9,19の11ないし19の13,19の15,19の17ないし19の26,19の28,19の29,59の2ないし59の4,60の3ないし60の6,60の8ないし60の10,60の12,60の13,60の15,62の13),インターネット(甲80の1,80の2,80の4ないし80の6)
c 原告ハッピーの代表者は,「クリーニングの謎」,「間違いだらけのクリーニング業界」,「クリーニング店の秘密」,「小さな会社の負けない発想」,「サービス業の底力」などの書籍において,「アクアドライ」を,原告ハッピーの提供する洗浄方法として紹介している(甲14の1,14の2,15の1ないし15の3)。書籍「感動を創造する中小企業」においても,原告ハッピーが「アクアドライ」と称する洗浄方法を用いていることが紹介されている(甲20)。
(イ) 原告ハッピーは,「アクアドライ」の洗浄方法について,油性汚れと水性汚れを同時処理できる原告ハッピーの基本洗浄であり,洋服を構成する繊維・デザイン・縫製・色彩と,洋服の着用状態・損傷状態とに応じて,洗浄剤や薬剤を使い分け,その洗浄方法は約900通りあるなどと説明している(甲8の15,10の7,10の8,15の3)。
(2) 本件登録商標と被告使用商標1ないし5の類似性
本件登録商標は「オゾンアンドアクアドライ」の称呼を生じるほか,2段に分けて表記されているため,上段の表記から「オゾンアンドアクア」の称呼を生じると認められる。また,本件登録商標における「オゾン」は酸素の同素体を意味し,「アクア」は他の語と組み合わせて複合的に使用した場合に「水」を意味し(甲43),また,「ドライ」は「ドライクリーニング」を意味すると認められ,一般に「ドライクリーニング」が,洗剤を溶かした水の代わりに,有機溶剤を使用した洗濯を意味することからすると(甲48,100,乙4の1),「オゾン」「アクア」「ドライ」はそれぞれ別個の意味を有する語句であり,これらの語句が結合された本件登録商標から,ただちに,特定の観念を生じないと認めるのが相当である。
被告使用商標1は,「オゾンアンドアクアドライ」の称呼を生じる。また,被告使用商標1は,クリーニングに関して使用されていることから,「DRY」は「ドライクリーニング」を意味するものと解され,その場合には,「DRY」は,自他識別機能は生じないといえる。さらに,被告使用商標1は本件登録商標と共に使用されており,本件登録商標は「オゾン&アクア」部分と「ドライ」部分が上下2段に分かれて表記されていることを考慮すると,被告使用商標1は「OZONE & AQUA」が,自他識別機能を生じる特徴的な部分であるとも考えられる。このように解した場合には,被告使用商標1からは,「オゾンアンドアクア」の称呼を生じる。いずれの場合も,被告使用商標1からは,特定の観念を生じない。したがって,被告使用商標1は本件登録商標に類似する。
被告使用商標2は,「オゾン&アクアドライクリーニング」の文字からなる商標である。クリーニングに関して使用されていることから「ドライクリーニング」部分は,自他識別機能は生じないといえるから,被告使用商標2の自他識別機能を生じる部分は「オゾン&アクア」といえる。被告使用商標2から,「オゾンアンドアクア」の称呼を生じ,特定の観念は生じない。したがって,被告使用商標2は本件登録商標に類似する。
被告使用商標3及び4は,いずれも,「オゾンアンドアクアドライ」の称呼を生じる。また,クリーニングに関して使用されていることから,「ドライ」部分は「ドライクリーニング」を意味するものと解され,自他識別機能は生じないといえるから,被告使用商標3,4の自他識別機能を生じる部分は,それぞれ,「オゾン&アクア」及び「オゾンアンドアクア」であるといえる。このように解した場合は,被告使用商標3,4から,「オゾンアンドアクア」の称呼を生じる。いずれの場合も,特定の観念は生じない。したがって,被告使用商標3及び4は本件登録商標に類似する。
被告使用商標5は,「オゾンアクアドライ」の称呼を生じる。また,クリーニングに関して使用されていることから,「ドライ」部分は,「ドライクリーニング」を意味するものと解され,自他識別機能は生じないといえるから,被告使用商標5の自他識別機能を生じる部分は,「オゾンアクア」であるといえる。このように解した場合は,被告使用商標5から,「オゾンアクア」の称呼を生じる。いずれの場合も,特定の観念は生じない。被告使用商標5は,本件登録商標の「&」が表記されてないことなどの点で外観上の相違はあるものの,全体として本件登録商標と類似するといえる。
以上のとおり,被告がクリーニング業において被告使用商標1ないし5を使用したことは,本件登録商標の指定役務である「洗濯」に本件登録商標に類似する商標を使用したことに該当する。
(3) 引用商標の周知性
前記のとおり,原告らは,それぞれ運営するウエブサイトやカタログ,ちらし等において,引用商標を使用していた。しかし,「アクアドライ」による洗浄について,役務の出所を識別する態様で表記されるのではなく,洗浄方法の一つを示すものとして,他の洗浄方法やサービスとともに説明,表記されているものもある(甲8の1ないし8の3,8の5,8の7,8の9,8の10,8の13,11の2)。また,原告らは,新聞や雑誌等に引用商標である「アクアドライ」の表記を含む広告を掲載している。しかし,広告等には,引用商標である「アクアドライ」が表記されているものの,文字を拡大したり,太文字にしたり,色彩を変えたりするなど,看者の注意を引くような態様で表記されていないものも多い(例えば,甲17の1ないし17の12,56の1,56の2は,「Happy クリーニング」や「全国宅配システム」や「リプロン」の標章は,看者の注目を引くような態様で表記されているのに対して,「アクアドライ」は,看者の注目を引くような態様で表記されているわけではない。)。新聞や雑誌等に掲載された原告らに関する記事についても,原告らが提供する洗浄方法やサービス,原告らの営業方針等に関する記事の一部に,「アクアドライ」が表記されているものも多く,引用商標が,看者の記憶に残るように表記されているわけではない。また,引用商標が使用されたアンケート葉書やハッピー通信は,既に原告らと取引を行っている顧客らに送付されるものである。
以上によると,引用商標が特定のクリーニング業者の提供する洗濯(洗浄方法)を表示するものとして,周知であったとは認め難い。
なお,原告ハッピーは,洗濯物の宅配サービス,カルテによる洗濯物の管理等の業務を展開していること,原告ハッピーの代表者が,家庭でできる洗濯方法について紹介していること(甲55の1ないし55の26,57の1ないし57の6,58の2ないし58の8,61の1ないし61の62,79の1ないし79の8,80の3,85),原告ハッピーは,被服を扱う事業者等と提携して営業活動を展開していること(甲60の13,62の14,74,75の1ないし75の5,76,77,80の1ないし80の2),原告ハッピーの登録者が平成22年6月末時点で全国で数万人に達していることなどが認められるが(甲68の4,68の15),そのような事実から直ちに,引用商標「アクアドライ」が,原告らの役務を示すものとして,周知になったと認めることはできない。
(4) 被告使用商標1ないし5と引用商標との出所の混同の有無
ア 引用商標は,「アクアドライ」の称呼を生じる。また,引用商標がクリーニングに関して使用されていることから,引用商標のうち「ドライ」の部分は,「ドライクリーニング」を意味するものと解され,前記のとおり,「ドライクリーニング」とは,洗剤を溶かした水の代わりに,有機溶剤を使用した洗濯を意味すること,「アクア」は他の語と組み合わせて複合的に使用した場合に「水」を意味することから,「アクア」と「ドライ」は,それぞれ別個の意味を有する語句であり,「アクアドライ」はこれらを結合した造語であって,特別な観念は生じないものと認めるのが相当である。
被告使用商標1は「オゾンアンドアクアドライ」又は「オゾンアンドアクア」の称呼を,被告使用商標2は「オゾンアンドアクア」の称呼を,被告使用商標3及び4は「オゾンアンドアクアドライ」又は「オゾンアンドアクア」の称呼を,被告使用商標5は「オゾンアクアドライ」又は「オゾンアクア」の称呼を,それぞれ生じることから,引用商標と被告使用商標1ないし5は,称呼において異なる。また,外観も異なり,被告使用商標1ないし5は引用商標と類似しない。したがって,被告が,被告使用商標1ないし5を使用することによって,原告らの業務に係る役務と混同を生じるとは認められない。
イ 原告らは,被告使用商標について,①「アクアドライ」には識別力があること,②「アンド」や「&」の前後は分断されて観察されること,③「オゾン」からは「オゾン洗浄」の観念が,「AQUA DRY」「アクアドライクリーニング」「アクアドライ」からは「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」の観念が,それぞれ生じ,これらは別個の洗浄方法であること,④被告は「オゾンクリーニング」を基本サービスとし,本件登録商標を使用した役務はオプションサービスとしていることなどから,被告使用商標1ないし5における自他識別力を有する部分は,「AQUA DRY」「アクアドライクリーニング」又は「アクアドライ」部分であると主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,前記のとおり,①引用商標である「アクアドライ」は,「アクア」と「ドライ」の2語を結合させた造語であって,引用商標が周知であるとは認められないこと,②被告使用商標1ないし4における「オゾンアンドアクア」の称呼は音数もそれほど多くなく,一連に称呼し得るものであること,③被告は,被告使用商標1ないし5を使用して,オゾンのドライクリーニングに水を加えて洗う洗浄方法を提供していること等を考慮すると,被告使用商標1ないし5における自他識別力を有する部分は,「AQUA DRY」,「アクアドライクリーニング」又は「アクアドライ」の部分であるとする原告らの主張は採用できない。なお,被告は,「オゾン」の表記のない被告使用商標(「アクア/ドライ」を横書きした商標)も使用しているが,この商標が使用されているのは,証拠上,被告の店舗の運営するウエブサイト上の1か所にすぎず(甲2の17,3の2),このことをもって,上記判断に影響を与えるものとはいえない。
(5) 小括
以上のとおり,被告による被告使用商標1ないし5の使用は,原告らの業務に係る役務と混同を生じさせるものではない。
3 役務の質の誤認に関する判断の誤り(取消事由2)について
前記のとおり,被告使用商標1ないし5は特別な観念を生じるものではなく,これらを使用することにより,被告の提供する役務の質の誤認を生じさせると認めることはできない。
なお,原告らは,①被告使用商標1ないし5は,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」の観念を生じる「AQUA DRY」又は「アクアドライ」を含んでおり,被告使用商標1ないし5により提供される被告の役務が,引用商標により提供している原告らの役務のように,水を用いた水系洗浄による役務であるという誤認を生じさせる,②引用商標からは「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる原告らが独自に開発した洗浄方法」の観念が想起されることから,被告使用商標1ないし5により提供される役務は,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる原告らが独自に開発した洗浄方法」を使用していると消費者を誤認させると主張する。
しかし,原告らの上記主張は,被告使用商標1ないし5の使用による役務が引用商標の使用による役務と混同することを前提とした主張であり,その前提において,採用することはできない。また,「AQUA DRY」又は「アクアドライ」が「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる洗浄方法」や,「水溶性の汚れと油溶性の汚れの双方を同時に処理できる原告らが独自に開発した洗浄方法」の観念を生じるとはいえないことは,前記のとおりであり,原告らの主張は理由がない。
4 結論
以上のとおり,原告ら主張の取消事由4には理由があり,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法であり,取り消すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 知野明)
file_2.jpg別紙