知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10230号 判決 2012年2月28日
原告
株式会社石野製作所
訴訟代理人弁護士
飯田秀郷
同
大友良浩
同
森山航洋
訴訟代理人弁理士
日髙一樹
同
渡邉知子
被告
F.TEC株式会社
訴訟代理人弁護士
吉田肇
同
前田麻衣
同
福崎浩
同
長谷川武治
訴訟代理人弁理士
福島三雄
同
向江正幸
同
高崎真行
同
川角栄二
同
塩田哲也
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2010-800172号事件について平成23年6月21日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,アレックスエンジニアリング株式会社(以下「訴外会社」という。)が名称を「個別搬送装置」とする発明につき特許登録(特許第4105749号,請求項の数2。以下「本件特許」という。)を受けていたところ,原告がその請求項1及び2につき無効審判請求をし,その後,被告が訴外会社から特許権者の地位を承継していたところ,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である
2 争点は,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2記載の各発明(以下,順次「本件発明1」,「本件発明2」という。)が下記引用例との間で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
記
・ 甲1:特開2004-187921号公報(発明の名称「循環型飲食物搬送装置」,公開日 平成16年7月8日。以下「甲1文献」といい,これに記載された発明を「甲1発明」という。)
・ 甲2:特開平8-108925号公報(発明の名称「長もの野菜選別装置」,公開日 平成8年4月30日。以下「甲2文献」といい,これに記載された発明を「甲2発明」という。)
3 なお,本件特許に対し原告から過去に特許無効審判請求(無効2008-800179号,平成21年(行ケ)第10126号)がなされ,不成立審決が確定しているが,本件とは引用例が異なる。
第3当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
訴外会社は,平成19年5月2日,前記名称の発明につき特許出願(特願2007-121860号)をして平成20年4月4日には本件特許登録(請求項の数2)を取得していたところ,原告は,平成22年9月29日,本件特許の請求項1及び2につき,上記甲1・2発明から容易に発明をすることができたとして,無効審判請求をした。
特許庁は,上記請求を無効2010-800172号事件として審理し,その間特許権者たる地位は訴外会社から被告に承継されたが,平成23年6月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決をし,その謄本は同年6月30日原告に送達された。
(2) 発明の内容
本件発明1・2の内容は,以下のとおりである。
・ 【請求項1】(本件発明1)
飲食店用の循環搬送装置に設けられる飲食物用の個別搬送装置であって,
循環搬送装置の台に設けられた平行な2列のレーンの間に立設されて照明を保持する支柱に取り付けられ,且つ前記2列のレーンの少なくとも一方側においてレーンに沿って設けられる直線状のフレームと,
このフレームに設けられ,フレームから水平に延出して,前記フレームが設けられた側のレーンの上方においてレーンに沿って配置される透光性を有する支持板と,
駆動装置によりフレーム内を可動する部材に設けられ,前記支持板上を前記フレームに沿って直線状に往復動するトレーとを備えることを特徴とする個別搬送装置。
・ 【請求項2】(本件発明2)
前記駆動装置は,無端状のベルトと,このベルトを回転させるモータとを備え,
前記ベルトに固定されたフックに前記トレーが着脱可能に連結される
ことを特徴とする請求項1に記載の個別搬送装置。
(3) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本件発明1及び2は甲1・2発明及び周知慣用の技術手段に基づいて当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到することができたものとはいえない(特許法29条2項),というものである。
(4) 審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本件発明1との相違点1〔照明の存否〕に関する判断の誤り)
(ア) 「照明」の存在は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならない
a 審決は,「特許請求の範囲記載の本件特許発明が個別搬送装置に係る発明であることから,個別搬送装置が取り付けられる循環搬送装置に関する限定要素(照明の存在)は個別搬送装置の発明の特定のために構成要素とはならない。」との原告の主張に対し,「本件特許発明1に係る『個別搬送装置』が『循環搬送装置の台に設けられた平行な2列のレーンの間に立設されて照明を保持する支柱に取り付けられ』ることを発明特定事項としていることは明らかであって,個別搬送装置が取り付けられる循環搬送装置に関する限定要素(照明の存在)であることと,本件特許発明1に係る『個別搬送装置』の発明特定事項であることとは,矛盾しないから,個別搬送装置が取り付けられる循環搬送装置に関する限定要素(照明の存在)であることを根拠に支柱が照明を保持するか否かは実質的な相違点ではないという請求人の主張は採用することができない。」(審決14頁23行~31行)と判断した。
しかし,本件発明1は,個別搬送装置に関するものであり,特許請求の範囲には,当該個別搬送装置が取り付けられる対象である循環搬送装置に関する構成が記載されている。すなわち,循環搬送装置に設けられた支柱は,個別搬送装置とは異なるもので個別搬送装置が取り付けられる対象であるにすぎない。
したがって,個別搬送装置における進歩性の判断をする際には,個別搬送装置が取り付けられる別の装置に関する構成の差異を問題にする必要はないというべきであるところ,照明は個別搬送装置の構成ではなく,駆動装置に片持ちとしたトレーを支持するための支持板が透光性であることによる作用効果の前提でしかないから,個別搬送装置が取り付けられる循環搬送装置に関する限定要素(照明の存在)は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならないことは明らかである。
b この点に関し被告は,本件発明1の個別搬送装置は,「照明」を保持する支柱にフレームを取り付け,このフレームに透光性を有する支持板が設けられる構成となっており,このような構成を採用したがゆえに,循環搬送装置に設けられ「照明」を保持する支柱を利用しつつ個別搬送装置を設置でき,しかも,透光性を有する支持板を介して循環搬送装置のレーンに照明を適切に当てられ,レーンを流れる皿を照らすことができるという格別顕著な効果を奏するのであるから,本件発明1において「照明」の存在が発明特定事項であることは明白であると主張する。
しかし,回転寿司店などのような循環搬送装置を備える飲食店においては,搬送装置自体に照明を施す以外に,店舗の天井等に多数の照明設備を備えることが普通であって,しかもそれらの照明設備の明るさは,搬送装置自体の照明の明るさよりも明るく,個別搬送装置のレーン上の商品も十分に照らしている。
つまり,循環搬送装置の上部に照明を備えることが周知慣用技術であるにもかかわらず,甲1文献や他の文献において,個別搬送装置のレーン上の商品を照らすような作用効果について明確に記載されていないのは,店舗内の照明でも十分に商品が照らされており,殊更解決すべき技術的課題として取り上げる必要性がないからに他ならない。
そして,本件発明1の技術的意義は,既存の循環搬送装置に後から個別搬送装置を簡易に取り付けられる点にあるのであって,個別搬送装置のレーン上の飲食物に「照明」が適切に当てられることに格別の技術的意義があるものではない。
したがって,支持板によって循環搬送装置のレーン上の照明が妨げられることが発明特定事項の技術的課題となることはないというべきであるから,被告の上記主張は失当である。
(イ) 循環搬送装置が「照明」を備えることは周知慣用技術にすぎない
a 本件発明1の技術的課題が,既存の循環搬送装置に「照明」が取り付けられていることを大前提として生じるものであるところ,以下のとおり,循環搬送装置が「照明」を備えることは周知慣用技術にすぎない。
すなわち,特開2004-187922号公報(甲10。以下「甲10文献」という。)の【図1】,【図4】,【図5】及び【図6】,特開2004-194810号公報(甲13。以下「甲13文献」という。)の【図1】,特開2005-185326号公報(甲14。以下「甲14文献」という。)の【図1】,意匠登録1148185号公報(甲18。以下「甲18文献」という。)の【使用状態参考図2】の各記載から,循環搬送装置に「照明」が取り付けられることが周知慣用技術であることは明らかである。
したがって,循環搬送装置の支柱が「照明」を保持することは,本件発明1の進歩性の判断において考慮する必要は全くなく,実質的な相違点ではないというべきである。
b この点に関し被告は,甲10文献,甲13文献及び甲14文献の各図に示される図形については,各文献において符号が付されて説明されているわけでなく,図形についての説明は一切ないから,それらが「照明」であるとは認められないと主張する。
しかし,甲18文献には「照明」と明記されており,しかも甲10文献,甲13文献,甲14文献とともに甲18文献の出願人がいずれも原告であることからすれば,原告が指摘した上記各文献の図形はすべて「照明」であることは明らかである。
(ウ) 甲1文献には「照明」の記載がある
a 審決は,「仮に,支柱の上部に照明を備えた循環搬送装置が本件特許発明の出願前に周知慣用であって,そのことを考慮して甲第1号証の記載を検討したとしても,支柱25の上部に照明を備えているものが甲第1号証に記載されていると解することはできないから,支柱の上部に照明を備えた循環搬送装置が本件特許発明の出願前に周知慣用であったことを根拠に支柱が照明を保持するか否かは実質的な相違点ではないという請求人の主張は採用することができない。」(審決14頁下4行~15頁3行)とする。
しかし,本件発明1が,循環搬送装置に照明が取り付けられていることが大前提であることは自明であり,かつ,循環搬送装置に照明が取り付けられることが周知慣用技術である場合においてまで,あえて相違点として認定する必要はないというべきである。
また,甲1文献の【図1】及び【図4】には,本件明細書(甲20)の【図3】の「照明」と同様の記載があるから,支柱25の上部に照明を備えているものが甲1文献には記載されていないとする審決の認定は誤りである。
b この点に関し被告は,甲1文献では,円形の図形の部材について符号等は付されておらず,その発明の詳細な説明にも,この部材について何ら記載がなされていないばかりか,搬送装置の照明について言及するところがなく,甲1文献は「照明」について考慮された文献とは認められず,甲1文献の【図1】及び【図4】における円形の部材と,本件発明1の【図3】の「照明」とが同様の記載であるとする根拠はないと主張する。
しかし,甲1文献は,甲10文献,甲13文献,甲14文献及び甲18文献とともに出願人は原告であるから,甲18文献に「照明」として記載されている円形の図形と,甲1文献,甲10文献,甲13文献及び甲14文献の各円形の図形は同様の解釈をすべきであり,殊更異なって解釈する必要性は全くない。
したがって,甲1文献の【図1】及び【図4】にも「照明」が記載されているものであって,被告の上記主張は失当である。
また,被告は,原告自身が甲1文献に「照明」がないと認めていたにもかかわらず,原告が本件訴訟において甲1文献に「照明」が記載されていると明らかに矛盾した主張をしており,禁反言の法理に反するばかりか,判例に照らしそのような主張自体が許されないと主張する。
しかし,審判手続において,甲1発明には「照明」がないと原告が主張した事実はないから,原告の上記主張は失当である。
イ 取消事由2(本件発明1との相違点1〔透光性を有する支持板〕に関する判断の誤り)
(ア) 「支持板」の代替性
a 甲1発明の個別搬送装置におけるトレーの支持構造を甲2発明が示すような支持構造又は昭60-241410号公報(甲4。以下「甲4文献」という。)が示す支持構造に代替させることは,当業者にとって容易想到である。
この点に関し審決は,甲1発明において「吊り下げ搬送トレー31を支持する支持板はそもそも必要ない。」(審決16頁20行~21行)と判断する。
しかし,吊り下げ搬送トレー31の支持構造(重力に抗して吊り下げるという構造)においてはさらに支持板を用いて支持することが不要であるということと,その吊り下げ搬送トレー31の支持構造を甲2文献を適用して片持ち式とし,かつ,レールを用いて駆動装置との連結点を支点としてトレーに生じるモーメントを支える構造に置換することとは別の事柄である。甲1発明と甲2発明とは食品の搬送装置として同一の技術分野であり,甲1発明に甲2発明を適用することは,食品搬送の手段として当業者が適宜選択することができる汎用の技術であるから,その適用の動機は高いということができる。
本件発明1のように,既存の循環搬送装置に後付けで簡易に注文搬送装置を付加する場合,吊り棚のように構成することは,常識的に普通の事柄である。
審決は,甲1発明と甲2発明の適用について,上記のように甲1発明のままでは支持板は不要であるというに止まり,同一の技術分野における甲2発明を適用する可否について論じない点で誤りである。
b 審決は,「甲第2号証記載の発明のトレイ7は,開閉構造に構成された底面を開くことで長もの野菜を回収箱12に落下供給するものであるから,トレイ7の下に野菜の落下の邪魔になる支持板を設けることを想定しているとはいえず,甲第2号証の記載を検討しても,支持レールRを支持板に代替することを示唆する記載は見出せない。」(審決16頁25行~33行)とする。
しかし,まず検討されるべきは,甲1発明の搬送装置のトレーの支持構造を甲2発明の支持構造,すなわち駆動装置に片持ちにするとともにレールで支えるという構造への置換容易性である。審決は,結局,当該置換容易性については判断せず,甲1発明が支持板を不要とするという一事のみですまし(何を否定したのか不明である),続けて,甲2発明では支持板による支持構造とすることができないと断じているにすぎない。
甲1発明に甲2発明を適用してトレーの支持構造を支持レールRに代替させた場合に,トレー支持原理が同一である支持板にさらに代替させることも,甲4文献によれば当業者には容易に想到することができたというべきである。
すなわち,甲4文献のトレーの支持構造は,甲2発明のトレーの支持構造と同様であるところ,合成樹脂製レ-ル42は流し11上に設けられるから,合成樹脂製レ-ル42と流し11を全体的に観察するとこれは本件発明1の支持板に相当するということができる。
この点,審決は,前記のように甲2発明においてはトレイ7の下に野菜の落下の邪魔になる支持板を設けることを想定できないとするが,甲2発明の搬送装置において支持板を設けることが容易であると主張しているものではない。したがって,支持板を適用する阻害要因にはならない。
c 審決は,「甲第4号証記載の発明の流し11は,流し11の上から,鮨皿載置台32,センターテーブル15,台座13を取外して,水を掛けて清掃するものといえ,甲第1号証及び甲第4号証の記載を検討しても,甲第1号証記載の発明の個別搬送装置におけるトレーの支持構造として,甲第4号証記載の発明の流し11に立設された合成樹脂製レール42で鮨皿載置台32(トレー)を支持する構成(・・・)を採用することを示唆する記載は見出せず,このことを当業者が容易に想到し得るとはいえない。同様の理由で,仮に請求人が主張するように(・・・),合成樹脂製レール42と流し11平面を構成する板材とを一体化した板材とすることを当業者が容易に想到し得るとしても,甲第1号証記載の発明の個別搬送装置におけるトレーの支持構造として上記一体化した板材を適用することを当業者が容易に想到し得るとはいえない。」(審決17頁17行~23行)とする。
しかし,甲4文献の流し11が審決が述べるような流しとしての機能を有するとしても,これに立設された合成樹脂製レールと一体的に観察すればこれを支持板に相当するということができるものであり,流しの機能を有することと何ら矛盾しない。
すなわち,甲4文献も回転寿司の搬送装置に関する発明であり,同一の技術分野に関する発明であるから,個別搬送装置のトレイを片持ちの支持構造とする構成とするに際して適用を阻害する要因はないし,甲4文献のトレーの支持構造は,甲2発明のトレーの支持構造と同様であり,合成樹脂製レ-ル42は流し11上に設けられるから,合成樹脂製レ-ル42と流し11を全体的に観察するとこれは本件発明1の「支持板」に相当するということができる。
したがって,甲1発明の吊り下げ搬送装置の支持構造を甲2発明の片持ちかつレールによる支持構造とし,甲4文献を適用してレールの支持構造に代替させて支持板とすることは,当業者が適宜採用することができる汎用手段の適用にすぎない。
審決は,甲4文献の流し11とレール42とを一体化した板材とすることが困難であるとするが,本件発明1における「支持板」においても,車輪105が当接する支持板部分は帯状のレールと称することができるものであり,両者に格別の差があるとすることはできない。
(イ) 「支持板」の「透光性」
審決は,「甲第2号証及び甲第4号証の記載を検討しても,支持レールを透光性の支持板に代替することを示唆する記載は見出せない。」とする。
しかし,甲2発明の搬送装置である選別装置Bは,トレー7に載置されたキュウリを選別してトレーの底部を開放して選別装置Bの下方に落下させるように構成しているから,水平方向に長円移動するチェーン7とこれと平行にこれを取り囲むように設けられた支持レールRとの間は中空である(甲2文献【図9】参照)。
つまり,甲1発明に甲2発明を適用し,トレーの支持構造に支持板を用いる際に,甲2発明においてチェーンと支持レールR間が中空(究極の透光性を備える)であることから,支持板を透光性とすることは容易であるというべきである。
さらに,特開平9-37915号公報(甲5。以下「甲5文献」という。)には,回転式飲食台において,飲食物を搬送するクレセントチェーンの上方を被覆する載置台を,商品を見やすくするために透明にする技術が開示されている。
載置台を通して商品を見やすくするためには,透明である必要があるのは自明であり,そのためには商品に十分な照明が当たっていることが大前提である。このため,トレーの支持構造を構成する支持板を透光性のものとすることは,回転寿司の搬送装置の技術分野においては,特筆すべき事柄ではない。
この点について,審決は「甲第1号証の記載を検討しても,循環注文搬送路(個別搬送装置)を介して循環型飲食物搬送装置(循環搬送装置)の搬送路(レーン)を照明することを示唆する記載は見出せない。」(審決17頁下4行~2行)とする。
しかし,回転寿司店の循環型飲食物搬送装置の搬送路に照明が当たらなければ,飲食物を視認することができないのであって,搬送路に必要な照明をすることは当然である。前記のとおり,甲1発明の個別搬送装置を備えた循環搬送装置においても搬送路に対する照明は記載されている。また,一般に循環搬送装置の搬送路に対する照明を支柱上部に設けられた照明器具によって行うことは周知慣用技術であること(本件発明1の大前提である)からすれば,甲1文献に個別搬送装置を介して循環搬送装置の搬送路を照明することが直接記載されていないことをもって,透光性を備える支持板を想到することができない根拠とすることは相当ではない。
以上のとおり,審決の上記認定判断は誤りである。
ウ 取消事由3(本件発明2に関する進歩性判断の誤り)
審決は,「本件特許発明1が甲第1号証記載の発明,甲第2号証記載の発明及び甲第3号証乃至甲第19号証記載の周知慣用の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備した本件特許発明2は,甲第1号証記載の発明,甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証乃至甲第19号証記載の周知慣用の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。」(審決21頁7行~12行)とした。
しかし,前記のとおり,本件発明1は甲1発明,甲2発明及び甲3ないし甲19記載の周知慣用の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,審決の判断には明らかな誤りがある。
しかも,本件発明2は,本件発明1の駆動装置を,①無端状のベルトと,このベルトを回転させるモータとを備えている点,②ベルトに固定されたフックにトレーが着脱可能に連結される点で,限定したものである。
そして,上記①について,循環搬送する駆動装置について,無端状のチェーンをモータによる駆動力によって回転するスプロケットによって駆動させることは,本件発明2の出願前に周知慣用技術であったものであるし,無端状のチェーンとモータによる駆動方法と,無端状のベルトとモータによる駆動方法を採用するか(例えば特開2002-102044号〔甲9〕)は,いずれも周知慣用技術であり,当業者が適宜選択しうる設計事項にすぎない。
また,上記②について,ベルトに固定されたフックにトレーが着脱可能に連結される点は,甲2文献(【図3】参照)及び甲4文献(第2図参照)に記載されている。
よって,無端状のチェーンに代えて無端状のベルトとした上,当該ベルトに固定したフックに着脱自在にトレーを片持ちに支持することは,甲2発明及び甲4文献に記載された技術的事項を適用することによって,当業者が容易に想到しうるものである。
したがって,審決の上記認定判断は誤りである。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対し
ア 「『照明』の存在は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならない」(原告の主張(ア))につき
原告は,照明は個別搬送装置の構成ではなく,駆動装置に片持ちとしたトレーを支持するための支持板が透光性であることによる作用効果の前提でしかないから,個別搬送装置が取り付けられる循環搬送装置に関する限定要素(照明の存在)は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならないと主張する。
しかし,本件発明1に係る請求項1では,「個別搬送装置であって,・・・照明を保持する支柱に取り付けられ,・・・レーンに沿って設けられる直線状のフレーム」との記載があり,「照明」の存在が発明特定事項であることは明らかである。
また,本件発明1の個別搬送装置は,「照明」を保持する支柱にフレームを取り付け,このフレームに透光性を有する支持板が設けられる構成となっている。このような構成を採用したがゆえに,循環搬送に加えて,客からの個別の注文品を搬送するに際し,循環搬送装置に設けられ「照明」を保持する支柱を利用しつつ個別搬送装置を設置でき,しかも,透光性を有する支持板を介して循環搬送装置のレーンに照明を適切に当てられ,レーンを流れる皿を照らすことができるという格別顕著な効果を奏する。
このように本件発明1では,支柱に保持される「照明」により,透光性を有する支持板を介して循環搬送装置のレーンが照らされる構成とされており,「照明」の存在は,発明特定事項であることは明白であり,本件発明1を特定するために不可欠な構成要素である。これは,「照明」の存在が,別の装置の構成(循環搬送装置に関する限定要素)であっても,何ら変わるものではない。
したがって,この点に関する審決の認定に誤りはなく,原告の上記主張は失当である。
イ 「循環搬送装置が『照明』を備えることは周知慣用技術にすぎない」(原告の主張(イ))につき
原告は,甲10文献,甲13文献,甲14文献及び甲18文献を提示して,循環搬送装置に「照明」が取り付けられていることは周知慣用技術であると主張する。
しかし,上記各文献のうち,甲10文献,甲13文献及び甲14文献の各図に示される図形については,各文献において符号が付されて説明されているわけでなく,図形についての説明は一切ないから,それらが「照明」であるとは認められない。
そもそも甲10文献,甲13文献及び甲14文献に記載の各発明が注文品を搬送する装置を設けたことを特徴とする循環搬送装置に関するものであることを考慮すれば,従来の循環搬送装置とは構成が全く異なっており,その循環搬送装置に「照明」が設けられていることは当業者にとって自明でもないから,それらに「照明」が設けられているとは到底いえない。
また,甲18文献において「照明」として示される図形と,甲10文献,甲13文献及び甲14文献に示される図形は,形状や構成が全く異なっているから,甲18文献の記載をもって甲10文献,甲13文献及び甲14文献に示される図形が「照明」であるとは到底いえない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
ウ 「甲1文献には『照明』の記載がある」(原告の主張(ウ))につき
原告は,甲1文献の【図1】及び【図4】には,本件明細書(特許公報,甲20)の【図3】の「照明」と同様の記載があるから,支柱25の上部に照明を備えているものが甲1文献には記載されていないとする審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,そもそも原告の上記主張は,無効審判請求時の請求書に記載しなかった無効理由について主張するものであり,許されない。
すなわち,原告は,審判請求書(甲21)34頁において,本件発明1と甲1発明との相違点として,「1)循環搬送装置の2列のレーンの間に立設された支柱について,本件特許発明では,支柱が照明を保持するが,甲第1号証に記載された発明はそのような構成を備えていない点(相違点1)」を挙げており,原告自身が,甲1発明は,「照明」を備えていないことを認めている。
上記のとおり,原告自身が甲1文献に「照明」がないと認めていたにもかかわらず,原告は,本件訴訟において,甲1文献に「照明」が記載されていると明らかに矛盾した主張をしており,禁反言の法理に反する。
また,無効審判の審決取消訴訟においてその判断の違法が争われる場合,専ら審判手続において現実に争われ,かつ審理判断された特定の無効原因に関するもののみが審理の対象とされるべきであるから(最高裁大法廷昭和51年3月10日判決・民集30巻2号79頁参照),原告が本件訴訟において甲1文献に「照明」が記載されていると主張することは許されないというべきである。
仮にそうでないとしても,甲1文献に「照明」の記載があるとの被告の主張は失当である。すなわち,甲1文献では,円形の図形の部材について符号等は付されておらず,その発明の詳細な説明にもこの部材について何ら記載がなされていないばかりか,搬送装置の照明について言及するところがないのであるから,甲1文献は「照明」について考慮された文献とは認められない。そうである以上,甲1文献の【図1】及び【図4】における円形の部材と,本件発明1の【図3】の「照明」とが同様の記載であるとする根拠はない。
この点に関し原告は,甲18文献に「照明」として記載されている円形の図形と,甲1文献,甲10文献,甲13文献及び甲14文献の各円形の図形は同様の解釈をすべきであると主張する。
しかし,特開2001-17372号公報(乙1。以下「乙1文献」という。),特開2001-221530号公報(乙2。以下「乙2文献」という。),特開2002-327991号公報(乙3。以下「乙3文献」という。)には,甲1文献と同様の二重円の図形が記載されているところ,乙1文献においては「ヒータ12」及び「水路13」と記載されており(図1参照),乙2文献では「パイプ11,12」と記載されており(図3参照),乙3文献では「パイプ85」と記載されている(図4参照)。
したがって,甲1文献における二重円の図形も「ヒータ」や「パイプ」等である可能性があり,「照明」であるとはいえない。
また,原告が出願人である特開2001-252171号公報(乙4。以下「乙4文献」という。),特開2001-252172号公報(乙5。以下「乙5文献」という。)及び特開2001-252173号公報(乙6。以下「乙6文献」という。)には,甲1文献と同様に,クレセントチェーンの近傍に甲1文献に記載の図形と全く同じ図形(符号24,25,26)が記載されているところ(図3参照),この図形のうち,符号24は,「冷媒管」であると記載されている。
したがって,甲1文献に記載の円形の図形も「冷媒管」であると考えるのが妥当である。
以上のとおり,甲1文献に記載の円形の図形は「照明」であるとはいえず,原告の上記主張は失当である。
(2) 取消事由2に対し
ア 「『支持板』の代替性」(原告の主張(ア))につき
原告は,「甲1発明の個別搬送装置におけるトレーの支持構造を甲2発明が示すような支持構造又は甲4文献が示す支持構造に代替させることは,当業者にとって容易想到である」,「審決は,甲1発明と甲2発明の適用について,上記のように甲1発明のままでは支持板は不要であるというに止まり,同一の技術分野における甲2発明を適用する可否について論じない点で誤りである」,「甲1発明に甲2発明を適用してトレーの支持構造を支持レールRに代替させた場合に,トレー支持原理が同一である支持板にさらに代替させることも,甲4文献によれば当業者には容易に想到することができたというべきである」などと主張する。
しかし,甲2発明は,野菜選別装置であり,甲2文献に記載された選別装置B(搬送コンベア3)は,注文品を個別に搬送する装置ではなく,循環搬送装置に設けられるものでもなく,甲1発明と技術分野が明らかに異なっている。
したがって,甲2文献に記載された構成を甲1発明に適用することはできず,適用する十分な動機付けもない。
また,甲1発明の吊り下げ式の搬送装置30は,トレー31を吊り下げて搬送する構成であって支持板は不要とされており,支持板を設ける構成が開示されておらずそれを示唆する記載さえない。また,甲2発明では,トレイ7が無端状の支持レールR上を走行する構成とされているところ,この支持レールRは選別装置Bの台上に載せ置かれており,支柱に取り付けられる構成とはなっていない。
したがって,甲2文献に記載の構成を甲1発明に適用することはできず,仮に,甲2文献に記載の構成を甲1発明に適用したとしても本件発明1の構成とは到底なり得ない。
さらに,甲2発明では,トレイ7は開閉構造に構成された底面を開くことで野菜を回収箱12に落とす構成とされており,トレイ7の下方位置に各種部材を配置することはできない構成となっている。そのため甲2発明では,支持レールRは選別装置Bの台上に載せ置かれて設けられ,チェーンが配置される中央部と支持レールRとは別個独立して配置されている。
したがって,甲2文献に記載の構成を甲1発明に適用したとしても,本件発明1のように,照明を保持する支柱に支持レールRが取り付けられる構成とは到底なり得ない。
そして,甲4文献に記載の構成は循環搬送装置に取り付けられる構成ではなく,個別に注文品を搬送する構成でもない。そして,甲1発明や甲2発明と構成が全く異なっており,甲4文献に記載の構成を甲1発明や甲2発明に適用することはできず,仮に適用したとしても本件発明1の構成とは到底なり得ない。
以上のとおり,この点に関する審決の認定判断に誤りはなく,原告の上記主張は失当である。
イ 「『支持板』の『透光性』」(原告の主張(イ))につき
原告は,「甲1発明に甲2発明を適用し,トレーの支持構造に支持板を用いる際に,甲2発明においてチェーンと支持レールR間が中空(究極の透光性を備える)であることから,支持板を透光性とすることは容易である」とか,甲5文献に記載されている載置台を透明にする技術を前提として,「このため,トレーの支持構造を構成する支持板を透光性のものとすることは,回転寿司の搬送装置の技術分野においては,特筆すべき事柄ではない」などと主張する。
しかし,甲1発明では,吊り下げ式循環注文搬送装置30を介して循環型飲食物搬送装置1を照らすことは開示されておらず,示唆する記載さえない。そもそも甲1発明には,前記のとおり「照明」が設けられておらず,吊り下げ式循環注文搬送装置30を介して循環型飲食物搬送装置1のレーンを照らすことを考慮していなかったことは明らかである。
また,甲2発明では,野菜を回収箱12に落とすために開口部が設けられているのであって,下方へ光を当てる点については全く考慮されていない。そもそも,甲2発明には,個別搬送装置を介して循環搬送装置のレーンを照らすことについて,一切開示されておらず,示唆する記載もない。
そして,甲4文献についても,個別搬送装置を介して循環搬送路のレーンを照らす点については一切開示されておらず,示唆する記載さえない。
さらに,甲5文献に記載の技術は,甲2発明の野菜選別装置とは技術分野が全く異なっているから,これを甲2発明に適用することはできず,適用する十分な動機付けもない。しかも,甲5文献における載置板は取皿を置くためのものであり(段落【0041】参照),甲2発明における支持レールRと機能が全く異なっているから,甲5文献における載置台が甲2発明における支持レールに相当するとは到底いえない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(3) 取消事由3に対し
原告は,本件発明1は甲1発明,甲2発明及び甲3ないし甲19記載の周知慣用の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,審決の判断には明らかな誤りがあると主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明1に審決取消事由はなく,本件発明1を引用する本件発明2も審決取消事由はないから,原告の上記主張は失当である。
第4当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 容易想到性の有無
審決は,本件発明1及び2は甲1・2発明及び周知慣用の技術手段に基づいて当業者が容易に想到することができたものとはいえないとし,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。
(1) 本件発明 1・2の意義
ア 本件明細書(特許公報。甲20)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲(請求項1・2)
前記第3,1(2)のとおり
(イ) 発明の詳細な説明
・ 【技術分野】
「本発明は,飲食物を搬送するための搬送装置であって,特に,回転寿司などで使用される循環搬送装置に取り付けられる搬送装置に関するものである。」(段落【0001】)
・ 【背景技術】
「周知のとおり,回転寿司などの飲食店において,循環搬送装置が使用されている。このような店舗では,客は,希望の飲食物が回ってこない場合には,別途インターホンなどで注文して循環搬送装置により飲食物を流して貰うか,直接店員に持ってきてもらうことになる。ところが,注文したものを循環搬送装置に載せて搬送する場合,客に届くまでに時間がかかってしまう。一方,店員が搬送する場合には,手間がかかってしまう不都合があった。
このような問題を解決するために,下記特許文献1において,注文品を別に搬送する搬送装置が提案されている。この特許文献1に記載の発明では,飲食物搬送装置(1)とは別に注文搬送装置(2)が設けられており,注文品を客にすばやく届けることができる。
【特許文献1】 特開2005-185326号公報」(段落【0002】)
・ 【発明が解決しようとする課題】
「しかしながら,特許文献1に記載の注文搬送装置(2)は,既存の循環搬送装置に適用することができず,設備の変更にコストがかかってしまう。
また,特許文献1に記載の発明の場合,注文搬送装置(2)と飲食物搬送装置(1)とを照らす蛍光灯についてはなんら考慮がなされておらず,注文搬送装置(2)の下側に配置される飲食物搬送装置(1)のトレーなどに照明が届かないおそれがある。なお,上記括弧書きの数字は,特許文献1中の符号を示す。」(段落【0003】)
・ 「本発明が解決しようとする課題は,簡易に既存の循環搬送装置に取り付けることが可能であり,照明が適切に当てられる個別搬送装置を提供することにある。」(段落【0004】)
・ 【発明の効果】
「本発明の個別搬送装置によれば,簡易に既存の循環搬送装置に取り付けることが可能であり,照明が適切に当てられる。」(段落【0008】)
・ 【発明を実施するための最良の形態】
「本実施例の個別搬送装置1は,飲食店,典型的には回転寿司で使用されている既存または既設の循環搬送装置3に着脱可能に取り付けられる。
循環搬送装置3は,たとえば,図1や図5に示すように,平面視略コ字形の台5の上面に形成された溝に,無端状のクレセントチェーン9が配置されて構成されている。」(段落【0012】)
・ 【図1】(本発明の個別搬送装置の一実施例が取り付けられた循環搬送装置を示す平面図)
file_2.jpg・ 【図5】(図1の個別搬送装置の一部を断面にした斜視図)
file_3.jpg・ 「クレセントチェーン9は,コ字形の台5の開放両端辺部5a,5bおよび中央辺部5cにおいて,それぞれ往路と復路となる平行な2列のレーンを形成するよう配置されており,台5の上面にはクレセントチェーン9により連続した循環路11が形成されている。
具体的には,台5の開放両端辺部5a,5bには,それぞれ左右に離間して前後方向に沿う2列のレーン(11a,11b),(11c,11d)が形成されており,台5の中央辺部5cには,前後に離間して左右方向に沿う2列のレーン11e,11fが形成されて,連続した循環路11が構成されている。
なお,クレセントチェーン9には,モータに接続されたスプロケット(不図示)が噛み合わされており,モータの回転に伴ってクレセントチェーン9は循環する。」(段落【0013】)
・ 「また,循環搬送装置3は,台5の開放両端辺部5a,5bが店内に配置される一方,中央辺部5cが調理場に配置されて,台5の開放両端辺部5a,5bと中央辺部5cとは壁13などにより仕切られている。そして,飲食物が載せられた食器皿が,調理場内においてクレセントチェーン9の受け板9aに載せられて,食器皿は店内を回送する。なお,図3に示すように,台5の開放両端辺部5a,5bの左右両側にはそれぞれ板状のカウンターテーブル15が前後方向に沿って設けられていると共に,図1に示すように,前後方向に離隔して客席17,17,…が配置されている。」(段落【0014】)
・ 【図3】(図1の一部の正面図)
file_4.jpgSoa fae fs” pn ee Ln i 29 98 J・ 「図2および図3に示すように,台5の開放両端辺部5a,5bには,その左右方向中央部に,複数本の支柱19,19,…が前後方向に離間して立設されている。つまり,台5の開放両端辺部5a,5bには,クレセントチェーン9により形成された平行な2列のレーン(11a,11b),(11c,11d)の間に複数本の支柱19が前後方向に離隔して設けられている。」(段落【0015】)
・ 【図2】(図1の側面図)
file_5.jpgn 2.・ 「支柱19の上端部には,下方へ開口する断面略コ字形の架台21が,前後方向に沿って設けられており,この架台21に照明灯が保持されている。
本実施例では,図3に示すように,支柱19を挟んだ左右両側に前後方向に沿って蛍光灯23,23が配置されており,台5の開放両端辺部5a,5bに設けられた各レーン11a,11b,11c,11dを照らしている。
また,本実施例では,各支柱19の中央部を通るように,矩形板状の仕切板25が前後方向に沿って設けられている。」(段落【0016】)
・ 「本実施例の個別搬送装置1は,支柱19に固定される係止具31と,この係止具31に取り付けられるフレーム39と,このフレーム39に設けられる支持板71と,フレーム39内に設けられるベルト75と,このベルト75を回転させるモータ79とを備える。」(段落【0017】)
・ 「このように各支柱19に固定された係止具31に,フレーム39が取り付けられる。
なお,支柱19の右側に設けられる個別搬送装置1Aのフレーム39は,各支柱19の右側に設けられた係止具31に取り付けられ,支柱19の左側に設けられる個別搬送装置1Bのフレーム39は,各支柱19の左側に設けられた係止具31に取り付けられる。」(段落【0021】)
・ 「フレーム39は,台5の開放両端辺部5a,5bに前後方向に沿って配置され,台5の開放両端辺部5a,5bの前後方向の寸法とほぼ同じまたは若干長い寸法とされている。
本実施例では,フレーム39は,係止具31に引っ掛けられて取り付けられる第一フレーム41と,この第一フレーム41に固定される第二フレーム43とを備える。」(段落【0022】)
・ 「第一フレーム41は,略水平に延出する底片45と,この底片45から上方へ延出する立上り片47とを有する断面略L字形の長尺材とされる。
第一フレーム41の底片45には,係止具31に引っ掛けられる段付き部49が前後方向に沿って形成されている。
具体的には,第一フレーム41の底片45には,係止具31の突部35がはめ込まれる上方へ凹んだ凹部49aと,係止具31と支柱19とにより形成されるコ字状溝37にはめ込まれる下方へ突出する突部49bとが連続して形成されて段付き部49が形成されている。」(段落【0023】)
・ 「第一フレーム41の底片45には,長尺な矩形板状の支持板71が固定されている。支持板71は,透明な板材とされ,本実施例では,透明なアクリル板により形成されている。支持板71は,その左端部が第一フレーム41の底片45の溝53にはめ込まれて第一フレーム41にネジ73で固定されている。」(段落【0030】)
・ 「支持板71が第一フレーム41に取り付けられた状態では,支持板71はフレーム39より右側へ水平に延出しており,支持板71のほぼ真下に循環搬送装置3のレーン11b(11d)が配置されており,図3に示すように,蛍光灯23,支持板71,およびレーン11b(11d)が上下方向に沿って配置されている。」(段落【0031】)
・ 「また,本実施例の個別搬送装置1は,無端状のベルト75と,このベルト75を回転させるモータ79と,このモータ79の回転軸79aに接続される原動プーリ81とを有した駆動装置77を備える。ベルト75は,フレーム39内に配置されており,調理場側に配置されたモータ79により回転可能とされている。なお,本実施例では,モータ79は,エンコーダ付サーボモータとされている。」(段落【0032】)
・ 「ベルト75は,上側のローラ65の上方および下側のローラ65の上方を通過するように複数のプーリに巻き掛けられて配置されている。本実施例では,図7に示すように,無端状のベルト75のうち,上側に配置されたベルト75aが調理場側端部において第一プーリ83に巻き掛けられて下方へ導出された後,モータ79に接続された原動プーリ81に巻き掛けられて上方へ導出され,さらに,第二プーリ85に巻き掛けられて下側のベルト75bへと導出されている。」(段落【0033】)
・ 【図7】(図1の個別搬送装置のフレームの内部を示す概略側面図)
file_6.jpg・ 「このように設けられたベルト75のうち,下側のベルト75bには,フック89が取り付けられている。
フック89は,矩形板状の一片89aと,この一片89aの右端部から右側へ延出した後,上方へ直角に延出する略L字形の他片89bとを有する。」(段落【0035】)
・ 「フック89は,その一片89aが,下側のローラ65と下側を移動するベルト75bとの間に配置されており,他片89bが,第一フレーム41の底片45と第二フレーム43の下端部63aとの隙間から右側へ延出してフレーム39の外側に配置されている。そして,フック89の一片89aの上側に,下側のベルト75bを介して矩形板状の留め部材91が重ね合わされて,フック89の一片89aにネジ93で固定されている。つまり,フック89の一片89aと留め部材91との間に下側のベルト75bが挟み込まれている。これにより,ベルト75が回転して移動するのに伴って,フック89と留め部材91もベルト75と共に一体的に移動する。」(段落【0036】)
・ 「留め部材91には,フック89が移動する際に上下左右方向の振れを防止するためのベアリング95,97が設けられている。
本実施例では,図6に示すように,留め部材91の左右両端部に上下方向に沿う軸99,99が固定されており,この軸99に第一ベアリング95の内輪の内穴がはめ込まれている。
また,留め部材91には,左右方向に沿って軸101が回転可能に保持されており,この軸101の左右両端部に第二ベアリング97,97の内輪の内穴がはめ込まれている。」(段落【0037】)
・ 【図6】(図5の拡大断面図)
file_7.jpg・ 「フック89には,矩形板状のトレー103が着脱可能に設けられる。トレー103には,二つの車輪105,105が,前後方向に離間して設けられており,各車輪105は,左右方向に沿う軸107まわりに回転可能とされている。また,トレー103の上面には,食器皿が載せ置かれる二つの浅い円形の凹所103aが前後に離間して形成されている。」(段落【0039】)
・ 「トレー103は,車輪105,105が支持板71に接地された状態で支持板71に載せ置かれて,その一側端部にフック89の他片89bが引っ掛けられる。この状態においてトレー103の上面は,水平に配置されている。なお,本実施例では,下側のベルト75bに,二つのフック89,89が前後方向に離間して取り付けられており,各フック89にトレー103がそれぞれ取り付けられている。」(段落【0040】)
・ 「このように設けられたトレー103は,ベルト75が回転することで前後方向に沿って移動が可能とされる。
つまり,モータ79の回転軸79aが正または逆回転することで,ベルト75が正または逆回転し,これに伴って,下側のベルト75bに取り付けられたフック89が前後方向に沿って移動し,トレー103は往復動する。
なお,トレー103の移動速度は,クレセントチェーン9の速度より速くすることが可能である。」(段落【0041】)
・ 「このような構成の本実施例の個別搬送装置1が取り付けられた循環搬送装置3の循環路11に希望する飲食物が流れていない場合,客は,インターホンや液晶画面から希望する飲食物を注文する。なお,直接店員に注文してもよい。
そして,店員は,調理場において調理したものを食器皿に載せ,その食器皿をトレー103に載せ置き,トレー103を移動させればよい。」(段落【0042】)
・ 「本実施例では,各座席位置へのトレー103の移動は,ロータリエンコーダとサーボモータ79を用いて容易になされる。
つまり,注文をした客の座席位置にトレー103が移動するまで,エンコーダで監視しつつ,モータ79を駆動制御すればよい。
ただし,これに替えて,注文をした客席の前で手動でモータを止めてトレー103を止めるようにしてもよいし,各客席に設けたセンサなどにより自動的に駆動装置を止めてトレー103を客の前で停止させてもよい。」(段落【0043】)
・ 「本実施例の個別搬送装置1は,既設の循環搬送装置に取り付けることができ,設備の変更を安価に行うことができる。
また,本実施例では,ベルト75やローラ65を収容したフレーム39を支柱19側に配置し,透明な支持板71をフレーム39より外側へ延出させて,レーン11a(11c),11b(11d)の上方に透明な支持板71を配置している。
これにより,支柱19の上端部に設けられた照明23の光がフレーム39などに遮られることなく,支持板71を介して下側のレーン11a(11c),11b(11d)まで照らすことができ,飲食物が載せられた食器皿を適切に照らすことができる。したがって,照明を増やす必要がない。
さらに,レーン11a(11c),11b(11d)と照明23との間には,薄い支持板71とトレー103とが配置されるだけであり,レーン11a(11c),11b(11d)と照明23との間のスペースを有効に利用することが可能である。
つまり,本実施例の個別搬送装置1を循環搬送装置3に取り付けた場合でも,循環搬送装置3のレーン11a,11b,11c,11dを流れる食器皿が取り難くなってしまうことがなく,トレー103により運ばれる食器皿も取り難くなることがない。」(段落【0044】)
・ 「なお,本発明の個別搬送装置は,上記実施例の構成に限らず,適宜変更可能である。
たとえば,上記実施例では,個別搬送装置1を既存の循環搬送装置3の支柱19に固定したが,循環搬送装置3が支柱19を備えていない場合には,搬送装置1を支柱に取り付けて,この支柱を循環搬送装置に取り付けるようにしてもよい。
また,支持板71は,透明なアクリル板により形成されたが,無色透明の他,有色透明や半透明など,透光性を有する他の材料により形成されていてもよい。」(段落【0045】)
イ 上記記載によれば,本件発明1及び2は,特に回転寿司などで使用される循環搬送装置に取り付けられる搬送装置に関して,従来技術では,客が別途注文した場合のために注文品を別に搬送する搬送装置も提案されていたが,それは既存の循環搬送装置に適用できず設備変更コストがかかったり,下側に配置されるトレーなどに照明が届かないおそれがあったことから,簡易に既存の循環搬送装置に取り付けることが可能であり,かつ照明が適切に当てられる個別搬送装置を提供するために,請求項1及び2の構成を採用することによって,個別搬送装置は既存または既設の循環搬送装置に着脱可能に取り付けられ,支柱の上端部に設けられた照明の光が遮られることなく飲食物が載せられた食器皿を適切に照らし,照明を増やす必要がなく,また,レーンと照明との間には,薄い支持板とトレーとが配置されるにすぎないので,スペースを有効利用でき食器皿が取り難くなることもないという効果を奏する発明であると認めることができる。
(2) 甲1発明の意義
ア 甲1文献(特開2004-187921号公報)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
【請求項1】
飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置において,前記搬送路の近傍に,注文飲食客に注文飲食物を移送する循環注文搬送装置を設け,該循環注文搬送装置は注文飲食物を正逆に循環移送可能で注文飲食客の座席位置で注文飲食物を停止する手段を備えていることを特徴とする循環型飲食物搬送装置。
【請求項2】
前記注文飲食物を停止する手段は,注文飲食物が注文飲食客の座席位置まで移送されたときに,前記循環注文搬送装置の駆動を停止するものである請求項1に記載の循環型飲食物搬送装置。
【請求項3】
前記注文飲食物を停止する手段は,注文飲食物が注文飲食客の座席位置まで移送されたときに,停止部材を注文飲食物の載置容器に当接してその移送を阻止するものである請求項1に記載の循環型飲食物搬送装置。
【請求項4】
前記循環注文搬送装置はリニアモータ駆動の吊り下げ式回走である請求項項1ないし3の何れかに記載の循環型飲食物搬送装置。
(イ) 発明の詳細な説明
・ 【発明の属する技術分野】
「本発明は,飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置に関する。」(段落【0001】)
・ 【発明が解決しようとする課題】
「しかしながら,より多くの飲食客を収納できるようにした大型店舗が増加している現況において,繁盛時には多くの注文飲食客から注文を受けるので,注文飲食物を直接店員が移動して手渡すには多くの店員を動員させなければならず,また店員が飲食物を持ちながら飲食客の後をうろうろすること自体好感のもてるものではなかった。一方,座席番号を記した表示物を付けて一般の循環搬送路に投入する方法は,人手が掛からない反面,注文飲食客が会話に夢中になって見逃してしまう恐れもあり,確実に注文飲食物を注文飲食客に送り届けることができなかった。」(段落【0005】)
・ 「本発明は,上記問題点を解決するためになされたもので,人手を掛けずに注文飲食物を注文飲食客に手早く且つ確実に送り届けることができる専用の循環注文搬送路を設けた循環型飲食物搬送装置を提供することを目的としている。」(段落【0006】)
・ 【発明の実施の形態】
・ 「次に,本発明の第2実施形態に付き図4を参照して説明する。」(段落【0039】)
・ 「図4は本発明の第2実施形態に係る循環型飲食物搬送装置であって,無端状循環搬送路とその近傍上部に配設されるリニアモータ駆動の吊り下げ式循環注文搬送装置を横切る断面図である。」(段落【0040】)
・ 【図4】(リニアモータ駆動により吊り下げ式回走により移送される循環注文搬送装置を横切る断面図)
file_8.jpg・ 「図4に示す符号30は,吊り下げ式循環注文搬送装置であって,この吊り下げ式循環注文搬送装置30は,循環型飲食物搬送装置1を構成する無端状のクレセントチェーンコンベヤ12から成る略水平に並設された循環搬送路1a,1bの対面にそれぞれ設置された仕切板5a,5b間の支持台上部の中間には,搬送方向に沿う複数の支柱25が所定間隔毎に立設しており,これら支柱25間には注文飲食客の対面側の飲食客の視界から遮る目隠し板32が取付けられている。」(段落【0042】)
・ 「上記支柱25の上端から搬送方向と直交する左右方向に張り出した支持アーム26の外端には無端状のガイドレールRが支持されている。そして,このガイドレールRは,循環型飲食物搬送装置1上方で平面回走するように構成されている。なお,支持アーム26は支柱25に支えられているが天井に直接吊り下げるようにしてもよい。」(段落【0043】)
・ 「ガイドレールRは,食器皿8を載置して搬送する吊り下げ搬送トレー31を吊り下げる吊り下げ体Tをガイドローラを介して移動自在に支持しており,吊り下げ体Tのガイドローラと反対側には,ガイドレールRの一部に取付けられた無端状の固定子コイルと,可動子から成るリニアモータが設けられている。」(段落【0044】)
・ 「本実施形態に係る吊り下げ式循環注文搬送装置30は,上記の実施形態と同様に,飲食カウンター4a,4b前の座席に対応して注文伝達手段としてのインターフォンがそれぞれ取付けられており,その座席に着席した飲食客は,インターフォンのボタンを押すことで好みの飲食物を厨房側に口頭で注文することができるようになっている。」(段落【0045】)
・ 「また,吊り下げ搬送トレー31の下方には,仕切板5a,5bの上端から循環搬送路1a,1bの上部にそれぞれヒサシ24a,24bが張り出しており,吊り下げ搬送トレー31から循環搬送路1a,1b上に飲食物が落下するのを防止している。」(段落【0046】)
・ 「従って,前記の吊り下げ式循環注文搬送装置30によれば,この吊り下げ式循環注文搬送装置30と通常の循環型飲食物搬送装置1とを上下に振り分けて配置しているので,搬送駆動部のスペースに余裕ができると共に,吊り下げ式循環注文搬送装置30をリニアモータ駆動とすることで搬送時の騒音が抑えられるので飲食客エリアの環境を向上することができる。」(段落【0047】)
イ 上記記載によれば,甲1発明は,飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置に関し,人手を掛けずに注文飲食物を注文飲食客に手早く且つ確実に送り届けることができる専用の循環注文搬送路を設けた循環型飲食物搬送装置を提供することを目的として,審決が認定したとおり,「飲食店用の循環型飲食物搬送装置1に設けられる,飲食客の注文に応じて飲食物を個別に搬送する吊り下げ式循環注文搬送装置30であって,循環型飲食物搬送装置1の台に設けられた平行な2列の循環搬送路1a,1bの間に立設された支柱25に取り付けられ,且つ2列の循環搬送路1a,1bの両側において循環搬送路1a,1bに沿って設けられる無端状の部材28と,リニアモータにより無端状の部材28内を可動する吊り下げ体Tに設けられ,無端状の部材28に沿って正逆に循環移動する吊り下げ搬送トレー31とを備える飲食客の注文に応じて飲食物を個別に搬送する吊り下げ式循環注文搬送装置30。」という発明であると認めることができる。
(3) 甲2発明の意義
ア 甲2文献(特開平8-108925号公報)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
・ 【請求項1】 長もの野菜を載置可能なトレイ(7)を搬送する搬送コンベヤ(3)と,外部からの長もの野菜を前記トレイ(7)に供給する受取部(4)と,この受取部(4)から前記搬送コンベヤ(3)で送られてくる長もの野菜の形状を,該搬送コンベヤ(3)の上方に配置された画像処理装置(13)によって認識可能な形状認識部(5)と,該形状認識部(5)の形状認識情報に基づいて前記形状認識部(5)から送られてくる長もの野菜を選別して複数箇所に仕分ける選別部(6)とを備え,前記トレイ(7)の野菜載置部分を,一対の載置片(7b),(7c)を側面視略V字状に配置して形成するとともに,一方の載置片(7b)を上部の支点(Q)回りで揺動可能な可動片に構成し,該可動片(7b)の前記受取部(4)における野菜受取位置からの下方揺動により,前記選別部(6)での長もの野菜落下排出が可能となるべく前記両載置片(7b),(7c)間に間隙が形成される状態に構成してあるとともに,前記形状認識部(5)においては,前記可動片(7b)が前記野菜受取位置よりも上昇した撮影位置に移動するように,前記可動片(7b)を揺動操作する載置高さ操作手段(F)を備えてある長もの野菜選別装置。
(イ) 発明の詳細な説明
・ 【産業上の利用分野】
「本発明は,キュウリ(胡瓜),ヘチマ(糸瓜),人参,あるいは大根等の長もの野菜を,形状や大きさ等によって選別して仕分ける選別装置に関する。」(段落【0001】)
・ 【発明が解決しようとする課題】
「前記提案技術によると,キュウリをベルトコンベヤで搬送するものであるから,搬送中にキュウリがベルト上で転がったり位置ずれしたりする可能性があり,隣合うキュウリが接触して正確な形状認識が行えないとか,仕分け作動のときに隣のキュウリまで誤って押してしまうといった具合に,選別作動に支障をきたすおそれがあった。本発明の目的は,レイアウト段階からの根本的な見直しにより,上記不都合なく確実に選別作動できるとともに,効率良く機能し得る選別装置を提供する点にある。」(段落【0003】)
・ 【実施例】
「以下に,本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1~図3にキュウリ選別機が示されている。この選別機は,キュウリを収容したコンテナ1をローラーコンベヤ(載置搬送機構に相当)2で連続搬送可能な搬送装置Aと,この搬送装置Aから供給されてくるキュウリを,長円形で平面循環移動する搬送コンベヤ(平面循環搬送機構に相当)3で送りながら選別して仕分ける選別装置Bと,搬送装置Aにあるキュウリを選別装置Bの受取部4に移送する供給装置Cとから構成されている。」(段落【0011】)
・ 【図1】(キュウリ選別機の全体平面図)
file_9.jpgis・ 【図3】(キュウリ選別機の一部切欠き側面図)
file_10.jpg・ 「搬送コンベヤ3は,一対の軸心P1,P2 回りで長円移動するチェーン10に多数のトレイ7を片持ち支持状態で取付けるとともに,トレイ7の先端部に支持した転動ローラ7Aを転がり移動させるための支持レールRを設けて構成されている。従って,トレイ7が水平姿勢のままで循環移動するとともに,直線移動部分ではトレイ7が隙間なく並ぶ状態に設定してある。図4に示すように,トレイ7は,下方に観音開き可能な長さの異なる2枚の傾斜底面7b,7c上にキュウリを載置する開閉構造に構成されている。選別部6において底面7b,7cを開くことでキュウリを所定の回収箱12に落下供給できるのである。」(段落【0014】)
・ 【図4】(トレイの構造を示す斜視図)
file_11.jpg・「選別部6は,ローラーコンベヤ2から遠い側における搬送コンベヤ3の直線移動経路部分の下方に,複数の回収箱12を配置するとともに,形状認識部5からの情報に基づいて所定の回収箱12上においてトレイ7を開き作動させる開閉操作機構Eを備えて構成されている。例えば,真っ直ぐで長いキュウリは最も搬送方向上手側の回収箱12に落とす,といった具合に画像処理装置13と開閉操作機構Eと搬送コンベヤ3とが連係制御されるのである。」(段落【0016】)
・ 「選別部6においては,長さや形状によって6通りに仕分けるために6個の回収箱12を搬送コンベヤ3の下方に配置するとともに,それら各回収箱12毎に対応する可動ガイドレール39を,ガイドレール11中に備えてある。すなわち,各可動ガイドレール39は鉤状に形成されてその上面39aを操作ローラ7aが転動するようにしてあるとともに,下端の支点X回りでの揺動により,操作ローラ7aを載付けてトレイ7の底面が閉じた状態となる作用姿勢と,操作ローラ7aとの摺接が生じないように作用姿勢から搬送コンベヤ3のループ内側方向に逃げ移動させた退避姿勢とに姿勢変更自在である。」(段落【0018】)
イ 上記記載によれば,甲2発明は,キュウリ,ヘチマ,人参あるいは大根等の長もの野菜を,形状や大きさ等によって選別して仕分ける選別装置に関し,キュウリ等がベルト上で転がって正確な形状認識が行えない等の選別作動に支障をきたすおそれがなく,確実に選別作動できるとともに,効率良く機能し得る選別装置を提供するために,前記請求項1記載の構成を採用した発明であると認めることができる。
(4) その他の文献の記載内容
ア 甲4文献(昭60-241410号公報)には,次の記載がある。
・ 「この発明は回転式カウンターに関し,一層詳細には,清掃が容易で清潔保持が簡易に行える鮨店用等のカウンターに関する。」(1頁左欄下19行~右下欄1行)
・ 「以下本発明の好適な実施例を添付図面に基づき詳細に説明する。
回転式カウンター10において,11は中央が凹設された渡しであって,ステンレス板で内張されている。13は渡し11の中央に載置されるステンレス製の台座であり,この台座13の上部を覆って,木製で,たとえばうるし塗りが施されたセンターテーブル15が載置される。
台座13外壁面と渡し11の内壁面とでチェーンの周回溝14を形成する。」(2頁左上欄下3行~右上欄7行)
・ 【第2図】(回転式カウンターの横断面図)
file_12.jpg・ 「本発明は上記の難点に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,鮨皿載置板の脱着を容易に行え,清掃が容易で,常に清潔に保持しておける回転式カウンターを提供するにあり・・・」(2頁左上欄4行~7行)
・ 「32は鮨皿載置台であり,四角形のお盆形状であって例えばABS樹脂によって形成され,うるし塗りとし,周回溝14上面をほぼ覆うことができる大きさに形成され,流し11内に立設されたL字支持板上に架設した合成樹脂製レール42上にその外周底面を摺接する。鮨皿載置台32の内端面には係止リング37が突設され,この係止リング37に前記L字形フック34が下方から挿通することによって,鮨皿載置台32は前記のレール42とチェーン24とで水平に支持される。」(2頁左下欄5行~15行)
・ 「鮨皿載置台32が密接して移動するので流し11に飯粒等が落下する度合いは少なくなるが,清掃が必要なときには,鮨載置台32をチェーン24上方に容易に取外して周回溝14内を露出しうるから,水を掛けて簡単に洗浄することができる。場合によってはセンターテーブル15,台座13をも取外して,流し11全体を露出することによって完全な清掃が行える。」(3頁左上欄16行~右上欄3行)
イ 甲5文献(特開平9-37915号公報)には,次の記載がある。
・ 【発明の属する技術分野】
「本発明は,巡回搬送させる商品,例えばパン,ケーキ以外に,保温が必要である商品,例えばコーヒー,紅茶等が注入されたポット,冷蔵が必要である商品,例えばサラダ,フルーツ等を提供することができる回転飲食台に関するものである。」(段落【0001】)
・ 【発明の実施の形態】
「また,保温機構の上方に載置板56が配設されている。」(段落【0039】)
・ 「本例において,載置板56は仕切板30に突設されている。」(段落【0040】)
・ 「この載置板56により,冷蔵コンベア32上の冷蔵商品を取分けて載置させる取皿を,この載置板56上に載置させることができ,冷蔵商品を取分け易くすることができると共に,保温機構のクレセントチェーン20の上方を被覆し,クレセントチェーン20上の通常商品および保温商品をチリ,ほこり等から保護でき,冷蔵コンベア32上から取分ける冷蔵商品が,保温機構のクレセントチェーン20の商品上に落下することがなく,衛生上極めて有効である。」(段落【0041】)
・ 「また,載置板56は保温機構のクレセントチェーン20上で巡回搬送されるケーキ,コーヒーボトル等の商品を見易くするため,透明素材により成形することが望ましく,ガラスが最適である。」(段落【0042】)
・ 「客が食した商品皿,客が使用した取皿等の食器類を回収するため,冷蔵コンベア32の上方に回収コンベア58を,クレセントチェーン20と同様に,一端を厨房K側へ突出させて配設させてある。」(段落【0043】)
・ 【図5】(本発明における保温機構及び冷気循環機構を備えた回転飲食台の一部破断斜視図)
file_13.jpgウ 甲10文献(特開2004-187922号公報。出願人・株式会社石野製作所)には,次の記載がある。
・ 【発明の名称】 循環型飲食物搬送装置
・ 【発明の属する技術分野】
「本発明は,飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置に関する。」(段落【0001】)
・ 【発明が解決しようとする課題】
「本発明は,上記問題点を解決するためになされたもので,人手を掛けずに注文飲食物を注文飲食客に確実に送り届けることができる専用の往復注文搬送路を設けた循環型飲食物搬送装置を提供することを目的としている。」(段落【0006】)
・ 【課題を解決するための手段】
「上記目的を達成するために,本発明の循環型飲食物搬送装置は,飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置において,前記循環搬送路の近傍に,注文飲食客に注文飲食物を移送する往復注文搬送装置を設け,該往復注文搬送装置は注文飲食物を前後方向に往復移動可能で注文飲食客の座席位置で停止することを特徴としている。
この特徴によれば,注文した飲食物が注文飲食物載置台により送り届けられるので,人手が掛からず,しかも注文飲食者のところで飲食物が停止するので,見逃してしまうようなことがない。」(段落【0007】
・ 【図1】(本発明の第1実施形態に係る循環型飲食物搬送装置の断面図)
file_14.jpg・ 【図4】(本発明の第2実施形態に係る循環型飲食物搬送装置の断面図)
file_15.jpg・ 【図5】(本発明の第3実施形態に係る循環型飲食物搬送装置の断面図)
file_16.jpg・ 【図6】(本発明の第4実施形態に係る循環型飲食物搬送装置の断面図)
file_17.jpgエ 甲13文献(特開2004-194810号公報。出願人・株式会社石野製作所)には,次の記載がある。
・ 【発明の名称】 循環型飲食物搬送装置
・ 【発明の属する技術分野】
「本発明は,飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置に関する。」(段落【0001】)
・ 【発明が解決しようとする課題】
「本発明は,上記問題点を解決するためになされたもので,注文飲食客が注文飲食物を見逃すことなく確実に取ることができるようにした専用の注文飲食物搬送路を設けた循環型飲食物搬送装置を提供することを目的としている。」(段落【0006】)
・ 【課題を解決するための手段】
「上記目的を達成するために,本発明の循環型飲食物搬送装置は,飲食客エリア内を飲食物を載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置において,前記搬送路の近傍に,注文飲食客に注文飲食物を移送する注文搬送装置を設け,飲食者席近傍には前記注文飲食物が搬送されていることを知らせる告知手段が設けられ,注文飲食物搬送時には注文飲食者の告知手段のみ作動することを特徴としている。
この特徴によれば,ブザーやランプ等の告知手段により注文した飲食物が注文搬送路上を搬送されていることが注文飲食客にわかるので,注文飲食物を見逃すことなく確実に採ることができる。」(段落【0007】)
・ 【図1】(本発明の第1実施形態に係る循環型飲食物搬送装置の断面図)
file_18.jpgオ 甲14文献(特開2005-185326号公報。出願人・株式会社石野製作所)には,次の記載がある。
・ 【発明の名称】 注文飲食物を搬送する注文搬送装置
・ 【発明が解決しようとする課題】
「本発明は,このような問題点に着目してなされたもので,注文飲食客から多数の注文があった場合にも,効率よく注文飲食物を注文飲食客に搬送することができる注文搬送装置を提供することを目的とする。」(段落【0007】)
・ 【課題を解決するための手段】
「上記の目的を解決するために,本発明の請求項1に記載の注文飲食物を搬送する注文搬送装置は,飲食客エリア内で飲食物を容器に載置して循環する無端状の循環搬送路を備える循環型飲食物搬送装置の近傍に設けられた,移送手段により搬入される注文飲食物容器を注文飲食客に搬送する注文搬送装置であって,該注文搬送装置の搬送路上の注文飲食物容器の有無に応じて移送手段の稼働制御が行なわれることを特徴としている。
この特徴によれば,注文搬送装置の搬送路上に注文飲食物容器が存在している場合に,他の注文飲食物容器が注文搬送路に移送されることが避けられ,かつ注文飲食物容器が注文飲食客に採られれば直ちに次の注文飲食物容器を移送手段により送り出すことができる。」(段落【0008】)
・ 【図1】(本発明の実施例1に係る注文搬送路を横切る断面図)
file_19.jpgカ 甲18文献(意匠登録第1148185号公報。意匠権者・株式会社石野製作所)には,次の記載がある。
・ 【意匠に係る物品の説明】
「本物品は,主として食器トレイや食器類等を搬送するための物品搬送機械である。」
・ 【意匠の説明】
「本意匠請求部分は,厨房で調理された飲食物等を必要な場所まで搬送する部位に関するもので,該搬送路は客が飲食物を取り上げる搬送路上部に支柱を介して設けられ,該搬送路側部には,搬送物のガイドおよび目隠しを兼ねた板が設けられている。本意匠請求部分の搬送ベルト部は,当該搬送ベルト部下部に配設される駆動ローラーにより滑動する。・・・「使用状態参考図2」に示すように,搬送ベルト部下方には適宜照明器具等を配設し,また本意匠の筐体側面には循環搬送路に沿って,カウンター或いはテーブル等を配設する。・・・」
・ 【使用状態参考図2】
file_20.jpgHUE "yo-3- 8 \ 1 4 i FI @ Ngキ 乙4文献(特開2001-252171号公報。出願人・株式会社石野製作所)には,次の記載がある。
・ 【発明の名称】 飲食物供給用循環型搬送装置
・ 【発明の属する技術分野】
「本発明は飲食店,特には飲食物である種々の寿司等を飲食客のいる各客席に循環搬送可能な無端状の循環搬送路を有する飲食物供給用循環型搬送装置に関する。」(段落【0001】)
・ 【図3】(本発明の実施例にて用いた飲食物供給用循環搬送装置の構成を示す断面A―Aにおける断面図)
file_21.jpg・ 【符号の説明】
「24 冷媒管」
ク 乙5文献(特開2001-252172号公報。出願人・株式会社石野製作所)には,次の記載がある。
・ 【発明の名称】 飲食店
・ 【発明の属する技術分野】
「本発明は,飲食店,特には回転寿司等の循環型搬送路を備え,該循環搬送路にて飲食物である種々の寿司を供給することで,飲食客が所望の種類の寿司を飲食可能な飲食店に関する。」(段落【0001】)
・ 上記乙4文献と同様の図と符号の説明がある。
ケ 乙6文献(特開2001-252173号公報。出願人・株式会社石野製作所)には,次の記載がある。
・ 【発明の名称】 飲食物供給用循環型搬送装置
・ 【発明の属する技術分野】
「本発明は飲食店,特には飲食物である種々の寿司等を飲食客のいる各客席に循環搬送可能な無端状の搬送路を有する飲食物供給用循環型搬送装置に関する。」(段落【0001】)
・ 上記乙4文献と同様の図と符号の説明がある。
(5) 原告主張の取消事由に対する判断
ア 取消事由1(本件発明1との相違点1〔照明の存否〕に関する判断の誤り)について
(ア) 「『照明』の存在は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならない」につき
原告は,個別搬送装置における進歩性の判断をする際には,個別搬送装置が取り付けられる別の装置に関する構成の差異を問題にする必要はないというべきであるところ,「照明」は個別搬送装置の構成ではなく,駆動装置に片持ちとしたトレーを支持するための支持板が透光性であることによる作用効果の前提でしかないから,個別搬送装置が取り付けられる循環搬送装置に関する限定要素(照明の存在)は個別搬送装置の発明の特定のための構成要素とはならないと主張する。
しかし,本件特許の請求項1の記載からすれば,本件発明1の「循環搬送装置」において,「支柱」が「照明」を保持することは,その構成要件の要素となっていることは明らかである。
一方,前記(1)アのとおり,本件発明1は,かかる構成要件をその発明の構成の一部として,客が別途注文した場合のために,注文品を別に搬送する搬送装置も提案されていたが,既存の循環搬送装置に適用できず,設備変更コストがかかったり,下側に配置されるトレーなどに照明が届かないおそれがあったことに鑑み,照明が適切に当てられる個別搬送装置を提供することをその課題とし,支柱19の上端部に設けられた照明23の光が遮られることなく飲食物が載せられた食器皿を適切に照らし,照明を増やす必要がないことなどをその効果としているものである。
したがって,本件発明1において,「支柱」が「照明」を保持することは,その課題解決のために,また,その効果を奏するための技術的意義を有する構成であることが明らかである。
この点に関し原告は,さらに,回転寿司店などのような循環搬送装置を備える飲食店においては,搬送装置自体に照明を施す以外に,店舗の天井等に多数の照明設備を備えることが普通であって,しかもそれらの照明設備の明るさは,搬送装置自体の照明の明るさよりも明るく,個別搬送装置のレーン上の商品も十分に照らしているから,個別搬送装置のレーン上の飲食物に「照明」が適切に当てられることに格別の技術的意義はなく,本件発明1においても支持板によって循環搬送装置のレーン上の照明が妨げられることが発明特定事項の技術的課題となることはないと主張する。
しかし,甲32,甲34,甲35及び甲36(回転寿司店の店内の写真)のように,天井等の照明によって店内が十分に明るいにもかかわらず,それ以上に搬送装置の上部に設置された照明によって搬送装置のレーン上の商品を明るく照らしている例があることに照らせば,上記「店舗の天井等に多数の照明設備を備えることが普通であって,しかもそれらの照明設備の明るさは,搬送装置自体の照明の明るさよりも明るく,個別搬送装置のレーン上の商品も十分に照らしている」との原告の主張は実情にそぐわない主張といわざるを得ない。
以上のとおりであるから,この点に関する原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 「循環搬送装置が『照明』を備えることは周知慣用技術にすぎない」につき
原告は,甲10文献,甲13文献,甲14文献及び甲18文献に記載された図面を例示として,循環搬送装置に「照明」が取り付けられていることは周知慣用技術であると主張する。
確かに,前記(4)カのとおり,甲18文献の【使用状態参考図2】には,搬送ベルト下方に位置する山形様の図形の中に点線で円形の部材が描かれ,そこには「照明」という字句を伴う引出線が記載されており,【意匠の説明】にも「『使用状態参考図2』に,搬送ベルト部下方には適宜照明器具等を配設し」と記載されていることから,甲18文献に記載されている部材は「照明」であると認められる。
しかし,甲10文献,甲13文献及び甲14文献の各図に示される円形の部材については,各文献において符号が付されて説明されているわけではなく,発明の詳細な説明中には円形の部材についての説明は一切ないから,それらが直ちに「照明」であるとは認められない。
この点,原告は,甲18文献には「照明」と明記されており,しかも甲10文献,甲13文献及び甲14文献とともに甲18文献の出願人がいずれも株式会社石野製作所(原告)であることからすれば,原告が指摘した上記各文献の円形の部材はすべて「照明」であることは明らかであると主張する。
しかし,甲18文献の【使用状態参考図2】に記載された照明の図形の形状と甲10文献,甲13文献,甲14文献の各円形の部材の形状とは,必ずしも同様の形状とはいえないばかりでなく,少なくとも,甲10文献の【図4】及び【図5】,甲13文献の【図1】記載の円形の部材の形態は,同じく出願人を原告とする乙4文献及び乙6文献の【図3】記載の円形の部材の形状とほぼ同様であるところ,後者は,符号の説明において明示的に「冷媒管」と記載されているから,前者も「冷媒管」である可能性があるというべきであり,その他の図面については特に円形の部材についての説明がなく,それらが「照明」か「冷媒管」等の他の部品かが明らかでない以上,これらの図形を「照明」が記載された周知技術の例示と認めることはできない。
以上により,支柱の上部に照明を備えた循環搬送装置に関し,「照明」の記載があるのは甲18文献のみであるから,原告が提出した文献をもって,循環搬送装置の支柱の上部に「照明」を備えることが周知慣用の技術であるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 「甲1文献には『照明』の記載がある」につき
原告は,甲1文献の【図1】及び【図4】には,本件明細書(甲20)の【図3】の「照明」と同様の記載があるから,支柱25の上部に照明を備えているものが甲1文献には記載されていないとする審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,甲1文献では,原告の指摘する【図1】及び【図4】に記載された円形の部材について符号等は付されておらず,その発明の詳細な説明にも,この部材について何ら記載がなされていないばかりか,甲1文献の【図1】及び【図4】に記載された円形の部材の位置関係及び形状は,むしろ,同じく出願人を原告とする乙4文献ないし乙6文献の【図3】記載の円形の部材の形状と酷似しているところ,上記(イ)のとおり,後者においては符号の説明において明示的に「冷媒管」と記載されていることからすると,甲1文献のそれも「冷媒管」である可能性があるというべきであるから,支柱の上部に「照明」を備えているものが甲1文献に記載されていると認めることはできない。
したがって,被告が主張する禁反言等の主張について判断するまでもなく,原告の上記主張は採用することができない。
イ 取消事由2(本件発明1との相違点1〔透光性を有する支持板〕に関する判断の誤り)について
(ア) 「『支持板』の代替性」につき
原告は,「甲1発明の個別搬送装置におけるトレーの支持構造を甲2発明が示すような支持構造又は甲4文献が示す支持構造に代替させることは,当業者にとって容易想到である」,「審決は,甲1発明と甲2発明の適用について,上記のように甲1発明のままでは支持板は不要であるというに止まり,同一の技術分野における甲2発明を適用する可否について論じない点で誤りである」,「甲1発明に甲2発明を適用してトレーの支持構造を支持レールRに代替させた場合に,トレー支持原理が同一である支持板にさらに代替させることも,甲4文献によれば当業者には容易に想到することができたというべきである」などと主張する。
しかし,前記(2)ア(イ)の甲1文献の段落【0039】ないし【0047】の記載によれば,甲1発明において,トレー31は吊り下げて搬送されるものであって,本件発明1及び2における「支持板上」を移動する「トレー」を備えておらず,また,かかるトレーを支持する「支持板」を構造上必要としていないことは明らかである。
そうすると,甲1発明において,本件発明1及び2のような「支持板」を設けようとする動機付けが働くと認めることはできない。
また,甲2文献に関する前記(3)アの記載のとおり,甲2発明は野菜選別装置であって甲2発明の選別装置Bは注文品を個別に搬送する装置ではないから,本件発明1及び2並びに甲1発明とは技術分野を異にするものである。そして,甲2発明のトレイ7は,開閉可能なように構成された底面を開くことで長もの野菜をその下方に用意されている回収箱12に落下供給するものであって,回収箱への長もの野菜の落下を妨げる構造は採り得ないから,本件発明1及び2のようにトレイ7を支持するように板状の部材を設けることは想定できないし,その動機付けがあるとはいえない。
さらに,前記(4)アのとおり,甲4文献に記載された支持構造は,「鮨皿載置板の脱着を容易に行え,清掃が容易で,常に清潔に保持しておける回転式カウンターを提供する」ものであり,そのため,「清掃が必要なときには,鮨載置台32をチェーン24上方に容易に取外して周回溝14内を露出しうる」構造とし,また,その具体的構造として,チェーン24にL字形フック34により固定された鮨皿載置台32が流し11に立設された合成樹脂レール42で支持することとしたことが理解できる。一方,本件発明1及び2のトレーは,支持板上を前記フレームに沿って直線状に往復動するものであって,支持板はフレームから水平に延出して前記フレームが設けられた側のレーンの上方においてレーンに沿って配置されるものであるから,甲4文献に記載された支持構造のような周回溝を設けておらず,また,鮨皿載置板を容易に取りはずさねばならないような支持構造を採用する必要性もないものである。
したがって,甲4文献に記載された支持構造を甲1発明に適用することは想定できず,その動機付けもあるとはいえない。
加えて,本件発明1及び2における「フレームに設けられ,フレームから水平に延出して,前記フレームが設けられた側のレーンの上方においてレーンに沿って配置される透光性を有する支持板」は,「駆動装置によりフレーム内を可動する部材に設けられ,前記支持板上を前記フレームに沿って直線状に往復動するトレー」を支持するものであり,それによって,前記(1)記載の本件発明1・2の課題・作用効果に示したとおり,下側に配置されるトレーなどに照明が届かないおそれがあったことに鑑み,照明が適切に当てられる個別搬送装置を提供することをその課題とし,支柱19の上端部に設けられた照明23の光が遮られることなく飲食物が載せられた食器皿を適切に照らし,照明を増やす必要がないことなどをその効果とするという技術的意義を顕示するものであることからすると,本件発明1及び2において,その前提とする「支持板」は「トレーを支持」する板状のものであって,そもそも構造上,透光性を有しないものと考えるのが自然である。
したがって,この点からみても,甲2発明及び甲4文献から本件発明1のような「支持板」を想到することは困難である。
以上のとおり,甲1発明に甲2発明の構成を適用することも,また甲4文献に記載の構造を甲1発明又は甲2発明に適用することも当業者にとって容易想到ということはできないというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 「『支持板』の『透光性』」につき
原告は,甲2発明においてチェーンと支持レールR間が中空(究極の透光性を備える)であることから,甲1発明に甲2発明を適用しトレーの支持構造に支持板を用いる際に,支持板を透光性とすることは容易であるとか,甲5文献には,回転式飲食台において飲食物を搬送するクレセントチェーンの上方を被覆する載置台を透明にする技術が開示されているから,載置台を通して商品を見やすくするために,トレーの支持構造を構成する支持板を透光性のものとすることは,回転寿司の搬送装置の技術分野においては,特筆すべき事柄ではないなどと主張する。
しかし,前記ア(ウ)で認定したとおり,甲1発明においては,循環型飲食物搬送装置1の支柱25が「照明」を保持しているとは認められない。また,吊り下げ式の循環注文搬送装置30を介して循環型飲食物搬送装置1の搬送路(レーン)を照明することを示唆する記載は見出せない。
したがって,甲1発明においては,「照明」との関係で「透光性」を有するものを設けることは想定できないというべきである。
また,甲2発明は,「トレイ7は,下方に観音開き可能な長さの異なる2枚の傾斜底面7b,7c上にキュウリを載置する開閉構造に構成されている。選別部6において底面7b,7cを開くことでキュウリを所定の回収箱12に落下供給できるのである。」(段落【0014】参照),「選別部6においては,長さや形状によって6通りに仕分けるために6個の回収箱12を搬送コンベヤ3の下方に配置するとともに,・・・。」(段落【0018】参照)とあるように,所定の回収箱12は,搬送コンベヤ3の下方に位置しており,外光その他の光により直接照明が当てられる構造とされてはおらず,また,照明を当てることの必要性についても示唆するところはない。このように,甲2発明では野菜を回収箱12に落とすために開口部が設けられているのであって,下方へ光を当てる点についてはもともと全く考慮されていないから,甲2発明においてチェーンと支持レールR間が中空(究極の透光性を備える)であるとの原告の主張は「支持板」が「透光性」を有することの想到容易性に関しては無意味な主張というべきである。
さらに,前記(4)イのとおり,甲5文献に記載の技術は,巡回搬送させる商品,保温が必要である商品,冷蔵が必要である商品を提供することができる回転飲食台に関するものであって,甲2発明の野菜選別装置とは技術分野が異なっているから,これを甲2発明に適用する十分な動機付けがあるとは認められない。しかも,甲5文献における載置板は取皿を置くためのものであり(段落【0041】参照),甲2発明における支持レールRと機能が全く異なっているから,甲5文献における載置板が甲2発明における支持レールに相当するとは到底いえないし,甲5文献において載置板を透明素材により形成する目的は商品を見やすくするためであって,「照明」との関連性については何ら記載されていない。
以上のとおり,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
ウ 取消事由3(本件発明2に関する進歩性判断の誤り)について
原告は,本件発明1は甲1発明,甲2発明及び甲3ないし甲19記載の周知慣用の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,審決の判断には明らかな誤りがあると主張する。
しかし,前記ア及びイのとおり,本件発明1に関する進歩性の判断についての原告の主張は採用できず,本件発明1は当業者が容易に発明することができたものではないから,本件発明1の構成の全てを包含する本件発明2についても同様であり,原告の上記主張は採用することができない。
3 結論
以上のとおり,本件発明1及び2は甲1・2発明及び周知慣用の技術手段から容易想到であったとはいえないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)