知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10239号 判決 2011年12月15日
原告
セキセイ株式会社
同訴訟代理人弁理士
宮崎栄二
原田智裕
被告
特許庁長官
同指定代理人
齋藤孝惠
遠藤行久
板谷玲子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2010-24420号事件について平成23年6月9日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1の意匠登録出願に対する下記2のとおりの手続において,原告の拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 本願意匠(甲5)
意匠に係る物品:「印刷用はくり紙」
意匠の形態:別紙審決書(写し)の「別紙第1」(以下「別紙第1」という。)のとおり(以下「本願意匠」という。)
出願番号:意願2009-17421号
出願日:平成21年7月30日
2 特許庁における手続の経緯
拒絶査定日:平成22年7月15日(甲8)
審判請求日:平成22年10月29日(不服2010-24420号)
審決日:平成23年6月9日
本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成23年6月30日
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,本願意匠は,下記引用例に記載された意匠(その形態は別紙審決書(写し)の「別紙第2」(以下「別紙第2」という。)のとおり。以下「引用意匠」という。)に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるから,意匠法3条2項の規定に該当し,意匠登録を受けることができない,としたものである。
引用例:大韓民国意匠商標公報2009年3月13日09-05号ミニアルバム用写真印刷用紙(登録番号30-05226251)の意匠(特許庁普及支援課が平成21年4月16日に受入れ。特許庁意匠課公知資料番号第HH21409280号。甲1)
(2) なお,本件審決は,その前提として,本願意匠及び引用意匠を,以下のとおり認定した。
ア 本願意匠:写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「印刷用はくり紙」に係り,横長長方形状の台紙の表面に3段の隅丸横長帯状の印刷部(以下「帯状印刷部」という。)を設け,帯状印刷部には実線で囲まれた横長隅丸矩形状が3つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設けたもので,使用時には山折りにする縦の実線部や谷折りにする破線部のミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるもの
イ 引用意匠:写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「ミニアルバム用写真印刷用紙」に係り,横長長方形状の台紙の表面に4段の横長帯状の帯状印刷部を設け,帯状印刷部には,実線と破線で囲まれた横長隅丸矩形状が5つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設け,細帯状の表紙用の背当て部が設けられている横長隅丸矩形状を有する帯状印刷部と背当て部を有さない帯状印刷部を交互に設けたもので,使用時には破線部や中央のミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるもの
(3) また,本件審決は,以下の意匠を参考意匠としている。
ア 参考意匠1:特開平11-249205号の【図1】の意匠(別紙審決書(写)の「別紙第3」。甲2)
イ 参考意匠2:特開2006-187971号の【図1】の意匠(別紙審決書(写)の「別紙第4」。甲3)
4 取消事由
本願意匠の創作容易性に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1) 本願意匠の認定の誤りについて
本件審決は,帯状印刷部を除いた台紙の余白部形状に係る特徴に何ら言及していない点において誤りがある。
すなわち,本願意匠は,
a 写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「印刷用はくり紙」に係り,
b 横長長方形状の台紙の表面に3段の隅丸横長帯状の印刷部を設け,
c 帯状印刷部には実線で囲まれた横長隅丸矩形状が3つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設けたもので,使用時には山折りにする縦の実線部や谷折りにする破線部のミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものであり,
d 上下3段の帯状印刷部を台紙に形成するに当たり,帯状印刷部を除く台紙の余白部が漢字の「目」の文字の形状を呈するように配置した構成とするものであり,上記dの構成も含めて認定されるべきである。
(2) 帯状印刷部の配列及び余白部について
本件審決は,本願意匠において,帯状印刷部を上下3段とする各帯状印刷部の台紙へのレイアウト及び余白部も,格別の工夫を認めることができないと判断したが,誤りである。
引用意匠は,右に90度回転して横向きに見るとして,上下4段に配列した帯状印刷部を除いた台紙の余白部形状が何らかの文字形状を現すといった発想は全くない。また,参考意匠1は,横長隅丸矩形状(シール)を縦横にすき間なく3段3列に配列したものにすぎず,しかも引用意匠と同様に,台紙の周囲の余白部が横長隅丸矩形状の上下幅と対比しても比較的広幅に形成されている。すなわち,引用意匠も参考意匠1も,本願意匠のように,上下3段の各帯状印刷部を除いた台紙の余白部形状が,全体的印象として,「目」の文字形状を模した美感を起こさせる発想は存在しない。
(3) 本願意匠の特徴の示唆ないし動機付けについて
本件審決は,本願意匠における引用意匠と相違する個々の構成態様がありふれた態様にすぎないとし,その結果,全体として本願意匠は創作容易と判断しているが,誤りである。
意匠の創作容易性を判断するに当たっては,公知意匠等の内容に本願意匠の特徴に到達するためにしたはずであるという示唆ないし動機付けの存在が必要であるというべきである。参考意匠1,2を考慮して引用意匠に基づいても,容易に創作できる意匠としては,甲第4号証に示す参考図に示すものが得られるにすぎない。本願意匠は,上下3段の各帯状印刷部を除いた台紙の余白部形状が,全体の印象として,「目」の文字形状を模した特有の美感を起こさせる意匠を創作したものであり,このような余白部形状につき,引用意匠及び参考意匠1,2が示唆するものではない。
(4) 実線と破線との組合せについて
本件審決は,本願意匠において,3つの横長隅丸矩形状の間に実線を施し,各横長隅丸矩形状の中央にミシン目を施すことは,格別の創作を認めることができないと判断したが,誤りである。
引用意匠は,各横長隅丸矩形状の中央のみならず各横長隅丸矩形状の間もミシン目を施したものである。また,参考意匠2は,長方形状の用紙の中央部にミシン目を形成する構成が示されているにすぎない。これに対して,本願意匠は,上下3段の帯状印刷部を台紙に形成するに当たり,台紙の余白部が漢字の「目」の文字形状を呈するように配置すると共に,帯状印刷部における3つの横長隅丸矩形状の間に実線を施すことで,横長隅丸矩形状の個々の存在感を残すようにしたものであり,引用意匠や参考意匠2には,横長隅丸矩形状の個々の存在感を現すように,各横長隅丸矩形状の間に実線を施すといった発想は全くない。
〔被告の主張〕
(1) 本願意匠の認定の誤りについて
使用に供する帯状印刷部の態様が本願意匠の要部であって,その点に創作の主眼が置かれることから,本件審決は,創作非容易性の有無の判断において必要な態様に絞って記載したまでであり,余白部の構成を明示的に記載していないからといって直ちに本件審決に誤りがあるということにはならない。
すなわち,余白部の態様についていえば,本願意匠の各印刷部同士の間及び台紙の周縁部のいずれの余白部も,格別特徴のない,ごくありふれた態様のものであり,この部分に格別の創作が見られるわけではなく,ただ,ありふれた態様の中から選択したにすぎないといわざるを得ないことから,創作非容易性の有無の判断を行った本件審決において記載したとおりの認定となったものである。
(2) 帯状印刷部の配列及び余白部について
帯状印刷部と帯状印刷部の間に細い余白部を有する点は,引用意匠に表されているとおりであり,本願意匠の余白部の形状は,帯状印刷部と帯状印刷部の間に細い余白部を有する引用意匠を基本とし,帯状印刷部を単に上下3段に配列し,台紙周縁の余白部の幅にありふれた改変を加えたまでにすぎない。
したがって,本件審決が,本願意匠の帯状印刷部を上下3段とする台紙へのレイアウト及び余白部も格別の工夫を認めることができないと判断した点に,誤りはない。
(3) 本願意匠の特徴の示唆ないし動機付けについて
本願意匠の余白部形状について,帯状印刷部同士の間及び台紙の周縁部に余白部を設けること自体は,ごく普通に行われていることであり,そして,帯状印刷部を何段にするか,帯状印刷部を構成する横長矩形状を何個設けるかは,その台紙の大きさや冊子の頁数に制約されるところがあり,必要に応じて様々な段数の帯状印刷部や,様々な個数の横長矩形状が設けられるものであるから,引用意匠において同形の帯状印刷部を3段とすれば,自ずとそのような形状となるのであって,原告の主張は,単に帯状印刷部が3段であることを余白部に着目して述べたにすぎない。
したがって,本件審決が,本願意匠における引用意匠と相違する個々の構成態様がありふれた態様にすぎないとし,全体として本願意匠は創作容易であると判断した点に誤りはない。
(4) 実線と破線との組合せについて
帯状印刷部について,印刷用はくり紙の分野において,ミシン目を介して折り畳み可能に連接された複数の横長矩形状の紙片を台紙にはくり可能に配置することは,本願意匠の出願前からありふれた態様である。また,この種の印刷用紙の分野においては,折り畳みのための山折りと谷折りを区別するために,その指示線を区別して表すことも,本願意匠の出願前から写真用アルバム作成用の印刷用用紙として既に行われていることであって,容易に想到できるというほかない。
したがって,本件審決が,3つの横長隅丸矩形状の間に実線を施し,各横長隅丸矩形状の中央にミシン目を施すことは,格別の創作を認めることができないと判断した点に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 本願意匠の創作容易性について
(1) 意匠法3条2項について
意匠法3条2項は,物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内において広く知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(周知のモチーフ)を基準として,それからその意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に創作することができた意匠でないことを登録要件としたものであり,上記の周知のモチーフを基準として,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものである(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。
(2) 本願意匠の認定
本願意匠は,別紙第1の図面に記載されたとおりのものである。
すなわち,意匠に係る物品は,写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「印刷用はくり紙」である(別紙第1「意匠に係る物品の説明」)。そして,本願意匠は,横長長方形状の台紙の表面に3段の隅丸横長帯状の印刷部(帯状印刷部)を設け,帯状印刷部には実線で囲まれた横長隅丸矩形状が3つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設けたものである。なお,使用時には山折りにする縦の実線部や谷折りにする破線部のミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものである(別紙第1「使用状態を示す参考図1,2」)。
(3) 引用意匠の認定
引用意匠は,別紙第2の図面に記載されたとおりのものである。なお,本件審決の引用意匠の認定については,争いがない。
すなわち,引用意匠は,写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な「ミニアルバム用写真印刷用紙」に係る。引用意匠は,右に90度回転すると,横長長方形状の台紙の表面に4段の横長帯状の帯状印刷部を設け,帯状印刷部には,実線と破線で囲まれた横長隅丸矩形状が5つずつ配され,その中央に縦方向にミシン目を設け,5つのうち1段目と3段目の最も右側の横長隅丸矩形状は,中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,その余の横長隅丸矩形状は背当て部を有さないものである。また,使用時にはミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものである。
(4) 本願意匠と引用意匠との対比
ア 上記(2)(3)によれば,本願意匠と引用意匠とは,以下の点において共通する。
(ア) 写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な印刷用紙であり,使用時には折り目やミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるものである点
(イ) 横長長方形状の台紙の表面に,複数の隅丸横長帯状の帯状印刷部を設けている点
(ウ) 帯状印刷部には,複数の横長隅丸矩形状が配され,中央に縦方向にミシン目が設けられている点
イ また,上記(2)(3)によれば,本願意匠と引用意匠とは,以下の点において相違する。
(ア) 横長長方形状の台紙の表面に設けられた隅丸横長帯状の帯状印刷部について,本願意匠は,3段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に3つの横長隅丸矩形状が配されているのに対し,引用意匠は,4段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に5つの横長隅丸矩形状が配されている点
(イ) 横長隅丸矩形状について,本願意匠は,いずれも,実線で囲まれ,その中央に縦方向にミシン目を設けたものであるのに対し,引用意匠は,帯状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目の最右のものには中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けたものである点
(5) 創作容易性
ア 帯状印刷部の段数及び構成について
上記のとおり,引用意匠は,4段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に5つの横長隅丸矩形状が配されているのに対し,本願意匠は,3段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に3つの横長隅丸矩形状が配されている。
本願意匠出願前に,さまざまな段数の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部にさまざまな個数の横長矩形状が配されている印刷用台紙が存在し(乙1),3段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に3つの横長隅丸矩形状が配されているプリントシートの態様があったこと(甲2)に照らせば,公知の引用意匠の上記構成から,本願意匠の上記構成を創作することに,着想の新しさないし独創性を見出すことはできず,当業者が容易に創作することができたものといわざるを得ない。
イ 横長隅丸矩形状について
上記のとおり,引用意匠は,帯状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目の最右のものには中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けたものであるのに対し,本願意匠の横長隅丸矩形状は,実線で囲まれ,いずれもその中央に縦方向にミシン目を設けたものである。
本願意匠の実線とミシン目は,いずれも蛇腹状に折り曲げるための線であるところ(別紙第1「意匠に係る物品の説明」),実線とミシン目が折り方を区別する常套手段であることは,原告が自認するところである。そして,印刷用紙の分野においては,折り畳みのための山折りと谷折りを区別するために,その指示線を区別して表すことは,本願意匠の出願前から写真用アルバム作成用の印刷用用紙として既に行われていることであって(乙5),ミシン目を実線にすることは,当業者にとって,容易に創作することができる事項であり,また,背当て部を設けた引用意匠からそれをなくした本願意匠に想到し創作することにも,格別の困難は見当たらない。
ウ 小括
そうすると,横長長方形状の台紙の表面に,4段の横長帯状の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に3つの横長隅丸矩形状が配され,帯状印刷部の輪郭が実線で囲まれ,1段目と3段目の最右の横長隅丸矩形状には中央に細帯状の表紙用の背当て部が設けられており,それ以外は,いずれも隣接する横長隅丸矩形状との間及び中央に縦方向にミシン目を設けた公知の意匠から,3段の帯状印刷部を設け,それぞれの帯状印刷部に3つの横長隅丸矩形状が配され,いずれもその中央に縦方向にミシン目を設けた本願意匠を創作することは,いわばその一部を切り取ってミシン目の一部を実線に変更する程度のものであり,その意匠の全体から見ても,本願意匠出願時の当業者の立場からみて意匠の着想の新しさないし独創性があるとはいえず,容易に創作することができたものというべきである。
よって,本願意匠は,意匠法3条2項に該当する。
(6) 原告の主張について
ア 本願意匠の認定について
原告は,本願意匠について帯状印刷部を除く台紙の余白部の形状も含めて認定されるべきであると主張する。
なるほど,本願意匠における帯状印刷部以外の部分,すなわち,帯状印刷部を除く台紙の余白部は,原告の主張にかんがみると,漢字の「目」の文字を横長にした形状を呈していると見えなくもない。しかしながら,本願意匠は,冊子状にして使用可能な印刷用はくり紙に係るものであり,はくり紙の台紙は,通常,印刷部である帯状印刷部を取り去った後は不要となるものであるから,使用に供する帯状印刷部の態様こそが創作の中心になるものと解される。そのことからすると,本件審決が本願意匠の認定に際し余白部の構成を直接認定しなかったとしても,帯状印刷部の配置を認定しているのであって,余白部は台紙のうち帯状印刷部以外の部分を指すものであるから,それが直ちに結論に影響するとはいえない。
イ 帯状印刷部の配列及び余白部について
原告は,引用意匠は,本願意匠のように,台紙の余白部形状が「目」の文字形状を模した美感を起こさせる発想は存在しないと主張する。
しかしながら,本願意匠は,引用意匠と同様に,帯状印刷部と帯状印刷部の間に細い余白部が生じるように配列し,それが3段であった結果,帯状印刷部以外の余白部が「目」の文字を横長にした形状に見えなくはない構成となったものである。このことは,本願意匠の要部である帯状印刷部の配列の結果にすぎないから,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ 本願意匠の特徴の示唆ないし動機付けについて
原告は,「目」の文字形状を模した特有の美感を起こさせる本願意匠の余白部形状につき,引用意匠等に示唆がない旨主張する。
しかしながら,引用意匠において同形の帯状印刷部を3段とすれば,帯状印刷部以外の余白部の形状は,自ずと本願意匠のような形状とならざるを得ない。意匠に係る物品は写真等が印刷可能な印刷部を台紙から剥がし冊子状にして使用可能な印刷用紙であり,使用時には折り目やミシン目に沿って蛇腹状に折り曲げ,裏面を貼り合わせることにより,冊子状に形成できるもので,横長長方形状の台紙の表面に,複数の隅丸横長帯状の帯状印刷部を設けており,隅丸横長帯状の帯状印刷部には,複数の横長隅丸矩形状が配され,中央に縦方向にミシン目が設けられているという引用意匠と本願意匠との共通点に照らすと,引用意匠から本願意匠を創作する動機付けは十分である。
エ 実線と破線との組合せについて
原告は,引用意匠等には,本願意匠のように,横長隅丸矩形状の個々の存在感を現すように,各横長隅丸矩形状の間に実線を施すといった発想は全くないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,本願意匠の実線とミシン目とは,いずれも蛇腹状に折り曲げるための線であり,実線とミシン目とが折り方を区別する常套手段であることは,原告が自認するところである。よって,原告の上記主張は,採用することができない。
(7) 本件審決の判断の当否
以上のとおり,本願意匠は,引用意匠から容易に創作することができるものと認められるので,本件審決の判断は,結論において正当といわなければならない。
2 結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 髙部眞規子 裁判官 齋藤巌)