知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10243号 判決 2012年2月21日
原告
X
訴訟代理人弁理士
豊栖康司
同
豊栖康弘
被告
Y
被告補助参加人
Z
主文
1 特許庁が取消2010-300840号事件について平成23年6月21日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,参加によって生じた部分は被告補助参加人の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,被告が後記商標につき商標法50条1項に基づき不使用商標登録取消審判請求をしたところ,特許庁が同請求を認めて上記商標登録を取り消す旨の審決をしたことから,これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
ア 原告は,平成10年4月10日に出願(商願平10-30450号)し,平成11年10月8日に設定登録を受けた下記第4323578号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
記
(商標)
file_2.jpg(指定商品)
第31類「いちご」
イ 被告は,平成22年7月27日特許庁に対し,不使用を理由に本件商標の登録取消しを求めて審判請求をしたので,特許庁は同請求を取消2010-300840号事件として審理し,平成22年8月16日付けで取消審判の予告登録を経由していたところ,特許庁は,平成23年6月21日,「登録第4323578号商標の商標登録は取り消す。」旨の審決をし,その謄本は同年6月30日原告に送達された。
(2) 審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,①被請求人(原告)が使用を主張する下記使用商標1は,本件商標と社会通念上同一の商標と認めることはできない,②同じく使用商標2は,上記審判請求の登録前3年以内に使用していたと認めるに足りる証拠は見いだせない,等とするものである。
記
・ 使用商標1
file_3.jpg(甲1)
・ 使用商標2
file_4.jpg(甲66)
(3) 審決の取消事由
しかしながら,取消審判請求の登録前3年以内に使用商標2を使用していたと認めるに足りる証拠は見いだせない(前記(2)②)とした審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 審決は,「使用商標2が,商品の入っていない包装箱の側面や本件審判の請求に係る指定商品『いちご』とともに提示されているタグ及び値札に表記されていることは認められるものの,当該包装箱の使用時期,タグや値札を提示して販売等した時期が不明である。」とする(審決21頁11行~14行。なお,本件商標を付したいちごを「ももいちご商品」といい,本件商標と区別する。)。
審決のいう使用商標2には,甲3,33,35が含まれるところ,株式会社フルーツキングが,関西有数の大手デパートである大阪の阪神百貨店にて運営する青果店「フルーツキングミズノ阪神百貨店梅田店果物売場」(以下,「フルーツキングミズノ」といい,同店舗を「梅田店」という。)(甲43)の店頭において,本件商標の通常使用権者として(甲34),少なくとも5年以上前から現在に至るまで,甲33に示すタグを用いて,ももいちご商品を販売している。
(ア) 梅田店の店長であるA(以下「A」という。)は,株式会社フルーツキングミズノの常務取締役であり,同店がももいちご商品を販売するに際して,甲33のタグを,ももいちご商品と並べて展示することを監督する立場にある。梅田店は,その使用開始時期は明確でないものの,少なくとも5年以上前(平成18年)から毎年,甲33のタグを並べた状態で,ももいちご商品を販売している。同人によれば,少なくとも平成22年2月の時点では確実に,甲33のタグが,梅田店のガラスケースに,ももいちご商品と並べて展示されていたとのことである(甲39)。
(イ) ももいちご商品は,JA徳島市が,全て大阪中央青果株式会社(以下「大阪中央青果」という。)に納入した上で,同社が大阪中央卸売市場を通じて各店舗に出荷する販売形態を採用している。大阪中央青果の果実部部長代理であるB(以下「B」という。)は,同社において,梅田店の担当で,同店に少なくとも年5回以上通っており,少なくとも平成21年1月の時点で,梅田店において,甲33に示すタグが,同店のガラスケース内で,ももいちご商品と並べて展示されていたことを目撃している(甲40)。
(ウ) さらに,梅田店を訪れた複数の一般客(C,D)が,少なくとも平成22年2月14日の時点で,梅田店店内のガラスケースにおいて,ももいちご商品と並べて甲33に示すタグが展示されていた旨,すなわち使用商標2が使用されていた旨供述している(甲41,42)。
(エ) 梅田店の入居する阪神百貨店地下一階(甲43)は,関西でも有数のデパート地下の食料品売り場(デパ地下)として知られており,同百貨店の売り上げの半数近くを占めるほどである(甲44)。同売場には一日数万人の一般客が訪れることから,甲33に示すタグも,ももいちご商品とともに相当数の人目に触れていると解される。
イ 通常使用権は正当に設定されている
(ア) 被告は,原告が提出した通常使用権許諾証書(甲34)の信ぴょう性に疑義を投げかけており,その理由は,被告自身が運営するイチゴ農家では使用許諾を付与しない等,自身の知識ないし経験に基づくものと解される。しかし,被告がどの農協に属しているか(そもそも組合員なのかすら不明),所属先の農協がどの商標に対してどのような実施許諾の方針を有しているかは,本件商標の実施許諾とは無関係である。
(イ) 原告及びJA徳島市は,大阪中央青果と協力して「ももいちご」商品を開発するとともに,本件商標を取得した後は,そのブランド化にも注力している。具体的には,商標「ももいちご」の周知化を図るため,本件商標の成立後,ももいちご商品を扱う青果店等に対し,ももいちご商品の販売に際して本件商標を使用するよう依頼した。この中で,梅田店の果物売場は,依頼に応じて積極的に本件商標を使用してくれた。そして,原告は,このような梅田店の協力に感謝するとともに,同使用を正当な商標の使用とするため本件商標の使用許諾を行った。同使用許諾は,本件商標権の更新に応じて,現在まで更新されている。なお,原告側が梅田店に対して本件商標の使用を依頼したため,商標使用の対価は無償である。
以上のとおり,本件商標の使用許諾は,原告が梅田店に対して本件商標の使用を依頼する一環として行われたものであり,通常使用権許諾証書がねつ造であるかのような被告の主張は失当である。
(ウ) 通常使用権許諾証書(甲34)における「ももいちごに標章を付し販売する行為」との表記につき,ももいちご「商品」に本件商標を付し販売する行為と明瞭に解釈できることから,同表記が矛盾しているとの被告の主張は失当である。
(エ) 被告は,販売促進依頼と通常使用権許諾が別であると主張するが,被告の憶測にすぎず,原告及びJA徳島市(以下「原告等」という。)がどのような内容の依頼を行うかは自由であるから,失当である。
また,被告補助参加人は,JA徳島市に通常使用権許諾証書の起案書があると思い込んでいるが,通常使用権の許諾は,商標権者である原告の名義で行われているため,JA徳島市にそのような起案書はなく,起案する義務も必要もない。
被告補助参加人も認めるとおり,気候に応じてももいちご商品の出荷時期は異なる上,使用許諾の開始日を年度始めである4月1日付けとすることは通常みられる実務である。そもそも,使用許諾は既に口頭で行われており,書面は確認的なものにすぎない。
本件では,本件商標を付した商品タグを新たに作成するという「商標の使用」行為が必要であったこと,及び模倣品対策としての積極的な商標使用の方針に加え,本件商標が原告個人の名義であること等も考慮して,口頭での使用許諾のみならず,書面の形で残したものである。
ウ 甲33の商品タグは,ももいちご商品とともに梅田店で使用されている
(ア) 梅田店は,原告・JA徳島市及び大阪中央青果の依頼により,本件商標権の成立後,本件商標の使用を開始している。当時,原告等は,広告宣伝の予算の都合上,専用の商品タグやポップ広告,ポスターなどの販促物を用意することができなかった。このため,梅田店は,当時使用していたももいちご商品の箱(甲3,65)を用いて,箱の側面を写し取ってラミネート加工することで,甲33に示す商品タグを独自に作成し,ももいちご商品と並べて展示した(甲33の2枚目の写真に表示される緑地の値札タグも同じくラミネート加工されている。)。梅田店においては,このような使用を当初から現在まで継続している。
なお,商品タグは数パターン作成されており,甲66(商品タグ)は甲33(商品タグ)と同じでなく,色合いやラミネート方法等が若干異なるが,いずれも梅田店で現実に使用されてきたものである。
甲33,甲66の商品タグが,現在使用しているももいちご商品の化粧箱(甲1)でなく,古い箱(甲3,65)を使用しているのは,以上のように,古くから本件商標の使用を開始し,現在まで継続して使用していることのあらわれである。
(イ) 被告は,甲33の写真について,写っているイチゴは「さくらももいちご」であり「ももいちご」とは何ら関係もない別品種のイチゴであると主張するが,写真の左奥側には,「ももいちご」商品(縦置きされた化粧箱の表面に「ももいちご」の文字が確認できる。)が陳列されている。「ももいちご」商品と「さくらももいちご」商品とは姉妹商品であるため,店頭に並べて陳列されているものであり,「さくらももいちご」の陳列ケースに「ももいちご」の商品タグだけ置いたとの主張は失当である。
さらに被告は,「商品タグ自体もあまりにも不自然」として,商品タグにJA徳島市のマークが表示され,フルーツキングミズノのマークが表示されていないことを挙げるが,前記(ア)のとおり,甲3の箱の側面をそのまま写し取ったため,元々箱にあったJA徳島市のマークが残ったにすぎず,どのような商品タグを使用するかは各販売店の自由である。
被告は,通常使用権許諾証書(甲34)の日付が平成20年4月1日であることから,それより前7,8年間ほど梅田店が本件商標の無断使用をしていたことになると主張するが,使用許諾は甲34の日付以前から与えられており,原告等は当然ながら梅田店による本件商標の使用を承認している。もとより,原告等が梅田店に対して,本件商標の使用を依頼したのであるから,使用許諾は甲34の日付にかかわらず依頼した時点から発生しており,甲34は,口頭での使用許諾を書面として明文化する目的で作成したものにほかならない。
また,被告は,原告が同じ商品タグを10年間使い続けていると思い込んでいるようであるが,梅田店では何年かおきに商品タグを作り直している。商品タグはガラスケース内に置いて,ももいちご商品と並べて展示されているため,基本的に人の手が触れることはない。
さらに,被告は,甲33の写真には,ももいちご商品の空箱のみで現物が写っていないことから商標の使用に該当しないと主張するが,ももいちご商品の化粧箱があり,値札もあり,かつ商品タグに商標が表示されていれば,需要者は化粧箱に係る商品が販売されているものと理解できるので,本件商標は使用されているといえる。商品の現物が展示されていなくとも,商品販売が成立することは通常みられる。なお,甲33の写真は,偶々「さくらももいちご商品」の現物が写っている角度で撮影されたにすぎず,実際には「ももいちご」商品の現物も並べて販売されていた。
(ウ) JA徳島市の職員は,大阪方面に出張する際は,表敬訪問と挨拶のため梅田店を訪れており,この際にも,ももいちご商品が甲33の商品タグを表示して販売されていたことを目撃している。そして,これらの者が,取消審判請求が予告登録された平成22年8月16日の前3年以内に,大阪方面に出張していた事実を示す証拠(甲68)が存在する。
エ 証明書の内容は正当である
被告は,商品タグ(甲33)が,取消審判請求の登録前3年以内に使用されていた旨記載する証明書(甲39~42)についても,縷々主張するが,問題となるのは,上記期間に商品タグがももいちご商品と並べて展示されていたかどうかであり,日付と商品タグの存在さえ記憶していれば足りる。通常人以上の特殊な記憶力は要求されず,「ももいちご」の漢字が「百壱五」であったかどうかまで認識する必要もない。
梅田店店長であるAと大阪中央青果の同店担当であるBについては,立場上,記憶が正確であることは明らかである上,一般消費者(顧客)であるC,Dの立場で考えれば,通常のイチゴに比べて極めて高価な(約1万円の)ももいちご商品を購入する以上,相応の注意力を払って商品に接すると解され,商品と並べて表示されている商品タグを見ないとも考え難い。
特に,甲33(商品タグ)は,商品価格を表示した緑地の値札タグと並べて配置されており,顧客が必ず価格を確認することから考えても,目立つ位置であるといえる。さらに,被告自身が指摘するように,甲33の商品タグは,値札タグ(緑地)と異なるデザイン(白地)であり,一層目立つといえる。
加えて,商品タグ(甲66の原本)の大きさは,値札タグ(甲67の1,2の原本)の大きさと比べて小さいものでなく,商品タグ(右下)に表示された本件商標「百壱五」の文字も,読めないほどに小さいともいえず,商品タグ(甲66の原本)で表示された「本体価格」とほぼ同程度の大きさである。また,商品タグ(甲66の原本)では,①左側のマーク,②上段から中段にかけての「佐那河内の\ももいちご」,及び③下段の「登録第4323578号\平成10年商標登録願第30450号」の,大別して3つの情報が表示されるのみであり,しかも商標登録番号及び出願番号という,登録商標であることを明瞭に示す表示のすぐ右隣に「百壱五」と表示されていることから,需要者は,これが商標であることを容易に認識できる。
さらに,顧客らの購入日は,いずれもバレンタインデーであり,特別な(高価な)贈り物であるため,その日付が鮮明に記憶されている。
また,梅田店店長が,バレンタインデーに高価なももいちご商品を贈るロマンチックな顧客らのことを覚えているのも当然である。顧客の嗜好や過去の購入履歴を記憶し,これを活用できなければ,よい商いはできない。
さらに,商品タグが存在していたことが立証されれば,梅田店を訪れる者の目に触れる場所に商品タグが置かれていたこととなるため,一日数万人が訪問する関西有数のデパ地下(食品売場に強いといわれる阪神百貨店)において,本件商標が誰の目にも触れないということは考え難く,よって本件商標の使用が証明される。
被告は,「百壱五」が商品番号であるとの前提で主張しているにすぎず,商品タグ中に「平成10年商標登録願第30450号」,「登録第4323578号」(及び「ももいちご」)が併記されていることから「百壱五」が「ヒャクイチゴ」でなく商標であることは容易に認識できる。なお,被告も,本件商標では「ももいちご」が「百壱五」の読みを特定するルビの働きをしていると認めている。
また,被告は,梅田店のA店長が商品タグを使い始めた時期を明確に記憶していない点を指摘するが,重要なことは「平成20年1月の時点では間違いなく使用していた」ことであって,使用開始時期ではない。
オ 佐那河内ふる里物産直売所における使用は,3年以内である
(ア) 被告は,「佐那河内ふる里物産直売所」で値札に「ももいちご/百壱五」と二段書きして表示させた甲35(写真)について,「平成23年4月10日に撮影したもの」であるから証拠力がない旨主張する。確かに,甲35(写真)は,取消審判請求の登録前3年以内に撮影されたものではないが,本件商標の予告登録前3年以内における使用態様を示すものである。JA徳島市は,同写真に示すような使用態様で,遅くとも平成12年から現在に至るまで,毎年,佐那河内ふる里物産直売所において,甲35に示す値札を使用して,ももいちご商品を販売していた。
なお,被告は,「漢数字の『壱』を『一』と書き間違えたのは,『ももいちごの漢字は桃苺ではなく,漢数字のヒャクイチゴなのだ』と耳で聞いたからである」と主張するが,被告の憶測にすぎない。「壱」を「一」と間違うことは珍しいことでない。
(イ) 被告補助参加人は,要するに丙2のホームページに掲載された写真で表示される値札が,甲35の値札と異なるので,甲35が偽造である旨主張する。
しかし,値札の表示の態様が異なるから一方が偽造というのは,被告補助参加人の思い込みにすぎず,両方が使用されていたにすぎない。そもそも,原告は,一貫して「ももいちご\百壱五」のみを使用し続けたとは主張しておらず,むしろ「ももいちご」のみの態様で主に使用していたことは,審決も認定するとおりである。問題とすべきは「ももいちご\百壱五」を使用したか否かであって,「ももいちご\百壱五」と一貫して使用していたかどうかではない。
カ 本件での背景事情
被告は,本件商標と同一であって,かつ原告等のももいちご商品の出所を示す周知商標でもある「ももいちご」(以下「未登録周知商標ももいちご」という。)及びその姉妹品である「さくらももいちご」を模倣した「桃苺」,「桜桃苺」との商標を,原告等に無断で使用して,イチゴを販売しており(甲28),さらに,これらの模倣商標について3件の商標登録出願を行っている(甲29~31)。
そして,被告は,これら出願の願書中に,本来的に不要であるばかりか,特許庁において許容されていない〔称呼〕との欄を自作し,「トーマイ,トウマイ」等と述べ(甲71~73),また意見書及び拒絶査定不服審判請求書中においても,上記商標の称呼が「トーマイ,トウマイ」であって,「モモイチゴ」と異なることを繰り返し述べている。
しかし,被告が「ももいちご」ブランドの信用にただ乗りすることを望まず,また「トーマイ,トウマイ」を欲するのであれば,わざわざ「桃苺」のように,「モモイチゴ」と称呼されるのが最も自然な商標を選択せずとも,「トーマイ」や「トウマイ」のカタカナで商標登録を得ればよく,これによって被告の意図しない称呼である「モモイチゴ」と需要者から誤って呼ばれることもなく,原告らの「ももいちご商品」と誤解されることもなくなるはずである。
また,「ももいちご」と「桃苺」が類似することは論を挨たないところであり,同商標を使用してイチゴを販売すれば,一般需要者が「ももいちご」と出所混同を生じることは当然である。特に,未登録周知商標ももいちごが周知であることは,特許庁及び知財高裁においても認められており(甲32等),また,上記被告商標登録出願の拒絶理由通知においても述べられており,被告もこれを認識している。
すなわち,被告による「桃苺」等の使用は,原告らの未登録周知商標ももいちごが築いた信用へのただ乗りであり,これらの信用を毀損するのみならず,需要者においても出所混同及び品質誤認の不利益を被るものであって,原告らとしては到底容認できない。
また,原告は,取消審判において,上記経緯に鑑みれば,被告による取消審判請求は,原告らを害することを目的としたもので,権利濫用に該当する旨主張したが,審決はこれを否定した。しかし,取消審判及び本訴における被告の主張は,原告等に対する根拠のない誹謗中傷を多々含んでおり,まさに「原告を害することを目的としている」にほかならず,この点においても審決の認定は誤りである。
キ 小括
以上のとおり,使用商標2が,予告登録の3年前(平成21年1月,平成22年1月及び平成22年2月14日の時点)において梅田店等で使用されていたことは明らかであり,審決は,使用商標2の使用時期に関する認定を誤っており,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
2 請求原因に対する認否
請求の原因(1)及び(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3 被告及び被告補助参加人の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 通常使用権許諾証書の信用性の欠如
ア 商標権者である原告は,大阪の果物屋(フルーツキングミズノ)に対し,本件商標の通常使用権を与えたことになっているが(甲34),このようなことはあり得ない。
被告は,福岡県でイチゴ農家を営んでおり,以前は「あまおう」も栽培していたところ,「あまおう」は,福岡県農政部が開発したイチゴ品種で,正式な品種名は「福岡S6号」,登録商標は「あまおう\甘王【商標登録第4615573号】」であり,JA全農ふくれんが商標権者である。
福岡県のイチゴ農家は,「福岡S6号」というイチゴ品種を栽培しイチゴ箱やイチゴパックの包装に「あまおう」という商標を付して出荷し,販売できる。このイチゴ品種は県外に持ち出し禁止となっているため,他県のイチゴ農家は「あまおう」の生産販売はできず,福岡県のイチゴ農家は,商標「あまおう」の通常使用権を実質的に持っているといえる。
しかし,小売を行っている果物屋が,商標「あまおう」の使用権の許諾を願い出たという話は聞いたことがない。生産したイチゴを箱詰めし,商標を付す行為は,生産者であるイチゴ農家が行うのが普通である。
果物屋は,既にパックや箱などに商標「あまおう」が付いているイチゴを仕入れて販売するだけであり,商品に商標を付す必要がないので,商標権者にその使用許諾を願い出る必要がない。
これは,福岡県の「あまおう」に限らず,一般的にほとんどの商標が付されている農産物についていえる。
以上から,フルーツキングミズノが,商標「百壱五」の使用権許諾願を原告に願い出ることはあり得ず,原告は,出されてもいない通常使用権許諾願に対して通常使用権許諾証書を発行することはあり得ないので,甲34は証拠偽造によるものと解され,信ぴょう性に欠ける。
現に,審決も,通常使用権者としては,ももいちご(徳島県で栽培されるイチゴ品種「あかねっ娘」)の直接の生産者しか認めておらず,これは,社会通念上当然である。
証拠上も,フルーツキングミズノが,JA徳島市又はその組合員であるとの事実は見出せない。
してみれば,審決にもあるとおり,フルーツキングミズノは,本件商標の商標権者でも使用権者でもないから,ここがどのようなタグや値札を用いて販売していても,商標法50条2項の「商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明」したことにはならない。
イ なお,甲34(通常使用権許諾証書)によると,通常使用権の範囲が「ももいちごに標章を付し販売する行為」となっている。
しかし,「ももいちご」という種類(品種名)のイチゴは存在せず,徳島県で栽培されている「あかねっ娘」という種類(品種)のイチゴに使用商標1を付した「ももいちご」商品しか存在しない。
以上からすれば,「ももいちごに標章を付し販売する行為」の「ももいちご」とは,既に使用商標1の商標が付されている商品を指すから,それに更に標章を付し販売する行為を許可するというのは,二重に商標を付すことになり,文章自体が矛盾し,何が許諾されたのか不明である。
ウ 被告の知識及び経験に基づけば,原告は,要するに,本来であれば,販売促進依頼書を作成して,フルーツキングミズノにももいちご商品の販売の促進を依頼すべきであったところを,間違って意味不明の通常使用権許諾証書を渡したということである。しかし,販売促進依頼と使用権許諾は全く別のことである。需要と供給の関係でみると,販売促進とは需要量を増やし商品価格を押し上げる効果があるのに対して,使用権の許諾は供給量を増やして商品価格を下げることになる。原告は商品価格を上げたいところであるから,大阪市の果物屋に対し,意味もなく,使い道もない使用権許諾証書を発行するとは考えられない。
また,販売促進の一環として,通常使用権許諾を行うことも考えにくく,そもそも,無料で通常使用権許諾証書を渡したというのが信じ難い。
エ 通常使用権許諾という行為は,一種の契約行為なので,甲36の通常使用権許諾証書というのは,当事者(原告及びJA徳島市)にとって重要文書である。JA徳島市がこれを受け付けたのなら,当然その受け付けたJA職員の印鑑や受付印の押された起案文書が存在し,同文書には,課長,部長,専務,常務といった閲覧者(回覧者)の回覧印が押されており,最後に決裁権者である代表者印が押されているはずである。
また,甲36が作られた平成22年4月1日の段階では,JA徳島市の代表者はEであった(丙4(JA徳島市のホームページ)参照)ところ,甲36の相手側(JA徳島市)の代表者がFとなっていることから,これが証拠偽造であることが明らかである。
原告からこの裁判に提出された3つの通常使用権許諾証書(甲34,36,38)のうち,唯一本物である可能性がある甲36でさえ偽物なのであるから,他の二つが本物であるわけはない。様式が同じであることから,この3通の通常使用権許諾証書は同一人物の手により同一のパソコンで作られたものと解される。
(2) 写真の証拠価値の欠如
ア 各種写真(甲39の3~5頁,甲40の3~5頁,甲41の2~4頁,甲42の2~4頁)は,取消審判の途中で審尋がなされた時,原告が証拠として提出したものである。
原告が,平成23年4月15日付け審判事件回答書において,「この写真は,平成23年4月11日に,大阪の阪神百貨店のフルーツキング・ミズノの店頭で撮影されたもの」と記載していることからすれば,写真自体に実質的証拠力はない。また,ももいちごの商品説明用のタグとして,今は使われていない古いイチゴ箱(甲3)のカラーコピーを使っているが,写っているイチゴは「さくらももいちご」であり,「ももいちご」とは何ら関係もない別品種のイチゴである。
平成23年4月11日に撮った,「ももいちご」が全く写っていない「さくらももいちご」の陳列ケースに「ももいちご」の商品タグだけ置いた写真を提示して,商標を使用していた証拠である旨主張しても,実質的な証拠力がないのは明らかである。
また,この「ももいちご」の商品タグ自体も,あまりにも不自然である。タグには,左側に赤丸に徳の文字のマーク(正確には赤丸ではなく市の文字を変形させた丸)が入っているが,これはJA徳島市のマークである。JA徳島市の組合員でもなく,JA徳島市から出資された会社でもないフルーツキングミズノが,店の商品タグにJA徳島市のマークを使うのは不自然であり,「M」をかたどったマークを用いるはずである。
果物屋に限らず,通常,店に商品を並べる場合,商品タグのデザインは統一するものである。
また,陳列されたイチゴの化粧箱の側面には,既に「佐那河内のももいちご」と記載されている(甲45の左上写真)。あえてここに,現時点で使われていない古いイチゴ箱のカラーコピーで作った商品タグを置く必要はない。
なお,本件商標権の成立直後,平成11年~12年ころは,イチゴ箱の「ももいちご」という部分の下に「登録第4323578号/平成10年商標登録願第10450号 百壱五」という二段併記を新たに変更で付け加えて使用された(ただし,使用されたという証拠はどこにもなく,イチゴ箱の試作だけされて実際には使われなかった可能性もある。)。
そして,通常使用権許諾証書の日付が平成20年4月1日であり,被告は,これが商標の使用には当たらないと解するが,原告の考えでは商標の使用ということなので,7,8年間ほどフルーツキングミズノは商標の無断使用をしていたことになる。
また,カラーコピーのラミネート加工を作るのに100~200円程度しかかからず,ホームセンターなどでは,1枚から作ってくれる。原告等は,自分から使用を依頼したのに,その程度の販促物を用意しなかったのは不思議である。
「ももいちご」商品も,甲33の写真に写っている「さくらももいちご(ゆめのか)」同様,スポンジのようにやわらかいプラスチックのトレーの窪みに薄紙を敷いて置いているだけである。甲33の写真のように,垂直に近い形で立てて展示すると,中でイチゴが転がり落ちて,ぐちゃぐちゃになってしまう。写真に写っている「ももいちご」商品の箱は空箱であるところ,フルーツキングミズノが,この写真の空箱を商品として販売しているわけではなく,「ももいちご(あかねっ娘)」が一粒も写っていないというのが事実である。
イ 被告は,フルーツキングミズノの店内の様子の写真(丙7~10)をインターネット上で発見したが,上記4つのブログの写真のいずれにも,問題の商品タグは写っていない。
原告は,梅田店は当時使用していたももいちご商品の箱を用いて,問題の商品タグを作ったと主張している。丙7,8の写真は,偶然にも,いずれも平成19年2月24日にネット上にアップされたものである。写真を撮った日付は特定できないが,下段に写っている商品構成が同じであることから,2つのブログの写真は近い間に撮られたものといえる。写真からわかるとおり,この時点で,既に古い箱(甲3)は使われておらず,フルーツキング店長が問題の商品タグを作ったのはそれよりかなり前である。
当然,この時点では,問題の商品タグが使われているはずであるが,丙7,8等の写真には写っておらず,BやA,2人の女性の証明書や陳述書の内容が虚偽であることが証明される。
ウ なお,甲35は,佐那河内ふる里物産直売所で「ももいちご」が販売されている様子を平成23年4月10日に撮影したものということであるが,撮影日は,本件での取消審判請求の登録前3年以内ではないため,実質的な証拠力はない。写っている商品タグも,最近そこに置いて撮ったもののように見え,何の証明にもならない。
また,「ももいちご/百壱五」とプリントされた値札があるならば,それに数量や値段を書き込めば済み,楽なはずであるが,丙5,6(佐那河内ふる里物産直売所の内部の様子を写したもの)では,手書きの値札が用いられている。
以上からすれば,佐那河内ふる里物産直売所では,本件商標は使われておらず,甲35がねつ造であることは明らかである。
エ 甲37に,株式会社ともだというアイスクリーム屋と佐那河内ももいちご部会(正当な通常使用権者)のネット記事があるところ,いずれも「百壱五」を「百一五」と誤記している。アイスクリーム屋は,自分の製造するアイスクリームの原材料として「ももいちご(あかねっ娘)」を使用するのであるから,その栽培状況が気になり,何度も佐那河内村を訪れているはずである。
本件商標は上段平仮名「ももいちご」と下段漢数字「百壱五」の二段併記商標であり,「ももいちご」は「百壱五」の読みを特定するルビの働きをしている。本件商標が正当な形で使用されており,アイスクリーム屋や佐那河内ももいちご部会の人たちがそれを目にしていたのなら,この誤記はありえない。漢数字の「壱」を「一」と書き間違えたのは,「ももいちごの漢字は桃苺ではなく,漢数字のヒャクイチゴなのだ」と耳で聞いたからである。
アイスクリーム屋も,佐那河内ももいちご部会の人々も,皆まともな形で商標を使っていなかったので,誰も見たことがなく,「ももいちご」の漢字が「百壱五」だと知らなかったのである。
(3) 証明書の信用性の欠如
前記(2)のとおり,写真にあるような商品タグは置かれていなかったと推測されるが,念のため,反論する。
本訴では,A店長のほか,大阪中央青果のB営業担当者とフルーツキングミズノの2名の顧客(C,D)の計3通の証明書が提出されている(甲40ないし42)。
一般の人は,「ももいちご」の漢字が「百壱五」であることを知らず,「ももいちご」と書かれている平仮名を目にして頭に浮かぶ漢字は「桃苺」ぐらいしかない。
漢字「百壱五」が一般の人に知られていないという事実は,特許庁の審判官も当然のこととして認識している。
被告からしても,この商品タグに記載された「百壱五」の文字は,商品管理のための通し番号にしか見えない。商品タグにあれば,商品番号にしか見えないので,「ももいちご」の漢字が「百壱五」であることを知らない一般の人(驚異的な記憶力を有し,一度目にしたものは写真のように記憶にとどまるような特殊人でない者)であるところのB,C,Dにとって,「百壱五」の文字は全く興味のないものである。
確かに,顧客は,1万円近いイチゴを購入するのであるから,相当な注意を払うといえるが,それは商品(品種)名,値段や産地,商品の見栄え,新鮮かどうかといったことであり,商品番号は,店舗が自分の販売する商品を管理するための番号であり,顧客は,商品番号などには注意も向けず,記憶もしない。
Bも,フルーツキングミズノを訪れたとき,自分の市場が卸した果物がどうなっているかには興味があり,陳列方法や売れゆきは記憶しているかもしれないが,置かれていた他の会社(店舗)の商品タグに,虫眼鏡で見ないとわからないような小さい文字で「百壱五」と商品番号としか見えない数字があったことを供述し証明させるには無理がある。
以上から,3通の証明書には実質的な証拠力はなく,おそらく,誘導により作成されたものと解されるため,写真にあるような商品タグが使われていたことの根拠にはならない。実際には,原告が,誰か知り合いに頼んで,名前を借りて証明書を書いてもらっただけと解される。
また,フルーツキングミズノは,被告のようにイチゴを宅急便で送っておらず,店頭販売した1年半前の顧客の名前や住所の控えもないにもかかわらず,2人の顧客を憶えていて名前と住所が判明したことも不思議である。
なお,原告は「日付と商品タグの存在さえ記憶していれば足りる」と主張するが,誤りである。証明書では,「ももいちご」及び「百壱五」の文字を表示した商品タグを配置して販売していたことを目撃した旨,明確に記載されている。この点があいまいならば,証明書自体意味をなさず,何の証明にもならない。
(4) 使用商標2の使用では,本件商標の使用とはならない
そもそも,使用商標2の古いイチゴ箱での「百壱五」の表示自体,本件商標の使用とは認められない。
本件商標は,二段併記商標であることによって,「百壱五」に通常は読まない「ももいちご」という読みを特定することにより独自性を持たせ,自他識別性が生じ登録商標となり得たものであり,バラバラの使用では,どちらの使用にしたところで,登録商標とはみなせなかったのである。使用商標2での使用(甲66)では,「ももいちご」と「百壱五」はバラバラに使用されている2つの標章である。大きさや色が違うため,見た目からしてそうであるが,成立(印刷)時期も違う。
加えて,社会通念上,この2つの標章を1つの塊としてみなす人など,どこにもいない。商品タグ(甲66等)のような,横書きで書かれている文字を読む場合,上から下,各行(段落,段組)においては,左から右に読んでいくので,「丸徳 佐那河内のももいちご 登録第4323578号 平成10年商標登録願第30450号 百壱五」と読まれる。間に「登録第4323578号 平成10年商標登録願第30450号」という文字が入っているため,「ももいちご」と「百壱五」がバラバラの2つの標章であるのは自明である。バラバラの2つの標章で,どちらも,本件商標の使用とみなされないから,万が一,商品タグ(甲66等)を使用していたとしても,本件商標の使用とはみなせない。
(5) 小括
以上のとおり,審決における,使用商標2についての使用時期の認定が誤っていたと証明できるだけの証拠や論拠は提示されておらず,審決が正しかったことは明らかである。
証拠の大半が,本件での取消審判請求の登録の日より後で作られたものであり,それ以前に発行されたことになっている通常使用権許諾証書にしても信ぴょう性に乏しく,かつ通常使用権許諾証書の発行と使用商標2が実際に使われていたか否かは別問題である(実際に通常使用権の許諾を許可されたであろうJA徳島市においても使用されていない。)。
仮に本件商標が実際に使用されていれば,確たる証拠や痕跡がネット上で見つかるはずであり,これだけ探して見つからないのは,使用していないからである。
よって,本件訴えは棄却されるべきである。
第4当裁判所の判断
1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2 商標権者又は通常使用権者による本件商標使用の有無
商標法50条1項によれば,「継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは,何人も,その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる」とされており,また本件取消審判請求の予告登録がなされたのは,前記のとおり平成22年8月16日であるから,その3年前である平成19年8月16日から平成22年8月16日までの間に本件商標が商標権者又は通常使用権者等により使用されたかどうかが問題となるところ,取消審判の被請求人たる原告は,通常使用権者たるフルーツキングミズノ(梅田店)を通じて,上記3年前までの期間内である平成21年1月,平成22年1月及び平成22年2月14日において,使用商標2の形態で本件商標を使用していたと主張し,取消審判の請求人たる被告はこれを争うので,以下検討する。
(1) 本件における基本的事実関係
証拠(甲3,8,9,33,34,36,39,40,49,65ないし67,69,70,75,丙7,証人B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 「ももいちご」とは,徳島県内の農家でのみ生産されているいちごで,JA徳島市佐那河内支所と大阪中央青果で作ったブランドのいちごであり,平成7年ころ販売が開始され,正式な品種名は「あかねっ娘」といい,地元の徳島と大阪の卸売市場にしか出荷せず,また,粒を大きくして贈答用のみの販売に限ったことから,高値で販売されてきた。
なお,本件商標につき,当初は単に「ももいちご」だけの出願であったが,「もも」と「いちご」の2つの果物名を組み合わせただけであるとして認められず,「百壱五」を併記することで,何とか商標登録に至った。
イ 本件商標の商標権者である原告は,JA徳島市管内の佐那河内支所いちご部会の前部会長であるが,「ももいちご部会」には法人格がないので,その中心メンバーである原告個人名義で本件商標登録がなされている。
ウ 大阪中央青果に勤務するBは,果実部第3部に所属し,現在は部長代理の地位にある。
同社は,大阪市中央卸売市場・本場の青果部卸売業者であり,果実部第3部は,中国・四国・九州・北海道を担当する部署であって,Bは,徳島・愛媛・北海道を主に担当し,「ももいちご」を競売するせり人でもある。
Bは,入社以来,上司(G)の指導の下,徳島県産いちごの販売に携わっており,「ももいちご」の誕生にも関わっている。
同社から,大阪市中央卸売市場本場青果仲卸,果実部5号・株式会社フルーツキングが仕入れた商品を,阪神百貨店のフルーツキングミズノ(梅田店)が販売している。
徳島以外の産地・品種で「ももいちご」の類似品が登場したこともあり,フルーツキングミズノ(梅田店)店頭での販売において佐那河内産の「ももいちご」であることを明らかにし,より多くの消費者に理解してもらうため,本件商標が登録となった平成11年ころ及びテレビで「ももいちご」が放送された平成14年ころ,原告とGが相談して,果実部5号・株式会社フルーツキングを通じて,フルーツキングミズノに対し,本件商標の使用を依頼することになった。
エ フルーツキングミズノ(梅田店)果物売り場に勤務するAは,平成7年に梅田店の店長となった。
同店では,大阪市中央卸売市場青果仲卸,果実部5号株式会社フルーツキングと,もぎたて青果の産地直送の果物を販売している。
同店において,「ももいちご」は看板商品であり,高額ではあるが,売れ行きは良好である。
前記ウのとおり,原告等から,商標を使用して販売するようにとの依頼を受け,Aは,梅田店において,「ももいちご」箱の写真をラミネートして商品タグを作成し,「ももいちご」を販売する際に,甲40添付の写真上の赤丸で囲まれた商品タグ((甲33(写真)の赤丸で囲まれた商品タグと同じであり,「ももいちご」「百壱五」の文字の入ったもの。甲66は商品タグそのもの。)を使用することがあった。
そして,Bは,5~6年前(平成17年~18年)から毎年,12月31日に,阪神百貨店の地下売り場で正月のおせち料理の買い物をしているところ,その際,フルーツキングミズノ(梅田店)において,陳列の棚4段のうち,上から2段目に「ももいちご」商品が陳列され,右側に化粧箱,左側に紙トレーが陳列され,紙トレーの前に上記商品タグが置かれている状況を目撃している。
オ 原告は,本件商標につき,フルーツキングミズノに対し,平成20年4月1日付けで,日本国内において,平成20年4月1日から平成24年3月31日まで,「ももいちごに標章を付し販売する行為」につき,通常使用権を許諾する旨の証書(甲34)を作成した。
もっとも,前記ウ,エのとおり,原告は,フルーツキングミズノ(梅田店)に対し,平成11年ころから,本件商標につき使用許諾しており,甲34は平成20年4月1日付けでその内容を書面化したにすぎない。
さらに,原告は,本件商標につき,JA徳島市に対し,平成22年4月1日付けで,日本国内において,本件商標の存続期間中(平成31年10月8日まで),「ももいちごに標章を付し販売する行為」につき,通常使用権を許諾する旨の証書(甲36)を作成した。
もっとも,原告は,JA徳島市に対しても,当初から,本件商標につき口頭で使用許諾していた。
(2) 本件商標と使用商標2との社会通念上の同一性の有無
本件商標の通常使用権者であるフルーツキングミズノ(梅田店)は,「ももいちご」「百壱五」の文字が入った商品タグ(甲33,66の写真参照)を用いていたところ,同商品タグでは,「百壱五」の文字が「ももいちご」の文字に比べて小さい上,他の文字(「登録第4323578号」等)も使われるなど,本件商標において「ももいちご」「百壱五」の文字をほぼ同じ大きさで二段に並べたものとは,使用態様が異なる。
しかし,不使用商標登録取消審判における商標の使用とは,商標法50条1項が明示するように,必ずしも登録された商標と同一の商標の使用でなくても社会通念上同一と認められる商標の使用であれば足りると解されている。これは,現実の社会では,願書添付の商標見本と厳密な意味での同一の商標を,営業上絶えず同じ態様で固定して用いることはむしろまれであり,登録商標の使用の解釈を社会通念に合致するように行う必要があるためである。
そこで検討するに,上記商品タグにおいて,文字の色や大きさから,「ももいちご」の部分が最も大きな自他識別能力を有することは明らかであり,「佐那河内の」の部分は,それに次いで自他識別能力を有するといえる。他方で,文字の大きさや内容からすれば,「登録第4323578号」「平成10年商標登録願第30450号」「百壱五」の部分は,いずれも自他識別能力は非常に小さいといえる。
しかし,原告は,「百壱五」の部分につき,単に登録要件を充足するために本件商標に付加したものであり,客観的にみても,本件商標において漢数字である「百壱五」の部分は,「ひゃくいちご」のほか「ももいちご」とも一応読み得るものであり,ここから,数字の100と1と5,又は何らかの「いちご」との観念が生じ得るものの,あくまで平仮名の「ももいちご」を補足する部分であり,「百壱五」の部分自体が顕著な自他識別能力を有することは期待されていないと解されることからすれば,「ももいちご」「百壱五」の両方の文言が,文字の変更や欠落などなく,共に用いられていれば,字体や字の大きさに違いがあるとしても,本件商標を表す「登録第4323578号」「平成10年商標登録願第30450号」も表示されていることも併せ考慮すると,社会通念上,本件商標と同一の商標が使用されていると解すべきである。
そして,本件での商品タグ(甲33,66参照)において,「百壱五」の文字が小さいとしても,判読できないほど小さいわけではなく,他の文言が入っていても,「ももいちご」「百壱五」の両方の文言が上下二段に並べて用いられているものである。
以上からすれば,甲33(写真)の赤丸で囲まれた商品タグにおいて,本件商標と社会通念上同一の商標が使用されているものと認めるのが相当である(なお,その写真内容からして,本件商標の指定商品である第31類「いちご」について使用されていることは明らかである。)。
(3) 小括
以上のとおり,本件においては,原告から本件商標につき通常使用権の設定を受けたフルーツキングミズノ(梅田店)が,少なくとも取消審判請求の登録日(平成22年8月16日)前3年以内である平成19年,平成20年,平成21年の各12月31日に,甲33(写真)の赤丸で囲まれた商品タグ(使用商標2)を使用して,指定商品の「いちご」に該当する「ももいちご」を販売していたものということができる。
(4) 被告及び被告補助参加人の主張(以下,両名の主張を「被告の主張」として扱う。)に対する判断
ア 被告は,本件での通常使用権許諾証書は,いずれもねつ造されたもので,信用できない旨主張する。
確かに,本訴で提出された通常使用権許諾証書(甲34,36,38)は,いずれも定型的な文書で,体裁,形式もほぼ同じであって,許諾を受ける者の署名押印もないが,他方で,これらの使用許諾は,いずれも無償で行われており,責任を伴うものでもないため,使用許諾を受ける者にとって何ら不利益にならないものであるから,使用許諾を受ける者が,必ずしも慎重な手続を採る必要はないといえる。
被告は,そもそも無償で商標の使用許諾をするなどあり得ず,原告は商標の使用許諾と販売促進とを混同している旨主張するが,前記認定のとおり,原告やJA徳島市が,フルーツキングミズノ(梅田店)に対し,「ももいちご」商品の販売を依頼していたことは事実であるところ,その際,どのような販売促進方法を採るかは各自の判断であり,必ずしも,商標の無償での使用許諾を伴うことが不合理とはいえない。また,被告は,「小売店であるフルーツキングミズノ(梅田店)に対して商標の使用許諾をすること」はあり得ないとも主張するが,これも各商標権者が判断すべき事項であって,一概にあり得ないとはいえない。
このほか,被告は,JA徳島市への通常使用権許諾証書(甲36)における,JA徳島市の代表者の氏名が誤っているとか,当然に作成されているべき決裁文書がないなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件商標の使用許諾は,いずれも無償で行われており,使用許諾を受ける者にとって何ら不利益にならず,責任を伴うものでもないため,JA徳島市等の使用許諾を受ける者が,必ずしも決裁等の慎重な手続を採る必要はないといえる。また,原告は,通常使用権許諾証書作成前から,JA徳島市やフルーツキングミズノ(梅田店)に対し,口頭で本件商標の使用許諾をしていたものと認められ,書面の作成は事後的なものにすぎないため,被告が主張する代表者名の誤りがあるとしても,これによって,通常使用権を設定したとの事実が否定されるものではない。
このほか,被告は,通常使用権許諾証書における許諾の内容が意味不明であるとも主張するが,その意味は十分に明確であり,上記主張は採用することができない。
イ 被告は,本訴で提出された写真(甲39ないし42添付のもの等)は,いずれも基準時(取消審判請求の登録時)以降に作成されたものであり,証拠価値がない旨主張する。
被告の主張どおり,これらの写真(甲39~42添付のもの)自体は,基準時以降に撮影されたものであるが,本件では,B及びAの供述等により,フルーツキングミズノ(梅田店)において,上記基準時以前も,上記写真に写されたものと同じ商品タグが用いられていたと認められる。
また,そもそもこれらの写真は,フルーツキングミズノ(梅田店)において商品タグを使用していた態様を立証するために,事後的に撮影されたものであって,上記基準時以前に撮影されたものではないから,その具体的状況において,例えば,たまたま「さくらももいちご」商品しか撮影されていないとか,「ももいちご」の箱が空箱であるといった状況は重要ではなく,この点に関する被告の主張は意味がない。
また,被告は,フルーツキングミズノ(梅田店)において,フルーツキングミズノの「M」をかたどったマークではなく,「徳島」の「徳」をかたどった,いわゆる「丸徳」のマークが用いられている点も不自然であると主張するが,どのような方法で販売するか,どのような商品タグ等を用いるかは,各販売者の判断であって,フルーツキングミズノ(梅田店)が,自らの店舗における商品タグのデザインを統一せず「丸徳」のマークを用いたとしても,必ずしも不合理とはいえない。
このほか,被告は,丙2・5・6等からすれば,佐那河内ふる里物産直売所において甲35に写された商品タグは用いられておらず,丙7~10によれば,フルーツキングミズノ(梅田店)においても,甲33に写された商品タグは用いられていなかった旨主張する。
このうち,佐那河内ふる里物産直売所において,本件での取消審判請求の登録日前3年以内に甲35に写された商品タグが使用された事実を認めるに足る証拠はない。他方で,原告も認めるとおり,フルーツキングミズノ(梅田店)において,常に本件商標と社会通念上同一と認められる使用商標2(甲33(写真)の赤丸で囲まれた商品タグ)が用いられてきたものではなく,あくまで,使用商標2も,他の商品タグとともに使われていたというものにすぎず,この点は,丙7~10によっても影響を受けるものではない。
このほか,被告は,本件商標に関し,「もも苺」,「百一五」などと誤記されることが多く,誰も本件商標を正しく使ったことがない旨主張する。
しかし,「いちご」と「苺」,「一」と「壱」とを間違うことは十分あり得るものであり,また,既に認定したとおり,フルーツキングミズノ(梅田店)では,その商品タグにおいて,「ももいちご」「百壱五」の文字を組み合わせた形で用いていたものであり,他の場所で誤って用いられていたとしても,上記認定に影響を及ぼすものではない。
ウ 被告は,本件で作成された「証明書」と題する書面4通のうち3通(甲40~42)につき,通常人は,商品タグの細部(特に,非常に小さい「百壱五」の文字部分)につき関心を持たず,記憶しているはずもなく,信用できない旨主張する。
そこで検討するに,上記「証明書」のうち,一般消費者であるC及びD作成のもの(甲41,42)については,上記両名が,ただ1度の「ももいちご」購入の際に,値札や商品タグにおける「ももいちご」「百壱五」の文字等細かい事項まで記憶しているかは明らかではなく,その信用性は必ずしも高いとはいえない。
他方で,Bは,正月用の買い物のために阪神百貨店の地下を訪れた際に,その職業柄,自らが深く関与している「ももいちご」の販売状況等(商品タグの状況も含む。)につき,注意して観察しているものと認めるのが合理的である。
このほか,Aは,自らの職務として,値札や商品タグを作成,配置しているものであり,当然に,商品タグ等における「ももいちご」「百壱五」の文字がどのように記載されているか認識しているものといえる。
また,B及びAは,いずれも陳述書を提出し(Bにつき甲69及び甲75,Aにつき甲70),さらにBは,証人尋問においても,取消審判請求の登録日(平成22年8月16日)前3年以内において,使用商標2(甲33(写真)の赤丸で囲まれた商品タグ)が使用されていたことを明確かつ具体的に供述している。
以上からすれば,商品タグの状況に関するB及びAの供述内容は,信用性が高いものと認められる。
このほか,被告は,商品タグの「百壱五」の部分は商品管理のための番号にしか見えず,一般人は,これが商標であるとは認識しない旨主張する。
しかし,本件商標は,そもそも「ももいちご」の平仮名と「百壱五」の漢数字を組み合わせたものであって,その一部が漢数字であることを前提に商標登録されているから,「百壱五」の部分が顕著な自他識別機能を発揮することは期待されていないと解される上,商品タグにおいて,実際に両者が組み合わされた態様で使用されている以上,本件商標と社会通念上同一の商標が使用されているというべきである。
エ 被告は,仮に,フルーツキングミズノが,甲33のような態様で,「ももいちご」「百壱五」の文字が入った標章を使用していたとしても,これは本件商標の使用には当たらない旨主張する。
しかし,前記のとおり,不使用商標登録取消審判における商標の使用とは,必ずしも登録された商標と同一の商標の使用でなくても,社会通念上同一と認められる商標の使用であれば足りると解されるところ,甲33(写真)の赤丸で囲まれた商品タグは,全体として本件商標と社会通念上同一の商標と認められるから,被告の上記主張は理由がない。
3 結論
以上のとおり,本件商標の通常使用権者であるフルーツキングミズノ(梅田店)は,本件での取消審判請求の登録日前3年以内に,本件商標と社会通念上同一と認められる商標(使用商標2)を,指定商品「いちご」につき使用していたものと認められるから,同使用の事実が認められないとした審決は誤りである。
よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 東海林保 裁判官 矢口俊哉)