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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10244号 判決 2012年5月16日

原告

訴訟代理人弁護士

長沢幸男

弁理士

八木澤史彦

被告

株式会社アオイ生物科学

訴訟代理人弁護士

鈴木武志

浅田哲

笠松未季

川口和宏

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告が求めた判決

特許庁が取消2010-300858号事件について平成23年6月23日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,被告の登録商標につき不使用を理由とする原告からの登録取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,商標の使用の事実の有無である。

1  特許庁における手続の経緯

被告は,下記本件商標の商標権者である。

【本件商標】

file_3.jpg|S 4a] $U 40]・ 登録番号 第4776699号

・ 指定商品 第3類「せっけん類,化粧品,香料類」

・ 出願日 平成15年9月25日

・ 登録日 平成16年6月4日

原告は,平成22年8月4日,商標法50条1項に基づく商標登録の取消審判請求をし(取消2010-300858号),同月23日,本件商標につき,上記取消審判請求がされた旨の予告登録がされた。

特許庁は,平成23年6月23日,上記予告登録前3年以内に被告が本件商標の指定商品に関するパンフレットに本件商標を使用して広告・宣伝を行ない,化粧品等を販売したと認定して,原告の取消審判請求を不成立とする審決をし,その謄本は同月30日に原告に送達された。

2  審決の理由の要点

「被告に係る商品パンフレット(審判乙7,本訴では甲11)には,本件商標と同一の商標が付されており,そこには,『スキンローション』『スキンミルク』等の化粧品が掲載されている。また,該商品パンフレットは,試供品及び注文品を顧客に発送する際に同封しているものである。

そして,被告は,FAX,フリーダイヤル等による,上記商品パンフレットに掲載されている化粧品の注文を,自社で受け付けるほか,株式会社ベルライン又は株式会社システム・ラインを通じて行い,その注文に基づいて,平成19年1月ないし平成21年10月頃に『化粧品』を販売したことが推認できるものである。

してみれば,被告は,本件審判の請求の登録前3年以内の平成19年8月ないし平成21年10月頃に本件商標を『化粧品』についての商品パンフレットに使用し,その商品を販売したことが推認できるものであるから,被告のパンフレットによる広告,宣伝及び販売行為をもって,商標法第50条に規定する商標権者による本件商標の『使用』があったものと認めることができるというべきである。

なお,原告は,『商品パンフレットを商品の問い合わせに対し試供品を送付する際,及び,注文に応じて商品を発送する際に同封していることについて,証拠は提出されていない。』旨を主張している。

しかしながら,被告の会社における化粧品の販売がFAX,フリーダイヤル等による通信販売を主とする注文販売であることからすれば,商品パンフレットを試供品を送付する際,及び注文に応じて商品を発送する際に同封していることに何ら疑念の余地はないというべきである。

さらに,原告は,『審判乙第7号証ないし第10号証及び第13号証のいずれの記載も『三相乳化』を化粧品の製法を示すものとして使用しているにすぎず,商標的使用態様には該当しない。』旨を主張している。

しかしながら,審判乙第7号証の商品パンフレットにおいて,『21世紀は『三相乳化』の/基礎化粧品が/あなたの人生観を変えます』,『『三相乳化』をご存知ですか』の記載中の『三相乳化』の表示は,化粧品の製法を示すものとしての使用とはいえない。

また,本件商標である『三相乳化』の構成態様をもって,その商品の製法等の説明に使用したとしても,単なる製法等の説明に止まるものではなく,該商標部分が看者の注意を強く惹きつけるものであり,商標を同時に使用しているといっても差し支えないというべきである。

よって,これらの原告の主張は,いずれも採用できない。」

第3原告主張の審決取消事由(被告による本件商標の使用の事実の有無)

1  審決は審判乙第7号証の本件パンフレット(甲11)中の記載のみに基づいて被告の使用の事実を認定したところ,そもそも本件パンフレットが作成された時期が不明であるし,これが使用された事実を裏付ける証拠もない。

2  本件パンフレットは僅かに1頁の書面であり,その中で使用される単語等の意味合いを統一的に理解するのは当然である。

上記パンフレット中では4か所に「三相乳化」との単語が記載されているところ,これらの記載の意味合いを統一的に理解するとすれば,いずれも製品の製法を示すものにすぎないというべきである。

甲第7,第9,第12,第13,第14,第17号証中の「三相乳化」の記載も,製法を示すものとして記載されているにすぎない。

しかるに,審決は,本件パンフレット中の記載のうち,「『三相乳化』をご存じですか」,「21世紀は『三相乳化』の基礎化粧品があなたの人生観を変えます」との記載に着目して,これらの記載のうちの「三相乳化」の部分の意味合いが他の記載部分中の「三相乳化」の部分の意味合いと異なり,製法を示すものとしての使用とはいえないと誤って判断しており,証拠の評価を誤っている。

3  また,本件パンフレット中の「三相乳化」の記載が,「三相乳化」の4文字を図案化してされているとしても,この図案化の態様はごくありふれたものにすぎず,見る者の注意を格別に引き付ける程度のものではない。本件パンフレットに接した需要者は,上記「三相乳化」の記載をもって製法の記載と理解するにとどまり,これが被告の業務に係る商品を示すものであるとは認識しない。甲第35ないし38号証にも照らせば,需要者においては,「三相乳化」の語を一技術内容を示す概念と理解するものといえるから,本件パンフレット中の「三相乳化」の記載も上記のとおりに理解するというべきである。そうすると,本件パンフレット中では,「三相乳化」の記載は商標的に使用されていない。

4  被告が本件訴訟で新たに提出する能書(乙2)等も,作成された時期や実際に使用された事実が不明であるし,記載された「三相乳化」の表示は化粧品の製法を意味するにすぎず,識別力を有しないから,商標的使用に当たらない。

なお,有限会社リード印刷所作成の証明書(乙6)等は,被告の求めに応じて作成されたにすぎないもので,能書等に対する標章の使用の事実を裏付けるものではない。

5  したがって,本件パンフレットの作成時期や使用の事実についての認定や,本件パンフレットの使用の有無,記載内容の評価に係る審決の認定判断には誤りがあるから,被告による本件商標の使用の事実の有無についての審決の判断には誤りがある。

第4取消事由に対する被告の反論

1  審決が認定したとおり,被告は,予告登録の日から3年以内に本件パンフレットやリーフレット(甲12,審判乙8),試供品に関する説明書(甲14,審判乙10)に本件商標を付し,商品に関する広告として頒布してきた。

2  本件パンフレット等における本件商標の使用態様は,大きさの異なる4枚の黒塗りの暖簾の中に独自の筆字で「三」「相」「乳」「化」と白抜きで表示するというもので,一瞥して需要者の注意を惹き,文章中の他の文字等から分離して認識,把握される。本件パンフレットにおけるように,商品説明文の中に図案化した表示である本件商標を組み込むという手法は,独特のものであって,これを見る者に一層本件商標を印象付ける効果を奏している。

ところで,「三相乳化」という用語は,一般的なものではなく,一般人には耳慣れないものである。そうすると,油化学の専門家が「三相乳化」という技術用語を使用していたとしても,一般人は「三相乳化」の意味を理解できず,商品の独自性を示す標識程度としか理解できない。のみならず,油化学の専門家の間で使用される「三相乳化」の用語の意味と被告が使用する「三相乳化」の用語の意味は一致していないし,「三相乳化」の記載に触れた一般人が上記専門家間の用語の意味を理解できるものでもない。

したがって,本件パンフレット等において使用されている本件商標が商品の出所を識別する表示として機能していることは明らかであって,これが商標的使用ではないということはできない。

3  また,被告は,商品に添付する能書(乙2),試供品に添付する説明書(甲14,乙3の1),試供品送付用の封筒(乙4),コットン製品の説明書(乙5),名刺(乙8)に本件商標を付することで,予告登録の日から3年以内に,商品又は包装に本件商標を付して使用している。

なお,上記能書には上から順に「AOI COSMETICS」,「三相乳化」(本件商標),「Recommended for All Skin Types」,「基礎化粧品」と複数の段にわたって記載されており,これが商標的使用に当たることは明らかであるし,その余の説明書等の本件商標の表示も同様に商標的使用に当たる。

4  結局,本件商標の使用の有無に係る審決の認定判断に誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  顧客であるA等の証明書(甲25,27)及び有限会社リード印刷所代表者作成に係る証明書等(乙6,16,17)によれば,被告が,「AOIRECOMMEND」との表題の下に,平成17年5月以降継続して作成し,平成19年1月ころ以降に化粧品等と同送したことが認められる本件パンフレット(甲11)には,被告の基礎化粧品の効能等に関し,次の記載がある。

【記載1】

file_4.jpg4 ERD 2 FTTH AMO BRB OALRA LIA + Yeh KLE OMFAT < > DEHoTTE TET. TAA EMAPE TIS, 30F ALAA SAMO RAO ERASE BL ERO PH BHA EIR) NH Athi EE ELA SOMUAESIL, AMO RABOELRRA IIA) ¢ 20 RRORM CSAS ( OHO TONNE, OEY SRAISGUC SAT UAL EA. RIKI CREST A EEO SR Aches SB EITE TL. LOLIVIATON OAC EBS 5H 3 LR TET EMERY RLEF.【記載2】

file_5.jpg21482 | {EET ZEB LBE SOAS HWAOAAAME AEF本件商標は,黒色で不揃いな大きさの略四角形を4つ横に並べ(被告は暖簾の形状であるとする。),この略四角形の内部にそれぞれ「三」「相」「乳」「化」と手書き風の白抜き文字を1字ずつ記して成るものであるところ,本件パンフレット中の各記載における「三相乳化」の文字は本件商標の外観と同じ態様となっている。このように,「三相乳化」の文字が注目される態様であるのに対し,文章中の他の文字部分はよくある字体で記載されていることの対比で,「三相乳化」の文字は,上記記載の中で見る者の注意を特に惹くものとなっている。

そして,本件パンフレットは指定商品である化粧品等と同梱して顧客に送付し,商品の宣伝をする目的等で作成され,それ自体が宣伝広告媒体である性格を帯びている上,記載1の内容は,被告が長年にわたって「三相乳化」と呼ばれる技術を導入して基礎化粧品を製造しており,被告の商品(基礎化粧品)の特徴である「三相乳化」して製造された化粧品は,これを毎日使用することで,好ましい肌を取り戻すことができるから,かかる被告の商品の特徴を知ってほしいという趣旨のもので,単に被告の商品が「三相乳化」の技術によって製造されているという事実を示すにとどまらず,被告の商品の特徴が「三相乳化」にあることを強調するものである。また,記載2も,被告の商品である「三相乳化」の基礎化粧品が顧客の人生観を変えるほどの大きな効能を発揮するという趣旨のもので,やはり被告の商品の特徴が「三相乳化」という技術によるものであることを強調し,合わせて,被告の業務に係る商品について「三相乳化」なる文字態様をもって他の商品と識別させようとしたものである。そうすると,「三相乳化」の文字の記載の体裁が本件商標の外観と同じで,見る者に強調された印象を与えることにも照らせば,記載1及び2における「三相乳化」の文字態様が,同送した被告の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する機能を果たし,また被告の業務に係る商品を需要者や取引者に対して広告する機能を果たしているものと評価することができる。

原告は,本件パンフレットに接した需要者は「三相乳化」の記載を単に技術内容(製法)を示すものとして理解するにとどまるなどと主張する。しかしながら,記載1及び2中の「三相乳化」の文字態様が見る者に強調された印象を与えることは前記のとおりであって,記載1及び2に接した需要者が「三相乳化」の記載を被告の商品の特徴ととらえ,商品識別の手掛かりとするものである。原告が提出する論文「熱力学的に可能なリン脂質の三相乳化系」(田嶋和夫著,平成11年11月1日,甲35)中には「三相エマルションは乳化剤が一つのバルク相として独立の性質を示し,エマルション表面で水相-乳化剤相-油相の構造を作り,油滴を安定化していると考えられる。」(1頁)との記載があるが,この記載や原告が提出する他の文献等(甲36~38)の存在を考慮しても,「三相乳化」の語は未だ一般的な用語になっているものではなく,油化学ないし脂質の化学的性質の知識に疎い一般の需要者も上記論文にあるような「三相乳化」の技術的な意味を理解して本件パンフレット等の記載に接するとはいえない。そうすると,上記のような一般の需要者は,「三相乳化」の語から特定の製造法を連想し得るものではなく,原告の提出する論文等の存在によって「三相乳化」の記載の出所識別機能等に係る前記結論が左右されるものではない。

結局,記載1及び2における「三相乳化」の記載は商標的使用に当たるとしてみて差し支えなく,被告において本件商標を予告登録の日より3年以内に商品の広告に付して使用したものということができる。

2  本件パンフレットには,化粧品であるスキンローションやスキンミルク等のほか,石鹸であるクリームソープやラベンダーソープが掲載されており,また掲載されているスキンミルク等には香料が成分として含有されているとの記載がある。そうすると,被告は指定商品「せっけん類,化粧品,香料類」について,予告登録の日より3年以内に本件商標を商品の広告に付して使用した事実を証明したものということができるから,この旨の審決の判断に誤りはない。

3  証明書等(乙6,16,17)及び弁論の全趣旨によって,平成20年6月以降継続して作成され,このころ化粧品の化粧箱内に同封されたことが認められる能書(乙2)中にも,被告の商号に対応する英語ないし通称(屋号)である「AOI COSMETIC」の表示と並んで本件商標の外観と同じ標章が記載されている。証明書等(乙6,8,16,17)及び弁論の全趣旨によって,平成19年4月以降継続して作成され,このころ被告によって使用されたことが認められる試供品送付用の封筒(乙4)や,平成16年7月以降継続して作成され,このころ被告の役員・従業員によって使用されたことが認められる名刺(乙8)中にも,上記能書におけるのと同様に,本件商標の外観と同じ標章が記載されている。上記の能書の記載は本件商標の指定商品の包装に本件商標を付して使用するものであるし,上記封筒等の記載は少なくとも本件商標を広告的に使用するものであるから,これらの証拠によっても,被告が指定商品について,予告登録の日より3年以内に本件商標を商品の広告に付して使用した事実を証明したものということができる。

また,証明書等(甲25,27,28,乙6,16,17)により,平成20年8月以降継続して作成され,顧客に対し化粧品等と同送したことが認められるリーフレット(甲12),平成18年10月以降継続して作成され,試供品の「コットン」の包装内に同封された試供品説明書(甲14(下段)),遅くとも平成22年8月23日以前に同様に顧客に頒布されたリーフレット(甲13),注意書き(甲14(上段))中にも,本件商標の外観と同じ態様の「『三相乳化』した乳液」等の記載があるが,これらの記載についても被告の商品の特徴を強調し,商標としての機能を果たすものということができるから,これらの証拠によっても,被告が指定商品について,予告登録の日より3年以内に本件商標を商品の広告に付して使用した事実を証明したものということができる。

4  結局,被告による基準時前の本件商標の使用の事実を認めることができるから,原告の商標登録取消請求は理由がなく,同請求を不成立とした審決に違法な点は存しない。

第6結論

以上によれば,原告が主張する取消事由は理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 古谷健二郎 裁判官 田邉実)

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