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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10281号 判決 2012年1月18日

原告

同訴訟代理人弁理士

正林真之

八木澤史彦

被告

日本電信電話株式会社

補助参加人

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ

上記両名訴訟代理人弁護士

水谷直樹

曽我部高志

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が取消2010-300605号事件について平成23年7月26日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,被告の下記1の本件商標に係る商標登録の取消しを求める原告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,原告が本件審決の取消しを求める事案である。

1  本件商標

本件商標(登録第4657563号)は,「NTTデータ」の文字を標準文字で表してなるものであり,平成14年3月18日に登録出願され,第42類「インターネットによる広告用ホームページの設計・作成又は保守」(以下「本件役務」という。)を含む第35類ないし第45類に属する商標登録原簿に記載の役務を指定役務として,平成15年3月28日に設定登録されたものである(乙1,2)。

2  特許庁における手続の経緯

原告は,平成22年5月31日,本件商標の指定役務のうち,本件役務について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないことをもって,不使用による取消審判を請求し,当該請求は,同年6月16日に登録された(甲11,弁論の全趣旨)。

特許庁は,これを取消2010-300605号事件として審理し,補助参加人の補助参加を受けた上で,平成23年7月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その審決書謄本は,同年8月3日,原告に送達された(甲14,弁論の全趣旨)。

3  本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,本件商標の通常使用権者である補助参加人が本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を本件役務(「NTTデータ 広告代理サービス」と題する文書(甲4))について使用していたから,本件商標の登録を取り消すことはできない,というものである。

4  取消事由

本件商標の使用の有無についての認定判断の誤り

第3当事者の主張

〔原告の主張〕

(1)  本件審決は,甲4の表面の左肩に記載された「NTTデータ」なる表示が本件商標の使用に該当する旨を説示する。

(2)  しかしながら,本件審決は,商号と商標とを取り違えている。すなわち,前記表示は,役務を提供する主体を示す商号であり,商標は,当該主体が提供する商品又は役務を示すものであるから,明らかに区別されるものであり,商号が商標に該当するか否かは,実情によって判断されなければならない。「役務を提供する主体を示すものであるならば,それゆえに,提供する役務の出所識別標識としての機能を十分に果たす」との本件審決の判断は,何ら法的根拠がなく,違法であることが明らかである。

また,同一の商標権に係る別件事件では,「NTTDaTa」を含む標章の使用が商標としての使用とは認められない旨の判断がされている(甲17,19)から,甲4における「NTTデータ」は,なおさら商標的使用とは認められない。

(3)  本件審決は,被告が前記別件事件において甲4の「NTTデータ」なる表示が商標的使用ではないと主張している点について,別件事件では商標法53条に基づく取消しが問題となっており,審判請求人も異なっていることからすれば,事案を異にする案件であり,民法上の外観法理を適用しなければならない事情も認められない旨を説示する。

(4)  しかしながら,本件審決の前記判断は,適用法が異なるとか当事者の一方が異なるという形式的な事情によって,重要な事実を判断資料から排除するものであり,法的根拠のない証拠不採用というべきであり,違法である。

(5)  よって,本件審決は,取り消されるべきである。

〔被告及び補助参加人の主張〕

(1)  甲4は,平成20年8月ころ,本件商標の通常使用権者である補助参加人により作成されたチラシであるが,甲4には,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が付されており,本件役務について本件商標が使用されている。そして,本件審決は,甲4に表示された標章及びそこに記載された役務の内容に基づいて本件商標の使用を認定している。

本件審決は,商号と商標を取り違えているものではなく,原告の主張は,見当違いである。

(2)  別件事件では,株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズによりウェブサイト等で表示された「NTTDaTa」の使用が商標法53条に該当するか否かが問題となった一方,本件では,補助参加人による本件商標の使用の有無が問題となっているのであって,両者は,使用標章,表示態様及び表示主体がいずれも異なっている。

よって,別件事件に関連した原告の主張は,いずれも失当である。

第4当裁判所の判断

1  取消事由(本件商標の使用の有無についての認定判断の誤り)について

(1)  補助参加人が被告から本件商標について使用許諾を受けている通常使用権者であることについては,当事者間に争いがない(乙7参照)。

(2)  甲4は,補助参加人が作成した「NTTデータ 広告代理サービス」と題する文書(いわゆるチラシ)であり,その表面及び裏面の合計8箇所に標準文字で「NTTデータ」との記載があるが,その表面左肩部には,当該題字に加えて,「システムインテグレーターとしてのバックボーンを活かした広告代理サービス」,「システムインテグレーターとして培われた「情報収集力」「システム・WEB構築力」「確実性の高い分析力」を活かし,従来の広告代理店では難しい継続的に結果を生み出すインターネット広告運営をサポートいたします。」との記載があるほか,その表面下部には,「広告代理業サービス」との項目に「リスティング広告では,ビジュアル化されたレポートでの定期報告会を実施。コンバージョンコスト最適化などにより,効果の見える運営を行います。/リスティング広告/バナー広告・メール広告/タイアップ広告・企画広告」との記載(「/」は,原文の改行箇所等である。以下同じ。)があり,これに並列配置された「コンサルティングサービス」との項目に「広告出稿後は,実績データを多面的に分析し,仮説の検証を行うとともに,次のプロモーションに向けたコンサルティングを行います。/広告実績データ分析/WEBサイト改修/SEO対策/ページ・バナー制作/WEBサイト構築・運用/オフラインでの宣伝活動」との記載がある。

(3)  また,甲4裏面下部には,「事例紹介」と題して「三菱地所リアルエステートサービス様の事例」として,同社のインターネットによる広告用ホームページの設計,作成,運用及びその結果分析を実施している旨を示す図解が記載されている。

ところで,甲6は,平成20年2月5日付けの補助参加人作成に係る三菱地所リアルエステートサービス株式会社宛てに作成された,「売りたいページ,事業用・投資用ランディングページ修正案のご確認」と題する書面であり,その1丁に標準文字で「株式会社NTTデータ」との記載があるものであるが,その2丁以下は,三菱地所リアルエステートサービスのインターネットによる広告用ホームページの図案にその校正案を付記したものである。

そして,甲6に付記された校正案を反映した同社のホームページ画面が存在すること(甲7)及び当該画面のうち甲6の2丁及び3丁に対応する部分が前記の甲4裏面の図解にも掲載されているから,甲4は,補助参加人による本件役務に関する広告であるといえる。

(4)  さらに,甲4の体裁,その裏面に「掲載内容は2008年8月現在のものです。」との記載があること及び平成20年7月3日に制作が発注されて(甲8)同年8月22日にその業務の完了が確認されている(甲9)ことから,補助参加人は,そのころ,本件役務に関する広告(甲4)に本件商標と社会通念上同一と認められる「NTTデータ」との記載を付して日本国内において頒布したものと認められる(甲10)。

(5)  以上によれば,本件商標の通常使用権者である補助参加人は,本件審判の請求登録日(平成22年6月16日)の前3年以内である平成20年8月22日ころ(甲4)に,本件役務について本件商標の使用をしていることについて証明があったものというべきであり,この点についての本件審決の認定判断に誤りはない。

(6)  以上に対して,原告は,補助参加人による「NTTデータ」との標章の前記使用が本件商標を本件役務について使用したものではなく,役務提供の主体である補助参加人の商号の使用であるにすぎない旨を主張する。

しかしながら,甲4は,いずれも本件役務の提供に関して,その主体である補助参加人の商号を一部英文字で表示しているものであるが,当該表示が本件商標と社会通念上同一のものである以上,いずれも本件役務の提供に当たり本件商標を使用したものとみることができるというべきである。

したがって,原告の上記主張は,採用できない。

(7)  また,原告は,本件商標の使用について商標法53条1項の適用が争われた別件事件において,「NTTDaTa」という標章が商標的に使用されていないと認定されたことなどを根拠として,本件商標の使用が商標的使用に当たらない旨を主張する。

しかしながら,別件事件では,株式会社エヌ・ティ・ティ・データ・セキスイシステムズが本件商標の使用権者であるか否かや,同社の従業員が使用した名詞に印刷された「NTTDaTa」との表示を含む標章により使用された態様が争われたのであって,本件とは事案を異にすることが明らかであり,当該事件において当該標章が商標的に使用されていないと認定されたからといって,そのことが甲4における本件商標と社会通念上同一のものの使用についての当裁判所の認定判断を左右するものではない。

よって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。

2  結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 井上泰人 裁判官 荒井章光)

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