知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10287号 判決 2012年2月15日
原告
株式会社SPORTS LABORATORY
訴訟代理人弁理士
香原修也
藤田雅彦
被告
特許庁長官
指定代理人
守屋友宏
小林由美子
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告が求めた判決
特許庁が不服2010-20385号事件について平成23年6月29日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,商標登録出願の拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決の取消訴訟である。
争点は,本願商標が引用商標と類似するか否か,その指定役務と引用商標の指定商品が類似するか否か(商標法4条1項11号)である。
【本願商標】
file_2.jpgSPORTS LABORATORY Sportsman.jp・ 指定役務 別紙本願指定役務目録記載のとおり
1 特許庁における手続の経緯
株式会社スポーツマンは,平成19年7月2日,本願商標の登録出願をしたが(商願2007-73672号),原告に対して出願人たる地位を移転し,平成20年3月28日に出願人名義を変更する旨の届出をした。
原告は,平成22年5月24日,本件商標登録出願につき拒絶査定を受けたので,同年9月10日に不服審判請求をするとともに,同年11月8日,指定役務の内容を改める手続補正をし,その結果,本願商標の指定役務は前記のとおりのものになったが,平成23年6月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年8月8日に原告に送達された。
2 審決の理由の要点
本願商標は引用商標1ないし3と類似し,引用商標1ないし3の各指定商品と類似の役務について使用するものであるから,商標法4条1項11号に当たる。
【引用商標1(登録第153376号)】
file_3.jpg= aa・ 指定商品 第24類「布製身の回り品」,第25類「被服(頭から被る防虫網・あみ笠・すげ笠・ナイトキャップを除く。),運動用特殊衣服,マラソン足袋,地下足袋」
・ 商標権者 美津濃株式会社
【引用商標2(登録第665104号)】
file_4.jpgSPORTSMAN ABo-y Vy・ 指定商品 第25類「短靴,長靴,編上靴,雨靴,防寒靴,作業靴,木綿製靴,メリヤス製靴,サンダル靴,幼児靴,婦人靴,オーバーシューズ,地下足袋,地下足袋底,靴中敷き,かかと,半張り底,内底,げた,草履類」
・ 商標権者 オカモト株式会社
【引用商標3(登録第3332636号)】
file_5.jpgSPORTS MAN・ 指定商品 第14類「時計」
・ 商標権者 セイコーホールディングス株式会社
第3原告主張の審決取消事由
1 商標の類否判断の誤り(取消事由1)
(1) 審決は,本願商標と引用商標1ないし3が類似するか否かにつき,次のとおり説示する(3,4頁)。
「本願商標は,・・・上段の『SPORTS LABORATORY』の文字と下段の『Sportsman.jp』の文字からなっているが,これらの文字は,上段と下段に明確に区別して配置されている上,下段の文字は上段の文字に比して,4倍ほどの大きさで,かつ,かなり太い線で表されているから,上段の『SPORTS LABORATORY』の文字と下段の『Sportsman.jp』の文字は,取引において分離して観察され,しかも,下段の文字が上段の文字に比べてかなり目立ち,取引者,需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということができるので,本願商標に接する取引者・需要者は,顕著に大書された『Sportsman.jp』に印象を留め,取引に資するものというのが相当である。
ところで,近時,インターネットが広く普及し,これを利用した商品・サービスの購入・取引が積極的に行われている実情が認められるところ,インターネット上の取引にあっては,取引者を特定するための各種文字等と日本に係る国別トップレベルドメイン(以下『ccTLD』という。)である『.jp』とを結合した各種ドメイン名が用いられる実情がある。
本願商標中『Sportsman.jp』の文字部分は,日本を表すccTLDである『.jp』と,『Sportsman』が結合したドメイン名を想起させるものである。
そして,『.jp』でドメイン名が終わる場合,『.jp』の部分は,そのドメイン名を使用した主体が日本に存在(在住)する個人,団体,法人組織等であるという以上に特定するものではないから,『Sportsman.jp』に接する取引者,需要者が出所識別機能を有するものとして認識するのは,『Sportsman』の部分であり,これより,『スポーツマン』の称呼及び『運動競技の選手。スポーツの得意な人』(『広辞苑 第六版』(株式会社岩波書店))の観念が生じるというべきである。
一方,引用商標は,いずれも,その構成において『SPORTSMAN』あるいは『スポーツマン』の文字を有するものであるから,これらの文字から自然に『スポーツマン』の称呼を生ずるものであり,また,当該文字から『運動競技の選手。スポーツの得意な人』の観念が生ずるものである。
そこで,本願商標と引用商標とを比較するに,本願商標の下段のうち,出所識別機能を有する部分は『Sportsman』であり,引用商標は,いずれも『SPORTSMAN』又は『SPORTS MAN』の文字を含んでいるから,外観において類似する。
また,本願商標及び引用商標からは,上記認定のとおり,いずれも『スポーツマン』の称呼及び『運動競技の選手。スポーツの得意な人』の観念が生ずるものであるから,両商標は,称呼及び観念が同一である。
そうとすれば,本願商標と引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれの点を考慮しても,出所の混同を生ずるおそれのある類似の商標と判断されるものである。」
(2) 審決は本願商標の下段部分の構成の一部である「Sportsman」を抜き出して,引用商標1ないし3の外観との類否を判断しているが,当該商標の理解の仕方に影響を与えるべき特殊な事情がある場合を除いて,純粋に商標の外観同士を対比すべきであって,商標の構成要素を意味的に分離し,一部の構成要素を恣意的に捨象して外観の類否判断をするのは適切でない。
本願商標はすべて文字要素で簡潔に構成されており,「Sportsman」の部分のみを抜き出して他の構成要素を捨象しなければならない視覚上の要因はないし,本願商標と引用商標1ないし3の意味内容が共通する英単語部分が,標識の視覚的特徴部分として重なり合っているわけでもない。
そうすると,本願商標の外観と引用商標1ないし3の外観とは類似しない。
(3) 本願商標は上段に「SPORTS LABORATORY」,下段に「Sportsman.jp」とそれぞれ記して成る外観を有するから,本願商標からは「スポーツラボラトリースポーツマンドットジェーピー」又は「スポーツラボラトリースポーツマンジェーピー」との称呼が生じる。
仮に本願商標の構成上,下段の「Sportsman.jp」の部分が上段部分よりも大きく,太く記されていることから,下段部分「Sportsman.jp」が本願商標の要部(出所識別機能を有する部分)となり得るとしても,この「Sportsman.jp」の部分は同一の書体でまとまりよく記されており,視覚上一体のものとなっている。そして,上記の構成部分がドメイン名を想起させ,末尾の「.jp」の部分がカントリーコードトップレベルドメイン(ccTLD)を示すものであるとしても,「.jp」部分を除外して,その余の部分のみから称呼が生じると解すべき理由はない。そうすると,本願商標の要部を上記のように解したとしても,本願商標からは,「スポーツマンドットジェーピー」,「スポーツマンジェーピー」との称呼が生じるというべきであって,「ドットジェーピー」ないし「ジェーピー」を除外した「スポーツマン」の称呼のみが生じることはない。
(3) 前記(2)のとおり,本願商標の要部は「Sportsman」の部分のみではないから,本願商標から「運動競技の選手」等の観念は生じない。
(4) 他方,引用商標1ないし3からは,「スポーツマン」の称呼が生じ,「運動競技の選手,スポーツの得意な人」との観念が生じる。
そうすると,本願商標と引用商標1ないし3とは,外観も,それから生じる称呼も観念も異なるから,類似しない。仮に需要者が本願商標と引用商標1ないし3とを称呼,観念上区別できないとしても,取引者は区別ができるというべきである。
したがって,上記と異なる審決の類否判断は誤りである。
2 指定商品,指定役務の類否判断の誤り(取消事由2)
(1) 審決は,本願商標の指定役務と引用商標1ないし3の各指定商品とが類似するか否かにつき,次のとおり説示する(4~6頁)。
「商品に役務が類似するかどうかは,当該商品と当該役務に同一又は類似の商標を使用した場合に,当該役務が当該商品を製造又は販売する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあるかどうかという観点から判断されるべき・・・であり,商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか,商品と役務の用途が一致するかどうか,商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか,需要者の範囲が一致するかどうかなどの事情を総合的に考慮した上で,個別具体的に判断するのが相当である・・・。
そして,商品Aの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(以下『商品Aの小売役務』という。)と,商品Aとは,以下のとおり,類似するというのが相当である。
すなわち,商標法2条2項にいう『小売・・・の業務において行われる顧客に対する便益の提供』は,顧客が来店して立ち去るまでの間に小売に伴って提供される総合的なサービス活動であり,最終的に商品の販売によって収益を上げるものであるから,これは,商品を販売する者によって,商品が販売される場所において,その商品の顧客に対して提供されるものである。
一方,商品に係る商標は,『業として商品を生産…する者』のみならず,『業として商品を・・・譲渡する者』によっても使用されるものであるところ(商標法2条1項1号),商品の販売(譲渡)は,商品を販売(譲渡)する者によって,商品が販売(譲渡)される場所において,その商品の顧客に対して行われるものである。
そこで,商品Aの小売役務が提供される場面と,商品Aが販売される場面を比較すると,いずれも,商品Aを販売(譲渡)する者によって,商品が販売(譲渡)される場所において,その商品の顧客に対して行われるものである。
そうすると,商品Aの小売役務と商品Aとは,役務の提供と商品の販売が同一事業者によって行われることが明らかであり,商品Aの小売役務が提供される場所と商品Aが販売される場所が一致し,需要者(顧客)の範囲も一致するものといえる。
したがって,両者に同一又は類似する商標が使用された場合,商品Aの小売役務は,商品Aを販売(譲渡)する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあるというのが相当であるから,両者は,類似するというべきである。
そこで,本願の指定役務と引用商標の指定商品について検討するに,以下のとおり,本願指定役務の取扱商品の一部と,引用商標の指定商品の一部が一致することから,本願の指定役務の一部と引用商標の指定商品の一部とは,『商品Aの小売役務』と『商品A』という関係にあると認められる。
ア 引用商標1
本願指定役務には,『被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,サポーターその他の運動用特殊衣服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』が含まれているところ,この取扱商品である『被服』及び『サポーターその他の運動用特殊衣服』は,引用商標1の指定商品である『被服(頭から冠る防虫網・あみ笠・すげ笠・ナイトキャップを除く。),運動用特殊衣服』を包含するものと認められる。
イ 引用商標2
本願指定役務には,『スポーツシューズその他の履物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』が含まれているところ,この取扱商品である『スポーツシューズその他の履物』は,引用商標2の指定商品を包含するものと認められる。
ウ 引用商標3
本願指定役務には,『腕時計・スポーツウォッチ・ストップウォッチの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供』が含まれているところ,この取扱商品である『腕時計・スポーツウォッチ・ストップウォッチ』は,引用商標3の指定商品に包含されるものと認められる。
以上のことからすれば,本願指定役務の取扱商品の一部は,引用商標の指定商品の一部と一致することとなるから,本願指定役務の一部と引用商標の指定商品の一部とは,商品Aの小売役務と商品Aという関係にあることが認められる。
してみれば,先に検討したとおり,両者に同一又は類似する商標が使用された場合には,本願商標の当該指定役務は,引用商標中の当該指定商品を販売(譲渡)する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあるというのが相当である。
したがって,当該指定役務と当該指定商品は,類似するというべきである。」
(2) 指定商品「A」の販売行為と指定役務たる「商品Aの小売」役務とを事実上同視するのであれば,当該商標を使用する(指定)「商品A」の譲渡は指定役務たる「商品Aの小売」役務そのものということになり,指定商品ないし指定役務について使用する商標の概念は実質的に一致してしまう。そうすると,「商品A」を指定商品とする商標aと「商品Aの小売」役務を指定役務とする商標bの間では,指定商品・指定役務が非類似となる余地はなくなってしまうことになるが,かかる結論は相当でない。指定商品と指定役務の類否は,同一の商標が使用された場合でも出所の混同を生じるおそれがあるか否かで判断すべきであって,商標の構成が同一でない場合(類似しているにすぎない場合)には,当該指定商品と指定役務とは,特別な事情がある場合,すなわち当該商標が需要者,取引者の間で広く認識されている場合を除いて類似しないものと推定すべきである。
商標が類似しているにすぎず,その指定商品・指定役務も類似しているにすぎない場合(二重類似の場合)には,当該商標の使用態様に基づく類似性の程度(近接度)と,取引の実情を加味した商品・役務の類似性の程度(近接度)との相関関係によって指定商品・指定役務の類否を決すべきであるところ,本件においても,①引用商標が販売主体を示す商標であるか否か,②引用商標が商品に使用されている態様を確認できるか否か,③引用商標が特段の周知性を獲得しているか否かを検討した上で,指定商品・指定役務の類否を判断すべきである。しかるに,審決はかかる各点を検討せずに指定商品・指定役務の類否を判断しており,審理不尽である。
本願商標は販売主体たる原告(スポーツ関連商品やアウトドア関連商品の販売を主たる業務とする。)を示す商標である上,原告は平成14年12月ころから自らのスポーツ用品の総合通信販売サイトの名称として「Sportsman.jp」の名称を使用し始め,平成20年3月ころから本願商標を使用し始めたものであって,著名なサイトでも原告の通信販売サイトが表彰されたり,検索サイトで検索結果の上位に位置したりするなど,本願商標は需要者・取引者の間で相当広く認識されるに至っている。
他方,引用商標1ないし3がいずれも販売主体を示す商標であるのか不明であるし,引用商標1,2が使用された事実を確認することはできず,引用商標3も1960年代に使用されたことがあるだけで,引用商標1ないし3は特段の周知性を獲得していない。
そうすると,本願商標と引用商標1ないし3との間では,これらが指定商品・指定役務に使用された場合でも出所の混同は生じないというべきであるし,実際に,本願商標を使用して展開されている通信販売サイトや本願商標を屋号とする現実のスポーツ用品小売店舗において,「Sportsman」や「スポーツマン」という標章が付された被服や靴,時計が販売されていたとしても,上記通信販売サイトが引用商標1ないし3の権利者によって開設されていると考えたり,上記小売店舗の事業主体が引用商標1ないし3の権利者であると誤信したりする需要者・取引者は皆無であろう。
個別的事情をみれば,およそ小売役務と小売対象商品との間に出所混同を生じそうな具体的事情が介在していない場合には,少なくとも出願登録審査,審判の段階で指定商品と指定役務を類似していると判断する必要はなく,その登録出願を拒絶せずに,いったん登録し,その後に登録異議や無効審判請求を活用すれば足りる。
以上によれば,本願商標の指定役務と引用商標1ないし3の指定商品とが類似するとした審決の判断には誤りがある。
第4取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対し
本願商標は,上段の「SPORTS LABORATORY」の文字部分と下段の「Sportsman.jp」の文字部分から成っているが,上段と下段に明確に区別して配置されている上,上段は16文字,下段は12文字と文字数も少なくなく,しかも,下段の文字は上段の文字に比して,4倍ほどの大きさで,かつ,かなり太い線で表されている。そうすると,上段の「SPORTS LABORATORY」の部分と下段の「Sportsman.jp」の部分とは,取引において分離して観察され,しかも,下段の文字が上段の文字に比べてかなり目立ち,取引者,需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。したがって,下段の「Sportsman.jp」の部分と引用商標が類似するときには,本願商標は引用商標と類似すると評価することができる。
ところで,ドメイン名が「.jp」で終わる場合には,「.jp」の部分によって,そのドメイン名を取得した主体が日本に存在(在住)する個人,団体,組織であるということは明らかになるが,それ以上に主体が特定されるものではないところ,インターネットが広く普及している今日の状況の下では,本願商標の下段の「Sportsman.jp」の文字部分は,日本に割り当てられたccTLDである「.jp」と「Sportsman」が結合したドメイン名を想起させることは明らかである。そして,「Sportsman.jp」の文字が商標として使用された場合でも,取引者,需要者が出所識別機能を有するものとして認識するのは,「Sportsman」の部分であって,「.jp」の部分からは,出所識別標識としての称呼,観念は生じない。したがって,本願商標の下段部分のうちの「Sportsman」の文字部分が本願商標の要部である。
しかるに,引用商標1ないし3はいずれも「SPORTSMAN」ないし「SPORTS MAN」の文字部分を含むもので,本願商標の要部とその外観において類似し,生じる称呼及び観念において共通する。そうすると,本願商標の指定役務の主たる需要者である一般消費者を基準にして考えるときは,本願商標は引用商標1ないし3と類似するとしてよい。
したがって,本願商標と引用商標1ないし3とが類似するとした審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2に対し
商標の指定商品と指定役務が類似するかどうかは,当該商品と当該役務に同一又は類似の商標を使用した場合に,当該役務が当該商品を製造又は販売する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあるかどうかという観点から判断されるべきであり,商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか,商品と役務の用途が一致するかどうか,商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか,需要者の範囲が一致するかどうかなどの事情を総合的に考慮した上で,個別具体的に判断するのが相当である。
ところで,「商品Aの小売役務」と「商品A」とは,いずれも,「商品A」を販売(譲渡)する者によって,商品が販売(譲渡)される場所において,その商品の顧客に対して行われるものであって,役務の提供と商品の販売が同一事業者によって行われることが明らかであり,「商品Aの小売役務」が提供される場所と「商品A」が販売される場所が一致し,需要者(顧客)の範囲も一致する。そうすると,両者に同一又は類似する商標が使用された場合,「商品Aの小売役務」は,「商品A」を販売(譲渡)する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあり,両者は類似する。
本願商標の指定役務には,「被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,サポーターその他の運動用特殊衣服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれているところ,この取扱商品である「被服」及び「サポーターその他の運動用特殊衣服」は,引用商標1の指定商品である「被服(頭から冠る防虫網・あみ笠・すげ笠・ナイトキャップを除く。),運動用特殊衣服」を包含する。また,本願商標の指定役務には,「スポーツシューズその他の履物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれているところ,この取扱商品である「スポーツシューズその他の履物」は,引用商標2の指定商品である「短靴,長靴,編上靴,雨靴,防寒靴,作業靴,木綿製靴,メリヤス製靴,サンダル靴,幼児靴,婦人靴,オーバーシューズ,地下足袋,地下足袋底,靴中敷き,かかと,半張り底,内底,げた,草履類」を包含する。そして,本願商標の指定役務には,「腕時計・スポーツウォッチ・ストップウォッチの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が含まれているところ,この取扱商品である「腕時計・スポーツウォッチ・ストップウォッチ」は,引用商標3の指定商品である「時計」に包含される。そうすると,両者に同一又は類似する商標が使用された場合には,本願商標の当該指定役務は,引用商標中の当該指定商品を販売(譲渡)する事業者の提供に係る役務であると誤認されるおそれがあるから,本願商標の指定役務と引用商標1ないし3の指定商品とはそれぞれ類似する。
したがって,この旨をいう審決の判断に誤りはない。
なお,商標登録出願に係る商標が周知であるか否か,引用商標が販売主体を示す商標であるか否か等は,商標法4条1項11号の規定の適用を左右しない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(商標の類否判断の誤り)について
(1) 本願商標は,上段に概ね青色(空色)のゴシック体の英字大文字で「SPORTS LABORATORY」,下段に同色のゴシック体風(ただし,縦方向の線(部分)が横方向の線(部分)よりも明らかに太くなっている。)の英字で「Sportsman.jp」(第1字のみが大文字でその余はいずれも小文字)と横2段書きして成り,下段部分の各文字は上段部分の各文字の概ね4倍程度の大きさで記された外観を有する。また,上段部分の各文字の間隔はやや広いが,下段部分の各文字の間隔はやや狭くなっていて,下段部分がこれを見る者に緊密な,やや強調された印象を与えるものである。
(2)ア 引用商標1は,上部に黒色のゴシック体の英字大文字による横書きで「SPORTSMAN」(ただし,6字目の「S」と7字目の「M」の間隔がわずかに広くなっている。),その下部の全体の4分の3強を占める部分の左右方向中央付近に同色の明朝体ないしこれに類する書体の片仮名による縦書きで「スポーツマン」と記して成る外観を有する。なお,上部の「SPORTSMAN」部分よりも下部の「スポーツマン」部分の方が,各文字が大きくなっている。
そうすると,本願商標と引用商標1とは,その外観が異なるというべきである。仮に,本願商標の下段部分「Sportsman.jp」が上段部分との体裁の違いにより本願商標の要部となり得べきことを考慮したとしても,引用商標1の構成中には英字部分(上部)よりも商標全体に占める面積が明らかに大きい片仮名部分(下部)があり,また引用商標1の英字部分だけをとってみても,構成文字が大文字のみか,先頭の文字のみが大文字かや,文字の色や書体の体裁において相違する。
イ 前記(1)のとおり,本願商標の構成のうち下段部分「Sportsman.jp」がその余の部分と明らかに区別された外観を有しているから,この部分が本願商標のうちで需要者,取引者に対し,出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分であって,本願商標の要部は上記「Sportsman.jp」の部分であるということができる。そうすると,構成文字に従って,この部分から,「スポーツマンドットジェーピー」ないし「ドット」を捨象した「スポーツマンジェーピー」の称呼が生じる。また,上記「Sportsman.jp」はこれを見る者にインターネットのドメイン名を想起させるところ,「.jp」はドメイン名において,当該ドメイン名の使用者の所在地等が含まれる国が日本であることを示す表記(国別トップレベルドメイン,カントリーコードトップレベルドメイン,ccTLD)であることが,インターネットが既に普及した審決当時の需要者・取引者において広く知られていることは明らかである。そうすると,さらに「.jp」の部分を省いた「Sportsman」の部分が本願商標の要部であるということも可能であるし,あるいは,上記「Sportsman.jp」の部分から,これを見る者によっては,「.jp」を省略した部分に着目して,「スポーツマン」の称呼も生じるというべきである。
他方,引用商標1は,その上部部分も下部部分も同一の意義を有する語で構成されているから,その構成文字に従って,「スポーツマン」の称呼が生じる。
そうすると,本願商標と引用商標1とは,共通の称呼が生じることがあるか,又は本願商標の称呼のうちで主要な部分を占める「スポーツマン」の称呼の部分で共通するから,両商標の称呼は類似する。
ウ 前記イのとおり,本願商標の要部は「Sportsman.jp」の部分又は「Sportsman」の部分にあるところ,後者からは「運動競技の選手,スポーツ選手,スポーツの得意な人」との観念が生じるし,前者からは「運動競技の選手,スポーツ選手に関連するインターネットのサイト,スポーツの得意な人に関連するインターネットのサイト」程度の観念が生じる。
他方,引用商標1の構成部分である「SPORTSMAN」(上部)も「スポーツマン」(下部)も「運動競技の選手,スポーツ選手,スポーツの得意な人」という同一の意義を有する語であって,引用商標1からはかかる観念が生じる。
そうすると,本願商標と引用商標1とは,共通の観念が生じるか,又は両商標から受ける印象に大きな差はなく,生じる観念が重なり合うのであって,観念が類似する。
エ 以上のとおり,本願商標と引用商標1とは,外観が異なるものの,これらから生じる称呼,観念が類似するから,外観の類否まで判断を要せずに(もともと本願商標及び引用商標1とも文字商標で,その文字の書体や配置,配色などにおいて顕著な識別力を有するものではないので,外観の類否は,商標の類否判断において重要な要素ではない。このことは,後記(3),(4)で判断する引用商標2,3についても同様である。),両商標は類似するというべきである。
(3)ア 引用商標2は,上段に黒色の明朝体の英字大文字で「SPORTSMAN」,下段に同色の明朝体の片仮名で「スポーツマン」と横2段書きして成る外観を有する。そうすると,前記(1)のとおりの本願商標の外観にかんがみると,本願商標と引用商標2とは,その外観が異なる。
イ 引用商標2は,その上部部分も下部部分も同一の意義を有する語で構成されているから,その構成文字に従って,「スポーツマン」の称呼が生じる。
そうすると,引用商標1と同様に,本願商標と引用商標2とは,共通の称呼が生じることがあるか,又は本願商標の称呼のうちで主要な部分を占める「スポーツマン」の部分で共通するから,両商標の称呼は類似する。
ウ 引用商標2からも,引用商標1と同様に,「運動競技の選手,スポーツ選手,スポーツの得意な人」との観念が生じる。
そうすると,本願商標と引用商標2とは,共通の観念が生じるか,又は両商標から受ける印象に大きな差はなく,生じる観念が重なり合うのであって,観念が類似する。
エ 以上のとおり,本願商標と引用商標2とは,外観が異なるものの,これらから生じる称呼,観念が類似するから,外観の類否について判断するまでもなく,類似するというべきである。
(4)ア 引用商標3は,黒色の明朝体の英字大文字で「SPORTS MAN」,(2つの語に分かれている。)と横書きして成る外観を有する。そうすると,本願商標と引用商標3とは,その外観が異なる。
イ 引用商標3からは,その構成文字に従って,「スポーツマン」の称呼が生じ,引用商標1と同様に,本願商標と引用商標3とは,共通の称呼が生じることがあるか,又は本願商標の称呼のうちで主要な部分を占める「スポーツマン」の部分で共通するから,両商標の称呼は類似する。
ウ 引用商標3からも,引用商標1と同様に,「運動競技の選手,スポーツ選手,スポーツの得意な人」との観念が生じる。
そうすると,本願商標と引用商標3とは,共通の観念が生じるか,又は両商標から受ける印象に大きな差はなく,生じる観念が重なり合うのであって,観念が類似する。
エ 以上のとおり,本願商標と引用商標3とは,外観が異なるものの,これらから生じる称呼,観念が類似するから,外観の類否の判断をするまでもなく,類似するというべきである。
(5) 結局,本願商標と引用商標1ないし3は類似するから,審決がした商標の類否判断に誤りはない。結局,原告が主張する取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(指定商品・指定役務の類否判断の誤り)について
(1) 本願商標の指定役務のうち「被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,サポーターその他の運動用特殊衣服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,「被服,サポーターその他の運動用特殊衣服」の小売業務においてされる顧客に対する各種の便益(サービス)を提供するというもので,上記「被服,サポーターその他の運動用特殊衣服」が引用商標1の指定商品である「被服(頭から冠る防虫網・あみ笠・すげ笠・ナイトキャップを除く。),運動用特殊衣服」を包含することは明らかである。ここで,本願商標の指定役務と本願商標1の指定商品との間で,一般的にそれぞれ異なる事業者が主体となるものではないし,用途や,販売ないし提供される場所も格別に異なるものでもなく,需要者の範囲も一般的には一致する。そうすると,本願商標の指定役務と引用商標1の指定商品に同一又は類似の商標を使用すると出所の誤認混同を生じるおそれがあり,本願商標の上記指定役務と引用商標1の指定商品は類似する。
(2) 本願商標の指定役務のうち「スポーツシューズその他の履物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,「スポーツシューズその他の履物」の小売業務においてされる顧客に対する各種の便益(サービス)を提供するというもので,上記「スポーツシューズその他の履物」が引用商標2の指定商品である「短靴,長靴,編上靴,雨靴,防寒靴,作業靴,木綿製靴,メリヤス製靴,サンダル靴,幼児靴,婦人靴,オーバーシューズ,地下足袋,地下足袋底,靴中敷き,かかと,半張り底,内底,げた,草履類」を含むことは明らかである。ここで,本願商標の指定役務と本願商標2の指定商品との間で,一般的にそれぞれ異なる事業者が主体となるものではないし,用途や,販売ないし提供される場所も格別に異なるものでもなく,需要者の範囲も一般的には一致する。そうすると,本願商標の指定役務と引用商標2の指定商品のうち短靴等に同一又は類似の商標を使用すると出所の誤認混同を生じるおそれがあり,本願商標の上記指定役務と引用商標2の指定商品は類似する。
(3) 本願商標の指定役務のうち「腕時計・スポーツウォッチ・ストップウォッチの小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は,引用商標3の指定商品である「時計」の一種である「腕時計・スポーツウォッチ・ストップウォッチ」の小売業務においてされる顧客に対する各種の便益(サービス)を提供するというもので,一般的にそれぞれ異なる事業者が主体となるものではないし,用途や,販売ないし提供される場所も格別に異なるものでもなく,需要者の範囲も一般的には一致する。そうすると,本願商標の指定役務と引用商標3の指定商品のうち腕時計等に同一又は類似の商標を使用すると出所の誤認混同を生じるおそれがあり,本願商標の上記指定役務と引用商標3の指定商品は類似する。
(4) したがって,本願商標の指定役務と引用商標1ないし3の指定商品とは類似するから,この旨の審決の判断に誤りはない。
(5) 原告は,引用商標が販売主体を示すものであるか否か,引用商標が商品に使用されている態様を確認できるか否か,引用商標が特段の周知性を獲得しているか否かを検討した上で,指定商品・指定役務の類否を判断すべきであるなどと主張するが,商標法4条1項11号の類否判断では引用商標の周知性が要件となるものではないから,原告の上記主張は採用できない。
(6) 結局,原告が主張する取消事由2は理由がない。
第6結論
以上によれば,原告が主張する取消事由はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 古谷健二郎 裁判官 田邉実)
file_6.jpg別紙