知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10294号 判決 2012年5月16日
原告
三星電子株式会社
同訴訟代理人弁理士
渡辺隆
木内敬二
野村進
被告
特許庁長官
同指定代理人
遠山敬彦
藤井浩
田部元史
守屋友宏
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2009-11437号事件について平成23年4月26日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成18年7月18日,発明の名称を「移動通信端末の基本画面設定方法」とする特許を出願したが(甲4。特願2006-196046号。パリ条約による優先権主張日:平成17年7月22日(韓国)。請求項の数11),平成21年3月13日付けで拒絶査定を受けたので,同年6月22日,これに対する不服の審判を請求し,同年7月22日,手続補正をした(甲6。以下「本件補正」という。)。
(2) 特許庁は,前記請求を不服2009-11437号事件として審理し,平成23年4月26日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同年5月17日,原告に送達された。
2 本件補正前後の特許請求の範囲の記載
(1) 本件審決が対象とした本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載は以下のとおりである(ただし,平成20年6月30日付け手続補正書(甲5)による補正後のものである。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所であり,(2)も同様である。)。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」という。
移動通信端末の基本画面設定方法であって,/移動通信端末の動作と関連して発生したイベントまたは移動通信端末の状態と関連して発生したイベント結果を示す予め貯蔵された複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択する第1の段階と,/前記基本画面の背景要素として予め貯蔵された複数のイメージのうち,表示イメージを選択する第2の段階と,/選択された表示イメージにより前記基本画面を表示する第3の段階と,/前記基本画面で前記選択された表示イメージの表示位置を設定する第4の段階と,/を有することを特徴とする方法
(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は以下のとおりである。下線部は補正箇所を示す。以下,本件補正後の請求項1に記載された発明を「本件補正発明」という。なお,本件補正の前後で明細書の記載に変更はなく,その明細書(甲4)を「本件明細書」という。
移動通信端末の基本画面設定方法であって,/移動通信端末の動作と関連して発生したイベントまたは移動通信端末の状態と関連して発生したイベント結果を示す予め貯蔵された複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択する第1の段階と,/前記基本画面の背景要素として予め貯蔵された複数のイメージのうち,表示イメージを選択する第2の段階と,/選択された表示イメージにより前記基本画面を表示する第3の段階と,/前記基本画面で前記選択された表示イメージの表示位置を設定する第4の段階と,/を有し,/前記基本画面の背景は複数の背景要素から構成され,前記第4の段階では,該背景要素の表示位置を設定することを特徴とする方法
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,①本件補正発明は,下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び下記イ,ウの周知例1,2に記載された周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下「法」という。)17条の2第5項において準用する法126条5項の規定に違反するものであるから,法159条1項において準用する法53条1項の規定により却下すべきものである,②本願発明も,引用発明及び周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例:「A5302CA取扱説明書 第4版」18ないし22頁,77ないし81頁及び207ないし212頁(au(KDDI)・沖縄セルラー電話。平成14年12月31日発行)(甲1)
イ 周知例1:特開2005-130005号公報(甲2)
ウ 周知例2:特開2004-128607号公報(甲3)
(2) なお,本件審決は,その判断の前提として,引用発明並びに本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア 引用発明:携帯電話機の待受画面設定方法であって,前記待受画面の壁紙として予め記憶された複数の画像のうち,表示画像を選択する第1の段階と,予め記憶された時計に対応する複数の表示画像のうち,時計の表示画像を選択する第2の段階と,選択された画像により前記待受画面を表示する第3の段階と,前記待受画面で前記選択された画像の表示位置を設定する第4の段階と,前記待受画面の背景は壁紙から構成される方法
イ 一致点:移動通信端末の基本画面設定方法であって,移動通信端末の動作と関連して発生したイベントまたは移動通信端末の状態と関連して発生したイベント結果を示す予め貯蔵された状態インジケータに対応する複数の表示イメージのうち,状態インジケータの表示イメージを選択する段階と,前記基本画面の背景要素として予め貯蔵された複数のイメージのうち,表示イメージを選択する段階と,選択された表示イメージにより前記基本画面を表示する第3の段階と,前記基本画面で前記選択された表示イメージの表示位置を設定する第4の段階を有し,前記基本画面の背景は背景要素から構成される方法
ウ 相違点1:状態インジケータの表示イメージを選択する段階と背景要素の表示イメージを選択する段階に関し,本件補正発明では第1の段階と第2の段階であるのに対し,引用発明では第2の段階と第1の段階である点
エ 相違点2:「状態インジケータの表示イメージを選択する」に関し,本件補正発明では,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択しているのに対し,引用発明では,時計という1つの状態インジケータに対応する複数の表示イメージから表示イメージを選択している点
オ 相違点3:基本画面の背景に関し,本件補正発明は複数の背景要素から構成されているのに対し,引用発明はそのように構成されていない点
カ 相違点4:表示イメージの表示位置を設定する第4の段階に関し,本件補正発明は該背景要素の表示位置を設定するのに対し,引用発明はそのように構成されていない点
4 取消事由
本件補正を却下した判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1) 相違点1に係る判断の誤り
ア 本件審決は,基本画面を作成する際,背景要素の表示イメージを決めてから背景要素上の状態インジケータの表示イメージを決めても,背景要素上の状態インジケータの表示イメージを決めてから背景要素の表示イメージを決めても,背景要素の上に状態インジケータが表示されるという画面構成に相違はないから,両者の選択は可能であり,引用発明において,状態インジケータの表示イメージを選択する段階と背景要素の表示イメージを選択する段階とが,第2の段階と第1の段階であるものに替えて,第1の段階と第2の段階とすることに格別の困難性はないと判断した。
イ しかし,引用例には,壁紙となる画像を選択した後で,時計の画像を選択することが記載されており,その具体的な手順は,①引用例207頁左欄1の画面では,「1 固定壁紙」又は「2 データフォルダ」を選択するが,「1 固定壁紙」を選択した場合,同欄2の画面(以下「画面A」という。)が表示され,「壁紙1」,「壁紙2」等のいずれかを選択する,②「2 データフォルダ」を選択した場合は,同頁右欄2の画面(以下「画面B」という。)が表示され,「きれいなみかん」等からいずれかを選択する,③その後,一例として,208頁左欄4の画面(以下「画面C」という。)が表示され,携帯電話機のセンターキーを押すと,壁紙の設定がされる,④壁紙が設定されると,同頁右欄2の画面(以下「画面D」という。)が表示され,「4 デジタル2(小)」又は「5 1行時計」を選択し,「4 デジタル2(小)」を選択した場合は,209頁左欄下の4の画面(以下「画面E」という。)が表示され,「1 画面左上」等からいずれかを選択し,センターキーを押すと,時計の表示位置が設定される,というものである。
これに対し,上記手順を入れ替え,1番目に画面Dから時計を選択し,2番目に画面A又はBから壁紙となる画像を選択し,3番目に画面Eから時計の表示位置を選択する構成とした場合,引用例において選択可能な壁紙となる画像は,単調な繰り返しの模様からなる画像に限らず,画面Cのように特定の被写体を撮像した画像が含まれる上,待受画面では,最大132×163(ドット)の画像を壁紙として利用することができるから,組み合わされる時計の大きさや位置によっては,壁紙となる画像の邪魔になる。壁紙よりも時計を優先したいと考えるユーザも皆無ではないが,壁紙となる画像の内容を考慮して時計の大きさや位置を選択したいと考えるのが通常である。
したがって,引用例は,背景要素の表示イメージと背景要素上の状態インジケータの表示イメージを決める順序により,背景要素の上に状態インジケータが表示されるという画面構成に相違がないものではないから,引用例に接した当業者は,状態インジケータの表示イメージを決定してから背景要素の表示イメージを決定するという構成をとるはずがない。
ウ よって,相違点1に係る本件審決の判断は誤りである。
(2) 相違点2に係る判断の誤り
ア 本件審決は,引用例においては,背景要素上に表示可能な状態インジケータとして開示されているカレンダーについて,複数の表示イメージから選択することの記載はないものの,当業者であれば,カレンダーについても,複数の表示イメージから選択可能とすることを容易に想到し得るから,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択することは当業者が容易にできることであると判断した。
イ しかし,カレンダーについても,複数の表示イメージから選択可能のものとすることが容易に想到し得るからといって,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択することが当業者にとって容易なことであるということはできない。
すなわち,本件補正発明は,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択するものであるが,ここでいう「任意」とは,「心のままにすること。その人の自由意思にまかせること。随意。」を意味し,いずれか1つのものに限ることを意味するものではない。
仮に,本件補正発明における「任意」の技術的意義が一義的に明確でないとしても,本件明細書【0029】には,「第1の基本画面は,現在時刻インジケータの表示イメージとして設定されたデジタル時計と,他の地域の時刻インジケータの表示イメージとして設定されたアナログ時計とを含む。」,「第3の基本画面は,現在時刻インジケータの表示イメージとして設定されたデジタル時計と,文字メッセージ受信又は不在着信インジケータの表示イメージとして設定された脱着可能なメモ用紙とを含む。」と記載されており,本件補正発明では,選択される状態インジケータの表示イメージがいずれか1つに限定されていないことは明らかである。
しかるに,引用例では,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,いずれか1つの状態インジケータの表示イメージを選択することが記載され(画面D),複数を選択することはできない。任意に1つの表示イメージを選択することは,ユーザの自由意思に任せた選択であることを意味するが,選択する個数を1つに制約しているのであるから,本件補正発明にいう「任意の状態インジケータの表示イメージの選択」に含まれるものではない。
ウ また,引用例の画面Dが表示された状態で「1 カレンダー」を選択し,センターキーを押すと,カレンダーを表示する設定がされるが,カレンダーについては,表示位置は固定で変更できないとされている。そのため,カレンダーの表示位置を選択可能とする場合には,カレンダーの表示面積を小さくする必要があるが,カレンダーの表示内容自体を減らすと用をなさないので,表示に使用される文字を小さくする必要がある。しかし,引用例に表わされている各種画面を参照しても,カレンダーの表示に使用されている文字より小さい文字を使用している画面は皆無である。また,画面Fに表示されたカレンダーを画面の中で上か下にずらしても,他に時計を表示するスペースをとることはできない。したがって,引用発明において,カレンダーと時計の両方の表示位置を設定する構成は考えられない。
エ 以上のとおり,カレンダーについても,複数の表示イメージから選択可能とすることが容易に想到し得るからといって,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択することが当業者にとって容易なことであるということはできず,相違点2に係る本件審決の判断は誤りである。
(3) 相違点3及び4に係る判断の誤り
ア 本件審決は,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成し,かつ,背景要素の表示位置を設定することは,周知例1及び2に記載された周知技術であると判断している。
イ しかし,「背景」といえるためには,他に主要題材となるものが存在していることを要するところ,周知例1において,待受画面として選択可能な貼り付けデータである時計,カレンダー及び画像が表示された図10では,時計,カレンダー及び犬の画像自体が主要題材となっており,背景に当たるのは壁紙のみである。
したがって,周知例1には,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成することが記載されているとはいえない。
ウ また,周知例2(【0056】【図3画面8】)において,待受画面に設定されるのは,画像メモリに記録された「4つの顔画像」の合成画像である。
したがって,周知例2の上記記載は,待受画面の背景を複数の背景要素から構成することを示しているとはいえない。
さらに,周知例2(【0064】【0065】【図4画面11】)では,合成画像を生成する過程において,「4つの顔画像」に対して「夜景の画像」が背景とされているところ,「4つの顔画像」も背景に当たるというためには他に主要題材となるものが必要であるが,そのような主要題材は存在しないから,「4つの顔画像」は背景には当たらず,背景に当たるのは「夜景の画像」のみである。
したがって,周知例2の上記記載は,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成することを示しているとはいえない。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,本件明細書図5Aでは,アナログ時計,ディジタル時計,人形の装飾品,本棚イメージの画像が全て背景要素として記載されているが,同図には主要題材は存在しないから,上記アナログ時計等は,原告が主張する「背景」には当たらない旨主張する。
しかし,アナログ時計及びディジタル時計は,日付又は時刻の経過した結果を反映して表示するので,移動通信端末の状態と関連して発生したイベント結果を示す状態インジケータに当たるものである。そして,基本画面の役割の1つは,現在の日付と時刻等の情報をユーザに提供することであるから,これらは基本画面における主張題材であるということができる。
(イ) 被告は,本件明細書(【0022】)に記載された背景要素は,多様なデザインの壁紙イメージ,家具イメージ,装飾品イメージ,キャラクターイメージ等であり,他に主要題材を必要としないものも含まれると主張する。
しかし,壁紙,家具,装飾品,キャラクター等に分類される対象物のイメージが主要題材となるかどうかは,対象物の種類で決まるのではなく,画面における対象物の表示の態様によって判断されるべきであり,家具等に分類される対象物が,他に主要題材を必要としない場合があるからといって,本件補正発明における「背景」が「主要題材の背後にあるもの」を意味しないというものではない。
オ 以上によれば,周知例1及び2は,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成し,かつ,背景要素の表示位置を設定することが周知技術であることの根拠とはならず,相違点3及び4に係る本件審決の判断は誤りである。
(4) 本件補正発明の効果について
本件審決は,本件補正発明が奏する効果も引用発明から容易に予測できる範囲内のものであると判断している。
しかし,本件補正発明は,状態インジケータに対応して選択された表示イメージの表示位置と背景要素に対応して選択された表示イメージの表示位置とを一つのステップで調整するものであり,これによって,状態インジケータの表示イメージと背景要素の表示イメージとを調和するように配置することができるという格別の効果を奏する。
しかるに,引用発明では,状態インジケータについては時計の位置が変更できるだけであり,背景要素については後で壁紙を選択し直すことができるだけである。
すなわち,引用発明には,一つのステップで,状態インジケータに対応して選択された表示イメージの表示位置と背景要素に対応して選択された表示イメージの表示位置とを変更するという構成は開示されていない。
また,本件補正発明の基本画面は,背景要素として壁紙,人形の装飾品及び本棚のイメージを含むものである(【0029】)。時計の背景に壁紙の他に人形,本棚,テーブルなどがあると,実際に部屋に時計が置いてある様子に近くなるから,時計として認識しやすく,日常的で馴染み易いものとなり,「ユーザの情報の可読性を増加させることができ,ユーザに楽しみを与える」(【0010】)という格別の効果を奏するものとなる。
したがって,本件補正発明が奏する効果は引用発明から容易に予測できる範囲内のものではなく,本件審決の判断は誤りである。
(5) 小括
以上のとおり,相違点1ないし4に係る本件補正発明の構成は,いずれも当業者が容易に想到し得るものではないから,本件補正発明は特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないとして本件補正を却下した本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
(1) 相違点1に係る判断の誤りについて
ア 原告は,引用発明では,状態インジケータの表示イメージを決めてから,壁紙となる画像を選択すると,組み合わされる時計の大きさや位置によっては壁紙となる画像の邪魔になることがあるとして,引用発明において,背景要素の表示イメージを選択する段階を第2の段階とし,状態インジケータの表示イメージを選択する段階を第1の段階とすることは当業者にとって格別の困難性はないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
イ しかし,引用発明では,待受画面の壁紙として予め記憶された複数の画像のうち,表示画像を選択する第1の段階と,予め記憶された時計に対応する複数の表示画像のうち,時計の表示画像を選択する第2の段階と,選択された画像により待受画面を表示する第3の段階を備え,各段階を経て壁紙画像上に時計に対応する画像が重ね合わされて待受画面として表示される。引用発明において,第1の段階と第2の段階を入れ替え,第3の段階として選択された画像により待受画面を表示した場合,時計の表示画像全体を壁紙が覆うように表示してしまうと,時計の画像が壁紙で全く見えず時計としての意味をなさないことは自明であるから,当業者であれば,この場合には,壁紙画像上に時計に対応する画像を重ね合わせて待受画面に表示するよう構成することは当然である。そうすると,引用発明のように壁紙を選択した後に時計を選択する場合でも,その順序を入れ替えて時計を選択した後に壁紙を選択する場合でも,壁紙である背景要素の上に状態インジケータとしての時計が表示されるという画面の構成に相違は生じない。
また,引用例には,データフォルダ内の設定可能なデータの一覧から壁紙画像を選択する際に,選択する候補の壁紙を一時的に表示して画像の内容を確認し,最終的に選択する壁紙を決めることが記載されている。したがって,引用発明において,時計の表示イメージを先に選択し,壁紙の表示イメージを選択するようにしても,壁紙の表示イメージを選択する段階において,選択する候補の壁紙の画像の内容を確認することにより,先に選択した時計の表示イメージが壁紙に重ねられて表示するようにならないことは当然である。
ウ したがって,原告の主張は失当であり,本件審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点2に係る判断の誤りについて
ア 原告は,引用例には,状態インジケータに対応する複数の表示イメージのうち,いずれか1つの表示イメージを選択することのみが記載されているが,「任意」とは,いずれか1つに限定されるものではないから,引用発明について,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択するようにすることが当業者にとって容易であったということはできない旨主張する。
しかし,本件補正発明は,基本画面に表示される状態インジケータの可読性を向上させることと,状態情報により固定されたイメージの状態インジケータ以外にも多様なイメージで状態インジケータの表現を可能にすることを課題とするから(【0006】【0008】),状態インジケータを複数表示するものでなければその意義に反するというものではない。本件補正発明は,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択するものであるから,状態インジケータの表示イメージを任意に1つ選択することもその対象としているものである。本件審決は,これを前提として,引用例には,複数の表示イメージから選択できる状態インジケータとして時計のみが記載されているが,当業者であれば,カレンダーについても,時計と同様に複数の表示イメージを有するようにして,選択可能とすることは容易に想到できると判断したものである。原告の主張は,前提において誤りであり,失当である。
イ 原告は,引用例には,時計とカレンダーとを一緒に表示することについての記載や示唆はなく,時計とカレンダーとを一緒に表示することは容易に想到できないから,引用発明において,複数の状態インジケータに対応する複数の表示イメージのうち,複数の状態インジケータの表示イメージを選択するようにすることは容易でないとも主張する。
しかし,本件補正発明は,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,状態インジケータの表示イメージを任意に1つ選択すれば足りるものであって,複数の状態インジケータの表示イメージを選択して表示することを前提とするものではないから,原告の主張は前提において失当である。
仮に,本件補正発明が,複数の状態インジケータの表示イメージを選択するものであったとしても,移動通信端末において,状態インジケータを複数表示可能とすること自体は,ごくありふれた態様であるから,引用発明において,複数の状態インジケータの表示イメージを選択する構成とすることも,当業者が容易にできることである。
ウ 以上のとおり,相違点2に係る本件審決の判断に誤りはない。
(3) 相違点3及び4に係る判断の誤りについて
ア 原告は,「背景」というためには,他に主要題材が存在することが必要であるとした上で,周知例1の図10では,時計,カレンダー及び犬の画像のほかに主要題材が記載されていないから,上記時計等は,いずれも「背景」に該当せず,周知例2の図4画面11の4つの顔画像も,他に主要題材が記載されていないから,同様に「背景」に該当しないとして,周知例1及び2に基づき,基本画面の背景を複数の背景要素から構成し,かつ,背景要素の表示位置を設定することが周知であるとした本件審決の判断は誤りであると主張する。
イ しかし,本件明細書の図5Aでは,アナログ時計,ディジタル時計,人形の装飾品,本棚イメージの画像が全て背景要素として記載されているが,同図には,主要題材は存在しないから,アナログ時計等は,原告が主張する「背景」には当たらず,背景に当たるのは壁紙のみとなってしまう。また,本件明細書【0022】には,「背景要素の種類では,例えば,壁紙,家具,人形のような装飾品,キャラクター,額縁などとなりうる。すなわち,画面背景イメージ貯蔵部は,上記のような背景要素に関連した多様なデザインの壁紙イメージ,家具イメージ,装飾品イメージ,キャラクターイメージ,額縁イメージを貯蔵する。」と記載されており,本件明細書における「背景」には,他に主要題材を必要としないものも含まれている。
したがって,本件補正発明における「背景」は,必ずしも他に主要題材を必要とするものではないから,原告の上記主張は前提において失当である。
ウ そして,周知例1(【0058】)には,図10の説明として,「待受画面には,壁紙に,時計の画像と,犬の画像と,カレンダーの画像とが貼り付けられている。」と記載されているところ,この壁紙と犬の画像は,それぞれ本件補正発明の「壁紙イメージ」,「キャラクターイメージ」に対応した「背景要素の表示イメージ」であるということができるから,同図は,「壁紙イメージ」と「キャラクターイメージ」の複数の背景要素から基本画面の背景が構成されているといえる。
したがって,周知例1には,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成し,かつ,背景要素の表示位置を設定するという周知技術が記載されている。
エ また,周知例2の図4の画面11は,4つの顔画像と夜景の画像で構成され,各顔画像と夜景の画像はそれぞれユーザが希望する対象を撮像したものであるところ,本件明細書の「背景要素の中に額縁が選択されると,額縁内の写真もユーザが希望する写真に設定可能である。」との記載(【0029】)や上記【0022】の記載に照らすと,同画面の「4つの顔画像」は本件補正発明の背景要素である「額縁イメージ」に相当し,「夜景の画像」も同様に背景要素である「壁紙イメージ」に相当するものである。
したがって,周知例2にも,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成し,かつ,背景要素の表示位置を設定するという周知技術が記載されているものといえる。
オ よって,本件審決の判断に誤りはない。
(4) 本件補正発明の効果について
ア 原告は,本件補正発明は,状態インジケータに対応して選択された表示イメージと,背景要素に対応して選択された表示イメージの表示位置を一つのステップで調整するので,状態インジケータの表示イメージと背景要素の表示イメージを調和するように配置することができるという格別の効果を奏するが,引用例には,一つのステップで,状態インジケータに対応して選択された表示イメージと,背景要素に対応して選択された表示イメージの表示位置を変更するという構成は開示されていない旨主張する。
しかし,引用例にあるように,壁紙や時計など複数の選択された表示イメージの位置を設定する場合には,「選択した表示イメージ毎に表示位置を設定するか」,「複数の表示イメージをまず全て選択し,最後に表示位置を設定するか」の二種類があることは当業者に明らかであり,それぞれに対する作用効果も当業者であれば自明のものである。したがって,引用発明において,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成し,かつ,背景要素の表示位置を設定するという周知技術を適用する際に,複数の表示イメージをまず全て選択し,最後に表示位置を設定するようにすることは,当業者が適宜選択する設計的事項にすぎない。
イ また,原告は,本件補正発明の基本画面は,実際に部屋に時計が置いてある様子に近いので,時計として認識しやすく日常的で馴染みやすいものとなり,ユーザの情報可読性を増加させることができ,ユーザに楽しみを与えるという格別の効果を奏するとも主張する。
しかし,実際に部屋に時計が置いてある様子に近いので,時計として認識しやすく日常的で馴染みやすいというのは,イメージが写実的であることに対する効果であり,本件補正発明の効果ではない。
また,ユーザの情報可読性を増加させる,あるいは,ユーザに楽しみを与えるという効果は,引用発明や周知技術においても同様に奏するものである。
ウ したがって,本件補正発明の効果も引用発明から容易に予測できる範囲内のものであるとした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 本件補正発明について
(1) 本件補正発明は,前記第2の2(2)のとおりであるところ,本件明細書(甲4)には,本件補正発明について,概略,次の記載がある。
ア 移動通信端末の基本画面は,一般的に,複数の状態インジケータと背景となるイメージを含む。状態インジケータは,移動通信端末に設定された機能モード又は基本的な状態に関連した状態情報と発生したイベント関連情報を表示し,一般的に,現在設定されている移動通信端末の機能,現在日付と時間,バッテリー状態などを含む。状態インジケータは,基本画面の上部に非常に小さく表示されるため,情報の可読性が落ち,特にユーザの年が高く,視力が悪い場合には一層可読性が低下する。また,それぞれの状態情報に対応して定められた1つのイメージとして表示されるため,ユーザは退屈さを感じるようになる(【0002】【0004】)。
他方,基本画面の背景は,一般的に,移動通信端末に備えられたカメラで撮影したイメージや外部からダウンロードしたイメージ,簡単なフラッシュイメージのみが設定可能であり,ユーザの趣向により創造的なイメージを設定することはできないため,ユーザは基本画面の背景に食傷してしまうという問題があった(【0005】)。
本件補正発明は,従来技術のこれらの問題点を解決するため,状態インジケータの可読性を向上させる基本画面の設定方法を提供すること,多様な背景を有する基本画面を設定することができる方法を提供すること,状態情報により固定されたイメージの状態インジケータ以外にも多様な表現ができる基本画面の設定方法を提供することを目的とするものである(【0006】~【0008】)。
イ 本件補正発明は,複数の状態インジケータに各々対応する複数のインジケータイメージと基本画面の背景を構成する各背景要素に関連した複数のイメージを貯蔵し,ユーザの選択により各状態インジケータの表示イメージと,各背景要素のイメージを設定して基本画面を構成する。それによって,ユーザの情報の可読性を増加させることができ,ユーザに楽しみを与えることができる(【0010】)。
ウ 基本画面の設定手順では,ユーザが状態インジケータの設定を要求すると,制御部は,複数の状態インジケータリストを提供する。状態インジケータリストは,例えば,現在設定されている移動通信端末の機能インジケータ,現在日付と時間インジケータ,バッテリー状態インジケータ等からなり,ユーザから任意の状態インジケータが選択されると,選択された状態アラームインジケータに関連して,状態インジケータイメージ貯蔵部に貯蔵された複数のインジケータイメージを提供する(【0023】【0024】)。
エ ユーザが基本画面の背景設定を要求すると,制御部は,壁紙,家具,人形のような装飾品,キャラクター,額縁等を挙げた設定可能な背景要素リストを提供する。任意の背景画面要素を選択する入力があると,選択された背景画面要素と関連して画面背景イメージ貯蔵部に貯蔵された複数のイメージを提供する。また,任意のイメージを選択する入力があると,選択されたイメージを任意の背景画面要素の表示イメージに設定する。制御部は,選択されたイメージが表示される位置を設定して,動作手順を終了する(【0026】)。
(2) 以上のとおり,本件補正発明は,移動通信端末における現在日付と時間等の複数の状態インジケータや背景を含んだ基本画面を設定するに当たっては,状態インジケータが基本画面の上部に小さく表示されることから可読性が落ち,また,状態インジケータや背景のイメージにユーザが退屈を感じるという従来技術の課題を解決するため,あらかじめ貯蔵された複数の状態インジケータに対応する複数の表示イメージから選択された任意の状態インジケータの表示イメージと,基本画面の背景要素として予め貯蔵された複数のイメージから選択された表示イメージとを表示するとともに,基本画面の背景を構成する背景要素の表示位置を設定することにより,状態インジケータの可読性を増加させるとともに,ユーザに楽しみを与えることができるようにしたというものである。
2 引用発明について
(1) 引用発明は,前記第2の3(2)アのとおりであるところ,引用例(甲1)には,引用発明について,概略,次の記載がある。
ア 待受中は,受信電界マーク/圏外マーク,電池レベルマーク,時刻,壁紙等が表示された待受画面が表示される。壁紙のメイン画面は,「M311 待受画面」,サブ画面は「M371 画面設定」の「待受画面」で設定したものが表示される(21頁~22頁)。
イ 待受画面の最大サイズは,132×163(ドット)である。待受画面に表示する壁紙をデータフォルダから選択する場合は,データフォルダ内から設定可能なデータを選択し,カメラキーで選択した画像を表示した後,センターキーを押して設定する。センターキーを押す前にクリアボタンで画像の選択に戻ることもできる(207頁~208頁)。
ウ 壁紙の上には,時計やカレンダー,メッセージを表示することができる。その手順は,壁紙を選択した後に,時計設定一覧画面から,カレンダー,アナログ,デジタル1,デジタル2(小),1行時計,メッセージ,時計/カレンダーなしから,いずれか選択する。カメラキーを押すと,壁紙と同時に表示され,センターキーを押すと設定される。
エ カレンダー,アナログ時計又はデジタル1の時計を表示する場合は,これらのいずれかを選択してカメラキーを押すと,壁紙の上に選択した時計やカレンダーが表示され,クリアキーを押すと,時計設定一覧画面に戻る。
デジタル2(小)を画面左下に表示する場合は,時計設定一覧画面でデジタル2(小)を選択すると,壁紙の上に選択した時計が表示され,クリアキーを押すと,同画面に戻る。デジタル2(小)の選択後にセンターキーを押すと,表示位置の一覧(画面左上,中上,右上等)が表示される。画面左下を選択し,カメラキーを押すと,壁紙の左下に選択した時計が表示される。続いて,クリアキーを押した場合は,時計位置の一覧画面に戻り,センターキーを押した場合は,画面左下の表示位置が設定される(208頁~209頁)。
(2) 以上のとおり,引用発明の待受画面では,壁紙を設定した後に,デジタル2(小),1行時計等の状態インジケータの表示イメージが設定されるという手順とされている。
3 取消事由(本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 相違点1に係る判断の誤りについて
ア 前記2のとおり,引用発明では,状態インジケータの表示イメージであるデジタル2(小),1行時計等の選択は,背景要素の表示イメージである壁紙を選択した後に行われる。
しかし,待受画面の作成に際して,背景要素の表示イメージを選択してから背景要素上の状態インジケータの表示イメージを選択しても,その反対に,背景要素上の状態インジケータの表示イメージを選択してから背景要素の表示イメージを選択しても,背景要素と状態インジケータとを同時に表示する以上,背景要素の表示イメージの上に状態インジケータが表示されるという画面の構成それ自体に相違はないはずである。また,引用発明について,背景要素上の状態インジケータの表示イメージを選択してから背景要素の表示イメージを選択する構成とすることにより,その実施自体が困難となるような事情も見出せず,背景要素の表示イメージと背景要素上の状態インジケータの表示イメージを選択する順序は,当業者において適宜選択すべき設計的事項であるといわなければならない。
したがって,引用発明について,状態インジケータの表示イメージの選択を第1の段階とし,背景要素の表示イメージの選択を第2の段階とした構成とすることに格別の困難性はないとした本件審決の判断に誤りはない。
イ 原告の主張について
この点について,原告は,引用発明では,組み合わされる時計の大きさや位置によっては壁紙となる画像の邪魔になるから,引用例に接した当業者は,引用発明について,状態インジケータの表示イメージの選択を第1の段階とし,背景要素の表示イメージの選択を第2の段階とする構成をとるはずはない旨主張する。
しかし,ユーザにおいては,壁紙となる画像の内容を考慮して時計の大きさや位置を選択したいと考えるのが通常であるとしても,背景要素の表示イメージと状態インジケータの表示イメージとの配置について,ユーザの趣向に合ったものとなることが望ましいというのは,背景要素の表示イメージを選択してから背景要素上の状態インジケータの表示イメージを選択した場合であっても,背景要素上の状態インジケータの表示イメージを選択してから背景要素の表示イメージを選択した場合であっても異なるものではない。そして,引用発明においては,カレンダーやアナログ時計等の状態インジケータの表示イメージを一旦選択してカメラキーを押すと,先に選択した壁紙の上に選択したカレンダーやアナログ時計等の状態インジケータの表示イメージが表示されるが,クリアキーを押すことによって時計設定一覧場面に戻るという機能があるように,背景要素の表示イメージと状態インジケータの表示イメージとの組合せについて,ユーザが試行錯誤することができるような機能を設けることは,当業者が適宜選択すべき設計的事項であるということができる。そうすると,仮に,引用発明において,組み合わされる時計の大きさや位置によっては壁紙となる画像の邪魔になる場合があるとしても,それ自体は,引用発明において,状態インジケータの表示イメージの選択を第1の段階とし,背景要素の表示イメージの選択を第2の段階とする構成を採用することを阻害する要因とはならない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(2) 相違点2に係る判断の誤りについて
ア 本件補正発明は,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択するものであるところ,「任意」とは,確かに,原告の主張するように,「心のままにすること。その人の自由意思にまかせること。随意。」という意味を有する語である(甲7)。
しかし,本件明細書には,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示意メージのうち,任意の表示イメージを選択するについて,選択される表示イメージが複数の状態インジケータの表示イメージのそれぞれから選択されるという記載はないことからすると,本件補正発明における「任意の状態インジケータの表示イメージの選択」には,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージから,1つの状態インジケータに対応する複数の表示イメージのうち,1つの表示インジケータを選択する場合も含まれるものと解するのが相当である。他方,引用発明においても,ユーザは,状態インジケータの表示イメージである時計に対応する複数の表示画像から,その1つを選択することができるものである。したがって,状態インジケータの表示イメージがユーザの自由意思で選択されるという点では,選択される表示インジケータの個数はともかく,本件補正発明と引用発明との間に実質的な違いはない。
また,引用例にもカレンダーの例があるように,携帯電話機の待受画面において,時計以外の状態インジケータの表示イメージが設定され得ることは,当業者の技術常識である。そして,当該状態インジケータについても,可読性の向上やユーザの趣向に合わせるため,複数の表示イメージの選択肢を設け,複数の状態インジケータの各々に対応する複数の表示イメージのうち,任意の状態インジケータの表示イメージを選択することができるように構成することも,当業者が容易に想到し得るものといえる。
したがって,相違点2に係る本件審決の判断に誤りはない。
イ 原告の主張について
この点について,原告は,引用例において,カレンダーの表示位置を選択可能とする場合には,カレンダーの表示面積を小さくするため,使用する文字を小さくする必要があるが,そのような小さな文字を使用している画面は他にないし,カレンダーを画面の上か下にずらしても,時計を表示するスペースをとることはできないから,引用発明において,時計の表示のほか,カレンダーの表示が可能であるとしても,時計とカレンダーの両方を同時に設定する構成は考えられないと主張する。
しかし,仮に,引用例に記載された画面上の文字の大きさでは,時計とカレンダーの両方を同時に画面上に設定することができないとしても,文字の大きさや,カレンダー,時計の構成等は,当業者が適宜設計すべき事項であり,引用例に記載された文字の大きさやカレンダー等の構成を変更し得ないものではない。
したがって,原告の主張は理由がない。
(3) 相違点3及び4に係る判断の誤りについて
ア 周知例1(甲2)には,概略,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
【請求項1】 外部機器と通信を行う通信部と,各種情報を表示する表示部とを備える通信端末装置において,前記表示部に表示する待機状態の画面に設定可能な画像データを記憶する記憶部と,前記記憶部に記憶された画像データ及び当該画像データの表示位置情報の指定操作を受ける操作部と,前記操作部を用いて指定された画像データを前記記憶部から読み出し,当該画像データの表示位置情報に基づいて,前記読み出された画像データを含む待機状態の画面を生成し,当該生成された待機状態の画面を前記表示部に表示する制御部と,を備えることを特徴とする通信端末装置
(イ) 発明の詳細な説明
a 携帯電話において,待受画面設定処理の実行指示が入力されると,壁紙データファイルに格納された壁紙データに基づく壁紙選択画面が表示される。操作者が壁紙データの種類を選択すると,画像データファイルに格納された画像データに基づく画像選択画面が表示される。操作者が画像データの種類を選択すると,選択された画像データの待受画面上の位置が受け付けられる。入力された壁紙データの種類,画像データの種類及び画像データの位置が待受画面設定データの壁紙データファイル及び画像データファイルに登録され,待受画面設定処理が終了する(【0049】~【0052】)。
b 例えば,図7の壁紙選択画面において1番の壁紙が選択され,図8の画像選択画面において1ないし3番の画像が選択された場合,図10のとおり,待受画面には,壁紙に時計の画像と犬の画像とカレンダーの画像とが貼り付けられている(【0058】)。
イ 以上のとおり,周知例1には,携帯電話の待受画面において,状態インジケータの表示イメージである時計とカレンダーの画像とともに,犬の画像が壁紙上の選択された位置で表示されることが記載されている。この犬の画像は,待受画面を構成する表示イメージとして選択され,かつ,状態インジケータの表示イメージとは区別されるものであるから,待受画面の背景要素の表示イメージに相当する構成であって,この犬の画像と壁紙とが,同画面における複数の背景要素となっている。このように,周知例1には,待受画面(基本画面)の背景を複数の背景要素から構成し,かつ,背景要素の表示位置を設定することが記載されているところ,この技術は,本件特許出願に係る優先権主張日当時の当業者の技術常識に照らして,周知のものであったということができる。
ウ したがって,相違点3及び4に係る本件補正発明の構成は,引用発明に周知例1に記載された上記周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到することができたものであるということができる。
なお,本件審決は,周知例2にも上記周知技術が記載されていると判断している。
しかし,周知例2には,合成対象画像の合成位置等を指定するマスク画像をユーザが選択することにより,撮像画像がマスク画像に応じた位置でベース画像に合成され,合成された画像が携帯電話機の待受画面や壁紙として表示されることが記載されているものの(甲3【0013】【0014】【0056】),この待受画面や壁紙において,合成された画像のほかに,例えば,状態インジケータの表示イメージも併せて表示されることなどの記載はない。一般に,背景とは,原告の主張するとおり,「絵画・写真などで,その主要題材の背後の光景。後景。」という意味を有するところ(甲7),周知例2には,合成された画像のほかに主要題材となるべきものの表示に関する記載がない以上,上記の合成された画像が直ちに背景に該当するものであるとはいい難い。したがって,周知例2にも上記周知技術が記載されているとした本件審決の判断については,誤りであるというほかないが,この判断の誤りは,相違点3及び4の容易想到性に係る本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(4) 本件補正発明の効果について
ア 前記(1)ないし(3)のとおり,相違点1ないし4に係る本件補正発明の各構成は,いずれも当業者が容易に想到することができるものであるから,本件補正発明の奏する効果も当業者が容易に予想し得るものというべきである。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件補正発明が,状態インジケータに対応して選択された表示イメージと,背景要素に対応して選択された表示イメージの表示位置を一つのステップで調整するものであり,これによって,状態インジケータの表示イメージと背景要素の表示イメージとを調和するように配置することができるという格別の効果を奏すると主張する。
しかし,本件補正発明の特許請求の範囲には,「前記基本画面で前記選択された表示イメージの表示位置を設定する第4の段階」との記載があるところ,本件明細書を参酌すると,図2では,選択された背景要素の表示イメージの位置の指定(【0025】記載のステップ117~119)が,背景要素の表示イメージの選択(【0026】記載のステップ121~131)の後,あるいは,状態インジケータの表示イメージの選択(【0023】及び【0024】記載のステップ103~115)の後で行う手順であることが示されているものの,同図の記載は,状態インジケータの表示イメージの表示位置と,背景要素の表示イメージの表示位置とを一つのステップで調整することまでを示すものであるとはいえず,他にこれを示す本件明細書の記載もない。そうすると,特許請求の範囲の上記記載は,状態インジケータに対応して選択された表示イメージと背景要素に対応して選択された表示イメージの表示位置を常に一つのステップで調整すること,換言すれば,例えば,状態インジケータに対応して選択された表示イメージの表示位置を設定した後で背景要素に対応して選択された表示イメージの表示位置を設定するような方法を本件補正発明から排除することまでを示しているものとはいい難い。
したがって,原告の主張は,特許請求の範囲に記載された発明の特定事項にも,本件明細書の記載にも基づかないものであり,失当である。
(イ) 原告は,本件明細書(【0029】)に記載された具体例は,日常的で馴染み易いものであるから,「ユーザの情報の可読性を増加させ,ユーザに楽しみを与える」(【0010】)との効果を奏するとも主張する。
しかしながら,画面が日常的で馴染み易いものであるという効果は,個々の表示イメージのデザインから視覚的に生ずる効果であって,本件補正発明の技術的事項に基づく効果であるということはできない。
したがって,原告の主張は理由がない。
4 結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 滝澤孝臣 裁判官 髙部眞規子 裁判官 齋藤巌)