知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10297号 判決 2012年7月11日
原告
X
訴訟代理人弁護士
河原和郎
井戸陽子
廣田茂哲
加藤健一郎
弁理士
三原靖雄
被告
特許庁長官
指定代理人
小牧修
立澤正樹
瀬良聡機
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2010-25090号事件について平成23年7月25日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶審決の取消訴訟である。争点は,容易想到性である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成16年10月7日,名称を「球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法」とする発明につき特許出願(甲6,特願2004-295178)をし,平成22年1月19日付けで拒絶理由通知を受け(甲7),同年3月23日付けで特許請求の範囲に関する手続補正書(甲8の2)を提出したが,同年8月10日付けで拒絶査定を受けたので(甲9),同年11月8日に不服の審判(不服2010-25090号)を請求するとともに,特許請求の範囲に関する本件補正(甲10)をした。特許庁は,平成23年7月25日付けで,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年8月18日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨
(1) 本件補正によるもの(補正発明。各請求項に応じて「補正発明1」などという。請求項2及び3の誤記を審決が訂正認定したものであり,原告も訂正について争わない。)
【請求項1】
球技用ボールにおいて,複数枚の外皮側の表皮材(A)をボール側の中空球状チューブ(B)に貼着するに際して,裏面に水反応型接着剤(1)を設け,且つ,耐水性素材の袋(C)に,密封・収納しておいた表皮材(A)を,該袋(C)から取り出し,これら表皮材(A)を,中空球状チューブ(B)にそれぞれ貼着することを特徴とする球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法。
【請求項2】
球技用ボールにおいて,複数枚の外皮側の表皮材(A)をボール側の中空球状チューブ(B)に貼着するに際して,表皮材(A)の裏面に水反応型接着剤(1)を設け,且つ,耐水性素材の袋(C)に,密封・収納しておいた表皮材(A)を,該袋(C)から取り出し,これら表皮材(A)を,水等の水分(2)の付与手段により,表面に水分(2)を与えた中空球状チューブ(B)に,それぞれ貼着することを特徴とする球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法。
【請求項3】
水等の水分(2)の付与手段が,塗布,あるいは噴霧であることを特徴とする請求項2記載の球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法。
(2) 本件補正前のもの(補正前発明。誤記を審決が訂正認定したものであり,原告も訂正について争わない。)
球技用ボールにおいて,複数枚の外皮側の表皮材(A)をボール側の中空球状チューブ(B)に貼着するに際して,表皮材(A)の裏面に,水反応型接着剤(1)を設け,これら表皮材(A)を,中空球状チューブ(B)にそれぞれ貼着することを特徴とする球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法。
3 審決の理由の要点
(1) 審決は,「補正発明1は,当業者が引用例1に記載された発明,引用例2に記載された発明,自明な事項1ないし3,引用例1に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたので独立特許要件を欠く」,「補正発明2,3は,いずれも,当業者が引用例1に記載された発明,引用例2に記載された発明,自明な事項1ないし3,周知技術,引用例1に記載された事項及び周知慣用手段に基づいて容易に発明をすることができたので独立特許要件を欠く」,「補正前発明は,当業者が引用例3に記載された発明,周知技術,自明な事項1及び自明な事項2に基づいて容易に発明をすることができた」と判断した。
(2) 上記判断に際し,審決が認定した引用例1(特開平7-16312号公報,甲1)記載の発明(引用発明1),引用例2(特開2000-219855号公報,甲2)記載の発明(引用発明2),引用例3(特開2003-126304号公報,甲5)記載の発明(引用発明3),補正発明1と引用発明1との対比・判断,補正発明2,3についての判断,補正前発明と引用発明3との対比・判断は,以下のとおりである。
ア 引用発明1
テニスボールの如き,メルトン貼りボールの製造方法において,
予め,中空のコアボールと,表面を植毛したダンベル形状のメルトンを作っておき,2枚のメルトンを,コアボールの両側より,包むように接着する際に,メルトンは,柔軟性を有する布状のものなので,機械での取扱が難しく,従来は,作業者が手作業でコアボールへのメルトンの貼り付けを行っており,これがため,作業者の負担が大きく,完成ボールの品質にバラツキが生じ易すく,更に,製造効率も低いものとなっていたが,近年は,労働力の確保が次第に難しくなってきており,また,ユーザの品質要求,価格要求も高いことから,従来,自動化の困難であったこの種製造工程においても,機械化研究を進めざるを得ない状況となってきたので,一定品質のメルトン貼りボールを,効率的に製造するため,
表面が植毛され,裏面には加圧で接着する接着剤が塗布されているダンベル形状のメルトン10を,その表面を上向きにして多数積層し,メルトンの上下面間は接着していない貼り合わせ状態とした積層メルトン12と,
表面に加圧で接着する接着剤が塗布されたコアボール14と,
を準備し,
ハガシ機16により,前記積層メルトン12から順に1枚ずつメルトン10を剥がし分離し,
積層メルトン12から分離されたメルトン10をメルトン供給機400,500によりボール製造機に供給し,
ボール供給機600によりコアボール14をボール製造機に供給し,
ボール製造機700によりコアボール14にメルトン10を加圧接着により貼り付けて,
2系統で,積層メルトンからのメルトンの分離,分離したメルトンとコアボールのボール製造機への供給,コアボールへのメルトンの貼り付けの各工程を自動的に行えるようにすることにより,
コアボールに対し,メルトンを所定箇所に位置決めしながら自動的に接着することができるので,一定品質のメルトン貼りボールを効率良く製造することができ,作業者の負担も大幅に軽減させることができ,また,2枚のメルトンの裏面とコアボールの外面の内,いずれか一方または両方に加圧で接着する接着剤を塗っておき,コアボールにメルトンを接着させる際,加圧接着させるようにしたことにより,上側アプリケータと下側アプリケータへのメルトンやコアボールのセットが容易となり,製造上のトラブル発生を無くすことができるようにした,複数枚のメルトンでコアボールを包むように接着する方法。
イ 引用発明2
液体状の接着部材により貼合する方法を採ると,均等な量の接着部材をその収納部材上に塗布することが困難となるので,接着部材を構成する樹脂が本来有している特質を発揮できるように,硬化前の反応型ホットメルト樹脂が所定の厚み及び大きさに加工されて成る接着シートを,接着シートの間に離形性の部材を挟んで積層した接着部材積層体の保存方法において,
接着部材積層体を収納する非通気性の密封体を備え,接着シートが空気に触れることなく,接着シート同士が接着されることなく,しかも,収納スペースを多く占有することなく,接着シートを積層した接着部材に密封体にコンパクトに収納することができ,接着部材を部品レベルで取り扱うことができるので,接着工程において,接着シートを順に密封体から取り出して円滑に貼り合わせることができる保存方法であって,
前記接着シートは,不織布シートが使用された芯部材付きの接着シートであり,芯部材3Aの一方の面を核にして反応型ホットメルト樹脂10’を浸み込ませた後に固化させたもので,反応型ホットメルト樹脂及び芯部材3Aを含んで所定の厚みt’及び幅wの大きさに加工され,常温状態において固化するので,簡単かつ容易に取り扱うことができ,芯部材3Aの内部には部品を含有させても含有させなくてもよく,該芯部材付き接着シート32は枚葉シート状に裁断され,空気中の水分を吸って硬化が進むので,例えば,加工後24時間以内の短期間に貼合加工をすることが好ましいが,このような時間的な制約を受けないようにするために,その貼合加工を行う前に,硬化が進まないようにする必要があるので,非通気性の密封体として,好ましくは気体,H2Oなどを極めて容易に通過させない材質であって,遮光性のよい部材で形成したバリア袋68を用意し,これに前記接着部材積層体を収納し,その後,バリア袋68の両端開放部を熱圧着することによって密封保存し,湿気の侵入を阻止することにより,前記芯部材付きの接着シートの製造後の時間的な加工制約を受けることが無く,接着シート同士が接着されることもなく,接着部材積層体を部品レベルで取り扱うことができ,接着工程において,バリア袋68から取り出して円滑に貼り合わせることができるように保存する,芯部材付きの接着シートである接着部材積層体の保存方法。
ウ 引用発明3
内部に空気を保持するチューブと呼ばれるゴム体に,空気を充填して球形にし,該チューブに補強層を被覆したカーカスに,天然皮革,合成皮革,天然ゴム,合成ゴム,天然ゴムスポンジ,合成ゴムスポンジ,天然布,そして合成布等を使用するものである複数の表皮を接着する貼りボールの表皮接着方法において,
従来は,溶媒を用いるため,臭気や火災の危険性があり,作業環境の悪いものであり,また,乾燥時間を必要としたり,乾燥まで場所を必要としたり,粘度調整を必要とするため,熟練を要する等の作業上の欠点があったので,
従来のボールの表皮の接着方法に代えて,溶媒を用いない,即ち,無溶媒の手段により,接着し,環境にやさしく,臭気がなく,溶媒による火災の心配もなく,溶媒の乾燥時間が節約でき,場所も節約でき,また,熟練を必要としないボールの表皮接着方法とするため,
表皮の裏面に無溶剤の接着剤である接着層を設け,該表皮をカーカスに載置し接着するようにしたボールの表皮接着方法。
エ 補正発明1と引用発明1との対比・判断
(ア) 一致点
「球技用ボールにおいて,複数枚の外皮側の表皮材をボール側の中空球状チューブに貼着するに際して,裏面に接着剤を設けておいた表皮材を,中空球状チューブにそれぞれ貼着する,球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法。」である点。
(イ) 相違点1
補正発明1では,前記接着剤が「水反応型」のものであり,前記表皮材が「耐水性素材の袋に,密封・収納しておいた」ものであり,これら表皮材を,「該袋から取り出し」,中空球状チューブにそれぞれ貼着するのに対して,
引用発明1では,前記接着剤が加圧で接着するものであり,前記表皮材がその表面を上向きにして多数積層されているが,袋に密封・収納されてはおらず,これら表皮材を,前記積層メルトン12から順に1枚ずつ剥がし分離し,中空球状チューブにそれぞれ貼着する点。
(ウ) 相違点1についての判断
a 布状のものを接着する接着剤として,水反応型接着剤は本件出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.原査定の拒絶の理由で引用された特開昭58-78383号公報(甲3,「『ヒータ組込基材の不織布等からなる基材』や『表布』」が「布状のもの」に相当する。),同じく原査定の拒絶の理由で引用された特開平5-198360号公報(甲4,「『透水性の芯地からなるヒータ組込基材及びフェルト等の断熱材』や『表布』」が「布状のもの」に相当する。))。
b また,接着剤として水反応型接着剤を用いれば,100℃以上の高温による硬化工程を必要としないこと,無溶剤,無公害で高速度で硬化させることができること,水により硬化すること,硬化後,接着剤が高温接着性やゴム弾性を有すること,および,表布や基材等の適用材質の詳細に応じた変性,改質が可能であることが,本件出願前に当業者に自明である(以下「自明な事項1」という。甲3の2頁左下欄13行~右下欄20行の記載参照。)。
c さらに,布状のものを接着する接着剤として水反応型接着剤と水とを用いて接着する際に,水反応型接着剤と水とを互いに接着する面の同じ面に同時に塗布すると直ちに反応を開始して固まり始めるため短時間に接着作業を始めなければならないのに比較して,一方の面に水反応型接着剤を塗布し,他方の面に水を塗布するようにすると,両方の面を合わせたときに接着剤の反応が始まるので落ち着いて作業ができることも本件出願前に当業者に自明である(以下「自明な事項2」という。甲4の【0008】及び【0024】の記載参照。)。
d 水と反応する接着剤は,空気中の水分を吸って反応が進むので,その接着を行う前に,反応が進まないようにする必要があることは,本件出願前に当業者に自明である(以下「自明な事項3」という。引用例2【0062】参照。)。
e 引用発明1は,2枚のメルトンの裏面とコアボールの外面の内,いずれか一方または両方に加圧で接着する接着剤を塗っておき,コアボールにメルトンを接着させる際,加圧接着させるようにしたことにより,上側アプリケータと下側アプリケータへのメルトンやコアボールのセットが容易となり,製造上のトラブル発生を無くすことができるようにしたものであるところ,接着剤として,加圧で接着する接着剤を用いているので,コアボールにメルトンを接着させるためには,コアボールとメルトンの間に所定の圧力が生じるまで加圧しなければならず(引用例1【0080】参照。),また,より確実に接着するには,このような加圧を複数回行ったりしなければならず(引用例1【0081】参照。),さらに,最終完成品にするには,最終工程として,蒸気による起毛処理等を行う必要がある(引用例1【0083】参照。)ことから,自動的かつ連続的に多数のテニスボールを製造することができる接着方法(引用例1【0083】参照。)ではあるが,上記aないしcからみて,引用発明1の接着剤として,加圧で接着する接着剤に代えて,周知技術の水反応型接着剤を用いた場合と比較すると,大きな圧力をコアボールとメルトンの間に生じさせなければならない点,高速接着性の点及び確実性の点で周知技術よりも劣った接着方法であることが明らかである。
f そうすると,引用発明1において,大きな圧力をコアボールとメルトンの間に生じさせずに,より短い時間で,コアボールにメルトンを確実に接着させるために,引用発明1の接着剤として,加圧で接着する接着剤に代えて水反応型接着剤を用い,かつ,裏面に水反応型接着剤が塗布されているメルトン10を,その表面を上向きにして多数積層しメルトンの上下面間は接着していない貼り合わせ状態とした積層メルトン12の各メルトンが,空気中の水分を吸って反応が進み積層メルトン12から順に1枚ずつメルトン10を剥がし分離しコアボール14に貼り付けて接着を行う前にメルトンの上下面間が接着してしまわないように,引用発明2の保存方法を採用し,前記積層メルトン12を,非通気性の密封体として気体,H2Oなどを極めて容易に通過させない材質で形成したバリア袋に収納し,その後該バリア袋の両端開放部を熱圧着することによって密封保存し,湿気の侵入を阻止することにより,前記積層メルトン12の製造後の時間的な加工制約を受けることが無く,前記メルトン10同士が接着されることもなく,前記積層メルトン12を部品レベルで取り扱うことができるようにしておき,コアボール14に貼り付けて接着を行う際に,前記バリア袋から取り出して,1枚ずつメルトン10を剥がし分離し,分離されたメルトン10を,水を塗布した状態のコアボール14に貼り付けて,メルトン10の水反応型接着剤とコアボール14に塗布した水が反応して短時間でコアボールにメルトンが確実に接着する接着方法となすことは,上記aないしeからみて,当業者が周知技術,自明な事項1ないし3,引用例1に記載された事項及び引用発明2に基づいて容易に想到することができたことである。
g 上記fの「水反応型接着剤」,「『非通気性の密封体として気体,H2Oなどを極めて容易に通過させない材質で形成したバリア袋に収納し,その後該バリア袋の両端開放部を熱圧着することによって密封保存』した『裏面に水反応型接着剤が塗布されているメルトン10を,その表面を上向きにして多数積層しメルトンの上下面間は接着していない貼り合わせ状態とした積層メルトン12』」及び「前記バリア袋から取り出して,1枚ずつメルトン10を剥がし分離し,分離されたメルトン10を,水を塗布した状態のコアボール14に貼り付けて,メルトン10の水反応型接着剤とコアボール14に塗布した水が反応して短時間でコアボールにメルトンが確実に接着する」は,それぞれ,補正発明1の「水反応型接着剤(1)」,「耐水性素材の袋(C)に,密封・収納しておいた表皮材(A)」及び「該袋(C)から取り出し,これら表皮材(A)を,中空球状チューブ(B)にそれぞれ貼着する」に相当する。
したがって,引用発明1において,上記fのようになすと,前記接着剤は「水反応型」のものになり,前記表皮材は「耐水性素材の袋に,密封・収納しておいた」ものになり,これら表皮材を,「該袋から取り出し」,中空球状チューブにそれぞれ貼着することになるから,引用発明1において,上記相違点1に係る補正発明1の構成となすことは,上記fからみて,当業者が周知技術,自明な事項1ないし3,引用例1に記載された事項及び引用発明2に基づいて容易になし得た程度のことである。
h 補正発明1の奏する効果は,引用発明1の奏する効果,引用発明2の奏する効果,周知技術の奏する効果,引用例1に記載された事項及び自明な事項1ないし3から,当業者が予測できた程度のものである。
i まとめ
以上のとおりであるから,補正発明1は,当業者が引用例1に記載された発明,引用例2に記載された発明,自明な事項1ないし3,引用例1に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって,補正発明1は,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
オ 補正発明2,3についての判断
(ア) 補正発明2は,補正発明1の球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法において,前記中空球状チューブ(B)の表面に,水等の水分(2)の付与手段により,水分(2)を与えたものに相当する。
また,補正発明3は,補正発明2の球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法において,水等の水分(2)の付与手段が,塗布,あるいは噴霧であるものに相当する。
(イ) 上記相違点1についての判断fによれば,引用発明1において,積層メルトン12をバリア袋から取り出して,1枚ずつメルトン10を剥がし分離し,分離されたメルトン10を,水を塗布した状態のコアボール14に貼り付けて,メルトン10の水反応型接着剤とコアボール14に塗布した水が反応して短時間でコアボールにメルトンが確実に接着する接着方法となすことは,当業者が周知技術,自明な事項1ないし3,引用例1に記載された事項及び引用発明2に基づいて容易に想到することができたことであるところ,塗布手段あるいは噴霧手段で水を塗布することは本件出願前に周知慣用のことである(以下「周知慣用手段」という。例.甲4の【0017】,図1(c)などに記載されている「スプレーガン9」参照。)から,引用発明1において,コアボール14の表面に塗布手段あるいは噴霧手段で水を塗布するとともに,積層メルトン12をバリア袋から取り出して,1枚ずつメルトン10を剥がし分離し,分離されたメルトン10を,水を塗布した状態の前記コアボール14に貼り付けて,メルトン10の水反応型接着剤とコアボール14に塗布した水が反応して短時間でコアボールにメルトンが確実に接着する接着方法となすことは,当業者が周知技術,自明な事項1ないし3,引用例1に記載された事項,周知慣用手段及び引用発明2に基づいて容易に想到することができたことである。
ここで,「塗布手段あるいは噴霧手段」が補正発明3の「塗布,あるいは噴霧である水等の水分(2)の付与手段」に相当し,「コアボール14の表面に塗布手段あるいは噴霧手段で水を塗布する」ことが補正発明2,3の「前記中空球状チューブ(B)の表面に,水等の水分(2)の付与手段により,水分(2)を与え」ることに相当する。
したがって,補正発明2,3は,いずれも,当業者が引用例1に記載された発明,引用例2に記載された発明,自明な事項1ないし3,周知技術,引用例1に記載された事項及び周知慣用手段に基づいて容易に発明をすることができたものである。
補正発明2,3は,いずれも,当業者が引用例1に記載された発明,引用例2に記載された発明,自明な事項1ないし3,周知技術,引用例1に記載された事項及び周知慣用手段に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
カ 補正前発明と引用発明3との対比・判断
(ア) 一致点
球技用ボールにおいて,複数枚の外皮側の表皮材をボール側の中空球状チューブに貼着するに際して,表皮材の裏面に,無溶剤の接着剤を設け,これら表皮材を,中空球状チューブにそれぞれ貼着する,球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法。
(イ) 相違点2
前記無溶剤の接着剤が,補正前発明では,「水反応型接着剤」であるのに対して,引用発明3では,水反応型接着剤であるかどうか不明な点。
(ウ) 相違点2についての判断
a 引用発明3の「球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法」は,溶媒を用いないことにより,環境にやさしく,臭気がなく,溶媒による火災の心配もなく,溶媒の乾燥時間が節約でき,場所も節約でき,また,熟練を必要としないボールの表皮接着方法であるところ,接着剤として水反応型接着剤(上記相違点1についての判断a参照。)を用いれば,100℃以上の高温による硬化工程を必要とせず,無溶剤,無公害で高速度で硬化させることができ,水により硬化し,硬化後,接着剤が高温接着性やゴム弾性を有し,表布や基材等の適用材質の詳細に応じた変性,改質が可能であり(上記相違点1についての判断b参照。),上記水反応型接着剤と水とを用いて接着する際に,水反応型接着剤と水とを互いに接着する面の同じ面に同時に塗布すると直ちに反応を開始して固まり始めるため短時間に接着作業を始めなければならないのに比較して,一方の面に水反応型接着剤を塗布し,他方の面に水を塗布するようにすると,両方の面を合わせたときに接着剤の反応が始まるので落ち着いて作業ができる(上記相違点1についての判断c参照。)ことからみて,引用発明3の「球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法」において,前記「無溶剤の接着剤」として水反応型接着剤を用い,「複数枚の外皮側の表皮材」を「ボール側の中空球状チューブ」に「貼着」するに際して,「中空球状チューブ」に水を塗布するとともに,「表皮材の裏面」に水反応型接着剤を塗布して設け,これら「表皮材」を,水を塗布した「中空球状チューブ」にそれぞれ「貼着」するようになすことは,当業者が周知技術,自明な事項1及び自明な事項2に基づいて容易に想到することができた程度のことである。
b 補正前発明の奏する効果は,引用発明3の奏する効果及び周知技術の奏する効果,自明な事項1及び自明な事項2から,当業者が予測できた程度のものである。
c したがって,補正前発明は,当業者が引用例3に記載された発明,周知技術,自明な事項1及び自明な事項2に基づいて容易に発明をすることができたものである。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(補正発明1と引用発明1との相違点の認定の誤り)
審決は,補正発明1と引用発明1との相違点を,相違点1のとおり認定した。
しかし,審決は最も重要な補正発明1と引用発明1の相違点を認定していない。すなわち,補正発明1は,①「球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法」が発明の名称とされているとおり,製造機械ではなく,製造方法に着目するものである。また,②補正発明1は,数十枚の外皮側ピースが想定されていることから分かるように,サッカーボールやバスケットボール,バレーボールのような多数の表皮材が使用される比較的大きなボールに関する発明を内容としている。これに対し,引用発明1では,①「ボール製造器」が発明の名称とされていることから分かるように,製造機械そのものが発明の対象となっている。また,②その複雑な構造上,2枚のメルトン貼付のみを想定しており,対象となるボールは,テニスボールや野球ボールのように比較的小さなボールだけである。
このような引用発明1をもって,数十枚の外側ピースの貼付が必要な,大きなボールに関する補正発明1に対する論理付けを行うことはできない。
したがって,上記相違点からすれば,引用発明1を補正発明1の進歩性判断の基礎としたこと自体,誤りである。
2 取消事由2(補正発明1と引用発明1の相違点についての判断の誤り)
(1) 加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣るとの認定の誤り
審決は,引用発明1が「接着剤として,加圧で接着する接着剤に代えて,周知技術の水反応型接着剤を用いた場合と比較すると,大きな圧力をコアボールとメルトンの問に生じさせなければならない点,高速接着性の点及び確実性の点で周知技術よりも劣った接着方法であることが明らかである。」とした上で,「引用発明1において,上記相違点1に係る補正発明1の構成となすことは,上記fからみて,当業者が周知技術,自明な事項1ないし3,引用例lに記載された事項及び引用発明2に基づいて容易になし得た程度のことである。」と判断した。
しかし,引用発明1が接着剤として,加圧で接着する接着剤を使っているからといって,水反応型接着剤を用いた場合に比較して,劣った接着方法であるとはいえない。
球技用ボールは,その使用時に,ラケットで叩かれる,足で蹴られる,手で叩かれる等の極めて強い負担がかかり,そのような力を受けることによってボール自体が一時的に変形し,また元の状態に戻る。したがって,球技用ボールに表皮を接着する場合,このような強い負担に耐えられるだけの強度の接着性が要求される。
このような球技用ボールの特殊性に鑑みれば,機械による加圧接着は,単純に手作業で水反応型接着剤を使用する場合よりもより強く接着できるともいえるため,引用発明1が水反応型接着剤を用いた場合に比較して,必ずしも劣った接着方法とはいえない。また,水反応型接着剤の場合であっても,その接着強度を増すために機械によって加圧することはあるのであり,技術的に二者択一の関係にある接着方法というわけでもない。このような点からすれば,「大きな圧力をボールと表皮材の間に生じさせなければならない」ということは,水反応型接着剤の場合に比べて劣った技術であるとはいえない。
そして,高速接着性の点及び確実性の点でも,球技用のボールとして強い接着性が求められるという特殊性や水反応型接着剤の場合であっても機械による加圧を行うことがあることからすれば,加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に技術的に劣っているというわけではなく,審決はその判断の基礎的な認定を誤っている。
被告は,乙2ないし5に基づいて主張するが,実質的にみれば,審決で審理されなかった乙2ないし5を引用発明として新たに主張するもので許されず,また加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣ることの根拠にもならない。
(2) 引用発明2を引用発明1に適用した誤り
審決は,「引用発明1において,上記相違点1に係る補正発明1の構成となすことは,上記fからみて,当業者が周知技術,自明な事項1ないし3,引用例lに記載された事項及び引用発明2に基づいて容易になし得た程度のことである。」と判断した。
しかし,引用発明1と引用発明2とは,前者がテニスボールをはじめとした球技用ボールの製造をその技術分野とするのに対し,後者がIDカード,ICカードに使用される接着部材等をその技術分野としているのであって,技術分野が全く異なり,両者を組み合わせる動機が全くない。
すなわち,引用発明1は,ボール製造機であり,「テニスボールの如く,・・2枚のメルトンでコアボールの両側より,互いに90°ずれた位置で包むように接着してメルトン貼りボールを製造するボール製造機に関する」のに対し,引用発明2は,「キャッシュカード,顔写真の入った従業員証,社員証,会員証,学生証,外国人登録証及び各種運転免許証などのIDカード及びICカードに使用される接着部材の製造保存に適用して好適な接着シート,その製造装置,その製造方法,その保存方法及びその保存具に関する」のであって,その技術分野が全く異なるため,両者を組み合わせる動機が全くない。
また,引用発明1では,テニスボールのような球技用ボールの製造が目的であり,球技用ボールに対しては直接物理的な力が強く働くことから,球面であるコアボールに対して,強度に接着することが特に重視される。これに対し,引用発明2の想定するIDカード及びICカードの接着法においては,これらのカードに直接物理的な力がかかることは通常考えにくいため,強度よりも,できるだけ平坦な形で接着すること,薄く接着することが重要視される。
このように製造目的物が球面と平面とで異なるほか,接着の際重視される視点も大きく異なるため,引用発明1と引用発明2とを組み合わせる動機は全くない。
(3) 周知技術,自明な事項1ないし3を引用発明1に適用した誤り
審決が,周知技術,自明な事項1,2として挙げた甲3及び甲4には,それぞれ,ヒータ組込基材と立毛表布とを水反応型接着剤で接着する方法と,表布とヒータ組込基材,断熱材とを水反応型接着剤で接着する方法が記載されている。
しかし,これらの技術分野も,自明な事項3としても引用されている,引用例2と同じく,テニスボールのような球技用ボールの製造を目的とする引用発明1とは,その技術分野が全く異なる。そのため,周知技術,自明な事項1ないし3を引用発明1に組み合わせる動機は全くない。
すなわち,周知技術として挙げられている水反応型接着剤は,直接物理的な力がかかる事の想定されていないヒータの接着方法として用いられているにもかかわらず,これをそのまま直接物理的な力が強く働く球技用ボールというものに対しても適用できるか否かは全く不明なのであって,当業者にとって,球技用ボールに水反応型接着剤を用いることができることまで周知ということはできない。
また,周知技術を引用発明1に論理的に組み合わせることができない理由として,引用発明1で用いている加圧接着剤と周知技術で用いている水反応型接着剤では,後者の方が高価であることも指摘できる。このように周知技術で用いられている高価な水反応型接着剤を,何の課題や目的意識もなく,引用発明1で用いられている加圧接着剤に代えて採用することは,論理的ではない。
(4) 小括
以上のように,審決には,引用発明1を補正発明1の進歩性判断の基礎としている誤りがあるほか,加圧接着剤が水反応型接着剤に劣ると認定した点や,引用発明2及び周知技術,自明な事項1ないし3を引用発明1に適用した点に誤りがあるから,補正発明1の進歩性に関する判断を誤ったものとして速やかに取り消されるべきである。
3 取消事由3(補正発明2,3に関する判断において周知慣用手段を引用発明1に適用した誤り)
審決は,「塗布手段あるいは噴霧手段で水を塗布することは本件出願前に周知慣用のことである」とし,「補正発明2,3は,いずれも,当業者が引用例1に記載された発明,引用例2に記載された発明,自明な事項1ないし3,周知技術,引用例lに記載された事項及び周知慣用手段に基づいて容易に発明をすることができたものである。」と判断した。
しかし,審決は,ここでも,引用発明1が球技用ボールという強度の接着性が要求される技術分野に関する発明であることを看過している。すなわち,引用発明1は,「テニスボールの如く,・・2枚のメルトンでコアボールの両側より,互いに90°ずれた位置で包むように接着してメルトン貼りボールを製造するボール製造機に関する」ものであり,その接着方法において,球技用ボールの,球面であるという特殊性や直接物理的な力が強く働くという特殊性を無視することはできない。これに対して,「周知慣用手段」として挙げられている甲4には,表布とヒータ組込基材,断熱材とを水反応型接着剤で接着する方法が記載されており,直接物理的な力が働くことは想定されておらず,しかも平面的な場面での接着方法に関するものである。このように技術分野が大きく異なるから,水反応型接着剤の接着の際,塗布手段あるいは噴霧手段で水を塗布する方法を,そのまま球技用ボールにも適用することを当業者が容易に想到できるというのは論理的でない。
球技用ボールの接着方法においても,水反応型接着剤が適材といえること,その接着の際,塗布手段あるいは噴霧手段で水を塗布する方法が適していることを発明したのが,補正発明2,3なのである。
このように,引用発明1と周知慣用手段はその技術分野が大きく異なるから,周知慣用手段を当然のように引用発明1に適用した審決は取り消されるべきである。
4 取消事由4(補正前発明と引用発明3の一致点・相違点の認定の誤り)
審決は,引用発明3の「無溶剤の接着剤である接着層」と補正前発明の「水反応型接着剤(1)」とは「無溶剤の接着剤」である点で一致するから,補正前発明と引用発明3とは,「球技用ボールにおいて,複数枚の外皮側の表皮材をポール側の中空球状チューブに貼着するに際して,表皮材の裏面に,無溶剤の接着剤を設け,これら表皮材を,中空球状チューブにそれぞれ貼着する,球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法。」である点で一致し,相違点2で相違すると判断した。
しかし,補正前発明の「水反応型接着剤(1)」と引用発明3の「無溶剤の接着剤」とは一致するものではない。
「溶剤」とは「工業の分野で,物質を溶かすのに用いる液体」をいい,「無溶剤の接着剤」とは,そのような「物質を溶かすのに用いる液体」を用いない接着剤をいうのであって,水反応型接着剤は水を用いている以上,「無溶剤の接着剤」とはいえない。また,引用発明3では,「無溶媒の手段が,熱手段,加圧手段,摩擦手段を用いる」とされているとおり,無溶媒の手段として水が用いられることは想定されていない。このように審決は,補正前発明と引用発明3の一致点・相違点の認定を誤っている。
5 取消事由5(補正前発明と引用発明3の相違点についての判断において周知技術,自明な事項1及び自明な事項2を引用発明3に適用した誤り)
審決は,「当業者が周知技術,自明な事項1及び自明な事項2に基づいて容易に想到することができた」と判断した。
しかしながら,周知技術,自明な事項1及び自明な事項2と引用発明3とは,その技術分野が全く異なるのであって,これらを組み合わせる動機が全くない。すなわち,上記のとおり,甲3及び甲4は,それぞれ,ヒータ組込基材と立毛表布とを水反応型接着剤で接着する方法と,表布とヒータ組込基材,断熱材とを水反応型接着剤で接着する方法を記載しているのであって,電気カーペット等の面状採暖具に関する技術である。これに対し,引用発明3は,球技用ボールの表皮接着方法に関するものである。このように,周知技術,自明な事項1,2は,電気カーペットという平面な対象物の接着に関する技術であって,物理的な力もその上から踏まれるという,むしろ接着を強化する方向でしか想定されない分野の技術であるのに対し,引用発明3は,球技用ボールという対象物が球面のものの接着に関する技術であって,物理的な力としてはあらゆる角度から強度の力が加えられることが想定される分野の技術であり,全く技術分野が異なるのであるから,これらの知識を単純に足し算することはできない。
したがって,周知技術,自明な事項1,2を当然のように引用発明3に適用した審決の判断は誤りである。
6 まとめ
審決には,上記の各誤りがあり,いずれも審決の結論に影響するから,審決は取り消されるべきである。
第4被告の反論
1 取消事由1(補正発明1と引用発明1との相違点の認定の誤り)に対して
(1) 引用例1には,メルトン貼りボールを製造するにあたり,例えば,表面に加圧で接着する接着剤が塗布されたコアボールを準備する工程,表面が植毛され,裏面には加圧で接着する接着剤が塗布されているダンベル形状のメルトンを準備する工程,積層メルトンから順に1枚ずつメルトンを剥がし分離する工程,積層メルトンから分離されたメルトンをボール製造機に供給する工程,コアボールをボール製造機に供給する工程,コアボールにメルトンを加圧接着により貼り付ける工程といった接着方法についての記載がある。すなわち,引用例1には,ボール製造機の発明も記載されてはいるが,メルトン貼りボールの製造方法における「複数枚のメルトンでコアボールを包むように接着する方法」の発明も記載されている。
したがって,引用例1に「複数枚のメルトンでコアボールを包むように接着する方法」の発明(引用発明1)が記載されていないということはできない。引用例1には,製造機械の発明しか開示されていないとか,製造方法の発明の開示はない旨の原告主張は,失当である。
(2) 補正発明1は,外皮側の表皮材の枚数について,「複数枚」と特定するのみであるところ,「2枚」が「複数枚」に包含されることは明らかである。
本願明細書の記載をみても,補正発明1の接着方法における球技用ボールは,極めて多数の表皮材が使用されるものに限られるとか,サッカーボールやバスケットボール,バレーボールのような比較的大きなボールに限られるとする根拠はない。補正発明1の球技用ボールについて,2枚のメルトンのみの貼付で足りる小さなテニスボールが排除される根拠もない。
2 取消事由2(補正発明1と引用発明1の相違点についての判断の誤り)に対して
(1) 「加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣るとの認定の誤り」に対して
引用例1には,引用発明1の加圧で接着する接着剤すなわち感圧接着剤の組成などについては何ら記載されていない。一般に,感圧接着剤は,強固に接着できないものであり(特開昭63-189486号公報,乙6),被接着面が湿気を帯びているときにはこの粘着性が十分発揮されず,接着を試みても必要な接着強度を得ることが不可能なものである(特開昭62-91576号公報,乙7)といえるから,感圧接着剤の接着強度が弱いことは,本件出願時の技術常識であるといえる。
これに対して,水反応型接着剤は,球技用ボールにおける接着にも使用されているものであって(特開昭56-168763号公報,乙2,特開平10-295853号公報,乙3,特開昭55-96170号公報,乙4),かつ,耐衝撃性に優れた強力な接着剤であり(特開2001-262113号公報,乙5),従来の強度が弱い感圧接着剤に代えて使用でき,強固に接着できるものである(乙6)。
したがって,従来の感圧接着剤と水反応型接着剤とを比較すると,水反応型接着剤のほうが,接着強度の点や耐衝撃性の点でも,強度の物理的負担に耐えなければならない球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着に使用する接着剤として,より好適である。
仮に,原告の指摘する審決の上記判断部分に誤りがあるとしても,下記(2)及び(3)記載のとおり,補正発明1は引用発明1,引用発明2,周知技術及び自明な事項1~3から想到容易であるとした審決の判断そのものに誤りはないから,原告の上記主張の当否は,結論に影響を及ぼさない。
(2) 「引用発明2を引用発明1に適用した誤り」に対して
ア 原告は,引用発明2がIDカード,ICカードに使用される接着部材等をその技術分野としていることを前提に,引用発明1と引用発明2とは技術分野が異なるため,両者を組み合わせる動機付けがないと主張する。しかし,原告の主張は,以下述べるとおり,その前提において失当である。
引用例2には,キャッシュカード,顔写真の入った従業者証,社員証,会員証,学生証,外国人登録証及び各種運転免許証などのIDカード及びICカードに使用される接着部材の製造保存についての記載があるが,引用発明2が「IDカード,ICカードに使用される接着部材等」の技術分野に限定されるというものではなく,「IDカード,ICカードに使用される接着部材等」は,適用して好適なものであるにすぎない。例えば,引用例2の請求項18,20及び24には,一般的な接着シートの保存方法の発明が記載されており,当該箇所には,「IDカード,ICカードに使用される接着部材等」との記載や「接着する対象が平面である」との記載は見当たらない。引用例2に記載されている発明について,審決における引用発明2の認定に誤りはない。
引用発明1の「メルトン10」は,柔軟性を有する布状のものであって,裏面に接着剤が塗布されているものであるから,接着シートあるいは接着部材といえるものであり,「積層メルトン12」は,表面には植毛がされ,裏面には加圧で接着する接着剤が塗布されているダンベル形状のメルトン10を,その表面を上向きにして多数積層したものであるから,接着部材積層体といえる。してみると,引用発明1の「積層メルトン12」と,引用発明2の「接着部材積層体」とは,接着シートを含む接着部材の積層体である点で一致し,引用発明1の接着する方法と引用発明2の保存方法とは,接着シートを含む接着部材の積層体を対象とする技術分野の発明である点で一致する。
イ 引用発明2の反応型ホットメルト樹脂は,空気中の水分を吸って硬化が進み,それにより接着シート同士を接着させるものであるから,布状のものを接着する接着剤として周知である「水反応型接着剤」の一種である。
したがって,接着シート(メルトン10)を含む接着部材の積層体(積層メルトン12)を対象とする接着方法の発明である引用発明1において,周知技術である「水反応型接着剤」,「水反応型接着剤」を備えた接着シートを含む接着部材の積層体を対象とする発明である引用発明2を適用する動機が全くないということはできない。
(3) 「周知技術,自明な事項1ないし3を引用発明1に適用した誤り」に対して
ア 補正発明1において,ボールの外皮側とボール側との接着に必要な接着剤として「水反応型接着剤」を用いることの技術的意義は,環境にやさしく,臭気がなく,溶媒による火災の心配もなく,溶媒の乾燥時間が節約でき,場所も節約でき,熟練の必要がないようにする(接着作業の簡素化,並びに,作業環境の改善)とともに,そのまま,あるいは水分を介して接着することにより,接着作業のさらなる簡素化を図ることにある。
そして,甲3には,100℃以上の高温による硬化工程を必要とせず,無溶剤,無公害で高速度で硬化させるための手段として「水反応型接着剤」を用いることが記載されているところ,これは補正発明1において水反応型接着剤を用いる意義と何ら変わるものでない。
したがって,引用発明1において,接着作業の簡素化,作業環境の改善などを図るために感圧接着剤に代えて水反応型接着剤を用いることは,甲3に接した当業者であれば,容易に想到しうる。
また,自明な事項3の根拠として挙げた甲2について,甲2に記載の事実に基づいて相違点1に係る構成は想到容易であると判断した審決に誤りがないのは,上記(2)のとおりである。
イ 原告は,周知技術として挙げられている甲3,4の水反応型接着剤はヒータの接着方法に用いられているから,これをそのまま直接物理的な力が強く働く球技用ボールには適用できないと主張する。しかし,甲3,4には,水反応型接着剤についてヒータの接着用途のみが開示されているとしても,そこに開示されている水反応型接着剤が,球技用ボールの接着用途に適用できないとされる根拠はない。そして,補正発明1は,球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法において使用される「水反応型接着剤」について,どのような接着剤であるか何ら特定していないし,本願明細書は,どのような接着剤(材質,製造方法,製品名など)を選択すれば課題解決を図ることができるかについて何ら開示していないところ,甲3,4に記載の水反応型接着剤は,補正発明1の水反応型接着剤と何ら異なるものでない。
また,水反応型接着剤は,球技用ボールにおける接着に使用され,耐衝撃性を有するものであることが本件出願時の技術常識であるから,球技用ボールの製造における接着に使用することができるものであり,強固に接着できないものである感圧接着剤を用いている引用発明1の接着に,その感圧接着剤に代えて使用できるものである。
ウ 原告は,加圧接着剤よりも水反応型接着剤の方が高価であるから,水反応型接着剤を引用発明1の加圧接着剤に代えて採用することは論理的でない,と主張する。しかし,加圧接着剤よりも水反応型接着剤の方が高価であるというに足りる証拠はない。仮に,原告が主張するように水反応型接着剤が高価であるとしても,実際に補正発明1を実施しようとすることがコスト面で困難であるかどうかと,補正発明1を公知の発明から容易に想到することが当業者において困難であるかどうかとは別問題である。
3 取消事由3(補正発明2,3に関する判断において周知慣用手段を引用発明1に適用した誤り)に対して
(1) 補正発明1は独立特許要件を満たさないとした審決の判断に誤りがなければ,補正発明2~3についての判断の当否にかかわらず,審決の補正却下の決定には違法性はないところ,取消事由1,2は理由がないから,取消事由3の当否は,結論に影響を及ぼさない。
(2) 原告は,周知慣用手段の技術は,表布とヒータ組込基材,断熱材とを水反応型接着剤で接着する方法であり,直接物理的な力が働くことは想定されていない旨主張する。しかし,取消事由2について述べたとおり,原告の主張には理由がない。
また,原告は,塗布手段あるいは噴霧手段で水を塗布する方法を,そのまま球技用ボールにも適用することを当業者が容易に想到できるというのは論理的でないと主張する。しかし,水を塗布する際に塗布手段あるいは噴霧手段を使用することはごく一般的なことであるから,引用発明1の対象が球技用ボールの部品である球面形状のコアボールであるからといって,引用発明1において,審決でいう周知慣用手段の技術を適用することに何ら阻害要因は見当たらない。
4 取消事由4(補正前発明と引用発明3の一致点・相違点の認定の誤り)に対して
(1) 本願明細書の記載によれば,補正前発明の「水反応型接着剤」について次のことがいえる。
すなわち,球技用ボールの製造は,従来,水又は溶剤に溶解させた接着剤(水溶性または溶剤性の接着剤)を外皮側ピースやカーカスに塗布するという極めて煩雑な塗布作業が必要であり,水溶性,水性の接着剤を用いる場合,少しでも水分が残ると,不良品となる等の欠点があり,溶剤性の接着剤を用いる場合には,作業員の健康上及び身体の安全性が問題であった。また,接着剤として,固形型樹脂接着剤を使用し触媒としての硬化剤を使用するにしても,製造時には固形型樹脂接着剤が劣化しており製造作業がうまくいかないという欠点があった。
そこで,補正前発明は,接着剤として水反応型接着剤を用い,表皮材の裏面に水反応型接着剤を設け,これら表皮材を,そのまま貼着するか,あるいは,中空球状チューブの表面に水を付与した後貼着することにより,球技用ボールの製造工程における接着作業の簡素化,並びに,作業環境の改善を図るものである。
そして,補正前発明によれば,あらかじめ表皮材の裏面に水反応型接着剤を設けておき,そのまま中空球状チューブに表皮材を貼着するか,あるいは,水を付与して中空球状チューブに表皮材を貼着するために,作業工程をいたって簡素化でき,また従来のように,溶剤,水溶剤を使用しないことから,作業員の健康上および身体の安全が図られ,さらに,製品の均一性が確保できる等の効果を奏する。
(2) 上記のとおり,補正前発明において,「水反応型接着剤」は,あらかじめ表皮材の裏面に設けておくものであり,複数枚の表皮材を球状チューブに貼着するに際して,溶剤,水溶剤を使用しないものである。
したがって,補正前発明の解決課題からすると,補正前発明の「水反応型接着剤」は「無溶剤の接着剤」と一致するとした審決の判断に誤りはない。
また,補正前発明において,水は硬化剤として使用されるのであって,原告が主張するような「物質を溶かすのに用いる液体」として使用されているのではない。
5 取消事由5(補正前発明と引用発明3の相違点についての判断において周知技術,自明な事項1及び自明な事項2を引用発明3に適用した誤り)に対して
取消事由2について述べたことと同様の理由により,原告の主張は理由がない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(補正発明1と引用発明1との相違点の認定の誤り)について
(1) 引用例1(甲1)には,メルトン貼りボールを製造するにあたっての,表面に加圧で接着する接着剤が塗布されたコアボールを準備する工程,表面が植毛され,裏面には加圧で接着する接着剤が塗布されているダンベル形状のメルトンを準備する工程(以上【0009】),積層メルトンから順に1枚ずつメルトンを剥がし分離する工程,積層メルトンから分離されたメルトンをボール製造機に供給する工程,コアボールをボール製造機に供給する工程(以上【0010】),コアボールにメルトンを加圧接着により貼り付ける工程(【0078】~【0081】)など,接着方法についての記載がある。そうすると,引用例1には,ボール製造機の具体的な構成に関する記載のほか,メルトン貼りボールの製造方法における「複数枚のメルトンでコアボールを包むように接着する方法」(【0002】,【0005】)の発明も記載されているものと認められる。
したがって,引用例1には,製造機械の発明しか開示されておらず,製造方法の発明は開示されていないとの原告の主張は,理由がない。
(2) 補正発明1は,外皮側の表皮材の枚数について,「複数枚」と特定するのみである(甲10)ところ,「2枚」が「複数枚」に包含されることは明らかである。
また,本願明細書(甲6)の記載をみても,補正発明1の接着方法における球技用ボールが極めて多数の表皮材が使用されるものに限られるとか,サッカーボール,バスケットボール,バレーボールのような比較的大きなボールに限られるとする根拠はない。補正発明1の球技用ボールについて,2枚のメルトンのみの貼付で足りる小さなテニスボールが排除されるとする根拠もない。
したがって,引用発明1は2枚のメルトン貼付のみを想定する小さなボールに限定されるのに対し,補正発明1は数十枚の外側ピースの貼付が必要な大きなボールを対象とする旨の原告の主張は,理由がない。
(3) 以上によれば,取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(補正発明1と引用発明1の相違点についての判断の誤り)について
(1) 「水反応型接着剤」の意義について
補正発明1には,「水反応型接着剤」に関して,「(表皮材の)裏面に水反応型接着剤(1)を設け」としか特定されていない。そして,本願明細書(甲6)を参照すると,本願明細書には,以下の記載があり,水反応型接着剤とは,「水分と反応して固体に変化する接着剤」全般を広く指すものと認められ,水溶液の付与手段によって,中空球状チューブの表面に付与した水溶液(水)と反応して固体に変化するもののみならず,空気中の水分に反応して固体に変化するものや,瞬間接着剤をも含むものと認めることができる。
「【0012】
そして,水反応型接着剤(1)とは,水分と反応して固体に変化する接着剤であり,水反応型接着剤(1)は,空気中の水分や,被接着側の中空球状チューブ(B)の表面の目に見えない水分に反応したり,また,水溶液(2)に反応するものであり,例えば,瞬間接着剤と呼ばれる,わずかな空気中の水分等として反応してすばやく固まる接着剤がある。
【0013】
従って,この水反応型接着剤(1)を設けた表皮材(A)は,図7に示すように,極めて堅牢な耐水性素材の袋(C)に密封・収納しておく必要がある。
【0014】
また,さらに,水溶液(2)の付与手段とは,塗布したり,あるいは,噴霧したりすることであり,水溶液(2)とは,具体的には水のことである。」
そして,引用発明2の「反応型ホットメルト樹脂」が「空気中の水分を吸って硬化が進む」ものである点(【0064】),甲3の「水反応型接着剤」が「水をスプレーすることにより容易に接着できるし,また一方,接着剤と水を2ノズルのスプレーにより塗工することによっても容易に接着することができる」ものである点(2頁左下欄),甲4の「水反応型接着剤(水反応型ウレタン系接着剤)」が「水反応型ウレタン系接着剤25と水26を同時に同一面に塗布しているので接着剤は塗布後に直ちに反応を開始して固まり始める」ものである点(【0008】)で,いずれも補正発明1の「水反応型接着剤」と相違するものではない。
(2) 水反応型接着剤の適用の動機づけについて
審決は,相違点1に係る構成は,周知技術,自明な事項1~3及び引用発明1,2に基づいて,容易に想到し得るものである,と判断した。この点に関し,原告は,強度の物理的負担に耐えなければならないという特殊性を有する球技用ボールに表皮を接着する場合,このような強い負担に耐えられるだけの接着強度が要求されるところ,引用発明2は,IDカード,ICカードに使用される接着部材等に関するもので,球技用ボールの製造に関する引用発明1とは技術分野が異なり,かつ,引用発明2の想定するIDカードおよびICカードの接着法では,球技用ボールのように,直接物理的な力が強く働くことは通常考え難いため,接着の際重視される視点が大きく異なるから,両者を組み合わせる動機が全くなく,審決が周知技術として挙げた水反応型接着剤も,甲3はヒータ組込基材と立毛表布とを水反応型接着剤で接着する方法,甲4は表布とヒータ組込基材,断熱材とを水反応型接着剤で接着する方法で,技術分野が全く異なり,直接物理的な力が強く働く球技用ボールに適用できるか否かは全く不明であるから,球技用ボールに水反応型接着剤を用いることができることまで周知であるということはできない,と主張する。
よって検討するに,甲3には,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途として,水反応型接着剤を用いることが記載されており,水反応型接着剤としてシアノアクリレート,ポリウレタン等の他に,ウレタン系もあることが記載されている。
特開平6-107988号公報(乙1)には,「シアノアクリレート系樹脂は,瞬間接着剤として一般的に用いられるもので,水分により瞬間硬化する性質を持っている」ことが記載されている。
特開昭56-168763号公報(乙2)には,卓球ボール等の中空球体の接着用途として,「シアノアクリレート系,ウレタン系,エポキシ系,ゴム系等の樹脂」よりなる接着剤を使用できることが記載されている。
特開平10-295853号公報(乙3)にはソフトテニスボールの接着用途として,特開昭55-96170号公報(乙4)にはゴルフボールの接着用途として,「シアノアクリレート系の瞬間接着剤」を使用できる点が,それぞれ記載されている。
以上の記載に照らせば,本件出願時の技術常識として,シアノアクリレートやポリウレタン等の水反応型接着剤が知られており,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途のみならず,卓球ボール,ソフトテニスボール,ゴルフボールなどの球技用ボールの接着用途も含めて,一般的に用いられる,すなわち,汎用性を有するものと認められる。
そうすると,引用発明2において,水反応型接着剤の一つである「反応型ホットメルト樹脂」が,IDカードやICカードの接着用途に特化されたものであるとはいえず,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能な汎用性を有するものというべきである。甲3,4についても同様であり,甲3,4の水反応型接着剤が,電気カーペット等の面状採暖具の接着用途に特化されたものであるとはいえず,それ自体は,一般的な接着剤と同様,他の用途にも適用可能な汎用性を有するものというべきである。
このような水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼りボールの接着用途として,水反応型接着剤を適用することは,単なる設計的事項にすぎず,動機づけを否定することができない。そうである以上,引用発明2,周知技術及び自明な事項1~3を引用発明1に適用することに格別の困難性は認められない。
原告は,審決が加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣ると認定したことは誤りであると主張する。しかし,特開昭63-189486号公報(乙6)には,感圧型接着剤は硬化に時間がかかり,強固に接着できないことが記載されている(1頁左下欄下から2行~右下欄8行)。また,特開昭62-91576号公報(乙7)には,感圧型接着剤は,被接着面が湿気を帯びているときには粘着性が十分発揮されず,接着を試みても必要な接着強度を得ることが不可能なものであることが,記載されている(1頁左下欄下から3行~右下欄4行)。これらの記載に照らせば,感圧接着剤の接着強度が弱いことは,本件出願時の技術常識であるものと認められる。また他方で,上記水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明1のメルトン貼りボールの接着用途として水反応型接着剤を適用することは設計的事項であるから,仮に加圧接着剤による接着方法が水反応型接着剤による接着方法に劣るか否かは別として,水反応型接着剤を選択することを困難にするものではない。いずれにしても,原告の主張をもって審決の判断を誤りとすることはできない。
補正発明1の作用効果も,引用発明1,2,周知技術及び自明な事項1~3が奏する作用効果の総和以上のものであるとは認められない。
なお,原告は,加圧接着剤よりも水反応型接着剤の方が高価である点を主張するが,かかる事項は,容易想到性の判断を左右するものではない。
(3) 以上によれば,取消事由2には理由がない。
3 取消事由3(補正発明2,3に関する判断において周知慣用手段を引用発明1に適用した誤り)について
取消事由1,2に理由がないことは上記のとおりであり,補正発明1が独立特許要件を欠く以上,補正発明2,3についての取消事由3の当否は,審決の補正却下の結論を左右しない。
4 取消事由4(補正前発明と引用発明3の一致点・相違点の認定の誤り)について
原告は,補正前発明の「水反応型接着剤(1)」と引用発明3の「無溶剤の接着剤」とは一致するものではないと主張する。
よって,検討するに,本願明細書(甲6)には,以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
従来,球技用ボールは,外皮側には,ゴム製,合成樹脂製の分割形状の表皮材ピースと,ボール側には,中空球状チューブ(カーカスという)を設けており,複数枚の各表皮材ピースをこの中空球状チューブの全面に,水溶性または溶剤性の接着剤を介して接着して,ボールを完成させている。
・・・・・・
【0004】
また,特に,水溶性,水性の接着剤を用いる場合には,外皮側とボール側との間や,特に,外皮側とその外部を被覆する表皮膜との間に少しでも水分が残ると,この残存水滴の箇所が外部から汚れて見えたり,また,残存水滴の箇所にカビが発生したりして,商品としての見栄えが悪くなるという欠点があり,また,その箇所に接着不良が生じ,商品として不良品となる等の欠点があり,また,溶剤性の接着剤を用いる場合には,作業員の健康上及び身体の安全性が問題であった。
・・・・・・
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による球技用ボールにおける外皮側とボール側との接着方法は,球技用ボールにおいて,複数枚の外皮側の表皮材(A)をボール側の中空球状チューブ(B)に貼着するに際して,表皮材(A)の裏面に,水反応型接着剤(1)を設け,これら表皮材(A)を,そのまま,中空球状チューブ(B)に貼着するか,あるいは,水溶液(2)を,中空球状チューブ(B)の表面に付与して,該中空球状チューブ(B)の表面に,それぞれ表皮材(A)を貼着する接着方法から構成されるものである。
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【0009】
そして,この発明によると,従来のように,溶剤,水溶剤を使用しないため,作業員の健康上および身体の安全が図れ,さらに,製品の均一性が確保できる等の効果を奏するものである。」
上記記載によれば,補正前発明において,「水反応型接着剤」は,あらかじめ表皮材の裏面に設けておくものであり,複数枚の表皮材を球状チューブに貼着するに際して,溶剤,水溶剤を使用しないものであると認められる。そうである以上,補正前発明の「水反応型接着剤」は「無溶剤の接着剤」と一致するとした審決の判断に誤りはない。
よって,取消事由4には理由がない。
5 取消事由5(補正前発明と引用発明3の相違点についての判断において周知技術,自明な事項1及び自明な事項2を引用発明3に適用した誤り)について
原告は,周知技術,自明な事項1及び自明な事項2と引用発明3とは,その技術分野が全く異なるのであって,これらを組み合わせる動機が全くないので,審決が,周知技術,自明な事項1,2を引用発明3に適用したことは誤りであると主張する。
しかし,取消事由2について示した水反応型接着剤の汎用性に照らせば,引用発明3の球技用ボールの表皮接着方法として,水反応型接着剤を適用することは,単なる設計的事項にすぎないものと認められる。したがって,周知技術,自明な事項1及び自明な事項2を引用発明3に適用した審決の認定判断に誤りはなく,取消事由5には理由がない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由にはいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 池下朗 裁判官 古谷健二郎)