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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10317号 判決 2012年8月30日

原告

株式会社ボークス

訴訟代理人弁護士

伊原友己

加古尊温

同 弁理士

安藤順一

上村喜永

被告

株式会社オビツ製作所

訴訟代理人弁護士

寺内從道

三本章

補佐人弁理士

岩木謙二

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2010-800028号事件について平成23年9月7日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は,発明の名称を「ソフトビニル製大型可動人形の骨格構造および該骨格構造を有するソフトビニル製大型可動人形」とする特許第3761523号(請求項の数は10。以下「本件特許」という。)の特許権者である。

本件特許は,平成15年1月22日に出願され(特願2003-13775号),平成18年1月20日に設定登録された。

原告は,平成22年2月19日付けで本件特許の請求項1に係る発明の特許につき無効審判を請求し(無効2010-800028号。以下「本件無効審判」という。),これに対し,被告は,請求項1~3及び段落【0005】に係る同年5月10日付け訂正請求をしたが,同年10月27日「訂正を認める。特許第3761523号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第 1次審決」という。)がされた(これにより,無効審判が請求されていない請求項2,3についての訂正は確定した。)。

被告は,平成22年12月8日,第 1 次審決に対し審決取消訴訟を提起し(当庁平成22年(行ケ)第10384号),平成23年1月12日付け訂正審判を請求した(訂正2011-390002号)ところ,同年2月23日に第1次審決を取り消す決定がされた。

差戻し後の本件無効審判の手続において,被告は,同年3月22日付け訂正請求(以下「訂正請求2」という。)をしたところ,同年9月7日,「平成23年3月22日付け訂正請求書による訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)がされ,同月15日,原告(請求人)に審決謄本が送達された。

2  特許請求の範囲の記載及び訂正請求2の内容

(1)  訂正請求2による訂正前の特許請求の範囲【請求項1】の記載は,次のとおりである。

「ソフトビニル製の外皮と,該外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル製大型人形を構成する骨格構造であって,

左右の脚部骨格と,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,該腰部骨格に連結される胴部骨格と,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で一連の人形骨格群を構成し,

前記胴部骨格は,腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成されており,

腹骨格部は,その一端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,他端側に胸部骨格連結部を備え,

前記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連結されるとともに,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

前記胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連結されるとともに,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備えたことを特徴とするソフトビニル製大型可動人形の骨格構造。」

(2)  訂正請求2の内容は,次のとおりである。

ア 訂正事項1(【請求項1】の訂正。「1-ア」~「1-サ」の符号は審決において付加。)

<訂正事項1-ア>

「ソフトビニル製の外皮と,該外皮とは別体で」を「分割して形成され,それぞれが着脱可能なソフトビニル製の外皮と,該それぞれの外皮とは別体で」とすること

<訂正事項1-イ>

「骨格構造であって,」の直後に「前記骨格構造は,」を挿入すること

<訂正事項1-ウ>

「左右の脚部骨格と,」を「左右それぞれの足底部を有し,左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有する左右の脚部骨格と,」とすること

<訂正事項1-エ>

「該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,」を「外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,」とすること

<訂正事項1-オ>

「該腰部骨格に連結される胴部骨格と,」を「外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該腰部骨格に連結される胴部骨格と,」とすること

<訂正事項1-カ>

「該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で」を「左右それぞれの手首部を有し,左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で」とすること

<訂正事項1-キ>

「腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成されており,」を「腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成され,前記腹骨格部と前記胸骨格部は,双方の間で分割されたそれぞれの外皮で覆われており,」とすること

<訂正事項1-ク>

「腹骨格部は,その一端側に腰部骨格連結部を備えるとともに,他端側に胸部骨格連結部を備え,」を「前記腹骨格部は,前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え,かつ前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備えており,」とすること

<訂正事項1-ケ>

「前記腰部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連結されるとともに,」を,「前記腰部骨格連結部は,分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,」とすること

<訂正事項1-コ>

「前記胸部骨格連結部は,腹骨格部との連結部において揺動可能に連結されるとともに,」を,「前記胸部骨格連結部は,分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,」とすること

<訂正事項1-サ>

「第二嵌入杆を備えたことを特徴とする」を,「第二嵌入杆を備え,前記腰部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第一嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と腰部骨格を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,前記胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第二嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,前記腕部骨格は肩部の骨格を有し,少なくとも前記肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されており,前記一連の人形骨格群を構成する前記各骨格が着脱可能であることを特徴とする」とすること

イ 訂正事項2(明細書の段落【0005】の記載を,下記のとおり訂正する。下線は訂正箇所を示す。)。

「【0005】

【課題を解決するための手段】

上記課題を達成するために本発明がなした技術的手段は,分割して形成され,それぞれが着脱可能なソフトビニル製の外皮と,該それぞれの外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル製大型人形を構成する骨格構造であって,

前記骨格構造は,

左右それぞれの足底部を有し,左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有する左右の脚部骨格と,

外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,

外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該腰部骨格に連結される胴部骨格と,

左右それぞれの手首部を有し,左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で一連の人形骨格群を構成し,

前記胴部骨格は,

腰部骨格と連結される腹骨格部と,

該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成され,

前記腹骨格部と前記胸骨格部は,双方の間で分割されたそれぞれの外皮で覆われており,

前記腹骨格部は,

前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え,かつ前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備えており,

前記腰部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

前記胸部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え,

前記腰部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第一嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と腰部骨格を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,

前記胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第二嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,

前記腕部骨格は肩部の骨格を有し,少なくとも前記肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されており,

前記一連の人形骨格群を構成する前記各骨格が着脱可能であることを特徴とするソフトビニル製大型可動人形の骨格構造。としたことである。

また,前記胸骨格部には,首部骨格が連結され,該首部骨格は,人形用の頭部を嵌着する頭部外皮嵌着部を備え,該頭部外皮嵌着部は,上下方向に揺動自在に備えられているものとすることができる。

また,前記首部骨格は,人形用胴体の首部外皮挿着部と,人形用の頭部を嵌着する頭部外皮嵌着部とを備え,前記首部外皮挿着部が胸骨格部に連結され,前記頭部外皮嵌着部は,前記首部外皮挿着部とスプリングを介して上下方向に揺動自在に連結されているものとすることができる。さらに,ソフトビニル製の外皮と,該外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル製大型人形を構成する骨格構造であって,左右の脚部骨格と,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,該腰部骨格に連結される胴部骨格と,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で一連の人形骨格群を構成し,左右の脚部骨格は,ソフトビニル製の足部外皮の開口縁が嵌着される足部外皮嵌着部と,ソフトビニル製の下脚外皮の下端開口縁が嵌着される下脚外皮下端嵌着部とを有し,該両者の連結部にて回動可能な構造を有する足首部と,前記下脚外皮の上端開口縁が嵌着される下脚外皮上端嵌着部と,ソフトビニル製の上脚外皮の下端開口縁が嵌着される上脚外皮下端嵌着部とを有し,両者の連結部にて回動可能な構造を有する膝部と,上記足首部の下脚外皮下端嵌着部と膝部の下脚外皮上端嵌着部との間にわたって嵌脱自在に掛け渡される脛用補強連結杆と,前記上脚外皮の上端開口縁が嵌着される上脚外皮上端嵌着部と,腰部骨格の脚付け根部側連結部を連結する腰部骨格連結部とを有する脚付け根部と,該脚付け根部の上脚外皮上端嵌着部と膝部の上脚外皮下端嵌着部との間にわたって嵌脱自在に掛け渡される太腿用補強連結杆とで構成され,腰部骨格は,左右の脚付け根部の腰部骨格連結部と回動可能に連結する脚付け根部側連結部と,胴部骨格の下端側と連結する胴部下端骨格連結部とを備えて構成され,胴部骨格は,腰部骨格の上端側と連結する腰部骨格連結部と,左右の腕部骨格と夫々連結する腕部骨格連結部とを備えて構成され,左右の腕部骨格は,前記胴部骨格の腕部骨格連結部と連結される胴部上端骨格連結部と,ソフトビニル製の上腕外皮の上端開口縁が嵌着される上腕外皮上端嵌着部とを備えてなる肩部と,前記上腕外皮の下端開口縁が嵌着される上腕外皮下端嵌着部と,ソフトビニル製の下腕外皮の上端開口縁が嵌着される下腕外皮上端嵌着部とを有し,両者の連結部にて回動可能な構造を有する肘部と,前記下腕外皮の下端開口縁が嵌着される下腕外皮下端嵌着部と,ソフトビニル製の手部外皮の開口縁が嵌着される手部外皮嵌着部とを有し,両者の連結部にて回動可能な構造を有する手首部とを備えて構成されていることを特徴とするソフトビニル製大型可動人形の骨格構造としたことである。」

(3)  訂正請求2による訂正後の特許請求の範囲【請求項1】の記載は,次のとおりである。

「分割して形成され,それぞれが着脱可能なソフトビニル製の外皮と,該それぞれの外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル製大型人形を構成する骨格構造であって,

前記骨格構造は,

左右それぞれの足底部を有し,左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有する左右の脚部骨格と,

外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,

外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該腰部骨格に連結される胴部骨格と,

左右それぞれの手首部を有し,左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で一連の人形骨格群を構成し,

前記胴部骨格は,腰部骨格と連結される腹骨格部と,

該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成され,前記腹骨格部と前記胸骨格部は,双方の間で分割されたそれぞれの外皮で覆われており,

前記腹骨格部は,

前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え,かつ前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備えており,

前記腰部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

前記胸部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え,

前記腰部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第一嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と腰部骨格を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,

前記胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第二嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,

前記腕部骨格は肩部の骨格を有し,少なくとも前記肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されており,

前記一連の人形骨格群を構成する前記各骨格が着脱可能であることを特徴とするソフトビニル製大型可動人形の骨格構造。」(以下「本件発明」という。)

3  審決の理由

別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

(1)  訂正請求2ついて

訂正事項1-アないし訂正事項1-サは,いずれも特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的として,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから,訂正事項1は,特許法134条の2第1項1号及び3号に該当し,同法134条の2第5項で準用する同法126条3項の規定に適合する。訂正事項1-イによる訂正は,意味の変更を伴うものではないから,訂正請求項1全体としては特許請求の範囲の減縮となっており,かつ,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから,訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでなく,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に適合する。したがって,訂正事項1による請求項1の訂正は,適法である。

訂正事項2は,訂正事項1により訂正された特許請求の範囲の請求項1の記載に明細書の発明の詳細な説明中の対応箇所を整合させるために,訂正請求項1の記載をそのまま記載したにすぎないものであるから,特許法134条の2第1項3号規定の明りょうでない記載の釈明に該当し,また,特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項及び4項に適合する。したがって,訂正事項2による訂正は,適法である。

よって,訂正請求2による訂正を認める。

(2)  容易想到性について

ア(ア) 本件発明は,本件特許の特許出願前に日本国内において公然実施された株式会社バンダイ(以下「バンダイ」という。)の製造・販売に係る商品である「LIMITED MODEL HG SERIES 11 第3使徒サキエル」(以下「第1商品」という。)に係る発明(以下「第1商品発明」という。)及び甲1~35に開示された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。

(イ) 本件審決が,上記判断を導く過程において認定した第1商品発明の内容,本件発明と第1商品発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。

a 第1商品発明の内容

「ラバーパーツの中で組み立てられて,組み立てられた状態において,ソフトビニル製のラバーパーツに被覆された状態になって人形となる可動フレームであって,

可動フレームは,右腕フレーム,左腕フレーム,右脚フレーム,左脚フレーム及びボディフレームを有し,さらにボディフレームは,右腕フレームと左腕フレームを取り付けるフレームA,フレームAのP.C(A)パーツに接続する円筒状部を備えA(34)パーツとA(35)パーツとP.C(E)パーツの3つのパーツから成るフレームB,右脚フレームと左脚フレームを取り付けるフレームC,フレームBのP.C(E)パーツに接続する円筒状部とフレームCのP.C(E)パーツに接続する円筒状部を備えたA(3)パーツ,からなり,

A(3)パーツとフレームCは,フレームCのP.C(E)パーツの円筒穴とA (3)パーツの円筒状部とで回動可能に連結され,かつ,フレームCのP.C(E)パーツの部分が前後方向に回動することにより,相対的に前後方向に回動し,

A(3)パーツとフレームBは,フレームBのP.C(E)パーツの円筒穴とA(3)パーツの円筒状部とで回動可能に連結され,かつ,フレームBのP.C(E)パーツの部分が前後方向に回動することにより,相対的に前後方向に回動し,

フレームAとフレームBは,フレームAのP.C(A)パーツの円筒穴にフレームBの上部円筒状部を差し込むことによって回動可能に連結され,

右腕フレームと左腕フレームには手首部はなく,ラバーパーツの外部から右腕フレームに右前腕を,左腕フレームに左前腕をそれぞれ接続し,かつ,右腕フレームにはA(22)パーツとA(24)パーツとA(26)パーツとA(28)パーツからなる肩パーツを備え,左腕フレームにはA(23)パーツとA(25)パーツとA(27)パーツとA(29)パーツからなる肩パーツを備え,

右脚フレーム,左脚フレームには足首部はなく,ラバーパーツの外部から右脚フレームに右足首を,左腕フレームに左足首をそれぞれ接続し,

右足首と左足首には足底があり,

右腕フレーム,左腕フレーム,右脚フレーム,左脚フレーム及びボディフレームと,ラバーパーツとの間には隙間があり,

ボディフレームに対する右腕フレーム,左腕フレーム,右脚フレーム,左脚フレームとボディフレームとは着脱可能である,

可動フレーム。」

b 一致点

「ソフトビニル製の外皮と,該外皮とは別体で,かつ該外皮によって覆われてソフトビニル製人形を構成する骨格構造であって,

前記骨格構造は,

左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有する左右の脚部骨格と,

外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該左右の脚部骨格に連結される腰部骨格と,外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該腰部骨格に連結される胴部骨格と,

左右の外皮によって覆われて,外皮との間に隙間を有し,該胴部骨格と連結される左右の腕部骨格で一連の人形骨格群を構成し,

前記胴部骨格は,

腰部骨格と連結される腹骨格部と,

該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成され,

前記腹骨格部は,

腰部骨格連結部を一端側に備え,

かつ胸部骨格連結部を他端側に備えており,

前記腰部骨格連結部は,

腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

前記胸部骨格連結部は,

胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え,

前記腰部骨格連結部における第一嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,腹骨格部と腰部骨格を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,

前記胸部骨格連結部における第二嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,

前記腕部骨格は肩部の骨格を有し,

前記一連の人形骨格群を構成する前記各骨格が着脱可能である,

ソフトビニル製可動人形の骨格構造。」

c 相違点

<相違点1>

本件発明においては,「ソフトビニル製の外皮」が,「分割して形成されて,それぞれが着脱可能」であって,その「それぞれの外皮」が骨格構造を覆うのに対して,第1商品発明においては,ラバーパーツは分割して形成されていない点。

<相違点2>

本件発明においては,「ソフトビニル製」「可動人形」が,「大型」であるのに対して,第1商品発明は大型であるとはいえない点。

<相違点3>

本件発明においては,「左右の脚部骨格」が,「左右それぞれの足底部を有」するのに対し,第1商品発明は,ラバーパーツの外部から右脚フレームに右足首を,左脚フレームに左足首をそれぞれ接続し,右足首及び左足首が足底を持つ点。

<相違点4>

本件発明においては,「左右の腕部骨格」が,「左右それぞれの手首部を有」するのに対し,第1商品発明は,右腕フレームと左腕フレームに手首部はなく,ラバーパーツの外部から右腕フレームに右前腕を,左腕フレームに左前腕をそれぞれ接続する点。

<相違点5>

本件発明においては,「腹骨格部と」「胸骨格部は,双方の間で分割されたそれぞれの外皮で覆われて」いるのに対し,第1商品発明は,ラバーパーツが分割されていない点。

<相違点6>

本件発明においては,「腰部骨格連結部」が,「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され」る「腹骨格部と揺動可能に連結される部位」を備え,「前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される」のに対し,第1商品発明は,ボディフレームのA(3)パーツ(本件発明の「腰部骨格連結部」に相当する部材)が上記発明特定事項を備えていない点。

<相違点7>

本件発明においては,「胸部骨格連結部」が,「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され」る「腹骨格部と揺動可能に連結される部位」を備え,「前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される」のに対し,第1商品発明は,ボディフレームのフレームB(本件発明の「胸部骨格連結部」に相当する部材)がネジではない別の手法で一体に連結されかつ,前後に揺動可能ではあるが,左右に揺動せず,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結されているか不明な点。

<相違点8>

本件発明においては,「腰部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第1嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と腰部骨格を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われている」のに対し,第1商品発明は,全体としてはラバーパーツで覆われているものの各部位のそれぞれが腹骨格部と腰部骨格を覆う外皮によってそれぞれ覆われていないので,上記発明特定事項を備えていない点。

<相違点9>

本件発明においては,「胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第2嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われて」いるのに対し,第1商品発明は,全体としてはラバーパーツで覆われているものの各部位のそれぞれが腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によってそれぞれ覆われていないので,上記発明特定事項を備えていない点。

<相違点10>

本件発明においては,「少なくとも前記肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されて」いるのに対し,第1商品発明のラバーパーツ(本件発明の「外皮」に相当する部材)は,右腕フレームのA(22)パーツとA(24)パーツとA(26)パーツとA(28)パーツからなる肩パーツと,左腕フレームのA(23)パーツとA(25)パーツとA(27)パーツとA(29)パーツからなる肩パーツを覆っているものの,当該ラバーパーツの一端は嵌着されていない点。

イ(ア) 本件発明は,本件特許の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲3(特開平6-23154号公報)に記載された発明(以下「甲3発明」という。)及び甲1~35に開示された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。

(イ) 本件審決が,上記判断を導く過程において認定した甲3発明の内容,本件発明と甲3発明との相違点は,次のとおりである。

a 甲3発明の内容

「一つの芯材で多用な形の人体像の製作に対応できる人体像制作用芯材において,基台A1に固定した直立の支柱A2に支持部材A3を多少力を加えないと動かない半固定状態で差し込み,支持部材A3と支持部材A4を支持部材A5で連結し,さらに支持部材A4とS14を連結し,さらにS14とS13とS15をS16で連結し,さらにS15とS17を連結し,さらにS17とS18をS19で連結し,さらにS18とS20を連結し,さらにS20とS21とS22をS23とS24で連結し,さらにS21とRF1を連結し,さらにRF1とRF2をRF3で連結し,さらにRF2とRF4を連結し,さらにRF4とRF5をRF6で連結し,さらにRF5とRF7を連結し,さらにRF7とRF8をRF9で連結し,さらにS22とLF1を連結し,さらにLF1とLF2をLF3で連結し,さらにLF2とLF4を連結し,さらにLF4とLF5をLF6で連結し,さらにLF5とLF7を連結し,さらにLF7とLF8をLF9で連結し,さらにS13とS11を連結し,さらにS11とS10をS12で連結し,さらにS10とS8を連結し,さらにS8とS7をS9で連結し,さらにS7とS6を連結し,さらにS6とS4を連結し,さらにS4とS2をS5で連結し,さらにS2とS1をS3で連結し,さらにS6とRH1を連結し,さらにRH1とRH2をRH3で連結し,さらにRH2とRH4を連結し,さらにRH4とRH5をRH6で連結し,さらにRH5とRH7を連結し,さらにRH7とRH8をRH9で連結し,さらにS6とLH1を連結し,さらにLH1とLH2をLH3で連結し,さらにLH2とLH4を連結し,さらにLH4とLH5をLH6で連結し,さらにLH5とLH7を連結し,さらにLH7とLH8をLH9で連結し,

連結した部分は多少力を加えないと動かない半固定状態で屈曲,回動し,

連結部分は着脱可能である,

人体像制作用芯材。」

b 相違点

甲3発明は,本件発明の「外皮」に相当するものを備えていない。

ウ(ア) 本件発明は,本件特許の特許出願前に日本国内において公然実施されたバンダイの製造・販売に係る商品である「マジンガーZ EXTRA HEAVY VERSION」(以下「第2商品」という。)に係る発明(以下「第2商品発明」という。)及び甲1~35に開示された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たということはできない。

(イ) 本件審決が,上記判断を導く過程において認定した第2商品発明の内容,本件発明と第2商品発明との相違点は,次のとおりである。

a 第2商品発明の内容

「組み立てられた状態において,人形となる可動フレームであって,

可動フレームは,胴体,頭,右腕,左腕,右脚,左脚を有し,

右腕は,D(7)パーツの内部のミゾにB(11)パーツとB(12)パーツからなる肩部可動構造の一方をミゾに合わせてはめ込み,その先端にB(4)パーツとB(6)パーツとB(7)パーツとB(9)パーツからなる肘部可動構造の一方をB(19)パーツを介して接続し,肘部可動構造の他方をC(8)パーツの内部のミゾに合わせてはめ込み,さらにF(2)パーツの内部から外側に肩部可動構造の他方を通したものであり,

左腕は,D(8)パーツの内部のミゾにB(11)パーツとB(13)パーツからなる肩部可動構造の一方をミゾに合わせてはめ込み,その先端にB(3)パーツとB(5)パーツとB(8)パーツとB(10)パーツからなる肘部可動構造の一方をB(19)パーツを介して接続し,肘部可動構造の他方をC(9)パーツの内部のミゾに合わせてはめ込み,さらにF(2)パーツの内部から外側に肩部可動構造の他方を通したものであり,

右脚は,D(5)パーツの内部のミゾにB(20)パーツとB(28)パーツからなる足の付け根の可動構造の一方をミゾに合わせてはめ込み,その先端にB(21)パーツとB(23)パーツとB(29)パーツとB(32)パーツからなるひざ部可動構造の一方をB(27)パーツを介して接続し,ひざ部可動構造の他方をC(1)パーツの内部のミゾに合わせてはめ込み,ひざ部可動構造の他方の先端をC(7)パーツとE(6)パーツからなる足底部に接続したものであり,

左脚は,D(6)パーツの内部のミゾにB(20)パーツとB(28)パーツからなる足の付け根の可動構造の一方をミゾに合わせてはめ込み,その先端にB(22)パーツとB(24)パーツとB(30)パーツとB(31)パーツからなるひざ部可動構造の一方をB(27)パーツを介して接続し,ひざ部可動構造の他方をC(2)パーツの内部のミゾに合わせてはめ込み,ひざ部可動構造の他方の先端をC(7)パーツとE(6)パーツからなる足底部に接続したものであり,

胴体は,B(17)パーツとB(18)パーツを組み合わせて成る,右脚と左脚を接続する部分(腰部分)と,B(1)パーツとB(2)パーツとB(14)とパーツB(15)とパーツB(16)パーツを組み合わせて成る,右腕と左腕を接続する部分(胸部分)と,腰部分から上部に一体的に伸びた棒体の先端にある球体と胸部分から下部に一体的に伸びた棒体の先端にある球体を,B(25)パーツとB(26)パーツを2つのビスとナットでネジを介して一体に連結する部分(腹部分)からなり,腹部分の外部はD(1)パーツとD(2)パーツで覆われており,胸部分の外部はF(3)パーツで覆われており,腰部分の外部はF(1)パーツで覆われており,

各パーツは,EパーツとFパーツは合成ゴム製であり,BパーツはABS樹脂製,CパーツはABS高比重樹脂製,AパーツとDパーツはスチロール樹脂製であり,胸部分と腹部分は,相対的に左右方向に回動し,腰部分と腹部分は,相対的に左右方向に回動する,

可動フレーム。」

b 相違点

(a) 相違点(a)

本件発明が

「前記腹骨格部は,

前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え,かつ前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備えており,

前記腰部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

前記胸部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え,

前記腰部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第一嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と腰部骨格を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,

前記胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第二嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆われており,」

という発明特定事項を備えるのに対し,第2商品発明は胸部と腹部及び腰部と腹部が前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結されているが,上記発明特定事項を備えていない点。

(b) 相違点(b)

本件発明が「少なくとも前記肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されて」いるという発明特定事項を備えるのに対し,第2商品発明は上記発明特定事項を備えていない点。

(3)  特許法36条6項1号,2号違反の有無について

「前後・左右方向に揺動可能」とは「前後・左右方向に回動可能」も含むものとして把握することが妥当であり,訂正請求2により訂正された本件特許の請求項1に係る発明である本件発明は,特段不明確であるということはできず,明細書等に実質的に記載されていないということもできない。したがって,訂正請求2により訂正された本件特許の請求項1の記載が,特許法36条6項1号又は2号に違反するとは認められない。

第3当事者の主張

1  取消事由に関する原告の主張

本件審決は,訂正請求2の適法性の判断を誤り(取消事由1),第1商品発明に基づく容易想到性の判断を誤り(取消事由2),甲3発明に基づく容易想到性の判断を誤り(取消事由3),第2商品発明に基づく容易想到性の判断を誤った(取消事由4)ものであり,本件審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消されるべきである。

(1)  訂正請求2の適法性の判断の誤り(取消事由1)

ア 訂正事項1-クについて

本件審決は,「揺動可能」という文言は,文字どおり「揺れ動くことが可能」の意味であることは当業者ならずとも一般人でも理解できるとした上で,「揺動可能」という文言に「回動」という文言が含まれるとして訂正事項1-クは適法であると判断したが,誤りである。

願書に添付した明細書の段落【0019】の記載中には「前後左右に回動」と記載されており,「前後左右に揺動」なる記載は存在せず,また,願書に添付した図面の図2及び図8中にも「揺動」なる記載は存在せず,願書に添付した明細書及び図面には「揺動」という文言に関する説明が一切記載されていない。本件審決は,訂正根拠とされた実施態様を含むように解釈することが必要であるなどというが,このような解釈姿勢は,明細書でサポートされていないクレーム概念を,明細書で適切にサポートされているという前提に立って解釈していることに他ならず,問題である。被告自身も,少なくとも特許請求の範囲や明細書の記載において,「揺動」と「回動」は異なる概念であるとして明確に使い分けている。

本件発明において,「揺動」という動きの意味が確定しない以上,訂正事項1-クが新たな技術的事項を導入するものであるのか否か自体の判断ができないし,被告自身が,異なる概念として用いていると説明している以上,訂正事項1-クは,回動を根拠としての訂正では,別の技術的事項を導入することになるのは明らかであって,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の規定に違反する。

イ 訂正事項1-ケ及び同1-コについて

本件審決は,願書に添付した明細書の段落【0025】の記載や【図12】(a)(b)を参酌し,願書に添付した明細書の段落【0019】の記載や【図1】,【図2】,【図8】(a)(b)に基づいて「腰部骨格連結部」が「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され」たものと減縮する訂正事項,及び「胸部骨格連結部」が「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され」たものと減縮する訂正事項は適法であると判断したが,誤りである。

腰部骨格連結部51の正面図(【図1】,【図8】(a))に表れる上下方向の縦線が腰部骨格連結部51を左右方向に分割する縦線を表しており,腰部骨格連結部51の側面図(【図1】,【図8】(b))に表れる第一玉部52に重ならない位置に「○」内に「X」が書かれた記号がネジを表しており,腰部骨格連結部51は,正面図から見て左右方向に分割された部材を2つのネジで第一玉部52を挟み込むように一体的に連結されたものであると解釈するのであれば,腰部骨格連結部51の正面図(【図1】,【図8】(a))において腰部骨格連結部51のU字状部分の各片に架け渡されるようにネジが表れるはずであるが,正面図にはネジに該当する部材が表れておらず,明細書の段落【0019】の記載や【図1】,【図2】,【図8】(a)(b)からは,分割して形成された腰部骨格連結部がネジを介して一体に連結されたものであることが開示されているとはいえない。

また,胸部骨格連結部56の正面図(【図1】,【図8】(a))に表れる上下方向の縦線が胸部骨格連結部56を左右方向に分割する縦線を表しており,胸部骨格連結部56の側面図(【図1】,【図8】(b))に表れる第二玉部53に重ならない位置に「○」内に「X」が書かれた記号がネジを表しており,胸部骨格連結部56は,正面図から見て左右方向に分割された部材を2つのネジで第二玉部53を挟み込むように一体的に連結されたものであると解釈するのであれば,胸部骨格連結部56の正面図(【図1】,【図8】(a))において胸部骨格連結部56の逆U字状部分の各片に架け渡されるようにネジが表れるはずであるが,正面図にはネジに該当する部材が表れておらず,明細書の段落【0019】の記載や【図1】,【図2】,【図8】(a)(b)からは,分割して形成された胸部骨格連結部がネジを介して一体に連結されたものであることが開示されているとはいえない。

したがって,明細書の段落【0019】の記載や【図1】,【図2】,【図8】(a)(b)に基づいて,「腰部骨格連結部」が「分割して形成され,……ネジを介して一体に連結され」たものと減縮する訂正事項や,「胸部骨格連結部」が「分割して形成され,……ネジを介して一体に連結され」たものと減縮する訂正事項は,不適法である。

(2)  第1商品発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

ア 本件審決の対比に基づく容易想到性の判断の誤り

(ア) 相違点1,5,8,9,10についての判断の誤り

a 本件審決は,甲4,甲13,甲14,甲25,甲17,甲21の各号証には,胸部と腹部が分割して形成されたソフトビニル製の外皮を開示するものは見当たらないとした。確かに,前記各号証には,胸部と腹部が分割して形成されたソフトビニル製の外皮を直接的に開示するものは見当たらない。しかし,甲4に示された商品は,胸部と腹部が分割して形成された外観パーツが開示されており,当該外観パーツを形成する材料としてソフトビニルを使用することは,甲13,甲14,甲25及び甲17に開示されているといえるから,これらの周知・公知技術に基づいて当業者が「胸部と腹部が分割して形成されたソフトビニル製の外皮」を想到することは容易である。すなわち,人形胴体の成形において,胴部を一体にするか,適宜分割するかといったことや,また,その部位の成形につき,様々に存在する周知の材料のどれを選択するかといった程度のことは,当業者が行う通常の制作作業にすぎない。

b 本件審決は,本件発明における「嵌着」なる用語の意味を「広辞苑」の記載及び明細書の段落【0033】の記載を参照して「くぼみに入れて固定し着ける」と解釈した。しかし,「広辞苑」にも記載されているように,「嵌着」なる用語には,「くぼみに入れて固定する」という意味以外にも「嵌める」という意味がある。また,本件発明は,「少なくとも肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されている」という構成を備えたものであり,段落【0033】に記載された「上記肩部59の上腕外皮上端嵌着部62の嵌合凹部(段部)64に嵌着される開口縁119を突設すると共に,下端に設けた開口120の径方向に,上記肘部68の上腕外皮下端嵌着部69の嵌合凹部(段部)72に嵌着される開口縁121を突設してなる」という構成に限定されたものではない。したがって,本件発明における「嵌着」なる用語は「嵌める」という意味も持つと解釈される。そうすると,少なくとも甲13及び甲17のそれぞれに示された商品は,肩部の骨格に腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌っていることから,本件発明における「少なくとも肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されている」という構成は,甲13及び甲17に開示されているといえる。

c 本件審決は,第1商品発明をプラモデルと捉え,プラモデルの主目的からすれば,当業者において第1商品発明のラバーパーツを分割して着脱可能にするという技術を適用する動機付けは存在しないとした。しかし,本件審決における第1商品の捉え方は,消費者の立場で第1商品に接した場合の捉え方であり,当業者の立場での捉え方でないため,特許法29条2項に明らかに違反している。なぜなら,当業者が第1商品に接した場合には,第1商品から認識できるプラモデルという販売の形態にとらわれず,第1商品に内包されている技術に着目して更なる技術改良を施すことを目的とした研究・開発を試みることは当然である。当業者が第1商品を組み立てる目的は,第1商品に採用されている構造を理解するためであり,第1商品に設定されているモデルを忠実に再現することを目的としていないことは自明のことである。したがって,当業者であれば,第1商品に採用されているラバーパーツを他のキャラクターをモデルとしたプラモデルに利用する際に,甲4,甲13,甲14,甲25,甲17に開示された外観パーツを参考にして分割して着脱可能にすることは容易に想到し得るものといえる。

本件審決は,外観部材を着脱可能な分割構造とする技術を第1商品発明に適用して,第1商品発明のラバーパーツを分割したとしても,第1商品発明のラバーパーツ内に納められた可動フレームは,甲13に示された商品のように分割した外観部材を個別に保持できるようなフレーム構造ではないので,可動フレームの構造を変更することなく分割したラバーパーツを着脱可能に装着して保持することはできないとしているが,分割されたラバーパーツを保持できるように適宜可動フレームを変更することは,甲4,甲13,甲14,甲25,甲17にも開示されており,当業者であれば容易に想到できる設計変更にすぎない。

d 本件審決は,「胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第2嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆」うことを甲1ないし甲35の開示内容から当業者が容易に想到し得るとはいえないと判断した。しかし,甲13及び甲17に示された発明が,隣り合う外皮によって当該隣り合う外皮で覆う骨格を外部から直視できないように覆う構成を有していることは明らかである。したがって,甲13及び甲17に基づいて,当業者であれば,胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第2嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆うことを容易に想到できるといえる。

e 以上のことから,本件審決が甲1ないし甲35の開示内容から相違点1,5,8,9,10に係る発明特定事項を得ることは当業者といえども容易に想到し得るものではないとした判断は,誤りである。

(イ) 相違点3,4,6,7についての判断の誤り

本件審決は,第1商品発明に第2商品の腹部分の接続構造を採用し,さらに,甲32に示された商品の胸部と腹部の間のABS-DNo.1パーツと腰部と腹部の間のABS-DNo.1パーツを採用することは,甲32に示された商品の前後・左右に揺動可能にする構造の一部分と,第2商品の前後・左右に揺動可能にする構造の一部分を採用して組み合わせた新たな前後・左右に揺動可能にする構造を創造し,その新たな構造を第1商品発明のフレームB及びA(3)パーツからなる構造と置換するという作業を伴うものであり,当業者が容易に想到できるとはいえないと判断した。すなわち,第1商品発明に対し,先ず,第2商品の構造を採用し,次に,甲32に示された商品の構造を採用する順序で検討し,前記結論に至っている。

しかし,第1商品発明に対し,先ず,甲32の構造を採用し,次に,第2商品の構造を採用する順序で検討すれば,前記結論には至らない。なぜなら,第1商品発明のフレームBとA(3)パーツからなる腹骨格部として,甲32に示された商品の2つのABS-DNo.1パーツと2つのPC-C8mmパーツと6.パーツからなる腹骨格部を採用し,胸部と腹部の間のABS-DNo.1パーツの嵌合軸を第1商品発明のフレームAにおけるP.C(A)パーツの嵌合穴に差し込むとともに,腰部と腹部の間のABS-DNo.1パーツの嵌合軸を第1商品発明のフレームCにおけるP.C(E)パーツの嵌合穴に差し込むことにより,「腹骨格部は,前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え」るという事項と,「腹骨格部は,前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備え」るという事項を得ることができる。次に,第1商品発明に採用した甲32に示された商品の2つのPC-C8mmパーツと6.パーツの代わりに第2商品のB(25)パーツとB(26)パーツを2つのビスとナットで一体に連結した部分を採用することにより,「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項と,「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項を得ることができる。なお,前記のように,第1商品発明に甲32に示された商品及び第2商品発明を適用した場合には,胸部骨格連結部及び腰部骨格連結部ではなく,腹骨格部が分割して形成され,ネジを介して一体に連結された状態となっているが,ボールジョイント構造において,球体と該球体の支持体との関係を入れ替えることは,当業者が容易に想到できる設計変更にすぎない。

したがって,前記構成の置換は,当業者であれば容易に想到することができる。

以上のことから,本件審決が甲1ないし甲35の開示内容から相違点6,7に係る発明特定事項を得ることが容易想到であるとはいえないとした判断は,誤りである。

(ウ) 本件発明の効果についての判断の誤り

本件審決は,本件発明の作用効果は,甲1ないし甲35の開示内容から当業者が予測し得ることはできない格別の効果を奏しているものであると判断した。

しかし,「大型の人形において外皮部分をソフトビニル製で構成しても,自立が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できると共に,軽量でかつ軟質なため,落下・転倒などしても安全で,破損も防げるという効果,外皮がソフトビニル製であるため製作容易(スラッシュ成形など)で,かつコスト安価なため,この種の大型可動人形の製作上大幅なコスト減となる効果,夫々の骨格が着脱可能で,かつ夫々の外皮も着脱可能であるため,搬送費用低廉となり,結果的に製品価格も低く抑えることができるため需要者ニーズに応えることができる効果」については,甲17に示された商品も同様の作用効果を有することは明らかである。

イ 原告の対比に基づく容易想到性の判断の誤り

(ア) 原告は,審判事件請求書(甲56)において第1商品発明における「ボディーフレーム」の「P.C(E)パーツを除いたフレームCの下部」が「腰部骨格」に,「A(3)パーツ」と「フレームCのP.C(E)パーツ」と「フレームBのP.C(E)パーツ」が本件発明における「腹骨格部」に,「フレームA」が本件発明における「胸骨格部」に,「P.C(E)パーツを除いたフレームCの上部」が本件発明における「腰部骨格連結部」に,「P.C(E)パーツを除いたフレームB」が本件発明における「胸部骨格連結部」にそれぞれ相当するとした。そこで,上記原告の対比に基づいて本件発明の胴部骨格及び腰部骨格の構成が第1商品発明と甲1ないし甲35に示された発明から当業者が容易に想到できたか否かについて検討する。

(イ) 本件発明の胴部骨格及び腰部骨格の構成

本件発明の胴部骨格及び腰部骨格の構成は訂正請求項1に記載されているとおり,

a.前記胴部骨格は,

腰部骨格と連結される腹骨格部と,

該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能に構成され,

b.前記腹骨格部は,

前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え,かつ前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備えており,

c.前記腰部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備え,

d.前記胸部骨格連結部は,

分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結され,かつ,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え,

である。

(ウ) 本件発明と第1商品発明との対比

先ず,胴部骨格を構成する逆U字状部材,上側ブロック部材,棒状部材,下側ブロック部材及び脚部骨格連結部材の上部を連結させた部材を腹骨格部とみなし,両腕部骨格連結部材,逆T字状部材及びU字状部材を連結させた部材を胸骨格部とみなすと,胴部骨格は,腰部骨格と連結される腹骨格部と,腹骨格部と連結される胸骨格部から構成されているといえる。

また,腹骨格部を構成する逆U字状部材は,胸骨格部を構成するU字状部材の軸受孔に突起軸を差し込むことによって回動可能に連結されている。

したがって,胴部骨格は,本件発明の構成要件aである「腰部骨格と連結される腹骨格部と,該腹骨格部と連結される胸骨格部からなる複数骨格によって駆動可能」なる構成を有しているといえる。

次に,腹骨格部を構成する脚部骨格連結部材の上部を腰部骨格連結部とみなし,逆U字状部材を胸部骨格連結部とみなすと,腰部骨格連結部を構成する脚部骨格連結部材の上部は,腹骨格部を構成する下側ブロック部材の対軸を挟み込むことによって前後に揺動可能に連結されており,また,胸部骨格連結部を構成する逆U字状部材は,腹骨格部を構成する上側ブロック部材を挟み込むことによって前後に揺動可能に連結されていることから,腹部骨格は,本件発明の「前後に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え,かつ前後に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備え」なる構成を有しているといえる。

次に,脚部骨格連結部材は二分割できる部材から形成されており(甲1の20組立手順3参照),腰部骨格連結部を構成する脚部骨格連結部材の上部は,腹骨格部を構成する下側ブロック部材の対軸を挟み込むことによって揺動可能に連結されていることから,腰部骨格連結部は,本件発明の「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともに一体に連結され」なる構成を有しているといえる。

次に,逆U字状部材は二分割できる部材から形成されており(甲1の20組立手順3参照),胸部骨格連結部を構成する逆U字状部材は,腹骨格部を構成する上側ブロック部材を挟み込むことによって揺動可能に連結されており,胸部骨格連結部を構成する逆U字状部材は,胸部骨格を構成するU字状部材の軸受孔に突起軸を差し込むことによって回動可能に連結されていることから,胸部骨格連結部は,本件発明の「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともに一体に連結され,かつ,胸骨格部に備えた嵌合穴に回動可能に嵌合される第二嵌入杆を備え」なる構成を有しているといえる。

(エ) 本件発明と第1商品発明との相違点

前記の対比を考慮すると,本件発明と第1商品発明とは次の点で相違している。

a 腹骨格部と腰部骨格連結部とが左右に揺動可能でない点(相違点①)。

b 腹骨格部と胸部骨格連結部とが左右に揺動可能でない点(相違点②)。

c 腰部骨格連結部がネジを介して一体に連結されていない点(相違点③)。

d 腰部骨格連結部が,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備えていない点(相違点④)。

e 胸部骨格連結部がネジを介して一体に連結されていない点(相違点⑤)。

(オ) 相違点の判断

a 相違点①,②について

腹骨格部と腰部骨格連結部又は胸部骨格連結部とをボールジョイント構造を利用して前後・左右に揺動可能に連結することは,甲4,甲14及び甲57に開示されていることから周知技術であるといえる。したがって,当該周知技術を第1商品発明に適用することは,当業者であれば容易に想到できたものと認められる。

b 相違点③,⑤について

腰部骨格連結部に対応する脚部骨格連結部材及び胸部骨格連結部に対応する逆U字状部材は共に2分割されている。そして,2分割された部材を連結させる際に,スナップフィット結合を採用するか,ネジ止めを採用するかは,当業者が適宜定める設計上の変更にすぎない。したがって,相違点③,⑤は格別なものとは認められない。

c 相違点④について

甲3に開示された発明の人体像制作用芯材においては,腰部骨格連結部に対応するS18が,腰部骨格に対応するS20~S24の中のS20に備えた嵌入杆に回動可能に嵌合される嵌合穴を備えている。そして,甲3に開示された発明の人体像制作用芯材と第1商品とは,外皮によって覆われた人形を構成する骨格構造である点で共通しており,人体像制作用芯材の腰部骨格連結部と腰部骨格の連結構造を第1商品に適用することについて阻却事由も見つからないことから,第1商品に人体像制作用芯材の腰部骨格連結部と腰部骨格の連結構造を適用することは,当業者であれば容易に想到できたものと認められる。なお,本件発明においては,腰部骨格連結部の第一嵌入杆と腰部骨格の嵌合穴を嵌合させているのに対し,甲3に開示された発明の人体像制作用芯材においては,腰部骨格連結部の嵌合穴と腰部骨格の嵌入杆を嵌合させており,嵌合穴と嵌入杆の位置関係が逆転しているが,嵌合穴と嵌合杆の位置関係を入れ替えることは,当業者にとって容易に考えられる設計変更にすぎない。

(カ) 以上のことから,第1商品発明の胴部骨格及び腰部骨格の構成を原告の対比のように認定したとしても,本件発明は,第1商品発明と甲1ないし甲35及び甲57に示された発明から当業者が容易に想到できたものということができる。

(3)  甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由3)

本件審決は,本件発明における外皮の特徴のうち,相違点1,5,8,9,10の「外皮と骨格構造の関係」に関する相違点で検討した発明特定事項は,既に検討したとおり,第1商品発明及び甲1ないし甲35の開示内容から,当業者といえども容易に想到し得るものではないと判断したが,前記(2)ア(ア)aで主張したとおり誤りである。

また,本件審決は,「本件発明は,大型の人形において外皮部分をソフトビニル製で構成しても,自立が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できると共に,軽量でかつ軟質なため,落下・転倒などしても安全で,破損も防げるという効果,外皮がソフトビニル製であるため製作容易(スラッシュ成形など)で,かつコスト安価なため,この種の大型可動人形の製作上大幅なコスト減となる効果,夫々の骨格が着脱可能で,かつ夫々の外皮も着脱可能であるため,搬送費用低廉となり,結果的に製品価格も低く抑えることができるため需要者ニーズに応えることができる効果,を備えており,甲第1号証ないし甲第35号証の開示内容から当業者が予測しうることはできない,格別の効果を奏するものである」と判断したが,前記(2)ア(ウ)で主張したとおり誤りである。

(4)  第2商品発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由4)

本件審決は,外皮に関する相違点については,相違点1,5,8,9,10の「外皮と骨格構造の関係」に関する相違点で検討したとおり,甲1ないし甲35の開示内容から当業者が容易に想到し得るとはいえないと判断したが,前記(2)ア(ア)aで主張したとおり誤りである。

また,本件審決は,腹骨格部の構造に関する相違点については,相違点3,4,6,7の「骨格構造」に関する相違点で検討したとおり,甲1ないし甲35の開示内容から当業者が容易に想到し得るとはいえないと判断した。しかし,第2商品発明は,「胸部と腹部及び腰部と腹部が前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結されて」おり,また,第2商品発明に対して甲32に示された商品の2.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係及び5.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係を採用することにより,「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項と,「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項を得ることができる。なお,前記のように,第2商品発明に甲32に示された商品を適用した場合には,胸部骨格連結部及び腰部骨格連結部ではなく,腹骨格部が分割して形成され,ネジを介して一体に連結された状態となっているが,ボールジョイント構造において,球体と該球体の支持体との関係を入れ替えることは当業者が容易に想到できる設計変更にすぎない。したがって,本件審決の前記判断は誤りである。

また,本件審決は,第2商品発明と本件発明とは,本件発明が「少なくとも前記肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されて」いるという発明特定事項を備えるのに対し,第2商品発明は上記発明特定事項を備えていない点という相違点があるとしているが,この相違点については,前記(2)ア(ア)bで主張したとおりである。

さらに,本件審決は,「本件発明は,大型の人形において外皮部分をソフトビニル製で構成しても,自立が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できると共に,軽量でかつ軟質なため,落下・転倒などしても安全で,破損も防げるという効果,外皮がソフトビニル製であるため製作容易(スラッシュ成形など)で,かつコスト安価なため,この種の大型可動人形の製作上大幅なコスト減となる効果,夫々の骨格が着脱可能で,かつ夫々の外皮も着脱可能であるため,搬送費用低廉となり,結果的に製品価格も低く抑えることができるため需要者ニーズに応えることができる効果,を備えており,甲第1号証ないし甲第35号証の開示内容から当業者が予測しうることはできない,格別の効果を奏するものである」と判断したが,前記(2)ア(ウ)で主張したとおり誤りである。

以上のことから,本件発明は,第2商品発明と甲1ないし甲35に開示された事項から当業者が容易に導き出し得る発明であるとはいえないとした本件審決の判断は,誤りである。

2  被告の反論

原告主張の取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がない。

(1)  訂正請求2の適法性の判断の誤り(取消事由1)に対して

ア 訂正事項1-クについて

本件審決は,「訂正事項1-クによって訂正された発明特定事項のうち,「腰部骨格連結部」と「胸部骨格連結部」がそれぞれ「前後・左右に揺動可能で」あるという事項は,願書に添付した明細書の段落【0019】の「……腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56は,夫々が前後左右に回動可能(図8中,矢印 Y1 乃至 Y4 で示す前後方向,矢印 Y5 乃至 Y8 で示す左右方向)……」との記載を根拠としている」,「訂正前における「揺動可能」という文言については,文字どおり「揺れ動くことが可能」の意味であることは当業者ならずも一般人でも理解できることであるが,その外延については,明細書の発明の詳細な説明の記載も参酌して合理的に解釈されるべきである。そこで,明細書の発明の詳細な説明の記載も参酌すると,少なくとも,腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56の夫々が前後左右に回動可能(図8中,矢印 Y1 乃至 Y4 で示す前後方向,矢印 Y5 乃至 Y8 で示す左右方向)であるという明細書に記載された実施態様を含むように解釈することが妥当である」「,この場合,「揺動可能」という文言には,「回動」という文言との関係で,次の二つの解釈が可能であると考えられる。すなわち,1)一つの平面内でのみ回動可能な状態(前後方向のみ又は左右方向のみに回動可能な状態)も含むと解釈する,すなわち回動状態を包含する意味での揺れ動くことが可能である状態という広義の意味,2)通常の回動,すなわち,一つの平面内でのみ回動可能な状態と区別する意味(したがって,一つの平面内でのみ回動可能な状態を含まない意味)での揺れ動くことが可能であるという状態という狭義の意味の二つの解釈が可能であると考えられる。「揺動」の意味が前者の広義の意味であった場合,訂正後においては,「前後・左右に揺動可能」と規定されているから特許請求の範囲の減縮に該当すると認められる。「揺動」の意味が後者の狭義の意味であった場合,訂正後においては,「前後・左右方向に揺動可能」と規定されているから,一つの平面内でのみ回動可能な状態とは異なるばかりでなく,前後・左右方向に揺れ動くことが可能であることに限定されるから,やはり,特許請求の範囲の減縮に該当すると認められる」,「そして,前後左右方向に揺れ動くことが可能であるとする訂正事項は,訂正前の特許請求の範囲の記載及び明細書の段落【0019】の記載並びに【図2】及び【図8】に基づいて訂正したものであるから,明細書に記載した事項から自明の範囲内において訂正したものであることは明らかである」としているのであり,全て明細書の記載事項を根拠にして判断しているものであって,文言の意味を勝手に解釈して訂正可否を判断しているものでないことは明らかである。

上述のとおり,「揺動」とは,一般に,「揺れ動くこと。揺り動かすこと。」(「広辞苑」第六版)を意味するところ,上記明細書の記載からみても,訂正事項1-クにおける「揺動」の意義を上記一般的な語義と別異に理解すべき理由は認められない。

したがって,原告の主張は失当であり,訂正事項 1-クは特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の規定に違反するものではないとした本件審決の判断に誤りはない。

イ 訂正事項1-ケ及び同1-コについて

本件審決は,「明細書の段落【0019】の「……図7又は図8の本実施形態に基づいて具体的に説明すると,図8(a)(b)に示す腹骨格部C1は,両端に設けた夫々の第一玉部(図面上で下側)52と第二玉部(図面上で上側)53を,夫々回動可能に嵌め込んだ断面視略U字状の腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56からなり,該腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56の夫々の端部には,第一嵌入杆54と第二嵌入杆55が夫々一体的に立設されている。……」との記載がある」,「【図1】【図2】【図8】(a)(b)から,腰部骨格連結部51の正面図(【図1】【図8】(a))には,上下方向に縦線があることと,腰部骨格連結部51の側面図(【図1】【図8】(b))には,上下方向の縦線はなく第一玉部52に重ならない位置に「○」内に「×」が書かれた記号が,腰部骨格連結部51に2つ記載されていることが見て取れる」,「さらに,【図12】(a)(側面図)には,「○」内に「×」が書かれた記号87という枝番が記載されていることと,【図12】(b)(正面図)に手首部78の上下方向に縦線があることが見て取れ,明細書の段落【0025】に「……そして,上記連結片81は略玉状の被連結部86の径とし,連結時に両者81,86によって全体玉状を構成している。……」と記載されていることから,「○」内に「×」が書かれた記号はネジを示しており,ネジを介して一体的に連結される部材はネジの側面方向(【図12】(b))から見ると,上下方向に縦線があることが見て取れる」,「これらの記載および図面から,正面図及び側面図を記載した図面の読み方の技術常識を参酌することにより,腰部骨格連結部51は,正面図から見て左右方向に分割された部材を2つのネジで第一玉部52を挟み込むように一体的に連結されたものであることが開示されていることは明らかである」としているのであり,全て明細書の記載事項を根拠に,当業者の視点から常識的に判断しており,何ら根拠もなく,かつ,当業者常識を無視して訂正可否を判断しているものでないことは明らかである。したがって,原告の主張は失当であり,訂正事項 1-ケ及び同1-コは,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の規定に違反するものではないとした本件審決の判断に誤りはない。

(2)  第1商品発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対して

ア 本件審決の対比に基づく容易想到性の判断について

(ア) 相違点1,5,8,9,10につき

a 甲4は,プラスチックモデルという点から判断すれば,全てのパーツが分割して成形されているものであるため,胸部のパーツと腹部のパーツが分割していることは当然である。また,甲4,甲13,甲14,甲25及び甲17が,骨格構造を覆う分割されたソフトビニル製の外皮を有しているものではないことも明らかである。したがって,プラスチックモデルキットの各キット品が分割形成されている甲4を挙げ,これに甲13,甲14,甲25及び甲17を組み合わせたとしても,骨格構造を覆うソフトビニル製の胸部の外皮と,同じくソフトビニル製の腹部の外皮が分割して形成されているという構成に,当業者が容易に想到し得るものではない。さらに,プラスチックモデルキットである第1商品(及び甲4)と,完成品人形として製造・販売されている甲13,甲14,甲25及び甲17とは,全く技術分野の異なるものであり,課題(目的)や作用効果も全く異なるため,第1商品と,甲13,甲14,甲25及び甲17を組み合わせる動機付けはあり得ない。

b 「広辞苑」には「嵌着」なる用語についての記載は一切ない。原告の主張は,故意に「嵌着」の語義を甲13,甲17なども含めようとしているものである。本件審決は,「広辞苑」第五版(甲59)に記載された「嵌める」の「②くぼみに入れて固定する」という意味と,本件明細書の段落【0033】の「上記肩部59の上腕外皮上端嵌着部62の嵌合凹部(段部)64に嵌着される開口縁119を突設すると共に,下端に設けた開口120の径方向に,上記肘部68の上腕外皮下端嵌着部69の嵌合凹部(段部)72に嵌着される開口縁121を突設してなる」という記載及び【図10】からして「くぼみに入れて固定し着ける」ことを意味すると解しているのである。なお,「嵌着」という用語を業界的に判断しても「嵌めて固定し着ける」との語義を有していると解釈するのが一般である。本件審決の判断に誤りはなく,甲13及び甲17では,単純に「被せている」だけの構成しか開示されておらず,「固定し着ける」との構成は全く開示されていないから,本件発明における「少なくとも肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されている」という構成が甲13及び甲17に開示されているとの原告の主張は,失当である。

c 本件審決は,「当業者」の基準を「消費者」に限定して判断をしたものではなく,当業者の立場に立って判断していることは明らかである。原告の主張は全く根拠のないものであって失当である。審査基準では,「当業者」は「本願発明の属する技術分野の出願時の技術常識を有し,研究,開発のための通常の技術的手段を用いることができ,材料の選択や設計変更などの通常の創作能力を発揮でき,かつ,本願発明の属する技術分野の出願時の技術水準にあるもの全てを自らの知識とすることができる者を想定」しており,「研究・開発等」に従事している者だけを「当業者」として捉えているものではない。

d 本件審決は,「甲第1号証ないし甲第35号証には,骨格構造との関係において外皮をどのように分割し該分割した外皮でどのように骨格連結部の連結部位を覆うかについて何ら開示が無い」のであるから,甲1ないし甲35の開示内容から当業者が容易に想到し得るとはいえないと帰結しているのである。すなわち,甲1ないし甲35には,「胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第2嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆」うことが容易に想到し得るとする動機付けなど存在していないということである。

(イ) 相違点3,4,6,7につき

原告は,審決において,第1商品発明に対し,先ず,第2商品の構造を採用し,次に,甲32に示された商品の構造を採用する順序で検討し,前記結論に至っているが,第1商品発明に対し,先ず,甲32の構造を採用し,次に,第2商品の構造を採用する順序で検討すれば,前記結論には至らないと主張するが,誤りである。

もともと原告が主引用例として採用する第1商品と副引用例として採用する第2商品とともに,甲32に示された商品を組み合わせて進歩性を判断する動機付けが全くない。すなわち,第1商品,第2商品は,各キット品を順番に組み立てていき,最終的には所定のキャラクター人形が完成するもので,完成状態が最終形態である。これに対し,甲32に示された商品は,いわゆる組み立てたものは,人形用素体という商品であって,この組立完成が最終形態ではなく,この組立完成した状態から更に種々のカスタマイズを加えて人形(ドール)を成形していくものであり,両者は全く技術分野を異にするもので,かつ,その商品課題(目的),作用効果も全く相違するものである。したがって,第1商品,第2商品に甲32の商品を組み合わせる動機付けは存在しない以上,原告の主張は誤りであって採用できないものである。

百歩譲って,仮に動機付けがあったとしても,審決で示すとおり,第1商品発明に第2商品の上記腹部分の接続構造を採用することを検討しても,「腰部骨格連結部の第一嵌入杆,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴,胸部骨格連結部の第二嵌入杆,胸骨格部に備えた嵌合穴」という発明特定事項を持たないという,本件発明との新たな相違点を生じることとなる。そして,上記新たな相違点に係る構成を得るためには,甲32に示された商品の胸部と腹部の間のABS-DNo1パーツと腰部と腹部の間のABS-DNo1パーツを採用する必要がある。したがって,「腰部骨格連結部が……連結され」るという事項と,「胸部骨格連結部が……連結される」という事項のみならず,上記した本件発明との新たな相違点である「腰部骨格連結部の第一嵌入杆……嵌合穴」という事項を得ることは,甲32に示された商品の前後・左右に揺動可能にする構造の一部分と,第2商品の前後・左右に揺動可能にする構造の一部分を組み合わせた新たな前後・左右に揺動可能にする構造を創造し,その新たな構造を第1商品発明のフレームB及びA(3)パーツからなる構造と置換するという作業を伴うものであり,当業者が容易に想到できるとはいえない。

(ウ) 本件発明の効果につき

本件発明は,①大型の可動人形における作用効果,②大型の可動人形の外皮部分をソフトビニル製で構成した際の作用効果,③大型の可動人形の外皮部分をソフトビニル製で構成しても自立が可能で,かつ,一定時間維持できること,④従来の大型可動人形が抱えていた問題を解消し,落下・転倒などしても安全で,破損も防げるとしたこと,⑤従来の大型可動人形と比して,製作容易でかつコスト安価であり,大型可動人形の製作上大幅なコスト減となったこと,⑥大型可動人形において,それぞれの骨格が着脱可能でかつそれぞれの外皮も着脱可能であるため,搬送費用が低廉となり,結果的に製品価格を低く抑え,需要者ニーズに応えることができること,などの種々の作用効果を有しており,これらの作用効果は,大型可動人形において周知の作用効果ではなく,かつ,当業者が容易に想到し得る作用効果でもない。したがって,これら本件発明の作用効果を,甲1ないし甲35の開示内容を含めて総合的に検討した結果,審決は格別の効果を奏しているものであると判断したものであり,この判断に誤りはない。

なお,甲17に示された商品は,本件発明とは異なり,大型の可動人形ではなく,本件発明の作用効果を奏する人形でないことは明らかである。

イ 原告の対比に基づく容易想到性の判断について

(ア) 原告は,主引用例とする第1商品の構成を特定し,本件発明と対比してその相違点を抽出し,相違点を埋めるべく甲4(甲14,甲57)と,スナップフィット結合に係る周知技術と,甲3を副引用例としてそれぞれ当て嵌めている。しかし,第1商品に甲3を結びつける動機付けがなく,本件発明の進歩性を否定するべきではない。すなわち,主引用例は,各キット品を組み立てて所定のキャラクター人形を完成させることを目的とするプラスチックモデルキットに係る商品であり,甲3は,人体像の制作を簡便かつ正確に作ることを目的とする人形用の芯材に係る発明である。第1商品と甲3とは,技術分野も異なり,目的(課題)に共通性もなく,機能作用効果も全く異なるものである。したがって,第1商品に甲3を組み合わせる動機付けがない。

(イ) 百歩譲って,仮に動機付けがあったとして検討する。

原告は,第1商品発明における構成を,①腰部骨格:「ボディーフレーム」の「P.C(E)パーツを除いたフレームCの下部」,②腹骨格部:「A(3)パーツ」と「フレームCのP.C(E)パーツ」と「フレームBのP.C(E)パーツ」,③胸骨格部:「フレームA」,④腰部骨格連結部:「P.C(E)パーツを除いたフレームCの上部」,⑤胸部骨格連結部:「P.C(E)パーツを除いたフレームB」と特定する。

ここで本件発明の「腹骨格部」は,「腰部骨格連結部」を一端側に,そして「胸部骨格連結部」を他端側にそれぞれ備えている。そして,「腰部骨格連結部」は,前後左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように腰部に連結される。「胸部骨格連結部」は,前後左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように胸部に連結されるものである。「腰部骨格連結部」は「P.C(E)パーツを除いたフレームCの上部」が該当し,「胸部骨格連結部」は「P.C(E)パーツを除いたフレームB」が該当するとしているため,腹骨格部には,「胸部骨格連結部」を有しているものの,「腰部骨格連結部」は,備えられていないこととなる。すなわち,原告の対比によれば,原告が掲げる相違点の他に,上記「腹骨格部には,「胸部骨格連結部」を有しているものの,「腰部骨格連結部」は,備えられていない」という相違点も存することとなるが,このような「腹骨格部」の一端に「腰部骨格連結部」を備え,他端に「胸部骨格連結部」を備えた引用例はない。したがって,原告の主張は失当であり,本件発明の進歩性を否定し得るものではない。

なお,原告は,本件特許発明において嵌合穴と嵌合杆の位置関係を入れ替えることは当業者にとって容易に考えられる設計変更にすぎない旨主張する。しかし,そのように嵌合穴と嵌合杆を入れ替える必要性などを甲3において示唆しているものでもなく,かつ,周知技術でもない。したがって,原告のこの主張も失当である。

(3)  甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対して

原告は,本件審決の判断は前記1(2)ア(ア)a及び同(ウ)で検討したとおり誤りであると主張するが,同主張は上記(2)ア(ア)a及び同(ウ)のとおり理由がない。

(4)  第2商品発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対して

原告は,本件発明と第2商品発明との相違点について当業者が容易に想到し得るとはいえないとした本件審決の判断は誤りであると主張するが,既に詳述したとおり,原告の主張こそが誤りである。

第4当裁判所の判断

1  訂正請求2の適法性の判断の誤り(取消事由1)について

(1)  訂正事項1-クにつき

原告は,願書に添付した明細書及び図面には「揺動」という文言に関する説明が一切なく,本件発明において「揺動」という動きの意味が確定しない以上,訂正事項1-クが新たな技術的事項を導入するものであるのか否か自体の判断ができないし,被告自身が「回動」と「揺動」を異なる概念として用いていると説明している以上,訂正事項1-クは,回動を根拠としての訂正では別の技術的事項を導入することになるのは明らかであって,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の規定に違反すると主張する。

しかしながら,「揺動」とは,文字どおり「揺れ動くこと。揺り動かすこと。」(「広辞苑」第五版)を意味する。そして,本件訂正に際して基準とすべき本件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の段落【0019】の「……図8(a)(b)に示す腹骨格部C1は,両端に設けた夫々の第一玉部(図面上で下側)52と第二玉部(図面上で上側)53を,夫々回動可能に嵌め込んだ断面視略U字状の腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56からなり……本実施形態では,胴部骨格Cを,腹骨格部C1と胸骨格部C2の二部構成とし,かつ腰部骨格Bと腹骨格部C1との連結部およびこの腹骨格部C1と胸骨格部C2との連結部を夫々玉52,53を介して回動可能な構造とした……本実施形態において,第一玉部52と第二玉部53を嵌め込む夫々の嵌め込み部51a・51aと56a・56aは,各第一玉部52と第二玉部53を嵌め込んだ時に,腰部骨格連結部51および胸部骨格連結部56が所望位置でその状態(例えば,左右いずれかの方向に所望角度をもって傾斜している状態)を維持できるように,各第一玉部52と第二玉部53が夫々緊密に摺接するよう構成するのが好ましい。このとき,嵌め込み部51a・51aと56a・56aは,夫々の曲面の曲率が各第一玉部52と第二玉部53の曲率と同一若しくは近似するものとする。……腰部骨格連結部51と胸部骨格連結部56は,夫々が前後左右に回動可能(図8中,矢印 Y1乃至 Y4 で示す前後方向,矢印 Y5 乃至 Y8 で示す左右方向)……」との記載,及び【図2】,【図8】(本件特許の願書に添付した図面については,別紙参照)に記載されている「腰部骨格連結部51」,「胸部骨格連結部56」の構造からすると,それぞれの連結部が,前後にも左右にも揺れ動くことが可能であること,すなわち,前後・左右に揺動可能であることは明らかである。

したがって,本件発明の「揺動」の意味は明確であり,また,訂正事項1-クは,上記特許明細書等に記載した事項から自明な事項の範囲内において訂正したものと認められるから,新たな技術事項を導入するものとはいえない。

よって,訂正事項1-クは,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の規定に違反するということはできず,原告の主張は採用できない

(2)  訂正事項1-ケ及び同1-コにつき

原告は,腰部骨格連結部51の正面図にはネジに該当する部材が表れておらず,本件特許明細書等の段落【0019】の記載や【図1】,【図2】,【図8】(a)(b)からは,分割して形成された腰部骨格連結部がネジを介して一体に連結されたものであることが開示されているとはいえず,また,胸部骨格連結部56の正面図にもネジに該当する部材が表れておらず,段落【0019】の記載や【図1】,【図2】,【図8】(a)(b)からは,分割して形成された胸部骨格連結部がネジを介して一体に連結されたものであることが開示されているとはいえないから,段落【0019】の記載や【図1】,【図2】,【図8】(a)(b)に基づいて,「腰部骨格連結部」が「分割して形成され,……ネジを介して一体に連結され」たものと減縮する訂正事項,及び「胸部骨格連結部」が「分割して形成され,……ネジを介して一体に連結され」たものと減縮する訂正事項は不適法であると主張する。

確かに,腰部骨格連結部51の正面図(【図1】,【図8】(a))には,ネジに該当する部材は記載されていない。しかしながら,本件特許明細書等の段落【0025】の「……そして,上記連結片81を,被連結部86の嵌入溝85に嵌入すると共に,ネジ87を介して回動可能に一体的に連結される。なお,本実施形態において,上記連結片81は略玉状の被連結部86の径と同径とし,連結時に両者81,86によって全体玉状を構成している。……」との記載,【図12】(a),(b)の図示,及び,図面の読み方として,例えば部材の中央に実線が引かれている場合,その部材は実線が引かれている箇所で2つに分割されているとするのが一般的であることからすると,腰部骨格連結部51は,【図8】(a)に示される縦線によって分割され,【図8】(b)に「ⓧ」記号で示されるネジを介して一体に連結されているものと認められる。また,胸部骨格連結部も同様に,【図8】(a)に示される縦線によって分割され,【図8】(b)に「ⓧ」記号で示されるネジを介して一体に連結されているものと認められる。

したがって,訂正事項1-ケ及び訂正事項1-コは,特許明細書等に記載した事項の範囲内において訂正したものと認められ,原告の主張は採用できない。

(3)  以上のとおり,本件審決の訂正請求2の適法性の判断には,原告主張の誤りはなく,取消事由1は理由がない。

2  第1商品発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について

(1)  本件審決の対比に基づく容易想到性

ア 相違点1,2,5,8,9,10についての判断の誤りの主張につき

(ア) 原告は,甲4に示された商品(以下「甲4商品」という。)には胸部と腹部が分割して形成された外観パーツが開示されており,当該外観パーツを形成する材料としてソフトビニルを使用することは甲13,甲14,甲25,甲17に開示されているから,これらの周知・公知技術に基づいて当業者が「胸部と腹部が分割して形成されたソフトビニル製の外皮」を想到することは容易であり,人形胴体の成形において,胴部を一体にするか,適宜分割するかといったことや,また,その部位の成形につき,様々に存在する周知の材料のどれを選択するかといった程度のことは,当業者が行う通常の制作作業にすぎないと主張する。

しかしながら,甲4商品には,胸部と腹部が分割して形成された外観パーツは開示されているものの,胸部のF(3)パーツは合成ゴム(TPE)製であり,腹部のD(1)パーツとD(2)パーツはスチロール樹脂(PS)製であって,ソフトビニル製ではない。また,甲13,甲14,甲25,甲17の外観パーツは,いずれも,腹部と胸部が一体に形成されており,胸部と腹部は分割されていない。

したがって,甲4商品,甲13,甲14,甲25,甲17には,「胸部と腹部が分割して形成されたソフトビニル製の外皮」が開示されていないから,原告の主張は失当である。

(イ) 原告は,「嵌着」なる用語には,「くぼみに入れて固定する」という意味以外にも「嵌める」という意味があり,また,本件発明は,「少なくとも肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されている」という構成を備えたものであり,段落【0033】に記載された構成に限定されたものではないから,本件発明における「嵌着」なる用語は「嵌める」という意味も持つと解釈され,そうすると,本件発明における「少なくとも肩部の骨格に,腕部骨格を覆う外皮の一端が嵌着されている」という構成は,甲13,甲17に開示されていると主張する。

しかしながら,原告は,「嵌着」に「嵌める」という意味があるということを示す証拠を何ら提出しない。発明の容易想到性を判断する前提としての発明の要旨認定は,原則として特許請求の範囲の記載に基づいてされなければならないところ,その用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書及び特許請求の範囲全体を通じて統一して使用しなければならない(特許法施行規則24条の4様式第29の2)。本件審決は,「嵌着」の意味を,広辞苑に記載された「嵌める」の意味とともに,訂正請求2による訂正後の明細書(以下,「訂正後明細書」という。甲54の2)段落【0033】の記載を参酌して,「くぼみに入れて固定し着ける」ことを意味すると解釈したものであるが,その解釈の方法は,「嵌着」の用語が「嵌めて着ける」ことを意味することは文言上明らかであるところ,同文言上の意味が上記段落【0033】から読み取れる「嵌着」の意味「くぼみに入れて固定し着ける」と整合することを確認したものと理解することができ,妥当なものというべきである。そして,甲13の3,4及び甲17の3,4には,内部の骨格に外皮を単に被せる構成しか開示されていないから,原告の主張は理由がない。

(ウ) 原告は,①本件審決の第1商品の捉え方は,消費者の立場で第1商品に接した場合の捉え方であり,当業者の立場での捉え方ではないため,特許法29条2項に違反する,②当業者が第1商品を組み立てる目的は,構造を理解するためであり,モデルを忠実に再現することを目的としていないことは自明であるから,第1商品のラバーパーツを他のキャラクターをモデルとしたプラモデルに利用する際に,甲4,甲13,甲14,甲25,甲17に開示された外観パーツを参考に分割して着脱可能にすることは容易に想到し得る,③分割されたラバーパーツを保持できるように適宜可動フレームを変更することは設計変更にすぎない,と主張する。

しかしながら,本件審決が,消費者の立場ではなく,当業者の立場で容易想到性の判断をしているのは明らかであり,また,第1商品発明には,ラバーパーツを分割して着脱可能にすることの示唆や動機付けはない。したがって,原告の上記①の主張は,本件審決を正解しないものというほかなく,失当である。

そして,第1商品発明における「ラバーパーツ」を分割して着脱可能にするという技術を適用する動機付けを検討するに当たっては,「第1商品発明におけるラバーパーツ」を分割して着脱可能にすることが容易か否か判断すべきある。原告の上記②の主張は,第1商品のラバーパーツを他のキャラクターをモデルとしたプラモデルに利用することを前提とするものであるが,そのような前提を想到することが容易であったか否かの検討を無視するものであって,主張自体失当というべきである。

したがって,第1商品発明のラバーパーツに,当該ラバーパーツを分割して着脱可能にするという技術を適用することが容易であるということはできないから,原告の上記③の主張は,その前提を欠き採用することができない。

(エ) 原告は,甲13及び甲17に示された発明が,隣り合う外皮によって当該隣り合う外皮で覆う骨格を外部から直視できないように覆う構成を有していることは明らかであるから,当業者であれば,胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第2嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位は,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆うことを容易に想到できると主張する。

確かに,甲13及び甲17には,隣り合う外皮によって当該隣り合う外皮で覆う骨格を外部から直視できないように覆う構成が記載されている。しかしながら,甲13及び甲17には,胸部骨格連結部における腹骨格部と揺動可能に連結される部位と,第2嵌入杆と嵌合穴とが回動可能に連結される部位を,それぞれ腹骨格部と胸骨格部を覆う外皮によって外部から直視されないように覆うことは記載されていない。したがって,原告の主張は採用できない。

(オ) 以上検討したところによれば,相違点1,2,5,8,9,10についての本件審決の判断に原告主張の誤りはない。

イ 相違点3,4,6,7についての判断の誤りの主張につき

原告は,第1商品発明に対し,先ず,甲32の構造を採用し,次に,第2商品の構造を採用する順序で検討すれば,すなわち,第1商品発明のフレームBとA(3)パーツからなる腹骨格部として,甲32に示された商品の2つのABS-DNo.1パーツと2つのPC-C8mmパーツと6.パーツからなる腹骨格部を採用し,胸部と腹部の間のABS-DNo.1パーツの嵌合軸を第1商品発明のフレームAにおけるP.C(A)パーツの嵌合穴に差し込むとともに,腰部と腹部の間のABS-DNo.1パーツの嵌合軸を第1商品発明のフレームCにおけるP.C(E)パーツの嵌合穴に差し込むことにより,「腹骨格部は,前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される腰部骨格連結部を一端側に備え」るという事項と,「腹骨格部は,前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結される胸部骨格連結部を他端側に備え」るという事項を得ることができ,次に,第1商品発明に採用した甲32に示された商品の2つのPC-C8mmパーツと6.パーツの代わりに第2商品のB(25)パーツとB(26)パーツを2つのビスとナットで一体に連結した部分を採用することにより,「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項と,「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項を得ることができる,と主張する。

しかしながら,甲32の2に記載された6.パーツは,胴体部の一部(腹の部分)を構成するものであって,骨格部を構成するものではないから,第1商品発明の腹骨格部に採用する理由はない。また,原告の主張は,第1商品発明と甲32の構造の2つの先行技術を組み合わせた構成をひとまとまりのものとして,その構成に第2商品発明の構造を採用することによって,本件発明の「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項と「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項は,容易に想到することができるというものであるが,第1商品発明と甲32の構造を組み合わせた先行技術がひとまとまりの技術的思想として存在するわけではなく,第1商品発明と甲32の構造の2つの先行技術を組み合わせた構成は特許法29条1項各号の発明といえないから,主張自体失当というほかない。

以上検討したところによれば,相違点3,4,6,7についての本件審決の判断に原告主張の誤りはない。

ウ 本件発明の効果についての判断の誤りの主張につき

原告は,「大型の人形において外皮部分をソフトビニル製で構成しても,自立が可能で,かつ様々な姿態を一定時間維持できると共に,軽量でかつ軟質なため,落下・転倒などしても安全で,破損も防げるという効果,外皮がソフトビニル製であるため製作容易(スラッシュ成形など)で,かつコスト安価なため,この種の大型可動人形の製作上大幅なコスト減となる効果,夫々の骨格が着脱可能で,かつ夫々の外皮も着脱可能であるため,搬送費用低廉となり,結果的に製品価格も低く抑えることができるため需要者ニーズに応えることができる効果」については,甲17に示された商品も同様の作用効果を有することは明らかであると主張する。

しかしながら,上記ア,イで検討したとおり,本件発明と第1商品発明との相違点について容易想到性を否定した本件審決の判断に誤りはないから,甲17に示された商品が本件発明と同様の作用効果を有していたとしても,本件発明の容易想到性の判断を左右するものではない。したがって,原告主張は理由がない。

(2)  原告の対比に基づく容易想到性

ア 原告は,第1商品発明における「ボディーフレーム」の「P.C(E)パーツを除いたフレームCの下部」が「腰部骨格」に,「A(3)パーツ」と「フレームCのP.C(E)パーツ」と「フレームBのP.C(E)パーツ」が本件発明における「腹骨格部」に,「フレームA」が本件発明における「胸骨格部」に,「P.C(E)パーツを除いたフレームCの上部」が本件発明における「腰部骨格連結部」に,「P.C(E)パーツを除いたフレームB」が本件発明における「胸部骨格連結部」にそれぞれ相当するとした上で,本件発明と第1商品発明とは,相違点①「腹骨格部と腰部骨格連結部とが左右に揺動可能でない点」,相違点②「腹骨格部と胸部骨格連結部とが左右に揺動可能でない点」,相違点③「腰部骨格連結部がネジを介して一体に連結されていない点」,相違点④「腰部骨格連結部が,腰部骨格に備えた胴部下端骨格連結部の嵌合穴に回動可能に嵌合される第一嵌入杆を備えていない点」,相違点⑤「胸部骨格連結部がネジを介して一体に連結されていない点」で相違するが,上記相違点①~⑤は,いずれも当業者であれば容易に想到できるものであると主張する。これは本件審決の認定とは異なるものであるが,念のため,以下に検討する。

イ 相違点①,②について

原告は,相違点①,②について,腹骨格部と腰部骨格連結部又は胸部骨格連結部とをボールジョイント構造を利用して前後・左右に揺動可能に連結することは周知技術(甲4,甲14,甲57)であるから,当該周知技術を第1商品発明に適用することは,当業者であれば容易に想到できると主張する。

しかしながら,腹骨格部と腰部骨格連結部又は胸部骨格連結部とをボールジョイント構造を利用して前後・左右に揺動可能に連結することが周知技術であったとしても,第1商品発明には,当該周知技術を適用することの示唆や動機付けはない。

ウ 相違点③,⑤について

原告は,相違点③,⑤について,腰部骨格連結部に対応する脚部骨格連結部材及び胸部骨格連結部に対応する逆U字状部材は共に2分割されているが,2分割された部材を連結させる際に,スナップフィット結合を採用するか,ネジ止めを採用するかは,当業者が適宜定める設計上の変更にすぎないと主張する。

確かに,2分割された脚部骨格連結部材(腰部骨格連結部)及び逆U字状部材(胸部骨格連結部)を連結させる際にネジ止めとすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得るものと認められる。

エ 相違点④について

原告は,相違点④について,甲3に開示された発明においては,腰部骨格連結部に対応するS18が,腰部骨格に対応するS20~S24の中のS20に備えた嵌入杆に回動可能に嵌合される嵌合穴を備えており,甲3の人体像制作用芯材と第1商品とは,外皮によって覆われた人形を構成する骨格構造である点で共通しており,人体像制作用芯材の腰部骨格連結部と腰部骨格の連結構造を第1商品に適用することについて阻却事由も見つからないことから,第1商品に人体像制作用芯材の腰部骨格連結部と腰部骨格の連結構造を適用することは当業者であれば容易に想到できると主張する。

確かに,甲3の【図3】には,腰部骨格連結部に対応するS18が,腰部骨格に対応するS20~S24の中のS20に備えた嵌入杆に回動可能に嵌合される嵌合穴を備えることが図示されている。

しかしながら,第1商品発明には,甲3に記載された上記構成を適用することの示唆や動機付けはない。

オ 以上のとおり,原告の対比に基づいて検討しても,上記相違点①,②,④の容易想到性は認められないから,原告の主張は理由がない。

(3)  以上のとおり,本件審決の第1商品発明に基づく容易想到性の判断に原告主張の誤りはなく,取消事由2は理由がない。

3  甲3発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について

原告は,本件審決の判断は取消事由2に係る第3の1(2)ア(ア)a及び同(ウ)で検討したとおり誤りであると主張する。しかしながら,原告の取消事由2に理由がないことは上記2のとおりであるから,取消事由3も理由がない。

4  第2商品発明に基づく容易想到性の判断の誤り(取消事由4)について

(1)  原告は,外皮に関する相違点についての本件審決の判断は前記取消事由2に係る第3の1(2)ア(ア)aで主張したとおり誤りであると主張するが,取消事由2に理由がないことは上記2のとおりであるから,採用することができない。

(2)  原告は,第2商品発明は,「胸部と腹部及び腰部と腹部が前後・左右に揺動可能で,かつ所望位置で所望状態を維持し得るように連結されて」おり,また,第2商品発明に対して甲32に示された商品の2.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係及び5.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係を採用することにより,「分割して形成され,腹骨格部の一端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項と,「分割して形成され,腹骨格部の他端側を嵌め込むとともにネジを介して一体に連結される」という事項を得ることができ,前記のように第2商品発明に甲32に示された商品を適用した場合には,胸部骨格連結部及び腰部骨格連結部ではなく,腹骨格部が分割して形成され,ネジを介して一体に連結された状態となっているが,ボールジョイント構造において,球体と該球体の支持体との関係を入れ替えることは当業者が容易に想到できる設計変更にすぎないと主張する。

しかしながら,甲32の2に記載された2.パーツは,胴体部の一部(胸の部分)を構成するものであり,また,5.パーツは,胴体部の一部(腰の部分)を構成するものであって,いずれも骨格連結部を構成するものではないから,第2商品発明の胸部骨格連結部及び腰部骨格連結部に対して,2.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係及び5.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係を採用する理由はない。しかも,2.パーツは他のパーツと交換できるように,2.パーツとABS-DNo.1パーツとが,抜き差し可能となっているものと認められるが,第2商品の胸部骨格連結部は,他の部材と交換する必要はないから,第2商品発明の胸部骨格連結部に,甲32の2に記載された2.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係を採用することが容易であるとはいえない。また,5.パーツとABS-DNo.1パーツとは接着・固定するものであるから,第2商品発明の腰部骨格連結部に甲32の2に記載された2.パーツとABS-DNo.1パーツとの関係を採用したとしても,第2商品発明の腰部骨格連結部の嵌合穴に嵌合される嵌入棹は,接着・固定されるものであり,ボールジョイント構造において,球体と該球体の支持体との関係を入れ替えることが,当業者が容易に想到できる設計変更であったとしても,腰部骨格連結部の嵌合穴に嵌合される嵌入棹は,接着・固定されることとなり,本件発明の構成を得ることはできない。

したがって,原告主張は採用できない。

(3)  原告のその余の主張は,前記第3の1 (2)ア(ア)b, (2)ア(ウ)の繰り返しであり,これらの主張に理由がないことは前記2で検討したとおりである。

(4)  以上のとおり,取消事由4は理由がない。

5  結論

以上検討したとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決にはこれを取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 武宮英子)

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