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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10332号 判決 2012年5月31日

原告

株式会社八木研

訴訟代理人弁理士

河村洌

藤森洋介

加藤敬子

三嶋眞弘

被告

ふれあい商事有限会社

訴訟代理人弁理士

小林正治

小林正英

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2011-890011号事件について平成23年9月8日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の概要

被告は,「電装現代仏壇」の漢字6文字をゴシック体で横書きし,第20類「仏壇」を指定商品とする登録第4926832号商標(平成17年7月8日出願,平成18年2月3日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は,平成23年2月2日,被告を被請求人として,特許庁に対し,本件商標登録を無効にすることを求めて商標登録無効審判(無効2011-890011号事件)を請求したが,特許庁は,同年9月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同月16日,原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は次のとおりである。

(1)  本件商標は,原告が設定登録を受けている別紙商標目録記載1ないし3の各商標(以下,同目録記載1の商標を「引用商標1」,同2の商標を「引用商標2」,同3の商標を「引用商標3」という。)とは類似せず,商標法4条1項11号に該当しない。

(2)  原告が使用していた「現代仏壇」の文字からなる標章(以下「使用標章1」という。)は,需要者の間で知られていたと認めることはできない。他方,原告の使用していた引用商標3の黒塗りの隅丸四角形を赤塗りにした標章(以下「使用標章2」という。)は,特に関西地方を中心に需要者にある程度知られていたと認められるが,本件商標と使用標章2は類似せず,商品の出所に混同を生ずるおそれはないから,本件商標は同項15号に該当するものでもない。

第3当事者の主張

1  原告の主張

審決には,次の取消事由1ないし5があり,結論に影響を及ぼすから,審決は違法であるとして取り消されるべきである。

(1)  本件商標中の「電装」部分についての認定の誤り(取消事由1)

本件商標中の「電装」部分は「電気関係の装置を備えつけたり,電気配線をしたりすること。」という意味を有する(甲5)。原告発行に係る平成7年版総合カタログ(甲6)や,原告以外の同業他社のカタログ(甲59,60の1・2,61の1・2)や,公開実用新案公報(甲62)のとおり,本件商標の登録査定日より前から,仏壇内の照明器具を表すために「電装」の語が使用されており,仏壇内部の照明器具そのものや照明器具の配置や配線が「電装」又は「電装品」と称されていた。

また,電気式の照明器具,灯篭,ろうそく,輪灯などは仏壇の内部を照らすものとして使用されていた(甲11ないし19)。照明器具付仏壇,すなわち電装付仏壇は,遅くとも平成7年から販売されている。

本件商標は,「電気関係の装置又は照明器具を備え付けた現代仏壇」との意味を有するものと理解され,本件商標中「電装」部分は指定商品「仏壇」の効能や用途を表しているものと理解される。したがって,「本件商標の登録査定時に『電装』の文字が仏壇の効能や用途を表すものであったと認めることはできない」とした審決の認定は,誤りである。

(2)  商標法4条1項11号該当性の判断の誤り(取消事由2)

ア 本件商標中の「電装」部分は指定商品「仏壇」の効能や用途を表しているにすぎないから,本件商標は,「現代仏壇」部分が,商標の特徴的部分であるというべきである。また,本件商標の指定商品が「仏壇」であり,本件商標中の「仏壇」部分は指定商品の普通名称を表し,出所識別標識としての称呼,観念が生じないから,本件商標中の「現代」部分も,商標の特徴的部分というべきである。よって,本件商標と引用商標との類否判断の対象とされるべき部分は,「電装現代仏壇」以外にも,「現代仏壇」部分及び「現代」部分もあると解すべきである。

イ 外観及び称呼

本件商標は「電装現代仏壇」であり,その全体は,引用商標1ないし3とは外観において類似しない。しかし,本件商標中の「現代仏壇」部分が特徴的部分であると解した場合には,引用商標2と外観において類似し,また本件商標中の「現代」部分が特徴的部分と解した場合には,引用商標1と外観において類似する。

本件商標の全体から生ずる称呼「デンソウゲンダイブツダン」は引用商標1ないし3のいずれとも,称呼において類似しない。しかし,本件商標中の「現代仏壇」部分が特徴的部分であると解した場合には,「ゲンダイブツダン」の称呼は,引用商標2及び3と類似し,また本件商標の「現代」部分が特徴的部分であると解した場合には,「ゲンダイ」の称呼は,引用商標1及び2の称呼と類似する。

ウ 本件商標は,外観において引用商標1及び2に類似し,称呼において引用商標1ないし3に類似するので,商標法4条1項11号に該当する。したがって,本件商標が同号に該当しないとした審決の判断は誤りである。

(3)  使用標章1の取引者・需要者による認識についての認定の誤り(取消事由3)

原告の発行に係る総合カタログ(甲11ないし19)には使用標章1が使用されている。

原告は平成12年7月から同18年1月までの全国紙,地方紙,業界紙,その他に広告を掲載し,それらの掲載広告において,原告の「仏壇」を広告宣伝するために,使用標章2とともに使用標章1をいわゆるキャッチコピーの一部として使用してきた(甲25ないし52)。

また,原告は,各種交通機関においていわゆる車額広告や駅の看板広告を掲示し,それらの掲示広告において原告の仏壇を広告宣伝するために,使用標章2とともに使用標章1をいわゆるキャッチコピーの一部として使用してきた(甲53ないし57)。

なお,使用標章1は,いわゆるキャッチコピーの一部として使用されてはいるが,アンケート結果(甲78の1・2)に鑑みれば,使用標章1はキャッチコピーや説明文中に記載されていても,取引者・需要者は原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとして,充分認識している。

このように,原告は,平成12年7月から平成18年1月まで継続して新聞広告において,また平成8年3月から平成18年3月まで継続して移動体広告において,使用標章1を原告の業務に係る商品「仏壇」に使用を継続したことにより,使用標章1は取引者・需要者の間で「仏壇」を表示するものとして広く知られるようになった。したがって,本件商標の登録出願の時ないし登録査定時において,使用標章1が原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとして需要者の間で知られていたものと認められないと認定した審決は,誤りである。

(4)  使用標章2の取引者・需要者による認識についての認定の誤り(取消事由4)

原告は,前記(3)のとおり使用標章2を使用して,原告の業務に係る商品「仏壇」について広告宣伝をし,関東地方の鉄道でも使用標章2を原告の業務に係る商品「仏壇」について広告宣伝をした(甲55,56)。

また,使用標章2が表示された30秒スポットのテレビコマーシャル(甲21)は,平成9年1月1日から平成11年3月31日までの約2年3か月間,全国ネットのテレビ局で延べ2082回放送された。

さらに,15秒スポットのテレビコマーシャルが平成9年2月20日から同年3月10日まで日本テレビ放送で40回,平成10年2月21日から同年3月15日までテレビ新潟放送で60回,平成15年4月1日から同月25日まで日本テレビ放送で50回それぞれ放映され,関東地方や新潟地方において,使用標章2がいっそう取引者・需要者の間に広く知られることになった。さらに,関西地方においても15秒スポットのテレビコマーシャルが平成14年9月14日から同月29日まで毎日放送で106回放送されたので,使用標章2が原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとしていっそう取引者・需要者の間に広く知られることになった(甲22,24)。

これらの宣伝広告活動により,使用標章2は,原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとして取引者・需要者の間に広く知られるに至った。したがって,使用標章2が関西地方でのみある程度知られていたと認定した審決は誤りである。

(5)  商標法4条1項15号該当性の判断の誤り(取消事由5)

本件商標と引用商標1ないし3は類似し,使用標章1は原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとして取引者・需要者の間に広く知られており,かつ,使用標章2も原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとして取引者・需要者の間に広く知られていたのであるから,本件商標をその指定商品について使用すれば,これに接する取引者・需要者が原告又は同人の商標を連想,想起し,その商品を原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく,その商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。

よって,本件商標が商標法4条1項15号に該当するものではないと認定した審決は,誤りである。

2  被告の反論

(1)  本件商標中の「電装」部分についての認定の誤り(取消事由1)に対し

仏壇について使用される「電装」の語の表記は,「電装用」「電装品」「電装装置」「○○用電装」のように「電装」の前後に「品」「用」「装置」等が付加されており,登録査定以前に,仏壇について,「電装」が単独で使用されている事例はない。「電装」の語は,仏壇の効能や用途を表すものであったと認めることはできない。

したがって,「電装」の文字が仏壇の効能や用途を表すものであったと認めることはできないとした審決の認定に誤りはない。

(2)  商標法4条1項11号該当性の判断の誤り(取消事由2)に対し

ア 上記のとおり,本件商標中の「電装」部分は,仏壇の効能や用途を表すものといえない。したがって,本件商標と引用商標1ないし3との類否判断の対象とすべき部分は,「電装現代仏壇」ないし,指定商品を示す「仏壇」のみを除いた「電装現代」である。

イ 外観,称呼及び観念

本件商標と引用商標1ないし3の商標は,外観において相違する。特に本件商標と印影図形からなる引用商標3とは大きく相違する。

本件商標「電装現代仏壇」は「デンソウゲンダイブツダン」と全体を一連に称呼できるから,「デンソウゲンダイブツダン」との称呼を生じる。これに対し,引用商標1からは「ゲンダイ」の,引用商標2からは「ゲンダイブツダン」の称呼を生じる。また,引用商標3は上下二段表記であることから,「ゲンダイ」,「ブツダン」又は「ゲンダイブツダン」の称呼を生じる。本件商標は,先頭部に「電装」部分があるから,「デンソウ」との称呼が,引用商標と対比して,称呼における明瞭な相違を生じさせる。

本件商標は,仏壇の取引者・需要者に共通に認識される特定の観念を生じないのに対し,引用商標1ないし3は,特定の観念を生じる。両者は,観念において相違する。

ウ 本件商標と引用商標1ないし3とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても明確に区別できる非類似の商標であるから,これらを同一又は類似の商品に使用しても,需要者をして当該商品が同一の事業主の製造販売に係る商品であるかのように商品の出所について誤認混同を生ずるおそれはないと判断し,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものではないとした審決の判断に誤りはない。

(3)  使用標章1の取引者・需要者による認識についての認定の誤り(取消事由3)に対し

原告が使用例と主張する,例えば「現代仏壇ギャラリーを開いてみませんか。」等の説明文やキャッチコピー中での使用は,自他商品等識別機能を備えた使用ではない。原告主張に係る使用によっては,「何人かの業務に係る商品を表示する商標」として取引者・需要者の間に広く認識されることはない。また,原告主張のアンケートは証拠としての価値がなく採用されるべきではない。

(4)  使用標章2の取引者・需要者による認識についての認定の誤り(取消事由4)に対し

使用標章2の関西地方以外での地域での使用は,テレビコマーシャルを除いては,関東地方でのごく限られた私鉄での使用にすぎないため,この使用をもって直ちに使用標章2が原告の業務に係る商品として関西地方以外の地域でも取引者・需要者に広く知られていたとすることはできない。

よって,使用標章2は,本件商標の登録出願の時ないし登録査定時において,原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとして,特に関西地方を中心に取引者・需要者の間である程度知られていたものと判断するのが相当であるとした審決の判断に誤りはない。

(5)  商標法4条1項15号該当性の判断の誤り(取消事由5)に対し

取消事由1ないし4についての審決の判断は相当であるから,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした審決の判断に誤りはない。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由1ないし5はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  取消事由1及び2について

(1)  商標の類否判断

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最三小判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁,最二小判平成5年9月10日民集47巻7号5009頁,最二小判平成20年9月8日裁判集民事228頁561頁参照)。

上記の観点から,本件商標と引用商標1ないし3の類否について判断する。

(2)  本件商標

ア 本件商標の特徴的部分

本件商標は,「電装現代仏壇」の文字からなり,構成文字は同じ大きさ,同じ書体で等間隔に記載され,全体として,極めてまとまりよく一体的表記されている。このような点を考慮すると,本件商標は,その全体が,特徴的部分であるということができる。もっとも,本件商標の指定商品が「仏壇」であることに照らすと,本件商標中の「仏壇」部分は,商品の出所を識別する機能はないか,又は著しく弱いといえることから,本件商標の特徴的部分は,「電装現代」部分にあると解することもできる。

これに対し,原告は,本件商標中の「電装」部分は,仏壇の効能や用途を示すための表記であるから,本件商標は,「現代仏壇」部分が特徴的部分であるとも主張する。

しかし,原告の主張は,採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,証拠によれば,①「電装」とは一般に,「電気関係の装置を備えつけたり,電気配線をしたりすること」の意味を有する(甲5)こと,②原告発行の平成7年版カタログ(甲6)には,「院玄電装用」等の記載があること,③平成7年に名古屋仏具卸商協同組合が発行したカタログ(甲59)や平成7年に有限会社ルーツが発行したカタログ(甲61の1)には,「院玄灯用電装品」,「リン灯用電装品」,「ローソク灯電装品」,「ミニローソク灯電装品」等の記載があること,④昭和54年に八祥会が発行したカタログ(甲60の1)には,「仏壇燈明用電装品」,「院玄灯呂用電装」との記載があること,⑤実開平2-147086号公報(甲62)では,仏壇に使用する電気式の輪燈を「輪燈電装装置」と称していること,⑥仏壇内部を照らすものとして電気式の照明器具等が利用され,照明器具付きの仏壇は遅くとも平成7年からは販売されていたこと(甲11ないし19),以上の各事実が認められる。

これらの事実に照らせば,本件商標の登録査定時以前にも,電気による照明器具の備えられた仏壇や葬祭用具が存在し,また,「電装」の文字が仏壇や葬祭用具に関連して用いられていた事実を認めることができる。しかし,上記「電装」の表記態様は,いずれも「電装」の前後に「品」,「用」,「装置」が付加されており,「電装」単独で仏壇の機能や用途を表すものとして使用されている例がないこと,また,前記②と③は同一の製品に係るカタログであること等に照らすと,本件商標の登録査定時に,取引者・需要者が,「電装」部分を,仏壇の効能や用途を意味すると一般的に認識するとまで解することはできない。したがって,本件商標の特徴的部分は,「現代仏壇」であるとの原告の主張は,採用できない。

イ 本件商標の外観,称呼及び観念

上記認定を前提とすると,本件商標は,「電装現代仏壇」の漢字6文字をゴシック体で横書きしてなる外観を有し,その構成文字に相応し「デンソウゲンダイブツダン」及び「デンソウゲンダイ」の称呼を生じる。また,取引者・需要者が,本件商標の文字の組み合わせから,確定的な意味を把握することは困難であり,本件商標が,特定の観念を生じるとまではいえない。

(3)  引用商標1ないし3の外観,称呼及び観念

引用商標1は,「現代」の文字からなり,「ゲンダイ」の称呼及び「現代」の観念を生じる。

引用商標2は,「現代仏壇」の文字からなり,「ゲンダイブツダン」の称呼を生じ,「現代的な仏壇」等の観念を生じる。また,引用商標2中の「仏壇」部分は,指定商品を指すものであって商品の出所識別機能を果たし得ない点を考慮すると,引用商標2の特徴的部分は,「現代」部分に限定されるため,引用商標2からは,「ゲンダイ」の称呼及び「現代」の観念も生じ得る。

引用商標3は,黒塗りの隅丸四角形内に「現代」と「仏壇」の文字が上下二段に白抜きで,全体的にまとまりよく表記されている。引用商標3からは,「ゲンダイブツダン」の称呼を生じ,「現代的な仏壇」等の観念を生じる。また,引用商標2と同様に,「仏壇」部分は,指定商品を指すものであって商品の出所識別機能を果たし得ない点を考慮すると,引用商標3の特徴的部分は,「現代」部分に限定されるため,引用商標3からは,「ゲンダイ」の称呼及び「現代」の観念も生じ得る。

(4)  本件商標と引用商標1ないし3との類否

本件商標「電装現代仏壇」及びその構成部分である「電装現代」と,引用商標1ないし3を対比すると,両者は,①それぞれの文字数,構成文字及び表記態様が異なることから,外観において相違し,②本件商標が「デンソウゲンダイブツダン」又は「デンソウゲンダイ」の称呼を生じるのに対し,引用商標1ないし3は,「ゲンダイ」又は「ゲンダイブツダン」の称呼を生じ,その構成する音数や先頭の「デンソウ」との称呼の有無において異なることから,称呼において相違し,③観念においても,相紛れる恐れはない。

そうすると,本件商標と引用商標1ないし3とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれはなく,その他本件商標と引用商標1ないし3について誤認混同を生じるおそれがあると認められる取引上の事情もないから,本件商標と引用商標1ないし3は類似しない。

以上によれば,本件商標は,商標法4条1項11号に該当するものではないとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1及び2についての原告の主張は,採用の限りでない。

2  取消事由3ないし5について

(1)  混同を生ずるおそれについて

前記1のとおり,引用商標2及び引用商標3と本件商標とは,いずれも相紛れるおそれがないことからすると,「使用標章1」及び「使用標章2」(引用商標3の黒塗りの隅丸四角形を赤塗りにした標章)のいずれも,本件商標と相紛れるおそれはなく類似しない。そうすると,被告が本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する取引者・需要者が,その商品を原告又は原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると認識し,その商品の出所について混同を生ずるおそれはない。

以上のとおり,本件商標が商標法4条1項15号に該当するものではないとした審決の結論に誤りはない。したがって,その余の点を判断するまでもなく,取消事由3ないし5に係る原告の主張は,採用の限りでない。

(2)  以上のとおり,取消事由3ないし5に係る原告の主張は採用の限りでないが,事案に鑑み,念のため,取消事由3及び4に係る原告の事実主張についても,補足的に判断する。

ア 事実認定

原告は,遅くとも平成7年ころまでには仏壇・仏具等の販売を行い,現在もその業務を継続している。使用標章1及び使用標章2に係る原告の使用態様は,以下のとおりである。①原告は,平成7年版ないし平成12年版のカタログに「現代仏壇」の文字からなる使用標章1を,平成12年版以降平成18・19年版までのカタログには使用標章2を表示した(甲11ないし19)。②原告は,平成12年7月から同18年1月までの全国紙,地方紙,業界紙等に,使用標章1及び使用標章2を用いた広告等を掲載した(甲25ないし52)。③原告は,平成8年以降,関西地方の各種交通機関でポスターや看板によって,使用標章1及び使用標章2を用いて原告の仏壇の宣伝を行い,平成11年以降は関東地方の電車でも宣伝をした(甲53ないし58,81の1ないし17,82の1ないし37)。④平成9年1月ないし同11年3月に,冒頭と末尾に使用標章2を表示した,原告の仏壇に係る30秒又は15秒のテレビコマーシャルが,朝日放送,日本テレビ放送,読売テレビ放送,東京放送,フジテレビ放送及びテレビ新潟放送で合計273回放映され(ネット局での同一放送は1回とした。),また,同じく15秒のテレビコマーシャルが,平成14年9月に毎日放送で106回,同15年4月に日本テレビ放送で50回放映された(甲21ないし24,80の1の1ないし3,80の6ないし11)。

イ 取引者・需要者の認識について

上記の事実によれば,使用標章2は,本件商標の出願時及び登録査定時において,取引者・需要者の間において,原告の業務に係る商品「仏壇」を表示するものとして,ある程度知られていたといえる。もっとも,使用標章1については,新聞やポスター等による広告においても,その多くは「現代仏壇ギャラリーを開いてみませんか。」等の説明文,又はいわゆるキャッチコピーの文言中に記載されているものであって,必ずしも商品の出所を示す態様で使用されているとはいえないこと,使用標章1が文字のみからなり,取引者・需要者に与える印象も大きくないことからすると,使用標章1が,取引者・需要者の間において知られていたものとまでは認めることはできない。この点,原告は取引者・需要者へのアンケート調査(甲78の1・2)を引用し,キャッチコピーとしての利用でも取引者・需要者は仏壇の宣伝だと認識しているとも主張するが,そもそもアンケートに利用された広告自体が仏壇の広告であることを前提としたものであるから,原告のこの点の主張は採用できない。

3  結論

原告はその他縷々主張するが,いずれも理由がない。

以上のとおりであるから,原告の主張はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき違法はない。

よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)

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