知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10335号 判決 2012年9月12日
原告
マウナケアテクノロジーズ
同訴訟代理人弁理士
森田憲一
山口健次郎
伊藤宏
被告
特許庁長官
同指定代理人
岡田孝博
信田昌男
田部元史
守屋友宏
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのた
めの付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2010-12943号事件について平成23年5月20日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を後記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「光ファイバによる特に共焦点式の高解像度蛍光イメージング方法および装置」とする発明につき,平成15年7月11日に国際出願(出願番号:特願2004-522234。パリ条約による優先権主張:平成14年(2002年)7月18日,平成15年(2003年)3月11日,フランス。請求項の数は25である。)を行った。
(2) 原告は,平成22年1月26日付けで拒絶査定を受け,同年6月15日,不服の審判を請求するとともに(甲8,9),手続補正書を提出した(甲10。以下「本件補正」という。請求項の数は25である。)。
(3) 特許庁は,上記請求を不服2010-12943号として審理し,平成23年5月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年6月25日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 本件特許に係る本件補正後の特許請求の範囲請求項1及び請求項13の記載は,以下のとおりである。本件補正後の明細書(甲2,10)を「本願明細書」という。
【請求項1】生体内その場式共焦点蛍光画像を形成するための方法であって,該方法は数千本の光ファイバからなるイメージガイドを備えた共焦点蛍光イメージング装置により実施され,前記方法は:
-光源により励起信号を発射することと,
-走査手段により表面下の平面内で組織を点から点へとする走査であって,各点が前記励起信号に対応し,点から点へとする前記走査が前記励起信号を偏向させる工程と前記ガイドのいづれかの光ファイバに導入させる工程とを包含するものと,
-次いで光学ヘッドにより前記励起信号を前記ファイバの出口において前記平面内に集束させることと,
-各点が戻りに発射し前記光ファイバによって回収された蛍光信号を,次いで画素を形成するべく検出されしかつディジタル化することからなり,
この方法の特徴は,リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度で前記走査手段により励起信号を偏向させること,および,ファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で検出手段により蛍光信号を検出することからなる方法
【請求項13】請求項1,2,4~11のいづれかに基づく方法を実施するための,ファイバ利用の生体内式その場式共焦点式蛍光イメージング装置であって:
-数千本の光ファイバからなるイメージガイド(6)と;
-標的とされた少なくとも1つの蛍光体の励起波長で連続的に発光する光源(1)と;
-光源(1)によって生成された励起ビームをイメージガイド(6)の入口断面に対応するXY面内で横列と縦列に沿ってファイバからファイバへと時間にわたり迅速に走査する手段(4)および導入する手段(5)と;
-励起波長と蛍光波長を分離する手段(3)と;
-蛍光信号を検出する手段(11)と;
-検出された信号を処理して画像形成を可能にする手段(12);
とを備え,遠位端には観察される組織(13)に接触せられる励起ビーム集束用光学ヘッド(7)が設けてあり,
その特徴は:
-前記走査手段はリアルタイムで画像を得るのに対応する速度で励起信号を変位させるようになっていること;および,
-前記検出手段はファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有することからなる装置
(2) 本件審決が対象とした請求項1を引用した請求項13の発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
生体内その場式共焦点蛍光画像を形成するための方法であって,該方法は数千本の光ファイバからなるイメージガイドを備えた共焦点蛍光イメージング装置により実施され,前記方法は:
-光源により励起信号を発射することと,
-走査手段により表面下の平面内で組織を点から点へとする走査であって,各点が前記励起信号に対応し,点から点へとする前記走査が前記励起信号を偏向させる工程と前記ガイドのいづれかの光ファイバに導入させる工程とを包含するものと,
-次いで光学ヘッドにより前記励起信号を前記ファイバの出口において前記平面内に集束させることと,
-各点が戻りに発射し前記光ファイバによって回収された蛍光信号を,次いで画素を形成するべく検出されしかつディジタル化することからなり,
この方法の特徴は,リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度で前記走査手段により励起信号を偏向させること,および,ファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で検出手段により蛍光信号を検出することからなる方法を実施するための,ファイバ利用の生体内式その場式共焦点式蛍光イメージング装置であって:
-数千本の光ファイバからなるイメージガイド(6)と;
-標的とされた少なくとも1つの蛍光体の励起波長で連続的に発光する光源(1)と;
-光源(1)によって生成された励起ビームをイメージガイド(6)の入口断面に対応するXY面内で横列と縦列に沿ってファイバからファイバへと時間にわたり迅速に走査する手段(4)および導入する手段(5)と;
-励起波長と蛍光波長を分離する手段(3)と;
-蛍光信号を検出する手段(11)と;
-検出された信号を処理して画像形成を可能にする手段(12);
とを備え,遠位端には観察される組織(13)に接触せられる励起ビーム集束用光学ヘッド(7)が設けてあり,
その特徴は:
-前記走査手段はリアルタイムで画像を得るのに対応する速度で励起信号を変位させるようになっていること;および,
-前記検出手段はファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有することからなる装置
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,本願発明は,後記引用例1及び2に記載された発明並びに後記周知例1ないし3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例1:Arthur F.Gmitro(外2名),"In situ Optical Biopsy with a Confocal Microendoscope", Engineering in Medicine and Biology Society, 2000. Proceedings of the 22nd Annual International Conference of the IEEE, Vol.2, pp.1040-1042, 2000(平成12年。甲5)
イ 引用例2:Tom Collier(外4名),"Near Real-Time Confocal Microscopy of Amelanotic Tissue",Academic Radiology, Vol.9, No.5, pp.504-512, May 2002(平成14年5月。甲6)
ウ 周知例1:RALPH S DACOSTA(外2名),"New optical technologies for earlier endoscopic diagnosis of premalignant gastrointestinal lesions",Journal of Gastroenterology and Hepatology, Vol.17, Supplement 1, pp.85-104, February 2002(平成14年2月。甲12)
エ 周知例2:Yashvinder S.Sabharwal(外4名),"Slit-scanning confocal microendoscope for high-resolution in vivo imaging", APPLIED OPTICS, Vol.38, No.34,pp.7133-7144, 1999(平成11年。甲15)
オ 周知例3:国際公開第00/16151号(平成12年公開。甲16)
(2) なお,本件審決は,その判断の前提として,引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。
ア 引用発明:組織のリアルタイムによる微視的な視覚化方法を実施する共焦点マイクロ内視鏡であって,前記方法は,レーザー照明が,アナモフィック光学系によって,線状光に変換される工程と,前記線状光が,スキャンミラーにより反射され,光ファイバーのファイバー束の入力面上に投射される工程と,前記線状光が,カテーテル遠位端で組織を照らすために,前記ファイバー束を通って伝達される工程と,小型の対物系及び焦点メカニズムを介して,カテーテル遠位端で,前記線状光により,組織を照らす工程と,組織からの蛍光放射が,前記ファイバー束を通って反対方向に中継され,スキャンミラーによって反射され,ダイクロイック・ビームスプリッターにより反射されて固定式のスリットに導かれる工程と,前記スリットを通過した光が,後方に中継され,スキャンミラーによって反射され,2次元CCDカメラ上に投射される工程と,を含み,前記スキャンミラーは,回転するにつれて,組織中への照明を走査し,組織の2次元共焦点イメージを構築する,方法であり,前記共焦点マイクロ内視鏡は,3万本の光ファイバーの前記ファイバー束と,レーザー光源と,前記アナモフィック光学系によって,線状光に変換されたレーザー照明を,前記ファイバー束の入力面上に投射する前記スキャンミラーと,前記レーザー光源からのレーザー照明を透過して,前記スキャンミラーに導くとともに,前記スキャンミラーで反射された蛍光放射を反射して,前記固定式のスリットに導く前記ダイクロイック・ビームスプリッタと,組織の2次元共焦点イメージを構築する前記CCDと,前記ファイバー束の遠位端に設けられた小型の対物系及び焦点メカニズムと,を備え,組織のリアルタイムによる微視的な視覚化は,4フレーム/秒で実施される,前記共焦点マイクロ内視鏡
イ 一致点:生体内その場式共焦点蛍光画像を形成するための方法であって,該方法は多数の光ファイバからなるイメージガイドを備えた共焦点蛍光イメージング装置により実施され,前記方法は:
-光源により励起信号を発射することと,
-走査手段により表面下の平面内で組織を走査するものであって,前記走査が前記励起信号を偏向させる工程と前記ガイドのいずれかの光ファイバに導入させる工程とを包含するものと,
-次いで光学ヘッドにより前記励起信号を前記ファイバの出口において前記平面内に集束させることと,
-戻りに発射し前記光ファイバによって回収された蛍光信号を,次いで画素を形成するべく検出しかつディジタル化することからなり,
前記走査手段により励起信号を偏向させること,及び検出手段により蛍光信号を検出することからなる方法を実施するための,ファイバ利用の生体内式その場式共焦点式蛍光イメージング装置であって:
-多数の光ファイバからなるイメージガイドと;
-標的とされた少なくとも1つの蛍光体の励起波長で発光する光源と;
-光源によって生成された励起ビームをイメージガイドの入口断面に対応するXY面内でファイバからファイバへと時間にわたり迅速に走査する手段及び導入する手段と;
-励起波長と蛍光波長を分離する手段と;
-蛍光信号を検出する手段と;
-検出された信号を処理して画像形成を可能にする手段;
とを備え,遠位端には観察される組織に接触せられる励起ビーム集束用光学ヘッドが設けてあり,
-前記走査手段は励起信号を変位させるようになっていることからなる装置
ウ 相違点1:多数の光ファイバからなるイメージガイドに関し,光ファイバの本数が,本願発明では,「数千本」であるのに対し,引用発明では,「3万本」である点
エ 相違点2:標的とされた少なくとも1つの蛍光体の励起波長で発光する光源に関し,光源の発光が,本願発明では「連続的」であるのに対し,引用発明では,連続的であるかが不明な点
オ 相違点3:走査手段による走査が,本願発明では,表面下の平面内で組織を「点から点へとする走査」であって,入口断面に対応するXY面内で「横列と縦列に沿って」の走査であり,「各点が前記励起信号に対応」するものであるのに対し,引用発明では,線による走査であって,各線が線状光に対応するものである点
カ 相違点4:前記走査手段により励起信号を偏向させること,及び,検出手段により蛍光信号を検出することが,本願発明では,「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度で」前記走査手段により励起信号を偏向させること及び「ファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で」検出手段により蛍光信号を検出することであるのに対し,引用発明では,組織のリアルタイムによる微視的な視覚化は,4フレーム/秒で実施され,ファイバをサンプリングしているものの,当該サンプリングはファイバを1本づつサンプリングするものではなく,また,検出周波数が不明であり,検出手段が,本願発明では,「ファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有する」のに対し,引用発明では,パスバンドに関し何ら特定されていない点
4 取消事由
容易想到性に係る判断の誤り
(1) 引用発明及び一致点の認定の誤り
(2) 相違点3及び4を分断した判断の誤り
(3) 相違点4に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1) 引用発明及び一致点の認定の誤り
本件審決は,本願発明と引用発明との一致点として,「光源によって生成された励起ビームをイメージガイドの入口断面に対応するXY面内でファイバからファイバへと時間にわたり迅速に走査する手段及び導入する手段」を挙げるが,かかる認定は,以下の点において誤りである。
ア 上記認定は,「ファイバ束の入力面を「XY面」と定義すれば」との仮定に基づくが,その妥当性や根拠について全く触れておらず,本願発明と引用発明との重要な差異を無視するものである。
引用発明は「光源によって生成された励起ビームをイメージガイドの入口断面に対応するXY面内でファイバからファイバへと時間にわたり導入する手段」は備えておらず,本件審決は,本願発明との対比において,引用発明の認定を誤っている。
イ 本件審決は,引用発明の「スキャンミラー」と本願発明の「走査手段」とを同一視しているが,前者は,1本の横列(ライン)を構成する複数の光ファイバの全てが同時に一斉に照射されるのに対し,後者は,各横列内の光ファイバにおいて,ファイバからファイバへと走査するものであるから,両者は異なる。
ウ 本願発明は,2つのスキャンミラーが必要であるのに対して,引用発明は,ミラーを1つだけ備えるものであるから,この点でも,引用発明の「スキャンミラー」は本願発明の「走査手段」とは異なり,決して同一視することのできるものではない。
(2) 相違点3及び4を分断した判断の誤り
ア 本件審決は,本願発明の特徴を,以下のとおり認定した。
特徴A:走査が「点から点へとする走査」(ポイント・バイ・ポイント走査)であること
特徴B:「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度で」走査手段により励起信号を偏向させること
特徴C:検出手段がファイバを1本ずつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有すること
イ 本件審決は,特徴Aないし特徴Cに対して,それぞれ別々の先行文献を引用している。しかしながら,本願発明においては,特徴Aないし特徴Cは相互に密接に相関しており,それらを組み合わせた効果も相乗的なものである。したがって,本願発明の進歩性を判断するに際しては,特に相違点3(特徴A)と相違点4(特徴B及び特徴C)は基本的に全体として把握するべきであり,それらの特徴Aないし特徴Cがそれぞれ個別に公知あるいは自明であるから,発明全体として容易に想到可能であったと認定することは,その手法自体が不適切である。
ウ 例えば,フレーム・レートに関していえば,甲20と周知例1及び周知例3とは相互に相容れない内容を開示しており,当業者であれば,特徴B及び特徴C(1本ずつサンプリング)の解決手段として,上記文献と周知例1又は周知例3との組合せを考慮することなど,現実にはあり得ないことである。以上のように,本件審決における先行文献の組合せは,事後的評価にすぎないものである。
エ 本願発明の特徴は,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするために,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」という互いに相反する3つのパラメータの間に適切なバランスを新たに提供するものであり,リアルタイム・イメージングを実現するための迅速サンプリングと,良好な解像度を得るための長い積算時間との間の賢明なバランスを定めるものである。本件審決における引用文献の組合せは,本願発明の特徴Aないし特徴Cの組合せの困難性を完全に無視し,単に個々の特徴を個別に開示する先行文献の単なる寄せ集めをもって進歩性欠如の根拠としており,進歩性判断の誤った手法による結論であることが明らかである。
オ また,「検出手段」に関し,本願発明では,できるだけ多くの光子を捕捉することを目的としており,励起信号は移動しているので,蛍光光子は異なるタイミングでフォトセンサーに達する。多くの蛍光を捉えるためには,蛍光の統合時間(積算時間)はできるだけ長くする必要があり,これは,パスバンド(バンド幅)が狭いことを意味するから,当該「検出手段」は,「フォトセンサー」を意味するものである。
(3) 相違点4に係る判断の誤り
本願発明は,検出手段(フォトセンサー)とファイバ束との間の新規で進歩的な基準(すなわち,「検出手段の周波数はファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定める」というファイバ束のシャノン基準)を定めたものである。
〔被告の主張〕
(1) 引用発明及び一致点の認定の誤りについて
ア 引用例1の図1には,線状光が,レンズにより集束されて,光ファイバのファイバ束に導入される様子が記載されている。本件審決は,上記記載に基づいて,引用発明を認定したものである。
そして,引用発明の「光ファイバのイメージング束の入力面」は,2次元的な広がりをもつ,直径が720μmの円形面であることは明らかであるから,ファイバ束の入力面を「XY面」と定義することに,誤りはない。
イ 引用発明は,「点から点へとする走査」ではないものの,当該円形面上を「線状光」が一方向(光の長手方向に対し垂直)に走査される,すなわち,列単位に「ファイバからファイバへ」と走査することとなる。本件審決は,上位概念で表現することにより,引用発明と本願発明とは「光源によって生成された励起ビームをイメージガイドの入口断面に対応するXY面内でファイバからファイバへと時間にわたり迅速に走査する手段及び導入する手段」を備える点で共通すると判断したものである。
また,引用発明の「スキャンミラー」による走査は一方向のみであるのに対し,本願発明の走査はXY二方向であるものの,両走査とも2次元の面走査を行っているのであるから,この点で,両者の「走査手段」は同一視することができる。なお,「点から点へとする走査」と「列から列へとする走査」との相違は,本件審決においては,相違点3として明確に認定されている。
(2) 相違点3及び4を分断した判断の誤り
ア 相違点3は,平面内の走査の態様に関するもの,相違点4は,検出手段の検出周波数に関するもので,これらの事項は,技術的観点が異なり,本来,相互に独立して定め得る事項であるから,相違点3と4を別々に判断したことに何ら誤りはない。
また,本願明細書(【0012】【0013】)の記載のとおり,本願発明の目的は,「リアルタイム表示」すると同時に「画像の品質を最適化」,特に「高解像度化」することであり,本願発明は,その目的を実現するために,発明を特定しているものの,リアルタイム性を表す「フレームレート」,画像の品質を表す「解像度」及び「サンプリング周波数」が具体的な高い値として得られる発明として特定されてはいない。
本件審決は,本願発明の特定に合わせて相違点3及び4をそれぞれ認定し,文理上,それぞれ個別に相違点3及び4の進歩性を判断した。しかしながら,相違点4の判断において,本件審決においては,相違点3及び4をあわせ,全体として総合的に効果の点も含めて,容易想到性を判断しているのである。
イ 本願発明は,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするための「解像度」と「フレームレート(リアルタイム)」と「感度」の間の適切なバランスを特定するものではなく,リアルタイム性を表す「フレームレート」,画像の品質を表す「解像度」,「スポットサイズ」及び「サンプリング周波数」が具体的な高い値で得られる発明として特定されてはいない。すなわち,「数千本の光ファイバ」及び「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度」のみの特定では,従来実現していなかった,あるいは,従来知られていなかった,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」の組合せが実現できる発明として特定されているとはいえない。
ウ 「(光)検出手段」なる用語は,必ずしも受光素子である「フォトセンサー」を意味するものではなく,一般的には,受光素子の出力信号を処理(増幅あるいはフィルタリング)する素子を有する実施態様も含まれる(乙1)。また,「パスバンド」(すなわち通過帯域)なる用語は,一般的には,「フィルターの減衰が,事実上ゼロとなっている周波数帯域のこと」を意味し(乙2),フィルターの特性を表すものであって,必ずしも原告が主張するような,「フォトセンサー」の特性のみを表すものではない。
このように,本願発明の「検出手段」は,技術常識及び本願明細書の記載からみて,「フォトセンサー」だけではなく,所定の「パスバンド(通過帯域)」をもつ「フィルター」が含まれる。
仮に,「検出手段」を「フォトセンサー」と限定解釈できるとしても,「検出手段(フォトセンサー)」の「パスバンド」に関して,本願明細書には,【0017】【0018】【0039】の記載があるのみであって,当業者といえども,原告がいうような積算時間の関数で定義されるものであると理解することはできない。
よって,原告の主張は,特許請求の範囲及び本願明細書の記載に基づかない主張であり,その前提において失当である。
(3) 相違点4に係る判断の誤りについて
本願発明及び引用発明では,「検出手段」と「検体」との間に「ファイバ束」が存在するから,直接「検体」の表面あるいは内部の画像を連続的に走査し検出された信号をサンプリングするのではなく,「イメージガイド,ファイバ束」を介して点から点あるいはラインからラインに不連続に走査し検出された信号をサンプリングすることになる。
一方,サンプリングの周波数とそれから復元される画像の最高周波数との関係を明らかにした標本化定理と呼ばれる技術常識(甲21~26)を,本願発明及び引用発明に当てはめれば,上記技術常識の「復元される画像の最高周波数」としては,前記点から点あるいはラインからラインの間隔から求められる周波数が「復元される画像の最高周波数」となることは当業者に明らかである。
そうすると,原告が主張する「ファイバ束のシャノン基準」は,光ファイバのサイズを考慮し,光ファイバの配置と走査速度に基づいて定められたファイバ束の最高周波数に対してシャノン基準(標本化定理)を適用することをいうにすぎないのであるから,上記技術常識を,「検出手段」と「検体」との間に「ファイバ束」を有する引用発明に適用する場合には,必然的に採用できる基準にすぎず,当業者ならば当然考慮しなければならない事項である。
第4当裁判所の判断
1 本願発明について
(1) 本願明細書の記載
本願発明の特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりであり,本願明細書には,本願発明について,概要,以下の記載がある(甲2,10)。
ア 技術分野
本願発明は,ファイバ利用の高解像度の,特に共焦点式の,蛍光イメージング方法及び装置に関する。目的とする応用分野はより詳しくは生体内式(in-vivo)かつその場式(in-situ)イメージングの分野である(【0001】)。
イ 従来技術
“Applied Optics”38巻34号(1999年12月。7133~7144頁)には,可撓性光ファイバの束の遠位端に集束用のミニチュア型の光学ヘッドを設けた共焦点式のマイクロ内視鏡が提案されている。これは光ファイバの束をライン状に走査するようになっており,この装置は検出スリット及び電荷トランスファー型のCCDリニアーセンサーを備えている。この種の装置は毎秒4画像を得るのを可能にするもので,これは主体とオペレータの動きに従属するその場式(in-situ)イメージングのためには遅すぎる。さらに,点毎にではなくてライン状に走査することは共焦点特性を悪化させると共に,画像の解像度の低下を招く(【0010】)。
“Optics Communications”188(2001年。267~273頁)には,レーザ走査式の共焦点式卓上型顕微鏡と,遠位端にミニチュア型の光学ヘッドを備えた可撓性光ファイバの束とを結合することが提案されている。その目的は顕微鏡と内視鏡とを相容的にすることである。走査はファイバ毎に行われるが,使用する卓上型顕微鏡は,画像を得るための時間を配慮することなく固定サンプルを表示するように設計された従来思想のものである。この記事には2秒の露出時間が提案してあり,その場式(in-situ)のリアルタイムのイメージングのためには余りにも長すぎる(【0011】)。
ウ 発明の開示
本願発明の目的は,連続的に発射される励起ビームによって1本ずつ走査される光ファイバで形成されたイメージガイドを用いるタイプの,高解像度で,特に共焦点式の,ファイバ式の蛍光イメージング方法及び装置であって,部位をリアルタイムで生体内式(in-vivo)その場式(in-situ)に表示することを可能にする(すなわち,主体と施術者の動きに従属されることなく,点毎に毎秒当たり充分な数の画像を提供することが可能で,特に充分に迅速な検査を可能にする)方法及び装置を提供することにある(【0012】)。
本願発明の目的は,また,一般的に,それぞれの画像の品質を最適化して,特に,優れた横方向及び軸方向解像度を得ることの可能な方法及び装置を提供することにある(【0013】)。
本願発明の第1の観点によれば,本願発明は生体内その場式共焦点蛍光画像を形成するための方法を提供するもので,該方法は数千本の光ファイバからなるイメージガイドを備えた共焦点蛍光イメージング装置により実施され,前記方法は:
-光源により励起信号を発射することと,
-走査手段により表面下の平面内で組織を点から点へとする走査であって,各点が前記励起信号に対応し,点から点へとする前記走査が前記励起信号を偏向させる工程と前記ガイドのいずれかの光ファイバに導入させる工程とを包含するものと,
-次いで光学ヘッドにより前記励起信号を前記ファイバの出口において前記平面内に集束させることと,
-各点が戻りに発射し前記光ファイバによって回収された蛍光信号を,次いで画素を形成するべく検出しかつディジタル化することからなり,
この方法の特徴は,リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度で前記走査手段により励起信号を偏向させること,及び,ファイバを一本ずつサンプリングする最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で検出手段により蛍光信号を検出することからなる(【0014】)。
本願発明は,ファイバの出口に集束させる方法であるかさせない方法であるかを問わず,生体内式(in-vivo)その場式(in-situ)リアルタイムで画像を形成するための解決を提案する。本願発明は,それぞれのファイバに良く対応する画像を点から点へと得て再構成することを可能にするファイバ・サンプリング(シャノンの基準による)を尊重することに立脚するものである。これは毎秒当たりの最小平均画像数(すなわち,最大640×640ピクセルのモードの場合に実際には最小でも毎秒12画像)を尊重しながら全てのファイバを1本ずつサンプリングする際に情報を失わないことを可能にする。この最小サンプリングに応じて検出周波数(検出センサーのパスバンド)を選定すれば各ファイバについて可能な最大数の蛍光光子を検出するのが可能になる(【0017】)。
したがって,約3万の可撓性光ファイバからなるイメージガイドを用いた可能な実施例では,サンプリング周波数と検出系のパスバンドはほぼ1.5MHzに設定され,最大640×640ピクセルのモードで最小12画像/秒を得るのを可能にする(【0018】)。
エ 発明を実施するための最良の形態
励起ビームはやはり円形の断面のファイバに導入できるように円形である(【0031】)。
この手段は,レーザビームの直径を修正することを可能にする2つのレンズL1及びL2からなる,1以外の倍率の無焦点の光学系で構成されている。倍率はビームの直径がファイバへの導入手段に適合するように計算される(【0032】)。
走査手段は次いで励起ビームをピックアップする。図1に示した実施例では,この走査手段は,ビームを水平に偏向し,したがって画像の横列を形成するための,4kHzで共鳴するミラーM1と,ビームを垂直に偏向し,したがって画像の枠を形成するための15Hz型の検流式ミラーM2と,統一された倍率の2つの無焦点系(2つのミラーの間に位置するAF1と,ミラーM2の後に位置するAF2)とを備え,これらの無焦点系は2つのミラーの回転面をファイバへの導入面に共役させるために使用される。本願発明によれば,走査速度は組織の生体内式(in-vivo)その場式(in-situ)リアルタイムの観察を可能にするべく決定される。このため,走査は,最も遅いモードに対応する640×640ピクセルの表示モード用のスクリーン上に少なくとも12画像/秒が表示されるように,充分速くなければならない。より少ないピクセルを有する表示モードのためには,毎秒当たりの取得画像数は従って常に12画像/秒以上である。変化形では,走査手段は特に回転ミラー,MEMs型(XY走査ミラー)の一体化構成,又は音響光学系を有することができる(【0034】)。
走査手段の出口で偏向された励起ビームは,イメージガイドのいずれか1本のファイバへ導入するべく光学手段の方へ向けられる。これらの手段はこの実施例では2つの光学アッセンブリで構成されている。第1の光学アッセンブリは走査手段の視野の縁における光学収差を部分的に補正するのを可能にするもので,したがって,導入は光学視野の全体について最適化される。第2の光学アッセンブリは実際の導入を行うことを目的としている。その焦点距離と開口係数はガイドの光ファイバへの導入率を最適化するように選ばれる。色消し性の基準を得るのを可能にする実施例によれば,第1のアッセンブリは1つの無色の二枚玉レンズからなり,第2のアッセンブリは2つの無色の二枚玉レンズからなり,後者の後にはイメージガイドの近くに位置するレンズがある。変化形として,この導入用光学系は,例えば2つの三枚玉レンズのような他の任意のタイプの標準的光学系や,屈折率分布レンズや,あるいは顕微鏡の対物レンズで構成することができる(【0035】)。
イメージガイドは非常に多数(数万)の可撓性光ファイバ,例えば直径2μmの3万本のファイバ,で構成されている。実際には,イメージガイドのファイバの組立体を使用するか,あるいは,これらのファイバの特定のサブアッセンブリを使用することができる(【0036】)。
検出手段は検討中の蛍光作用の波長に対して最大の感度を有する。例えばアバランシュ型フォトダイオード(APD)やフォトマルチプリケータを使用することができる。さらに,本願発明によれば,パスバンドは蛍光信号の統合時間を最適化するように選ばれる。パスバンドは1.5MHzであり,これは各ピクセルに対する最適化された統合時間を有するイメージガイドの最小サンプリング周波数に対応する(【0039】)。
この装置の作動は以下のとおりである。光源は488nmの波長の励起用の円形平行ビームを生成し,このビームは次いでファイバのコア内への可能な最良の導入をするに充分なサイズを与えるべく無焦点系内で成形される。このビームは次いで励起波長を反射する二色性分離装置の方へ送られる。入射ビームは次いで光学機械式ミラー走査装置によって時間にわたり空間の2方向へ角度偏向され,光学的導入手段によってイメージガイドのいずれかのファイバに導入される。電子手段は,所与のラインにつき点から点へと,かつ,ラインからラインへと,画像を構成するべくミラーを用いてビームを角度方向に偏向しながら,所与の瞬間にイメージガイドのいずれか一本の光ファイバへの導入を制御する役割を果たす。ガイドの出口では,導入されたファイバから現れた光線は光学ヘッドによって検体内においてほぼ数拾μmから百μmの所与の深さに位置する点に集束される。走査により,検体は点から点へと照射される。各瞬間に,組織を照射するスポットは蛍光信号を発光し,この蛍光信号はより大きな波長の方へシフトされようとする特性を有する。この蛍光信号は光学ヘッドによって捕捉され,次いで二色フィルターまで励起信号とは逆の光路を辿り,同フィルターは蛍光信号を検出路の方へ伝達する。励起波長で起こるノイズ反射は次いで拒絶フィルターによって拒絶されるであろう。最後に,蛍光信号は,励起されたファイバから来る光線しか選択しないように,かつ,光子がアバランシュ型フォトダイオードによって検出されるように,濾過用穴内に集束される。検出された信号は次に数値化され補正される。検出された信号は,リアルタイムで画像を再構築しスクリーンに表示するべく,前述した画像処理によって次から次へとリアルタイムで処理される(【0046】)。
(2) 本願発明において,検出手段は「ファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有する」ものであるところ,発明の詳細な説明に「検出周波数(検出センサーのパスバンド)」と記載されていることを参酌すると(【0017】),検出手段のパスバンドは,検出周波数を意味するものと解される。
そうすると,本願発明は,共焦点式蛍光イメージング装置において,ファイバからファイバへの走査を点単位で迅速に行うとともに,検出手段が「ファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有する」こと,すなわち,最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で蛍光信号を検出することによって,高解像度かつリアルタイムのイメージ形成を可能にするものであって,特に,ファイバ・サンプリング(シャノンの基準による)を尊重すべく,検出周波数を最小サンプリング周波数に対応させることで,サンプリング時の情報の損失を抑制し,ファイバ毎に最大数の蛍光光子の検出を可能にするものであると認められる。
なお,上記シャノンの基準とは,正確には「ナイキスト・シャノンの標本化定理」と呼ばれ,原画像を復元することが可能となる,サンプリング周波数と画像の最高周波数との関係を表したものであって,具体的には,ある原画像を構成する周波数のうちの最高周波数がfの場合,最高周波数fの2倍以上のサンプリング周波数でサンプリングすれば,原画像を復元できるというものである(甲21~26)。
(3) このことは,原告が審判請求書において,本願発明の特徴として主張しているところにも沿うものである(甲9)。
なお,原告は,検出手段の「パスバンド」とは,蛍光信号の変化に出力信号が追従可能な周波数の範囲(f1≦f≦f2)であると主張しており,上記のように検出周波数(1値)と同視した解釈とは異なるように見受けられる。しかしながら,本願明細書を参酌しても,そのような解釈を裏付ける記載は存在しないから,当業者といえども,それを読み取ることはできず,また,原告の主張を採用したとしても,結局のところ,ファイバ束にシャノンの基準(標本化定理)を遵守することの困難性が争点になることに変わりはない。
2 引用発明について
(1) 引用例1の記載
引用例1には,要旨,以下の記載がある(甲5)。
ア 要約
その場式の光学生検用の共焦点マイクロ内視鏡が開発された。システムは,コヒーレントな光ファイバイメージング束,あるいは,小型の対物系及び油圧式の焦点メカニズムを備えたファイバ束から構成された光学カテーテルに,スリットスキャンの共焦点蛍光顕微鏡が結合されたものである。共焦点マイクロ内視鏡は,個々の細胞及びサブ-セル構造を視覚化するために,適切な画像を提供する。強力な蛍光染料が,疾病の組織病理学的評価のための選択染色法として,上記システムに用いられる。
イ イントロダクション
疾病の診断は,組織生検サンプルの評価によって,しばしば遂行される。しかし,しばしば,組織の不適切な選択により,誤診あるいは診断不能に遭遇する。セルのレベル(光学生検)において,組織のリアルタイムによる微視的な視覚化は,組織抽出生検に対する代替になり得る。少なくとも,この能力は,生検のための組織選択の問題を改善し,診断の正確さを増加させる。その場での光学的微視的なイメージングのためのイメージ・コントラストは,組織による反射の本質的な違いに由来するが,コントラストは,生体染色によって大きく向上させることができる。蛍光材料による染色は,ターゲットとされた疾病に対し,非常に高い感度と特定性を確約する。しかし,厚い組織の蛍光画像は,非焦点平面からの光のオーバーラップによる寄与のために,通常,貧弱である。幸運にも,共焦点の微視的イメージングの使用により,非焦点光が除去され,生体組織のハイコントラスト蛍光画像が生成される。
ここでは,リアルタイムでの,生体組織の蛍光共焦点微視的イメージングのための装置及び当該装置を用いて得られた生体内イメージングの結果が,簡潔に記述される。共焦点マイクロ内視鏡と命名された装置は,光学カテーテルに結合されたスリットスキャン共焦点顕微鏡に基づいている。カテーテルは,光ファイバのイメージング束,小型の対物系,及び油圧駆動の焦点メカニズムで構成される。マイクロ内視鏡は,体腔を通って,組織表面まで導かれる。
ウ 装置
図1は,光ファイバのイメージング束に結合されたスリットスキャン共焦点顕微鏡のレイアウトを示す。レーザーが,光源として使用される。レーザー照明が,アナモフィック光学系によって,線状光に変換され,スキャンミラーにより反射され,光ファイバのイメージング束の入力面上に投射される。線状光は,カテーテル遠位端で組織を照らすために,ファイバ束を通って伝達される。組織からの蛍光放射は,前記ファイバ束を通って反対方向に中継され,スキャンミラーによって反射され,ダイクロイック・ビームスプリッターにより反射されて固定式のスリット孔に導かれる。当該スリットは,アナモルフィック光学系によって変換された線状光,及び,組織に投射された線状光に対し,共焦点の関係にある。スキャンミラーの1つの位置において,スリット平面における像は,組織の1次元の画像を表す。
スリットを通過した光は,後方に中継され,スキャンミラーによって反射され,2次元CCDカメラ上に投射される。ミラーが回転するにつれて,当該ミラーは,組織中への照明を走査し,蛍光放射を逆走査して固定スリット上に導き,次に,当該画像を再走査して,組織の2次元共焦点イメージを構築するCCDに導く。
最大イメージフレーム・レートは4フレーム/秒であり,当該レートは,装置中で使用されるCCDの最大の読み出しレートによって決定される。
システム中で使用される光ファイバのイメージング束は,中心間隔が3μmで,開口数が0.35である個々の光ファイバを3万本備える。ファイバ束の直径は720μmである。ファイバ束の最小の屈曲半径は15cmである。
代替として,ファイバの遠位端に,小型の対物系及び焦点メカニズムを備えたマイクロ内視鏡カテーテルを使用することができる。システム中で使用される小型の対物系は,ほぼ回折限界性能を備えた特注設計である。対物系の拡大率は,組織からファイバまで1.67である。視野は430μmであり,ファイバにより制約される組織中の横方向分解能は約2μmである。焦点合わせは,組織に接するレンズ系に対してファイバの遠心端を移動させる,油圧作動メカニズムによって実施される。
エ 図1
線状光が,レンズにより集束されて,光ファイバのファイバ束イメージング束に導入される様子,レーザー光源からのレーザー照明が,ダイクロイック・ビームスプリッターを透過して,スキャンミラーに導かれる様子,及びスキャンミラーで反射された蛍光放射が,ダイクロイック・ビームスプリッターで反射されて,固定式のスリットに導かれる様子が記載されている。
(2) 引用例1に記載された発明
ア 上記の記載によれば,引用例1には,以下の発明が記載されているということができる。
組織のリアルタイムによる微視的な視覚化方法を実施する共焦点マイクロ内視鏡であって,前記方法は,①レーザー照明が,アナモフィック光学系によって,線状光に変換される工程と,②前記線状光が,スキャンミラーにより反射され,光ファイバのファイバ束イメージング束の入力面上の一部であるファイバ束に投射される工程と,③前記線状光が,カテーテル遠位端で組織を照らすために,前記ファイバ束を通って伝達される工程と,④小型の対物系及び焦点メカニズムを介して,カテーテル遠位端で,前記線状光により,組織を照らす工程と,⑤組織からの蛍光放射が,前記ファイバ束を通って反対方向に中継され,スキャンミラーによって反射され,ダイクロイック・ビームスプリッターにより反射されて固定式のスリットに導かれる工程と,⑥前記スリットを通過した光が,後方に中継され,スキャンミラーによって反射され,2次元CCDカメラ上に投射される工程と,を含み,前記スキャンミラーは,回転するにつれて,組織中への照明を走査し,組織の2次元共焦点イメージを構築する方法であること,前記共焦点マイクロ内視鏡は,①3万本の光ファイバの前記ファイバ束イメージング束と,②レーザー光源と,③前記アナモフィック光学系によって,線状光に変換されたレーザー照明を,前記ファイバ束イメージング束の入力面上の一部であるファイバ束に投射する前記スキャンミラーと,④前記レーザー光源からのレーザー照明を透過して,前記スキャンミラーに導くとともに,前記スキャンミラーで反射された蛍光放射を反射して,前記固定式のスリットに導く前記ダイクロイック・ビームスプリッタと,⑤組織の2次元共焦点イメージを構築する前記CCDと,⑥前記ファイバ束の遠位端に設けられた小型の対物系及び焦点メカニズムと,を備え,組織のリアルタイムによる微視的な視覚化は,4フレーム/秒で実施される,前記共焦点マイクロ内視鏡
イ なお,本件審決が認定した引用発明では,引用例1の「イメージング束」(a fiber-optic imaging bundle)と「ファイバ束」(a fiber bundle)という2つの用語が混同して用いられている点で正確さに欠ける。すなわち,引用例1の記載から,「イメージング束」は,光ファイバの束全体を指すのに対して,「ファイバ束」は,イメージング束の一部である線状光が導入される光ファイバの列を指すものと解される。本願発明の「イメージガイド」が数千本の光ファイバからなる束全体を指すことは明らかであるから,「イメージガイド」に相当する部材は,「ファイバ束」ではなく「イメージング束」とすべきであって,「XY面」も「ファイバ束」の入力面ではなく「イメージング束」の入力面として定義されるべきである。
もっとも,上記の点は,「ファイバ束」を適宜「イメージング束」に読み替えればすむ程度のもので,本件審決の結論を左右するものではなく,引用発明の認定に誤りがあるとまではいえない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,ファイバ束の入力面を「XY面」と定義すればとの仮定について,本件審決は,その妥当性や根拠について全く触れておらず,本願発明と引用発明との重要な差異を無視するものであると主張する。
しかし,本願発明の「イメージガイド」及び引用例1に記載された「イメージング束」は,所定の径を有する光ファイバを多数集合させたものであるという点で共通し,これらを束ねた集合体の入力断面(入力面)も,当然,光ファイバの本数に応じた2次元方向の広がりを有するものとなる。一般に,「XY面」とは,X軸及びY軸の二方向に広がった面を意味するところ,本願明細書等を参酌しても,「イメージガイドの入口断面に対応するXY面」(【0005】【0026】【0028】)としか記載されていないから,上記一般的な意味を超えて,走査方法との具体的な関係を加味した限定的な意味に解すべき理由はない。
そうすると,引用例1の「イメージング束」の入力面を,上記一般的な意味どおり,「XY面」と定義することに何ら不合理な点はなく,原告の上記主張は,理由がない。
イ 原告は,引用発明の「スキャンミラー」は,1本の横列(ライン)を構成する複数の光ファイバの全てが同時に一斉に照射されるのに対し,本願発明の「走査手段」は,各横列内の光ファイバにおいて,ファイバからファイバへと走査するものであるから,両者は異なると主張する。
本願発明は,「ファイバからファイバへ」の走査を,点から点へと点単位で行うのに対し,引用例1に記載された発明は,それを線単位で行う点で相違する。しかしながら,どちらも「ファイバからファイバへ」の走査を行うものである点においては共通する。本件審決は,「光源によって生成された励起ビームをイメージガイドの入口断面に対応するXY面内でファイバからファイバへと時間にわたり迅速に走査する手段及び導入する手段」を上位概念的な一致点とした上で,点単位及び列単位という具体的な走査方法の違いについては,相違点3として明確に認定しているものである。したがって,具体的な走査方法を相違点とした上で,一致点を認定したことに,誤りがあるとまではいえない。
ウ 原告は,本願発明は,2つのスキャンミラーが必要であるのに対して,引用発明は,ミラーを1つだけ備えるものであるから,この点でも,引用発明の「スキャンミラー」は本願発明の「走査手段」とは異なると主張する。
しかしながら,走査方向の自由度と,スキャンミラーの個数とは,密接に関連するものである。引用発明のような線順次走査では,線状光を一方向に移動させればよいので,線状光を偏向させるためのミラーは1つで足りるのに対して,本願発明のような点順次走査では,ポイント光(点状光)を二方向に移動させなければならないために,ポイント光を偏向させるためのミラーが2つ必要になる。スキャンミラーの個数の違いは,線順次走査及び点順次走査という走査方法の違いに内包されるべき事項にすぎず,走査方法の違いの認定をもって足りるというべきであるから,個数の相違についてまで認定しなかったとしても,誤りとまではいえない。
(4) 一致点及び相違点について
以上によれば,本願発明と引用例1に記載された発明とは,本件審決が認定した一致点において一致し,相違点1ないし4の点で相違する。
3 本願発明の容易想到性について
(1) 相違点3に係る判断について
ア 点順次走査について
相違点3のうち,まず,光ファイバの走査に関して,本願発明が「点から点へとする走査」であるのに対し,引用発明が線状光による線による走査である点について検討する。
一般に,「走査」とは,「ある範囲,空間内の領域,あるいは電磁波スペクトルの一部分を,一定順序で一点一点調べること」(マグローヒル科学技術用語大辞典〔改訂第3版〕)を意味するところ,2次元的な平面(領域)を走査する具体的な手法としては,当該2次元平面を点単位(スポット単位)で2つの方向に順次選択していく方法(点順次走査)と,当該2次元平面線単位(ライン単位)で1つの方向に順次選択していく手法(線順次走査)とが存在する。例えば,甲7には,3次元形状計測装置の従来技術として,「被写体全体を計測するためには,スポット光で被写体全体を2次元走査していた。また,レーザ光をスポット光ではなく,線状のスリット光とし,これを被写体に投影してスリット光の変形によって,スリット光が投影されている線状部分の凹凸を算出していた。被写体全体を計測するためには,スリット光で被写体を1次元走査していた」(【0003】【0004】)と記載されており,この記載からも,点順次走査及び線順次走査がいずれも既に知られていたものであることが認められる。また,これらの具体的な走査手法は,甲7のような3次元形状計測装置に限定されるものではなく,点順次走査(ポイント-バイ-ポイント)を行う共焦点式蛍光顕微鏡(甲12),線順次走査(スリットの1次元スキャン)を行うスリットスキャン・システム(甲15),点順次走査(ファイバを順次に照明する手段は一度に1本のファイバを照明する)を行う内視装置(甲16),点順次走査を飛越し走査により行うテレビジョン(甲22)といったように,各種の画像形成装置において汎用されている。
引用例2には,「ダイオードレーザーは,ビームスプリッタを通って,x-y走査装置に,ビームを送る。x-y走査装置のラスターは,走査レンズを横切ってビームを走査する。このレンズは,対物系(物側開口数)の後方焦点距離上に,ビームを集中させる。光は,組織から後方に反射され,走査装置を通り,当該走査装置は,ビームを逆走査する。その後,この信号光は,ビームスプリッタで反射され,ピンホール孔を通過し,アバランシェフォトダイオード(APD)によって検知される。」と記載されており,また,このx-y走査装置(走査ミラー)は,「1組のガルバノメーターによって駆動される」と記載されている(甲6)。ここで,走査レンズを横切って走査される「ビーム」が点状及び線状のいずれであるかは直接記載されてはいないものの,アバランシェフォトダイオードによって検知される信号光(逆走査される光)は,ビンホール孔,すなわち,点状の孔を通過したものであると解されるので,走査される「ビーム」も,逆走査される光と同様,点状光であると解される。また,「x-y走査装置」は,1組のガルバノメーターによって,x方向及びy方向の二方向に走査を行うものであると解される。よって,引用例2には,光ファイバ共焦点内視鏡において,2次元平面を点単位で2つの方向に順次選択していく点順次走査が行われることが記載されているものと認められる。
前記のとおり,引用例1に記載された発明は,線順次走査を行うものであるところ,2次元の平面を走査する具体的方法として,線順次走査と点順次走査が既に知られ,点順次走査に関しては,光ファイバ共焦点内視鏡に関する引用例2に記載されているほか,画像形成装置一般における汎用的な手法にすぎないことに照らすと,引用例1に記載された発明における線順次走査に,汎用的な手法である点順次走査を適用することは,当業者であれば容易に想到することができる。
イ 横列と縦列について
そして,2次元平面の走査を点状光によって行う場合,点状光を2方向(横方向及び縦方向)に移動させなければ,平面全体を走査することができない。よって,本願発明のように「点から点へとする走査」の場合は,必然的に,入口断面に対応するXY面内で「横列と縦列に沿って」の走査が行われることになる。
ウ 励起信号への対応について
また,相違点3のうち,「各点が前記励起信号に対応し」に関して,「各点」は個々の光ファイバの断面に相当するものである。また,本件明細書の記載(【0031】【0032】)に照らせば,「各点が前記励起信号に対応し」とは,光ファイバの断面が前記励起信号のビーム直径にサイズ的に対応することと解するのが相当である。前記のとおり,点順次走査は点単位で順次選択する手法であるところ,点に相当する1本の光ファイバの断面にレーザを導入する場合には,光ファイバの断面がレーザのビーム直径にサイズ的に対応させることは当然であり,また,そのようにしなければ,1つの点の選択ができず,1本の光ファイバのみにレーザを導入することはできない。
そうすると,本願発明が点順次走査に関するものである以上,「各点が前記励起信号に対応」することは,点順次走査の採用に伴い,当然に行われることにすぎない。
エ 小括
よって,引用例1に記載された発明の線順次走査について,イメージング束の入口断面に対応するXY面内で「横列と縦列に沿って」走査するとともに,「各点が前記励起信号に対応」する点順次走査にすることにより,相違点3に係る本願発明の構成に至ることは,当業者にとって容易に想到することができ,本件審決の相違点3に係る判断に違法はない。
(2) 相違点4に係る判断について
ア 検出手段について
原告は,本願発明は,「前記検出手段はファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有する」ことが,新規で進歩的であると主張する。
前記1のとおり,本願発明の「前記検出手段はファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有する」とは,最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で蛍光信号を検出することと解され,このようにして,ファイバ・サンプリング(シャノンの基準による)を尊重することで,サンプリング時の情報の損失を抑制し,ファイバ毎に最大数の蛍光光子の検出を可能にするという作用効果を奏するものである。
上記シャノンの基準に係る標本化定理自体は,画像処理分野における技術常識であり,画像の復元性の保証は画像形成装置における基本的課題である(甲21~26)。よって,画像形成装置を設計する上で,標本化定理は,当然考慮されるべき事項ということができる。
本願発明及び引用例1に記載された発明では,検出手段と検体との間にファイバ束が存在するため,蛍光信号よりなる原画像を直接かつ連続的にサンプリングすることはできず,ファイバ束を介して間接的かつ不連続にサンプリングすることになるところ,標本化定理において,画像の最高周波数の2倍以上をサンプリング周波数に定めることは,原画像の直接的なサンプリングを前提とするから,ファイバ束を介して間接的かつ不連続にサンプリングする場合には,そのままでは原画像の復元性を保証することができない。そして,画像の復元性を保証することは画像形成装置全般に共通する基本的課題であるから,ファイバ束を介して間接的かつ不連続にサンプリングする場合において標本化定理の適用を検討する際には,最高周波数fとして,画像の最高周波数そのものではなく,線順次走査の場合には,走査速度と,隣接した線の間隔とに基づき決定されるサンプリング周波数を考慮すべきこと,また,点順次走査の場合には,走査速度と,隣接した点の間隔とに基づき決定されるサンプリング周波数を考慮すべきことは,当業者にとって自明のことというべきものである。
そうすると,原画像の復元性を保証する標本化定理を尊重して,蛍光信号の検出を「最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で」行うことは,当業者であれば容易に想到することができる事項にすぎない。
イ リアルタイム速度の励起信号の偏向について
本願発明は,「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度で」前記走査手段により励起信号を偏向させるものであるが,そのようなリアルタイムでの速度を具体的にどのようにして達成するかという点については,本願発明の発明特定事項として何ら特定されていない。他方,引用例1に記載された発明は,「リアルタイムによる微視的な視覚化方法を実施する共焦点マイクロ内視鏡」であって,「組織のリアルタイムによる微視的な視覚化は,4フレーム/秒で実施される」ものであるから,当業者が通常認識するリアルタイム性よりもフレームレートが低いものと認められる。
しかし,共焦点内視鏡においても,一般的な画像形成装置と同様,「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得」するようにすることは自明の課題であり,また,本願明細書において,リアルタイムでの速度の一例として記載されている「最小でも毎秒12画像」(【0017】)のフレームレートを達成するようにすることも,周知であった(周知例1,3)。
したがって,引用例1に記載された発明において,上記自明の課題を解決するために,単に「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度で」前記走査手段により励起信号を偏向させるようにするといった程度のことは,当業者が必要に応じて適宜なし得る範囲の事項にすぎない。
ウ また,本願発明の作用効果,特に,ファイバ・サンプリング(シャノンの基準による)を尊重すれば,サンプリング時の情報の損失を抑制でき,ファイバ毎に最大数の蛍光光子の検出が可能になるという作用効果は,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載の事項及び周知技術から,当業者であれば予測することができる程度のものにすぎない。
エ 相違点4に係る本件審決の判断に違法があるとはいえない。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,相違点3及び4は,相互に密接に関連しており,それらを組み合わせた効果も相乗的なものであるから,これを分断して判断したことは,進歩性判断の誤った手法によるものであると主張する。
相違点3は,本願発明の走査方法が点順次走査であることに関し,相違点4は,点順次走査を前提とした上で,標本化定理を尊重した検出周波数の選定に関するものであることから,両者は,点順次走査という点で一定の関連性を有するものである。しかしながら,標本化定理は,本来,画像の復元性の保証という観点から走査方法の如何を問わず考慮されるべき基本的事項であって,走査方法とは技術的観点が異なるから,相違点3及び4を別々に判断したとしても,誤りがあるとはいえない。
また,本件審決は,相違点4の判断において,相違点3及び4をあわせ,全体として総合的に効果の点も含めて,容易想到性を判断したのであるから,原告の上記主張には理由がない。
イ 原告は,本願発明の特徴は,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするために,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」という互いに相反する3つのパラメータの間に適切なバランスを新たに提供するものであると主張する。
本願発明は,本願明細書に記載されたとおり,「リアルタイム表示」すると同時に「画像の品質を最適化」,特に「高解像度化」することを目的とし,その目的を達成するために,本願発明の構成を採用し,特定したものである。しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,リアルタイムで「高品質」の画像形成を可能にするための「解像度」と「フレームレート(リアルタイム)」と「感度」の間の適切なバランスを特定することについても,リアルタイム性を表す「フレームレート」,画像の品質を表す「解像度」及び「サンプリング周波数」が具体的な高い値として得られることについても,何ら特定されてはいない。本願発明は,「数千本の光ファイバ」及び「リアルタイムで使用するに充分な毎秒画像数の取得に対応する速度」という発明特定事項を有するものの,上記発明特定事項だけからでは,従来実現していなかった,あるいは,従来知られていなかった,「解像度」と「フレーム・レート(リアルタイム)」と「感度」の組合せが実現できる発明が特定されているとはいえない。
そうすると,原告の上記主張は,特許請求の範囲に基づくものではなく,失当である。
ウ 原告は,相違点4の判断について,本願発明は,検出手段(フォトセンサー)とファイバ束との間の新規で進歩的なシャノン基準を定めたものであると主張する。
前記のとおり,原画像の復元性を保証するための標本化定理を尊重して,検出手段が「ファイバを1本づつサンプリングする最小サンプリング周波数に応じて定まる周波数を有するパスバンドを有する」ようにすること,すなわち,蛍光信号の検出を「最小サンプリング周波数に対応する検出周波数で」行うことは,当業者であれば当然に想到し得る事項にすぎない。
(4) 小括
原告は,本件審決の相違点1及び2に係る判断を認めているのであるから,本願発明は,引用例1に記載された発明,引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
4 結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 髙部眞規子 裁判官 井上泰人 裁判官 齋藤巌)