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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10373号 判決 2012年7月12日

原告

株式会社レベルファイブ

訴訟代理人弁護士

辻哲哉

被告

特許庁長官

指定代理人

酒井福造

田村正明

芦葉松美

主文

1  被告が不服2010-27306号事件において平成23年9月28日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2前提となる事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は,平成21年8月31日,「FANTASY LIFE」の文字を標準文字で表してなり,別紙1記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務とする商標(以下「本願商標」という。)を登録出願したが,平成22年8月27日,拒絶査定を受け,同年12月3日,これに対する不服の審判(不服2010-27306号事件)の請求をした。

特許庁は,平成23年9月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年10月19日,原告に送達された。

2  審決の理由

別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,

(1)  本願商標と引用商標(第9類「オンラインゲームのためのコンピューターソフトウェア,コンピューターゲームのためのソフトウェア,その他のコンピューター用ソフトウェア」及び第41類「インターネット上でのオンラインゲームの提供」を指定商品及び指定役務とする登録第5275296号商標,平成21年6月30日登録出願,同年10月23日設定登録。別紙2記載のとおり。)とは,外観において類似であり,「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」の観念を共通にするから,両商標は類似し,指定商品及び指定役務も同一又は類似の商品及び役務を含むものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当すると判断した。

(2)  その理由として,本願商標については,その構成中「FANTASY」の文字が「空想,幻想」,「LIFE」の文字が「生命,生活」の意味を有する英語としていずれもよく知られた語であることから,「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」程の観念を生ずると認定した。

(3) 引用商標については,「fantasy LIFE」の文字部分と「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分とは,視覚上及び意味上においてこれらを常に一体不可分のものとして把握しなければならないとする特段の事情はなく,それぞれが独立して自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たすものといえるから,引用商標全体から生ずる称呼及び観念のほかに,「fantasy LIFE」の文字部分に相応した「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」程の観念をもって取引に当たることも少なくないとみるのが相当であると認定した。

第3当事者の主張

1  原告の主張する取消事由

審決には,以下のとおり,商標法4条1項11号該当性についての判断の誤りがある。すなわち,

(1)  分離観察の可否について

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁)。

ア 引用商標の構成中「fantasy LIFE」の文字部分の自他商品識別力

本願商標と引用商標の指定商品・指定役務は,いずれも第9類の「オンラインゲームのためのコンピューターソフトウェア,コンピューターゲームのためのソフトウェア,その他のコンピューター用ソフトウェア」と第41類の「インターネット上でのオンラインゲームの提供」を含む点で共通しているところ,かかる商品役務(以下「本件商品役務」という。)の取引者,需要者がゲームソフトないしオンラインゲームに付された「ファンタジー」なる表記に接したとき,当該表記がそのゲームの特定の品質(すなわち,「空想上の人生・生活を体験することを内容としたゲーム」であること)を記述するものとして理解する場合が多い。

ゲームソフトないしオンラインゲームのタイトルの一部に「ファンタジー」の表記を含むものは極めて多数存在する。引用商標の商標権者である株式会社ネクソン(以下「ネクソン社」という。)の引用商標の現実の使用態様をみても,同社が運営・提供する特定のMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game。以下「ネクソン社MMORPG」という。)の出所識別標識として引用商標全体を用いて表記される場合のほか,引用商標から「fantasy LIFE」の部分を脱落させた残りの「mabinogi/マビノギ」の特徴ある書体によって大きく表示された文字部分のみによって表記する例,及び単に「マビノギ」との片仮名によって表記する例が相当数みられるが,「fantasy LIFE」の文字のみを分離して本件商品役務の出所識別標識として用いている例は皆無である。また,本件商品役務の取引者,需要者がネクソン社MMORPGを指示する場合,「マビノギファンタジーライフ」と表記するほか,単に「マビノギ」と表記する場合が相当数みられる一方で,「ファンタジーライフ」ないし「fantasy LIFE」の文字のみを取り出して用いている例は皆無である。

ネクソン社及び本件商品役務の取引者,需要者は,「そこは自由なファンタジーライフ 世界を救う勇者になったり,お洒落に精を出してみたり,あなたはどんな生活を送る?」等,「ファンタジー」ないし「ファンタジーライフ」なる表記を,ネクソン社MMORPGの品質を記述するものとして使用している場合が多い(甲44,45の1~3)。

以上の事情に照らせば,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の文字部分の自他商品識別力は極めて小さいというべきである。

イ 引用商標の構成中「mabinogi/マビノギ」の文字部分の自他商品識別力

ネクソン社MMORPGは,ネクソン社が平成17年に提供を開始して以降,平成22年11月30日の時点でも,オリコンDD株式会社が運営するインターネット上のサイト「oricon LIFE」の「オンラインゲーム総合ランキング」ページの13位にランクされている旨が掲載されている等,本件商品役務の取引者,需要者の間で人気を集めている。平成22年11月30日にインターネット上の検索サイト「Google」で「マビノギ」の文字を入力した検索結果として出力表示された上位100サイトのうち99サイトがネクソン社MMORPGを示す表記として「マビノギ」の文字を使用していることにもみられるように,本件商品役務の取引者,需要者の間では,「マビノギ」の表記がそれ単独でネクソン社MMORPGを示すものとして顕著な自他商品識別力を獲得している。

以上の事情に照らせば,引用商標の構成中「mabinogi/マビノギ」の文字部分の自他商品識別力が大きいといえる。

ウ 引用商標の外観,称呼及び観念

引用商標は,あたかも幼児が手書したかのような印象を与えるデザイン化された独特の書体により,太い実線で縁取られた袋文字様の欧文字「mabinogi」の下に,それよりも約5分の1程度小さく太い実線で縁取られた袋文字の片仮名「マビノギ」が配置され,更に該欧文字「mabinogi」の右上部分に「mabinogi」の約7分の1程度の小さな欧文字による「fantasy」,その右に黒字の背景に白抜きの欧文字「LIFE」を書すものである。特徴的な書体という点においても,文字の大きさ・太さ・袋文字での表記という点においても,引用商標のうち「mabinogi」と「マビノギ」の二段表記された部分が突出し,取引者,需要者の注意を最もひき,印象,記憶に残りやすい部分であると認められる一方,欧文字「fantasy」と欧文字「LIFE」とから構成される文字部分は,「mabinogi/マビノギ」の部分に比較して相当小さく表示されているから,この文字部分だけが独立して取引者,需要者の注意をひくように構成されているとはいえない。

引用商標から生じる称呼をみるに,全体として3つの単語が連続し,相互に順序・関連づけられて「mabinogi(マビノギ) fantasy LIFE」と一体的に表したものと特段の違和感もなく受け止められ,その構成全体に相応して「マビノギファンタジーライフ」なる称呼が無理なく生じるといえ,全部で12音であって冗長ではないし,一連に発音しても何ら違和感がない。

引用商標から生じる観念をみるに,その構成中「mabinogi/マビノギ」の文字部分は,一般の日本語運用者にとっては,特定の観念を生じさせないともいい得る一面で,当該文字が吟遊詩人によって語り伝えられてきた中世ウェールズのケルト幻想物語「マビノギオン」のなかの4つの物語「マビノギ」を指す文字でもあることから,当該文字部分から中世ウェールズのケルト幻想物語との関連で特定の印象,記憶,連想を生じる者が存在し得るといえることのほかに,本件商品役務の取引の実情等をみるに,上記文字部分は,本件商品役務に使用された場合にはネクソン社の提供する特定のMMORPGの識別標識として強く支配的な印象,記憶,連想を生じさせるものとみられる。他方,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の文字部分からは「空想上の人生・生活」程の観念を生じ得るともいえようが,本件商品役務の取引の実情等をみるに,その取引者,需要者において「fantasy」なる表記がそのゲームソフトないしオンラインゲームについて特定の品質(ゲームの内容ないし特定のカテゴリー・ジャンル)を記述するものとして理解される場合が多く,また,「fantasy LIFE」なる表記がそのゲームソフトないしオンラインゲームの特定の品質(すなわち「空想上の人生・生活を体験するゲーム」であること)を記述するものとして理解され,そのような印象,連想を生じさせることも多いから,この部分だけでは出所識別標章としての格段の観念を生じるものとはいえない。そうすると,引用商標は,その構成全体を一種の造語として観察され,何ら確定的な観念を生じないものとみられるほかに,その構成全体から「『マビノギ』という名称の,空想上の人生・生活を体験するゲーム」といった程度の観念を生じさせるともみる余地があるといえる。

いずれにしても,「mabinogi/マビノギ」の文字部分が,本件商品役務に使用された場合に特定の商品役務の識別標識として強く支配的な印象,記憶,連想を生じさせるものとみられることから,それとの対比において,本件商品役務と密接に関連しかつ一般的,普遍的な文字である「fantasy LIFE」の部分のみからは,取引者,需要者に対して出所の識別標識としての称呼,観念を生じないことは明らかである。

本件において,指定商品役務である「オンラインゲームのためのコンピューターソフトウェア,コンピューターゲームのためのソフトウェア,その他のコンピューター用ソフトウェア」及び「インターネット上でのオンラインゲームの提供」のうち,「オンラインゲームのためのソフトウェア」又は「インターネット上でのオンラインゲームの提供」について使用された場合を想定して,引用商標の構成中「mabinogi/マビノギ」の文字部分に強く支配的な自他商品識別力を認め,それとの対比において,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分が,取引者,需要者に特定的,限定的な印象を与える力を有するにすぎないと評価することは,はるかに自然で容易である。

以上のとおり,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分が,「その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合」に該当せず,また,「出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合」に該当しないことも明らかであり,このほかにも同部分を取り出して観察することを正当化するような事情は特に存在しないから,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分のみを取り出して本願商標との類否を判断することは許されない。

(2)  本願商標と引用商標の類否

本願商標と引用商標は,引用商標を構成する「fantasy LIFE」の部分において共通性を見いだし得るにすぎないところ,引用商標の構成中の「fantasy LIFE」の部分のみを抽出して本願商標との類否を判断することは許されない以上,引用商標を全体として観察するにしても,あるいは引用商標の構成中「その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるもの」と認める余地のある「mabinogi/マビノギ」の部分を抽出して観察するにしても,本願商標とは,外観,称呼,観念いずれにおいても顕著な相違が認められる。

本件商品役務の取引者,需要者が,ゲームソフトないしオンラインゲームの商品又は役務としての同一性を識別するにおいては,そのタイトルの文字以外にも,ゲームに登場するキャラクター等の特徴的な映像,ゲーム制作会社(メーカー)の名称・ロゴ等の標章,対応するハードウェア機器の商品名・ロゴ等の標章をも手がかりに商品又は役務の自他識別を行うことが普通である。本件商品役務にかかる引用商標の使用態様をみるに,ネクソン社MMORPGのタイトルとしての使用のみであり,それ以外の態様による使用の例は見当たらない。他方,本願商標は,平成21年から,対応機種をニンテンドーDS(後にニンテンドー3DSに変更)とする原告のコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム機向けのゲームソフト)のタイトルとして継続して使用され,本件商品役務の取引者,需要者の間で既に広く知られている。また,ネクソン社MMORPGと原告のコンシューマーゲームは,相互に何らの取引上の関係もなく,ゲームに登場するキャラクター等の映像,ゲーム制作会社(メーカー),対応するハードウェア機器に顕著な相違があり,取引者,需要者がこれらを識別して取引に入るまでの経路,方法,手順も大きく異なる。

以上を総合して本願商標と引用商標の類否について検討すれば,両者は外観,称呼,観念のいずれの点においても相違し,取引の実情等を考慮しても,本願商標がその指定商品役務に使用された場合に,引用商標との間で商品役務の出所に誤認混同を生じさせるおそれは全くないといえるから,両商標が類似しないことは明らかである。

2  被告の反論

以下のとおり,本願商標をその指定商品役務について使用するときは,引用商標との間において,商品役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというべきであり,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。

(1)  本願商標について

本願商標は,標準文字からなるものであるから,特別な特徴を有する態様からなる構成であるとはいえないところ,構成中の「FANTASY」が「空想,幻想」,「LIFE」が「生命,生活」の意味を有する英語としていずれもよく知られた語である(乙1)ことから,これら「FANTASY」と「LIFE」とを1文字分のスペースを介して結合したものと容易に理解,把握されるものである。

そうすると,本願商標は,その構成文字全体から「空想生活」程の観念を生じるものであり,また,「ファンタジーライフ」の称呼が生じることは明らかというべきである。

(2)  引用商標について

引用商標は,「mabinogi」の欧文字と思われる文字及び「マビノギ」の片仮名の部分を袋文字風にデザイン化して表してなり,これらの上方の右側に,「fantasy」の欧文字及び黒色長方形内に白抜き文字で表された「LIFE」の欧文字を配してなるものである。そして,引用商標の上方の右側に配置された「fantasy」の欧文字と「LIFE」の欧文字とは,小文字と大文字の違いがあり,「LIFE」が白抜きの文字で「fantasy」の文字よりやや大きく表されているものの,両者はゴシック体により,「fantasy」の文字と「LIFE」の文字を囲った黒色長方形の上部をそろえて一連に表されていることから,視覚上一体のものとして認識され得るものである。また,「fantasy LIFE」の文字部分は,上記のとおり,普通に用いられる方法で表示してなるものとまではいい切れない構成からなるものの,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分が一体的に相当程度デザイン化してなるものとは相違して,文字自体は特別の態様を有してなるとはいえないゴシック体により横一連に表され,「mabinogi」の文字から離れて配置されていることから,外観において,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分とは明確に分離して看取,把握されるものであり,「fantasy LIFE」の文字部分と「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分は,それぞれ,まとまりの良い一個の単位を構成しているというべきである。

引用商標の構成中の「fantasy」の文字が「空想,幻想」,「LIFE」の文字が「生命,生活」の意味を有する英語である(乙1)ことから,「fantasy LIFE」の文字部分からは「空想生活」程の一連の意味を生ずるものである。そして,該部分から生じる称呼は,「ファンタジーライフ」であるというべきである。他方,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分について,「mabinogi」の欧文字は,英和辞典などのなじみのある外国語辞典には掲載されていないことから,既成の親しまれた観念を有する成語を表したものとはいえないものの,「Mabinogion(『マビノギオン』ウェールズの中世騎士道物語集)」(乙4,5)に収録されている物語の題号の1つである「マビノギ」を指すことを知っている者にとっては,そのような観念が生じる余地がある。また,「マビノギ」の片仮名部分が「mabinogi」の欧文字部分から生じる自然な称呼を表したものであるということができる。したがって,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分から生じる称呼は,「マビノギ」であり,特定の観念は生じないか,上記物語の題号の1つである「マビノギ」を観念させる余地があるというべきである。

そうとすれば,引用商標は,その構成中において,「fantasy LIFE」の文字部分が「空想生活」程の観念を有するのに対して,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分が特定の観念を生じないか,「Mabinogion」に収録されている物語の題号の1つである「マビノギ」を認識させるものであるから,観念上,常に一体不可分の商標というべきではない。また,引用商標から生じる称呼については,全体から生じる称呼として発音した場合,「ファンタジーライフマビノギ」又は「マビノギファンタジーライフ」と12音にわたり,比較的冗長である。そして,「ファンタジーライフ」及び「マビノギ」の称呼のどちらを先に言うのか迷うこともある各構成部分は,称呼上,それぞれの部分が分離して発音され得るものであり,一体不可分の関係にあるとはいえないというべきである。

以上のとおり,引用商標は,外観,観念及び称呼のいずれの面においても,「fantasy LIFE」の文字部分と「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分との2つの部分に分離して把握され得るものであるというべきである。

ところで,商品又は役務に係るゲームソフトウェア及びその他のソフトウェアにおいては,その商品又は役務を識別する標章として,ソフトウェアの内容を示すタイトルのほかに,該ソフトウェアの制作会社等に係る標章を表示してあることが少なからず存在するものであり,また,該標章は,タイトルよりも小さく表示されていることが一般的である(乙6~14)。そうすると,引用商標は,その外観並びにそこから生ずる観念及び称呼に,その指定商品及び指定役務における上記の実情を併せて考慮すれば,これに接する取引者,需要者をして,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分がソフトウェアのタイトルを表し,「fantasy LIFE」の文字部分が該ソフトウェアの制作会社等に係る標章を表しているものと理解,認識させるものであり,結局,引用商標において「fantasy LIFE」の文字部分も取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別機能として強く支配的な印象を与える部分であるといえるから,これらは,それぞれが独立して自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たすものというべきである。

したがって,引用商標は,「fantasy LIFE」の欧文字部分に相応した「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」程の観念も生じるというべきである。

(3)  本願商標と引用商標との類否について

引用商標は,「fantasy LIFE」の欧文字部分も取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別機能として強く支配的な印象を与える部分であって,引用商標の要部の1つとなるものである。したがって,この部分から生ずる称呼,観念が本願商標のそれと類似するときは,両商標は類似するものといえる(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。

本願商標と引用商標は,外観においては相違するものであるが,本願商標から生じる「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」程の観念と,引用商標の要部の1つである「fantasy LIFE」の文字部分から生じる「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」程の観念とは,同一である。したがって,本願商標と引用商標とは,その外観,観念及び称呼によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すれば,その出所の混同を生じさせるおそれのある類似する商標であるというべきである。

以上のとおり,本願商標と引用商標とは,類似の商標であるといえるものであり,本願商標に係る指定商品及び指定役務は,引用商標に係る指定商品及び指定役務と同一又は類似の商品及び役務を含むものであるから,商標法4条1項11号に該当する。

(4)  原告の主張に対する反論

ア 引用商標の構成中「fantasy LIFE」の文字部分の自他商品識別力の主張に対し

「ファンタジー」の語が「空想,幻想」の意味を有することから,ゲームの内容が空想的なものであることを想起させることはあるにしても,「ファイナルファンタジー」のように,他の語と結合して自他商品・役務の識別力を有する造語を形成する場合がある(甲32の別紙1)。そして,引用商標の構成中の「fantasy LIFE」の文字部分も,「空想生活」程の観念を生じる造語として認識されるものである。また,本願商標と引用商標の指定商品・指定役務は,内容がゲームではない「コンピューター用ソフトウェア」に係る商品・役務を含むものである。

本願商標も,引用商標の構成中の「fantasy LIFE」の文字部分も,「空想生活」程の観念を生じる造語というべきものであり,自他識別力を欠く語ではない。

原告はゲームソフトないしオンラインゲームのタイトルの一部に「ファンタジー」の表記を含むものは極めて多数存在することを挙げるが,「ファンタジー」の文字を含むタイトルは自由に採択され得るものであり,そのような事情があるとしても,引用商標の構成中の「fantasy LIFE」の文字部分についての自他商品・役務の識別力には何らの影響を与えるものではない。

原告は,引用商標の権利者がその構成中の「fantasy LIFE」の文字部分のみを分離して商品又は役務の出所識別標識として用いている例は皆無であること,他方,ネクソン社MMORPGを指示するに「マビノギファンタジーライフ」と表記する場合のほか,単に「マビノギ」と表記する場合が相当数見られることを挙げるが,登録商標の範囲及び指定商品又は指定役務の範囲は,いずれも願書の記載に基づいて定めなければならない(商標法27条)ものであるから,本願商標と引用商標との類否の判断に当たっては,それぞれ,願書に記載した商標に基づいて,かつ,互いに抵触する指定商品又は指定役務との関係に基づいてなされなければならないというべきである。

原告はネクソン社及び取引者,需要者が,「ファンタジー」ないし「ファンタジーライフ」なる表記を,ネクソン社MMORPGの品質を記述するものとして使用している場合が多いことを挙げるが,原告が挙げる例は,「ファンタジー」(甲45の2,3),「ファンタジーライフ」(甲44,45の1)の片仮名が文章中に使用されていることを述べているにすぎず,そのうち「ファンタジーライフ」の文字については,原告がいうように商品の品質又は役務の質を記述するものとして使用していると断定できる事実は示されていない。そして,引用商標の構成中の「fantasy LIFE」の文字部分は,「ファンタジーライフ」の片仮名ではない。

イ 引用商標の構成中「mabinogi/マビノギ」の文字部分の自他商品識別力の主張に対し

原告が主張する事情は,ネクソン社MMORPGのタイトルを示す表示として,「マビノギ」の表示がオンラインゲームを取り扱う取引者,需要者の間に一定程度知られていることを示しているにすぎないものであり,引用商標の構成中の「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分が直ちに自他商品識別力が大きい(強い)といえるわけではなく,ましてや,引用商標に係る指定商品及び指定役務中のオンラインゲームに係る役務以外の商品について,上記事情は適用されるべきものではないというべきである(最高裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決参照)。

ウ 引用商標の外観,称呼及び観念の主張に対し

前記のとおり,引用商標の構成中の「mabinogi/マビノギ」の文字部分のみが,本件商品役務に使用された場合に特定の商品役務の識別標識として強く支配的な印象,記憶,連想を生じさせるものではなく,「fantasy LIFE」の部分からも,取引者,需要者に対して「出所の識別標識としての称呼,観念」を生じるものであるというべきである。

エ 本願商標と引用商標の類否の主張に対し

引用商標は,前記のとおり,「fantasy LIFE」の欧文字部分も取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別機能として強く支配的な印象を与える部分であって,引用商標の要部の1つとなるものであるから,この部分から生じる称呼,観念を本願商標のそれと比較し,商標の類否を判断することは,許されるものというべきである。

原告が本件商品役務の取引の実情として述べるところは,現在,本願商標がコンシューマーゲームに使用されていること,引用商標がMMORPGに使用されていることを述べているにすぎず,結局,本願商標及び引用商標の使用されているごく限られた一部の商品又は役務についての特殊的・限定的な取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品及び指定役務全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではないというべきである(前掲最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決参照)。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由には理由があり,審決は,違法として取り消されるべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  本願商標と引用商標の外観,観念,称呼及び取引の実情等について

(1)  外観について

ア 本願商標

本願商標は,「FANTASY LIFE」の文字を標準文字で横書きしてなるものである。

イ 引用商標

引用商標は,別紙2記載のとおり,あたかも幼児が手書したかのような印象を与えるデザイン化して表された「mabinogi」の欧文字と,その「bino」部分の下に同文字よりやや小さく袋文字風に表した「マビノギ」の片仮名を書し,さらに,「mabinogi」の文字の右上方に「fantasy」の欧文字を書し,それに続けて黒色長方形内に白抜き文字で「LIFE」の欧文字を書してなるものであり,「fantasy LIFE」の部分は,「mabinogi」及び「マビノギ」の部分(以下「『mabinogi/マビノギ』の部分」という。)に比し,高さは約5分の1,幅は約2分の1の大きさである。

ウ 以上のとおりであり,本願商標は,「FANTASY LIFE」との標準文字からなるのに対して,引用商標は,上記のような特徴的な書体で表された「mabinog/マビノギ」の部分と,右上方の「fantasy LIFE」の部分からなるものであり,「LIFE」の部分と「LIFE」の部分に共通する点が認められるものの,全体を対比すると両者は外観において著しく異なるものである。

(2)  観念,称呼について

ア 本願商標

本願商標は,「FANTASY」と「LIFE」により構成されているが,標準文字からなる「FANTASY LIFE」の各文字は,同一の大きさで,「FANTASY」と「LIFE」との間に1文字ほどの空間を空けて等間隔にまとまりよく配列されていること,「FANTASY」は「空想,夢想,ファンタジー」を,「LIFE」は「生命」「生物」「人生」「生活」を意味するいずれも平易な英語(ベーシックジーニアス英和辞典。乙1)であり,これら「FANTASY」と「LIFE」とを結合したものと容易に理解,把握されるものであると認められる。

そうすると,本願商標は,取引者,需要者から「FANTASY」と「LIFE」とを結合したひとまとまりのものとして認識され,その構成文字全体から「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じるものであり,また,「ファンタジーライフ」の称呼が生じるものである。

イ 引用商標

引用商標は,上記(1)イのとおり,「fantasy LIFE」の部分と「mabinogi/マビノギ」の部分とからなるが,両部分は,文字の種類及び大きさが異なっているから,分離して認識されるものと認められる。そして,上記のとおり「fantasy」は「空想,夢想,ファンタジー」を,「LIFE」は「生命」「生物」「人生」「生活」を意味するいずれも平易な英語であり,「fantasy LIFE」は,この2つの英単語を結合したものと容易に理解,把握されるものであるから,同部分のみを抽出した場合,「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じ,また,同部分から生じる称呼は,「ファンタジーライフ」であると認められる。

他方,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分中,「マビノギ」は「mabinogi」の読みを表したものと容易に認識されるものであり,「mabinogi」の欧文字は,「Mabinogion(『マビノギオン』:ウェールズの中世騎士道物語集)」(ランダムハウス英和大辞典第2版。乙4)に収録されている物語の題号の1つである「マビノギ(Mabinogi)」を指すものである(Wikipedia。乙5)が,一般になじみのある語であるとは認められない。したがって,「mabinogi/マビノギ」の部分からは,特定の観念を生じないか,上記由来を知っている者には物語の題号の1つである「マビノギ」の観念を生じさせるものと認められる。 また,同部分から生じる称呼は,「マビノギ」であると認められる。

ウ 以上のとおりであり,本願商標は,「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じ,「ファンタジーライフ」の称呼を生じるものであるのに対して,引用商標は,「fantasy LIFE」の部分のみを抽出した場合,「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じ,「ファンタジーライフ」の称呼を生じるということができるが,他方,「mabinogi/マビノギ」の部分からは,特定の観念を生じないか,物語の題号「マビノギ」の観念を生じ,「マビノギ」の称呼を生じるものである。

(3)  取引の実情等

本願商標の指定商品及び指定役務は,引用商標の指定商品及び指定役務である第9類「オンラインゲームのためのコンピューターソフトウェア,コンピューターゲームのためのソフトウェア,その他のコンピューター用ソフトウェア」及び第41類「インターネット上でのオンラインゲームの提供」を含む点で共通している。そして,これらコンピュータゲームの分野において,「ファンタジー」の語は,ゲームのジャンル(「空想上の人生・生活を体験することを内容としたゲーム」)を指すものとして使用されていることが認められる(甲23,32,35,37)。

2  判断

(1)  当裁判所は,本願商標と引用商標とは,外観において著しく異なり,観念及び称呼において共通する部分があるものの,引用商標の構成及び取引の実情等を考慮するならば,類似するとは認められないから,本願商標が,商標法4条1項11号に該当するとした審決は誤りであると判断する。その理由は以下のとおりである。

(2)  商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決,同平成20年9月8日第二小法廷判決)。

そこで,これを本件についてみると,引用商標は,「fantasy LIFE」の部分と「mabinogi/マビノギ」の部分とからなる結合商標と解されるところ,「mabinogi/マビノギ」の部分は,「fantasy LIFE」の部分よりも大きく(高さは約5倍,幅は約2倍)かつ特徴的な書体で表され,同部分からは特定の観念を生じないか,物語の題号の1つである「マビノギ」の観念を生じさせるから,造語ないし固有名詞として認識され,取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。また,同部分から「マビノギ」の称呼が生じることは明らかである。他方,「fantasy」の語は,「空想,夢想,ファンタジー」を意味する平易な英語であって,「ファンタジー」の語は,コンピュータゲームの分野においてゲームのジャンル(「空想上の人生・生活を体験することを内容としたゲーム」)を指すものとして使用されているから,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分は,取引者,需要者にコンピュータゲームのジャンルを示すものと認識されることが多いものと認められ,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められない。

上記のとおり,引用商標の構成中,「fantasy LIFE」の部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできず,他方,「mabinogi/マビノギ」の部分から出所識別標識として固有の称呼を生じ,観念を生じ得るのであるから,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分だけを抽出して本願商標と対比することは許されないというべきである。そして,本願商標と引用商標の構成部分全体を対比すると,両者は外観において著しく異なり,観念,称呼において一部共通するものの,取引の実情を考慮するならば,類似するとはいえない。したがって,本願商標と引用商標の類否について,外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,具体的な取引状況に基づいて全体的に考察すると,本願商標と引用商標が,役務における出所の誤認混同を生じるおそれはなく,両商標は類似しないから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断には誤りがある。

(3)  被告は,「ファンタジー」の語が「ファイナルファンタジー」のように他の語と結合して自他商品・役務の識別力を有する造語を形成する場合があると主張する。しかし,コンピュータゲームの商品名に「ファイナルファンタジー」のように「ファンタジー」の語を含むものがあるとしても,「ファイナルファンタジー」は「ファンタジー」のジャンルに属するコンピュータゲームであると認められる(甲23)から,「ファンタジー」の語自体が商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず,被告の主張は理由がない。

また,被告は,商品又は役務に係るゲームソフトウェア及びその他のソフトウェアにおいては,その商品又は役務を識別する標章として,ソフトウェアの内容を示すタイトルのほかに,該ソフトウェアの制作会社等に係る標章を表示してあることが少なからず存在するものであり,また,該標章は,タイトルよりも小さく表示されていることが一般的であると主張し,乙6~14には,ソフトウェアの内容を示すタイトルのほかに該ソフトウェアの制作会社等に係る標章をタイトルよりも小さく表示してあることが認められる。しかしながら,そうであるからといって,引用商標において「fantasy LIFE」の部分が,同部分より大きくかつ特徴的な書体で表された「mabinogi/マビノギ」の部分より商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められない。被告は,他にも縷々反論するが,上記判断を左右しない。

(4)  よって,原告主張の取消事由には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。

第5結論

よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 武宮英子)

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