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知財高等裁判所 平成23年(行ケ)10429号 判決 2012年9月12日

原告

クゥアルコムインコーポレイテッド

同訴訟代理人弁理士

蔵田昌俊

中村誠

福原淑弘

岡田貴志

宮田良子

被告

特許庁長官

同指定代理人

藤内光武

樋口信宏

守屋友宏

奥村元宏

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立ての

ための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2008-22324号事件について平成23年8月1日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を後記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  原告は,平成14年6月13日,発明の名称を「構成可能なパターン最適化器」とする特許を出願したが(特願2003-506213。パリ条約による優先権主張日:平成13年6月15日,米国。請求項の数は35。甲3~5),平成20年5月27日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月1日,これに対する不服の審判を請求するとともに,手続補正をした(以下「本件補正」という。甲8。請求項の数は39)。

(2)  特許庁は,前記請求を不服2008-22324号事件として審理し,平成23年8月1日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同月23日,原告に送達された。

2  本件補正前後の特許請求の範囲の記載

(1)  本件補正前の特許請求の範囲の記載の請求項1は,平成17年6月1日付け手続補正書(甲6)及び平成20年3月31日付け手続補正書(甲7)による補正後の次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。なお,文中の「/」は,原文における改行箇所を示す(以下同じ。)。

【請求項1】ディジタルシネマシステムにおいて,周波数ベースの画像データを直列化するための方法,該方法は下記を具備する:/16×16ブロックで表すことが可能な少なくとも一つのデータグループをコンパイルする;/該データグループを4個の8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループに分割する;/8×8ブロック内の1つ以上の値を評価して,直列化することの最も効率的な走査スキームを決定する;及び/決定されたスキームに従って,該4個の8×8データブロックの各々を直列化する。

(2)  本件補正後の特許請求の範囲の記載の請求項1(以下「本件補正発明」という。)は,次のとおりであり,下線部は,補正部分である。

【請求項1】ディジタルシネマシステムにおいて,周波数ベースの画像データを直列化するための方法,該方法は下記を具備する:/16×16ブロックで表すことが可能な少なくとも一つのデータグループをコンパイルする;/該データグループを4個の8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループに分割する;/8×8ブロックの各々内の1つ以上の値を評価して,直列化することの最も効率的な走査スキームを決定する;及び/これらのブロックの各々の決定されたスキームに従って,該4個の8×8データブロックの各々を直列化する。

3  本件審決の理由の要旨

(1)  本件審決の理由は,要するに,①本件補正発明が,後記ア及びイの引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,本件補正発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,②本願発明も,同様の理由で特許を受けることができない,というものである。

ア 引用例1:国際公開第01/35673号(平成13年(2001年)5月17日公開。甲1)

イ 引用例2:特開平8-265755号公報(甲2)

(2)  本件審決が認定した引用例1に記載の発明(以下「引用発明」という。)並びに本件補正発明及び本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明:ディジタルシネマに適用した画像圧縮システムにおいて,画像を圧縮する方法であって,画像の画素データの16×16ブロックの入力がエンコーダに供給され,エンコーダのブロックサイズ割当て手段が,前記画素データの16×16ブロックの画素値の変化を計算し,該変化を閾値と比較した結果に基づき,前記16×16ブロックを4つの8×8ブロックに細分化し,さらに,細分化されたブロックの画素値の変化と閾値との比較結果に基づき,4つの4×4ブロック,さらに2×2ブロックと細分化すること,前記細分化された各ブロックの画素データは,変換手段で周波数領域データに変換され,当該周波数領域データは,量子化器で量子化され,シリアライザは当該量子化された周波数領域データを8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化すること,を備える方法

イ 本件補正発明と引用発明との一致点及び本願発明と引用発明との一致点:両者はいずれも,「ディジタルシネマシステムにおいて,周波数ベースの画像データを直列化するための方法,該方法は下記を具備する8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループを得て,該複数の8×8データブロックの各々を直列化する。」であるといえる点

ウ 相違点1:本件補正発明及び本願発明では,8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループを「16×16ブロックで表すことが可能な少なくとも一つのデータグループをコンパイルする」こと,「該データグループを4個の8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループに分割する」ことにより得ているのに対し,引用発明では,そのようには得ていない点

エ 相違点2:本件補正発明では,上記複数の8×8データブロックの各々を直列化するのに,「8×8ブロックの各々内の1つ以上の値を評価して,直列化することの最も効率的な走査スキームを決定する」こと,及び「これらのブロックの各々の決定されたスキームに従って」,直列化しているのに対し,引用発明では,ジグザグ走査して直列化している点

オ 相違点2′:本願発明では,上記複数の8×8データブロックの各々を直列化するのに,「8×8ブロック内の1つ以上の値を評価して,直列化することの最も効率的な走査スキームを決定する」こと,及び「決定されたスキームに従って」,直列化しているのに対し,引用発明では,ジグザグ走査して直列化している点

4  取消事由

(1)  本件補正却下の誤り

ア 引用発明,一致点並びに相違点1及び2の認定の誤り(取消事由1)

イ 相違点1及び2に係る判断の誤り(取消事由2)

(2)  本願発明の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由3)

第3当事者の主張

1  取消事由1(引用発明,一致点並びに相違点1及び2の認定の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,引用発明を「データを8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化すること」を備えるものとして認定する。

(2) しかしながら,引用例1には,「ジグザグ以外のパターンはもちろん,多くの異なったジグザグ走査のパターンがまた選択されてもよい。好ましい技術はジグザグ走査のために8×8ブロックサイズを採用するが,他のサイズも採用され得る。」との記載(【0044】)があるから,引用発明は,走査パターン及びブロックサイズに関して,ジグザグ走査に限らず他のパターンも選択できるとともに,8×8ではないサイズも採用することができることを前提とする発明である。したがって,一致点並びに相違点1及び2は,正しくは次のとおり認定されるべきである。

ア 本件補正発明と引用発明との一致点:両者はいずれも,「ディジタルシネマシステムにおいて,周波数ベースの画像データを直列化するための方法,該方法は下記を具備する複数の所定のブロックで表すことが可能な複数のグループを得て,該複数の所定のデータブロックの各々を直列化する。」であるといえる点

イ 相違点1:本件補正発明では,8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループを「16×16ブロックで表すことが可能な少なくとも一つのデータグループをコンパイルする」こと,「該データグループを4個の8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループに分割する」ことにより得ているのに対し,引用発明では,そのようには得ていないとともに,走査のためのブロックとして8×8ブロックサイズに限らず他のサイズも採用することができる,としている点

ウ 相違点2:本件補正発明では,上記分割された8×8データブロックの各々を直列化するのに,「8×8ブロックの各々内の1つ以上の値を評価して,直列化することの最も効率的な走査スキームを決定する」こと,及び「これらのブロックの各々の決定されたスキームに従って」,直列化しているのに対し,引用発明では,ブロックの走査パターンとしてジグザグ走査に限らず他のパターンも選択でき,選択したパターンで走査して直列化している点

(3) 以上のとおり,本件審決は,引用発明,一致点並びに相違点1及び2の認定を誤るものであるから,これに伴って容易想到性に係る判断も誤るものであり,取消しを免れない。

(4) なお,引用例1のブロックサイズ及び走査パターンに関する前記(2)の記載(【0044】)を「好適な実施態様に対する余事」であるとする被告の主張は,引用例1に記載の発明が「適応性サイズブロック及びサブブロックを利用する画像圧縮システム及び方法」に関する図1(【請求項8】【請求項17】【請求項18】【請求項22】【請求項31】【請求項32】【0010】【0011】【0028】【0030】参照)であることを無視したものであり,失当である。

〔被告の主張〕

(1) 引用例1には,量子化係数がジグザグ走査シリアライザに供給され,当該ジグザグ走査シリアライザが当該量子化係数の直列化された流れを生成するためにジグザグな様式で量子化係数のブロックを走査し,ジグザグ走査のために8×8ブロックサイズを採用する構成が好ましい実施例として具体的かつ明確に記載されており,原告が援用する記載(【0044】)は,データを走査して直列化することに関する記載の一部であるにすぎない。したがって,引用例1には,「シリアライザは当該量子化されたデータを8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化する」ことが記載されているから,この点に関する本件審決の認定に誤りはない。

(2) なお,原告が援用する引用例1の記載(【0044】)は,走査パターンとしてジグザグ走査が選択され,走査のためのブロックとして8×8ブロックサイズのブロックを採用することが好適な実施態様であることを前提として,余事として,それ以外の走査パターン及びブロックサイズを選択・採用できることを述べているにすぎないから,そこに記載の発明において上記実施態様を採用することを阻害するものではない。

むしろ,引用例1の特許請求の範囲の記載には,周波数領域データを量子化したデータを直列化された流れのデータに走査するシリアライザ手段が,ジグザグな走査のために8×8ブロックサイズを採用したジグザグスキャナにより構成される発明(【請求項8】【請求項17】【請求項18】)及び周波数領域データを量子化したデータを直列化された流れに走査するステップにおいて,当該走査として8×8ブロックサイズを使用したジグザグ走査が実行される発明(【請求項22】【請求項31】【請求項32】)が記載されているから,引用例1には,「シリアライザは当該量子化されたデータを8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化する」ことが記載されていると認定した本件審決に誤りはない。

(3) よって,本件審決による引用発明,一致点並びに相違点1及び2の認定に誤りはなく,原告の主張は,失当である。

2  取消事由2(相違点1及び2に係る判断の誤り)について

〔原告の主張〕

(1) 本件審決は,相違点1について,引用発明から当業者が容易に想到し得るものであり,相違点2について,引用発明に引用例2の記載事項を採用して当業者が容易になし得ることであって,本件補正発明の効果に格別顕著なものがあるとは認められない旨を説示する。

(2) しかしながら,本件補正発明は,16×16ブロックのデータグループを均等な4個の8×8ブロックに分割し,それらブロックの各々に関して最も効率的な走査スキームを決定し,決定されたスキームに従って,8×8ブロックの各々を直列化する方法を提供するものであるから,各個々の均等な4個の8×8ブロックは,他のものとは異なる走査スキームによって走査され直列化されることができ,この走査スキームは,ブロックの各々に関して決定される。そして,本件出願に係る明細書の記載(【0054】~【0057】【図4】【図5】)に鑑みると,本件補正発明の上記構成は,引用例1に記載の発明の,「シリアライザは当該量子化された周波数領域データを複数の所定のブロックサイズでジグザグ走査して直列化する」ことよりも,非効率的な符号化を招くことなく,かつ,コンパクトな計算効率のハードウェアの実現が容易になるという技術的意義を有することが明らかである。

他方,引用例1に記載の発明のオペレーションの原理は,領域間の変化に基づいて様々なブロックサイズを割り当てる,変化に基づいた適応性ブロックサイズDCT(離散コサイン変換)画像圧縮である。より具体的には,より小さいブロックサイズが忙しい領域に対して割り当てられ,より大きいブロックサイズがあまり忙しくない領域に対して割り当てられ,量子化され,直列化されるというものである。したがって,全ての領域に対して,例えば8×8のブロックのような同等のブロックサイズを割り当てるように引用例1に記載の発明を変更するならば,当該発明のオペレーションの原理は,変更されてしまう。すなわち,この変更された画像圧縮は,引用発明が動作する当初設計された範囲内の変化に基づいた適応性ブロックサイズDCT画像圧縮ではない。

このように,引用例1は,本件補正発明及び本願発明の相違点1に係る構成のうち,「該データグループを4個の8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループに分割する」との部分及び相違点2に係る構成を,いずれも開示も示唆もしていない。

むしろ,引用例1は,ブロック中の量子化係数がシリアライザに入力され,シリアライザにより直列化されることを示すにすぎず(【0044】),本件補正発明の,量子化係数の任意のものが特定の8×8ブロックの最も効率的な走査スキームを決定するために評価されることを開示も示唆もしていない。

(3) したがって,引用例2に開示されているものが何であるにせよ,当業者が引用発明を直列化のために本件補正発明の相違点1及び2に係る上記構成を採用することは,明白でも容易でもない。

また,引用例2は,本件補正発明の相違点1に係る構成を開示も示唆もしていないから,当業者は,引用例1及び2に記載された発明を組み合わせたとしても,本件補正発明を容易に発明することができたものではない。

(4) よって,本件補正発明は,独立して特許を受けることができるものであって,本件補正を却下した本件審決の判断は,誤りであるから,本件審決は,取り消されるべきものである。

〔被告の主張〕

(1) 前記のとおり,本件審決による引用発明の認定には誤りがないところ,引用発明は,16×16ブロックを4つの8×8ブロックに細分化し,さらに,細分化されたブロックの画素値の変化と閾値との比較結果に基づき,4つの4×4ブロック,さらに2×2ブロックと細分化し,細分化された各ブロックの画素データは,変換手段で周波数領域データに変換され,当該周波数領域データは,量子化器で量子化され,シリアライザを当該量子化された周波数領域データを8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化するのであるから,変化に基づいた適応性ブロックサイズDCT(離散コサイン変換)画像圧縮に係る発明であり,量子化された周波数領域データを8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化するものである。したがって,8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化することは,引用発明のオペレーション原理を変更するものではない。

(2) また,引用例2には,画像を8×8画素のブロックに分割し,ブロックごとにDCT変換を施し,ブロックごとの空間周波数の分布係数を得,当該分布係数を一次元配列に並べ替える配列変換(直列化)を行う際に,当該ブロックごとの空間周波数の分布係数の分布形状を判定し,分布形状に応じて配列変換パターンを変更することにより,符号化の効率を高め,高い圧縮率で画像圧縮を行うことが記載されていると認められる。そして,引用発明及び引用例2に記載のものは,いずれも画像圧縮に関する技術のものであり,また,画像を圧縮する際,高い圧縮率を実現しようとする共通の課題を有するものであるから,引用発明において,複数の8×8データブロックの各々を直列化するのに,8×8ブロックの各々内の1つ以上の値を評価して,直列化することの最も効率的なスキャンパターン(走査スキーム)を決定し,これらのブロックの各々の決定されたスキャンパターン(走査スキーム)に従って直列化することにより,高い圧縮率を実現しようとすることは,当業者が容易にできたことであるし,また,本件補正発明の効果も,当該構成に伴って当然に予測される程度のものにすぎない。

(3) よって,本件審決の容易想到性に係る判断に誤りはなく,原告の主張は,失当である。

3  取消事由3(本願発明の容易想到性に係る判断の誤り)について

〔原告の主張〕

前記1及び2の各〔原告の主張〕の記載と同様の理由で,本件審決は,引用発明,本願発明と引用発明との一致点並びに相違点1及び2′の認定を誤り,相違点1及び2′の容易想到性に係る判断を誤るものであるから,取り消されるべきものである。

〔被告の主張〕

争う。

第4当裁判所の判断

1  取消事由1(引用発明,一致点並びに相違点1及び2の認定の誤り)について

(1)  本件出願に係る明細書の記載について

本件補正発明及び本願発明は,それぞれ前記第2の2(1)及び(2)に記載のとおりであるが,本件出願に係る明細書(甲3,5)には,おおむね次の記載がある。

ア 本件出願に係る発明は,画像処理及び圧縮に関し,より具体的には,圧縮画像用の構成可能なパターン最適化器に関する(【0001】)。

イ フィルムや動画を写すのに使用されるようなビデオ信号の送受信の分野における画像圧縮技術に対して,種々の改良がされているが(【0002】),ディジタルシネマ圧縮技術は,高品質の公開版フィルムを超える視覚的品質をもたらすことを目的とすべきである一方,実用的な,高い符号化効率(一定の品質レベルを満たすために,圧縮画像品質に必要なビットレートのこと)を有すると同時に,小型かつ効率のよい復号化又は符号化プロセスであるべきである(【0005】)。しかるところ,既存のディジタル画像圧縮技術は,シネマ表示に必要な品質要件を満たしておらず,ビデオ信号の品質低下を招いている(【0004】【0006】)。

ウ ビデオ信号に所望の品質レベルを維持しつつ,画像データの各フレームについて(イントラフレーム)相当な圧縮レベルを提供できる圧縮技術として,「適応ブロックサイズによる離散コサイン変換(ABSDCT)」方法がある(【0007】)。ABSDCTを使用すると,ビデオ信号は,一般的に処理用に画素ブロックに分割され,ブロックごとに輝度及び色度成分がブロックインタリーバに渡される。例えば,各16×16(画素)ブロック内で画像サンプルを配列又は編成し,ブロックを生成して,離散コサイン変換(DCT)分析用のデータのサブブロックを複合する。離散コサイン変換(DCT)演算子は,時間/空間サンプル信号を同じ信号の周波数表示に変換するための方法であり,好ましい実施形態において,1個の16×16DCTが第1の配列に,4個の8×8DCTが第2の配列に,16個の4×4DCTが第3の配列に,それぞれ適用され,64個の2×2DCTが第4の配列に使用される(【0009】)。16×16ブロックと各サブブロックについて,DCT係数値及び差分カッドツリー変換(DQT)値を分析して,ブロックやサブブロックを符号化するのに必要な最小のビット数が判断・選択されて,画像セグメントを表す。例えば,2個の8×8サブブロック,6個の4×4サブブロック及び8個の2×2サブブロックが選択されて,画像セグメントを表すことができる(【0010】【0011】)。選択されたブロック又はサブブロックの組合せは,16×16ブロックに適切に配列させる。DCT/DQT係数値は,送信用に周波数重み付け,量子化及び可変長符号化などの符号化を実行してもよいが,ABSDCT技術は,計算的に集中してしまうため,この技術のコンパクトなハードウェアの実現は,困難であろう(【0012】)。他の圧縮方法では,ランレングス(run length)及びサイズによる可変長符号化に当たり,処理ブロックサイズ全体において標準ジグザグ走査方法が使用されているが,ABSDCTを使用すると,異なるブロックサイズがデータブロック内の分散に基づいて生成されるため,標準ジグザグ走査方法は,いずれの処理ブロックサイズについても最適であるわけではないし,各ブロックサイズに対する標準ジグザグ走査方法は,ハードウェアでの実現が困難である。さらに,ジグザグパターンは,必ずしも所与のブロックやフレームに対して最適なパターンではない。したがって,最適パターンを判断する方法及び装置が必要となる(【0013】)。

エ 本件出願に係る発明は,最適パターン判断のための装置及び方法を提供するものであるが(【0014】),DCT係数データ及び品質に基づく量子化スケール係数の適応サイズブロックとサブブロックとを利用する,画像圧縮用の品質に基づくシステム及び方法である。符号器は,入力された画素データのブロックを処理するために分割するブロックサイズ割当て(BSA)要素を備えており,ブロックサイズ割当ては,入力ブロック及び更なる再分割ブロックの分散に基づいている。一般的に,ブロック及びサブブロックの平均値が異なる所定の範囲にある場合,分散の大きい領域は,より小さなブロックに再分割され,分散の小さい領域は,再分割されない。したがって,まず,ブロックの分散閾値がその平均値によるその名目値から修正され,次いで,ブロックの分散が閾値と比較され,分散が閾値より大きい場合,ブロックは,再分割される(【0015】)。ある実施形態において,固定ブロックサイズでのジグザグ走査を利用して,ブロックサイズ割当てに関係なくデータを直列化してデータストリームを生成するが,別の実施形態においては,ブロックサイズは,8×8である(【0016】)。別の実施形態において,デジタルカメラシステムにおいて周波数ベースの画像データを直列化するための方法を説明すると,16×16データブロックで表すことができる少なくとも1つのデータグループがコンパイルされると,当該データグループは,8×8で表されてもよい4個のデータグループに分割され,ジグザグ走査,垂直走査及び/又は水平走査を使用して直列化される(【0017】)。このように,実施形態の一態様は,実際のブロックサイズ割当てに関係なく,8×8ブロックでの走査の固定パターンを使用してデータブロックを処理することである(【0018】)。走査直列化器は,提供された量子化計数のブロックを走査し,量子化係数の直列化ストリームを作成するが,その際,ジグザグ走査,列(垂直)走査又は行(水平)走査が用いられてもよい。ジグザグ以外のパターン及び多数の異なるジグザグ走査パターンも,選択されてよい。他のサイズを使用することもできるが,好ましい技術は,ジグザグ走査に8×8ブロックサイズを用いる(【0053】)。図5a及びbに示されているように,16×16データブロックを2個の8×8ブロック,7個の4×4ブロック及び4個の2×2ブロックに分割された実施形態において,BSAブレークダウンに関係なく,4個の各8×8象限に対する4個のジグザグ走査が用いられる(図5a。【0056】)ほか,8×8ブロック内の値を評価し,最も効率的な走査方法を判断することによって,2個の8×8象限にはジグザグ走査が,1個の8×8象限には水平走査が,1個の8×8象限には垂直走査が,それぞれ適用されて直列化される(図5b。【0057】)。直列化は,データグループの読み取り,データのコンパイル又は16×16ブロックで表されることができる形態への構成,データの4個の8×8ブロックサイズへの分割,そしてジグザグ走査の各8×8ブロックへの実行により行われる(図6a。【0058】)。

(2)  本件補正発明の課題及び課題解決手段について

以上の本件出願に係る明細書の記載によれば,画像圧縮に当たりシネマ表示に必要な品質要件を満たすとともに高い符号化効率を有する画像圧縮技術として,16×16サイズのブロックをより小さいサイズのブロックに分割又は再分割するなどした上で,これらのブロックごとに画像信号を周波数表示の画像信号であるDCT(離散コサイン変換)係数に変換するABSDCT(適応ブロックサイズによる離散コサイン変換)があるが,ABSDCTを用いてDCT係数に変換され量子化された信号を直列化するに当たり,標準パターンであるジグザグ走査方法を処理ブロックサイズ全体に実施することが符号化効率の点で最適とは限らず,また,分割された各ブロックサイズにジグザグ走査方法を実施することもハードウェアでの実現が困難であるばかりか,ジグザグ走査方法が必ずしも所与のブロックやフレームに対して最適なパターンではないという課題があったことから,本件補正発明は,分割又は再分割されたブロックのサイズに関係なく8×8サイズのブロックごとに直列化することとするとともに,これらのブロックの各々につき,ブロック内の値を評価して決定された最適な走査パターン(ジグザグ走査方法,垂直走査方法又は水平走査方法)を用いて直列化するという手段を採用することで,当該課題を解決し,最適なパターンによる高品質かつ高効率の画像圧縮を実現する方法を提供するものであるということができる。

(3)  引用例1の記載について

引用例1(甲1)は,「変化に基づいた適応性ブロックサイズDCT画像圧縮」という名称の発明に関する公開特許公報であるが,そこに記載の発明について,おおむね次の記載がある。

ア 【請求項1】入力ブロックの圧縮に使用されるイメージ画素の入力ブロックのためのブロックサイズ割当てを決定する方法であって,画素データのブロックを読み,画素データの前記ブロックおよび画素データの前記ブロックの細分化されたブロックの画素値の変化に基づいてブロックサイズ割当てを生成し,前記ブロックサイズ割当てに情報を含んでいるデータ構造を提供する,ステップを含む方法

イ 引用例1に記載の発明は,画像処理,特に,ABSDCTを利用する画像圧縮システム及び方法である。ビデオ信号のために必要なレベルの品質を保存して,重要なレベルの圧縮を提供することができる圧縮技術であるABSDCTは,コード化されたDCT(離散コサイン変換)係数データの適応性寸法のブロックとサブブロックを利用する(【0001】【0003】)。ABSDCT技術は,著しくよく働くが,それは,計算機的に集中的であるため,コンパクトなハードウェア実現は,難しいかもしれない。引用例1に記載の発明は,ハードウェア実現をより効率的にする代替の技術,すなわち計算機的により有能な画像圧縮方法とシステムを提供するものである(【0009】)。

ウ この発明の一実施例では,画素の16×16ブロックがエンコーダに入力される。エンコーダは,処理のための画素の入力ブロックを区分するブロックサイズ割当て要素を含む。ブロックサイズ割当ては,入力ブロック及び細分化されたブロックの変化に基づく。一般に,ブロック及びサブブロック平均値が異なった予定の範囲に入ると,より小さい変化を有する領域は,細分化されないが,より大きい変化がある領域は,より小さなブロックに細分化されるだろう。このようにして,ブロックの第1の変化閾値は,その平均値に依存するその名目上の値から変更され,次にブロックの変化は,閾値と比較され,そして変化が閾値よりも大きいならば,ブロックは,細分化される(【0010】)。ブロックサイズ割当ては,画素データを周波数領域データに変換する変換要素に提供される。変換は,ブロックサイズ割当てを通して選択されるブロックとサブブロックにのみ実行される。次に,変換データは,量子化と直列化を受ける(【0011】)。好ましい実施例では,16×16ブロックの入力は,ブロックサイズ割当て要素を含むエンコーダに供給され,エンコーダは,ブロックサイズ割当てを実行する。ブロックサイズ割当て要素は,ブロックにおけるイメージの知覚特性,すなわちブロック内の活動に依存してクオドトリーの様式で,各16×16ブロックのブロック分解を決定し,これよりも小さなブロックに細分化する(【0025】)。ブロックサイズ割当て要素は,ブロック内の画素数の変化を計算し,これと閾値を比較することで,16×16ブロックを8×8ブロック,4×4ブロック,さらに2×2ブロックに細分化されるべきかどうかを順次決定していく(【0026】~【0034】)。DCT要素は,上記のブロックサイズ割当てによって発生したPQRデータ(長さが1~21ビットのクオドトリーデータ)を使用して,選択されたブロックにおける適切なサイズのDCT(離散コサイン変換)を実行するが,DCTのDC計数の冗長を減らすためにDQT要素を含んでもよい(【0037】【0038】)。

エ 変換係数(DCT及びDQT)は,量子化のための量子化器に提供される。

好ましい実施例では,DCT係数は,周波数加重マスク(FWM)と量子化スケールファクターを使用して量子化される。FWMは,入力DCT係数のブロックと同じ次元の周波数加重の表れである。周波数加重は,異なったDCT係数に異なった加重を適用する。加重は,人間の視覚システムがより敏感である周波数内容を持っている入力サンプルを強調して,視覚システムがより敏感でない周波数内容を持っているサンプルを反-強調するように設計される。加重は,見る距離などの要因に基づいて設計されるかもしれない(【0040】)。

オ 「量子化係数はジグザグ走査シリアライザ116に供給される。シリアライザ116は量子化係数の直列化された流れを生成するためにジグザグな様式で量子化係数のブロックを走査する。ジグザグ以外のパターンはもちろん,多くの異なったジグザグ走査のパターンがまた選択されてもよい。好ましい技術はジグザグ走査のために8×8ブロックサイズを採用するが,他のサイズも採用され得る。」(【0044】)

カ 「ジグザグ走査シリアライザ116が量子化器114の前または後のいずれに置かれてもよいことに注意すべきである。最終的な結果は同じである。」(【0045】)

(4)  引用例1に記載の発明,本件補正発明との一致点並びに相違点1及び2の認定について

ア 以上の引用例1の記載によれば,そこには,ABSDCTを用いた画像圧縮に関して高い圧縮率を実現するという課題を解決するため,「ディジタルシネマに適用した画像圧縮システムにおいて,画像を圧縮する方法であって,画像の画素データデータの16×16ブロックの入力がエンコーダに供給され,エンコーダのブロックサイズ割当て手段が,前記画素データの16×16ブロックの画素値の変化を計算し,該変化を閾値と比較した結果に基づき,前記16×16ブロックを4つの8×8ブロックに細分化し,さらに,細分化されたブロックの画素値の変化と閾値との比較結果に基づき,4つの4×4ブロック,さらに2×2ブロックと細分化すること,前記細分化された各ブロックの画素データは,変換手段で周波数領域データに変換され,当該周波数領域データは,量子化器で量子化され」ることを備えるほか,特に前記(3)オ(【0044】)の記載に着目すると,「シリアライザは当該量子化された周波数領域データを8×8ブロックサイズを含むブロックサイズでジグザグ走査を含む各走査パターンで走査して直列化すること」を備える方法により,当初の16×16ブロックを画素値の変化に応じて一旦各種の異なるサイズのブロックに細分化した上で,当該細分化されたブロックからなるある程度まとまったサイズのブロック(8×8ブロックサイズを含む。)ごとに画素データの直列化(走査パターンとして,ジグザグ走査を含む。)をするという手段を採用し,もって当初の16×16ブロックについて高い圧縮率を実現するという発明が記載されているものと認められる。

なお,引用例1には,特にジグザグ走査を含む各走査パターンのうち,いずれの走査パターンをいかなる基準に基づいて選択するかについては何ら記載がない。

イ 他方,前記(2)に説示のとおり,本件補正発明は,そこに記載の課題を解決手段として,分割又は再分割されたブロックのサイズに関係なく8×8サイズのブロックごとに直列化することとするとともに,これらのブロックの各々につき,ブロック内の値を評価して決定された最適な走査パターンを用いて直列化するという手段を採用したものである。したがって,本件補正発明の容易想到性を判断する前提として,これと対比するために引用例1に記載の発明を認定するに当たり,直列化がされるある程度まとまったサイズのブロックとして「好ましい技術」(前記(3)オ。【0044】)とされている8×8ブロックサイズを採り上げ,かつ,やはり「好ましい技術」(前記(3)オ。【0044】)とされており,典型的な走査パターンとして挙げられている(前記(3)カ。【0045】)ジグザグ走査を採り上げて,「8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化すること」を備える方法であると認定することに,何ら妨げはない。むしろ,引用例1に記載の発明において,直列化に当たって8×8以外のブロックサイズによることも可能であることや,他の走査パターンも利用可能であることは,容易想到性の判断に当たって考慮され得る要素であるにとどまる。

以上によれば,本件審決が,本件補正発明との対比の前提として,引用例1の前記(3)オ(【0044】)の記載に基づき,そこに記載の発明が「8×8ブロックサイズでジグザグ走査して直列化すること」を備える方法であると認定したことに誤りはない。

ウ よって,本件審決が,引用例1に記載の発明として,前記第2の3(2)アに記載の引用発明を認定したことに誤りはない。これに伴って,本件審決が認定した本件補正発明と引用発明との一致点並びに相違点1及び2の認定にも誤りはないというべきであって,これに反する原告の主張は,いずれも理由がなく採用できない。

2  取消事由2(相違点1及び2に係る判断の誤り)について

(1)  相違点1について

ア 前記1(4)ウに説示のとおり,本件審決による引用発明,本件補正発明との一致点並びに相違点1及び2の認定にはいずれも誤りがないから,本件補正発明と引用発明との相違点1は,前記第2の3(2)ウに記載のとおりである。

イ ところで,引用発明においては,前記1(3)ウ(引用例1【0010】【0011】【0025】~【0034】)に記載のとおり,直列化される周波数領域データは,エンコーダのブロックサイズ割当て手段により当初の16×16ブロックの画素値の変化が計算され,当該変化を閾値と比較した結果に基づき,これが一旦4つの8×8ブロックに細分化され,さらに同じ方法でより細分化されたものである。

他方,本件補正発明においては,当該8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループを,当初の「16×16ブロックで表すことが可能な少なくとも1つのデータグループをコンパイルする」こと及び「該データグループを4個の8×8ブロックで表すことが可能な複数のグループに分割する」ことにより得る(相違点1)ものであるが,より具体的には,前記1(1)エ(本件出願に係る明細書【0015】【0056】【0057】)に記載のとおり,16×16ブロックが,ブロックサイズ割当て要素により,ブロックの分散と閾値との比較を通じて8×8ブロック,4×4ブロック及び2×2ブロックにまで分割及び再分割されるものであり,これらのうち4×4ブロック及び2×2ブロックは,4個の8×8ブロックを更に細分化したものであるにすぎないから,この限度では,引用発明による,4つの8×8ブロックを得た上でこれを更に細分化する上記手段と実質的に相違するものではない。

よって,当業者は,引用発明に基づき,本件補正発明の相違点1に係る構成を採用することを容易に想到することができたものというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

(2)  相違点2について

ア 前記1(4)ウに説示のとおり,本件審決による引用発明,本件補正発明との一致点並びに相違点1及び2の認定にはいずれも誤りがないから,本件補正発明と引用発明との相違点2は,前記第2の3(2)エに記載のとおりである。

イ ところで,引用発明は,前記1(4)アに説示のとおり,ABSDCTを用いた画像圧縮に関して高い圧縮率を実現するという課題を解決するため,画素値の変化に応じて当初の16×16ブロックを適宜のサイズのブロックに細分化し,これらの各ブロックにおいて効率的に画素データの直列化ができるようにするという手段を採用したものである。

他方,引用例2は,「画像処理装置および画像処理方法」という名称の発明に関する公開特許公報(特開平8-265755号)であるが,そこには,本件審決も認定するとおり,画像を8×8のブロックに分割し,各ブロックごとにDCT変換を施し,ブロックとの空間周波数の分布係数を得,当該分布係数を一次元配列に並べ替える配列変換(直列化)を行う際に,当該ブロックごとの空間周波数の分布係数の分布形状を判定し,分布形状に応じて配列変換パターン(垂直走査型のスキャンパターン,水平走査型のスキャンパターン又はジグザグ走査型のスキャンパターン)を変更することにより,高い圧縮率で画像圧縮を行うことが記載されているものと認められる。

以上のとおり,引用発明及び引用例2に記載の発明は,いずれも技術分野を同じくするばかりか,画像圧縮について高い圧縮率を実現するという課題を有する点で共通している。しかも,引用例1には,前記1(3)オ(【0044】)に記載のとおり,直列化に当たって好ましい技術が8×8ブロックのジグザグ走査である旨を記載すると同時に,ジグザグ走査以外のものも採用可能である旨の記載があるから,引用発明に対して,8×8ブロックにおける空間周波数の分布係数の分布形状に応じて垂直走査型,水平走査型及びジグザグ走査型の各スキャンパターンを変更することにより高い圧縮率で画像圧縮を行う引用例2に記載の発明を組み合わせることについては動機付けがあるということができる。

したがって,当業者は,引用発明に基づき,引用例2の記載を参照することで,本件補正発明の相違点2に係る構成を採用することを容易に想到することができたものというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

(3)  原告の主張について

ア 以上に対して,原告は,本件補正発明では,均等な4個の8×8ブロックについてそれぞれ他のものとは異なる走査スキームにより直列化されるのに対し,引用発明では,ブロックサイズが領域間の変化の繁閑に応じて決められるから,これを均等な8×8ブロックを割り当てるようにすることが,引用発明のオペレーション原理の変更になる旨を主張する。

しかしながら,前記(1)に説示のとおり,本件補正発明においては,16×16ブロックが,ブロックサイズ割当て要素により,ブロックの分散と閾値との比較を通じて8×8ブロック,4×4ブロック及び2×2ブロックにまで分割及び再分割されるものであり,これらのうち4×4ブロック及び2×2ブロックは,4個の8×8ブロックを更に細分化したものであるにすぎないから,この限度では,引用発明による,4つの8×8ブロックを得た上でこれを更に細分化する上記手段と実質的に相違するものではない。しかも,引用発明は,このようにしてブロックを細分化しておきながら,当該細分化されたブロックを走査して直列化するに当たり,「好ましい技術は,ジグザグ走査のために8×8ブロックサイズを採用する」ものとしているばかりか,「他のサイズも採用され得る。」と記載するにとどまり(前記1(3)オ。引用例1【0044】),異なるサイズに細分化された各ブロックごとに直列化することを意図するものではないから,引用発明によるブロックの細分化というオペレーションは,引用発明に引用例2の記載を組み合わせるに当たり,何ら阻害事由となるものではない。

よって,原告の上記主張は,採用できない。

3  取消事由3(本願発明の容易想到性に係る判断の誤り)について

(1)  本件審決による引用発明,本願発明と引用発明との一致点及び相違点1に誤りがないことは,前記1(4)に説示のとおりであり,これに伴い,本願発明と引用発明との相違点2′の認定にも誤りはないものというべきであって,これに反する原告の主張は,いずれも採用できない。

(2)  本件審決による本願発明と引用発明との相違点1の容易想到性に係る判断に誤りがないことは,前記2(1)に説示のとおりである。また,相違点2′の容易想到性についてみると,前記2(2)に説示したことが当てはまるため,当業者は,引用発明に基づき,引用例2の記載を参照することで,本件補正発明の相違点2′に係る構成を採用することを容易に想到することができたものというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,これに反する原告の主張は,いずれも採用できない。

4  結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 髙部眞規子 裁判官 井上泰人 裁判官 荒井章光)

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