知財高等裁判所 平成24年(ネ)10005号 判決 2012年10月17日
控訴人(原告)
ヴァンダープラッツ・デザイ
ン・オプティマイゼーション
・コンサルティング株式会社
訴訟代理人弁護士
室井優
被控訴人(被告)
アドバンスソフト株式会社
被控訴人(被告)
Y1
被控訴人(被告)
Y2
上記3名訴訟代理人弁護士
中村治嵩
椎名健二
森井聡
主文
本件控訴を棄却する。
当審における控訴人の請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは控訴人に対し,連帯して200万円及び平成24年3月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人アドバンスソフト株式会社は,控訴人に対し,被控訴人アドバンスソフト株式会社ホームページに,原判決別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を,その表題並びに控訴人及び被控訴人の各商号は16ポイントゴシック体,その他は12ポイントゴシック体で,本判決確定の日から1年間掲載せよ。
第2事案の概要
1 控訴人は,被控訴人らが原判決別紙技術情報目録記載1~4の原告の営業秘密(本件各技術情報)を窃取し,これを使用して原判決別紙物件目録記載1のプログラム(被告プログラム)及び同目録記載2の論文(被告論文)を作成,開示した(不正競争防止法2条1項4号)として,控訴人が,被控訴人らに対し,不正競争防止法3条1項,2項に基づき,被告プログラムの製造,使用,複製,頒布及び被告プログラムを格納した記録媒体の頒布の差止め,被告プログラムを格納した記録媒体の廃棄,被告論文の出版,頒布等の差止め,被告論文が掲載された書籍の廃棄を求めるとともに,被控訴人アドバンスソフト株式会社(被控訴人会社)に対し,不正競争防止法14条に基づき,被控訴人会社のホームページに原判決別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を掲載することを求めたが,原判決は請求を棄却した。
控訴人は,当審において,不正競争防止法3条1項,2項に基づく差止め及び廃棄請求を,同法4条に基づく損害賠償請求に交換的に変更した。
2 前提となる事実及び争点は,次のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」2,3に記載のとおりである。
(1) 前提となる事実として,原判決3頁17行目の次に,行を改め,次のとおり加える。
「(4) 平成22年12月,原子力機構は,『原子力施設のための仮想振動台による周波数応答解析』作業の競争入札(本件入札)を実施した。同入札には控訴人と被控訴人会社が参加したが,被控訴人会社が同作業請負を落札し,控訴人は落札することができなかった。(乙23,24)」
(2) 当審の新たな争点として,原判決3頁20行目の次に,行を改め,次のとおり加える。
「(3) 本件入札に『多段階モード合成法』を使用することが条件とされたか」
3 当事者の主張は,当審における主張の変更に伴い次のとおり改め,付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」4に記載のとおりである。
(1) 原判決5頁6行目の「平成19年夏ないし秋頃」を,「平成19年10月5日,あるいは同月4日」と改める。
(2) 原判決5頁7~9行目の「窃取し(被告Y2が原告社内LANに接続し,原告プログラムの開発に使用していたPCクラスターコンピュータ NEXXUS に不正侵入する方法により窃取した。)」を,「横領して不正取得し(控訴人が,被控訴人らが控訴人事務所から持ち出した技術情報を不正に使用することがないものと誤信して,被控訴人Y2にソースプログラムと検証用解析データの持ち出しを許可し,被控訴人Y2がこれを持ち出し,被控訴人らはこれを返却せず破棄もせず,不正取得した。)」と改める。
(3) 新たな争点に係る主張として,原判決5頁18行目の次に,行を改め,次のとおり加える。
「(3) 争点(3)(本件入札に『多段階モード合成法』を使用することが条件とされたか)について
ア 控訴人
本件入札では,控訴人の考案した多段階モード合成法によるプログラム又は同等の性能のプログラムを使用することが条件とされた。被控訴人会社は,被控訴人らが控訴人から不正取得した本件各技術情報を使用することを前提として,本件入札に参加し,代金145万円(税抜)で,同作業請負を落札した。被控訴人らが控訴人から本件各技術情報を不正取得しなければ,被控訴人会社は本件入札に参加することができず,控訴人が299万円(税抜)で落札することができたはずである。控訴人が299万円(税抜)で落札した場合の控訴人が受べかりし利益は200万円を下らない。控訴人は,被控訴人らの不正競争行為により少なくとも200万円の損害を受けた。よって控訴人は,被控訴人らに対し,200万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成24年3月22日からの遅延損害金の支払を求める。
イ 被控訴人ら
本件入札に控訴人主張のような条件が付されていたことは否認し,損害賠償請求については争う。」
第3当裁判所の判断
争点(1)(本件各技術情報は原告の営業秘密に該当するか)について判断する。
1 認定事実
甲12,甲14,甲22,乙4~6,乙14,乙15,乙25,乙34,乙35及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 控訴人と被控訴人会社は,平成18年8月,控訴人が販売代理店をしていた米国のVR&D社製の大規模固有値解析ソフトウェアSMSに代わる大規模固有値計算プログラムAdvance/NextNVHの共同開発に合意した。トヨタ自動車株式会社は,その翌年の平成19年9月頃,被控訴人会社から同プログラムの年間ライセンスを購入することになった(乙5)。
(2) 同プログラムは,開発開始の時点では,SMSのソースを控訴人が開示し,これを分析して改良する方法で行うことが予定されていたが(乙4),控訴人がSMSのソースを開示しなかったので,開発が進まず,被控訴人会社は同プログラムを自力で開発することにした。「固有値ソルバー」と称する同プログラムの根幹部分の開発は被控訴人Y1と被控訴人Y2が担当していた(甲12。なお,被控訴人会社と控訴人との分担については,後記のとおり乙14の別表Aに記載がある。)。控訴人は被控訴人会社から,その再開発作業の一部を800万円で受託した(乙6)。
(これら一連の流れの時点については,甲12,乙6ないし乙14の各書証に記載されているところが一致しないが,ほぼ平成19年6月から10月にかけての動きである。)
この中で使用された160万 dof(自由度)の検証用解析データは,平成19年10月,被控訴人会社が控訴人を通じてトヨタ自動車から貸与を受けたものである(甲22)。
(3) Advance/NextNVHの開発作業終了後の平成20年2月に,控訴人と被控訴人会社は,ソフトウェアモジュール開発確認書(乙14)を交わした。同確認書において,控訴人と被控訴人会社は,「多重モード合成法固有値モジュール・固有値ソルバー」,及び,「多重モード合成法固有値モジュールにMPI制御追加」は被控訴人会社の成果物,「NASTRANとのインターフェース」,「部分構造自動分割モジュール」,「剰余剛性・減衰モーダル縮退モジュール」は控訴人の成果物であるとし(第4条,別表A),自己の成果物でないものはすべて相手方に引き渡した上,電子データを廃棄し,廃棄証明書を相手方に引き渡すことに合意した(第5条)。控訴人は被控訴人会社に対し,「多重モード合成法固有値モジュール・固有値ソルバー」,及び,「多重モード合成法固有値モジュールにMPI制御追加」の廃棄証明書を相手方に交付した(乙15)。
2 判断
(1) 上記認定事実によれば,本件各技術情報のうち,原判決別紙技術情報目録記載1の「多段階モード合成法と並列処理の技術資料」と題する文書,及び,同目録記載2の大規模メモリーの動的管理(プログラムの処理過程での大規模メモリーを動的に再配置する手法)を用いた多段階モード合成法による大規模固有値解析のための「ネクストNVHソルバープログラム」(初期版)は,被控訴人会社による成果物であって,控訴人が,これを保持すべき権原を有するとは認めることができない。
控訴人は,「多段階モード合成法と並列処理の技術資料」と題する平成18年7月付けの書面を甲1として提出するが,乙16によれば,控訴人代表者自身,別件訴訟(乙33がその判決)の本人尋問において,平成18年7月当時,甲1は作成されていなかった趣旨の供述をしていることが認められるから,甲1に基づいて,控訴人が,甲1に記載の技術情報を,その作成日と記載してある時点で作成していたものと認めることはできない。
控訴人は,甲33にはAdvance/NextNVHの開発元として控訴人が記載されていると主張するが,被控訴人会社も開発販売元と記載されているから,控訴人のみが同プログラムの開発者であることの根拠にはならない。
控訴人は,「多段階モード合成法」こそが控訴人において名称統一し考案した独自のアルゴリズムであり(甲1),乙14の確認書などにおける「多重モード合成法」はそれと異なると主張するが,そもそもそのよって立つ甲1自体作成日付のものと認められないことは前記のとおりであるし,被控訴人会社と控訴人との間で取り交わされた業務委託契約確認書やソフトウェアモジュール開発確認書であり,その成立自体特段の争いのない乙6及び乙14には,控訴人の成果物とされる固有値モジュール・固有値ソルバーについて触れられていない。控訴人が,Advance/NextNVHの開発作業中に,別の固有値計算アルゴリズムを独立に作成したとすれば,これを被控訴人らに対し他用を禁じて引き渡し,かつ,権利範囲を確定することを含めて乙6及び乙14に記載しないものとは考え難い。控訴人の上記主張は,採用できない。
(2) 上記認定事実によれば,原判決別紙技術情報目録記載4の「Hybrid NextNVH実行ログファイル:PARMCMS.log トヨタ自動車160万自由度車両シェルモデル(理論解との比較検証)」と題する文書(甲6)の内容は,多重モード合成法固有値モジュール・固有値ソルバーの動作をトヨタ自動車の貸与した検証用データに基づいて検証したものと認められ,被控訴人会社の成果物であって,控訴人は,これを保持すべき権原を有するものとは認められない。
原判決別紙技術情報目録記載3の「モード合成法固有値ソルバーの固有値精度検証1万自由度ベンチマーク問題①」と題する文書(甲5)の内容は,多重モード合成法固有値モジュール・固有値ソルバーの動作を小規模な検証用データに基づいて検証したものと認められ,被控訴人会社の成果物であって,控訴人は,これを保持すべき権原を有するものとは認められない。
他に,原判決別紙技術情報目録記載の本件各技術情報が,控訴人の営業秘密であると認めるに足りる証拠はない。
3 争点(1)についてのまとめ
以上によれば,本件各技術情報の内容は,いずれも,Advance/NextNVHの固有値モジュール・固有値ソルバーの開発を行った被控訴人らには既知の情報であり,かつ,被控訴人会社の成果物であって,控訴人は,これを保持すべき権原を有しないのであるから,秘密管理性がなく,控訴人の営業秘密であると認めることはできない。
第4結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の原審からの請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当である。また,当審での交換的変更に係る請求も理由がないので合わせて棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 池下朗 裁判官 古谷健二郎)