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知財高等裁判所 平成24年(ネ)10038号 判決 2012年9月19日

控訴人(原告)

日本ソアー株式会社

訴訟代理人弁護士

新井哲男

被控訴人(被告)

株式会社日栄

被控訴人(被告)

上記両名訴訟代理人弁護士

仁平信哉

石川雄三

田野賢太郎

森山憲太郎

主文

本件控訴を棄却する。

当審における控訴人の追加請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して1300万円及び,これに対する平成21年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  前提事実(当事者間に争いがない。)

(1) 控訴人は,食品の販売等を業とする株式会社であり,平成19年5月以降,タイ王国(以下「タイ」という。)の MALEE BANGKOK CO.,LTD.(以下「マリーバンコク社」という。)から,原判決別紙原告商品目録記載①~④のフルーツジュース(以下「本件ジュース」という。)を輸入していた。

被控訴人会社は,海運貨物取扱等を業とする株式会社であり,本件ジュースの輸入業務全般を扱っていた。

被控訴人 Y は,被控訴人会社の代表取締役であり,平成21年2月1日まで(退任登記は同年5月26日付け)株式会社ピーストック(以下「ピーストック社」という。)の代表取締役の地位にあった。

(2)  ピーストック社は,平成19年8月頃から平成20年12月頃までの間は,本件ジュースを,平成21年1月頃からは,原判決別紙被告商品目録記載①~④のフルーツジュース(以下「ピーストック商品」という。)を株式会社エピキュア(以下「エピキュア社」という。)による輸入に基づき,それぞれ日本国内において販売している。

(3)  本件ジュースとピーストック商品は,共にタイのマリーバンコク社が製造した,グアバ,マンゴー,パッションフルーツ,ライチの4種類から成るジュースであり,容器は,一般的な直方体の紙容器(内容量1000ml,テトラパック社製)で作られている。

容器表面のデザインは,本件ジュースが原判決別紙原告商品目録①~④,ピーストック商品が原判決別紙被告商品目録①~④のとおりであり,原告商品とピーストック商品の形態は,輸入者の表示が異なるほかは,同一である。

2  控訴人は次のとおり主張し,控訴の趣旨のとおり逸失利益の損害賠償を求めた。

(1)  被控訴人らは,次のとおり,共同して本件ジュースを模倣したピーストック商品を輸入し譲渡したものであるから,それぞれ不正競争防止法2条1項3号,4条により損害賠償責任を負う。

ア 被控訴人 Y は,平成21年2月まで(実質的には同年5月まで),販売者であるピーストック社の代表取締役として,ピーストック商品の商品化を企画し,輸入販売に至るその全体を指揮した。

イ 被控訴人会社は,控訴人から本件ジュースの通関業務を委託されることにより取得した本件ジュースの輸入原価その他の情報を,ピーストック商品の輸入販売のために活用し,もって,ピーストック社及びエピキュア社にそれらの情報を漏えいし,ピーストック商品の輸入販売に協力した。

(2)  被控訴人らは,共同して,通関代行業務を通じて知ることとなった控訴人の営業秘密である本件ジュースの仕入原価に関する情報を,ピーストック社に開示したものであるから,それぞれ不正競争防止法2条1項7号,8号,4条により損害賠償責任を負う。(当審における追加分)

第3当裁判所の判断

1  判断の前提となる認定事実は原判決17~19頁のアの項のとおりである。

2  上記認定のとおり,本件ジュースの商品名である「Gentire」(ジェンティーレ)は,ピーストック社及びエピキュア社の代表取締役であり,当時サンシーロ株式会社(以下「サンシーロ社」という。)の担当者であった A が,ジュースという商品にふさわしい語感と印象があること,既製のものと容易に区別できることを念頭に置き,成功したサッカー選手にあやかって選択したものである。また,本件ジュースの容器は,短期間での制作を可能とするため,サンシーロ社が別商品のために作成した容器デザイン,すなわち, A がデノーバ・ジュースの代替品として商談を進めながら最終的に商品化に至らなかったデューフレッシュ・ジュースの容器デザインを利用して作成することになり,控訴人はサンシーロ社から無償で同デザインのデータの提供を受けて,これを基にデザイン業者に委託して本件ジュースの容器デザインを作成した。その結果,出来上がった容器デザインは,商品名の部分が異なるほかは,背景の絵柄,色合い,文字の配置,字体が元のデザインとほぼ同一であり,大きさ,形も同一であって,全体的に元の容器デザインと酷似したものとなっている。

本件ジュースは,サンシーロ社が南アフリカから輸入していたデノーバ・ジュースの供給が不安定になったことから,その代替品として,同ジュースの内容物の再現を目指して開発,商品化されたものであり,控訴人は A を通じてサンシーロ社から提供を受けたデノーバ・ジュースのサンプルを基にタイのメーカーであるマリーバンコク社に本件ジュースの試作,製造を委託したにすぎない。しかも,控訴人が,マリーバンコク社と本件ジュースの取引を開始するに際し支出したのは,デポジット(預託金)40万バーツ(約148万4000円)のみであるが,これは,マリーバンコク社との継続的売買契約における控訴人の買掛金債務を担保するための預託金であって(甲21),本件ジュースの開発,商品化に関する費用と認めることはできない。そして,控訴人は,ほかに本件ジュースの開発費用等を何ら負担していない(控訴人は,試作の段階で負担した費用として, B に対する貸付けや出張旅費の支出を挙げるが,これらの貸付けや支出が本件ジュースの開発,商品化に充てられたことを認めるに足りる証拠はない。)。

以上の評価は原判決と同様であり,これらによれば,本件ジュースについては,その容器デザインも含め,控訴人が独自の費用,労力を掛けてこれを開発,商品化したということはできない。ピーストック商品の容器デザインについては,サンシーロ社の容器デザインの利用が源流となっているものであり,本件ジュースは,不正競争防止法2条1項3号の適用上,控訴人の商品であるということはできず,したがって,その形態をもって控訴人の商品の形態であるとすることもできない。さらには,ピーストック商品が本件ジュースの形態に依拠し模倣したものということもできない。

よって,不正競争防止法2条1項3号を原因とする同法4条の損害賠償請求は理由がない。

3  控訴人は,被控訴人らが,通関代行業務を通じて知ることとなった控訴人の営業秘密である本件ジュースの仕入原価に関する情報を,ピーストック社に開示した行為は不正競争防止法2条1項7号又は8号に該当すると主張する。

しかし,被控訴人らが通関業を営んでいたと認めるに足りる証拠はなく,控訴人が本件ジュースの仕入原価に関する情報を秘密として管理していたことを認めるに足りる証拠もない。被控訴人らが控訴人から本件ジュースの仕入原価に関する情報を秘密として開示されたと認めるに足りる証拠はなく,本件ジュースの仕入原価に関する情報を不正開示行為を介在させて取得したことを認めるに足りる証拠もない。

よって,不正競争防止法2条1項7号又は8号を原因とする同法4条の損害賠償請求も理由がない。

第4結論

以上によれば,控訴人の原審からの請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当である。また,当審での追加請求も理由がないので合わせて棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 池下朗 裁判官 古谷健二郎)

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