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知財高等裁判所 平成24年(ネ)10090号 判決 2013年4月24日

控訴人(第1審原告)

株式会社レザック

訴訟代理人弁護士

近藤剛史

武田大輔

訴訟代理人弁理士

籾井孝文

被控訴人(第1審被告)

サンテクス株式会社

被控訴人(第1審被告)

株式会社塚谷

上記両名訴訟代理人弁護士

岡田徹

森本宏

児玉実史

生沼寿彦

飯島歩

中森亘

敷地健康

米倉裕樹

荒川雄二郎

吉田広明

木曽裕

井垣太介

酒井大輔

谷口明史

同訴訟代理人弁理士

鳥居和久

中塚雅也

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは,別紙被控訴人製品目録記載の製品を製造し,販売し又は販売のために展示してはならない。

3  被控訴人らは,前項の製品を廃棄せよ。

4  被控訴人らは,控訴人に対し,各自金8000万円及びこれに対する平成23年9月17日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

以下,略語は,原判決と同様のものを用いる。また,原判決を引用する場合,原判決中に「原告」とあるのを「控訴人」と,「被告」とあるのを「被控訴人」とそれぞれ読み替える。さらに,原判決の別紙被告製品説明書を,別紙被控訴人製品説明書と読み替えた上,引用する。

1  経過

本件は,本件特許権(特許番号2139927号の特許に係る特許権)を有する控訴人が,被控訴人らに対し,本件特許権に基づき,被控訴人製品の製造等の差止め及び同製品の廃棄を求めるとともに,不法行為に基づき,各自金8000万円の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年9月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は,被控訴人製品は,本件特許発明の構成要件EないしGを充足するとは認めることができないから,本件特許発明の技術的範囲に属するとはいえないとして,控訴人の請求を棄却した。

これに対して,控訴人は控訴し,上記控訴の趣旨記載の判決を求めた。

2  前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  後記(2) の当審における当事者の追加的主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄「第2 事案の概要」の「1 前提事実(当事者間に争いがない。)」,「2 原告の請求」,「3 争点」及び「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決2頁14行目から10頁11行目)のとおりであるから,これを引用する。

(2)  当審における当事者の追加的主張

【控訴人の主張】

ア 構成要件Eについて

(ア) 被控訴人製品が,実際の曲げ加工の結果生じた誤差の実測値に基づき,特性データを修正する機能を有している以上,誤差の実測値を入力する機能が必要不可欠であるから,被控訴人製品は,特性データを修正する手段として実測値の入力手段を有している。そして,上記実測値の入力手段に基づいて入力された実測値に基づいて特性データが変更され,その変更結果が記憶されるのであるから,マスターデータとしての特性データを記憶する部位とは別に,変更された特性データ(実測値)を記憶する部位ないし構成を保有しているというべきである。

(イ) 実験4によれば,「B.dxf」 のデータにおける特性データは,曲げ角修正後設定値A の値に修正されたパラメータの数値が表示されているから,「B.dxf」 のデータにおける特性データが被控訴人製品の有する何らかの機能ないし構成により修正されたことは明白であり,「B.dxf」 の「角度曲げ角」のパラメータを表示させ,直接修正するという操作や動作は行われていないから,被控訴人製品に読み込まれた各刃材及び各曲げ加工形状が記憶された個別のファイルにおける特性データを修正する方法として,実測値に基づき修正,入力された実測値(特性データ)を,各ファイルとは別に被控訴人製品内部で記憶させるデータの記憶部(実測値のデータベース)を被控訴人製品に持たせ,かかる記憶部に記憶されたデータに基づき,事後に読み込まれた,同種類の刃材,近似する曲げ加工形状における特性データに対しても,かかる特性データの修正,入力の結果が反映させる修正機能を持たせる方法をとっているとしか考えられない。そして,被控訴人製品においては,実測値を入力することで修正された特性データについて,これを記憶する機能を有することから,被控訴人製品が実測値のデータベースを有することは明らかである。すなわち,被控訴人製品において,入力された多数ないし複数の実測値がデータベースとして記憶され,特性データの修正に用いられるのでなければ,修正後の特性データが表示される機能や,「だいたい曲がるのではなくきっちりしたR曲げに,だいたいの長さでなく,きっちりした曲げ長さ」,「100個作っても繰り返し精度抜群」(甲7)という作用・効果が実現することはあり得ない。

さらに,実験4において,「A.dxf」 の「角度曲げ角」のパラメータの修正は,「B.dxf」 のデータを被控訴人製品に読み込ませる前に行われたものであり,「B.dxf」のデータにおける「角度曲げ角」のパラメータは,修正後の「A.dxf」のデータにおける「角度曲げ角」のパラメータの数値と全て一致している。実測値に基づいて修正された特性データの値が,被控訴人製品に記憶されていなければ,事後的に読み込まれた「B.dxf」 のデータにおいて,修正後の「A.dxf」 のデータにおけるパラメータが反映されることは,論理的に,あるいは経時的に考えてあり得ないし,「A.dxf」 のデータにおける「角度曲げ角」のパラメータを修正するため入力された数値が被控訴人製品において記憶され,かかる記憶データに基づいて,「B.dxf」 のデータにおける「角度曲げ角」のパラメータが修正されているのでなければ,パラメータの数値が,偶々全て一致することはあり得ない。かかる実験結果からも,被控訴人製品は,実測値に基づき修正,入力された特性データを,各ファイルとは別に被控訴人製品内部で記憶させるデータの記憶部(実測値のデータベース)を有しており,かかる記憶部に記憶されたデータに基づき,同種類の刃材,近似する曲げ加工形状における特性データに対して,かかる特性データの修正,入力の結果が反映させる修正機能を有していると考えざるを得ない。

(ウ) 控訴人が,平成24年11月26日,被控訴人製品「sumo100629」を用いた実験(以下「実験6」という。甲53ないし甲60)を行ったところ,「角度曲げ角調整」のパラメータの数値と,「SUMOPULSE」 のデータ・ファイル内の数値が一致しており,「SUMOPULSE」 のデータ・ファイルが「角度曲げ角調整」のパラメータ(特性データ)を保存するものであることが分かった。控訴人において,「角度曲げ角調整」のパラメータを修正した上,再び,「SUMOPULSE」 のファイルの内容を,「Notepad」 (テキストエディタ)のプログラムにて表示させたところ,「SUMOPULSE」 のデータ・ファイルの数値は,「角度曲げ角調整」のパラメータの修正に応じて,パルス数の数値が更新されていた。

また,控訴人は,裏付けのため,上記「角度曲げ角」のパラメータの修正に伴い,「円弧曲げ角調整」,「伸び長さ調整」,「はさみパラメータ」のパラメータについて,修正の前後の甲54の各データ・ファイルの内容について実験(以下「裏付実験」という。甲61ないし甲64の各枝番号)を行ったところ,「角度曲げ角調整」だけでなく,「円弧曲げ角調整」,「伸び長さ調整」,「はさみパラメータ」及び「基本角度曲げ」の画面に表示される多数ないし複数の各特性データについても,それぞれ「SUMOR」,「SUMOLENGTH」,「SUMOPARAM」のデータ・ファイルと,その内容が一致し,また,各特性データの数値が修正されることで,各データ・ファイルの内容が更新され,その容量が変化し,あるいは更新日時が変化していることが判明した。

(エ) 加えて,被控訴人製品が実測値の記憶部を有することは,「AutoBenderマニュアル」(甲8)のページ(4) の(12)項目の記載からも明らかである。

(オ) したがって,被控訴人製品においては,各データ・ファイルが,実測値に基づいて修正された各特性データの数値について,これを記憶,保存する構成として利用され,これらの各データ・ファイルに記憶,保存されたデータに基づいて,曲げ加工の結果による実測値が,修正後の特性データに反映されるということができ,各データ・ファイルの存在により,ナイフの曲げ加工に関する実測値について,これを記憶する実測値記憶部(データ・ファイル及び記憶装置)を有するものといえるから,被控訴人製品は構成要件Eを充足する。

イ 構成要件Fについて

実験1ないし4において,「A.dxf」 のデータの「角度曲げ角調整」のパラメータ(甲45の1の「曲げ角修正後設定値」)を修正した後,「A.dxf」 とは異なる「B.dxf」 のファイルを被控訴人製品に読み込ませたところ,「角度曲げ角調整」のパラメータには,「A.dxf」 のデータの「角度曲げ角調整」のパラメータについて修正を行った後の「曲げ角修正後設定値」と同一のパラメータが表示されていることは動かぬ事実である。

上記アのとおり,実験4において,被控訴人製品で,「B.dxf」 のデータを読み込ませたところ,実測値に基づく修正後のパラメータである,「曲げ角修正後設定値」のパラメータが表示されているから,実測値に基づき修正,入力された実測値(特性データ)を,各ファイルとは別に控訴人製品内部で記憶させるデータの記憶部(実測値のデータベース)を有するのでなければ,修正後のパラメータである「曲げ角修正後設定値」が「B.dxf」 のファイルにおいて表示されることはあり得ず,被控訴人製品が,かかる記憶部に記憶された実測値のデータに基づき,同種類の刃材,近似する曲げ加工形状における特性データに対しても,かかる特性データの修正,入力の結果を反映させる修正機能を有しているとしか,自然法則として考えられない。

また,上記アのとおり,実験6及び裏付実験の結果からも,被控訴人製品は,曲げ加工に関する実測値のデータベースを記憶する実測値記憶部を有するといえる。

実験4と実験6の結果を考え併せると,「SUMOPULSE」 等の実測値のデータ記憶部位に,「A.dxf」 データにおける特性データの修正値が記憶・保存され,同データベースに基づき,事後的に読み込まれた「B.dxf」 データの特性データが修正されたと考える以外に,物理的に考え得る機能,構成は存在しないのである。

さらに,実験1ないし4においては,控訴人が,直接,特性データの修正を行っていない(被控訴人製品に入力部が存在しない)曲げ角度(「角度曲げ角調整」)についても,特性データの修正の作用・効果が及んでおり,被控訴人製品において,実測値に基づいて特性データを修正する(又は実測値と置き換える)だけの機能にとどまらず,直接修正されない特性データについても,他の特性データの修正による補正が行われる機能を有していることが確認されているから,被控訴人製品が,実測値に基づいて特性データを修正する(又は実測値と置き換える)だけでなく,特定の曲げ角における特性データを実測値に基づいて修正することで,他の未だ特性データを修正していない曲げ角についても,特性データの演算計算を行い,実用に耐えうる形にて自動修正を行う結果,全体としての精度を上げるための曲げ加工データの補正を行う機能を有していることが明らかとなっている。

したがって,各実験の結果からも,技術常識からも,被控訴人製品が実測値の記憶部位を有しており,実測値の記憶部に保存された実測値のデータベースより,特性データの修正を行う機能,構造を有していると考えられ,被控訴人製品は構成要件Fを満たすものである。

ウ 構成要件Gについて

上記ア,イのとおり,被控訴人製品が実測値のデータベースを有することは明らかである。

また,実験1ないし4から,被控訴人製品が,修正された(特性)データに基づいて曲げ加工データを算出していることは明らかであり,それ以外の方法は考えられない。

したがって,被控訴人製品は構成要件Gも満たすものである。

【被控訴人らの主張】

ア 構成要件Eについて

特性データを修正する機能を有しているからといって,実測値の入力手段や実測値を集積する機能を持ちうるということは論理的帰結ではない。控訴人が実験によって示した被控訴人製品の機能は,単に特性データを修正する手段であって,特性データと別に実測値を入力したり,実測値をデータベースとして集積したりするものではない。被控訴人製品において,誤差の補正の手段としては,特性データを補正する学習機能を用いるよりも,曲げ加工データを個別に補正する方が有利であり,通常の利用時における特性データの修正は想定されていない。

控訴人の実験によって明らかにされたのは,被控訴人製品に手作業で特性データを直接修正する手段があるということのみであって,何らかのデータベースを参照して特性データを書き換えているわけではなく,実測値に依拠するか否かはユーザの任意の選択に委ねられているから,被控訴人製品について,「実測値に基づき特性データを修正する手段」の存在は証明されていない。被控訴人が実験として行っているのは,特性データに対する直接の修正にすぎず,単なるファイルの書き換えに,別途の記憶手段は必要でない。本件特許発明は,一種の学習機能によって加工精度を向上させ,加工の誤差を排斥するという思想に立脚しているのに対し,被控訴人製品は,学習機能を与えなくとも,出荷時からマスターデータが精度を維持できていれば足りるとの思想に立っており,「実測値のデータベース」など必要がないのである。

控訴人は,実験4の結果に基づいて主張を展開するが,控訴人の実験で行われたのは,特性データそのものの修正であって,曲げ加工データの修正によって特性データが修正されたわけではない。特性データを修正すれば,修正後の特性データが記憶されるのは当然であり,作業中の曲げ加工データのみならず,他の曲げ加工データにも影響するのも当然である。「各曲げ加工形状が記憶された個別のファイルにおける特性データ」なるものは存在せず,特性データは,特性データを保存するファイルにマスターデータとして保存されるから,これを書き換えれば,その後はどのファイルに対しても,書き換えられた特性データが適用されるのが当然であり,そのことと,「実測値のデータベース」が存在することとは関係がない。

控訴人は,新たに実験6を行い,その結果に基づいて構成要件充足性を主張するが,この実験の内容は,要するに,特性データをNotepad で直接参照することにより,修正作業の前後で,特性データが変化するかを確認したものであり,修正作業の内容は,原審における実験と同様,特性データを直接修正しているに過ぎない。そして,特性データを直接修正すれば,修正作業の前後で特性データの内容に変更が生じるのは当然であるし,生成される曲げ加工データが変化するのも当然である。他方,実験6及び裏付実験によっても,「実測値のデータベース」の存在はうかがわれず,「実測値記憶部」や「特性データ修正手段」が存在するとはいえない。

したがって,被控訴人製品が,構成要件Eを充足するとはいえず,控訴人の主張は理由がない。

イ 構成要件Fについて

控訴人は,実験1ないし4や実験6の結果に基づいて,上記と同様の主張をするが,「実測値のデータベース」の存在が証明されていない以上,これを前提とする「特性データ修正手段」の存在は認められない。

控訴人は,被控訴人製品に入力部が存在しない「角度曲げ角調整」も,値の修正がされることを指摘するが,特性データの存在しない領域については,周囲のデータを利用したいわゆる補間計算が行われるから,特性データの修正により周囲のデータが変更されれば,補間計算の結果も異なることとなるのは当然であり,控訴人の指摘は失当である。

したがって,控訴人の主張は理由がなく,被控訴人製品は構成要件Fを充足しない。

ウ 構成要件Gについて

上記ア,イのとおり,被控訴人製品は,実測値をデータベースに蓄積しそれを特性データに反映させることによって一種の学習機能を実現しようとする本件特許発明の技術的思想とは無関係である。

したがって,控訴人の主張は理由がなく,被控訴人製品は構成要件Gを充足しない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,後記2を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄「第4 当裁判所の判断」の「1」及び「2」(原判決10頁13行目から20頁8行目)のとおりであるから,これを引用する。

2  当審における当事者の追加的主張について

(1)  構成要件Eの充足性について

控訴人は,被控訴人製品は,実際の曲げ加工の結果生じた誤差の実測値に基づき,特性データを修正する機能を有している以上,特性データを修正する手段として実測値の入力手段を有しており,実測値の入力手段に基づいて入力された実測値に基づいて特性データが変更され,その変更結果が記憶されるのであるから,マスターデータとしての特性データを記憶する部位とは別に,変更された特性データ(実測値)を記憶する部位ないし構成を保有しているというべきであると主張し,実験4,実験6及び裏付実験の結果,及び,甲8(ページ(4) の(12)項目)からもこのようにいえるとして,被控訴人製品は,構成要件Eを充足する旨主張する。

しかし,仮に,被控訴人製品が,実際の曲げ加工の結果生じた誤差の実測値に基づき,特性データを修正する機能を有し,特性データを修正する手段として実測値の入力手段を有しており,実測値の入力手段に基づいて入力された実測値に基づいて特性データが変更され,その変更結果が記憶されるとしても,当該変更された特性データをマスターデータとして保存する方法もあり得るから,直ちに,被控訴人製品に,実測値データベースが存在するとか,特性データを記憶する部位とは別に,変更された特性データ(実測値)を記憶する部位ないし構成が備えられるものと認めることはできない。

また,原判決認定のとおり,実験1ないし5(甲43ないし甲49(甲44を除く。)の各枝番号,甲44)によれば,被控訴人製品がパラメータ(特性データ)の補正のための手段を有すること,特性データを実測値に基づいて修正することができる構成を有すること,補正した以外の角度に対応する特性データも自動演算により修正されることは認められるとしても,実測値のデータベースが存在するとの事実までは認められない。

これに対し,控訴人は,実験4,実験6及び裏付実験の結果,被控訴人製品において,実測値に基づいて特性データが修正されていることから,修正された特性データの値が記憶されており,被控訴人製品が,実測値データベースが記憶される実測値記憶部を有することが認定されるべきである旨主張する。

しかし,上記のとおり,特性データが修正されたとしても,当該修正された特性データを特性データの保存ファイルにマスターデータとして保存し,それ以外に実測値のデータベースとしては保存しない方法もあり得るから,必ずしも被控訴人製品が実測値記憶部を有すると認めることはできない。そして,実験4,実験6及び裏付実験は,特性データが修正され,修正後の値が保存されたことを立証するものではあるとしても,被控訴人製品に,実測値のデータベースや実測値のデータベースを記憶する記憶部が存在することを明らかにするものとはいえないから,控訴人の主張は失当である。

さらに,甲8のページ(4) の(12)項目には,「刃の種類の変更 画面左上の刃をクリックすると刃の名前を入力できます。Shift+Ctrlを押しながら画面左上の刃をクリックすると刃のリストが表示されます。刃種を変更する時は,まず現在のパラメータをShift+Sで登録してから,Shift+Lで読み込んでください。なお,安全のために,時々パラメータのバックアップを取って下さい。Shift+Bでドライブとサブデイレクトリを指定して下さい。復帰は,Shift+Rです。サブデイレクトリの指定は,par の拡張子をつけて下さい。」と記載されており,この記載から,被控訴人製品に,刃のリストが記憶されており,これを読み出して,刃種を変更することができることは認められるが,実測値記憶部に実測値データベースが記憶されていることまでは認められない。

以上のとおり,被控訴人製品が,「上記ナイフの曲げ加工に関する実測値のデータベースを記憶する実測値記憶部」を有するとは認められず,他にこの点を認めるに足りる証拠はないから,構成要件Eを充足する旨の控訴人の主張は理由がない。

なお,控訴人は,被控訴人製品が構成要件Eを充足しないと原判決が認定したことについて,審理不尽,訴訟指揮権及び釈明権不行使ないし釈明義務違反の違法がある旨も主張するが,構成要件該当性の立証責任は控訴人(原告)が負担するのが原則であり,本件において,この原則を修正すべき特段の事情は認められないから,控訴人の主張は失当である。

(2)  構成要件Fの充足性について

上記(1) のとおり,実験1ないし6及び裏付実験の結果によっても,被控訴人製品において,実測値がデータベースとして記憶されるとまでは認められないから,被控訴人製品が,実測値のデータベースに基づいてナイフの曲げ加工に関する特性データを修正する特性データ修正手段を具備していると認めることができない。

これに対し,控訴人は,実験1ないし4によれば,被控訴人製品に入力部が存在しない「角度曲げ角調整」についても,特性データの修正の作用・効果が及んでいるから,被控訴人製品は,直接修正されない特性データについても,他の特性データの修正による補正が行われる機能を有していることが確認され,実測値の記憶部に保存された実測値のデータベースより,特性データの修正を行う機能,構造を有している旨主張する。

しかし,原判決認定のとおり,被控訴人製品は,補正した角度以外の角度に対応する特性データも自動演算により修正されることが認められるところ,そうであるからといって,実測値がデータベースとして保存されるとか,保存された実測値のデータベースにより,上記の修正が行われるということは認められない。

したがって,被控訴人製品が,「上記実測値のデータベースに基づいて上記ナイフの曲げ加工に関する特性データを修正する特性データ修正手段とを具備し」ているとは認められず,構成要件Fを充足する旨の控訴人の主張は理由がない。

(3)  構成要件Gの充足性について

上記(2) のとおり,被控訴人製品は,実測値のデータベースに基づいてナイフの曲げ加工に関する特性データを修正する特性データ修正手段を具備しているとは認められないから,「上記演算手段が上記曲げ加工形状入力手段により入力された幾何学的な曲げ加工形状と上記特性データ修正手段により修正された特性データとに基づいてナイフの曲げ加工データを算出することを特徴とする」との構成要件Gを充足するとはいえない。

第4結論

以上のとおり,被控訴人製品は,本件特許発明の構成要件EないしGを充足するとは認めることができないから,本件特許発明の技術的範囲に属するとはいえないとした原判決は相当であり,控訴人の請求は理由がない。

よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳)

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