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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10092号 判決 2012年12月13日

原告

学校法人福岡工業大学

原告

株式会社巧電社

上記両名訴訟代理人弁理士

戸島省四郎

被告

特許庁長官

指定代理人

髙木真顕

飯野茂

樋口信宏

芦葉松美

主文

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2010-21998号事件について平成24年1月31日にした審決を取り消す。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

本願は,発明の名称を「電気機器受電状態監視装置」として,平成16年6月3日出願され(特願2004-165790号),平成22年5月14日付け手続補正書により補正された(請求項の数6)が,平成22年6月29日付けで拒絶査定を受けた。これに対し,原告らは,平成22年9月30日付けで,拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2010-21998号)をし,同日付け手続補正書により補正をした(請求項の数6。以下,「本件補正」といい,本件補正後の明細書を「本願明細書」という。)。

特許庁は,平成24年1月31日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(以下,単に「審決」という。),その謄本は,同年2月14日,原告らに送達された。

2  特許請求の範囲の記載

(1)  平成22年5月14日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。)。

「検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と,無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備え,前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し,前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する,電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において,

前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え,前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出するピックアップコイルを取り付け,前記ピックアップコイルの出力信号を,一方では前記検出手段の入力信号とし,他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とし,しかも前記ピックアップコイルは,始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルであることを特徴とする電気機器受電状態監視装置。」

(2)  本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(下線部分は,訂正部分を指し示す。以下,同請求項に記載された発明を「本願補正発明」という。)。

「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と,同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備え,前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し,前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する,電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において,

前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え,前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出するピックアップコイルを取り付け,前記ピックアップコイルの出力信号を,一方では前記検出手段の入力信号とし,他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とし,しかも前記ピックアップコイルは,始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルであることを特徴とする電気機器受電状態監視装置。」

3  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,①本願補正発明は,特開2002-131344号公報(甲1。以下,「引用刊行物」といい,引用刊行物に記載された発明を「引用発明」という。)に記載された発明,特開昭64-43041号公報(甲2)ないし特開2002-369412号公報(甲3)に記載されているような周知技術(「配電監視システム」の技術分野において,末端側の監視装置と管理装置側の装置間の信号の流れに関して,「管理装置側の装置から末端側の監視装置に対して命令を送信し,該末端側の監視装置は,該命令に従った応答を返信すること。以下「周知技術1」という。),実願平3-22094号(実開平4-118667号)のマイクロフィルム(甲4)ないし特開2002-181850号公報(甲5)に記載されているような周知技術(「電流検出器」の技術分野において,電流検出器として,「始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブの導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイル。以下「周知技術2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項により,特許出願の際独立して特許を受けることができないから本件補正を却下する,②本願発明は,引用発明,周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。

審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容,引用発明と本願補正発明との一致点・相違点について,次のとおり認定した。

(1)  引用発明の内容

「機器の電源線等の電力線を流れる電流を計測する電流計測システムであって,電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と,

前記計測・電源用CT20の二次側に接続され,前記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43と無線伝送部50とを具備した電流計測装置と,

前記電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し,中央装置へ無線伝送し,前記電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部を具備する中継無線局とを備え,

前記電力線10を流れる電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに,計測電流値や監視結果を中央装置に無線伝送するものであって,

前記電流計測装置へ直流電源を供給する電源部30に充電によりバックアップの電源供給を可能とするバックアップ電源回路33を備え,

前記機器へ電力を供給する前記電力線10に,該電力線10に流れている電流を電磁誘導により計測する前記計測・電源用CT20を接続し,一方では,前記計測・電源用CT20からの計測入力を前記計測入力回路43に入力し,他方では,前記計測・電源用CT20の二次側に整流回路31を設けることにより,前記バックアップ電源回路33の充電のための電流を生成する

電流計測システム。」

(2)  一致点

電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と,同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備えた,電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において,

前記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え,前記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出する,電磁誘導を利用した電流検出器を取り付け,前記電磁誘導を利用した電流検出器の出力信号を,一方では前記検出手段の入力信号とし,他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とする電気機器受電状態監視装置。

(3)  相違点

ア 相違点1

受電状態検出器と受電状態検出器制御部間の信号の流れに関して,本願補正発明は「前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し,前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する」のに対し,引用発明ではそのような限定がされていない点。

イ 相違点2

電磁誘導を利用した電流検出器に関して,本願補正発明では「ピックアップコイル」であって,具体的には,「始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルである」のに対し,引用発明では,単に,計測・電源用CT20である点。

第3当事者の主張

1  取消事由に関する原告らの主張

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

ア 審決は,引用発明の「電流計測システム」は,本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」に相当すると認定する。

しかし,本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との間の無線通信は,高圧の電力供給線に取り付けられる「受電状態検出器」からの情報,信号の双方向通信について,高圧の電力供給線からの絶縁間隔(離隔距離)の問題を解決するため無線通信としたものである。これに対し,引用発明は,高圧電力線から高い電気絶縁のもとで,アースされた地上装置に二次電流を出力できるようにする「CT」(変流器)を使用するものであり,引用発明の「電流計測システム」における「電流計測装置」と「中継無線局」はいずれも地上装置である。そして,引用発明は,地上装置間の微弱電波を出力増巾して,より遠方にある中央装置に電波が届くようにしたものであり,「電流計測装置」と「中継無線局」との間の無線通信は地上装置間の通信にすぎず,本願補正発明とは,無線通信の作用効果が異なる。むしろ,引用発明の「電流計測装置」と「中継無線局」ないし「中央装置」との関係は,本願補正発明の地上装置である「受電状態検出器制御部30」と,これと有線で接続している地上装置である「所内温度管理システム装置50」との関係に相当する。

したがって,引用発明の「電流計測システム」が,本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」に相当するとの審決の認定には誤りがある。

イ 審決は,引用発明の「前記計測・電源用CT20の二次側に接続され,前記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43」は,本願補正発明の「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段」(受電状態検出器)に相当すると認定する。

しかし,本願補正発明の「ロゴスキーコイル」は,重さ500g前後,寸法80mm前後と小型・軽量であり,電流供給線への装着が容易であるのに対し,引用発明の「CT」は,重量10kg~100kg超,寸法1.5m前後であり,電力供給線に直接装着することができない。

したがって,本願補正発明の「ロゴスキーコイル」及び「受電状態検出器」は,電力供給線に直接取り付けられて,その電力供給線の離隔距離内の装置であるのに対し,引用発明の「CT」及び「電流検流装置」は,アースされた地上装置であるから,引用発明の「前記計測・電源用CT20の二次側に接続され,前記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43」は,本願補正発明の「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段」(受電状態検出器)に相当するとの審決の認定には誤りがある。

ウ 審決は,引用発明の「前記電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し,中央装置へ無線伝送し,前記電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部を具備する中継無線局」は,本願補正発明の「同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部」に相当すると認定する。

しかし,上記のとおり,本願補正発明の「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との間の無線通信は,高圧電力線の離隔距離の問題を解決するものであるのに対し,引用発明の「電流計測装置の無線伝送部50」と「中継無線局」との間の無線通信は,地上装置間の電波による双方向通信にすぎず,その作用効果が異なる。

また,本願補正発明は,「受電状態検出器」の電波出力を小さくするため,200m程の短い距離内に「受電状態検出器制御部」を設置するものであるのに対し,引用発明の「中継無線局」ないし「中央装置」は,「電流計測装置」から遠方に設置される。

さらに,本願補正発明の「受電状態検出器制御部」は,「所内温度管理システム装置」等の外部の管理システムや中央監視装置からの命令,情報を送受するため,特定の「受電状態検出器」に電気回路へのハード命令変換又は電波に搬送させるための加工,「受電状態検出器」からの情報の記録又は電流・温度等の特別な監視加工等を行うものであり,単なる電波発生の中継局ではない。

なお,本願補正発明において,「受電状態検出器制御部」をなくし,「受電状態検出器」と「所内温度管理システム装置」が直接電波で双方向通信を行うとすれば,「受電状態検出器」に高い電波出力及び計測判断回路が必要となり,記憶・情報加工の電力消費量も増えるので実用的でない。

したがって,引用発明の「中継無線局」は,本願補正発明の「受電状態検出器制御部」に相当するとの審決の認定には誤りがある。

エ 審決は,引用発明の「入力電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに,計測電流値や監視結果を中央装置に無線伝送する」ことは,本願補正発明の「電気機器の受電の状態を監視する」ことに相当すると認定する。

しかし,上記のとおり,引用発明と本願補正発明は,無線通信の作用効果が異なっている。また,本願補正発明は,電気機器受電状態監視装置が有する機能を,電力供給線に取り付けられる「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」とに分割させ,「受電状態検出器」の機能を軽減して,少ない消費電力で作動できるようにするものである。

したがって,引用発明の「入力電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに,計測電流値や監視結果を中央装置に無線伝送する」ことは,本願補正発明の「電気機器の受電の状態を監視する」ことに相当するとの審決の認定には誤りがある。

(2)  取消事由2(相違点の看過)

審決には,以下のとおり,本願補正発明と引用発明との相違点を看過した誤りがある。

ア 本願補正発明は,「ピックアップコイル(ロゴスキーコイル)」及びこれと有線で接続される「受電状態検出器」が電力供給線側に取り付けられて,その電力供給線の離隔距離(絶縁間隔)内にあって高圧の電圧に対して安全にし,他方,「受電状態検出器制御部」は電力供給線の離隔距離外の地上に設置されており,これらが有線では互いに接続されていないのに対し,引用発明は,高圧電力線の電流を地上側のアースした地上接地の「計測・電源用CT20(変流器)」でもって,高圧の電流供給線から充分な電気絶縁の下で5Aほどの2次電流を出力し,その2次電流を有線で電流計測装置の「電源部30」,「電流計測演算・監視部40」,「無線伝送部50」へ電源供給するものであり,「電流計測装置」はアースされた地上装置である点で相違する。

イ 本願補正発明の「ピックアップコイル(ロゴスキーコイル)」は,重さ500g前後,寸法80mm前後と小型・軽量であり,電流供給線への装着が容易である上,電流値は20mA程度であり,電力損失が小さいのに対し,引用発明の「CT」は,重量10kg~100kg超,寸法1.5m前後であり,電力供給線へ直接装着することができない上,電流値は約5Aであり,長距離の電波出力を可能とするが,電力損失が大きい点で相違する。

ウ 本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」は,電力供給線に取り付けられる「受電状態検出器」と地上側の「受電状態検出器制御部」に分割することで,「受電状態検出器」の機能を少なくし,消費電力を100mWほどにして,微小電力しか得ることができない「ピックアップコイル(ロゴスキーコイル)」の供給電力で作動できるようにしたのに対し,引用発明の「電流計測装置」は,全ての電気処理を1つの装置にまとめている上,遠方の中央装置への電波出力のため,比較的大きな消費電力を必要とする点で相違する。

エ 以上のとおり,本願補正発明は,上記相違点に係る構成によって,電力供給線の離隔距離の問題を解決し,「ピックアップコイル(ロゴスキーコイル)」及びこれと接続した電力供給線に取り付けられる「受電状態検出器」を電気的に安全にし,かつ「受電状態検出器」を小型・軽量・省電力化することができたものである。これに対し,引用発明には,「CT」を電力線に直接取り付けるための構造,寸法,重量等について何ら開示されていない。

(3)  取消事由3(容易想到性判断の誤り)

ア 相違点1に係る容易想到性判断の誤り

審決は,引用発明において,「電流計測装置」と「中継無線局」を介して,中央装置へ計測電流値や監視結果を伝送しているところ,信号の流れの一形態として,周知技術1を適用して,管理装置側の装置である「中継無線局」(本願補正発明の「受電状態検出器制御部」に相当)から,末端側の監視装置である「電流計測装置」(本願補正発明の「受電状態検出器」に相当)に対して命令を送信し,上記「電流計測装置」は,上記命令に従った応答を返信することは,当業者が容易になし得たことであると判断する。

しかし,本願補正発明は,「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」とを分割して配置し,「受電状態検出器」は,電力供給線の離隔距離(絶縁間隔)内に設け,「受電状態検出器制御部」は,離隔距離外の地上に設置し,高圧の電力線の離隔距離の問題を避けるため,無線で双方向通信としたものであるところ,引用発明及び周知技術1には,上記構成は開示されていない。

イ 相違点2に係る容易想到性判断の誤り

審決は,引用発明の「CT」に代えて,周知技術である「ロゴスキーコイル」を採用することは容易であると判断する。

しかし,微弱な電流を出力する計測用の「ロゴスキーコイル」を電源供給パワーに使用することは周知ではない。また,「ロゴスキーコイル」の電流は,長い電線を介して計測回路等に接続されるものであり,微小電力で種々の計測・電波送出の電力を得ることは容易ではなく,単に「CT」に代えて「ロゴスキーコイル」を使用しても,電力供給線に取り付けられる電気部分を小型・軽量化し,電力供給線の放電等を避けるための絶縁間隔(離隔距離)の問題を解決し,電池及び商用電源を使用せずに電力供給線から安全に電気処理装置(受電状態検出器)の為の電源パワーを得るといった,本願補正発明の効果を奏するものではない。

なお,甲2,3は,子機のポーリング技術を示すのみであり,また,甲3には,電力線に吊り下げるタイプの変流器R,Sが開示されているが,大型で消費電力も大きいものであり,電力線への過大な荷重,揺れによる電力線の損傷といった問題がある。さらに,甲4,5は,通常の電流計測用の「ロゴスキーコイル」自体の技術が開示されているだけであり,これを高圧の電力供給線に取り付けて電源部としたり,情報を発信させる回路と組み合わせることについては何ら開示されていない。

ウ 以上のとおり,本願補正発明は,引用発明と構成・作用効果を異にしており,引用発明に周知技術を適用することにより容易に想到できたとはいえない。

2  被告の反論

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して

ア 引用発明の「CT」は,原告らが主張するような大型のものではなく,また,引用発明の「電流計測装置」は,地上装置ではない。引用発明の「CT」及び「電流計測装置」は,「CT」及び装置自体を電力線に直接設置することで,装置の絶縁の問題を回避し,装置をコンパクト化することを前提としたものである。そもそも,引用発明は,高圧送電線に適用することに限定されるものではなく,配電線や機器の電源線等の低圧電源線にも適用されるものであり,この場合においても「CT」は小型のもので十分である。なお,審決は,電流検出器が「CT」であるか,「ロゴスキーコイル」であるかの点については,相違点2として判断している。

イ 原告らは,引用発明の無線通信は,遠方の中央装置又は中継無線局へ電波が届くようにする地上装置間の双方間通信にすぎないと主張する。

しかし,原告らの上記主張は,失当である。すなわち,引用刊行物(甲1)には,「電流計測装置」が計測演算データを「中継無線局」に無線伝送する構成が開示されているのみであり,引用発明の「中継無線局」は地上装置であるとしても,「電流計測装置」は地上装置ではないから,引用発明の無線通信は,地上装置間の双方間通信とはいえない。

また,引用発明においても,計測情報の伝達方法として無線を利用すると,装置全体に求められる消費電力が大きくなり,電源CTの二次側の負担が大きくなるから,「中継無線局」を「電流計測装置」の近傍に設置し,無線通信として小電力のものが採用されることは記載ないし示唆されている。

ウ 引用発明と本願補正発明との一致点の認定の誤りに関する原告らの主張は,本願補正発明に係る特許請求の範囲ないし明細書の記載に基づかないものであり,失当である。

(2)  取消事由2(相違点の看過)に対して

以下のとおり,相違点の看過に関する原告らの主張は,特許請求の範囲や本願明細書の記載及び技術常識に基づかないものであり失当である。

ア 本願の特許請求の範囲には,①電力供給線が離隔距離が問題となるような高圧であること,②「ピックアップコイル」のみならず「受電状態検出器」も電力供給線に取り付けられていること,③「受電状態検出器」が電力供給線の離隔距離内にあること,④「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」は上空と地上に分けて設置されていることは,いずれも記載されていない。むしろ,本願明細書の記載(段落【0026】)及び図5によれば,本願補正発明には,電器機器の電力供給線のような低圧電源線にピックアップコイルを取り付ける態様も含まれる。また,上記のとおり,引用発明の「電流計測装置」は,地上装置ではなく電力線に直接取り付けるものであるから,引用発明の無線通信は地上装置間の通信ではない。

イ 本願の特許請求の範囲には,「ロゴスキーコイル」が,①重さ500g前後,寸法80mm前後であること,②小型・軽量であること,③1個当たり20mA程度の電力損失であることは,いずれも記載されていない。むしろ,ロゴスキーコイルは,通常,空隙を備え,空芯であるから,出力電力当たりの大きさはCTよりも大きくなる。また,引用発明の「CT」は,原告らが主張するような大型のものではない。装置が小型軽量化され設置場所も限定されないという効果は,CTでもロゴスキーコイルでも奏されるところ,ロゴスキーコイルの利点は,電力供給線を取り外すことなく取り付けることができることにすぎない。

ウ 本願の特許請求の範囲には,①ピックアップコイルのみならず「受電状態検出器」も電力供給線に取り付けられていること,②「受電状態検出器」の機能を少なくして「受電状態検出器制御部」へ分担させること,③「受電状態検出器」の消費電力は100mW程度であること,④「受電状態検出器制御部」が有線で建屋内の「所内温度管理システム装置」に情報を送出できることは,いずれも記載されていない。むしろ,本願明細書の記載(段落【0014】)によれば,本願補正発明の「受電状態検出器制御部30」は,「無線通信手段31」,「アンテナ32」及び「通信制御手段33」により構成されており,受電状態検出器の機能の一部を分担するものではない。また,引用発明においても,回路をIC化したり,休止期間を設けたり,間欠測定をするなどして消費電力を低減することができる。

(3)  取消事由3(容易想到性判断の誤り)に対して

本願補正発明は,以下のとおり,引用発明に周知技術を適用することにより,容易に想到できたものであり,格別の効果を奏するものでもない。

ア 相違点1に係る容易想到性判断の誤りについて

引用発明は,「電流計測装置」と「中継無線局」とを分けて配置し,「電流計測装置」を電力線に直接取り付け,「中継無線局」を地上に設置して無線で通信するものである。また,無線で双方向通信することは,周知の技術である。したがって,相違点1に係る本願補正発明の構成は,引用発明に周知技術1を適用することにより,容易に想到することができる。

イ 相違点2に係る容易想到性判断の誤りについて

引用発明の「電流計測装置」は,「CT」とともに電力線に直接設置するものであり,引用発明の「CT」は,本願補正発明の「ピックアップコイル」に相当し,長い電線を引き回す必要もない。また,ロゴスキーコイルは,CTと同様に電磁誘導による電流を生成するものであり,電源として機能する。上記のとおり,CTに対するロゴスキーコイルの利点は,電力線への取り付けが容易である点であるから,一時的な測定や,測定個所を変えて測定をしようとする当業者において,引用発明の「CT」に代えてロゴスキーコイルを採用することは容易である。また,高周波大電流を測定する場合,鉄心を備えるCTよりもロゴスキーコイルの方が,測定精度が高く,出力電力も大きくなるので,当業者において,引用発明の「CT」に代えてロゴスキーコイルを採用することは容易といえる。

さらに,引用発明の「CT」及び「電流計測装置」は,CT及び装置自体を電力線に直接設置することで装置の絶縁の問題を回避し,装置をコンパクト化するものであるから,本願補正発明の効果は,引用発明及び周知技術から想定できるものであり,格別のものではない。上記のとおり,引用発明においても電流計測装置の消費電力を低減することができ,また,ロゴスキーコイルの可撓性を損なわない範囲内でチューブ内に磁性体を挿入すれば,出力電力を大きくすることも可能である。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,審決の本願補正発明に係る容易想到性判断(独立特許要件の判断)及び本願発明に係る容易想到性判断には,誤りがないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の判断)について

(1)  事実認定

ア 本願補正発明

(ア) 本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2(2)記載のとおりである。

(イ) 本願明細書(甲6の2)には,以下の記載がある。

「【技術分野】

【0001】

本発明は,遮断機や断路器等の屋内外の電気機器の温度上昇等を遠隔監視する電気機器受電状態監視装置に関する。

【背景技術】

【0002】

従来,人間の立ち入ることができない環境若しくは装置に悪影響を与える環境にある温度測定対象に対する温度上昇を監視する無線式温度測定装置が特許文献1に開示されている。この技術は,被監視物の測定位置に取り付けて測定位置の温度を検出する熱電対等からなる温度測定部と,同温度測定部が測定した温度測定値を無線で送信する送信器とを備えていることを特徴としている。

【0003】

ところで,前記技術では検出の動作に必要な電力を常時給電するために電源が設けられるが,配線の引き回しが煩雑で設置に手間を要し,常時通電のために総消費電力量が大きくなる問題があった。また,装置に電池を内蔵させる技術は装置が大型化して設置場所が限定され,電池が消耗すると交換の手間が生じる問題があった。

【0004】

一方,商用電源による給電ができにくい場所の河川の水位検出及び気温の測定の為に,太陽電池によって充電されるバッテリを電源として使用し,水位・気温データを送信する河川管理システムが特許文献2に開示されている。この技術は,太陽電池とこれにより充電されるバッテリとを備えており,動作に必要な電力を自給できるものである。しなしながら,太陽光が照射され難い場所では発電効率が低下し,また悪天候が長期間続くとバッテリが上がってしまい,長期に渡って電力を安定的に自給することは難しかった。

【特許文献1】 特開平5-101291号公報

【特許文献2】 特開2003-346270号公報

【発明の開示】

【発明が解決しようとする課題】

【0005】

本発明が解決しようとする課題は,従来のこれらの問題点を解消し,外部からの給電や電池交換を必要とせず,天候や設置場所の制約なしに安定的に電力を自給して恒久的に作動させることができる電気機器受電状態監視装置を提供することにある。」

「【発明の効果】

【0007】

本発明によれば,ピックアップコイルの出力信号又はセンサの電気信号をパワー供給源として機器の駆動用電力に用いることで外部から給電を受けることなく単独で恒久的に動作し,配線の引き回し作業や電池の内蔵及び交換の手間を省略でき,装置も小型軽量化されて設置場所も限定されない。

【発明を実施するための最良の形態】

【0008】

本発明のピックアップコイルはロゴスキーコイルであるので,電力供給線を取り外すことなしに,取り付けが可能である。・・・」

「【実施例1】

【0011】

図1(判決注・別紙図1)は実施例の概要を示すシステム図である。図1において,1は電気機器受電状態監視装置,40は電気機器,41は受電部,42は電力供給線,43は電路遮断器,50は所内温度管理システム装置である。また,10は受電状態検出器,13はピックアップコイル,15はセンサ,30は受電状態検出器制御部である。

【0012】

電気機器受電状態監視装置1は受電状態検出器10,ピックアップコイル13,センサ15,および受電状態検出器制御部30で構成している。電気機器40には受電部41があり,受電部41は電力供給線42により電路遮断器43を経由して電力が供給される。電力供給線42にはピックアップコイル13が電気的に非接触な状態で取り付けられている。ピックアップコイル13は電力供給線42に流れている電流値を抽出し,ピックアップコイル出力信号として受電状態検出器10へ出力する。また,受電部41にはセンサ15が取り付けられている。センサ15は検出信号を受電状態検出器10へ出力する。受電状態検出器10は無線通信により受電状態検出器制御部30より命令を受信し,その命令に従った応答を受電状態検出器制御部30へ返信する。受電状態検出器制御部30は所内温度管理システム装置50と通信を行う。所内温度管理システム装置50は所内の電気機器の温度を監視する装置であり,所内の電気機器の受電状態監視装置を管理する。

【0013】

図2(判決注・別紙図2)は実施例の電気機器受電状態監視装置の詳細を示すブロック図である。図2において,11は無線通信手段,12はアンテナ,14は電流検出手段,16は温度検出手段,17は通信制御手段,18は温度上昇率検出手段,19は状態表示器,20は電源部,21は充電器,22は蓄電手段,23は電源制御部,24は整流器,25は昇圧手段である。13aはロゴスキーコイル,15aは熱電変換素子である。31は無線通信手段,32はアンテナ,33は通信制御手段である。

【0014】

受電状態検出器10は,無線通信手段11,アンテナ12,電流検出手段14,温度検出手段16,通信制御手段17,温度上昇率検出手段18,状態表示器19,および電源部20で構成している。電源部20は,充電器21,蓄電手段22,電源制御部23,整流器24,および昇圧手段25で構成している。また,受電状態検出器制御部30は,無線通信手段31,アンテナ32,および通信制御手段33で構成している。

【0015】

ロゴスキーコイル13aは電力供給線42に流れている電流値を抽出し,ピックアップコイル出力信号として電流検出手段14および整流器24へ出力する。電流検出手段14は前記ピックアップコイル出力信号を入力し,電流検出値出力信号として通信制御手段17へ出力する。また,熱電変換素子15aは受電部41の温度に基づいて熱起電力を発生し,該熱起電力を温度検出手段16および昇圧手段25へ出力する。温度検出手段16は前記熱起電力を入力し,温度検出値出力信号として通信制御手段17および温度上昇率検出手段18へ出力する。

【0016】

通信制御手段17は前記電流検出値出力信号,前記温度検出値出力信号,温度上昇率出力信号,および命令信号を入力し,応答信号を無線通信手段11へ出力する。無線通信手段11はアンテナ12を介して受電状態検出器制御部30と無線通信すると共に,前記応答信号を入力し,前記命令信号を通信制御手段17へ出力する。温度上昇率検出手段18は前記温度検出値出力信号を入力し,前記温度上昇率出力信号を通信制御手段17へ,また,状態表示信号を状態表示器19へ出力する。状態表示器19は前記状態表示信号の入力に基づいて表示する。」

イ 引用発明

引用刊行物(甲1)には,以下の記載がある。

「【0004】

【発明が解決しようとする課題】送配電線の電流計測については,系統事故現象や系統負荷の状況による負荷潮流の変動,あるいは停電状態など広範囲の電流値の計測が可能でなければならない。送配電線の電流情報を多地点で計測しようとした場合,その計測情報の伝達手段や計測装置への電源供給方法などが問題となる。送配電線から電圧入力によって電源を供給する場合,系統の電圧階級やサージ電圧を考慮した絶縁対策の問題などがあるため,装置のコンパクト化が困難となる。

【0005】このような観点から,送配電線に設置したCTによる電流源から装置の電源を供給し,装置自体も電力線に直接設置することで,装置の絶縁の問題がなくなり,装置のコンパクト化も可能となる。更に,電流計測用のCTと電源供給用のCTとを同一のもので共用すれば,それだけコストも下がり,システム全体の構成も簡素化できると共に小型化も可能になる。

【0006】しかし,計測情報の伝達方法として無線を利用したり,計測に際してGPS(Global Positioning System)による同期計測を行ったり,あるいは,計測データの記録用メモリ,高性能演算用CPUなどが必要となると,装置全体に求められる消費電流も大きくなってしまう。つまり,それだけ電源CTの二次側の負担が大きくなり,CTを飽和させたりして安定出力が得られない原因となり,CTの選定も困難となる。その一方で,広範囲の電流入力に対しても安定した電源を供給でき,しかも過電流入力時(CT定格の40倍程度)でも電源回路及び計測回路が壊れずに正常に計測できることが要求されるが,現状では,これらの要求を満足するような電流計測装置は未だ提供されていない。

【0007】そこで本発明は,単一のCTにより電流計測と電源供給とを兼用して装置の小型化,低コスト化を図り,広範囲の電流入力に対する計測及び安定した電源供給を可能にするとともに,回路の保護機能も兼ね備えた電流計測装置を提供しようとするものである。」

「【0014】

【発明の実施の形態】以下,図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず,図1(判決注・別紙図3)は本発明の第1実施形態を示す機能ブロック図であり,請求項1記載の発明の実施形態に相当する。この電流計測装置は,電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と,その二次側に接続された電源部30と,CT20からの計測入力及び電源部30からの直流電源が加えられる電流計測演算・監視部40と,電源部30からの直流電源及び電流計測演算・監視部40の出力信号が加えられる無線伝送部50と,この無線伝送部50に接続された無線アンテナ51と,必要に応じて設置されるGPSアンテナ42及び計測用CT45とから構成されている。

【0015】この実施形態は,電力線10に接続された計測・電源用CT20から装置の電源を供給し,かつ,このCT20により検出した電力線10の電流を計測するものであり,これによって系統の電流情報(大きさ,位相,周波数など)の計測と電源供給とを同時に行うものである。但し,計測条件によっては別途,計測用CT45を設置してもよい。

【0016】電源部30は,CT20の二次側に接続された整流回路31と,自励チョッパ制御による定電圧DC出力回路32と,その出力側に接続されたバックアップ電源回路33と,定電圧DC出力回路32及びバックアップ電源回路33の出力側に接続された一対のダイオードからなるダイオード回路34と,そのカソード側に接続されて所定レベルの直流電源電圧を得るレベル変換回路35とから構成されている。また,バックアップ電源回路33の出力は電流計測演算・監視部40に入力されており,バックアップ電源の状態(電圧)を監視可能となっている。

【0017】計測・電源用CT20の二次側に接続された電流計測演算・監視部40は,必要に応じて設けられるGPS同期部41と,A/D変換器を有する計測入力回路43と,計測入力回路43の出力信号が加えられて系統電流を演算し,かつ入力電流のレベルやバックアップ電源の状態を監視するとともに,計測電流値や監視結果を遠隔の中央装置に無線伝送するための伝送制御を行うCPU44とを備えている。

【0018】系統の電流計測は,GPSを用いた多地点同期計測を可能とし,その計測演算データは無線伝送部50及び無線アンテナ51を介して中継無線局(図示せず)に送られ,更に中央装置へ伝送される。この中央装置では,計測情報や電源を含めた装置状態の表示確認が可能である。なお,本装置は,例えば系統の電流計測情報から送配電線の故障点を標定するシステム(特願2000-179400「故障点標定方法」)にも適用可能である。」

(2)  判断

ア 取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(ア) 上記によれば,本願補正発明は,電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と,同受電状態検出器と無線で通信できる,無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部と,上記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段とを備え,上記電気機器へ電力を供給する電力供給線に,同供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出するピックアップコイルを取り付け,同ピックアップコイルの出力信号を,一方では上記検出手段の入力信号とし,他方では前記蓄電手段の充電用パワー供給源とするとともに,上記ピックアップコイルは,始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルとする電器機器受電状態監視装置であって,上記構成により,外部からの給電や電池交換を必要とせず,天候や設置場所の制約なしに安定的に電力を自給して恒久的に作動させることを可能にする発明であると認められる。

(イ) 他方,引用発明は,電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と,同計測・電源用CT20の二次側に接続され,上記電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43と無線伝送部50とを具備した電流計測装置と,同電流計測装置へ直流電源を供給する電源部30に充電によりバックアップの電源供給を可能とするバックアップ電源回路33とを備え,同機器へ電力を供給する上記電力線10に,上記電力線10に流れている電流を電磁誘導により計測する上記計測・電源用CT20を接続し,一方では,同計測・電源用CT20からの計測入力を上記計測入力回路43に入力し,他方では,上記計測・電源用CT20の二次側に整流回路31を設けることにより,上記バックアップ電源回路33の充電のための電流を生成する電流計測装置であって,上記構成により,①送配電線に設置したCTによる電流源から装置の電源を供給し,装置自体も電力線に直接設置することで,装置の絶縁の問題がなくなり,装置のコンパクト化が可能となる,②電流計測用のCTと電源供給用のCTとを同一のもので共用すれば,それだけコストも下がり,システム全体の構成も簡素化でき,小型化も可能となる,③単一のCTにより電流計測と電源供給とを兼用して装置の小型化,低コスト化を図り,広範囲の電流入力に対する計測及び安定した電源供給を可能にする発明であると認められる。

(ウ) 上記によれば,引用発明と本願補正発明は,電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する検出手段と無線による通信手段とを具備した受電状態検出器と,同受電状態検出器と無線で通信できる,無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部とを備えた,電気機器の受電の状態を監視する電気機器受電状態監視装置において,上記受電状態検出器に電源を供給する電源部に充電により電力を蓄電する蓄電手段を備え,上記電気機器へ電力を供給する電力供給線に該供給線に流れている電流値を電気的に非接触で抽出する,電磁誘導を利用した電流検出器を取り付け,上記電磁誘導を利用した電流検出器の出力信号を,一方では上記検出手段の入力信号とし,他方では上記蓄電手段の充電用パワー供給源とする点で一致し,①充電状態検出器と受電状態検出器制御部間の信号の流れに関して,本願補正発明は,受電状態検出器制御部が受電状態検出器に対して命令を送信し,受電状態検出器が上記命令に従った応答を返信するのに対し,引用発明ではそのような限定がされていない点(相違点1),②電磁誘導を利用した電流検出器に関して,本願補正発明では「ピックアップコイル」であって,具体的には,始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させた「ロゴスキーコイル」であるのに対し,引用発明では,「計測・電源用CT20」である点(相違点2)で相違するものと認められる。

(エ) 原告らの主張に対して

a 原告らは,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との間の無線通信は,高圧の電力供給線からの絶縁間隔(離隔距離)の問題を解決するため無線通信としたものであるのに対し,引用発明は,遠方にある地上装置間の通信を電波によるものとしたものであって,引用発明の「電流計測システム」は,本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」に相当するとはいえない,と主張する。

しかし,本願補正発明に係る特許請求の範囲には,「受電状態検出器制御部」の設置位置は特定されておらず,これが電力供給線の離隔距離の内外いずれにあるかも特定されていない。また,上記のとおり,本願明細書においても,「受電状態検出器制御部」について,①電気機器受電状態監視装置1は,受電状態検出器10,ピックアップコイル13,センサ15,受電状態検出器制御部30で構成され,受電状態検出器10は,無線通信により受電状態検出器30より命令を受信し,その命令に従った応答を受電状態検出器制御部30へ返信し,受電状態検出器制御部30は,所内温度管理システム装置50と通信を行うこと(段落【0012】),②受電状態検出器制御部30は,無線通信手段31,アンテナ32,通信制御手段33で構成されていること(段落【0014】),③通信制御手段17は,電流検出値出力信号,温度検出値出力信号,温度上昇率出力信号,命令信号を入力し,応答信号を無線通信手段11へ出力し,無線通信手段11は,アンテナ12を介して受電状態検出器制御部30と無線通信すること(段落【0016】)が記載されているものの,「受電状態検出器制御部」の設置位置や,「受電状態検出器制御部」が電力供給線の離隔距離の内外いずれにあるかについては開示されていない。したがって,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信が,電力供給線の離隔距離の問題を解決するための無線通信であるとは認められない。

また,上記のとおり,引用刊行物には,「電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20」との記載(段落【0014】)があり,引用発明における「計測・電源用CT20」は,電力線10に取り付けられたものであると認められ,上記「CT20」を備える電流計測装置は,地上装置とは認められない。

さらに,上記のとおり,引用発明の「中継無線局」は,電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部を備え,電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信するとともに,この受信データを中央装置へ無線伝送するものと認められる。

以上によれば,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信は,電力供給線の離隔距離の問題を解決するための無線通信であるとは認められず,他方,引用発明の「電流計測装置」が,地上装置であるとも認められないから,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信と,引用発明における「電流計測装置」と「中継無線局」との無線通信の作用効果は相違せず,引用発明の「電流計測システム」は,本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」に相当するとした審決の判断に誤りはない。

b 原告らは,本願補正発明の「ロゴスキーコイル」及び「受電状態検出器」は,電力供給線に直接取り付けられて,その電力供給線の離隔距離内の装置であるのに対し,引用発明の「CT20」及び「電流検流装置」は,アースされた地上装置であると主張する。

しかし,上記のとおり,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信は,電力供給線の離隔距離の問題を解決するための無線通信であるとは認められず,他方,引用発明の「電流計測装置」が,地上装置であるとも認められない。

したがって,本願補正発明の「ロゴスキーコイル」及び「受電状態検出器」と,引用発明の「CT20」及び「電流検流装置」との間に,上記相違があるとは認められない。

c 原告らは,①本願補正発明の「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との間の無線通信は,高圧電力線の離隔絶縁の問題を解決するものであるのに対し,引用発明の「電流計測装置の無線伝送部50」と「中継無線局」との間の通信は,地上装置間の電波による双方向通信にすぎない,②本願補正発明は,「受電状態検出器」の電波出力を小さくするため,200m程の短い距離内に「受電状態検出器制御部」を設置するものであるのに対し,引用発明の「中継無線局」ないし「中央装置」は,「電流計測装置」から遠方に設置される,③本願補正発明の「受電状態検出器制御部」は,「所内温度管理システム装置」等の外部の管理システムや中央監視装置からの命令,情報を送受するため,特定の「受電状態検出器」に電気回路へのハード命令変換又は電波に搬送させるための加工,「受電状態検出器」からの情報の記録又は電流・温度等の特別な監視加工等を行うものであり,単なる電波発生の中継局ではないとして,引用発明の「無線中継局」は,本願補正発明の「受電状態検出器制御部」に相当するとはいえない,と主張する。

しかし,上記のとおり,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信は,電力供給線の離隔距離の問題を解決するための無線通信であるとは認められず,他方,引用発明の「電流計測装置」が地上装置であるとは認められず,引用発明の「電流計測装置の無線伝送部50」と「中継無線局」が,地上装置間の電波による双方間通信のためのものであるとはいえない。また,上記のとおり,本願補正発明における「受電状態検出器制御部」の設置位置は,特許請求の範囲において特定されておらず,本願明細書に開示されているともいえない。さらに,本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載には,「受電状態検出器制御部」について,「同受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部」,「前記受電状態検出器制御部は前記受電状態検出器に対して命令を送信し,前記受電状態検出器は該命令に従った応答を返信する」と特定されているにすぎず,「所内温度管理システム装置」等の外部の管理システムや中央監視装置からの命令,情報を送受するため,原告らが主張するような構成を有することは,特許請求の範囲ないし本願明細書に記載も示唆もされていない。そして,上記のとおり,引用発明の「中継無線局」は,「電流計測装置の無線伝送部50」と無線で通信できる通信部を備え,「電流計測装置の無線伝送部50」からの計測演算データを受信するとともに,この受信データを「中央装置」へ無線伝送するものであるから,引用発明の「中継無線局」と本願補正発明の「受電状態検出器制御部」は,「受電状態検出器と無線で通信できる無線による通信手段を具備した受電状態検出器制御部」である点で一致する。

d 原告らは,引用発明と本願補正発明は,無線通信の作用効果が異なっている上,本願補正発明は,電気機器受電状態監視装置が有する機能を,電力供給線に取り付けられる「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」とに分割させ,「受電状態検出器」の機能を軽減して,少ない消費電力で作動できるようにするものである,と主張する。

しかし,上記のとおり,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信が,電力供給線の離隔距離の問題を解決するものとは認められない。また,上記のとおり,引用発明の「電流計測装置」は,「電力線10」に取り付けられるものであるから,引用発明においても「電流計測システム」の機能が,「電流計測装置」と「中継無線局」とに分割して分担されているといえる。

e 以上のとおり,引用発明と本願補正発明の一致点の誤りに係る原告らの主張には理由がなく,審決の一致点の認定に誤りはない。

イ 取消事由2(相違点の看過)について

原告らは,①本願補正発明は,「ピックアップコイル(ロゴスキーコイル)」及びこれと有線で接続される「受電状態検出器」が電力供給線側に取り付けられて,その電力供給線の離隔距離(絶縁間隔)内にあって高圧の電圧に対して安全にし,他方,「受電状態検出器制御部」は電力供給線の離隔距離外の地上に設置されており,これらが有線では互いに接続されていないのに対し,引用発明の「電流計測装置」はアースされた地上装置である点で相違する,②本願補正発明の「ピックアップコイル(ロゴスキーコイル)」は,重さ500g前後,寸法80mm前後と小型・軽量であり,電流供給線への装着が容易である上,電力損失が小さいのに対し,引用発明の「CT」は,重量10kg~100kg超,寸法1.5m前後であり,電力供給線へ直接装着することができない上,電力損失が大きい点で相違する,③本願補正発明の「電気機器受電状態監視装置」は,電力供給線に取り付けられる「受電状態検出器」と地上側の「受電状態検出器制御部」に分割することで,「受電状態検出器」の機能を少なくし,微小電力しか得ることができないピックアップコイル(ロゴスキーコイル)の供給電力で作動できるようにしたのに対し,引用発明の「電流計測装置」は,全ての電気処理を1つの装置にまとめている上,遠方の「中央装置」への電波出力のため,比較的大きな消費電力を必要とする点で相違する,と主張する。

しかし,上記のとおり,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信は,電力供給線の離隔距離の問題を解決するものとは認められず,他方,引用発明において「電流計測装置」は,「電力線10」に取り付けられており,「電流計測システム」を構成する「電流計測装置」と「中継無線局」とは,上空と地上とに分かれて設置されており,両者は無線で通信されており,有線では互いに接続されていないものと認められる。したがって,本願補正発明と引用発明との間には,上記①の相違点は認められない。

また,上記のとおり,引用発明の「計測・電源用CT20」は,「電力線10」に取り付けられたものであり,地上又は地上台座上にのみ設置されるものとは認められない。したがって,本願補正発明と引用発明との間には,上記②の相違点は認められない。

さらに,上記のとおり,本願補正発明に係る特許請求の範囲には,「受電状態検出器」の消費電力を100mW程にして,微小電力しか得ることができないピックアップコイル(ロゴスキーコイル)の供給電力で作動できるとの構成について特定されておらず,本願明細書及び図面の記載を参酌しても,本願補正発明における「受電状態検出器」が,上記作用効果を奏するものに限定されるとは認められない。他方,引用発明の「電流計測装置」は「電力線10」に取り付けられるものあり,引用発明の「電流計測システム」の機能は,「電流計測装置」と「中継無線局」とに分割して分担されているといえる。したがって,本願補正発明と引用発明との間には,上記③の相違点は認められない。

以上のとおり,上記原告らの主張には理由がなく,審決の本願補正発明と引用発明の相違点の認定に誤りはない。

ウ 取消事由3(容易想到性判断の誤り)について

(ア) 相違点1の容易想到性判断について

上記のとおり,引用発明は,電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と,計測・電源用CT20の二次側に接続され,電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43と無線伝送部50とを具備した電流計測装置と,電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し,中央装置へ無線伝送し,電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部を具備する中継無線局とを備えている。そして,周知文献1(甲2)には,「図において,親局40と各子局41~45とは伝送路46を介して接続されている例である。そして,親局40は,子局41~45に対して順次呼出しを行ない,呼出しを受けた該子局は,当該子局の状態を親局41(判決注・「親局40」の誤記と認める。)へ伝送・・・することによって,配電線の異常を監視している。」(1頁右欄2~7行)と記載され,周知文献2(甲3)には,「今,区間6の右側(負荷側)で故障が発生したとする。すると,第1の区間のOCI,R1とS1が過電流を検出して無線ユニットを通じて中継子局T1にそのことを伝え,中継子局は公衆通信回線又はPHSを介して親機12に通報し,パソコン11に入力する。この信号を受信したパソコン11は,親機12からポーリングで順次第2の区間の中継子局T2,第3の区間の中継子局T3,第4の区間の中継子局T4・・・を呼び出して,各区間のOCIの表示が白色が橙色かを問い合わせる。・・・」(段落【0012】)と記載されているように,配電監視システムの技術分野において,末端側の監視装置と管理装置側の装置間の信号の流れに関して,管理装置側の装置から末端側の監視装置に対して命令を送信し,末端側の監視装置は,上記命令に従った応答を返信することは周知の技術といえる。

そうすると,引用発明における「電流計測装置」と「中継無線局」間の無線において,管理装置側の装置である「中継無線局」から末端側の監視装置である「電流計測装置」に対して命令を送信し,「電流計測装置」は,上記命令に従った応答を返信すること,すなわち相違点1に係る構成は,上記周知技術(周知技術1)に基づいて容易に想到し得たものということができる。

これに対し,原告らは,本願補正発明は,「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」とを分割して配置し,「受電状態検出器」は,電力供給線の離隔距離(絶縁間隔)内に設け,「受電状態検出器制御部」は,離隔距離外の地上に設置し,高圧の電力線の離隔距離の問題を避けるため,無線で双方向通信としたものであって,引用発明及び周知技術1には,上記構成は開示されていないと主張する。しかし,上記のとおり,本願補正発明における「受電状態検出器」と「受電状態検出器制御部」との無線通信は,電力供給線の離隔距離の問題を解決するための無線通信であるとは認められないから,原告らの上記主張は理由がない。

(イ) 相違点2の容易想到性判断について

上記のとおり,引用発明は,電力線10に取り付けられた計測・電源用CT20と,計測・電源用CT20の二次側に接続され,電力線10を流れる電流を計測する計測入力回路43と無線伝送部50とを具備した電流計測装置と,電流計測装置の無線伝送部50からの計測演算データを受信し,中央装置へ無線伝送し,電流計測装置の無線伝送部50と無線で通信できる通信部を具備する中継無線局とを備えている。そして,周知文献3(甲4)には「可撓性のあるフレキシブルチューブを支持体として空芯コイルを形成することにより,大口径でかつ作業性および融通性に富んだロゴスキーコイルを実現することができる。したがって,被測定物の大きさや形状に合わせ,かつ測定条件に応じて効率よく取り付け作業を行うことができる。」(段落【0010】)と記載され,周知文献4(甲5)には「本発明の目的は,このような状況に鑑み,単に通電路に巻付けるだけで簡単に電流を測定することができ,かつ,小型,低コストに構成することができる電流検出器を提供することにある。」(段落【0005】),「上記目的を達成するため,本発明に係る電流検出器は,電気絶縁性および可撓性を有するチューブと,前記チューブの外周面に一定な間隔で巻回されるとともに,その巻き終わり端から前記チューブを貫通して巻き始め端の部位までリターンされた導電線とを備え,前記チューブを通電路の周囲に環状に巻付けて,前記導電線によるロゴスキーコイルを構成するようにしている。この発明によれば,前記チューブが環状をなすように通電路の周囲に巻付けることによって前記導電線によるロゴスキーコイルが構成され,このロゴスキーコイルによって前記通電路を流れる電流が検出される。」(段落【0006】)と記載されるように,「電流検出器」の技術分野において,電流検出器として,始終端間に空隙を形成した断面略円形の可撓性を有するチューブに導電線の一方を巻回しチューブの終端で折り返して環状に屈曲させたロゴスキーコイルを用いること,それにより,小型で低コストに構成することができ,被測定物に効率よく取付作業を行うことができることは周知の技術といえる。

そうすると,引用発明において,小型化,低コスト化及び取付作業の効率化を図るために,「電力線10」に取り付けられた「計測・電源用CT20」に代えて,ロゴスキーコイルを取り付けることは,上記周知技術(周知技術2)に基づいて容易に想到し得たものといえる。

これに対し,原告らは,①「CT」(変流器)装置とロゴスキーコイルとは,寸法,重量,電流値が全く違ったものであり,「CT」を電力供給線の線路に取り付けるのは困難であり,本願補正発明の目的に適さない「CT」から本願補正発明に想到することは容易でない,②一般のロゴスキーコイルは微弱電流を抽出できる計測用であり,ロゴスキーコイルから抽出された電流は,長い電線を介して電気回路に導かれるから,高圧の電力供給線の離隔距離の問題が生じ,ロゴスキーコイルの抽出電力を「受電状態検出器」の電力源とすることも困難である,と主張する。

しかし,上記のとおり,引用発明においては,電流計測装置の「計測・電源用CT20」が「電力線10」に取り付けられており,「電流計測システム」を構成する「電流計測装置」と「中継無線局」とは,上空と地上とに分かれて設置されるものであり,両者は無線で通信され,有線では互いに接続されていないものと認められる。そうすると,引用発明に上記周知技術(周知技術2)を適用し,「計測・電源用CT20」に代えて,ロゴスキーコイルを「電力線10」に取り付けることにより,ロゴスキーコイルを備える「電流計測装置」と「中継無線局」とに分割され,これらが無線で通信される構成に想到することは容易といえる。

また,原告らは,単に「CT」の代わりにロゴスキーコイルを使用しても,本願発明の有する効果を奏しないと主張する。

しかし,上記のとおり,電流検出器において,ロゴスキーコイルを使用すれば,小型で低コストになる上,被測定物に効率よく取付作業を行うことができることは周知の技術であるから,引用発明に上記周知技術を適用すれば,電力供給線に取り付けるピックアップコイルである「ロゴスキーコイル」及び「受電状態検出器」を小型軽量にでき,電力供給線の線路の取付空間を小さくし,容易に取り付けられるとの効果を奏することは,当業者が容易に予測し得たものといえる。

さらに,上記のとおり,引用発明に上記周知技術を適用し,「計測・電源用CT20」に代えて,ロゴスキーコイルを「電力線10」に取り付ければ,ロゴスキーコイルを備える「電流計測装置」と「中継無線局」とに分割され,両者が無線で通信される構成となり,電力供給線に取り付けられるピックアップコイル及び受電状態検出器と,受電状態検出器制御部との間を電線では通信せず,電力供給線に取り付けられる電流の検出器が電気的に安全に取り付けられるとの効果を奏することは,当業者が容易に予測し得たものである。

そして,上記のとおり,引用発明は,「電流計測装置」へ直流電源を供給する「電源部30」に充電によりバックアップの電源供給を可能とする「バックアップ電源回路33」を備え,「計測・電源用CT20」の二次側に「整流回路31」を設けることにより,「バックアップ電源回路33」の充電のための電流を生成するものと認められる。そうすると,引用発明に周知技術を適用し,「計測・電源用CT20」に代えて,ロゴスキーコイルを「電力線10」に取り付けることにより,ロゴスキーコイルの導電線には「整流回路31」が設けられ,「バックアップ電源回路33」の充電のための電流が生成され,「電源部30」に充電によるバックアップの電源供給が可能となる。したがって,引用発明に上記周知技術を適用することにより,「受電状態検出器」のための電源として,「電池」及び「商用電源」を使用しないで済み,しかも電力供給線から安全に電源パワーを得ることができるとの効果を奏することは,当業者が容易に予測し得たものである。

以上のとおり,原告らが主張する,本願補正発明が奏する効果は,いずれも,引用発明に上記周知技術を適用することにより,当業者が予測し得たものである。

(ウ) したがって,本願補正発明と引用発明との相違点(相違点1及び2)について,周知技術1,2に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとした,審決の判断に誤りはない。

エ 小括

以上のとおり,上記原告らの主張には理由がなく,審決の本願補正発明の容易想到性判断(独立特許要件の判断)に誤りはない。

2  本願発明の容易想到性判断について

前記第2の2(1)記載のとおり,本願発明は,本願補正発明から,①受電状態検出器が備える検出手段に関して,「電気機器の電力供給線からの電力の受電状態を検出する」との構成を,②受電状態検出器制御部が具備する無線による通信手段に関して,「同受電状態検出器と無線で通信できる」との構成を除いたものである。上記のとおり,本願発明の構成を全て含み,更に上記①,②の構成を付加した本願補正発明は,引用発明及び周知技術1,2に基づき容易に想到することができたものであるから,本願発明も同様に,引用発明及び周知技術1,2に基づき容易に想到することができたものといえる。

3  結論

以上のとおり,原告らの主張する取消事由には理由がなく,他に審決にはこれを取り消すべき違法は認められない。その他,原告らは,縷々主張するが,いずれも,理由がない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 西理香 裁判官 知野明)

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