知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10143号 判決 2012年11月29日
原告
株式会社デルタ
訴訟代理人弁理士
桶野清香
同
桶野育司
被告
特許庁長官
指定代理人
堀内仁子
同
森吉正美
同
田村正明
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が異議2011-900117号事件について平成24年3月15日にした決定を取り消す。
第2前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,標準文字の「ECO MINI」からなる商標(以下「本件商標」という。)について,指定商品を第12類「自動車並びにその部品および付属品」として商標登録(出願日 平成20年7月28日,登録審決日 平成22年11月19日,登録日 平成23年1月7日。登録第5380691号。以下「本件商標登録」という。)を受けた商標権者である(甲1)。
ドイツ連邦共和国の法人であるバイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシャフト(以下「BMW」という。)が,平成23年4月6日,本件商標登録につき登録異議(2011-900117号事件)を申し立て(甲49),特許庁は,平成24年3月15日,本件商標登録を取り消すとの決定(以下,単に「決定」という。)をし,その異議決定謄本は,同月26日,原告に送達された。
2 決定の理由
決定の理由は,別紙異議決定書写に記載のとおりであり,その要旨は,以下のとおりである。
すなわち,欧文字の「MINI」を横書きしてなる商標(以下「引用商標」という。)は,本件商標登録の出願時には,既にBMWの業務に係る商品「自動車」を表示する商標として,日本国内の取引者,需要者の間に広く認識され,その状態は,本件商標の登録審決時においても継続していた。
本件商標は,「MINI」の文字部分が自他商品識別標識としての機能を果たし,本件商標と引用商標とは,類似の商標であり,また,本件商標の指定商品と引用商標が使用されている商品「自動車」とは,同一又は類似のものである。
したがって,本件商標登録は,商標法4条1項10号に違反してなされたものである。
第3取消事由に関する当事者の主張
1 原告の主張
決定には,引用商標が広く認識されているとした判断及び本件商標と引用商標とが類似するとした判断に誤りがある。
(1) 引用商標が広く認識された商標とはいえないことについて
ア 英単語の「MINI」及びその片仮名表記である「ミニ」は,「小さい,小型の,小規模の」を意味する接頭辞として,日本国内でよく親しまれた語であり,「MINI」及び「ミニ」の語が自動車に使用された場合,自動車が小型であることを示すものであり,「MINI」及び「ミニ」の語に,本来的な識別力はない。このような引用商標が識別力を獲得し,かつ,需要者の間に広く認識されているとするためには,引用商標の使用態様,使用期間,使用地域,引用商標に係る商品の製造・販売の数量(売上高),宣伝広告の方法・回数・費消した金額等において,厳格な基準によって,判断されるべきである。
イ 引用商標に係る商品の販売状況等をみると,平成15年から平成22年における各年の「MINI」モデルの自動車(以下,「MINI」モデルの自動車を,BMWが販売する以前のものも含め,「本件自動車」という。)の新車販売台数は,約1万1000台ないし1万4000台で推移しており,この台数は,国内メーカーにより製造された普通自動車の各年の第30位に該当する新車販売台数の約半数程度でしかない。また,平成19年から平成22年における各年の本件自動車の新車販売台数は,国内メーカーにより製造された軽四輪車の各年の第15位に該当する新車販売台数の約半数ないし3分の2程度にすぎない。
さらに,本件商標登録の出願時までの本件自動車に係る宣伝広告の内容等を示す証拠はない。
ウ BMWは,その商品である本件自動車の車体前面に,エンブレムとして別紙使用標章目録1記載の標章(以下「使用標章1」という。)を使用し,カタログ等においてもこれを使用している。また,カタログや宣伝広告資料などにおいて,ウェブサイト上の記載など文字フォントの指定が困難な環境下を除き,特定のフォント書体による別紙使用標章目録2記載の標章(以下「使用標章2」という。)を使用している。使用標章2は使用標章1の中の「MINI」の文字を,同じフォント書体で,白黒を反転させたものであり,BMWが,引用商標を極力特定のフォント書体に統一して使用してきたことがうかがえる。しかし,引用商標は,特定の外観や書体の構成を採用するものではない。
このように,BMWが長年使用してきた標章は,使用標章1及び2であり,仮に使用の結果,自己の業務に係る商標として需要者の間に広く認識されているとしても,それは使用標章1及び2という特定の外観上の特徴を有する標章についてであるから,このような使用標章1及び2の使用実績・態様によっては,引用商標が,需要者の間に,広く認識されたと判断することはできない。
エ 本件自動車が日本国内に輸入され始めた昭和35年とほぼ同じ時期から,「MINI」又は「ミニ」の語を含む標章は,日本国内において,多く使用されている。例えば,軽商用車の「MINICAB」「ミニキャブ」や軽自動車の「PAJERO MINI」「パジェロミニ」などがある。そして,「MINICAB」や「PAJERO MINI」の販売台数は,本件自動車の販売台数を超えている。
このように,「MINI」及び「ミニ」の語は小型自動車(軽自動車)等の車種名の一部として,語義どおりの意味合いで使用されている。
オ 以上によると,本件商標登録の出願時及び現時点において,引用商標が需要者の間に,広く認識されているとすることはできない。
(2) 本件商標と引用商標との類否について
ア 本件商標
(ア) 外観
本件商標は,標準文字の欧文字「ECO MINI」からなるもので,全て大文字で,標準文字により,外観上まとまりよく,一体的に表現されている。なお,中間に1文字相当の間隔があるが,英語等における一般的な記載方法であり,これをもって直ちに外観上分離して看取されることはない。
(イ) 称呼
本件商標からは,「エコミニ」の称呼が生じる。「エコミニ」はわずか4音であり,「エコ」と「ミニ」に分断して称呼される理由はない。
(ウ) 観念
本件商標は,指定商品との関係では,一体で「環境に配慮した小型自動車」との観念が生じる。
(エ) 取引の実情
「MINI」の語を有する車種名である「MINICAB」「ミニキャブ」「PAJERO MINI」「パジェロミニ」「ハイパーミニ」及び「ミニヨン」は,需要者に,「小型車」の意味を内包した,全体で一体の造語商標であると認識され,本件自動車と出所の混同が生じていない。本件商標も,これらの車種名,とりわけ「MINICAB」「PAJERO MINI」とその構成が同じであり,一体の造語として認識されるものである。
イ 引用商標の称呼,観念,外観,取引の実情等
引用商標からは,「ミニ」の称呼が生じ,「小型の自動車」という観念が生じ得る。
BMWは,平成14年3月に日本国内において本件自動車の販売を開始して以来,現在に至るまで,本件自動車の車種名として,「MINI」の語の後に他の欧文字からなる語を付加した結合語を使用している。例えば,「MINI COOPER」「MINI COOPER S」「MINI ONE」「MINI COOPER CONVERTIBLE」「MINI COOPER CLUBMAN」「MINI JOHN COOPER WORKS」「MINI 50 MAYFAIR」「MINI 50 CAMDEN」「MINI ONE CROSSOVER」「MINI COOPER CROSSOVER」「MINI COOPER S CROSSOVER」等である。
ウ 類否に関する結論
本件商標は,「エコミニ」の称呼が生じ,「環境に配慮した小型自動車」との観念が生じ,「ECO MINI」の外観を有するのに対し,引用商標からは,「ミニ」の称呼が生じ,「小型の自動車」という観念が生じ,「MINI」の外観を有する。
日本国内において,「自動車」を指定商品とする「MINI」又は「ミニ」の文字を含む商標は,90件以上登録されている。これらの商標は,引用商標と「MINI」又は「ミニ」の語を共通にするとしても,他の語句との結合により,引用商標とは区別することができる。また,第12類の「自動車」又はその他の乗物類を指定商品として,「ECO」の文字と他の構成部分が連結された結合商標も,当該構成部分のみからなる商標とは非類似と判断されている実情がある。
また,引用商標は周知なものではないから,本件商標に「MINI」の語が含まれるとしても,「MINI」部分のみが独立して看者に強い印象を与えるとはいえず,「MINI」部分を分離抽出して類否判断を行うのは適当でない。
以上によると,本件商標と引用商標は,称呼及び観念において異なり,外観においても相違しており,非類似である。
2 被告の反論
(1) 引用商標が広く認識された商標とはいえないことに対して
ア 本件自動車は,昭和35年以降,日本国内において,「MINI」シリーズとして,継続的に販売されてきたものであり,近年では,常に,輸入車モデル別新車販売台数順位の上位に位置し,一般の大衆雑誌や映画でも取り上げられ,全国的な宣伝活動も行われている。自動車に係る取引者・需要者は,「MINI」及び「ミニ」の文字のみから,直ちに本件自動車又はその出所を連想・想起する。
需要者の間に広く認識された商標に該当するか否かの判断は,販売量や広告規模のほか,その商標の使用期間や使用地域,営業規模,広告宣伝の内容等の商標の使用状況を総合して認定されるべきものである。これらの事情を考慮すると,引用商標は,本件商標登録の出願時ないし登録審決時において,BMWの業務に係る商品「自動車」を表示する商標として,日本国内における取引者,需要者に,広く知られていたといえる。
イ 原告は,BMWが長年使用してきた標章は,使用標章1及び2であり,仮に使用の結果,自己の業務に係る商標として需要者の間に広く認識されているとしても,それは使用標章1及び2という特定の外観上の特徴を有する標章についてであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,使用標章2は,一般的なゴシック体が用いられている。また,自動車に関する書籍,雑誌及びインターネットの記事において,本件自動車を表すものとして使用されている「MINI」「MiNi」及び「ミニ」の文字も,格別のデザイン的な特徴を加えることなく,ごく一般的な書体により表記されている。したがって,「MINI」の文字それ自体が,需要者の間で,本件自動車及びその出所を表すものとして広く認識されているということができる。
また,原告は,「MINI」又は「ミニ」の語は,車種名の一部として広く使用されていると主張する。
しかし,本件自動車における「MINI」シリーズは,「MINI」又は「ミニ」の文字のみをもって,本件自動車を表示するものとして,広く認識されている。これに対し,原告が主張する「MINI」又は「ミニ」を含む車種名は,いずれも構成全体が一体のものとして認識されるのであって,「MINI」部分又は「ミニ」部分のみが,独立して認識されるものではない。
(2) 本件商標と引用商標との類否に関する主張に対して
ア 本件商標
(ア) 本件商標は,その中間に1文字分の空白を有する外観構成から,「ECO」部分と「MINI」部分に分離して看取される。本件商標中の「ECO」部分は,本件商標の指定商品において,環境に配慮した商品であるという商品の品質を表示するものであり,自他商品識別力がないか極めて弱い。
一方,本件商標中の「MINI」部分は,「小さい」との意味を有する英語であるが,上記のとおり,引用商標がBMWの業務に係る商品「自動車」を表示する商標として,日本国内における需要者に広く認識されている実情を踏まえれば,単独で使用された場合や識別力のない語と組み合わされた場合には,取引者,需要者に,広く知られた本件自動車を容易に連想,想起させる。
したがって,本件商標は,「MINI」部分が商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえる。
(イ) 本件商標中の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分である「MINI」部分と引用商標とを比較すると,両者は,いずれも「MINI」の文字で構成されており,また,その文字から生じる称呼は「ミニ」であって,その外観及び称呼は同一である。さらに観念においても,その指定商品及び引用商標が使用されている商品との関係において,ともに「自動車のブランド(シリーズ商標)としての『MINI』」との観念を生じる。
このように,本件商標中の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分と引用商標とは,外観,称呼及び観念を共通にし,本件商標と引用商標とは類似の商標である。
そして,BMWが引用商標を使用する商品「自動車」は,本件商標の指定商品「自動車並びにその部品及び付属品」と同一又は類似のものである。
イ 原告は,本件自動車に係る業務を行っている。したがって,原告が本件商標を使用した場合には,本件商標が広く認識されていること等から,これに接した需要者は,BMWの業務に係る「環境に適した『MINI』シリーズの自動車」であると認識し,商品の出所について混同を生じさせるおそれがある。
ウ 原告は,「MINI」や「ECO」の語を含む商標が多数登録されていると主張する。しかし,商標登録出願に係る商標が商標法4条1項10号に該当するか否かは,商標登録出願時及び査定時又は審決時における取引の実情を勘案し,「MINI」又は「ECO」の文字と結合する他の文字の識別力の程度,構成態様などを総合して個別具体的に判断すべきであるから,これらが登録されていることをもって,本件商標と引用商標とが非類似であるということはできない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,原告の主張の取消事由はいずれも理由がないと判断する。
1 引用商標が広く認識された商標であるか否かについて
(1) 事実認定
ア 本件自動車の販売状況等
(ア) イギリスのブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)は,小型車(本件自動車)を開発し,昭和34年(1959年)からその販売を開始した。当初販売した小型車の車種名は,「オースチン・セヴン」と「モーリス・ミニ・マイナー」であったが,「ミニ」の愛称で呼ばれ,昭和37年(1962年)に「オースチン・セヴン」が「オースチン・ミニ」に名称を変更し,本件自動車は「ミニ」シリーズとして販売されてきた。本件自動車は,昭和35年以降,日本にも輸入され,販売された。(甲5ないし11)
BMWは,平成6年(1994年),本件自動車に関する諸権利を取得し,平成13年(2001年)以降は,従来のコンセプト,デザインも承継しながら,独自の設計,開発により本件自動車を生産し,「MINI」ブランドとして,これを販売した。平成12年までに製造された本件自動車は「クラシックミニ」「BMCミニ」などと呼ばれ,平成13年以降に製造された本件自動車は「ニューミニ」「BMWミニ」などと呼ばれている。(甲5ないし9)
BMWは,昭和56年に日本国内に子会社を設立し,BMWが独自に開発した本件自動車は,平成14年以降,子会社,ディーラーを通して,日本国内で販売されている(甲4の1,6ないし9,27,28)。本件自動車の日本国内の正規のディーラーは,平成22年11月時点で,約100店存在する(甲4の3)。
(イ) BMWは,「MINI」ブランドの車種名として,「MINI ONE」「MINI COOPER」「MINI COOPER S」「MINI JOHN COOPER WORKS」「MINI COOPER CONVERTIBLE」「MINI JOHN COOPER WORKS CONVERTIBLE」「MINI COOPER CLUBMAN」「MINI JOHN COOPER WORKS CLUBMAN」「MINI 50 MAYFAIR」「MINI 50 CAMDEN」など,「MINI」の語の後に他の欧文字からなる語を付加した名称を使用している。(甲3(枝番号の記載は省略。以下,特に記載する場合を除き,枝番号・孫番号の記載は省略する。),6,9,12,13,56)
(ウ) 本件自動車の車体前部や車体後部には使用標章1が,タイヤのホイールの中心には使用標章2が,ハンドルには使用標章1が使用されている。(甲2,3,20)
(エ) 平成15年から平成22年における日本での輸入車モデル別新車販売台数順位において,本件自動車は3位ないし5位であり,その販売台数は,年間約1万1000台ないし約1万4000台である。(甲15)
(オ) 平成11年(1999年)に,20世紀で最も影響力のあった車に与えられる自動車賞であるカー・オブ・ザ・センチュリーにおいて,本件自動車が第2位に選ばれた。(甲5,16)
昭和44年(1969年)に公開されたイギリス映画「ミニミニ大作戦」では,他の自動車と共に,当時の「MINI」シリーズの自動車が活躍した。この映画は,平成15年にリメイクされ,リメイク版にはBMWの製造に係る本件自動車が用いられた。(甲5,9,17)
イ 本件自動車の宣伝広告状況等
(ア) 平成21年には,朝日新聞,読売新聞などの全国紙のほか,北海道新聞,北日本新聞,中日新聞,西日本新聞,中国新聞,四国新聞,南日本新聞等の多数の地方紙に,複数回,本件自動車の広告が掲載され,平成22年にも,朝日新聞,読売新聞などに,複数回本件自動車の広告が掲載された。これらの中には,全面広告が掲載されたものもある。(甲14の2)
(イ) 平成21年から平成22年までの間,全国的に,特定の時期において複数回,テレビ放送で本件自動車のCMが放映されたほか,いくつかのラジオ放送局でも,3日間又は1週間,本件自動車のCMが流された。(甲14の3ないし14の5)
(ウ) 平成21年1月から平成23年2月までの間に,「Yahoo!」「google」「So-net」「goo」などのウェブサイト上に,本件自動車の宣伝広告が多数回掲載された。(甲14の6)
(エ) 本件商標登録の出願日である平成20年7月28日以前から,「NEWMINI STYLE MAGAZINE」「NEW MINI OWNER’S BIBLE」など複数の本件自動車の専門誌が定期的に発行されたり,以下のほか,多数の雑誌に本件自動車に関する記事が掲載されたり,本件自動車のことが記載された書籍が発刊されたりしている。(甲8,14の1,19ないし23,乙2)
「MEN’S CLUB」平成21年3月号,同年5月号
「IMPRESSION GOLD」平成21年5・6月号
「BRUTUS」平成21年7月号
(オ) 本件自動車の宣伝広告等のほとんどに,使用標章1及び2が共に用いられている。また,本件自動車は,日本国内では,片仮名の「ミニ」で表示されることも多く,雑誌や書籍等では,標準文字を含んだ使用標章2とは異なる書体による「MINI」や「Mini」で表示されることもある。(甲3,8,14の1ないし14の3,14の6,14の7,19ないし23,乙2)
(カ) 平成22年1月の時点で,ウェブサイトの「Google」で「MINI車」を検索すると,上位100件の検索結果のほとんどが,本件自動車及びこれに関連する事項のサイトとなっている。(甲30)
(2) 判断
上記のとおり,本件自動車は50年以上にわたって製造,販売され,国内外で高い評価を受け,日本でも長年にわたって,輸入,販売されてきた。本件自動車は,平成15年から平成22年における日本での輸入車のモデル別新車販売台数の順位が3位ないし5位であり,継続的に上位を占めている。本件自動車には「MINI」の語を含む車種名がつけられ,本件自動車は「MINI」ブランドとして広く宣伝広告され,その宣伝広告には,使用商標1及び2が使用されている。なお,テレビ広告や新聞紙上,ウェブサイト等での宣伝広告に関する証拠は,出願日である平成20年7月28日の後である平成21年1月以降のもののみが提出されているが,本件自動車の販売状況等に照らすと,出願日以前も,同様の宣伝広告がされていたと合理的に推認される。また,本件自動車は,雑誌等でも多く取り上げられ,本件自動車の専門誌も複数発行されており,需要者に人気のある車種であるといえる。
以上に加え,ウェブサイトでの検索結果なども総合すると,引用商標は,少なくとも自動車に使用された場合,出願時において,BMWの業務に係る本件自動車を表示するものとして,需要者の間に広く認識されており,登録審決時までそれが継続していたと認めることができる。
(3) 原告の主張に対して
ア 原告は,「MINI」や「ミニ」は,「小さい,小型の,小規模の」を意味する語であること,また,平成15年から平成22年における各年の本件自動車の新車販売台数が,国内メーカーにより製造された普通自動車の各年の第30位に該当する新車販売台数の約半数程度でしかないことなどからすると,本件商標登録の出願時において,引用商標が需要者の間に広く認識されていたとはいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。
すなわち,本件自動車は,「MINI」ブランドとして,国外はもとより,日本国内でも長年販売が継続されており,本件商標登録の出願前である平成15年から平成19年において,輸入の新車としては第3位ないし第5位の販売実績を上げ,本件自動車の専門誌が発行されるなど,需要者に人気のある輸入車であることに照らすと,引用商標は,長年の使用により,少なくとも自動車に使用した場合,本件自動車を表示する商標として,自他識別力を有するに至っており,需要者の間において,その出所を示すものとして,広く認識されていると認めることができる。なお,輸入車の販売台数と国内メーカー製造による自動車の販売台数は単純には比較できないことや,販売台数のみから需要者の間に広く認識されているか否かについて判断すべきとはいえないことからすると,本件自動車の販売台数が国内車の上位の販売台数に比べ少ないことを理由とする原告の主張を採用することはできない。
イ 原告は,BMWが長年使用してきた標章は使用標章1及び2であり,仮にBMWの業務に係る商標として需要者の間に広く認識されているとしても,使用標章1及び2という特定の外観上の特徴を有する特定の標章についてのみであり,引用商標そのものではないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は採用できない。
使用標章2は,「MINI」の文字を,ごく一般的なゴシック体で表記したもので,特殊なデザインは施されていない。また,本件自動車は,日本国内においては片仮名の「ミニ」と表記されることも多く,使用標章2と異なる書体で表記される例もある。以上の事情に照らすならば,引用商標(「MINI」)について,本件自動車及びその出所を表示するものとして,需要者の間に広く認識されているということができる。
ウ 原告は,「MINI」又は「ミニ」の語を含む標章は,本件自動車が日本国内に輸入され始めた昭和35年とほぼ同じ時期から,軽商用車の「MINICAB」「ミニキャブ」や軽自動車の「PAJERO MINI」「パジェロミニ」などのように,日本国内で多く使用されていることに照らすと,「MINI」及び「ミニ」の語は小型自動車(軽自動車)等の車種名の一部として,語義どおりの意味合いで使用されているのであって,引用商標が,需要者の間に広く認識されている商標であるとはいえないと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,「MINI」又は「ミニ」の語を含む標章が使用されていた例,「MINI」及び「ミニ」の語が小型自動車を指す例があったとしても,前記(1)の認定に係る,本件自動車の販売状況等,本件自動車の宣伝広告状況等の事実経緯に照らすならば,引用商標が,出所識別機能を有し,かつ需要者の間に広く認識されている商標であるとの上記判断を左右するものとはいえない。
(4) 小括
以上のとおり,引用商標は,少なくとも自動車に使用された場合,本件商標登録の出願時において,BMWの業務に係る商品(本件自動車)を表示するものとして,需要者の間に広く認識されており,登録審決時もそれが継続していたといえる。
2 本件商標と引用商標の類否について
(1) 判断
ア 本件商標
本件商標は,欧文字「ECO MINI」を標準文字により横書きしたものである。本件商標からは,「エコ」「ミニ」「エコミニ」の称呼が生じ,表記どおりの外観を有する。また,「ECO」と「MINI」との間には一文字分の空白があることから,各部分からそれぞれの観念が生じ得る。すなわち,本件商標中の「ECO」部分からは「環境に優しい,環境に配慮した」との観念を生じ,「MINI」部分からは「小さい,小型の,小規模の」との観念を生じ得る。
イ 引用商標
引用商標は,欧文字「MINI」を標準文字により横書きしたものである。引用商標からは,「ミニ」の称呼が生じ,表記のとおりの外観を有する。「MINI」の語からは,「小さい,小型の,小規模の」との観念を生じるが,前記1で認定したとおり,引用商標は,需要者の間で,本件自動車及びその出所を表すものとして広く認識されているということができるから,引用商標が自動車に使用された場合には,需要者は,本件自動車及びその出所を認識すると認められる。
ウ 取引の実情等
前記1で認定したとおり,引用商標(「MINI」)は,少なくとも自動車に使用された場合,需要者において,BMWの業務に係る本件自動車を表示するものとして,広く認識されている。
エ 類否の判断
引用商標は,需要者の間で,本件自動車及びその出所を表すものとして広く認識されているということができるから,「MINI」の文字からなる標章が自動車に使用された場合には,需要者は,本件自動車及びその出所を認識すると認められる。本件商標は,「ECO」部分と「MINI」部分とに分断して看取することもできるところ,本件商標を指定商品である自動車に使用した場合には,「ECO」部分からは「環境に優しい,環境に配慮した自動車」との観念が生じるにすぎず,「ECO」部分の自他識別力は弱い。そうすると,上記のような「MINI」の文字からなる標章に,自他識別力の弱い「ECO」部分を結合させた本件商標を自動車に使用した場合,これに接した需要者は,本件商標中の「MINI」部分から,本件自動車及びその出所を想起し得ると認められる。
以上に加え,原告は,これまで約40年間,本件自動車やその部品・付属品の販売等を行ってきたことも考慮すると(乙4),原告が本件商標を指定商品である自動車に使用した場合には,これに接した需要者が,BMWの業務に係る本件自動車であると誤認し,その出所につき混同を生じるおそれがあると認められる。よって,本件商標は引用商標に類似する商標であるといえる。
(2) 原告の主張に対して
原告は,これまでに,日本国内において,「自動車」を指定商品とする「MINI」又は「ミニ」の文字を含む商標は,90件以上登録されており,それは,それらの商標が引用商標と「MINI」又は「ミニ」の語を共通にするとしても,他の語句との結合により,引用商標とは区別することができるからであると主張する。
しかし,他に「MINI」又は「ミニ」の語を含む商標が登録されている例があることをもって,本件商標が引用商標と類似しないということはできない。
(3) 小括
以上のとおり,本件商標は,引用商標と類似する。そして,引用商標は,BMWの業務に係る自動車を表示するものとして,需要者に広く認識されているところ,本件商標の指定商品は「自動車並びにその部品および付属品」であり,引用商標が使用されている商品である「自動車」と同一又は類似する。したがって,本件商標は商標法4条1項10号に該当する。
3 結論
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,決定には,これを取り消すべき違法はない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)
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