知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10163号 判決 2013年3月25日
原告
株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント
訴訟代理人弁護士
熊倉禎男
同
飯田圭
同
弁理士谷口信行
同
中村佳正
被告
エイディシーテクノロジー株式会社
訴訟代理人弁護士
水野健司
同
弁理士衛藤寛啓
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-800190号事件について平成24年3月30日にした審決中,「特許第4644735号の請求項1に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
第2前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「サーバ,利用者装置,プログラム,及び,指標処理方法」とする特許第4644735号(以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成13年9月18日に出願した特願2001-283242号の一部を平成20年12月19日に新たな特許出願として出願(特願2008-324143号)され,平成22年12月10日に設定登録された。
原告は,平成23年9月30日付けで本件特許の請求項1~10に係る発明の特許につき無効審判を請求し,被告は,同年12月26日付けで特許請求の範囲の請求項10を訂正する訂正請求をした。
特許庁は,同無効審判請求を無効2011-800190号事件として審理し,平成24年3月30日,「訂正を認める。特許第4644735号の請求項2ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第4644735号の請求項1に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年4月9日,原告に審決謄本が送達された。
2 特許請求の範囲【請求項1】の記載
「番組の視聴操作及び録画予約が可能な利用者装置が用いられて視聴されている番組であって放送中の番組を特定可能な情報である視聴状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する視聴状況情報受信手段と,前記利用者装置において録画予約されている番組を特定可能な情報である録画予約状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する録画予約状況情報受信手段と,前記視聴状況情報受信手段により受信された各利用者装置の前記視聴状況情報に基づいて,現在放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標を算出する視聴指標算出手段と,前記録画予約状況情報受信手段により受信された各利用者装置の前記録画予約状況情報に基づいて,番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標を算出する録画予約指標算出手段と,地域を特定可能な情報である地域特定情報を,前記利用者装置から受信する地域特定情報受信手段と,前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,前記地域特定情報受信手段により受信された前記地域特定情報に基づき特定される地域において現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを,前記地域特定情報を送信してきた前記利用者装置へ送信する指標送信手段と,を備えることを特徴とするサーバ。」(以下「本件発明」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書等」という。)
3 審決の理由
別添審決書写しのとおりであり,本件訴訟に関連する部分の要旨は,次のとおりである。
(1)ア 本件発明は,特開2000-308035号公報(甲1)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と特開2001-245243号公報(甲2)に記載された発明とを組み合わせ,特開平11-168667号公報(甲11),特開平11-284963号公報(甲12)及び特開2000-295585号公報(甲13)に記載された発明から導き出される周知技術を適用して当業者が容易に想到できたものということはできない。
イ 審決が,上記アの判断を導く過程において認定した甲1発明,本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(ア) 甲1発明
「CATV局1内に設けられたホストコンピユータからなる局装置2は,各契約者宅3内に設けられたコンピユータからなる家庭装置4に対して光ケーブル5にて接続され,局装置2には番組D/B(データベース)7と契約者D/B6が組込まれている。また,家庭装置4にはTV受像機8が接続され,この家庭装置4は赤外線を利用したリモコン装置9で遠隔操作される,以下の構成を有するシステム。
家庭装置4は,スケジュールメモリ24内には,この家庭装置4で視聴者(契約者)が行った番組予約が一時的に記憶される。さらに,この家庭装置4内には,視聴率受信部25及び番組表取得表示部26が設けられている。(【0027】)
局装置2は,
番組D/B(データベース)7内には,番組コンテンツファイル27,番組表メモリ28,サマリーメモリ29が形成されている。(【0027】)
番組表メモリ28内には,図5に示すように,例えば1週間分の各日(曜日)32aにおける各チャネル33bの番組34を時刻33cを縦軸に時系列的に一覧表にした番組表28aが記憶されている。(【0029】)
契約者D/B(データベース)6内には,契約者別スケジュールメモリ37,予想視聴率メモリ38,契約者別平均スケジュールメモリ39が形成されている。(【0032】)
契約者別スケジュールメモリ37内には,各視聴者(契約者)が自己の家庭装置4で行った例えば1週間分の番組予約(スケジュール)が記憶されている。(【0033】)
チャネル指定送信部41は,契約者別スケジュールメモリ37内に記憶された各視聴者(契約者)毎の番組予約(スケジュール)を監視しており,予約された番組34の放送時刻に達すると,該当視聴者(契約者)の契約者宅3の家庭装置4へ該当予約番組34のチャネルを指定するチャネル指定を光インタフェース31及び光ケーブル5のデータチャネルを介してへ送信する。(【0034】)
予想視聴率算出部42は,例えば,契約者別スケジュールメモリ27に記憶されている各視聴者(契約者)毎の番組予約(スケジュール)から,各番組の予想視聴率を算出して予想視聴率メモリ38へ書込む。具体的には,毎日,放送終了後に,番組契約者別スケジュールメモリ27に記憶されている各視聴者(契約者)毎の番組予約(スケジュール)から,各番組の予想視聴率を算出する。したがって,予想視聴率メモリ38内には,常時,最新の予想視聴率が記憶されている。予想視聴率送信部43は,算出された予想視聴率の各番組が実際に放送されている時間帯に,該当時間帯に放映されている各チャネルの番組34の予想視聴率を各契約者宅3の家庭装置4へ送信する。(【0035】)
番組予約処理動作は,
指令受信部21を介して,リモコン装置9の番組表ボタン11が押されたことを検出すると(S1),番組表取得表示部26が起動して,データ送受信部20,光インタフェース16及び光ケーブル5を介してCATV局1の局装置2へ番組表要求を送信する(S2)。局装置2から図5に示す1週間分の番組表28aがデータ送受信部20を介して入力されると(S3),番組表取得表示部26はその1週間分の番組表28aをTV受像機8のTV画面に表示する(S4)。(【0039】)
リモコン装置9の選択ボタン14の操作にて,TV受像機8のTV画面に表示されている番組表28a内における一つの番組34をカーソル指定して(【0040】),リモコン装置9のスケジュールボタン12が押されると(S9),視聴者(契約者)が番組予約操作を開始したと判断して,予約操作フラグを1に設定(する)(S11)(【0042】)し,視聴者(契約者)がリモコン装置9の選択ボタン14で番組34を指定すると(S15),今度は,予約操作フラグが1に設定されているので,該当番組34の番組名,チャネル,日時を番組予約として,スケジュールメモリ24内に書込む(S16)。(【0044】)
視聴者(契約者)がリモコン装置9の送信ボタン13を押すと(S17),1週間分の必要な全ての番組34に対する予約操作が終了したと判断して,スケジュールメモリ24内に記憶されている1週間分の番組予約(スケジュール)を局装置2へ送信する(S18)。(【0046】)
家庭装置4のチャネル制御は,
局装置2からデータ送受信部20を介してチャネル指定が入力されると(Q1),TVチャネル指定部19が起動して,TVチャネル選択部18に対してチャネル指定を実施する。その結果,TV受像機8は,該当視聴者(契約者)が先に予約した番組の放映が開始される(Q2)。(【0048】)
視聴率受信部25が,局装置2からデータ送受信部20を介して現在時点における各番組の予想視聴率を受信すると(Q3),現在TV受像機8で放映中の番組以外の各番組,すなわち,各裏番組の予想視聴率をTV画面の片隅に表示する(Q4)。
なお,現在,放映中の番組の予想視聴率も同時に表示することも可能である。(【0049】)また,指令受信部21を介してリモコン装置9からチャネル指定が入力されると(Q5),視聴者(契約者)が,自己が予約した番組34と異なる番組を見ようとして,又は,予約していない時間帯に新たな番組を見ようとして,リモコン装置9の置数キー15でチャネル指定操作が実施されたと判断する。(【0050】)
この場合,このリモコン装置9で操作入力されたチャネル指定を優先して,TV受像機8における現在の放映チャネルを指定されたチャネルに切換える(Q6)。そして,変更後のチャネルを局装置2へ送信する(Q7)。チャネル変更通知を受領した局装置2は契約者別スケジュールメモリ37内の該当視聴者(契約者)の番組予約(スケジュール)を修正する。さらに,該当番組の予想視聴率も修正する。(【0051】)
局装置2に図5示す番組表メモリ28が設けられているので,視聴者(契約者)が番組予約を行う場合,リモコン装置9を操作してTV受像機8のTV画面に表示された番組表28a内の自己が見たい番組34を選択ボタン14選択指定するのみで,該当番組34が予約される。そして,予約された番組の放映時刻が到来するとTV受像機8のチャネルが自動選択されて,該当番組が自動放映される。(【0052】)
局装置2は,各番組の予約状況に基づいて,各番組毎の予想視聴率を算出して,算出した各予想視聴率を各家庭装置4へ送信している。したがって,各視聴者(契約者)は自己が予約した各番組34が放映される前又は放映時に,該当番組の予想視聴率及び裏番組の予想視聴率を確認できる。(【0055】)」
(イ) 本件発明と甲1発明との一致点
「番組の視聴操作が可能な利用者装置から番組を特定可能な情報である番組状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する番組状況受信手段と,前記番組状況受信手段により受信された各利用者装置からの前記番組状況情報に基づいて,番組指標を算出する指標算出手段と,前記利用者装置によって表示されるための前記番組指標を送信する指標送信手段と,を備えることを特徴とするサーバ」
(ウ) 本件発明と甲1発明との相違点
a 相違点1
「・利用者装置について本件発明1-1の利用者装置が「録画予約が可能な」ものであることに対して,甲1発明の家庭装置4は「録画予約が可能な」ものではない。
・指標について本件発明1-1は
指標として「視聴指標」と「録画予約指標」との「視聴」と「録画」に関する2つの指標を有し,
その意味は,算出において,
「視聴指標」は,視聴に関するリアルタイムの実際の状況であり,
「録画予約指標」は,録画に関する将来の予想からリアルタイムの予想の状況
となるものであり,
送信,表示においては,
「視聴指標」は,視聴に関するリアルタイムの実際の状況であり,
「録画予約指標」は,録画に関するリアルタイムの予想の状況であることに対し,
甲1発明は,
指標として「予想視聴率」の「視聴」に関する一つの指標を有し,
その意味は,算出において,
「予想視聴率」は,視聴に関する将来の予想からリアルタイムの実際の状況になるものであり,
送信,表示においては,
「予想視聴率」は,視聴に関する将来の予想からリアルタイムの実際の状況になるものであることで相違し,
この相違により,
本件発明1-1が,
「視聴指標」と「録画予約指標」とのそれぞれに対応して,
「番組の視聴操作及び録画予約が可能な利用者装置が用いられて視聴されている番組であって放送中の番組を特定可能な情報である視聴状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する視聴番組状況受信手段と,
前記利用者装置において録画予約されている番組を特定可能な情報である録画予約状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する録画予約番組状況受信手段と,」の2つの受信手段,
「前記視聴番組状況受信手段により受信された各利用者装置の前記視聴状況情報に基づいて,現在放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標を算出する視聴指標算出手段と,
前記録画予約番組状況受信手段により受信された各利用者装置の前記録画予約状況情報に基づいて,番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標を算出する録画予約指標算出手段と」の2つの算出手段,
「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」として,2つの指標を送信する送信手段を備えることに対して,
甲1発明はそうではない点。」
b 相違点2
「本件発明2-1が,地域によって放送される番組が異なることを前提に,ある地域で放送中の番組に対する指標をその番組が放送中であるその地域に送信するものであって,甲1発明に地域に関する考え方がないことの相違により,
本件発明2-1が
「地域を特定可能な情報である地域特定情報を,前記利用者装置から受信する地域特定情報受信手段」を備え,
送信する前記視聴指標と前記録画予約指標とが対応する番組が「前記地域特定情報受信手段により受信された前記地域特定情報に基づき特定される地域において」現在放送中である前記視聴指標と前記録画予約指標とを,「前記地域特定情報を送信してきた前記利用者装置へ」送信するものであることに対して,
甲1発明はそうではない点。」
(2) 本件発明に関して平成22年11月5日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)のうち,補正事項1「現在放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標」,補正事項2「番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標」及び補正事項7「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを……前記利用者装置へ送信する」は,いずれも新規事項ということはできず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないということはできない。
第3当事者の主張
1 取消事由に関する原告の主張
審決は,本件発明と甲1発明との相違点についての判断を誤り(取消事由1),補正事項1に係る新規事項の判断を誤り(取消事由2),補正事項2に係る新規事項の判断を誤り(取消事由3),補正事項7に係る新規事項の判断を誤った(取消事由4)ものであり,その結論に影響を及ぼすから,違法として取り消されるべきである。
(1) 本件発明と甲1発明との相違点についての判断の誤り(取消事由1)
ア 審決は,本件発明と甲1発明との相違点の判断に当たって,甲2には「一つの視聴状況(視聴の指標)」(審決64頁27行)しか記載されていないと認定した上で,「甲1発明の「予想視聴率」に代えて甲2の「ビデオ録画による視聴率」を含む「テレビ視聴率」を採用(置換)しても,本件発明の上記相違点を導くことができない」(同30行~32行)と判断したが,甲2の認定の誤りに起因する判断の誤りである。
イ 甲2には,「テレビ視聴率」と「ビデオ録画による視聴率」という2つの種類の指標を単独で集計することについて,【要約】,【請求項33】,【請求項34】,【請求項35】,【0007】,【0022】に,テレビ視聴データを吸い上げることにより視聴指標を単独で集計することが記載され,【0043】に,録画データを吸い上げることにより録画指標を単独で集計することが記載され,さらに,【請求項11】,【請求項22】に,「録画予約データ」を遠隔地で集計することにより録画予約指標を単独で集計することが記載されている。以上を踏まえ,【0073】,【0091】には,上述した指標のうちの2つの種類のデータから広義のテレビ視聴率を調査することについて記載されている。
そもそも,甲2は,リアルタイムに視聴している状況を集計した視聴指標(以下「狭義の視聴指標」という。)のみでは,実際に番組を視聴したユーザ数を正確に調査できないことに鑑み,録画又は録画予約による視聴ユーザ数をも別途集計し,これを足し合わせることによって,より正確なテレビ視聴率(以下「広義の視聴指標」という。)を算出することを特徴とするものであるから,録画又は録画予約による視聴指標が,従前の「狭義の視聴指標」の概念と区別され,独自の指標として取り扱われるものであることは明らかである。そうすると,審決の「「録画予約データ」を吸い上げて調査されるものは,テレビ装置における「テレビ視聴率」と同じ概念で捉えられているものと認められる」(63頁下から2行~1行)との認定は,甲2の技術思想を構成する個々の技術要素(「広義の視聴指標」を構成する従前の「狭義の視聴指標」と録画又は録画予約による「独自の視聴指標」)をいずれも看過しており,誤りである。
以上述べたとおり,甲2は,「テレビ視聴データ」,「録画データ」,「録画予約データ」をそれぞれ単独で集計することについて記載し,集計されたものを単独の指標として集計局において保有し又は保有可能なように構成されていることは自明であるから,本件発明は,甲1発明と甲2記載の発明とを組み合わせることにより容易に想到できたものである。
ウ 甲1発明の表示態様につき,審決は,「予想視聴率が片隅に表示されるTV画面に番組表が表示され,表示される番組表上の番組に対応づけられて予想視聴率が表示されることは,甲1から読むことができず,甲1発明は,「前記利用者装置によって表示される」といえるものの,「表示される番組表上の番組に対応づけられて」表示されるものではない点で本件発明2-1(判決注:本件発明。以下同じ。)と相違している」(51頁7行~11行)と判断したが,本件発明も,「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」とあるように,指標と番組表との対応づけはサーバ内のデータベースで行われ,実際に利用者装置に送信される指標は,現在放送中の番組に対応する視聴指標と録画指標とで足り,これらの指標が利用者装置に表示される番組表内に含まれることまで必須ではない。甲1発明も,【0027】によれば指標と番組表との対応づけはなされ,かつ,【0049】によれば,現在時点の各番組の予想視聴率を受信すると各裏番組の予想視聴率がTV画面の片隅に表示され,放映中の番組の予想視聴率も同時に表示することも可能であるから,甲1発明の表示態様も本件発明と相違するところはない。
エ また,甲2のほか,韓国特開2000-0049449号公報(甲20)においても,2種類の指標(実視聴率及び潜在視聴率)を個別に集計して利用者へ提供する発明が記載され,実視聴率は即席視聴に基づいて計算され,潜在視聴率は予約視聴(予約録画を含む)に基づいて計算されることが記載されているから,本件発明の技術思想は,出願当時の技術水準に照らして格別に高度のものというべきでない。
(2) 補正事項1に係る新規事項の判断の誤り(取消事由2)
ア 本件補正により追加された「現在放送中の番組の視聴者の多少を把握可能な視聴指標」(補正事項1)は,「平均視聴率」,「最高視聴率」,「最低視聴率」その他の「視聴率」一般に係る「指標」一般を超えて広く,例えば番組の視聴者数の絶対値,「番組を視聴した平均人数など」をも含むものと解釈されるとすれば,新規事項追加に当たる。
イ 本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲(以下「当初特許請求の範囲」という。甲15)には,「視聴率」が明記され,それ以外のものは記載されていない。当初明細書等の発明の詳細な説明にも,「調査対象となる利用者数と……放送チャンネル毎の視聴者数とに基づいて……算出(される)」「視聴率」が反復・一貫して明記され(【0001】,【0004】,【0006】,【0014】,【0015】,【0016】,【0017】,【0018】),それ以外のものは一切記載されていない。
【発明が解決しようとする課題】の「この種の番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているかを知りたいという要望があった」(【0003】)との記載は,補正事項1に相当する構成それ自体を示すものでなく,単に課題ないし要望を示すものにすぎない。
また,本件発明の作用効果ないし解決課題は,平成22年11月5日付け意見書(甲16)によれば,「利用者装置は現在放送中の番組に関する視聴指標(視聴者数の多少を表す指標)と録画予約指標(録画予約数の多少を表す指標)とを指定された地域の番組表に対応付けて利用者に提示することができます。そのため利用者は,視聴指標と録画予約指標という一般的に反比例関係にある二つの指標に基づいて,現在放送中の番組の視聴又は録画を判断することができ」ることであり,【0003】に記載された課題ないし要望ではない。
さらに,補正事項1に相当する構成として,当初明細書等の実施例及び図面にも「視聴率」,「平均視聴率」,「最高視聴率」又は「最低視聴率」が反復・一貫して明記され(【0032】,【0048】,【0069】,【0071】,【0074】,【0075】,【0077】,【0089】,【0090】,【図4】,【図5】),それ以外のものは一切記載されていない。当初明細書等の実施例に,[変形例]として「本実施形態においては,……番組表に視聴率および録画率を記載するものを例示したが,番組表には,視聴率と録画率のうちいずれかのみが記載されるように構成されていてもよい。また,視聴率または録画率以外に,最高(または最低)視聴率となった時刻,番組を視聴した平均人数などが記載されるように構成しても良い」(【0089】)旨が記載されているが,補正事項1に相当する構成は「視聴率」であって「番組を視聴した平均人数など」は,「以外」が一般に「それを除く,ほかのもの。そのほか。」(甲21)との意義を有することから,視聴率及び録画率のほかに番組を視聴した平均人数などが記載されるように構成したものを示すと理解するのが自然かつ合理的であり,補正事項1に相当する構成を示すものでなく,単なる付加的な構成を示すものにすぎない。
また,「視聴」に関する「指標」一般のうち,出願時に周知・慣用技術ないし当業者の技術常識であったものは「視聴率」であり(甲21),それ以外の番組の視聴者数の絶対値,「番組を視聴した平均人数など」は,出願時の周知・慣用技術ないし当業者の技術常識ではなかった。したがって,当初明細書等に記載された事項の範囲は,「視聴」に関する「指標」一般のうち,「平均視聴率」,「最高視聴率」,「最低視聴率」その他の「視聴率」一般に係る「指標」一般にとどまり,番組の視聴者数の絶対値,「番組を視聴した平均人数など」には及ばず,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものの範囲も同様である。補正事項1は,この範囲を超えて広く,例えば番組の視聴者数の絶対値,「番組を視聴した平均人数など」をも含むものと解釈されるとすれば,新規事項追加に当たる。
(3) 補正事項2に係る新規事項の判断の誤り(取消事由3)
ア 本件補正により追加された「番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標」(補正事項2)は,「録画率」一般に係る「指標」一般を超えて広く,例えば番組の録画予約数の絶対値などをも含むものと解釈されるとすれば,新規事項追加に当たる。
イ 補正事項2に相当する構成は,当初特許請求の範囲には記載されていない。
当初明細書等の発明の詳細な説明にも,「調査対象となる利用者数と……カウントされた利用者数とに基づいて……算出(される)」「録画率」が反復・一貫して明記されている(【0001】,【0004】,【0019】,【0027】,【0028】,【0029】,【0030】)一方,それ以外のものは一切記載されていない。当初明細書等の実施例及び図面にも,「録画率」が反復・一貫して明記されている(【0056】,【0070】,【0074】,【0075】,【0077】,【0089】,【図4】,【図5】)一方,それ以外のものは一切記載されていない。
【0003】,【0089】の記載,本件発明特有の課題,出願時の周知・慣用技術,当業者の技術常識については,取消事由2について述べたところと同様である。
(4) 補正事項7に係る新規事項の判断の誤り(取消事由4)
ア 本件補正により追加された「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」(補正事項7)は,請求項1の文言から,又は請求項1の従属項である請求項2において請求項1における「指標送信手段」に加えて「番組表データ送信手段をさらに備える」態様が請求項1の従属態様として規定されていることから,番組表とは別体の視聴指標と録画予約指標とをそれ自体として送信する手段をも含むものであることが明らかであり,この点において,新規事項追加に当たる。
イ 審決は,補正事項7につき請求項1との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるといえる旨を認定判断した(75頁23行~76頁11行)が,この認定判断は,単に,補正事項7が,番組表に記載された視聴指標と録画予約指標とを番組表と一体のものとして送信する手段を含む点との関係においてのみ新たな技術的事項を導入しないものであると認定判断したものにすぎない。審決は,補正事項7につき請求項2との関係において,「請求項2に係る発明が引用する請求項1に係る発明でいう視聴率等の送信・受信は,「各番組の表示領域に視聴率および録画率が記載された番組表」の送信・受信を視聴率等の送信・受信と捉えていうものである」(82頁5行~7行)と認定判断しており,審決の認定判断は,補正事項7が番組表とは別体の視聴指標と録画予約指標とをそれ自体として送信する手段をも含む点を看過したものである。
2 被告の反論
原告主張の取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がない。
(1) 取消事由1(本件発明と甲1発明との相違点についての判断の誤り)に対し
ア 審決は,甲2に「一つの視聴状況(視聴の指標)」しか記載されていないなどと認定してはいない。審決には,「そのようにして,甲1発明の「予想視聴率」に代えて甲2の「ビデオ録画による視聴率」を含む「テレビ視聴率」を採用(置換)したとき,送信され,表示されるのは,「ビデオ録画による視聴率」を含む「テレビ視聴率」となり,一つの視聴状況(視聴の指標)が表示されるものとなる」(64頁24行~27行)と記載されている。すなわち,審決において,一つの視聴状況(視聴の指標)が表示されるものであると認定しているのは,甲1発明の「予想視聴率」に代えて甲2の「ビデオ録画による視聴率」を含む「テレビ視聴率」を採用(置換)した発明についてであり,甲2記載の発明ではない。したがって,取消事由1は,その前提に誤りがあり,理由がない。
審決は,「甲2には,集計の元となる装置については,視聴率としてビデオ装置における「ビデオ録画による視聴率」とテレビ装置における「テレビ視聴率」の2つの視聴率が認められる」(65頁7行~9行)と認定しており,審決が認められないとしている内容は,「番組に対して視聴率としてビデオ装置における「ビデオ録画による視聴率」とテレビ装置における「テレビ視聴率」の2つの種類の視聴率を提供するという思想」(65頁9行~12行)である。したがって,審決と原告の主張との間には実質的な相違はない。
なお,甲2からは,視聴者に提供される指標であって,「テレビ視聴率」とは完全に区別され「テレビ視聴率」と並列的関係を有する録画に関する指標は読み取れない。
イ 原告主張の,リアルタイムに視聴している状況を集計した「狭義の視聴指標」のみでは実際に番組を視聴したユーザ数を正確に調査できないこと,及び,録画又は録画予約による視聴指標が,従前の「狭義の視聴指標」の概念と区別され,独自の指標として取り扱われることは,甲2から読み取ることはできない。仮に上記の点が甲2から読み取れたとして,審決が甲2記載の課題解決を考慮して甲2記載の発明を認定していたとしても,このことは普通に行われることである。
ウ 本件発明は,「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」を備えるサーバである。すなわち,本件発明において送信される「視聴指標」及び「録画予約指標」は,利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるものである。
一方,甲1発明は,局装置2において指標と番組表とが対応づけされるにとどまる。すなわち,指標は,家庭装置4によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるかどうかは明らかでない。
エ 本件発明は,「視聴指標」と「録画予約指標」とを同時に利用者装置の利用者(視聴者)に提供することにより,利用者が現在の視聴者数の多少と録画予約数の多少とを参考にして,番組を視聴したり録画したりできるというものである。
甲2には,「ビデオ録画による視聴率」を含む「テレビ視聴率」を算出する構成は記載されているが,これらはあくまで基地局側で利用する目的であり,これらのデータを視聴者に提供するという発想はない。
さらに,甲1発明に甲2を組み合わせる場合,少なくとも視聴者に録画予約数の多少を知らせるという課題,又は視聴者に視聴者数の多少と録画予約数の多少という性質の異なる2つの指標を知らせるという課題が必要となる。しかしながら,甲1発明及び甲2のいずれからもこのような課題を見出すことはできない。すなわち,甲1発明の構成に録画機能を付加した上で,「視聴」の指標である甲2の「テレビ視聴率」を提供する構成を,既に「視聴」の指標として「予想視聴率」を有する甲1発明に更に組み合わせるための動機づけはなく,これらを組み合わせることが容易想到であるとはいえない。
(2) 取消事由2(補正事項1に係る新規事項の判断の誤り)に対し
ア 原告は,「視聴指標は,現在放送中の視聴者の数の絶対値をも含むものと解釈されるとすれば」という仮定に基づき新規事項追加を主張したが,仮定を証明しなかったのであるから,審判体も仮定の真偽を判断できず,主張を採用できないとしたことは当然である。特許法131条2項には,「特許無効審判を請求する場合における前項第三号に掲げる請求の理由は,特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したものでなければならない」とあり,上記仮定について,請求人である原告が証明しなければならなかったことは明らかである。
したがって,取消事由2には理由がない。
イ 当初明細書等の【発明が解決しようとする課題】【0003】には,「この種の番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているかを知りたいという要望があった」と記載されている。したがって,課題との関係でいえば,「番組を視聴した平均人数など」であっても,視聴がどの程度行われていたかを知り得るのであるから,原告のいう単なる付加的な構成ではない。また,「以外」の一般的な使われ方としては置換又は並列の意味のいずれの場合もあり得る。
よって,この点からも,取消事由2には理由がない。
(3) 取消事由3(補正事項2に係る新規事項の判断の誤り)に対し原告は,「録画予約指標には単なる番組の録画予約の数の絶対値をも含むものと解釈されるとすれば」という仮定に基づき新規事項追加を主張したが,仮定を証明しなかったのであるから,審判体も仮定の真偽を判断できず,主張を採用できないとしたことは当然である。
したがって,上記(2)アで述べたのと同様の理由により,原告の主張する取消事由3には理由がない。
(4) 取消事由4(補正事項7に係る新規事項の判断の誤り)に対し本件発明のサーバは,「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」を有する。したがって,本件発明のサーバより視聴指標等を受信した利用者装置について,視聴指標等が,番組表上の番組に対応づけられて表示されることが特定されている。すなわち,視聴指標等が番組表と無関係にそれら単体で利用者に提示される態様は,本件発明に含まれない。
当初明細書等の【発明が解決しようとする課題】【0003】によれば,本件発明の課題は,「番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのかを知ること」であり,番組表が調査者側から送信されなければならないなどということは課題に含まれない。そして,当初明細書等の【0071】には,利用者側端末20は,番組表を,調査者側装置10から取得してもよいし,自身がアクセス可能なCD-ROMなどの記録媒体から取得してもよいことが記載されている。なお,利用者側端末20がCD-ROMから読み出す番組表は,視聴率等が組み込まれていない番組表であることは明らかである。なぜなら,視聴率等が組み込まれた番組表がCD-ROMに記憶されているとすれば,その番組表の視聴率は実際の視聴率が反映されたものではなく,不合理であるからである。
一方,視聴率等については,利用者側端末20は調査者側装置10から取得することは明らかである。換言すれば,調査者側装置10が,視聴率等をそれ自体として送信する手段を有することは明らかである。
したがって,「番組表を送信(受信)する手段を特定しない,本件発明2-1の「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する」送信手段は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるといえる」(76頁5行~11行)とした審決の判断に誤りはなく,取消事由4には理由がない。
第4当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明と甲1発明との相違点についての判断の誤り)について
(1) 本件発明と甲1発明との相違点
審決の認定した本件発明と甲1発明との相違点は,前記第2の3イ(1)(ウ)記載のとおりであるところ,その要旨は,「利用者装置」について,「本件発明では「録画予約が可能な」ものであるのに対し,甲1発明では,「録画予約が可能な」ものでない点」,「指標」について,「本件発明では,「視聴指標」と「録画予約指標」を有し,「番組状況受信手段」,「指標算出手段」及び「指標送信手段」として,それぞれの指標に対応した受信手段,算出手段及び送信手段を有するのに対し,甲1発明では,そうではない点」であるということができる。
(2) 本件発明
ア 本件明細書等(甲18,19)には,以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】 本発明は,テレビ放送などで視聴率を調査する際に利用されるサーバ,利用者装置背,景プ技ロ術グ】ラ ム,及び,指標処理方法に関する。
【0002】 現在,複数の番組を表形式に配列した番組表をインターネットなどの通信回線網を介して提供することが行われている。この番組表には,各番組の詳細な内容を確認したり,希望する番組を録画予約したりできるものがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】 しかし,上記のような番組表の提供を受けた利用者が,番組表中からどのような番組を選んで視聴または録画を行ったのかを知ることはできなかったため,この種の番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのかを知りたいという要望があった。
【0004】 本発明は,番組表を利用して視聴率を調査することができる技術を提供すること,また,番組表を利用して録画率を調査することができる技術を提供することを目的と課す題るを。解 決するための手段】
【0005】 上記問題を解決するための構成を以下に示す。
【0006】 番組の視聴操作及び録画予約が可能な利用者装置が用いられて視聴されている番組であって放送中の番組を特定可能な情報である視聴状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する視聴状況情報受信手段と,前記利用者装置において録画予約されている番組を特定可能な情報である録画予約状況情報を,複数の前記利用者装置から受信する録画予約状況情報受信手段と,前記視聴状況情報受信手段により受信された各利用者装置の前記視聴状況情報に基づいて,現在放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な視聴指標を算出する視聴指標算出手段と,前記録画予約状況情報受信手段により受信された各利用者装置の前記録画予約状況情報に基づいて,番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標を算出する録画予約指標算出手段と,地域を特定可能な情報である地域特定情報を,前記利用者装置から受信する地域特定情報受信手段と,前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,前記地域特定情報受信手段により受信された前記地域特定情報に基づき特定される地域において現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを,前記地域特定情報を送信してきた前記利用者装置へ送信する指標送信手段と,を備えることを特徴とするサーバ。
このようなサーバであれば,現在放送中の番組に対応する視聴指標と録画予約指標とを同時に確認することが可能になる。
また,次のような視聴率調査システムであってもよい。
利用者側から調査者側に送信されるデータに基づいて視聴率を調査する視聴率調査システムであって,利用者側に,番組表を表示する番組表表示手段と,前記番組表の中から利用者が視聴する番組を指定可能な視聴番組指定手段と,該視聴番組指定手段により指定された番組を表示する視聴番組表示手段と,前記視聴番組指定手段により指定された番組の放送チャンネルを特定可能なチャンネルデータを前記調査者側に送信するデータ送信手段とを備え,前記調査者側に,利用者側のデータ送信手段により送信されたチャンネルデータを受信するデータ受信手段と,利用者側から送信されるチャンネルデータに基づいて,該チャンネルデータで特定される放送チャンネルの番組を視聴している利用者の数を,放送チャンネル毎にカウントするカウント手段と,調査対象となる利用者数と前記カウント手段によってカウントされた利用者の数とに基づいて視聴率を算出する視聴率算出手段とを備えていることを特徴とする。
【0007】 この視聴率調査システムにおいて利用者側の備える各手段は,例えば,コンピュータシステム,携帯情報端末,携帯電話機などの端末装置に備えられるものである。
【0008】 また,番組表表示手段や視聴番組表示手段は,例えば,パソコンのディスプレイ,携帯情報端末の表示画面,テレビ画面などの表示装置に番組表,番組の映像を表示するための手段である。これらの各手段が表示する番組表または映像は,同一の表示装置に表示すればよく,例えば,表示画面を分割して表示するように構成してもよいし,いずれか一方を表示画面の全部に表示して両者の表示を任意に切り替えられるように構成してもよい。また,両者を別の表示装置に表示するように構成してもよい。
【0009】 また,視聴番組指定手段は,番組表を構成する番組のうち少なくとも1の番組を指定する手段であり,例えば,番組表と共に表示されたカーソルをマウスなどのポインティングデバイスによって移動させて,ポインティングデバイスのボタンで選択操作を行うことによって番組を指定できるように構成すればよい。
【0010】 また,調査者側の備える各手段は,例えば,周知のコンピュータシステムに備えられるものである。
【0011】 この視聴率調査システムでは,まず,番組表表示手段が番組表を表示する。番組表は,例えば,電子番組ガイドで利用されているものであって,縦方向に時刻,横方向に放送チャンネルをとって番組を配列した表形式のものである。この番組表は,通信回線網を介して受信したデータや,CD-ROMなどの記録媒体から読み出したデータであって,このようなデータに基づいて番組表表示手段が番組表を表示する。
【0012】 次に,利用者が番組表中の番組を視聴番組指定手段によって指定すると,視聴番組表示手段が指定された番組の映像を表示すると共に,データ送信手段がチャンネルデータを調査者側に送信する。チャンネルデータは,放送チャンネルを特定することができるデータであればよく,例えば,放送チャンネル名そのものを示すデータや,放送チャンネルと一対一に対応するコードなどを利用することができる。
【0013】 次に,カウント手段が,番組を視聴している利用者の数を放送チャンネル毎にカウントする。ここでは,チャンネルデータをデータ送信手段により送信してきた利用者を,チャンネルデータで特定される番組を視聴している利用者(以降,視聴者とする)としてカウントする。このカウント手段は,チャンネルデータを受信する毎に,該チャンネルデータで特定される放送チャンネルの視聴者数に「1」を加算する処理を実行すればよいが,このチャンネルデータを送信してきた利用者が直前に他の放送チャンネルの番組を視聴していた場合には,該当する放送チャンネルの視聴者数から「1」を減算する処理をも行う必要がある。このように減算するためには,例えば,次のような処理を行えばよい。まず,チャンネルデータを,視聴番組指定手段で指定された番組の放送チャンネルである第1放送チャンネルと,直前まで視聴番組表示手段が表示していた放送チャンネルである第2放送チャンネルとを特定できるようなデータとする。そして,カウント手段が,チャンネルデータを構成する第1放送チャンネルの視聴者数に「1」を加算すると共に,第2放送チャンネルの視聴者数から「1」を減算する。
【0014】 そして,視聴率算出手段が,調査対象となる利用者数と,カウント手段によってカウントされた放送チャンネル毎の視聴者数とに基づいて視聴率を算出する。調査対象となる利用者数とは,例えば,番組表を利用している全利用者の数,該全利用者の中で実際に番組を視聴している利用者の総数などである。視聴率算出手段は,例えば,調査対象となる利用者数のうち特定の放送チャンネルの視聴者がどれだけいるかの割合(視聴者/調査対象)を視聴率として所定時間毎に算出するように構成すればよい。
【0015】 このように構成された視聴率調査システムによれば,番組表中の番組が指定されることによって,指定された番組を視聴番組表示手段が表示すると共に,データ送信手段がチャンネルデータを調査者側に送信する。そのため,調査者側では,番組表上で指定された番組の視聴率を,チャンネルデータに基づいて調査することができる。特に,このチャンネルデータは,番組表を利用して番組を視聴している全ての利用者から送信されてくるものであるため,正確な視聴率を算出することができる。」
イ 本件発明に係る特許請求の範囲の記載は前記第2の2のとおりであり,本件明細書等の上記アの記載によれば,本件発明は,番組の内容の確認や番組の録画予約の際に用いられる番組表の提供を受けた利用者において,このような番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのかを知りたいという要望を実現するために,現在放送中の番組の視聴者数の多少を把握可能な「視聴指標」と番組の録画予約数の多少を把握可能な「録画予約指標」を番組表上の番組に対応づけて表示すべく利用者装置に送信するものであり,上記「録画予約指標」は,上記「視聴指標」と異なる指標として算出されて送信されるものである。
(3) 甲2の記載
ア 甲2には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。
「【要約】【課題】 テレビ番組情報をビデオ装置やテレビ装置で受信できるようにする。
【解決手段】 無線受信装置がテレビ本体,テレビリモコン,ビデオレコーダ及びビデオリモコンの少くとも一つに組み込まれていて,基地局やケーブルテレビ局から送信されてくるテレビ番組データを無線受信装置やケーブル受信装置で受信する。
また,無線発信装置がテレビ本体,テレビリモコン,ビデオレコーダ及びビデオリモコンの少くとも一つに組み込まれていて,テレビ視聴データを発信し,それをデータ集計局で集計する。それによりテレビ視聴率を求める。」「【特許請求の範囲】【請求項1】 無線受信装置がビデオレコーダ及びビデオリモコンの少くとも一方に組み込まれていて,基地局から送信されてくるテレビ番組データを無線受信装置で受信する構成にしたビデオ装置。
……【請求項11】 ビデオリモコンまたはビデオレコーダに記録されている録画予約データが遠隔地で集計される構成にした請求項1~10のいずれか1項に記載のビデオ装置。
【請求項12】 ケーブル受信装置がビデオレコーダ及びビデオリモコンの少くとも一方に組み込まれていて,ケーブルテレビ局から送信されてくるテレビ番組データをケーブル受信装置で受信する構成にしたビデオ装置。
……【請求項22】 ビデオリモコンまたはビデオレコーダが,ビデオリモコンまたはビデオレコーダに記録されている録画予約データを遠隔地で集計される構成になっている請求項12~21のいずれか1項に記載のビデオ装置。
【請求項23】 無線受信装置がテレビ本体及びテレビリモコンの少くとも一方に組み込まれていて,基地局から送信されてくるテレビ番組データを無線受信装置で受信する構成にしたテレビ装置。
……【請求項33】 テレビリモコンまたはテレビ本体に記録されているテレビ視聴データが遠隔地で集計される構成にした請求項23~32のいずれか1項に記載のテレビ装置。
【請求項34】 無線発信装置がテレビ本体,ビデオレコーダ及びそれらのリモコンの少くとも一つに組み込まれていて,テレビ視聴データを無線発信装置から発信する構成にしたテレビ視聴データ集計システム。
【請求項35】 無線発信装置から発信されたテレビ視聴データがデータ集計局で集計される構成になっている請求項34に記載のテレビ視聴データ集計システム。
【請求項36】 基地局又はケーブルテレビ局から送信されてくる所定の信号を無線受信装置又はケーブル受信装置で受信し,その受信のとき又はそれ以前のテレビ視聴データを無線発信装置から発信する構成になっている請求項34又は35に記載のテレビ視聴データ集計システム。」「【発明の詳細な説明】
【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,テレビ装置及びそれに使用するビデオ装置に関し,とくにテレビ本体と,それを操作するためのリモートコントロール端末処理装置(以下テレビリモコンという)と,ビデオレコーダと,ビデオレコーダに付属していてテレビ番組録画に用いられるビデオ操作用のリモートコントロール端末処理装置(以下ビデオリモコンという)の改良に関する。」「【従来の技術】……
【0003】 従来のビデオリモコンでテレビ番組の録画予約を行う場合,ユーザーは,新聞又はテレビガイド雑誌等によりテレビ番組の情報,チャンネルの開始時刻と終了時刻,Gコード等を確認し,それらをビデオリモコンのキーボードを操作して入力する作業を行っていた。
【0004】 【発明が解決しようとする課題】新聞,テレビガイド雑誌等のテレビ欄に記載の番組情報と,ビデオ装置に入力するデータとを相互に確認しながら,データ入力を行わなければならず,その際,しばしばデータの入力ミスが生じる問題点があった。
【0005】 仮に入力ミスがなくても,ビデオの予約操作は家電製品としては繁雑で,誰にでも簡単に利用できないという問題点があった。
【0006】 また,テレビ装置に関しても,新聞等のテレビ番組欄を見つけるのに手間どったり,仮にテレビ番組欄が見つかっても,自分の望む番組情報が掲載されていなかったり,それを見つけ出すことが困難であることが少なくない。ジャンル別(たとえば各種スポーツなど)にまとめた一覧表は,従来のテレビ番組欄には存在しなかった。また,紹介記事も,ごく少数の番組に限定されている。さらに,番組変更があったときには,従来のテレビ番組欄だけでは自分の見たい番組の開始時刻と終了時刻を正確に確認することができなかった。
【0007】 このような従来技術の問題点に鑑み,本発明は,テレビ番組情報をテレビ装置やビデオ装置で受信できるようにすることを目的としている。本発明の他の目的は,テレビ視聴データを遠隔地から集計できるようにすることである。
【課0題0を0解8決】す るための手段】本願発明の好ましい解決手段は,各請求項に記載のテレビ装置,ビデオ装置またはテレビ視聴データ集計システムである。
【0009】 【発明の実施の形態】本発明においては,ポケベル,携帯電話,PHS,その他の無線受信装置が,テレビ本体,テレビリモコン,ビデオレコーダ及びビデオリモコンの少くとも一つに組み込まれていて,基地局から送信されてくるテレビ番組データ(情報)を無線受信装置で受信する。
【0010】 本発明の1つの実施態様においては,基地局からテレビ番組情報を同報通信で一斉に送信することにより,それを各家庭で受信できるようにする。そのために,テレビ本体,ビデオレコーダ,あるいは,それらのリモコンに,無線受信装置を組み込む。さらに,そこで受信した番組情報を表示するためのデータ処理・表示装置や,ユーザが録画したい番組を検索するためのテーブル編集装置を設けるのが好ましい。また,予約したい番組データを赤外線で通信するためのインターフェースを設けるのが好ましい。
【0011】 番組データは,たとえば番組1つ毎に1つのメッセージとして送信される。メッセージのデータ内容は,日付,曜日,チャンネル,時間(開始時刻,終了時刻),番組名により構成される。テレビ本体,ビデオレコーダ,あるいはそれらのリモコンに組み込まれた無線受信装置では,番組データを受信し,日付,曜日,などのコードをもとにデータ処理を行い,リモコンの表示画面に番組表示を行う。
利用者は,テレビ本体,ビデオレコーダ,あるいは,それらのリモコンの画面で曜日,チャンネル,時間等のデータで検索し,録画したい又は見たい番組名を画面上に表示し,ボタンを押す。それにより,その番組を見たり予約するのに必要なデータが,リモコンの赤外線インターフェースによりビデオレコーダやテレビ本体と,それらのリモコン間で送信される。
【0012】 ビデオリモコンに無線受信装置を組み込んだ例について述べると,無線受信装置で受信した番組情報を表示するためのデータ処理・表示装置,及びユーザが録画したい番組を検索するためのテーブル編集装置,予約したい番組データを赤外線で本体に通信するための赤外線通信インターフェースを設ける。それにより番組情報を一斉同報通信機能を使い,ビデオレコーダのリモコンに送信することにより,利用者は送られてきた番組データをビデオリモコンの画面上で検索して録画したい番組を選択することができる。
【0013】 たとえば,基地局から送信されたテレビ番組情報が,ビデオリモコンに組み込まれた無線受信装置で受信される。ビデオリモコン内のデータ処理装置で日付,曜日,チャンネル,開始時刻,終了時刻,Gコード,番組名の各情報を抽出する。ビデオリモコン内のCPUは個々に送られてくる番組情報をビデオリモコン内のメモリーに記憶し,日付,曜日,チャンネル,開始時刻,終了時刻,番組名で管理する。利用者がビデオリモコンの電源をONすると,表示画面にテレビ番組が表示される。ビデオリモコン内のキーボードの操作により録画したい番組を表示画面で確定すると,ビデオリモコン内のCPUはビデオ録画予約に必要なデータ(曜日,開始時刻,終了時刻,Gコード等)をビデオリモコン内の赤外線通信装置に伝送し,ビデオレコーダへ送信され,録画予約が完了する。」「【0020】ビデオリモコンとヒデオレコーダの少くとも一方に無線発信装置を組み込むことにより,遠隔地で,ユーザの録画データを定期的又は不定期に吸い上げ集計する。これによりテレビ視聴率を出すことが可能となる。」「【0022】また,テレビ番組以外のデータがケーブル受信装置や無線受信装置で受信される構成を採用せず,テレビ視聴データの集計システムを構成することができる。テレビ本体,テレビリモコン,ビデオリモコン,ビデオレコーダの少くとも一つに携帯電話,PHS等の小型の無線発信装置を組み込むことにより,遠隔地で,ユーザのテレビ視聴データを吸い上げ集計することができる。これによりテレビ視聴率を出すことが可能となる。
【0023】また,ビデオ装置に適用した場合を中心に説明したが,本発明は,それのみに限定されるものではない。たとえば,本発明は,ビデオ装置を使用しないテレビ装置にも適用できるものである。このようなテレビ装置の場合,無線受信装置又はケーブル受信装置がテレビ本体及びテレビリモコンの少くとも一方に組み込まれていて,基地局又はケーブルテレビ局から送信されてくるテレビ番組データを無線受信装置又はケーブル受信装置で受信する。そして,テレビリモコンに表示画面を設け,基地局やケーブルテレビ局から送信されてきたテレビ番組データの少くとも一部を表示し,画面内でカーソルを移動させることによりテレビ視聴の予約及び取り消しを行う。また,無線発信装置を設けて,テレビ視聴データを発信する。」「【0024】【実施例】……【0025】図1~4の実施例図1は,本発明のビデオ装置の,主としてビデオリモコンの内部回路と,基地局等との関係を示す。
【0026】図1に示される実施例1においては,TV番組情報入力・編集装置1と,このTV番組情報入力・編集装置1で作成された番組データSを受信する基地局2と,無線の基地局2から同報通信で一斉に発信された番組データSを受信するビデオリモコン3と,ビデオリモコン3により操作されるビデオレコーダ11と,そのビデオレコーダ11に接続されているテレビ画面13と,ビデオリモコン3内に蓄積された録画データを吸い上げ集計するデータ集計局24が設けられている。」「【0032】無線受信装置4は,基地局2から発信された番組データSをアンテナ12を介して受信し,次のデータ処理装置5に送る。
【0033】データ処理装置5は,無線受信装置4で受信された番組データSから,主として日付,曜日,チャンネル,開始時刻,終了時刻,番組名の個々のデータを抽出する。
【0034】CPU6はデータ処理装置5から個々に送られてくる番組データ(情報)を処理して,メモリー7に記憶させたり,メモリー7の記憶データを取り出して,日付,曜日,チャンネル,開始時刻,終了時刻,番組名をそれぞれ管理する。
【0035】メモリー7は,データ処理装置5によって抽出された番組情報に関してCPU6によって管理されるだけでなく,メモリー7は,ユーザーが特定した録画データも記憶することができる。
【0036】ここでいう録画データとは,ビデオレコーダ11が実際に録画を行った番組のデータである。メモリー7に記憶された番組情報の中から選ばれたデータの場合と,ユーザーが直接録画時間等を入力して録画を行ったときの入力データである場合とがある。」「【0042】無線発信装置23は,ビデオリモコン3に内蔵する一体型にしてもよいし,ビデオリモコン3とは別体にして,電気的に接続する形にしてもよい。いずれの場合も,メモリー7に記憶された録画データをデータ集計局24に送信する。
【0043】データ集計局24は,一週毎,一月毎など,定期的にユーザーの録画データを吸い上げ集計する。これにより,データ集計局24はユーザーの番組録画データを知ることができる。ビデオ録画による視聴率の調査を行うことができる。」「【0059】図5の実施例図5は,本発明のテレビ装置の,主としてテレビリモコンの内部回路と,基地局等との関係を示す。
【0060】図5に示される実施例においては,TV番組情報入力・編集装置1と,このTV番組情報入力・編集装置1で作成された番組データSを受信する基地局2と,無線の基地局2から同報通信で一斉に発信された番組データSを受信するテレビリモコン53と,テレビリモコン53により操作されるテレビ本体61と,テレビリモコン53内に蓄積された視聴データを吸い上げ集計するデータ集計局64が設けられている。」「【0070】キーボード59を用いて,ユーザーはテレビ本体61を操作する。例えば,キーボード59により,テレビ本体61に対する通常の操作を行う他に,メモリー57に記憶された番組情報に基いてテレビ画面上や表示画面58上で番組情報の選択,予約,確認等を行う。
【0071】赤外線発信装置60は,一般的なリモコンに用いられる赤外線発信装置であり,テレビリモコン53からテレビ本体61に対して赤外線を用いたデータのインターフェース送信を行う。
【0072】無線発信装置63は,テレビリモコン53に内蔵する一体型にしてもよいし,テレビリモコン53とは別体にして,電気的に接続する形にしてもよい。
いずれの場合も,メモリー57に記憶されたデータをデータ集計局64に送信する。
【0073】データ集計局64は,無線の基地局2から所定の信号を受信したとき,リアルタイム又は定期的に(1時間毎,1日毎,一週毎,一月毎)あるいは不定期に,ユーザーのテレビ視聴データやテレビ予約データを吸い上げ集計する。これにより,データ集計局64はユーザーのテレビ視聴データを知ることができる。それによりテレビ視聴率の調査を行うことができる。」「【0091】テレビ装置やビデオ装置の設置場所から遠く離れた遠隔地で企業などが多数のユーザーのテレビ視聴データ(録画データを含む)を吸い上げて集計するようにすると,多数のユーザーのテレビ視聴率を極めて短時間にあるいはリアルタイムに調査することができる。」「【0095】テレビ番組の番組データが番組表としてリモコンの表示画面又はテレビ本体のテレビ画面に表示されるようにすると,各ユーザーは番組選択時や録画予約時に新聞紙面等に記載のテレビ番組表を見る必要がない。」
イ 上記記載によれば,甲2には,テレビ本体,テレビリモコン,ビデオリモコン,ビデオレコーダの少くとも一つからのテレビ視聴データを遠隔地にて吸い上げ集計しテレビ視聴率を出すに当たって,「TV番組情報入力・編集装置1と,このTV番組情報入力・編集装置1で作成された番組データSを受信する基地局2と,無線の基地局2から同報通信で一斉に発信された番組データSを受信するビデオリモコン3と,ビデオリモコン3により操作されるビデオレコーダ11と,そのビデオレコーダ11に接続されているテレビ画面13と,ビデオリモコン3内に蓄積された録画データを吸い上げ集計するデータ集計局24が設けられている」(【0026】)こと,「データ集計局24は,一週毎,一月毎など,定期的にユーザーの録画データを吸い上げ集計する。これにより,データ集計局24はユーザーの番組録画データを知ることができる。ビデオ録画による視聴率の調査を行う」(【0043】)こと,「データ集計局64は,無線の基地局2から所定の信号を受信したとき,リアルタイム又は定期的に(1時間毎,1日毎,一週毎,一月毎)あるいは不定期に,ユーザーのテレビ視聴データやテレビ予約データを吸い上げ集計する」(【0073】)こと,「テレビ装置やビデオ装置の設置場所から遠く離れた遠隔地で企業などが多数のユーザーのテレビ視聴データ(録画データを含む)を吸い上げて集計するようにする」(【0091】)ことが記載されている。
しかしながら,甲2においては,「録画データ」は「集計」されるものの,「ビデオ録画により視聴率の調査を行うことができる」(【0043】),「ユーザーのテレビ視聴データやテレビ予約データを吸い上げ集計する。これにより,データ集計局64はユーザーのテレビ視聴データを知ることができる。それによりテレビ視聴率の調査を行うことができる」(【0073】),「テレビ視聴データ(録画データを含む)を吸い上げて集計するようにする」(【0091】)との記載からみて,甲2における録画データの集計は,視聴率の調査のために行われる,すなわち,「視聴に関する指標」を算出するために行われるものであって,「録画予約に関する指標」を「視聴に関する指標」と異なる指標として算出するものではない。
(4) 甲1発明
甲1発明は,前記第2の3(1)イ(ア)のとおりであるところ,甲1には,録画に関する指標についてのみならず,録画や録画予約が可能であること自体が記載されていない。
(5) 判断
以上に検討したところによれば,甲1には,録画に関する指標についてのみならず,録画や録画予約が可能であることについて,開示も示唆もないのであるから,「録画予約に関する指標」を「視聴に関する指標」と異なる指標として算出するものではない甲2の記載事項を甲1発明に組み合わせても,録画予約に関する指標を視聴に関する指標と異なる指標として算出する構成,すなわち,前記(1)の「指標」についての相違点に係る構成が導かれることはない。
(6) 原告主張について
ア 原告は,甲2の記載からみて,「吸い上げられる情報」である「ユーザの録画データ」(【0020】),「録画データ」(【0036】),「録画予約データ」(【請求項11】,【請求項22】)は,単独の指標として集計される,甲2には,「テレビ視聴率」と「ビデオ録画による視聴率」という2つの種類の指標を単独で集計すること,「録画予約データ」を遠隔地で集計すること,上述した指標のうちの2つの種類のデータから広義のテレビ視聴率を調査すること,について記載されていると主張する。
しかしながら,上記(3)で述べたとおり,甲2における録画データの集計は,視聴率の調査のために行われる,すなわち,「視聴に関する指標」を算出するために行われるものであって,「録画予約に関する指標」を「視聴に関する指標」と異なる指標として算出するものではない。原告が指摘する各記載は,いずれも吸い上げられた録画データが集計されることを示すにとどまり,「視聴に関する指標」と異なる指標として集計されることや,「テレビ視聴率」と「ビデオ録画による視聴率」という2つの種類の指標を単独で集計した上で広義のテレビ視聴率を調査することを示すものでもない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,甲2は,リアルタイムに視聴している状況を集計した視聴指標である「狭義の視聴指標」のみでは,実際に番組を視聴したユーザ数を正確に調査できないことに鑑み,録画又は録画予約による視聴ユーザ数をも別途集計し,これを足し合わせることによって,より正確なテレビ視聴率(広義の視聴指標)を算出することを特徴とするものであるから,録画又は録画予約による視聴指標が,従前の「狭義の視聴指標」の概念と区別され,独自の指標として取り扱われるものであると主張する。
しかしながら,上記(3)で述べたとおり,甲2における録画データの集計は,視聴率の調査のために行われ,つまり,「視聴に関する指標」を算出するために行われるのであって,「録画予約に関する指標」を「視聴に関する指標」と異なる指標として算出するものではない。さらに,【0091】の記載によれば,「テレビ視聴データ(録画データを含む)」を集計することにより「多数ユーザーのテレビ視聴率を極めて短時間にあるいはリアルタイムに調査することができる」とあるから,録画データはテレビ視聴率を短時間に調査するために用いられており,従来のテレビ視聴率よりもより正確なテレビ視聴率を算出するに当たって従来の視聴率と組み合わせられる単独の指標を得るために用いられているものではなく,甲2に記載された技術がリアルタイムに視聴している状況を集計した視聴指標より正確な指標を算出することを特徴とするものということもできない。
以上のとおり,原告の主張は,甲2の記載を正解しないものであり,理由がない。
ウ 原告は,本件発明では,指標が利用者装置に表示される番組表内に含まれることまで必須ではなく,この点については甲1発明と相違するところはないと主張する 。
本件明細書等においては,「視聴率」及び「録画率」については,第2実施形態に関連してのみ記載されるとともに,「番組表」の「各番組」の「表示領域」に「記載」(【0075】,【0089】)されて「利用者が番組表上で簡単にチェックすることができる」(【0077】)ものであり,他方,「番組の詳細な内容」については,「番組表」が表示される領域(第1領域A1)ではなく第3領域A3に表示され(【0038】),又はポップアップ表示されうる(【0082】)とされており,「番組の詳細な内容」によって「視聴率」及び「録画率」を表示することは,記載されていない。
このことを踏まえれば ,請求項1の「視聴指標」と「録画予約指標」が「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるため」との文言は,「視聴指標」と「録画予約指標」が「番組表上の番組に対応づけられて表示される」ものであることを示すとともに,明細書に記載された事項のうち,視聴率及び録画率が「番組表」の「各番組」の「表示領域」上に表示されるものであることをも示しているものであり,番組表と異なる領域やポップアップ表示に表示される「番組表上の番組に対応づけられて表示され」ないものをも含むことは記載されていない。
他方,甲1においては,予想視聴率を「TV画面の片隅に表示する」(【0049】)等の記載があるにとどまり,番組表上の番組に対応づけられて表示されるものであるか否かにつき記載されていないのであるから,この点を相違点とした本件審決の認定に誤りはない。
したがって,原告の上記主張も理由がない。
エ 原告は,甲20を引用し,本件発明の技術思想は,出願当時の水準に照らして格別に高度のものというべきでないと主張するが,甲2の記載事項を甲1発明に組み合わせても本件発明と甲1発明との相違点に係る構成を想到することができないことは,上記(5)のとおりであり,理由がない。
(7) よって,本件発明は,甲1発明と甲2に記載された発明とを組み合わせ,甲11~13に記載された発明から導き出される周知技術を適用して当業者が容易に想到できたものということはできないとした本件審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2,3(補正事項1,2に係る新規事項の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件補正により追加された「現在放送中の番組の視聴者の多少を把握可能な視聴指標」(補正事項1)及び「番組の録画予約数の多少を把握可能な録画予約指標」(補正事項2)は,いずれも当初特許請求の範囲及び当初明細書等に記載がなく,新規事項追加に当たると主張する。
(2) 当初明細書等(甲15)には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】しかし,上記のような番組表の提供を受けた利用者が,番組表中からどのような番組を選んで視聴または録画を行ったのかを知ることはできなかったため,この種の番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのかを知りたいという要望があった。
【0004】本発明は,番組表を利用して視聴率を調査することができる視聴率調査システムを提供すること,また,番組表を利用して録画率を調査することができる録画率調査システムを提供することを目的とする。」「【発明を実施するための最良の形態】……【0089】また,本実施形態においては,図4のs52において調査者側装置10が,番組表に視聴率および録画率を記載するものを例示したが,番組表には,視聴率と録画率のうちいずれかのみが記載されるように構成されていてもよい。また,視聴率または録画率以外に,最高(または最低)視聴率となった時刻,番組を視聴した平均人数などが記載されるように構成してもよい。」
(3) 上記記載によれば,当初明細書等においては,「番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのか」を知るために調査された「視聴率」及び「録画率」を番組表に記載する旨,及び番組表に記載されるものとして,これらは「例示」であって,これら以外に「番組を視聴した平均人数など」が記載されるように構成してもよい旨が明示されている。したがって,【0089】に記載された「平均人数など」が,視聴率及び録画率と併記されるか又は単独で記載されるかにかかわらず,「視聴率」及び「録画率」のみならず,「番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのか」を知るための情報を記載し得ることは,当初明細書等に記載されていると認められる。
そして,「どの程度行われているのか」を「多少を把握可能な」と表現すること,及び番組表に記載される情報を「指標」と表現することは,普通に行われているところであって,このように表現することによって何らかの技術的な意義が追加されるものではないから,「視聴者数の多少を把握可能な」「指標」及び「録画予約数の多少を把握可能な」「指標」という表現が用いられたことによって,当初明細書等に記載された事項に対して新たな技術的事項が導入されたものでもない。
したがって,補正事項1,2について,いずれも新規事項ということはできず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないということはできないとした本件審決の判断に誤りはなく,取消事由2,3は理由がない。
3 取消事由4(補正事項7に係る新規事項の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件補正により追加された「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」(補正事項7)は,当初特許請求の範囲及び当初明細書等に記載がなく,新規事項追加に当たると主張する。
(2) 当初明細書等には,上記2(2)のほか,次の記載がある。
「【第020実7施1形】態 ]視聴率調査システム2は,調査者側装置10が利用者側端末20から番組表の要求を受けた際に,後述する番組表作成処理を実行するように構成されている点のみが第1実施形態と異なるものであって,以下の説明では,第1実施形態との相違点のみを詳述する。
【0072】調査者側装置10が実行する番組表作成処理を図4に基づいて説明する。この番組表作成処理は,番組表の送信を要求する内容の要求データを利用者側端末20から受信することによって開始される。
【0073】まず,調査者側装置10は,要求データに基づいて要求された地域,時間の番組表をハードディスク12から読み出す(s51)。この処理で読み出される番組表は,要求データに基づいて要求された時間以降3時間分の番組表である。
【0074】次に,調査者側装置10は,番組の視聴率が該番組に対応する領域に記載された番組表を作成する(s52)。この処理において各番組の表示領域に記載される視聴率は,ハードディスク12に記憶された視聴率から算出されたものであって,一定時間毎に複数回算出された視聴率を番組の放送時間内における算出回数で平均した平均視聴率である。なお,番組表中の番組が一定期間に複数回連続して放送される番組である場合には,番組に対応する領域に前回の放送での視聴率および録画率が記載されるように構成してもよい。また,番組の表示領域に記載される視聴率として,例えば,対応する番組の放送時間となる視聴率のうち最大値となる最高視聴率であってもよい。
【0075】そして,調査者側装置10は,s52の処理で作成された番組表を利用者側端末20に送信する(s53)。この番組表を受信した利用者側端末20は,図5に示すように,各番組の表示領域に視聴率および録画率が記載された番組表が表示される。
【0076】なお,以上説明した視聴率調査システム2において,番組の視聴率が該番組に対応する領域に記載された番組表を作成する調査者側装置10は,本発明における番組表作成手段として機能するものである。
【0077】このように構成された視聴率調査システム2によれば,放送が終了した番組の視聴率や放送中の番組の視聴率を利用者が番組表上で簡単にチェックすることができる。また,番組の録画率を利用者が番組表上で簡単にチェックすることができる。」
(3) 上記記載によれば,当初明細書等においては,番組表の提供を受けた利用者が番組表を利用した視聴や録画がどの程度行われているのかを知りたいという課題について,利用者側端末20から番組表の要求を受けた調査者側装置10が視聴率及び録画率が記載された番組表を作成して利用者側端末20に送信し,この番組表を受信した利用者側端末20において視聴率及び録画率が記載された番組表を表示することによって解決することが記載されている。
以上を踏まえれば,「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中補の正番事組項に7対)応はす,る当前初記明視細聴書指等標にと記前載記さ録れ画た予約課指題標にと対を応送す信るすもるの指と標し送て当信初手明段細」書等に記載された解決手段を特定する記載であって,当初明細書等に記載された事項に対して新たな技術的事項を導入するものであるとはいえない。
(4) 原告主張について
原告は,本件審決の請求項2についての認定判断を引用して,補正事項7は番組表とは別体の視聴指標と録画予約指標とをそれ自体として送信する手段をも含むものであると主張する。
しかしながら,請求項2は,請求項1と同様の「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」との文言のみならず,「前記利用者装置によって表示される番組表のための番組表データを送信する番組表データ送信手段をさらに備える」との文言を含むことによって,番組表データの送信が視聴指標及び録画予約指標の送信と区別され,この区別が視聴指標及び録画予約指標を受信した利用者装置においてこれらとは別に受信された番組表データに基づいて,視聴指標と録画予約指標とが番組表上の番組に対応づけられた,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを含む番組表を出力することを前提としたものであることをも特定するものであり,請求項1の文言のみによってこのような特定が含まれるものではない。
また,原告主張は,「前記利用者装置によって表示される番組表上の番組に対応づけられて表示されるための前記視聴指標と前記録画予約指標とであって,現在放送中の番組に対応する前記視聴指標と前記録画予約指標とを送信する指標送信手段」という文言を含む請求項1において「送信手段」が特定されていないことにより番組表データの送信が視聴指標及び録画予約指標の送信と区別されたものが含まれることを前提としたものであるところ,本件補正後の明細書の【0071】~【0077】の記載からみて,請求項1において番組表データの送信が視聴指標及び録画予約指標の送信と区別されたものが当然に含まれるとはいえない 。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(5) よって,補正事項7について,新規事項ということはできず,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないということはできないとした本件審決の判断に誤りはない。よって,取消事由4は理由がない。
4 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決にはこれを取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 武宮英子)
file_2.jpg別紙