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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10174号 判決 2012年12月19日

原告

株式会社トップ・アンド・トップ

訴訟代理人弁理士

治部卓

被告

株式会社東和電機製作所

被告

被告ら訴訟代理人弁理士

吉田芳春

吉田雅比呂

補佐人弁理士

堀越真弓

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告が求めた判決

特許庁が無効2011-800208号事件について平成24年4月3日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,被告らの特許につき原告からの無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性(容易想到性)の有無である。

1  特許庁における手続の経緯

(1)  本件特許

被告らは,発明の名称を「集魚灯装置,及びその使用方法」とする発明に係る特許第4064423号の特許権者である(平成16年8月26日特許出願,優先日平成15年9月18日,優先権主張国 日本国,登録日平成20年1月11日,登録時の請求項の数は4)。

(2)  本件無効審判請求までの経緯

原告が,平成22年10月18日,請求項1ないし4の発明に係る特許につき先行する無効審判請求をしたところ(無効2010-800189号),平成23年1月7日,被告らから訂正請求がされ,特許庁は,同年6月15日,訂正を認め,請求項1ないし3の発明に係る特許を無効とし,請求項4の発明に係る特許については無効審判請求を不成立とする審決をし,確定した。

(3)  本件無効審判請求

原告は,平成23年10月13日,訂正後の請求項4の発明の進歩性欠如,実施可能要件,サポート要件及び明確性要件の違反を理由に,同発明に係る特許につき本件無効審判を請求した(無効2011-800208号)。特許庁は,平成24年4月3日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし(以下,「審決」というときにはこの審決を指す。),その謄本は同月12日,原告に送達された。

原告は,審決がした実施可能要件,サポート要件及び明確性要件の違反に係る判断の当否について,本件訴訟では争っていない。

2  本件発明の要旨

訂正後の請求項4の発明は,集魚灯装置に関するもので,その特許請求の範囲は以下のとおりである。

【請求項4(本件発明)】(構成要件の分説は審決によるものである。)

「A.発光色が赤色系,青色系,緑色系の三色の発光ダイオードを集合させた発光ダイオード集合体を形成し,この発光ダイオード集合体を複数用いた光源を有する集魚灯と,

B.前記光源の発光波長を設定する発光波長ボリューム部を有し,

C.海域の水の色,水温,風向・風速,潮流の流向・流速,照度条件,漁獲対象生物の種類・位置・反応行動,漁具や漁船の位置や挙動等の操業情報に応じて,

D.前記発光波長ボリューム部で前記光源の発光波長を設定すると,前記発光ダイオードの各々の発光量を一元的に制御し,前記光源の全体としての調色を行うことで,前記発光色が赤色系,青色系,緑色系の三色の発光ダイオードの発光の合成として前記光源全体から発せられる見かけの発光波長を連続的に変化させる光源制御部とを備えてなり,

E.前記光源制御部が,前記光源の発光波長を設定する前記発光波長ボリューム部と,前記ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部と,

F.光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチとを備えたことを特徴とする

G.集魚灯装置。」

3  審判で主張された無効理由(本件訴訟で争点となったもののみ)

本件発明は,下記甲第1号証に記載された発明(甲1発明)に,下記甲第2号証に記載された技術的事項と,下記甲第5号証に記載された技術的事項を適用することにより,又はさらに下記甲第4,第21号証(審判甲6)のうちのいずれか1つ以上に記載された技術的事項を適用することにより,あるいはこれらに加えて更に甲第7,第8,第17号証(審判甲9)のうちのいずれか1つ又は甲第7,第8号証に記載された技術的事項を適用することにより(更に,必要に応じ,下記甲第10号証に記載された技術的事項を適用してもよい。),本件優先日当時,当業者において容易に発明することができたものであって,進歩性を欠く。

【甲第1号証】特開昭61-39301号公報(審判甲1)

【甲第2号証】特開平10-208502号公報(審判甲2)

【甲第3号証】1971年(昭和46年)平凡社発行「世界百科事典 2」247~256頁(「いろ 色」の項)(審判甲3)

【甲第4号証】「ペイントショッププロ6J(Jasc Paint Shop Pro Version 6J)ユーザーガイド」(1999年,Jasc Software,Inc.)5,6,9~12,45~49頁(審判甲4)

【甲第5号証】2000年株式会社毎日コミュニケーションズ発行「一週間でマスターする Paint Shop Pro 6 for Windows」(初版)23,60~62頁(審判甲5)

【甲第21号証】米国特許第5019873号明細書(審判甲6)

【甲第7号証】特開2001-84808号公報(審判甲7)

【甲第8号証】特開2000-221058号公報(審判甲8)

【甲第17号証】株式会社ケンウッド発行「コンパクト コンポ ステレオ ロキシー ROXY M7 取扱説明書」3,10,11,30,32,56,57,83,84頁(審判甲9)

【甲第10号証】特開2003-134967号公報(審判甲10)

4  審決の理由の要点(本件訴訟で争点となった部分のみ)

審決は次のとおり甲1発明,本件発明と甲1発明の一致点,相違点を認定し,本件発明の容易想到性を否定した。

【甲1発明(11頁)】

「青色,赤色,及び緑色を発するLEDであって各々1個計3ヶの一組を封入して光源とした容器と,予め設定された順序により各LEDに通電する電流を調整し,光源全体から発せられる光の色を変化させることによって,漁獲状況に応じて該LED集合体の色調を変化せしめる光色光力制御装置を備えた水中灯。」

【甲1発明と本件発明の一致点(31頁)】

「A'.発光色が赤色系,青色系,緑色系の三色の発光ダイオードを集合させた発光ダイオード集合体を形成し,この発光ダイオード集合体を用いた光源を有する集魚灯と,

C.海域の水の色,水温,風向・風速,潮流の流向・流速,照度条件,漁獲対象生物の種類・位置・反応行動,漁具や漁船の位置や挙動等の操業情報に応じて,

D'.前記発光ダイオードの各々の発光量を制御し,前記光源の全体としての調色を行うことで,前記発光色が赤色系,青色系,緑色系の三色の発光ダイオードの発光の合成として前記光源全体から発せられる光の色を変化させる光源制御部とを備えてなる

G.集魚灯装置。」である点

【甲1発明と本件発明の相違点(32頁)】

・相違点1

本件発明では,発光ダイオードの集合体が複数あるのに対して,甲1発明では,LEDの集合体が一組である点。

・相違点2

本件発明では,光源の発光波長を設定する発光波長ボリューム部を有し,該発光波長ボリューム部で光源の発光波長を設定すると発光ダイオードの各々の発光量を一元的に制御して,光源全体から発せられる見かけの発光波長を連続的に変化させるよう光源制御部が構成されているのに対し,甲1発明では,予め設定された順序により各LEDに通電する電流を調整し,容器から発せられる光の色を変化させるものであって,本件発明の「発光波長ボリューム部」に相当する構成を持たず,光源制御部において光源からの光の色を変化させる制御が一元的に行われるものではない点。

・相違点3

本件発明では,光源制御部が,発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部を備えているのに対し,甲1発明は,当該構成を有していない点。

・相違点4

本件発明では,光源制御部が,光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチを備えているのに対し,甲1発明は,該構成を有していない点。

【甲1発明と本件発明の相違点に係る構成の容易想到性判断(33~39頁)】

「(1) [相違点1]について

・・・甲1発明の「水中灯」として,甲2発明の『赤色,緑色,青色の発光ダイオードの集合体を複数備えたものを用いるフルカラーLED投光器』の構成を適用することにより,上記相違点1に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

(2) [相違点2]について

・・・甲1発明の『光源制御部』に,甲2発明の『色相角調整器12の操作』(本件発明の『発光波長ボリューム部』による『設定』に相当),及び,『ルックアップテーブルの参照により一元的に,かつ無段階調に変化させる』技術を適用することにより,上記相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

(3) [相違点3]及び[相違点4]について

以下に示す理由(α)~(δ)により,本件発明の相違点3及び4に係る構成は,甲1~甲10に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない。

(α)甲1~甲10のいずれにも,本件発明の相違点3に係る構成について記載されておらず,示唆もされていない。

(β)甲1~甲6,甲8~甲10のいずれにも,本件発明の相違点4に係る構成について記載されておらず,示唆もされていない。

(γ)甲7発明の『通常の電気スタンドと同様の利用方法をとる場合』において,『白色発光を利用』するにあたり,どのような操作を行うのかについて甲7には記載されていないが,仮に,甲7発明のスイッチ群のいずれかのスイッチを利用していることが自明であると認定したとしても,室内照明器具に係る甲7発明を,水中灯に係る甲1に適用する動機づけがない。また,甲1発明は,『LED集合体の色調を変化せしめる光色光力制御』を備え,・・・『白色光』を発光することが既に可能なものであるところ,さらに甲7発明の『白色発光』が割り当てられたスイッチを設ける動機づけもない。

(δ)相違点3に係る本件発明により,『スケール部の表示を確認しつつボリュームを設定することで,速やかに所望の発光状態が得られる。また,発光状態を連続的に微調整できる。』(本件特許明細書の段落【0016】)という効果が奏され,相違点4に係る本件発明により,『白色光にワンタッチ切り替え可能な白色光スイッチ14を装備することにより,・・・遠くにいる漁獲対象生物を漁船Sの近傍に寄せるまでは発光波長を制御した単色光を使用し,その後,単色光から白色光へスイッチで切り替えることで,近傍に集魚した対象魚を逃がさないようにしつつ,作業者に負荷の少ない光環境を作ることが可能である。』(同段落【0044】)という効果が奏されるところ,このような効果については,甲1~甲10のいずれにも記載も示唆もされておらず,当業者が予測し得たものでもない。」

「以上のとおり,本件発明は,甲1~甲10に開示された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものではないから,本件発明についての特許は,特許法29条2項の規定に違反するものとして無効とすることができない。」

第3原告主張の審決取消事由(本件発明の技術的意義の把握の誤り及び相違点に係る構成の容易想到性判断の誤り)

1  技術が共通である場合には,当業者が当該技術分野の範囲内では発明ないし技術的事項の組合せを考慮するものと予想されるべきであって,動機付けの存在を要求するべきでない。しかるに,甲1発明や本件発明の集魚灯は,魚等を集めるべく高輝度の光源を使用して海を照明する装置にすぎず,また,甲1発明等で用いられている発光ダイオード(LED)の技術は投光器等の照明装置で用いられている発光ダイオードの技術と密接に関連するし,集魚灯の開発,製造には照明装置の技術を有する業者が関与するのが通常である(照明装置の当業者に包含される。)。そうすると,技術的な特徴が漁法と直接関係するような特段の事情がある場合でない限り,集魚灯も一般の照明装置(集魚灯以外の照明装置)と同一の技術分野に属するというべきである。したがって,照明装置である甲第2号証の投光器の発明ないし技術的事項を,甲1発明に適用することは当業者にとって容易である。

また,甲第4,第5,第7号証も,後記のとおり,照明装置の技術分野に属するという観点からも,その具体的な機能等に着目したとしても,甲第1,第2号証と同一の技術分野に属し,甲第4,第5,第7号証に記載の発明ないし技術的事項を,甲第1,第2号証に記載の発明(ないし技術的事項)に適用することは当業者にとって容易である。

2  本件発明の構成E「前記光源制御部が,前記光源の発光波長を設定する前記発光波長ボリューム部と,前記ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部と,」の技術的意義は,可視領域のスペクトルのような色を帯状にボリュームに沿って目盛りのように描き,目盛り(スケール)に色が付けてあると,この色に従ってボリュームを合わせればよいから,発光色を調整しやすい(色合わせしやすい)というものにすぎず,格別なものではない。かかる技術的事項は,目盛りの表示の仕方という一般的な技術(要素技術)に属するものであって,集魚灯とか,調色技術といった,特定の技術分野に属するものではない。

しかるに,審決は,「スケール部の表示を確認しつつボリュームを設定することで,速やかに所望の発光状態が得られる。また,発光状態を連続的に微調整できる。」との効果を奏することは,甲第1ないし第5,第7,第8,第10,第17,第21号証のいずれにも記載も示唆もされておらず,これらに記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない旨を判断するが(33,34頁),これは上記構成Eの技術的意義を誤るもので,誤りである。

3  本件明細書の段落【0044】に記載の技術的メリットは,本件発明の構成F「光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチ」から直接得られる効果ではなく,同構成の技術的意義の評価に当たって考慮すべきでない。また,例えば操業中に集魚灯の発光色を白色に変え,白色光で集魚する構成も構成Fに含まれるところ,集魚灯の光色を変えて集魚することは当業者の公知技術にすぎないから,かような公知技術に係る構成まで特許請求の範囲に含むのは不適切である。そして,作業用面状光源として白色LEDを用い,自然光に近い白色光で甲板上を照らして明るい作業環境を実現するとともに,紫外線や熱の影響がないので作業者の健康を損なうことがないようにできることは,本件優先日当時に当業者に周知の事柄にすぎない。

そうすると,構成Fの技術的意義はその字義通りに解釈されるべきであるところ,審決は,「相違点4に係る本件発明により,『白色光にワンタッチ切り替え可能な白色光スイッチ14を装備することにより,・・・遠くにいる漁獲対象生物を漁船Sの近傍に寄せるまでは発光波長を制御した単色光を使用し,その後,単色光から白色光へスイッチで切り替えることで,近傍に集魚した対象魚を逃がさないようにしつつ,作業者に負担の少ない光環境を作ることが可能である。』(段落【0044】)という効果が奏される」と判断するが(33,34頁),この判断は誤りである。

4  本件優先日当時,①可視光は波長が380ないし780mμ程度の電磁波で,波長の長いものから短いものの順に,赤,黄赤,黄,黄緑,緑,青緑,青,紫などの色感を呈すること,②赤,緑,青(RGB)の加法混色を行うことで,所望の色の光を作ることができること,③光源の主波長を設定するだけでは,スペクトルに対応する色の光(虹のような光)になるだけで,白色の光にはならないこと,④有彩色の色相を変化することによっては白色の光はできないことは,当業者の技術常識であった(甲3参照)。

そうすると,本件発明の構成E「前記光源制御部が,前記光源の発光波長を設定する前記発光波長ボリューム部と,前記ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部と,」と構成F「光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチ」とは相互に技術的に関連して相乗効果を奏するものではなく,白色光を得るためには,上記構成E,Fや構成D「前記発光波長ボリューム部で前記光源の発光波長を設定すると,前記発光ダイオードの各々の発光量を一元的に制御し,前記光源の全体としての調色を行うことで,前記発光色が赤色系,青色系,緑色系の三色の発光ダイオードの発光の合成として前記光源全体から発せられる見かけの発光波長を連続的に変化させる光源制御部とを備えてなり,」とは別の手段を要する。だとすると,上記構成E,Fは単に寄せ集めることが可能なものにすぎない。

5  甲第7号証のオプションスイッチ7は,特殊効果のための点滅動作や一定時間後に消灯させる(タイマースイッチ)といった特別な動作をさせるためのものであって(甲7の段落【0012】を参照),白色光を発光させるといった基本的な動作をさせるためのものではない。そうすると,白色光に切り換えるためにオプションスイッチ7を用いる蓋然性はない。

また,甲第7号証の照度切り替えスイッチ13も,既に発光色が決定された後に,所望の明るさを確保するための動作を行うためのもので(赤色,緑色及び青色の各発光ダイオードの発光の程度や割合を個別に操作するものではない。甲7の段落【0011】を参照),白色光に切り換えるために照度切り替えスイッチ13を用いる蓋然性はない。

そうすると,甲第7号証の装置では,白色光に切り換えるためのスイッチとしては,色彩切り替えスイッチ12を用いることができるだけであって,甲第7号証には同スイッチを操作して白色光を発光させる構成が記載されているに等しい。甲第7号証には,赤色,青色及び緑色の発光ダイオードをフルパワーで発光させることにより白色光を得る旨が記載されているから(甲7の段落【0016】),複数種類の発光ダイオードをまとめて制御し,白色光を得るスイッチの構成が実施可能な程度で開示されているということができる(段落【0007】も参照)。そうすると,甲第7号証には,押しボタンスイッチである色彩切り替えスイッチ12を押すと,ワンタッチで特定の色彩で発光する構成が記載されており,また発光させる色彩の一つとして白色があることが記載されているということができるから,色彩切り替えスイッチ12を押すだけで,ワンタッチで白色光を発光させる構成が記載されているに等しい。他方,上記のとおり,オプションスイッチ7,照度切り替えスイッチ13をかかる用途に用いる蓋然性があるとはいえない。したがって,「甲7発明の『通常の電気スタンドと同様の利用方法をとる場合』において,『白色発光を利用』するにあたり,どのような操作を行うのかは甲7には記載されていないため,原告が主張するように『色彩切り替えスイッチ12』を利用するとは断定できず,『照度切り替えスイッチ13』又は『オプションスイッチ7』を利用する可能性も排除できない。」として,「甲7には『(白色以外の色に発光している)光源(3)の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチ(12)』を備えた照明器具の開示がある」との原告の主張を排斥した審決の認定・判断は誤りである。

6  原告は,甲第1号証記載発明と甲第2号証に記載の発明(ないし技術的事項)を組み合わせ,さらに甲第7号証記載の発明ないし技術的事項を組み合わせることにより,本件発明は容易想到である旨を主張してきた。甲第7号証記載の発明ないし技術的事項を適用する対象を甲第1号証に限る必要はなく,甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明を組み合わせたもののうち後者の発明に係る部分に甲第7号証を適用してもよい。あるいは,甲第2号証記載の発明に甲第1号証記載の発明を適用し,さらに甲第7号証記載の発明ないし技術的事項を適用してもよい。しかるに,審決は上記適用を行った場合の容易想到性について判断をしておらず,判断の脱漏がある。

ところで,技術として共通であれば,阻害事由がない限り,当該技術の適用の動機付けがあるところ,甲第2,第7号証はいずれも,赤色,緑色,青色の三原色の発光ダイオードを多数使用して種々の色の光を発光する発光装置の技術分野に属する。また,甲第2号証の投光器は色相角調整器で無段階に色相を変化させているが(フルカラー),有彩色の光の色相を変化させることによっては白色光を発光させることはできず(技術常識),色相角調整器以外の手段で白色光発光を指示する手段が必要なことは明らかであるから,甲第2号証で開示しているものはフルカラー投光器の技術的事項に尽きない。そうすると,甲第2号証では,色相角調整器以外の手段で白色光発光を指示する手段を設ける構成が示唆されているから,甲第7号証の色彩切り替えスイッチを甲第2号証のフルカラー投光器に適用する動機付けがある。他方,甲第2,第7号証記載の発明ないし技術的事項に光の強度や用途の点において差異があるとしても,甲第7号証記載の発明ないし技術的事項を甲第2号証記載の発明に適用する上で阻害事由とはならない。

当業者であれば,甲第2号証のフルカラー投光器に,甲第7号証の色彩切り替えスイッチを適用し,色彩切り替えスイッチを押すだけで,白色光を発光させるようにし,相違点4(本件発明の構成F)を解消することは容易である。そして,かかる適用を行うことによって得られる作用効果(構成Fの作用効果)は当業者にとって当然のものであって,格別顕著なものではない。他方,「遠くにいる漁獲対象生物を漁船の近傍に寄せるまでは発光波長を制御した単色光を使用し,その後,単色光から白色光へスイッチで切り替ることで,近傍に集魚した対象魚を逃がさないようにしつつ,作業者に負荷の少ない光環境を作ることが可能である。」(段落【0044】)という作用効果は,構成Fとは無関係なものであるから,構成Fの作用効果として捉えてはならない。

したがって,甲第7号証記載の発明ないし技術的事項を甲第2号証記載の発明に適用することによって相違点4に係る本件発明の構成Fに想到することは当業者にとって容易であり,かつ上記相違点による作用効果も当業者にとって格別顕著なものではない。

7  甲第4号証には,色相を順に配置した円環であるカラーホイールにおいて,リングを12時の位置である位置0から反時計回り(左回り)になぞり続ける(ドラッグ)と,赤色から黄色,緑色,シアン,青色,マゼンタ(紅紫色)と順に異なる色相を選択することができ,反時計回りで,概ね可視光のスペクトルのような色相の配列から色相を順に選択することができる構成が開示されている。また,甲第4号証には,上記カラーホイールの上に小さなリング(円環)を表示し,このリングをカラーホイールに沿って移動させることで,所望の色を選択することができ,かつ選択された色のRGB値(当該色相の赤色,緑色,青色の各成分の値)が別途表示される構成が開示されている(46,48頁)。なお,本件発明の構成Eとの関係では,色相に関してRGB値を一元的に指定すれば足り,彩度や明度を改めて指定する必要はない。

甲第4号証と同様にグラフィックソフトウェア「Paint Shop Pro 6 日本語版」の解説書である甲第5号証には,甲第4号証の記載と同内容の記載があるところ,甲第5号証の記載内容も総合すれば,甲第4,第5号証には,①可視光領域のスペクトルのような色が円環状(丸い帯状)に描いてあるカラーホイール上のリング(小さい円環)をカラーホイールに沿って移動させると,リングの位置に対応する色を選択することができること,換言すれば,②カラーホイールのうちリングの径方向の両側部分は,リングの位置に対応する色を直感的に図示するもので,スケールのような選択色図示部に当たり,またリングは所望の色を選択(設定)するためのもので,ボリュームのような選択色設定部に当たることが開示されているといってよい。

甲第4,5号証の「カラーホイール」は本件発明の「波長スケール部」に相当し,甲第4,第5号証の「リング」は本件発明の「発光波長ボリューム部」に相当するから,甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明ないし技術的事項,ないし甲第5号証の記載内容を考慮した場合に甲第4号証で開示されていると認められる発明ないし技術的事項は,相違点3に係る本件発明の構成Eと一致する。

したがって,「刊行物記載の発明を理由とする進歩性欠如の主張において,・・・甲4と甲5との開示事項を組み合わせて一つの技術的事項を認定する手法は,もはや刊行物記載の認定とは言えない。」との審決の判断及び甲第4,第5号証に記載された「事項を組合わせて一つの技術的事項を認定したとしても,本件発明の相違点3・・・に係る構成を導き出すことはできない」との審決の判断(39頁)は誤りである。

ところで,甲第4,第5号証に記載された発明ないし技術的事項を適用する対象を甲第1号証に限る必要はなく,甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明を組み合わせたもののうち後者の発明に係る部分に甲第4,第5号証を適用してもよい。あるいは,甲第2号証記載の発明に甲第1号証記載の発明を適用し,さらに甲第4,第5号証記載の発明ないし技術的事項を適用してもよい。しかるに,審決は上記適用を行った場合の容易想到性について判断をしておらず,判断の脱漏がある。

甲第2号証は,赤色,緑色,青色の三原色の発光ダイオードを多数用いてフルカラーで調整された光を発光するフルカラー投光器に係るものであって,発光されるべき色の調整,選択,指定の技術分野,とりわけ上記三原色(RGB)の割合を規定する色の調整,選択,指定の技術分野に関するものである。甲第4号,第5号証のカラーホイールや「色の指定」ダイアログボックスも,色の調整,選択,指定の技術分野に関するものであって,甲第2号証と技術分野が同一であるか,極めて密接に関連する(なお,甲第4,第5号証が画像処理ソフトに関する文献であるとしても,最終的な用途に従って技術分野を捉えるべきではないから,甲第2号証の投光器と異なる技術分野に属するとみるべきではない。)。しかも,甲第2号証では,三原色の発光の割合を指定する色の調整をする段階と,指定された割合に従って,所望の強度で発光させるドライバによる給電の段階とが区別されており,必要に応じ,他の手段を用いて色の調整をなし得ることが予定されている。したがって,甲第4,第5号証に記載された発明ないし技術的事項,すなわちカラーホイールを甲第2号証の色相角調整器(プリセットコントローラーの一部)に適用する動機付けがある。なお,甲第2号証も,甲第4,第5号証も,色を選択することにより三原色の割合を一元的に決定する点,すなわち色の調整を行っている点で共通するし,甲第4,第5号証において色の選択を行う構成を甲第2号証の発明ないし技術的事項に組み合わせれば足りるから,甲第2号証における色の調整と甲第4,5号証における色の選択とを区別する実益はない。

したがって,「甲1及び甲2発明は『光』の色を調整するものであるのに対して,甲5発明の『カラーパレット』は色見本の中からグラフィクスで使用する『現在の色』を選択するものであり,色の調整や内容が相違する相互に異なる技術である。」として,甲5発明の適用の動機付けを否定した審決の認定・判断(38,39頁)は誤りである。

甲第4,第5号証に記載された発明ないし技術的事項を甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明を組み合わせたもののうち後者の発明に係る部分に適用することによって相違点3に係る本件発明の構成Eに想到することは当業者にとって容易である。

したがって,相違点3の容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。

8  前記のとおり,相違点4に係る本件発明の構成Fは,甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明を組み合わせたもののうち後者の発明に係る部分に甲第7号証に記載の発明ないし技術的事項を組み合わせることにより,相違点3に係る本件発明の構成Eは,上記部分に甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を組み合わせることにより,当業者において容易に想到することができるものであるし,本件発明の構成E,Fの双方を備えることによる相乗効果は存しない。そうすると,相違点1,2を解消すべく甲第1号証に記載の甲1発明に甲第2号証に記載の発明ないし技術的事項を組み合わせることが当業者において容易であることにかんがみると,甲第1,第2,第4,第5,第7号証に記載の発明ないし技術的事項をすべて組み合わせる(寄せ集める)ことにより,本件優先日当時,当業者において相違点1ないし4をすべて解消することは容易であるということができる。他方,相違点1ないし4に係る本件発明の構成を組み合わせることによる格別顕著な効果は存しない。したがって,本件発明には進歩性がなく,これに反する審決の判断は誤りである。

あるいは,審決は,右クリックか左クリックかといった技術的事項との関係で甲第5号証で開示された発明ないし技術的事項の範囲を不当に限定しているが,甲第5号証の「マウスポインタ」は本件発明の「発光波長ボリューム部」と機能的に異なるものではなく,甲第5号証では相違点3に係る本件発明の構成E及び相違点4に係る本件発明の構成Fが開示されており,甲第5号証に記載の発明ないし技術的事項を甲第1,第2号証に記載の発明に適用する動機付けがある。したがって,甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明を組み合わせたもののうち後者の発明に係る部分に甲第5号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することによっても,本件優先日当時,当業者において相違点3,4を解消し,本件発明をすることができたというべきである。そうすると,この結論に反する審決の判断は誤りである。

第4取消事由に対する被告らの反論

1  本件発明の特許請求の範囲の記載に関しては,その技術的意義を明確に理解することができない等の特段の事情はないから,特許請求の範囲の記載に基づいて本件発明の要旨認定を行った審決に誤りはない。

本件発明の構成Eにいう「発光状態を直感的に図示するスケール部」も,本件明細書の実施例に記載された構成のものに限定されるものではないから,原告が主張する可視領域のスペクトルを模した帯状の表示部材に限定されるわけではない。

また,審決は本件発明の構成Eは,構成自体は容易に推考できるが当業者が予測し得ない格別の効果があると判断したわけではなく,構成も容易に推考できず,当業者が予測し得ない格別の効果があると判断したものである。審決による本件発明の構成Eの技術的意義の把握に誤りはない。

2  進歩性判断の対象となる発明の要旨の認定に当たり,各構成(要件)ごとにその技術的意義を個別に判断するという判断手法を採らなければならないとするのは,発明の要旨認定の議論を超えるものであるし,本件発明にあっては,特許請求の範囲において,構成Fに係る使用法まで特定しなければならないものではない。

3  甲第7号証で通常の電気スタンドと同様の利用方法をとる場合に,白色発光を利用するためにいかなる操作を行うかについては,同書証からは全然明らかでない。変形例に係る段落【0016】の記載も,3色の発光ダイオードの発光量をそれぞれ相等しくなるよう,最大出力で発光させるように構成した場合(フルパワーの場合)には,白色発光させることができる旨を簡略に説明したものであり,白色発光の可能性について言及したもの(取り得る選択肢の一つ)にすぎないから,必ず白色発光させる発明特定事項は甲第7号証中に存しない。

また,甲第7号証においては,白色発光を利用することで通常の電気スタンドと同様の利用方法をとることはオプション的な事柄にすぎず,白色発光のためにオプションスイッチ7を利用する可能性は排斥できないし,甲第7号証の記載に照らしても,白色発光のために照度切り替えスイッチ13を利用する可能性を排斥できない。そうすると,甲第7号証の色彩切り替えスイッチ12が白色発光させる「白色スイッチ」を含むかどうかは不明であって,同書証に,色彩切り替えスイッチの一つとして白色発光をさせる白色切り替えスイッチを設ける構成に係る記載があるとか,かかる構成の記載がされているに等しいということはできない。

したがって,上記構成が甲第7号証で開示されていないとした審決の認定判断に誤りはない。

4  甲1発明に甲第2号証記載の発明を組み合わせたもののうち後者の発明に係る部分に他の書証に記載の発明ないし技術的事項を組み合わせる等の主張はその意味するところが極めて不明瞭であるが,主引用例たる甲第1号証記載の発明に副引用例たる甲第2号証記載の発明を組み合わせた場合には,甲第2号証の「LED投光器」との部分は残っていない。

また,原告は甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如の主張を審判段階で行っていないし,審決は甲第2号証記載の発明と本件発明との対比(一致点・相違点の認定)を形式的にも,実質的にも行っていないから,甲第2号証と本件発明の相違点に係る構成の容易想到性判断の当否は本件審決取消訴訟の審理,判断の対象にはならない。加えて,本件発明の容易想到性を判断するに当たり,どうして本件発明とは技術分野の異なる「LED投光器」に係る甲第2号証を創作の出発点となし得るのか不明である。

ところで,進歩性判断の前提として,当業者は,問題となる発明が属する技術分野の出願時における技術水準にあるものを自らの知識とすることができるが,かように自らの知識とできるものは,当該発明が解決しようとする技術的課題に関連する技術分野の技術でなければならないのはもちろんである。

甲1発明が属するのは「水中灯」の技術分野であるが,甲第7号証が属するのは「室内照明器具」の技術分野であって,甲1発明が解決しようとする技術的課題に関連する技術分野には当たらないから,甲1発明と甲第7号証に記載の発明ないし技術的事項は技術分野が異なる。原告の主張は,技術分野をいたずらに上位概念化しようとするもの,当業者の範囲を技術分野の範囲を超えて拡張しようとするもので,不適切である。そうすると,当業者にとって,甲1発明に甲第7号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することは容易でないし,甲第1号証には,甲第7号証の「白色発光」が割り当てられたスイッチを設ける動機付けが記載されていないから,当業者には上記適用をする動機がなく,かかる観点からも上記適用は容易でない。

仮に甲第2号証を主引用例としても,甲第2号証は,従来の赤色,緑色,青色の3つの色相角の設定を個々に調整していたのを,上記3原色の光の出力を一元的に調整して所望の色の光を発光させるように改めたものであるところ,甲1発明は3原色の光の出力を個別に調整する構成のものであるから,甲第2号証に記載の発明に甲1発明を適用することは,甲第2号証で既に解決した技術的課題に逆行するもので,かかる適用には阻害要因がある。

そして,甲第2号証の「LED投光器」と甲第7号証の「室内照明器具」とは技術分野が関連しておらず,甲第2号証には甲第7号証記載の発明ないし技術的事項を適用したはずであるという示唆等は存しない。また,甲第2号証は,色相角度Hが182度となるように色相角調整器12を調整することで,既に白色発光させることができるようにした構成のものであるから,さらに甲第7号証の白色発光させるスイッチを付加することは過剰であり,適用の阻害要因がある。したがって,甲第2号証に記載の発明に甲第7号証に記載の発明ないし技術的事項を適用する動機付けがなく,かえってかかる適用については阻害要因があるから,当業者がかかる適用を行うことは容易でない。

5 甲第4号証では,小さなリング等の構成が開示されているか否か不明であるし,甲第4,第5号証に記載の技術的事項を組み合わせて,甲第4,第5号証に共通するグラフィックソフトウェア「Paint Shop Pro 6J」を証拠とするかのような主張は,審判段階で提出されなかった公知事実との対比における無効原因を主張するもので,許されない。

甲第4号証はグラフィックソフトウェアの技術分野に属し,これは甲第1号証の「水中灯」が解決しようとする技術的課題に関連した技術分野には当たらない。また,甲第1号証には,甲第4号証に記載の発明ないし技術的事項を適用する動機付けが記載されていない。また,甲第4号証のカラーホイールは光源制御部に備えられているものではないし,甲第4号証のリングもLEDライトの発光波長を設定するためのものではない。しかも,甲第4号証には,まずカラーホイールで色相を選択し,次いで「彩度/明度」ボックスで「彩度/明度」を選択するという2段階の手順を踏んで色を指定する構成が記載されており,甲第4号証に接した当業者であれば,かかる手順に着目するのが当然であるところ,かかる手順を無視して,カラーホイールの一部という特殊な部分に当業者が着目するはずであるとするのは不合理である。原告の主張は,本件発明の構成に基づいて後知恵的に甲第4号証の記載のうち自らに都合のよい部分を取り出そうとする趣旨のもので,不適切である。

そうすると,当業者にとって,甲1発明に甲第4号証に記載の発明ないし技術的事項を適用すること自体や,かかる適用を行って相違点3を解消することはいずれも容易でないが,かかる事情は甲第2号証を主引用例としても異ならない。

6  審決がした甲第5号証に記載の発明ないし技術的事項の認定に誤りはないし,甲第4,第5号証のマウスポインタは本件発明にいう「発光ボリューム部」に相当しない。また,甲第4,第5号証のカラーパレット等はつまみの位置に対応して設けられておらず,甲第4,第5号証の色の選択パネルでは,ワンタッチで白色に変換するようにされていない。

なお,甲第5号証のカラーパレット,色の選択パネルは,甲第2号証の色相角度Hが182度となるときに発色光が白色となる色相角調整器12とはその形状,技術的構造が異なり,上記カラーパレット,色の選択パネルを色相角調整器12と置換することには阻害要因がある。

当業者にとって,甲1発明に甲第5号証に記載の発明ないし技術的事項を適用すること自体や,かかる適用を行って相違点3,4を解消することはいずれも容易でないし,かかる事情は甲第2号証を主引用例としても異ならない。

7  結局,審決には,本件発明の技術的意義の把握の点に誤りはないし,本件発明との相違点に係る構成の容易想到性の判断にも誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  審決は,甲第2号証に記載の発明(甲2発明)を適用することにより,甲1発明と本件発明との相違点1,2は当業者において容易に解消が可能であると判断したが,相違点3,4は更に甲第3ないし第5,第7,第8,第10,第17(審判甲9),第21号証(審判甲6)に記載の発明ないし技術的事項を適用しても,当業者が容易に解消することができず,結局,本件発明は当業者において容易に発明することができるものではないと判断した。

2  甲第2号証のフルカラーLED投光器は,赤色,緑色,青色の三原色の発光ダイオード(LED)の発光の割合を予め定めて所定の色を発光させることができるプリセットコントローラ(10)や,上記発光の割合を無段階調で調整することができる,例えば円筒形のボリューム状の色相角調整器(12)を具備するものであるが(段落【0007】~【0010】,【0019】~【0023】,図2),審決が説示するとおり,光源の発光波長を連続的に変化させる「発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部」は記載も示唆もされていない。また,甲第3,第7,第8,第10号証や,甲第17号証(審判甲9),甲第21号証(審判甲6)にも,かかる「波長スケール部」は記載も示唆もない。

そして,甲第4,第5号証は,コンピュータで画像(ファイル)を作成するグラフィックソフトウェアに関する文献であるから,水中で光源から光を照射して集魚する発明である甲1発明とは技術分野が異なる上,光源を避けて魚群がドーナツ状に遠巻きに集まるため,漁獲効率が悪かったという従来の集魚灯の欠点を回避すべく,魚をより多く,より長時間集合させて,漁獲効率の向上を図るという甲第1号証の技術的課題(甲1の1頁右下欄~2頁右上欄)は,甲第4,第5号証には記載も示唆もなく,技術的課題に共通性がない。加えて,甲第1号証には,光源の発光色の変更の操作を容易にするべく,光源の発光波長を連続的に変化させる「発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部」の構成を採用することに関しては記載も示唆もなく,甲1発明にかかる構成を採用する動機付けがない。そうすると,当業者において甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を甲1発明に適用することが容易であるとすることはできない。また,甲第4,第5号証には,三原色の各色の比率や,明暗の度合いが連続的に変化することで,その内部に配置された色が連続的に変化する様子を視覚的に確認できる図形を用意し,マウスでこの図形の所望の箇所をクリックして選択することにより,上記三原色の各色の比率と明暗の度合いを設定するという,コンピュータソフトウェアであるグラフィックソフトウェアに特有の構成が記載されているにすぎないから(甲4の47,48頁,甲5の61,62頁),コンピュータ装置を離れて,例えば本件明細書の図4のように,左右方向にスライドするつまみの上部に,つまみの位置と対応する発光色を示す,可視光領域のスペクトルを模したスケール(ガイド,目盛り)を設け,上記つまみを上記ガイドに合わせてスライドさせることで,集魚灯の発光色を所望の色に自由に変化させる(本件明細書の段落【0042】)といった,集魚灯装置と具体的に結び付いた構成には,甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することによっても,当業者が容易に想到することができないというべきである。

なお,本件優先日当時,甲第4,第5号証に記載されているような,三原色の混合割合や明度等に応じて連続的に変化する色を例えば円環や矩形の内部に適宜配置して,所望の色に応じた箇所を選択することにより,意図した色を視覚的に選択する機構を用意することが,集魚灯,水中灯を含む照明器具の技術分野のみならず,色の調整,選択を行う各種の技術分野においてごくありふれたものであったとまで認めるに足りる証拠はないから,甲第4,第5号証に代表されるような当業者の技術常識,慣用技術を適用すれば,本件優先日当時,当業者において相違点3の解消が容易であったともいうことができない。

結局,甲1発明に甲第4,第5号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することにより,当業者が本件発明にいう「発光波長ボリューム部の設定位置に対応する発光状態を直感的に図示する波長スケール部」の構成に想到することは容易でなく,したがって相違点3の解消が当業者に容易であるとはいえない。

3  甲第2ないし第5,第8,第10号証や,甲第17号証(審判甲9),甲第21号証(審判甲6)には,審決が説示するとおり,本件発明にいう「光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチ」の構成は記載も示唆もない。

甲第7号証は発光色を変化させることが可能な室内照明器具に関する文献であり,種々の発光色と異なる照度で室内のムードを高めると同時に,少数の光源に不良が生じても使用不可になりにくい室内照明器具を提供することをその技術的課題とするものであるから(段落【0002】~【0004】),水中で光源から光を照射して集魚する発明である甲1発明とは技術分野が共通しないし,解決すべき技術的課題も共通するものではない。また,甲第1号証には,「光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチ」の構成を採用することに関して記載も示唆もなく,甲1発明にかかる構成を採用する動機付けが存しない。しかも,甲第7号証の段落【0016】には,光源となる赤色,緑色,青色の発光ダイオードをそれぞれ最大の発光強度(フルパワー)で発光させることにより,白色光で発光させ,従来のランプ型電気スタンドのように用いることができる旨が記載されているが,甲第7号証には,ワンタッチすなわち1回の操作で白色発光させるためのスイッチ等につき記載されていないのはもちろん,いかなるスイッチ等で最大発光強度で白色発光させるのかについてすら明らかにされていない。

そうすると,当業者にとって,甲1発明に甲第7号証に記載の発明ないし技術的事項を適用すること自体が困難であるし,ましてや本件発明にいう「光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチ」の構成に想到するのは容易でないというべきである。

結局,本件優先日当時,甲1発明に甲第2ないし第5,第7,第8,第10,第17,第21号証に記載の発明ないし技術的事項を適用することにより,当業者において相違点4を解消することは容易でないというべきである。

4  したがって,当業者において相違点3,4に想到することができないとした審決の判断に誤りはない。

5  原告は,本件発明の構成Eにいう「波長スケール部」の構成は,目盛りの表示の仕方という一般的な技術に属するものであって,集魚灯等の特定の技術分野に属するものではなく,審決は上記構成Eの技術的意義の把握を誤ったものである旨を主張するが,前記2のとおり,上記構成Eにいう「波長スケール部」の構成が,集魚灯等の特定の技術分野を超えて普及し,ごくありふれたものとなっていることを認めるに足りる証拠はないし,本件明細書(甲11)の段落【0016】の記載から上記構成Eを備えることによって奏される作用効果を把握した審決の認定判断にも誤りはないから,原告の上記主張には理由がない。

原告は,審決は本件発明の構成Fの技術的意義の把握を誤ったものである旨を主張するが,本件明細書の段落【0044】には,「そこで,白色光にワンタッチ切り替え可能な白色光スイッチ14を装備することにより,このような事態を防止することができる。すなわち,遠くにいる漁獲対象生物を漁船Sの近傍に寄せるまでは発光波長を制御した単色光を使用し,その後,単色光から白色光へスイッチで切り替えることで,近傍に集魚した対象魚を取り逃がさないようにしつつ,作業者に負荷の少ない光環境を作ることが可能である。」と記載されており,かかる作用効果(技術的メリット)が本件発明にいう「光源の発光色をワンタッチで白色に変換する白色光スイッチ」を備えることによって奏されるものであることは明らかであり,審決に上記構成Fの技術的意義の把握の誤りは存しない。

原告は,甲第1号証に記載の甲1発明と甲2発明を組み合わせたもののうち後者の発明に係る部分に他の発明を組み合わせれば,相違点3,4は解消可能である旨を主張するが,甲1発明と甲第2号証に記載の発明ないし技術的事項を組み合わせたものは,水中灯ないし集魚灯の発明であって照明器具一般の発明ではないから,原告のような組合せを行ったところで結論が異なるものではないし,仮に甲1発明と甲第2号証に記載の発明ないし技術的事項を組み合わせたものが照明器具一般や投光器の発明であるとすれば,集魚灯の発明である本件発明に想到することはより困難となるから,いずれにしても原告の上記主張は採用できない。また,審決は甲第2号証を主引用例として本件発明と対比しているわけではないが,被告らにおいて,予備的反論として,甲第2号証を主引用例とする場合の本件発明の容易想到性を主張しているので検討するに,甲第2号証を主引用例としても,甲1発明は水中灯の技術分野に属し,必ずしも甲第2号証と技術分野が共通であるとはいえず(甲2の段落【0024】,図8には,フルカラーLED投光器を水槽の照明に用いる実施例が記載されているが,これはあくまで水槽の上部,したがって水の外に光源を設置して照明する態様のもので,水中に光源を投入する集魚灯と同視することができないのはもちろん,船上に吊して用いる集魚灯とも同視するのは困難である。),解決すべき技術的課題も異なるものである。そうすると,この点において既に,甲1発明を甲2発明に適用することが容易であるということはできない。加えて,前記のとおりの甲第4,第5,第7号証が属する技術分野,解決すべき技術的課題及び記載内容に照らせば,甲第2号証に記載の発明に甲第4,第5,第7号証に記載の技術的事項を適用して本件発明に係る構成に想到することは当業者にとって容易でないことは明らかである。

また,進歩性欠如に関する無効理由を裏付けるものとして提出された審判甲1ないし10号証をどのように組み合わせても,本件発明の構成に至ることが容易想到でないことは,以上の説示から明らかである。

6  結局,本件発明の進歩性欠如をいう原告主張の無効理由は理由がなく,審決がした本件発明の進歩性判断に誤りはない。

第6結論

以上によれば,原告が主張する取消事由は理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 真辺朋子 裁判官 田邉実)

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