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知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10188号 判決 2012年11月29日

原告

サクラインターナショナル株式会社

被告

ザグッドウェアコーポレイション,

インコーポレイテッド

訴訟代理人弁護士

鈴木修

磯田直也

同弁理士

青木博通

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が取消2011-300162号事件について平成24年4月23日にした審決を取り消す。

第2争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

(1)  被告は,下記商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。

登録番号 第4660048号

出願日 平成14年3月8日

登録日 平成15年4月4日

商標 別紙記載1のとおり

商品及び役務の区分 第25類

指定商品 米国製のスウェットパンツ,米国製のベスト,米国製のティーシャツ,米国製のスウェットシャツ,米国製のその他の被服,米国製のガーター,米国製の靴下止め,米国製のズボンつり,米国製のバンド,米国製のベルト,米国製の履物,米国製の仮装用衣服,米国製の運動用特殊衣服,米国製の運動用特殊靴

(2)  原告は,平成23年2月14日,特許庁に対し,請求人が本件商標に類似する商標(後記使用商標1~3)を本件商標の指定商品に使用し,その使用は,他人の業務に係る商品と混同を生ずるものであり,また,商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じるものであるとして,商標法51条1項に基づき,本件商標登録を取り消すことについて審判(取消2011-300162号事件)を請求した(以下「本件審判」という。)。特許庁は,平成24年4月23日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同年5月3日に原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は次のとおりである。

(1)  使用商標及び使用商品について

使用商標1(別紙記載2のとおり)及び使用商標2(「GOOD WEAR」及び「グッドウェア」の文字よりなる。)は,大協産業株式会社(以下「大協産業」という。)によって同社のホームページにおいて使用されているものである。

使用商標3(別紙記載3のとおり)は,商標権者である被告(及び取扱者である大協産業)が自己の商標として,商品「ティーシャツ」について使用したものと認めることができる。

(2)  商標及び商品の類否について

ア 本件商標と使用商標3は類似の商標ということができる。

イ 使用商標3が使用されている商品は,本件商標の指定商品である「米国製のティーシャツ」の範ちゅうに含まれるから,その使用は本件商標の指定商品と同一の商品に使用するものである。

(3)  商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用について

使用商標1~3の使用は,商品の品質若しくは役務の質の誤認を生じる使用には当たらない。

(4)  他人の業務に係る商品との混同について

引用登録商標1,2(別紙記載6,7のとおり)及び引用使用商標(別紙記載9のとおり。以下,これらの引用商標を総称して「引用商標群」という。)は需要者に広く認識されているものとはいえず,かつ,使用商標1~3と引用商標群は,共通する「Goodwear」の文字部分の意味合い,輪郭線(輪郭部)の有無,書体及び色彩の違い,図形の有無という明らかな差異を有することから,両者の類似性は弱く,使用商標1~3をその使用商品へ使用したとしても,これに接する取引者,需要者が,引用商標群ないしは引用商標権者を連想,想起することはないものというべきであって,使用商品についての使用商標1~3の使用は「他人の業務に係る商品であるかのごとく,商品の混同を生ずるものをしたとき」には当たらない。

(5)  故意について

被告による使用商標3の使用について,その指定商品に使用するに当たって,商標法51条1項所定の「故意」を認めることはできない。

第3当事者の主張

1  取消事由に関する原告の主張

審決は,他人の業務に係る商品との混同についての判断を誤り,(取消事由1),品質誤認行為についての判断を誤り(取消事由2),故意の使用についての判断を誤った(取消事由3)もので,審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(他人の業務に係る商品との混同についての判断の誤り)

ア 審決には,現実に使用された襟ネーム1(別紙記載4のとおり。使用商標3が表示されている。)と現実に使用された引用商標(襟ネーム1)(別紙記載10のとおり。以下「引用襟ネーム1」という。),引用商標(襟ネーム2)(別紙記載11のとおり。以下「引用襟ネーム2」という。)との混同に対する評価について判断の誤りがある。

イ 比較されるべき本件商標に類似する使用商標と引用商標について

(ア) 本件商標に類似する使用商標(以下「本件使用商標」という。)は,原告が,大協産業が直接経営するネットショップ「CURRENT PRICE」から平成23年1月14日に購入した商品(甲5)に付された唯一の商標であり,審決において,本件商標の類似の使用と認定されたものである。同商品には「Goodwear®」以外に商標は見当たらない。

(イ) 引用襟ネーム1は,原告及びその元ライセンシー3社により平成11年より使用されていた襟ネームであり,当時の商品(甲57~甲62)に付されたものである。引用襟ネーム2は,登録番号第5393150号商標(平成22年12月9日出願,平成23年2月25日登録。別紙記載12のとおり)及び登録番号第5429546号商標(平成23年2月15日出願,同年8月5日登録。別紙記載13のとおり)の通常使用権者であるハワード株式会社が平成22年4月より平成23年6月にかけて販売した商品(甲63~甲66)に付されたものである。

原告は,「Good Wear」に関する登録商標群の前権利者ビーグッドカンパニー株式会社より現権利者サクラグループ有限会社に至るまで,同商標群について平成3年から約20年の使用実績を有している。その中でも上記引用襟ネーム1,2に使用されている商標(以下「引用使用商標」という。別紙記載9のとおり)は,原告により,遅くとも平成11年より登録番号4105562号商標(平成8年4月出願,平成10年1月登録。以下「引用登録商標3」という。別紙記載8のとおり)の社会通念上同一の商標(少なくとも類似商標)として現在に至るまで継続的に使用されてきたものである。ちなみに,引用登録商標3は,平成20年1月,原告の更新失念により権利が消滅したが,引用使用商標は,現在に至るまで継続的に使用されていた。

ウ 「Good Wear」の識別力について

(ア) 「Good Wear」,「Goodwear」は,いずれも「良い被服」と訳され,第25類で使用される場合は商標法3条1項3号の「商品の品質」を表示するものに該当するとして特許庁によって拒絶査定されている。したがって,単独の登録は不可であり,他の文字,図形との結合商標,又はデザイン性の加味によってのみ登録が可能とされている。

しかし,現実のアパレル業界で,服の品質を「グッドウェア」などと表現することはほぼ皆無であることから,特許庁の判断基準とは異なり,第25類に使用された場合においても,「Good wear」,「Goodwear」は,その取引者,需要者にとって十分に識別性を有する商標として成立している。

(イ) 本件においては,①一般にアパレルに対する品質表示,品質表現として使用が皆無である「Good wear」,「Goodwear」という単語を要部として含む商標が類否判断の対象であること,②本件両商標を付した商品の需要者は,商標法に精通している者ではないこと,③実際の使用において,両商標の「Good wear」,「Goodwear」部分が,ベージュの背景に白枠が施された大きな赤い字という外観的構成において特別顕著性を有し,強く支配的な印象を与える要部となっていること,④現実に,それぞれのブランドが「グッドウェア」と称呼され,「Good wear」,「Goodwear」と記載されて,需要者間で認識されていること等より,「Good wear」,「Goodwear」が日本訳で商標法3条1項3号に該当することは,需要者にとっての識別性に何ら影響を与えるものではない。

したがって,「Good wear」,「Goodwear」の識別性が弱いとする審決の判断は,全くの誤りである。

エ 本件使用商標と引用使用商標の類似について

(ア) 需要者の認識

原告及び被告の両商標権者が各々の登録商標を使用した結果,取引者,需要者間では,共に「グッドウェア」と称呼され,被告の商標は「Goodwear」,「GOODWEAR」などと表記され,原告の商標は「Good Wear」,「GOOD WEAR」などと表記されてきた。その結果,それぞれの取引者,需要者にとっては,「Goodwear」部分及び「Good Wear」部分が,それぞれ識別性を有する商標の要部となった。

(イ) 要部観察

a 称呼

両商標の称呼は,「グッドウェア」と完全一致である。

b 観念

「Goodwear」と「Good Wear」より想起される観念は,「良い被服」であり,一致する。

c 外観

本件使用商標は,「Good」と「wear」を結合してなるものである。引用使用商標では,「Good」と「Wear」の間にスペースを挿入しているが,実際の引用使用商標は,正確に表現するなら,「Good」と「Wear」の間に約2mm のスペースがあり,大文字の幅は約6~11mm,小文字の幅は約4~5mm であるので,大文字換算0.18~0.33スペース,小文字換算0.4~0.5スペースであり,文字間のスペースについては,需要者間では識別性に有意に働く程の意義を有していない。

本件使用商標は,「G」のみが大文字であるが,引用使用商標は,「G」及び「W」が大文字である。しかし,大文字,小文字については,需要者(特に消費者)にとって識別性に有意に働く程の意義を有していない。

本件使用商標は,センチュリーゴシック体を,引用使用商標は,ヒイラギ角ゴシック体をほぼ忠実に使用しているものと思われるが,両書体とも,日常よく目にするありふれた書体であることより,需要者間では字体の差異が識別性に有意に働く程の意義を有していない。

両商標とも,色彩は赤という点で一致し,白の縁取りがされているという点でも一致する。

以上より総合的に判断して,本件使用商標と引用使用商標のそれぞれの要部である「Goodwear」部分と「Good Wear」部分との外観上の差異はほぼ皆無である。

d まとめ

したがって,本件使用商標と引用使用商標は,それぞれの要部である「Goodwear」部分と「Good Wear」部分において,称呼及び観念において完全に一致し,外観においてもほぼ一致するから,社会通念上,酷似するものである。

(ウ) 全体観察

a 対比観察

取引者,需要者の通常の観察力,注意力をもって判断した場合,本件使用商標が表示された襟ネーム1において,要部以外の部分は,付記的表記であり,商標と判断される部分は存在しない。「Exclusive for monogram Corp.」は出所を表示するものとして認識される可能性はあるものの,同一商品の襟ネーム2において同部分は「for T's CUSTOM MADE」と表記され,異なる表記部分ということで,需要者は同部分を購入する際のメルクマールとはしないとみるのが合理的である。

一方,引用使用商標においては,要部以外に,「G が三角形にデザインされた部分」が存在し,同部分から特に観念は生じないが,「ジー」の称呼を生じる可能性がある。しかし,20年にわたる使用実績において,引用使用商標が「ジー」,「ジー・グッドウェア」,「グッドウェア・ジー」と称呼され,あるいは表記されたことはなく,実際の需要者間では,「G が三角形にデザインされた部分」よりも「Good Wear」が出所識別機能を有する部分として圧倒的に支持された証左であり,その結果,称呼としても「グッドウェア」のみが定着したという現実がある。したがって,実際の取引者,需要者の通常の観察力,注意力をもって判断した場合,両商標は,ベージュを基調とする襟ネームに出所識別標識として強く支配的な印象を与える一際大きな赤文字でかつ白で縁取りされた「Goodwear」及び「Good Wear」部分の外観上の特別顕著性及び酷似性から,非常に類似していると判断するのが妥当である。

b 隔離的観察

最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決(民集17巻12号1621頁)判示のとおり,特に最終需要者である消費者の立場に立った場合,襟ネーム等の商標確認に費やす時間は一瞬であり,大部分の時間は商品自体をチェックすることに費やされる現状を考慮したとき,両商標の要部が酷似し強く支配的な印象を与えること,その他の大きな黒字部分(本件使用商標が表示された襟ネーム1においてサイズ表示部分(アルファベット1文字又は2文字),引用使用商標の「G」のアルファベット1文字)があったことを漠然と記憶する程度である。

したがって,隔離的観察によれば,本件使用商標と引用使用商標は,酷似であると判断するのが妥当である。

オ 商品の類似について

本件使用商標を付した商品は,引用使用商標に係る商品と混同を生じる程度に類似している。

カ 実際の混同例

(ア) 取引者による混同例

甲49には,「大手カジュアルチェーンなどで販売されている日本商社のライセンス生産品ではありません。……米国生産品(当店取扱)と日本商社による中国製ライセンス生産品と多少サイズが異なります」との記載が,甲50には,「実は,日本で販売している GOODWEAR 商品の多くは,中国のライセンス生産品」との記載がある。

本件商標は,実際に中国製の販売は行っていないので,上記「日本商社による中国製ライセンス生産品」,「中国のライセンス生産品」とは,引用商標の業務に係る商品を指していることとなる(実際に,引用商標の業務に係る商品には,米国製のみならず,中国製,韓国製も多数存在する。)。上記文面からは,「引用商標の業務に係る商品」に関して,「米国法人である被告」が「日本の商社」に使用許諾をしているという記載がなされているが,全く事実無根である。

したがって,上記記載は,出所は別であるが何らかの関係があると誤信する広義の混同が実際に生じている証拠である。

(イ) 消費者による混同例

甲51は,消費者による上記(1)の混同例と全く同種の混同例である。

(ウ) 古着屋による混同例

甲52は,掲載商品は,引用使用商標に係る商品であるにも関わらず,説明文中では,出所を被告としている混同の例である。

キ 広知性について

(ア) 審決は,「引用商標群が需要者に広く認識されているものと認めることはできない」(21頁4行~5行)とした。

しかし,周知,著名と認定される商標のみの保護を商標法51条の保護対象とする考え方は,明文上規定のない要件の加重であり,適切ではない。同条が周知,著名性を要件とするのであれば,約173万件存在する既登録商標中の約千件が対象ということになり,そのような特異なケースのみを本条が想定しているのであれば,きちんとした明文規定が必要である。同条は,登録商標の専用権に付随する禁止権の反射的効果として,使用権の濫用により商標登録制度の根本である商品と出所の対応規律を壊すことに対する制裁であり,需要者の不利益,正当使用者の不利益を回避すべく全ての商標を使用するものへ均等に与えられた権利であると考えるのが妥当である。

したがって,同条の「他人の商標」に広知性を要求することは,商標法の趣旨に反すると解釈するのが適切である。

(イ) また,審決は,引用商標の年間売上げ「2億円ないし10億円」を評して,アパレル業界の規模4.1兆円/年に比して微々たるものと指摘するが,第25類の登録商標だけでも約33万件あり,1商標当たりの売上げは約1250万円/商標/年となり,これと比較しても引用商標の売上げは決して少ないものとはいえない。引用商標の使用実績が約20年にわたることを加味すれば,引用商標は,日本全国規模においての広知性とまではいかなくても,少なくとも特定の需要層に対するある程度の広知商標であるといえる。

(2)  取消事由2(品質誤認行為についての判断の誤り)

本件使用商標は,「Goodwear」に「®」を付しているが,「Goodwear」は,登録されていない商標である。日本において,「®」を登録商標表示として使用している例も多く,そのような「®」の使用に際しては傍らに「○○は□□社の登録商標です」と小さく記載されている例も少なくないことから,日本の消費者は,「®」を登録商標表示と理解しているものと容易に推測できる。したがって,本件使用商標「Goodwear」に「®」付して使用する行為は,商標法74条にいう登録商標以外の商標に商標登録表示と紛らわしい表示を付する行為(1号)及びその商品を使用する行為(2号)に該当する。

また,商標審査基準の「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」によれば,「商標の付記的部分に「JIS」,「JAS」,「特許」,「実用新案」,「意匠」等の文字又は記号があるときは,これらの文字等が補正により削除されない限り本号の規定を適用するものとする」とされている。上記「JIS」,「JAS」,「特許」,「実用新案」,「意匠」等の文字,記号に共通することは,権利の公示を表す付記的表示ということになる。その意味においては,「登録商標」表示も,登録により「商標に関して他人の権利を侵害しないことを商標法に基づき特許庁が保証していること」を想起させ,ある種の権利の合法性を保証するという意味で,それが付された商品の品質及び役務の質を表す表示である。具体的には,「®」が,商標権者又は使用権者によって,指定商品,指定役務に付された登録商標に適正に表示されている限り,「他人の業務に係る商品若しくは役務との混同」による処罰がされないという合法性が保証されていることを需要者に示すものであり,取引者,需要者に同法上の取引の安全性を保証する効能があり,また,それを付された商標が他人の商標権を侵害しないこと等の合法性を商標法に基づき特許庁が保証していることを需要者に想起させるから,そのような合法性を商品購買の一つの基準とする取引者,需要者にとっては,「商品の品質若しくは役務の質」を表す表示である。さらに,本件商標のように,商標法3条1項該当商標に対する虚偽表示は,「長年の使用による著名性の獲得」という同条2項の登録要件をクリアーしたということを意味し,登録査定時点で既に一定の知的財産価値を具備していることを商標法が裏付けているとの効果があり,不正競争を惹起する。すなわち,被告は,「Goodwear」の拒絶査定が確定したにもかかわらず,当該拒絶査定された商標に「®」を付すことにより,同商標が日本の登録商標であると取引者,需要者をして誤認させ,登録商標であることの虚偽の表示を背景に,伝統,元祖,老舗等を連想させ,競合商標に対して優位性を発揮する。

したがって,「Goodwear」に「®」を付した本件使用商標は,商標登録表示に関する虚偽表示,誤認惹起表示に該当し,その使用は,当該商品の品質の誤認を生じさせるおそれのある行為である。

(3)  取消事由3(故意の使用についての判断の誤り)

審決は,「被請求人による使用商標3の使用について,その指定商品に使用するにあたって,商標法第51条第1項所定の「故意」を認めることはできないというべきである」(23頁8行~10行)としたが,「商品の品質若しくは役務の質の誤認」の故意について判断していない。

被告は,「Goodwear」が登録商標でないこと,及び登録を拒絶査定された商標であることを認識しながら,当該商標を登録商標であるかのごとく取引者,需要者を錯誤させる目的で「®」を付記的表記として使用したのは明らかである。すなわち,取引者,需要者が「Goodwear」を登録商標であると錯誤するおそれを認識し,かつ,それを目的として,故意に誤認惹起表示をしたのであるから,故意に「商品の品質若しくは役務の質の誤認」を生じさせたときに該当する。

また,被告は,本件使用商標の使用により,少なくとも原告の業務に係る商品(引用商標群を付した原告及びその関連企業の商品)との混同のおそれを予見・認識していた。したがって,「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる」ことの故意が認められる。

2  被告の反論

(1)  取消事由1(他人の業務に係る商品との混同についての判断の誤り)に対し

ア 引用商標群の広知性

(ア) 審決が判断するとおり,商標法51条に規定する「他人の業務に係る商品との混同」を生じさせるためには,当該他人の業務を示す商標等の表示が広く知られていること(周知ないし著名であること)が必要と解すべきである。実際の裁判例でも,出所の混同を肯定する際に他人の使用商標の周知著名性を認定している(東京高等裁判所平成10年6月30日判決・知的財産権関係民事・行政裁判例集30巻2号396頁等)。

(イ) 本件において,原告は引用商標群が付された商品の年間売上げが2億ないし10億円に上るとか,引用商標群の使用実績が約20年にわたる等主張しているが,いずれの事実についてもそれらを証する具体的な証拠は一切提出されておらず,引用商標群が広く認識されていたとの事実は,証拠上認めることができない。

イ 本件使用商標と引用使用商標が類似しないことについて

(ア) 「Goodwear」,「Good Wear」の識別力

本件使用商標と引用使用商標に含まれる「Goodwear」,「Good Wear」の文字部分は,全体として「良い被服(着るもの)」 程度の意味を持つ英語であり,商品分類第25類の「被服」に含まれる商品との関係では,出所識別力が非常に弱いものである。このことは,原告が平成22年12月9日に出願した文字商標「Good Wear」(乙1)につき単に商品の品質を表示するにすぎず,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないとして,商標法3条1項3号により登録を拒絶されている(甲23)ことからも明らかである。その後,原告は,「Good Wear」の文字部分と「G」を模した図形部分を結合させた商標を出願することで初めて商標登録が認められた(乙2,3)。

(イ) 本件使用商標の著名性

本件使用商標は,本件商標とともに,日本において周知,著名となっている。すなわち,本件使用商標は,米国商標登録第2,452,350号(甲53の3)にあるように,遅くとも1983年(昭和58年)6月14日より被告によって米国で使用が開始された後,日本では,遅くとも平成2年より現在まで20年以上にわたって本件使用商標を付した商品の販売がされている。この点,上記販売開始直後の平成5年3月17日発行の雑誌「POPEYE」(甲53の4)に株式会社ソーズカンパニーが本件商標及び本件使用商標に係るティーシャツを取り扱っていることが紹介されている。「ファッションブランド年鑑2002年」(甲53の5)には,本件使用商標に係るティーシャツの販売店の一つとして株式会社百又が掲載され,本件商標等の使用に係るティーシャツの年商が同社だけで5億円であることが記載されている。本件商標等の使用に係るティーシャツを扱うのは,上記株式会社百又のみではなく,海外の高級品を集めて販売するいわゆるセレクトショップの代表格である株式会社ビームスほか,多数の小売店やオンラインショップを通じて販売されてきた(甲2,3,4,9,32,49等)。また,遅くとも平成16年から現在に至るまで,株式会社ソニークラブ(平成19年より株式会社ライトアップショッピングクラブ)の発行する通信販売カタログ「HD ザ・ヘビーデューティ・カタログ」でも本件商標及び本件使用商標を使用してティーシャツが販売されている(甲53の6~11)。このように20年を超える長年の販売により,本件商標及び本件使用商標は,商品「ティーシャツ」について日本国内で周知,著名となっているものである。

(ウ) 本件使用商標と引用使用商標との類否

本件使用商標と引用使用商標とを対比すると,両者は英単語である「good」と「wear」とを含む点では共通するものの,本件使用商標は「Goodwear」という文字のみからなるのに対し,引用使用商標では「Good Wear」という文字の下にアルファベット大文字の「G」を逆三角形にデザインした図形が表示されている点で,外観上大きく相違する。また,上記文字部分のみに着目してみても,本件使用商標では,「Goodwear」と,両単語の間にスペースを入れることなく,通常の用法に反して両単語を結合して「G」のみを大文字として一語の形で表示しているのに対し,引用使用商標では,通常の用法どおり両単語の間にスペースを入れ,両語の頭文字を大文字にして表示している点で外観上相違する。また,両商標は一見して書体が異なっていることが分かる。

以上のような相違点と,引用使用商標が取引者,需要者に広く認識されてきたとはいえないこと,及び本件使用商標が取引者,需要者の間で周知,著名であったとの事情を考慮すれば,本件使用商標と引用使用商標が示す出所につき誤認混同させるおそれはなく,両商標は類似しない。

(2)  取消事由2(品質誤認行為についての判断の誤り)に対し

ア 商標法51条1項は,「指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認……を生ずるものをしたとき」と規定しており,その文言から,登録商標又はその類似商標の使用によって「商品の」品質若しくは「役務の」質に誤認を生じせしめることを要件としていることが明らかである。これに対して,商標法74条1号,2号は「商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為」と規定して,「表示」自体の使用行為を規制するものであって,「商品の」品質若しくは「役務の」質とは全く関係がない。

よって,商標法74条1号,2号違反の行為が「商品の品質若しくは役務の質の誤認」を生じると解する余地はない。

イ 原告は,「JIS」,「JAS」,「特許」,「実用新案」,「意匠」といった文字又は記号を含む商標が商標法4条1項16号に規定する「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」に該当すると説明する商標審査基準を引用した上で,上記文字又は記号の全てが「権利の公示を表す付記的表示」と断じて,「登録商標」表示も,登録により商標に関して他人の権利を侵害しないことを商標法に基づき特許庁が保証していることを想起させ,ある種の権利の合法性を保証するという意味で,それが付された商品の品質及び役務の質を表す表示であると主張するが,牽強付会というほかはない。「®」を含む「登録商標」に関する表示が「商品の」品質若しくは「役務の」質に関連しないことは,同審査基準において「登録商標」に関する表示があえて記載されていないことからも明らかである。したがって,この点でも原告の主張は失当である。

また,原告は,合法性という商品の品質,役務の質に関して誤認を生じさせるなどと主張するが,その主張するところも専ら「®」という記号表示の合法性をいうものにすぎず,「商品の」品質若しくは「役務の」質との関連性は何ら明らかにされていない。よって,原告の主張は失当である。

(3)  取消事由3(故意の使用についての判断の誤り)に対し

被告の本件使用商標の使用行為は,客観的に「商品の品質若しくは役務の質の誤認」又は「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同」を生ずるものには該当しないから,当然のことながら,被告にそれらの認識も認容もない。

第4当裁判所の判断

1  取消事由1(他人の業務に係る商品との混同についての判断の誤り)について

(1)  審決は,使用商標1(別紙記載2のとおり)及び使用商標2(「GOOD WEAR」及び「グッドウェア」の文字よりなる。)は,大協産業によって同社のホームページにおいて使用されているものであり,使用商標3(別紙記載3のとおり)のみについて,商標権者(被告)が,商品「ティーシャツ」について使用したと認定したものであるところ,原告はこの認定を争わないので,以下,使用商標3について,商標法51条1項の使用に該当するかについて検討する。

使用商標3が表示された襟ネーム1(別紙記載4のとおり)は,原告が平成23年1月14日に大協産業の運営するインターネットショップ「CURRINT PRICE」から購入したティーシャツに付された襟ネームに表示されているものであり,同襟ネーム2(別紙記載5のとおり)は,原告が同月13日に同インターネットショップから購入したティーシャツに付された襟ネームに表示されているものである(甲5~8)。

(2)ア  「Goodwear」,「Good wear」の識別力

「Goodwear」,「Good wear」の文字部分は,「good」が「良い」,「wear」が「衣服,着用」等の意味を有する,いずれも親しまれた英語であって,全体として「良い被服(着るもの)」程の意味合いを容易に認識させるものであるから,当該文字自体は,商品「ティーシャツ」との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は弱いものと認められる。

原告は,「Good Wear」等は,原告らの使用の結果,取引者,需要者にとって識別性を有する商標の要部となったと主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

イ  使用商標3と引用使用商標との類否

(ア) 外観

使用商標3は,別紙記載3のとおり,「Goodwear」の文字とその右上に小さく配された「®」の記号からなるものである。引用使用商標は,別紙記載9のとおり,「Good Wear」の文字を横書きした下に,アルファベット大文字の「G」を逆三角形にデザインした図形が表示され,更にその下に「AUTHENTIC CLOTHING」の文字を横書きしてなるものであり,「Good」と「wear」の文字部分を共通にするものの,全体の外観は異なるものである。

(イ) 称呼

使用商標3は,「Goodwear」の文字から,「グッドウェア」の称呼を生じるものと認められる。引用使用商標は,「Good Wear」の文字から「グッドウェア」の称呼を,「G」を逆三角形にデザインした図形から「ジー」の称呼を,「AUTHENTIC CLOTHING」の文字から「オーセンティッククロージング」の称呼を生じるものと認められるから,両者は,「グッドウェア」の称呼を生じる点で一部共通するものである。

(ウ) 観念

使用商標3は,「Goodwear」の文字から「良い被服(着るもの)」の観念が,「®」の記号から「登録商標」の観念が生じると認められる。引用使用商標からは,「Good Wear」の文字から,「良い被服(着るもの)」の観念が,「AUTHENTIC CLOTHING」の文字から,「本物の衣服」,「正統な衣服」程の観念が生じると認められるが,「G」を逆三角形にデザインした図形からは特定の観念が生じるとは認められない。したがって,両者は,「良い被服(着るもの)」の観念を生じる点で一部共通するものである。

(エ) 以上から,本件使用商標と引用使用商標を対比すると,いずれも「グッドウェア」の称呼と「良い被服(着るもの)」の観念を生じる点で一部共通するものの,同文字部分は,商品「ティーシャツ」との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は弱いものであることは上記アのとおりであり,また,外観においては異なるから,その類似の程度は弱いものというべきである。

ウ  引用使用商標の広知性

(ア) 原告が混同行為と主張する行為(使用商標3の使用)が行われた平成23年1月当時において,引用使用商標が原告の業務に係る商品「ティーシャツ」の表示として,当該商品の取引者,需要者の間で広く知られていたと認めるに足りる証拠はない。

原告は,引用商標群の年間売上げが2億円ないし10億円であると主張するようであるが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。原告は,引用商標群の宣伝広告状況,売上げ実績等を立証するとして,甲71(A作成の平成24年7月9日付け陳述書),甲72(B作成の平成24年8月2日付け陳述書,)甲73(C作成の平成24年8月2日付け陳述書)及び甲74(原告代表者作成の平成24年8月3日付け陳述書)を提出するが,これらは,いずれもその体裁から本件訴訟に提出するために作成された陳述書と認められるところ,そこに記載された販売数量,売上高等についての客観的な裏付け資料を欠くものであり,また,これらの陳述書に添付された雑誌等に紹介された原告製品の写真を見ても,引用使用商標が目立つように表示されたものは見当たらず,これらの証拠から引用使用商標が取引者,需要者の間で広く知られていたと認定することはできない。

(イ) 審決は,「引用商標群が需要者に広く認識されているものと認めることはできない」(21頁4行~5行)としたものであるところ,原告は,商標法51条の他人の業務を示す表示に広知性を要求することは商標法の趣旨に反すると主張する。しかしながら,当該他人の業務を示す表示が取引者,需要者に広く知られていなければ,当該他人の業務に係る商品との混同は生じ難いから,審決の上記説示が誤りであるということはできない。

エ  また,原告は,実際に混同が生じているとして,甲49~52を提出する。

しかしながら,甲49~51の記載をみても,そこに記載された「中国製ライセンス生産品」が原告に関連する商品を示していると特定できる記載はなく,また,甲52は原告商品を被告の商品として紹介するもの(原告商品を被告の商品と混同したもの)であるから,これらの証拠は,いずれも原告主張の混同の事実を認めるものではない。

オ  以上検討したところによれば,本件使用商標と引用使用商標の類似の程度は弱いものであり,かつ,引用使用商標は取引者,需要者の間で広く知られていたと認めることはできないのであるから,使用商標3の使用は,原告の業務に係る商品との混同を生ずるものであると認めることはできない。

(3)  したがって,使用商標3の使用について,商品の出所について混同を生じさせるおそれはないとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(品質誤認行為についての判断の誤り)について

(1)  原告は,本件使用商標は,登録されていない商標であるのに「®」を付しているから,これが商標法51条1項の品質誤認行為に該当すると主張する。

使用商標3とほぼ同一と認められる「Goodwear」の文字のみからなる商標は米国で商標登録されているものの(甲53の3),使用商標3が我が国において商標登録されていないことは,当事者間に争いがない。また,「®」の記号は,登録商標の表示として,主として米国で用いられている記号であるが,我が国においても,登録商標の表示として使用されることも多く,一般の取引者,需要者においても「®」の記号を登録商標の表示として認識することも多いものと認められる(甲34~42,弁論の全趣旨)。

商標法51条1項の商品の品質の誤認を生ずる使用とは,商標が指定商品の種類を表示又は暗示する標章を含むものであるときに,指定商品と商標が実際に使用されている商品との間に相違がある場合,商標が表示する商品の品質が虚偽の事実を含む場合等をいうものと解される。しかしながら,「®」の記号を商標に付する行為は,これに接する取引者,需要者に当該商標が登録商標であるとの認識を与えるものの,登録商標であるか否かは,当該商標が付された商品の品質を示すものではないから,未登録商標に「®」の記号を付しても,品質の誤認を生ずると認めることはできない。

(2)  原告は,「®」が付されていることにより,それを付された商標が,「他人の業務に係る商品若しくは役務との混同」による処罰がされないという合法性が保証されていることを示すものであるとか,それを付された商標が他人の商標権を侵害しないこと等の合法性を商標法に基づき特許庁が保証していることを想起させるものであるとか,あるいは,商標法3条2項の登録要件をクリアーしたということを意味し,伝統,元祖,老舗等を連想させるなどと主張するが,商品「ティーシャツ」の一般の取引者,需要者は必ずしも商標法の規定を認識しているわけではないから,原告主張のように想起すると認めることはできず,また,原告の主張する上記の点は,商品の品質ということはできない。

したがって,原告の主張は採用することができない。

3  取消事由3(故意の使用についての判断の誤り)について

上記1,2に説示したとおり,使用商標3の使用は,他人の業務に係る商品との混同を生ずるものとも,品質の誤認を生ずるものとも認められないから,故意について検討するまでもなく,商標法51条1項の使用に該当しないことが明らかである。

4  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,ほかに本件審決にはこれを取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 芝田俊文 裁判官 岡本岳 裁判官 武宮英子)

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