知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10190号 判決 2013年1月24日
原告
株式会社ジェッター
同訴訟代理人弁理士
戸島省四郎
被告
特許庁長官
同指定代理人
瀬津太朗
伊藤陽
秋山斉昭
樋口信宏
守屋友宏
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2010-25875号事件について平成24年4月17日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を後記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成18年8月11日,発明の名称を「メダル遊技設備の不正検出装置」とする発明について,特許出願(特願2006-220524。請求項の数3)を行った(甲5の1)。
(2) 原告は,平成22年8月11日付けで拒絶査定を受け(甲12),同年11月16日,不服の審判を請求し(甲13),平成24年3月19日,手続補正書を提出した(甲16。以下「本件補正」という。)。
(3) 特許庁は,上記請求を不服2010-25875号事件として審理し,平成24年4月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は同年5月1日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
本件審決が判断の対象とした本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,以下のとおりである。以下,請求項1に記載された発明を「本願発明」といい,その明細書(甲5の2,甲16)を,図面(甲5の3)を含め,「本願明細書」という。
ホッパーを備えた複数のメダル遊技機にメダルを供給する供給ラインを設け,供給ラインのメダルをメダル遊技機のホッパーへバッチ補給する補給手段を設けたメダル遊技設備において前記補給手段による補給回数から不正と判断して警報する警報手段を設けたメダル遊技設備の不正検出装置であって,同警報手段は,補給手段によるメダルの補給時刻を記憶する記憶部と,補給ある毎にその補給時刻から予め定めた長い時間を遡った間の記憶部が記憶した補給回数がその長い時間に対して不正と判断される所定回数に達している場合は不正があったと判断する長時間監視部と,補給ある毎にその補給時刻から長時間監視部で監視する時間より短い時間を遡った間の記憶部が記憶した補給回数が長時間監視部で監視する単位時間当たりの回数より高い頻度を示す設定回数に達している場合は不正があったと判断する短時間監視部と,前記長時間監視部又は短時間監視部が不正判断した場合に警報信号を出力する警報信号出力部と,同警報信号出力部の出力信号を受けて警報を発生させる警報装置とで構成したことを特徴とする,メダル遊技設備の不正検出装置
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,本願発明は,後記ア及びイの引用例1及び2に記載された発明並びに後記ウ及びエの周知例1及び2に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例1:特開2003-265695号公報(甲1)
イ 引用例2:特開2002-52134号公報(甲2)
ウ 周知例1:特開2003-38831号公報(甲3)
エ 周知例2:特開2006-149953号公報(甲4。平成18年6月15日公開)
(2) 本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明:遊技島は,複数台のスロットマシンを横方向に配置したものであり,各遊技島の一方の端部に,メダル補給装置が設けられており,補給コンベヤは,遊技島において,スロットマシンの上部に,その配列方向に沿ってほぼ水平に一端部から他端まで配置され,補給コンベヤ上には,スロットマシンに対応させて,分岐ユニットが配置され,スロットマシンは,内部のホッパに貯留しているメダルの量を検出しており,貯留メダルが不足すると,エンプティ信号を発信し,補給コンベヤを動作させ,エンプティ信号を発信したスロットマシンに対応する分岐ユニットを駆動し,当該スロットマシンにメダルを補給するようにし,メダル補給装置の制御部は,同じスロットマシンから 所定時間T内に所定回数N以上のエンプティ信号を受けると,すなわち,N-1回目の補給からの経過時間がT以下であると,液晶表示装置に異常と判断したスロットマシンの番号とエラーメッセージとを表示し,更に表示ランプのうち緑色の表示ランプと赤色の表示ランプとを点滅させることにより異常報知を行う遊技島
イ 一致点:ホッパーを備えた複数のメダル遊技機にメダルを供給する供給ラインを設け,供給ラインのメダルをメダル遊技機のホッパーへバッチ補給する補給手段を設けたメダル遊技設備において前記補給手段による補給回数から不正と判断して警報する警報手段を設けたメダル遊技設備の不正検出装置であって,同警報手段は,補給に関する所定時刻から遡った間の時間と補給回数とが所定の関係である場合は不正があったと判断する監視部と,警報を発生させる警報装置とで構成したことを特徴とする,メダル遊技設備の不正検出装置
ウ 相違点1:本願発明は,「補給手段によるメダルの補給時刻を記憶する記憶部」を有しているのに対して,引用発明は,補給時刻を記憶する記憶部を有しているか不明である点
エ 相違点2:本願発明は,警報手段の監視部が,「補給ある毎に」不正があったか否か判断を行うのに対して,引用発明は,補給ある毎でなく,補給要求であるエンプティ信号を受信すると監視を行うものである点
オ 相違点3:本願発明は,警報手段の監視部が監視するのは,補給時刻から予め定めた時間を遡った間の補給回数が不正と判断される所定回数に達しているかどうかであるのに対して,引用発明も,監視するのは所定時間T内に所定回数N以上のエンプティ信号を受けるかであるが,具体的に記載されている監視方法は,エンプティ信号を受信するより前の所定時間内に所定回数以上のエンプティ信号を受け取ったかどうかである点
カ 相違点4:本願発明は,警報手段の監視部が,「長時間監視部」と「長時間監視部で監視する単位時間当たりの回数より高い頻度を示す設定回数に達している場合は不正があったと判断する短時間監視部」の2つの監視部であるのに対して,引用発明は,監視部が1つのみである点
キ 相違点5:本願発明は,警報手段の監視部が「不正判断した場合に警報信号を出力する警報信号出力部」を有し,警報装置が「警報信号出力部の出力信号を受けて警報を発生させる」のに対して,引用発明は,警報信号を出力する構成であるかどうか不明であるため,このような構成でない点
4 取消事由
容易想到性に係る判断の誤り
(1) 相違点の看過
(2) 相違点1及び4に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
1 相違点の看過
(1) 本願発明では,単に長時間監視部と短時間監視部という設定時間Tと設定回数Nとが関係する不正判断基準の異なる2つの監視部が存在するだけでなく,補給ごとに必ず2つの不正判断基準の異なる監視部が同時に作動し,その最新の補給時刻データを使用して,2種の不正判断が同時に行われる。そして,いずれかで不正判断があれば,必ず警報信号と警報が発せられる。したがって,本願発明は,補給ごとに2種の不正判断を行うことによって,より正確な不正判断ができる。また,出力される警報において,「不正警報」が連続的に発生しているか又は不正警報の発生が間欠的になされ,回数が少ないかなどの「不正警報」の時系列的発生状況が分かるから,これにより,例えば,「不正警報」が補給ごとに連続的に発生すると,その不正行為又は機械異常が明白と判断でき,「不正警報」の頻度が低いか又は連続的でなければ,軽い不正か又は電気的ノイズである可能性が高いという判断を行うことができる。
他方,引用発明は,不正判断条件は所定時間Tと所定回数Nとの関係の一種のみである。しかも,1回のエンプティ信号での異常判定でもって不正と断定して異常解除作業(異常の観察・異常個所の発見・その解除作業)を行い,その後,補給履歴が初期化されて検出ステップに戻るから,「異常報知」の信号は,N回以上のエンプティ信号に対し1回の割合しか発生しない。したがって,初期化されてエンプティ信号が受信可能となってからの1,2,3回目(N=4の場合)のエンプティ信号では(N-1)回前の補給履歴がなく,異常判定がされない。
以上によれば,本願発明と引用発明には,「本願発明は,請求項の「補給毎に…不正があったと判断する」との文言のとおり,補給ごとに不正判定条件が異なる長時間監視部と短時間監視部とが両方同時に作動し,長い時間にされる不正行為と短い時間にされる不正行為の有無の判断を補給ごとに最新データでもって行い,補給ごとに不正判断があれば警報信号と警報の出力がされる」との相違点(以下「相違点6」という。)がある。
したがって,本件審決には,相違点6を看過した違法がある。
(2) 引用発明の異常判定は,エンプティ信号ごとにされるとは限らず,異常判定の回数が補給回数(エンプティ信号回数)に比べ少なくなり,異常判断の精度が低い。まして,引用発明では,異常判定後は異常解除作業をして,初期化されるまでの回復の時間は相当長い時間と推定されるので,一度異常判定がされてから初期化後の4回目のエンプティ信号まで,長い間異常の監視がされないこととなる。
したがって,本願発明と引用発明には,「本願発明は,補給ごとに必ず監視部によって不正か否かの判断がなされるが,引用発明はエンプティ信号があっても必ずしも異常か否かの判定をするとはいえない。初期化後の1,2,3回目(N=4の場合)のエンプティ信号では実質的に異常か否かの判定がなされない」との相違点(以下「相違点7」という。)がある。
したがって,本件審決には,相違点7を看過した違法がある。
2 相違点に係る判断の誤り
(1) 相違点1に係る判断について
本件審決は,引用発明は補給要求であるエンプティ信号を受信すると所定時間内に所定回数以上のエンプティ信号を受け取ったか監視するものであり,エンプティ信号を受け取るとメダルの補給を行うものであるから,「補給手段によるメダルの補給時刻を記憶する記憶部」を有していると考えるのが普通であり,引用発明が「補給手段によるメダルの補給時刻を記憶する記憶部」を有していないとしても,メダルが補給される時刻も記憶するように「補給手段によるメダルの補給時刻を記憶する記憶部」を有する構成として相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易にすることができる程度のことにすぎないと判断した。
しかし,「補給手段によるメダルの補給時刻を記憶する記憶部」は,他のプログラム手法でも可能である。例えば,時刻を記憶しなくとも,引用発明の所定のエンプティ信号の時点からのエンプティ信号の回数を計算するプログラムソフトのカウンターと,そのエンプティ信号時点からの時間を計測するプログラムソフトのタイマーの一対の組を,連続して続くエンプティ信号用にN-1組のプログラムソフトで用意することでも行うことができるから,引用発明は,必ずしも補給時刻をメモリに記憶させることに限るものではない。
また,引用例1では,エンプティ信号の受信時刻と補給時刻又はその両方の時刻の記憶の選択性がある。
したがって,「時計とメモリーを使って補給時刻を記憶する記憶部」を有することが,遊技設備の補給による不正判断の技術分野で普通であるとまでは認定できず,相違点1に係る本件審決の判断は誤りである。
(2) 相違点4に係る判断について
本件審決は,短時間監視部と長時間監視部を設け,短時間監視部は長時間監視部よりも高い払出し割合に達している場合に不正と判断するようにすることは,周知例1及び2にも記載されているように周知であるから,引用発明の監視部を上記周知技術に基づいて相違点4に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易にすることができる程度のことにすぎないと判断した。
しかし,周知例1に記載された発明は,ゲーム情報を2種の平均期間で平均し,それを基準値と比較して,異常遊技を発見するものである。また,周知例2に記載された発明も,長期間・中期間・短期間にわたる出玉という遊技データに基づいて異常判定するものである。
他方,本願発明は,ゲーム情報を一切入力せずに,補給情報だけで不正を判断するものであり,周知例1及び2のようにゲーム情報を使用する発明とはその不正判断方法が全く異なるから,引用発明と周知例1及び2に記載された発明とを組み合せることは困難である。
また,仮に,引用発明の異常判定として,本願発明と同様に長時間監視部と短時間監視部を採用したとしても,いずれかの監視部が「異常判定」すると,補給履歴をクリアする初期化がされ(【0049】【0050】),補給時刻のデータが失われて,他の監視部が作動できなくなるから,うまく作動することはない。
したがって,相違点4に係る本件審決の判断は誤りである。
(3) 作用効果について
本願発明では,相違点1,4及び7のとおり,各補給の補給時刻を記憶部で記憶し,この記憶部で記憶された補給時刻を用いて,各補給時において設定時間T,設定回数Nの2種の不正判断条件で,不正判断条件が成立するか否か計算するものである。これにより,本願発明は,①不正判断が設定時間T,設定回数N及び簡単な記憶部のメモリでもって正確に判定でき,かつ,ソフトも極めて簡単となり,その製作を安価にできる,②補給ごとに不正判断条件が異なる長時間監視部と短時間監視部とが記憶部の補給時刻を用いて同時に作動でき,異なった不正行為の不正判断を同時にかつ容易にできる,③補給ごとに不正の判断をし,不正判断があれば必ず警報信号・警報を発するので,最速で正確な不正判断が警報されるという作用効果を奏する。
3 小括
以上によれば,本願発明の容易想到性に係る本件審決の判断は誤りである。
〔被告の主張〕
1 相違点の看過について
(1) 相違点6について
原告は,本件審決には,相違点6を看過した違法があると主張する。
しかし,本件審決は,補給ごとに監視部が作動する点については相違点2として,監視部が,長い時間にされる不正行為の不正判定を行う長時間監視部と短い時間にされる不正行為の不正判定を行う短時間監視部である点については相違点4として,不正判断があれば警報信号の出力がなされる点については相違点5として,それぞれ認定している。また,本願発明の特許請求の範囲には,長時間監視部と短時間監視部が「両方同時に作動」するとは記載されていないし,不正判断が最新データで行われる点は,引用発明も具備する構成である。
したがって,本件審決に相違点6を看過した違法はない。
(2) 相違点7について
原告は,本件審決には相違点7を看過した違法があると主張する。
しかし,原告が指摘する相違点7のうち,補給ごとに監視部によって不正か否かの判断がなされる点については,本件審決においても相違点2としている。
また,その余の点については,本願発明が具備する構成ではない。すなわち,本願発明の特許請求の範囲には,「補給ごとに必ず監視部によって不正か否かの判断がなされる」とは記載されていない。また,本願明細書に記載された実施例においても,補給時刻記憶部はRAMであるから(図4),補給時刻の履歴は監視プログラムの開始時に初期化され,監視プログラムの終了とともに失われるはずである。したがって,不正検出の情報処理がスタートしてから補給回数が所定回数に達するまでは実質的に異常か否かの判定がなされない。また,不正検出の情報処理は,「警報装置に信号を出力する」処理を行うと「END」へ進むものであり,「補給発生」の判断に戻るようなフローチャートの矢印は描かれていないから(図6),警報は連続的に発生しない。
以上によれば,本件審決に相違点7を看過した違法はない。
2 相違点に係る判断の誤り
(1) 相違点1について
引用例1に示された処理は,「N-1回前の補給からの経過時間≦T」であるから,この処理は,「記憶されたN-1回前の補給時刻と現在時刻の差分≦T」のことと考えるのが普通である。すなわち,周知のプログラミング言語では時刻の差を求める関数が用意されているから(例:TimeDiff(Visual Basic),difftime(C)),当業者ならば,単にこの関数を活用して「記憶されたN-1回前の補給時刻と現在時刻の差分≦T」により判定することを考えるはずである。他方,原告が主張する構成は,N-1組のタイマー及びプログラムソフトを用いる構成であり,この構成ではユーザが初期設定する「N」の値に応じてタイマー等をN-1個用意するとともに,時刻の経過に応じてN-1個のタイマーすべてを絶え間なくインクリメント(増加)するという複雑かつ負荷が重いプログラム処理が必要であり,当業者ならば考えるはずのない処理である。そもそも,周知技術として例示した周知例1及び2に記載された技術は,いずれも,時刻とともに記録されたログデータに基づいて長時間監視及び短時間監視を行うものであり,ログデータは削除されずに,監視結果が連続的に報知されるものである。また,引用発明も補給履歴に基づいて監視を行うものであるから,引用発明と周知技術とを組み合わせるに際して,時刻とともに記録されたログデータを補給履歴として活用することは,引用発明と周知技術とを組み合わせるに際して適宜採用し得る構成にすぎない。
したがって,相違点1に係る本件審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点4について
周知例1及び2に記載された周知技術は,技術分野において引用発明と共通し,課題や効果においても,引用発明における係員による遊技機の特定及び監視の強化をし綿密・確実に異常判定を行うという趣旨(【0048】【0073】【0074】)に合致するものであるから,これらを組み合わせることには動機付けがある。
また,周知例1及び2に記載された発明がゲーム情報を利用して監視を行うものであるからといって,引用発明に周知例1及び2に記載された上記周知技術を組み合わせること(監視タイミングを変更すること,監視を長時間及び短時間で行うこと等)ができなくなるわけではないし,メダル補給を継続することも停止することもできるほか,不正と判断する条件を変更することもでき,また,稼働状況や時間帯によって設定変更することもできるから,引用発明に上記周知技術を組み合わせることによって,引用発明の目的課題が達成できなくなるというわけでもない。
したがって,相違点4に係る本件審決の判断に誤りはない。
(3) 作用効果について
本願発明の特許請求の範囲には,不正判断条件が成立するか否かをプログラムで計算により行うことは記載されていない。また,監視が補給ごとに行われることは特許請求の範囲に記載されているが,双方の不正判断ステップが互いに阻害することなく同時に行えることは記載されていない。また,一度警報が発せられたら不正検出の情報処理は終了する。
したがって,本願発明の作用効果に関する原告の主張は前提において失当である。
3 小括
以上によれば,本願発明の容易想到性に係る本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 本願発明について
(1) 本願発明は,前記第2の2に記載のとおりであるところ,本願明細書(甲5の2・3,甲16)には,概略,次の記載がある。
ア メダル遊技設備の不正検出装置に係る従来の技術は,ホッパーを備えたメダル貸機にメダルを供給する供給ラインを設け,ホッパーのメダル量が所定量以下になるとメダルを供給ラインからバッチ補給する補給手段を設け,ホッパーへの補給量をゲームで正常に消化するときの最短時間を設定時間とし,補給が終了してから設定時間内に再度メダルの補給が始まると不正と判断する不正検出手段を設けている(【0002】)。
イ 不正行為は短時間で行われるのが一般的で,10分以内など短い時間内で設定以上の払出しを発生させて抜き取っている。しかし,近年の不正行為は巧妙で,不正行為と判断されないように30分以上の長時間をかけて行われる場合があり,このような長時間による不正行為は前記技術などの従来の不正検出装置では検出され難いものである(【0003】)。
ウ 本願発明は,これらの問題点を解消し,短時間による不正行為と長時間による不正行為の両方を監視することで高精度に不正を検出できるようにしたメダル遊技設備の不正検出装置を提供するものである(【0004】)。
本願発明によれば,警報手段が短時間と長時間の両方の不正行為を監視できるように構成したから,短時間の激しい又は集中的な不正行為と,長時間において続けられる軽い不正行為又は中程度の不正の散発的に続けられる不正行為等の異なったタイプの不正行為を確実に検出できる(【0006】)。
エ 実施例
メダル補給制御部がメダル取込装置を作動させて供給ラインのメダルをホッパーへ取り込んで補給すると,監視プログラムは,補給時刻取得部でメダル取込装置の作動時刻を取得し,補給時刻記憶部に記憶する。
メダル補給制御部は,CPU,ROM等により構成され,ROMの監視プログラムは,図5に示すようにメダル取込装置が作動した際の時刻t(実時間)をクロックから取得する補給時刻取得部と,取得した補給時刻t1(1,2,3,…n)を記憶する補給時刻記憶部と,最新の補給時刻t1(n)から予め定めた短い設定時間t2を遡った間の補給時刻取得部の記憶回数nを計数して設定回数n1を含むそれ以上であると不正と判断する短時間監視部と,最新の補給時刻t1(n)から予め定めた長い設定時間t2を遡った間の補給時刻取得部の記憶回数nを計数して設定回数n1を含むそれ以上であると不正と判断する長時間監視部と,短時間監視部と長時間監視部が不正と判断した場合に警報装置へ信号を出力するとともにメダル取込装置を停止させる警報信号出力部とで構成されている。
短時間監視部は,メダル取込装置が作動する度に,補給時刻記憶部の最新の補給時刻から設定時間(6分)を遡った間の記憶回数を計数し,計数した記憶回数が設定回数(5回)以上であった場合は警報信号出力部が警報装置に信号を出力し,警報装置はその信号を受信して警報するとともにメダル取込装置が停止する。5回未満であった場合はそのまま監視を継続する。
長時間監視部はメダル取込装置が作動する度に,補給時刻記憶部の最新の補給時刻から設定時間(40分)を遡った間の記憶回数を計数し,計数した記憶回数が設定回数(15回)以上であった場合は警報信号出力部が警報装置に信号を出力し,警報装置はその信号を受信して警報するとともにメダル取込装置が停止する。15回未満であった場合はそのまま監視を継続する(【0007】【0013】~【0015】【0017】【0020】【0021】【図5】)。
(2) 以上の記載からすると,メダル遊技設備の不正行為は一般的には,10分以内など短い時間内で設定以上の払出しを発生させるが,30分以上の長時間をかけて行われる場合もあり,このような不正行為は従来の不正検出装置では検出され難いものであったことから,本願発明は,警報手段が短時間と長時間の両方の不正行為を監視できるように構成し,短時間の激しい又は集中的な不正行為と,長時間において続けられる軽い不正行為又は中程度の不正の散発的に続けられる不正行為等の異なったタイプの不正行為を確実に検出できるようにしたというものである。
2 引用発明について
(1) 引用発明は,前記第2の3(2)アに記載のとおりであるところ,引用例(甲1)には,引用発明について,概略,次の記載がある。
ア 引用発明は,遊技媒体使用機に,遊技媒体,例えば,メダルやパチンコ玉を,自動的に補給する遊技媒体補給装置に関する(【0001】)。
イ 不正遊技や不正操作を発見するための従来の技術には,複数の遊技機のうちいずれかから補給要求信号を受けたとき,その補給要求信号を出力した遊技機に遊技媒体を補給する遊技媒体補給装置において,予め定めた時間以内に予め定めた回数以上に遊技媒体の補給を行っている遊技機をリストアップして,ホールの従業員に知らせる自動補給制御機構があるが,この技術では,従業員の目視による監視が必要であり,人件費の低減という観点からは不利なシステムである(【0002】~【0004】)。
また,近年の遊技機には,比較的短時間に大量の遊技媒体を賞として払い出す機種が存在し,一定時間内に所定回数以上の補給要求があったことのみをもって不正の有無を判断することが難しい場合がある(【0005】)。
さらに,遊技媒体貸出機においても,不正操作による貸出しを防止する必要があるが,遊技客の人数によって貸出機の稼働状況が変化するので,遊技媒体貸出機における不正判定条件を柔軟に変更できることが望まれる(【0006】)。
ウ 引用発明は,遊技機や遊技媒体貸出機のような遊技媒体使用機への遊技媒体の補給を柔軟に制御でき,不正と判定する条件を柔軟に変更することができる遊技媒体補給装置を提供することを目的とする(【0007】)。
エ 引用発明による遊技媒体補給装置は,遊技媒体を使用する遊技媒体使用機から出力される補給要求に応じて,遊技媒体使用機に遊技媒体を補給するものである。所定時間内に所定回数以上の補給要求を遊技媒体使用機が出力したことを異常判定条件として,異常判定手段が,遊技媒体使用機を異常と判定する。この異常判定手段が異常と判定したときに報知手段が異常を報知する。異常判定条件となる所定時間と所定回数とを,条件設定手段が設定する。異常判定手段が異常と判定した遊技媒体使用機に対し,遊技媒体の補給を停止するか継続するかの補給設定を補給設定手段が行う(【0008】)。
オ このように構成された遊技媒体補給装置では,条件設定手段によって異常判定条件である所定時間と所定回数とが設定される。この異常判定条件は,遊技媒体使用機の特性や時間帯等の種々の条件を考慮して設定される。この所定時間内に所定回数にわたって補給要求がなされると,異常判定手段が異常と判定し,報知手段が異常を報知する。ここで補給設定手段によって補給継続と設定されていると,異常と報知しながら,遊技媒体の補給が継続される。この場合には,従業員等による目視の監視が行われる。また,補給設定手段によって補給停止と設定されていると,異常と報知し,かつ補給の停止が行われる。したがって,これ以上の不正遊技や不正操作を防止することができる(【0009】)。
カ 異常判定手段は,補給要求を出力した遊技媒体使用機が特別遊技状態(大当たりの状態)であるか否かを示す遊技状態信号を遊技媒体使用機から受信し,この遊技状態信号を異常判定条件に加えることもできる(【0016】【0017】)。
キ 実施例
図7は,メダル補給装置の動作を示す状態遷移図である。メダル供給装置に電源が供給されると,イニシャル処理が実行され,イニシャル処理中に操作子群の所定のスイッチが操作されると,動作確認処理(ステップS4)が実行される。イニシャル処理に続いて,初期設定処理が実行される(【0033】【0034】)。
スロットマシン及びメダル貸機は,内部のホッパに貯留しているメダルの量を検出しており,貯留メダルが不足すると,エンプティ信号を発信する。スロットマシン及びメダル貸機におけるメダルの減少度合いは,通常の使用状態では予測される範囲内であるので,制御部は,同じスロットマシン又はメダル貸機から所定時間T内に所定回数N以上のエンプティ信号を受けると,当該スロットマシン又はメダル貸機やメダル補給装置の故障又は不正遊技若しくは不正操作によるメダルの抜取りの可能性がある異常状態であると判断し,エラー処理,例えば補給の禁止を行う(【0037】)。
時間Tと回数Nは,固定値でもよいが,スロットマシンのゲーム性や,スロットマシン又はメダル貸機の稼働状況により自由に変更することが望ましい。そのため,この実施の形態では,時間Tと回数Nとを任意に設定できるようにしてある。また,所定時間T以内にN回以上のエンプティ信号を受けても,スロットマシンの特性等によっては不正遊技でない場合,あるいはメダル貸機においては時間帯によっては不正操作でない場合もある。そのため,異常状態であっても,補給を禁止しないような場合がある。このような補給の継続又は禁止の設定も,この初期設定において行われる(【0038】)。
制御部は,待機中処理の状態において,補給要求信号を受信すると,補給禁止であるか判断し,補給可能であると,補給処理を実行する(【0042】)。
エンプティ信号を受信すると,初期設定処理(ステップS6)で設定した回数Nを基に,N-1回前の補給からの経過時間が,初期設定処理で設定した時間T以下であるか判断する。例えばNとして4を,Tとして5分を設定していると,3(=4-1)回前に補給してから,5分以内の時間しか経過していないのか判断する(ステップS34)(【0046】)。
この判断の答えがノーであると,すなわちN-1回目の補給からの経過時間がTよりも長いと,正常な補給要求であると判断され,ステップS16の補給処理を実行し,ステップS4のエンプティ信号の受信待機状態に戻る(【0047】)。
ステップS34における判断の答えがイエスであると,すなわちN-1回目の補給からの経過時間がT以下であると,異常報知を行う(ステップS36)。例えば,液晶表示装置に異常と判断したスロットマシン又はメダル貸機の番号とエラーメッセージとを表示し,更に表示ランプのうち緑色の表示ランプと赤色の表示ランプとを点滅させる。係員は,この表示に基づき注意すべきスロットマシン又はメダル貸機を特定し,これに対する監視を強化する(【0048】)。
ク 遊技媒体使用機が異常であるか否かの判定条件の設定を,遊技機ごと又は時間帯ごとに行えるので,より綿密に異常か否かの判断を行うことができ,また,遊技媒体の使用機器が異常であると判断する条件に,遊技機の遊技状態を加えているので,より確実に遊技機の異常判定を行うことができる(【0073】【0074】)。
(2) 以上の記載からすると,引用発明の遊技媒体補給装置は,遊技媒体を使用する遊技媒体使用機から出力される補給要求に応じて,遊技媒体使用機に遊技媒体を補給するが,所定時間内に所定数以上の補給要求を遊技媒体使用機が出力したことを異常判定条件として,異常判定手段が,遊技媒体使用機を異常と判定するものである。そして,引用発明では,エンプティ信号を受信すると,初期設定処理(ステップS6)で設定した回数Nを基に,N-1回前の補給からの経過時間が,初期設定処理で設定した時間T以下であるか判断し,この判断の答えがノーであると,正常な補給要求であると判断し,ステップS4のエンプティ信号の受信待機状態に戻るが,判断の答えがイエスであると,異常報知を行うものであり,エンプティ信号を受信するごとに不正行為の有無の判断を行うものである。
3 周知例1及び2について
(1) 周知例1について
遊技情報監視装置に関する周知例1(甲3)には,概略,次の記載がある。
ア 本発明は,遊技情報を監視して,異常の発生を早期に確実に発見して報知する技術に関する(【0001】)。
イ 正常な遊技機の遊技情報から,10分間移動平均値が700%以上となることはまずなく,30分間移動平均値が500%以上となること,1時間移動平均値が400%以上となること,2時間移動平均値が300%以上となることは極めて少ないことがわかる。そこで10分間移動平均値については基準値を700%とし,30分間移動平均値については基準値を500%とし,1時間移動平均値については基準値を400%とし,2時間移動平均値については基準値300%としておいて,実際に検出された移動平均値と比較すると,正常なら起こらないか,あるいはまれにしか起こらない事象を発見することができる(【0013】)。
ウ 図6には,異常に高い10分間移動平均値をもたらした10分間の遊技情報が示されている。このような異常があっても,30分間平均値については異常でなくなっており,10分間平均値を採用することで初めて発見できる異常現象が存在することが確認される。図12は,図6の遊技情報から,10分間平均値を10分ごとに算出した結果を示す。明らかに,10分間平均値の最大値は700%以下となり,この方法では異常が見過ごされてしまうことがわかる。本実施例では移動平均値を監視対象にすることから,異常現象を速やかにかつ確実に発見することができる(【0014】)。
エ 監視対象は出球率に限られない。また,本発明の適用対象は,パチンコ機からの遊技情報を収集する装置に限られず,例えば,遊技媒体としてメダルを使用するスロットマシン等からの遊技情報を収集する装置にも適用することができる(【0018】)。
(2) 周知例2について
遊技データ収集装置,遊技データ収集方法及び遊技データ収集システムに関する周知例2(甲4)には,概略,次の記載がある。
ア 本発明は,長期的,中期的,短期間にわたって,不正な行為が行われた場合に,出玉異常の判定を行うことができる遊技データ収集装置,遊技データ収集方法及び遊技データ収集システムを提供することを目的とする。
イ 発明の一実施形態の管理装置における全体的な動作の流れを示す図6に記載されているステップS138において,サーバからダウンロードする情報にはリンク関数が含まれ,このリンク関数には,例えば,パチンコ機を対象とするものとして,1時間の獲得玉数が発射玉数の3倍未満であるかを判定するもの,10時間の獲得玉数が発射玉数2倍未満であるかを判定するもの,10時間の獲得玉数のうち役物作動によるものが7割未満,連荘時でも6割未満であるかを判定するもの,10時間における発射速度が100未満に維持されているかを判定するものなどが挙げられる。また,これらのリンク関数に伴う,判定時間(1時間と10時間),判定関数,判定値,判定コメントなどの情報に関するものも所定の情報に含むことができる。また,上記したリンク関数には,例えば,スロットマシーンを対象とするものとして,400ゲームの獲得メダル数を投入メダル数で除した値が3未満であるかを判定するもの,6000ゲームの獲得メダル数を投入メダル数で除した値が1.5未満であるかを判定するもの,175000ゲームの獲得メダル数を投入メダル数で除した値が1.2未満であるかを判定するものなどが挙げられる。また,これらのリンク関数に伴う,判定時間,判定関数,判定値,判定コメントなどの情報に関するものも所定の情報に含むことができる(【0360】【0363】~【0365】)。
(3) 以上の各記載からすると,メダル遊技機において,短時間監視部と長時間監視部を設け,短時間監視部は長時間監視部よりも高い払出し割合に達している場合に不正と判断するようにすることは,本件出願当時には,周知の技術であったということができる。
4 相違点の看過について
(1) 相違点6について
原告は,本件審決には,相違点6を看過した違法があると主張する。そして,原告が主張する相違点6は,「本願発明は,請求項の「補給毎に…不正があったと判断する」との文言のとおり,補給ごとに不正判定条件が異なる長時間監視部と短時間監視部とが両方同時に作動し,長い時間にされる不正行為と短い時間にされる不正行為の有無の判断を補給ごとに最新データでもって行い,補給ごとに不正判断があれば警報信号と警報の出力がされる」というものであるが,これは,要するに,「本願発明は,「補給ごとに不正判定条件が異なる長時間監視部と短時間監視部とが両方同時に作動し,長い時間になされる不正行為の不正判断と短い時間になされる不正行為の不正判断との2種の不正行為の有無の不正判断を補給ごとに最新データでもって行い,補給ごとに不正判断があれば警報信号と警報の出力がなされる」のに対して,引用発明は「1回かつ所定時間Tと所定回数Nの一種の異常判定条件のみの異常判定により,異常と断定して異常報知する点」をいうものと解される。
しかしながら,前記2(2)のとおり,引用発明は,エンプティ信号を受信するごとに不正行為の有無の判断を行い,異常と判断された場合には,異常報知を行うものであって,本件審決は,不正(異常)監視の方法の相違については,相違点2として,「本願発明は,警報手段の監視部が,「補給ある毎に」不正があったか否か判断を行うのに対して,引用発明は,補給あるごとでなく,補給要求であるエンプティ信号を受信すると監視を行うものである点」を認定している。また,本件審決は,不正(異常)監視の手段の相違については,相違点4として,「本願発明は,警報手段の監視部が,「長時間監視部」と「長時間監視部で監視する単位時間当たりの回数より高い頻度を示す設定回数に達している場合は不正があったと判断する短時間監視部」の2つの監視部であるのに対して,引用発明は,監視部が1つのみである点」を認定し,さらに,本願発明においては,不正判断があれば警報信号の出力がされる点については,相違点5として,「本願発明は,警報手段の監視部が「不正判断した場合に警報信号を出力する警報信号出力部」を有し,警報装置が「警報信号出力部の出力信号を受けて警報を発生させる」のに対して,引用発明は,警報信号を出力する構成であるかどうか不明であるため,このような構成でない点」をそれぞれ認定している。
したがって,本件審決は,原告の主張する相違点6を看過したものということはできない。
なお,原告は,本願発明では,出力される警報において,「不正警報」が連続的に発生しているか又は不正警報の発生が間欠的になされ,回数が少ないかなどの「不正警報」の時系列的発生状況が分かるから,これにより,「不正警報」が補給ごとに連続的に発生すると,その不正行為又は機械異常が明白と判断でき,「不正警報」の頻度が低いか又は連続的でなければ,軽い不正か又は電気的ノイズである可能性が高いという判断を行うことができると主張する。
しかしながら,本願発明は,「前記長時間監視部又は短時間監視部が不正判断した場合に警報信号を出力する警報信号出力部と,同警報信号出力部の出力信号を受けて警報を発生させる警報装置とで構成した」ことは特定されているものの,不正判断とそれに伴う警報の発生が繰り返し行われることを特定するものではないから,「長時間監視部又は短時間監視部が不正判断した場合」に「警報を発生して補給手段を停止させる」態様を包含することは明らかである。また,本願明細書の実施例の記載においても,「不正と判断した後に補給手段を停止する」ことは説明されているが,不正判断とそれに伴う警報の発生が繰り返し行われることについては記載も示唆もない。
したがって,原告の上記主張は,本願発明の特許請求の範囲及び本願明細書の記載に基づくものではなく,失当である。
(2) 相違点7について
原告は,相違点7(本願発明は「補給ごとに必ず監視部によって不正か否かの判断がなされる」のに対して,引用発明は「エンプティ信号があっても必ずしも異常か否かの判定をするとはいえず,初期化後の1,2,3回目(N=4の場合)のエンプティ信号では実質的に異常か否かの判定がなされない」点)を看過した違法があると主張する。
しかしながら,前記2(2)のとおり,引用発明は,エンプティ信号を受信するごとに不正行為の有無の判断を行うものである。
また,本願発明の実施例においても,補給時刻は,t1(1),t1(2),…,t1(n)のように順番に記憶されるものであるが,例えば,設定回数n1=4の場合には,監視プログラムの動作開始後(初期化後)の1,2,3回目の補給の際には,設定された時間を遡っても,過去の補給回数が4に達することはないから,実質的に不正か否かの判断は行われないものと認められる。
したがって,原告の主張する相違点7は,実質的な相違点とはいえないから,原告の主張を採用することはできない。
5 相違点に係る判断の誤りについて
(1) 相違点1について
本願発明の長時間監視部及び短時間監視部は,それぞれ,「補給時刻から予め定めた所定時間を遡った間」の記憶部が記憶した「補給回数」が不正と判断される「所定回数に達しているか否か」で判断するものであり,他方,引用発明は,エンプティ信号を受信すると,N-1回前の補給からの経過時間が,初期設定処理で設定した「時間T以下である」か判断するものであるが,これらは「所定時間内に所定回数以上の補給(又はエンプティ信号)があったか否か」を判断する手法として,互いに代替可能であることは明らかである。
したがって,引用発明において,「N-1回前の補給からの経過時間」を求めるために,相違点1に係る本願発明の構成と同様に,各補給の補給時刻を記憶部で記憶しておくような構成とすることは,当業者であれば,容易に想到し得るものというべきである。
よって,相違点1に係る本件審決の判断に誤りはない。
(2) 相違点4について
ア 前記3(3)のとおり,メダル遊技機において,短時間監視部と長時間監視部を設け,短時間監視部は長時間監視部よりも高い払出し割合に達している場合に不正と判断するようにすることは,本件出願当時には,周知の技術であったということができる。
引用例1には,短時間不正と長時間不正が存在するとの記載はないから,本願発明が解決しようとする課題とその解決手段について,直接的に開示や示唆をするものではないが,引用例1においても,機種や時間帯により設定を変更したり(【0009】【0038】),特別遊技状態か否かを異常判断の条件に付加するなど(【0016】),種々の観点から異常判断を行うことにより,綿密な不正対策を講じること(【0073】【0074】)が記載されている。また,異常判断を行う複数の観点の一つとして,短時間不正と長時間不正の観点を加えることを阻害する事情も見当たらないから,引用発明において,上記周知技術を適用し,短時間不正と長時間不正の両者に対応させるために,警報手段の監視部を「長時間監視部」と「長時間監視部で監視する単位時間当たりの回数より高い頻度を示す設定回数に達している場合は不正があったと判断する短時間監視部」の2つの監視部とすることは,当業者が容易に想到することができたものというべきである。
したがって,相違点4に係る本件審決の判断に誤りはない。
イ 原告の主張について
(ア) 原告は,本願発明はゲーム情報を入力せずに,補給情報だけで不正を判断するものであり,周知例1及び2のようにゲーム情報を使用する発明とはその不正判断方法が全く異なるので,引用発明に周知例1及び2に記載された発明を組み合わせることは困難であると主張する。
しかしながら,引用発明と周知例1及び2とは,技術分野や不正行為による異常状態の判定を正確に行うという課題において共通し,また,引用例1には,一定時間内に所定回数以上の補給要求があったことのみをもって不正の有無を判断することが難しい場合があることも記載されているから(【0005】),引用発明には,周知例1及び2に記載された上記周知技術を適用する動機付けがあるというべきであり,周知例1及び2に記載された発明が不正の有無の判断にゲーム情報を使用するものであるからといって,その適用が困難であるとすべき事情は見当たらない。
(イ) 原告は,仮に,引用発明の異常判定手段として,本願発明と同様に長時間監視部と短時間監視部を採用したとしても,いずれかの監視部が「異常判定」すると,補給履歴をクリアする初期化がされるから,補給時刻のデータが失われ,他の監視部が作動できなくなるなどと主張する。
しかしながら,引用発明の異常判定手段として,本願発明と同様に長時間監視部と短時間監視部を採用した場合において,いずれかの監視部が「異常判定」したときに,直ちに補給履歴をクリアする初期化がされるか否かは,当業者が適宜設計すべき事項であるから,引用発明においては,異常判定後に異常を解除して,スロットマシン又はメダル貸機の補給履歴をクリアする処理が行われているからといって(【0049】【0050】),これが,引用発明に対する上記周知技術の適用を阻害する要因になるということはできない。
(ウ) したがって,原告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ なお,前記4(1)のとおり,本件審決は,原告の主張する相違点6のうち,不正(異常)監視の方法の相違については相違点2として,不正(異常)監視の手段の相違については相違点4として,本願発明においては不正判断があれば警報信号の出力がされる点については相違点5として,それぞれ認定しており,上記相違点6を看過した違法はない。そして,このうち,相違点4に係る本件審決の判断に誤りがないことは,前記アのとおりであるところ,本件審決は,相違点2について,補給監視方法として,補給要求ごとに不正があったか否か判断するようにするか,補給あるごとに判断するようにするかは単なる設計的事項にすぎず,引用例2(【0004】【0007】【0010】【図4】【図9】)には,補給あるごとに不正を検出したか否か判断する点が記載されているから,引用発明のエンプティ信号を受信すると異常判断をするという構成の代わりに,引用例2に記載された補給あるごとに不正を検出したか否か判断するという構成を採用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことにすぎないと判断し,また,相違点5について,引用例2(【0010】【図4】)には,監視部が不正判断した場合に警報信号を出力する警報信号出力部を有し,警報装置が警報信号出力部の出力信号を受けて警報を発生させる点が記載されているから,引用発明の監視部・警報装置を,引用例2(甲2)に記載された警報信号を出力する技術に基づいて相違点5に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得る程度のことにすぎないと判断しているが,本件審決が引用した引用例2の各記載からすると,相違点2及び5に係る本件審決の上記各判断もいずれも相当であり,誤りがあるということはできない。
(3) 作用効果について
原告は,本願発明では,相違点1,4及び7のとおり,各補給の補給時刻を記憶部で記憶し,この記憶部で記憶された補給時刻を用いて,各補給時において設定時間T・設定回数Nの2種の不正判断条件で,不正判断条件が成立するか否か計算するものであり,これにより,本願発明は,①不正判断が設定時間T,設定回数N及び簡単な記憶部のメモリでもって正確に判定できる,②異なった不正行為の不正判断を同時にかつ容易にできる,③補給ごとに不正の判断をし,不正判断があれば必ず警報信号・警報を発するので,最速で正確な不正判断が警報されるという作用効果があると主張する。
しかしながら,前記4(2)のとおり,原告が主張する相違点7は,実質的な相違点とはいえない。また,原告が主張する作用効果は,いずれも引用発明や上記周知技術等から当業者が容易に予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものということはできない。
6 以上によれば,本件発明の容易想到性に係る本件審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由は理由がない。
第5結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 髙部眞規子 裁判官 齋藤巌)