知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10198号 判決 2013年2月07日
原告
株式会社メイワパックス
同訴訟代理人弁護士
永島孝明
安國忠彦
明石幸二郎
朝吹英太
安友雄一郎
同弁理士
磯田志郎
被告
株式会社細川洋行
同訴訟代理人弁護士
宍戸充
菅尋史
深津拓寛
同弁理士
水谷好男
花田吉秋
黒丸博昭
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-800194号事件について平成24年4月24日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,後記1のとおりの手続において,被告の後記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は後記3のとおり)には,後記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 被告は,平成13年8月13日,発明の名称を「バッグインボックス用袋体およびバッグインボックス」とする特許出願(特願2001-245400号。平成6年11月18日を優先日とする特願平7-295733号の分割出願)をし,平成17年8月12日,設定の登録(特許第3709155号。請求項の数11)を受けた(甲25)。以下,この特許を「本件特許」という。
(2) 原告は,平成20年6月10日,本件特許につき特許無効審判を請求し,無効2008-800104号事件として係属した(以下「第1次無効審判」という。)。平成23年2月8日,被告が平成21年11月20日にした訂正請求のうち,請求項1,9及び10の訂正並びに明細書【0013】の訂正を認め,原告の無効審判請求は成り立たない旨の審決(甲24)が確定した(甲16,26)。以下,請求項4については特許明細書(甲25)を,それ以外については上記訂正に係る明細書(甲23の2)を,「本件明細書」という。
(3) 原告は,平成23年10月4日,本件特許の請求項1ないし11に係る特許について,特許無効審判を請求し,無効2011-800194号事件として係属した(甲18)。特許庁は,平成24年4月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の本件審決をし,同年5月8日,その謄本が原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし11の記載は,次のとおりのものである。以下,順に,請求項1記載の発明を「本件発明1」などといい,併せて「本件発明」という。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す。
【請求項1】接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部および谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールの袋本体の各隅部に,袋本体を一対の平面部が重なり合い且つ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士を,頂部および底部の各シール部と側面シール部とを前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部を有する,内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状となるバッグインボックス用袋体であって,/前記側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり,自立性に優れる袋体となり,/その頂部側と底部側に関し,頂部シール部,側面シール部及び閉鎖シール部,又は底部シール部,側面シール部及び閉鎖シール部にて,その両側部分に三角形状のフィン部が形成され,/これらフィン部は,2枚の前記平面部が前記側面部と別々にシールされて,それぞれ独立して形成され,/各フィン部のうち,少なくとも頂部側のフィン部には,前記平面部と前記側面部の内面同士が部分的乃至断続的に接着され,/さらに,部分的乃至断続的に接着されたフィン部は,このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が,隅部の頂点の位置で接着され,かつ,頂部シール部上,または,頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所,頂点の位置と不連続的に接着されることによって,袋体の頂部側,または,頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成することを特徴とするバッグインボックス用袋体
【請求項2】閉鎖シール部が,頂部側を底部側より深い位置になるように形成されていることを特徴とする,請求項1に記載のバッグインボックス用袋体
【請求項3】閉鎖シール部が,頂部シール部と閉鎖シール部とに挟まれた狭角は46~55°で,底部シール部と閉鎖シール部とに挟まれた狭角は40~50°となるように形成されたことを特徴とする,請求項1に記載のバッグインボックス用袋体
【請求項4】前記フィン部の頂部シール部又は底部シール部は,このバッグインボックス用袋体の左右の双方が少なくとも部分的に接着されていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体
【請求項5】一対の平面部および2つの側面部のそれぞれに少なくとも1つずつ,袋本体の上下方向に延在するように帯状のフィルム片が接着されているかまたは帯状の気体充填層が設けられていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体
【請求項6】少なくとも1つの三角形状の前記フィン部にパンチ穴が形成されていることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体
【請求項7】合成樹脂製フィルム中の少なくとも1層が金属箔の層であることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体
【請求項8】シール部の幅を除いた実寸法で,上記平面部の横寸法が260~340mm,上記側面部の横寸法が180~260mm,および上記平面部と上記側面部の縦寸法が490~660mmであることを特徴とする請求項1のバッグインボックス用袋体
【請求項9】内部に,注出口を備えた請求項1乃至請求項8に記載のバッグインボックス用袋体が内袋として収納された外箱の一面に,内袋の注出口の周囲の袋本体を50mm以上引出し可能な径を有する開口部を形成するための開封補助手段が備えられていることを特徴とするバッグインボックス
【請求項10】開封補助手段は,外箱の一面を,前記開口部の中心点となるべき位置から放射状に引き裂くことができ,開封後には,前記開口部の周囲に扇状の断片が残る開封補助手段であることを特徴とする請求項9に記載のバッグインボックス
【請求項11】内袋の容量が5~25リットルであり,外箱が立方体又は直方体であることを特徴とする請求項9に記載のバッグインボックス
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,要するに,本件発明は,①後記引用例1ないし4に記載された発明及び後記周知例1ないし7に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない,②本件審判における答弁書に添付された参考資料(乙2)に記載された合計36件の文献(引用例1ないし4及び周知例1ないし7を含む。)のいずれを主引用例とした場合であっても,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない,などとしたものである。
ア 引用例1:実願平4-12078号(実開平5-72740号)のCD-ROM(甲1)
イ 引用例2:実願平2-12663号(実開平2-120342号)のマイクロフィルム(甲2)
ウ 引用例3:実願平4-64558号(実開平6-27624号)のCD-ROM(甲3。平成6年4月12日公開)
エ 引用例4:実願昭63-85694号(実開平2-8763号)のマイクロフィルム(甲4)
オ 周知例1:実願昭62-100994号(実開昭64-9174号)のマイクロフィルム(甲5)
カ 周知例2:実願昭55-71309号(実開昭56-172568号)のマイクロフィルム(甲6)
キ 周知例3:特開昭49-110469号公報(甲7)
ク 周知例4:特開平6-179454号公報(甲8。平成6年6月28日公開)
ケ 周知例5:実願平1-143329号(実開平3-81879号)のマイクロフィルム(甲9)
コ 周知例6:特開昭59-31151号公報(甲10)
サ 周知例7:実願昭58-99296号(実開昭60-8257号)のマイクロフィルム(甲11)
(2) 本件審決は,その判断の前提として,引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。),本件発明1と引用発明との一致点及び相違点を,以下のとおり認定した。
ア 引用発明:熱溶着性のラミネートフィルム材料で形成され,重ね合わされたフィルムの両側縁間に,折込線を有するガセット折込体を挿入し,フィルムの上方の端縁に開口を設け,フィルムとガセット折込体との3方の端縁をヒートシール部でシールした内袋の各隅部に,その各隅部の内面同士を,斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成した傾斜シール部を有する,内容物である液体の注入時には直方体状に展開する,段ボール箱に内装する内袋であって,ヒートシール部は,フィルムとガセット折込体の側縁部同士がシールされ,2枚のフィルムが重なり合った構造をとり,内容物である液体の注入時には内袋は直方体状に展開し,一定の自立性を有する袋体となり,その頂部側と底部側に関し,ヒートシール部及び傾斜ヒートシール部,又はヒートシール部及び傾斜ヒートシール部にて,その両側部分に三角形状のコーナー部分が形成され,これらコーナー部分は,2枚のフィルムがガセット折込体と別々にシールされてそれぞれ独立して形成され,各コーナー部分は,内容物の注入時に直方体状に展開する内袋の上面又は底面に沿うことを特徴とする,段ボール箱に内装する内袋
イ 一致点:合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する,側面の両端縁と底部の端縁である3方の端縁をシールした袋本体の各隅部に,袋本体を一対の平面部が重なり合いかつ重なり合った平面部の間に前記谷折り線を備えた2つの側面部が介在するように折り畳んだ状態下で対向する袋本体の内面同士を,頂部と側面シール部,及び底部シール部と側面シール部とを,前記各隅部を斜めに切り取るような直線帯状に接着して形成された閉鎖シール部を有する,内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状となるバッグインボックス用袋体であって,前記側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,平面部及び側面部のフィルムが重なり合った柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり,自立性を有する袋体となり,その頂部側と底部側に関し,頂部,側面シール部及び閉鎖シール部,又は底部シール部,側面シール部及び閉鎖シール部にて,その両側部分に三角形状のフィン部が形成され,これらフィン部は,2枚の前記平面部が前記側面部と別々にシールされて,それぞれ独立して形成されている,バッグインボックス用袋体
ウ 相違点1:本件発明1は,袋体が,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールとされ,側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり,自立性に優れる袋体となる構成をとるのに対し,引用発明は,袋体の平面部及び側面部を構成する合成樹脂製フィルムはそれぞれ1枚であり,かつ,頂部を除く両側縁と底部の3方がシールされた構成であり,かつ,側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされた柱構造ではあるものの,重なり合ったフィルムは2枚のみであり,かつ,一定の自立性を有する袋体となる点
エ 相違点2:本件発明1は,各フィン部のうち,少なくとも頂部側のフィン部には,前記平面部と前記側面部の内面同士が部分的ないし断続的に接着され,さらに,部分的ないし断続的に接着されたフィン部は,このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が,隅部の頂点の位置で接着され,かつ,頂部シール部上,又は,頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所,頂点の位置と不連続的に接着されることによって,袋体の頂部側,又は,頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成する構成をとるのに対し,引用発明は,どのフィン部も,平面部と側面部の内面同士が接着されておらず,かつ,袋体の前後に対向する頂部及び底部シール部は,いずれも接着されておらず,かつ,頂部側にも底部側にも吊り下げ部を形成しない構成をとる点
4 取消事由
(1) 手続違背(取消事由1)
(2) 本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)
(3) 本件発明2ないし11の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由3)
第3当事者の主張
1 取消事由1(手続違背)について
〔原告の主張〕
(1) 原告は,引用例1を主引用例とする無効理由しか主張していない。したがって,その他の文献を主引用例とした無効理由は,本件審判事件において,請求人が主張していない無効理由に該当する。
確かに,特許法153条1項は,当事者が申し立てない理由についても審理することができることを規定しているが,そのため,同条2項において,職権審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。しかし,本件審決は,職権審理の結果を原告に通知せず,意見を申し立てる機会を全く与えていない。よって,本件審決には,その余の取消理由について検討するまでもなく,手続違背の取消理由が存在する。
(2) 本件審決は,36件もの文献を主引用例とした場合の審理結果がわずか11行であり,その理由として記載された内容から,各文献に記載された発明をどのように認定したのか全く不明であり,まして,各文献に記載された発明と本件発明1との一致点及び相違点の認定も不明であり,相違点の判断など一切記載されていない。
このことから,本件審決には,その他の無効理由についての判断理由は全く示されておらず,職権審理の結果を通知したものと評価し得る余地は全くなく,明らかな取消事由が存在する。
〔被告の主張〕
(1) 特許法153条2項の「当事者が申し立てない理由」とは,新たな無効理由の根拠法条の追加や主要事実の差替えや追加等,不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなりあらかじめ告知を受けて反論の機会を与えなければ手続上著しく不公平となるような重大な理由がある場合を指す。
(2) 本件審決は,単に36件の文献記載の発明が,本件発明に係る進歩性判断の観点から箸にも棒にもかからない文献であるとの感想を述べたにすぎず,「当事者が申し立てない理由」について進歩性に関する認定判断をしたものとみることはできない。
(3) 仮に,本件審決の上記説示が一種の進歩性判断であったとしても,傍論ともいうべき上記の説示は,本件審決の結論に影響を与えていない。
(4) 本件審判の審理においては,36件の文献が記載された証拠の一覧が答弁書に添付されており,原告は当該答弁書に対し弁駁書を提出しているから,反論する機会も十分あったはずであり,不意打ちに当たるとはいえない。
加えて,これらの文献は,本件特許の審査段階,審判段階,裁判段階において提出されていたから,原告にとって,新規な証拠ではなく,当然熟知しているはずのものであり,原告に不利,不公平になるものではない。
したがって,原告にとって,「審判請求の理由として認識していない可能性」という事情もない。
(5) よって,上記判断は,特許法153条2項の「当事者が申し立てない理由」に該当しない。
2 取消事由2(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1) 相違点1の認定の誤り
本件審決の認定した相違点1は,本件発明1と引用発明との一致点を多く含んでおり,一致点の認定と矛盾する。よって,相違点1を正確に認定すれば,以下のようになる。
本件発明1は,袋体が,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成され,4方シールとされており,柱構造が少なくとも4枚のフィルムが重なり合っており,自立性に優れる袋体となる構成をとるのに対し,引用発明は,袋体の平面部及び側面部を構成する合成樹脂製フィルムはそれぞれ1枚であり,かつ,側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされた柱構造ではあるものの,重なり合ったフィルムは2枚のみであり,かつ,一定の自立性を有する袋体となる点(以下「相違点1’」という。)
(2) 相違点1の判断の誤り
本件審決は,1つの文献において相違点1に係る構成の全てが開示されていないことを理由として,容易に想到できないと短絡的に結論付けたが,進歩性の判断において,要件となるのは,当業者が容易に想到することができるか否かであり,1つの文献に相違点1に係る構成の全てが開示されていることを必須の要件とするものではない。
(3) 手続違背
本件審決は,引用例1ないし4又は周知例1ないし7のいずれを主引用例とした場合であっても,相違点1に係る本件発明1の構成を得ることが,当業者にとって容易に想到できたとは認められないと大雑把な認定断定をしたが,その理由について一切明らかにしていない。
原告が審判請求書において主張した無効理由は,引用例1を主引用例とするものであり,それ以外の無効理由を主張していない。この点についても,取消事由1と同様,職権審理の結果を原告に通知し,意見を申し立てる機会を与えていない点で違法である。
(4) 相違点1’の容易想到性
以下のとおり,引用例1ないし4及び周知例1ないし7に基づいて,当業者は,相違点1’に係る構成を容易に想到することができたものであり,その認定判断も誤っている。
ア 本件優先日以前から,バッグインボックス用袋体において,内容物の酸素による劣化や漏洩を防ぐために,また,耐圧性,対薬品性を高めるために,2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋を用いることは,引用例3並びに周知例1,6及び7に記載され,周知技術であった。
引用発明の袋体は,バッグインボックス用袋体であるから,バッグインボックス用袋体に求められる一般的な機能として,内容物の酸素による劣化や漏洩を防ぐ必要性があることは自明であり,耐圧性,対薬品性を高める課題が存在する。加えて,引用例1には,ガスバリヤー性の必要性が明示されている。
したがって,引用発明のバッグインボックス用袋体において,内容物の酸素による劣化や漏洩を防ぐために,また,耐圧性,対薬品性,ガスバリヤー性を高めるために,上記周知技術を参酌して,1枚の合成樹脂製フィルムによって構成された袋体の平面部及び側面部について,2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋とすることは,当業者にとって容易に想到し得る事項である。
イ また,引用発明には,開口をシールして頂部シール部を形成し,4方シールとすることの示唆がある(図5)。
引用例2には,従来のガセット袋における底部の折込み部分に非接着縁が残ったりして,これが角底外面に突き出して,角底の形状が不整形となり密封性を不安定にする欠点を解消するため,折込みフィルムの上,下縁部の近傍に1個又は複数の透孔を設けて,両面の本体シール部を接着させることにより,内容物を収容した場合に底熱シール部が一体となって底面の一方に倒伏して平面底となり,上部熱シール部も開口部を熱封緘した状態で同様に平面を形成するガセット袋が開示され,この構成において,側縁熱シール部が,角底袋の四隅の補強縁となって自立性を付与するものであることを明記している。
引用発明と引用例2記載の発明は,いずれもラミネートフィルムを使用したガセット袋に関するものであり,製造方法についても,2枚のフィルムを重ね合わせ,この2枚のフィルムの両側縁間に,二のガセット折込体をガセット状に折り込みして配置し,重ね合わせた状態でヒートシールする点で共通しており,その構造についても,多くの共通点を有する。
また,引用発明の内袋は,引用例2における従来のガセット袋であるから,引用発明において,引用例2のシール部の構造を採用することは,当業者にとって容易に想到できた事項にすぎない。
ウ 引用例2におけるガセット袋では,本体上縁部に内容物を充填するための開口部を有しているが,開口部を熱封緘することが開示されている。さらに,バッグインボックス用のガセット袋において,本件優先日以前から,頂部にシール部を設けることは極めて一般的な構成であり,また,ガセット袋の平面部に開口及びバルブを設ける構成も周知技術であり,バッグインボックス用のガセット袋において,開口をいずれの位置に設けるかは任意の設計事項である。
前記のとおり,引用発明には,開口をシールして頂部シール部を形成し,4方シールとすることの示唆があるので,引用発明において,引用例2のシール部の構造を採用し,「頂部シール部」を採用し,4方シールとすることは,当業者が容易に想到できる事項である。
エ なお,被告は,「自立性に優れる」とは平袋に比較して優れるとの意味であると主張している。
しかし,引用発明の袋体は,一定の自立性を有する袋体であるから,平袋に比較して自立性に優れるものであり,この点において,本件発明1と何ら変わるものではない。よって,本件発明1の「自立性に優れる袋体」という要件は実質的な相違点ではない。
オ 引用例1の袋体においても,自立性及び柔軟性を備えるものであり,多重袋とすることで耐久性が向上することは従来技術に記載されているから,相違点1に係る構成が奏する効果は,引用発明の効果と周知慣用技術である多重袋とすることによって発揮される効果と同じである。
したがって,本件発明1の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術から予測可能な効果にすぎない。
カ 以上のとおり,相違点1’に係る構成は,引用例1ないし4及び周知例1ないし7に基づいて,当業者が容易に想到できたものである。
(5) 相違点2に係る判断の誤り
ア 本件発明においては,頂部シール部上,又は,頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所,頂点の位置と不連続的に接着されることによって,袋体の頂部側,又は,頂部側及び底部側に左右一対の吊り下げ部を形成しているのであり,吊り下げ部を形成するためにフィン部の内面同士を接着するとはされていない。フィン部の内面同士を接着することについて,本件明細書の記載からすれば,フィン部の内面同士を接着することは任意の設計事項であり,部分的ないし断続的に接着することも,特別な効果を得るためではなく,単なる設計の選択肢として記載したにすぎない(【0063】)。
したがって,本件審決は,フィン部の内面同士を接着することについての技術的意義を誤解し,周知例3が吊り下げ部を形成するためではないことを理由として,動機付けを否定したものであって,その判断は誤りである。
イ また,ガセット袋において,強度を補強するため,内容物が充填されない部分のシート内面同士を部分的又は全面的に接着することは周知技術であった。このように,周知例3には,ガセット構造の容器用袋体において,容器を補強するために,隅部に形成された三角形状の部分の内部において部分的に接着した合わせ目を設けることが開示されている。
引用発明において,引用例2記載の発明のシール部の構造を採用することは,当業者にとって容易に想到できたことは前記のとおりであり,かかる構造では,頂部側と底部側に関し,頂部シール部,側面シール部及び閉鎖シール部,又は底部シール部,側面シール部及び閉鎖シール部にて,その両側部分に三角形状のフィン部が形成されているところ,袋体の強度を向上させるために,本件優先日当時の周知技術を採用して,フィン部のフィルム内面同士を部分的ないし断続的に接着することは,当業者にとって容易に想到できる事項である。
ウ さらに,引用例2記載の発明では,折込みフィルムの上,下縁部の近傍に1個又は複数の透孔を設けて,両面の本体シール部を接着させることにより,上部熱シール部並びに底熱シール部は中央の折込みフィルムが存在しない部分並びに折込みフィルムの上,下縁部近傍の透孔の部分において,両面の本体フィルムが接着されることが開示されている。引用例2記載の発明には,「フィン部は,このバッグインボックス用袋体の前後に対向する頂部シール部及び底部シール部双方が,接着され,かつ,頂部シール部上,または,頂部シール部上及び底部シール部上で少なくとも一箇所,不連続的に接着されること」が開示されている。
引用例2記載の発明は,透孔の位置について,上,下縁部近傍部としか特定していないが,接着位置をいずれとするのかは単なる設計事項にすぎない。さらに,引用例4,周知例1及び2には,バッグインボックス用の袋体において,頂点の位置を含む全体に頂部シール部が接着されていることから,引用例2記載の発明の透孔の1つを頂点の位置に配置することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
これらのことからすれば,引用例2記載の発明の袋体の頂部側及び底部側の折込みフィルムと三角形状のフィン部とによって形成された空間を吊り下げ部とすることは当業者にとって単なる設計事項にすぎない。
エ また,引用例4には,ガセット構造のバッグインボックス用袋体であって,その上面について,三角形状の部分を別々に独立して形成し,その左右の各三角形状の部分が袋体の前後に対向する封着部において頂点位置を含む全長に渡って接着されて,吊り下げ部を形成したものが開示されている。
引用例2の袋体の頂部側及び底部側の折込みフィルムと三角形状のフィン部とによって形成された空間は,頂点位置を含む全長に渡って接着されてはいないものの,前後のフィルムが接着されて,引用例4記載の発明と同様に両手を挿入することができ,持ち上げることが可能な構成となっているので,上記発明を参酌すれば,かかる空間を吊り下げ部として使用することは,当業者にとって容易に想到できた事項である。
オ 以上のとおり,相違点2に係る構成は,引用発明,引用例2及び4記載の発明並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に想到できた事項である。
〔被告の主張〕
(1) 相違点1の認定及び判断について
ア 原告は,相違点1を原告独自に相違点1’と認定しつつ,これを一体的な相違点と把握することなく,①「袋体が,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成」,②「4方シール」,③「柱構造が少なくとも4枚のフィルムが重なり合っており」,④「自立性に優れる袋体」に細分化した上で,それぞれ周知であるとした上,当業者が容易に想到できた事項にすぎないと主張する。
しかし,相違点の認定自体が誤っているから,相違点判断の前提において誤っている。仮に,原告のような相違点の認定をするのであれば,それがひとまとまりの相違点であって,これを恣意的に分解することはできない。発明の解決課題に係る技術的観点を考慮することなく,相違点を,ことさらに細かく分けて認定したならば,本来であれば,進歩性が肯定されるべき発明に対しても,正当に判断されることなく,進歩性が否定されるという不都合な結果が生じ得る。
ところが,原告は,それのみならず,本件発明1において,多数の構成を有機的に統合するという斬新的かつ独創的な発想により,これまでのバッグインボックス用袋体にはない顕著な作用効果を奏するものであることを考慮することなく,独自に認定した相違点を①ないし④に細分化して,それぞれにつき容易想到性の検討をするばかりで,①ないし④を一体とする組合せについての容易想到性については全く検討していない。
以上のとおり,原告の主張は,前提において誤っているが,念のため,個々の容易想到性の主張が誤っていることについても述べる。
イ 引用発明と引用例3の組合せについて
仮に,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって袋体を形成することが周知技術であったとしても,これをガセット袋体に適用することは困難である。
すなわち,引用例3記載の発明は,実質的に,本件明細書が従来技術としている平袋の二重化に関する発明にすぎず,「ガセット」という用語については,唯一「袋形状なガセット袋など適宜選定できる」と言及されているにすぎない。
また,引用発明の平面部及び側面部は,重ね合わされていない1枚のフィルムによって構成されており,引用例1に,重ね合わされた2枚以上のフィルムから袋体の平面部及び側面部を作成することは記載されていない。
重ね合わせた2枚のフィルムを折り曲げて,ガセット袋を製造する場合には,1枚の合成樹脂製フィルムを折り曲げてガセット袋を製造するときには生じない,折り曲げ部において,フィルムにズレが生じるという「重大な技術的問題」が発生するため,本件出願以前に,重ね合わせた2枚の合成樹脂製フィルムにより構成されるガセットを有するバッグインボックス用袋体の製造は行われてこなかった。
ウ 引用発明と引用例2の組合せについて
引用例2記載の発明の袋体はボイル殺菌,レトルト殺菌が想定されるような袋体であって,バッグインボックス用袋体とは技術分野が相違している。したがって,技術分野の異なる引用例2を引用発明に組み合わせるべき動機付けが存在しない。
また,引用発明と引用例2記載の発明は,合成樹脂製フィルム1枚からなる袋体であって,仮に,両発明を組み合わせたとしても,本件発明1のような,接着されていない状態で重ね合わされた合成樹脂製フィルム2枚からなる袋体とはなりようがない。さらに,両発明の頂部には開口があるから,両者を組み合わせたとしても,4方シールの袋体とはならない。
引用発明は「主として18リットル缶の内袋に使用され」,開口をシールする際,袋体には18リットルもの液体により袋体は大きく膨らんだ状態にある。このような状態では,大きく膨らみ変形する袋体が開口をシールすることを困難にするが,それにもまして,内容物が流出しないように頂部全体をシールすることは極めて困難であって,原告が主張するような頂部全体のシールは,当業者において想定しないのが通常である。仮に,内容物を充填して大きく膨らんだ状態で開口をシールしたとしても,本件発明1の課題である「耐衝撃性」,「積み上げ時の安定性や強度」を解決するシールとはならない。
したがって,引用発明には,開口をシールして項部シール部を形成し,4方シールとすることについては記載も示唆もない。
エ 引用例4,周知例1及び2について
引用例4及び周知例1には,本件発明1の技術思想の核心部分の1つである「柱構造」については何ら開示されていない。また,周知例2には,本件発明の特徴的部分たる「柱構造」及び「フィン部」について何ら開示されていない。本件発明1の「柱構造」は,「合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する,4方シール」という属性を伴った「柱構造」であって,属性を捨象した「柱構造」のみを論じても無意味である。
オ 自立性について
本件発明1は,「内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり,自立性に優れる」袋体であって,袋体に内容物を充填したり,箱から袋体を取り出すとき,又は袋体だけの状態で使用するときに,袋体単独で独立して自立するものである。
これに対して,引用発明の袋体は,段ボール箱内で液体が充填されると直方体に形成されるもので,「袋体単独で自立すること」を目的とするものではないから,本件発明1とは異なる。段ボール箱内で液体が充填されると直方体に形成されるだけでは,本件発明1にいう「自立性」があるとはいえない。
(2) 相違点2に係る判断について
ア 周知例3について
周知例3記載の技術において,「ガセット構造の隅部に形成された略三角形状の部分を部分的に接着した合わせ目を設ける」理由は,当該略三角形状の部分を用いて容器を直立させるためである。
イ 本件発明1の硬い外形を有するフィン部は,柱構造とともに本件発明1の特徴的部分である。
すなわち,本件発明1のフィン部よりなる吊り下げ部は,①「頂部シール部」と②同頂部シール部を挟んで,対向するフィン部との2つの部分から構成されていることは,本件明細書の図4から明らかである。特に,重量の大きい袋体を吊り下げ部で支えるためには,対向する「フィン部」が,「頂部シール部における隅部の頂点の位置の接着部及びこれと不連続的な接着部」とともに強靭なものでなければならないことは明らかである。したがって,「フィン部の内面同士を接着する」ことは,(強靭な)吊り下げ部を形成するためには必然的な技術的事項である。
ウ 吊り下げ部とすることが設計事項でないこと
引用例2記載の発明の袋体は,ボイル殺菌,レトルト殺菌が想定されるような袋体であって,バッグインボックス用袋体とは技術分野が相違している。
一方,引用例4には,コーヒー等の飲料等の自動販売機用のバッグインボックス用袋体が記載されて,把手を設けたり,上面左右に三角部を形成する技術が開示されている。
しかし,そもそも,ボイル殺菌,レトルト殺菌が想定される引用例2記載の発明のような袋体に把手を設けたり,上面左右に三角部を形成することが必要であるとはいい難い。
なお,引用例2及び4には,頂部側のフィン部には,前記平面部と前記側面部の内面同士が部分的ないし断続的に接着されることは,何ら記載されていない。
エ 引用発明,引用例2及び4記載の発明を組み合わせる動機付けがないこと
引用発明では,その頂部はシールされていないから,吊り下げ部を設ける発想はない。引用発明は,段ボールにバッグインボックス用袋体を入れてから内容物を注入して使用するものであって,袋体のみで扱うことはないから,吊り下げ部を設ける理由がない。
引用例1のフィン部相当部分は,ガセット部の谷折れ線に対して外側に畳まれているのに対して,引用例4のフィン部相当部分は,ガセット部の谷折れ線を囲むように立てられており,フィン部相当部分を曲げる方向が互いに反対方向であり,両者はそもそもフィン部相当部分の技術的意義が異なる。よって,引用発明と引用例4記載の発明を組み合わせることは合理的ではない。
(3) 本件発明1の構成の相関性
本件発明1は,構成要件が相互に密接に関連して,構成要件が一体となって,顕著な作用効果を奏する発明であるから,「構成要件の一体的組合せ」が重要である。したがって,本件発明1の容易性を論じるためには,相違点1と相違点2に係る組合せの動機付け及び理由を要するが,原告は,本件発明1の容易想到性を主張するに当たって,相違点1と相違点2に係る組合せの動機付けを何ら述べていない。
3 取消事由3(本件発明2ないし11の容易想到性に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本件発明1について容易想到性の判断を誤っているから,本件発明2ないし11に係る本件審決の判断も,誤った判断を前提にしたものである。
〔被告の主張〕
本件発明1は進歩性を有しているから,これを引用する本件発明2ないし11は容易に想到できたものではない。
第4当裁判所の判断
1 取消事由1(手続違背)について
(1) 本件審決の判断
ア 本件審決は,引用例1を主引用例とする容易想到性の有無の判断をした上で,「8 補足」と題し,「(2) 議論の蒸し返しについて」として,本件無効審判で提出された引用例1等は,第1次審決で触れられた証拠方法とは異なっているから,議論の蒸し返しであるとはいえないものの,「被告が主張するとおり,第1次無効審判では,20件を越える証拠方法について検討した上で,審決をしており,本件無効審判で新規な証拠として提出されたものは,実質的に周知例1のみである。そして,その周知例1には,上記審決及びその取消訴訟の判決で指摘された特徴点は,記載も示唆もされていない。そうすると,第1次無効審判とは無関係な第三者が本件無効審判を請求したのであればともかく,第1次無効審判の請求人であり,第1次無効審判の審理経過を熟知している原告が,改めて本件無効審判を請求しているのであるから,被告から議論の蒸し返しであると非難されても止むを得ないというべきである。」と判断した。
イ 本件審決は,続けて「(3) その他の無効理由について」と題し,以下のとおり判断した。
すなわち,本件審決は,被告が,本件特許に係る審査,審判及び裁判において,多くの証拠が検討されてきたことに触れ,それら証拠の一覧を参考資料として答弁書に添付しており,その参考資料に記載された文献は,引用例1ないし4及び周知例1ないし7を含む36件の文献であるとして,それを摘示した上,「念のため,上記文献の記載内容を検討したが,いずれの文献にも,相違点1に係る構成も,相違点2に係る構成も,記載も示唆もされていない。また,いずれの文献にも,相違点1に係る構成,又は,相違点2に係る構成を採用する動機付けについて,記載も示唆もされていない。したがって,上記文献に記載された発明をどのように組み合わせても,換言すれば,上記文献のどれを主引用例とした場合であっても,相違点1に係る本件発明1の構成を得ることが,当業者にとって容易に想到できたとは認められない。同様に,上記文献に記載された発明をどのように組み合わせても,換言すれば,上記文献のどれを主引用例とした場合であっても,相違点2に係る本件発明1の構成を得ることが,当業者にとって容易に想到できたとは認められない」と判断した。
なお,本件審決は,上記36件の文献のうち,引用例1以外の文献に記載された発明を具体的に認定することなく,また,当該発明と本件発明との対比をすることもなく,したがって,当該発明と本件発明との一致点や相違点を認定することもなく,相違点についての具体的な判断も行っていない。
(2) 手続違背の有無
前記のとおり,本件審決には,概括的に,36件の文献のいずれを主引用例とした場合であっても,本件発明1の構成を得ることが当業者にとって容易に想到できたとは認められないとの記載がされているものの,引用例1以外の文献に記載された発明を具体的に認定することなく,また,当該発明と本件発明との対比をすることもなく,したがって,当該発明と本件発明との一致点や相違点を認定することもなく,相違点についての具体的な判断も行っていないものである。そうすると,本件審決の前記記載は,実質的にみて具体的な容易想到性の判断を行ったものと評価することはできず,紛争の蒸し返しを予防したいという余り,余事記載をしたものというほかない。
(3) 小括
よって,本件審決に手続違背の違法があるとまではいえず,取消事由1は理由がない。
2 本件発明について
(1) 本件明細書の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであり,本件明細書の記載によれば,本件発明は,以下のとおりのものと認められる(甲23の2)。
ア 発明の属する分野
本件発明は,段ボール箱等の外箱にプラスチック製の内袋を入れ,内袋に各種の液体を充填して,その貯蔵・運搬に用いるバッグインボックスの内袋に関する発明である(【0001】【0002】【0005】)。
イ 従来の技術
従来技術では,合成樹脂製の平袋等が用いられているが,外箱の内部形状に対する追従性が悪く無駄な空間が生じやすい,振動などの小さい衝撃が加えられた場合に内袋がこすれて傷付き破れやすい,自立性を有しないので外箱内に収納する際や内袋だけで使用したい場合に取扱いが不便である等の問題があった(【0006】~【0008】)。
ウ 課題を解決するための手段
本件発明は,このような問題を解決するために,特許請求の範囲に特定された構成を有するものであるが,特に,袋本体が,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する4方シールとされ,その側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり,内容物である液体の充填時には直方体又は立方体に近い形状になり,自立性に優れる袋体となる構成をとることにより(【0012】【0013】),液体の充填時には立方体又は直方体に近い形状となることで,自立性に優れ,取扱いが容易であり,立方体又は直方体である外箱の内部形状に対して追従性に優れ,袋体が外箱内で動きにくく,衝撃による破裂やこすれによる破れが起こりにくいという利点を有するとともに,平面部及び側面部が,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって形成されているので,外側の合成樹脂製フィルムのみが外箱との摩擦で摩耗し,内側の合成樹脂製フィルムは外側の合成樹脂製フィルムに対する滑りによって破れにくい上に柔軟性に富んでいるので取扱いが容易であるという作用効果を奏するものである(【0024】~【0027】)。また,その頂部側と底部側の両側部分に三角形状のフィン部が形成され,フィン部同士を隅部の頂点の位置と他の位置とを頂点の位置と不連続的に接着されることによって,袋体の頂部側等に左右一対の吊り下げ部を形成することにより(【0016】),内容物が充填された状態での袋体の取り出しなどを容易にできる(【0030】【0031】)。
エ 発明の実施の形態(吊り下げ部)
袋本体の各隅部には,頂部シール部及び底部シール部のうちのいずれかのシール部,側面シール部及び閉鎖シール部に囲まれることによって,閉鎖シール部と一体的に,三角形状のフィン部が形成されている。この三角形状のフィン部の内部空間は,閉鎖シール部によって袋本体の内部空間から完全に閉鎖されているので,袋内に充填された内容物はその中に入り込めない。したがって,袋体を外箱内に収納する際に,三角形状のフィン部が形成されている各隅部が折れ曲がっても,隅部に残液は溜まらず,バッグインボックスの残液排出性が向上する。さらに,三角形状のフィン部と一体的に形成された前記の閉鎖シール部は,衝撃に対して応力分散の効果があるので,袋体の耐衝撃性が向上する(【0062】)。
三角形状のフィン部において対向する袋本体の内面同士は,図1に示すように接着されていなくてもよいが,閉鎖シール部の接着部分と連続的に接着されていてもよい。この場合には,フィン部の内部空間がない状態となる。また,フィン部の内面同士は,全面的にではなくて部分的ないし断続的に接着されていてもよい(【0063】)。
袋本体の前側と後ろ側の対向する頂部シール部同士又は底部シール部同士を,頂点の接着部分と連続的又は不連続的に接着することによって,袋体の頂部側又は底部側に左右一対の吊り下げ部を形成してもよい。この吊り下げ部を形成した場合には,フィン部と胴部の間の空間に手や機械ハンドを差し入れて袋体を吊り下げることが可能となるので,袋体の移動や内容物の排出に際して便利である。特に袋体の製造過程においては,機械ハンドによって充填後の重い袋体を持ち上げ,それを外箱に入れることができるので,人員の削減による省力化や,無菌充填システムの導入による環境衛生の向上に有利となる(【0066】)。
上記吊り下げ部を形成するために頂点の位置の接着部と連続的又は不連続的に形成される接着部は,帯状のシール部であってもよいし,円形,楕円形,四角形等のポイントシール部(スポットシール部)であってもよい(【0067】)。
(2) 本件発明の意義
本件発明は,「側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造をとり」という構成を備えており,そのことにより,耐衝撃性,内容物の使いきり性及び内容物の充填時や外箱からの取り出し後における自立性に優れたバッグインボックス用の内袋を提供することなどを可能にするものである。
このように,本件発明は,上記構成により,バッグインボックスに用いる袋体として求められる,自立性,柔軟性,耐久性という,相反する要望に応えることができるという意義を有するものである。また,ほかに,その頂部側と底部側の両側部分に三角形状のフィン部が形成され,フィン部同士を隅部の頂点の位置と他の位置とを頂点の位置と不連続的に接着されることによって,袋体の頂部側等に左右一対の吊り下げ部を形成することにより,内容物が充填された状態での袋体の取り出しなどを容易にできるという意義も有するものである。
3 引用発明等について
(1) 引用発明について
引用発明は,前記第2の3(2)に記載のとおりであるところ,引用例1には,おおむね以下の記載がある(甲1)。
ア 産業上の利用分野
引用発明は,段ボール箱等に内装する内袋に関し,特に液体や粉体などの内容物を充填して段ボール箱に内装して用いるのに好適な内袋に関する(【0001】)。
イ 考案が解決しようとする課題
引用発明は,使用前の容器保管場所の省スペースに寄与し,また,運搬が容易で,かつ廃棄物の公害とならず一般のゴミと共に廃棄処理可能な内袋を提供することを目的とし,また,ガスバリヤー性を有するラミネートフィルムで容易に製造可能な用途範囲が広い内袋を提供することを目的とするものである(【0007】)。
ウ 課題を解決するための手段
内袋においては,重ね合わせたフィルムの両側縁間に,中央に折込線を形成し,断面V字形に折曲形成した二のガセット折込体を挿入し,そして該二のガセット折込体の折込線間に適宜距離を設けてガセット折込体の端縁と前記重ね合わせたフィルムの両側縁をシールし,さらに,前記2枚のフィルムの両側縁のシール上で,所定の間隔を介して,傾斜ヒートシール部でガセット折込体と前記フィルムをシールし,また,前記二のガセット折込体の折込線間の二のフィルムの一方の端縁を前記傾斜ヒートシール部に連結するヒートシール部でシールし,前記折込線間の二のフィルムの他方の端縁で開口を設けたものである(【0008】)。
前記各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体を切断除去するとよい(【0011】)。
そして,外装体とする段ボール箱などの内部に内袋を投入し,該内袋内に開口から液体や粉末などの内容物を注入すると,折り畳んだ状態の内袋はガセット折込体の折込線が前記内容物によって外方へ徐々に押圧され,各傾斜シール部たる四の傾斜ヒートシール部及び四の傾斜ヒートシール部は,開口及び二の折込線間のヒートシール部と共に互いに近づく方向へ徐々に移動し,直方体状に展開し,内袋は外装体の段ボール箱などの形状に対応する寸法に容易に形成され,段ボール箱などの内部形状に適合する直方体状に膨らみ組み立てられる(【0014】)。
さらに,各ヒートシール部の外側のフィルム及びガセット折込体の部分を切断することにより,図1に示すような内袋が形成される(【0024】)。
また,開口は,内容物を充填後,二のフィルムをシールして閉塞してもよく,あるいは図示せざるバルブを開口にシールして連結してもよい。あるいは,図7に示すように,開口内にフィルムでなる筒体を挿通して筒体の軸線方向の一端を内袋内に突出し,さらに該筒体の外周面と開口間をシールして閉塞する(【0030】)。
また,実施例の図1の内袋では傾斜ヒートシール部の外側のフィルム及びガセット折込体のコーナの部分すなわち二点鎖線の部分はカットしているが,図5の内袋では切断していない。しかし,これらのフィルム及びガセット折込体のコーナの部分は内袋内に内容物を充填すると,図6に示すように,内袋の直方体の上面上及び底面下に沿うので,実際の使用上においては何ら支障はない。したがって図1に示す内袋においても前記コーナの部分をカットしなくてもよい。さらに,各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体コーナの部分は内袋内に内容物を充填すると内袋の直方体の上面上及び底面下に沿うので,実際の使用上においては何ら支障はない(【0034】)。
エ 考案の効果
引用発明は,各シール部の外側のフィルムを切断除去して,展開した直方体の外面に不用なフィルム片が突出しないようにすることもできる(【0042】)。
(2) 引用例2について
引用例2には,おおむね以下の記載がある(甲2)。
ア 考案の詳細な説明
本考案は,外層が非熱接着性層,内層が熱接着性層である積層フィルムにより作られたガセット袋に関する。
従来から,両側に折込み部を有する筒状体の底部をシールするとともに該底部に斜シールを施したガセット袋は公知であるが,筒状体の長手方向に背シール部が形成されたり,底部の折込み部分に非接着縁が残ったりして,これが角底外面に突き出して,角底の形状が不整形となり密封性を不安定にする欠点があった。
本考案は,上記のごとき従来の不都合を解消することを目的とするものであって,その特徴とするところは熱接着性内面層と非熱接着性外面層よりなる積層フィルムを用いて,2枚の本体フィルムと,2枚の折込みフィルムを準備して,袋体内面が熱接着性層となるように本体フィルム間に折込みフィルムを挟み,この際折込みフィルムの上,下縁部の近傍に透孔を設けて,側縁天縁及び底縁を熱シールした点にある。
イ 実施例
第1図は,本考案ガセット袋を分解したフィルム部材の斜視図であって,紙,アルミニウム箔,ポリエステル,ナイロンなどの非熱接着性外面層と熱接着性合成樹脂などの熱接着性内面層を有する積層フィルムよりなる本体フィルムであって,その熱接着性内面層を対面するように重ねる際に,その両側縁間に上記の積層フィルムを短冊状に二つ折りにして折り込み,内面側に非熱接着性外面層が対面するようにした折込みフィルムを挿入するものであり,該各折込みフィルムの上,下縁部の近傍には透孔を設ける。
上記の透孔は,図示例では各箇所に1個ずつ設けられているが,各箇所に複数の透孔が設けられてもよい。そして,第2図の平面図に示すように,本体フィルム間の両側縁に,折込みフィルムが挿入されて重ね合わされ,所定の熱接着加工が施されて第3図及び第4図に示されるようなガセット袋となる。
開口部熱シール部並びに底熱シール部は中央の折込みフィルムが存在しない部分並びに折込みフィルムの上,下縁部近傍の透孔の部分において,両面の本体フィルムが接着されて形成される。さらに開口部熱シール部において,上記折込みシール部以外の本体上縁部は内容物の充填の際支障ない程度の開口部を有する。
本考案のガセット袋は,上記のように構成されているので,第3図のような直立状態で,上部の開口部から内容物を収容すればその重量によって第4図に示すように底面が角底状をなし,その際底熱シール部は一体となって矢印のように底面の一方に倒伏して平面底となり,上部熱シール部は開口部を熱封緘した状態で同様に平面を形成する。さらに側縁熱シール部は,角底袋の四隅の補強縁となって自立性を付与するものである。
ウ 非熱接着性外面層と熱接着性合成樹脂などの熱接着性内面層を有する積層フィルムよりなる本体フィルムであって,その熱接着性内面層を対面するように重ねる際に,その両側縁間に上記の積層フィルムを短冊状に二つ折りにして折り込み,内面側に非熱接着性外面層が対面するようにした折込みフィルムを挿入するものであり,該各折込みフィルムの上,下縁部の近傍には透孔を設けるものであって,本体フィルム間の両側縁に,折込みフィルムが挿入されて重ね合わされ,所定の熱接着加工が施されて第3図及び第4図に示されるようなガセット袋となり,シール部並びに底熱シール部は中央の折込みフィルムが存在しない部分並びに折込みフィルムの上,下縁部近傍の透孔の部分において,両面の本体フィルムが接着されて形成され,さらに開口部熱シール部において,上記折込みシール部以外の本体上縁部は内容物の充填の際支障ない程度の開口部を有する。
エ また,直立状態で,上部の開口部から内容物を収容すればその重量によって第4図に示すように底面が角底状をなし,その際底熱シール部は平面底となり,上部熱シール部は同様に平面を形成する。さらに側縁熱シール部は,角底袋の四隅の補強縁となって自立性を付与するものである。なお,第4図及び第5図をみても,底の幅に対して背丈が相当高い形状であって袋自体が強くなければその形態を維持することはできないような様子がみてとれる。
オ 作用効果
本考案のガセット袋は,従来のように筒部に背シールがなく,そのために密封性が高まり,かつまた,上,底部の平面性,整形性とともに側壁の自立性が向上したものとなり特に液体容器として好適であり,ボイル殺菌やレトルト殺菌にも耐え得るものである。
(3) 引用例3について
引用例3には,おおむね以下の記載がある(甲3)。
ア 産業上の利用分野
本考案は,生乳や乳飲料を含む乳製品を搬送するために使用されるバッグインボックスに関する(【0001】)。
イ 考案が解決しようとする課題
バッグインボックスは,軽量かつかさばらずに多量の製品を収容できるので,生乳や乳飲料を含む乳製品を搬送するために使用することは望ましいことではあるが,生乳や乳飲料を含む乳製品を搬送する容器とし使用できる容器包装材料は,乳等省令により限られているので,バッグインボックスの内袋はポリエチレンフィルムを用いて成形する必要がある(【0005】)。
しかし,乳等省令により使用できるポリエチレン同士を溶融接合するため,ヒートシール部分において溶融したポリエチレン材料がポリエチレンフィルムの端面より外部に漏れ,外観が見苦しくしたり,ヒートシール部分のフィルム厚を薄くし,適切なヒートシール加工が難しくしたり,ヒートシール部分のシール強度を低下させてしまうという問題点がある。また,使用できるプラスチックフィルムに制限があるため,フィルム強度面でも強靭なものではなかった(【0006】)。
本考案は上記した点に鑑みてなされたもので,内袋のヒートシール加工を容易にし,かつ,シール強度を高めることを可能にした乳製品のバッグインボックスを提供することを目的とする(【0007】)。
ウ 課題を解決するための手段
本考案の乳製品のバッグインボックスは,乳製品を封入する内袋をポリエチレンフィルムで作られ内側袋と,延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした織布又は不織布とポリエチレンフィルムをラミネートした基材シートをポリエチレンフィルムを内側にして形成した外側袋とで構成し,内側袋と外側袋をヒートシール手段により周辺部を互いに接合することを特徴とする。また,本考案の乳製品のバッグインボックスは,外箱の一面に開口を設けるとともに内袋の一部に口部を設け,内袋の口部を外箱に設けた開口を通して外部に突出することを特徴とする(【0008】)。
エ 作用
本考案の乳製品のバッグインボックスは,ポリエチレンフィルムで内袋を形成する場合に,ポリエチレンフィルム同士をヒートシールするが,ヒートシール部分において溶融したポリエチレン材料は,基材シートに設けた延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした織布又は不織布の空間に保持され,溶融したポリエチレン材料が外部に漏れることはなく,ヒートシール加工が容易となり,また,ヒートシール加工する際のポリエチレンフィルムのフィルム厚は確保されるので,ヒートシール部分のシール強度を高く保つことができる。また,20リットル容器に適用した際に,強靭なフィルム強度を得ることができる(【0009】)。
オ 実施例
図1は本考案によるバッグインボックスを示す図であり,このバッグインボックスは,厚紙カートン又はダンボールにより組み立てられた外箱と,この外箱の内部に収容される2重構造の内袋から構成されている(【0010】)。
上記内袋は,図2に示すように,厚さ80ミクロンのポリエチレンフィルムにより形成される内側袋と延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした不織布と厚さ100ミクロンのポリエチレンフィルムをラミネートした基材により形成される外側袋から構成されている(【0011】)。
内袋を成形するには,まず,厚さ80ミクロンのポリエチレンフィルムを矩形状に裁断した内側袋形成片と,延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした不織布と厚さ100ミクロンのポリエチレンフィルムをラミネートして形成された基材シートを矩形状に裁断した外側袋形成片を用意し,内側袋形成片を互いに重ね合わせ,その重ね合わせた内側袋形成片の上に,外側袋形成片をポリエチレンフィルムを下側にして重ね合わせ,この組合せ体の全周を通常のヒートシール手段によりヒートシールすることで行われる。このヒートシール手段による形成されるヒートシール部分では,ヒートシール部分において溶融したポリエチレン材料は,基材シートに設けた延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした織布又は不織布の空間に保持され,溶融したポリエチレン材料が外部に漏れ出ることはなく,ヒートシール加工に伴って問題が生じることはなく,また,溶融したポリエチレン材料が外部に漏れたり内部に移行することはないので,ヒートシール加工した際のポリエチレンフィルムのフィルム厚は一定の厚さを確保し,ヒートシール部分のシール強度を高く保つことができる(【0012】)。
上記実施例では,内側袋は1つであり,内袋は2重構造であるが,内側袋を2つ又はそれ以上とした多重構造としてもよいのはもちろんである。また袋形状なガセット袋など適宜選定できる。なお,図1で,取出し口は外箱に設けた図示しない開口を通して外部に突出される。この取出し口を設けない場合には切断具で切ることで取出し口とする(【0014】)。
カ 考案の効果
本考案によれば,内袋をポリエチレンフィルムで作られ内側袋と延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした織布又は不織布とポリエチレンフィルムをラミネートした基材シートをポリエチレンフィルムを内側にして形成した外側袋とで構成し,内側袋と外側袋はヒートシール手段により周辺部を互いに接合したので,ヒートシール部分において溶融したポリエチレン材料は,基材シートに設けた延伸高密度ポリエチレンテープヤーンを素材とした織布又は不織布の空間に保持され,溶融したポリエチレン材料が外部に漏れることはなく,ヒートシール加工が容易となり,また,ヒートシール加工する際のポリエチレンフィルムのフィルム厚は確保されるので,ヒートシール部分のシール強度を高く保つことができる。しかも,フィルム強度を強靭とした乳製品容器を作ることができる(【0015】)。
(4) 引用例4について
引用例4には,おおむね以下の記載がある(甲4)。
ア 産業上の利用分野
本考案は,バッグインボックスにおける外袋用外箱内に収納されるバッグインボックス用袋体に関する。
イ 従来技術の記載
袋体は,例えば,ポリエチレン等の薄いプラスチックフィルムを素材とした筒状フィルムの両開口端をヒートシーラなどで加熱溶着して袋体とすることにより形成されている。
ウ 実施例
第1図ないし第5図において,本考案のバッグインボックス用の袋体は,ポリエチレン等の薄いプラスチックフィルムを素材とした筒状フィルムの両開口端をヒートシーラなどで加熱溶着して袋体とすることにより形成されている。すなわち,バッグインボックス用袋体は両端を開口した筒状フィルムの袋本体の両側部に先端部分が互いに当節又は隣接するように内側に折り込んだガセット部を形成し,袋本体の開口端の中央位置と,この位置より内方で袋本体とガセット部の連接部の所定位置とを結ぶ斜め線に沿ってガセット部の各片とこのガセット部の各片に対面する袋本体の上下片とをヒートシーラなどで溶着封止して封着部を形成し袋体としたものである。そして,袋本体の上辺に口金を取り付けて内容物を充填及び取り出しできるようにしたものである。
また,前記袋体は,第7図及び第8図に示すように,袋本体の一側を斜めに裁断することなく側辺を袋体の一側先端まで伸ばし,ガセット部の各片の開口端とを溶着封止するようにしてもよい。
前記袋体はいわゆるテーブルトップ形に形成され,こうして形成された封着部は把手としての機能を有し,袋体に内容物を注入した場合に,第8図に示すように上面の左右に形成された三角凹部に両手が挿入される。
(5) 周知例1について
周知例1には,おおむね以下の記載がある(甲5)。
ア 本考案はバッグインボックス用袋体に係り,特に外袋用外箱内に収納されるシート状部材から形成された折りたたみ可能なバッグインボックス用袋体に関する。
イ 一方,ガセット型袋体は,両端が開口した筒状の袋本体を用意し,この袋本体の両側部に先端部分が互いに当接又は隣接するように内側に折り込んだガセット部を形成し,袋本体の両開口端を重ね合わせて溶着封止したものである。
ウ そして,袋本体の上辺に口金を取り付けて内容物を充填及び取り出しできるようにしたものである。
エ 本実施例におけるバッグインボックス用袋体は両端を開口した筒状フィルムの袋本体の両側部に先端部分が互いに当接又は隣接するように内側に折り込んだガセット部を形成し袋本体の開口端の中央位置と,この位置より内方で袋本体とガセット部の連接部の所定位置とを結ぶ斜め線に沿ってガセット部の各片とこのガセット部の各片に対面する袋本体の上下片とをヒートシーラなどで溶着封止して封着部を形成し,更にガセット部の各片の開口端とこのガセット部の各片に対面する袋本体の上下片の開口端とを溶着封止して直線状の封着部を形成し袋体としたものである。
封着部と封着部とで囲まれた上下8箇所の三角形状部が露出した状態の立方体又は直方体となる。
(6) 周知例2について
周知例2には,図面とともに,おおむね以下の記載がある(甲6)。
ア 通常,4~20kg程度の重量内容物の場合のバッグインボックスには,後者の別個内袋を利用するものが多く,この場合において,従来は内容物充填内袋を直接把持取扱っていたので,作業者の不注意により比較的強度の弱い内袋が損傷したり,内容物の内圧により破袋するなど事故を生じやすい欠点があった。
本考案は,前記の別個の内袋を用いる場合の不都合を解消することを目的とするものであって,内容部充填後の内袋の上縁密封部に把持用耳縁を形成することにより,内袋取扱作業を容易確実になし得るようにし,内袋の損傷破袋事故の発生を防止したものである。
イ 第1図は,従来のバッグインボックスの外装を開封した状態を示す。第2図は本考案の内袋の一実施例の斜視図であり,内袋に,液体又は粉体などの流動性内容物を充填した後,充填部の上縁に,把持用の広巾の耳縁を形成して密封したものである。
ウ 第3図(a)~(c)は他の実施例を示す正面図であり,(a)は充填部の上縁が山形,(b)は台形,(c)は円弧形を呈する密封部を有するもので,いずれも充填部の密封部から上方に延長した広巾の把持用耳縁が形成され,該部は一部又は全面を溶着して補強してもよい。また該部に,把持用の引掛孔を設けてもよい。
(7) 周知例3について
周知例3には,おおむね以下の記載がある(甲7)。
ア この発明は,自由に直立する容器に関する。
一対の互いに接合された同様な側壁板と,二つの側壁板にわたって容器の底壁を構成する単一の端板を有する容器は公知である。この底壁は,大体二つの側壁を横切っており,容器の頂部は,両側壁をそれらの二つの上端縁に沿って単に熱封滅することによって閉鎖される。したがってこの容器は実際上製造するのに比較的安価でありまた全く頑丈である。
イ このような容器の欠点は,大きな又は重い荷重に対してそれを用いることが不可能であることである。もう一つの欠点は,容器の円錐また截頭円錐の形はそれが締める床面積に比較して限定された容器を与えることである。
ウ この発明の目的は改良された容器を提供することである。この発明の他の目的は,上記した欠点をなくす自由に直立する容器の提供である。
エ このように形成された容器は,二つの端壁板の二つの折り目線を通過する平面に関して対称的である。それ故,この容器は底部から頂部に向って均一な断面形のもので,頑丈な比較的に可撓性のない板材料で作られ得るので,そのためにこの容器は比較的に重い砂又は穀類のような流動する固体のためにそれを使用することができるが,牛乳,自動車のオイル,その他の液体の貯蔵又は船積みに理想的に適している。
1対の矩形の形を持った軽量な両側壁と,同様な端壁を有し,端壁は底壁であり,端壁が頂壁であって,両者は大体長楕円形のものである容器を示している。両側壁がそれらの平行な横の端縁で合わせ目によって一体に接合されている。合わせ目が頂壁と底壁を側壁に対して接合し,これらの合わせ目は両方の端縁の間にわたって延びている熱封緘である。端壁のおのおのは横方向の真直ぐな折目を形成され,その折目のおのおのは一方の端縁から他方の端縁に向かって伸び,それぞれの端壁を二つの同様な半部に二分している。容器を補強するために別の合わせ目が設けられていることは留意されるべきである。このような容器は第1図に示されたようにその端部で立たされるときに極めて安定している。
この発明による容器は,それゆえ迅速に安価に作られることができる。それにも拘わらず,この容器は非常に堅固で比較的重い荷重を運ぶことができる。このような容器が占める床面積に比較してこの容器は大量の材料を保持するので,このような容器は極めて経済的な包装である。
4 取消事由2(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について
(1) 相違点1の認定について
ア 本件審決の認定した相違点1のうち,「合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する」,「側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ」,「柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり」の部分は,本件審決の認定した一致点と文言上重複している。
イ しかし,一致点と重複する上記記載は,それぞれ「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の各構成を修飾する字句の一部に含まれるものであって,それぞれ,本件発明の課題との関係において,「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の構成を特定する技術的にまとまりのある一体不可分の事項である。
このように,技術的にまとまりのある一体不可分の事項である以上,対比すべき構成に,結果として,一致点が含まれること自体,誤りとはいえない。そして,認定された相違点1について,引き続いて行われる相違点の判断が適切に行われている限り,審決の結論に影響を与えるものとはいえない。
(2) 相違点1の判断について
ア 合成樹脂性フィルムの枚数及び側面シール部の柱構造について
(ア) 引用例3及び周知例1の従来技術の記載によれば,バッグインボックス用袋体において,接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルムによって袋体を形成し,内容物の劣化,漏洩の防止,耐圧性及び耐薬品性を高めることは,周知技術と認められる。
そして,引用発明も,同様の一般的な課題を有し,また,ガスバリヤー性を求めるものであるから,引用発明における1枚の合成樹脂製フィルムからなる袋体の平面部及び側面部について,上記周知技術を参酌して,2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋とすること自体は,容易に想到し得る。
(イ) しかしながら,引用発明は,側面部が,重ね合わされていない2枚のフィルムとはされていないから(【0008】),谷折り線で折る等の折りたたみ構造を採る際には,そのことによる2枚のフィルムの引張りや,ずれをも考慮して設計することが必要である。よって,接着されない状態で重ね合わされた2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋とすること自体は容易に想到し得たとしても,直ちに4枚重ねの柱構造を容易に想到し得るということはできない。
他方,本件発明1は,前記2のとおり,「側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ,少なくとも4枚のフィルムが重なり合った柱構造」をとるという構成を備えていることにより,耐衝撃性,内容物の使いきり性及び内容物の充填時や外箱からの取り出し後における自立性に優れたバッグインボックス用の内袋を提供することなどの作用効果を奏するものである。
そうすると,たとえ,前記周知技術を参酌して,2枚以上のフィルムを重ね合わせた多重袋とすることができたとしても,それだけで,4枚のフィルムが重なり合った柱構造にすることができるものではない。よって,相違点1のうち,少なくとも,2枚以上の合成樹脂フィルム及び側面シール部の柱構造に係る本件発明1の構成は,引用発明及び上記周知技術から容易に想到し得るものとはいえない。
(ウ) なお,引用例2記載の発明は,非熱接着性外面層と熱接着性合成樹脂などの熱接着性内面層を有する積層フィルムよりなる本体フィルムであって,その熱接着性内面層を対面するように重ねる際に,その両側縁間に上記の積層フィルムを短冊状に二つ折りにして折り込み,内面側に非熱接着性外面層が対面するようにした折込みフィルムを挿入するものであり,該各折込みフィルムの上,下縁部の近傍には透孔を設けるものである。そして,前記3(2)認定の引用例2の記載によれば,引用例2記載の発明は,両面の本体フィルムを透孔を用いることなく接着することができないものである一方,本体フィルム間の両側縁で折込みフィルムが挿入されて重ね合わされ,所定の熱接着加工が施される部分は透孔を設けていない部分でなくてはならない。そうすると,引用例2記載の発明は,非熱接着性外面層と熱接着性内面層を有する本体フィルムと該各折込みフィルムの上,下縁部の近傍に設けた透孔は,一体不可分の構成であるということができる。
したがって,引用例2には,本件発明1のように「接着されない状態で重ね合わされた少なくとも2枚の合成樹脂製フィルム」を用いた場合に,どのように接着することによって4枚のフィルムが重なり合った「柱構造」を構成することができるのかについて示唆するところがない。
(エ) 原告は,引用例3に多重袋を用いたバッグインボックスが記載されていると主張する。
しかし,引用例3には,バッグインボックスの内袋のヒートシール加工を容易にし,かつ,シール強度を高めることを可能にするため,ポリエチレンフィルムで形成された内側袋と基材シートからなる外側袋をヒートシール手段により周辺部を互いに接合するものであって,矩形状に裁断した内側袋形成片を互いに重ね合わせ,その重ね合わせた内側袋形成片の上に,外側袋形成片を重ね合わせ,この組合せ体の全周をヒートシールして内袋を成形することが記載されているにすぎず,「袋形状なガセット袋」(【0014】)と言及されてはいるが,ガセット型のバッグインボックスの構成についての具体的な示唆はない。
イ 4方シールについて
(ア) 引用例1には,袋体の上縁の開口部分以外の部分をシールすることについては記載されておらず,引用例1の【0030】の記載からは,内容物を充填後に開口を閉じることが理解されるにとどまり,むしろ,その記載によれば,開口にバルブや筒体を設けた場合にあっては,開口そのものをシールすることを想定していない。
また,引用発明において内容物を充填した袋体は,「段ボール箱などの内部形状に適合する直方体状に膨らみ」(【0014】)とされているから,内容物の充填後に上縁における開口部分以外の部分が,容易にシールできるような態様のまま形状や位置が維持されるとは考え難い。
さらに,引用例1には,各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体を切断除去するとよい等の記載があること(【0011】【0024】【0034】【0042】)に照らすと,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体については,そもそも,不要の構成と理解される。そうすると,上記構成が不要であることを前提とした引用発明において,あえて袋体の上縁全体のシールを行う必然性はない。
よって,相違点1の「4方シール」に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到し得ることではない。
(イ) 原告は,引用例1の図5の底部全体のシール構造に照らして,頂部開口をシールする際に頂部全体をシールすることを示唆していると主張する。
しかし,引用例1において,図5は,【0030】の記載の対象となる実施例とは別の実施例に関する記載であるから,【0030】の記載を解釈するに当たって,図5を参酌することは,適切ではない。また,頂部のシール構造は,開口を備えていることを前提としており,開口を有しない底部全体のシール構造とは構成を異にする。
(ウ) また,引用例2記載の発明は,開口部熱シール部において,折込みシール部以外の本体上縁部は内容物の充填の際支障ない程度の開口部を有し,直立状態で,上部の開口部から内容物を収容し,上部熱シール部は開口部を熱封緘するのであるから,「開口部」は内容物を充填した後に熱封緘されるものであって,そもそも「4方シール」の袋体を前提としていない。
さらに,上記発明は,「ガセット袋」ではあるものの,引用例2についての前記3(2)エの記載によれば,ガセット袋それ自体で自立した状態で用いられる袋体と解される。したがって,引用例2は,バッグインボックスの内袋として用いることを想定していない。
よって,引用発明に引用例2記載のシール部の構造を採用することには動機付けがない。
(エ) 原告は,引用発明の内袋は,引用例2記載の従来のガセット袋であるから,引用発明において,引用例2記載の発明のシール部の構造を採用することは容易に想到できたと主張する。
しかし,引用発明は,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体が不要の構成と理解されるから,かかる構成に対して引用例2記載の発明のシール部の構造を採用する必然性がない。
ウ 開口等の位置について
(ア) 引用例4,周知例1及び2についての前記記載によれば,頂部にシール部を設け,かつガセット袋の平面部に開口を設けることは,周知技術であると認められる。
他方,これらの技術は,筒状のもの又は平袋を素材とした袋であると認められ,引用発明の構成の前提である素材に関する構成を異にする。
さらに,引用発明は,「頂部全体をシールする」ことを示唆していない。
したがって,上記周知技術を引用発明に適用する動機付けがない。
(イ) 原告は,頂部にシール部を設けることは極めて一般的な構成であり,また,ガセット袋の平面部に開口及びバルブを設ける構成も周知技術であると主張する。
しかし,引用例4,周知例1及び2記載の発明は,いずれも,頂部にシール部を設けていることから,頂部に開口を設けず,ガセット袋の平面部に開口を設けたものであって,両者は相互に密接に関連する構成であるといえるから,頂部にシール部を設けることとガセット袋の平面部に開口及びバルブを設ける構成とを別の技術として周知であると認定することはできない。
また,同様の理由から,開口のみに着目して,バッグインボックス用のガセット袋において,開口をいずれの位置に設けるかは任意の設計事項であるとすることもできない。
エ まとめ
よって,前記の柱構造,4方シール等の構成を併せ持つ相違点1に係る構成を当業者が容易に想到し得ないことは明らかである。
また,仮に原告が主張する相違点1’について判断したとしても,前記の柱構造,4方シール等の構成については,相違点1についての判断と同様,これらを容易に想到することはできず,相違点1’を全体としてみても,これを容易に想到することはできない。
(3) 手続違背について
なお,原告は,本件審決が,相違点1の判断においても,引用例1ないし4又は周知例1ないし7のいずれを主引用例とした場合であっても,容易に想到できたとは認められないと大雑把な認定断定をしたことが,手続違背に当たると主張する。
しかし,前記1に説示したと同様,本件審決の上記記載部分も,余事記載であって,引用例1以外の文献を主引用例とした容易想到性の判断をしたものと理解することができないから,手続違背として取り消すべき違法には当たらない。
(4) 相違点2の判断について
ア 本件発明1の「吊り下げ部」について
本件明細書の前記2(1)エの記載によれば,本件発明1においては,袋本体の前側と後ろ側の対向する頂部シール部同士又は底部シール部同士を,頂点の接着部分と連続的又は不連続的に接着することによって,袋体の頂部側又は底部側に左右一対の吊り下げ部を形成していることから,内容物を充填した袋体の重量を支えるために,接着される頂部シール又は底部シールを構成する三角形状のフィン部に強度が求められることは当然であって,その際,三角形状のフィン部において対向する袋本体の内面同士が,閉鎖シール部の接着部分と連続的に接着され,また,全面的にではなく,部分的ないし断続的に接着されている構成は,吊り下げ部の機能を向上させるために有用であることは,当業者にとって自明である。
したがって,本件発明1においては,吊り下げ部を形成するためにフィン部の内面同士を接着する構成が特定されているものである。
イ 引用発明の吊り下げ部について
他方,引用発明は,袋体の上縁を構成する各シール部の外側のフィルム及びガセット折込体については,開口以外の部分についてシールすることが記載されていないだけでなく,そもそも,不要の構成と理解される。また,仮にその不要の構成が残されているとしても,フィルム及びガセット折込体のコーナの部分は内袋の直方体の上面上に沿うとされているから,吊り下げのために,不要な構成をあえて残し,さらに直方体の上面に沿わない構成として,吊り下げ用の空間を形成することは,引用発明における阻害要因となる。
また,引用発明では,内容物を注入した後に内袋のみを運搬するようなことが想定されておらず(【0014】【0026】),内袋を吊り下げて運ぶための構成を採用する動機付けがない。
ウ 引用例2,引用例4等の吊り下げ部について
(ア) 引用例2記載の発明は,非熱接着性外面層と熱接着性内面層を有する本体フィルムと該各折込みフィルムの上,下縁部の近傍に設けた透孔は,一体不可分の構成である。また,そのような構成である以上,袋体の上縁の全体を接着するという構成を採用する選択肢は採り得ない。
他方,引用例4(図7,8),周知例1(図23),周知例2(図1~3)の頂部シールはいずれも頂部の全体をシールするものであることが,少なくとも各図面の記載に照らして明らかである。
そうすると,引用例2と,引用例4等とは,頂部シールの構成を異にするから,接着位置をいずれとするかを設計事項であるということはできず,また,引用例2において,引用例4等の頂部シールの構成を参酌する余地はない。
したがって,引用例2について,引用例4等をどのように参酌しても,吊り下げ用に用いることは導き出せない。
また,引用例2は,袋体の頂部側及び底部側には,折込みフィルムと三角形状のフィン部とによって左右一対の空間が形成されているようにうかがえるものの,その空間が使用時に残存しないことは明らかであり,かかる空間を吊り下げ用に用いる余地もない。したがって,この点からも,引用例2を吊り下げ用に用いることには,阻害要因がある。
さらに,引用例2(第2図及び第6図)をみても,開口部はガセット袋の上縁の長さのかなりの割合を占めており,吊り下げのために使用できる長さ領域はわずかであることが見て取れ,その上,かかる長さ領域には,本体フィルム同士を接着させるための透孔があり,透孔の部分は折込みフィルムが接着されていない構成であるから,内容物を充填した袋体の重量が集中する吊り下げ部の構成として必ずしも適したものであるとはいえない。したがって,この点からも,引用例2において,袋体の頂部側及び底部側の折込みフィルムと三角形状のフィン部とによって形成された空間を吊り下げ部として使用することには阻害要因がある。
(イ) 上記のとおり,引用例2記載の発明の袋体の頂部側及び底部側の折込みフィルムと三角形状のフィン部とによって形成された空間を吊り下げ部として使用することについて,引用例4を適用する余地はない。
また,同様に,引用発明についても吊り下げ部を設ける動機付けがないから,引用例4を適用する余地はない。
(ウ) 周知例2の記載によれば,充填部の密封部から上方に延長した広巾の把持用耳縁が形成され,該部は一部又は全面を溶着して補強してもよいとされているが,第3図から明らかなとおり内袋はフィン部を備えるものではない。よって,引用発明とは構成の前提において異なり,周知例2を適用する余地がない。
(エ) 周知例3には,両側壁を接合する合わせ目,頂壁と底壁を側壁に対して接合する合わせ目及び容器を補強するために別の合わせ目が設けられていることが記載されているから,周知例3に記載された技術は,4方シールによって形成する,ガセット構造の容器体が,自由に直立する容器に関するものである。そして,その容器は,液体等による比較的に重い荷重を収容するため,頑丈な比較的可撓性のない板材料で作られるものであり,端部で立たされるときに極めて安定しているものである。そうすると,ガセット構造の隅部に形成された略三角形状の部分に合わせ目を設けた構成は,吊り下げ用のものではなく,当該略三角形状の部分を用いて容器を直立させるためのものであることが明らかである。
このように,周知例3は,吊り下げ用のものではないから,引用発明に適用する余地がない。
エ 相違点2の容易想到性
以上のとおり,本件発明1に係る吊り下げ部の構成は,いずれの文献にも開示されていないので,相違点2に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到し得るものではない。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は,本件発明1においては,吊り下げ部を形成するためにフィン部の内面同士を接着するとはされておらず,かかる接着は設計的事項であり,本件審決は,誤って動機付けを否定したと主張する。
しかしながら,本件発明1においては,吊り下げ部を形成するためにフィン部の内面同士を接着するものと認めることができるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(イ) 原告は,ガセット袋において,強度を補強するため,内容物が充填されない部分のシート内面同士を部分的又は全面的に接着することは周知技術であるから,フィン部のフィルム内面同士を部分的ないし断続的に接着することは容易に想到できるとも主張する。
しかし,仮に,強度を補強するため,内容物が充填されない部分のシート内面同士を部分的又は全面的に接着することそれ自体が周知技術であったとしても,引用発明において,吊り下げ部を形成するためにフィン部の内面同士を接着する構成を導き出すことはできない。
したがって,原告の上記主張も,採用することができない。
(5) 小括
以上のとおり,相違点1の認定に誤りはなく,相違点1及び2に係る本件発明1の構成は,容易に想到することができないから,取消事由2は,理由がない。
5 取消事由3(本件発明2ないし11の容易想到性に係る判断の誤り)について
前記のとおり,本件発明1について容易に想到することができない以上,本件発明1の構成の全てを備える本件発明2ないし11についても,容易に想到することはできない。
6 結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
(裁判長裁判官 土肥章大 裁判官 髙部眞規子 裁判官 齋藤巌)