知財高等裁判所 平成24年(行ケ)10219号 判決 2013年5月29日
原 告
日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士
山崎優
同
三好邦幸
同
川下清
同
河村利行
同
加藤清和
同
沢田篤志
同
伴城宏
同
今田晋一
同
梁沙織
同
小林悠紀
同
高橋幸平
同
中村昭喜
同
古賀健介
同
笹山将弘
同
沖山直之
同
吉岡実奈穂
同
池垣彰彦
訴訟代理人弁理士
梁瀬右司
同
振角正一
被 告
株式会社三共
訴訟代理人弁理士
重信和男
同
小椋正幸
同
溝渕良一
同
堅田多恵子
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2010-800146号事件について平成24年5月11日にした審決中,「訂正を認める。」との部分及び「特許第3587771号の請求項3に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
第2前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯等
被告は,発明の名称を「スロットマシン」とする特許第3587771号(平成12年8月16日出願,平成16年8月20日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。原告は,平成22年8月20日付けで,本件特許について無効審判請求(無効2010-800146号事件)をした。これに対して,被告は,平成23年4月8日付けで訂正請求したが(甲81,82),特許庁は,同年8月3日,訂正を認める,本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をした(甲86)。
これに対して,被告は,同年9月9日,審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)10291号)を提起し,同年11月14日付けで,訂正審判請求(訂正2011-390125号。甲87,88。後に,訂正請求とみなされた。以下「本件訂正」という。)をしたため,知的財産高等裁判所は,平成24年1月11日,平成23年法律第63号による改正前の特許法181条2項の規定により,同審決を取り消す旨の決定をした(乙2)。
特許庁は,これを受けて無効2010-800146号事件の審理を再開し,平成24年5月11日,本件訂正を認める,本件特許の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする,本件特許の請求項3についての審判請求は成り立たない旨の審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲
(1) 本件特許の登録時の請求項1ないし3の記載は,次のとおりである(甲11)。
【請求項1】
表示状態が変化可能な可変表示装置における表示結果を導出表示させ,該可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様となった場合に所定の有価価値を遊技者に付与する等の遊技制御を司る制御装置が実装された制御基板が,開放可能な収納ケースにより収納された状態で本体に設けられたスロットマシンであって,
前記収納ケースの一端側には,該収納ケースを開放不能に固着するとともに前記本体に対して取り外し不能に取り付けるために用いられる第1の封止部と,該収納ケースのメーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に該収納ケースを開放不能に固着するために用いられる第2の封止部と,が並設され,更に前記収納ケースの他端側には,前記本体に設けられた取付部材に対して係脱可能な係止部が設けられており,
前記収納ケースは,前記本体への取付け時に前記係止部を前記取付部材に係止させた状態で前記第1の封止部と前記本体に設けられた固定部とを固着手段により固着し,メーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に前記第2の封止部を固着手段により固着するように構成されており,
固着手段による前記第1の封止部と前記固定部との固着後における前記収納ケースの開放,及び前記収納ケースの前記本体からの取り外しの際,前記固着された第1の封止部の破壊を伴うようになっているとともに,固着手段による前記第2の封止部の固着後における前記収納ケースの開放の際,該固着された第2の封止部の破壊を伴うようになっていることを特徴とするスロットマシン。
【請求項2】
前記第2の封止部は,メーカーから店舗への輸送時に用いられる出荷用の第2の封止部と,店舗からメーカーへの輸送時に用いられる返品用の第2の封止部と,からなり,
前記出荷用の第2の封止部及び返品用の第2の封止部は,一方が前記収納ケースの一端側の最上部に設けられ,他方が前記収納ケースの一端側の最下部に設けられている請求項1に記載のスロットマシン。
【請求項3】
前記収納ケースは,上部ケースと下部ケースとからなり,
前記第1の封止部と前記第2の封止部は,ともに前記上部ケースから外方に張り出す封止片からなり,
前記第1の封止部を構成する前記封止片の下方には,前記本体に設けられた前記固定部が位置するように構成され,前記第2の封止部を構成する前記封止片の下方には,前記下部ケースから外方に張り出す封止片が位置するように構成されている請求項1または2に記載のスロットマシン。
(2) 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(下線及び上付丸数字は,本件訂正による訂正部分を特定するために判決で付した。以下,丸数字の番号を付して「訂正事項1」等という。また,本件訂正後の本件特許の請求項1ないし3に記載の発明を指して「本件特許発明1」等という。甲87,88。)。
【請求項1】
表示状態が変化可能な可変表示装置における表示結果を導出表示させ,該可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様となった場合に所定の有価価値を遊技者に付与する等の遊技制御を司る制御装置が実装された制御基板が,開放可能な平面視で横長矩形状の①収納ケースにより収納された状態で箱状の②本体に設けられたスロットマシンであって,
前記収納ケースの短寸の③一端側には,該収納ケースを開放不能に固着するとともに前記本体に対して取り外し不能に取り付けるために用いられる第1の封止部と,該収納ケースのメーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に該収納ケースを開放不能に固着するために用いられる第2の封止部と,が並設され,更に前記収納ケースの短寸の④他端側には,前記本体に設けられた取付部材に対して係脱可能な係止部が離間して少なくも二つ④設けられており,
前記収納ケースは,前記本体への取付け時に前記収納ケースの短寸の他端側に設けた⑤係止部を前記本体に設けられた⑤取付部材に係止させた状態で前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた⑤第1の封止部と前記本体に設けられた固定部とを当接させた状態で⑤固着手段により固着し,メーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に前記第2の封止部を固着手段により固着するように構成されており,
固着手段による前記第1の封止部と前記固定部との固着後における前記収納ケースの開放,及び前記収納ケースの前記本体からの取り外しの際,前記固着された第1の封止部の破壊を伴うようになっているとともに,固着手段による前記第2の封止部の固着後における前記収納ケースの開放の際,該固着された第2の封止部の破壊を伴うようになっていることを特徴とするスロットマシン。
【請求項2】
前記箱状の本体の側端に回動自在に枢支された前面パネルを備え,⑥
前記箱状の本体には前記可変表示装置が収容され,前記収納ケースは,前記可変表示装置の上部に前記取付部材及び固定部を介して前記箱状の本体に対して取り付けられるとともに,⑦
前記収納ケースは,⑧
前記箱状の本体への取付け時に前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部を,前記箱状の本体の他側端側に設けられた取付部材に係止させた状態で該係止部を中心に該収納ケースの短寸の一端側を回動させるようにして前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを当接させた状態で前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを固着手段により固着し,⑧
メーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に前記第2の封止部を固着手段により固着するように構成されており,⑧
前記前面パネルは,前記箱状の本体に対して,前記取付部材が設けられた前記他側端側に枢支されており,⑥
前記第2の封止部は,メーカーから店舗への輸送時に用いられる出荷用の第2の封止部と,店舗からメーカーへの輸送時に用いられる返品用の第2の封止部と,からなり,
前記出荷用の第2の封止部及び返品用の第2の封止部は,一方が前記収納ケースの一端側の最上部に設けられ,他方が前記収納ケースの一端側の最下部に設けられている請求項1に記載のスロットマシン。
【請求項3】
前記収納ケースは,上部ケースと下部ケースとからなり,
前記第1の封止部と前記第2の封止部は,ともに前記上部ケースから前記収納ケースの長寸の長手方向⑨外方に張り出す上部⑩封止片及び前記下部ケースから前記収納ケースの長寸の長手方向外方に張り出す下部封止片⑨からなり,
前記第1の封止部を構成する第1の上部⑩封止片の下方には,前記第1の封止部を構成する第1の下部封止片及び⑩前記本体に設けられた前記固定部が位置するように構成され,前記第2の封止部を構成する第2の上部⑩封止片の下方には,前記第2の封止部を構成する第2の下部⑩封止片が位置するように構成されており,⑩
前記収納ケースの短寸の一端側には前記第1の封止部及び前記第2の封止部が設けられており,前記収納ケースの短寸の他端側には前記第2の封止部のみが設けられており,⑪
前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部は前記収納ケースの短寸の長手方向に突設する係止ピンにて形成され,⑫
前記取付部材は,第1の固定手段により前記箱状の本体に固定され前記係止ピンを挿通可能な略L字状の切欠溝を備え,⑬
前記取付部材と別体の前記固定部は,第2の固定手段により前記箱状の本体に固定され,⑭
前記収納ケースは,⑮
前記箱状の本体への取付け時に前記収納ケースの短寸の他端側に設けた2つの前記係止ピンを,前記箱状の本体の他側端側に設けられた前記取付部材の前記切欠溝に差し込んで係止させた状態で該係止ピンを中心に該収納ケースの短寸の一端側を回動させるようにして前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた前記固定部とを当接させると,前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた側面視略U字状の弾性係合片の外側突部が前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部の係合穴に弾性係合され,前記第1の上部封止片,前記第1の下部封止片,及び前記固定部にそれぞれ形成された孔が互いに合致した状態となり,該互いに合致した孔に固着手段を挿通することにより前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを固着し,⑮
メーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に前記第2の封止部を固着手段により固着するように構成され,⑮
前記第1の固定手段及び前記第2の固定手段は,前記収納ケースが前記取付部材及び前記固定部に固定されることにより前記収納ケースによって覆われる⑯請求項2⑰に記載のスロットマシン。
3 審決の概要
(1) 審決の理由は別紙審決書写に記載のとおりである。審決は,要するに,本件訂正は,特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とし,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから適法であり,また,本件特許発明1及び2は,甲1(日電協発(技)第4号 日電協における回胴式遊技機用「主基板セフティーロック方式(主基板かしめ封印方式の日電協呼称)」の導入について,別添 回胴式遊技機用「主基板セフティーロック方式」実施要領)に記載の発明(以下「公知発明」という。)から,当業者が容易に発明することができたと認められるから,本件特許発明1及び2に係る特許は無効とされるべきであるが,本件特許発明3については,公知発明と甲3(特開平10-249025号公報。以下「引用例12」という。)記載の発明(以下「引用例12発明」という。)又は甲37(特開平10-263171号公報。以下「周知例B」という。)記載の発明(以下「周知例B発明」という。)及び周知技術によっても,さらには,公知発明に引用例12発明を適用しさらに周知例B発明及び周知技術を適用しても,後記の相違点10,12及び14に係る構成について当業者が容易に想到することができたとは認められないから,本件特許発明3に係る特許は無効とすることはできないとするものである。
(2) 審決が認定した本件特許発明3と公知発明との相違点のうち,原告が主張する取消事由に係るものは,次のとおりである。
ア 相違点10
本件特許発明3では「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部は前記収納ケースの短寸の長手方向に突設する係止ピンにて形成され」るのに対し,公知発明ではそのような構成となっていない点。
イ 相違点12
本件特許発明3では「前記取付部材」が「前記係止ピンを挿通可能な略L字状の切欠溝を備え」に対し,公知発明ではそのような構成となっていない点。
ウ 相違点14
本件特許発明3の「収納ケース」では,「前記箱状の本体への取付け時に前記収納ケースの短寸の他端側に設けた2つの前記係止ピンを,前記箱状の本体の他側端側に設けられた前記取付部材の前記切欠溝に差し込んで係止させた状態で該係止ピンを中心に該収納ケースの短寸の一端側を回動させるようにして前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた前記固定部とを当接させると,前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた側面視略U字状の弾性係合片の外側突部が前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部の係合穴に弾性係合され,前記第1の上部封止片,前記第1の下部封止片,及び前記固定部にそれぞれ形成された孔が互いに合致した状態となり,該互いに合致した孔に固着手段を挿通することにより前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを固着」するように構成されているのに対し,公知発明ではそのような構成となっていない点。
第3取消事由に係る当事者の主張
1 原告の主張
(1) 本件訂正についての訂正要件違反(取消事由1)
ア 審決は,本件訂正について,「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。」と判断しているが,同判断には,以下のとおりの誤りがある。
被告は,本件訂正によって作業性の向上という作用効果があるとしている(本件訂正の審判請求書(甲87))。具体的には,訂正事項1,3,4に関して,「ぐらつきが抑制」,「安定した本体との固定」,「狭い空間への取付けの作業性も向上する」,訂正事項5に関して,「当接させた状態で・・・取付けの作業性を向上させ」,訂正事項6ないし8に関して,「作業スペースが狭い箇所で・・・作業性を向上させる」,訂正事項9,12に関して,「係止ピンに邪魔されることなく・・・取付けの作業性が向上する」,訂正事項14に関して「部品の共通化を図ることができ・・・取付けの作業性が向上する」と主張するが,いずれも本件訂正前の本件特許に係る明細書(甲11。以下「訂正前明細書」という。図面を含む意味で用いる。)に記載のない事項である。被告は,各訂正事項に関する効果は技術常識を参酌して当然に奏しうる効果である旨の反論をするのみであり,訂正前明細書に具体的な記載がないことを自認しているに等しい。したがって,本件訂正は,特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであるから,訂正要件に違反する。
イ 訂正事項15の「前記第1の封止部と・・・前記固定部との当接させる」を加える訂正部分に関しては,訂正前明細書に記載されているのは,本体への取付け以前に,あらかじめ収納ケースの上部ケースと下部ケースの封止片を当接させ,ネジ孔を合致させて固定しておき,その上で,収納ケースを本体に係止させ,下部ケースに設けられた弾性係合片を本体の係合穴に係合させて,各固定片の上面と下部ケースの封止片の下面とを当接させ,固定片のネジ孔を合致させるという二段階の構成だけである。
これに対して,訂正事項15によって,①「前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた側面視略U字状の弾性係合片」とあるように,弾性係合片を設ける位置について「収納ケース」という「上部ケース」の上位概念に変更しており,②「前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた前記固定部とを当接させると」とあるように,当接させるものを「第1の封止部」として「第1の封止部の下部封止片」の上位概念に変更している。これにより,上部ケースに弾性係合片を設け,上部ケースと下部ケースとを相対的に回動可能な構成にして,収納ケースが開放されて相対的に回動可能な状態のまま,本体に係止し,上部ケースと下部ケースとをともに回動させて,上部ケースに設けられた弾性係合片を本体の係合穴に係合させることによって,収納ケースの閉塞(上部ケースと下部ケースの固着)と収納ケースの本体への固着とを同時に行い,収納ケースの上下部の各封止片と本体の固定部とを当接させると同時に,これら3つのねじ穴の合致を行う構成(以下「追加された構成」という。)を含むことになる。したがって,訂正事項15は,訂正要件に違反する。
ウ 訂正事項18ないし20も,上記に伴う訂正であり,同様に訂正要件に違反する。
(2) 相違点10及び12についての容易想到性判断の誤り(取消事由2)
ア 引用例12に関連して
(ア) 審決は,相違点10及び12について,引用例12発明と本件特許発明3の相違点を「収納ケース側の構成と本体側の構成とを係脱可能とする点について,本件特許発明3では,係止ピンと略L字状の切欠溝との間において係脱可能であるのに対し,引用例12に記載された発明では,係止ピン以外の部分で係脱可能である上に,略L字状の切欠溝を有しない点」と認定し,「略L字状の切欠溝と係止ピンとを組み合わせることについては,従来周知技術である」と認めながら,「回動の中心となる係止ピンと略L字状の切欠溝との間において係脱可能とすることは周知である,とまではいえない。」としている。
(イ) 上記相違点のうち,収納ケースを遊技機本体に回動可能に取り付けることは周知技術であり,その際,回動の中心となる係止ピン又は回動軸と軸受との間において係脱可能に取り付けることも周知技術である。
さらに,上記相違点のうち,係止ピンと略L字状の切欠溝との組合せを用いている点については,回動の中心となる係止ピン又は回動軸と軸受部との間において係脱可能にする係止方法として,係止ピンと略L字状の切欠溝の組合せを用いることには,何の技術的意義もなく,設計事項であって,実質的相違点とはいえない。
(ウ) 仮に係止ピンと略L字状の切欠溝との組合せを用いている点が実質的相違点であるとしても,次のとおり,回動の中心となる係止ピンと略L字状の切欠溝との間において係脱可能とすることは,周知技術である。
すなわち,甲56(実開平6-81935号公報。以下「参考資料18」という。)の【0007】及び【0008】には,ピンとL字溝との組合せにより,側板7が係脱自在であって,回動の中心となるピンとL字状の切欠溝との間で係脱可能であることが記載されている。また,他の公報(甲100ないし104)からも,「回動の中心となる係止ピンと略L字状の切欠溝との間において係脱可能とすること」は周知技術であるといえる。
(エ) 以上によれば,公知発明において,引用例12発明に周知技術を採用して,相違点10,12に係る本件特許発明3の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たというべきである。
イ 周知例Bに関連して
審決は周知例B発明からは,相違点10,12に係る構成は導き出せない理由として,「蝶着部40」の係脱に係る構成が明確でないこと,「蝶着部40」は収納ケースの上部ケース及び下部ケースを相対的に回動させるための構造であって,収納ケース自体を回動させるための構成ではないことを理由とする。
しかし,周知例B発明の「蝶着部40」は,回動の中心となる蝶番であり,上下2つの部材の周壁との間に「係脱可能な蝶着部40」が設けられている(周知例Bの【0029】)のであるから,回動の中心が係脱可能であることは明らかであるし,参考資料18及び甲100ないし104のとおり,回動の中心となるピンと略L字状の切欠溝との間において係脱可能とすることは周知技術であり,この構造は,周知例Bの「蝶着部40」と同じヒンジ(蝶番)である。
したがって,周知例B発明の「蝶着部40」に,参考資料18,甲100ないし104のような周知技術を適用することは,当業者にとって容易想到である。
また,本件特許発明3のように,収納ケースを本体に対して回動可能に取り付けることは,周知技術である。
したがって,公知発明において,周知例B発明に周知技術を採用することによって,相違点10,12に係る本件特許発明3の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たというべきである。
(3) 相違点14についての容易想到性判断の誤り(取消事由3)
ア 引用例12に関連して
審決は,「側面略視U字状の弾性係合片と係合穴とを弾性係合させる技術は,従来周知技術である」ことを認めながら,「公知発明,引用例12に記載された発明及び周知技術は,第1の封止部と固定部とを当接させたときに係合して孔を合致させる手段を有していない」として,「公知発明,引用例12に記載された技術事項,周知技術からは,相違点14に係る本件特許発明3の構成は導き出せない」とする。
審決は,要するに,収納ケースと本体との間に何らかの係合手段を有することと,「収納ケースの一端側を回動させるようにして第1の封止部と固定部とを当接させ,その当接状態で第1の封止部と固定部にそれぞれ形成された孔を合致させる」との構成の組合せを本件特許発明3が備えており,公知発明,引用例12発明,周知技術の組合せでは,係合手段を欠くとして,相違点14に係る本件特許発明3の構成は導き出せないとするものである。
審決は,引用例12から,基板ケースを遊技機本体に回動可能に取り付ける技術だけを認定した。しかし,引用例12の【0064】ないし【0069】及び【0072】ないし【0080】によれば,引用例12の「第4の実施形態」においては,回動可能に取り付けられた基板ケースのストッパが遊技機本体である基盤の係合穴に係合して固定されることが記載されており,さらに,この状態でキーシリンダーが施錠されることによって係合が解けない状態となり,固着されることが記載されているから,「公知発明,引用例12に記載された発明及び周知技術の組合せ」によって,「第1の封止部と固定部とを当接させたときに係合して孔を合致させる手段を有」するものとなる。
そして,本体の他端側の係止部を中心に収納ケースを回動可能に取り付けることは,周知技術である。さらに,甲90ないし92によれば,収納ケースを本体に可動可能に取り付けるだけでなく,係合手段によって,本体の係止位置に係止することもまた周知技術であると認められ,甲105ないし108には,複数の部材を当接させたときにそれぞれの孔が合致した状態になる技術が記載されている。
よって,収納ケースを,係止ピンとこれを挿通可能な略L字状の切欠溝との係脱可能な回転支持構造で本体に取り付け,側面視略U字状の弾性係合片と係合穴とを弾性係合させて収納ケースを本体に固定し,固定したときに孔を合致させるようにすることは,公知発明に,引用例12発明と周知技術を組み合わせることで当業者が容易になし得たものであり,公知発明と本件特許発明3との相違点14は容易想到である。
イ 周知例Bに関連して
審決は,周知例B発明は従来周知技術とまでは認められないことを理由に,公知発明・引用例12・周知例B発明及び周知技術の組合せによる相違点14の容易想到性を否定した。
しかし,周知例B発明は,甲110及び甲111にも記載されており,この2例と周知例Bから,周知例B発明は周知技術であるといえる。したがって,公知発明に引用例12発明を適用して,さらに周知例B発明を適用することは,当業者が容易に想到し得たというべきである。
2 被告の反論
(1) 本件訂正についての訂正要件違反(取消事由1)に対して
訂正事項1については,訂正前明細書の【0030】の記載によれば,「開放可能な平面視で横長矩形状の収納ケース」は訂正前明細書に記載されている。
訂正事項3については,訂正前明細書の【0037】の記載,及び【図3】ないし【図5】によれば,「第1の封止部」が「収納ケースの短寸の一端側」に設けられることは訂正前明細書に記載されている。
訂正事項4については,訂正前明細書の【0033】の記載,及び【図3】ないし【図5】によれば,「係止部」が「収納ケースの短寸の他端側」「離間して少なくとも二つ設けられ」ることは訂正前明細書に記載されている。
訂正事項5については,「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部」及び「前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部」は訂正前明細書に記載されている。「前記本体に設けられた取付部材」は,本件訂正前の【請求項1】に記載され,また訂正前明細書の【0049】,【0050】の記載によれば,「当接させた状態で」固着されることは訂正前明細書に記載されている。
訂正事項6については,訂正前明細書の【0022】の記載,【図2】ないし【図3】,【図6】によれば,「前記箱状の本体の側端に回動自在に枢支された前面パネルを備え,」及び「前面パネルは,前記箱状の本体に対して,前記取付部材が設けられた前記他側端側に枢支されており,」は訂正前明細書に記載されている。
訂正事項7については,訂正前明細書の【0016】,【0046】,【0047】,【0049】,【0050】の記載,【図1】,【図2】,【図7】(a)(b)によれば,「可変表示装置」が「箱状の本体」に「収容され」ていること及び「収納ケース」が「前記可変表示装置の上部に前記取付部材及び固定部を介して前記箱状の本体に対して取り付けられる」ことは訂正前明細書に記載されている。
訂正事項8については,訂正前明細書の【0040】,【0041】,【0049】ないし【0050】の記載,【図3】,【図6】によれば,訂正事項8により追加した「前記収納ケースは・・・固着するように構成されており,」は,訂正前明細書に記載されている。
訂正事項9については,訂正前明細書の【0030】,【0034】,【0037】の記載,【図3】によれば,「第1の封止部」及び「第2の封止部」が「前記上部ケースから前記収納ケースの長寸の長手方向外方に張り出す上部封止片及び前記下部ケースから前記収納ケースの長寸の長手方向外方に張り出す下部封止片からな」ることは訂正前明細書に記載されている。
訂正事項12については,訂正前明細書の【0033】の記載,【図3】によれば,「係止部」が「前記収納ケースの短寸の長手方向に突設する係止ピンにて形成され」ることは訂正前明細書に記載されている。
訂正事項14については,訂正前明細書の【0047】の記載,【図7】(a)(b)によれば,「固定部」が「取付部材と別体」であり,かつ,「第2の固定手段により前記箱状の本体に固定され」ていることは訂正前明細書に記載されている。
訂正事項15についての原告の主張は時機に後れた攻撃防御方法である。また,訂正事項15は,訂正前明細書に記載されている事項でもある。
訂正事項1,3ないし9,12,14,15は,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更するものではない。また,いずれも新たな作用効果を加えるものでもない。同様の理由により,訂正事項15は新規事項の追加にも該当しない。
よって,原告の主張は失当である。
(2) 相違点10及び12についての容易想到性判断の誤り(取消事由2)に対して
ア 引用例12に関連して
原告の指摘する文献(甲23,91ないし93及び98)には,収納ケースを遊技機本体に回動可能に取り付けるに際して,回動の中心となるピン又は軸部材と軸受部材との間で係脱可能とする技術が記載されているにすぎない。
引用例12発明は「収納ケース71」を「収容具74」に取り付ける際には,「収容具74」をいったん開口側に回動させた後に「基板ケース71」を「収容具74」に挿入する構成を採用しているのに対し,本件特許発明3は「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた2つの前記係止ピンを,・・・前記取付部材の前記切欠溝に差し込んで係止させた状態で該係止ピンを中心に該収納ケースの短寸の一端側を回動させるようにして前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた前記固定部とを当接させると,・・・前記第1の上部封止片,前記第1の下部封止片,及び前記固定部にそれぞれ形成された孔が互いに合致した状態となり」との構成を採用している点において相違する。
引用例12発明によったとしても,収容具74を開口側に回動する必要があるので,作業性が劣る。これに対して,本件特許発明3では,可変表示装置の上部で前面パネルの枢支側である箱状の本体の他側端部である奥まった位置に配置された取付部材に,略L字状の切欠溝と係止ピンを利用して収納ケースを取付部材に回動可能に係止することができ,収納ケースの回動側である他端部(側)の取付作業が簡素化できることになる。
原告が回動の中心となる係止ピンと略L字状の切欠溝との間において係脱可能とする周知技術として提出した甲56,甲100ないし104には単に「略L字状の切欠溝」に「係止ピン」が係止される構成が開示されているにすぎない。また,技術分野が異なるほか,課題や機能の共通性はない。
イ 周知例Bに関連して
周知例B発明の「蝶着部40」は収納ケース自体を回動させるための構造ではないので,本件特許発明3の収納ケースを回動させる係止部である「係止ピン」には相当しない。
したがって,周知例Bには,本件特許発明3の「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた2つの前記係止ピンを,・・・前記取付部材の前記切欠溝に差し込んで係止させた状態で該係止ピンを中心に該収納ケースの短寸の一端側を回動させるようにして前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた前記固定部とを当接させると,・・・前記第1の上部封止片,前記第1の下部封止片,及び前記固定部にそれぞれ形成された孔が互いに合致した状態となり」との構成は開示されてない。
よって,周知例Bに記載された「蝶着部40」に他の周知技術を組み合わせたとしても相違点14に係る本件特許発明3の構成には到達し得ないので,原告の主張は失当である
(3) 相違点14についての容易想到性判断の誤り(取消事由3)に対して
ア 引用例12に関連して
引用例12発明では「収納ケース71」を「収容具74」に取り付ける際には,「収容具74」をいったん開口側に回動させた後に「基板ケース71」を「収容具74」に挿入させる構成が採用されており,同構成は,本件特許発明3の構成と異なる。
引用例12発明の構成を仮に「収容具74」が本件特許発明3のように可変表示装置の上部であって前面パネルの枢支側に位置するようにしたとしても,作業性が劣る。
これに対し,本件特許発明3は,収納ケースの回動側である他端部の取付作業が簡素化できることになる。
したがって,公知発明,引用例12発明及び周知技術の組合せによっては,相違点14に係る構成にはなり得ない。
相違点14に係る構成は一体不可分であって,切り離すことができない。原告が主張するように,相違点14に係る構成を細分化して,それぞれに周知技術を適用することにより容易であるとすることは合理性を欠き,失当である。
したがって,公知発明,引用例12発明に甲56,甲100ないし104に記載された周知技術を組み合わせたとしても相違点14に係る構成には到達し得ない。
さらに,原告の提出した周知例(甲90,91,92)には,本件特許発明3の「第1の封止部」,すなわち上部ケースから収納ケースの長寸の長手方向外方に張り出す上部封止片及び下部ケースから収納ケースの長寸の長手方向外方に張り出す下部封止片からなる「第1の封止部」に相当する構成の開示はない。原告の提出した周知例(甲105ないし108)は,遊技機とは全く異なる技術分野のものであるし,本件特許発明3の「第1の封止部」の構成はもちろん,本件特許発明3の他の構成の開示もない。
したがって,公知発明,引用例12発明に原告の指摘する周知例を採用したとしても,相違点14に係る構成には到達し得ない。
イ 周知例Bに関連して
周知例Bに記載された「蝶着部40」に他の周知技術を組み合わせたとしても相違点10,12に係る構成には到達し得ないので,原告の主張は失当である。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,審決には原告の主張に係る取消事由はないと判断する。その理由は次のとおりである。
1 認定事実
(1) 訂正前明細書(甲11)の記載
訂正前明細書には,次の記載がある(【図1】ないし【図7】は別紙のとおり。)。
「【請求項1】
表示状態が変化可能な可変表示装置における表示結果を導出表示させ,該可変表示装置の表示結果が予め定められた特定の表示態様となった場合に所定の有価価値を遊技者に付与する等の遊技制御を司る制御装置が実装された制御基板が,開放可能な収納ケースにより収納された状態で本体に設けられたスロットマシンであって,前記収納ケースの一端側には,該収納ケースを開放不能に固着するとともに前記本体に対して取り外し不能に取り付けるために用いられる第1の封止部と,該収納ケースのメーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に該収納ケースを開放不能に固着するために用いられる第2の封止部と,が並設され,更に前記収納ケースの他端側には,前記本体に設けられた取付部材に対して係脱可能な係止部が設けられており,
前記収納ケースは,前記本体への取付け時に前記係止部を前記取付部材に係止させた状態で前記第1の封止部と前記本体に設けられた固定部とを固着手段により固着し,メーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に前記第2の封止部を固着手段により固着するように構成されており,
固着手段による前記第1の封止部と前記固定部との固着後における前記収納ケースの開放,及び前記収納ケースの前記本体からの取り外しの際,前記固着された第1の封止部の破壊を伴うようになっているとともに,固着手段による前記第2の封止部の固着後における前記収納ケースの開放の際,該固着された第2の封止部の破壊を伴うようになっていることを特徴とするスロットマシン。」
「【0016】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。まず図1には,本発明が適用されたスロットマシン1の正面図が示されている。スロットマシン1の前面の所定箇所には表示窓2が設けられており,この表示窓2の内側には,可変表示装置3(図2参照)によって可変表示される図柄等の識別情報を遊技者に視認させるための左可変表示部5L,中可変表示部5C,右可変表示部5Rが,それぞれに上下3段に図柄を可変表示可能に構成されている。」
「【0022】
次に本実施例におけるスロットマシン1の構造を図1,図2に基づいて説明する。スロットマシン1の筐体は,前面が開口する箱状の本体部1aと,本体部1aの側端に回動自在に枢支された前面パネル1bとからなり,施錠装置16に所定のキーを挿入して時計回り方向に回動操作することにより施錠が解除されて前面パネル1bが開成可能状態となる。」
「【0030】
まず図3,図4に示されるように,収納ケース50は,平面視で横長矩形状に形成される制御基板40よりも若干大寸に形成され,下面が開口する略箱形の上部ケース51と,上面が開口する略箱形の下部ケース52とから構成されており,これら上部ケース51及び下部ケース52は,それぞれ透明な樹脂材により成形されている。」
「【0033】
下部ケース52における短寸の側板52c,52c’における長手方向両端には,上面に開口57が形成された凸部材56,56’がそれぞれ外向きに突設されている。図3中左側の凸部材56の外側面には,後述する本体部1aの取付部材に対して係止可能な係止ピン59が図中上下方向に向けてそれぞれ突設されている。また,図3中右側の凸部材56’の外側面には,後述する本体部1aの取付部材に対して係脱自在な側面視略U字状をなす係合片60が図中右側に向けて突設されている。この係合片60は弾性変形可能に構成されているとともに,外面所定箇所には取付部材に係合する係合凸部60aが形成されている。
【0034】
また,側板52c,52c’それぞれにおける凸部材56,56及び凸部材56’,56’の間には,特に図3及び図5に示されるように,上部ケース51と下部ケース52とを開放不能な状態で固着する固着手段及び,後述するように本体部1aに対して取り外し不能に取り付けるための取付手段を兼ねるワンウェイネジ61が,上下方向に貫通するように螺入されるネジ孔62が形成された複数(本実施例においては図中左右側にそれぞれ6つずつ)の封止片63と,ワンウェイネジ61が,上下方向に貫通するように挿通される貫通孔64が形成された複数(本実施例においては図中左右側にそれぞれ6つずつ)の保持片65とが,それぞれ側板52c,52c’より外方に張り出すように交互に突設されている。」
「【0037】
側板51c,51c’それぞれにおける係止片66,66間には,特に図3及び図5に示されるように,ワンウェイネジ61の頭部を収容可能な凹部67及びネジ部を挿通可能とする貫通孔68が形成された封止片69が,収納ケース50の閉塞時において,各封止片63の上方に位置するように設けられている。また,これら複数の封止片69の間には,保持片65の貫通孔64の上方から挿通されたワンウェイネジ61の上方への逸脱を規制する規制片70が,収納ケース50の閉塞時において各保持片65の上方に位置するとともに,その下面が保持片65の上面と離間するように設けられている。」
「【0040】
ここで,本実施例においては,メーカーからの出荷時において,全ての保持片65の貫通孔64にワンウェイネジ61を挿通し,かつ,前述したように制御基板40を下部ケース52に収納した状態で,例えば図3中の収納ケース50における左側最上部及び右側最下部の封止片69,63にワンウェイネジ61が後述するように螺入され,上部ケース51及び下部ケース52が開放不能に固着されているため,これらワンウェイネジ61が螺入された封止片69,63を切断して収納ケース50を開放した状態にあるものとして以下固着方法を説明する。
【0041】
まず,後述するように,収納ケース50の左右側所定箇所を1箇所ずつ固着するために必要なワンウェイネジ61を,上記切断された封止片69,63に隣接する保持片65の貫通孔64から予め抜いておく。なお,図3中の収納ケース50における右側最上部及び左側最下部の保持片65の貫通孔64に挿通されたワンウェイネジ61は,例えばメーカーへの返品時等において使用されるため,本体部1aへの取付け固着時においてはこれ以外の貫通孔64に挿通されているワンウェイネジ61を使用することとしている。」
「【0046】
取付部材75は,図7(a)に示されるように,収納ケース50の係止ピン59を挿通可能な略L字状の切欠溝77が前端部に形成された取付片75aを有するとともに,その基板75bが背面板74の前面にリベット78を介して取り外し不能に固着されている。
【0047】
取付部材76は,図7(b)に示されるように,収納ケース50の係止片66の係止爪66aが係合可能な係合穴79が上下に形成された上下方向を向く取付片76aを有するとともに,その基板76bが背面板74の前面にリベット78を介して取り外し不能に固着されている。また,基板76bには,図7(b)及び図8に示されるように,収納ケース50の取付け時において,各封止片63のネジ孔62と合致するネジ孔80が設けられた略L字状の固定片81が形成されて複数形成されている。
【0048】
なお,前述したように,図3中の収納ケース50の左右側における最上部及び最下部の封止片69,63は,上部ケース51と下部ケース52との閉塞にのみ使用されるように設定されているため,固定片81は,収納ケース50の右側における最上部及び最下部の封止片69,63を除く中央よりの4つの封止片69,63に対応する分のみ設けられている。
【0049】
このように背面板74に固着された取付部材75,76を介して収納ケース50を固着するには,図6に示されるように,まず上下の係止ピン59を切欠溝77内に前方から差し込んだ後,この係止ピン59を中心に収納ケース50における図中右側を回動させるようにして取付部材75に押し込む。すると係止片66の係止爪66aが係合穴79に弾性係合され,収納ケース50が取付部材75,76により取付け状態で保持される。
【0050】
この状態において,特に図8に示されるように,取付部材76の各固定片81の上面と各封止片63の下面とが当接され,互いのネジ孔62とネジ孔80とが合致された状態となるため,図6に示されるように,本体部1aの前方より,収納ケース50の右側の所定の封止片69(ここではワンウェイネジ61を挿通しなかった保持片65に対応する封止片)の上方よりワンウェイネジ61を貫通孔68に挿通し,ネジ孔62を介してネジ孔80に螺入する。」
「【0053】
また,本実施例においては,収納ケース50の一端側を,固着手段としてのワンウェイネジ61にて開放不能に固着した状態で取付部材75に係止し,この状態で他端側を取付手段としての1本のワンウェイネジ61にて開放不能に,かつ,取付部材76の固定片81に取り外し不能な状態で取り付ければ,収納ケース50が本体部1aから取り外し不能となるため,ワンウェイネジ61により複数箇所を取り付けることなく,簡単な作業で取付けを行える。
【0054】
また,収納ケース50を開放不能な状態で固着する固着手段と,本体部1aに対して収納ケース50を取り外し不能に取り付ける取付手段とが,同一のワンウェイネジ61にて構成されているため,収納ケースの閉塞,及び本体部1aへの取付けを容易に行うことが出来るばかりか,収納ケース50が,ワンウェイネジ61による本体部1aへの取付け同時に開放不能に固着されるように構成されているため,作業性が向上する。」
「【0074】
(a)請求項1項の発明によれば,制御基板が収納ケースにより覆われた状態で本体に固着されることにより,制御装置等への不正を困難とすることが出来るとともに,固着手段により収納ケースが開放不能に,かつ本体に取り外し不能に取り付けられると,収納ケースを開放したり本体から取り外す際には,収納ケースの一部が破壊されて機械的な変形を伴うことにより痕跡が確実に残ることになるため,不正が行われた可能性があることが外部から直ちに発見出来るようになり,不正行為を効果的に抑制出来ることになる。また,収納ケースの係止部を係止させ,第1の封止部及び固定部を固着手段により固着するのみで,収納ケースを筐体に対して取り外し不能に取り付け出来るため,取付けの作業性が向上する。また,例えば,メーカーから店舗への出荷時や店舗からメーカーへの返品時等において収納ケースを開放不能な状態とすることができるので,スロットマシンの本体と収納ケースとを別送する場合でも,制御基板を収納ケースに収納した状態で安全に輸送できる。」
(2) 甲1の記載
甲1には,次のとおりの記載がある。また,「日電協「主基板セフティーロック方式」基本構造図」は,別紙のとおりである。
「『主基板セフティーロック方式』は別添の『回胴式遊技機用「主基板セフティーロック方式」実施要領』を基本とし,各社遊技機構造に合わせた方法により導入すること。」
「平成11年9月30日までに,全組合員全ての機種について完了すること。従って10月1日以降の保通協に型式試験申請する機種については,『主基板セフティーロック方式』が全て採用されていること。」
「回胴式遊技機に組合として採用する『主基板ケース』の封印方法は,
(1) 『「主基板樹脂ケース」自体の封印』
(2) 『「主基板樹脂ケース」を遊技機筐体に固定するための封印』
との2つの封印を同時に行うことにより,「主基板樹脂ケースに対するセキュリティーを確保するものである。」
(3) 引用例12の記載
引用例12には,次のとおりの記載がある(【図4】,【図5】は別紙のとおり。)。
「【0038】基板ケース5内に収納された遊技基板には前述したCPU,RAM,ROM等の電子部品が実装されている。前述した入賞判定テーブルといった大当たり確率情報等が記憶されたROMは,ソケット等に挿入されて着脱自在に遊技基板に実装されている。パチンコ機の遊技機種の変更はこのROMを交換することによって容易に行える。
【0039】また,図12は本発明が適用される一般的なスロットマシン21を示しており,同図(a)はこのスロットマシン21の斜視図,同図(b)はこのスロットマシン21のフロントドア22を開いて観察される機器内部を示す正面図である。
【0040】フロントドア22の正面上部の前面パネルには窓23が形成されており,この窓23を通して回転リール24が観察されている。」
「【0042】リール24の上部に位置するキャビネット25の内側背面には木枠33が設けられており,この木枠33には基板ケース34が取り付けられている。基板ケース34には前述したCPU,RAM,ROM等の電子部品が実装された遊技基板が収納されている。このスロットマシン21においても,前述した入賞判定テーブルといった大当たり確率情報等が記憶されたROMは,ソケットに挿入されて遊技基板に対して着脱自在に実装されている。スロットマシンの遊技機種の変更はこのROMを交換することによって容易に行える。」
「【0064】次に,本発明の第3の実施形態による遊技機の電子部品封印構造について,図4を参照して説明する。同図は本実施形態による遊技機の電子部品封印構造が適用された基板ケース71を示しており,同図(a)はこの基板ケース71の平面図,同図(b)は本封印構造の要部をb―b線で破断した要部破断断面図である。
【0065】この基板ケース71も,前述した一般的なパチンコ機1における基板ケース5および一般的なスロットマシン21における基板ケース34に相当しており,内部にはROM48が着脱自在に実装された前述した遊技基板42が収納されている。また,基板ケース71が取り付けられている基盤72は,遊技機が前述したパチンコ機1の場合には裏機構盤や遊技盤2に相当し,遊技機が前述したスロットマシン21の場合には木枠33に相当する。
【0066】基板ケース71は遊技基板42を収納するケース本体71aと,このケース本体71aに被せられるケース蓋71bとからなる。これらケース本体71aとケース蓋71bとには図示しない封印シールがまたがって貼られている。また,ケース本体71aおよびケース蓋71bの各端部には,周縁部に突出する係合部71c,71dが一体形成されており,これら各係合部71c,dには貫通穴73が開いている。
【0067】基板ケース71の一端部は収容具74に着脱自在に収容されている。この収容具74は,基盤72に設けられた支持具75により,その両側部が基盤72に回動自在に支持されている。この収容具74に収容された基板ケース71の他端部が,基盤72側に倒されて位置する係合部71c,dの近傍の基盤72には,固定具76が設けられている。この固定具76には貫通穴77が開いている。
【0068】本実施形態においては,基板ケース71の一端部が収容具74に収容され,その他端部が基盤72側に倒されて係合部71c,dが固定具76の近傍に位置される。この状態で固定具76および係合部71c,dの各貫通穴77,73に南京錠78が挿通され,この南京錠78が施錠される。
【0069】この施錠状態では,係合部71c,dが形成された基板ケース71の他端部は固定具76にロックされるため,基板ケース71の一端部を収容した収容具74の回動動作は規制される。この結果,基板ケース71は基盤72の盤面上にロックされ,このロック状態は南京錠78が解錠されるまで保たれる。
【0070】従って,本実施形態においても,基板ケース71に貼られた封印シールが剥がされたとしても,基板ケース71は開かない。このため,本実施形態によっても,遊技基板42を露出させてROM48を脱着することは困難である。
【0071】さらに本実施形態でも,基板ケース71内に収容されたROM48について,前述した第1の実施形態と同様な封印構造が施されている。従って,本実施形態においても,基板ケース71の封印構造と合わせた二重の封印構造が構成されており,前述した第1の実施形態と同様な効果が奏される。
【0072】次に,本発明の第4の実施形態による遊技機の電子部品封印構造について,図5を参照して説明する。同図は本実施形態による遊技機の電子部品封印構造が適用された基板ケース81を示しており,同図(a)はこの基板ケース81の平面図,同図(b)は本封印構造の要部をb―b線で破断した要部破断断面図である。
【0073】この基板ケース81も,前述した一般的なパチンコ機1における基板ケース5および一般的なスロットマシン21における基板ケース34に相当しており,内部にはROM48が着脱自在に実装された前述した遊技基板42が収納されている。また,基板ケース81が取り付けられている基盤82は,遊技機が前述したパチンコ機1の場合には裏機構盤や遊技盤2に相当し,遊技機が前述したスロットマシン21の場合には木枠33に相当する。
【0074】基板ケース81は遊技基板42を収納するケース本体81aと,このケース本体81aに被せられるケース蓋81bとからなる。これらケース本体81aとケース蓋81bとには図示しない封印シールがまたがって貼られている。この基板ケース81の一端部は収容具83に着脱自在に収容されている。この収容具83は,基盤82に設けられた支持具84により,その両側部が基盤82に回動自在に支持されている。
【0075】基板ケース81にはキーシリンダ85が設けられており,このキーシリンダ85を構成するキーブロック85aは基板ケース81の裏面に突出している。また,キーシリンダ85のキー穴85bは基板ケース81の表面に露出している。基板ケース81の裏面は,基板ケース81の他端部が基盤82側に倒されると基盤82の盤面に対向する。キーブロック85aの突出部にはストッパ86が設けられており,このストッパ86はキーシリンダ85が施錠されると回動しなくなる。
【0076】また,基盤82にはストッパ86と係合する係合穴82aが開口している。この係合穴82aは基盤82の所定方向に延びて形成されている。ストッパ86は,この係合穴82aに挿通する外形形状に形成されている。
【0077】本実施形態においては,基板ケース81の一端部が収容具83に収容され,その他端部が基盤82側に倒されることにより,基板ケース81の裏面に突出するストッパ86が基盤82に設けられた係合穴82aに位置される。ストッパ86は当初その長手方向が係合穴82aの開口方向と同じ向きにあり,基板ケース81が倒されると係合穴82aにストッパ86が挿通する。この状態でストッパ86が基盤82の盤面に平行な方向において90度回動されることにより,ストッパ86は係合穴82aに交差し,基板ケース81の他端部はこの係合穴82aに係合して基盤82に固定される。
【0078】さらにキーシリンダ85が施錠されるとストッパ86と係合穴82aとの係合状態は解けなくなり,基板ケース81の他端部が基盤82にロックされ,基板ケース81の一端部を収容した収容具83の回動動作は規制される。この結果,基板ケース81は基盤82の盤面上にロックされ,このロック状態はキーシリンダ85が解錠されるまで保たれる。
【0079】従って,本実施形態においても,基板ケース81に貼られた封印シールが剥がされたとしても,基板ケース81は開かない。このため,本実施形態によっても,遊技基板42を露出させてROM48を脱着することは困難である。
【0080】さらに本実施形態でも,基板ケース81内に収容されたROM48について,前述した第1の実施形態と同様な封印構造が施されている。従って,本実施形態においても,基板ケース81の封印構造と合わせた二重の封印構造が構成されており,前述した第1の実施形態と同様な効果が奏される。」
(4) 周知例Bの記載
周知例Bには,次のとおりの記載がある(【図3】ないし【図6】は別紙のとおり。)。
「【0029】上蓋部材26とベース部材25との間には,周壁38aと周壁35aとの間に係脱可能な蝶着部40が設けられ,その反対側の周壁38cと周壁35cとの間に突起41と門型の係止片42とからなる係止部43が設けられる。上蓋部材26をほぼ全開位置まで開くと蝶着部40によって上蓋部材26をベース部材25から取り外すことが可能であり,上蓋部材26を閉じると係止部43によって上蓋部材26がベース部材25に係止されると共に,位置決めされる。」
「【0035】上方結合部61には,中央に所定径の通し穴64が,通し穴64の上部にワンウェイネジ65等(締結部材)の頭部を囲う埋め込み穴66が,下面に通し穴64の回りに段状の係合突部67が設けられる。下方結合部63には,上部に上方結合部61の係合突部67が嵌まる係合受部68が,その中央に上方結合部61の通し穴64につながる通し穴64とほぼ同径の所定深さの穴69が形成される。上方連結部60,下方連結部62は,それぞれニッパ等で切断可能な大きさ,厚さに形成される。」
「【0043】この上蓋部材26とベース部材25との蝶着部40を掛け合わせ,上蓋部材26を閉じる。この際,上蓋部材26とベース部材25との係止部43の突起41が係止片42に嵌まって,上蓋部材26がベース部材25に係止され,位置決めされると共に,重合結合部50~53,54~57の各上方結合部61の係合突部67が各下方結合部63の係合受部68に嵌まり,それぞれが位置決めしながら,重合する。」
2 取消事由1(本件訂正についての訂正要件違反)に関して
原告は,本件訂正は平成23年法律第63号による改正前の特許法134条の2第5項の準用する126条4項の規定に違反する旨主張する。しかし,本件訂正のうち原告の指摘に係る訂正事項(訂正事項1,3ないし9,12,14及び15,18ないし20)は,いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものとは認められないから,審決に原告の主張に係る取消事由はないと判断する。その理由は,次のとおりである。
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は,「開放可能な収納ケース」を「開放可能な平面視で横長矩形状の収納ケース」と限定するものである。訂正事項1に係る構成は,訂正前明細書の【0030】の「収納ケース50は,平面視で横長矩形状に形成される制御基板40よりも若干大寸に形成され,」との部分に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2) 訂正事項3について
訂正事項3は,「第1の封止部」が設けられている位置を「収納ケースの一端側」から「収納ケースの短寸の一端側」と限定するものである。
訂正事項3に係る構成は,訂正前明細書の【0037】の「側板51c,51c’それぞれにおける係止片66,66間には,・・・封止片69が,収納ケース50の閉塞時において,各封止片63の上方に位置するように設けられている。」との部分及び【図3】ないし【図5】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3) 訂正事項4について
訂正事項4は,「係止部」が設けられている位置を「収納ケースの他端側」から「収納ケースの短寸の他端側」と限定するとともに,「係止部」が「離間して少なくとも二つ設けられ」たものであることを限定するものである。
訂正事項4に係る構成は,訂正前明細書の【0033】の「下部ケース52における短寸の側板52c,52c’における長手方向両端には,上面に開口57が形成された凸部材56,56’がそれぞれ外向きに突設されている。図3中左側の凸部材56の外側面には,後述する本体部1aの取付部材に対して係止可能な係止ピン59が図中上下方向に向けてそれぞれ突設されている。」との部分及び【図3】ないし【図5】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4) 訂正事項5について
訂正事項5は,「前記係止部」,「前記第1の封止部」及び「前記取付部材」を,「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部」,「前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部」及び「前記本体に設けられた取付部材」と限定するものであるとともに,「前記収納ケース」の「前記本体への取付け時」において,「第1の封止部」と「前記本体に設けられた固定部」とが「当接させた状態で」固着されることを限定したものである。訂正事項5に係る構成は,訂正事項3及び4に関する上記判断及び,「当接させた状態で」固着される点について,訂正前明細書の【請求項1】及び【0049】の「このように背面板74に固着された取付部材75,76を介して収納ケース50を固着するには,図6に示されるように,まず上下の係止ピン59を切欠溝77内に前方から差し込んだ後,この係止ピン59を中心に・・・取付部材75に押し込む。すると係止片66の係止爪66aが係合穴79に弾性係合され・・・取付け状態で保持される。」,【0050】の「この状態において,特に図8に示されるように,取付部材76の各固定片81の上面と各封止片63の下面とが当接され・・・合致された状態となるため,・・・ワンウェイネジ61を貫通孔68に挿通し,ネジ孔62を介してネジ孔80に螺入する。」との部分に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(5) 訂正事項6
訂正事項6は,「前記箱状の本体の側端に回動自在に枢支された前面パネルを備え,」及び「前記前面パネルは,前記箱状の本体に対して,前記取付部材が設けられた前記他側端側に枢支されており,」を追加して,スロットマシンの構成を限定するものである。訂正事項6に係る構成は,訂正前明細書の【0022】の「スロットマシン1の筐体は,前面が開口する箱状の本体部1aと,本体部1aの側端に回動自在に枢支された前面パネル1bとからなり」との部分及び【図2】,【図3】,【図6】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(6) 訂正事項7について
訂正事項7は,「前記箱状の本体には前記可変表示装置が収容され,前記収納ケースは,前記可変表示装置の上部に前記取付部材及び固定部を介して前記箱状の本体に対して取り付けられるとともに,」を追加して,「箱状の本体」への「可変表示装置」及び「収納ケース」の取付状態を限定するものである。訂正事項7に係る構成は,訂正前明細書の【0016】の「スロットマシン1の前面の所定箇所には表示窓2が設けられており,この表示窓2の内側には,・・・左可変表示部5L,中可変表示部5C,右可変表示部5Rが,それぞれに上下3段に図柄を可変表示可能に構成されている。」との記載,【0046】の「取付部材75は,図7(a)に示されるように,・・・その基板75bが背面板74の前面にリベット78を介して取り外し不能に固着されている。」との記載,【0047】の「取付部材76は,図7(b)に示されるように,・・・基板76bが背面板74の前面にリベット78を介して取り外し不能に固着されている。また,基板76bには,図7(b)及び図8に示されるように,収納ケース50の取付け時において,各封止片63のネジ孔62と合致するネジ孔80が設けられた略L字状の固定片81が形成されて複数形成されている。」との部分及び【図1】,【図2】,【図7】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(7) 訂正事項8について
訂正事項8は,「前記収納ケースは,
前記箱状の本体への取付け時に前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部を,前記箱状の本体の他側端側に設けられた取付部材に係止させた状態で該係止部を中心に該収納ケースの短寸の一端側を回動させるようにして前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを当接させた状態で前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを固着手段により固着し,
メーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に前記第2の封止部を固着手段により固着するように構成されており,」を追加して,「収納ケース」の固着状態を限定したものである。
訂正事項8に係る構成は,訂正前明細書の【0040】の「ここで,本実施例においては,メーカーからの出荷時において,全ての保持片65の貫通孔64にワンウェイネジ61を挿通し,かつ,前述したように制御基板40を下部ケース52に収納した状態で,例えば図3中の収納ケース50における左側最上部及び右側最下部の封止片69,63にワンウェイネジ61が後述するように螺入され,上部ケース51及び下部ケース52が開放不能に固着されているため,これらワンウェイネジ61が螺入された封止片69,63を切断して収納ケース50を開放した状態にあるものとして以下固着方法を説明する。」との部分,【0041】の「なお,図3中の収納ケース50における右側最上部及び左側最下部の保持片65の貫通孔64に挿通されたワンウェイネジ61は,例えばメーカーへの返品時等において使用されるため,本体部1aへの取付け固着時においてはこれ以外の貫通孔64に挿通されているワンウェイネジ61を使用することとしている。」との部分,及び【図3】,【図6】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(8) 訂正事項9について
訂正事項9は,「第1の封止部」及び「第2の封止部」を「前記上部ケースから前記収納ケースの長寸の長手方向外方に張り出す上部封止片及び前記下部ケースから前記収納ケースの長寸の長手方向外方に張り出す下部封止片からな」ると限定するものである。訂正事項9に係る構成は,訂正前明細書【0030】の「収納ケース50は,平面視で横長矩形状に形成される」との部分,【0034】の「上部ケース51と下部ケース52とを開放不能な状態で固着する固着手段及び,後述するように本体部1aに対して取り外し不能に取り付けるための取付手段を兼ねるワンウェイネジ61が,上下方向に貫通するように螺入されるネジ孔62が形成された複数・・・の封止片63と,ワンウェイネジ61が,上下方向に貫通するように挿通される貫通孔64が形成された複数・・・の保持片65とが,それぞれ側板52c,52c’より外方に張り出すように交互に突設されている。」との部分,【0037】の「側板51c,51c’それぞれにおける係止片66,66間には,特に図3及び図5に示されるように,ワンウェイネジ61の頭部を収容可能な凹部67及びネジ部を挿通可能とする貫通孔68が形成された封止片69が,収納ケース50の閉塞時において,各封止片63の上方に位置するように設けられている。」との部分及び【図3】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(9) 訂正事項12について
訂正事項12は,「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部は前記収納ケースの短寸の長手方向に突設する係止ピンにて形成され,」を追加して「係止部」の構成を限定するものである。訂正事項12に係る構成は,訂正前明細書の【0033】の「下部ケース・・・長手方向両端には,上面に開口57が形成された凸部材56,56’がそれぞれ外向きに突設されている。図3中左側の凸部材56の外側面には,後述する本体部1aの取付部材に対して係止可能な係止ピン59が図中上下方向に向けてそれぞれ突設されている。」との部分及び【図3】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(10) 訂正事項14について
訂正事項14は,「前記取付部材と別体の前記固定部は,第2の固定手段により前記箱状の本体に固定され,」を追加して「固定部」の構成を限定するものである。訂正事項14に係る構成は,訂正前明細書の【0047】の「取付部材76は・・・,その基板76bが背面板74の前面にリベット78を介して取り外し不能に固着されている。また,基板76bには,図7(b)及び図8に示されるように,収納ケース50の取付け時において,各封止片63のネジ孔62と合致するネジ孔80が設けられた略L字状の固定片81が形成されて複数形成されている。」との部分及び【図7】(b),【図8】に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(11) 訂正事項15について
訂正事項15は,「前記収納ケースは,
前記箱状の本体への取付け時に前記収納ケースの短寸の他端側に設けた2つの前記係止ピンを,前記箱状の本体の他側端側に設けられた前記取付部材の前記切欠溝に差し込んで係止させた状態で該係止ピンを中心に該収納ケースの短寸の一端側を回動させるようにして前記第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた前記固定部とを当接させると,前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた側面視略U字状の弾性係合片の外側突部が前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部の係合穴に弾性係合され,前記第1の上部封止片,前記第1の下部封止片,及び前記固定部にそれぞれ形成された孔が互いに合致した状態となり,該互いに合致した孔に固着手段を挿通することにより前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを固着し,
メーカーから店舗への輸送時及び店舗からメーカーへの輸送時に前記第2の封止部を固着手段により固着するように構成され,」を追加して,「収納ケース」の固着状態を限定したものである。訂正事項15に係る構成は,訂正前明細書の【0033】の「また,図3中右側の凸部材56’の外側面には,後述する本体部1aの取付部材に対して係脱自在な側面視略U字状をなす係合片60が図中右側に向けて突設されている。この係合片60は弾性変形可能に構成されているとともに,外面所定箇所には取付部材に係合する係合凸部60aが形成されている。」との部分に記載があり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
なお,原告は,収納ケースの本体への取付けの前に,上部ケースと下部ケースが位置ずれがない状態に閉塞されているわけではないことを前提として,訂正事項15は,追加された構成を含むことになるとも主張する。
しかし,原告のこの点の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件特許発明3は,本件特許発明1の構成の全てを含むものであるところ,その「第1の封止部」は,特許請求の範囲(請求項1)に,前記収納ケースの短寸の一端側には,該収納ケースを開放不能に固着するとともに前記本体に対して取外し不能に取り付けるために用いられる第1の封止部,と記載されていることに照らすならば,本件特許発明3の訂正事項15による訂正後においても,「第1の封止部」は,箱状の本体に設けられた「固着部」に当接させた後に固着されたものを指すと解するのが相当であり,そうすると,上部ケースと下部ケースが位置ずれのない状態に閉塞されるのは,収納ケースの本体への取付け以前であるとみるのが合理的である。したがって,この点に関する原告の主張は,前提において失当である。
(12) 訂正事項18ないし20について
訂正事項18ないし20についても,上記と同様に原告の主張には理由がない。
(13) 原告は,本件訂正は,訂正前明細書に記載のない「作業性が向上する」等の作用効果を記載した点で,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更するものに該当するとも主張するが,原告の指摘に係る作用効果は,すべて,訂正前の各請求項及び明細書から合理的に理解できる作用効果であるから,この点をもって,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更すると解することはできない。
3 取消事由2(相違点10及び12についての容易想到性判断の誤り)に関して
(1) 引用例12に関して
ア 引用例12について
前記1(3)のとおりの引用例12の記載によれば,引用例12には,「第3の実施形態」として回動可能に取り付けられた収納ケース側の係合部と固定具に設けられた各貫通穴が合致して,南京錠が挿通されることが記載されている(【0064】ないし【0069】)だけでなく,「第4の実施形態」に関し,回動可能に取り付けられた基板ケースのストッパが遊技機本体である基盤の係合穴に係合して固定されることも記載されており,さらに,この状態でキーシリンダーが施錠されることによって係合が解けない状態となり,固着されることも記載されている(【0072】ないし【0080】)。
イ 周知技術について
甲23,甲39,甲90ないし99によれば,「遊技機において,収納ケースを遊技機本体に対して回動可能に取り付けること」は,周知の技術であると認められる。
また,甲39,甲91ないし93,甲98,甲110によれば,収納ケースを遊技機本体に回動可能に取り付けるに際して,「回動の中心となるピン又は軸部材と軸受け部材との間で係脱可能とすること」も,周知の技術であると認めるのが相当である。
さらに,甲56,甲100ないし104によれば,回動可能かつ係脱可能に軸を支持するという機械的な機構として,回動の中心となる回転軸と略L字状の切欠溝との間において係脱可能とする構成は,機械装置一般において普通に行われる周知の技術であるといえる。
ウ 公知発明について
前記1(2)のとおり,公知発明(「主基板セフティーロック方式」)は,当時,回胴式遊技機の製造業者を組織していた日本電動式遊技機工業協同組合(日電協)の技術委員会が,回胴式遊技機に対する不正工作対策として取りまとめたものである。
そして,公知発明の実施については,「平成11年9月30日までに,全組合員全ての機種について完了すること。従って10月1日以降の保通協に型式試験申請する機種については,『主基板セフティーロック方式』が全て採用されていること。」とされ,全組合員の全ての機種について採用が義務づけられていた。
このように,公知発明は,各社の遊技機の構造に合わせて回胴式遊技機の主基板収納ケース及び同ケースの遊技機本体への取付けに関する技術と組み合わせて実施するか,あるいは新たな技術を開発して実施することとなるとされていた。
エ 検討
以上の事実を総合すると,公知発明は,各社の遊技機の構造に合わせて回胴式遊技機の主基板収納ケース及び同ケースの遊技機本体への取付けに関する技術と組み合わせて実施するか,あるいは新たな技術を開発して実施することが前提とされていた発明である。その観点からは,公知発明は,引用例12発明を含めて,他の発明と組み合わせることについての動機付けが存在するといえる。
しかし,公知発明と引用例12発明とを組み合わせた上で,さらに,①本件特許発明3の相違点10に係る構成(「前記収納ケースの短寸の他端側に設けた係止部は前記収納ケースの短寸の長手方向に突設する係止ピンにて形成され(る)」との構成)を採用することにより,可変表示装置の上部で前面パネルの枢支側である箱状の本体の他側端部である奥まった位置に配置された取付部材に,略L字状の切欠溝と係止ピンを利用して収納ケースを取付部材に回動可能に係止できるようにし,かつ,②「前記取付部材(が)前記係止ピンを挿通可能な略L字状の切欠溝を備え(る)」との構成を採用することにより,収納ケースの回動側である他端部(側)の取付作業が簡素化できるようにする目的で,周知技術を適用することが容易であると解することはできない。
以上のとおりであり,公知発明及び引用例12発明から,当業者が相違点10及び12に係る構成を容易に想到するものではないとした審決の判断に誤りはない。
(2) 周知例Bに関して
前記1(4)のとおりの周知例Bの記載によれば,周知例Bには,「蝶着部40」を中心として「基板ボックス15」の「上蓋部材26」の一端側を回動させるようにして,「上蓋部材26」に設けられた「上方結合部61」と「ベース部25」に設けられた「下方結合部63」と当接させると,「上方結合部61」に形成された「突起41」と「下方結合部63」に形成された「門型の係止片42」が弾性係合され,「上方結合部61」に形成された「通し穴64」と「下方結合部63」に形成された「穴69」とが互いに合致した状態となり,該互いに合致した「通し穴64」と「穴69」に「ワンウェイネジ65等(締結部材)」を挿通することにより前記「上方結合部61」と「下方結合部63」とを固着する技術が開示されていると認められる。
しかし,このような周知例B発明は,収納ケースを封止するための構成に係るものであって,収容ケースを本体側に固定するための構成に係るものではない。
したがって,仮に周知例B発明の「蝶着部40」に他の周知技術を組み合わせたとしても,本件特許発明3の相違点10,12に係る構成には到達し得ない。
よって,周知例B発明からは相違点14に係る本件特許発明3の構成を導き出すことはできず,審決に原告主張に係る違法はない。
4 取消事由3(相違点14についての容易想到性判断の誤り)について
(1) 引用例12に関連して
前記1(3)のとおりの引用例12の記載からすると,引用例12には,その段落【0064】ないし【0069】,【図4】に,第3の実施形態として,回動可能に取り付けられた収納ケース側の係合部と固定具に設けられた各貫通穴が合致して,南京錠が挿通されることが記載されているほかに,【0072】ないし【0080】,【図5】には第4の実施形態として,「基板ケース81の裏面に突出するストッパ86が基盤82に設けられた係合穴82aに位置される。・・・施錠されるとストッパ86と係合穴82aとの係合状態は解けなくなり,基板ケース81の他端部が基盤82にロックされ」ることが記載されているので,引用例12には,その第4の実施形態によれば,「第1の封止部と固定部とを当接させたときに係合して孔を合致させる手段を有」するものも記載されている。
しかし,引用例12には,相違点14に係る本件特許発明3の構成のうち,「第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた前記固定部とを当接させると,前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた側面視略U字状の弾性係合片の外側突部が前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部の係合穴に弾性係合され,前記第1の上部封止片,前記第1の下部封止片,及び前記固定部にそれぞれ形成された孔が互いに合致した状態となり,該互いに合致した孔に固着手段を挿通することにより前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを固着する」との構成についての示唆はなく,また,原告の指摘に係る周知技術によっても,相違点14に係る構成に至ることはない。
すなわち,本件特許発明3の相違点14に係る構成では,「弾性係合片」が「固定部の係合穴」に「弾性係合」することにより,「第1の上部封止片,前記第1の下部封止片,及び前記固定部にそれぞれ形成された孔が互いに合致した状態となり,該互いに合致した孔に固着手段を挿通することにより前記収納ケースの短寸の一端側に設けられた第1の封止部と前記箱状の本体の一側端側に設けられた固定部とを固着する」との構成を採用しているのに対して,引用例12発明においては,「第1の封止部と固定部とを当接させたときに係合して孔を合致させる手段」を採用するものであるが,同手段は,孔が合致しない限り係合しないものであるから,固着のための構成の前提となるそれぞれの孔が互いに合致した状態を作り出すための「弾性係合」に係る構成を示唆するものではない。
したがって,本件特許発明3の相違点14に係る構成は当業者が容易になし得るものではない。
(2) 周知例Bについて
前記3(2)のとおり,周知例B発明は,収納ケースを封止するための構成であって,収容ケースを本体側に固定するための構成とはされていない。
したがって,「『主基板樹脂ケース』のケース封印と,『主基板樹脂ケース』を遊技機筐体に固定するための封印を同時に行う封印」の方式に係る公知発明に周知例B発明を適用する余地がない。
よって,周知例B発明からは相違点14に係る本件特許発明3の構成を導き出すことはできない。
5 結論
以上によれば,原告の主張を採用することはできない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 小田真治)
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